説明

光触媒ハードコートフィルム

【課題】 屋外に暴露した場合に、数日で光触媒機能が発現し、しかも長期間に亘って光触媒層にクラック、白化、剥離が発生しない、耐候性に優れ、特に高層ビルの窓ガラスの外面貼付用などとして好適なハードコートフィルムを提供すること。
【解決手段】 基材の一方の面にプライマー層、ハードコート層及び光触媒層を順次積層してなり、該プライマー層が80℃から100℃に昇温したときの線膨張係数3.0×10-3〜7.9×10-3(K-1)の、厚さ3.0〜20.0μmの層であり、該ハードコート層がシラン化合物の硬化体と該硬化体100質量部当たり20〜70質量部の金属酸化物微粒子とからなる、厚さ1.2〜1.9μmの層である光触媒ハードコートフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒ハードコートフィルムに関する。さらに詳しくは、本発明は、屋外に暴露した場合に、短期間で光触媒機能が発現し、しかも長期間に亘って光触媒層にクラック、白化、剥離が発生しない、耐候性に優れた光触媒ハードコートフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な目的のために、窓ガラスや窓用プラスチックボード貼付フィルム(以下、「ウインドウフィルム」と称することがある。)として、各種の機能、例えば紫外線遮蔽機能、赤外線遮蔽機能、内部防視機能、防汚機能、破片飛散防止機能などを一つ又は二つ以上有するプラスチックフィルムが用いられている。
【0003】
その一つとして、光触媒層を表面に設けた光触媒ウインドウフィルムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
二酸化チタンで代表される半導体は、そのバンドギャップ以上のエネルギーの光で励起すると、伝導帯に電子が生じ、かつ価電子帯に正孔が生じ、この電子及び/又は正孔の作用により、表面に極性が付与され、超親水化されることが知られている。
【0004】
光触媒ウインドウフィルムは、ウインドウフィルムの表面にこのような半導体を含む光触媒層を設け、このフィルムをガラス窓などの表側表面に貼付することにより、太陽光の照射と降雨の繰り返しにより、フィルム表面に付着した汚れ(有機物)を清掃することなく、その超親水性及び防汚性能を利用して、自然にクリーンにさせる(セルフクリーニング)と共に、窓ガラスの防曇や雨天視界確保などを狙ったものである。
【0005】
このような光触媒ウインドウフィルムにおいては、貼付時や清掃時に容易に傷が付いてしまうため、ハードコート性(耐擦過性)も要求されており、種々の提案がされている。即ち、シリコーン系ハードコート層の上に光触媒層を形成して、光触媒層の耐摩擦性、密着性を高める(例えば、特許文献2参照)、ポリ−カーボネート基材、紫外線吸収剤を含むプライマー層、シリコーンハードコート層及び光触媒層の積層構造において、シリコーンハードコート層にコロナ処理を施して光触媒層の密着性を高める(例えば、特許文献3参照)、基材、プライマー層、シリコーンハードコート層及び光触媒層の積層構造において、シリコーンハードコート層に金属酸化物の微粒子を配合して光触媒層の密着性を高める(例えば、特許文献4参照)等である。
【0006】
しかしながら、これらの提案のフィルムは、いずれも、屋外に暴露した場合に、光触媒機能の発現までに数週間を要し、しかも屋外に暴露してから半年間程度で、光触媒層にクラックが発生したり、白化したり、剥離が発生する等の欠点がある。
【0007】
【特許文献1】特許第2756474号明細書
【特許文献2】特開平11−91030号公報
【特許文献3】特開2001−47584号公報
【特許文献4】特開2003−25479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下で、屋外に暴露した場合に、数日で光触媒機能が発現し、しかも長期間に亘って光触媒層にクラック、白化、剥離が発生しない等、耐候性に優れ、特に高層ビルの窓ガラスや窓用プラスチックボードの外面貼付用、あるいはショーウインドウの貼付用などとして好適な光触媒ハードコートフィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、基材、プライマー層、ハードコート層及び光触媒層の積層構造において、光触媒層のクラックは、吸湿等で基材が膨張することにより発生するものであるが、プライマー層の線膨張係数と厚さとを特定範囲内とすることにより防止することができること、及び、ハードコート層に光触媒層の密着性を向上させるために金属酸化物微粒子を添加した場合、金属酸化物微粒子を分散させるために使用する分散剤が光触媒層に移行して光触媒の表面を覆って親水化を遅らせる原因となるが、このような現象は、ハードコート層の金属酸化物微粒子の含有量と厚さとを特定範囲内とすることにより防止することができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0010】
即ち本発明は、
(1)基材の一方の面にプライマー層、ハードコート層及び光触媒層を順次積層してなり、該プライマー層が80℃から100℃に昇温したときの線膨張係数3.0×10-3〜7.9×10-3(K-1)の、厚さ3.0〜20.0μmの層であり、該ハードコート層がシラン化合物の硬化体と該硬化体100質量部当たり20〜70質量部の金属酸化物微粒子とからなる、厚さ1.2〜1.9μmの層であることを特徴とする光触媒ハードコートフィルム、
(2)基材が、ポリカーボネートからなるフィルムである、上記(1)の光触媒ハードコートフィルム、
(3)プライマー層が、アクリル系プライマーで形成された層である、上記(1)又は(2)の光触媒ハードコートフィルム、
(4)ハードコート層が、シラン化合物としてテトラアルコキシシランを、金属酸化物微粒子としてアンチモンドープ酸化錫を、各々使用して形成された層である、上記(1)〜(3)のいずれかの光触媒ハードコートフィルム、
(5)光触媒層が、バインダーとしてシラン化合物を、光触媒として二酸化チタンを、各々使用して形成された層である、上記(1)〜(4)のいずれかの光触媒ハードコートフィルム、
及び
(6)基材の他方の面に粘着剤層を設けてなる、上記(1)〜(5)のいずれかの光触媒ハードコートフィルム、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光触媒ハードコートフィルムは、屋外に暴露した場合に、数日で光触媒機能が発現し、しかも長期間に亘って光触媒層にクラック、白化、剥離が発生しない等、耐候性に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の光触媒ハードコートフィルムにおいて使用する基材としては、特に制限はなく、様々なプラスチック、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン−1、ポリブテン−1などのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリエーテルサルフォン系樹脂、ポリエチレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなるフィルムの中から、状況に応じて適宜選択して用いることができる。これらの内では、耐候性の点からは、ポリカーボネート樹脂からなるフィルムが、特に好ましい。
【0013】
基材の厚さとしては特に制限はなく、通常5〜500μm、好ましくは10〜300μm、より好ましくは10〜200μmの範囲の中から、使用目的に応じて適宜選定することができる。
基材は透明なものが好ましいが、着色又は蒸着されていてもよく、また紫外線吸収剤や光安定剤を含んでいてもよい。
【0014】
さらに、その表面に設けられるプライマー層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。
【0015】
本発明の光触媒ハードコートフィルムにおいては、このような基材上に、プライマー層が形成される。
プライマー層としては、その上に設けられるハードコート層に対する密着性及び前記基材に対する密着性が良好であると共に、80℃から100℃に昇温したときの線膨張係数(以下、単に「線膨張係数」と記す。)が3.0×10-3〜7.9×10-3(K-1)であることが必要であり、従来公知のプライマー、例えばアクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、シリコーン系、ゴム系などのプライマーの中から、上記範囲の線膨張係数を有するものを用いることができるが、耐久性及び密着性などの点から、アクリル系プライマーが好適である。
【0016】
このプライマー層の線膨張係数は、クラックの発生を抑えるのは、上記の範囲内であることが必要であり、この範囲以下でも、又この範囲以上でも、クラックの発生を抑えることができない。特に好ましい範囲は、3.2×10-3〜7.8×10-3(K-1)の範囲である。
【0017】
プライマー層には、必要により、紫外線吸収剤や光安定剤を含有させることができる。紫外線吸収剤や光安定剤は、プライマー100質量部に対し、0.01〜10質量部、特に0.1〜5質量部の範囲で含有させるのが好ましい。
【0018】
本発明の光触媒ハードコートフィルムにおいては、このプライマー層の厚さは、基材の膨張を抑え、緩衝する効果を発揮して、光触媒層でのクラック発生を抑え、更に、プライマー層が紫外線吸収剤を含んでいる場合には、その効果を十分に発揮させるためには、3.0〜20.0μmの範囲であることが必要であり、特に3.5〜8.0μmの範囲が好ましい。
【0019】
このプライマー層の形成は、適当な溶媒とプライマー及び必要に応じて含有させる紫外線吸収剤や光安定剤からなる塗工液を、従来公知の方法、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、カーテンコート法などを用いて、基材上に塗布し、80〜160℃程度の温度で、30秒ないし5分間程度加熱処理することにより、行うことができる。
【0020】
本発明の光触媒ハードコートフィルムにおいては、このようにして形成されたプライマー層上に、シラン化合物の硬化体と金属酸化物微粒子とからなるハードコート層が形成される。
【0021】
ここで、シラン化合物としては、アルコキシシラン化合物やクロロシラン化合物が挙げられる。
アルコキシシラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン、トリメトキシシランヒドリド、トリエトキシシランヒドリド、トリプロポキシシランヒドリドなどのトリアルコキシシランヒドリド、ジメトキシシランヒドリド、ジエトキシシランヒドリド、ジプロポキシシランヒドリドなどのジアルコキシシランヒドリド、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン等を例示することができる。
【0022】
クロロシラン化合物としては、エチルジクロロシラン、エチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン等を例示することができる。
これらのシラン化合物は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中では、ハードコート層上に設けられる光触媒層による光触媒分解性の点からは、シラン化合物の加水分解縮合物の硬化物が有機基を有しないものが好ましい。
従って、アルコキシシラン化合物として、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシランヒドリド、ジアルコキシシランジヒドリドを用い、完全加水分解するのが望ましい。
【0023】
一方、金属酸化物微粒子としては、例えばSi,Ge,Sn,Al,In,Ga,Zn,Ti,Zr,Sc,Y,ランタノイド系金属(Ceなど)などの金属の酸化物、複合酸化物、あるいは金属ドープ金属酸化物などの微粒子を挙げることができる。この金属酸化物微粒子は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、金属酸化物微粒子の平均粒径は、カール防止性及びハードコート性能などの点から、好ましくは1〜10000nm、より好ましくは10〜500nm、さらに好ましくは20〜200nmの範囲である。
【0024】
ハードコート層を形成するには、まず適当な溶媒中と前記のシラン化合物及び金属酸化物微粒子と必要に応じて含有させる少量の加水分解触媒及び溶媒への分散性を高めるための分散剤等からなる塗工液を調製する。
次いで、前述のようにして形成されたプライマー層上に上記塗工液を公知の方法、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、カーテンコート法などを用いて塗布し、80〜160℃程度の温度で、30秒ないし5分間程度加熱処理すればよい。
温度を80℃以上とすることにより、溶媒がハードコート層に残存することが防がれ、160℃以下とすることにより、基材が収縮して平滑性が失われることを防止しうる。
かくして、シラン化合物の硬化体と金属酸化物微粒子とからなるハードコート層を形成することができる。シラン化合物の硬化体はゾル−ゲル法で形成される。
【0025】
ハードコート層におけるシラン化合物の硬化体と金属酸化物微粒子の含有量は、ハードコート層の密着性が悪くなって傷が付き易くなるのを防ぐためにはシラン化合物の硬化体100質量部に対して金属酸化物微粒子が20質量部以上である必要があり、必要な親水性を得るにはシラン化合物の硬化体100質量部に対して金属酸化物微粒子が70質量部以下である必要がある。即ち、シラン化合物の硬化体100質量部に対する金属酸化物微粒子の配合量は、20〜70質量部の範囲であることが必要であり、特に30〜60質量部の範囲が好ましい。なお、親水性は、12時間で親水すれば、実用範囲である。
【0026】
なお、このハードコート層における金属酸化物微粒子の種類を選択することにより、該ハードコート層に、ハードコート機能以外にその他の機能、例えば紫外線遮蔽機能や赤外線遮蔽機能を付与することができる。
具体的には、ハードコート層における金属酸化物微粒子として、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムなどの微微粒子、あるいは二酸化チタン微微粒子を酸化鉄で複合化処理してなるハイブリッド微粒子、酸化セリウム微微粒子の表面を非結晶性シリカでコーティングしてなるハイブリッド微粒子などを用いることにより、該ハードコート層に、紫外線を散乱させることによる紫外線遮蔽機能が付与される。
また、金属酸化物微粒子として、例えば酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、硫化亜鉛など、特に酸化錫、ATO(アンチモンドープ酸化錫)、ITO(インジウムドープ酸化錫)の金属酸化物微粒子を用いることにより、該ハードコート層に赤外線を吸収することにより赤外線遮蔽機能が付与される。
【0027】
なお、ハードコート層に用いられる金属酸化物微粒子が光触媒活性を有する場合には、下層のプライマー層の光触媒作用による劣化や、上層の光触媒層の作用による劣化を抑制するために、金属酸化物微粒子の光触媒作用を不活性化する処理を施して用いることが好ましい。
また、ハードコート層の厚みは、1.2〜1.9μmの範囲であることが必要であり、特に1.3〜1.8μmの範囲が好ましい。
【0028】
本発明の光触媒ハードコートフィルムにおいては、このようにして形成されたハードコート層上に、光触媒層が形成される。
この光触媒層において用いられる光触媒としては特に制限はなく、従来公知のもの、例えば二酸化チタンを始め、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸バリウム(BaTi49)、チタン酸ナトリウム(Na2Ti613)、二酸化ジルコニウム、α−Fe23 、酸化タングステン、K4Nb617、Rb4Nb617、K2Rb2Nb617、硫化カドミウム、硫化亜鉛などを挙げることができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、二酸化チタン、特にアナターゼ型二酸化チタンは実用的な光触媒として有用である。
【0029】
ハードコート層上に光触媒層を形成させる方法としては、ハードコート層に対し密着性よく形成させる方法であればよく、特に制限されず、例えば真空蒸着法やスパッタリング法などのPVD法(物理気相蒸着法)、CVD法(化学気相蒸着法)、金属溶射法などの乾式法、あるいは塗工液を使用する湿式法などを用いることができる。これらの方法の中で、操作が簡単で容易に光触媒層を形成し得る点から湿式法が有利である。
【0030】
この湿式法は、前記光触媒の微粒子及び無機系バインダーを含む塗工液を塗工し、乾燥処理することにより、光触媒層を形成する方法である。
この塗工液に用いられる無機系バインダーとしては、バインダーとしての機能を発揮し得るものであればよく、特に制限はないが、ハードコート層との密着性の点からシラン化合物の硬化体が好適である。この際、該シラン化合物としては、加水分解性有機基を有するもの、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン、トリメトキシシランヒドリド、トリエトキシシランヒドリド、トリプロポキシシランヒドリドなどのトリアルコキシシランヒドリド、ジメトキシシランヒドリド、ジエトキシシランヒドリド、ジプロポキシシランヒドリドなどのジアルコキシシランヒドリドなどを好ましく挙げることができる。これらのシラン化合物は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、クラックの発生防止などのために、アルキルトリアルコキシシランを併用してもよい。
【0031】
塗工液は、適当な溶媒中に光触媒の微粒子と前記無機バインダーと少量の加水分解触媒を加えることにより調製することができる。
この塗工液をハードコート層上に、公知の方法、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、カーテンコート法などを用いて塗工し、乾燥処理することにより、光触媒層を形成することができる。 塗工後の乾燥処理は、80〜160℃程度の温度で30秒ないし5分間程度加熱処理すればよい。温度を80℃以上とすることにより、溶媒が光触媒層に残存することが防がれ、160℃以下とすることにより、基材が収縮して平滑性が失われることを防止しうる。
【0032】
このようにして、光触媒の微粒子と無機系バインダーからなる光触媒層が、ハードコート層上に密着性よく形成される。
この際使用する光触媒の微粒子の平均粒径は、通常1〜1000nm、好ましくは10〜500nmの範囲である。また、光触媒層における光触媒粒子と無機系バインダーの含有割合は、固形分重量比1:9ないし9:1の範囲が好ましい。無機系バインダーの量が上記範囲より多いと光触媒機能が充分に発揮されないおそれがあり、一方上記範囲より少ないとバインダーとしての機能が充分に発揮されにくい。より好ましい含有割合は3:7ないし7:3の範囲である。
光触媒層の厚みは、0.01〜10μmの範囲であることが好ましく、特に0.01〜1μmの範囲が好ましい。
【0033】
本発明のハードコートフィルムを被着体に貼付する用途に使用する場合には、その基材のハードコート層が設けられた側の反対面に、粘着剤層及び剥離シートを順次設けることができる。
上記粘着剤層を構成する粘着剤としては特に制限はなく、従来公知の様々な粘着剤の中から、状況に応じて適宜選択して用いることができるが、耐候性などの点から、特にアクリル系、ウレタン系及びシリコーン系粘着剤が好適である。この粘着剤層の厚さは、通常5〜100μm、好ましくは10〜60μmの範囲である。なお、上記粘着剤層には、必要に応じ、紫外線吸収材や光安定剤を含有させることができる。
【0034】
また、この粘着剤層の上に設けられる剥離シートとしては、例えばグラシン紙、コート紙、ラミネート紙などの紙及び各種プラスチックフィルムに、シリコーン樹脂などの剥離剤を塗布したものなどが挙げられる。この剥離シートの厚さについては特に制限はないが、通常20〜150μm程度である。
【0035】
本発明のハードコートフィルムは特に窓ガラスや窓用プラスチックボードなどの外側表面貼付用として好適に用いられる。使用する場合は、剥離シートを剥がし、粘着剤層面が対象物に接するようにして貼付すればよい。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例において作製したハードコートフィルムの物性は、下記の要領に従って測定・評価した。
【0037】
(1)線膨張係数
島津製作所社製の熱分析装置(商品名「TMA−50」)を使用し、長さ:10mm、膜厚:80μmのプライマーのサンプルについて、加重:10mN、昇温速度:10℃/分の条件で、室温から105℃まで加熱して、80℃から100℃に昇温した際の長さの変化から、線膨張係数を求めた。
【0038】
(2)親水化時間及び接触角
光触媒層の表面に、1.0mW/cm2 のBLB蛍光灯(ブラック)から紫外線を照射した時の、水との接触角が10度以下となるまでの時間を測定し、親水化時間とした。
また、接触角測定器(協和界面科学社製、商品名「CA−X150」)を用いてマイクロシリンジから試料表面に水滴を滴下し、水との接触角を測定して、測定角とした。
【0039】
(3)促進耐候性試験
厚さ3mmのガラス板に試料を貼付し、サンシャインスーパーロングライフウエザオメーター(スガ試験機社製、商品名「WEL−SUN−HCH」)を用いて、JIS A 5759「建築窓ガラス用フィルム」に規定された方法で行った。
【0040】
(4)促進耐候性試験によるクラック発生時間
光学式顕微鏡(1000倍)を用い、促進耐候性試験100時間おきに、クラックの有無を確認し、クラックが発生するまでの時間を求めた。
【0041】
(5)耐候性
促進耐候性試験を1900時間行った後、下記の密着性試験及びハードコート性試験並びに上記の接触角測定を行った。
【0042】
(イ)密着性
JIS K 5600−5−6「塗料一般試験方法」、第5部「機械的性質」、第6節「付着性(クロスカット法)」に準拠して測定し、次の基準で評価した。
0;最も密着が高く、剥がれが生じていない。
4;最も密着が低く、全ての塗膜が剥離している。
【0043】
(ロ)ハードコート性
光触媒層の表面を、スチールウール#0000及び/又はガーゼで擦り付けた際の傷の有無を目視にて観察し、次の基準で評価した。
◎;スチールウール#0000で10往復擦り付けても、傷はない。
○;スチールウール#0000で3往復擦り付けても、傷はない。
△;スチールウール#0000で3往復擦り付けてたとき、傷がある。ガーゼを3往 復擦り付けても、傷はない。
×;ガーゼを3往復擦り付けてたとき、傷がある。
【0044】
実施例1
厚さ100μmのポリカーボネートフィルム〔旭硝子社製、商品名「レキサン8010」〕の片面に、アクリル樹脂〔日本ダクロシャムロック社製、商品名「ソルガードプライマー85B−2H18」、固形分含有量:18質量%、線膨張係数:7.71×10-3(K-1)〕を乾燥後の厚みが4.0μmとなるように塗布し、100℃で1分間乾燥処理して、プライマー層を形成した。
次に、上記プライマー層上に、シリコーン系ハードコート剤〔日本ダクロシャムロック社製、商品名「ソルガードNP730−0.2x」、固形分含有量25質量%〕100質量部にアンチモンドープ酸化錫[ATO]〔石原テクノ社製、商品名「SNS−10B」、ATO含有量27質量%〕50質量部を添加して得られた塗工液を、乾燥後の厚みが1.5μmとなるように塗布し、130℃で5分間乾燥処理して、ハードコ−ト層を形成した。ハードコ−ト層中のシラン化合物の硬化体100質量部に対するATOの量は、54.0質量部であった。
次に、上記ハードコート層上に、無機系バインダーとしてのアルコキシシラン溶液〔コルコート社製、商品名「コルコートP」、固形分含有量2質量%〕750質量部に光触媒としての二酸化チタン分散液〔大日本インキ化学工業社製、商品名「チタニアブンサンタイTD−04」、固形分含有量10質量%〕100質量部を添加して得られた塗工液を、乾燥後の厚みが0.1μmとなるように塗布し、130℃で5分間乾燥処理して、光触媒層を形成した。
得られた光触媒ハードコートフィルムについて、各種の性能を測定・評価し、その結果を表1に記載した。
【0045】
実施例2
アクリル樹脂〔商品名「ソルガードプライマー85B−2H18」〕をアクリル樹脂〔日本ダクロシャムロック社製、商品名「ソルガードプライマー85B−4H18」、固形分含有量:18質量%、線膨張係数:3.82×10-3(K-1)〕に変えた以外は実施例1と同様に実施した。
得られた光触媒ハードコートフィルムについて、各種の性能を測定・評価し、その結果を表1に記載した。
【0046】
実施例3
ハードコ−ト層を形成するための塗工液におけるアンチモンドープ酸化錫[ATO]〔商品名「SNS−10B」〕の配合量を30.0質量部に変えた以外は実施例1と同様に実施した。ハードコ−ト層中のシラン化合物の硬化体100質量部に対するATOの量は32.4質量部であった。
得られた光触媒ハードコートフィルムについて、各種の性能を測定・評価し、その結果を表1に記載した。
【0047】
実施例4
ハードコ−ト層の厚みを1.3μmに変えた以外は実施例1と同様に実施した。
得られた光触媒ハードコートフィルムについて、各種の性能を測定・評価し、その結果を表1に記載した。
【0048】
実施例5
ハードコ−ト層の厚みを1.8μmに変えた以外は実施例1と同様に実施した。
得られた光触媒ハードコートフィルムについて、各種の性能を測定・評価し、その結果を表1に記載した。
【0049】
実施例6
プライマー層の厚みを3.5μmに変えた以外は実施例1と同様に実施した。
得られた光触媒ハードコートフィルムについて、各種の性能を測定・評価し、その結果を表1に記載した。
【0050】
実施例7
プライマー層の厚みを6.0μmに変えた以外は実施例1と同様に実施した。
得られた光触媒ハードコートフィルムについて、各種の性能を測定・評価し、その結果を表1に記載した。
【0051】
比較例1
アクリル樹脂〔商品名「ソルガードプライマー85B−2H18」〕をアクリル樹脂〔日本ダクロシャムロック社製、商品名「ソルガードプライマー85B−4HP18」、固形分含有量:18質量%、線膨張係数:0.56×10-3(K-1)〕に変えた以外は実施例1と同様に実施した。
得られた光触媒ハードコートフィルムについて、各種の性能を測定・評価し、その結果を表1に記載した。
【0052】
比較例2
アクリル樹脂〔商品名「ソルガードプライマー85B−2H18」〕をアクリル樹脂〔日本ダクロシャムロック社製、商品名「ソルガードプライマー85B−2B18」、固形分含有量:18質量%、線膨張係数:7.95×10-3(K-1)〕に変えた以外は実施例1と同様に実施した。
得られた光触媒ハードコートフィルムについて、各種の性能を測定・評価し、その結果を表1に記載した。
【0053】
比較例3
ハードコ−ト層を形成するための塗工液におけるアンチモンドープ酸化錫[ATO]〔商品名「SNS−10B」〕の配合量を10.0質量部に変えた以外は実施例1と同様に実施した。ハードコ−ト層中のシラン化合物の硬化体100質量部に対するATOの量は10.8質量部であった。
得られた光触媒ハードコートフィルムについて、各種の性能を測定・評価し、その結果を表1に記載した。
【0054】
比較例4
ハードコ−ト層を形成するための塗工液におけるアンチモンドープ酸化錫[ATO]〔商品名「SNS−10B」〕の配合量を80.0質量部に変えた以外は実施例1と同様に実施した。ハードコ−ト層中のシラン化合物の硬化体100質量部に対するATOの量は86.4質量部であった。
得られた光触媒ハードコートフィルムについて、各種の性能を測定・評価し、その結果を表1に記載した。
【0055】
比較例5
ハードコ−ト層の厚みを1.0μmに変えた以外は実施例1と同様に実施した。
得られた光触媒ハードコートフィルムについて、各種の性能を測定・評価し、その結果を表1に記載した。
【0056】
比較例6
ハードコ−ト層の厚みを2.0μmに変えた以外は実施例1と同様に実施した。
得られた光触媒ハードコートフィルムについて、各種の性能を測定・評価し、その結果を表1に記載した。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の光触媒ハードコートフィルムは、前記のような効果を有することから、特に高層ビルの窓ガラスや窓用プラスチックボードの外面貼付用、あるいはショーウインドウの貼付用などとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面にプライマー層、ハードコート層及び光触媒層を順次積層してなり、該プライマー層が80℃から100℃に昇温したときの線膨張係数3.0×10-3〜7.9×10-3(K-1)の、厚さ3.0〜20.0μmの層であり、該ハードコート層がシラン化合物の硬化体と該硬化体100質量部当たり20〜70質量部の金属酸化物微粒子とからなる、厚さ1.2〜1.9μmの層であることを特徴とする光触媒ハードコートフィルム。
【請求項2】
基材が、ポリカーボネートからなるフィルムである、請求項1に記載の光触媒ハードコートフィルム。
【請求項3】
プライマー層が、アクリル系プライマーで形成された層である、請求項1又は2に記載の光触媒ハードコートフィルム。
【請求項4】
ハードコート層が、シラン化合物としてテトラアルコキシシランを、金属酸化物微粒子としてアンチモンドープ酸化錫を、各々使用して形成された層である、請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒ハードコートフィルム。
【請求項5】
光触媒層が、バインダーとしてシラン化合物を、光触媒として二酸化チタンを、各々使用して形成された層である、請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒ハードコートフィルム。
【請求項6】
基材の他方の面に粘着剤層を設けてなる、請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒ハードコートフィルム。

【公開番号】特開2006−272757(P2006−272757A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95483(P2005−95483)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】