説明

光輝性に優れた絞りしごき缶用樹脂被覆Al板及び絞りしごき缶の製造方法

【課題】光輝性外観を有する絞りしごき缶が成形可能な樹脂被覆Al板を提供する。
【解決手段】缶外面となる面の算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以内のAl表面に0.02μm〜6μmの厚み範囲内で、被覆する外面樹脂層の上限厚みをAl表面の算術平均粗さ(Ra)によって決定し、該算術平均粗さ(Ra)が大きくなると、被覆する外面樹脂等の上限厚みを小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞りしごき成形して缶体とした時、優れた光輝性を発揮できる、絞りしごき缶用樹脂被覆Al板及び絞りしごき缶の製造方法に関するものであり、より詳細には、胴部が光輝性に優れた絞りしごき缶を、液体のクーラントを使用せずに、ドライ潤滑により成形するのに適した絞りしごき缶用樹脂被覆Al板及び絞りしごき缶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料用金属缶容器としては、一般的に、側面無継目缶(シームレス缶)として、Al板、ぶりき板等の金属板を、絞りダイスとポンチとの間で少なくとも1段の絞り加工に付して、側面継目のない胴部と該胴部に継目なしに一体に接続された底部とから成るカップに成形し、次いで所望により前記胴部に、しごきポンチとダイスとの間でしごき加工を加えて、容器胴部を薄肉化した絞りしごき缶(DI缶)が知られている。
また、金属板に樹脂を被覆した樹脂被覆金属板を素材とした絞りしごき缶も知られている。このような樹脂被覆金属板の絞りしごき成形においては、金属板では液体のクーラントを使用して金属板と工具との摩擦を低減させているのに対し、ワックス等を潤滑剤として塗布し、ドライの状態で樹脂被覆金属板の絞りしごき成形が行われている。
しかし、このようなドライ状態でのしごき加工を行うためには、樹脂被覆金属板は厳しい加工に耐えることが必要であり、例えば、特許文献1には、このようなドライ条件での絞しごき加工を目的として、板材表面の塗膜量、めっき条件、皮膜強度等を検討した塗装金属板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−34322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、光輝性外観を有する缶が強く求められており、上記特許文献1に記載された塗装金属板においては、金属板として光輝性が発現されやすいAlを用いてはいるが、加工後の容器胴部外観が光輝性を発揮するための外面塗膜の膜厚やAlの粗度等の材料条件に
考慮が全く払われていないため、最近益々高い光輝性を求めるニーズに対応可能なプレコート材料を提供し、ドライ条件で絞りしごき成形して、安定して優れた光輝性外観を有する絞りしごき缶を提供することは困難である。
従って、本発明の目的は、Al板を金属板とし、その外面及び内面に樹脂層を形成したプレコート材料をドライ条件で絞りしごき成形してなる缶側壁部外観が優れた光輝性を有した絞りしごき缶用樹脂被覆Al板及び絞りしごき缶の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(A)本発明の光輝性の優れた絞りしごき缶用樹脂被覆Al板は、
絞りしごき成形により缶体とされる、絞りしごき缶用樹脂被覆Al板であって、
缶外面となる面の算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以内のAl表面に、0.02μm〜6μmの厚みを有する外面樹脂層が被覆されており、
(1)Al表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm未満であって、樹脂層の厚みが6μm以下、
(2)Al表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm〜0.3μm未満であって、樹脂層の厚みが4μm以下、
(3)Al表面の算術平均粗さ(Ra)が0.3μm〜0.5μmであって、樹脂層の厚みが2μm以下、
のうちのいずれかを満たすことを特徴とする。
(B)本発明の光輝性の優れた絞りしごき缶用樹脂被覆Al板は、前記(A)において、
Al表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm未満であり、外面樹脂層の厚みが0.1μm〜2μmであることを特徴とする。
(C)本発明の光輝性の優れた絞りしごき缶用樹脂被覆Al板は、前記(A)又は(B)において、
外面樹脂層のガラス転移温度が40℃以上であることを特徴とする。
(D)本発明の光輝性の優れた絞りしごき缶用樹脂被覆Al板は、前記(A)〜(C)のいずれかにおいて、
Al表面の0.1μm以上のピーク高さを有す凹部のピーク数が10個/mm以下であることを特徴とする。
(E)本発明の光輝性の優れた絞りしごき缶の製造方法は、
缶外面となる面の算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以内のAl表面に、0.02μm〜6μmの厚みを有する外面樹脂層が被覆されており、
(1)Al表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm未満であって、樹脂層の厚みが6μm以下、
(2)Al表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm〜0.3μm未満であって、樹脂層の厚みが4μm以下、
(3)Al表面の算術平均粗さ(Ra)が0.3μm〜0.5μmであって、樹脂層の厚みが2μm以下、
のうちのいずれかを満たす樹脂被覆Al板を、絞り加工、及び、しごき加工をすることにより、缶体に加工する缶体の製造方法であって、
加工後の缶体の胴部の正反射率が15%以上になるように前記絞り加工、及び、しごき加工をすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
従来、樹脂被覆金属板においては、絞りしごき成形時にAl表面の結晶粒は上層に樹脂層があるため、自由に動いて変形することで生じる肌荒れを起こし、光を乱反射する表面となり、しごき加工後に光輝性に優れた成形缶を得ることは困難であった。
本発明はAl表面の結晶粒の動きを抑制し、表面がしごき作用を大きく受けるようにすることに効果がある、外面樹脂層の厚み及び物性を適性化するだけでなく、成形前の金属板の粗度を考慮すれば、その上層に形成する樹脂層の条件も緩和され、また優れた光輝性も得られることを見出したものである。
本発明によれば、必要以上に外面樹脂層の適用条件を狭くすること無く、また従来の非プレコート材の絞りしごき成形缶と同等な光輝性、あるいはさらに優れた光輝性の要求に対しても対応可能となり、成形後缶内面をスプレーコートしなくて済む等の大きな利点を有すプレコート材を提供出来る。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の絞りしごき成形缶用複合Al材は、絞りしごき成形缶の成形に用いられる樹脂被覆Al板であって、缶外面となる面のRaが0.5μm以内のAl表面に、0.02μm〜6μmの外面樹脂層が被覆されている。該Raが0.5μmを超えると、また該外面樹脂層の厚みが6μmを超えると、急激に光輝性が低下してくる傾向が有り好ましくない。本発明で重要な点は、成形缶用複合Al材が良好な光輝性を発揮するには、外面樹脂層の厚みが一定以下である必要があることだけでなく、該外面樹脂層を被覆するAlのRaも一定以下にする必要があることを見出したことである。
さらには、安定した光輝性を有した成形缶を得るには、外面樹脂層を被覆するAlのRaに応じて、該外面樹脂層の上限厚みを3段階にて決定することが必要なことを見出したことである。
【0008】
Al表面のRaが0.2μm未満の場合、本発明が目的とする光輝缶が得られる外面樹脂層の上限厚みは6μmであるが、該Raが0.2μmを超えると、目的とする光輝缶が得づらくなることが判明したため、その対策を種々検討した結果、成形缶の光輝性に大きな影響及ぼすことが判明した、Al表面のRaに応じて外面樹脂層の上限厚みを決定する必要があることを見いだしたものである。この具体的な決定法について検討した結果、以下に示す様に、Al表面のRaを3段階に分け、それに応じて外面樹脂層の上限厚みを決定すれば、最も安定且つ容易に目的とする光輝缶が得られることを見いだしたものである。
<樹脂被覆Al板の缶外面となるAl表面に被覆する樹脂層の上限厚み>
1)Al表面のRaが0.2μm未満の時、被覆する樹脂層の上限厚みは6μm、
2)Al表面のRaが0.2μm〜0.3μm未満の時、被覆する樹脂層の上限厚みは4μm、
3)Al表面のRaが0.3μm〜0.5μmの時、被覆する樹脂層の上限厚みは2μm、
なお、本発明で言う算術平均粗さ(Ra)とは、ISO−‘97に準じてAl板の圧延方向と直角の方向で測定した値を言う。
【0009】
また、本発明に用いる外面樹脂層のガラス転移温度は40℃以上、より好ましくは70℃以上であることが好ましい。絞りしごき時のパンチやダイスの冷却水の温度や通水量、あるいは成形速度にもよるが、特別な装置でなく、一般的な絞りしごき装置を用いた場合、成形熱により外面樹脂層の温度が上昇して軟化し、パンチとダイス間で外面樹脂層を介してAlに及ぼすしごき作用がほとんどなくなり平滑化効果が乏しくなり光輝性が発現しない、非しごき作用状態が認められることがある。該非しごき作用状態の防止は外面樹脂層のガラス転移温度が20℃以下でも条件によっては、少なくとも成形初期では可能で、ある程度の光輝性は発揮出来るが、充分な光輝性を発揮させようとすれば、該ガラス転移温度は40℃以上であることが好ましい。
さらに生産速度も考慮して100缶/分以上の速度で安定して製缶しようと考えれば、外面樹脂層のガラス転移温度は70℃以上であることがより好ましい。
なお、本発明で言うガラス転移温度とは、理学電気(株)製TAS−300のTMA装置を用いてJIS C 6481−1996に準じて、測定物を本発明にて検討の樹脂層にして測定した値を言う。
【0010】
また、本発明に用いることができる外面樹脂層は、絞りしごき缶の保護層となるものであり、樹脂層自体が過酷なしごき加工を受けるので、ある程度伸びを有することが望ましく、特にASTM、D−882で測定して25℃で5%以上の破断伸びを有するものであることが好ましい。
また、該樹脂層は、28℃でのマルテンス硬さが50N/mm以上あることが好ましく、より好ましくは100N/mm以上であることが好ましく、これにより樹脂層を介してのAl板の平滑効果をより向上させることができ、絞りしごき缶の正反射率、すなわち光輝性をさらに向上させることが可能となる。
【0011】
ここで言う、マルテンス硬さとは、株式会社エリオニクス製の超微小押し込み硬さ試験機ENT−1100aを用い、ISO14577−2002に従い、ベルコビッチ圧子の押し込み深さが測定塗膜の1/10以下である条件を満たす最大荷重で樹脂層のマルテンス硬さを測定した値をいう。
なお、ベルコビッチ圧子は、圧子の摩耗を示す補正長さ(Δhc)が15nm以下のものを使用する。
さらに、金属素材への接着性、特に熱接着性に優れていることが望ましく、樹脂中のカルボニル基の濃度が10meq/100g樹脂以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の第1の樹脂層に用いることができる樹脂は、これに限定されるものではないが、以下のものを挙げることができるが、要求性と経済性を考慮して決定すべきである。
すなわち、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレン/テトラメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリテトラメチレン/エチレンテレフタレート、ポリエチレン/テトラメチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエチレン/オキシベンゾエート或いはこれらのブレンド物等のポリエステル類;ポリ−p−キシリレングリコールビスカーボネート、ポリ−ジオキシジフェニル−メタンカーボネート、ポリ−ジオキシジフェノル2,2−プロパンカーボネート、ポリ−ジオキシジフェニル1,1−エタンカーボネート等のポリカーボネート類;ポリ−ω−アミノカプロン酸、ポリ−ω−アミノヘプタン酸、ポリ−ω−アミノカプリル酸、ポリ−ω−アミノペラゴイン酸、ポリ−ω−アミノデカン酸、ポリ−ω−アミノウンデカン酸、ポリ−ω−アミノドデカン酸、ポリ−ω−アミノトリデカン酸、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカミド、ポリヘキサメチレントリデカミド、ポリデカメチレンアジパミド、ポリデカメチレンセバカミド、ポリデカメチレンドデカミド、ポリデカメチレントリデカミド、ポリドデカメチレンアジパミド、ポリドデカメチレンセバカミド、ポリドデカメチレンドデカミド、ポリトリデカメチレンアジパミド、ポリトリデカメチレンセバカミド、ポリトリデカメチレンドデカミド、ポリドデカメチレンアゼラミド、ポリドリデカメチレンアゼラミド、或いはこれらのコポリアミド等のポリアミド類;ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
これらの樹脂は、ブレンドあるいは複層しても用いることもでき、また、単独のものを積層した構造とすることもできる。
【0013】
本発明の樹脂被覆Al板における外面樹脂層の形成は、Al板に溶剤に樹脂分を溶解した塗料や、樹脂分が分散された水性分散体、紫外線硬化タイプの様な100%固形分から成る塗料をコートしたり、予めフィルム化された樹脂層をラミネートすることや樹脂を直接押出コートしたりすることによって行うことができる。
【0014】
本発明において、光輝性及び安定成形性の観点から最も好ましいRaと缶外面となるAl表面に被覆する樹脂層の厚み範囲は、該Raが0.2μm未満で、被覆する樹脂層の厚みが0.1μm〜2μmであり、安定して均一且つ優れた光輝性外観を有した成形缶が得られる。Raが0.2μmを超えると、プレコート材でなく、従来のAl板だけを絞りしごき成形した時に得られる、正反射率が40%以上の、高光輝性を有した成形缶を得るのは困難か可能であっても外面樹脂層条件範囲は非常に狭くなる。
また、いくらRaが0.2μm未満であっても、該被覆する樹脂層の厚みが2μmを超えれば40%以上の正反射率を示す、高光輝性を有した成形缶を得るのは困難となる。また、該被覆する樹脂層の厚みが0.1μm未満となると、異物付着の影響を受けやすくなり、成形缶に異物付着等により外面樹脂被膜が削られて縦筋が入りやすくなり注意が必要であり、安定性成形性を得るには被覆する樹脂層の厚みは0.1μm以上であることが好ましい。
【0015】
一方、成形缶の光輝性を決定づける、外面樹脂層を被覆前のAl条件は、主には前記したRaであるが、その質、即ち、同じRaでも微小な凹凸の数が少ないほど光輝性は良好になる傾向があることが判明した。特にしごき成形により平滑化されやすい凸部より、しごき成形後も残存する傾向がある凹部の数については注意が必要である。この微小な凹部の数を減少させるには、機械的なロール圧延でもある程度可能であるが、Al表面の化学エッチングが有効である。機械的なロール圧延による単なるRaの制御より、該化学エッチングによる微小凹凸の制御は難しい面があることや時間がかかり生産性が低下し経済性が劣る恐れがあるため、総合的に見れば必ずしも化学エッチングの方が機械的ロール圧延よりAl表面の制御に適しているとは言えない。但し、Raの制御だけよりも一段と向上した光輝性が得られるので、特に高光輝性を求められる場合等、要求性能と経済性を考慮して、化学エッチングによる微小凹凸、特に凹部のピーク数を減少するのは有効な方法である。該凹部のピーク数をどこまで減少すれば光輝性に効果があるかを種々検討した結果、0.1μm以上のピーク高さを有す凹部のピーク数が10個/mm以下になると明確な光輝性向上効果が認められることが判明した。なお、本発明で言う0.1μm以上のピーク高さを有す凹部のピーク数とは下記にて測定した値を言う。
<0.1μm以上のピーク高さを有す凹部のピーク数の測定法>
株式会社 東京精密製 SURFCOM 1400D−3DFを用い、下記測定条件にて、1mmの測定長で粗さ曲線を書き、中心線から−0.1μmのピークカウントレベル下限値から、中心線を越えたものを1カウントとした。
<測定条件>
算出規格:ISO−’97規格
測定種別:粗さ測定
カットオフ種別:ガウシアン
傾斜補正:最小二乗曲線補正
測定速度:0.30mm/s
λc/λs:30
λc:0.08mm
測定長さ:1mm
ピークカウントレベル上限値:0μm
ピークカウントレベル下限値:−0.1μm
【0016】
本発明の樹脂被覆Al板の基板として用いる金属板としては、従来絞りしごき缶の製造に用いられていたAl板等を使用することができる。板厚については、一般的には0.1〜0.5mmの範囲であるが、用途に応じて任意に選択すべきでここでは特に限定しない。
なお、Al板には、クロメート処理、燐酸クロメート処理、ジルコニウム処理等の後処理が施されていてもよい。
【0017】
<絞りしごき缶用樹脂被覆Al板の製造方法>
本発明の樹脂被覆Al板は、Al板の一方の面上に、該Al板の外面となる面のRaが0.2μm未満の場合は上限厚みを6.0μmとする外面樹脂層、該Raが0.2μm〜0.3μm未満の場合は上限厚みを4.0μmとする外面樹脂層、該Raが0.3μm〜0.5μmの場合は上限厚みを2.0μmとする外面樹脂層を形成する工程及びAl板の他の面に缶充填内容物と接する内面樹脂層を形成する工程、により製造することができる。内面樹脂層の厚みについては、ここでは特に限定しないが、内容物の腐食性、保存条件、要求性能ばかりでなく経済性を考慮して決定すべきである。また、内面及び外面樹脂層の形成は両者ともフィルムをラミネートする方法でも、塗料を塗装する方法でも良く、またどちらか一方がフィルムをラミネートする方法で、もう一方が塗料を塗装する方法でも良く、形成する方法は特に限定しない。
【0018】
また、Al板は、密着性や耐食性を向上させる等の観点から、表面処理層を形成させておくこともできる。
表面処理としては、重クロム酸塩の水溶液中における浸漬処理、または電解処理により、金属板上にクロム水和酸化物皮膜を形成させる方法、無水クロム酸の水溶液中における電解処理により、金属板上に金属クロムとクロム水和酸化物からなる2層皮膜を形成させる方法、金属板上にポリアクリル酸やエポキシ樹脂等の有機樹脂の薄層を形成させる方法、
金属板上にシランカップリング処理を施す方法等がある。
これらの表面処理は従来公知の方法で行うことができる。
【0019】
<絞りしごき缶の製造方法>
本発明の絞りしごき成形缶用複合Al材においては、従来公知の絞りしごき缶の成形に好適に用いることができ、液体のクーラントを使用する場合は勿論、クーラントを使用することなく、ドライ条件下での成形においても成形性よく、絞りしごき缶を成形することができる。
すなわち、本発明の樹脂被覆Al板から打ち抜いたブランクを1段又は複数段の絞りダイスを用いてカップ状体に絞り加工する。次いで1段又は複数段のしごきダイスを用い、カップ状体の胴部の厚さよりも小さく設定したしごきダイスとパンチの間のクリアランス部分にカップ状体の胴部を強制的に押し込んで、胴部を薄肉化しながら胴高さを高めるしごき加工を施す。このようにして、比較的缶径が小さく、缶胴部高さが高く、かつ胴部の厚さが薄い絞りしごき缶(DI缶)を成形することができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
(評価項目)
[胴部正反射率]
成形した絞り缶の缶底から高さ方向に60mmの位置から20mm幅で円周方向に胴部を切り取り、該切り取った20mm幅の胴部を8等分になるように缶高さ方向に切断して測定サンプルとした。
該測定サンプルの中央部を分光測色計(コニカミノルタ(株)製、型式:CM−3500)を用いて、全反射率と拡散反射率を測定し、下記式にて正反射率を算出した。
正反射率(%)=全反射率(%)−拡散反射率(%)
8等分のサンプルの該正反射率の平均値を小数点以下四捨五入で算出し、実施例及び比較例記載の胴部正反射率とした。
本発明では、最近の強い光輝性要求を考慮し、正反射率が15%以上、好ましくは25%以上あるものを実用性があると判断した。また、40%以上あれば、従来の非プレコート材による成形缶の内、良光輝性を示す缶と同等の光輝性が得られ、より好ましい。
【0021】
(実施例1)
Al板(板厚:0.28mm、3104合金材)の缶内外面となる面に燐酸クロメート処理(Crとして16mg/cm)した、外面となる面のRaが0.50μm、0.1μm以上の凹部のピーク数が52個/mmのAl板を220℃の板温まで加熱して、未延伸の東洋鋼鈑(株)製イソフタル酸/テレフタル酸共重合ポリエステルフィルム(融点=210℃、膜厚=12μm)を缶内面となる面に被覆して、冷却して内面樹脂層とし、缶外面となる面に表1に示すガラス転移温度が106℃のウレタン変性ポリエステル樹脂を塗料にして乾燥厚みが2μmになる様に塗装した後、150℃で30秒乾燥して外面樹脂層とした、樹脂被覆Al板を得た。
この樹脂被覆Al板の両面にグラマーワックスを50mg/m塗布後、該樹脂被覆Al板を缶内面が東洋鋼鈑(株)製共重合ポリエステルフィルム被覆面になるようにして下記の成形条件でドライ雰囲気で絞りしごき成形を行い、絞りしごき缶を得た。
該絞りしごき缶の外面の正反射率を前記方法にて測定した結果は表1に示す通りであり、缶胴部の正反射率は17.2%を示し、良好な光輝性外観が得られた。
【0022】
<絞りしごき成形条件>
1.成形温度:成形直前のポンチの温度:45℃
2.ダイス温度:40℃
3.ブランク径:142mm
4.絞り条件:1st絞り比:1.56、2nd絞り比:1.38
5.しごきポンチ径:66mm
6.総しごき率:63%(側壁中央部)
7.製缶速度:200cpm
【0023】
(実施例2)
表1に示す様に、外面塗膜の厚みをそれぞれ0.25μmとした他は実施例1と同様にして作成した樹脂被覆Al板を、実施例1と同様にして絞りしごき成形を行い、絞りしごき缶を得た。
この絞りしごき缶の正反射率を実施例1と同様にして評価した結果は表1に示す通りであり、缶胴部は外面塗膜の薄膜化で実施例1よりさらに高い、38.2%の正反射率を示し、良好な光輝性外観が得られた。
【0024】
(実施例3)
Raが0.3μmでピーク数が45個/mmのAl板を用いた他は実施例1と同様にして作成した樹脂被覆Al板を、実施例1と同様にして絞りしごき成形を行い、絞りしごき缶を得た。
この絞りしごき缶の正反射率を実施例1と同様にして評価した結果は表1に示す通りであり、缶胴部はAl板の平滑化で実施例1より高い、22.5%の正反射率を示し、良好な光輝性外観が得られた。
【0025】
(実施例4)
Raが0.25μmでピーク数が43個/mmのAl板を用いた他は実施例1と同様にして作成した樹脂被覆Al板を、実施例1と同様にして絞りしごき成形を行い、絞りしごき缶を得た。
この絞りしごき缶の正反射率を実施例1と同様にして評価した結果は表1に示す通りであり、缶胴部はAl板の平滑化で実施例1より高い、25.8%の正反射率を示し、良好な光輝性外観が得られた。
(実施例5)
外面樹脂層の厚みが4μmのAl板を用いた他は実施例4と同様にして作成した樹脂被覆Al板を、実施例1と同様にして絞りしごき成形を行い、絞りしごき缶を得た。
この絞りしごき缶の正反射率を実施例1と同様にして評価した結果は表1に示す通りであり、缶胴部は外面塗膜の厚膜化で実施例4より低い正反射率であったが、なお20.5%の正反射率を示し、良好な光輝性外観が得られた。
【0026】
(実施例6〜8)
Raが0.2μmでピーク数が40個/mmのAl板を用い、外面樹脂層の厚みを表1に示す様に、各々2μm、4μm、0.25μmとした他は実施例1と同様にして作成した樹脂被覆Al板を、実施例1と同様にして絞りしごき成形を行い、絞りしごき缶を得た。
この絞りしごき缶の正反射率を実施例1と同様にして評価した結果は表1に示す通りであり、缶胴部は、各々27.8%、18.7%、42.2%の正反射率を示し、良好な光輝性外観が得られた。
【0027】
(実施例9〜11)
Raが0.15μmでピーク数が38個/mmのAl板を用い、外面樹脂層の厚みを表1に示す様に、各々6μm、2μm、0.25μmとした他は実施例1と同様にして作成した樹脂被覆Al板を、実施例1と同様にして絞りしごき成形を行い、絞りしごき缶を得た。
この絞りしごき缶の正反射率を実施例1と同様にして評価した結果は表1に示す通りであり、缶胴部は、各々16.5%、28.4%、45.3%の正反射率を示し、良好な光輝性外観が得られた。
【0028】
(実施例12〜13)
表1に示す様に、Raが0.03μmでピーク数が17個/mm及び3個/mmのAl板を用いた他は実施例11と同様にして作成した樹脂被覆Al板を、実施例1と同様にして絞りしごき成形を行い、絞りしごき缶を得た。
この絞りしごき缶の正反射率を実施例1と同様にして評価した結果は表1に示す通りであり、缶胴部は、各々50.4%、56.5%の正反射率を示し、非常に良好な光輝性外観が得られた。
【0029】
(実施例14〜17)
表1に示す様に、外面樹脂層がガラス転移温度が各々84℃、40℃、18℃のポリエステル樹脂、あるいはガラス転移温度が225℃のポリエーテルサルフォンを用いた他は実施例12と同様にして作成した樹脂被覆Al板を、実施例1と同様にして絞りしごき成形を行い、絞りしごき缶を得た。
この絞りしごき缶の正反射率を実施例1と同様にして評価した結果は表1に示す通りであり、缶胴部は、各々44.3%、31.6%、21.5%、52,2%の正反射率を示し、ガラス転移温度が高いと高正反射率が得られ、低くなると正反射率は低下する傾向があるものの、いずれも良好な光輝性外観が得られた。
【0030】
(実施例18)
外面樹脂層の厚みを表1に示す様に、0.1μmとした他は実施例12と同様にして作成した樹脂被覆Al板を、実施例1と同様にして絞りしごき成形を行い、絞りしごき缶を得た。
この絞りしごき缶の正反射率を実施例1と同様にして評価した結果は表1に示す通りであり、缶胴部は、53.8%の正反射率を示し、非常に良好な光輝性外観が得られた。
【0031】
(比較例1〜4)
比較例1は外面樹脂層の厚みが3μmである他は実施例3と同様にして、比較例2は外面樹脂層の厚みが5μmである他は実施例7と同様にして、比較例3は外面樹脂層の厚みが7μmである他は実施例9と同様にして、比較例4は外面樹脂層の厚みが7μmである他は実施例17と同様にして、絞りしごき成形を行い、絞りしごき缶を得た。
この絞りしごき缶の正反射率を実施例1と同様にして評価した結果は表2に示す通りであり、缶胴部は各々13%、12%、9%、9%の正反射率を示し、いずれも充分な光輝性外観は得られなかった。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の絞りしごき缶用樹脂被覆Al板及び絞りしごき缶の製造方法によって、胴部が光輝性に優れた絞りしごき缶を、液体のクーラントを使用せずに、ドライ潤滑により成形することができ、産業上の利用可能性が極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絞りしごき成形により缶体とされる、絞りしごき缶用樹脂被覆Al板であって、
缶外面となる面の算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以内のAl表面に、0.02μm〜6μmの厚みを有する外面樹脂層が被覆されており、
(1)Al表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm未満であって、樹脂層の厚みが6μm以下、
(2)Al表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm〜0.3μm未満であって、樹脂層の厚みが4μm以下、
(3)Al表面の算術平均粗さ(Ra)が0.3μm〜0.5μmであって、樹脂層の厚みが2μm以下、
のうちのいずれかを満たすことを特徴とする光輝性の優れた絞りしごき缶用樹脂被覆Al板。
【請求項2】
Al表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm未満であり、外面樹脂層の厚みが0.1μm〜2μmであることを特徴とする請求項1に記載の光輝性の優れた絞りしごき缶用樹脂被覆Al板。
【請求項3】
外面樹脂層のガラス転移温度が40℃以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光輝性の優れた絞りしごき缶用樹脂被覆Al板。
【請求項4】
Al表面の0.1μm以上のピーク高さを有す凹部のピーク数が10個/mm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の光輝性の優れた絞りしごき缶用樹脂被覆Al板。
【請求項5】
缶外面となる面の算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以内のAl表面に、0.02μm〜6μmの厚みを有する外面樹脂層が被覆されており、
(1)Al表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm未満であって、樹脂層の厚みが6μm以下、
(2)Al表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm〜0.3μm未満であって、樹脂層の厚みが4μm以下、
(3)Al表面の算術平均粗さ(Ra)が0.3μm〜0.5μmであって、樹脂層の厚みが2μm以下、
のうちのいずれかを満たす樹脂被覆Al板を、絞り加工、及び、しごき加工をすることにより、缶体に加工する缶体の製造方法であって、
加工後の缶体の胴部の正反射率が15%以上になるように前記絞り加工、及び、しごき加工をする、ことを特徴とする光輝性の優れた絞りしごき缶の製造方法。

【公開番号】特開2011−201198(P2011−201198A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71764(P2010−71764)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】