説明

光電変換素子及びその製造方法

【課題】高出力が可能な水系の電解質を有する光電変換素子を提供する。
【解決手段】多孔性半導体層に色素が吸着した光電変換層1と、対電極2と、少なくとも水を含む電解質を含む電荷輸送層3、を備える光電変換素子であって、吸着色素は、多孔性半導体11に吸着していない極性基を有することで、多孔性半導体11の細孔内部まで電解質の浸透を促す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換素子として、種々の太陽電池が提案されている。係る太陽電池の中で色素増感太陽電池は、1991年にスイスのローザンヌ工科大学のグレッツェルらによって開発されたものであり、一般に、導電性基材上に色素を吸着した半導体からなる光電変換層を持つ半導体電極と、該半導体電極に相対向して設けられた導電性基材からなる対電極と、これら半導体電極と対電極との間に保持された電荷輸送層とを備えてなる。
【0003】
色素が吸着された半導体からなる光電変換層を有する半導体電極、電荷輸送層、対電極などから形成される光電変換素子は、色素増感太陽電池などのエネルギーデバイスや、光センサーなどへの応用が期待されている。その中でも色素増感太陽電池は、有機系太陽電池の中で高変換効率を示すため、広く注目されている。この色素増感太陽電池で用いられている半導体材料からなる光電変換層には、半導体表面に可視光領域に吸収を持つ分光増感色素を吸着させたものが用いられている。
【0004】
従来、上記電荷輸送層は、半導体電極と対電極との間に、有機溶媒にヨウ素/ヨウ化物イオンが溶解した電解質を注入することにより形成されていた。このため、溶媒の揮発による電解質の組成の変化が起こり、長期安定性に問題を生じる可能性があった。また、有機溶媒を含む電解質では、非水環境下、好ましくは脱水状態で、製造工程を実施しなければならず、それゆえに、製造工程が煩雑化し、また、環境整備に要する製造コストが増加するという問題があった。
【0005】
それらの課題を考えると、水を含む電解質を用いた光電変換素子の開発が切望されている。そこで、有機溶媒を水に代える発明がこれまでに多く開示されている。特許文献1及び2には、有機溶媒を含まない電解質、具体的には、ヨウ化リチウム、ヨウ素及び水を含む電解液が提案されており、これを用いることで、0.7V程度の起電力が得られることが記載されている。しかし、溶媒を有機系から水に代えると出力が低くなる傾向にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−308889号公報
【特許文献2】特開2003−308890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明では、水を含む電解質を用いた高出力を達成する光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の一実施形態によれば、
多孔性半導体層に色素が吸着した光電変換層と、
対電極と、
少なくとも水を含有する電解質を含む電荷輸送層と、
を備え、
前記吸着した色素は、前記多孔性半導体層に吸着していない極性基を有する色素を含むことを特徴とする光電変換素子、
が提供される。
【0009】
また、本発明の別の実施形態によれば、
色素が吸着した多孔性半導体層を含む半導体電極と、
対電極と、
少なくとも水を含有する電解質層と、
を備え、
前記吸着した色素は、前記多孔性半導体層に吸着していない極性基を有する色素を含むことを特徴とする光電変換素子、
が提供される。
【0010】
加えて、本発明のさらに別の実施形態によれば、
多孔性半導体層を形成する工程と、
前記多孔性半導体層を色素溶液に浸漬して、前記多孔性半導体層に色素を吸着させ、光電変換層を形成する工程と、
前記光電変換層と対電極とが存在する空間に、少なくとも水を含む電解質を封入する工程とを備え、
前記色素として、前記多孔性半導体層に吸着するアンカー基と、前記吸着に関与しない極性基とを含む色素を少なくとも用いることを特徴とする光電変換素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明よれば、水を含む電解質を用いた高出力を達成する光電変換素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る色素の吸着状態と電子移動を示す拡大概念図である。
【図2】光電変換素子の動作を説明する概念図。
【図3】従来の色素による吸着状態と電子移動を示す拡大概念図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る色素増感太陽電池(DSC)の概略を示す模式図である。
【図5】本発明の光電変換素子の一実施形態に係る光電変換システムの具体例を示す図。
【図6】光電変換システムに用いられる光電変換素子スタックとしてW型のスタックモジュールの構造を示す模式断面図。
【図7】光電変換システムに用いられる光電変換素子スタックとしてS型のスタックモジュールの構造を示す模式断面図。
【図8】光電変換システムに用いられる光電変換素子スタックとしてZ型のスタックモジュールの構造を示す模式断面図。
【図9】光電変換システムに用いられる光電変換素子スタックとしてグリッド配線型のスタックモジュールの構造を示す模式断面図。
【図10】本発明の光電変換素子を用いた光センサの回路構成例を示す図。
【図11】実施例1及び比較例1におけるI−V測定の結果を示すグラフ。
【図12】実施例2及び比較例2におけるI−V測定の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の光電変換素子の実施形態を詳しく説明する。なお、本発明の範囲内で種々の実施形態での実施が可能である。
【0014】
本発明の光電変換素子は、図1に示すように、多孔性半導体層(11)に色素が吸着した光電変換層(1)と、対電極(2)と、少なくとも水を含有する電解質を含む電荷輸送層(3)と、を備え、前記吸着した色素は、前記多孔性半導体層(11)に吸着していない極性基を有する色素を含むことを特徴とする。なお、本発明において、図示しない導電性基板と、該導電性基板上に前記色素を少なくとも吸着した多孔性半導体層とを合わせて半導体基板と呼ぶ場合がある。また、電解質を含む層を電解質層と呼ぶ場合がある。
【0015】
〔第一の実施形態〕
図2は、本発明の一実施形態に光電変換素子の構造を示す概略図である。図1において、1は表面に色素が吸着した多孔性半導体(11)からなる光電変換層、2は対電極、3は少なくとも水を含有する電解質を含む電荷輸送層である。また、光電変換層1から電流を取り出す透明導電層(13)と透明基板(12)からなる透明導電性基板4を任意に有する。
【0016】
1.光電変換層
光電変換層は、多孔性半導体層11に光増感剤として機能する色素が吸着した構造を有する。
【0017】
1−1.多孔性半導体
1−1−1.材料・構造
多孔性半導体層11を構成する半導体材料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウムなどの公知の半導体が挙げられる。これらの半導体材料は2種類以上を混合して用いることもできる。これらの中でも、変換効率、安定性、安全性の点から酸化チタンが特に好ましい。このような酸化チタンとしては、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、無定形酸化チタン、メタチタン酸、オルソチタン酸などの種々の酸化チタン、含酸化チタン複合体などが挙げられる。その中でもアナターゼ型酸化チタンであることが好ましい。
【0018】
これら半導体材料の微粒子などを焼結することにより多孔性半導体層として用いる。
【0019】
このように形成される半導体層は、単層であっても多層であってもよい。多層にすることによって、十分な厚さの半導体層を容易に形成することができる。また、多孔性の多層半導体層は、平均粒径の異なる半導体微粒子層からなってもよい。例えば、光入射側に近い方の半導体層(第1半導体層)を構成する半導体微粒子の平均粒径を、遠い方の半導体層(第2半導体層)より小さくすることにより、第1半導体層で多くの光を吸収させ、第1半導体層を通過した光は、第2半導体層で散乱させて第1半導体層に戻して第1半導体層で吸収させることにより、全体の光吸収率を向上させることができる。半導体層の膜厚は、特に限定されるものではないが、透過性、変換効率などの観点より、0.5〜45μm程度が望ましい。
【0020】
多孔性半導体層の比表面積は、多量の色素を吸着させるために、10〜200m/gが好ましい。また色素を吸着させるため、及び電解質中のイオンが十分に拡散して電荷輸送を行うためには空隙率は40〜80%が好ましい。なお、空隙率とは、半導体層の体積の中で、半導体層中の細孔が占める体積の割合を%で示したものとする。
【0021】
1−2−2.多孔性半導体層の形成方法
次に、上記多孔性半導体層の形成方法について説明する。多孔性半導体層は、例えば、半導体微粒子を高分子などの有機化合物及び分散剤と共に、有機溶媒や水など分散媒に加えて懸濁液を調製し、この懸濁液を導電性を有する基板上に塗布し、これを乾燥、焼成することによって形成することができる。
【0022】
半導体微粒子と共に分散媒に有機化合物を添加しておくと、焼成時に有機化合物が燃焼して多孔性半導体層内に隙間を確保することが可能となる。また焼成時に燃焼する有機化合物の分子量や添加量を制御することで空隙率を変化させることができる。なお、有機化合物の種類や量は、使用する微粒子の状態、懸濁液全体の総重量等により適宜選択し調整することができる。ただし、半導体微粒子の割合が懸濁液全体の総重量に対して10wt%以上のときは、作製した膜の強度を充分に強くすることができ、半導体微粒子の割合が懸濁液全体の総重量に対して40wt%以下であれば、空隙率が大きな多孔性半導体層を得ることができるため、半導体微粒子の割合は懸濁液全体の総重量に対して10〜40wt%であることが好ましい。
【0023】
上記半導体微粒子としては、適当な平均粒径、例えば1nm〜500nm程度の平均粒径を有する単一または化合物半導体の粒子などが挙げられる。その中でも比表面積を大きくするという点から1〜50nm程度の平均粒径のものが望ましい。また入射光の利用率を高めるという点から、200〜400nm程度の平均粒径の大きな半導体粒子を添加してもよい。
【0024】
半導体微粒子の製造方法としては、水熱合成法などのゾル−ゲル法、硫酸法、塩素法などが挙げられ、目的の微粒子を製造できる方法であればどのような方法を用いてもよいが、結晶性の観点より、水熱合成法により製造することが好ましい。
【0025】
有機化合物は、懸濁液中に溶解し、焼成するときに燃焼して除去できるものであれば何れも用いることができる。例えば、ポリエチレングリコール、エチルセルロース等の高分子が挙げられる。懸濁液の分散媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテル等のグライム系溶媒、イソプロピルアルコール等のアルコール系、イソプロピルアルコール/トルエン等の混合溶媒、水等が挙げられる。
【0026】
懸濁液の塗布方法としては、ドクターブレード法、スキージ法、スピンコート法、スクリーン印刷法等公知の方法が挙げられる。その後、塗膜の乾燥、焼成を行う。乾燥と焼成の条件は、大気下又は不活性ガス雰囲気下、50〜800℃程度の範囲内で、10秒から12時間程度が挙げられる。この乾燥及び焼成は、単一の温度で1回又は温度を変化させて2回以上行うことができる。
【0027】
このように形成される多孔性半導体層は、例えば、平均細孔径として、3nm〜100nmの範囲であることが好ましく、5nm〜50nmの範囲であることより好ましい。なお、平均細孔径は、BET法で測定される細孔分布から換算して求めることができる。
【0028】
1−2.色素
本発明において、光増感剤として色素を用いる。光増感剤として機能する色素(以下、単に「色素」と記す。)は、種々の可視光領域及び赤外光領域に吸収を持つものであって、半導体上に強固に吸着させるために、色素分子中にアンカー基を有するものが使用される。「アンカー基」とは、半導体上に化学吸着することを可能にする任意の官能基を含む有機残基を示し、例えば、カルボキシル基(−COOH)、スルホン酸基(−SOH)、ホスホニル基(−PO(OH))、ホウ酸基(−BO)、チオール基(−SH)、ヒドロキシル基(−OH)、アミノ基(−NH)など半導体上に吸着する官能基(インターロック基)を含むものであることが好ましく、特にカルボキシル基を含むものが好ましい。化学吸着の形態としては、主に共有結合によるものが好ましい。
【0029】
本発明におけるアンカー基は、上記のインターロック基と共に、電子求引性基を有する有機残基であることが好ましい。例えば、電子求引性基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ニトロ基、シアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、パーフルオロアルキルスルホニル基、パーフルオロアリールスルホニル基、ローダニン環等が挙げられる。中でも、半導体への吸着能の高いカルボキシル基と電子求引性の高いシアノ基とを有する有機残基が好ましい。
【0030】
また、構造中に、π共役系の構造を有することにより、半導体への電荷の流れがスムーズとなり、良好な特性を示すことから好ましい。例えば、アンカー基としては、以下の式(1)で表される構造を例示することができる。
【0031】
【化1】

【0032】
(式(1)中、Y,Yはそれぞれ独立に、水素原子、インターロック基、電子求引性基、若しくは、インターロック基及び電子求引性基の少なくとも一方を有する有機残基であり、Y,Yはの少なくとも一方はインターロック基を含む。Yは水素原子または電子求引性基、若しくは電子求引性基を含む有機残基である。また、YとY、YとY、YとYが結合して環を形成しても良い。)
【0033】
式(1)で表されるアンカー基の好ましい例としては、以下の構造が挙げられる。
【0034】
【化2】

【0035】
これらの中でもシアノ酢酸系のアンカー基であることが好ましい。このようなアンカー基と色素母骨格との間にはさらにπ共役系のリンカー基を有していても良い。π共役系のリンカー基としては、−(CH=CH)−(qは1以上の整数)や(ポリ)チオフェン基などが挙げられる。
【0036】
本発明で使用する色素は、上記アンカー基以外に吸着に関与しない極性基を少なくとも1つ有する。なお、本発明において、「吸着に関与しない」とは、半導体層に吸着せずに残存している極性基であって、半導体に吸着する官能基の近傍にあって吸着に何らかの形(例えば、水素結合やイオン結合等)で関与する極性基を除く。
【0037】
吸着に関与しない極性基は、アンカー基よりも半導体への吸着力が小さいものであることが好ましい。また、吸着に関与しない極性基は、アンカー基に対して色素分子の長手方向の対極に位置していることが好ましい。この結果、アンカー基が半導体へ吸着すると、吸着に関与しない極性基は半導体表面から引き離され、この極性基が半導体に吸着することがなくなる。
【0038】
本発明で使用する色素としては、好ましくは、下記式(2)で表される構造を有するものが好ましい。
【0039】
【化3】

【0040】
(式中、Chは色素母骨格を表し、
Gは、−COOH、−SOH、−PO、−BO、−SH、−OH、−NHから選択され、好ましくは−COOHである。
Aは、H、−CN、−NO、−COOR、−COSR、−COR、−CSR、−NCS、−CF、−CONR、−OCF、C5−r(式中、r=1〜5であり、Rは、Hまたは一般式−C2s+1(式中、s=0〜12、好ましくは0〜4である)の任意の直鎖状もしくは分枝状アルキル鎖、または任意の置換もしくは非置換フェニルもしくはビフェニルである)を含む基から選択され、好ましくは−CNである。
Dは極性基を含む有機残基であり、好ましくはアルコール性水酸基、フェノール性水酸基、エーテル基、エステル基、アミド基等が挙げられる。
m、nは1以上の整数を表し、好ましくは、1または2である。)
【0041】
上記一般式(2)において、半導体への吸着はGで表される基により行われる。Gの対極に位置するDに含まれる極性基は、半導体には吸着せず、吸着に関与しない極性基となる。
【0042】
本発明では、水を含む電解質を用いる光電変換素子において、選択的にこのようなアンカー基と吸着に関与しない極性基とを有する色素を用いる点に特徴がある。
【0043】
ここで、色素母骨格としては、例えば、ルテニウム金属錯体色素(ルテニウムビピリジン系金属錯体色素、ルテニウムターピリジン系金属錯体色素、ルテニウムクォーターピリジン系金属錯体色素など)、アニリン系色素、アゾ系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、キナクリドン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ペリレン系色素、インジゴ系色素、ナフタロシアニン系色素、クマリン系色素などが挙げられる。その中でも有機色素が好ましく、また、比較的分子構造の小さな色素であることが好ましい。なお、色素中に長鎖アルキル基などの疎水性の高い基が存在すると、効果が損なわれる場合がある。色素としては、1種のみを用いても、2種以上を組合せて用いても良い。2種以上組合せて用いる場合、吸着に関与しない極性基を有さない従来公知の色素と組合せても良い。但し、前述の通り、疎水性の高い基を有する色素との組合せは好ましくない。なお、「色素母骨格」とは、上記のアンカー基及び極性基を有していない状態で、光吸収能を有する発色団を意味する。色素母骨格には、色素溶液を調製する際の溶剤への溶解性を改良する、色素同士の会合を防止する、色素の吸収波長域を調整するなどの目的で上記のアンカー基及び極性基以外に任意の置換基を有していても良い。
【0044】
Dで表される極性基を含む有機残基は、好ましくはアルコール性水酸基、フェノール性水酸基、エーテル基、エステル基、アミド基等である。アルコール性水酸基としては、炭素数1〜12のアルキレン基にヒドロキシル基が結合したものが挙げられ、より好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基にヒドロキシル基が結合したものである。フェノール性水酸基としては、フェニレン基に少なくとも1個のヒドロキシル基を有するものを挙げることができる。エーテル基としては、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルコキシアルコキシアルキル基等の−O−C−結合を有するものであり、メチレン鎖として炭素数2または3のもの(エチレンオキシまたはプロピレンオキシ)が好ましい。また、フラン環やクラウンエーテル等の環状エーテルであっても良い。エステル基としては、酸基に対してアルキル基やアリール基がエステル結合している基が挙げられ、特にカルボン酸エステル基が好ましい。
【0045】
特に色素としてドナー/アクセプター型の有機色素であり、ドナー部分に吸着に関与しない極性基を有し、アクセプター部分にアンカー基を有する色素が好ましい。なお、アンカー基自体がアクセプターであっても良い。つまり、光吸収によりドナー部分で発生した電子は、速やかにアクセプター部分に移動し、さらにインターロック基を介して半導体層に移動する。一方、レドックス対からの電子は、ドナー部分に供給され、色素が再生される。また、アンカー基に電子求引性基を有することで、さらにドナー部分からの電子の移動が促進される。
【0046】
光電変換素子では、図2に示すように、
(1)光電変換層1において、多孔性半導体層11(TiO多孔質膜)に吸着している色素が、光を吸収する。
(2)色素から電子がTiO多孔質膜11に注入される。
(3)TiO多孔質膜11に注入された電子は、透明基板12と透明導電層13からなる透明導電性基板4から、外部回路を通って、対電極2に達する。
(4)対電極2の表面で、電子は、電荷輸送層2中の電解質の酸化体(Ox)に渡され、Oxを還元して還元体(Red)ができる。
(5)Redは、光を吸収して酸化された色素に電子をわたし、色素は再生する。これと同時に、Redは、Oxに酸化される。
【0047】
この時、本発明に係るアンカー基の対極に吸着に関与しない極性基(例としてヒドロキシル基)を有する色素Aの場合、図1に示すように、アンカー基側で光電変換層1(多孔性半導体層11表面)に吸着し、ヒドロキシル基を外側に向けたミセルのような形態が得られる。これにより、水分子はヒドロキシル基近傍に引き寄せられるものと考えられる。また、分子構造の小さな色素は、多孔性半導体層11の細孔(微粒子間の間隙)深くにまで浸透し、細孔内部まで水を浸透させることができ、レドックス対からの電子が細孔内部の色素Aまで行き渡るものと考えられる。一方、このような極性基を有さない色素Bの場合、図3に示すように、電解質(水)は多孔性半導体層11の細孔深部には侵入できず、多孔性半導体層11の外表面の色素Bとレドックス対との間でのみ電子授受が行われるものと考えられる。この結果、色素の利用効率が低下し、起電力の低下が起こっていると考えられる。
【0048】
本発明で使用するアンカー基と吸着に関与しない官能基を有する色素は、一部、市販品として入手可能である。また、吸着に関与しない官能基を有していないが、所望のアンカー基を有する光電変換素子用の色素に、ヒドロキシル基などを公知の方法で導入することにより製造することができる。
【0049】
半導体層に色素を吸着させる方法としては、例えば基板上に形成された多孔性半導体層を、色素を溶解した溶液に浸漬する方法が挙げられる。色素を溶解するために用いる溶媒は、エタノールなどのアルコール系、アセトンなどのケトン系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリルなどの窒素化合物、クロロホルムなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチルなどのエステル類などが挙げられる。またこれらの溶媒は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0050】
溶液中の色素濃度は、使用する色素及び溶媒の種類は適宜調整することができ、吸着機能を向上させるためにはある程度高濃度である方が好ましい。例えば、5×10−5mol/L以上の濃度とすることができる。
【0051】
色素を溶解した溶液中に多孔性半導体層を浸漬する際、溶液及び雰囲気の温度、並びに圧力は特に限定されるものではなく、例えば室温程度、かつ大気圧下が挙げられ、浸漬時間は使用する色素、溶媒の種類、溶液の濃度などにより適宜調整することができる。なお、効果的に行うには加熱下にて浸漬を行えばよい。これにより、多孔性半導体層に色素を吸着させることができる。
【0052】
また色素を吸着する際に、色素及びその吸着状態や、多孔性半導体層を構成するTiO等の微粒子表面などを制御するために、色素を溶解した溶液にデオキシコール酸(Deoxycholic Acid)やグアニジンチオシアナート(Guanidine Thiocyanate)、tert−ブチルピリジン、エタノールなどの有機化合物を加えてもよい。
【0053】
2.対電極
対電極としては、支持基板上に白金等の金属触媒やカーボンの膜が存在するものなどが挙げられる。特に、白金であることが好ましい。これらの膜厚は触媒機能を発現できる厚さであればよく、1nm〜2μm程度が望ましい。
【0054】
3.電荷輸送層
3−1.電解質
本発明では、溶媒として少なくとも水を含む。水以外に水に相溶する有機溶媒を添加しても良い。全溶媒中に含まれる水の量としては、50Vol%以上であることが好ましく、70Vol%以上がより好ましい。実質的に水のみであっても良い。
【0055】
添加する有機溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドなどの含窒素化合物、メトキシプロピオニトリルやアセトニトリルなどのニトリル化合物、γ−ブチロラクトンやバレロラクトンなどのラクトン化合物、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテルなどのエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、さらにはイミダゾール類などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0056】
電解質中には、光電変換層(半導体電極)と対電極との間で電荷移動を可能とする電荷輸送物質が含まれる。電荷輸送物質としては、増感色素との電荷授受をスムーズに行うため、酸化還元対(レドックス対)を含むことが好ましい。
【0057】
〔第二の実施形態〕
次に、本発明の光電変換素子の一実施形態例として、色素増感太陽電池について説明する。
図4は、本発明の光電変換素子の一実施形態に係る色素増感太陽電池の基本構造を示す断面模式図である。図示するように、この色素増感太陽電池は、光透過性を有する透明基板(21)、この透明基板(21)の表面に形成された光透過性を有する透明導電膜(22)、及び、透明導電膜(22)上に形成された色素を吸着した多孔性半導体層である光電変換層(23)からなる半導体電極(28)と、この半導体電極(28)と相対向する位置に設けられた対極(29)と、半導体電極(28)と対極(29)との間に保持された電荷輸送層(24)とを備えてなる。対極(29)は、導電膜(26)が形成された透明基板又は支持基板(27)からなり、この導電膜(26)の表面に白金触媒層(25)が形成されている。そして、電荷輸送層(24)が、水と、電荷輸送物質とを含有する電解質を含む。
【0058】
この構造を持つ色素増感太陽電池において、透明基板(21)側から光(太陽光)が照射されると、光は、透明基板(21)、透明導電膜(22)を透過して、光電変換層(23)に吸着された色素に照射され、色素は光を吸収して励起する。この励起によって発生した電子は光電変換層(23)から透明導電膜(22)に移動する。透明導電膜(22)へ移動した電子は、外部回路を通じて対極(29)に移動し、対極(29)から電荷輸送層(24)を通って色素に戻る。このようにして電流が流れ、光電変換(発電)を行うことができる。
【0059】
半導体電極(28)
透明基板(21)
透明基板は、例えば、ガラス基板、プラスチック基板などの透明性の高い基板が例示できる。
【0060】
透明導電膜(22)
透明基板(21)に形成される透明導電膜(22)の種類は、特に限定されるものではないが、例えばITO、FTO、SnOなどの金属酸化物からなる透明導電膜が好ましい。透明導電膜の作製方法及び膜厚などは、適宜選択することができるが、1nm〜5μm程度の膜厚ものを用いることができる。
【0061】
光電変換層(23)
光電変換層は、第一の実施形態で説明した色素を吸着させた多孔性半導体層が好適に使用できる。
【0062】
電荷輸送層(24)
電荷輸送層(24)には、主として水を溶媒とする液状媒体中に電荷輸送物質を溶解した液状電解質を含む。
【0063】
また、電荷輸送層24には、セパレータなどの多孔性の絶縁材料を含んでいても良い。セパレータに上記の液状電解質を含浸させることで、光電変換層と対電極とが直接接触することを防止すると共に、両者間の電荷輸送を行うことができる。
【0064】
電荷輸送物質としては、第一の実施形態で説明したように、レドックス対を形成するものが好ましい。レドックス対としては、水に対して少なからず溶解性のあるものを使用することが好ましい。例えば、背景技術に示したヨウ素イオンのレドックス対(I/I)、金属錯体型レドックス対、ニトロキシルラジカル型レドックス対などが挙げられる。
【0065】
また、水に対して溶解性の低いレドックス対であっても、水と相溶性のある溶媒に溶解できる場合には、使用できる場合がある。
【0066】
本発明では、ニトロキシルラジカル型レドックス対を含むことが好ましい。
【0067】
ニトロキシルラジカル型レドックス対は、下記式(5)に示すように、ラジカル状態とカチオン状態との平衡状態を示す。
【0068】
【化4】

【0069】
特に、本発明では、環状ニトロキシルラジカルによるレドックス対が好ましい。環状ニトロキシルラジカルは、下記一般式(3)で表される環状ニトロキシルラジカルがより好ましい。
【0070】
【化5】

【0071】
(式中、Eは、ニトロキシルラジカルの窒素原子及びR〜Rが結合している2個の炭素原子と共に5〜7員の複素環を構成する2価の基であって、置換基を有してもよい。R、R、R、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、置換もしくは無置換のアルキル基を示す。)
【0072】
Eで表される2価の基としては、ニトロキシルラジカルの窒素原子及びR〜Rが結合している2個の炭素原子と共に5〜7員の複素環を構成する基であり、炭素数2〜4のアルキレン基あるいはアルケニレン基を例示することができる。また、アルキレン基の炭素原子の一部が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子で置き換わったものでも良い。アルキレン基の各炭素原子には置換基を有していても良く、疎水性の置換基、例えば脂肪族基、芳香族基等や、親水性の置換基、例えば、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基などを挙げることができる。
【0073】
Eに結合する置換基として親水性の置換基を有していると、水に対する溶解度(親和性)が向上する。また、水に対する溶解度に乏しいニトロキシルラジカル化合物であっても、水に対する親和性に優れたニトロキシルラジカル化合物と組み合わせることで、単独で使用する場合よりも電解質中の濃度を高くすることができることを、本発明者らは見出している。
【0074】
このような環状ニトロキシラジカル化合物の例としては、下記式(6)〜(9)に示す2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)ラジカルとその誘導体が好ましく挙げられる。
【0075】
【化6】

【0076】
また、電荷輸送層24には、上記液状電解質以外にゲル状電解質、固体電解質を含んでいても良い。このような、ゲル状電解質若しくは固体電解質としては、下記一般式(10)の環状ニトロキシルラジカルのポリマーを用いることができる。
【0077】
【化7】

【0078】
(式中、E、R、R、R、Rは、上記一般式(3)と同様の意味を示し、Rは酸素原子またはカルボニルオキシ基、R、R、Rは、水素原子またはアルキル基を示す。nは10以上10000以下の整数を示す。)
【0079】
上記ポリマーは、ホモポリマーであっても、コポリマーであっても良い。コポリマーは、ブロックコポリマーであっても、ランダムコポリマーであっても良い。これらのポリマーの例としては、下記式(11)〜(13)に示すようなTEMPOポリマーが好ましく挙げられる。
【0080】
【化8】

【0081】
ニトロキシルラジカルポリマー以外で、液体電解質を固体化するための高分子化合物を用いても良い。液体電解質を保持できる高分子化合物であればよく、ポリオキシアルキレン鎖を持つ化合物を含み、電解質をゲル化又は固体化できるものであれば特に限定されず、通常はポリオキシアルキレン鎖を持つポリマー前駆体(ポリマーゲル化剤)が用いられる。例えば、(イ)特開平5−109311号公報や特開平11−176452号公報に開示された、三官能性末端アクリロイル変性アルキレンオキサイド重合体や、四官能性末端アクリロイル変性アルキレンオキサイド重合体などのアルキレンオキサイド重合体鎖を有するアクリロイル変性高分子化合物が挙げられる。(ロ)また、少なくとも一種類のイソシアネート基を有する化合物Aと、少なくとも一種のイソシアネート基と反応性のある化合物Bとを含み、化合物Aと化合物Bのうち少なくとも一種類がポリオキシアルキレン鎖を持つものが挙げられる(特開2002−289271等参照)。ポリオキシアルキレン鎖を持つ化合物としては、分子量500〜50,000の高分子構造を有する化合物が好ましく用いられる
【0082】
上記(イ)の三官能性又は四官能性末端アクリロイル変性アルキレンオキサイド重合体は、例えば、三官能性の場合にはグリセロールやトリメチロールプロパン等を、四官能性の場合にはジグリセリンやペンタエリスリトール等を、それぞれ出発物質として、これらにエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させ、さらにアクリル酸、メタクリル酸等の不飽和有機酸をエステル化反応させるか、又はアクリル酸クロリド、メタクリル酸クロリド等の酸クロリド類を脱塩酸反応させることによって得られる化合物である。
【0083】
上記(ロ)の化合物Aとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族イソシアネートが挙げられ、これらの2量体、3量体などの多量体又は変性体であってもよい。また、低分子アルコールとこれらイソシアネートのアダクト体、さらには、ポリオキシアルキレンとこれらイソシアネートをあらかじめ付加反応させた化合物が挙げられる。化合物Bとしては、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基などの活性水素基を有する化合物が挙げられ、より具体的には、カルボキシル基を有する化合物としては、ヘキサン酸、アジピン酸、フタル酸、アゼライン酸などのカルボン酸;ヒドロキシル基を有する化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ショ糖などのポリオール;アミノ基を有する化合物としては、エチレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、ジエチレントリアミンなどの有機アミン類などがそれぞれ挙げられる。また、化合物Bとしては、上記のような活性水素基を一分子中に一つ以上有し、かつポリオキシアルキレン鎖を有する化合物も挙げられる。
【0084】
電解質のニトロキシルラジカルは前述の式(5)に示すように、ラジカル状態とカチオン状態で酸化還元している。この発生するカチオン状態を安定化させる目的で、電解質中に塩を添加することも可能である。用いる塩としては、カチオンとして、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、イミダゾリウム、オキサゾリウム、チアゾリウム、ピペリジニウム、ピラゾリウム、イソオキサゾリウム、チアジアゾリウム、オキサジアゾリウム、トリアゾリウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピリダジニウム、ピラジニウム、トリアジニウム、ホスホニウム、スルホニウム、カルバゾリウム、インドリウム、及びこれらの誘導体が好ましく、特に好ましくは、アンモニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、ピラゾリウム、スルホニウムである。また、アニオンとしては、PF、BF、CFSO、N(CFSO、F(HF)、CFCOOなどのフッ素含有物、NO、CHCOO、C11COO、CHOSO、CHOSO、CHSO、CHSO、(CHO)PO、SbClなどの非フッ素化合物、ヨウ素、臭素などのハロゲン化物などが挙げられる。これらの塩は、イオン性液体(溶融塩)として添加しても良い。
【0085】
電解質作製方法
本発明に係る環状ニトロキシルラジカルを電解質中に存在させるためには、環状ニトロキシルラジカルを水に溶解させる方法がある。
【0086】
上記の方法以外に、1種の環状ニトロキシルラジカルと、オキソアンモニウム塩を水に溶解させる方法を挙げることができる。オキソアンモニウム塩としては、下記一般式(4)で表される環状ニトロキシルラジカルのオキソアンモニウム塩が好ましい。
【0087】
【化9】

【0088】
(式中、E、R、R、R、Rは、一般式(3)中のE、R、R、R、Rと同様の意味を示し、Xは、金属塩化物、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、BF、PF、CFSO3、N(SOCF、N(SOF)、CFCOO、N(CSO)、又はClOを示す。)
【0089】
一般式(4)中のニトロキシルカチオンの例としては、上記一般式(3)の例として挙げた式(6)〜(9)のニトロキシルラジカルに相当するカチオンが挙げられる。
【0090】
一般式(3)で表される環状ニトロキシルラジカルと一般式(4)で表されるオキソアンモニウム塩を水に溶解させた場合には、前記式(5)に示すように、一般式(3)の環状ニトロキシルラジカルの一部は、オキソアンモニウムカチオンとなり、同時に、一般式(4)で表されるオキソアンモニウム塩は一部が一般式(3)で表される環状ニトロキシルラジカルになる。一般式(3)で表される環状ニトロキシルラジカルと一般式(4)で表されるオキソアンモニウム塩は同種のニトロキシルラジカルであっても、異種のニトロキシルラジカルであっても良い。オキソアンモニウム塩として添加するニトロキシルラジカルはニトロキシルラジカルの状態では比較的水に対する親和性の低いものを選択すると塩化により若干水との親和性が向上し、好ましい結果が得られる場合がある。
【0091】
例えば、前記式(7)で表される環状ニトロキシルラジカル(TEMPO−OH)と式(6)で表される環状ニトロキシルラジカル(TEMPO)のオキソアンモニウム塩(例えば、TEMPO・BF)を水に溶解させる方法を用いることができる。
【0092】
対極(29)
支持基板(27)としては、ガラスや高分子フィルム、Si等の半導体基板、金属板(箔)などが挙げられる。対極からも光入射させる場合には、透明性の高い基板を使用する。また、導電性のある基板の場合は、導電膜(26)を省略することができる。
【0093】
支持基板(27)が絶縁性若しくは半絶縁性の場合、導電膜(26)を設ける。導電膜(26)は水を含む電解質に対して耐性のある材料が好ましく、透明導電膜(22)に使用される金属酸化物導電材料が好ましく使用される。
【0094】
導電膜(26)の表面に形成される白金触媒層(25)は、導電膜(26)の全面または一部に膜状に形成されていても良い。白金触媒層は、触媒機能を発現できる厚さ、例えば、1〜2000nm程度に形成される。
【0095】
上記の説明では、光電変換層(23)と白金触媒層(25)はそれぞれ異なる基板上に形成する例を示したが、同じ透明導電膜(22)を有する透明基板(21)上に、光電変換層(23)と白金触媒層(25)を設けた後、これらの間の透明導電膜(22)をレーザースクライブなどにより切断して、横電界型の素子としても良い。
【0096】
(その他の実施形態)
本発明に係る光電変換素子は複数組み合わせて、光電変換素子スタックとして光電変換(太陽光発電)システムに用いることもできる。
図5は、光電変換システムの具体例を示す図である。図5に示した光電変換システム150においては、光電変換素子スタック100で生じた電子が、充放電制御装置152を経由して蓄電器154に移動する。充放電制御装置152には直流電流で駆動する負荷153が接続されている。また、蓄電器154からの直流電流は、インバータ155でDA変換されて、交流電流で駆動する負荷156に流れる。
【0097】
光電変換素子スタック100の構成に特に制限はないが、たとえば図6〜図9のような構成を例示することができる。図6〜図9は、光電変換素子スタック100の構成例を示す断面図である。
【0098】
図6は、W型のスタックモジュール101である。
図6においては、透明基板163と透明基板164との間に、光電変換層161、電解質(電荷輸送層)163および対向極(対電極)162により構成された光電変換素子が複数配置されている。光電変換層161は、たとえば第二の実施形態に記載の光電変換層13とする。透明基板163と光電変換層161との間、および透明基板164と対向極162との間には、それぞれ、透明導電性膜166および透明導電性膜167が設けられている。これらの透明導電性膜は、1つの素子の光電変換層161と隣接する素子の対向極162とに共通に設けられ、隣接する素子間が接続されている。また、複数の透明導電性膜166間および透明導電性膜167間は、絶縁材料により構成されたシール材170によりシールされている。透明導電膜166は、両端においてそれぞれアノード(マイナス極)168およびカソード(プラス極)169に接続する。
【0099】
図7は、S型のスタックモジュール102である。
図7においては、透明導電性膜166上に光電変換層161が設けられ、光電変換層161の上面から側面にわたって光電変換層161を覆うセパレータ171およびセパレータ171の全面を覆う対向極162が設けられ、空間に電解質163が充填されて素子を構成している。図7においても、隣接する一方の素子の光電変換層161と他方の対向極162とが共通の透明導電性膜166を介して1つの透明基板163上に配置されている。
【0100】
図8は、Z型のスタックモジュール103である。
図8の基本構成は図6に示したW型と共通するが、図8においては、複数の透明導電性膜165および透明導電性膜166が素子ごとに設けられている。隣接する一方の素子の光電極167は、透明導電性膜166、導電性シール材172および他方の素子の透明導電性膜165を介して他方の素子の対向極169に接続する。導電性シール材172の側面外周は、透明導電性膜165および透明導電性膜166に接する領域をのぞいてシール材170に被覆されている。
【0101】
図6〜図8に示したW、SおよびZ型は小型セルを直列に接続したスタックモジュールであるが、図9に示すように、グリッド配線型のモジュール104としてもよい。
図9においては、電解液163、透明導電性膜166および透明導電性膜167が複数の素子に共通に設けられており、透明導電性膜166および透明導電性膜167上の所定の位置に金属集電配線174が配置されている。金属集電配線174は絶縁膜173に覆われ、電解液163との間が絶縁されている。
【0102】
グリッド配線型のモジュール104は、1つのセルを大面積化した場合の集電ロスをさらに低減することができるモジュールである。なお、グリッド配線型をZ、WまたはS型でスタック化することもできる。
【0103】
なお、図6〜図9において、光は光電変換層161の側から入射する。また、図6に示したW型では、光は両面入射となる。対向極162の側の基板に光透過性の高い基板を用いることで両面から光入射させることができる。
【0104】
また、図6〜図9においては、基板として透明基板163および透明基板164を用いる例を示したが、たとえばW、Sおよびグリッド配線型の対向極側の基板には、透過性がない材料も利用できる。このような材料としては、たとえばPEEK等の樹脂基板、SUS等の金属基板、Si等の半導体基板などが挙げられる。
【0105】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0106】
たとえば、本実施形態における光電変換素子は、太陽電池だけでなく、光センサに用いることもできる。図10は、光電変換素子200を含む光センサの回路の構成例を示す図である。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。上記した図4に示す積層構造を持つ光電変換素子を次のようにして作製した。
【0108】
(実施例1)
1.多孔性半導体層の形成
半導体層は以下の手順で作製した。まず溶剤として濃度15vol%の酢酸水溶液20mlを用い、そこに市販の酸化チタン粉末5g(P25、日本アエロジル(株))、界面活性剤0.1 mL(Triton X−100、シグマアルドリッチ)、ポリエチレングリコール0.3g(分子量20000)を加え、攪拌ミキサーで約1時間攪拌(1回10分間)することで、酸化チタンペーストを作製した。
【0109】
次に、ホットプレートで450℃に加熱したITOガラス基板(2cm×1.5cm、シート抵抗:10Ω/□)にTAA(ジ(イソプロポキシ)チタニウムビス(アセチルアセトネート))エタノール溶液2×10−2 mol/Lをスプレー法により10回塗布した。
【0110】
つづいて、このガラス基板にドクターブレード法で膜厚が5μm程度となるように適量塗布(塗布面積:5mm×5mm)した。この電極を電気炉に挿入し、大気雰囲気にて450℃で約30分間焼成して半導体電極を得た。
【0111】
2.色素の吸着
次に、多孔性半導体層に色素を吸着させた。色素は以下に示す。実施例1,2では式(a)を、比較例1,2では式(b)の化合物を用いた。
【0112】
【化10】

【0113】
これをアセトニトリルに濃度3×10−4 mol/Lで溶解させ、吸着用色素溶液を調製した。
この吸着用色素溶液と、上述で得られた光電変換層(23)と透明導電膜(22)とを具備した透明基板(21)とを容器に入れ、2時間静置し、色素を吸着させた。
その後、アセトニトリルで数回洗浄し、50℃で約30分間自然乾燥させた。
【0114】
3.電解質の注入
次に電解液を調製した。電解液の組成を以下に示す。
【0115】
電解液1(実施例1,比較例1)
TEMPO−OH 0.45 mol/L
TEMPO・BF 0.05 mol/L
溶媒は水。
【0116】
電解液2(実施例2、比較例2)
LiI 0.5M mol/L
0.025 mol/L
溶媒は水。
【0117】
透明導電膜(22)を具備した透明基板(21)上の光電変換層(23)に上記電解液を滴下し、さらにロータリーポンプで約10分間真空引きして溶液を光電変換層に十分浸みこませた。その後、白金触媒層(25)を具備した対極(29)を設置し、治具にて固定した。
その後、エポキシ樹脂にて外界との接触を避ける封止を実施し光電変換素子を作製した。
【0118】
4.光電変換素子特性の評価
作製した光電変換素子の評価はソーラーシュミレーター用いてAM1.5、100mW/cm照射条件化でのI−V測定を行った。
【0119】
ここで光電変換素子の両端を電子負荷装置に接続して、開放電圧から取り出し電圧がゼロになるまで5mV/secステップの電位走査を繰り返して行った。
【0120】
実施例1,比較例1の結果を図11に、実施例2,比較例2の結果を図12にそれぞれ示す。いずれの電解液においても、ヒドロキシル基を有する色素を用いた場合に短絡電流値(Jsc)が高くなることが確認された。特に、本発明では、図11に示すようにTEMPOラジカルを用いた場合に大幅な短絡電流値の上昇が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明に係る光電変換素子は、光電変換素子として好適に用いられるものであり、さらに光電変換素子だけでなく、光センサーなどとしても利用することができる。
【符号の説明】
【0122】
1…光電変換層
11…多孔性半導体
2…対電極
3…電荷輸送層
4…透明導電性基板
12…透明基板
13…透明導電膜
21…透明基板
22…透明導電膜
23…光電変換層
24…電解質層
25…白金触媒層
26…導電膜
27…透明基板若しくは支持基板
28…半導体電極
29…対極
100…光電変換素子スタック
101…W型スタックモジュール
102…S型スタックモジュール
103…Z型スタックモジュール
104…グリッド配線型スタックモジュール
150…光電変換システム
152…充放電制御装置
153、156…負荷
154…充電器
155…インバータ
161…光電変換層
162…対向極
163…電解質
164、165…透明基板
166、167…透明導電膜
168…アノード
169…カソード
170…シール材
171…セパレータ
172…導電性シール材
173…絶縁膜
174…金属集電配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性半導体層に色素が吸着した光電変換層と、
対電極と、
少なくとも水を含有する電解質を含む電荷輸送層と、
を備え、
前記吸着した色素は、前記多孔性半導体層に吸着していない極性基を有する色素を含むことを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記電荷輸送層が、前記光電変換層と前記対電極との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記光電変換層は、透明導電性基板上に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
色素が吸着した多孔性半導体層を含む半導体電極と、
対電極と、
少なくとも水を含有する電解質層と、
を備え、
前記吸着した色素は、前記多孔性半導体層に吸着していない極性基を有する色素を含むことを特徴とする光電変換素子。
【請求項5】
前記電解質層が、前記半導体電極と前記対電極との間に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記半導体電極は、透明導電性基板上に色素を吸着した多孔性半導体層が設けられていることを特徴とする請求項4または5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記多孔性半導体層に吸着していない極性基を有する色素は、有機色素である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記多孔性半導体層に吸着していない極性基を有する色素は、該色素の多孔性半導体層表面への吸着部に対して分子の長手方向の対極に前記吸着していない極性基を有する請求項7に記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記多孔性半導体層に吸着していない極性基を有する色素は、該色素の多孔性半導体層への吸着が、下記式(1)で表されるアンカー基によるものである請求項1ないし8のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【化1】

(式(1)中、Y,Yはそれぞれ独立に、水素原子、インターロック基、電子求引性基、若しくは、インターロック基及び電子求引性基の少なくとも一方を有する有機残基であり、Y,Yはの少なくとも一方はインターロック基を含む。Yは水素原子または電子求引性基、若しくは電子求引性基を含む有機残基である。また、YとY、YとY、YとYが結合して環を形成しても良い。)
【請求項10】
前記多孔性半導体層に吸着していない極性基を有する色素は、下記一般式(2)で表される化合物であり、Gで表される基により多孔性半導体層に吸着している請求項9に記載の光電変換素子。
【化2】

(式中、Chは色素母骨格を表し、
Gは、−COOH、−SOH、−PO、−BO、−SH、−OH、−NHから選択され、
Aは、H、−CN、−NO、−COOR、−COSR、−COR、−CSR、−NCS、−CF、−CONR、−OCF、C5−r(式中、r=1〜5であり、Rは、Hまたは一般式−C2s+1(式中、s=0〜12)の任意の直鎖状もしくは分枝状アルキル鎖、または任意の置換もしくは非置換フェニルもしくはビフェニルである)を含む基から選択され、
Dは極性基を含む有機残基であり、
m、nは1以上の整数を表す。)
【請求項11】
前記極性基を含む有機残基は、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基、エーテル基、エステル基またはアミド基である請求項10に記載の光電変換素子。
【請求項12】
前記極性基を含む有機残基は、炭素数1〜12のアルキレン基を含むアルコール性水酸基である請求項11に記載の光電変換素子。
【請求項13】
前記色素は、下記式(a)で表される化合物である請求項12に記載の光電変換素子。
【化3】

【請求項14】
前記電解質層は、ニトロキシルラジカル化合物の1種または2種以上を含む請求項1ないし13のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項15】
ニトロキシラジカル化合物は、下記一般式(3)で表される環状ニトロキシラジカル化合物から選択される請求項14に記載の光電変換素子。
【化4】

(式中、Eは、ニトロキシルラジカルの窒素原子及びR〜Rが結合している2個の炭素原子と共に5〜7員の複素環を構成する2価の基であって、置換基を有してもよい。R、R、R、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、置換もしくは無置換のアルキル基を示す。)
【請求項16】
前記電解質層中に、さらに下記一般式(4)で表されるオキソアンモニウム塩から選択される1種又は2種以上を含む請求項15に記載の光電変換素子。
【化5】

(式中、E、R、R、R、Rは、一般式(3)中のE、R、R、R、Rと同様の意味を示し、Xは、金属塩化物、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、BF、PF、CFSO3、N(SOCF、N(SOF)、CFCOO、N(CSO)、又はClOを示す。)
【請求項17】
下記式(6)
【化6】

で表される環状ニトロキシルラジカル化合物と、下記式(7)
【化7】

で表される環状ニトロキシルラジカル化合物の少なくとも一方とこれらの少なくとも一方のオキソアンモニウム塩を含む請求項16に記載の光電変換素子。
【請求項18】
前記多孔性半導体層は、酸化チタン微粒子を焼結して形成した多孔性半導体層である請求項1ないし17のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項19】
前記多孔性半導体層の平均細孔径が、3nm〜100nmの範囲である請求項18に記載の光電変換素子。
【請求項20】
多孔性半導体層を形成する工程と、
前記多孔性半導体層を色素溶液に浸漬して、前記多孔性半導体層に色素を吸着させ、光電変換層を形成する工程と、
前記光電変換層と対電極とが存在する空間に、少なくとも水を含む電解質封入する工程とを備え、
前記色素として、前記多孔性半導体層に吸着するアンカー基と、前記吸着に関与しない極性基とを含む色素を少なくとも用いることを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項21】
前記色素は、有機色素である請求項20に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項22】
前記色素は、前記アンカー基に対して分子の長手方向の対極に前記吸着に関与しない極性基を有する請求項20または21に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項23】
前記色素におけるアンカー基が、下記式(1)で表される請求項20ないし22のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。
【化8】

(式(1)中、Y,Yはそれぞれ独立に、水素原子、インターロック基、電子求引性基、若しくは、インターロック基及び電子求引性基の少なくとも一方を有する有機残基であり、Y,Yはの少なくとも一方はインターロック基を含む。Yは水素原子または電子求引性基、若しくは電子求引性基を含む有機残基である。また、YとY、YとY、YとYが結合して環を形成しても良い。)
【請求項24】
前記色素は、下記一般式(2)で表される化合物である請求項23に記載の光電変換素子の製造方法。
【化9】

(式中、Chは色素母骨格を表し、
Gは、−COOH、−SOH、−PO、−BO、−SH、−OH、−NHから選択され、
Aは、H、−CN、−NO、−COOR、−COSR、−COR、−CSR、−NCS、−CF、−CONR、−OCF、C5−m(式中、m=1〜5であり、Rは、Hまたは一般式−C2n+1(式中、n=0〜12)の任意の直鎖状もしくは分枝状アルキル鎖、または任意の置換もしくは非置換フェニルもしくはビフェニルである)を含む基から選択され、
Dは極性基を含む有機残基であり、
m、nは1以上の整数を表す。)
【請求項25】
前記極性基を含む有機残基は、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基、エーテル基、エステル基またはアミド基である請求項24に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項26】
前記極性基を含む有機残基は、炭素数1〜12のアルキレン基を含むアルコール性水酸基である請求項25に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項27】
前記色素は、下記式(a)で表される化合物である請求項26に記載の光電変換素子の製造方法。
【化10】

【請求項28】
多孔性半導体層を形成する工程は、酸化チタン微粒子を含むスラリーを透明導電性基板上に塗布し、焼結する工程である請求項20ないし27のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−16390(P2013−16390A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149166(P2011−149166)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】