説明

光集積回路

【課題】挿入損失の波長依存性、位相誤差を低減して、使用可能な波長範囲を拡大できる光集積回路を提供することにある。
【解決手段】入力導波路11a,11b、出力導波路12a,12b、マルチモード干渉型光導波路部13からなる、任意の数の入出力導波路を有する光集積回路であって、所望の光の波長範囲に対して、入力導波路11a,11b、出力導波路12a,12bの少なくともどちらか一つの部分の導波路幅が光の伝搬方向に沿って変化し、前記入力導波路、前記出力導波路中の任意の点において、前記入力導波路の入力端からの入力フィールドの順伝搬のフィールドの波面と、前記出力導波路の出力端からの出力フィールドの逆伝搬させたフィールドの波面とが一致するように変動している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイスに関し、より詳しくは、光パワースプリッタ、波長合分波器などの光集積回路に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の光通信の利用の爆発的な広がりの中で、通信容量増加の要求に対応するために、光の波長ごとに情報を乗せる、波長分割多重技術(Wavelength division multiplexing : WDM)が導入された。WDMにおいては、例えば、信号を乗せた各波長の光を合波、または分波するための光デバイスが必要であるが、一般に、そうしたデバイスはその性能に波長依存性をもつために、限られた波長の範囲でしか使用できない。しかし、近年の爆発的な通信容量の増加に伴い、使用する光の波長範囲は拡大する一方であり、こうした光デバイスの使用波長範囲を広げることに対する要求が非常に高まっている。
【0003】
このような光合分波などの機能を実現する方法はいくつかあるが、代表的なものに平面光波回路(Planar lightwave circuit:PLC)を用いるものがある。PLCでは、平面状の基板に、フォトリソグラフィなどによるパターニングと、エッチング加工により、光導波路を用いた複数の基本的な光回路(例えば、方向性結合器、マッハ・ツェンダー干渉計など)を組み合わせることで各種の機能を実現する。
【0004】
そのような基本的な光回路のなかでも、マルチモード干渉型光導波路(Multi-mode interference waveguide:MMI)を用いた光回路は、その製造トレランスの強さ、波長依存性の少なさから広く用いられている。MMI光回路は一般に、任意の数の入出力導波路と、導波路幅の広いマルチモード干渉導波路(MMI部)からなり、入力導波路から入射された光は、MMI部で複数の導波モードに展開され、そのモード間での干渉を利用して、光の合分波などの機能を実現することができ、MMI単体、もしくは複数のMMIを用いた光合分波回路が実現されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】L.B. Soldano and E.C.M. Pennings, "Optical Multi-Mode Interference Devices Based on Self-Imaging: Principles and Applications", IEEE/OSA Journal of Lightwave Technology, vol. 13, No.4, pp.615-627, Apr. 1995.
【非特許文献2】Y. Sakamaki, T. Saida, T. Hashimoto, and H. Takahashi, "New Optical Waveguide Design Based on Wavefront Matching Method", IEEE/OSA Journal of Lightwave Technology, vol. 25, No.11, pp.3511-3518, Nov. 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MMIを用いた光回路の一つの強みは、マルチモード干渉部が幅広の導波路で形成されるために、波長依存性が小さくなることにあるが、それは同時に、その性能を変化させにくいということでもある。例えば波長依存性に着目した場合、マルチモード干渉部の構造が決定してしまえば、その波長依存性を更に低減するということは困難である。このため、WDM技術の導入により、要求される波長範囲が拡大される中で、MMIを用いる光回路の使用波長範囲が制限されることになる。
【0007】
以上のことから、本発明は上述したような課題を解決するために為されたものであって、挿入損失の波長依存性、位相誤差を低減して、使用可能な波長範囲を拡大できる光集積回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決する本発明に係る光集積回路は、入力導波路、出力導波路、マルチモード干渉型光導波路部からなる、任意の数の入出力導波路を有する光集積回路であって、所望の光の波長範囲に対して、前記入力導波路、前記出力導波路の少なくともどちらか一つの部分の導波路幅が光の伝搬方向に沿って変化し、前記入力導波路、前記出力導波路中の任意の点において、前記入力導波路の入力端からの入力フィールドの順伝搬のフィールドの波面と、前記出力導波路の出力端からの出力フィールドの逆伝搬させたフィールドの波面とが一致するように変動していることを特徴とする。
【0009】
また、前述した課題を解決する本発明に係る光集積回路は、入力導波路、出力導波路、マルチモード干渉型光導波路部からなる、任意の数の入出力導波路を有する光集積回路であって、前記マルチモード干渉型光導波路部の部分の導波路幅が光の伝搬方向に沿って変化し、所望の光の波長範囲に対して、当該マルチモード干渉型光導波路部の後端部での集光位置を均一化するように変動していることを特徴とする。
【0010】
また、前述した課題を解決する本発明に係る光集積回路は、上述した光集積回路において、前記入力導波路および前記出力導波路の長さを10〜200μmとすることを特徴とする。
【0011】
また、前述した課題を解決する本発明に係る光集積回路は、上述した光集積回路において、前記導波路部の変化量は、光の伝搬方向1μmあたり最大±0.1μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る光集積回路によれば、従来の光集積回路と同工程で作製可能でありながら、挿入損失の波長依存性、位相誤差を低減して、使用波長領域を大幅に拡大できるため、光通信の更なる普及に大きな効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施例に係る光集積回路の模式図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る光集積回路が具備する導波路の説明図である。
【図3】従来の2×2MMI光回路の特性図であって、図3(a)に挿入損失スペクトルを示し、図3(b)に出力導波路での界分布を示す。
【図4】本発明の第1の実施例に係る光集積回路の説明図であって、図4(a)に入力導波路の幅のみを変調したMMI光回路の挿入損失スペクトルを示し、図4(b)に出力導波路の幅のみを変調したMMI光回路の挿入損失スペクトルを示す。
【図5】本発明の第1の実施例に係る光集積回路の説明図であって、図5(a)に入出力導波路の幅を変調したMMI光回路の挿入損失スペクトルを示し、図5(b)に出力導波路での界分布を示す。
【図6A】本発明の第1の実施例に係る光集積回路が具備する第1の入力導波路の導波路形状を示す図である。
【図6B】本発明の第1の実施例に係る光集積回路が具備する第1の出力導波路の導波路形状を示す図である。
【図7A】本発明の第1の実施例に係る光集積回路による挿入損失スペクトルを示すグラフである。
【図7B】本発明の第1の実施例に係る光集積回路が具備するMMI部の導波路形状を示す図である。
【図7C】本発明の第1の実施例に係る光集積回路における、MMI部の幅のみを変調した場合の集光位置自乗誤差を示すグラフである。
【図8】本発明の第2の実施例に係る光集積回路の模式図である。
【図9A】本発明の第2の実施例に係る光集積回路の全体を示す図である。
【図9B】本発明の第2の実施例に係る光集積回路が具備する第2の入力導波路を示す図である。
【図9C】本発明の第2の実施例に係る光集積回路が具備するMMI部を示す図である。
【図9D】本発明の第2の実施例に係る光集積回路が具備する第2の出力導波路を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施例に係る光集積回路の特性を説明するための図であって、図10(a)に従来構造のMMI光回路の損失スペクトルを示し、図10(b)に導波路幅変調を行ったMMI光回路の損失スペクトルを示す。
【図11】本発明の第3の実施例に係る光集積回路の模式図である。
【図12】本発明の第4の実施例に係る光集積回路の模式図である。
【図13】本発明の第5の実施例に係る光集積回路の模式図である。
【図14】本発明の第6の実施例に係る光集積回路の模式図である。
【図15】本発明の第7の実施例に係る光集積回路の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る光集積回路を実施するための形態について、各実施例にて具体的に説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の第1の実施例に係る光集積回路について、図1〜図7を参照して具体的に説明する。
【0016】
本実施例に係る光集積回路は、図1に示すように、2×2MMI光回路であって、導波路長Linであり導波路幅Winである2本の入力導波路11a,11b、導波路長Loutであり導波路幅Woutである2本の出力導波路12a,12b、MMI部導波路長LMMIでありMMI部導波路幅WMMIであるマルチモード干渉導波路(MMI部)13を備える。
【0017】
入出力導波路11a,11b,12a,12bの具体的な構造を図2に示す。導波路は、図2に示すように、n型のInP基板1、InP下部クラッド層2、厚さ0.3μmのInGaAsPコア層3、p型のInP上部クラッド層4、及び、空気クラッド5で構成される。下部クラッド層2は基板1上に設けられる。コア層3は下部クラッド層2上に設けられる。上部クラッド層4はコア層3上に設けられる。下部クラッド層2、コア層3、上部クラッド層4は、同一幅であって、基板1よりも幅狭に形成される。つまり、下部クラッド層2、コア層3、および上部クラッド層4の両側が、空気クラッド5をなしている。コア層3はフォトルミネッセンス(PL)ピーク波長で1.3μm付近の光を発光するような組成となっており、基板1に格子整合している。
【0018】
次に、本実施例に係る光集積回路の製造方法を説明する。
まず、n型のInP基板上に、コア層3、上部クラッド層4を成長させる。フォトリソグラフィにより、図1に示すようなパターンを形成し、ドライエッチングにより基板1まで図2に示すようにエッチングをすることで、下部クラッド層2を含む、いわゆるハイメサ導波路構造を形成する。導波路メサの高さ(上部クラッド層から下部クラッド層までの高さ)には任意性があるが、光が閉じ込められるように十分に深くエッチングする必要がある。バーへき開をした後に両端面に無反射コーティングを施し、チップへき開をして完成となる。無反射コーティングを実現する方法はいくつかあるが、ここではTiO2とSiO2の多層膜をレーザ端面に堆積した。
【0019】
図3(a)に、従来の光集積回路である2×2MMI光回路において、入出力導波路幅Win=Wout=2μm、MMI部導波路幅WMMI=12μm、入出力導波路間隔dcore=4μm、入出力導波路長Lin=Lout=60μm、MMI部導波路長LMMI=200μm、入出力導波路をMMI部の中心に対して対称に配置した場合の挿入損失スペクトルをビーム伝搬法(Beam propagation method:BPM)によるシミュレーションによって算出したものを示す。本実施例では、通信波長帯のCバンド、Lバンド(1.52μm〜1.62μm)での使用を想定して、その中心である1.57μm付近で損失が最も小さくなるように構造パラメータを設計している。図3(a)から、通信波長帯のCバンド、Lバンド(1.52μm〜1.62μm)の端のほうでは損失が急激に増加しており、使用波長範囲は限定されてしまうのがわかる。例えば、挿入損失が0.2dB以下になる波長範囲は、1.55μm〜1.61μm程度であり、その他の波長範囲で使用するには、別設計のMMI光回路を用いるしかない。この波長依存性は主に、導波路内伝搬定数、モードフィールドの波長依存性から生じるMMI導波路内部での集光位置の波長依存性から生じている。波長ごとに集光位置が異なると、それぞれの波長での最適なMMI部の長さが変わることになり、最適な長さからずれている波長に関しては、放射損失が増すことになる。また、MMI導波路内部においては、複数の導波モードが励起されるが、あまりに高次のモードの励起パワーが大きいと、MMI後端部での界分布が乱れ、出力導波路にうまく結合せず、損失が増すことになる。図3(b)に出力導波路での波長1.52μmでの光の断面界分布を示す。図中横軸は図1において、WMMIと平行な方向を表す。また、出力導波路が始まる部分を0μmとして、40μmまでの伝搬波形をプロットしている。図3(b)から、MMI内部で高次モードが励振され、複数の大きなピークを有する界分布となっていることがわかる。
【0020】
導波路構造、幅などを変えることで特性を多少変化させることは可能だが、MMI部は導波路幅が広く、波長依存性小さいので、構造を変えたとしても波長依存性の大きな低減は見込めない。そこで本発明では、従来一定であった入出力導波路幅を変調することにより、MMI部入力部、出力部での界分布を変調することで、MMI部内部での集光位置を補正し、なおかつ、MMI部での高次モードの励振を抑制することにより、出力導波路での放射損失を低減することで、損失を低減している。導波路幅の具体的な形状を算出するために、ここでは波面整合法(Wavefront matching method:WFM)を用いる。WFMは、ある入出力をもつ光回路に対して、入力側から伝搬していく光と、出力側から伝搬していく光の波面を整合させるように屈折率分布を決定することで、回路の透過率を最大化させる構造を算出するシミュレーション技法であり、SiO2を材料に用いたPLC設計において大きな実績をもつ手法である(例えば、非特許文献2参照)。
【0021】
具体的にWFMを用いて、上記、損失の低減を目的とする導波路幅形状を算出するには、例えばBPMを用いて、入力側、出力側からそれぞれ、所望のモードフィールドをもつ光を伝搬させ、回路の中央で、2つの光の波面が整合するように導波路の幅を変化させる。この手順を複数回反復することで、損失を低減する導波路幅形状を決定できる。
【0022】
図4(a)に、2×2MMI光回路の入力導波路の導波路幅のみを変調させた場合の透過スペクトルの計算値を示し、(b)に2×2MMI光回路の出力導波路の導波路幅のみを変調させた場合の透過スペクトルの計算値を示す。図4(a),(b)から、従来構造(図3(a))の場合に比べて、損失が低くなり、透過特性が改善されていることがわかる。
【0023】
また、図5(a)にWFMによって算出した、入出力導波路の導波路幅を変調したMMI光回路の挿入損失スペクトルの計算値を示す。図5(a)から、波長1.52μm、1.62μm付近で損失が大幅に低減されていることがわかる。また、図5(b)には、出力導波路での波長1.52μmでの光の断面界分布を示す。図5(b)から、導波路幅の変調を行うことで、図3(b)の従来構造の場合に比べ、高次モードの励振が抑制され、より、出力導波路の基本モードのフィールドに近づいていることがわかる。よって、図5(a)で示された損失低減の理由は、図5(b)に示すように、入出力導波路幅を変調することで、MMI部での高次モードの励振を抑制することによるものである。図6Aに、図5の構造に対応する入力導波路の具体的な形状を示し、図6Bに、図5の構造に対応する出力導波路の具体的な形状を示す。図6Aおよび図6Bにおいて、ドットで示す領域が導波路コアを示し、それ以外がクラッドを示す。MMI部の導波路中心に対して対称構造のため、入力出力導波路それぞれ1本ずつの形状を示している。また、形状が良く見えるように導波路の端を拡大して図示している。図6Aおよび図6Bから、導波路幅が非周期的に変調されていることがわかる。このような形状は通常構造と全く同様に、一般的なフォトリソグラフィを用いて作製可能であり、従来と同様の作製技術を用いて、波長依存性を大幅に改善できることがわかる。また、損失の波長依存性が小さいため、製造誤差に強いことも利点となる。また、このとき、入出力導波路長を60μmとしているが、他の長さであってももちろん構わない。しかし、短すぎればモードフィールドの変調が十分にできず、長すぎれば損失が大きくなるため、10μm〜200μmとするのが良い。
【0024】
図7Aには、2×2MMI光回路にて、入出力導波路に加え、MMI部の導波路幅も変調した場合の損失スペクトルを示す。また図7BにMMI部の導波路形状を示す。図7Bにおいて、ドットで示す領域が導波路コアを示し、それ以外がクラッドを示す。入出力導波路ほど効果は大きくないが、更に損失の低減がなされているのがわかる。この理由を示すために、図7CにMMI部の導波路幅のみを変調した場合の、集光位置の自乗誤差を示す。図7Cにて、横軸はWFMを適用する際の反復回数に相当する。図7Cにおいて、1つの入力導波路から入射し2つの出力導波路から出射する場合であって、点線が入力側の集光自乗誤差を示し、実線Aが第1の出力導波路の集光自乗誤差を示し、実線Bが第2の出力導波路の集光自乗誤差を示す。自乗誤差は具体的に、以下に示す数式(1)により評価した。
【0025】
【数1】

【0026】
ここに、χ0(λi)は各波長に対応する集光位置、χcは損失が最も低くなる中心波長に対する集光位置、Nはサンプリングポイント数である。反復が進むごとに、自乗誤差は減少し、値が収束していくことがわかる。つまり、MMI部の変調により、集光位置の波長依存性が緩和され、損失の低減がなされている。
【0027】
よって、本実施例に係る光集積回路を用いることで、通常構造では、損失0.2dBの帯域が、1.55μm〜1.61μm程度であったのに対し、本発明では、C,Lバンド全域(1.52μm〜1.62μm)で損失0.2dB以下となり、ほぼ2倍の帯域を得ることができる。ここで、図7Bにおける、MMI部導波路の導波路幅の非周期的な変調は、光の伝搬方向(図7Bの横軸、z方向)1μmに対して、光の伝搬方向に垂直な方向(図7Bの縦軸、x方向)への変化幅は、最大±0.1μmである。これは、急激な光導波路幅の変調を禁止することで、波長依存性が滑らかとなり、再現性の優れた光回路を提供することができるからである。しかしながら、本発明は、この例に限定されるものではなく、より急峻な光導波路幅の変動があっても勿論構わない。
【0028】
したがって、本実施例に係る光集積回路によれば、MMI光回路に関して、製造方法は従来と同等でありながら、損失の波長依存性、位相誤差を大幅に低減して、使用波長領域を大幅に拡大することができる。
【実施例2】
【0029】
本発明の第2の実施例に係る光集積回路について、図8〜図10を参照して具体的に説明する。
本実施例では、上述した第1の実施例に係る光集積回路と同じものには同一符号を付記している。
【0030】
本実施例に係る光集積回路は、図8に示すように、2×2MMI光回路であって、入力導波路11a,11bとMMI部13との間のそれぞれに設けられたテーパ導波路部21a,21b、MMI部13と出力導波路12a,12aとの間のそれぞれに設けられたテーパ導波路部22a,22bを備える。入力導波路11a,11b側に設けられたテーパ導波路部21a,21bは、長さLtaperであり、最終的な導波路幅Wtaperである。出力導波路12a,12b側に設けられたテーパ導波路部22a,22bは、長さLtaperであり、MMI部13側の導波路幅Wtaperである。その他のパラメータは、第1の実施例に係る光集積回路と同じである。テーパの形状はここでは直線テーパとしているが、他の形状でもかまわない。
【0031】
上述の光集積回路の構造についても、WFMにより、入出力導波路、MMI部の導波路幅変調を行った導波路形状を算出し、形状を決定する。その形状を図9を用いて説明する。図9は、本実施例に係る光集積回路において、Ltaper=10μm、Wtaper=2.5μmとした場合の、WFMにより算出した図であって、図9Aにその全体構造を示し、図9Bに片方の入力導波路を示し、図9CにそのMMI部を示し、図9Dに片方の出力導波路の導波路幅形状を示す。図9A〜Dにおいて、ドットで示す領域が導波路コアを示し、それ以外がクラッドを示す。本実施例においても、上述した第1の実施例に係る光集積回路と同様に、非周期的な導波路幅が変調されている。
【0032】
図10にLtaper=10μm、Wtaper=2.5μmの場合の、実際に試作した構造の損失スペクトルの実験値を示す。図10(a)が通常構造、図10(b)が入出力導波路、MMI部の導波路幅を変調した構造に対するスペクトルである。図中には、製造誤差へのトレランスを示すために、故意に導波路形状のパラメータをシフトさせて作製した場合のスペクトルも示す。図から明らかに、導波路幅を変調した構造は、通常構造に比べて、損失の波長依存性が低減され、製造誤差にも強くなっていることがわかる。
【0033】
以上のことから、本実施例に係る光集積回路によれば、上述した第1の実施例に係る光集積回路と同様、MMI光回路に関して、製造方法は従来と同等でありながら、損失の波長依存性、位相誤差を大幅に低減して、使用波長領域を大幅に拡大することができる。
【実施例3】
【0034】
本発明の第3の実施例に係る光集積回路について図11を参照して具体的に説明する。
【0035】
本実施例に係る光集積回路は、図11に示すように、4×4MMI光回路であって、第1〜第4の入力導波路31a〜31d、第1〜第4の出力導波路32a〜32d、MMI部33を備える。このような構造の光集積回路に対し、入出力導波路31a〜31d,32a〜32d、MMI部33の導波路幅は、それぞれWFMにより算出した非周期的な形状に形成される。
【0036】
以上のことから、本実施例に係る光集積回路によれば、上述した第1の実施例および第2の実施例に係る光集積回路と同様、広帯域の損失低減を実現することができる。
【実施例4】
【0037】
本発明の第4の実施例に係る光集積回路について図12を参照して具体的に説明する。
【0038】
本実施例に係る光集積回路は、光90度ハイブリッド回路であって、図12に示すように、信号光が入力される第1の1×2MMI光回路42a、局発光が入力される第2の1×2MMI光回路42b、第1の2×2MMI光回路43a、第2の2×2MMI光回路43bを備える。
【0039】
第1の1×2MMI光回路42aは、1つの入力導波路41a、2つの出力導波路44a,44bを備える。第2の1×2MMI光回路42bは、1つの入力導波路41b、2つの出力導波路45a,45bを備える。出力導波路44a,45bは、それぞれ光路長差付与部分48a,48bを備える。
【0040】
第1の2×2MMI光回路43aは、2つの出力導波路46a,47aを備える。第2の2×2MMI光回路43bは、2つの出力導波路46b,47bを備える。
【0041】
上述した構成の光集積回路、すなわち、光90度ハイブリッド回路は、コヒーレント光通信の受信側において、信号光、局発光の位相差を光のパワーの差に変換する回路である。
【0042】
本実施例においても、上述した実施例と同様に、導波路幅を非周期的に変調することで、広帯域にわたって損失を低減することが可能である。
【実施例5】
【0043】
本発明の第5の実施例に係る光集積回路について図13を参照して具体的に説明する。
【0044】
本実施例に係る光集積回路は、光90度ハイブリッド回路であって、図13に示すように、信号光および局発光が入力される4×4MMI光回路を備える。4×4MMI光回路は、第1,第2,第3,第4の入力導波路51a,51b,51c,51d、第1,第2,第3,第4の出力導波路52a,52b,52c,52d、MMI部53を備える。第1の出力導波路52aは、光路長差付与部分54を備える。第1〜第4の入力導波路51a〜51d、第1〜第4の出力導波路52a〜52d、MMI部53の導波路幅は、上述した実施例と同様に、それぞれ非周期的に変調されている。
【0045】
本実施例においても、上述した実施例と同様に、導波路幅を非周期的に変調することで、広帯域にわたって損失を低減することが可能である。
【実施例6】
【0046】
本発明の第6の実施例に係る光集積回路について図14を参照して具体的に説明する。
【0047】
本実施例に係る光集積回路は、図14に示すように、波長可変レーザアレイであって、第1,第2,・・・,第11,第12の光源61a,61b,・・・,61k,61lのそれぞれに入力導波路が接続する12×1MMI光回路を備える。12×1MMI光回路は、第1,第2,・・・,第11,第12の入力導波路62a,62b,・・・,62k、62l、MMI部63、出力導波路64を備える。第1,第2,・・・,第11,第12の光源61a,61b,・・・,61k,61lは、それぞれ波長可変レーザであり、それぞれ並列に配置される。つまり、本実施例に係る光集積回路は、光源61a〜61lからの光出力を合波する。この光集積回路では,Cバンド全域の光の波長を12個の光源61a〜61lから出力可能である。通常構造のMMI光回路では,Cバンド真中の波長で最も損失を低くするように設計した場合、Cバンドの端の波長では損失が大きくなるが、本実施例に係る光集積回路によるMMI光回路を用いることにより、Cバンドの端の波長に対しても低損失に光を合波することが可能である。
【実施例7】
【0048】
本発明の第7の実施例に係る光集積回路について図15を参照して具体的に説明する。
本実施例は、100ギガビットイーサネット(登録商標)(100GbE)用モノリシック集積光源に適用したものである。
【0049】
100GbE用光源では、規格で定められた4つの異なる波長に対してそれぞれ25Gbit/sで動作する光源が必要であるが、それらを個別に用いると、送信機のサイズが大きくなるため、小型化が強く望まれている。4つの光源を集積することによって小型化が可能であるが、その際には低損失な合波器が必要となる。そこで、本実施例に係る光集積回路では、4×4,4×1のMMI光回路を組み合わせた、いわゆるトランスバーサルフィルタを用いている。すなわち、光集積回路は、図15に示すように、第1〜第4の光源71a〜71dのそれぞれに入力導波路72a〜72dのそれぞれが接続する4×4MMI光回路73、4×4MMI光回路73に接続する4×1MMI光回路75を備える。
4×4MMI光回路73は、4つの出力導波路74a,74b,74c,74dを備える。出力導波路74a,74b,74dは、それぞれ光路長差付与部分77a,77b,77cを備える。4×1MMI光回路75は、出力導波路76を備える。
【0050】
本実施例においても、上述した実施例と同様に、導波路幅を非周期的に変調することで、4つの波長に対して低損失な合波器を実現可能である。
【0051】
なお、上記では、コア層の材料をInP基板上に成長したInGaAsPとしたが、これが他の材料、例えば、InGaAlAsでもGaInNAsでも同じ効果を得ることができる。また、基板をInPとしているが、GaAsでもサファイア基板でもシリコン基板でも、他の半導体基板でも同様な効果を得ることができる。
【0052】
また、上記では、素子が対象としている光の波長範囲が、1.55μm付近の光の例のみを示しているが、他の波長帯、例えば、1.3μm付近の光に対しても同様の効果を得ることができる。
【0053】
また、上記では、導波路の構造をハイメサ導波路構造としているが、いわゆるリッジ構造や埋め込み構造でも構わないし、クラッドは有機物などで埋めた構造とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る光集積回路は、従来と同工程で作製可能でありながら、使用波長領域を大幅に拡大できるため、光通信産業等を始めとする各種産業において、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 InP基板
2 InP下部クラッド層
3 InGaAsPコア層
4 InP上部クラッド層
5 空気クラッド
11a,11b 入力導波路
12a,12b 出力導波路
13 マルチモード干渉型導波路部(MMI部)
21a,21b テーパ導波路部
22a,22b テーパ導波路部
31a〜31d 入力導波路
32a〜32d 出力導波路
33 マルチモード干渉型導波路部(MMI部)
41a,41b 入力導波路
42a,42b マルチモード干渉型導波路部(MMI部)
43a,43b マルチモード干渉型導波路部(MMI部)
44a,44b 出力導波路
45a,45b 出力導波路
46a,46b 出力導波路
47a,47b 出力導波路
48a,48b 光路長差付与部分
51a〜51d 入力導波路
52a〜52d 出力導波路
53 マルチモード干渉型導波路部(MMI部)
54 光路長差付与部分
61a〜61l 光源
62a〜62l 入力導波路
63 マルチモード干渉型導波路部(MMI部)
64 出力導波路
71a〜71d 光源
72a〜72d 入力導波路
73 マルチモード干渉型導波路部(MMI部)
74a〜74d 出力導波路
75 マルチモード干渉型導波路部(MMI部)
76 出力導波路
77a〜77c 光路長差付与部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力導波路、出力導波路、マルチモード干渉型光導波路部からなる、任意の数の入出力導波路を有する光集積回路であって、
所望の光の波長範囲に対して、前記入力導波路、前記出力導波路の少なくともどちらか一つの部分の導波路幅が光の伝搬方向に沿って変化し、前記入力導波路、前記出力導波路中の任意の点において、前記入力導波路の入力端からの入力フィールドの順伝搬のフィールドの波面と、前記出力導波路の出力端からの出力フィールドの逆伝搬させたフィールドの波面とが一致するように変動している
ことを特徴とする光集積回路。
【請求項2】
入力導波路、出力導波路、マルチモード干渉型光導波路部からなる、任意の数の入出力導波路を有する光集積回路であって、
前記マルチモード干渉型光導波路部の部分の導波路幅が光の伝搬方向に沿って変化し、所望の光の波長範囲に対して、当該マルチモード干渉型光導波路部の後端部での集光位置を均一化するように変動している
ことを特徴とする光集積回路。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光集積回路において、
前記入力導波路および前記出力導波路の長さを10μm〜200μmとする
ことを特徴とする光集積回路。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の光集積回路において、
前記導波路部の変化量は、光の伝搬方向1μmあたり最大±0.1μmである
ことを特徴とする光集積回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−7808(P2013−7808A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139124(P2011−139124)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】