説明

光触媒膜付きガラス施工体および光触媒膜付きガラス施工体を用いた構築構造体

【課題】シリコーン系シーリング材から遊離した低分子シロキサン等によるガラス等の基材表面の汚染を長期間防止し、透明性を維持でき、光触媒膜の親水性等の諸特性が劣化しない自己流出性の層を有する光触媒膜を含む積層膜付きガラスおよびその製造方法の提供。
【解決手段】光触媒膜付きガラスとシーリング材からなる光触媒膜付きガラスとして、光触媒膜のメチレンブルー分解性が、0.08(Abs)以上で、かつ、シーリング材から溶出する低分子シロキサン量が、100ppm未満である、光触媒膜付き基材を用いた光触媒膜付きガラス施工体と提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒膜付きガラス施工体および光触媒膜付きガラス施工体を用いた構築構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建材周辺部にシール材として使用されるシリコーン系シーリング材から遊離した
低分子シロキサンによるガラス施工体表面の汚染が問題となっている。この汚染は、シリコーン系シーリング材中に存在する未反応の低分子シロキサンが遊離し空気や雨水を介してガラス施工体上に拡散することにより、ガラス施工体表面が撥水性となり、疎水性の汚染物質が付着しやすくなることにより生じると考えられる(例えば、非特許文献1参照。)。特に、ガラス施工体は透明であることが多いため、美観を損ねるだけでなく、この汚染により透明性が低下し、視認性が悪化する問題がある。
【0003】
一方、ガラス施工体表面に付着した汚れを分解し、ガラス施工体本来の透明性を復活させる方法として、ガラス施工体上に光触媒膜を形成する方法が知られている。光触媒を光励起することにより光触媒膜の表面に付着した有機汚れなどが光触媒の作用により分解され、結果としてガラス施工体表面の透明性が復活する。現在では、透明性以外にも、親水性、防汚性、防曇性、流滴性等の機能を付与する目的で、各種光触媒膜が提案されている。例えば、少なくともシリコーン系シーリング材近傍に光触媒膜をコーティングすることで、シーリング材からの疎水性物質を光触媒により分解または改質する発明が開示されている(例えば、特許文献1または2参照。)。しかし、これらの光触媒膜では疎水性の汚染物質の汚れを充分に除去できないという問題がある。
【0004】
また、一度撥水性へと変化した光触媒膜表面を親水性へと復活させる洗浄剤も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、洗浄を頻繁に行うのは実用上非常に手間がかかるという問題がある。
【0005】
また、徐放性物質で流れ落ちる量をコントロールすることによって、手間をかけずに汚れの付着を防止し、汚れが付着した場合には速やかに除去することによって親水化表面を繰り返し再現する方法も提案されている(例えば、特許文献4参照。)。しかし、この方法は、徐放性物質が有機系(実施例においては徐放性物質としてポリエーテルを使用)であるために、光触媒膜上では光触媒膜の作用で徐放性物質が光分解されて消失し、効果が充分に発揮できない点で問題がある。
【0006】
また、微細孔を有する多孔質構造を有する光触媒コーティング層を形成し、水に対する接触角を低くする構造とフィラーを含有し膜厚方向への浸透性を有する塗膜構造により、シリコーン溶出物に対する汚れに対して有効な外装材も提案されている(例えば、特許文献5参照。)。しかし、この方法ではシリコーン溶出物に対しての許容量は増すが、経時的に溶出し続ける溶出物に対して、長期間に渡って初期と同様の清浄性を維持することは困難である。また、塗膜にシリコーン系コーティングを高比率で用いることからシリコーンシーリング材溶出物との親和性が強く膜表面に選択的に吸着しやすいという欠点がある。
【0007】
【特許文献1】特開平8−302856号公報
【特許文献2】特開2001−55799号公報
【特許文献3】特開2001−64683号公報
【特許文献4】特開2000−265163号公報
【特許文献5】特開2004−225449号公報
【非特許文献1】岡本 肇,忍 裕司「建築技術」1997年8月 p152−160
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術が有する前述の欠点、特にシリコーン系シーリング材から遊離した
低分子シロキサン等によるガラス施工体表面の汚染を長期間防止し、透明性を維持でき、光触媒膜の親水性等の諸特性が劣化しない光触媒膜付きガラス施工体および構築構造体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明における光触媒膜付きガラス施工体は、低分子シロキサンの溶出が少ないシーリング材と光触媒活性が高い光触媒膜付きガラスからなることを特徴とする。
【0010】
光触媒膜付きガラス施工体としては、
(a)光触媒膜付きガラスの光触媒活性が、メチレンブルー分解性評価において、最大波長352nmのブラックライトブルーランプで紫外線照射強度1.7mW/cmの紫外線を3時間照射後の吸光度減少量として、0.08(Abs)以上であることを特徴とする。
【0011】
これに用いるシリコーン系シーリング材としては、
(b)硬化させたシーリング材を以下(b−1)に示される条件でアセトンに浸漬した場合の、以下(b−2)に示される低分子シロキサンのアセトンへの溶出重量が、アセトン浸漬前のシーリング材重量に対して、100ppm以下である低汚染性シーリング材であることを特徴とする。
(b−1)硬化させたシーリング材を、温度23±2度環境下で24時間±1時間、完全密閉容器中でアセトンに浸漬後、シーリング材を取り出す。
(b−2)示性式:C1236Si、化合物名:Dodecamethylcyclohexasiloxane、分子量:445、CAS番号:540−97−6
光触媒膜付きガラスの光触媒膜の耐摩耗性がJIS R3221(2002)6.4に基づくテーバー摩耗試験(CS−10F摩耗輪使用、荷重4.9N)において、摩耗回数100回後のΔヘーズ値で、4%以下であることを特徴とする。
【0012】
光触媒膜の暗所親水持続性として、水接触角が1週間以上20°以下を保つ膜であることを特徴とする。
【0013】
光触媒膜の平均表面粗さRa値が、1nm以上20nm以下であることが好ましい。
光触媒膜は光触媒を発現する物質とSiOを含み、膜中に含まれる全金属組成中のSi比率が、Si/膜中全金属原子のmol比率で0.80以下であることを特徴とする。
光触媒膜に含まれる全金属組成中の光触媒微粒子比率が、光触媒微粒子/膜中全金属原子のmol比率で、0.1以上、0.9以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の構築構造体は、本発明の光触媒膜付きガラス施工体より得られたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光触媒膜付きガラスとシリコーン系シーリング材を用いれば、シーリング材から遊離した低分子シロキサン等によるガラス施工体表面の汚染を防止でき、高い透明性と優れた防汚性、分解性、親水性、防曇性を長期間維持できる光触媒膜付きガラス施工体、および光触媒膜付きガラス施工体を用いた構築構造体を得ることができる。
【0016】
本発明においては光触媒膜の光触媒活性評価として、メチレンブルー分解性評価を用いている。メチレンブルーを接触させた光触媒膜付きガラスに紫外線を照射した後のメチレンブルー水溶液の吸光度減少量を0.08(Abs)以上とし、かつ構築構造体として用いる場合の接着目的で使用するシリコーン系シーリング材として低汚染性シーリング材を用いることにより、ガラス施工体表面の汚染を防止でき、高い透明性と優れた防汚性、分解性、親水性、防曇性を長期間維持できる光触媒膜付きガラス施工体、および光触媒膜付きガラス施工体を用いた構築構造体を得ることができる。
【0017】
また、本発明の光触媒膜付きガラス施工体は高い光触媒活性により、少量付着した汚染物質をすみやかに分解除去できる。
【0018】
さらに高い親水性により、疎水性の汚染物質が光触媒膜上に滞留するのを抑制し、汚染物質を膜表面に吸着しにくくすることができる。また、暗所親水性持続として表現される親水性の持続時間が長いほど効果を継続できる。特に、光触媒膜の平均表面粗さRaが大きい場合には、表面積が大きくなるため同一組成の平滑膜に比べ親水性を向上しやすく、疎水性の汚染物質を近づけにくくする効果が高まる。また、表面が多孔性を有している場合は表面積が更に大きくなるために好ましい。一部の汚染物質が光触媒膜の表面や場合によっては内部に吸着することも考えられるが、この場合は、その吸着量が少量であるため、光触媒の光触媒活性により、汚染物質が光触媒膜上に定着する前に分解除去され、光触媒膜表面に残留することを防止でき、本来の光触媒膜の諸特性が維持できる。
【0019】
また、本発明の光触媒膜付きガラス施工体は、実用的な耐摩耗性を有しており、通常の取り扱い時や清掃時に膜がキズついたり剥離したりすることが抑制され、長期的に物性変化なく使用することができる。
【0020】
光触媒膜の膜組成にSiを含有させることにより、低温処理工程においても膜の耐摩耗性を発現できる。また、親水保持性が増すため親水性、光触媒活性の発現に効果があり、結果としてシーラント汚れ抑制に効果がある。
【0021】
また、本発明における光触媒膜付きガラス施工体は、汚染物質に汚染される可能性のあるところで使用されるすべてのガラス施工体を意味しており、耐汚染性を格段に高めることができるため、経済性に優れる。特に、長期間ガラス施工体の透明性を維持でき、視認性に優れる。また、ガラス施工体表面の清浄作業の回数を減らすもしくは、無くすことができ、作業の省人化、清掃費用の低減を可能にする。
【0022】
本発明の光触媒膜付きガラス施工体は、長期間にわたって、親水性、汚れ分解性および防曇性に優れる。すなわち、汚染物質による汚染を防止することで、光触媒膜表面に付着する水滴が濡れ広がり、光触媒膜の汚れを分解する作用が劣化せず、さらに表面が曇らず防曇性に優れる。また、太陽光等の光が照射されることによって汚れ分解性(特に有機物の汚れの分解)が維持され、さらに、降雨等により水が本発明の光触媒膜付きガラス施工体の表面を流れ落ちる際に、無機物の汚れも洗い流され、セルフクリーニング効果が維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
シーリング材からの汚染物質は、シーリング材を施工した直後から発生し、長期的に発
生し続けると考えられる。汚染物質による汚染を解決すべく、単に光触媒膜のみを形成した場合(例えば、特許文献1または2参照。)、汚染物質が光触媒膜表面へ徐々に拡散し、汚染物質が光触媒膜に結合または吸着することにより膜表面が撥水性に変化する。その結果、大気中の疎水性物質を主成分とする物質が膜表面に付着しやすくなり、表面汚れが発生し、外観を損ねるだけでなく、本来の光触媒膜の諸特性が維持できなくなる問題があることが分かった。また、光触媒膜を形成することにより、膜を形成しない場合よりも表面汚れは若干低減されるが、汚染物質による汚れを防止するには不充分であった。
【0024】
本発明者らは、光触媒膜付きガラス施工体を窓ガラス用、外壁用の構築構造体に適用する場合に、光触媒膜の光触媒活性を0.08(Abs)以上とし、かつ光触媒膜付きガラスの固定用として、特定の有機溶剤に溶出する低分子シロキサンが100ppm以下である低汚染性シーリング材を用いることにより、光触媒膜付きガラス施工体表面の汚染を長期間防止することができ、また透明性を維持でき、本来の光触媒膜の諸特性が維持できる構築構造体を得られることを見出した。
【0025】
低汚染性シーリング材としては、低分子シロキサンの特定の有機溶剤への溶出重量が、有機溶剤浸漬前のシーリング材重量に対して、100ppm以下であるシリコーンシーリング材が挙げられる。なお、本発明においては、特定の有機溶剤としてはアセトンを用い、低分子シロキサンとしては、試薬として安定的に入手できるため定量評価に簡便で、かつ低分子シロキサンの溶出総量の傾向を反映していると考えられる以下の環状シロキサンを定量評価に用いた。
示性式:C1236Si、化合物名:Dodecamethylcyclohexasiloxane、分子量:445、CAS番号:540−97−6。
【0026】
低汚染性シーリング材を用いることにより、シーリング材に起因する低分子シロキサンの拡散が抑制され、結果として誘発されて付着していた疎水性の汚れも付着しにくくなり、また少量付着しても分解除去されたり、降雨や洗浄によって流出除去が可能となり、汚染物質による汚染を長期間防止することができる。
【0027】
本発明における光触媒とは、光触媒の価電子帯と伝導電子帯との間のエネルギー差よりも大きなエネルギーの光を照射したときに、価電子帯中の電子の励起によって伝導電子と正孔を生成しうる性質を有する材料をいい、紫外線応答の光触媒のみならず、可視光応答の光触媒であってもよい。このような光触媒としては、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、三酸化タングステン、酸化第二鉄、チタン酸ストロンチウム、酸化ビスマス、酸化鉄等が好ましく挙げられる。特に酸化チタンが好ましい。
【0028】
以下、本発明について詳述する。
本発明に用いられる光触媒膜は、メチレンブルー分解性評価において0.08(Abs)以上の光触媒活性を有する。また、特定の有機溶剤に溶出する低分子シロキサン量が100ppm以下であるシーリング材を、光触媒活性0.08(Abs)以上の光触媒膜にあわせて用いることにより、長期間の汚染を防止できる。また、本発明に用いられる光触媒膜の光触媒活性は、0.10(Abs)以上であることがより好ましい。
【0029】
本発明におけるメチレンブルー分解性は、以下のように定義した。詳細な評価方法については、実施例[光触媒活性]で後述する。
【0030】
初期化(初期化の方法は後述する)済みの10cm角光触媒膜付きガラスサンプルを1枚用意し、筒型試験セルにシリコングリースを塗布してサンプル膜面に押し付け固定した。セル内に吸着用メチレンブルー水溶液を注入し、カバーガラスでフタをして暗所静置し、光触媒膜に十分にメチレンブルーを吸着させた。セル中の水溶液を捨て、新たに試験用メチレンブルー水溶液を注入した。注入したメチレンブルー試験液をピペットで充分に撹拌してから正確に1.0ミリミットルを分光光度計測定用セルに採取した(初期液)。カバーガラスでフタをし、カバーガラスの上から、紫外線を3時間照射した後、3時間後のメチレンブルー試験液をピペットで充分に撹拌してから正確に1.0ミリミットルを分光光度計測定用セルに採取した(分解液)。採取した初期液と分解液の波長664nmでの吸光度(Abs)を測定し、分解液の吸光度から初期液の吸光度を引いた値(Abs)を光触媒活性とした。
【0031】
本発明に用いられる光触媒膜の光触媒活性が、0.08(Abs)未満の場合、膜表面に拡散した微量の汚染物質でさえも分解除去することが困難となり、結果として長期的には汚れを防止できず汚染が進行してしまう。また、光触媒活性が0.08(Abs)以上あっても、通常建築用途に用いられるシリコーンシーリング材を用いた場合には、シーリング材から溶出する低分子シロキサン量が多く、光触媒膜の分解能力を上回ってしまうため、結果として汚染が進行してしまう。
【0032】
一方で、低分子シロキサン溶出量が100ppm以下であるシーリング材はかねてから知られているものの、これを通常建築用途に使用されるソーダライムガラスや、光触媒活性が0.08(Abs)未満の光触媒膜付きガラス施工体に塗布した場合には、長期間汚染を抑制する効果は見られず、半年から1年経過後にはガラス施工体の汚染の程度は通常のシーリング材を用いた場合と同様であった。
【0033】
本発明におけるシーリング材の低分子シロキサン溶出量は、以下のように定義した。詳細な定量方法については、実施例[シーリング材から溶出する低分子シロキサン定量方法]に後述する。
【0034】
温度23℃±2℃、湿度50%RH±5%の環境下で7日間硬化させたシーリング材を、温度23±2度環境下で24時間±1時間、完全密閉容器中でアセトンに浸漬後、容器からシーリング材のみを取り出した。残ったアセトン中の低分子シロキサンをガスクロマトグラフィーにより定量し、
[アセトンに浸漬する前のシーラントの乾燥重量]中の[溶出した低分子シロキサン総重量(=溶出に用いた全アセトン液中の低分子シロキサン重量)]を、濃度(ppm)表記した。
【0035】
本発明者らは、光触媒活性が、0.08(Abs)以上である光触媒膜と、低分子シロキサン溶出量が100ppm以下であるシーリング材、具体的には、低分子シロキサン含有量、あるいは溶出量を小さくしたシリコーンシーリング材を用いることにより、長期的な汚染を回避することができることを見出した。
【0036】
ここで、シーラントの評価方法としては、基板ガラスにシーラント材を塗布して曝露する方法が挙げられる。塗布するシーラントは試験に応じて変更できるが、本発明の目的を達するためには、低分子シロキサンの揮散、溶出が少ないものが好都合である。低分子シロキサンの揮散、溶出が少ないものとしては、半導体関係でのクリーンルームにおける使用を想定したシリコーンシーリング材が知られている。例えば、ピュアシーラント、ピュアシーラントS(いずれも信越シリコーン社製)、SE5088、SE9184、SE9185(いずれも東レダウコーニング社製)、トスシール80−SC(GE東芝シリコーン社製)、TB3961B(横浜スリーボンド社製)、ペンギンクリーンシール2555(サンスター技研社製)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記のシーリング材は低分子シロキサンの揮散、および溶出量が少ないことを確認した。
【0037】
本発明における光触媒膜は、耐摩耗性が実用レベルにあることも特徴である。これまでに公知の光触媒膜は、光触媒活性や親水性を向上させるために厚膜化や多孔構造形成をはかったものがあり、これらの膜は耐摩耗性が劣ることがあった。これに対して、本発明における膜は、テーバー摩耗試験後のΔヘーズが4%以下で、実用上の耐摩耗性を有している。
【0038】
本発明における光触媒膜は、暗所親水持続性(暗所における親水持続性)が1週間以上、より好ましくは2週間以上、より好ましくは1ヶ月以上の間、水接触角は20°以下、好ましくは10°以下、より好ましくは5°以下を保つ膜である。
【0039】
本発明における暗所持続性は、以下のように定義した。詳細な評価方法については、実施例[暗所親水持続性]に記載した。
【0040】
初期化済み光触媒膜付きガラス施工体を、屋内通常環境の暗所(紫外線照射強度0.01mW/cm以下、温度23℃±2℃、湿度50±5%RH)に静置し、一定期間経時後に水接触角を測定した。
【0041】
屋外使用では、曇り、雨の天候時にシーリング材からの低分子シロキサン溶出が生じやすいと想定されることから、光の当たらない暗所での親水性が高いことにより、シロキサン溶出時に膜表面親水性が高く疎水性汚染物質を近づけにくくなり、汚染防止性を高める。
【0042】
本発明における光触媒膜は、平均表面粗さRa値が、1nm以上20nm以下、より好ましくは、2nm以上10nm以下である。Raが1nm未満では、光触媒膜の表面積が小さくなりやすく、十分な光触媒活性を発現できなかった。また、Raが20nmを超えると表面粗さが大きすぎて、膜の透明性や耐摩耗性が確保できないといった問題がある。
【0043】
本発明における光触媒膜に含まれる全金属組成中のSi比率は、Si/膜中全金属原子のmol比率で0.80以下である。ここで金属とは、遷移金属、典型金属、およびSi、P、Ge、Snなどの半金属も含む非金属以外のすべての元素を意味する。Si/全金属が0.80(mol比)を超えると、Si比率が高すぎて汚染が進みやすい膜となる。この原因は明らかではないが、恐らくSiを多く含む膜は、低分子シロキサンとの親和性が高い膜となるためと考えられる。また、ここでの計算方法は、膜材料がSiO,TiOである場合を例に取ると、SiO,TiO中のSiのmol数と同じである。
【0044】
本発明における光触媒膜付きガラスとこれに用いるシーリング材により構成される光触媒膜付きガラス施工体は、外壁用途に用いられる構築構造体として好適である。ガラス施工体の形状は平板に限らず、全面に、または、一部に曲率を有していてもよい。さらに、ガラス施工体が透明ガラス施工体である場合、光触媒膜が透明であるため、視認性が悪化しない点で優れている。視認性の点から、光触媒膜を有する光触媒膜付きガラス施工体の可視光透過率(JIS R3106(1998年))が70%以上であることが好ましい。
【0045】
本発明における光触媒膜は、ゾルゲル法等の湿式法、CVD法等の乾式法等で形成でき、製造方法は特に限定されない。湿式法で光触媒膜を形成する場合、光触媒微粒子および媒体を含む光触媒膜形成用組成物をガラス施工体に塗布することで光触媒膜が形成できるため、表面粗さRaを任意にコントロールしやすく好ましい。
【0046】
光触媒の微粒子として酸化チタン微粒子を用いることで光触媒膜を低温処理形成する場合においても、酸化チタンからなる膜を形成できる。酸化チタン膜は、酸化チタン以外の他の金属や金属酸化物との複合膜としてもよい。特にシリカ(SiO)との複合膜とすることで、高い親水性を長期間維持でき、光触媒活性も発現できる点で好ましい。ただし、前述したように、シリカ(SiO)比率が高すぎると、汚染物質である低分子シロキサンとの親和性が高くなるためか、長期的には汚染されやすくなる。
【0047】
本発明の光触媒膜を構成する、金属や金属酸化物は、完全な金属や金属酸化物である必要はなく、前駆体やアモルファスを含んでいてもよい。また、膜を形成する原料由来の有機基や酸化していない部分が、残っていてもよい。たとえば金属酸化物がシリカ(SiO)である場合は、シラノール基などが部分的に残っていてもよく、脱水縮合反応進行によりシリカ(SiO)が形成される。
【0048】
本発明における光触媒膜において、光触媒微粒子が含まれる場合は、光触媒微粒子中の金属比率が、全金属組成物中にmol比率で0.1〜0.9、より好ましくは0.3〜0.7含まれていることが好ましい。
【0049】
本発明における光触媒微粒子を光触媒膜形成用組成物中で用いる場合、その凝集粒子の平均粒子径(以下、単に粒子径という。)は、5〜100nmであることが好ましい。組成物中での平均粒子径は、光散乱を利用して液中の微粒子の凝集粒子径をマイクロトラックUPA粒度分布計(日機装社製)を用いて測定することができる。
【0050】
粒子径があまりに小さいと、形成された光触媒膜の中に光触媒の微粒子が埋没してしまうため、光触媒の種々の効果が発現しにくい。また、粒子径があまりに大きいと、形成される光触媒膜の機械的強度が不足し、また、透明性が確保できないおそれがある。
【0051】
本発明における光触媒膜付きガラス施工体を作製する前に、ガラス施工体の前処理をすることが好ましい。前記前処理は、洗浄、光照射処理、プラズマ処理、コロナ処理、UV処理、オゾン処理等の放電処理、酸やアルカリ等の化学処理、研磨剤を用いた物理的処理等であることが、効果的に汚れを取ることができる点で好ましい。
【0052】
本発明における光触媒膜には、光触媒性以外の機能を有する物質からなる組成が含まれていてもよい。例えば、着色用染料、顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光触媒微粒子以外の酸化物微粒子(五酸化リン、酸化マグネシウム等。平均粒子径は200nm以下が好ましい。)等が好ましく挙げられる。
【0053】
本発明における光触媒膜は、例えば湿式法を用いて、光触媒膜形成用組成物をガラス施工体の表面に塗布し光触媒膜付きガラス施工体を形成できる。湿式法としては、例えば、スプレーコート法、はけ塗り、手塗り、回転塗布、浸漬塗布、各種印刷方式による塗布、カーテンフロー、ダイコート、フローコート等の塗布方法が好ましく挙げられる。
【0054】
特に、スプレーコート法により成膜された光触媒膜付きガラス施工体は、製造の経済性や簡便性、塗膜物性の安定性において好適である。
【0055】
本発明における光触媒膜は、光触媒膜形成用組成物を塗布した後、媒体の除去や光触媒膜の硬度を高めることを目的として、後処理を施してもよい。後処理としては、室温における乾燥や加熱、紫外線や電子線等の電磁波の照射等が挙げられる。加熱はガラス施工体の耐熱性や作業性、量産性を考慮して、50〜700℃、特に80〜300℃で1〜60分間大気中で行うことが好ましい。特に、後処理として紫外線や電子線等の電磁波の照射を行うことが、量産工程が短くなるため好ましい。
【0056】
本発明においては、光触媒膜の厚さは、経済性も考慮して、1〜300nmが好ましく、特に5〜100nmが好ましい。1nm未満では所望の光触媒性能が発揮されないおそれがあり、300nm超では光触媒膜にクラックが入ったり、干渉縞が生じたり、傷が発生した場合にその傷が目立ったりして好ましくない。光触媒膜形成用組成物の濃度、溶剤の種類、塗布条件、後処理条件等を調節することにより、得られる光触媒膜の厚さを制御できる。
【0057】
なお、本発明における光触媒膜の膜構成としては光触媒膜単膜であってもよいし、光触媒膜、あるいは光触媒以外の膜を含んでなる積層膜であってもよい。例えば、ガラス基材と光触媒膜との間にシリカ膜等のアルカリバリア膜を設けたり、または光触媒膜上にシリカ膜等の膜を形成してもよい。
【0058】
本発明の光触媒膜は、Ti以外に、Al、Si、Zr、およびSnからなる群から選ばれる1種以上の金属や、金属の酸化物を含んでもよい。これらを光触媒膜中に含むことにより、膜の等電点が変化し、帯電している汚染物質の吸着性を制御することができるため好ましい。
【0059】
本発明における光触媒膜付きガラス施工体に用いられる光触媒膜中には、吸水性(水分をはじきにくくする性質)向上の点で親水性樹脂や吸水性樹脂等の樹脂を含有してもよい。前記樹脂としては、ポリアクリル酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロースおよびその誘導体等が例示できる。
【0060】
本発明の光触媒膜付きガラス施工体は、例えば外壁、ガラス窓、内壁、天井等において、窓枠、躯体、その他の構築構造体に光触媒膜付きガラスをシリコーン系シーリング材で取り付ける各種の用途に展開できる。
【実施例】
【0061】
本発明を実施例(基材:a,b,c,e、かつシーリング材:B,E,G〜J使用)、比較例(基材:d,f、またはシーリング材:A,C,D,F使用)により具体的に説明する。光触媒膜付きガラス施工体(以下、単に膜付き基材という)は、以下の方法を用いて評価した。
【0062】
[外観]
膜付き基材のヘーズ値を直読ヘーズコンピュータ(スガ試験機社製)で測定し、ヘーズ値が2.0%以下のものを○、2.0%を超えるものを×とした。
【0063】
[厚さ]
膜付き基材を作製後、カッターで膜を削り取り、光触媒膜の厚さを触針法により測定した。
【0064】
[初期親水性]
光触媒膜の表面にピーク波長352nmのブラックライトブルーランプ(松下電器社製、FL20S・BL−B 20形)にて紫外線を紫外線照射強度2.0mW/cm(紫外線照度計:英弘精機社製、UV MONITOR MS−211−I、測定波長範囲:UV-A(315〜400nm)、測定精度:10%以内)で、24時間照射する。この作業を初期化という。初期化した後、膜表面の水接触角を接触角計(協和界面科学社製:CA−X150)にて測定し、この測定値を初期親水性という。測定は異なる5ヶ所の部位で行い、平均値を採用した。接触角は、20°以下、より好ましくは10°以下であることが親水性を発揮できる点から好ましい。
【0065】
[暗所親水持続性]
初期親水性を測定した膜付き基材を光のあたらない屋内暗所(紫外線照射強度0.01mW/cm以下、温度23℃±2℃、湿度50±5%RH)に1週間保持した後、水接触角を接触角計(協和界面科学社製:CA−X150)にて測定した。測定は異なる5ヶ所の部位で行い、平均値を採用した。接触角は、20°以下、より好ましくは10°以下であることが親水性を長期間発揮できる点から好ましい。
【0066】
[光触媒活性]
メチレンブルー分解性の評価を以下の方法で実施した。
作業1.10cm角の光触媒膜付きガラス施工体を1枚用意し、[初期親水性]に示した方法で初期化した。
作業2.φ40mmの筒型試験セル(丸本ストルアス社製、マルチフォーム)にシリコングリース(ダウコーニング社製、HIGH VACUUM SILICONE GREASE FS)を塗布し、サンプル膜面に押し付けて固定した後、セル内にメチレンブルー水溶液(吸着用:濃度20mmol/m)34ミリミットルを注入し、試験セルにカバーガラスでフタをして暗所に12時間静置し、光触媒膜に十分にメチレンブルーを吸着させた。
作業3.上記作業2.の水溶液を捨て、セル内に新たにメチレンブルー水溶液(試験用:濃度10mmol/m)35ミリミットルを注入した。
作業4.初期状態のメチレンブルー試験液をピペットで充分に撹拌してから正確に1.0ミリミットルを分光光度計測定用セルに採取した(初期液)後、作業2.と同様にカバーガラス(ソーダライムガラス:厚さ3.0mm)でフタをした。
作業5.カバーガラスの上から、ブラックライトブルーランプで紫外線を光触媒膜付きガラス施工体の裏面での測定値で紫外線照射強度1.7mW/cmで3時間照射した。
作業6.3時間後のメチレンブルー試験液をピペットで充分に撹拌してから正確に1.0ミリミットルを分光光度計測定用セルに採取した(分解液)。
作業7.作業4.および作業6.で採取したメチレンブルー溶液1.0ミリミットルの波長664nmでの吸光度(Abs)を、分光光度計(日立社製、U−4100)にて測定した。
作業8.(分解液)の吸光度から(初期液)の吸光度を引いた値(Abs)を光触媒活性とした。
【0067】
[耐摩耗性]
膜付き基材にテーバー摩耗試験(JIS R3221(2002)6.4 摩耗回数:100回、荷重:4.9N)を準用して行い、摩耗試験前後におけるヘーズ値を測定(測定機器名:スガ試験機社製:直読ヘーズコンピュータ)し、その変化量を求めた。ヘーズ変化が4%以下であることが実用上好ましい。
【0068】
[膜表面粗さRa]
膜付き基材の表面粗さを、AFM(SIIナノテクノロジー社製、SPA400/SPI4000)により測定した。
【0069】
[Si/全金属]
膜付き基材の膜中のSi/膜中全金属(mol比)はコート液組成から計算した。なお、成膜方法が湿式コートの場合には、膜中のSi/全金属原子のmol比率の値とコート液中でのSi/全金属原子のmol比率の値は、一致することを確認済みである。
【0070】
[微粒子中Ti/全金属]
膜付き基材のTiO微粒子中Ti/膜中全金属(mol比)はコート液組成から計算した。なお、成膜方法が湿式コートの場合には、膜中のTiO微粒子中Ti/全金属原子のmol比率の値とコート液中でのTiO微粒子中Ti/全金属原子のmol比率の値は、一致することを確認済みである。
【0071】
(前処理済ガラス基材<1>の準備)
ソーダライムガラス基材(100mm×100mm、厚さ3.5mm)を用意し、その膜形成部分の表面を酸化セリウムで研磨し、蒸留水で洗浄した後に乾燥させ、前処理済ガラス基材<1>とした。
【0072】
(前処理済ガラス基材<2>の準備)
無アルカリガラス基材(100mm×100mm、厚さ1.1mm、コーニング社製♯1737)を用意し、その膜形成部分の表面を酸化セリウムで研磨し、蒸留水で洗浄した後に乾燥させ、前処理済ガラス基材<2>とした。
【0073】
(光触媒膜付きガラス基材aの形成)
(シリカゾル(A)の調製)
水37.5gにケイ酸ソーダ4号(SiO:23.35質量%、NaO:6.29質量%。SiO/NaOのモル比:3.83)12.5gを添加し、さらに強酸性陽イオン交換樹脂「SK1BH」(商品名、三菱化学社製)30gを添加して、10分間室温で撹拌した後、イオン交換樹脂を濾別し、脱塩ケイ酸ソーダ液(ケイ酸の100質量部に対してナトリウムイオンは0.12質量部)を調製した。この溶液1.0gを重量秤量済みのアルミナ性るつぼに取り、200℃の電気炉で1時間焼成し、再度秤量して、固形分濃度を測定したところ、5.8重量%であった。さらに、この脱塩ケイ酸液に蒸留水を添加しシリカゾル(A)(SiO濃度:5.0質量%)を得た。
【0074】
(組成物1の調製)
メタノール65.0gに、アナターゼ型酸化チタン微粒子(平均粒子径:56nm)の水分散液「STS−01」(商品名、石原産業社製、固形分濃度30質量%、以下、チタニアゾル(A)と記す。)5.0gおよびシリカゾル(A)30.0gを添加し、さらに界面活性剤「L−77」(商品名、日本ユニカー社製)を全液量に対して100ppmとなるように添加して、組成物1(固形分濃度:3.0質量%)を得た。
【0075】
組成物1の2ミリリットルを前処理済ガラス基材<1>の表面に滴下し、スピンコート法により塗布した後、大気雰囲気中100℃にて10分間焼成し、厚さ80nmの光触媒膜付きガラス基材aを得た。この膜の組成、外観、膜厚、初期親水性、暗所親水持続性、光触媒活性、耐摩耗性、膜表面の平均面粗さRa、膜中Si比率、および膜中TiO微粒子中Ti比率を表1に示す。
【0076】
(光触媒膜付きガラス基材bの形成)
(組成物2の調製)
メタノール89.7gに、アナターゼ型酸化チタン微粒子(平均粒子径:20nm)の水分散液「A−6」(商品名、多木化学社製、TiO6.0質量%、以下、チタニアゾル(B)と記す。)6.7gおよびTC−100(商品名、松本製薬工業社製チタンアセチルアセトネート、固形分濃度16.5質量%、以下、チタニア液(C)と記す。)3.6gを添加し、さらにノニオン性界面活性剤「アデカトールSO−145」(商品名、旭電化工業社製)を液量に対して100ppmとなるように添加して、組成物2(固形分濃度:1.0質量%)を得た。
【0077】
組成物2の2ミリリットルを前処理済ガラス基材<2>の表面に滴下し、スピンコート法により塗布した後、大気雰囲気中600℃にて10分間焼成し、厚さ40nmの光触媒膜付きガラス基材bを得た。この膜の組成、外観、膜厚、初期親水性、暗所親水持続性、光触媒活性、耐摩耗性、膜表面の平均面粗さRa、膜中Si比率、および膜中TiO微粒子中Ti比率を表1に示す。
【0078】
(光触媒膜付きガラス基材cの形成)
(組成物3の調製)
メタノール55.0gに、チタニアゾル(A)3.0gおよびシリカゾル(A)42.0gを添加し、さらに界面活性剤「L−77」(商品名、日本ユニカー社製)を全液量に対して100ppmとなるように添加して、組成物3(固形分濃度:3.0質量%)を得た。
【0079】
組成物3の2ミリリットルを前処理済ガラス基材<1>の表面に滴下し、スピンコート法により塗布した後、大気雰囲気中100℃にて10分間焼成し、厚さ80nmの光触媒膜付きガラス基材cを得た。この膜の組成、外観、膜厚、初期親水性、暗所親水持続性、光触媒活性、耐摩耗性、膜表面の平均面粗さRa、膜中Si比率、および膜中TiO微粒子中Ti比率を表1に示す。
【0080】
(光触媒膜付きガラス基材dの形成)
市販されている光触媒防汚ガラス、サンクリーン(商品名、PPG社製)を光触媒膜付きガラス基材dとした。この膜の組成、外観、膜厚、初期親水性、暗所親水持続性、光触媒活性、耐摩耗性、膜表面の平均面粗さRa、膜中Si比率、および膜中TiO微粒子中Ti比率を表1に示す。
【0081】
(光触媒膜付きガラス基材eの形成)
(組成物5の調製)
メタノール89.7gに、チタニアゾル(B)6.7gおよびチタニア液(C)3.6gを添加して、組成物5(固形分濃度:1.0質量%)を得た。
組成物5を、温度600℃に加熱した前処理済ガラス基材<2>上に大気中でスプレー塗布(スプレー装置一式:エムオースプレーイング社製、SG2500)し、厚さ30nmの光触媒膜付きガラス基材eを得た。この膜の組成、外観、膜厚、初期親水性、暗所親水持続性、光触媒活性、耐摩耗性、膜表面の平均面粗さRa、膜中Si比率、および膜中TiO微粒子中Ti比率を表1に示す。
【0082】
(光触媒膜付きガラス基材fの形成)
(組成物6の調製)
メタノール50.0gに、チタニアゾル(A)2.0gおよびシリカゾル(A)48.0gを添加し、さらに界面活性剤「L−77」(商品名、日本ユニカー社製)を全液量に対して100ppmとなるように添加して、組成物6(固形分濃度:3.0質量%)を得た。
【0083】
組成物6の2ミリリットルを前処理済ガラス基材<1>の表面に滴下し、スピンコート法により塗布した後、大気雰囲気中100℃にて10分間焼成し、厚さ80nmの光触媒膜付きガラス基材fを得た。この膜の組成、外観、膜厚、初期親水性、暗所親水持続性、光触媒活性、耐摩耗性、膜表面の平均面粗さRa、膜中Si比率、および膜中TiO微粒子中Ti比率を表1に示す。
【0084】
[シーリング材から溶出する低分子シロキサン定量方法]
光触媒膜に用いるシーリング材から溶出する低分子シロキサンの定量を、以下の方法で実施し、結果を表2に示した。定量した低分子シロキサンは、請求項1に示した以下の構造のものである。
示性式:C1236Si、化合物名:Dodecamethylcyclohexasiloxane、分子量:445、CAS番号:540−97−6
作業1.洗浄済みガラス上にシーラントを絞り出し、硬化させる。(7日間、23±2℃、50±5%RH)
作業2.硬化したシーラントをカッターでガラスからはがし、重量測定する。また、この重量を乾燥重量という。
作業3.9ccスクリュー瓶に2.のシーラントを入れ、アセトンを、シーラントが完全に浸漬される量入れ、密閉して24h±1h浸漬
作業4.シーラントをすみやかに取り出して再度密閉し、液中の低分子シロキサンをガスクロマトグラフィーにて定量する。このとき、あらかじめ、市販の試薬である低分子シロキサン(東京化成工業社)をアセトンに既知濃度で溶解させた液をガスクロマトグラフィーで解析して濃度対強度の検量線を作成しておき、解析する。
【0085】
(例1〜例10)
光触媒膜付きガラス基材aの中央に、厚さ5±2mm、縦10±2mm、横40±2mmとなるように表2に示したシーリング材を1種類ずつ塗布し、温度23±2℃、湿度50±10%RHの環境で2日間(48時間)乾燥させ、光触媒膜付きガラス施工体を作成した後、水平面に対して45°傾斜、南向きで横浜地区の屋外に曝露し、曝露開始から12ヶ月経過した時点でサンプルを回収した。回収したサンプルを水平に置き、膜の表面に蒸留水をキャニオンスプレーでかけ、水滴が付着した疎水部位をシーリング材により汚染された部位と判断し、シーリング材端からの上下左右の疎水部位の距離を測定し、その長さが長いほどシーリング材による汚染が大きいと判断した。
【0086】
疎水部位の長さを合計し、10mm以下の場合を◎、10mm超20mm以下の場合を○、20mm超30mm以下の場合を△、30mm超の場合を×として評価した。なお、客観的な目視評価では一般的にシーラントの20mm以内の汚れは黙認されるため、実用上◎、○がこの順で好ましい。曝露結果を表3に示す。
【0087】
(例11〜20)
例1〜10における光触媒膜付きガラス基材aの代わりに光触媒膜付きガラス基材bを用いる以外は例1〜10と同様に処理して、シーリング材を塗布した光触媒膜が形成された光触媒膜付きガラス施工体を得た。この光触媒膜付きガラス施工体を評価した結果を表3に示す。
【0088】
(例21〜30)
例1〜10における光触媒膜付きガラス基材aの代わりに光触媒膜付きガラス基材cを用いる以外は例1〜10と同様に処理して、シーリング材を塗布した光触媒膜が形成された光触媒膜付きガラス施工体を得た。この光触媒膜付きガラス施工体を評価した結果を表3に示す。
【0089】
(例31〜40)
例1〜10における光触媒膜付きガラス基材aの代わりに光触媒膜付きガラス基材dを用いる以外は例1〜10と同様に処理して、シーリング材を塗布した光触媒膜が形成された光触媒膜付きガラス施工体を得た。この光触媒膜付きガラス施工体を評価した結果を表4に示す。
【0090】
(例41〜50)
例1〜10における光触媒膜付きガラス基材aの代わりに光触媒膜付きガラス基材eを用いる以外は例1〜10と同様に処理して、シーリング材を塗布した光触媒膜が形成された光触媒膜付きガラス施工体を得た。この光触媒膜付きガラス施工体を評価した結果を表4に示す。
【0091】
(例51〜60)
例1〜10における光触媒膜付きガラス基材aの代わりに光触媒膜付きガラス基材fを用いる以外は例1〜10と同様に処理して、シーリング材を塗布した光触媒膜が形成された光触媒膜付きガラス施工体を得た。この光触媒膜付きガラス施工体を評価した結果を表4に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の光触媒膜付き基材を有する物品は、特にシリコーン系シーリング材などから拡
散する低分子シロキサンによる汚染を防止する性能に優れ、建材をはじめ多方面の用途に展開が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒膜付きガラスがシリコーン系シーリング材より構築構造体に取り付けられている光触媒膜付きガラス施工体において、前記光触媒膜付きガラスとシリコーン系シーリング材が、以下の性能を満たすことを特徴とする光触媒膜付きガラス施工体。
(a)光触媒膜付きガラスの光触媒活性が、メチレンブルー分解性評価において、最大波長352nmのブラックライトブルーランプで紫外線照射強度1.7mW/cmの紫外線を3時間照射後の吸光度減少量として、0.08(Abs)以上である。
(b)硬化させたシーリング材を以下(b−1)に示される条件でアセトンに浸漬した場合の、以下(b−2)に示される低分子シロキサンのアセトンへの溶出重量が、アセトン浸漬前のシーリング材重量に対して、100ppm以下である低汚染性シーリング材
(b−1)硬化させたシーリング材を、温度23±2度環境下で24時間±1時間、完全密閉容器中でアセトンに浸漬後、シーリング材を取り出す。
(b−2)示性式C1236Si、化合物名Dodecamethylcyclohexasiloxane、分子量445、CAS番号540−97−6
【請求項2】
前記光触媒膜の耐摩耗性がJIS R3221(2002)6.4に基づくテーバー摩耗試験(CS−10F摩耗輪使用、荷重4.9N)において、摩耗回数100回後のΔヘーズ値で、4%以下であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒膜付きガラス施工体。
【請求項3】
前記光触媒膜の暗所親水持続性として、水接触角が1週間以上20°以下を保つ膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の光触媒膜付きガラス施工体。
【請求項4】
前記光触媒膜の平均表面粗さRa値が、1nm以上20nm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒膜付きガラス施工体。
【請求項5】
前記光触媒膜は光触媒を発現する物質とSiOを含み、膜中に含まれる全金属組成中のSi比率が、Si/膜中全金属原子のmol比率で0.80以下である請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒膜付きガラス施工体。
【請求項6】
前記光触媒膜に含まれる全金属組成中の光触媒微粒子比率が、光触媒微粒子中の金属/膜中全金属原子のmol比率で、0.1以上、0.9以下である請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒膜付きガラス施工体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光触媒膜付きガラス施工体を用いた構築構造体。

【公開番号】特開2007−302527(P2007−302527A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133964(P2006−133964)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】