説明

光電変換素子

【課題】光電変換効率を向上させることが可能な、光電変換素子を提供する。
【解決手段】p層及びn層、p層とn層との間に配設されたi層、p層に接続された第1電極、並びに、n層に接続された第2電極を備え、少なくともi層は、第1半導体によって構成される障壁層、及び、該障壁層に接触するように配設された第2半導体によって構成される量子構造部を有し、第1半導体のバンドギャップは第2半導体のバンドギャップよりも広く、第1電極及び/又は第2電極が、障壁層のエネルギーバンドに対応した電極と、量子構造部のエネルギーバンドに対応した電極とを有する、光電変換素子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に関し、特に、量子構造を用いた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、発電量当たりの二酸化炭素排出量が少なく、発電用の燃料が不要という利点を有している。そのため、様々な種類の太陽電池に関する研究が、盛んに進められている。現在、実用化されている太陽電池の中では、単結晶シリコン又は多結晶シリコンを用いた、一組のpn接合を有する単接合太陽電池が主流となっている。ところが、単接合太陽電池の光電変換効率の理論限界(以下において、「理論限界効率」という。)は約30%に留まっているため、理論限界効率をさらに向上させる新たな方法が検討されている。
【0003】
これまでに検討されている新たな方法の1つに、半導体の量子構造を利用した太陽電池がある。この種の太陽電池で用いられる量子構造としては、量子ドット、量子井戸、及び、量子細線等が知られている。量子構造を用いることにより、従来の太陽電池では吸収することができなかった帯域の太陽光スペクトルをも吸収させることが可能になるため、量子構造を利用した太陽電池によれば、理論限界効率を60%以上にまで向上させることも可能になると考えられている。
【0004】
このような太陽電池(半導体光素子も含む)に関する技術として、例えば特許文献1には、pin構造で構成され、光検知層であるi層に3次元量子閉じ込め作用をもつ量子ドットを含み、量子ドット及びそれを囲むバリア層のエネルギーバンド構造がtypeIIをなす太陽電池が開示されている。また、特許文献2には、第1の半導体層と該第1の半導体層よりもバンドギャップの小さな第2の半導体層とを複数層交互に積層させた多重量子井戸層を有する太陽電池において、多重量子井戸層に隣接して、第1の半導体層よりもバンドギャップが小さく、第2の半導体層よりも厚さの大きな第3の半導体層を設けた太陽電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−114815号公報
【特許文献2】特開2009−26887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
量子ドットを用いる特許文献1に開示されている技術や、量子井戸を用いる特許文献2に開示されている技術によれば、従来の太陽電池では吸収することができなかった帯域の太陽光スペクトルをも吸収させることが可能になると考えられる。ここで、特許文献1や特許文献2に開示されている技術では、量子ドットや量子井戸(以下において、これらをまとめて「量子構造部」という。)に存在する電子や正孔(以下において、これらをまとめて「キャリア」ということがある。)を熱励起させて電極へと移動させることが想定されている。しかしながら、大気温下における熱励起のエネルギーはごく微量であるため、これらの技術では、量子構造部からキャリアを取り出す効率が低下しやすい。すなわち、特許文献1や特許文献2に開示されている技術では、光電変換効率を向上させ難いという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、光電変換効率を向上させることが可能な、光電変換素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明は、p層及びn層、p層とn層との間に配設されたi層、p層に接続された第1電極、並びに、n層に接続された第2電極を備え、少なくともi層は、第1半導体によって構成される障壁層、及び、該障壁層に接触するように配設された第2半導体によって構成される量子構造部を有し、第1半導体のバンドギャップは第2半導体のバンドギャップよりも広く、第1電極及び/又は第2電極が、障壁層のエネルギーバンドに対応した電極と、量子構造部のエネルギーバンドに対応した電極とを有することを特徴とする、光電変換素子である。
【0009】
ここに、本発明において、「量子構造部」とは、量子ドット、量子井戸、及び、量子細線を含む概念である。また、本発明において、「障壁層に接触するように配設された第2半導体によって構成される量子構造部」とは、例えば、量子構造部が、量子井戸、又は、分子線エピタキシ(MBE)法を使用した自己組織化プロセスにより形成された量子ドット及び濡れ層である場合には、障壁層と量子構造部とが交互に積層されていることをいう。これに対し、例えば量子構造部がコロイダル量子ドットや量子細線である場合には、量子構造部が障壁層の中に埋め込まれていることをいう。また、「障壁層のエネルギーバンドに対応した電極」(以下において、「障壁層電極」ということがある。)とは、障壁層電極が第1電極に含まれる場合には、障壁層に存在する正孔に対応するエネルギーを有する電極をいい、障壁層電極が第2電極に含まれる場合には、障壁層に存在する電子に対応するエネルギーを有する電極をいう。また、「量子構造部のエネルギーバンドに対応した電極」(以下において、「量子電極」ということがある。)とは、量子電極が第1電極に含まれる場合には、量子構造部の離散準位(量子準位)に収容されている正孔に対応するエネルギーを有する電極をいい、量子電極が第2電極に含まれる場合には、量子構造部の離散準位(量子準位)に収容されている電子に対応するエネルギーを有する電極をいう。すなわち、上方ほど電子のエネルギーが高く下方ほど正孔のエネルギーが高いエネルギーバンド図を作成すると、第1電極に含まれる障壁層電極の上端のエネルギーレベルは、第1電極に含まれる量子電極の上端のエネルギーレベルよりも下方に位置し、第2電極に含まれる障壁層電極の上端のエネルギーレベルは、第2電極に含まれる量子電極の上端のエネルギーレベルよりも上方に位置する。また、本発明において、「光電変換素子」は、光検出素子や太陽電池等を含む概念である。
【0010】
また、上記本発明において、p層、i層、及び、n層が、量子構造部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光電変換素子には、障壁層電極及び量子電極が備えられる。障壁層電極が備えられることにより、量子構造部に存在するキャリアを取り出しやすくする目的でp層側及びn層側にそれぞれ1種類の電極のみを配設した場合と比較して、障壁層を移動してきたキャリアを外部へと取り出す際のエネルギー損失を低減することが可能になる。さらに、量子電極が備えられることにより、量子構造部に存在するキャリアを外部へ取り出す際にキャリアが障壁をトンネル効果により通過することが可能になるため、キャリアのエネルギーを保持したまま外部へ取り出すことが可能になる。したがって、本発明によれば、光電変換効率を向上させることが可能な、太陽電池を提供することができる。
【0012】
また、本発明において、p層、i層、及び、n層が、量子構造部を有することにより、光電変換効率を向上させることが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の光電変換素子10を説明する断面図である。
【図2】光電変換素子10のエネルギーバンド図である。
【図3】量子ドットを用いた従来の太陽電池90を説明する断面図である。
【図4】太陽電池90のエネルギーバンド図である。
【図5】本発明の光電変換素子20を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
半導体の量子構造を利用した太陽電池(以下において、「量子太陽電池」ということがある。)は、(1)広範囲の波長の光を吸収することが可能であるため光電変換効率を高めることが可能、(2)量子構造の大きさを変えることで光吸収波長を制御することが可能、(3)量子効果によりキャリアのエネルギー緩和時間が延びるためキャリアの長寿命化を図ることが可能、という特長を有している。かかる特長を有する量子太陽電池では、障壁層を構成する半導体よりもバンドギャップが狭い半導体によって構成される量子構造を用いることにより、障壁層のバンドギャップの間に量子準位(中間準位)を形成し、この中間準位を用いることによって、従来の太陽電池では吸収することができなかった帯域の太陽光スペクトルの吸収をも可能にしている。
【0015】
ここで、量子太陽電池では、量子構造に存在するキャリアを、熱励起、又は、長波長光の吸収による励起によって電極へと移動させることが想定されている。しかしながら、従来の量子太陽電池では、励起されたキャリアが乗り越えるべき障壁が高く、量子構造に存在するキャリアを効率良く取り出すことが困難であった。かかる問題の一つの解決策として、例えば、n層の伝導帯下端のエネルギー準位を低くして、量子構造に存在する電子を熱励起により移動させやすくする、という方法が考えられる。しかしながら、n層の伝導帯下端のエネルギー準位を低くすると、障壁層を移動してきた高準位の電子がn層へと移動する際に多くのエネルギーが失われる。そのため、かかる方法では、光電変換効率を向上させ難いという問題がある。
【0016】
本発明者は、量子太陽電池の光電変換効率を向上させるためには、障壁層を移動してきたキャリアのエネルギー損失を低減しつつ量子構造部に存在するキャリアを取り出しやすくすることが必要であることを知見した。そして、鋭意研究の結果、本発明者は、障壁層を移動してきたキャリアを取り出すのに適した電極、及び、量子構造部に存在するキャリアを取り出すのに適した電極を用いることにより、障壁層を移動してきたキャリアのエネルギー損失を低減しつつ量子構造部に存在するキャリアを容易に取り出すことが可能になることを知見して、本発明を完成させた。
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明を太陽電池に適用した場合について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。以下の説明において、X以上Y以下を「X〜Y」と表記する。
【0018】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態にかかる本発明の太陽電池10の形態例を示す断面図である。図1では、一部符号の記載を省略している。図1に示すように、太陽電池10は、p層11と、n層13と、p層11とn層13との間に配設されたi層12と、p層11に接続された第1電極14と、n層13に接続された第2電極15と、を有している。p層11は、障壁層11aと量子ドット11b、11b、…(以下において、単に「量子ドット11b」ということがある。)を有する層11cとを有している。層11cは、薄膜部11d及び該薄膜部11dに形成された量子ドット11bを有し、障壁層11aを構成するp型半導体よりもバンドギャップが狭いp型半導体によって構成されている。また、i層12は、障壁層12a、12a、…と量子ドット12b、12b、…(以下において、単に「量子ドット12b」という。)を有する層12cとを有しており、i層12は、障壁層12aと層12cとが交互に積層されることによって構成されている。層12cは、薄膜部12d及び該薄膜部12dに形成された量子ドット12bを有し、障壁層12aを構成するi型半導体よりもバンドギャップが狭い半導体によって構成されている。また、n層13は、障壁層13a、13aと量子ドット13b、13b、…(以下において、単に「量子ドット13b」ということがある。)を有する層13cとを有している。層13cは、薄膜部13d及び該薄膜部13dに形成された量子ドット13bを有し、障壁層13aを構成するn型半導体よりもバンドギャップが狭いn型半導体によって構成されている。また、第1電極14は、障壁層電極14a、14a、…(以下において、単に「障壁層電極14a」ということがある。)と量子電極14b、14b、…(以下において、単に「量子電極14b」ということがある。)とを有し、基板18の表面に配設されている第2電極15は、障壁層電極15a、15a、…(以下において、単に「障壁層電極15a」ということがある。)と量子電極15b、15b、…と(以下において、単に「量子電極15b」ということがある。)を有している。太陽電池10において、第1電極14には導電部16が接続されており、障壁層電極14a、14a、…は導電部16aを介して接続され、量子電極14b、14b、…は導電部16bを介して接続されている。また、第2電極15には導電部17が接続されており、障壁層電極15a、15a、…は導電部17aを介して接続され、量子電極15b、15b、…は導電部17bを介して接続されている。
【0019】
図2は、太陽電池10のエネルギーバンド図である。図2の紙面上側ほど電子のエネルギーが高く、紙面下側ほど正孔のエネルギーが高い。図2では、太陽電池10の各構成要素と対応する符号を付している。図2において、紙面左側から右側へと向かう点線矢印は、電子の移動形態を示しており、紙面右側から左側へと向かう点線矢印は、正孔の移動形態を示している。便宜上、図2では、障壁層11aと量子電極14bとの間に障壁層電極14aを配置し、障壁層13aと量子電極15bとの間に障壁層電極15aを配置しているが、図1に示すように、太陽電池10では、障壁層電極14a、14a、…、及び、量子電極14b、14b、…が障壁層11aと接触しており、障壁層電極15a、15a、…、及び、量子電極15b、15b、…が障壁層13aと接触している。以下、図1及び図2を参照しつつ、太陽電池10について説明を続ける。
【0020】
図2に示すように、太陽電池10は、p層11及びn層13によって内部電界が形成されており、バンドが傾斜している。さらに、図2に示すように、障壁層電極14aは、障壁層11aの価電子帯上端近傍のエネルギーを有する正孔が少ないエネルギー損失で障壁層電極14aへと移動可能なように構成され、量子電極14bは、量子ドット11bの価電子帯の量子準位に収容されている正孔が少ないエネルギー損失で量子電極14bへと移動可能なように構成されている。加えて、障壁層電極15aは、障壁層13aの伝導帯下端近傍のエネルギーを有する電子が少ないエネルギー損失で障壁層電極15aへと移動可能なように構成され、量子電極15bは、量子ドット13bの伝導帯の量子準位に収容されている電子が少ないエネルギー損失で量子電極15bへと移動可能なように構成されている。
【0021】
太陽電池10では、i層12へと光が入射すると、障壁層12a及び量子ドット12bの双方で、電子−正孔対が発生する。障壁層12aで発生したキャリアの少なくとも一部は、障壁層12aをドリフト移動する。そして、障壁層12aをドリフト移動した正孔の少なくとも一部はp層11へと達し、障壁層12aをドリフト移動した電子の少なくとも一部はn層13へと達する。一方、上述のように、量子ドット12bを構成する半導体は、障壁層12aを構成するi型半導体よりもバンドギャップが狭い。そのため、障壁層12aで発生したキャリアの少なくとも一部は、量子ドット12bへと落ち込む。量子ドット12bへと落ち込んだキャリアは、トンネル伝導により量子ドット12b、12b、…間を移動し、正孔は量子ドット11bへ、電子は量子ドット13bへと達する。他方、量子ドット12bで発生したキャリアは、同様にトンネル伝導により量子ドット12b、12b、…間を移動し、正孔は量子ドット11bへ、電子は量子ドット13bへと達する。太陽電池10では、障壁層11aに存在する正孔を障壁層電極14aへと移動させるとともに、量子ドット11bに存在する正孔をトンネル伝導により量子電極14bへと移動させ、且つ、障壁層13aに存在する電子を障壁層電極15aへと移動させるとともに、量子ドット13bに存在する電子をトンネル伝導により量子電極15bへと移動させることにより、電気エネルギーを取り出す。太陽電池10における電子及び正孔の移動については、さらに後述する。
【0022】
一方、図3は、量子ドットを用いた従来の太陽電池90の形態例を示す断面図である。図3では、一部符号の記載を省略している。図3に示すように、太陽電池90は、上から順に、櫛形の第1電極94と、p型半導体によって構成されるp層91と、i層92と、n型半導体によって構成されるn層93と、第2電極95と、を有している。i層92は、障壁層92a、92a、…と、量子ドット92b、92b、…(以下において、単に「量子ドット92b」という。)と、を有している。i層92は、障壁層92aと、量子ドット92bを有する層(以下において「量子ドット92b含有層」という。)と、が交互に積層されることによって構成され、量子ドット92b含有層は、障壁層92aを構成するi型半導体よりもバンドギャップが狭い半導体によって構成されている。
【0023】
図4は、太陽電池90のエネルギーバンド図である。図4の紙面上側ほど電子のエネルギーが高く、紙面下側ほど正孔のエネルギーが高い。図4では、太陽電池90の各構成要素と対応する符号を付している。図2において、紙面左側から右側へと向かう点線矢印は、電子の移動形態を示しており、紙面右側から左側へと向かう点線矢印は、正孔の移動形態を示している。以下、図1〜図4を参照しつつ、太陽電池10及び太陽電池90について説明を続ける。
【0024】
図1〜図4に示すように、障壁層電極14a、14a、…、及び、量子電極14b、14b、…を有する第1電極14と、障壁層電極15a、15a、…、及び、量子電極15b、15b、…を有する第2電極15とを備える太陽電池10とは異なり、太陽電池90は、一形態の第1電極94及び一形態の第2電極95を備えている。そのため、太陽電池90では、量子ドット92bに存在するキャリアを取り出しやすくするために第1電極94及び第2電極95の形態を調整すると、障壁層92aを移動してきた高エネルギーキャリアのエネルギー損失が増大する。また、太陽電池90では、障壁層92aを移動してきた高エネルギーキャリアのエネルギー損失を低減し得る形態の第1電極94及び第2電極95にすると、量子ドット92bに存在するキャリアが励起されることによって乗り越えるべき障壁が高くなるため、量子ドット92bに存在するキャリアを取り出し難くなって光電変換効率が低減する。すなわち、一形態の第1電極94及び一形態の第2電極95を備える従来の太陽電池90では、光電変換効率を向上させ難い。
【0025】
これに対し、本発明の太陽電池10では、障壁層電極14aの上端のエネルギーレベルを、障壁層11aの価電子帯上端のエネルギーレベルに近づけており、量子電極14bの上端のエネルギーレベルを、量子ドット11bの価電子帯に形成されている量子準位に近づけている。かかる形態とすることにより、障壁層11aに存在する正孔を障壁層電極14aから取り出す際のエネルギー損失を低減することが可能になる。さらに、量子ドット11bに存在する正孔を量子電極14bから取り出すことが可能になる。すなわち、太陽電池10によれば、障壁層11aに存在する正孔を取り出す際のエネルギー損失を低減しながら、量子ドット11bに存在する正孔を、熱励起をさせずにトンネリングによりエネルギーを保持したまま取り出すことが可能になる。加えて、太陽電池10によれば、障壁層13aに存在する電子を障壁層電極15aから取り出す際のエネルギー損失を低減することが可能になる。さらに、量子ドット13bに存在する電子を量子電極15bから取り出すことが可能になる。すなわち、太陽電池10によれば、障壁層13aに存在する電子を取り出す際のエネルギー損失を低減しながら、量子ドット13bに存在する電子を、熱励起をさせずにトンネリングによりエネルギーを保持したまま取り出すことが可能になる。したがって、本発明によれば、光電変換効率を向上させることが可能な、太陽電池10を提供することができる。
【0026】
太陽電池10において、p層11の障壁層11aは、公知のp型不純物をドープしたGaAs等によって構成することができる。障壁層11aの厚さは、例えば、20nm〜50nm程度とすることができる。障壁層11aは、例えば、化学気相成長法(以下において、「CVD法」という。)等によって作製することができる。また、p層11の層11c(量子ドット11b及び薄膜部11d)は、公知のp型不純物をドープしたInAs等によって構成することができる。量子ドット11bの高さは、例えば、3nm〜10nm程度とすることができ、量子ドット11bの直径は、例えば、10nm〜40nm程度とすることができ、隣り合う量子ドット11b、11bの間隔は、例えば、10nm〜40nm程度とすることができる。層11cは、例えば、障壁層11aの表面に、公知のp型不純物をドープしたInAsをMBE法によって堆積させて、障壁層11aの表面に薄膜部11d(例えば、厚さ20nm程度の層)を形成した後、さらに公知のp型不純物をドープしたInAsの堆積を継続して、SK(Stranski-Krastanov)成長モードによって薄膜部11dに量子ドット11bを形成することにより、作製することができる。太陽電池10において、交互に作製される障壁層11a及び層11cの数は、1〜3程度とすることができる。本発明において、量子ドット11bの高さ、直径、及び、間隔は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)による局所酸化とMBE選択成長技術とを組み合わせ、AFMのカンチレバーに印加するパルス電圧と時間幅とを変化させたり、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて量子ドットを作製したりすることによって制御することができる。
【0027】
また、太陽電池10において、i層12の障壁層12aは、p型不純物やn型不純物をドープしていないGaAs等によって構成するほかは、障壁層11aと同様の形態とすることができ、障壁層11aと同様の方法によって、障壁層12aを作製することができる。また、i層12の層12cは、p型不純物やn型不純物をドープしていないInAs等によって構成するほかは、層11cと同様の形態とすることができ、層11cと同様の方法によって、層12cを作製することができる。太陽電池10において、交互に作製される障壁層12a及び層12cの数は、20〜40程度とすることができる。
【0028】
また、太陽電池10において、n層13の障壁層13aは、公知のn型不純物をドープしたGaAs等によって構成するほかは、障壁層11aと同様の形態とすることができ、障壁層11aと同様の方法によって、障壁層13aを作製することができる。また、n層13の層13cは、公知のn型不純物をドープしたInAs等によって構成するほかは、層11cと同様の形態とすることができ、層11cと同様の方法によって、層13cを作製することができる。太陽電池10において、交互に作製される障壁層13a及び層13cの数は、1〜3程度とすることができる。
【0029】
また、太陽電池10において、第1電極14の障壁層電極14aは、Au、Pt等によって構成することができ、量子電極14bは、Au、Pt等によって構成することができる。障壁層電極14a及び量子電極14bの直径は、例えば、10nm〜40nm程度とすることができ、障壁層電極14a及び量子電極14bの高さ(厚さ)は、例えば、30nm〜50nm程度とすることができ、隣り合う障壁層電極14aと量子電極14bとの間隔は、例えば、10nm〜40nm程度とすることができる。間隔を開けて交互に作製された複数の障壁層電極14a、14a、…と複数の量子電極14b、14b、…とを有する第1電極14は、例えば、リソグラフィー等によって作製することができる。また、本発明において、正孔を取り出す際のエネルギー損失を低減するという効果を得るためには、第1電極に障壁層電極及び量子電極が備えられる形態とすれば良く、かかる効果が得られやすい形態にする等の観点からは、図1に示すように、障壁層11aと対応する箇所に障壁層電極14a、14a、…を配設し、量子ドット11b、11b、…と対応する箇所に量子電極14b、14b、…を配設することが好ましい。本発明では、リソグラフィーによる微細電極パターン作製技術等の方法により、障壁層11aと対応する箇所にのみ障壁層電極14a、14a、…を作製することができる。また、本発明では、リソグラフィーによる微細電極パターン作製技術等の方法により、量子ドット11b、11b、…と対応する箇所にのみ量子電極14b、14b、…を作製することができる。
【0030】
また、太陽電池10において、第2電極15の障壁層電極15aは、Au、Pt等によって構成することができ、量子電極15bは、Au、Pt等によって構成することができる。障壁層電極15a及び量子電極15bの直径は、例えば、10nm〜40nm程度とすることができ、障壁層電極15a及び量子電極15bの高さ(厚さ)は、例えば、30nm〜50nm程度とすることができ、隣り合う障壁層電極15aと量子電極15bとの間隔は、例えば、10nm〜40nm程度とすることができる。複数の障壁層電極15a、15a、…、及び、複数の量子電極15b、15b、…を有する第2電極15は、第1電極14と同様の方法によって作製することができる。本発明において、電子を取り出す際のエネルギー損失を低減するという効果を得るためには、第2電極に障壁層電極及び量子電極が備えられる形態とすれば良く、かかる効果が得られやすい形態にする等の観点からは、図1に示すように、量子ドット13b、13b、…と対応する箇所に量子電極15b、15b、…を配設し、量子電極15b、15b、…の間に障壁層電極15a、15a、…を配設することが好ましい。本発明では、障壁層11aと対応する箇所にのみ障壁層電極14a、14a、…を作製する際に用いる方法と同様の方法によって、障壁層電極15a、15a、…を作製することができる。また、本発明では、量子ドット11b、11b、…と対応する箇所にのみ量子電極14b、14b、…を作製する際に用いる方法と同様の方法によって、量子ドット13b、13b、…と対応する箇所にのみ量子電極15b、15b、…を作製することができる。
【0031】
また、太陽電池10において、導電部16、17は、Au、Ag、Pt等、公知の導電性材料によって構成することができる。障壁層電極14a、14a、…を接続する導電部16aは、例えば、公知のくし形電極の作製方法と同様の方法によって作製することができる。このほか、量子電極14b、14b、…を接続する導電部16b、障壁層電極15a、15a、…を接続する導電部17a、及び、量子電極15b、15b、…を接続する導電部17bも、公知のくし形電極の作製方法と同様の方法によって作製することができる。
【0032】
上記の材料・方法によって各構成要素が作製される太陽電池10を製造するには、例えば、太陽電池の電極を作製する際に用いられる公知の基板18に、導電部17a及び導電部17bをそれぞれ形成した後、障壁層電極15a、15a、…、及び、量子電極15b、15b、…を形成することにより第2電極15を作製する。こうして第2電極15を作製したら、引き続き、第2電極15の表面に障壁層13aを、障壁層13aの表面に層13cを、層13cの表面に障壁層13aを、順に作製することにより、n層13を作製する。n層13を作製したら、n層13(障壁層13a)の表面に層12cを、層12cの表面に障壁層12aを、順に作製し、障壁層12aの表面への層12cの作製、及び、層12cの表面への障壁層12aの作製を所定の回数(例えば、30回程度)に亘って繰り返すことにより、n層13の表面にi層12を作製する。このようにしてi層12を作製したら、i層12(障壁層12a)の表面に層11cを、層11cの表面に障壁層11aを作製することにより、p層11を作製し、作製したp層11(障壁層11a)の表面に、障壁層電極14a、14a、…、及び、量子電極14b、14b、…を形成することにより第1電極14を作製する。第1電極14を作製したら、続いて、障壁層電極14a、14a、…を接続する導電部16a、及び、量子電極14b、14b、…を接続する導電部16bを形成する。太陽電池10は、このような過程を経て製造することができる。
【0033】
太陽電池10に関する上記説明では、層11cを有するp層11、及び、層13cを有するn層13が備えられる形態を例示したが、本発明の光電変換素子は当該形態に限定されるものではない。そこで、量子構造を有しないp層及びn層が備えられる形態の光電変換素子について、以下に説明する。
【0034】
2.第2実施形態
図5は、第2実施形態にかかる本発明の太陽電池20の形態例を示す断面図である。図5において、太陽電池10と同様に構成されるものには、図1及び図2で用いた符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。また、図5では、一部符号の記載を省略している。
【0035】
図5に示すように、太陽電池20は、p層21と、n層23と、p層21とn層23との間に配設されたi層12と、p層21に接続された第1電極14と、n層23に接続された第2電極15と、を有している。太陽電池20において、p層21及びn層23は量子構造を有していない。かかる形態であっても、太陽電池20は障壁層電極14a及び量子電極14bを有しているので、光照射によって生成された正孔のエネルギー損失を低減しながら正孔を取り出すことが可能になり、障壁層電極15a及び量子電極15bを有しているので、光照射によって生成された電子のエネルギー損失を低減しながら電子を取り出すことが可能になる。したがって、かかる形態であっても、太陽電池20によれば、光電変換効率を向上させることが可能になる。
【0036】
太陽電池20において、p層21は、公知のp型不純物をドープしたGaAs等によって構成することができ、p層21の厚さは、例えば、50nm程度とすることができる。図5に示される形態のp層21は、例えば、p層11と同様の方法によって、第1電極14と接触しない箇所にも公知のp型不純物をドープしたGaAsを堆積させることによりp層21’を作製し、このp層21’の表面に第1電極14を形成した後、リソグラフィーで第1電極14と接触しない箇所を除去することにより、作製することができる。
【0037】
また、太陽電池20において、n層23は、公知のn型不純物をドープしたGaAs等によって構成することができ、n層23の厚さは、例えば、50nm程度とすることができる。図5に示される形態のn層23は、例えば、障壁層13aと同様の方法により、第2電極15と接触しない箇所にも公知のn型不純物をドープしたGaAsを堆積させることによってn層23’を作製し、引き続き、n層23’の表面にi層12を、i層12の表面にp層21’を、及び、p層21’の表面に第1電極14を順に形成した後、リソグラフィーで第2電極15と接触しない箇所を除去することにより、作製することができる。
【0038】
以上、本発明に関する上記説明では、第1電極並びに第2電極が、障壁層電極及び量子電極を有する形態を例示したが、本発明の光電変換素子は当該形態に限定されるものではない。第1電極又は第2電極のみが、障壁層電極及び量子電極を有する形態とすることも可能である。ただし、光吸収により生成された正孔及び電子のエネルギー損失を低減することによって光電変換効率を向上させやすい形態の光電変換素子を提供する等の観点からは、少なくとも電子側の第2電極を有する形態の光電変換素子とすることが好ましい。
【0039】
また、本発明に関する上記説明では、量子構造部がSK成長モードで作製した量子ドットである形態を例示したが、本発明の光電変換素子は当該形態に限定されるものではない。本発明は、量子構造部として量子細線や量子井戸が用いられる形態とすることも可能であり、SK成長モード以外の方法で作製した量子ドットが用いられる形態とすることも可能である。量子構造部に量子細線が用いられる本発明において、例えば、量子細線の軸方向がi層における電流・電圧方向と交差するように、量子細線をp層、i層、及びn層に配設した太陽電池は、図1と同様の断面によって表すことができる。本発明において、量子構造部に量子細線を用いる場合、量子細線を構成する材料や構造は特に限定されるものではなく、カーボンナノチューブ等、公知の量子細線を用いることができる。このほか、量子構造部に量子井戸を用いる場合、当該量子井戸は、SK成長モードで量子ドットを作製する途中で形成される薄膜部と同様の形態とすることができ、当該薄膜部と同様の方法によって量子井戸層を形成することができる。
【0040】
また、これまで、本発明を太陽電池に適用した場合について説明したが、本発明の光電変換素子は太陽電池に限定されるものではない。本発明は、光検出素子等の他の光電変換素子にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の光電変換素子は、電気自動車の動力源や太陽光発電システム等に利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10…太陽電池(光電変換素子)
11…p層
11a…障壁層
11b…量子ドット
11c…層
11d…薄膜部
12…i層
12a…障壁層
12b…量子ドット
12c…層
12d…薄膜部
13…n層
13a…障壁層
13b…量子ドット
13c…層
13d…薄膜部
14…第1電極
14a…障壁層電極(障壁層のエネルギーバンドに対応した電極)
14b…量子電極(量子構造部のエネルギーバンドに対応した電極)
15…第2電極
15a…障壁層電極(障壁層のエネルギーバンドに対応した電極)
15b…量子電極(量子構造部のエネルギーバンドに対応した電極)
16、16a、16b…導電部
17、17a、17b…導電部
18…基板
20…太陽電池(光電変換素子)
21…p層
23…n層
90…太陽電池
91…p層
92…i層
92a…障壁層
92b…量子ドット
93…n層
94…第1電極
95…第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p層及びn層、前記p層と前記n層との間に配設されたi層、前記p層に接続された第1電極、並びに、前記n層に接続された第2電極を備え、
少なくとも前記i層は、第1半導体によって構成される障壁層、及び、該障壁層に接触するように配設された第2半導体によって構成される量子構造部を有し、
前記第1半導体のバンドギャップは前記第2半導体のバンドギャップよりも広く、
前記第1電極及び/又は前記第2電極が、前記障壁層のエネルギーバンドに対応した電極と、前記量子構造部のエネルギーバンドに対応した電極とを有することを特徴とする、光電変換素子。
【請求項2】
前記p層、前記i層、及び、前記n層が、量子構造部を有することを特徴とする、請求項1に記載の光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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