説明

光触媒フィルタ、光触媒フィルタユニット、クリーンルーム、空気浄化装置、製造装置、並びに空気浄化方法

【課題】 アンモニアガスの吸着・分解効率を選択的に向上させたセラミック光触媒フィルタ及び光触媒フィルタユニットを提供する。
【解決手段】 セラミック光触媒フィルタ20は、3次元網目構造の基材層をSiOを主成分としAlを約21重量%含んで形成し、この基材層の表面に形成した光触媒層を、TiOを主成分とし、かつTiOとSiOの重量比率を約8:2として形成し、光触媒層の表面を弱酸性に調整したものである。セラミック光触媒フィルタ20を使用した光触媒フィルタユニットFは、半導体や液晶、有機EL等の製造工程を行うクリーンルーム1に空気を供給する空気出口2に配設されている。この光触媒フィルタユニットFは、側面枠11に回動可能に取付けたトップパネル12の開閉により、側面枠11の内部に収納したセラミック光触媒フィルタ20及び光源ランプ31を交換可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケミカルフィルタの代替として用いることができるガス状汚染物質除去用の光触媒フィルタに係り、特にクリーンルームに要求されるごく微量レベルまで空気中の臭気物質や有害物質を分解除去することが可能な光触媒フィルタ、及び該光触媒フィルタを用いた光触媒フィルタユニット、クリーンルーム、空気浄化装置、製造装置、並びに空気浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶、有機EL等の製造工程において、ウェハやガラス、樹脂などの基板を扱うクリーンルームでは、汚染による製品の歩留まりの低下等を防止し、また製品の信頼性を向上させるために、微粒子やガス状汚染物質などの汚染物質を除去し、高清浄度を保つことが要求されている。
そのため、HEPAフィルタ(High Efficiency Particlate Air Filter)、ULPAフィルタ(Ultra Low Penetration Filter)等を用いた微粒子の除去が行われていた。しかし、高集積半導体素子のような高品質化、精密化された製品の製造においては、さらに、HEPAフィルタ等では除去できないガス状汚染物質などによる汚染を防止する必要が生じていた。
【0003】
通常、空気中には、ガス状汚染物質として硝酸ガス、硫酸ガス、塩酸ガスのような酸性ガス、アンモニア、アミン類のようなアルカリ性ガス、及び有機系ガスが存在する。また、クリーンルーム内に存在する高分子樹脂のような有機物からも、微量ではあるが有機系ガスが発生する。また、製造装置の排気系からの漏洩や、オペレータなどに由来のガス状汚染物質も発生する。このように、クリーンルーム内には、外気から導入されるガス状汚染物質に加えて、内部でもガス状汚染物質が発生し、これらを除去する必要があった。
【0004】
従来は、このような汚染物質を吸着する吸着フィルタを用いてクリーンルーム内の空気中のガス状汚染物質の除去が行われていた。吸着フィルタの吸着材には、例えばゼオライト、シリカゲル、活性炭、イオン交換繊維などが使用されている。
例えば、活性炭をベースとするいわゆるケミカルフィルタにより、クリーンルーム内のガス状汚染物質を物理吸着あるいは化学吸着して除去している(特許文献1参照)。また、陽イオン交換体もしくは陰イオン交換体、又は陽イオン交換基と陰イオン交換基を併有するイオン交換体が付加されたイオン交換繊維を用いたイオン交換フィルタにより、上記のようなアルカリ性ガスや酸性ガスなどのイオン性ガス状汚染物質を吸着して除去している(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平9−187612号公報(第2−5頁、図1)
【特許文献2】特開2000−300936号公報(第2−5頁、図1)
【0005】
特許文献2のようなイオン交換フィルタは、従来、半導体や液晶を製造するクリーンルーム内のプロセスエリアにおいて、腐食性ガス(アンモニアや酸性ガス)を除去するために使用されている。また、リソグラフィ工程では、光学系におけるミラーやレンズの曇りの原因となるアンモニアやアルカリ性ガスを除去するために使用されている。
そして、上記のようなHEPAフィルタ、ULPAフィルタ、イオン交換フィルタ等を通した清浄な空気を垂直一方向または水平一方向に流し続けることにより、クリーンルーム内の清浄度を保つようなシステムが構成されていた。具体的には、天井全面または一部、壁全面または一部に設けられた吹き出し口に上記フィルタを備えたフィルタユニットを取り付け、このフィルタユニットを通過する過程で汚染物質が吸着・除去され、微粒子やガス状汚染物質を含んだ空気が清浄化されるように構成されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載のような吸着フィルタは、いずれも、吸着されたガス状汚染物質が分解されずにフィルタ内に蓄積される。従って、捕集されたガスの飽和、再放出が発生するという問題点があった。すなわち、ケミカルフィルタでは、フィルタの濾材そのものや、フィルタを固着するためのシール材などからガス状物質が脱離し、フィルタ自体が汚染源となるという問題点があった。
また、吸着フィルタは吸着量に限界があり、ガス除去性能を維持するためには、定期的なフィルタの交換作業が必要とされている。そして、交換したフィルタはほとんど再生できないため、メンテナンスに手間を要すると共に、ランニングコストがかかるという問題点があった。特に、イオン交換フィルタの場合にはフィルタユニットが高価であり、一旦飽和したフィルタユニットは再生されることなく廃棄されるため、ランニングコストの高さが問題点とされていた。
【0007】
一方、上記特許文献2にも記載されているように、気体中のガス状汚染物質を除去するフィルタとして光触媒フィルタが用いられている。光触媒フィルタは、光触媒反応によりガス状汚染物質を分解処理するため、吸着フィルタのように吸着量の限界により飽和してしまうことがなく再放出も起こらない。しかし、光触媒反応による反応性生物、例えば硝酸塩や硫酸塩等の物質がフィルタ上に触媒被毒として堆積され、この触媒被毒が光触媒フィルタの性能劣化の原因となってしまうという問題点があった。
この点に鑑み、本発明の特許出願人等は、水洗等で触媒被毒成分を除去できる再生可能な光触媒フィルタ(特許文献3参照)を開発した。この光触媒フィルタは、セラミック質あるいは金属質の基材上に酸化チタン等の触媒成分の膜を形成した構造とされており、水洗のみで触媒被毒成分を除去することができ、再生可能な光触媒フィルタとして使用することができる。また、その際、塵などの汚れも同時に除去することができる。
【特許文献3】特開2003−053194号公報(第2−5頁、図1)
【0008】
上記のセラミック製光触媒フィルタは、アルカリ性ガス、酸性ガス、有機系ガス、硫黄系ガス等の種々の汚染物質を分解することができ、また、耐久性のあるセラミック質や金属質などの剛性基材上に酸化チタンを担持させて光触媒層を形成しているので、水洗による再賦活処理を容易に行うことができる。しかし、ウェハやガラスなどの基板を扱うクリーンルーム内におけるアンモニアガスの除去性能については、さらなる改善が望まれていた。特に、酸性ガスや有機系ガスの除去性能を低下させずにアンモニアガスの吸着・分解効率を選択的に向上させ、アンモニアガスの濃度をクリーンルームで要求されるごく微量レベルまで減少させることが可能な光触媒フィルタが望まれていた。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、他のガス状汚染物質の除去性能を低下させることなく、アンモニアガスの吸着・分解効率を選択的に向上させた光触媒フィルタ及び該光触媒フィルタを用いた光触媒フィルタユニット、クリーンルーム、空気浄化装置、製造装置、及び空気浄化方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、アンモニアガスの濃度を、半導体や液晶、有機EL等の素子あるいはデバイスの製造又は加工工程を行うクリーンルームにおいて要求されるごく微量レベルまで効率よく減少させることが可能な光触媒フィルタを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、水洗により容易に触媒被毒成分を除去して再賦活させることにより、ほぼ初期の状態まで酸化分解能の復元が可能な光触媒フィルタを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、光触媒フィルタの着脱が容易であってメンテナンスに手間を要さない光触媒フィルタユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、請求項1に記載の光触媒フィルタによれば、3次元網目構造を有するセラミック基材層と、該セラミック基材層の表面に形成された光触媒層と、を備え、前記セラミック基材層は、SiOを主成分とし、かつ、Alを約21重量%含んで形成され、前記光触媒層は、TiOを主成分とし、かつ、SiOを含むと共に、前記光触媒層中におけるTiOに対するSiOの重量比率が約8:2とされ、前記光触媒層の表面が弱酸性に調整されてなること、により解決される。
3次元網目構造のセラミック基材層は、表面がポーラスで表面積が大きいため、担持させる光触媒の量を自在にコントロールすることができる。また、SiO成分を従来品より増加させることにより、光触媒反応により除去される汚染ガスの中でも、アンモニアガスの吸着・除去効率を選択的に向上させることができる。また、トップコートと基材との密着効果が向上されるので、トップコートの基材からの脱落がより発生しにくくなり、発塵が抑制される。また、触媒被毒の堆積により性能が劣化しても、水洗浄により機能を復帰させることができるので、再利用することができる。従って、吸着フィルタと比較して交換・メンテナンスの手間がかからない。また、ランニングコストを低く抑えることができる。
【0011】
また、請求項2に記載のように、前記光触媒層は、表面のpHが5以上7未満となるように調整することができる。このように、トップコートの表面が弱酸性に処理されていると、塩基性ガスの吸着サイトが増加され、アンモニアガスの吸着・除去効率を向上させることができる。
【0012】
また、請求項3に記載のように、前記セラミック基材層及び前記光触媒層は、Na及びBを含まないように構成することができる。このように構成すると、酸化チタン(TiO)とNa成分が反応して光触媒活性を有さない化合物に変化してしまうことがない。また、基材成分中のホウ素に由来する酸性ガス等の汚染ガスが発生することがない。
【0013】
また、前記課題は、請求項4に記載の光触媒フィルタユニットによれば、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の光触媒フィルタと、該光触媒フィルタに隣接して配設される光源と、を備え、前記光源は、光触媒反応を誘起する処理光を前記光触媒フィルタに照射すること、により解決される。
このような構成により、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光触媒フィルタに光触媒反応を生起させ、アンモニアガスを効率的に吸着・除去することができる。また、発塵が抑制されているので、清浄空気を供給することができる。また、触媒被毒の堆積により性能が劣化しても、水洗浄により機能を復帰させることができる。従って、吸着フィルタと比較して交換・メンテナンスの手間がかからず、また、ランニングコストを低く抑えることができる。
【0014】
また、前記課題は、請求項5に記載の光触媒フィルタユニットによれば、筒状に形成された空気流路を有する筐体と、該筐体に一端が回動可能に接続され、前記空気流路の一端に対面する交差状態と対面しない開放状態とに変位可能に構成され、前記交差状態において前記空気流路と対面する位置に形成された開口を有する平板状のトップパネルと、を備え、前記トップパネルには、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の光触媒フィルタが着脱可能に設けられ、かつ、該光触媒フィルタパネルに隣接する位置に、光触媒反応を誘起する処理光を照射する光源が設置されてなること、により解決される。
このように構成すると、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光触媒フィルタを空気流路に設置して、アンモニアガスを効率的に吸着・除去することができる。また、光触媒フィルタはトップパネルに着脱可能とされており、トップパネルは光触媒フィルタごと回動可能とされている。従って、光触媒フィルタをトップパネルの回動により空気流路から取り出して容易に交換することができるので、交換、メンテナンスが更に容易化される。
【0015】
また、請求項6に記載のように、前記光触媒フィルタは平板状に形成され、前記空気流路を通過する空気の流れに交差するように配設され、かつ、前記光源を挟んで対峙するように2層に配設されると好適である。このように構成すると、光源が発する処理光を効率よく利用することができる。また、3次元網目構造の表面に形成された光触媒層に空気が効率的に接触されるので、汚染物質を効率的に吸着、分解することができる。
また、請求項7に記載のように、前記光触媒フィルタを通過する空気の流れの上流側に配設されたプレフィルタと、前記光触媒フィルタを通過する空気の流れの下流側に配設された微粒子捕捉フィルタと、を備えた構成とすることもできる。このように構成すると、光触媒フィルタに到達する前の空気から、比較的粒径の大きい粒子や塵を除去することができる。光触媒フィルタユニット側からの発塵、特に、酸化チタン等の光触媒層の剥離や磨耗などによる発塵を除去した空気を供給することができる。
【0016】
また、前記課題は、請求項8に記載のクリーンルームによれば、空気を取り入れるための空気導入口を備え、前記空気導入口には、請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の光触媒フィルタユニットが配設されたこと、により解決される。また、請求項9に記載のように、このクリーンルームを、半導体、液晶、有機ELの少なくともいずれかの製造工程を行うクリーンルームとすることができる。
このように、半導体、液晶、有機EL等の製造工程を行うクリーンルームに、上記各構成の光触媒フィルタを用いて浄化空気を供給することにより、アンモニアガスをはじめとする汚染ガスや塵などの濃度をごく微量に保つことができる。また、従来の吸着フィルタと比較して交換・メンテナンスの手間がかからず、ランニングコストを低く抑えることができる。
【0017】
また、前記課題は、請求項10に記載の空気浄化装置によれば、クリーンルーム内から取り入れた空気を通過させる空気流路を備え、前記空気流路には、請求項4に記載の光触媒フィルタユニットと、前記光触媒フィルタユニットを通過する空気の流れの上流側に配設されたプレフィルタと、前記光触媒フィルタユニットを通過する空気の流れの下流側に配設された微粒子捕捉フィルタと、を備えて構成され、クリーンルーム内に設置されたこと、により解決される。そして、請求項11に記載のように、前記クリーンルームは、半導体、液晶、有機ELの少なくともいずれかの製造工程を行うことができる。
そしてまた、前記課題は、請求項12に記載の製造装置によれば、請求項10に記載の空気浄化装置を備え、半導体、液晶、有機ELの少なくともいずれかの製造工程を行うこと、により解決される。
【0018】
このように、本発明の光触媒フィルタユニットを用いて空気浄化装置を構成することができる。そして、この空気浄化装置をクリーンルーム内に設置してクリーンルーム内で発生する汚染物質を除去することができる。また、空気浄化装置を半導体、液晶、有機EL等の製造装置に組み込んで、製造工程において汚染物質が製品に悪影響を与えないように構成することができる。
【0019】
また、前記課題は、請求項13に記載の空気浄化方法によれば、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光触媒フィルタに、酸性ガス,塩基性ガス,有機性ガスの少なくともいずれかを含む汚染空気を接触させ、前記光触媒フィルタの表面に前記汚染空気に含まれる汚染物質を吸着させる工程と、前記光触媒フィルタの表面に光触媒反応を誘起する処理光を照射して前記汚染物質を分解除去する工程と、前記光触媒フィルタの表面に堆積した触媒被毒成分を水洗により除去する工程と、を行うこと、により解決される。そして、請求項14に記載のように、前記汚染物質はアンモニアを含むことを特徴とする。また、請求項15に記載のように、前記汚染物質は、酸素,塩素,硫酸,硝酸,燐酸,アミン,水酸化アンモニウム,の少なくともいずれかを含むことを特徴とする。
【0020】
このように、請求項1乃至請求項3に記載の構成からなる光触媒フィルタを用いることにより、アンモニアガスの吸着・除去効率を選択的に向上させることができる。また、水洗浄により機能を復帰させることができるので、再利用することができる。従って、吸着フィルタと比較して交換・メンテナンスの手間がかからない。また、ランニングコストを低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
(イ)アンモニアガスの吸着・分解効率を選択的に向上させることができ、他のガス状汚染物質の除去性能を低下させることなく、アンモニアガスの濃度を、半導体や液晶、有機EL等の製造工程に要求されるごく微量レベルまで減少させることができる。
(ロ)水洗により容易に触媒被毒成分を除去して再賦活させることができるので、メンテナンスコストを抑制することができる。
(ハ)光触媒フィルタの着脱が容易とされているので、メンテナンスに手間を要さない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材,部材の配置等は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
図1、図2は本実施形態の光触媒フィルタユニットを用いた空気浄化装置及びクリーンルームの構成を示す説明図である。図3は本実施形態の光触媒フィルタユニットを設置したクリーンルームの構成を示す説明図である。図4〜図6は本実施形態の光触媒フィルタユニットの構成を示す説明図である。図7は本実施形態のセラミック光触媒フィルタの使用状態を示す説明図である。
また、図8は本実施形態のセラミック光触媒フィルタの外観を示す説明図、図9はアンモニア除去性能確認試験の結果を示す説明図である。
【0023】
(全体構成)
本実施形態において浄化空気が供給されるクリーンルーム1は、例えば、半導体や液晶、有機EL等の製造工程内におけるウェハやガラス、樹脂などの基板を扱う作業空間であって、空気中におけるガス成分や浮遊微粒子などが予め定められた高い清浄度レベル以下の状態を保つように管理されており、必要に応じて温度、湿度、圧力などの環境条件についても管理されている。このクリーンルーム1には、図1に示すように、天井面や壁面の所定位置に空気出口2が設けられており、この空気出口2には、空気浄化装置Sの空気供給口72が接続されている。すなわち、クリーンルーム1の上に設けられた天井裏空間3が空気浄化のための空間とされており、この天井裏空間3に、外部に連通された空気循環路や、空気浄化装置Sを設置することができる。
【0024】
(空気浄化装置の構成)
まず、本発明のセラミック光触媒フィルタ20を内部に設けた空気浄化装置Sについて説明する。
本実施形態では、図1に示すように、空気浄化装置Sによってガス状汚染物質や微粒子の捕集・除去が行われた浄化空気が、空気出口2からクリーンルーム1に供給されている。
例えば、外部から空気を取り入れる場合は、外部の未処理空気を、外部に連通された空気循環路C1を通って空気浄化装置Sに導入し、浄化する。また、クリーンルーム内の空気を浄化して循環させる場合は、クリーンルーム内から吸引した未処理空気を、空気循環路C2を通って空気浄化装置Sに導入し、浄化する。
【0025】
なお、空気出口2には、ルーバーなどの空気整流手段を設けてもよい。また、空気循環路C1、C2には、導入する空気の風量を調整するためにダンパ等を設けてもよい。また、空気循環路C1には、外部から導入された空気の温度調整や湿度調整等を行うための冷却器、ヒーター、除湿機等を設けてもよい。
また、後述するように、この天井裏空間全体を空気浄化装置Sとして機能させるような構成であってもよい。すなわち、図3に示すように、天井裏空間を密閉し、この天井裏空間に外部に連通された空気循環路C1を接続する。そして、天井裏空間3とクリーンルーム1とは、直接天井面に設けられた空気出口(図1における空気出口2を同様の構成)によって接続される。そして、この空気出口の天井裏空間側に、後述するセラミック光触媒フィルタ20を備えた光触媒フィルタユニットFを設置した構成とすることができる。
【0026】
本実施形態の空気浄化装置Sは、セラミック光触媒フィルタ20と、光源装置30と、プレフィルタ40と、ULPAフィルタ50と、送風装置60と、筐体70と、を主要構成とする。
筐体70は内部に取り入れた空気を浄化するための浄化空間Rを形成するものである。この筐体70には、空気循環路C1及び空気循環路C2に連通された空気導入口71と、クリーンルーム1の空気出口2に連通された空気供給口72が設けられ、空気導入口71と空気供給口72の間に浄化空間Rが形成されている。
【0027】
浄化空間Rには、空気が流れる上流側から順に、プレフィルタ40、セラミック光触媒フィルタ20、光源装置30、セラミック光触媒フィルタ20、ULPAフィルタ50、が取り付けられている。このように、本例では、セラミック光触媒フィルタ20は光源装置30の前後に取り付けられ、2枚設けられている。
プレフィルタ40、セラミック光触媒フィルタ20、ULPAフィルタ50の各フィルタはそれぞれ筐体70から着脱可能に構成されており、取り外して交換あるいはメンテナンスすることができる。
【0028】
送風装置60は未処理空気を吸引して浄化空間Rを通過させる空気の流れを発生させるためのもので、例えばファンモジュールにより構成されている。この送風装置60は、筐体70の内部に設けることができ、例えばプレフィルタ40の上流側に設けることができる。また、本例のように、筐体70の外部に設けることもでき、空気循環路C1及び空気循環路C2に取り付けてもよい。
ガス状汚染物質や微粒子を含む未処理空気は、送風装置60により空気導入口71から吸引されて浄化空間R内に送風される。そして、プレフィルタ40、セラミック光触媒フィルタ20、ULPAフィルタ50の順に通過し、空気供給口72に到達するまでの過程において微粒子やガス状汚染物質が除去される。
【0029】
セラミック光触媒フィルタ20は、光触媒反応により空気からガス状汚染物質等を除去するものであり、通気性のある3次元網目構造とされ、平板状に形成されている。本例では、2枚のセラミック光触媒フィルタ20は、両面が露出され空気が透過可能な状態で、浄化空間Rを流れる空気の進行方向と略垂直にセットされている。
本例のセラミック光触媒フィルタ20は、光触媒反応により、ガス状汚染物質のうち特にアンモニアを効率よく除去することができるが、この特徴については後述する。
【0030】
光源装置30は、光源ランプ31と、安定器32と、電極ソケット33と、を主要構成とするものである。光源ランプ31は紫外線を放射するものであって、本例では、直管形のブラックライトが使用されている。
光源ランプ31は、2枚のセラミック光触媒フィルタ20の略中間の位置に、略等間隔に並んで複数配設されている。光源ランプ31の両端部31a(不図示)はそれぞれ電極ソケット33に接続され、配線を介して安定器32及び外部の電源に接続されている。電極ソケット33は浄化空間R内の所定位置に取り付けられている。
本例では、この光源ランプ31の照射により、光源ランプ31を挟んで対峙する2枚のセラミック光触媒フィルタ20の表面が、それぞれ、略均一な紫外線の照射を受ける。この紫外線により、2枚のセラミック光触媒フィルタ20の表面において、それぞれ、光触媒反応を生起させることができる。
【0031】
プレフィルタ40は、空気導入口71とセラミック光触媒フィルタ20との間に配設されており、未処理空気中の比較的粒径の大きい粒子や塵を除去するためのものである。プレフィルタ40は、例えば、ポリプロピレン等から成る不織布をプリーツ折り加工して形成されている。また、不織布に、活性炭等の吸着物質を内蔵することにより、空気中の臭気成分も合わせて吸着して除去するように構成してもよい。また、公知の集塵フィルタと脱臭フィルタを組み合わせた構成としても良い。
【0032】
ULPAフィルタ50は、ごく小さな微粒子を捕集するためのフィルタであって、セラミック光触媒フィルタ20と空気供給口72の間に配設されている。ULPAフィルタ50は、従来用いられていたHEPAフィルタでは除去できない0.1μm程度の微小粒子であっても除去できるように構成されている。
このように、浄化空間R内の空気の流れの最終段階にULPAフィルタ50を配置することにより、クリーンルーム1側に、空気浄化装置S側からの発塵、特に、酸化チタン等の光触媒層の剥離や磨耗などによる発塵が漏れないようにすることができる。
【0033】
なお、上記構成では、セラミック光触媒フィルタ20は、空気の進行方向に光源ランプ31を挟んで対峙するように2枚設けられていたが、2枚に限らずもっと多数配設してもよい。また、1枚だけにしてもよい。多数配設した場合には、各層に光を照射することができる位置及び数の光源ランプを配設すれば、各層で光触媒反応を生起させることができ、短時間で多量の空気を浄化することができる。
【0034】
また、本例では、後述するようにセラミック質の基材層を備えた不燃性のセラミック光触媒フィルタ20を用いているため、セラミック光触媒フィルタ20と光源ランプ31との距離を従来よりも接近させることができる。
すなわち、従来の紙製の光触媒フィルタでは、不必要な発熱により発火するようなことがないように配慮する必要があったが、本例では不燃性とされているのでこのような制限がなく、設計の自由度が増大されている。また、セラミック光触媒フィルタ20と光源ランプ31を従来に比べて近付けることにより、フィルタ表面での紫外線強度を強めることができる。光量が強ければ強いほど光触媒反応速度が向上すると考えられるので、これにより、短時間で多量の空気を浄化することができる。
【0035】
また、上記構成のセラミック光触媒フィルタ20、プレフィルタ40、ULPAフィルタ50は、セラミックフィルタのようにそれ自体が剛性を有しており形状を維持できる場合には、フィルタ単体を着脱可能に構成することができる。また、剛性のないフィルタの場合には、枠体に取り付けたり、フィルタカートリッジとして着脱可能に構成することができる。また、カートリッジ化すれば、交換やメンテナンスが容易とされる。
【0036】
また、上記構成では空気浄化装置Sを天井裏空間3に設置したが、図2に示すように、クリーンルーム1の室内に設置することもできる。図2(a)の空気浄化装置Sでは、空気導入口71から直接クリーンルーム1内の空気を取り入れるように、空気導入口側に送風装置60を設けている。このように、室内設置型の空気浄化装置として構成すれば、既存のクリーンルームに設置して使用することができる。また、図2(b)に示すように、半導体や液晶、有機ELなどの製造装置4に、空気浄化装置S1を一体に組み込むこともできる。このように構成すると、半導体や液晶、有機ELなどのワークの近傍の空間に、常に浄化空気を供給することができる。
【0037】
(光触媒フィルタユニットの構成)
次に、本実施形態の光触媒フィルタユニットFについて説明する。この光触媒フィルタユニットFは、セラミック光触媒フィルタ20及び光源装置30を装着可能に構成され、必要に応じてプレフィルタ40やULPAフィルタ50をも装着可能とされ、これらを一体にユニット化して構成されている。
この光触媒フィルタユニットFの特徴は、後述するように、フィルタや光源ランプがトップパネルに装着され、このトップパネルを回動作動させることによりフィルタや光源ランプをユニット内から容易に取り出し可能に構成されており、これにより、フィルタや光源の交換及びメンテナンスを容易に行うことができることである。
この光触媒フィルタユニットFは、図3、図7に示すように、筒状のフレーム10の内部が浄化すべき空気の空気流路となるように空気出口2に取り付けられる。すなわち、空気出口2の天井裏空間3側に直接取り付けて使用される。
【0038】
本実施形態の光触媒フィルタユニットFは、概略筒状に形成されたフレーム10と、このフレーム10内に配設された2枚のセラミック光触媒フィルタ20と、このセラミック光触媒フィルタ20の間に配設された複数の光源ランプ31と、を主要構成とする。
図4〜図6に本実施形態の光触媒フィルタユニットFの構成を示す。図4(a)はフレーム10をトップパネル側から見た図であり、図4(b)は図4(a)のA−A断面図である。なお、図4において、取付枠13及び光源ランプ31は点線で示している。また、図5(a)は図4のフレーム10に取り付けられたセラミック光触媒フィルタ20及び光源ランプ31等をトップパネル側から見た図であり、図5(b)は図5(a)のB−B断面図である。なお、図5において、側面枠11は図示を省略しており、トップパネル12は点線で示している。また、図6は図5(b)の領域Cの拡大図である。
【0039】
フレーム10は、略矩形断面の短い筒体からなる側面枠11と、この側面枠11の一方の開口に一端側が蝶着されたトップパネル12と、側面枠11の内周に沿って固定された取付枠13と、を備えて構成されている。
トップパネル12は、図4に示すように、ヒンジ12aにより一端側を軸として側面枠11に対して回動可能に取り付けられており、側面枠11の開口に対面する閉鎖状態と対面しない開放状態とに変位される。また、このトップパネル12は、側面枠11の開口に対面する中央領域が大きく矩形状に開口されている。
【0040】
取付枠13は、トップパネル12の裏側に設けられており、トップパネル12の開口よりもやや大きい寸法の平板状のセラミック光触媒フィルタ20と、光源ランプ31等を着脱可能に構成されている。
取付枠13は、図5、図6に示すように、光源ランプ31を空気流路と交差するように取り付けるための枠状のランプ取付部13aと、セラミック光触媒フィルタ20を空気流路と交差するように着脱可能に取り付けるためのフィルタ取付部13bと、ランプ取付部13a及びフィルタ取付部13bをトップパネル12の裏側に固定するための取付部材13cと、を備えて構成されている。
【0041】
ランプ取付部13aは、例えば、図6(a)(b)に示すように、略コの字型断面を有する部材を、コの字型断面の開口側を対向させるようにして枠状に組み付けて構成することができる。コの字型断面部材の互いに対向するウェブ面には、その略中央に沿って、電極ソケット33がそれぞれ略等間隔に配設されている。そして、光源ランプ31は、図5に示すように、対向する位置にある電極ソケット33に両端部31aがそれぞれ接続されて支持される。本実施形態では、側面枠11の内部に、空気流路と交差するように、6本の光源ランプ31を略平行に設置することができる。
【0042】
フィルタ取付部13bは、例えば、図6(a)(b)に示すように、略コの字型断面のランプ取付部13aの両面のフランジ部に取り付けられた断面L字型部材を備え、この断面L字型部材とランプ取付部13aとの間にフィルタ枠14の外周側に設けられた突出部14aを挟んでビスやボルト等の取付部材で固定することにより構成されている。フィルタ枠14は、略コの字型断面を有し、その開口側の内法幅をセラミック光触媒フィルタ20の端部の厚さよりもやや大きく設定した部材を、開口側を対向させるようにして2本略平行に配設して構成されている。
【0043】
取付部材13cは、トップパネル12の開口から少し外周側の位置において、トップパネル12の裏面側に略垂直に延出されるように取り付けられており、トップパネル12を側面枠11の一方の開口に対面させて閉鎖状態としたときに、側面枠11の内周面から所定寸法離間された位置に収納されるように配設されている。上記のランプ取付部13aはこの取付部材13cの側面に固定されており、フィルタ取付部13bはランプ取付部13aを介して取付部材13cに固定されている。なお、取付部材13cの側面の裏側には光源ランプ31の配線や安定器32等が固定されており、取付部材13cと側面枠11との隙間に配線や安定器32等が収納される。
【0044】
このように構成すると、セラミック光触媒フィルタ20は、その両側端をフィルタ枠14にそれぞれはめこんでスライド移動させることにより、トップパネル12の裏側に、トップパネルと略平行に装着することができる。また、本例の構成では、フィルタ枠14はランプ取付部13aの両面にそれぞれ設けられている。従って、光源ランプ31を挟んで、2枚のセラミック光触媒フィルタ20を略平行に装着することができる。そして、セラミック光触媒フィルタ20を取り外すことにより間に挟まれた光源ランプ31を外部に露出させて電極ソケット33から着脱可能とし、光源ランプ31を交換することができる。
また、このように構成すると、セラミック光触媒フィルタ20は裏返して取り付けることができる。従って、片面側に汚れが付着した場合には、汚れが付着した面を光源ランプ31側を向くように取り付けて、光触媒反応により汚れを除去することができる。
【0045】
なお、図6(a)はセラミック光触媒フィルタ20と光源ランプ31をトップパネル12に装着した構成であるが、図6(b)に示すように、本実施形態では、トップパネル12とその下のセラミック光触媒フィルタ20との間にプレフィルタ40の端部の形状に合わせたフィルタ取り付け部が設けられており、ここにプレフィルタ40を装着することができる。そして、ULPAフィルタ50はトップパネル12とは分離され、側面枠11の内部の空気出口2との接続部にセットされている。また、本発明はこのような構成に限定されず、ULPAフィルタ50についてもトップパネル12に装着してもよい。すなわち、トップパネル12、プレフィルタ40、セラミック光触媒フィルタ20、光源ランプ31、セラミック光触媒フィルタ20、の次に、ULPAフィルタ50を装着可能に構成してもよい。
このように、プレフィルタ40やULPAフィルタ50を光触媒フィルタユニットFに一体に装着することにより、セラミック光触媒フィルタ20の近傍で塵や微粒子を捕獲することができる。また、光触媒フィルタユニットFとクリーンルームに接続される空気出口との間に、別途ULPAフィルタ50の取付部を設ける必要がない。また、トップパネル12の天井裏空間3側、あるいは天井裏空間3と空気循環路との間に、別途プレフィルタ40の取付部を設ける必要がない。従って、この光触媒フィルタユニットFを装着するだけでクリーンルームに清浄空気を供給することができる。
【0046】
以上のように、本実施形態では、セラミック光触媒フィルタ20、光源ランプ31がトップパネル12の裏面側に装着されており、また、必要に応じて、プレフィルタ40、ULPAフィルタ50もトップパネル12の裏面側に装着することができる。そして、このような構成により、フィルタや光源の交換及びメンテナンスは、以下のように行うことができる。
本実施形態では、トップパネル12を、各フィルタや光源を装着した状態で、ヒンジを中心とした回動作動により、側面枠11の開口に対面する閉鎖状態(図7(a))と対面しない開放状態(図7(b))とに変位させることができる。そして、閉鎖状態では、セラミック光触媒フィルタ20、光源ランプ31等が取り付けられた取付枠13は、側面枠11に囲まれた空間に収納されており、このとき、フィルタユニットを通過する空気が光触媒作用によって浄化される。一方、トップパネル12を側面枠11に対して回動させて側面枠11の開口を開放した開放状態では、セラミック光触媒フィルタ20、光源ランプ31等が取り付けられた取付枠13が、側面枠11に囲まれた空間から外部に取り出された状態となる。
【0047】
つまり、セラミック光触媒フィルタ20、光源ランプ31等を、トップパネル12を回動させるという容易な操作により、側面枠11の内部の空気流路から取付枠13ごと外部に取り出すことができる。そして、取付枠13ごと外部に取り出された状態において、上述したように、セラミック光触媒フィルタ20をフィルタ枠14にスライドさせて着脱する作業を容易に行うことができる。また、プレフィルタ40についても同様に着脱することができる。そしてまた、各フィルタを取り外すことにより、光源ランプ31が外部に露出された状態となり、光源ランプ31の交換・メンテナンスを容易に行うことができる。
なお、本実施形態ではULPAフィルタ50はトップパネル12と分離されて側面枠11の内部に配設されている。従って、ULPAフィルタ50の交換は、トップパネル12を回動させた状態で、側面枠11の内部の取り付け位置から取り外す作業を行うことになるが、上述のようにULPAフィルタ50についてもトップパネル12に装着するように構成し、取付枠13ごと外部に取り出して着脱することができる。
【0048】
また、本例の光触媒フィルタユニットFには、図4に示すように、一端がトップパネル12の側面枠11側の面に接続されると共に、他端が側面枠11の内周面に接続された伸縮可能なステー15が設けられている。
このステー15は、荷重を加えることにより屈曲または伸長され、伸縮可能とされているが、内部にダンパー機構が組み込まれているため、大きな荷重が加えられても、急激に伸縮されないように構成されている。そして、伸長された状態において、トップパネル12を所定の開き角度となる位置で支持することができる。
【0049】
本例では、トップパネル12を、セラミック光触媒フィルタ20、光源ランプ31等を取り付けた重量状態で回動させて各フィルタや光源ランプを外部に取り出し、交換する。従って、ステー15にダンパー機構が組み込まれていない場合には、トップパネル12が、その重量により、不意に回動作動開始したり、急激な速度で回動作動してしまう可能性があった。そこで、本例では、このような不都合を防止するために、ダンパー機構が組み込まれ、回動速度調節機能を有すると共に、トップパネル12を開放位置で保持することが可能なステー15を設けている。ステー15にダンパー機構が組み込まれていない場合には、トップパネル12が作業中に不意に回動作動開始したり、急激な速度で回動作動してしまい、交換作業を安全かつスムーズに行うことができないが、本例は、このような不都合を防止することが可能とされている。
【0050】
また、本例のトップパネル12には、側面枠11の開口に対面した状態から開き方向に回動させる際に引っ張って作動開始させるためのハンドル16が設けられている。このハンドル16は、通常はトップパネル12の表面に形成された凹部にトップパネル12の表面と面一となるように収納し、必要なときに引き出して使用することができるものである。
このように、本実施形態では、ステー15やハンドル16のように、メンテナンス作業をより容易にするための構成が設けられている。
【0051】
以上のように構成した光触媒フィルタユニットFを空気出口2の天井裏空間側に取り付ける際には、図3、図7に示すように、空気出口2側に更にULPAフィルタ50を配設し、天井裏空間側にプレフィルタ40を取り付けてもよい。また、光触媒フィルタユニットFに、ULPAフィルタ50及びプレフィルタ40を着脱可能に組み込んで、一体に構成することもできる。
【0052】
また、以上説明した各部材を組み立てる際に使用する材料として、有機性ガスなどのガス状汚染物質が発生されないシール部材、例えば無機素材パッキンやPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素樹脂パッキンを使用すると好適である。
【0053】
(セラミック光触媒フィルタの特性)
本例のセラミック光触媒フィルタ20は、アンモニアガスの吸着・分解を効率的に行うことが可能な特徴を有するものであり、酸化チタン等の光触媒が表面に担持されている。セラミック光触媒フィルタ20は、図8に示すような3次元網目構造を有しており、多孔質状のセラミックからなる基材層と、この基材層の表面に形成された酸化チタンを含む光触媒層を備えている。
【0054】
このセラミック光触媒フィルタ20は、酸化チタンを主成分とするコーティング材料を、3次元網目構造のセラミック多孔体からなる基材の表面に塗工し、乾燥し、焼成して製造される。これにより、酸化チタンを主成分とするトップコート(光触媒層)がセラミック多孔体の表面に形成されている。コーティング材料としては、通常、水に分散させたチタニアゾルやアルコキシドなどの有機チタン溶液からなるコーティング液などが使用される。
【0055】
具体的には、セラミック多孔体をコーティング液に浸漬することにより3次元網目構造の表面にコーティング剤を付着させ、その後1000℃以下の温度で乾燥し、1300〜1500℃の温度で焼成する。このとき、コーティング剤へのセラミック多孔体の浸漬と乾燥とを複数回繰り返した後焼成することにより、光触媒層の膜厚を厚くすることができ、光触媒の担持量を高めることができる。
なお、従来は、基材層と光触媒層との間にアルミナ(Al)からなる中間緩衝膜を同時焼成により形成することにより、酸化チタン微粒子をセラミック多孔体に密着性良く担持させ、光触媒層の剥離の問題を解消していたが、本例のセラミック光触媒フィルタ20では、後述するように、基材に主成分としてSiOを含み、トップコートにもSiOを含むこと、及び、基材中のAlを従来品よりも増加させたこと、等により、中間膜を形成しなくても酸化チタン微粒子をセラミック多孔体に密着性良く担持させることができる。
【0056】
光触媒層に含まれる酸化チタンは、活性の高いアナターゼ型酸化チタン微粒子が使用されている。酸化チタンは、紫外線が照射されるとOHラジカルなどの活性酸素を発生させる。そして、OHラジカルが有機物の分子結合を切断することにより、空気中の種々の化学物質を分解除去することができる。
【0057】
この光触媒反応は、より詳しくは、以下のような反応である。酸化チタンが紫外線を吸収すると、酸化チタンの内部に電子と正孔が生成して表面近くで拡散し反応する(光固体表面反応または光固体界面反応)。すなわち、電子はスーパーオキサイドアニオンになり、正孔は吸着水と反応してヒドロキシラジカルになる。そして、酸化チタン表面にガス状汚染物質がぶつかると、酸化反応を起こし、分解される。
このように、光触媒を用いたフィルタでは、光触媒反応によりガス状汚染物質を分解し除去するため、イオン交換フィルタのように飽和状態となってガス状汚染物質を吸着できなくなることはない。また、ガス状汚染物質は分解されるので、再放出されるということはない。
【0058】
そして、本例のセラミック光触媒フィルタ20によれば、アンモニアガスは、光触媒反応により、以下の酸化燃焼反応を起こして分解される。すなわち、
(1)4NH+5O→4NO+6H
(2)2NO+O→2NO
(3)3NO+HO→2HNO+NO
となり、ここで生成されたHNOは光触媒を用いたフィルタの表面で塩を形成し保持されるが、水洗等により除去することができる。また、(3)の過程で生成されたNOは、(2)の過程で再反応され、最終的に除去される。
従って、セラミック光触媒フィルタの定期的なメンテナンスは水洗のみとなり、ランニングコストを低くすることができる。なお、光触媒反応に必要な光源(ブラックライト)の交換コストを加味しても、少なくとも年一度程度の交換が必要な従来のイオン交換フィルタと比較して、コストを低下させることができる。
【0059】
基材層は、水洗可能であり、空隙率及び表面積が大きく、かつ、剛性の高い3次元網目構造のセラミック多孔体が使用されている。アンモニアなどのガス状汚染物質を光触媒により分解・除去する場合には、部分酸化物であるアセトアルデヒドや酢酸などが生成しないようにするために、ガス状汚染物質が二酸化炭素や水に完全に分解されるまで表面に保持する必要がある。従って、表面積の大きい多孔質の基材を使用するのが好ましい。また、表面積の増加により、反応効率も上昇される。また、通気抵抗を低くするため、空隙率の大きい基材を使用するのが好ましい。
【0060】
なお、セラミック多孔体を構成するセラミックは、一般的には、アルミナ、シリカ、コージェライト(2MgO・2Al・5SiO)等の酸化物セラミックのほか、炭化珪素、窒化珪素などの非酸化物セラミック等を使用することができ、また、これらの混合物を主成分として形成されたセラミックを使用することができる。
【0061】
ここで、本発明のセラミック光触媒フィルタ20の特徴的な構成について説明する。
本願出願人は、アンモニア分解・除去性能を向上させるためのセラミック光触媒フィルタ20の構成について研究を行い、基材層を形成するセラミック多孔体と、光触媒層を形成するトップコートの組成について種々検討した結果、光触媒反応によりアンモニアガスを効率よく除去するために、以下に説明する組成の基材およびトップコートを使用することに想到した。
表1に、本例と従来例の光触媒フィルタの構成の比較を示す。
【表1】

【0062】
表1の構成により、本例のセラミック光触媒フィルタ20は、以下の特徴を備える。
1.基材の特徴
本例の基材は、主成分としてSiO(SiO(約67%)−Al(約21%)−CaO、Fe、KO等(約12%))を用いており、従来品と異なる以下の特徴を備える。
(1)成分中にNa、Bを含まない
(2)成分中のAlを従来品よりも増加させる(従来品約12%→本例約21%)
(3)成分中のSiOの含有量を従来品よりも増加させる
2.トップコートの特徴
本例のトップコートは、主成分としてTiO及びSiOを用いており、従来品と異なる以下の特徴を備える。
(1)表面を弱酸性に処理する(pH:5以上7未満)
(2)成分中のSiOの含有量を従来品よりも増加させる
(3)成分中のTiOに対するSiOの成分比を従来品よりも増加させる(TiO:SiOが従来品は約9:1、本例は約8:2)
【0063】
以上の構成により、本例の光触媒フィルタでは、次のような特性が得られる。
(1)トップコートの成分中のSiO成分の増加等により、トップコートの表面が弱酸性に処理され、塩基性ガスの吸着サイトが増加される。光触媒反応は表面に吸着された物質を光触媒(酸化チタン等)の酸化分解力で分解する。この時、表面の吸着サイトがほぼ飽和した状態(吸着平衡が保たれた状態)で分解反応が進行するが、反応速度を向上させるには吸着サイトに空きを持たせることが必要不可欠となる。すなわち、SiO成分の増加により吸着サイトが増加され、アンモニアガスの吸着・除去効率が向上される。
(2)焼成温度をコントロールすることにより、結晶の径がランダムとなるように配列させている。これにより、トップコートの表面が弱酸性にシフトしたことによる酸性ガスへの性能低下が抑えられる。
(3)基材及びトップコートの成分中のSiO成分の含有量を増加させることにより、トップコートと基材との密着効果が向上される。これにより、トップコートの基材からの脱落がより発生しにくくなり、フィルタ本体からの発塵が抑制される。
(4)基材成分中にNa(ナトリウム)、B(ホウ素)成分を含まないので、酸化チタンとNa成分が反応して光触媒活性を有さない化合物に変化してしまうことがない。また、基材成分中のホウ素に由来する酸性ガス等の汚染ガスが発生することがない。
(5)外観的特徴としては、トップコートの成分中のSiO成分の増加等が反映され、従来品のようなねずみ色ではなく白色となっている。従って従来品との識別が容易である。
【0064】
また、本例の光触媒フィルタを構成する基材が有するその他の特色について述べる。
(a)セラミック質の3次元網目構造の多孔体からなる多孔質基材は、表面がポーラスで表面積が大きいため、担持させる酸化チタン量を自在にコントロールできる。
(b)触媒被毒の堆積により性能が劣化しても、水洗浄により機能を復帰させることができる。また、有機物質が表面に体積しても、加熱処理によって除去することができる。
(c)セラミック質の基材は不燃性であるため、光源ランプとの距離を近づけることができる。
(d)空孔率が80〜90%と非常に高く通気抵抗が極めて小さい。
(e)多孔質基材の骨格がアトランダムに存在するため、流体との接触効率が良い。
【0065】
本願出願人は、上記の特徴を有する光触媒フィルタがアンモニアガスの分解・除去に対して有効であることを確認するために試験を行った。以下、その内容及び結果について説明する。
(実験内容)
光触媒フィルタユニットFを搭載した試験機(光環境浄化装置SSC−50E)をステンレス製の密閉試験室(容積:30m)に設置し、この密閉試験室に処理対象のガスを注入して試験対象空気を調整し、試験機の循環送風運転(処理風量4m/min)を開始し、経過時間ごとに試験対象空気を採取して残留ガス濃度を測定器(1312型マルチガスモニター)で測定して濃度推移を確認し、分解除去率を求めた。本試験では、一定濃度(初期濃度15ppm)のアンモニアガスを含む試験対象空気を調整して密閉試験室に注入した。
【0066】
図9に試験結果を示す。比較対照として、従来品のアンモニア特化型でない光触媒フィルタを試験機に搭載して同一条件で行った試験結果を示す。この図から、本例の光触媒フィルタ(図9におけるアンモニア特化型フィルタ)を用いた場合には、従来品(図9における標準型フィルタ)と比較してアンモニアが急速に除去されることが確認される。特に、従来品は1ppmを割ってからの低濃度領域において除去速度が低下してしまうが、本例の光触媒フィルタでは低濃度領域でも除去速度が低下されず、反応が停止することもない。
以上のように、本例の光触媒フィルタのアンモニア分解・除去性能が確認された。
【0067】
(改変例)
以上に説明した実施形態は、以下の(a)〜(d)のように改変することもできる。
(a) 光源ランプ31の光によって照射される筐体70、フレーム10、取付枠13等の表面にも、光触媒として酸化チタンの薄膜をコーティングしてもよい。これにより、筐体70、フレーム10、取付枠13等の表面にガス成分やカビ等が付着した場合に、これらを分解することができる。
(b) 上記実施形態の光触媒フィルタユニットは、室内置き型の空気清浄機や、空気調和機、換気ダクト等に設置されるフィルタユニットとして適用することができる。
(c) 上記実施形態では、光触媒として代表的な酸化チタンを用いた。しかし、これに限らず、酸化チタン以外の光触媒を用いたものであってもよい。例えば、ガリウムリンや、ガリウム砒素や、硫化カドミウム、炭酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化タングステン等を用いてもよい。この場合、光源を適宜変更して、光触媒反応が効率的に行われるような波長の光を発するものを用いる。
(d) 上記実施形態では、光源ランプとしてブラックライトを用いたが、光源はこれに限定されるものではない。光源ランプは、光触媒の光吸収の波長を持つものであれば良く、周知の光源が適宜選択できる。すなわち、可視光線又は紫外線を放射するものが使用できるが、光触媒反応による汚染物質の分解効率(分解処理速度)の点からは、紫外線を放射するものが好ましい。紫外線用の光源としては、例えば水銀灯、水素放電管、ライマン放電管、キセノン放電管などをその光吸収域により適宜使用することができる。ケミカルライト、発光ダイオードを光源とすることもできる。また、太陽光を導入して光源として用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本実施形態の光触媒フィルタを用いた空気浄化装置及びクリーンルームの構成を示す説明図である。
【図2】本実施形態の光触媒フィルタを用いた空気浄化装置及びクリーンルームの構成を示す説明図である。
【図3】本実施形態の光触媒フィルタユニットを設置したクリーンルームの構成を示す説明図である。
【図4】本実施形態の光触媒フィルタユニットの構成を示す説明図である。
【図5】本実施形態の光触媒フィルタユニットの構成を示す説明図である。
【図6】本実施形態の光触媒フィルタユニットの構成を示す説明図である。
【図7】本実施形態の光触媒フィルタユニットの使用状態を示す説明図である。
【図8】本実施形態のセラミック光触媒フィルタの構成を示す説明図である。
【図9】アンモニア除去性能確認試験の結果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
1 クリーンルーム
2 空気出口
3 天井裏空間
4 製造装置
10 フレーム
11 側面枠
12 トップパネル
12a ヒンジ
13 取付枠
13a ランプ取付部
13b フィルタ取付部
13c 取付部材
14 フィルタ枠
14a 突出部
15 ステー
16 ハンドル
20 セラミック光触媒フィルタ
30 光源装置
31 光源ランプ
31a 両端部
32 安定器
33 電極ソケット
40 プレフィルタ
50 ULPAフィルタ
60 送風装置
70 筐体
71 空気導入口
72 空気供給口
C1,C2 空気循環路
F 光触媒フィルタユニット
R 浄化空間
S,S1 空気浄化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元網目構造を有するセラミック基材層と、該セラミック基材層の表面に形成された光触媒層と、を備え、
前記セラミック基材層は、SiOを主成分とし、かつ、Alを約21重量%含んで形成され、
前記光触媒層は、TiOを主成分とし、かつ、SiOを含むと共に、前記光触媒層中におけるTiOに対するSiOの重量比率が約8:2とされ、前記光触媒層の表面が弱酸性に調整されてなることを特徴とする光触媒フィルタ。
【請求項2】
前記光触媒層は、表面のpHが5以上7未満であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒フィルタ。
【請求項3】
前記セラミック基材層及び前記光触媒層は、Na及びBを含まないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光触媒フィルタ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の光触媒フィルタと、
該光触媒フィルタに隣接して配設される光源と、を備え、
前記光源は、光触媒反応を誘起する処理光を前記光触媒フィルタに照射することを特徴とする光触媒フィルタユニット。
【請求項5】
筒状に形成された空気流路を有する筐体と、
該筐体に一端が回動可能に接続され、前記空気流路の一端に対面する交差状態と対面しない開放状態とに変位可能に構成され、前記交差状態において前記空気流路と対面する位置に形成された開口を有する平板状のトップパネルと、を備え、
前記トップパネルには、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の光触媒フィルタが着脱可能に設けられ、かつ、該光触媒フィルタパネルに隣接する位置に、光触媒反応を誘起する処理光を照射する光源が設置されてなることを特徴とする光触媒フィルタユニット。
【請求項6】
前記光触媒フィルタは平板状に形成され、前記空気流路を通過する空気の流れに交差するように配設され、かつ、前記光源を挟んで対峙するように2層に配設されたことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の光触媒フィルタユニット。
【請求項7】
前記光触媒フィルタを通過する空気の流れの上流側に配設されたプレフィルタと、
前記光触媒フィルタを通過する空気の流れの下流側に配設された微粒子捕捉フィルタと、が設けられたことを特徴とする請求項6に記載の光触媒フィルタユニット。
【請求項8】
空気を取り入れるための空気導入口を備え、
前記空気導入口には、請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の光触媒フィルタユニットが配設されたことを特徴とするクリーンルーム。
【請求項9】
半導体、液晶、有機ELの少なくともいずれかの製造工程を行うことを特徴とする請求項8に記載のクリーンルーム。
【請求項10】
クリーンルーム内から取り入れた空気を通過させる空気流路を備え、
前記空気流路には、請求項4に記載の光触媒フィルタユニットと、前記光触媒フィルタユニットを通過する空気の流れの上流側に配設されたプレフィルタと、前記光触媒フィルタユニットを通過する空気の流れの下流側に配設された微粒子捕捉フィルタと、を備えて構成され、クリーンルーム内に設置されたことを特徴とする空気浄化装置。
【請求項11】
前記クリーンルームは、半導体、液晶、有機ELの少なくともいずれかの製造工程を行うことを特徴とする請求項10に記載の空気浄化装置。
【請求項12】
請求項10に記載の空気浄化装置を備え、半導体、液晶、有機ELの少なくともいずれかの製造工程を行うことを特徴とする製造装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の光触媒フィルタに、酸性ガス,塩基性ガス,有機性ガスの少なくともいずれかを含む汚染空気を接触させ、前記光触媒フィルタの表面に前記汚染空気に含まれる汚染物質を吸着させる工程と、
前記光触媒フィルタの表面に光触媒反応を誘起する処理光を照射して前記汚染物質を分解除去する工程と、
前記光触媒フィルタの表面に堆積した触媒被毒成分を水洗により除去する工程と、を行うことを特徴とする空気浄化方法。
【請求項14】
前記汚染物質はアンモニアを含むことを特徴とする請求項13に記載の空気浄化方法。
【請求項15】
前記汚染物質は、酸素,塩素,硫酸,硝酸,燐酸,アミン,水酸化アンモニウム,の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項13または請求項14に記載の空気浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−255529(P2006−255529A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73592(P2005−73592)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(391056114)盛和工業株式会社 (3)
【出願人】(504281994)プラネット株式会社 (3)
【Fターム(参考)】