説明

光音響断層撮影装置

【課題】
従来、多光子励起を利用した光音響断層撮影装置において、1光子励起による光音響信号の混入により断層像のコントラストが低くなるという問題点があった。
【解決手段】
近赤外光パルスを発生する光源10と、該パルス光を集光して被測定体15に照射する方法、該パルス光の焦点位置を走査するレーザ走査部11と、該パルス光の多光子励起により被測定体15から発生する音響波を選択的に検出する音響トランスデューサ18、信号増幅部19、信号処理部22と、発生位置情報とに基づいて被測定体15内部の物質分布を示す3次元データを取得し、任意の面における断層画像を表示する表示部23を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多光子励起による光音響効果と光音響信号の周波数フィルタリングを利用した被測定体の内部情報を可視化するための光音響断層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体組織の断層像撮影の必要性が高まっている。しかし、従来のMRI、CTでは、解像度が不十分であり(分解能:〜1mm)、また光学顕微鏡では深部の観察が困難であった。そこで、高解像度に深部観察をする生体断層像の撮影技術として、光音響断層撮影(PAT:Photoacoustic Tomography)法と呼ばれる手法が開発され、その有用性が明らかになりつつある。これは、測定対象に光パルスを照射することによって試料内の吸収物質を励起し、吸収物質の熱弾性膨張により生じる光音響波を検出することで測定対象内の吸収情報を取得して画像化するものである。このように、光音響断層撮影法は、被測定体に光を照射することにより、生体内減衰の少ない音響波を発生させ、その音響波の検出により被測定体内部の情報を取得するものであるため、より深い部分からの信号検出が可能である。しかしながら、従来の光音響断層撮影装置では、光軸方法(深さ方向)の分解能が音波の性質によって決定され高空間分解能化が困難という理由により、吸収物質の断面構造を正確に捉えることが難しい。さらに、吸収係数の大きい物質では、表面での吸収の効果が大きく、吸収物質の深部の情報を捉えることができない。
【0003】
そこで、光軸方法(深さ方向)の分解能を音波の性質ではなく、多光子励起という光の性質を利用することで向上させ、吸収物質内部の情報を正確に捉える方法として、多光子励起による光音響断層撮影装置が開発されている(特許文献1を参照)。この方法は、パルスレーザを集光照射することにより多光子励起を起こし、その多光子励起により発生する音響波を検出することにより、測定対象内の吸収情報を画像化するものである。多光子励起は測定対象の吸収波長の2倍の波長を使用し吸収物質を励起するため、吸収物質の表面だけではなく深部の情報を取得することが可能である。また、光音響波発生は集光された非常に小さい領域でしか起こらないため、高分解能のイメージングが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2007―556801
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多光子吸収の起こる確率は1光子吸収の起こる確率に比べて小さく、1光子吸収による光音響波が多光子励起光音響断層撮影をする際に混じってしまうという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明が解決しようという課題は、吸収の大きい被測定体の深部情報(構造)を高分解能で測定することのできる光音響断層撮影装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明の光音響断層撮影装置は、多光子励起光音響効果を利用して被測定内部の吸収物質分布を可視化する光音響断層撮影装置において、
a)被測定体に対してパルスレーザを照射することで多光子励起を誘起するパルスレーザ照射手段と、
b)前記多光子励起により被測定体から発生した音響波だけを検出する手段と、
c)前記音響波検出手段による検出結果を基に被測定体内部の吸収物質情報を画像化する信号処理手段と、
を有することを特徴としている。
【0008】
ここで、パルスレーザとは、多光子励起を行うことができるものであればどのようなものでもよい。一般的に、被測定体の吸収波長の倍の波長を発振するレーザを使用し、ピークパワーの高いパルス光を被測定体に集光入射することにより多光子励起を誘起することができる。このようなパルスレーザとしては、ピコ秒パルスレーザ、あるいはフェムト秒パルスレーザを好適に用いることができる。また、ナノ秒パルスレーザであっても高いピークパワーを有するものを用いることで多光子励起を誘起することが可能である。
【0009】
また、上記多光子励起により被測定体から発生した音響波を1光子励起により発生した光音響波と区別して検出する手段とは、1光子による音響波と多光子による光音響波の中に含まれる周波数成分の違いにより、選択的に多光子励起による光音響波を検出するため、周波数帯域の違う音響トランスデューサの2個以上の組み合わせを利用するものである。あるいは、1つの広帯域のトランスデューサを使用し、信号処理部で音響信号の周波数解析を行い、それぞれの周波数の成分の寄与率(強度情報)を計算するものでもよい。
【0010】
音響波検出手段による検出結果を基に被測定体内部の吸収物質情報を画像化する信号処理手段とは、2個以上の音響トランスデューサからの信号強度の演算、あるいは、周波数解析によるそれぞれの周波数帯域の信号成分の寄与率(強度情報)により、レーザ集光位置における物質量の情報を取得可能にするものである。
【0011】
また、本発明の光音響断層撮影装置には、上記パルスレーザの焦点位置を2次元的又は3次元的に走査するレーザ走査手段を設け、上記信号処理手段によって、各焦点位置から発生した音響波の強度情報を基に、被測定体内部の2次元的又は3次元的な物質分布情報を取得して画像化するものとすることが望ましい。
【0012】
なお、上記レーザ走査手段は、レーザ光の焦点位置を固定して被測定体を移動するものであっても、被測定体を固定してレーザ光の焦点位置を移動するものであってもよく、両者を組み合わせたものであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
上記構成を有する本発明の光音響断層撮影装置は、パルスレーザを励起光として、被測定体に集光照射することにより多光子励起を誘起するものであり、その多光子励起によって発生した光音響波を選択的に検出できるものである。結果として焦点領域のみで局在的に励起された音響波のみを選択的に検出することが可能である。従って、本発明の光音響断層撮影装置により、測定したい領域以外の領域からの音響波の発生(例えば、吸収係数の大きい物質からなる構造物の表面からの信号)を防止することができ、高分解能を維持したまま試料のより深い領域の観察を行うことが可能となる。
【0014】
なお、上記パルスレーザ照射手段としては、波長 700nm〜2500nmである近赤外光パルスを照射可能なものを用いることが望ましい。図2に示すように、近赤外領域の光はメラニンや水による吸収が少なく生体内における減衰が起こりにくいため、励起光の浸透深度を大きくすることができ、深部領域の高解像度観察を可能とする上記本発明の利点を一層発揮させることができる(図2:オレゴンメディカルセンターのウェブサイトhttp://omlc.ogi.edu/spectra/より)。ここで、例えば、800nmの波長を有する近赤外パルスレーザを生体に集光照射した場合、非線形光学効果による2光子励起により、焦点領域のみにおいて400nm付近に吸収を持つ物質(例えば、酸化ヘモグロビン又は還元ヘモグロビン)が励起される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る光音響断層撮影装置の一実施例を示す模式図。
【図2】酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、メラニンの吸光モル係数の波長特性、及び水の吸光係数の波長特性を示すグラフ。
【図3】本発明に係る試験例1で使用した(A)1光子吸収色素(IRA980BT)と(B)2光子吸収色素(ローダミンB)の吸収スペクトル。
【図4】本発明に係る試験例1におけるシミュレーションにより求められた(A)1光子吸収色素(IRA980BT、飽和溶液の1/512)と(B)2光子吸収色素(ローダミンB)の光音響信号時間波形とそのパワースペクトル。
【図5】本研究に係る試験例1において実験により得られた1光子吸収色素(IRA980BT、飽和溶液の1/512)と2光子吸収色素(ローダミンB)のパワースペクトル。
【図6】本発明に係る試験例2における1光子励起色素(IRA980BT)(上段)、2光子励起色素(ローダミンB)(中段)、1光子吸収色素と2光子吸収色素両方を混合させた溶液(下段)で満たしたガラスキャピラリーの周波数フィルターを用いた断面像の測定例を示す図。
【図7】本発明に係る光音響断層撮影装置の一実施例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施例に係る光音響断層撮影装置の概略構成を示す図である。本実施例の光音響断層撮影装置は、近赤外パルス光源10と、レーザ走査部11、レーザ光を被測定体15に照射するための照射光学系、音響トランスデューサ18、信号増幅部19、信号処理部22、及び上記各部を制御するための制御部21で構成された。なお、上記信号処理部22及び制御部21は所定のソフトウェアを搭載したパーソナルコンピュータ20(図中では「PC」と略す)によって具現化され、このPC20にはモニタを備えた表示部23が接続されている。
【0017】
近赤外パルス光源10としては、例えば、チタンサファイアレーザ、YAGレーザ等の近赤外の光パルスを生成可能なものを使用する。上記照射光学系は、パルス光を集光して被測定体15に照射するための対物レンズ14と、近赤外パルス光源10から出射されたパルス光を対物レンズ14に入射させるための反射鏡13とを備えた顕微鏡12によって具現化される。顕微鏡12には、更に、被測定体15を載置するためのステージ16及びステージ16を駆動するためのステージ駆動部17が設けられており、ステージ駆動部17によってステージ16を上下に移動させることにより、レーザ光の焦点位置を光軸方向(すなわち図中のZ軸方向)に走査することができる。
【0018】
レーザ走査部11は、上記顕微鏡12に付設されるものであり、レーザ走査部11の内部に設けられた可動式ミラー(図示略)を駆動することにより被測定体15に照射されるパルス光をその光軸方向と直交する面内(すなわち、図中のX軸及びY軸方向)において走査するためのものである。なお、このようなレーザ走査部11を設ける代わりに、上記ステージ16をXY軸方向に移動可能な構成とすることで、被測定体15に対するパルス光の焦点位置をXY平面内で走査できるようにしてもよい。
【0019】
音響トランスデューサ18は、パルス光の吸収によって被測定体15内部から放出される音響波を集音して電気信号に変換する圧電素子から成り、該音響トランスデューサ18からの電気信号は信号増幅部19で増幅され、信号処理部22においてデジタル信号に変換される。
【0020】
この音響トランスデューサ18は、様々な周波数帯域をもつ音響トランスデューサの組み合わせでもよい。様々な音響トランスデューサからの電気信号は信号増幅部19で増幅され、信号処理部22においてデジタル信号に変換される。
【0021】
上記信号処理部22は、信号増幅部19から送出される音響波の強度情報、周波数情報と、該音響波の発生位置情報、すなわちレーザ走査部11から送出されるパルス光のX軸及びY軸方向の焦点位置情報と、ステージ駆動部17から送出されるパルス光のZ軸方向の焦点位置情報とを受信して、デジタル化し、これらの情報に基づいて所定の演算を行うことにより被測定体15内部の物質分布を示す3次元画像データを生成するものである。更に、該信号処理部22では、生成された3次元画像データを基に被測定体15の任意の断面を表した2次元画像(断層像)が生成され、表示部23のモニタ上に表示される。
【0022】
上記構成の光音響断層撮影装置を用いて生体の断層画像を撮影する際には、まず、近赤外パルス光源10から所定の間隔でパルス光を出射させて被測定体15に照射する。このとき、近赤外パルス光源10から出射されたパルス光はレーザ走査部11を経て上記顕微鏡12に設けられた反射鏡13で反射され、対物レンズ14で集光されてステージ16上に載置された被測定体15に照射される。これにより、被測定体15の内部では、近赤外パルスによる多光子励起により焦点領域のみにおいて音響波が発生する。焦点位置で発生した音響波は生体内を伝播し音響トランスデューサ18によって検出され、該検出信号が信号増幅部19を経て信号処理部22に送出される。
【0023】
ここで、レーザ走査部11を用いてパルス光の焦点位置をX軸及びY軸方向に走査しながら上記のようなパルス光の照射及び音響波の検出を行うことで、被測定体15内の所定の深さ位置におけるXY平面の2次元画像を撮影することができ、更に、ステージ駆動部17を用いてパルス光の焦点位置をZ軸方向(すなわち被測定体15の深さ方向)に変化させながらこのような2次元画像を複数枚撮影することで、被測定体15内部の3次元データを取得することができる。
【0024】
以上のような、本実施例の光音響断層撮影装置によれば、近赤外光パルスによる多光子励起により焦点領域から局在的に音響波を発生させ、選択的に検出することができるため、目的外の領域からの光音響信号の発生を防止し、空間分解能を低下させることなく深部領域の観察を行うことが可能となる。
【0025】
以下の試験例1に示されるように多光子励起と1光子励起の光音響信号に含まれる周波数成分は違うので、光音響信号の周波数解析を行うことにより、多光子励起のみによる光音響信号を取り出すことが可能である。そのことにより、表面で強く起こる1光子吸収による信号を効率よく取り除くことができ、よりコントラスト高く、生体深部の情報を直接取り出すことが可能となる。
【0026】
また、近赤外パルス光により励起される2光子吸収物質を被測定体に導入すれば、近赤外光により2光子吸収が励起される物質を含まない被測定体の場合でも可視化することが可能となる。
【0027】
(試験例1)(A)1光子励起による光音響波の周波数成分と(B)2光子励起による光音響波の周波数成分の違いをシミュレーションにより行った(図4)。被測定体として吸収色素((A)IRA980BTと(B)ローダミンB(吸収スペクトルを図3(出典:オレゴンメディカルセンターのウェブサイトhttp://omlc.ogi.edu/spectra/、Exiton社のウェブサイト)に示す))溶液を、使用波長としては1064nmを仮定した。本計算は光の吸収量の深さ依存性によって発生する音波の波形が記述され、その音波波形のフーリエ変換により音波のスペクトルを計算している。また2光子励起による光音響波の周波数成分は、レーザビームをガウシアンビームと仮定し、光強度の2乗で光音響波が発生すると仮定し、音響波のスペクトルを計算している。この結果からわかるように、(A)1光子励起による光音響波の場合(例えば、IRA980BTのような1064nmに1光子の吸収ピークがある場合)と(B)2光子励起による光音響波の場合(例えば、ローダミンBのような532nmに吸収ピークがある場合)を比べると、2光子励起による光音響波のほうが、高周波の成分が発生していることがわかる。図5に示す実験により得られた1光子励起と2光子励起により発生する光音響波の周波数成分も同様に、シミュレーション結果と同じ傾向があることがわかる。
【0028】
(試験例2)被測定体として吸収色素(ローダミンBとIRA980BT)溶液で満たしたガラスキャピラリー(TOHO社製、外径3mm、内径2.4mm)の断面を従来法である多光子励起光音響断層撮影法(全周波数選択)と本発明である周波数解析を用いた多光子励起光音響断層撮影法(周波数選択あり)によって測定した(図6)。使用波長は1064nm。上段は1光子吸収を起こす色素IRA980BT(Exiton社製)のエタノール溶液の場合、中段は2光子吸収を起こす色素ローダミンB(Sigma社製)のエタノール溶液の場合、下段は2光子吸収を示す色素(ローダミンB)と1光子吸収を示す色素(IRA980BT)の両方を入れたガラスキャピラリーの断面を測定したものである。左側の列はすべての周波数成分を用いて画像を作成した場合(従来法)で、中央の列は0−1MHzの周波数を用いて画像を作成した場合、1−10MHzの周波数を用いて画像を作成した場合を示している。この図6の上段と中段の比較から見てわかるように1光子励起光音響の場合に比べて、2光子励起光音響の場合は、ガラスキャピラリーの断面がコントラストよく捉えられていることがわかる。また、周波数に関して高周波の成分のみから画像を構築したほうが断面をコントラストよく捉えられていることがわかる。このように周波数解析を行うことにより、コントラストの向上が可能であり、1光子と2光子吸収色素を混合した場合(図6下段)でも周波数選択をすることによりコントラストの向上が得られる。
【0029】
このように、1光子励起による光音響波の周波数成分が多光子励起によるものと違うことが理論計算から導出され、実験においても高周波成分を抜き出すことにより、多光子励起による光音響波だけを抜き出すことができ、コントラストの向上が可能である。
【0030】
従って、本実施例の光音響断層撮影装置は、特に毛細血管や小動静脈のイメージング、組織や臓器の深部構造の測定等に好適に用いることができる。
【0031】
なお、被対象物としては、近赤外パルスレーザにより多光子励起されるものであればどのようなものでも良いが、特に血液成分が望ましい。例えば、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンを被対象物とすることにより、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの2光子吸収のピークの違い(図3参照)を利用して脳内血中酸素濃度分布を測定し、脳の働きをみるような機能イメージングが可能となる。具体的には、酸化ヘモグロビンの1光子吸収ピーク波長の2倍の波長を持つレーザをXYZ方向にスキャンし、発生する光音響波強度の位置依存性を測定すると、酸化ヘモグロビンの多い血液から信号が強く発生するので、酸素濃度の高い血液を含む血管のみが可視化される。同様に、還元ヘモグロビンの1光子吸収の2倍の波長を持つレーザを用いて測定を行うと、酸素濃度の低い血液を多く含む血管のみが可視化できる。このように波長を変化させて測定を行うことにより血管内酸素濃度情報を含めた血管の画像化ができ、例えば、脳内の活性化部位の観察が可能となる。上記近赤外パルス光源としては、酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンを2光子励起可能な近赤外領域(700nm 〜2500nm)で波長可変なレーザを用いることが望ましい。また、上記近赤外パルスレーザとしては、多光子励起を行うことができるものであればどのようなものでもよいが、一般的には、ナノ秒パルスレーザ、ピコ秒パルスレーザ、あるいはフェムト秒パルスレーザが用いられる。
【0032】
本実施例の光音響断層撮影装置は、焦点位置のみから発生する音響波を効率よく検出することができるので、血管のように非常に吸収の強い物質の断面を正確に捉えることができる。例えば、血管の収縮運動は心筋虚血が起こった場合に変化することが知られており、血管収縮運動は様々な病気と係っている。従って、生体深部における血管収縮運動の可視化は非常に重要である。
【0033】
以上、実施例を用いて本発明の光音響断層撮影装置を実施するための最良の形態について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で適宜変更が許容されるものである。
【0034】
本発明の光音響断層撮影装置は、上記のような顕微鏡を利用した構成に限定されるものではなく、例えば、レーザ光の照射手段と音響波の検出手段を被測定体の表面に直接当接させることでレーザ光の照射及び音響波の受信を行うものとしてもよい。このような光音響断層撮影装置の構成の一例を図7に示す。なお、図1と同様の構成については同一符号を付し、適宜説明を省略する。ここでは、被測定体15に当接させて用いられるプローブ30の表面(被測定体15と当接する面)に、近赤外パルス光源10から導かれたパルス光を集光して被測定体15に照射するための光照射部31と、該パルス光の吸収により被測定体15内で発生した音響波を検出するためのPVDF(ポリフッ化ビニリデン樹脂)等の圧電素子から成る音響トランスデューサ18とを配設した構成となっている。なお、光照射部31はパルス光の光軸方向の焦点位置を変更可能なものとし、更に、プローブ内には光照射部31によるパルス光の焦点位置をその光軸に直交する平面内で走査するための走査部32を設け、被測定体15内の2次元的又は3次元的な物質分布情報を取得できるものとすることが望ましい。なお、上記のような光照射部31と音響トランスデューサ18とをプローブ30の表面に多数個配列させ、それらを切り換えて動作させることによりパルス光を走査する構成としてもよい。また、周波数感度曲線の違うトランスデューサを並べることにより、信号処理部22における周波数選択の信号処理を簡略化する構成としてもよい。
【0035】
上記のような光音響断層撮影装置の動作を、上述の脳機能イメージングの例で説明する。脳内の血中酸素濃度は脳活動と密接な関連があるため、その濃度分布情報を取得して画像化することにより脳の活動部位等を観察することができる。まず、プローブ30を被測定体15の頭部に当接させ、2光子励起により酸化ヘモグロビンを特異的に励起可能な波長のパルス光を光照射部31から照射すると共に、該2光子励起によって焦点位置から発生する音響波を音響トランスデューサ18で検出する。このとき、光照射部31及び走査部32によってパルス光の焦点位置を3次元的に走査することにより、脳の各部についてパルス光の照射及び音響波信号の検出が行われる。続いて、同様にして、2光子励起により還元ヘモグロビンを特異的に励起可能な波長におけるパルス光の照射及び音響波の検出を行い、以上により取得された酸化ヘモグロビン又は還元ヘモグロビン由来の音響波の検出信号とプローブ30から送出されるパルス光の焦点位置情報に基づいて信号処理部22で所定の演算を行う。これにより脳の各部における血中酸素濃度が算出され、該血中酸素濃度の分布を示す3次元画像データが生成される。更に、信号処理部22は生成された3次元画像データに基づいて3次元画像又は脳の任意の断面を示した2次元画像を生成し、表示部23のモニタ上に表示する。
【0036】
なお、本発明の光音響断層撮影装置は、上記のような生体の観察に限定されるものではなく、例えば、半導体素子の製品検査など種々の試料の非破壊検査に応用可能である。この場合には、検出対象となる物質の多光子吸収に応じた適切な波長を使用することが望ましい。
【符号の説明】
【0037】
10…近赤外パルス光源
11…レーザ走査部
12…顕微鏡
13…反射鏡
14…対物レンズ
15…被測定体
16…ステージ
17…ステージ駆動部
18…音響トランスデューサ
19…信号増幅部
20…パーソナルコンピュータ
21…制御部
22…信号処理部
23…表示部
30…プローブ
31…光照射部
32…走査部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光音響効果を利用して被測定体内部の物質分布を可視化する光音響断層撮影装置において、
a)被測定体に対してパルスレーザを照射することで多光子励起を誘起するパルスレーザ照射手段と、
b)前記多光子励起により被測定体から発生した音響波だけを検出する音響波検出手段と、
c)前記音響波検出手段による検出結果を基に被測定体内部の吸収物質情報を画像化する信号処理手段と、
を有することを特徴とする光音響断層撮影装置。
【請求項2】
被測定体に対してパルスレーザを照射することによって発生した音響波の中から、当該音響波の周波数フィルタリング手段を用いることにより、多光子励起により被測定体から発生した音響波のみを検出することを特徴とする請求項1に記載の光音響断層撮影装置。
【請求項3】
前記周波数フィルタリング手段は、前記音響波の全周波数成分に対する閾値周波数より高い周波数成分の寄与率、あるいは、閾値周波数より低い周波数成分の寄与率を検出し、使用することを特徴とする請求項2に記載の光音響断層撮影装置。
【請求項4】
前記周波数フィルタリング手段は、前記音響波の全周波数成分に対する閾値周波数1と閾値周波数2の間の範囲内にある周波数成分の寄与率を検出し、使用することを特徴とする請求項2に記載の光音響断層撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−45514(P2011−45514A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196237(P2009−196237)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(309029142)
【出願人】(309029795)
【Fターム(参考)】