説明

光触媒コーティング液及び光触媒皮膜形成方法

【課題】触媒活性の高い光触媒皮膜を形成することができる光触媒コーティング液及び光触媒皮膜形成方法を提供する。
【解決手段】本発明の光触媒コーティング液は、ペルオキソチタン溶液、ペルオキソチタン溶液を加熱処理して得られるペルオキソチタン加熱処理溶液及び該ペルオキソチタン溶液と該ペルオキソチタン加熱処理溶液との混合溶液、のいずれかの溶液からなる皮膜形成液に、酸化チタン/粘土複合多孔体が添加されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体上に酸化チタンを含有する光触媒皮膜を形成するための光触媒コーティング液及び光触媒皮膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは光照射されることによって、強い酸化作用をもつ正孔と、強い還元作用をもつ電子とが生成し、酸化チタンと接触する分子種を強力に分解するという性質を有している。この性質を利用し、基体上に酸化チタンを含む光触媒皮膜を形成し、基体に対して防汚性、抗菌性、空気浄化性、水質浄化性等の光触媒機能を付与させることが行われている。
【0003】
従来、このような光触媒皮膜の形成法としては、(1)高真空中で酸化物のタ−ゲットをスパッタリングし基体上に成膜するスパッタ法、(2)固体粒子を大気中で発生させたプラズマ中で溶融し基体表面にたたき付けるプラズマ溶射法、(3)有機金属やハロゲン化物を揮発させ電気炉の中で分解して基体上に膜を作製するCVD法等が行われているが、これらの方法では複雑な装置を使用しなければならず、設備費が高いという問題があった。
【0004】
これらに対し、酸化チタン粉体スラリ−や、チタンアルコキシドの加水分解で得られたゾルなどからなる光触媒コーティング液を基体に塗布した後、焼成して光触媒皮膜を形成させる塗布法も知られている。この方法は、複雑な装置が不要で、容易に光触媒皮膜を形成することができるという利点を有している。しかし、このような光触媒コーティング液を塗布する方法では、焼成温度が高く、耐熱性を有する基体でなければ適用できないという問題があった。また、ゾルゲル法によって作製した酸化チタンゾル中には酸やアルカリあるいは有機物が加えられているため、基材が腐食する、加熱焼成中に有害なハロゲン化物や窒素酸化物などが副成する等の欠点もあった。
【0005】
こうした塗布による光触媒皮膜形成の欠点を克服したものとして、特許文献1に記載の光触媒コーティング液が挙げられる。この光触媒コーティング液は、水酸化チタンに過酸化水素を作用させて得られたペルオキソチタン溶液からなり、塗布後加熱焼成処理を行うことにより、光触媒機能を有するアナターゼ型酸化チタンの皮膜が得られる。こうして得られる光触媒皮膜は、緻密で、密着性に優れ、加熱焼成温度も比較的低温である。また、光触媒活性も比較的高い。さらに、この光触媒コーティング液のpHは中性付近であるため、基材を腐食することはなく、塗布後の加熱焼成時においても、有害なガスを発生することもない。
【0006】
さらには、ペルオキソチタン溶液を加熱処理し、アナターゼの超微粒子を分散させた光触媒コーティング液も知られている(特許文献1、2)。この光触媒コーティング液によれば、あらかじめ光触媒活性を有するアナターゼの超微粒子が分散されているため、さらに高い触媒活性を有する光触媒皮膜を得ることができる。
【0007】
また、ペルオキソチタン溶液と、ペルオキソチタン溶液を加熱処理してアナターゼの超微粒子を析出させた分散液と、を混合した光触媒コーティング液も知られている(特許文献3)。この光触媒コーティング液によれば、緻密で、密着性に優れ、比較的高い光触媒活性を有する光触媒皮膜を得ることができる。
【0008】
一方、酸化チタン光触媒の応用分野のうち、酸化チタンのもつ光触媒機能に、さらに吸着機能を付与し、汚染物質を吸着しながら光触媒機能で酸化分解する試みもなされている。そのような材料の一つとして酸化チタン/粘土複合多孔体がある(特許文献4〜10)。
【0009】
酸化チタン/粘土複合多孔体は粘土の平板結晶層の層間にナノメートルサイズの酸化チタン微粒子が挿入された材料であり、粘土結晶層の内部表面が外部空間に通じている多孔体構造をとるため、大きな比表面積を有しており、高い吸着性能を示す。また酸化チタン/粘土複合多孔体は酸化チタンを含有していることから光触媒性能も示す。
【0010】
また、上記特許文献1及び2に記載されているペルオキソチタン溶液やペルオキソチタン加熱処理溶液に粘土を混合し、酸化チタンと粘土とが物理的に混合された光触媒皮膜を得ることも公知である(特許文献11)。
【0011】
【特許文献1】特開平9−71418号公報
【特許文献2】特開平10−67516号公報
【特許文献3】特開平9−262481号公報
【特許文献4】特開昭61−295222号
【特許文献5】特開昭61−295223号公報
【特許文献6】特開昭62−187107号公報
【特許文献7】特開平8−91825号公報(請求項1)
【特許文献8】特許平8−141391号公報
【特許文献9】特開平10−338516号公報
【特許文献10】特開2006−346527号公報
【特許文献11】特開2001−97717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記特許文献1〜3や特許文献11に記載の光触媒コーティング液によって得られる光触媒皮膜は、未だ光触媒活性機能が充分とはいえず、さらに高い光触媒活性を有する皮膜を得ることができる光触媒コーティング液及び光触媒皮膜形成方法が望まれていた。
【0013】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、触媒活性の高い光触媒皮膜を形成することができる光触媒コーティング液及び光触媒皮膜形成方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、上記特許文献11に記載されているように、ペルオキソチタン溶液や、ペルオキソチタンを加熱処理して得られるペルオキソチタン加熱処理物を含む溶液に、単なる粘土を添加しただけでは、酸化チタン/粘土複合多孔体とはならず、光触媒活性が期待されるほどには良くならないことを見出した。そしてさらには、あらかじめ酸化チタン/粘土複合多孔体を用意し、これをペルオキソチタン溶液や、ペルオキソチタンを加熱処理して得られるペルオキソチタン加熱処理物を含む溶液に添加することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の光触媒コーティング液は、ペルオキソチタン溶液、ペルオキソチタン溶液を加熱処理して得られるペルオキソチタン加熱処理溶液及び該ペルオキソチタン溶液と該ペルオキソチタン加熱処理溶液との混合溶液、のいずれかの溶液からなる皮膜形成液に、酸化チタン/粘土複合多孔体が添加されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の光触媒コーティング液には、ペルオキソチタン溶液、ペルオキソチタン溶液を加熱処理して得られるペルオキソチタン加熱処理溶液、又は該ペルオキソチタン溶液と該ペルオキソチタン加熱処理溶液との混合溶液からなる皮膜形成液が用いられている。
ペルオキソチタン溶液は、これを基体に塗布法やスプレー法によって付着させ、乾燥させると、緻密で密着性の良い皮膜が形成されることから、皮膜形成液としての役割を果たす。また、この乾燥皮膜を加熱焼成した皮膜には光触媒活性を有するアナターゼ型酸化チタンが含まれており、ある程度の光触媒活性も有する。
また、ペルオキソチタン溶液を加熱処理して得られるペルオキソチタン加熱処理溶液や、ペルオキソチタン溶液とペルオキソチタン加熱処理溶液との混合液も、同様な皮膜形成液としての役割を果たす。
また、ペルオキソチタン加熱処理溶液には、アナターゼ型酸化チタンが含まれているため、ペルオキソチタン溶液から形成された皮膜よりもさらに高い光触媒活性を示し、光触媒皮膜形成のための加熱焼成温度を低くすることができる。
【0017】
また、本発明の光触媒コーティング液には、皮膜形成液に酸化チタン/粘土複合多孔体が添加されている。酸化チタン/粘土複合多孔体は粘土の平板結晶層の層間にナノメートルサイズの酸化チタン微粒子が挿入された材料であり、粘土結晶層の内部表面が外部空間に通じている多孔体構造をとるため、大きな比表面積を有しており、高い吸着性能を示す。また酸化チタン/粘土複合多孔体は酸化チタンを含有していることから光触媒性能も示す。このため、本発明の光触媒コーティング液によって基体上に皮膜が形成された場合、皮膜のマトリックス中に酸化チタン/粘土複合多孔体が分散された状態となり、酸化チタン/粘土複合多孔体によってホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、有機塩素化合物、有機溶剤、悪臭物質、農薬、内分泌撹乱物質等の環境汚染物質等を吸着濃縮し、さらにそれを酸化チタンによって高効率に分解することができる。
【0018】
本発明の光触媒コーティング液に添加される酸化チタン/粘土複合多孔体は、粘土の平板結晶層の層間に酸化チタンの微粒子が挿入されたものであれば、用いることができる。
【0019】
酸化チタン/粘土複合多孔体を構成している粘土としては、膨潤性粘土を用いることが好ましい。膨潤性粘土は、酸性とされた酸化チタン分散液又は酸性とされた酸化チタンゾルと混合するだけで、層間が広がって酸化チタンが層間に侵入し、容易に酸化チタン/粘土複合多孔体を得ることができる。膨潤性粘土として具体的には、スメクタイト、バーミキュライト、マイカ、および、これらの膨潤性粘土のフッ素置換体などが挙げられる。スメクタイトとしては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等が挙げられる。これらの膨潤性粘土を混合して用いることも可能である。
【0020】
本発明の光触媒コーティング液に添加される酸化チタン/粘土複合多孔体として好ましいのは、酸性とされた酸化チタン分散液又は酸性とされた酸化チタンゾルを膨潤性粘土に作用させて得られた酸化チタン/粘土複合多孔体である。酸化チタン分散液や酸化チタンゾルを酸性にして膨潤性粘土に作用させれば、層間が広がって酸化チタンが層間に侵入し、極めて容易に酸化チタン/粘土複合多孔体を得ることができる。このような酸性とされた酸化チタン分散液又は酸性とされた酸化チタンゾルの原料としては、例えば四塩化チタン、オキシ硫酸チタン、オキシ硝酸チタン等の無機チタン化合物またはチタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド等のチタンアルコキシド、トリノルマルブトキシチタンモノステアレート、ジイソプロポキシチタンジステアレート等のチタンアシレート、プロパンジオキシチタンビスエチルアセトアセテート等のチタンキレート等の有機チタン化合物等が挙げられる。このような原料を水または酸に溶解して得られる酸性の酸化チタン分散液又は酸性の酸化チタンゾルを用いることができる。
【0021】
膨潤性粘土に酸性にされた酸化チタン分散液又は酸性にされた酸化チタンゾルを作用させて酸化チタン/粘土複合多孔体を得る場合の、酸化チタン分散液及び酸化チタンゾルの酸性度はpHが0〜5であることが好ましい。pHがこの範囲であれば、多孔性が特に高い酸化チタン/粘土複合多孔体を得ることができる。このようにして得られた酸化チタン/粘土複合多孔体の窒素ガス吸着法によるBET法比表面積は70m/g以上とすることができる。
また、酸化チタン分散液又は酸化チタンゾルに熟成処理や水熱処理等の処理を施し、含有される酸化チタンを結晶化させた、酸性の酸化チタンゾル、又は酸性の酸化チタン分散液を、膨潤性粘土に作用させて得られた結晶質酸化チタン/粘土複合多孔体を用いればさらに好ましい。
発明者らの試験結果によれば、酸性にされた結晶質酸化チタン分散液又は酸性にされた結晶質酸化チタンゾルを膨潤性粘土に作用させて得られた結晶質酸化チタン/粘土複合多孔体は、結晶質の酸化チタンを含有するため、光触媒活性が高くなる。酸性のゾルまたは分散液から結晶質酸化チタン微粒子が粘土層間に取り込まれる仕組みについては、酸性の酸化チタンゾルまたは酸性の酸化チタン分散液中の結晶質酸化チタン微粒子の表面は正電荷を帯びており、膨潤性粘土層間の交換性陽イオンとイオン交換するため、粘土層間に侵入した結晶質酸化チタン微粒子は層間に留まり、その結果、合成物が液中から分離され乾燥あるいは加熱処理を施された後も粘土層が結晶質酸化チタン微粒子によって押し広げられ、層間空隙を形成し多孔体構造となるからであると推測される。
また、酸性にされた酸化チタン分散液又は酸性にされた酸化チタンゾルを膨潤性粘土に作用させて得られた酸化チタン/粘土複合多孔体に対して、さらに水熱処理を施すことも好ましい。こうであれば、粘土層間の酸化チタン微粒子が結晶化し、さらに光触媒活性の優れた結晶質酸化チタン/粘土複合多孔体となるからである。
また、結晶性の低い酸化チタンを含む酸化チタン/粘土複合多孔体に水熱処理を施し、含有される酸化チタンをアナターゼ型に結晶化させて光触媒活性を改善した結晶質酸化チタン/粘土複合多孔体であってもよい。
【0022】
酸化チタン/粘土複合多孔体に含まれている酸化チタンは結晶質であることが好ましい。光触媒活性は非晶質の酸化チタンよりも結晶質の酸化チタンのほうが高いからである。結晶質の酸化チタンの結晶形としては、アナターゼ、ブルッカイト、ルチルが挙げられ、これらの混合物であってもよい。
【0023】
ペルオキソチタン溶液は、チタン塩にアルカリを作用させて水酸化チタンとし、さらに該水酸化チタンに過酸化水素を作用させることによって得ることができる。チタン塩としては、四塩化チタンや硫酸チタンやシュウ酸チタン等が用いることができ、アルカリとしてはアンモニアや苛性ソーダ等を用いることができる。
【0024】
ペルオキソチタン加熱処理溶液は、ペルオキソチタン溶液を加熱することによって得ることができる。このようにして調製したペルオキソチタン加熱処理溶液には、光触媒活性に優れたアナターゼ型の超微細粒子が分散されているため、この溶液を用いた本発明の光触媒コーティング液から得られる光触媒皮膜は、優れた光触媒活性を示す。ペルオキソチタン溶液の加熱処理は、常圧下又は加圧下において80〜200°Cで処理することが好ましい。こうであれば、特に優れた光触媒活性が得られる。加圧下において処理するためにはオートクレーブを用いることができる。
【0025】
本発明の光触媒コーティング液のpHは4〜9の範囲とされていることが好ましい。こうであれば、基材を腐食したりするおそれが少なくなる。
【0026】
本発明の光触媒コーティング液を用いて光触媒皮膜を形成することができる。
すなわち、本発明の光触媒皮膜形成方法は、ペルオキソチタン溶液、ペルオキソチタン溶液を加熱処理して得られるペルオキソチタン加熱処理溶液及び該ペルオキソチタン溶液と該ペルオキソチタン加熱処理溶液との混合溶液、のいずれかの溶液からなる皮膜形成液に、酸化チタン/粘土複合多孔体を添加して光触媒コーティング液とするコーティング液準備工程と、基体の表面に該光触媒コーティング液からなるコーティング層を形成させるコーティング工程と、該コーティング層を乾燥させて光触媒皮膜とする皮膜形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0027】
皮膜形成工程では、加熱することも好ましい。こうであれば、さらに緻密で硬い光触媒皮膜を形成することができる。好ましい加熱温度は40°C以上400°C未満であり、さらに好ましいのは150°C以上300°C未満である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
<酸化チタン/粘土複合多孔体の調製>
酸化チタン/粘土複合多孔体は、以下のような手順で調製することができる。
まず、膨潤性粘土を用意する。膨潤性粘土の粉末はそのまま酸化チタンのゾルまた酸化チタン分散液に混合することもできるが、粘土層間の陽イオン交換を速やかに行うためには、あらかじめ膨潤性粘土を水に分散し充分に膨潤させた粘土懸濁液とした後に、酸化チタンのゾルまたは酸化チタン分散液と混合することが望ましい。
【0029】
さらに、酸性でありかつ結晶質の酸化チタンを含有するゾルまたは分散液を用意する。このようなゾルまたは分散液は、例えば市販のテイカ株式会社製のTKS−201およびTKS−202、石原産業株式会社製のSTS−01およびSTS−02、昭和電工株式会社製のNTB−01等のようなゾルまたは分散液を適宜、水で希釈して用いることもできる。
【0030】
次に粘土と酸化チタンゾルまたは酸化チタン分散液の混合を行うが、粘土と酸化チタンの混合割合については特に制限がない。しかしながら望ましくは粘土分1部に対する酸化チタン分の重量配合比が0.01〜2部の範囲である。酸化チタンの配合量が少ないと複合多孔体における粘土層間拡大効果が小さくなり多孔性が減少する。逆に酸化チタンの配合量が多すぎると粘土層間に導入される酸化チタンよりも複合多孔体粒子の表面に凝集付着した酸化チタンの割合が多くなりそれ以上の多孔性の向上にはつながらない。
【0031】
粘土と酸化チタンゾルまたは酸化チタン分散液の混合は、通常の攪拌、超音波分散等の手段で均質化することで行うことができる。混合処理の温度についても特に制限はなく、通常は室温で行い、必要に応じて数十°C程度の加温をしても差し支えない。
【0032】
次に、混合液を脱水、濾過、遠心分離等の手段によって固液分離し、酸化チタン/粘土複合多孔体の湿潤固形分を回収する。
【0033】
<ペルオキソチタン溶液の調製>
四塩化チタンや硫酸チタンやシュウ酸チタン等のチタン塩の水溶液にアンモニアや苛性ソーダ等のアルカリ溶液を加えると、水酸化チタン(別名オルトチタン酸)ゲルが沈殿する。反応によって副成する塩は安定で無害な塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムあるいは塩化アンモニウム等になるような組み合わせが望ましい。沈殿させるpHは2程度で行い、Fe等の不純物が共沈しないようにすることが望ましい。沈殿した水酸化チタンゲルをデカンテーションによって水洗し、分離する。この水酸化チタンゲルに過酸化水素水を添加するとOHの一部が過酸化状態になりペルオキソチタン酸イオンとして溶解、あるいは高分子鎖が低分子に分断された一種のゾル状態のペルオキソチタン溶液となり、余分な過酸化水素は水と酸素になって分解し、チタニア膜形成用の粘性液体として使用ができるようになる。このペルオキソチタン溶液は、チタン以外に酸素と水素しか含まないので、乾燥や焼成によって酸化チタンに変化する場合に水と酸素しか発生せず、ゾルゲル法や硫酸塩等の熱分解法に必要な炭素成分やハロゲン成分の除去が必要でなく、低温でも比較的密度の高い結晶性のチタニア膜を作製することができる。また、pHは中性なので、使用における人体への影響や基体の腐食などを考慮する必要がない。さらに、過酸化水素はゾル化剤としてだけではなく安定化剤として働き、ペルオキソチタン溶液の室温域で安定性が極めて高く長期の保存に耐える。このペルオキソチタン溶液は、過酸化状態の水酸化チタンを含んでいると考えられ、市販の酸化チタンゾルとは本質的に異なるものである。
【0034】
<ペルオキソチタン加熱処理溶液の調製>
上記のようにして得られたペルオキソチタン溶液を80〜200°Cで、常圧又はオートクレーブ処理を行うと、結晶化した酸化チタンの超微粒子を含むペルオキソチタン加熱処理溶液が得られる。この溶液は中性で、チタン、酸素及び水素以外の物質を含まないので、市販の酸化チタンゾルとは本質的に異なるものである。
【0035】
<光触媒コーティング液の調製>
上記のようにして調製されたペルオキソチタン溶液や、ペルオキソチタン加熱処理溶液や、それらを混合した溶液に、酸化チタン/粘土複合多孔体の湿潤固形分を添加し、混合することにより、光触媒コーティング液が得られる。混合分散の方法は、ミキサーによる混合等で行うことができ、特にその手段について制限はない。
【0036】
ペルオキソチタン溶液や、ペルオキソチタン加熱処理溶液や、それらを混合した溶液と酸化チタン/粘土複合多孔体の混合割合については特に制限はない。しかしながら望ましくはペルオキソチタン溶液や、ペルオキソチタン加熱処理溶液や、それらを混合した溶液の乾燥固形分1部に対して、酸化チタン/粘土複合多孔体の乾燥固形分の重量配合比が0.1〜9部の範囲であり、さらに望ましくは0.2〜2部の範囲である。酸化チタン/粘土複合多孔体の配合量が少ないと光触媒コーティング液の光触媒性能が低くなり、逆に酸化チタン/粘土複合多孔体の配合量が多くなると皮膜形成能が低下する。
【0037】
<コーティング工程>
これらの光触媒コーティング液を基体上にスピンコート法や塗布法やスプレー法によってコーティング層を形成する。基体との濡れ性を向上させるために、光触媒コーティング液に、適当な界面活性剤を添加することも好ましい。
【0038】
<皮膜形成工程>
さらに、乾燥又は加熱処理することにより付着性に優れた緻密な光触媒皮膜が形成される。
【実施例】
【0039】
以下、本発明をさらに具体的に示した実施例を比較例と比較しつつ詳細に説明する。
【0040】
実施例では、酸化チタン/粘土複合多孔体として、結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体及び結晶質酸化チタン/合成フッ素マイカ複合多孔体を用いた。以下に、それらの調製法を示す。
【0041】
<結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体の調製>
アナターゼを含有する酸性酸化チタンゾル(テイカ株式会社製 TKS−202)を水で20倍に希釈した希釈液445mlに、ナトリウム−モンモリロナイト(クニミネ工業株式会社製 クニピア−F)10gを含む水懸濁液1000mlを加え、室温で3時間攪拌した。この混合液中の配合比は粘土分に対する酸化チタン分の重量配合比で1:1にあたる。その後、遠心分離により固液分離を行い、得られた固形生成物の水洗をくり返した。こうして得られた結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体の湿潤固形物の含水率は90質量%であった。
【0042】
<結晶質酸化チタン/合成フッ素マイカ複合多孔体の調製>
粘土として合成フッ素マイカ(トピー工業株式会社製 Na−TS)を用い、他の条件は結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体の調製と同様にして、結晶質酸化チタン/合成フッ素マイカ複合多孔体を調製した。その湿潤固形物の含水率は75質量%であった。
【0043】
<光触媒コーティング液の調製>
(実施例1)
実施例1の光触媒コーティング液は、ペルオキソチタン水溶液とペルオキソチタン加熱処理溶液の混合溶液(株式会社鯤コーポレーション製 TPX−220 固形分2.20質量%)を皮膜形成液とし、この皮膜形成液に、上記結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体の湿潤固形物を添加して混合分散した液である。結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体の添加量は、皮膜形成液の乾燥固形分重量:結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体乾燥重量が7:3となるようにした。こうして得られた光触媒コーティング液の固形分濃度は2.87質量%であった。
【0044】
(実施例2)
実施例2の光触媒コーティング液は、ペルオキソチタン水溶液とペルオキソチタン加熱処理溶液の混合溶液(株式会社鯤コーポレーション製 TPX−220 固形分2.20質量%)を皮膜形成液とし、この皮膜形成液に、上記結晶質酸化チタン/合成フッ素マイカ複合多孔体の湿潤固形物を添加して混合分散した液である。結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体の添加量は、皮膜形成液の乾燥固形分重量:結晶質酸化チタン/合成フッ素マイカ複合多孔体乾燥重量が7:3となるようにした。こうして得られた光触媒コーティング液の固形分濃度は3.04質量%であった。
【0045】
(実施例3)
実施例3の光触媒コーティング液は、ペルオキソチタン水溶液とペルオキソチタン加熱処理溶液の混合溶液(株式会社鯤コーポレーション製 TPX−85 固形分0.85質量%)を皮膜形成液とし、この皮膜形成液に、上記結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体の湿潤固形物を添加して混合分散した液である。結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体の添加量は、皮膜形成液の乾燥固形分重量:結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体乾燥重量が7:3となるようにした。こうして得られた光触媒コーティング液の固形分濃度は1.18質量%であった。
【0046】
(実施例4)
実施例4の光触媒コーティング液は、ペルオキソチタン水溶液とペルオキソチタン加熱処理溶液の混合溶液(株式会社鯤コーポレーション製 TPX−85 固形分0.85質量%)を皮膜形成液とし、この皮膜形成液に、上記結晶質酸化チタン/合成フッ素マイカ複合多孔体の湿潤固形物を添加して混合分散した液である。結晶質酸化チタン/合成フッ素マイカ複合多孔体の添加量は、皮膜形成液の乾燥固形分重量:結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体乾燥重量が9:1となるようにした。こうして得られた光触媒コーティング液の固形分濃度は0.94質量%であった。
【0047】
(実施例5)
実施例5の光触媒コーティング液は、ペルオキソチタン水溶液(株式会社鯤コーポレーション製 PTA−85 固形分0.85質量%)を皮膜形成液とし、この皮膜形成液に、上記結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体の湿潤固形物を添加して混合分散した液である。結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体の添加量は、皮膜形成液の乾燥固形分重量:結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体乾燥重量が7:3となるようにした。こうして得られた光触媒コーティング液の固形分濃度は1.18質量%であった。
【0048】
(実施例6)
実施例6の光触媒コーティング液は、ペルオキソチタン加熱処理溶液(株式会社鯤コーポレーション製 TO−240 固形分2.40質量%)を皮膜形成液とし、この皮膜形成液に、上記結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体の湿潤固形物を添加して混合分散した液である。結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体の添加量は、皮膜形成液の乾燥固形分重量:結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体乾燥重量が7:3となるようにした。こうして得られた光触媒コーティング液の固形分濃度は3.11質量%であった。
【0049】
(比較例1)
比較例1の光触媒コーティング液は、実施例1及び実施例2の光触媒コーティング液の調製に用いた、ペルオキソチタン水溶液とペルオキソチタン加熱処理溶液の混合溶液(株式会社鯤コーポレーション製 TPX−220 固形分2.20質量%)とした。
【0050】
(比較例2)
比較例2の光触媒コーティング液は、上記特許文献11に記載の光触媒コーティング液と同様のものであり、実施例1において用いた結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体の替わりに、酸化チタンが複合されていない原料粘土であるナトリウム−モンモリロナイトを用いた。他の調製条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。こうして得られた光触媒コーティング液の固形分濃度は3.10質量%であった。
【0051】
(比較例3)
比較例3の光触媒コーティング液は、実施例3及び実施例4の光触媒コーティング液の調製に用いた、ペルオキソチタン水溶液とペルオキソチタン加熱処理溶液の混合溶液(株式会社鯤コーポレーション製 TPX−85 固形分0.85質量%)とした。
【0052】
(比較例4)
比較例4の光触媒コーティング液は、実施例5の光触媒コーティング液の調製に用いた、ペルオキソチタン水溶液(株式会社鯤コーポレーション製 PTA−85 固形分0.85質量%)とした。
【0053】
(比較例5)
比較例5の光触媒コーティング液は、実施例6の光触媒コーティング液の調製に用いた、ペルオキソチタン加熱処理溶液(株式会社鯤コーポレーション製 TO−240 固形分2.40質量%)とした。
【0054】
<光触媒皮膜の形成>
以上のようにして得られた実施例1〜6及び比較例1〜5の光触媒コーティング液2mlを10×5cmのガラス板の片面にスプレーし、室温で乾燥させることによって光触媒皮膜を形成した試験片を作成した。
【0055】
<評 価>
以上のようにして得られた実施例1〜6及び比較例1〜5の光触媒コーティング液の水分を120℃で乾燥し、得られた乾燥固形物について、蛍光X線分析法による酸化チタン含有量測定、X線回折法による含有酸化チタンの結晶相の判定、窒素吸着法によるBET法比表面積測定および全細孔容積測定を行った。
【0056】
また、上述の方法により光触媒皮膜を形成した実施例1〜6及び比較例1〜5の試験片を用い、ガスバッグ法によるアセトアルデヒドおよびトルエンの光触媒分解性能の評価実験および流通法によるトルエンの光触媒分解性能の評価実験を行った。
【0057】
ガスバッグ法は反応前処理として,試験片を紫外線照射(紫外線蛍光灯使用、紫外線強度:1mW/cm、24時間)した。5L容量のテドラーバッグに試験片とアセトアルデヒドガス(3L、大気希釈)、またはトルエンガス(3L、大気希釈)を入れ密封し、初期のガス濃度をガスクロマトグラフにより測定し,2時間暗所保存した後の濃度も測定し飽和吸着状態を確認した。この飽和吸着時のガス濃度がアセトアルデヒドについては40〜50ppmに、トルエンについては25〜35ppmとなるようにあらかじめ初期ガス濃度を調節した。バッグを紫外線蛍光灯を用いて、1mW/cmの強度で紫外線照射して,ガス濃度の変化をガスクロマトグラフで追跡した。光触媒性能は飽和吸着時のガス濃度と紫外線照射後ガス濃度から計算した除去率で評価することとした。アセトアルデヒドについては1時間の紫外線照射を行った場合の除去率を、トルエンについては3時間の紫外線照射を行った場合の除去率を用いた。
【0058】
流通法による光触媒分解性能評価はJIS R1701−1「光触媒材料の空気浄化性能試験方法−第1部-窒素酸化物の除去性能」に示された試験装置を用いて試験を行った。この装置は湿度を一定に保ったゼロガスに一定量のトルエンの標準ガスを混合することによって、一定濃度の試験ガスを定常的に供給する仕組となっている。供給された試験ガスは、反応容器内で光触媒試料上の幅5cm、厚さ5mmの空間を通過しながら試験片と接触し、試験ガス中のトルエンが試験片の能力に応じて分解される。反応容器を通過後の試験ガス中のトルエンの濃度をガスクロマトグラフで測定することによって、試験片の空気浄化性能を評価することができる。反応前処理として測定前に紫外線蛍光灯を用いて2mW/cmの強度の紫外線を試験片に16時間以上照射した。前処理を行った試験片を反応容器に設置し、暗所で試験片へのトルエンの吸着が平衡に達するよう試験ガスを30分間流通した。試験トルエンガスの濃度は1ppm、湿度は相対湿度で50±2パーセント、流量は500ml/分とした。次に紫外線蛍光灯を用いて1mW/cmの強度の紫外線を30〜60分間照射し、トルエンの光触媒分解反応を行った。光触媒性能の評価は、紫外線照射時の反応容器の入口と出口におけるトルエンガス濃度から計算した除去率で比較した。
【0059】
(結 果)
実施例1〜6及び比較例1〜5の乾燥固形分の蛍光X線分析法による酸化チタン含有量測定、X線回折法による含有酸化チタンの結晶相の判定、及び窒素吸着法によるBET法比表面積測定および全細孔測定の結果を表1に示す。また比較のため、実施例1〜6及び比較例2の調製に使用した結晶質酸化チタン/モンモリロナイト複合多孔体、及び結晶質酸化チタン/合成フッ素マイカ複合多孔体およびナトリウム−モンモリロナイトの乾燥固形分の測定結果も表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例1および2の乾燥固形物は共に比較例1の乾燥固形物と比較して、BET法比表面積については大きく増加していないが、全細孔容積については大きく増加を示した。この結果は実施例1および2の乾燥固形物について、空気中の反応物質を吸着し光触媒分解するための多孔性が向上していることを示している。
【0062】
一方、比較例2は比較例1の光触媒コーティング液に酸化チタンが複合されていないモンモリロナイトを添加したものであり、特許文献11に記載の光触媒コーティング液と同様のものである。比較例2の乾燥固形物のBET法比表面積および全細孔容積は比較例1の乾燥固形物と比較して、どちらも増加を示していない。この結果は、ペルオキソチタン溶液及びペルオキソチタン加熱処理溶液の混合物と、粘土とを混合しただけでは、新たな多孔体構造は形成されず、比較例2の乾燥固形物である酸化チタン/粘土複合体は、酸化チタンに粘土粒子が単純に混合されたものに過ぎないことを示している。
【0063】
実施例3の乾燥固形物も、比較例3の乾燥固形物と比較して全細孔容積の増加を示した。この結果は実施例3についても酸化チタン/粘土複合多孔体が配合されたため、実施例1および2と同様に、乾燥固形物の多孔性が向上したことを示している。一方、実施例4の乾燥固形物については結晶質酸化チタン/合成フッ素マイカ複合多孔体の配合量が少ないこともあり、比較例3の乾燥固形物と比較して多孔性の向上は認められなかった。
【0064】
実施例5の乾燥固形物も、比較例4の乾燥固形物と比較して、BET法比表面積で若干の増加を、全細孔容積については大きな増加を示した。また、実施例6の乾燥固形物も、比較例5の乾燥固形物と比較して、BET法比表面積および全細孔容積について大きな増加を示した。これらの結果は実施例1〜3と同様に、酸化チタン/粘土複合多孔体が配合されたため、乾燥固形物の多孔性が向上したことを示している。
【0065】
次に実施例1〜6及び比較例1〜5の光触媒コーティング液を用いて作成した試験片のガスバッグ法によるアセトアルデヒドおよびトルエンの光触媒分解性能の評価実験および流通法によるトルエンの光触媒分解性能の評価実験の結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
実施例1〜3は、光触媒コーティング液の皮膜形成液としてペルオキソチタン溶液とペルオキソチタン加熱処理溶液との混合溶液を用いた実施例である。光触媒性能について、実施例1および2の試験片は比較例1のものに比べ、ガスバッグ法におけるアセトアルデヒドおよびトルエンの分解性能の双方で光触媒性能の大幅な向上を示した。流通法におけるトルエン分解性能では、比較例1の試験片に比べて、実施例2の試験片の性能向上は明らかではないが、実施例1のものは明らかな性能向上を示した。また、実施例3の試験片についても比較例3のものに比べ、3種類の光触媒性能評価試験の全てにおいて光触媒性能の向上を示した。これらの結果は実施例1、2および3で、酸化チタン/粘土複合多孔体を配合したことで、それぞれの光触媒皮膜の多孔性が向上し、それが光触媒性能の向上に繋がったことを示している。
【0068】
実施例4の光触媒コーティング液中の酸化チタン/粘土複合多孔体の配合量は、実施例1、2および3の光触媒コーティング液における酸化チタン/粘土複合多孔体の配合量よりも少ない。そのため実施例4の試験片ではガスバッグ法のトルエン分解性能および流通法のトルエン分解性能については比較例3のものに比較して光触媒性能の向上は観られなかったが、ガスバッグ法のアセトアルデヒド分解性能については明らかな性能向上を示した。したがって光触媒コーティング液における酸化チタン/粘土複合多孔体の配合量が、光触媒コーティング液の乾燥固形分の10質量%程度でも、コーティング膜の光触媒性能は改善するといえる。表2において実施例4の乾燥固形物は、比較例3の乾燥固形物と比較してアセトアルデヒド分解性能の改善が観られたことから、細孔表面の吸着特性が改善され、それがアセトアルデヒドの吸着特性および光触媒分解特性の改善につながったと考えられる。
【0069】
一方、比較例2の試験片は比較例1と比較して、ガスバッグ法のアセトアルデヒド分解性能では若干の改善が認められたが、トルエン分解性能についてはガスバッグ法でも流通法でも明瞭な光触媒性能の向上が認められなかった。以上の結果から、実施例1および2と比較して、比較例2の光触媒性能が劣っていることが分かった。この結果は、比較例2の乾燥固形物において、比較例1の乾燥固形物に比べ、多孔性の向上が認められなかった結果と一致する。
【0070】
実施例5は、光触媒コーティング液の皮膜形成液としてペルオキソチタン溶液を用いた実施例である。実施例5の試験片は比較例4のものに比べ、ガスバッグ法におけるアセトアルデヒドおよびトルエンの分解性能のいずれについても、光触媒性能の向上を示した。これらの結果は皮膜形成液がペルオキソチタン溶液であっても、酸化チタン/粘土複合多孔体を配合することで、光触媒皮膜の多孔性が向上し、それが光触媒性能の向上に繋がったことを示している。
【0071】
また、実施例6は、光触媒コーティング液の皮膜形成液としてペルオキソチタン加熱処理溶液を用いた実施例である。実施例6の試験片もまた、比較例5のものに比べ、ガスバッグ法におけるアセトアルデヒドおよびトルエンの分解性能のいずれについても、光触媒性能の向上を示した。これらの結果は皮膜形成液がペルオキソチタン加熱処理溶液であっても、やはり酸化チタン/粘土複合多孔体を配合することで、光触媒皮膜の多孔性が向上し、それが光触媒性能の向上に繋がったことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルオキソチタン溶液、ペルオキソチタン溶液を加熱処理して得られるペルオキソチタン加熱処理溶液及び該ペルオキソチタン溶液と該ペルオキソチタン加熱処理溶液との混合溶液、のいずれかの溶液からなる皮膜形成液に、酸化チタン/粘土複合多孔体が添加されていることを特徴とする光触媒コーティング液。
【請求項2】
酸化チタン/粘土複合多孔体の窒素ガス吸着法によるBET法比表面積が70m/g以上であることを特徴とする請求項1記載の光触媒コーティング液。
【請求項3】
酸化チタン/粘土複合多孔体を構成している粘土は、膨潤性粘土であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光触媒コーティング液。
【請求項4】
酸化チタン/粘土複合多孔体は、酸性とされた酸化チタン分散液又は酸性とされた酸化チタンゾルを膨潤性粘土に作用させて得られた酸化チタン/粘土複合多孔体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光触媒コーティング液。
【請求項5】
酸化チタン分散液及び酸化チタンゾルのpHは0〜5であることを特徴とする請求項4に記載の光触媒コーティング液。
【請求項6】
酸化チタン/粘土複合多孔体に含まれている酸化チタンは結晶質であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光触媒コーティング液。
【請求項7】
酸化チタン/粘土複合多孔体に含まれている酸化チタンはアナターゼ、ブルッカイト、ルチルのいずれか又はこれらの混合物であることを特徴とする請求6記載の光触媒コーティング液。
【請求項8】
ペルオキソチタン溶液は、チタン塩にアルカリを作用させて水酸化チタンとし、さらに該水酸化チタンに過酸化水素を作用させて得られる溶液であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の光触媒コーティング液。
【請求項9】
ペルオキソチタン加熱処理溶液はペルオキソチタン溶液を常圧下又は加圧下において80〜200°Cで処理して得られる溶液であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の光触媒コーティング液。
【請求項10】
pHが4〜9の範囲とされていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の光触媒コーティング液。
【請求項11】
ペルオキソチタン溶液、ペルオキソチタン溶液を加熱処理して得られるペルオキソチタン加熱処理溶液及び該ペルオキソチタン溶液と該ペルオキソチタン加熱処理溶液との混合溶液、のいずれかの溶液からなる皮膜形成液に、酸化チタン/粘土複合多孔体を添加して光触媒コーティング液とするコーティング液準備工程と、基体の表面に該光触媒コーティング液からなるコーティング層を形成させるコーティング工程と、該コーティング層を乾燥させて光触媒皮膜とする皮膜形成工程と、を備えることを特徴とする光触媒皮膜形成方法。

【公開番号】特開2008−264730(P2008−264730A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114178(P2007−114178)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【特許番号】特許第4107512号(P4107512)
【特許公報発行日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、実用化検討に係る可能性試験(FS委託研究)、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【出願人】(503343543)株式会社鯤コーポレーション (8)
【Fターム(参考)】