説明

光電気化学セル及びその製造方法

【課題】 光触媒粒子と導電性多孔質膜との界面でのIRロスを無くして逆電子移動反応を防止し、エネルギの変換効率を高めた光電気化学セル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 導電性多孔質体(チタン多孔質膜8)の表面に被膜(二酸化チタン被膜9)が形成されると共に、導電性多孔質体(チタン多孔質膜8)の一方の面に光触媒(光触媒粒子10)が形成された光触媒電極5と、光触媒電極5の対極となる電極(白金担持カーボン電極6)と、各電極5,6間に狭持されたプロトン伝導体(プロトン伝導膜7)と、を有する隔膜3を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エネルギを化学エネルギに変換するエネルギ変換装置などに適用される光電気化学セル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽エネルギを有効利用するために、太陽エネルギを利用し易い形態に変換・貯蔵する技術の開発が盛んに行われている。太陽電池はその代表例であるが、コストが高いことから普及が進まず、より安価なシステムの開発が望まれている。
【0003】
そこで、光触媒を利用して、光エネルギを化学エネルギに変換する技術の研究が進められている。光触媒に太陽光が照射されると、光触媒は、光エネルギを吸収して電子と正孔を生成し、各種の化学反応を引き起こす。光触媒の中でも、特に、二酸化チタン(TiO2)は価電子帯の位置が深く、生成する正孔による酸化力は、塩素またはオゾンよりも強いとされている。
【0004】
例えば、光触媒を利用して、水を分解する方法が開示されている(特許文献1参照)。水の分解方法で使用される水分解装置は、水中に光触媒粉末を分散させて、光触媒粉末に太陽光を照射する構成を有する。光触媒に太陽光を照射すると、光触媒の価電子帯の電子が伝導帯に励起されると同時に、価電子帯にホールが形成される。ホールは、水を酸化分解して酸素を発生させており、励起された電子は、水の酸化分解により発生したプロトン(H+)を還元して水素を発生させている。しかしながら、上記水分解装置では、水素と酸素との取り出し口が一つに統合されているため、水を分解して得られるガスは水素と酸素の混合ガスとなり、水素と酸素とを別途分離する必要があった。また、水素と酸素が同一場所で発生すると、水素と酸素とから水が生成する、いわゆる逆反応が進行し、エネルギの変換効率(得られた水素のエンタルピ/入射光エネルギ量)が低下していた。
【0005】
また、光触媒を利用して炭酸ガスを還元する炭酸ガス還元装置の技術も開示されている(特許文献2参照)。本技術では、導電層上に第1の光触媒を平板上に成形して構成したアノードと、導電層上に第2の光触媒を担持して構成したカソードと、を利用して、両電極間に電子の流れを生じさせて、アノード側に供給される炭酸ガスを還元して燃料(メタノールなど)を発生させている。さらに、カソード側に供給される水を酸化して酸素を発生させている。この炭酸ガス還元装置は、アノードとカソードで発生した燃料(メタノールなど)と酸素とを分離して回収することができる。
【特許文献1】特開平10−218601号公報
【特許文献2】特開2001−97894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記炭酸ガス還元装置のアノードとカソードとでは、光触媒を導電層に塗布して形成したため、光触媒と導電層とが融着されず、光触媒と導電層との界面にIRロスが発生する恐れがあり、これに伴いエネルギの変換効率が低下する恐れを有していた。
【0007】
また、アノード側では、光触媒が太陽光を吸収すると、光触媒の価電子帯の電子が伝導帯に励起され、励起された電子は導電層に移動する。しかし、この時、導電層と電解液(水)とが電気的に短絡していると、励起電子は、導電層と逆側の電解液(水)側に移動して逆電子移動反応が進行し、一度生成した酸素とプロトンとから水が生成し、エネルギの変換効率が低下する恐れを有していた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、すなわち、本発明の光電気化学セルは、導電性多孔質体の表面に被膜が形成されると共に、導電性多孔質体の一方の面に光触媒が形成された光触媒電極と、光触媒電極の対極となる電極と、各電極間に狭持されたプロトン伝導体と、を有する隔膜を備えることを要旨とする。
【0009】
本発明における第1の光電気化学セルの製造方法は、導電性多孔質体の表面に被膜を形成すると共に、導電性多孔質体の一方の面に光触媒を形成して光触媒電極とし、光触媒電極の光触媒を形成した面と逆側に、プロトン伝導体と、光触媒電極の対極となる電極と、を順次重ねて、プロトン伝導体の軟化する温度以上で圧着して隔膜とすることを要旨とする。
【0010】
本発明における第2の光電気化学セルの製造方法は、導電性多孔質体の表面に被膜を形成すると共に、導電性多孔質体の一方の面に光触媒を形成して光触媒電極とし、光触媒電極の光触媒を形成した面と逆側に、プロトン伝導体と、光触媒電極の対極となる電極と、を順次重ねて、プロトン伝導体の軟化する温度以上で圧着し、導電性多孔質体をプロトン伝導体に貫通させて、光触媒粒子を塗布した面と逆側の導電性多孔質体上に形成された酸化被膜を除去し、酸化被膜の除去面に対極となる電極材料を塗布し、プロトン伝導体の軟化する温度以上で圧着して隔膜とすることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光電気化学セルによれば、光触媒粒子と導電性多孔質膜との界面でのIRロスを無くして逆電子移動反応を防ぎ、エネルギの変換効率を高めることができる。
【0012】
本発明における第1の光電気化学セルの製造方法によれば、光触媒粒子と導電性多孔質膜との界面でのIRロスが無くなり、逆電子移動反応を防止した隔膜を得ることができる。
【0013】
本発明における第2の光電気化学セルの製造方法によれば、光触媒電極と対極の電極とを導電性多孔質体を介して導通させて短絡線の接合が不要となるため、装置の構成を簡略化した光電気化学セルとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態に係る光電気化学セル及びその製造方法を説明する。
【0015】
第1実施形態
本発明の実施の形態に係る光電気化学セルとして、PEM(Polymer Electrolyte Membrane)型光水電解セルを挙げて説明する。
【0016】
図1(a)は、PEM型光水電解セルを概略的に示した断面図であり、図1(b)は、隔膜の拡大断面図である。PEM型光水電解セル1は、容器2中央に隔膜3を配置し、容器2内部に隔膜3により仕切られた2つの水貯留部4a,4bを形成し、水貯留部4a,4b内に原料となる水を各々貯留している。
【0017】
隔膜3は、光触媒電極5と、光触媒電極5の対極となる電極である白金担持カーボン6と、各電極間5,6に狭持されたプロトン伝導膜7と、から構成される。光触媒電極5は、導電性多孔質膜であるチタン(Ti)多孔質膜8の表面に被膜である二酸化チタン(TiO2)被膜9が形成されると共に、チタン(Ti)多孔質膜8の一方の面に光触媒粒子10が融着して形成されている。隔膜3両面側の上部及び下部には、水貯留部4a,4bからの水漏れを防止するシール部11a,11bが形成されており、シール部11a,11bにより隔膜3を支持している。光触媒電極5と白金担持カーボン電極6とには外部短絡線12が接続されており、外部短絡線12上にバイアス電源が設置され、バイアス電圧を負荷して、光触媒電極5で発生した励起電子(e-)のエネルギを高めている。
【0018】
さらに、上記隔膜3の構成を詳細に説明する。
【0019】
光触媒粒子10は、太陽光の特定波長以下の光を吸収して、価電子帯に存在する電子(e-)を伝導帯に励起する役割を果たすものであり、光触媒粒子10としては、価電子帯電位が酸素の酸化還元電位(1.23 V vs. NHE)よりもエネルギ的に低い半導体を用いることが好ましい。ここでは、光触媒粒子10として二酸化チタン(TiO2)を使用したが、二酸化チタン以外にも、酸化鉄(Fe2O3)、酸化ニオビウム(Nb2O5)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化スズ(SnO2)、硫化カドミウム(CdS)、InTaO4、In1-xNixTaO4、Rb2La2TiO10、Ta2O5、TaON及びTa3N5など上記の条件を満たす半導体の中から選択することが可能である。
【0020】
導電性多孔質膜であるチタン(Ti)多孔質膜8は、光触媒粒子10により励起された電子(e-)を白金担持カーボン6側に伝える伝導部の役割を果たす膜である。チタン多孔質膜8の拡大断面図を図2に示すが、チタン多孔質膜8は、チタン粒子を融着して形成されたチタン金属の表面に二酸化チタン(TiO2)被膜9が形成される。チタン多孔質膜8は導電部の役割を果たし、二酸化チタン被膜9は、チタン多孔質膜8から電解質側への電子(e-)の漏洩を防ぎ、水とチタン粒子5aとの短絡を防止している。なお、導電性多孔質膜は、チタン多孔質膜8に限定されるものではなく、金属酸化物が半導体又は絶縁体となる金属から形成することが好ましい。例えば、チタン、アルミ、シリコン、ジルコニウム、ニオブ、亜鉛、すず、タングステン、鉄、ビスマスなどの中から選択される材料から形成される多孔質膜を使用することができる。例示した材料から導電性多孔質膜を形成することにより、外周に絶縁体被膜又は半導体被膜を形成することができ、光水電解時の光触媒電極5での逆電子移動反応を防止することができる。
【0021】
プロトン伝導膜7は、光触媒粒子6の反応により発生したプロトン(H)を、アノード(光触媒電極5)側からカソード(白金担持カーボン電極6)側にプロトン濃度勾配を駆動力として輸送する役割を果たす膜である。プロトン伝導膜7としては、プロトン(H)を伝導させる機能を有するものであれば特に限定されず、原料である水を貯留する水貯留部を二箇所に仕切れる構造とするために、プロトン伝導膜7として固体電解質膜を用いることが好ましい。固体電解質膜としては、ナフィオン(登録商標、デュポン(株)社製)に代表されるパーフルオロスルホン酸膜を使用することができる。
【0022】
光触媒電極5の対極となる電極として、白金担持カーボン電極6を使用したが、白金メッシュなどの同様の機能を果たすものであれば使用することができる。なお、カーボン電極に担持する触媒は、白金以外にも、銅、ルテニウム、ロジウム、イリジウム等を使用することができる。
【0023】
なお、上記隔膜3の構成に限定されず、導電性多孔質膜であるチタン多孔質膜8の表面の二酸化チタン(TiO2)被膜9は、光触媒粒子10と兼ねる構成としても良い。このような構成にすると、チタン多孔質膜8に光触媒粒子10を塗布する必要が無くなり、隔膜3の製造方法を簡略化することができる。
【0024】
また、前記被膜と光触媒の材質を異なる材料にすると、吸収する光の波長域が異なるため、エネルギの変換効率が上がる可能性がある。
【0025】
次に、上記PEM型光水電解セル1の動作を図3に基づき説明する。
【0026】
太陽光が光触媒粒子10に照射されると、光触媒粒子10の価電子帯と伝導帯のバンドギャップに対応する波長の光が吸収される。ここで、価電子帯と伝導帯のエネルギバンドギャップEと光の吸収波長λとの関係は、次の化学式(1)、(2)によって表される。
【0027】
E=hν(h:プランク定数) …化学式(1)
λ=c/ν(c:光速度) …化学式(2)
つまり、λ以下の波長の光が光触媒粒子10により吸収されると、吸収された光は、価電子帯から伝導帯に電子を励起するエネルギとして使用される。励起された電子(e-)は、チタン多孔質膜8中を通り、外部短絡線12に至る。この時、チタン多孔質膜8と光触媒粒子10とは融着されているため、チタン多孔質膜8と光触媒粒子10との間の界面におけるIRロスを最小限に抑えることができる。
【0028】
一方、光触媒粒子10の価電子帯にはホールが形成されて、化学式(3)の反応が進行し、水の酸化により酸素(O)が発生する。
【0029】
2H2O → 4H+ O+ 4 e- …化学式(3)
なお、チタン多孔質膜8の表面には、二酸化チタン(TiO2)被膜が形成され、チタン多孔質膜8から電解質(水)側に電子(e-)が漏洩することにより進行する化学式(4)の逆反応を抑制することができる。
【0030】
4H+ O2 + 4e→ 2H2O …化学式(4)
外部短絡線12上に設置されるバイアス電圧の負荷により、励起電子のエネルギ状態を水素の酸化還元電位よりも高い状態としている。バイアス電圧を負荷すると、電子は、水素の酸化還元電位よりもエネルギ的に高い電位となり、励起された電子(e-)は、光触媒電極5側からプロトン伝導膜中を輸送されてきたプロトン(H)と結合して、以下の化学式(5)に示す反応が進行して水素(H)が発生する。
【0031】
2H+ 2e- → H …化学式(5)
以上の原理から、太陽光エネルギを利用して、水を水素と酸素とに分解している。
【0032】
上記PEM型光水電解セル1では、伝導帯電位が水素の酸化還元電位よりもエネルギ的に低く、あるいは水電解に必要な過電圧を与える程には、伝導帯電位が水素の酸化還元電位よりもエネルギ的に高くない光触媒を用いたことを想定している。このため、外部短絡線12を各電極5,6に接続しただけでは、前述した化学式(5)の反応が進行しない。このため、外部短絡線10上にバイアス電圧を負荷して、化学式(5)の反応を進行させている。しかし、伝導帯電位が水素の酸化還元電位よりもエネルギ的に十分に高い光触媒粒子10を使用した場合は、外部短絡線12上にバイアス電圧を負荷する必要がないことはもちろんである。
【0033】
さらに、本発明の実施の形態に係る光電気化学セルの製造方法を説明する。
【0034】
本発明の実施の形態に係る光電気化学セルの製造方法は、導電性多孔質膜の表面に被膜を形成すると共に、導電性多孔質膜の一方の面に光触媒粒子を形成して光触媒電極を構成し、得られた光触媒電極の光触媒粒子を配置した面と逆側に、プロトン伝導膜と、光触媒電極の対極となる電極と、を順次重ねて、プロトン伝導膜の軟化する温度以上で圧着して隔膜とするものである。このようにプロトン伝導膜を介して光触媒電極と対極の電極とを重ねた後に圧着することにより、隔膜の密着性が向上し、さらに、水素、酸素の発生の反応場である三相界面にプロトンを容易に移動させることができる。
【0035】
上記光電気化学セルの製造方法において、導電性多孔質膜の表面に被膜を形成する方法としては、熱酸化法、化学気相法(CVD)あるいは陽極酸化法を使用することができる。熱酸化法または陽極酸化法を使用する場合には、導電性多孔質の表面に予め光触媒粒子を塗布する必要がある。また、陽極酸化法を使用する場合には、プロトン伝導体と光触媒粒子とを圧着した後、導電性多孔質膜の表面を陽極酸化して隔膜を製造しても良い。化学気相法を用いて、チタン多孔質膜上に半導体被膜又は絶縁体被膜を形成すると、特に、チタン多孔質膜中のチタン粒子表面の全てにチタン(TiO2)被膜を形成することができる。このように、熱酸化法、化学気相法あるいは陽極酸化法を使用することにより、導電性多孔質膜上に半導体被膜または絶縁体被膜を形成することができ、光水電解時のアノードでの逆電子移動反応を防止することができる。なお、陽極酸化法を用いて導電性多孔質膜の表面に被膜を形成する場合には、プロトン伝導体に導電性多孔質膜を圧着した後、導電性多孔質膜の表面を陽極酸化して被膜を形成することもできる。これにより、隔膜の製造方法の最終工程において、導電性多孔質膜の表面に被膜を形成することができる。
【0036】
なお、導電性多孔質膜の表面に被膜を形成する方法として、オゾン酸化法、プラズマ酸化法等を用いてもよい。
【0037】
また、導電性多孔質膜上に光触媒を形成する方法としては、熱酸化法、陽極酸化法あるいは化学気相法のいずれかを用いることができる。熱酸化法または陽極酸化法を用いる場合には、予め導電性多孔質膜上に光触媒粒子を含むコロイド溶液を塗布する。このように導電性多孔質膜上に予め光触媒粒子を塗布した後、被膜を形成すると、導電性多孔質膜と光触媒粒子とを融着することができる。導電性多孔質膜と光触媒粒子とが融着すると、両者の界面でのIRロスを低減することができ、光水電解時の逆電子反応を防止することができる。
【0038】
さらに、図1(a)に示したPEM型光水電解セルの隔膜3の3通りの製造方法を説明する。
【0039】
(1)第1の方法
まず、チタン多孔質膜を作製する。有機溶媒中に、粒径45μm〜150μmの球状Ti粒子の粉末とバインダ(ポリビニルブチラール)とを投入し、混合攪拌してスラリーを作製する。作製したスラリーをドクターブレード法により薄膜化した後、得られた薄膜を真空焼結炉内に導入する。真空焼結炉を真空排気した後、薄膜を500℃で脱脂し、その後、1050℃〜1350℃で焼結してチタン多孔質膜とする。
【0040】
図4(a)に示すように、得られたチタン多孔質膜100上に、ドクターブレード法を用いて光触媒粒子101の粉末を含むスラリー102を塗布する。その後、光触媒粒子101を塗布したチタン多孔質膜100を400℃〜800℃で焼成すると、図4(b)に示すように、表面にTiO2被膜103が形成された光触媒電極104が得られる。
【0041】
次に、白金触媒を被覆した炭素微粒子とプロトン伝導膜に使用されるものと同種のパーフルオロスルホン酸ポリマーを溶解した低級アルコールを主体とする溶液を均一に混合して、ペースト状の混合物を調整する。調整したペースト状の混合物をプロトン伝導膜上に塗布した後、混合物の塗布面と逆側に、作製した光触媒電極を配置する。その後、プレス温度120℃〜150℃、プレス圧力1MPa〜5MPaの条件下でホットプレスをする。すると、プロトン伝導膜に光触媒電極が圧着されて、図4(c)に示すように、プロトン伝導膜105の一方の面に光触媒電極104が形成され、光触媒電極104と逆側の面に白金担持カーボン電極106が形成されて、隔膜107を得ることができる。
【0042】
なお、光触媒電極104によりプロトン伝導膜105が破断することを防止するため、プロトン伝導膜105は、一定以上の厚さとすることが望ましい。プロトン伝導膜105としてナフィオン膜を使用する場合は、ナフィオン膜の厚さを50μm以上とすることが望ましい。
【0043】
(2)第2の方法
第2の方法では、まず、光触媒粒子101の粉末を含むスラリー102をチタン多孔質膜100上にドクターブレード法を用いて塗布する(図4(a))。光触媒粒子101を塗布したチタン多孔質膜100を400℃で焼成し、チタン多孔質膜100表面に光触媒粒子101の光触媒層を形成する。光触媒層を形成したチタン多孔質膜100を陽極酸化して、表面にTiO2被膜103を形成する。より具体的には、光触媒層を形成したチタン多孔質膜100を作用電極とし、対極を炭素電極とし、H3PO40.3mol/l、H2SO4 1.5mol/lの水溶液中、200Vで低電圧電解を行う。この操作により、チタン多孔質膜100の表面にTiO2被膜103を形成することができる。その後の製造手順は、前述した第1の方法と同様である。
【0044】
(3)第3の方法
第3の方法では、まず、光触媒粒子101を含むスラリー102をチタン多孔質膜100上にドクターブレード法を用いて塗布する(図4(a))。光触媒を塗布したチタン多孔質膜8を400℃〜800℃にて焼成する。この時に、チタン多孔膜の表面にTiO2被膜103を形成することができる(図4(b))。これにより、光触媒粒子101とチタン多孔質膜100との間の導電性が保たれると同時に、電解液(水)とチタン多孔質膜100との間にTiO2被膜103が形成される(図4(c))。
【0045】
次に、白金触媒を被覆した炭素微粒子とプロトン伝導膜に使用されるものと同種のパーフルオロスルホン酸ポリマーを溶解した低級アルコールを主体とする溶液を均一に混合して、ペースト状の混合物を調整する。調整したペースト状の混合物をプロトン伝導膜上に塗布した後、混合物の塗布面とは逆側に、作製した光触媒電極104を配置する。その後、プレス温度120℃〜150℃、プレス圧力1MPa〜5MPaの条件下でホットプレスをして、プロトン伝導膜105に光触媒電極104を圧着して、図4(c)に示す隔膜107とする。
【0046】
その後、得られた隔膜107について、H3PO40.3mol/l、H2SO4 1.5mol/lの水溶液中、200Vにて定電圧電解を行い、隔膜の製造工程の途中に生じるTiO2被膜の欠陥を選択的に封止することができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、隔膜中の光触媒電極と対極となる電極との間に外部短絡線を接続してPEM型光水電解セルを構成したため、水素発生サイトと酸素発生サイトとを分離することができる。このため、水の分解により生成した水素と酸素とを分離して回収することができ、エネルギの変換効率を高めることができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、外部短絡線上にバイアス電源を設置したため、半導体の導電帯のエネルギ準位が水素の酸化還元電位に達していない場合でも、バイアス電圧を負荷して水を分解することが可能となる。
【0049】
さらに、本実施形態によれば、光触媒粒子により励起された電子が導電性多孔質膜を介して対極の電極に流れるため、光触媒粒子を透明電極に担持した場合や、光触媒自体のみが電子を流すパスである場合に比べて、面方向のIRロスを低減することができる。この結果、エネルギの変換効率を高め、さらにPEM型光水電解セルを容易に大型化することができる。
【0050】
第2実施形態
本実施形態では、改良した隔膜を適用したPEM型光水電解セルを挙げて説明する。なお、第1実施形態に示したPEM型光水電解セル1と同一の構成については、同一符号を使用してその説明を省略する。
【0051】
図5(a)は、本発明の実施の形態に係るPEM型光水電解セルの断面図であり、図5(b)は、隔膜の拡大断面図である。PEM型光水電解セル20の隔膜21には外部短絡線が接続されていない。図5(b)に示す隔膜21では、チタン多孔質膜8がプロトン伝導膜7の中に埋め込まれ、チタン多孔質膜8はプロトン伝導膜7を突き抜けた構造を有する。さらに、チタン多孔質膜8は、プロトン伝導膜7の両面側に各々形成された光触媒粒子10と白金担持カーボン電極6とに導通している。
【0052】
PEM型光水電解セル20の隔膜21中の光触媒粒子6としては、価電子帯電位が酸素の酸化還元電位(1.23 V vs. NHE)よりもエネルギ的に低く、伝導帯電位が水素の酸化還元電位(0V vs. NHE)よりエネルギ的に高い材料を使用している。光触媒粒子10としては、酸化チタンストロンチウム(SrTiO3)、二酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO3)、酸化タンタルカリウム(KTaO3)、セレン化カドミウム(CdSe)あるいは硫化カドミウム(CdS)、InRaO4、In1-xNixTaO4、Rb2La2TiO10、Ta2O5、TaON、Ta3N5などの半導体が挙げられる。
【0053】
上記PEM型光水電解セル20の動作を図6に基づき説明する。
【0054】
まず、太陽光が光触媒粒子10に照射されると、第1実施形態と同様に、光触媒粒子10の価電子帯と伝導帯のバンドギャップに対応する波長の光が吸収される。この時、第1実施形態と異なるのは、図6に示すように、光触媒粒子10の伝導帯電位が水素の酸化還元電位よりも低い位置にある点である。光触媒粒子10の伝導帯電位が水素の酸化還元電位よりも低い場合には、バイアス電圧を負荷する必要も無く、白金担持カーボン電極6側で水素を発生させることができる。
【0055】
また、上記隔膜21中のチタン多孔質膜8は、白金担持カーボン電極6と接触しており、光触媒粒子10により励起された電子がチタン多孔質膜8中を通り、直接白金担持カーボン電極6に達するため、外部短絡線を接続する必要がない。
【0056】
次に、上記PEM型光水電解セル20の製造方法を説明する。
【0057】
まず、光触媒を塗布した導電性多孔質膜とプロトン伝導膜とを重ねて、プロトン伝導膜が軟化する温度以上で圧着した後、導電性多孔膜をプロトン伝導膜に貫通させる。その後、光触媒塗布面と逆側の導電性多孔膜上の酸化被膜を除去し、電極触媒層を酸化被膜除去面に塗布した後、再び、プロトン伝導膜が軟化する温度以上で圧着して隔膜とする。さらに図7を用いて詳細に説明する。まず、チタン多孔質膜を作製するが、チタン多孔質膜の製造方法は、第1実施形態と同様である。
【0058】
図7(a)に示すように、チタン多孔質膜100上に、ドクターブレード法を用いて光触媒粒子101の粉末を含むスラリー102を塗布した後、400℃〜800℃で焼成して光触媒電極104とする。焼成後に得られた光触媒電極104は、図7(b)に示すように、光触媒粒子101とチタン多孔質膜100とが融着し、光触媒粒子101とチタン多孔質膜100との間の導電性が保たれる。また、チタン多孔質膜100の表面には、電子伝導性の低いTiO2被膜103が形成される。
【0059】
作製した光触媒電極104をプロトン伝導膜105上に配置してホットプレスをする。ここで使用するプロトン伝導膜105としては、プロトンを伝導させる機能を有する材料であれば特に限定されないが、チタン多孔質膜100を白金担持カーボン電極と導通させる構造とするために、プロトン伝導膜105の厚さを薄くすることが望ましい。ホットプレスの条件は、温度120℃〜150℃、圧力5MPa〜10MPaとすることが望ましく、この条件下でホットプレスをすると、図7(c)に示すように、チタン多孔質膜100がプロトン伝導膜105内を貫通することになる。
【0060】
その後、光触媒粒子101を塗布した面と逆側のチタン多孔質膜100の面であり、
図7(c)に示すプロトン伝導膜105からチタン多孔質膜100が露出した面を研磨して、図7(d)に示すように、チタン多孔質膜100の金属面108を露出させる。
【0061】
さらに、白金触媒を被覆した微粒子状の炭素粒子と電解質膜に使用されるものと同種のパーフルオロスルホン酸ポリマーを溶解した低級アルコールを主体とする溶液を均一に混合したペースト状の混合物をTi金属面に塗布し、再度、ホットプレスをする。ホットプレスの条件は、温度120℃〜150℃、圧力1MPa〜5MPaである。ホットプレスをした後、図7(e)に示す隔膜109を得ることができる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態によれば、光触媒電極と対極となる電極とが導電性多孔質膜のみを介して導通しているため、外部短絡線の接続及びバイアス電源の設置が不要となり、この結果、PEM型光水電解セルを簡略化することができる。また、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られることはもちろんである。
【0063】
なお、本発明の光電気化学セル及びその製造方法について、前述した第1実施形態と第2実施形態とを挙げて説明したが、本発明の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、アノードの集電体として導電性多孔質膜を用いたが、パンチ穴の空いた導電体や、絶縁多孔体の上に金属から成る被膜を形成して導電性を持たせたものなど同様の働きを有するものを適用しても良い。また、光触媒として用いた半導体に助触媒として白金、酸化ルテニウム(RuO2)、酸化ニッケル(NiO)、酸化セリウム(CeO2)などを分散して添加しても良い。また、Ti多孔体上に塗布する光触媒として半導体を使用したが、有機色素など同様の働きをもつ物質を塗布しても良い。また、光触媒能を有する物質を積層する代わりに、チタン(Ti)を酸化して得られるTiO2被膜を光触媒として使用しても良い。また、図3のような光触媒と担体金属がネッキングしており、担体金属表面の光触媒がついていない部位に、半導体または絶縁体被膜を形成する方法として、光触媒と担体金属のネッキング処理を実施例1のように酸化雰囲気で行うのではなく、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行い、その後酸化処理をして半導体または絶縁体被膜を形成する方法としても良い。このような方法を用いることで、光触媒と担体金属の間に酸化被膜が形成されて、光触媒から担体金属への電子注入が妨げられるのを確実に防ぐことが可能となる。また、光触媒のTi多孔体への塗布方法として、光触媒を含んだコロイド溶液を例に挙げたが、例えば、MOD法(Metal Organic Deposition)など溶媒中に含まれた光触媒を用いる方法でも同様の結果が得られる。また、上記実施形態では、電解液と基板金属の短絡を防ぐ半導体または絶縁体として金属酸化物を例に挙げたが、同様の機能を果たすものであれば、金属硫化物や金属炭化物を用いても良い。また、第1実施形態ではバイアスの掛け方として外部電源を用いていたが、隔膜によって隔てられたガラスセル内の水溶液にpH差をつけて、バイアスを掛ける方法としても良い。さらに、本実施形態では光触媒で発生したプロトンを対極まで輸送するための媒体としてプロトン伝導膜を用いたが、これを除き、導電性多孔体内部に含まれる電解液自体が媒体となってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係るPEM型光水電解セルの断面図であり、(b)は、隔膜の拡大断面図である。
【図2】図1に示すチタン多孔質膜の拡大断面図である。
【図3】図1に示すPEM型光水電解セル1の動作を説明する図である。
【図4】図1に示すPEM型光水電解セルの隔膜の製造工程図である。
【図5】(a)は、本発明の第2実施形態に係るPEM型光水電解セルの断面図であり、(b)は、隔膜の拡大断面図である。
【図6】図5に示すPEM型光水電解セルの動作を説明する図である。
【図7】図5に示すPEM型光水電解セルの隔膜の製造工程図である。
【符号の説明】
【0065】
1…PEM型光水電解セル,
2…容器,
3…隔膜,
4a,4b…水貯留部,
5…光触媒電極,
6…白金担持カーボン電極,
7…プロトン伝導膜,
8…チタン多孔質膜,
9…二酸化チタン被膜,
10…光触媒粒子,
11a,11b…シール部,
12…外部短絡線,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性多孔質体の表面に被膜が形成されると共に、前記導電性多孔質体の一方の面に光触媒が形成された光触媒電極と、
前記光触媒電極の対極となる電極と、
前記各電極間に狭持されたプロトン伝導体と、
を有する隔膜を備えることを特徴とする光電気化学セル。
【請求項2】
前記被膜は、前記導電性多孔質体を形成する金属の酸化物、窒化物、硫化物、炭化物の少なくとも1種類からなる半導体又は絶縁体となる金属から形成されることを特徴とする請求項1記載の光電気化学セル。
【請求項3】
前記被膜は、上記導電性多孔質体の一方の面に形成された光触媒であることを特徴とする請求項1記載の光電気化学セル。
【請求項4】
前記光触媒は、光触媒粒子を導電性多孔質体に融着して形成されることを特徴とする請求項1記載の光電気化学セル。
【請求項5】
前記光触媒は、前記被膜とは異質な材料であることを特徴とする請求項3記載の光電気化学セル。
【請求項6】
前記導電性多孔質体は、金属微粒子の焼結体であることを特徴とする請求項1記載の光電気化学セル。
【請求項7】
前記光触媒電極は、前記導電性多孔質体の一方の面に、導電性多孔質体を形成する金属の酸化物、窒化物、硫化物、炭化物の少なくとも1種類からなる半導体又は絶縁体とは別種の光触媒を設け、かつ導電性多孔質体の表面に導電性多孔質体を形成する金属の酸化物、窒化物、硫化物、炭化物の少なくとも1種類からなる半導体又は絶縁体を被覆することを特徴とする請求項4記載の光電気化学セル。
【請求項8】
前記光触媒電極と対極となる電極とを電気的に導通することを特徴とする請求項1記載の光電気化学セル。
【請求項9】
さらに、前記光触媒電極と対極となる前記電極との間を接続する短絡線を備えたことを特徴とする請求項5記載の光電気化学セル。
【請求項10】
前記光触媒電極と対極となる前記電極とは、導電性多孔質膜を介して導通されていることを特徴とする請求項8記載の光電気化学セル。
【請求項11】
前記光触媒電極と対極となる前記電極との間にバイアス電圧を掛けることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項12】
さらに、前記光触媒電極と対極となる前記電極との間を接続する短絡線と、前記短絡線上に設置されたバイアス電源と、を備えることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項13】
前記プロトン伝導膜によって隔てられた隔室間に水素イオン濃度差をつけることによりバイアス電圧を掛けることを特徴とする請求項11記載の光電気化学セル。
【請求項14】
前記プロトン伝導体は、プロトン伝導膜であることを特徴とする請求項1記載の光電気化学セル。
【請求項15】
前記プロトン伝導体は、前記多孔質伝導体内部に保持される電解液であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項16】
導電性多孔質体の表面に被膜を形成すると共に、前記導電性多孔質体の一方の面に光触媒を形成して光触媒電極とし、前記光触媒電極の光触媒を形成した面と逆側に、プロトン伝導体と、前記光触媒電極の対極となる電極と、を順次重ねて、前記プロトン伝導体の軟化する温度以上で圧着して隔膜とすることを特徴とする光電気化学セルの製造方法。
【請求項17】
導電性多孔質体の表面に被膜を形成すると共に、前記導電性多孔質体の一方の面に光触媒を形成して光触媒電極とし、前記光触媒電極の光触媒を形成した面と逆側に、プロトン伝導体と、前記光触媒電極の対極となる電極と、を順次重ねて、前記プロトン伝導体の軟化する温度以上で圧着し、前記導電性多孔質体をプロトン伝導体に貫通させて、光触媒粒子を塗布した面と逆側の前記導電性多孔質体上に形成された酸化被膜を除去し、前記酸化被膜の除去面に対極となる電極材料を塗布し、前記プロトン伝導体の軟化する温度以上で圧着して隔膜とすることを特徴とする光電気化学セルの製造方法。
【請求項18】
熱酸化法、化学気相法または陽極酸化法を用いて、前記導電性多孔質体の表面に被膜を形成することを特徴とする請求項16又は17記載の光電気化学セルの製造方法。
【請求項19】
前記導電性多孔質体上に光触媒粒子を塗布した後、導電性多孔質体の表面に前記被膜を形成することを特徴とする請求項16又は17記載の光電気化学セルの製造方法。
【請求項20】
前記導電性多孔質体上に光触媒粒子を塗布した後、不活性雰囲気下で熱処理をした後、前記導電性多孔質体の表面に前記被膜を形成することを特徴とする請求項16又は17記載の光電気化学セルの製造方法。
【請求項21】
前記隔膜を形成した後、さらに被膜を形成することを特徴とする請求項16又は17記載の光電気化学セルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−302695(P2006−302695A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123623(P2005−123623)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】