説明

光触媒塗膜形成用コーティング剤、及び光触媒塗膜形成方法

【課題】可視光及び微弱な紫外光の下で光触媒活性を示し、耐久性が高い光触媒塗膜、光触媒塗膜の形成に用いられるコーティング剤、及び光触媒塗膜形成方法を提供すること。
【解決手段】まず、鱗片状の酸化チタン微粒子5と、含硫黄化合物と、バインダーとしてのチタンアルコキシド7と、を含むコーティング剤を調製する。次に、そのコーティング剤を基材3の表面にスピンコート法により塗布、乾燥し、400〜600℃の温度に加熱することで、光触媒塗膜1を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ガラス、プラスチック、金属、セラミックス等から成る部材の表面に光触媒塗膜を形成することができるコーティング剤、光触媒塗膜、及び光触媒塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン光触媒は、そのバンドギャップに相当するエネルギー(紫外光)を吸収し、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、価電子帯には電子の抜け殻である正孔(ホール:h+)が、伝導帯には電子(e-)が生じる。この電子とホールは酸化チタン表面の水や酸素と反応して極めて強い酸化力を有するラジカルを生成し、そのラジカルは汚れやバクテリアを構成するほとんど全ての有機物を分解することができる。また、酸化チタンの表面は、紫外光照射によって高度に親水化した光誘起超親水性を示すことから、光によって汚れを分解し、且つ水で汚れを洗い流して常に清浄な表面を保つセルフクリーニング材料として実用化されている。
酸化チタン光触媒は、一般的には、基材の表面に塗膜として形成されるが、その形成方法としては、バインダー成分を含む光触媒粒子の懸濁液をコーティングし、乾燥させる方法がある。バインダーは塗装される基材の種類によって選択され、シリカやケイ酸塩などの無機系バインダー、或いはシリコーン樹脂やフッ素樹脂などの酸化チタンの光触媒反応に侵されにくい有機系バインダーが利用されている。
従来の酸化チタン光触媒の課題としては、
(1)強い紫外光の下では光触媒活性が発現するものの、可視光領域の光や、屋内や室内蛍光灯レベルの微弱な紫外光では十分な光触媒活性を示さない。
(2)塗膜と基材との十分な密着強度、および塗膜の十分な硬度が得られず、適用範囲が限られる。例えば、洗車機にかけることが前提となる車両用の窓ガラス等には適用できない。
というものがある。
【0003】
上記(1)の課題に関し、酸化チタンに窒素を微量ドーピングすることで、可視光領域での吸収が得られるようになり、条件を最適化すれば、可視光のみで親水化反応を進めることができる技術が開示されている(特許文献1参照)。また、上記(2)の課題に関し、酸化チタンゾルと安定化チタンアルコキシドとを含有して成る酸化チタン薄膜形成用組成物をガラスに塗布し、350〜700℃で焼成することで、機械的耐久性を高める技術が開示されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−988号公報
【特許文献2】特開平9−248467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術は、ドーピングにより構造中に歪を導入することが避けられず、結果として可視光領域での反応性を付与できるものの、微弱な紫外光に対する感度は得られなくなる。また、特許文献2の技術で報告されている機械的耐久性は、JIS−K5400で規定される鉛筆引っかき試験において7Hに過ぎず、車両用等の用途に適用できる耐久性を有していない。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、可視光及び微弱な紫外光の下で光触媒活性を示し、耐久性が高い光触媒塗膜、光触媒塗膜の形成に用いられるコーティング剤、及び光触媒塗膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)請求項1の発明は、
鱗片状の酸化チタン微粒子と、
含硫黄化合物と、
を含むコーティング剤を要旨とする。
【0007】
本発明のコーティング剤を塗布することによって形成した塗膜は、可視光及び微弱な紫外光で光触媒活性を有する。
また、本発明のコーティング剤を塗布することによって形成した塗膜は、図1に示すように、塗膜1の中で、鱗片状(シート状)の酸化チタン粒子5が一定の配向性をもって積層した微細構造を有し、平滑性が高い。そのため、高い平滑性と密着性を持つ塗膜を形成できる。そして、塗膜の平滑性が高いことにより、塗膜の表面積が小さくなり、塗膜への汚染物質の付着量が少なくなる。そして、たとえ汚れが塗膜の表面に付着しても酸化チタンの光触媒活性および超親水性により汚れの分解・除去が可能である。更に、塗膜硬度も高い。
【0008】
また、本発明のコーティング剤を塗布することにより形成した塗膜は、鱗片状の酸化チタン粒子が一定の配向性をもって積層した微細構造を有しているので、球状の酸化チタン粒子が分散した構造に比べて、塗膜を超薄膜化することが可能である。
【0009】
更に、本発明では、酸化チタンが薄く広げられたシート状(鱗片状)であるので、酸化チタンの単位体積あたりの表面積が大きい。そのため、本発明のコーティング剤を用いて形成された塗膜では、基材(コーティング剤を塗布する対象)と酸化チタンとの接触面積が大きく、塗膜の密着性が高い。
【0010】
また、本発明のコーティング剤は、スピンコート法などにより、簡便に広い面積にわたって塗膜を形成することができる。
また、本発明のコーティング剤を用いて形成した塗膜は、超親水性を示すので、その表面に水が付着しても水滴となりにくい。そのため、防曇性において優れている。
【0011】
前記鱗片状の酸化チタン微粒子の大きさは0.1〜20μmの範囲が好適であり、その厚みは0.3〜3nmの範囲が好適であり、更に望ましくは0.5〜1nmの範囲が好適である。また、鱗片状の酸化チタン微粒子におけるアスペクト比は100〜5000の範囲が好適である。前記鱗片状の酸化チタン微粒子としては、例えば、層状のチタン酸塩が単層まで剥離したシート状の粒子が挙げられる。コーティング剤に占める鱗片状の酸化チタン微粒子の割合は、0.1〜10重量%の範囲が好適である。
【0012】
本発明のコーティング剤に含まれる溶媒としては、例えば、エステル類、ケトン類、アルコール類等があり、具体的には、酢酸エチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられ、特にアルコール類が好ましい。
【0013】
前記含硫黄化合物は、硫黄を含む化合物が広く該当し、例えば、チオエーテル類、チオ尿素類、チオアミド類、チオアルコール類、チオアルデヒド類、チアジル類、メルカプタール類、チオール類、チオシアン酸塩類等があり、具体的な化合物としては、チオフェノール、チオフェン、ベンゾチオフェン、チオベンゾフェン、ジベンゾチオフェン、ビチオフェン、フェノチアジン、スルホラン、チアジン、チアゾール、チアジアゾール、チアゾ
リン、チアゾリジン、チアントレン、チアン、チオアセトアニリド、チオアセトアミド、チオベンズアミド、チオアニソール、チオニン、メチルチオール、チオエーテル、チオシアン、チオ尿素等が挙げられ、特に、酸素を含まず硫黄、窒素、及び炭素を有する化合物(例えばチオ尿素)が好ましい。
【0014】
本発明のコーティング剤は、バインダーを配合することができる(図1における7参照)。このバインダーとしては、例えば、アセチルアセトンで安定化させたチタンアルコキシド(例えば、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、チタン(IV)エトキシド、チタンテトラ(IV)ブトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)n−プロポキシド、チタン(IV)メトキシド等)、テトラアルコキシシランから調製される酸化ケイ素のゾル、チタンテトラアルコキシドから調製される酸化チタンのゾル等が挙げられる。
【0015】
これらのバインダーを含有することにより、鱗片状の酸化チタン微粒子と基材との密着性を高めることができ、樹脂バインダーを含有する場合に比べて、化学的安定性や物理的安定性において優れている。また、これらのバインダーを含有する場合は、樹脂バインダーを含む場合とは異なり、低い焼成温度下でも、無機物質を主成分とする(あるいは無機物質の組成のみから成る)塗膜を形成することができる。そのため、熱に弱い樹脂等にも硬い塗膜を形成することができる。
【0016】
コーティング剤全量に対するチタンアルコキシドの重量比は、1〜90(好ましくは5〜90)重量%の範囲が好適である。5重量%以上であることにより、非常に硬い塗膜を形成することができる。また、90重量%以下であることにより光触媒活性と平滑性の点で有利である。コーティング剤全量に対する酸化ケイ素の重量比は、1〜50重量%の範囲が好適である。5重量%以上であることにより、非常に硬い塗膜を形成することができる。また、25重量%以下であることにより光触媒活性と平滑性の点で有利である。コーティング剤全量に対する酸化チタンゾルの重量比は、5〜50重量%の範囲が好適である。20重量%以上であることにより、膜硬度の点で有利である。また、40重量%以下であることにより平滑性の点で有利である。
【0017】
尚、本発明のコーティング剤は、板状のナノシートを用いることにより、球状の酸化チタン微粒子を用いる場合に比べて、バインダーの割合が少なくても硬い塗膜を形成することができる。つまり、従来のコーティング剤では、通常、バインダーを50重量%ほど配合していたが、本発明では、上述した含有量でよいため、非常に硬い塗膜を形成することができる。
【0018】
本発明のコーティング剤は、例えば、溶媒に含硫黄化合物、バインダー、ポリエチレングリコールを加えて完全な一液溶液になるまで撹拌し、次に、薄片状の酸化チタン粒子(チタニアナノシート)を分散させた溶液を所定の割合で加えて混合するという方法で製造できる。このとき、必ずしもポリエチレングリコールを加える必要はない。ポリエチレングリコールを加える場合は、コーティング剤に対して20重量%を超えない範囲が好ましく、15〜18重量%の範囲が特に好ましい。加えるチオ尿素のモル量は、薄片状の酸化チタン粒子(チタニアナノシート)とバインダーの総モル量に対して4倍を超えない範囲が好ましい。
(2)請求項2の発明は、
前記含硫黄化合物がチオ尿素であることを特徴とする請求項1記載のコーティング剤を要旨とする。
【0019】
本発明のコーティング剤を塗布することによって形成した塗膜は、可視光及び微弱な紫外光の下で、一層高い光触媒活性を有する。
(3)請求項3の発明は、
請求項1又は2に記載のコーティング剤を塗布する塗布工程と、
塗布された前記コーティング剤を乾燥させる乾燥工程と、を有することを特徴とする光触媒塗膜の形成方法を要旨とする。
【0020】
本発明で得られた光触媒塗膜は、可視光及び微弱な紫外光で、一層高い光触媒活性を有する。また、本発明で得られた光触媒塗膜は、球状微粒子の酸化チタンを分散して成るコーティング剤を用いる場合と比べて、高い平滑性と密着性を持つ。そのため、そもそも汚れが付着しにくい防汚性を有しており、たとえ汚れが付着しても酸化チタンの光触媒活性および超親水性により分解・除去が可能である。
【0021】
更に、本発明では、酸化チタンが薄く広げられたシート状であるので、酸化チタンの単位体積あたりの表面積が大きい。そのため、本発明で形成された光触媒塗膜では、基板と酸化チタンとの接触面積が大きく、光触媒塗膜の密着性が高い。
【0022】
前記塗布工程においてコーティング剤を塗布する方法としては、例えば、スピンコート、プレートコート、ディップコート、スプレーコートなど、一般的にウェット法に用いられるコーティング手法が利用できる。そして、コーティングした後、乾燥し、焼成を行う。
(4)請求項4の発明は、
前記乾燥工程において400〜600℃の温度に加熱することを特徴とする請求項3に記載の光触媒塗膜の形成方法を要旨とする。
【0023】
本発明では、上記の温度で加熱することにより、形成された光触媒塗膜の、可視光及び微弱な紫外光の下での光触媒活性が一層高くなる。
また、本発明では、乾燥工程において加熱を行うことにより、乾燥に要する時間を短縮でき、形成される塗膜の硬度を向上させることができる。加熱時間は30秒〜4時間の範囲が好適であり、特に30分〜3時間の範囲が好ましい。
(5)請求項5の発明は、
請求項3又は4に記載の光触媒塗膜の形成方法によって形成される光触媒塗膜を要旨とする。
【0024】
本発明の光触媒塗膜は、可視光及び微弱な紫外光で光触媒活性を有する。また、本発明の光触媒塗膜では、酸化チタンが薄く広げられたシート状(鱗片状)であるので、酸化チタンの単位体積あたりの表面積が大きい。そのため、基材と酸化チタンとの接触面積が大きく、光触媒塗膜の密着性が高い。また、酸化チタンと汚染物質との接触面積も大きくなるので、汚れの分解・除去の能力も高い。また、本発明の光触媒塗膜は、超親水性を示すので、その表面に水が付着しても水滴となりにくい。そのため、防曇性において優れている。
(6)請求項6の発明は、
前記鱗片状の酸化チタン微粒子が一定の配向性をもって積層した微細構造を有することを特徴とする請求項5に記載の光触媒塗膜を要旨とする。
【0025】
本発明の光触媒塗膜は、鱗片状の酸化チタン粒子が一定の配向性をもって積層した微細構造を有し、平滑性が高い。そのため、汚れが付着しにくい防汚性を有しており、たとえ汚れが付着しても酸化チタンの光触媒活性および超親水性により分解・除去が可能である。更に、塗膜硬度も高い。
【0026】
また、本発明の光触媒塗膜は、上記の微細構造を有しているので、球状の酸化チタン粒
子が分散した構造に比べて、膜厚を超薄膜可することが可能である。
(7)請求項7の発明は、
基材と、当該基材の表面に形成された請求項5又は6記載の光触媒塗膜とを有する光触媒塗膜具有製品を要旨とする。
本発明の光触媒塗膜具有製品は、請求項5又は6記載の光触媒塗膜を備えることにより、可視光及び微弱な紫外光で光触媒活性を有する。また、本発明の光触媒塗膜具有製品は、その表面の平滑性、防汚性が高く、たとえ汚れが付着しても酸化チタンの光触媒活性および超親水性により分解・除去が可能である。また、本発明の光触媒塗膜具有製品は、光触媒塗膜と基材との密着性が高く、また、光触媒塗膜が超親水性を示すので、その表面に水が付着しても水滴となりにくく、防曇性において優れている。
本発明において適用できる基材としては、酸化チタンがアナターゼに結晶化するために必要な焼成に耐えられる物質から成るものが好ましく、例えばガラス、金属、セラミックス、耐熱性高分子(例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、珪素系高分子、フェノール樹脂等)などが挙げられる。また、例えば、光触媒塗膜の形成にディッピングなどの方法を用いれば、基材の形状に関する制約はない。
【0027】
本発明の光触媒塗膜具有製品としては、例えば、基体がガラスであるガラス製品、基体が金属である金属製品、基体がセラミックスであるセラミックス製品、基体が耐熱性プラスチックである耐熱性プラスチック製品等が挙げられる。上記ガラス製品の例としては、例えば、自動車用ガラス、鉄道車両用ガラス、建材用ガラス、光学ガラス、照明用ガラス、鏡面用ガラス、ショーケース、食品保存用ガラス容器、太陽電池カバーガラス、水槽用ガラス等が挙げられる。上記金属製品の例としては、例えば、門扉、鉄柵、鉄道車両無塗装外板、航空機外板、アルミホイール、アルミ建材、ステンレス建材等が挙げられる。上記セラミックス製品の例としては、例えば、碍子、タイル、食器、衛生用品、瓦等が挙げられる。上記耐熱性プラスチック製品の例としては、例えば、自動車部品用プラスチック、加熱調理器具用樹脂部品、高出力モーター用カバー、絶縁用樹脂部品等が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明を実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0029】
a)チタニアナノシートの製造
炭酸セシウム、酸化チタンをモル比1:5.3の割合で混合し、800℃、20時間の焼成を2回行った。生成したチタン酸セシウムを希塩酸中で撹拌、ろ過、乾燥するという一連の処理を4回繰り返し、セシウムイオンを水素イオンに置き換えた層状チタン酸を得た。これに、テトラブチルアンモニウム塩酸塩水溶液を加え、14日間撹拌してチタニアナノシートを調製した。
【0030】
b)コーティング剤の調製
チオ尿素3.05gを量りとり、エタノール100mlへ入れて超音波洗浄機で10分間、マグネティックスターラーで30分間それぞれ撹拌してチオ尿素を完全に溶解し、0.4Mのチオ尿素エタノール溶液とした。このチオ尿素エタノール溶液11.5ml、ポリエチレングリコール3.4ml、予めアセチルアセトンで安定化させたチタンアルコキシド3.33ml、及び前記a)で製造したチタニアナノシートを分散させたエタノール溶液(チタニアナノシートの濃度1重量%)5mlを、それぞれ量りとり、ビーカーに入れてマグネティックスターラーで30分間撹拌してコーティング溶液を調製した。
【0031】
c)光触媒塗膜の形成
前記b)で調製したコーティング溶液を、予め洗浄しておいたパイレックス(登録商標)ガラス上にスピンコート法(1000rpm、20秒)で塗布、乾燥してから、450
℃で3時間焼成することで、光触媒塗膜を形成した。
(比較例1)
エタノール溶液11.5ml、ポリエチレングリコール3.4ml、予めアセチルアセトンで安定化させたチタンアルコキシド65μl、及び前記実施例1のa)で製造したチタニアナノシートを分散させた溶液(チタニアナノシートの濃度1重量%)5mlをそれぞれ量りとり、ビーカーに入れてマグネティックスターラーで30分間撹拌してコーティング溶液を調製した。その後、予め洗浄しておいたパイレックス(登録商標)ガラス上にコーティング溶液をスピンコート法(1000rpm、20秒)で塗布、乾燥してから、450℃で3時間焼成することで、光触媒塗膜を形成した。
(比較例2)
市販されている、高温焼付けゾル・ゲルタイプの光触媒コーティング剤(日本曹達(株)
ビストレイターH 光触媒コーティング NDH−510C)をパイレックス(登録商標)ガラス上にスピンコート法(1000rpm、20秒)で塗布、乾燥してから、450℃で3時間焼成することで、光触媒塗膜を形成した。
(効果を確かめるための試験)
(i)可視光吸収特性
実施例1、及び比較例1で製造した光触媒塗膜の可視光吸収特性を紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製:U−3310)にて測定した。その結果を図2に示す。図2から明らかなとおり、実施例1で製造した光触媒塗膜は、比較例1で製造した光触媒塗膜に比べて可視光領域での吸収が遙かに高い。この結果は、実施例1で製造した光触媒塗膜が可視光領域で光触媒活性を有することを裏付けている。
(ii) 光触媒塗膜の硬度
実施例1、及び比較例2で製造した光触媒塗膜の塗膜硬度を、「JIS−K5400」における鉛筆引っかき試験の方法に準じて測定した。その結果、実施例1で製造した光触媒塗膜の塗膜硬度は9H以上であり、非常に高かった。一方、比較例2で製造した光触媒塗膜の塗膜硬度は6Bであった。
(iii)塗膜の平滑度
実施例1、及び比較例2で製造した光触媒塗膜の表面を、走査型プローブ顕微鏡(日本電子(株)製:JSPM−5200)を用いて測定した。測定条件は、タッピングモードとした。実施例1で製造した光触媒塗膜の表面観察画像を図3(a)に示し、比較例2で製造した光触媒塗膜の表面観察画像を図3(b)に示す。図3(a)から明らかなとおり、実施例1で製造した光触媒塗膜は非常に緻密で平滑となっており、表面粗さRaは2.1mmであった。一方、図3(b)から明らかなとおり、比較例2で製造した光触媒塗膜の表面は凹凸が大きくなっており、表面粗さは9.2nmであった。
(iv)防汚性
汚れのモデル物質であるメチレンブルー水溶液(濃度が0.01M)を調製し、このメチレンブルー水溶液に、実施例1で光触媒塗膜を形成したガラス片、及び比較例2で光触媒塗膜を形成したガラス片をそれぞれ12時間浸漬した。引き上げたガラス片を水洗したのち、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製:U−3310)にて光触媒塗膜に付着したメチレンブルーの吸収スペクトルを測定した。その結果を図4に示す。
図4から明らかなとおり、実施例1で製造した光触媒塗膜は、比較例2で製造した光触媒塗膜よりも吸収スペクトルのピークが小さい。このことから、実施例1で製造した光触媒塗膜は、焼成することによって非常に緻密で平滑な塗膜となっており、メチレンブルーが塗膜内部に侵入し難く、且つ付着し難いことが分かる。
(v)微弱な紫外光照射時の光誘起親水性
実施例1、及び比較例1で製造した光触媒塗膜のそれぞれについて、室内蛍光灯レベル
に近い5μW/cm2の強度で所定時間紫外光照射を行い、その直後に接触角計(dataphysics社製:OCA15plus)を用いて水の接触角を測定した。測定は、照射時間を変えながら、繰り返し行った。その結果を図5に示す。図5から明らかなとおり、実施例1で製造した光触媒塗膜は、照射10分で接触角が10度以下となるまで親水化し、照射20分では、接触角が0度である超親水性状態を示した。一方、比較例1で製造した光触媒塗膜は、照射100分後でも接触角が10度以上であった。
(vi)可視光照射時の光誘起親水性
次に、前記(v)の実験方法を基本としつつ、光源を蛍光灯とし、また、420nm以下の波長をカットするフィルターを光源に装着して試験を行った。その結果を図6に示す。図6から明らかなとおり、実施例1で製造した光触媒塗膜は、照射10時間で接触角が10度付近となるまで親水化し、照射35時間後に接触角が10度以下となった。一方、比較例1で製造した光触媒塗膜は、照射35時間後でも、接触角が45度以上であり、ほとんど親水化しなかった。
【0032】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】コーティング剤を用いて形成された塗膜の構成を表す断面図である。
【図2】光触媒塗膜の可視光吸収特性を表すグラフである。
【図3】光触媒塗膜の表面形状を表す走査型プローブ顕微鏡の観察画像である。
【図4】光触媒塗膜の表面に付着したメチレンブルーの吸光度スペクトルを表すグラフである。
【図5】微弱紫外光照射後における光触媒塗膜の表面での水の接触角変化を表すグラフである。
【図6】可視光照射後における光触媒塗膜の表面での水の接触角変化を表すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1・・光触媒塗膜 3・・・基板 5・・・シート状酸化チタン
7・・・バインダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状の酸化チタン微粒子と、
含硫黄化合物と、
を含むコーティング剤。
【請求項2】
前記含硫黄化合物がチオ尿素であることを特徴とする請求項1記載のコーティング剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコーティング剤を塗布する塗布工程と、
塗布された前記コーティング剤を乾燥させる乾燥工程と、を有することを特徴とする光触媒塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記乾燥工程において400〜600℃の温度に加熱することを特徴とする請求項3に記載の光触媒塗膜の形成方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の光触媒塗膜の形成方法によって形成される光触媒塗膜。
【請求項6】
前記鱗片状の酸化チタン微粒子が一定の配向性をもって積層した微細構造を有することを特徴とする請求項5に記載の光触媒塗膜。
【請求項7】
基材と、当該基材の表面に形成された請求項5又は6記載の光触媒塗膜とを有する光触媒塗膜具有製品。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−222842(P2008−222842A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62172(P2007−62172)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】