説明

光送信装置及び光伝送システム

【課題】SBSによる反射戻り光の急増を抑え、大きな光パワーの光信号の伝送距離を伸ばす。
【解決手段】光送信装置は、1つの電気信号を少なくとも2つの電気信号に分配する電気分配器10と、分配された電気信号のそれぞれを発光波長の異なる光信号に変換する電気/光変換器14,16と、電気/光変換器14、16より変換された光信号の少なくともいずれか一方の位相を調整する位相調整器18と、電気/光変換器14、16より変換され、且つ位相が調整された光信号を合成する光合波器20と、合成された光信号を増幅する光増幅器24とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光送信装置及び光伝送システムに関し、特に、ケーブルテレビなどのように映像信号を非常に大きな光パワーで送信或いは伝送する光送信装置及び光伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アナログ映像信号を含む光伝送システムでは、十分なCNR(Carrier−to−Noise Ratio)を確保するために、受信端における光パワーを高く保持する必要がある。したがって、局間伝送などの長距離伝送を行うためには、送信端において非常に大きな光パワーを光伝送路である光ファイバに入力する。
【0003】
しかしながら、光ファイバ中での非線形現象である誘導ブリルアン散乱(以下SBSと略す:Stimulated Brillouin Scattering)が発生する。これにより、信号光の波形が劣化し、光受信器において受信誤りが生じ易くなる。すなわち、信号光の伝送距離が制限されてしまう。したがって、SBSのような非線形光学現象の発生を抑圧して、信号光の波形劣化を防止することが重要である。
【0004】
SBSは光波長のスペクトル幅が狭いほど発生しやすい。そこで、SBSの発生を抑圧するためには、光源である半導体レーザ光源から出力されるレーザ光に位相変調または周波数変調を施し、光スペクトルを散乱する方式が用いられている。この方式においては、位相変調または周波数変調が施されたレーザ光に高速の信号光を重畳したものを、信号光として光伝送路に伝送させる。
【0005】
従来のSBS抑圧技術における光送信器は、図5に示すように、周波数fmの変調信号を出力する変調信号源1と、この変調信号に基づいて位相変調または周波数変調されたレーザ光を出力する半導体レーザ光源2と、送信すべき信号を出力する信号源3と、半導体レーザ光源2から出力されたレーザ光を信号源3から出力された信号に基づいて振幅変調して、その振幅変調されたレーザ光を信号光として出力する外部変調器4と、この外部変調器4から出力された信号光を光増幅して出力する光増幅器5とを備えている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−299525号公報(第2−3頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光源である半導体レーザ光源から出力されるレーザ光に位相変調または周波数変調を施すだけでは、光波長のスペクトル幅を十分に広げることができず、光信号の伝送距離を伸ばすことができない。光波長のスペクトル幅を広げるための新たな手法が求められている。
【0007】
本発明の目的は、SBSによる反射戻り光の急増を抑え、大きな光パワーの光信号を長距離伝送可能な光送信装置及び光伝送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、1つの電気信号を少なくとも2つの電気信号に分配する電気分配器と、分配された電気信号のそれぞれを発光波長の異なる光信号に変換する電気/光変換器と、電気/光変換器より変換された光信号の少なくともいずれか一方の位相を調整する位相調整器と、電気/光変換器より変換され、且つ位相が調整された光信号を合成する光合波器と、合成された光信号を増幅する光増幅器とを備えた光送信装置であることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様において、電気/光変換器は、レーザを用いた直接変調方式であることが望ましい。
【0010】
本発明の他の一態様は、本発明の上記一態様における光送信装置と、光送信装置から出力される光信号が入力される光ファイバから成る光伝送路と、光伝送路を伝送された光信号を受信し、当該光信号を電気信号へ変換する光/電気変換器とを備えた光伝送システムであることを特徴とする。
【0011】
本発明の他の一態様において、光ファイバにおける光信号の分散は、波長1550nmにおいて、例えば約16〜20ps/nm/km程度であることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
分配された2以上の電気信号を周波数の異なる2以上の光信号へ変換し、これらを合成して光伝送路へ入力することにより、光エネルギーを複数の光波に分散させることができ、SBSによる反射戻り光の急増が抑えられ、大きな光パワー(光強度)の光信号の伝送距離が伸びる。また、光ファイバの波長分散による複数の光信号の位相ズレを抑制することができる。
【0013】
本発明の光送信装置及び光伝送システムによれば、SBSによる反射戻り光の急増を抑え、大きな光パワーの光信号を長距離伝送することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、図面を参照して、本発明の第1の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0015】
また、以下に示す第1の実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
[第1の実施の形態]
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る光送信装置及び光伝送システムの構成を説明する。
【0017】
(光送信装置)
光送信装置は、1つの電気信号を少なくとも2つの電気信号に分配する分配器(電気分配器)10と、分配された電気信号の少なくとも一方の電気信号の位相を調整する位相調整器12と、分配された電気信号のそれぞれを発光波長の異なる光信号へ変換する電気/光(E/O)変換器14、16と、E/O変換器14、16により変換された光信号の少なくとも一方の位相を調整する位相調整器18と、E/O変換器14、16より変換され、且つ位相が調整された光信号を合成する光合波器20と、光合波器20から伝送されてきた光信号を増幅する光増幅器24とを備える。
【0018】
図1の構成例において、位相調整器12は、分配器10により分配された2つの電気信号のうち1つの電気信号の位相を調整する。
【0019】
E/O変換器14は、位相調整器12から出力される電気信号を波長1533.264nmの光信号へ変換する。
【0020】
E/O変換器16は、分配器10から出力される電気信号を波長1533.808nmの光信号へ変換する。
【0021】
位相調整器18は、E/O変換器14、16により変換された2つの光信号の内、一方の光信号の位相を調整する。具体的に、位相調整器18は、E/O変換器14により変換された波長1533.264nmの光信号の位相を調整する。
【0022】
光合波器20は、位相調整器18から出力される光信号とE/O変換器16から出力される光信号とを合成する。すなわち、光合波器20は、発光波長の異なる光信号を合成する。
【0023】
光合波器20により合成された光信号は、遠方に配置された光受信装置(図示せず)内のO/E変換器28へ送信される。このように、光送信装置は、入力された電気信号を光信号へ変換して光受信装置(図示せず)へ送信する。O/E変換器28において、合成された光信号は元の電気信号に復調される。なお、E/O変換器14、16はレーザを用いた直接変調方式であることが望ましい。
【0024】
分配器10により分配された2つの電気信号は、それぞれ同軸ケーブル30、32によって、位相調整器12及びE/O変換器16へ伝送される。
【0025】
位相調整器18から出力される光信号は、シングルモード光ファイバ22によって、光合波器20へ伝送される。
【0026】
光増幅器24から出力される光信号は、シングルモード光ファイバ26によって、光受信装置(図示せず)内のO/E変換器28へ伝送される。シングルモード光ファイバ26における光信号の分散は、波長1550nmの光信号において、例えば約16〜20ps/nm/km程度であることが望ましい。
【0027】
(光伝送システム)
本発明の第1の実施の形態に係る光伝送システムは、上記の光送信装置と、光送信装置から出力される光信号が入力されるシングルモード光ファイバ26から成る光伝送路と、光伝送路を伝送された光信号を受信し、当該光信号を電気信号へ変換するO/E変換器(光/電気変換器)28とを備える。
【0028】
図1の構成例では、入力電気信号を電気的な分配器10で2分配する場合を示したが、3分配以上であっても構わない。3分配については、変形例において説明する。また、2分配された電気信号の内、一方にのみ電気的な位相調整器12を用いて位相を調整することにより、各々2台のE/O変換器14、16に入力する電気信号の位相を変えられるようにしたが、2つの電気的な位相調整器を配置して両方の電気信号に対して位相調整をそれぞれ行っても構わない。
【0029】
長距離伝送のために光パワーが大きく、且つ光波長のスペクトル幅が狭い光信号を光ファイバに入力すると、SBSにより光信号が急激に減衰してしまう。そこで、分配された2以上の電気信号を周波数の異なる2以上の光信号へ変換してから、これらを合成してシングルモード光ファイバ26へ入力する。これにより、シングルモード光ファイバ26に入力される光信号のスペクトル幅を広げることができる(光エネルギーを2つ以上の光波に分散)。
よって、SBSによる反射戻り光の急増が抑えられ、大きな光パワー(光強度)の光信号の伝送が可能となり、伝送距離が伸びる。即ち、複数の光波に光エネルギーを分散させることにより、光の散乱しきい値が向上する。
【0030】
(実験例)
図2は、図1のシングルモード光ファイバ26のファイバ長に対する復調後の電気信号の出力(信号レベル)を示す。本実験において、分配器10へ入力される電気信号の周波数は540MHzであり、シングルモード光ファイバ26として、波長1550nmの光信号において波長分散が16ps/nm/kmのものを用いた。
【0031】
また、シングルモード光ファイバ26のファイバ長は90kmであり、光変調度は10%であり、光増幅器24の出力は+16dBmであり、O/E変換器28に入力される光入力レベルを−3dBmとした。
【0032】
また、位相調整器12において片側の信号と比べ、0〜−140°の範囲で位相をずらした場合について、復調後の電気信号の信号レベルを測定した。図2に示すように、電気的な位相を調整することによって、信号劣化なく長距離光伝送ができることが確認できた。
【0033】
図3は、光ファイバに入射されるファイバ結合入射光強度(mW)と伝送光強度(mW)との関係、及びファイバ結合入射光強度(mW)と反射光強度(mW)との関係を示す。
【0034】
「ダブルレーザ(T)」は、入力される信号を2つの光信号に分散させた場合の光伝送強度(mW)を示し、「シングルレーザ(T)」は、入力される信号を分散させない場合の光伝送強度(mW)を示す。また、「ダブルレーザ(B)」は、入力される信号を2つの光信号に分散させた場合の反射光強度(mW)を示し、「シングルレーザ(B)」は、入力される信号を分散させない場合の反射光強度(mW)を示す。
【0035】
図3に示すように、ダブルレーザの伝送光強度は、ファイバ結合入射光強度が増すほど、シングルレーザの伝送光強度よりも強くなる。また、反射光強度が急激に増加し始める入射光強度のしきい値は、シングルレーザよりもダブルレーザの方が高い。つまり、ダブルレーザの方がより強い強度の入射光を伝送することができる。
【0036】
本発明の第1の実施の形態においては光エネルギーを2つの光波に分散させることにより、2倍の強度の光が伝送可能となり、長距離光伝送が実現される。
【0037】
なお、第1の実施の形態では電気的な位相調整器12により調整を行ったが、光による位相調整器18で調整を行っても同様な効果が得られる。
【0038】
(変形例)
図4を参照して、本発明の第1の実施の形態の変形例に係る光送信装置及び光伝送システムの構成を説明する。
【0039】
(光送信装置)
変形例において、分配器(電気分配器)10は、1つの電気信号を3つの電気信号に分配する。分配された3つの電気信号の内、2つの電気信号は、位相調整器12及び位相調整器36によってその位相が調整される。その後、3つの電気信号は、それぞれE/O変換器14、16、34によって互いに発光波長の異なる3つの光信号へ変換される。
【0040】
変換された3つの光信号のうちE/O変換器14で変換された光信号は位相調整器18によってその位相が調整される。そして、波長が異なる3つの光信号は光合波器20によって合成され、合成された光信号は光増幅器24によって増幅された後、遠方に配置された光受信装置(図示せず)内のO/E変換器28へ送信される。
【0041】
このように、光送信装置は、入力された電気信号を光信号へ変換して光受信装置(図示せず)へ送信する。O/E変換器28において、合成された光信号は元の電気信号に復調される。
【0042】
(光伝送システム)
本発明の第1の実施の形態の変形例に係る光伝送システムは、上記の光送信装置と、光送信装置から出力される光信号が入力されるシングルモード光ファイバ26から成る光伝送路と、光伝送路を伝送された光信号を受信し、当該光信号を電気信号へ変換するO/E変換器(光/電気変換器)28とを備える。
【0043】
3分配された電気信号の内、2つの電気信号は、位相調整器12及び位相調整器36によってその位相を調整することにより、各々3台のE/O変換器14、16、34に入力する電気信号の位相を変えられるようにしたが、3つの電気的な位相調整器を配置して互いの電気信号に対して位相調整をそれぞれ行っても構わない。
【0044】
分配器10により分配された3つの電気信号は、それぞれ同軸ケーブル30、32、38によって、位相調整器12、36及びE/O変換器16へ伝送される。位相調整器18から出力される光信号は、シングルモード光ファイバ22によって、光合波器20へ伝送される。光増幅器24から出力される光信号は、シングルモード光ファイバ26によって、光受信装置(図示せず)内のO/E変換器28へ伝送される。
【0045】
以上説明したように、分配された3つの電気信号を周波数の異なる3つの光信号へ変換してから、これらを合成してシングルモード光ファイバ26へ入力する。これにより、シングルモード光ファイバ26に入力される光信号のスペクトル幅をさらに広げることができる。
【0046】
本発明の第1の実施の形態の変形例に係る光伝送システムによれば、SBSによる反射戻り光の急増が抑えられ、大きな光パワー(光強度)の光信号の伝送が可能となり、伝送距離が伸びる。即ち、光波長のスペクトル波形を鈍らせてスペクトル幅を広げることにより、光の散乱しきい値が向上する。
【0047】
[その他の実施の形態]
上記のように、本発明は、第1の実施の形態、実験例及びその変形例によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0048】
また、第1の実施の形態、及びその変形例に係る光送信装置及び光伝送システムにおいては、電気的な分配器10において、2分配若しくは3分配する例について説明したが、入力電気信号をn分配(nは4以上の整数)し、互いに位相調整して光信号に変換後、光合波器により合成する構成とすることもできる。
【0049】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る光送信装置及び光伝送システムの構成を示す模式的ブロック構成図。
【図2】図1のシングルモード光ファイバ26のファイバ長に対する復調後の電気信号の出力を示すデータ表。
【図3】光ファイバに入射される光強度と伝送光強度との関係、及び光ファイバに入射される光強度と反射光強度との関係を示す特性図。
【図4】本発明の第1の実施の形態の変形例に係る光送信装置及び光伝送システムの構成を示す模式的ブロック構成図。
【図5】従来技術に係わる光送信器の構成を示す模式的ブロック構成図。
【符号の説明】
【0051】
1…変調信号源
2…半導体レーザ光源
3…信号源
4…外部変調器
5、24…光増幅器
10…分配器(電気分配器)
12、18、36…位相調整器
14、16、34…電気/光(E/O)変換器
20…光合波器
22、26…シングルモード光ファイバ
28…光/電気(O/E)変換器
30、32、38…同軸ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの電気信号を少なくとも2つの電気信号に分配する電気分配器と、
分配された電気信号のそれぞれを発光波長の異なる光信号に変換する電気/光変換器と、
前記電気/光変換器より変換された光信号の少なくともいずれか一方の位相を調整する位相調整器と、
前記電気/光変換器より変換され、且つ位相が調整された光信号を合成する光合波器と、
合成された光信号を増幅する光増幅器と
を備えたことを特徴とする光送信装置。
【請求項2】
前記電気/光変換器は、レーザを用いた直接変調方式であることを特徴とする請求項1記載の光送信装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の光送信装置と、
前記光送信装置から出力される光信号が入力される光ファイバから成る光伝送路と、
前記光伝送路を伝送された光信号を受信し、当該光信号を電気信号へ変換する光/電気変換器と
を備えたことを特徴とする光伝送システム。
【請求項4】
前記光ファイバにおける光信号の分散は、波長1550nmにおいて、16〜20ps/nm/kmであることを特徴とする請求項3記載の光伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−17035(P2009−17035A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174336(P2007−174336)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000147350)株式会社精工技研 (154)
【Fターム(参考)】