光電流発生器
本発明は、導電スペーサ部分によって電極に拘束される電子移動部分を有するシステムを提供する。電極に対してバイアス電位を印加して、電子移動部分を還元することにより、光子を吸収することができる還元電子移動種を形成し、それにより、励起電子移動種を形成する。電子求引性部分が励起電子移動種から電子を受け入れ、それにより、還元電子受容体が形成される。還元電子受容体は、例えば、水素発生反応で使用されてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、光化学電流発生のための装置の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
光電流を発生して解析するために様々な改質金面が使用されてきた[7-9]。光電流発生器においては、例えば、ITOまたはAuマクロ電極を使用する、フラーレン[6,8,11-32]、ポルフィリン[5,6,8,9,11,13-16,20,21,23-25,29-31,33-44]、フェロセン[5,8,13,23,24,29,36,42,45]、Ru(bipy)3[29,46-48]、およびピレン[7-9,45]など、様々な光子受容体群またはそれらの群の組み合わせが使用されてきた。ある場合には、生体分子スペーサ群によって光電流発生が行なわれてきた[7,49-52]。
【発明の開示】
【0003】
発明の概要
代替的局面において、本発明は、核酸等の導電スペーサ部分により電極(電子変換が可能な任意の面、すなわち、電気化学変換器であってもよい)に拘束されるフルオレセイン等の光子求引性電子移動部分を含むシステムを提供する。電極に対してバイアス電位を印加して、光子求引性電子移動部分を還元することにより、Fl-ラジカル等の光子を吸収することができる還元光子求引性電子移動種を形成し、それにより、励起電子移動種を形成する。システムは、励起電子移動種から電子を受け入れることができるNADまたはNADP等の電子求引性部分を更に備えており、これにより、NADHまたはNADPH等の還元電子受容体が形成される。電子求引性部分は、電子移動溶液と称される場合がある電子移動を援助する電解質を含む溶液、例えば還元電子受容体に対して光子を与えることができる水溶液中に供給されてもよい。拘束された電子移動部分が電子移動溶液中に浸されることにより、溶液中において、励起電子移動種と連続電子求引性部分との間で電子移動反応が繰り返されてもよい。還元電子移動種を形成するために電極に対して印加されるバイアスが還元電子受容体を形成するために必要な電位よりも小さくなるようにシステムで使用される電気化学種を選択し、それにより、還元電子受容体を形成するために電子移動反応が電極上で行なわれなくなるようにしてもよい。還元電子移動種が形成される割合が励起電子移動種が1つの電子を電子受容体に対して与える割合よりも大きくなるようにシステムの構成要素を選択し、それにより、適切なバイアスが電極に対して印加される際に、光子を吸収して励起電子移動種を形成するようになっている還元形態中に十分な割合の電子移動種が存在するようにしてもよい。
【0004】
還元電子受容体は、例えば、水素発生反応で使用されてもよい。
【0005】
本発明の幾つかの態様においては、還元電子受容体を利用するため、NAD(P)H等の還元電子受容体を利用する酵素または他の化学的あるいは生物学的な系が電子移動溶液に対して加えられてもよい。そのような態様において、還元電子受容体は、例えば、生物学的に活性な酵素補助因子であってもよい。光電気化学的に発生された補助因子は、例えば、アルデヒドのアルコールへの変換、ケトンへの還元、有機酸の還元アミノ化または還元を促進するために酵素的に使用されてもよい。したがって、光化学的に再生された本発明の補助因子、例えばNAD(P)Hは、還元的変換や生体触媒による酵素カスケード等の様々な二次生体触媒変換を促進させるために使用されてもよい。
【0006】
発明の詳細な説明
一局面において、本発明は、金微小電極上のフルオレセイン標識DNAの自己組織化膜(SAM)から光電流を発生するためのシステムを提供する。そのような態様において、フルオレセインは光子受容体(または、蛍光プローブ)としての機能を果たし、また、DNAは、光子受容体または蛍光プローブを電極面に対して拘束するスペーサ群としての機能を果たす。フルオレセインは、比較的大きいモル吸収率を有し、したがって、その後の反応[10]のために光子を吸収する可能性が高い。DNAスペーサ群は、例示的な態様においては部分的に使用された。これは、スペーサ長依存の研究から、短いスペーサ群においては光電流が減少することが分かったからであり、このことは、励起状態の蛍光プローブが電極面に近接することにより非活性化する場合があることを示唆している。これらの限界を踏まえて、本発明における使用においては、他の蛍光プローブおよび他のスペーサ群が選択されてもよい。他のスペーサとしては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニルアセチレン、ペプチド、ポリアミド、または、ペプチド核酸(PNA)等の導電性高分子を挙げることができる。他の光子受容体としては、ポルフィリン、フラビン、ユビキノン、キノン、フェロセン、Ru(bipy)3、メチレンブルー、メチレングリーン、MV+、ピレン、ナノ粒子(例えば、Au、Ag、CdSe、SdS、ZnSe、ZnS、Pb、Pt)を挙げることができる。他の基質としては、例えば、微小電極から大きな平面に至る多種多様なトポロジーを用いて表面の形を成してもよいインジウムスズ酸化物(ITO)面、Ag面、Pt面、Si面を挙げることができる。実質的に透明なITO電極積層体は、例えば、電子受容体(例えばNAD(P)H)が積層体の照射側で積層体中に入り且つ還元電子受容体(例えばNAD(P)H)が積層体の非照射側に残るように、電子受容体による流れを与えるようになっていてもよい。この場合、実質的に透明な積層体により、積層体の深さ全体にわたってシステムの照射が容易になる。
【0007】
還元電子受容体は、例えば、図10に示されるように、水素発生反応において使用されてもよい。図11および図12に示されるように、本発明のシステムによって発生されるNADHは、酵素触媒作用において利用できる。図11は、1:2改質された金メッシュ電極上における光誘起電気化学NADH発生物を示す。図12は、アセチルアルデヒドの存在下におけるアルコール脱水素酵素(アルコールデヒドロゲナーゼ)(ADH, Baker’s Yeast, Sigma-Aldrich)によるNADHの酵素消費量を示している。
【0008】
本発明の更なる態様では、還元電子受容体NADHを利用する酵素生化学系が電子移動溶液に対して加えられた。このことは、生物学的に活性な還元電子受容体の利用を示している。図16bに示されるように、光電気化学的に生成されたNADHは、アルデヒドのエタノールへの変換を促進するために酵素的に使用された。特定の条件下において、プロセスは、酸素、有機溶媒および他の化合物による抑制作用に対して耐性があった。他の態様において、本発明のシステムによって生成されたNAD(P)H等の還元電子受容体は、多種多様な他の反応で利用されてもよい。
【0009】
実施例1
材料および準備
DNAは、純度および同一性の検証を伴う学術研究会議(Nation Research Council(サスカトゥーン、SK、カナダ))での標準的なDNA合成方法により合成されて精製された。金電極は、所定の50μm Auワイヤを軟質ガラス中に溶け込ませることによって形成され、この軟質ガラスは、その後、0.05μmアルミナスラリーを用いて研磨された後、熱いピラニアエッチング溶液(H2SO4:H2O2=3:1)中に10分間浸すことにより洗浄された。(ピラニア溶液は、細心の注意を払って扱わなければならず、閉じられた容器内に保管してはならない。また、ピラニア溶液は、非常に強い酸化剤であり、殆どの有機物質と激しく反応する)、最終的に、ミリポア(Millipore)H2O内で超音波分解された。各電極を光学顕微鏡検査によって検査し、それにより、Au電極表面が滑らかであり且つ効果的なシールがガラスとAuとの間に形成されていることを確かめた。その後、電極は、1.1Vで安定な金酸化ピークを得るまで、周期的な走査形式電位-0.1〜+1.25V vs. Ag/AgClにより0.5MH2SO4溶液中で電気化学的に処理された。
【0010】
Fl-DNA改質された金電極は、50mMのトリスClO4緩衝溶液(pH8.6)中の0.05mMの二本鎖DNA内で5日間にわたって微小電極を培養することにより形成された。その後、電極は、同じトリスClO4緩衝溶液を用いて濯がれるとともに、図1に概略的に示された光電気化学電池内に組み込まれた。対極の絶縁は、経時的な電流測定の質の低下をもたらす可能性がある対極反応を排除するのに有益であった。
【0011】
光電流条件は以下の通りであった。すなわち、レーザ出力が4mW・cm-2、波長が473±5nm、ビーム直径が0.8mm未満のBM73-4Vレーザモジュール(Intelite社、ジェノア、ネバダ州、米国)が励起源として使用された。CV 203BUヘッドステージに接続されたAxopatch 200B増幅器(Axon Instruments)を使用して、電圧固定状態下で光電流実験が行なわれた。電圧固定状態のため、1MのKCl溶液中のAg/AgClワイヤとしての基準電極と改質Au微小電極としての作用電極とを有する2電極装置が使用された。分光電気化学電池は、接地されたファラデー箱(Warner Instruments)内に封入されるとともに、アクティブエア防振(Kinetic Systems)テーブル上に置かれた。電流は、1kHzでローパスベッセルフィルタ処理されるとともに、DigiData 1322A(Axon Instruments)により5kHzでデジタル化され、PClamp 9.0(Axon Instruments)を実行するPCによって記録された。20Hzでローパスフィルタを使用してソフトウェア方法により更なるフィルタ処理が行なわれた。全てのデータの解析はOrigin 7.0(OriginLab社)により行なわれた。BAS CV-50ボルタンメトリ解析器と標準的な3電極装置を使用する微小電極用の特注の電気化学システムとを用いて他の電気化学測定が行なわれた。金微小電極(50μm直径)は作用電極としての機能を果たす。基準電極は、3MのKCl溶液を用いてAg/AgClワイヤをガラスチューブ中に封入してバイコーチップ(Vycor tip)を被せることにより構成された。基準電極が、電解質を含むルギン細管により電池から絶縁された。対極は白金ワイヤであった。全ての電解質溶液が測定前に最低で20分間アルゴン中で浄化され、また、測定中においては、アルゴンの覆いが溶液上にわたって維持された。全ての態様は室温での作業により実証された。
【0012】
以下のようにX線光電子分光法が行なわれた。Al-Ka放射線源(1486.6eV)が設けられたLeybold MAX200光電子分光器を使用して光電子放出スペクトルを収集した。測定中の基本圧力は解析チャンバ内で10-9mbar未満に維持された。テイクオフ角度は60度であった。ルーチン機器較正基準はAu4f7/2ピークであった(結合エネルギ84.0eV)。
【0013】
以下のように電子常磁性共鳴(EPR)が行なわれた。高感度円筒キャビティ(モデル4107WZ,Bruker Spectrospin)を備えるBruker ESP300 Xバンドフィールドスウェプト分光計(共鳴周波数 約9.4GHz)を使用してEPRスペクトルが記録された。振幅変調は0.315Gであり、マイクロ波出力は20mWであり、また、41msの変換時間、20.5msの時定数、32個の走査が記録された。EPRスペクトルのシミュレーションのためにSimFoniaソフトウェアが使用された。
【0014】
結果および考察
カナダのサスカトゥーンにあるNRCでの標準的なリンアミドソリッドサポート合成を使用して、フルオレセイン標識DNA(Fl-DNA)の合成が行なわれた。光電流実験のために使用された配列が表1に列挙されている。代替的な二次構造または三次構造を最小限に抑え且つ等しい数の各塩基を組み入れるように塩基配列が選択された。二本鎖構造の存在/欠如を確かめるため、また、フルオレセイン蛍光プローブが二本鎖の安定性に大きな影響を与えないようにするために、DNA融解研究が行なわれた。1:2二本鎖のDNA融解曲線は、Tm値と2:3の二本鎖との間(56.8℃ vs. 56.4℃)に変化が無いことを示し、このことは、フルオレセインの構成成分が二本鎖形成を著しく妨げないことを表わしている。
【0015】
(表1)光電流研究において使用されるDNA配列. Fl=フルオレセイン
【0016】
1:2二本鎖は、完全な単分子層形成を可能にするため、5日間にわたって緩衝液中でAu微小電極と共に培養された。単分子層は、X線光電子分光法(XPS)、偏光解析法、電気化学法により解析された。Au4f7/2ピークの強度の変化は、単分子層の厚さを決定するために使用されるとともに、47(5)Åの値を与えた。このことは、1:2が多層構造を形成しないことを暗示している。162eVでのS2pピークの存在は、1:2単分子層において予期されるようにAu-チオレート結合の証である。なお、1:2のジスルフィドは、Au表面に対する化学吸着時に開裂すると予想され、また、ジスルフィドエネルギのピーク(164.1eV)は観察されなかった。また、DNAのリン酸バックボーンに対応する134eVでP2pピークが測定された。XPS結果は、単分子層が硫黄を介してAu表面に結合される明確な証拠を与えている。偏光解析法は、Au基板上の1:2単分子層において47(3)Åの厚さを与えた。この値は、DNAの20-merの以前の測定値と一致しており[53]、XPSによって得られた値と自己矛盾しておらず、また、DNAが表面に対して大きな傾斜角をとっていることを示している。
【0017】
1:2単分子層を有するフルオレセインの酸化還元電位を証明するために電気化学実験が行なわれた。しかしながら、サイクリックボルタンメトリ(CV)実験は、フルオレセインの酸化還元反応速度の固有の性質により複雑となった。電気化学的な還元/酸化は、非常にゆっくりとしているため、従来のCV解析を考慮することはできない。フルオレセインの存在下でのCVは、フルオレセインが存在しない場合とは異なっているが、図2aに示されるように、識別できる還元ピークは存在しない。図2bは、暗闇の中での放射時における溶液中のフルオレセインのありのままのAu CVを示している。電極が放射線に晒されている間、よりプラスの電流へと向かう僅かな変化が存在している。複雑な問題は、還元電位がAg/AgClに対して約-750mVであるということであり、これは使用されるpH状態下での陽子の減少に比較的近い。したがって、ゆっくりとした酸化還元反応速度および水素発生に近い見掛け上の電位に起因して、明確な還元ピークは不可能であった。その結果、正常に動作する還元プローブに関しては、表面被覆率値を電気化学的に定量化することができない。表面被覆率の近似は、フルオレセインがフェロセン(Fc)に取って代えられた点を除き、同じDNA二本鎖を使用して行なわれた。このFc単分子層の表面被覆率は、5×10-10mol・cm-2で報告された。インピーダンス分光法(IS)を使用して2つの単分子層(1:2 vs. 1-FC:2)を比較し、表面被覆率近似が有効であることを検証した。明らかに、IS結果は、同じ条件下では略同一の態様を示し、したがって、表面被覆率値は20%内であると判断される。
【0018】
実際の光電流発生実験に伴って生じる光種の証拠を与えるためにフルオレセイン分光電気化学実験が行なわれた。-750mVよりも大きさが大きい電位が印加された場合、UV可視領域内の吸光度は、スペクトルの明確な変化を示す。スペクトル変化が図3に示されている。フルオレセイン吸光度ピーク(492nm)の減少は、フルオレセイン陰イオン(Fl-)へのフルオレセイン(Fl)の還元に起因している。Fl-は、380〜420nmおよび550〜650nmの範囲でのピークの増大によって特定されるようなFlとは異なる固有のスペクトルを有する[55-57]。UV可視スペクトルの変化と一致するのは、フルオレセイン蛍光スペクトルの減少である。図3bに示されるフルオレセイン蛍光強度の減少は、Fl-種が低い量子収量の蛍光を有することを表わしている。この非活性経路における減少は、電子移動(ET)非活性経路の増大によって生じる可能性がある。
【0019】
1:2二本鎖およびフルオレセインの電気化学EPR研究は、-750mVよりも大きい電位で、還元されたFlをフルオレセイン陰イオンラジカル(Fl-)として明確に識別した。1:2およびフルオレセインのEPRスペクトルとこれらの対応するシミュレーションスペクトルとが図4に示されている。使用されたシミュレーションスペクトル値は、表2に含まれており、先行技術文献[58-66]からのものである。
【0020】
(表2)FlおよびFl-DNA陽子における結合定数および不対スピン密度
【0021】
1:2単分子層の放射線により、図5に示されるように、-750mVの印加電位で光電流が発生される。マイナス電位が印加されると、適切な電子受容体が存在する場合には、電子を移動させて電流を発生するために励起状態のFl-ラジカルが利用可能になる。この実施例では、NADP+が受容体群として溶液に加えられた。重要なことには、NADP+は、光電流発生のために必要な電位領域で電気化学的に還元されず、そのため、電極上のNADP+電子受容体の還元は起こり得ない。光電流は、NADP+が無い場合に観察されたが(図6b)、NADP+の存在下では大きく増大した(図6a)。赤色レーザ光(632nm,10mW・cm-2)を用いた放射では、光電流が発生されなかった(図6c)。
【0022】
NADP+は、光合成の暗反応のための非常に重要な化学エネルギ貯蔵部であり、したがって、非生物的系におけるエネルギ貯蔵のために利用することができる。図6aは、単分子層の放射線から発生された派生電流を印加電位に応じて示している。電流は、約-750mVで最大値をとっており、また、更に低い印加電位で劇的に減少している。-750mVにおける最大値は、放射線およびその後の電子が移動する前にフルオレセインがそのラジカルアニオンまで還元されている証拠である。図6bに示されるように、入力レーザと出力光電流との間には線形的関係が見られた。
【0023】
複数のレーザ励起における単分子層の有効性が、レーザ光の繰り返し照射により評価された。図7に示されるように、派生光電流は、照射の数の増大に伴って減少する。しかしながら、光電流の減少の大きさは比較的小さい。
【0024】
本発明のシステムにおけるNADPHの形成は、NADP+および1:2の単分子層を含む溶液中における340nmでのピークの成長によって明らかにされる(図8a)[68-70]。NADP+の二量体が電気化学的還元下で形成することは一般的なことであり、また、これらの二量体は、340nmで吸収ピークを有する[68-71]。
【0025】
本発明の一局面に係る推定光電流発生方式が図9に概略的に示されている。第1の工程(図9a)は、Au表面からの電子移動によってフルオレセインをラジカルアニオンへ、DNAの二重らせんを通して共有結合しているフルオレセインに還元することであってもよい。フルオレセインラジカルアニオンは、(60分単位で測定された)異常に長い寿命を有すると思われる。このため、Fl-は光子を吸収できる程度に十分長く生き延びることができると思われる。フルオレセインラジカルアニオンが適当なエネルギの光子を吸収して(図9b)、励起状態のフルオレセインラジカルアニオンが形成されると(図9c)、フルオレセインラジカルアニオンは、その後、その電子を拡散NSDP+に対して与えることにより基底状態に戻ることができる。しかしながら、NADP+は2電子受容体である。したがって、隣接するストランド或いは同じストランドが還元されて再び励起されるようになり、それにより、第2の電子がNADPに対して与えられる。水溶性媒体中に含まれるこの系では、NADP-のプロトン化が容易になる。
【0026】
式1は、光電気化学プロセスの特性としての量子効率の測定に関する。量子効率(Φ)は、光電気化学反応に関与する電子の数と(dNe/dt, electrons/s)、光活性のある分子によって単位時間当たりに吸収される光子の数(dNhv/dt, photons/s)との比率によって規定されてもよい[7,8,12-14,16,21,24,30,32,33,36,37,40,72-76]。
【0027】
4mW/cm2の出力を有するλ=473(5)nmレーザ光を用いた励起下では、-750mV(vs. Ag/AgCl)の印加電位で、Fl-DNA標識微小電極において450nA・cm-2の光電流密度が得られた。電極表面上のFl-DNAのモル吸収係数(ε473,43 000 M-1 cm-1)は、溶液におけるそれと同じであるとする。つまり、量子効率は0.25(5)となるように計算された。この値は、ポルフィリンSAM(0.1%)[35]、金表面上の多層ピレン含有系(1%)[7]に関して報告された値よりも十分に大きく、C60SAM系[8,18,21-25]における値(7.5〜35%)に匹敵している。
【0028】
本発明の様々な態様が本明細書において開示されているが、当業者の共通の一般的な知識にしたがって本発明の範囲内で多くの適合および変更を行なうことができる。そのような変更としては、本発明の任意の局面の代わりに公知の等価物を使用して、ほぼ同じ方法で同じ結果を得ることを挙げることができる。数値範囲は、範囲を規定する数字を含む。用語「含んでいる」は、本明細書では、制限のない用語として使用されており、「を含むがこれらに限定されない」なる言いまわしにほぼ相当している。また、用語「含む」は対応する意味を含む。本明細書で使用されるように、単数形「1つの(a, an)」および「その(the)」は、文脈がそうでないことを明確に述べていない限り、複数の関連物を含む。したがって、例えば、「1つのもの」という言及は、そのようなものを複数含む。本明細書における文献の引用は、そのような文献が本発明に対して従来技術であることを是認するものではない。この明細書で引用された特許および特許出願を含むがこれらに限定されない任意の優先権書類および全ての刊行物は、あたかもそれぞれの個々の刊行物が参照により本明細書に組み入れられるように具体的に且つ個別に示され且つ本明細書中に完全に記載されているかのように、参照により本明細書に組み入れられる。本発明は、実施例および図面を参照して前述したような全ての態様および変形例を含む。
【0029】
実施例2
材料および準備
電極:金微小電極(50μm直径)が形成され且つ前述したように特徴付けられた[104]。金メッシュは、Alfa Aesar(99.9%純度、0.1mm直径のワイヤを編み込んでなる52メッシュ)から購入され、0.1mm直径のAu(同上)リードに対してスポット溶接された。Auメッシュアセンブリは、沸騰したビラニア溶液(1:3H2O2:H2SO4)中に10分間浸すことにより洗浄された(ピラニア溶液は、細心の注意を払って扱わなければならず、閉じられた容器内に保管してはならない。また、ピラニア溶液は、非常に強い酸化剤であり、殆どの有機物質と激しく反応する)。
【0030】
フルオレセイン-DNA構成:DNAは、学術研究会議(サスカトゥーン、SK、カナダ)での標準的なDNA合成方法により合成されて精製された。光電流実験のために使用された配列が表4に列挙されている。代替的な二次構造または三次構造を最小限に抑え且つ等しい数の各塩基を組み入れるように塩基配列が選択された。
【0031】
(表4)光電流研究において使用されるDNA配列。Fl=フルオレセイン
【0032】
Fl-DNA改質金電極の形成:微小電極およびメッシュ電極は、前述したように、50mMのトリスClO4緩衝溶液(pH8.6)中の0.05mMのフルオレセイン標識二本鎖DNA内で5日間にわたって培養された[104]。
【0033】
光電流条件:電極は、その後、トリスClO4緩衝溶液を用いて濯がれるとともに、図1に概略的に示された光電気化学電池内に組み込まれた。この場合、適用可能なNAD(P)+が2mMの最終的な濃度に対して加えられた。対極の絶縁は、経時的な電流測定の質の低下をもたらす可能性がある対極反応を排除するために必要であった。レーザ出力が4mW・cm-2、波長が473±5nm、ビーム直径が0.8mm未満のBM73-4Vレーザモジュール(Intelite社、ジェノア、ネバダ州、米国)が励起源として使用された。CV 203BUヘッドステージに接続されたAxopatch200B増幅器(Axon Instruments)を使用して、電圧固定状態下で光電流実験が行なわれた。電圧固定状態のため、1MのKCl溶液中のAg/AgClワイヤとしての基準電極と改質Au微小電極としての作用電極とを有する2電極装置が使用された。分光電気化学電池は、接地されたファラデー箱(Warner Instruments)内に封入されるとともに、アクティブエア防振(Kinetic Systems)テーブル上に置かれた。
【0034】
電流は、1kHzでローパスベッセルフィルタ処理されるとともに、DigiData 1322A(Axon Instruments)により5kHzでデジタル化され、PClamp 9.0(Axon Instruments)を実行するPCによって記録された。20Hzでローパスフィルタを使用してソフトウェア方法により更なるフィルタ処理が必要とされ、行なわれた。全てのデータの解析はOrigin 7.0(OriginLab社)により行なわれた。標準的な3電極装置を使用する微小電極用の特注の電気化学システムを用いて他の電気化学測定が行なわれた。金微小電極(50μm直径)は作用電極としての機能を果たす。基準電極は、3MのKCl溶液を用いてAg/AgClワイヤをガラスチューブ中に封入してバイコーチップ(Vycor tip)を被せることにより構成された。基準電極は、電解質を含むルギン細管により常に電池から絶縁された。対極は白金ワイヤであった。全ての電解質溶液が測定前に最低で20分間Ar中で浄化され、また、測定中においては、アルゴンの覆いが溶液上にわたって維持された。全ての実験は室温での作業により行なわれた。
【0035】
結果および考察
電子の移動時には、推測上、発色団の安定したラジカルアニオンが形成される。発色団は、その後、放射線(473nm)を用いて励起される。このようにすれば、電子移動の戻りを抑制することができる。例示したように、フルオレセイン(Fl)は、発色団として選択されるとともに、それが大きな吸収係数(ε473=43 000 M-1 cm-1)を有して適度な還元電位(-750mVvs. Ag/AgCl)において安定したラジカルアニオンを形成するように適合された条件下で利用されてもよい。この実施例において、発色団は、図13に示されるように、チオール連鎖により20塩基対二本鎖DNAを介して金電極に対して結合された。DNAスペーサは、励起状態のFlが電極表面への接近によって静められないようにするのに役立つことができ、また、同時に、DNAの半導体特性により、電極から発色団への電子移動を容易にすることができる。-750mV(vs. Ag/AgCl)の印加電位では、Flは、EPR分光法により図示のようにアニオンラジカルFl●-を形成すると思われる(図4)。連続した電流の流れを容易にするように、安定した電子受容体が選択されてもよい。例示的な態様において、NAD(P)+(すなわち、NAD+またはNADP+)は、発色団フルオレセインの還元電位よりも高い還元電位を有する電子受容体として選択された。
【0036】
図14aに示されるように、4mW・cm-2レーザを用いた473nmでの微小電極の照射により、持続的な電流が発生される。この場合、複数の照射に伴う大きさの減少は僅かである。NAD(P)+が存在しない場合には、図14bに示されるように、少なくとも50%だけ電流が減少した。図14cに示されるように、フルオレセインによって吸収されない波長の赤色レーザ光(632nm,10mW/cm2)を用いると、電流は観察されなかった。非標識フルオレセインDNAの単分子層を使用した場合には、光電流が発生されなかった。NAD+およびNADP+のいずれも、等しい量子収量の光電流を発生する。図15aに示されるように、光子束の強度とNAD(P)+の存在下または非存在下での電流出力との間には線形関係が見られた。図15bに示されるように、-750mVの還元電位において電流は安定期に達した。このことは、照射およびその後の電子移動の前にFlが最初にそのラジカルアニオンへと還元されたことを示す証である。
【0037】
Fl励起状態下では、-750mV(vs. Ag/AgCl)の印加電位で、Fl-DNA標識微小電極において450nA・cm-2の光電流密度が得られた。電極表面上のFl-DNAのモル吸収係数が溶液中のそれと同じであるとして、4(1)光子・電子-1(約25%の量子収量に相当する)となるように効率が計算された。NAD(P)Hの生成を例証するため、金メッシュ電極を用いて大規模に態様が実施された。この場合、溶液を分光光度法で監視した。図16aに示されるように、NADH(ε340=6220 M-1 cm-1)の特徴である340nmにおけるUV-力ピークが照射時に現れる。ニコチンアミド補酵素は、単一の電子還元によって発生されたラジカルから生物学的に不活性な二量体を形成することが分かった。NADHが生物学的に活性であり或いは活性でなかったことを示すため、二量体、アルコール脱水素酵素、アセトアルデヒドが溶液に加えられた。図16bに示されるように、340nmでのピークが除去されており、このことは、光電気化学的に発生されたNADHを酵素的に使用してアルデヒドのエタノールへの変換を促進させることができることをはっきりと示している。340nmでピークも有する生物学的に活性でないNAD+還元性生物の形成は、1%未満であると推定された。
【0038】
参考文献
以下の文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】微小電極を使用する光電流発生のための実験装置を示す概略図である(本明細書中に記載されるように、他の態様は、多種多様な電極構造および表面タイプを使用してもよい)。
【図2】(a)は、(a)KOH中および(b)KOHとフルオレセインとの存在下でのpH12、50mV・s-1におけるBASマクロ電極上の暗電流CVのグラフ図であり、(b)は、照射ON(-)および照射OFF(--)におけるpH8.6、50mV・s-1での微小電極のCVのグラフ図である。基準電極はAg/AgClであった。
【図3】(a)は、様々な印加電位持続時間(vs. Ag/AgCl)、i)0mV、ii)-750mV、1分、iii)-750mV、2分、iv)-750mV、3分、v)-750mV、6分、vi)-750mV、10分、vii)-750mV、20分でのフルオレセインのUV-可視吸光度スペクトルのグラフ図であり、(b)は、様々な印加電位持続時間(vs. Ag/AgCl)、i)0mV、ii)-750mV、1分、iii)-750mV、2分、iv)-750mV、3分、v)-750mV、4分でのフルオレセインの発光スペクトルのグラフ図である。
【図4】(a)は、-750mV(vs. Ag/AgCl)での1時間にわたるバルク電解後における1:2のEPRスペクトルのグラフ図であり、(b)は、1:2のシミュレーションEPRスペクトルのグラフ図である。
【図5】Au微小電極上の1:2単分子層による光電流発生の一実施例からのデータのグラフ図であり、(a)は溶液中にNADP+がある場合、(b)は溶液中にNADP+が無い場合、(c)は632nm放射線(出力=10mW・cm-2)が放射された溶液中の1:2単分子層およびNADP+を示している。
【図6】(a)は、印加還元電位に応じた光電流応答のグラフ図であり、(b)は、NADP+が存在しない場合(□)およびNADP+が存在する場合(○)における光強度に応じた光電流応答のグラフ図である。
【図7】繰り返し数に応じた光電流の僅かな減少を示す複数の励起応答のグラフ図である。
【図8】473nm、4mW・cm-2の放射線が放射された溶液中の0.1mM NADP+を有するAuメッシュ電極上の1:2単分子層の分光電気化学によるデータのグラフ図であり、(a)は0mV(-)および-750mV(--)(vs. Ag/AgCl)でのベースラインNADP+、(b)は乳酸脱水素酵素およびピルビン酸塩の添加前(--)および後(-)におけるUV可視スペクトルを示している。
【図9】単なる概念的な目的のための電流発生およびNADP+還元の推定機構の概略図である(本発明の態様が作用する実際の機構を必ずしも示していない)。
【図10】H2を合成するために還元電子受容体「NXH」(例えば、NADH[あなたがニコチンアミド誘導体が何であるかを知っている場合、我々は、他のニコチンアミド誘導体の記述を挿入することができる])を利用するヒドロゲナーゼまたは他の触媒を暗反応室が収容している本発明の水素発生器の概略図であり、還元電子受容体NXHは、暗反応室と流体的に連通する明反応室内で行なわれる本発明の明反応によって供給され、暗反応室内では、電極(電気化学変換面)に対して拘束された光子受容体(蛍光プローブ「F」)がNXHの合成を仲介する。
【図11】1:2改質金メッシュ電極上での光誘導電気化学NADH生成におけるUVの明白な形跡を示すグラフである。
【図12】アセチルアルデヒドの存在下でのアルコールデヒドロゲナーゼによるNADH酵素消費を示すUV可視スペクトルのグラフである。
【図13】単なる概念的な目的のための金電極上のフルオレセイン標識DNAの自己組織化単層膜上におけるNADHの光生成推定機構の概略図である(本発明の態様が作用する実際の機構を必ずしも示していない)。
【図14】図14aおよび図14bは、金電極上の自己組織化単層膜の照射時における光電流発生のグラフ図であり、(a)はNAD+を伴う473nmのものを示し、(b)はNAD+を伴わない473nmのもの;NAD+を伴う632nmのものを示している。スカラー:Y=200nA.cm-2,X=20s。
【図15】図15aおよび図15bは、(a)入射光強度に応じた電流密度(NAD+を伴う場合が○、NAD+を伴わない場合が□)のグラフ図、(b)印加電位に応じた電流密度のグラフ図である。
【図16】図16aおよび図16bは、(a)NAD+からのNADHの光生成の分光学的分析(340nmにおけるピークはNADHの形成に対応している。各曲線は5分の各工程における照射を示している。キュベットの容積は0.12mlであった。)のグラフ図、(b)NADH依存アルコールデヒドロゲナーゼ(0.5U/ml)によって触媒作用が及ぼされたエタノールへのアセトアルデヒド(10mM)の変換を促進するためのNADHの利用(率)のグラフ図である(340nmでの吸光度の減少は、NAD+へのNADHの変換に対応している。各曲線は、3分の各工程を示している。アセトアルデヒドまたはアルコールデヒドロゲナーゼの非存在下ではスペクトルに変化はなかった)。
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、光化学電流発生のための装置の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
光電流を発生して解析するために様々な改質金面が使用されてきた[7-9]。光電流発生器においては、例えば、ITOまたはAuマクロ電極を使用する、フラーレン[6,8,11-32]、ポルフィリン[5,6,8,9,11,13-16,20,21,23-25,29-31,33-44]、フェロセン[5,8,13,23,24,29,36,42,45]、Ru(bipy)3[29,46-48]、およびピレン[7-9,45]など、様々な光子受容体群またはそれらの群の組み合わせが使用されてきた。ある場合には、生体分子スペーサ群によって光電流発生が行なわれてきた[7,49-52]。
【発明の開示】
【0003】
発明の概要
代替的局面において、本発明は、核酸等の導電スペーサ部分により電極(電子変換が可能な任意の面、すなわち、電気化学変換器であってもよい)に拘束されるフルオレセイン等の光子求引性電子移動部分を含むシステムを提供する。電極に対してバイアス電位を印加して、光子求引性電子移動部分を還元することにより、Fl-ラジカル等の光子を吸収することができる還元光子求引性電子移動種を形成し、それにより、励起電子移動種を形成する。システムは、励起電子移動種から電子を受け入れることができるNADまたはNADP等の電子求引性部分を更に備えており、これにより、NADHまたはNADPH等の還元電子受容体が形成される。電子求引性部分は、電子移動溶液と称される場合がある電子移動を援助する電解質を含む溶液、例えば還元電子受容体に対して光子を与えることができる水溶液中に供給されてもよい。拘束された電子移動部分が電子移動溶液中に浸されることにより、溶液中において、励起電子移動種と連続電子求引性部分との間で電子移動反応が繰り返されてもよい。還元電子移動種を形成するために電極に対して印加されるバイアスが還元電子受容体を形成するために必要な電位よりも小さくなるようにシステムで使用される電気化学種を選択し、それにより、還元電子受容体を形成するために電子移動反応が電極上で行なわれなくなるようにしてもよい。還元電子移動種が形成される割合が励起電子移動種が1つの電子を電子受容体に対して与える割合よりも大きくなるようにシステムの構成要素を選択し、それにより、適切なバイアスが電極に対して印加される際に、光子を吸収して励起電子移動種を形成するようになっている還元形態中に十分な割合の電子移動種が存在するようにしてもよい。
【0004】
還元電子受容体は、例えば、水素発生反応で使用されてもよい。
【0005】
本発明の幾つかの態様においては、還元電子受容体を利用するため、NAD(P)H等の還元電子受容体を利用する酵素または他の化学的あるいは生物学的な系が電子移動溶液に対して加えられてもよい。そのような態様において、還元電子受容体は、例えば、生物学的に活性な酵素補助因子であってもよい。光電気化学的に発生された補助因子は、例えば、アルデヒドのアルコールへの変換、ケトンへの還元、有機酸の還元アミノ化または還元を促進するために酵素的に使用されてもよい。したがって、光化学的に再生された本発明の補助因子、例えばNAD(P)Hは、還元的変換や生体触媒による酵素カスケード等の様々な二次生体触媒変換を促進させるために使用されてもよい。
【0006】
発明の詳細な説明
一局面において、本発明は、金微小電極上のフルオレセイン標識DNAの自己組織化膜(SAM)から光電流を発生するためのシステムを提供する。そのような態様において、フルオレセインは光子受容体(または、蛍光プローブ)としての機能を果たし、また、DNAは、光子受容体または蛍光プローブを電極面に対して拘束するスペーサ群としての機能を果たす。フルオレセインは、比較的大きいモル吸収率を有し、したがって、その後の反応[10]のために光子を吸収する可能性が高い。DNAスペーサ群は、例示的な態様においては部分的に使用された。これは、スペーサ長依存の研究から、短いスペーサ群においては光電流が減少することが分かったからであり、このことは、励起状態の蛍光プローブが電極面に近接することにより非活性化する場合があることを示唆している。これらの限界を踏まえて、本発明における使用においては、他の蛍光プローブおよび他のスペーサ群が選択されてもよい。他のスペーサとしては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニルアセチレン、ペプチド、ポリアミド、または、ペプチド核酸(PNA)等の導電性高分子を挙げることができる。他の光子受容体としては、ポルフィリン、フラビン、ユビキノン、キノン、フェロセン、Ru(bipy)3、メチレンブルー、メチレングリーン、MV+、ピレン、ナノ粒子(例えば、Au、Ag、CdSe、SdS、ZnSe、ZnS、Pb、Pt)を挙げることができる。他の基質としては、例えば、微小電極から大きな平面に至る多種多様なトポロジーを用いて表面の形を成してもよいインジウムスズ酸化物(ITO)面、Ag面、Pt面、Si面を挙げることができる。実質的に透明なITO電極積層体は、例えば、電子受容体(例えばNAD(P)H)が積層体の照射側で積層体中に入り且つ還元電子受容体(例えばNAD(P)H)が積層体の非照射側に残るように、電子受容体による流れを与えるようになっていてもよい。この場合、実質的に透明な積層体により、積層体の深さ全体にわたってシステムの照射が容易になる。
【0007】
還元電子受容体は、例えば、図10に示されるように、水素発生反応において使用されてもよい。図11および図12に示されるように、本発明のシステムによって発生されるNADHは、酵素触媒作用において利用できる。図11は、1:2改質された金メッシュ電極上における光誘起電気化学NADH発生物を示す。図12は、アセチルアルデヒドの存在下におけるアルコール脱水素酵素(アルコールデヒドロゲナーゼ)(ADH, Baker’s Yeast, Sigma-Aldrich)によるNADHの酵素消費量を示している。
【0008】
本発明の更なる態様では、還元電子受容体NADHを利用する酵素生化学系が電子移動溶液に対して加えられた。このことは、生物学的に活性な還元電子受容体の利用を示している。図16bに示されるように、光電気化学的に生成されたNADHは、アルデヒドのエタノールへの変換を促進するために酵素的に使用された。特定の条件下において、プロセスは、酸素、有機溶媒および他の化合物による抑制作用に対して耐性があった。他の態様において、本発明のシステムによって生成されたNAD(P)H等の還元電子受容体は、多種多様な他の反応で利用されてもよい。
【0009】
実施例1
材料および準備
DNAは、純度および同一性の検証を伴う学術研究会議(Nation Research Council(サスカトゥーン、SK、カナダ))での標準的なDNA合成方法により合成されて精製された。金電極は、所定の50μm Auワイヤを軟質ガラス中に溶け込ませることによって形成され、この軟質ガラスは、その後、0.05μmアルミナスラリーを用いて研磨された後、熱いピラニアエッチング溶液(H2SO4:H2O2=3:1)中に10分間浸すことにより洗浄された。(ピラニア溶液は、細心の注意を払って扱わなければならず、閉じられた容器内に保管してはならない。また、ピラニア溶液は、非常に強い酸化剤であり、殆どの有機物質と激しく反応する)、最終的に、ミリポア(Millipore)H2O内で超音波分解された。各電極を光学顕微鏡検査によって検査し、それにより、Au電極表面が滑らかであり且つ効果的なシールがガラスとAuとの間に形成されていることを確かめた。その後、電極は、1.1Vで安定な金酸化ピークを得るまで、周期的な走査形式電位-0.1〜+1.25V vs. Ag/AgClにより0.5MH2SO4溶液中で電気化学的に処理された。
【0010】
Fl-DNA改質された金電極は、50mMのトリスClO4緩衝溶液(pH8.6)中の0.05mMの二本鎖DNA内で5日間にわたって微小電極を培養することにより形成された。その後、電極は、同じトリスClO4緩衝溶液を用いて濯がれるとともに、図1に概略的に示された光電気化学電池内に組み込まれた。対極の絶縁は、経時的な電流測定の質の低下をもたらす可能性がある対極反応を排除するのに有益であった。
【0011】
光電流条件は以下の通りであった。すなわち、レーザ出力が4mW・cm-2、波長が473±5nm、ビーム直径が0.8mm未満のBM73-4Vレーザモジュール(Intelite社、ジェノア、ネバダ州、米国)が励起源として使用された。CV 203BUヘッドステージに接続されたAxopatch 200B増幅器(Axon Instruments)を使用して、電圧固定状態下で光電流実験が行なわれた。電圧固定状態のため、1MのKCl溶液中のAg/AgClワイヤとしての基準電極と改質Au微小電極としての作用電極とを有する2電極装置が使用された。分光電気化学電池は、接地されたファラデー箱(Warner Instruments)内に封入されるとともに、アクティブエア防振(Kinetic Systems)テーブル上に置かれた。電流は、1kHzでローパスベッセルフィルタ処理されるとともに、DigiData 1322A(Axon Instruments)により5kHzでデジタル化され、PClamp 9.0(Axon Instruments)を実行するPCによって記録された。20Hzでローパスフィルタを使用してソフトウェア方法により更なるフィルタ処理が行なわれた。全てのデータの解析はOrigin 7.0(OriginLab社)により行なわれた。BAS CV-50ボルタンメトリ解析器と標準的な3電極装置を使用する微小電極用の特注の電気化学システムとを用いて他の電気化学測定が行なわれた。金微小電極(50μm直径)は作用電極としての機能を果たす。基準電極は、3MのKCl溶液を用いてAg/AgClワイヤをガラスチューブ中に封入してバイコーチップ(Vycor tip)を被せることにより構成された。基準電極が、電解質を含むルギン細管により電池から絶縁された。対極は白金ワイヤであった。全ての電解質溶液が測定前に最低で20分間アルゴン中で浄化され、また、測定中においては、アルゴンの覆いが溶液上にわたって維持された。全ての態様は室温での作業により実証された。
【0012】
以下のようにX線光電子分光法が行なわれた。Al-Ka放射線源(1486.6eV)が設けられたLeybold MAX200光電子分光器を使用して光電子放出スペクトルを収集した。測定中の基本圧力は解析チャンバ内で10-9mbar未満に維持された。テイクオフ角度は60度であった。ルーチン機器較正基準はAu4f7/2ピークであった(結合エネルギ84.0eV)。
【0013】
以下のように電子常磁性共鳴(EPR)が行なわれた。高感度円筒キャビティ(モデル4107WZ,Bruker Spectrospin)を備えるBruker ESP300 Xバンドフィールドスウェプト分光計(共鳴周波数 約9.4GHz)を使用してEPRスペクトルが記録された。振幅変調は0.315Gであり、マイクロ波出力は20mWであり、また、41msの変換時間、20.5msの時定数、32個の走査が記録された。EPRスペクトルのシミュレーションのためにSimFoniaソフトウェアが使用された。
【0014】
結果および考察
カナダのサスカトゥーンにあるNRCでの標準的なリンアミドソリッドサポート合成を使用して、フルオレセイン標識DNA(Fl-DNA)の合成が行なわれた。光電流実験のために使用された配列が表1に列挙されている。代替的な二次構造または三次構造を最小限に抑え且つ等しい数の各塩基を組み入れるように塩基配列が選択された。二本鎖構造の存在/欠如を確かめるため、また、フルオレセイン蛍光プローブが二本鎖の安定性に大きな影響を与えないようにするために、DNA融解研究が行なわれた。1:2二本鎖のDNA融解曲線は、Tm値と2:3の二本鎖との間(56.8℃ vs. 56.4℃)に変化が無いことを示し、このことは、フルオレセインの構成成分が二本鎖形成を著しく妨げないことを表わしている。
【0015】
(表1)光電流研究において使用されるDNA配列. Fl=フルオレセイン
【0016】
1:2二本鎖は、完全な単分子層形成を可能にするため、5日間にわたって緩衝液中でAu微小電極と共に培養された。単分子層は、X線光電子分光法(XPS)、偏光解析法、電気化学法により解析された。Au4f7/2ピークの強度の変化は、単分子層の厚さを決定するために使用されるとともに、47(5)Åの値を与えた。このことは、1:2が多層構造を形成しないことを暗示している。162eVでのS2pピークの存在は、1:2単分子層において予期されるようにAu-チオレート結合の証である。なお、1:2のジスルフィドは、Au表面に対する化学吸着時に開裂すると予想され、また、ジスルフィドエネルギのピーク(164.1eV)は観察されなかった。また、DNAのリン酸バックボーンに対応する134eVでP2pピークが測定された。XPS結果は、単分子層が硫黄を介してAu表面に結合される明確な証拠を与えている。偏光解析法は、Au基板上の1:2単分子層において47(3)Åの厚さを与えた。この値は、DNAの20-merの以前の測定値と一致しており[53]、XPSによって得られた値と自己矛盾しておらず、また、DNAが表面に対して大きな傾斜角をとっていることを示している。
【0017】
1:2単分子層を有するフルオレセインの酸化還元電位を証明するために電気化学実験が行なわれた。しかしながら、サイクリックボルタンメトリ(CV)実験は、フルオレセインの酸化還元反応速度の固有の性質により複雑となった。電気化学的な還元/酸化は、非常にゆっくりとしているため、従来のCV解析を考慮することはできない。フルオレセインの存在下でのCVは、フルオレセインが存在しない場合とは異なっているが、図2aに示されるように、識別できる還元ピークは存在しない。図2bは、暗闇の中での放射時における溶液中のフルオレセインのありのままのAu CVを示している。電極が放射線に晒されている間、よりプラスの電流へと向かう僅かな変化が存在している。複雑な問題は、還元電位がAg/AgClに対して約-750mVであるということであり、これは使用されるpH状態下での陽子の減少に比較的近い。したがって、ゆっくりとした酸化還元反応速度および水素発生に近い見掛け上の電位に起因して、明確な還元ピークは不可能であった。その結果、正常に動作する還元プローブに関しては、表面被覆率値を電気化学的に定量化することができない。表面被覆率の近似は、フルオレセインがフェロセン(Fc)に取って代えられた点を除き、同じDNA二本鎖を使用して行なわれた。このFc単分子層の表面被覆率は、5×10-10mol・cm-2で報告された。インピーダンス分光法(IS)を使用して2つの単分子層(1:2 vs. 1-FC:2)を比較し、表面被覆率近似が有効であることを検証した。明らかに、IS結果は、同じ条件下では略同一の態様を示し、したがって、表面被覆率値は20%内であると判断される。
【0018】
実際の光電流発生実験に伴って生じる光種の証拠を与えるためにフルオレセイン分光電気化学実験が行なわれた。-750mVよりも大きさが大きい電位が印加された場合、UV可視領域内の吸光度は、スペクトルの明確な変化を示す。スペクトル変化が図3に示されている。フルオレセイン吸光度ピーク(492nm)の減少は、フルオレセイン陰イオン(Fl-)へのフルオレセイン(Fl)の還元に起因している。Fl-は、380〜420nmおよび550〜650nmの範囲でのピークの増大によって特定されるようなFlとは異なる固有のスペクトルを有する[55-57]。UV可視スペクトルの変化と一致するのは、フルオレセイン蛍光スペクトルの減少である。図3bに示されるフルオレセイン蛍光強度の減少は、Fl-種が低い量子収量の蛍光を有することを表わしている。この非活性経路における減少は、電子移動(ET)非活性経路の増大によって生じる可能性がある。
【0019】
1:2二本鎖およびフルオレセインの電気化学EPR研究は、-750mVよりも大きい電位で、還元されたFlをフルオレセイン陰イオンラジカル(Fl-)として明確に識別した。1:2およびフルオレセインのEPRスペクトルとこれらの対応するシミュレーションスペクトルとが図4に示されている。使用されたシミュレーションスペクトル値は、表2に含まれており、先行技術文献[58-66]からのものである。
【0020】
(表2)FlおよびFl-DNA陽子における結合定数および不対スピン密度
【0021】
1:2単分子層の放射線により、図5に示されるように、-750mVの印加電位で光電流が発生される。マイナス電位が印加されると、適切な電子受容体が存在する場合には、電子を移動させて電流を発生するために励起状態のFl-ラジカルが利用可能になる。この実施例では、NADP+が受容体群として溶液に加えられた。重要なことには、NADP+は、光電流発生のために必要な電位領域で電気化学的に還元されず、そのため、電極上のNADP+電子受容体の還元は起こり得ない。光電流は、NADP+が無い場合に観察されたが(図6b)、NADP+の存在下では大きく増大した(図6a)。赤色レーザ光(632nm,10mW・cm-2)を用いた放射では、光電流が発生されなかった(図6c)。
【0022】
NADP+は、光合成の暗反応のための非常に重要な化学エネルギ貯蔵部であり、したがって、非生物的系におけるエネルギ貯蔵のために利用することができる。図6aは、単分子層の放射線から発生された派生電流を印加電位に応じて示している。電流は、約-750mVで最大値をとっており、また、更に低い印加電位で劇的に減少している。-750mVにおける最大値は、放射線およびその後の電子が移動する前にフルオレセインがそのラジカルアニオンまで還元されている証拠である。図6bに示されるように、入力レーザと出力光電流との間には線形的関係が見られた。
【0023】
複数のレーザ励起における単分子層の有効性が、レーザ光の繰り返し照射により評価された。図7に示されるように、派生光電流は、照射の数の増大に伴って減少する。しかしながら、光電流の減少の大きさは比較的小さい。
【0024】
本発明のシステムにおけるNADPHの形成は、NADP+および1:2の単分子層を含む溶液中における340nmでのピークの成長によって明らかにされる(図8a)[68-70]。NADP+の二量体が電気化学的還元下で形成することは一般的なことであり、また、これらの二量体は、340nmで吸収ピークを有する[68-71]。
【0025】
本発明の一局面に係る推定光電流発生方式が図9に概略的に示されている。第1の工程(図9a)は、Au表面からの電子移動によってフルオレセインをラジカルアニオンへ、DNAの二重らせんを通して共有結合しているフルオレセインに還元することであってもよい。フルオレセインラジカルアニオンは、(60分単位で測定された)異常に長い寿命を有すると思われる。このため、Fl-は光子を吸収できる程度に十分長く生き延びることができると思われる。フルオレセインラジカルアニオンが適当なエネルギの光子を吸収して(図9b)、励起状態のフルオレセインラジカルアニオンが形成されると(図9c)、フルオレセインラジカルアニオンは、その後、その電子を拡散NSDP+に対して与えることにより基底状態に戻ることができる。しかしながら、NADP+は2電子受容体である。したがって、隣接するストランド或いは同じストランドが還元されて再び励起されるようになり、それにより、第2の電子がNADPに対して与えられる。水溶性媒体中に含まれるこの系では、NADP-のプロトン化が容易になる。
【0026】
式1は、光電気化学プロセスの特性としての量子効率の測定に関する。量子効率(Φ)は、光電気化学反応に関与する電子の数と(dNe/dt, electrons/s)、光活性のある分子によって単位時間当たりに吸収される光子の数(dNhv/dt, photons/s)との比率によって規定されてもよい[7,8,12-14,16,21,24,30,32,33,36,37,40,72-76]。
【0027】
4mW/cm2の出力を有するλ=473(5)nmレーザ光を用いた励起下では、-750mV(vs. Ag/AgCl)の印加電位で、Fl-DNA標識微小電極において450nA・cm-2の光電流密度が得られた。電極表面上のFl-DNAのモル吸収係数(ε473,43 000 M-1 cm-1)は、溶液におけるそれと同じであるとする。つまり、量子効率は0.25(5)となるように計算された。この値は、ポルフィリンSAM(0.1%)[35]、金表面上の多層ピレン含有系(1%)[7]に関して報告された値よりも十分に大きく、C60SAM系[8,18,21-25]における値(7.5〜35%)に匹敵している。
【0028】
本発明の様々な態様が本明細書において開示されているが、当業者の共通の一般的な知識にしたがって本発明の範囲内で多くの適合および変更を行なうことができる。そのような変更としては、本発明の任意の局面の代わりに公知の等価物を使用して、ほぼ同じ方法で同じ結果を得ることを挙げることができる。数値範囲は、範囲を規定する数字を含む。用語「含んでいる」は、本明細書では、制限のない用語として使用されており、「を含むがこれらに限定されない」なる言いまわしにほぼ相当している。また、用語「含む」は対応する意味を含む。本明細書で使用されるように、単数形「1つの(a, an)」および「その(the)」は、文脈がそうでないことを明確に述べていない限り、複数の関連物を含む。したがって、例えば、「1つのもの」という言及は、そのようなものを複数含む。本明細書における文献の引用は、そのような文献が本発明に対して従来技術であることを是認するものではない。この明細書で引用された特許および特許出願を含むがこれらに限定されない任意の優先権書類および全ての刊行物は、あたかもそれぞれの個々の刊行物が参照により本明細書に組み入れられるように具体的に且つ個別に示され且つ本明細書中に完全に記載されているかのように、参照により本明細書に組み入れられる。本発明は、実施例および図面を参照して前述したような全ての態様および変形例を含む。
【0029】
実施例2
材料および準備
電極:金微小電極(50μm直径)が形成され且つ前述したように特徴付けられた[104]。金メッシュは、Alfa Aesar(99.9%純度、0.1mm直径のワイヤを編み込んでなる52メッシュ)から購入され、0.1mm直径のAu(同上)リードに対してスポット溶接された。Auメッシュアセンブリは、沸騰したビラニア溶液(1:3H2O2:H2SO4)中に10分間浸すことにより洗浄された(ピラニア溶液は、細心の注意を払って扱わなければならず、閉じられた容器内に保管してはならない。また、ピラニア溶液は、非常に強い酸化剤であり、殆どの有機物質と激しく反応する)。
【0030】
フルオレセイン-DNA構成:DNAは、学術研究会議(サスカトゥーン、SK、カナダ)での標準的なDNA合成方法により合成されて精製された。光電流実験のために使用された配列が表4に列挙されている。代替的な二次構造または三次構造を最小限に抑え且つ等しい数の各塩基を組み入れるように塩基配列が選択された。
【0031】
(表4)光電流研究において使用されるDNA配列。Fl=フルオレセイン
【0032】
Fl-DNA改質金電極の形成:微小電極およびメッシュ電極は、前述したように、50mMのトリスClO4緩衝溶液(pH8.6)中の0.05mMのフルオレセイン標識二本鎖DNA内で5日間にわたって培養された[104]。
【0033】
光電流条件:電極は、その後、トリスClO4緩衝溶液を用いて濯がれるとともに、図1に概略的に示された光電気化学電池内に組み込まれた。この場合、適用可能なNAD(P)+が2mMの最終的な濃度に対して加えられた。対極の絶縁は、経時的な電流測定の質の低下をもたらす可能性がある対極反応を排除するために必要であった。レーザ出力が4mW・cm-2、波長が473±5nm、ビーム直径が0.8mm未満のBM73-4Vレーザモジュール(Intelite社、ジェノア、ネバダ州、米国)が励起源として使用された。CV 203BUヘッドステージに接続されたAxopatch200B増幅器(Axon Instruments)を使用して、電圧固定状態下で光電流実験が行なわれた。電圧固定状態のため、1MのKCl溶液中のAg/AgClワイヤとしての基準電極と改質Au微小電極としての作用電極とを有する2電極装置が使用された。分光電気化学電池は、接地されたファラデー箱(Warner Instruments)内に封入されるとともに、アクティブエア防振(Kinetic Systems)テーブル上に置かれた。
【0034】
電流は、1kHzでローパスベッセルフィルタ処理されるとともに、DigiData 1322A(Axon Instruments)により5kHzでデジタル化され、PClamp 9.0(Axon Instruments)を実行するPCによって記録された。20Hzでローパスフィルタを使用してソフトウェア方法により更なるフィルタ処理が必要とされ、行なわれた。全てのデータの解析はOrigin 7.0(OriginLab社)により行なわれた。標準的な3電極装置を使用する微小電極用の特注の電気化学システムを用いて他の電気化学測定が行なわれた。金微小電極(50μm直径)は作用電極としての機能を果たす。基準電極は、3MのKCl溶液を用いてAg/AgClワイヤをガラスチューブ中に封入してバイコーチップ(Vycor tip)を被せることにより構成された。基準電極は、電解質を含むルギン細管により常に電池から絶縁された。対極は白金ワイヤであった。全ての電解質溶液が測定前に最低で20分間Ar中で浄化され、また、測定中においては、アルゴンの覆いが溶液上にわたって維持された。全ての実験は室温での作業により行なわれた。
【0035】
結果および考察
電子の移動時には、推測上、発色団の安定したラジカルアニオンが形成される。発色団は、その後、放射線(473nm)を用いて励起される。このようにすれば、電子移動の戻りを抑制することができる。例示したように、フルオレセイン(Fl)は、発色団として選択されるとともに、それが大きな吸収係数(ε473=43 000 M-1 cm-1)を有して適度な還元電位(-750mVvs. Ag/AgCl)において安定したラジカルアニオンを形成するように適合された条件下で利用されてもよい。この実施例において、発色団は、図13に示されるように、チオール連鎖により20塩基対二本鎖DNAを介して金電極に対して結合された。DNAスペーサは、励起状態のFlが電極表面への接近によって静められないようにするのに役立つことができ、また、同時に、DNAの半導体特性により、電極から発色団への電子移動を容易にすることができる。-750mV(vs. Ag/AgCl)の印加電位では、Flは、EPR分光法により図示のようにアニオンラジカルFl●-を形成すると思われる(図4)。連続した電流の流れを容易にするように、安定した電子受容体が選択されてもよい。例示的な態様において、NAD(P)+(すなわち、NAD+またはNADP+)は、発色団フルオレセインの還元電位よりも高い還元電位を有する電子受容体として選択された。
【0036】
図14aに示されるように、4mW・cm-2レーザを用いた473nmでの微小電極の照射により、持続的な電流が発生される。この場合、複数の照射に伴う大きさの減少は僅かである。NAD(P)+が存在しない場合には、図14bに示されるように、少なくとも50%だけ電流が減少した。図14cに示されるように、フルオレセインによって吸収されない波長の赤色レーザ光(632nm,10mW/cm2)を用いると、電流は観察されなかった。非標識フルオレセインDNAの単分子層を使用した場合には、光電流が発生されなかった。NAD+およびNADP+のいずれも、等しい量子収量の光電流を発生する。図15aに示されるように、光子束の強度とNAD(P)+の存在下または非存在下での電流出力との間には線形関係が見られた。図15bに示されるように、-750mVの還元電位において電流は安定期に達した。このことは、照射およびその後の電子移動の前にFlが最初にそのラジカルアニオンへと還元されたことを示す証である。
【0037】
Fl励起状態下では、-750mV(vs. Ag/AgCl)の印加電位で、Fl-DNA標識微小電極において450nA・cm-2の光電流密度が得られた。電極表面上のFl-DNAのモル吸収係数が溶液中のそれと同じであるとして、4(1)光子・電子-1(約25%の量子収量に相当する)となるように効率が計算された。NAD(P)Hの生成を例証するため、金メッシュ電極を用いて大規模に態様が実施された。この場合、溶液を分光光度法で監視した。図16aに示されるように、NADH(ε340=6220 M-1 cm-1)の特徴である340nmにおけるUV-力ピークが照射時に現れる。ニコチンアミド補酵素は、単一の電子還元によって発生されたラジカルから生物学的に不活性な二量体を形成することが分かった。NADHが生物学的に活性であり或いは活性でなかったことを示すため、二量体、アルコール脱水素酵素、アセトアルデヒドが溶液に加えられた。図16bに示されるように、340nmでのピークが除去されており、このことは、光電気化学的に発生されたNADHを酵素的に使用してアルデヒドのエタノールへの変換を促進させることができることをはっきりと示している。340nmでピークも有する生物学的に活性でないNAD+還元性生物の形成は、1%未満であると推定された。
【0038】
参考文献
以下の文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】微小電極を使用する光電流発生のための実験装置を示す概略図である(本明細書中に記載されるように、他の態様は、多種多様な電極構造および表面タイプを使用してもよい)。
【図2】(a)は、(a)KOH中および(b)KOHとフルオレセインとの存在下でのpH12、50mV・s-1におけるBASマクロ電極上の暗電流CVのグラフ図であり、(b)は、照射ON(-)および照射OFF(--)におけるpH8.6、50mV・s-1での微小電極のCVのグラフ図である。基準電極はAg/AgClであった。
【図3】(a)は、様々な印加電位持続時間(vs. Ag/AgCl)、i)0mV、ii)-750mV、1分、iii)-750mV、2分、iv)-750mV、3分、v)-750mV、6分、vi)-750mV、10分、vii)-750mV、20分でのフルオレセインのUV-可視吸光度スペクトルのグラフ図であり、(b)は、様々な印加電位持続時間(vs. Ag/AgCl)、i)0mV、ii)-750mV、1分、iii)-750mV、2分、iv)-750mV、3分、v)-750mV、4分でのフルオレセインの発光スペクトルのグラフ図である。
【図4】(a)は、-750mV(vs. Ag/AgCl)での1時間にわたるバルク電解後における1:2のEPRスペクトルのグラフ図であり、(b)は、1:2のシミュレーションEPRスペクトルのグラフ図である。
【図5】Au微小電極上の1:2単分子層による光電流発生の一実施例からのデータのグラフ図であり、(a)は溶液中にNADP+がある場合、(b)は溶液中にNADP+が無い場合、(c)は632nm放射線(出力=10mW・cm-2)が放射された溶液中の1:2単分子層およびNADP+を示している。
【図6】(a)は、印加還元電位に応じた光電流応答のグラフ図であり、(b)は、NADP+が存在しない場合(□)およびNADP+が存在する場合(○)における光強度に応じた光電流応答のグラフ図である。
【図7】繰り返し数に応じた光電流の僅かな減少を示す複数の励起応答のグラフ図である。
【図8】473nm、4mW・cm-2の放射線が放射された溶液中の0.1mM NADP+を有するAuメッシュ電極上の1:2単分子層の分光電気化学によるデータのグラフ図であり、(a)は0mV(-)および-750mV(--)(vs. Ag/AgCl)でのベースラインNADP+、(b)は乳酸脱水素酵素およびピルビン酸塩の添加前(--)および後(-)におけるUV可視スペクトルを示している。
【図9】単なる概念的な目的のための電流発生およびNADP+還元の推定機構の概略図である(本発明の態様が作用する実際の機構を必ずしも示していない)。
【図10】H2を合成するために還元電子受容体「NXH」(例えば、NADH[あなたがニコチンアミド誘導体が何であるかを知っている場合、我々は、他のニコチンアミド誘導体の記述を挿入することができる])を利用するヒドロゲナーゼまたは他の触媒を暗反応室が収容している本発明の水素発生器の概略図であり、還元電子受容体NXHは、暗反応室と流体的に連通する明反応室内で行なわれる本発明の明反応によって供給され、暗反応室内では、電極(電気化学変換面)に対して拘束された光子受容体(蛍光プローブ「F」)がNXHの合成を仲介する。
【図11】1:2改質金メッシュ電極上での光誘導電気化学NADH生成におけるUVの明白な形跡を示すグラフである。
【図12】アセチルアルデヒドの存在下でのアルコールデヒドロゲナーゼによるNADH酵素消費を示すUV可視スペクトルのグラフである。
【図13】単なる概念的な目的のための金電極上のフルオレセイン標識DNAの自己組織化単層膜上におけるNADHの光生成推定機構の概略図である(本発明の態様が作用する実際の機構を必ずしも示していない)。
【図14】図14aおよび図14bは、金電極上の自己組織化単層膜の照射時における光電流発生のグラフ図であり、(a)はNAD+を伴う473nmのものを示し、(b)はNAD+を伴わない473nmのもの;NAD+を伴う632nmのものを示している。スカラー:Y=200nA.cm-2,X=20s。
【図15】図15aおよび図15bは、(a)入射光強度に応じた電流密度(NAD+を伴う場合が○、NAD+を伴わない場合が□)のグラフ図、(b)印加電位に応じた電流密度のグラフ図である。
【図16】図16aおよび図16bは、(a)NAD+からのNADHの光生成の分光学的分析(340nmにおけるピークはNADHの形成に対応している。各曲線は5分の各工程における照射を示している。キュベットの容積は0.12mlであった。)のグラフ図、(b)NADH依存アルコールデヒドロゲナーゼ(0.5U/ml)によって触媒作用が及ぼされたエタノールへのアセトアルデヒド(10mM)の変換を促進するためのNADHの利用(率)のグラフ図である(340nmでの吸光度の減少は、NAD+へのNADHの変換に対応している。各曲線は、3分の各工程を示している。アセトアルデヒドまたはアルコールデヒドロゲナーゼの非存在下ではスペクトルに変化はなかった)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、光電流発生システム:
(a)導電スペーサ部分によって電極に拘束される電子移動部分を設ける段階;
(b)電極に対してバイアス電位を印加して、電子移動部分を還元することにより、励起電子移動種を形成するために光子を吸収することができる還元電子移動種を形成する段階;および
(c)励起電子移動種から電子を受け入れることができる電子求引性部分を供給して、還元電子受容体を形成する段階。
【請求項2】
電子求引性部分が、電子移動溶液中に供給される、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
電子移動溶液が、還元電子受容体に対して陽子を与えることができる水溶液である、請求項2記載のシステム。
【請求項4】
拘束された電子移動部分が電子移動溶液中に浸されることにより、溶液中において、励起電子移動種と連続電子求引性部分との間で電子移動反応が繰り返される、請求項2記載のシステム。
【請求項5】
還元電子移動種を形成するために電極に対して印加されるバイアスが、還元電子受容体を形成するために必要な電位よりも小さい、請求項1記載のシステム。
【請求項6】
還元電子移動種が形成される割合が、励起電子移動種が1つの電子を電子受容体に対して与える割合よりも大きい、請求項1記載のシステム。
【請求項7】
電子移動部分が、フルオレセインである、請求項1記載のシステム。
【請求項8】
電極が、金である、請求項1記載のシステム。
【請求項9】
導電スペーサ部分が、核酸である、請求項1記載のシステム。
【請求項10】
電子求引性部分が、NAD+またはNADP+である、請求項1記載のシステム。
【請求項11】
電子移動溶液中に酵素を更に含み、酵素が、補助因子としてNADHまたはNADPHを利用する、請求項10記載のシステム。
【請求項12】
酵素が、デヒドロゲナーゼである、請求項11記載のシステム。
【請求項13】
酵素が、アルコールデヒドロゲナーゼである、請求項11記載のシステム。
【請求項14】
酵素が、レダクターゼである、請求項11記載のシステム。
【請求項1】
以下の段階を含む、光電流発生システム:
(a)導電スペーサ部分によって電極に拘束される電子移動部分を設ける段階;
(b)電極に対してバイアス電位を印加して、電子移動部分を還元することにより、励起電子移動種を形成するために光子を吸収することができる還元電子移動種を形成する段階;および
(c)励起電子移動種から電子を受け入れることができる電子求引性部分を供給して、還元電子受容体を形成する段階。
【請求項2】
電子求引性部分が、電子移動溶液中に供給される、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
電子移動溶液が、還元電子受容体に対して陽子を与えることができる水溶液である、請求項2記載のシステム。
【請求項4】
拘束された電子移動部分が電子移動溶液中に浸されることにより、溶液中において、励起電子移動種と連続電子求引性部分との間で電子移動反応が繰り返される、請求項2記載のシステム。
【請求項5】
還元電子移動種を形成するために電極に対して印加されるバイアスが、還元電子受容体を形成するために必要な電位よりも小さい、請求項1記載のシステム。
【請求項6】
還元電子移動種が形成される割合が、励起電子移動種が1つの電子を電子受容体に対して与える割合よりも大きい、請求項1記載のシステム。
【請求項7】
電子移動部分が、フルオレセインである、請求項1記載のシステム。
【請求項8】
電極が、金である、請求項1記載のシステム。
【請求項9】
導電スペーサ部分が、核酸である、請求項1記載のシステム。
【請求項10】
電子求引性部分が、NAD+またはNADP+である、請求項1記載のシステム。
【請求項11】
電子移動溶液中に酵素を更に含み、酵素が、補助因子としてNADHまたはNADPHを利用する、請求項10記載のシステム。
【請求項12】
酵素が、デヒドロゲナーゼである、請求項11記載のシステム。
【請求項13】
酵素が、アルコールデヒドロゲナーゼである、請求項11記載のシステム。
【請求項14】
酵素が、レダクターゼである、請求項11記載のシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2007−505294(P2007−505294A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525590(P2006−525590)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【国際出願番号】PCT/CA2004/001654
【国際公開番号】WO2005/023413
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(506081460)アドナバンス テクノロジーズ インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【国際出願番号】PCT/CA2004/001654
【国際公開番号】WO2005/023413
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(506081460)アドナバンス テクノロジーズ インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】
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