光音響検出に基づくガスセンサ
光音響ガス検出器及び光音響ガス検出法が開示される。検出器は、レーザ源、音響共振器及び、検出器の軸長に沿って配置された、少なくとも1つの音叉を備える。検出器は広い温度範囲にわたって1つ以上の測定対象ガスの濃度の高速測定を実施することができる。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、2009年9月30日に出願された、名称を「光音響検出に基づくガスセンサ(Gas Sensor Based On Photoacoustic Detection)」とする、米国非仮特許出願第12/570606号の恩典を特許請求し、その優先権を主張する。本明細書は上記出願の明細書の内容に依存し、上記出願の明細書の内容は本明細書に参照として含まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は全般的にはガスセンサに関し、特に、光音響検出法を用いる1つ以上の測定対象ガスの濃度を検出する方法及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
微量のガス及び化学種の検出及び定量は、環境モニタリング、工業プロセス管理及び医療診断のような広汎な用途に対して益々重要になっている。現在、中間IR領域における分子吸収に基づく多くの超高感度検出法により低濃度レベルにおける化学種の測定が可能であるが、ほとんどの方法は実験室環境でしか実証されていない。検出装置は、現場に運ぶには嵩張りすぎるか、広く用いられるには高価すぎる。さらに、検出装置は一般に、高精度の位置合せが必要であり、振動及び温度変動に敏感である、複雑かつ繊細な光学機構に基づく。
【0004】
例えば、十分長い光路における累積分子吸収によるレーザパワー損失を検出するために十分なフォトダイオードが用いられれば、光波分光法で高感度及び高選択度を示すことができる。しかし、雑音を抑圧するため、フォトダイオードは液体窒素内で冷却されなければならない。この結果、装置は実験室環境に限定され、よって実際の現場での使用には適していない。
【0005】
光音響検出法は、光波分光法に使用されるフォトダイオードまたは検出器を音響検出器で置き換えることで、光波分光法への代替を提供する。光音響検出法においては、光を吸収している分子の励起エネルギーが、本質的に、非弾性衝突を介して周囲の分子への運動エネルギーに転換される。これにより光吸収ガス内に局所的圧力増大がおこる。励起源が変調されていれば、音波が発生され、音響検出器、一般にはマイクロフォンによって検出され得る。吸収されるエネルギー量は吸収分子濃度に比例するから、音響信号を正確な濃度測定に用いることができる。光音響検出法では、光波分光法よりかなり少ないサンプル体積を用いて、同等の検出限界が達成される。しかし、ガス吸収によって生じる音響信号を検出するためにマイクロフォンを用いる光音響検出法では、吸収ガスから発生される信号に対して望ましくない量の環境雑音が検出され得る。これは、大部分が、一般にマイクロフォンの広帯域応答による。
【0006】
光音響検出法におけるマイクロフォンの代替には、電子工業で広く利用できる、音叉がある。しかし、音叉を含む従前の手法では、音叉の叉枝を通過させるために極めて細く集束されたレーザビームが必要であった。言い換えれば、そのような手法では、音叉の2本の叉枝によって形成されるスロットの中間にレーザビームを合わせる必要があった。この構成では、1つ以上の音叉がビームを部分的に遮り、不要な干渉を誘起するように、ビーム径が短い距離にかけて劇的に変化するから、複数の音叉を用いて、性能改善または複数のガスの同時検出の達成を行うことが困難になる。したがって、光路に複数の音叉を実装するには一層複雑な構成が必要になり、この結果、光路が長くなり、光学的許容範囲が厳しくなる。同時に、デバイス性能が実質的に低下し、費用が高くなり、寸法が大きくなり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、音叉を用いる微量ガスの光音響検出において、性能を改善し、複数のガスの同時検出を達成するための改善された手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態は、少なくとも1つの測定対象ガスの濃度を検出するための光音響ガス検出器を含む。ガス検出器はレーザ源及び軸線に沿って延びる共振器を備える。共振器は、第1の末端、第2の末端及び第1の末端と第2の末端の間の内部キャビティを有する。内部キャビティは軸線に沿って延び、第1の末端と第2の末端の間の貫通開口を定める。内部キャビティはレーザ源からのレーザビームの貫通開口の通過を可能にするように適合される。ガス検出器は共振器の軸長に沿って配置された少なくとも1つの音叉も備える。音叉は第1の叉枝及び第2の叉枝を有する。軸線は第1の叉枝と第2の叉枝の間の領域と交差しない。
【0009】
別の実施形態は、光音響検出法を用いて少なくとも1つの測定対象ガスの濃度を決定するため方法を含む。本方法は光ビームをレーザ源から共振器の内部キャビティに導き入れる工程を含む。共振器及び内部キャビティは軸線に沿って延び、内部キャビティは、少なくとも1つの、ある濃度の測定対象ガスを収める。レーザビームと少なくとも1つの測定対象ガスの間の相互作用により、共振器内に音響信号の集積が生じる。本方法は、共振器の軸長に沿って配置された少なくとも1つの音叉によって少なくとも1つの測定対象ガスの濃度に比例する共鳴吸収信号を発生する工程も含む。音叉は第1の叉枝及び第2の叉枝を有し、軸線は第1の叉枝と第2の叉枝の間の領域と交差しない。
【0010】
さらなる特徴及び利点は以下の詳細な説明に述べられ、ある程度は、当業者にはその説明から容易に明らかであろうし、あるいは、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲を含み、添付図面も含む、本明細書に説明されるように実施形態を実施することによって認められるであろう。
【0011】
上記の全般的説明及び以下の詳細な説明がいずれも実施形態の例を提示し、特許請求項の本質及び特質を理解するための概要または枠組みの提供が目的とされていることは当然である。添付図面はさらに深い理解を提供するために含められ、本明細書に組み入れられて本明細書の一部をなす。図面は様々な実施形態を示し、記述とともに、様々な実施形態の原理及び動作の説明に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本明細書に開示されるような光音響ガス検出器の略図を示す。
【図2】図2は図1に示される光音響ガス検出器のコンポーネントの斜視図を示す。
【図3A】図3Aは光音響ガス検出器コンポーネントの別の構成の断面図を示す。
【図3B】図3Bは光音響ガス検出器コンポーネントの別の構成の断面図を示す。
【図3C】図3Cは光音響ガス検出器コンポーネントの別の構成の断面図を示す。
【図3D】図3Dは光音響ガス検出器コンポーネントの別の構成の断面図を示す。
【図3E】図3Eは光音響ガス検出器コンポーネントの別の構成の断面図を示す。
【図3F】図3Fは光音響ガス検出器コンポーネントの別の構成の断面図を示す。
【図4A】図4Aは光音響ガス検出器コンポーネントのまた別の構成の断面図及び端面図を示す。
【図4B】図4Bは光音響ガス検出器コンポーネントのまた別の構成の断面図及び端面図を示す。
【図5A】図5Aは光音響ガス検出器コンポーネントのさらにまた別の構成の断面図を示す。
【図5B】図5Bは光音響ガス検出器コンポーネントのさらにまた別の構成の断面図を示す。
【図6A】図6Aは測定対象物質の理論吸収スペクトルのグラフである。
【図6B】図6Bは測定対象物質の測定された吸収スペクトルのグラフである。
【図7】図7は本明細書に開示されるような光音響ガス検出器によって、時間の関数として、測定された水蒸気の濃度のグラフである。
【図8】図8は本明細書に開示されるような光音響ガス検出器によって、時間の関数として、測定されたC2H2の濃度のグラフである。
【図9】図9は指定された調節範囲にわたる一酸化窒素(NO)吸収のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
現在好ましい実施形態をここで詳細に説明する。そのような実施形態の例が添付図面に示される。
【0014】
微量ガスがレーザビームからエネルギーを吸収し、ガスの吸収エネルギーが共振器及び少なくとも1つの音叉を備える音響検出器内に集積される、光音響ガス検出器及び方法が本明細書に開示される。レーザ源は、非常に狭い線幅を有し、通常は単一縦モードで動作し、注目するガスだけがレーザエネルギーを吸収するように、ガスの特定の吸収ピークに一致するように選ばれた波長を有することが好ましい。言い換えれば、他のガスは選ばれた波長においてほとんど吸収を示さず、したがってレーザエネルギーを実質的に吸収しない。レーザ源は、スペクトル線幅がガスの吸収帯域幅より狭い、少なくとも1つの発光波長を発生することが好ましい。さらに、レーザ源はガスの吸収ピークを見いだすために波長を同調できることが好ましい。ガスがエネルギーを吸収すると、エネルギーは分子周囲の環境内に散逸することができ、環境内の材料の膨張または収縮をおこさせる。レーザが音響周波数で変調されていると、材料は同じ周波数で膨張及び収縮する。この結果、音波が発生され、音響検出器で検出され得る。周囲雑音に敏感なマイクロフォンを用いる従来の光音響検出法と比較して、本発明はレーザ変調周波数に同期された共振周波数で動作する音響検出器を用いる。この構成により、実質的に周囲雑音に影響を受けず、よって自動車用途のような苛酷な環境に適するデバイスが可能になる。
【0015】
光音響検出器の一実施形態の略図が図1に示される。検出器100は、レーザ源101,窓102を2つもつガスセル108,音響共振器103,音叉105及びデータ収集/制御ユニット109を備える。検出されるべきガスは、流入ポート106を通って入り、流出ポート107を通って出る。音叉105の信号強度を検出することによってガス濃度が測定される。
【0016】
図2は図1に示される光音響検出器のコンポーネントの斜視図を示す。図2に示されるように、共振器103は軸線A'-A'に沿って延びる。共振器103は第1の末端110,第2の末端111及び、第1の末端110と第2の末端111の間に延びる、内部キャビティ112を有し、内部キャビティ112は軸線A'-A'に沿って延び、第1の末端110と第2の末端111の間に貫通開口を定める。内部キャビティ112はレーザ源101からのレーザビーム104の貫通開口の通過を可能にするように適合される。音叉105は共振器103の軸長に沿って配置され、第1の叉枝113及び第2の叉枝114を有する。軸線A'-A'は第1の叉枝113と第2の叉枝114の間の領域と交差しない。
【0017】
この構成において、レーザビーム104は、レーザビーム104が共振器の内表面によるいかなる実質的な損失も受けずに共振器を通過するように、共振器103に沿って十分に位置合せされる。レーザがガス吸収ピークに同調されると、比較的強いガス吸収が共振器103内に局所加熱を生じさせる。局所加熱はレーザパワーに正比例する。レーザパワーが変調されると、局所加熱はレーザパワーに追随し、この結果、ガスの膨張及び収縮が生じる。共振器103内のこの圧力変化が音叉105を振動させる。音叉105の振動は、圧電効果により音叉上に電荷を生じさせ、データ収集/制御ユニット109を用いて測定することができる。
【0018】
言い換えれば、共振器103の内部キャビティ111は、少なくとも1つの、ある濃度の測定対象ガスを収め、レーザビーム104と少なくとも1つの測定対象ガスの相互作用が共振器103内に音響信号の集積を生じさせる。測定対象ガスの濃度に比例する共鳴吸収信号が音叉に105によって発生される。
【0019】
音叉105は楽器の較正に広く用いられる通常の音叉と同様の形状を有し、叩かれると特定の不変ピッチで共振する。特定の音叉が発生するピッチは主に叉枝113及び114の長さに依存する。音叉105の振動周波数はその寸法及び音叉105がつくられる材料によって決定される。好ましい実施形態において、音叉105は印加される機械的応力に応答して電位を発生する圧電材料でつくられる。水晶は音叉の大量生産に広く用いられる圧電結晶である。容易に入手でき、安定性が高いことから、共振周波数が32768Hzに近い水晶音叉は置時計及び腕時計における周波数標準として普通に用いられる。水晶以外に、オルトリン酸ガリウム(GaPO4)及びランガサイト(ケイ酸ランタンガリウム,LGS)La3Ga3SiO14が圧電結晶である。GaPO4結晶は水晶と同じ結晶族に属する。シリコン(Si)原子が交互にそれぞれガリウム(Ga)原子及びリン(P)原子で置換される。GaPO4は、水晶のキュリー点(573℃)よりかなり高い、970℃まで圧電特性を保持する。GaPO4は高い圧電係数も有する。水晶及びGaPO4と比較して、LGSは、その融点の1470℃まで相転移をおこさないから、さらに高温で動作することができる。そのような高動作温度は、NOXセンサが排気ガスのNO及びNO2の濃度をモニタし、エンジンがNOXの発生を最小限に抑えることができるようにエンジン動作条件を制御するためにそれぞれの濃度値をコンピュータにフィードバックする、自動車燃焼制御における用途に特に有益である。
【0020】
音叉105は撓み振動モードで動作するように設計されるが、ねじれ振動モードでも動作することができる。撓み振動モードにおいて、2本の叉枝113及び114は同じ平面上で、ただし互いに逆の方向に、振動する。電極が、この特定の方向における振動による電位変化を検出するように、特定の形状で叉枝表面上にコーティングされる。圧電効果は可逆であるから、音叉の叉枝113及び114は電極に電位が印加されると互いに逆の方向に動くことができる。音叉共振周波数と同じ周波数を有する電位信号が音叉105に印加されたときに、叉枝の振動は最大値に達する。言い換えれば、音叉が音波の測定に用いられるときには音波周波数を音叉共振周波数に一致させることが、この場合に信号強度が最大値に達するから、望ましい。常圧における音叉共振周波数の幅は10Hzより狭く、したがって、この狭いスペクトル帯域内の周波数成分だけが音叉振動の有効な励起に寄与することができる。
【0021】
音叉105の使用により、数Hzから20kHzの範囲にあり得る背景音響雑音周波数から遠く離れるように音叉の動作周波数を選べば、その結果、検出器100を背景音響雑音に実質的に不感にすることが可能になる。ほとんどの状況において、背景音響雑音密度は音響周波数に反比例し、一般に10kHzより上では非常に低い。したがって、音叉の動作周波数が高くなるほど、検出される背景雑音は小さくなる。同時に、音叉動作周波数は測定対象ガスによるレーザエネルギーの吸収に十分に応答するように選ばれるべきである。そのようなエネルギー吸収はガスが異なれば変わる。ほとんどのガスに対し、好ましくは、音叉は数kHzから数10kHzまでの周波数で動作させるべきである。好ましくは、十分な応答及び雑音抑圧のため、音叉の動作周波数は20kHzより高くなるように選ばれるべきである。例えば、32kHzで動作する市販の既製音叉が用いられる場合、空気中の音波の波長は約10mmである。遠距離源からの音波は約0.5mm離れて配された2本の叉枝のそれぞれに同方向の力をかけることが多い。これは圧電効果発生モードを励起させず、測定可能な電気信号を生じさせない。
【0022】
共振器103は音叉105と、レーザビーム104と測定対象ガスの間の相互作用の結果として発生される、音波の間の実効相互作用長を大きくするようにはたらく。共振器がガスで満たされていれば、音波信号Sは:
【数1】
【0023】
と表すことができる。ここで、αは測定対象ガスの吸収係数、lはガス吸収長、Cは測定対象ガスの濃度、Pは光パワー、Qは共振器のQ因子、fは光音響波周波数、Vは共振器容積、kはマイクロフォン伝達関数及びその他のシステムパラメータを表す定数である。音響検出器としてマイクロフォンを用いる従来の光音響共振器に対しては、マイクロフォン応答の限界により、Q因子を約20から約200、容積を最小で約10cm3として、500〜4000Hzのf値に対して共振器が設計される。音叉ベース共振器に対しては、共振器容積Vを1mm3にも小さくすることができ、Q因子は約104から約105の範囲にある。さらに、音叉の固有周波数応答から、検出器の雑音レベルは従来の光音響センサの少なくとも1/100になると推定することができる。この結果、音叉ベースセンサは、例えば従来の音響センサよりも感度が約100倍ないし約1000倍高くなり得る。
【0024】
図3A〜3Fは光音響ガス検出器コンポーネントの別の構成の断面図を示す。上式で示されるように感度は共振器容積に反比例するから、共振器の内表面からレーザビーム104へのいかなる実質的な量の損失も誘起せずに、共振器を可能な限り小さくつくることが望ましい。図3A,3C,3E及び3Fは内径がほぼ一定な円筒共振器103を示す。内径が一定な円筒共振器は市販の既製円筒管から容易に作成することができ、よって費用効果の高い手法を提供できる。対照的に、図3B及び3Dに示されるような、内径が軸長に沿って集束ガウス型レーザビーム104より若干大きい(すなわち、管径がレーザビーム104の1.2〜1.5倍である)ように、軸線に沿って共振器の一端から中点にかけて減少する内径を有する共振器103'は、さらに一層小さい内容積を与えることができ、非常に高い感度が必要なセンサに用いることができる。共振器を作成するため、ガラス、金属及びプラスチックを含むがこれらには限定されない様々な材料を用いることができる。音波の表面損失を軽減するため、共振器の内表面は平滑であることが好ましい。さらに、共振器の寸法及び形状は、高められた感度を達成するために共振器の固有周波数(すなわち共振周波数)が音叉の共振周波数と一致するように最適化されることが好ましい。例えば、内径及び外径がほぼ一定の円筒管共振器の場合、共振周波数は円筒の長さに反比例し、末端が閉じられているか開いているかには関わらない。例えば、両端開放円筒共振器に対し、共振周波数fは:
【数2】
【0025】
と表される。ここで、nは共振ノードを表す正整数(1,2,3,…)、Lは円筒長、νは空気中の音速(20℃及び海面レベルにおいてほぼ343m/秒)である。好ましい実施形態においては、n=1である。明らかに、上式は特にほぼ一定の内径及び外径を有する円筒共振器に関する。その他の共振器の形状寸法には異なる式が対応するであろう。
【0026】
共振器103または103'は音叉105の機械的共振周波数に実質的に一致する機械的共振周波数を有することが好ましい。
【0027】
好ましい実施形態において、音叉105は、例えば図2及び3Aに示されるように、共振器の軸長に沿うほぼ中間点で、軸線A'-A'の一方の側に沿って配置される。あるいは音叉105は、共振器の第1または第2の末端に近づけて、軸線A'-A'の一方の側に沿って配置することができる(図示せず)。音叉105の叉枝113及び114のいずれもが軸線の一方の側に配置されるが、一方の叉枝が他方の叉枝より軸線に近いことが好ましい。図1〜2及び3A〜3Fに示されるように、音叉105の叉枝114が延び込む(図2に参照数字120で示されるような)ノッチまたは開口を、軸線の一方の側に沿って共振器に設けることができる。ノッチまたは開口150は共振器103または103'の内部キャビティに延び込むことができ、音叉105の叉枝114の少なくとも一部分が共振器内部キャビティ内に延びることができる。
【0028】
音叉105の叉枝は、例えば、軸線A'-A'に概ね垂直に(図3A〜3B)するか、または軸線A'-A'に概ね平行に(図3C〜3D)することができる。また別の実施形態(図示せず)において、音叉105は、軸線A'-A'に概ね垂直方は平行ではない角度で傾けることができる。いずれの場合も、軸線A'-A'に最も近い叉枝の先端は、レーザビーム104の損失または散乱を誘起せずに最大信号強度を達成するために、レーザビーム104に十分に近いことが好ましい。レーザビーム104と測定対象ガスの相互作用から生じる光音響波が叉枝をそれぞれの共振方向に振動させ、この結果、圧電効果による電荷が生じる。
【0029】
本明細書に開示されるような光音響ガス検出法は、1つより多くの音叉を含むことができる。例えば、第2の音叉を付加することにより、出願人等は測定速度を2倍まで高め得ることを見いだした。追加の音叉の存在は振動-転移(V-T)緩和が遅いいくつかのガスに対して、あるいは特に高速の応答が必要な用途に対して、特に有用であり得る。例えば、検出器は、2つの音叉が、図3Eに示されるように、軸線A'-A'に沿って延びるレーザビーム104の両側で、共振器の軸長に沿うほぼ中間点において同じ平面上に配置されるように、第2の音叉115を有することができる。音叉105及び115の叉枝は、例えば、軸線A'-A'に概ね垂直に(図3E)するか、または軸線A'-A'に概ね平行に(図3F)することができる。また別の実施形態(図示せず)において、音叉105及び115は独立に軸線A'-A'に概ね垂直方は平行ではない角度で傾けることができる。音叉105及び115が共振器の軸長に沿うほぼ中間点において同じ平面上に配置されていない場合は、それぞれの位置の違いを補正するために較正アルゴリズムを用いることができる。2つ以上の音叉が用いられる場合、好ましくは、位置の違いによって生じる測定誤差を小さくするため、それぞれの音叉は隣り合わせで配置されるべきである。
【0030】
測定速度の向上に加えて、2つ以上の音叉を用いることで測定精度も向上させることができる。いかなるガスの吸収係数も、温度及び圧力のいずれにも依存する。したがって、好ましい測定方法は、少なくとも1つの測定対象ガスの濃度に比例する共鳴吸収信号の発生を含み、同時に共振器の内部キャビティ内の温度及び圧力に対する較正を含む。
【0031】
そのような較正は少なくとも第2の音叉の利用により達成することができる。音叉共振周波数は圧力及び温度の関数であり、この結果、電子制御ユニットから音叉に一連の電気プローブパルスを送り込むことにより、共振器の内部キャビティ内の温度及び圧力を決定することができる。プローブパルスの周波数が音叉共振周波数と一致するときに、音叉は最大信号出力を発生する。時間の経過にともなう共振周波数変化を測定することによってガス温度/圧力条件の変化を得て、ガス濃度測定結果を較正するために用いることができる。そのような場合、少なくとも2つの音叉が同時に動作する。少なくとも第1の音叉が測定対象ガスによるレーザビーム吸収量を測定していて、少なくとも第2の音叉がその共振周波数を測定することでガスの圧力及び温度をモニタしている。測定された圧力または温度は次いで測定対象ガスの濃度測定値を較正するために用いられる。
【0032】
図4a及び4Bは音叉及び共振器の別の実施形態の側断面図及び端面図を示す。図4Aに示されるように、共振器125'は、例えば通常の半導体製造プロセスに用いて、例えば共振器材料の個々の側面に刻み込むかまたはエッチングすることができる、2つのV字形溝を有する内部キャビティを有する。この実施形態に好ましい共振器材料はシリコンである。共振器材料の個々の側面は次いで、V字形溝126が相互に対面したときに共振器125の軸長に沿って延びる内部キャビティが得られるように、合わせることができる。V字形溝126はそれぞれの長さにかけて一定であるかまたは変化する断面寸法を有することができ、別の実施形態(図示せず)はV字形以外の(L字形またはU字形のような)断面形状を有することができる。音叉105'は、測定対象ガスの濃度に比例する共鳴吸収信号を有効に発生するように共振器125に十分に近づけて、共振器125の軸長に沿って配置されることが好ましい。音叉105'の叉枝は、第1の共振器端と第2の共振器端の間の中間点を表す、B'-B'が叉枝と交差するように、共振器の軸長に沿うほぼ中間点に配置されることが好ましい。共振器125は、同じくB'-B'が交差する開口127も、音叉105'の叉枝が共振器125の軸長の開口127と同じ部分に沿って延びるように、有することが好ましい。図4Bは音叉105'及び共振器125'が単一のプラットフォームに組み込まれている実施形態を示す。電気リード130が音叉105'から、例えばデータ収集/制御ユニットに、延びる。
【0033】
図5A及び5Bは,共振器130が放物形断面を有する、また別の実施形態の断面図を示す。音叉105'は,その少なくとも一部分が放物形断面の焦点138に配置される。図5Aにおいて、音叉の叉枝は共振器130の軸線に概ね垂直である。図5Bにおいて、音叉の叉枝は共振器130の軸線に概ね平行である。
【0034】
図1に戻って参照すれば、レーザ源101からのレーザビーム104の波長は測定対象ガスの吸収特性の関数として選ばれる。レーザビーム104の波長は、紫外(UV)領域から赤外(IR)領域までの、非常に広い範囲にあることができる。一般に、ほとんどのガスは中間IR領域(ほぼ4000〜400cm−1すなわち2.5〜25μm)の波長を近IR領域(ほぼ14000〜4000cm−1すなわち0.714〜2.5μm)の波長より強く吸収する。さらに高い感度を達成するため、中間IRレーザを用いることが好ましい。
【0035】
レーザ源101は検出器100内に収めることができ、あるいは離れた場所に配置して、例えば光ファイバを介して、レーザビームを共振器103に送り込むことができる。一連の音波を発生させるため、共振器内のガスに吸収されるエネルギーが時間の経過にともなって変化するようにレーザビーム104の特性を制御することができる。これは、例えばレーザパワーを変調(すなわち振幅変調)するか、またはその波長を変調(すなわち波長変調)することによって、実施することができる。
【0036】
データ収集/制御ユニット109は少なくとも2つの目的を果たすことができる。第1に、データ収集/制御ユニット109は、温度、波長、変調及び出力パワーのような、レーザ動作パラメータを制御することができる。第2に、データ収集/制御ユニット109は音叉から電荷を測定することができる。共振器井戸、光学窓及び音叉表面のような非スペクトル選択性吸収から発生される背景雑音を抑圧するため、レーザはf/2の周波数で波長変調されることが好ましい。音叉からの信号は、音叉共振周波数で動作する通常のロックイン増幅器によるように、増幅されることが好ましい。本明細書に開示される実施形態によって用いられ得るデータ収集ユニットの一例は、関数発生器、ロックイン増幅器及びパーソナルコンピュータを備える。
【0037】
本明細書に開示される方法は、1つ以上の測定対象ガスの濃度を測定するために用いることができる。少なくとも2つの測定対象ガスの濃度について測定する場合、検出器は少なくとも1つの音叉を備えることが好ましく、測定されるべき対象ガスのそれぞれに対して少なくとも1つの音叉を備えることがさらに好ましい。音叉はそれぞれ、ほとんど同じかまたは若干異なる共振周波数を有することができる。少なくとも2つの測定対象ガスの濃度について測定する場合、レーザ源101は、それぞれの測定対象ガスの吸収特性の関数として選ばれる波長のレーザビーム104を発生できることが好ましい。好ましい実施形態においては、それぞれの測定対象ガスに対してあらかじめ定められた波長のレーザビーム104が発生される。レーザビームは、レーザビームが同一線上にあり、同じ共振器の単一の貫通開口を通過するように、通常の波長分割多重(WDM)手法を用いて複合される。そのような手法により、広い範囲のガスの検出が可能になり得る。
【0038】
検出器100は、好ましくは200ppmより低濃度にあり、さらに好ましくは100ppmより低濃度にあり、さらに一層好ましくは25ppmより低濃度にあり、さらになお一層好ましくは10ppmより低濃度にある、少なくとも1つの測定対象ガスを検出できることが好ましい。
【0039】
検出器100を用いる方法は、背景雑音信号より少なくとも50倍の強さであるような、さらには背景雑音信号より少なくとも100倍の強さであるような、さらになお一層には背景雑音信号より少なくとも200倍の強さであるような、背景雑音信号より少なくとも10倍の強さである、少なくとも1つの測定対象ガスの濃度に比例する共鳴吸収信号を発生できることが好ましい。
【0040】
検出器100を用いる方法は、初めにレーザビームをレーザ源から共振器の内部キャビティに導き入れてから2秒以内のような、さらには初めにレーザビームをレーザ源から共振器の内部キャビティに導き入れてから1秒以内のような、初めにレーザビームをレーザ源から共振器の内部キャビティに導き入れてから3秒以内に、少なくとも1つの測定対象ガスの濃度に比例する共鳴吸収信号を発生できることが好ましい。
【0041】
検出器100を用いる方法は、少なくとも500℃のような、さらには少なくとも700℃のような、少なくとも300℃の温度において、少なくとも1つの測定対象ガスの濃度に比例する共鳴吸収信号を発生できることが好ましい。
【実施例】
【0042】
本明細書に開示される実施形態は以下の実施例によってさらに明解になる。
【0043】
実施例1
光音響ガス検出システムには、レーザ源として波長可変量子カスケードレーザ、音響共振器、音叉及びデータ収集/制御ユニットを含めた。波長可変レーザは圧電コントローラを用いて波長を変えることができた。音叉は212(32768)Hzの共振周波数を有する市販の既製品とし、音響共振器は内径が0.8mmで長さが10mmのステンレス鋼管とした。音叉は図2に示される態様と同様の態様で共振器に対して位置合せした。レーザビームは光学レンズによって共振器内に集束させた。測定中、制御ユニットは、波長を緩やかに変化させながら、レーザパワーを〜32768/2=16384Hzで変調した。関数発生器及びロックイン増幅器を有するデータ収集ユニットが、音叉から電気信号を取り込んだ。図6Aは、2つの吸収ピークを示す、水蒸気の理論吸収スペクトルを示し、図6Bは外気内で作動しているシステムによって測定されたままの水蒸気の吸収スペクトルを示す。これらの図から分かるように、本検出システムにより、隣接する2つの吸収ピークを、非常に高い信号対雑音比及び理論スペクトルと測定スペクトルの間の非常によい一致をもって見いだすことに成功した。
【0044】
実施例2
実施例1で説明したように吸収スペクトルが測定されると、主水蒸気吸収ピーク波長にレーザ波長を設定した。次いで実施例1で説明した検出システムを用いて水蒸気濃度の連続モニタリングを実施した。図7は測定した水蒸気濃度の時間の関数としてのグラフを示す。詳しくは、図7は検出システムを変化する条件に順次にさらしながら測定した水蒸気濃度の時間的変化のグラフを示す。図7に示す時間範囲にわたり、検出システムを順次に、(測定された応答が参照数字10で示されている)通常の実験室湿度、(測定された応答が参照数字12で示されている)第1の窒素(N2)パージ、(測定された応答が参照数字14で示されている)第1の人間の呼気、(測定された応答が参照数字16で示されている)第2の人間の呼気、(測定された応答が参照数字18で示されている)第2のN2パージ、最後に(測定された応答が参照数字20で示されている)外気に、さらした。
【0045】
実施例3
光音響ガス検出システムには、レーザ源としてDFBレーザダイオード、音響共振器、2つの音叉及びデータ収集/制御ユニットを含めた。DFBレーザダイオードは、測定対象ガスとしてのC2H2の濃度を決定するために(C2H2は1.5μm近くに強い吸収を有することから測定対象ガスとして選んだ)、1532nmの波長で動作するように調節した(DFBレーザダイオードの波長はパッケージ温度を変えることによって調節することができる)。共振器及び音叉は実施例1で説明したものと同じタイプである。レーザダイオードからのビームをコリメートし、別々の2つのレンズを用いて共振器に集束させた。測定対象ガス濃度の測定にかかる前に、関数発生器及びロックイン増幅器を用いて音叉の共振周波数を測定した。次いで、レーザダイオードの音叉共振周波数の1/2の周波数で変調した。次に、レーザダイオードの温度を調節しながら音叉信号をモニタした。信号が最大値に達したときの設定温度を以降の実験に用いた。このプロセスは制御ユニットを用いて迅速に実施することができる。これらの設定を用い、図8に示すように、C2H2の濃度を時間の経過にしたがって測定した。
【0046】
図8に示されるグラフは検出システムの検出システム自体を較正できる能力を示す。詳しくは、図8は、検出システムを変化する条件に順次にさらしながら測定したC2H2濃度の時間的変化のグラフを示す。図8に示す時間範囲にわたり、検出システムを順次に、(測定された応答が参照数字22で示されている)約2ppmより低い第1のC2H2濃度、(測定された応答が参照数字24で示されている)約10ppmまでのC2H2濃度の増大、(初めに測定された応答が参照数字26で示されている)約510Torr(6.80×104Pa)から約434Torr(5.79×104Pa)までの圧力変化、(測定された応答が参照数字30で示されている)空気パージ、及び(初めに測定された応答が参照数字32で示されている)約400Torr(5.33×104Pa)における約10ppmの濃度のC2H2の第2の導入に、さらした。異なる圧力条件にかけての約10ppmのC2H2濃度の測定を行った場合、圧力が変化したときに(参照数字28及び34で示される測定された応答によって示されるように)検出システムは自動較正することができた。詳しくは、図8の参照数字26及び32は、実C2H2濃度は変化していないが、圧力変化にしたがって変化した信号強度測定値を示す。これは音叉周波数が圧力に依存するためである。圧力が変化するとレーザ変調周波数はもはや音叉に同期されない。この効果に打ち勝つため、出願人等は音叉共振周波数を再測定し、これをレーザ変調周波数として用いた。図8に見ることができるように、(参照数字28及び34で示される)較正後の濃度測定値は(参照数字24で示される)元の測定値と一致している。この較正プロセスは、PCを用い、数回反復して実施され、よって自動較正を示す。さらに、10ppm以下の感度が実証される。
【0047】
実施例4
出願人等は、一酸化窒素(NO)ガスに対する50ppmより高い感度を実証することもでき、推定信号対雑音比は約230であった。実験に用いた波長は、水による吸収を最小限に抑えて、強いNO吸収ピークに最適化した。図9は、実施例1に関して上述した方法を用いてレーザを〜16kHzで変調しながら、約0.4cm−1の調節範囲にかけて測定した吸収プロファイルのグラフを示す。図9に示される非対称な谷は、波長調節中の残留波長変調による。
【0048】
本発明の精神及び範囲を逸脱することなく様々な改変及び変形がなされ得ることが当業者には明らかであろう。
【符号の説明】
【0049】
100 検出器
101 レーザ源
102 窓
103,125,125',140 音響共振器
104 レーザビーム
105,105',115 音叉
106 流入ポート
107 流出ポート
108 ガスセル
109 データ収集/制御ユニット
110,111 共振器の末端
112 内部キャビティ
113,114 叉枝
120,127 開口
126 V字形溝
130 電気リード
135 焦点
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、2009年9月30日に出願された、名称を「光音響検出に基づくガスセンサ(Gas Sensor Based On Photoacoustic Detection)」とする、米国非仮特許出願第12/570606号の恩典を特許請求し、その優先権を主張する。本明細書は上記出願の明細書の内容に依存し、上記出願の明細書の内容は本明細書に参照として含まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は全般的にはガスセンサに関し、特に、光音響検出法を用いる1つ以上の測定対象ガスの濃度を検出する方法及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
微量のガス及び化学種の検出及び定量は、環境モニタリング、工業プロセス管理及び医療診断のような広汎な用途に対して益々重要になっている。現在、中間IR領域における分子吸収に基づく多くの超高感度検出法により低濃度レベルにおける化学種の測定が可能であるが、ほとんどの方法は実験室環境でしか実証されていない。検出装置は、現場に運ぶには嵩張りすぎるか、広く用いられるには高価すぎる。さらに、検出装置は一般に、高精度の位置合せが必要であり、振動及び温度変動に敏感である、複雑かつ繊細な光学機構に基づく。
【0004】
例えば、十分長い光路における累積分子吸収によるレーザパワー損失を検出するために十分なフォトダイオードが用いられれば、光波分光法で高感度及び高選択度を示すことができる。しかし、雑音を抑圧するため、フォトダイオードは液体窒素内で冷却されなければならない。この結果、装置は実験室環境に限定され、よって実際の現場での使用には適していない。
【0005】
光音響検出法は、光波分光法に使用されるフォトダイオードまたは検出器を音響検出器で置き換えることで、光波分光法への代替を提供する。光音響検出法においては、光を吸収している分子の励起エネルギーが、本質的に、非弾性衝突を介して周囲の分子への運動エネルギーに転換される。これにより光吸収ガス内に局所的圧力増大がおこる。励起源が変調されていれば、音波が発生され、音響検出器、一般にはマイクロフォンによって検出され得る。吸収されるエネルギー量は吸収分子濃度に比例するから、音響信号を正確な濃度測定に用いることができる。光音響検出法では、光波分光法よりかなり少ないサンプル体積を用いて、同等の検出限界が達成される。しかし、ガス吸収によって生じる音響信号を検出するためにマイクロフォンを用いる光音響検出法では、吸収ガスから発生される信号に対して望ましくない量の環境雑音が検出され得る。これは、大部分が、一般にマイクロフォンの広帯域応答による。
【0006】
光音響検出法におけるマイクロフォンの代替には、電子工業で広く利用できる、音叉がある。しかし、音叉を含む従前の手法では、音叉の叉枝を通過させるために極めて細く集束されたレーザビームが必要であった。言い換えれば、そのような手法では、音叉の2本の叉枝によって形成されるスロットの中間にレーザビームを合わせる必要があった。この構成では、1つ以上の音叉がビームを部分的に遮り、不要な干渉を誘起するように、ビーム径が短い距離にかけて劇的に変化するから、複数の音叉を用いて、性能改善または複数のガスの同時検出の達成を行うことが困難になる。したがって、光路に複数の音叉を実装するには一層複雑な構成が必要になり、この結果、光路が長くなり、光学的許容範囲が厳しくなる。同時に、デバイス性能が実質的に低下し、費用が高くなり、寸法が大きくなり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、音叉を用いる微量ガスの光音響検出において、性能を改善し、複数のガスの同時検出を達成するための改善された手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態は、少なくとも1つの測定対象ガスの濃度を検出するための光音響ガス検出器を含む。ガス検出器はレーザ源及び軸線に沿って延びる共振器を備える。共振器は、第1の末端、第2の末端及び第1の末端と第2の末端の間の内部キャビティを有する。内部キャビティは軸線に沿って延び、第1の末端と第2の末端の間の貫通開口を定める。内部キャビティはレーザ源からのレーザビームの貫通開口の通過を可能にするように適合される。ガス検出器は共振器の軸長に沿って配置された少なくとも1つの音叉も備える。音叉は第1の叉枝及び第2の叉枝を有する。軸線は第1の叉枝と第2の叉枝の間の領域と交差しない。
【0009】
別の実施形態は、光音響検出法を用いて少なくとも1つの測定対象ガスの濃度を決定するため方法を含む。本方法は光ビームをレーザ源から共振器の内部キャビティに導き入れる工程を含む。共振器及び内部キャビティは軸線に沿って延び、内部キャビティは、少なくとも1つの、ある濃度の測定対象ガスを収める。レーザビームと少なくとも1つの測定対象ガスの間の相互作用により、共振器内に音響信号の集積が生じる。本方法は、共振器の軸長に沿って配置された少なくとも1つの音叉によって少なくとも1つの測定対象ガスの濃度に比例する共鳴吸収信号を発生する工程も含む。音叉は第1の叉枝及び第2の叉枝を有し、軸線は第1の叉枝と第2の叉枝の間の領域と交差しない。
【0010】
さらなる特徴及び利点は以下の詳細な説明に述べられ、ある程度は、当業者にはその説明から容易に明らかであろうし、あるいは、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲を含み、添付図面も含む、本明細書に説明されるように実施形態を実施することによって認められるであろう。
【0011】
上記の全般的説明及び以下の詳細な説明がいずれも実施形態の例を提示し、特許請求項の本質及び特質を理解するための概要または枠組みの提供が目的とされていることは当然である。添付図面はさらに深い理解を提供するために含められ、本明細書に組み入れられて本明細書の一部をなす。図面は様々な実施形態を示し、記述とともに、様々な実施形態の原理及び動作の説明に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本明細書に開示されるような光音響ガス検出器の略図を示す。
【図2】図2は図1に示される光音響ガス検出器のコンポーネントの斜視図を示す。
【図3A】図3Aは光音響ガス検出器コンポーネントの別の構成の断面図を示す。
【図3B】図3Bは光音響ガス検出器コンポーネントの別の構成の断面図を示す。
【図3C】図3Cは光音響ガス検出器コンポーネントの別の構成の断面図を示す。
【図3D】図3Dは光音響ガス検出器コンポーネントの別の構成の断面図を示す。
【図3E】図3Eは光音響ガス検出器コンポーネントの別の構成の断面図を示す。
【図3F】図3Fは光音響ガス検出器コンポーネントの別の構成の断面図を示す。
【図4A】図4Aは光音響ガス検出器コンポーネントのまた別の構成の断面図及び端面図を示す。
【図4B】図4Bは光音響ガス検出器コンポーネントのまた別の構成の断面図及び端面図を示す。
【図5A】図5Aは光音響ガス検出器コンポーネントのさらにまた別の構成の断面図を示す。
【図5B】図5Bは光音響ガス検出器コンポーネントのさらにまた別の構成の断面図を示す。
【図6A】図6Aは測定対象物質の理論吸収スペクトルのグラフである。
【図6B】図6Bは測定対象物質の測定された吸収スペクトルのグラフである。
【図7】図7は本明細書に開示されるような光音響ガス検出器によって、時間の関数として、測定された水蒸気の濃度のグラフである。
【図8】図8は本明細書に開示されるような光音響ガス検出器によって、時間の関数として、測定されたC2H2の濃度のグラフである。
【図9】図9は指定された調節範囲にわたる一酸化窒素(NO)吸収のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
現在好ましい実施形態をここで詳細に説明する。そのような実施形態の例が添付図面に示される。
【0014】
微量ガスがレーザビームからエネルギーを吸収し、ガスの吸収エネルギーが共振器及び少なくとも1つの音叉を備える音響検出器内に集積される、光音響ガス検出器及び方法が本明細書に開示される。レーザ源は、非常に狭い線幅を有し、通常は単一縦モードで動作し、注目するガスだけがレーザエネルギーを吸収するように、ガスの特定の吸収ピークに一致するように選ばれた波長を有することが好ましい。言い換えれば、他のガスは選ばれた波長においてほとんど吸収を示さず、したがってレーザエネルギーを実質的に吸収しない。レーザ源は、スペクトル線幅がガスの吸収帯域幅より狭い、少なくとも1つの発光波長を発生することが好ましい。さらに、レーザ源はガスの吸収ピークを見いだすために波長を同調できることが好ましい。ガスがエネルギーを吸収すると、エネルギーは分子周囲の環境内に散逸することができ、環境内の材料の膨張または収縮をおこさせる。レーザが音響周波数で変調されていると、材料は同じ周波数で膨張及び収縮する。この結果、音波が発生され、音響検出器で検出され得る。周囲雑音に敏感なマイクロフォンを用いる従来の光音響検出法と比較して、本発明はレーザ変調周波数に同期された共振周波数で動作する音響検出器を用いる。この構成により、実質的に周囲雑音に影響を受けず、よって自動車用途のような苛酷な環境に適するデバイスが可能になる。
【0015】
光音響検出器の一実施形態の略図が図1に示される。検出器100は、レーザ源101,窓102を2つもつガスセル108,音響共振器103,音叉105及びデータ収集/制御ユニット109を備える。検出されるべきガスは、流入ポート106を通って入り、流出ポート107を通って出る。音叉105の信号強度を検出することによってガス濃度が測定される。
【0016】
図2は図1に示される光音響検出器のコンポーネントの斜視図を示す。図2に示されるように、共振器103は軸線A'-A'に沿って延びる。共振器103は第1の末端110,第2の末端111及び、第1の末端110と第2の末端111の間に延びる、内部キャビティ112を有し、内部キャビティ112は軸線A'-A'に沿って延び、第1の末端110と第2の末端111の間に貫通開口を定める。内部キャビティ112はレーザ源101からのレーザビーム104の貫通開口の通過を可能にするように適合される。音叉105は共振器103の軸長に沿って配置され、第1の叉枝113及び第2の叉枝114を有する。軸線A'-A'は第1の叉枝113と第2の叉枝114の間の領域と交差しない。
【0017】
この構成において、レーザビーム104は、レーザビーム104が共振器の内表面によるいかなる実質的な損失も受けずに共振器を通過するように、共振器103に沿って十分に位置合せされる。レーザがガス吸収ピークに同調されると、比較的強いガス吸収が共振器103内に局所加熱を生じさせる。局所加熱はレーザパワーに正比例する。レーザパワーが変調されると、局所加熱はレーザパワーに追随し、この結果、ガスの膨張及び収縮が生じる。共振器103内のこの圧力変化が音叉105を振動させる。音叉105の振動は、圧電効果により音叉上に電荷を生じさせ、データ収集/制御ユニット109を用いて測定することができる。
【0018】
言い換えれば、共振器103の内部キャビティ111は、少なくとも1つの、ある濃度の測定対象ガスを収め、レーザビーム104と少なくとも1つの測定対象ガスの相互作用が共振器103内に音響信号の集積を生じさせる。測定対象ガスの濃度に比例する共鳴吸収信号が音叉に105によって発生される。
【0019】
音叉105は楽器の較正に広く用いられる通常の音叉と同様の形状を有し、叩かれると特定の不変ピッチで共振する。特定の音叉が発生するピッチは主に叉枝113及び114の長さに依存する。音叉105の振動周波数はその寸法及び音叉105がつくられる材料によって決定される。好ましい実施形態において、音叉105は印加される機械的応力に応答して電位を発生する圧電材料でつくられる。水晶は音叉の大量生産に広く用いられる圧電結晶である。容易に入手でき、安定性が高いことから、共振周波数が32768Hzに近い水晶音叉は置時計及び腕時計における周波数標準として普通に用いられる。水晶以外に、オルトリン酸ガリウム(GaPO4)及びランガサイト(ケイ酸ランタンガリウム,LGS)La3Ga3SiO14が圧電結晶である。GaPO4結晶は水晶と同じ結晶族に属する。シリコン(Si)原子が交互にそれぞれガリウム(Ga)原子及びリン(P)原子で置換される。GaPO4は、水晶のキュリー点(573℃)よりかなり高い、970℃まで圧電特性を保持する。GaPO4は高い圧電係数も有する。水晶及びGaPO4と比較して、LGSは、その融点の1470℃まで相転移をおこさないから、さらに高温で動作することができる。そのような高動作温度は、NOXセンサが排気ガスのNO及びNO2の濃度をモニタし、エンジンがNOXの発生を最小限に抑えることができるようにエンジン動作条件を制御するためにそれぞれの濃度値をコンピュータにフィードバックする、自動車燃焼制御における用途に特に有益である。
【0020】
音叉105は撓み振動モードで動作するように設計されるが、ねじれ振動モードでも動作することができる。撓み振動モードにおいて、2本の叉枝113及び114は同じ平面上で、ただし互いに逆の方向に、振動する。電極が、この特定の方向における振動による電位変化を検出するように、特定の形状で叉枝表面上にコーティングされる。圧電効果は可逆であるから、音叉の叉枝113及び114は電極に電位が印加されると互いに逆の方向に動くことができる。音叉共振周波数と同じ周波数を有する電位信号が音叉105に印加されたときに、叉枝の振動は最大値に達する。言い換えれば、音叉が音波の測定に用いられるときには音波周波数を音叉共振周波数に一致させることが、この場合に信号強度が最大値に達するから、望ましい。常圧における音叉共振周波数の幅は10Hzより狭く、したがって、この狭いスペクトル帯域内の周波数成分だけが音叉振動の有効な励起に寄与することができる。
【0021】
音叉105の使用により、数Hzから20kHzの範囲にあり得る背景音響雑音周波数から遠く離れるように音叉の動作周波数を選べば、その結果、検出器100を背景音響雑音に実質的に不感にすることが可能になる。ほとんどの状況において、背景音響雑音密度は音響周波数に反比例し、一般に10kHzより上では非常に低い。したがって、音叉の動作周波数が高くなるほど、検出される背景雑音は小さくなる。同時に、音叉動作周波数は測定対象ガスによるレーザエネルギーの吸収に十分に応答するように選ばれるべきである。そのようなエネルギー吸収はガスが異なれば変わる。ほとんどのガスに対し、好ましくは、音叉は数kHzから数10kHzまでの周波数で動作させるべきである。好ましくは、十分な応答及び雑音抑圧のため、音叉の動作周波数は20kHzより高くなるように選ばれるべきである。例えば、32kHzで動作する市販の既製音叉が用いられる場合、空気中の音波の波長は約10mmである。遠距離源からの音波は約0.5mm離れて配された2本の叉枝のそれぞれに同方向の力をかけることが多い。これは圧電効果発生モードを励起させず、測定可能な電気信号を生じさせない。
【0022】
共振器103は音叉105と、レーザビーム104と測定対象ガスの間の相互作用の結果として発生される、音波の間の実効相互作用長を大きくするようにはたらく。共振器がガスで満たされていれば、音波信号Sは:
【数1】
【0023】
と表すことができる。ここで、αは測定対象ガスの吸収係数、lはガス吸収長、Cは測定対象ガスの濃度、Pは光パワー、Qは共振器のQ因子、fは光音響波周波数、Vは共振器容積、kはマイクロフォン伝達関数及びその他のシステムパラメータを表す定数である。音響検出器としてマイクロフォンを用いる従来の光音響共振器に対しては、マイクロフォン応答の限界により、Q因子を約20から約200、容積を最小で約10cm3として、500〜4000Hzのf値に対して共振器が設計される。音叉ベース共振器に対しては、共振器容積Vを1mm3にも小さくすることができ、Q因子は約104から約105の範囲にある。さらに、音叉の固有周波数応答から、検出器の雑音レベルは従来の光音響センサの少なくとも1/100になると推定することができる。この結果、音叉ベースセンサは、例えば従来の音響センサよりも感度が約100倍ないし約1000倍高くなり得る。
【0024】
図3A〜3Fは光音響ガス検出器コンポーネントの別の構成の断面図を示す。上式で示されるように感度は共振器容積に反比例するから、共振器の内表面からレーザビーム104へのいかなる実質的な量の損失も誘起せずに、共振器を可能な限り小さくつくることが望ましい。図3A,3C,3E及び3Fは内径がほぼ一定な円筒共振器103を示す。内径が一定な円筒共振器は市販の既製円筒管から容易に作成することができ、よって費用効果の高い手法を提供できる。対照的に、図3B及び3Dに示されるような、内径が軸長に沿って集束ガウス型レーザビーム104より若干大きい(すなわち、管径がレーザビーム104の1.2〜1.5倍である)ように、軸線に沿って共振器の一端から中点にかけて減少する内径を有する共振器103'は、さらに一層小さい内容積を与えることができ、非常に高い感度が必要なセンサに用いることができる。共振器を作成するため、ガラス、金属及びプラスチックを含むがこれらには限定されない様々な材料を用いることができる。音波の表面損失を軽減するため、共振器の内表面は平滑であることが好ましい。さらに、共振器の寸法及び形状は、高められた感度を達成するために共振器の固有周波数(すなわち共振周波数)が音叉の共振周波数と一致するように最適化されることが好ましい。例えば、内径及び外径がほぼ一定の円筒管共振器の場合、共振周波数は円筒の長さに反比例し、末端が閉じられているか開いているかには関わらない。例えば、両端開放円筒共振器に対し、共振周波数fは:
【数2】
【0025】
と表される。ここで、nは共振ノードを表す正整数(1,2,3,…)、Lは円筒長、νは空気中の音速(20℃及び海面レベルにおいてほぼ343m/秒)である。好ましい実施形態においては、n=1である。明らかに、上式は特にほぼ一定の内径及び外径を有する円筒共振器に関する。その他の共振器の形状寸法には異なる式が対応するであろう。
【0026】
共振器103または103'は音叉105の機械的共振周波数に実質的に一致する機械的共振周波数を有することが好ましい。
【0027】
好ましい実施形態において、音叉105は、例えば図2及び3Aに示されるように、共振器の軸長に沿うほぼ中間点で、軸線A'-A'の一方の側に沿って配置される。あるいは音叉105は、共振器の第1または第2の末端に近づけて、軸線A'-A'の一方の側に沿って配置することができる(図示せず)。音叉105の叉枝113及び114のいずれもが軸線の一方の側に配置されるが、一方の叉枝が他方の叉枝より軸線に近いことが好ましい。図1〜2及び3A〜3Fに示されるように、音叉105の叉枝114が延び込む(図2に参照数字120で示されるような)ノッチまたは開口を、軸線の一方の側に沿って共振器に設けることができる。ノッチまたは開口150は共振器103または103'の内部キャビティに延び込むことができ、音叉105の叉枝114の少なくとも一部分が共振器内部キャビティ内に延びることができる。
【0028】
音叉105の叉枝は、例えば、軸線A'-A'に概ね垂直に(図3A〜3B)するか、または軸線A'-A'に概ね平行に(図3C〜3D)することができる。また別の実施形態(図示せず)において、音叉105は、軸線A'-A'に概ね垂直方は平行ではない角度で傾けることができる。いずれの場合も、軸線A'-A'に最も近い叉枝の先端は、レーザビーム104の損失または散乱を誘起せずに最大信号強度を達成するために、レーザビーム104に十分に近いことが好ましい。レーザビーム104と測定対象ガスの相互作用から生じる光音響波が叉枝をそれぞれの共振方向に振動させ、この結果、圧電効果による電荷が生じる。
【0029】
本明細書に開示されるような光音響ガス検出法は、1つより多くの音叉を含むことができる。例えば、第2の音叉を付加することにより、出願人等は測定速度を2倍まで高め得ることを見いだした。追加の音叉の存在は振動-転移(V-T)緩和が遅いいくつかのガスに対して、あるいは特に高速の応答が必要な用途に対して、特に有用であり得る。例えば、検出器は、2つの音叉が、図3Eに示されるように、軸線A'-A'に沿って延びるレーザビーム104の両側で、共振器の軸長に沿うほぼ中間点において同じ平面上に配置されるように、第2の音叉115を有することができる。音叉105及び115の叉枝は、例えば、軸線A'-A'に概ね垂直に(図3E)するか、または軸線A'-A'に概ね平行に(図3F)することができる。また別の実施形態(図示せず)において、音叉105及び115は独立に軸線A'-A'に概ね垂直方は平行ではない角度で傾けることができる。音叉105及び115が共振器の軸長に沿うほぼ中間点において同じ平面上に配置されていない場合は、それぞれの位置の違いを補正するために較正アルゴリズムを用いることができる。2つ以上の音叉が用いられる場合、好ましくは、位置の違いによって生じる測定誤差を小さくするため、それぞれの音叉は隣り合わせで配置されるべきである。
【0030】
測定速度の向上に加えて、2つ以上の音叉を用いることで測定精度も向上させることができる。いかなるガスの吸収係数も、温度及び圧力のいずれにも依存する。したがって、好ましい測定方法は、少なくとも1つの測定対象ガスの濃度に比例する共鳴吸収信号の発生を含み、同時に共振器の内部キャビティ内の温度及び圧力に対する較正を含む。
【0031】
そのような較正は少なくとも第2の音叉の利用により達成することができる。音叉共振周波数は圧力及び温度の関数であり、この結果、電子制御ユニットから音叉に一連の電気プローブパルスを送り込むことにより、共振器の内部キャビティ内の温度及び圧力を決定することができる。プローブパルスの周波数が音叉共振周波数と一致するときに、音叉は最大信号出力を発生する。時間の経過にともなう共振周波数変化を測定することによってガス温度/圧力条件の変化を得て、ガス濃度測定結果を較正するために用いることができる。そのような場合、少なくとも2つの音叉が同時に動作する。少なくとも第1の音叉が測定対象ガスによるレーザビーム吸収量を測定していて、少なくとも第2の音叉がその共振周波数を測定することでガスの圧力及び温度をモニタしている。測定された圧力または温度は次いで測定対象ガスの濃度測定値を較正するために用いられる。
【0032】
図4a及び4Bは音叉及び共振器の別の実施形態の側断面図及び端面図を示す。図4Aに示されるように、共振器125'は、例えば通常の半導体製造プロセスに用いて、例えば共振器材料の個々の側面に刻み込むかまたはエッチングすることができる、2つのV字形溝を有する内部キャビティを有する。この実施形態に好ましい共振器材料はシリコンである。共振器材料の個々の側面は次いで、V字形溝126が相互に対面したときに共振器125の軸長に沿って延びる内部キャビティが得られるように、合わせることができる。V字形溝126はそれぞれの長さにかけて一定であるかまたは変化する断面寸法を有することができ、別の実施形態(図示せず)はV字形以外の(L字形またはU字形のような)断面形状を有することができる。音叉105'は、測定対象ガスの濃度に比例する共鳴吸収信号を有効に発生するように共振器125に十分に近づけて、共振器125の軸長に沿って配置されることが好ましい。音叉105'の叉枝は、第1の共振器端と第2の共振器端の間の中間点を表す、B'-B'が叉枝と交差するように、共振器の軸長に沿うほぼ中間点に配置されることが好ましい。共振器125は、同じくB'-B'が交差する開口127も、音叉105'の叉枝が共振器125の軸長の開口127と同じ部分に沿って延びるように、有することが好ましい。図4Bは音叉105'及び共振器125'が単一のプラットフォームに組み込まれている実施形態を示す。電気リード130が音叉105'から、例えばデータ収集/制御ユニットに、延びる。
【0033】
図5A及び5Bは,共振器130が放物形断面を有する、また別の実施形態の断面図を示す。音叉105'は,その少なくとも一部分が放物形断面の焦点138に配置される。図5Aにおいて、音叉の叉枝は共振器130の軸線に概ね垂直である。図5Bにおいて、音叉の叉枝は共振器130の軸線に概ね平行である。
【0034】
図1に戻って参照すれば、レーザ源101からのレーザビーム104の波長は測定対象ガスの吸収特性の関数として選ばれる。レーザビーム104の波長は、紫外(UV)領域から赤外(IR)領域までの、非常に広い範囲にあることができる。一般に、ほとんどのガスは中間IR領域(ほぼ4000〜400cm−1すなわち2.5〜25μm)の波長を近IR領域(ほぼ14000〜4000cm−1すなわち0.714〜2.5μm)の波長より強く吸収する。さらに高い感度を達成するため、中間IRレーザを用いることが好ましい。
【0035】
レーザ源101は検出器100内に収めることができ、あるいは離れた場所に配置して、例えば光ファイバを介して、レーザビームを共振器103に送り込むことができる。一連の音波を発生させるため、共振器内のガスに吸収されるエネルギーが時間の経過にともなって変化するようにレーザビーム104の特性を制御することができる。これは、例えばレーザパワーを変調(すなわち振幅変調)するか、またはその波長を変調(すなわち波長変調)することによって、実施することができる。
【0036】
データ収集/制御ユニット109は少なくとも2つの目的を果たすことができる。第1に、データ収集/制御ユニット109は、温度、波長、変調及び出力パワーのような、レーザ動作パラメータを制御することができる。第2に、データ収集/制御ユニット109は音叉から電荷を測定することができる。共振器井戸、光学窓及び音叉表面のような非スペクトル選択性吸収から発生される背景雑音を抑圧するため、レーザはf/2の周波数で波長変調されることが好ましい。音叉からの信号は、音叉共振周波数で動作する通常のロックイン増幅器によるように、増幅されることが好ましい。本明細書に開示される実施形態によって用いられ得るデータ収集ユニットの一例は、関数発生器、ロックイン増幅器及びパーソナルコンピュータを備える。
【0037】
本明細書に開示される方法は、1つ以上の測定対象ガスの濃度を測定するために用いることができる。少なくとも2つの測定対象ガスの濃度について測定する場合、検出器は少なくとも1つの音叉を備えることが好ましく、測定されるべき対象ガスのそれぞれに対して少なくとも1つの音叉を備えることがさらに好ましい。音叉はそれぞれ、ほとんど同じかまたは若干異なる共振周波数を有することができる。少なくとも2つの測定対象ガスの濃度について測定する場合、レーザ源101は、それぞれの測定対象ガスの吸収特性の関数として選ばれる波長のレーザビーム104を発生できることが好ましい。好ましい実施形態においては、それぞれの測定対象ガスに対してあらかじめ定められた波長のレーザビーム104が発生される。レーザビームは、レーザビームが同一線上にあり、同じ共振器の単一の貫通開口を通過するように、通常の波長分割多重(WDM)手法を用いて複合される。そのような手法により、広い範囲のガスの検出が可能になり得る。
【0038】
検出器100は、好ましくは200ppmより低濃度にあり、さらに好ましくは100ppmより低濃度にあり、さらに一層好ましくは25ppmより低濃度にあり、さらになお一層好ましくは10ppmより低濃度にある、少なくとも1つの測定対象ガスを検出できることが好ましい。
【0039】
検出器100を用いる方法は、背景雑音信号より少なくとも50倍の強さであるような、さらには背景雑音信号より少なくとも100倍の強さであるような、さらになお一層には背景雑音信号より少なくとも200倍の強さであるような、背景雑音信号より少なくとも10倍の強さである、少なくとも1つの測定対象ガスの濃度に比例する共鳴吸収信号を発生できることが好ましい。
【0040】
検出器100を用いる方法は、初めにレーザビームをレーザ源から共振器の内部キャビティに導き入れてから2秒以内のような、さらには初めにレーザビームをレーザ源から共振器の内部キャビティに導き入れてから1秒以内のような、初めにレーザビームをレーザ源から共振器の内部キャビティに導き入れてから3秒以内に、少なくとも1つの測定対象ガスの濃度に比例する共鳴吸収信号を発生できることが好ましい。
【0041】
検出器100を用いる方法は、少なくとも500℃のような、さらには少なくとも700℃のような、少なくとも300℃の温度において、少なくとも1つの測定対象ガスの濃度に比例する共鳴吸収信号を発生できることが好ましい。
【実施例】
【0042】
本明細書に開示される実施形態は以下の実施例によってさらに明解になる。
【0043】
実施例1
光音響ガス検出システムには、レーザ源として波長可変量子カスケードレーザ、音響共振器、音叉及びデータ収集/制御ユニットを含めた。波長可変レーザは圧電コントローラを用いて波長を変えることができた。音叉は212(32768)Hzの共振周波数を有する市販の既製品とし、音響共振器は内径が0.8mmで長さが10mmのステンレス鋼管とした。音叉は図2に示される態様と同様の態様で共振器に対して位置合せした。レーザビームは光学レンズによって共振器内に集束させた。測定中、制御ユニットは、波長を緩やかに変化させながら、レーザパワーを〜32768/2=16384Hzで変調した。関数発生器及びロックイン増幅器を有するデータ収集ユニットが、音叉から電気信号を取り込んだ。図6Aは、2つの吸収ピークを示す、水蒸気の理論吸収スペクトルを示し、図6Bは外気内で作動しているシステムによって測定されたままの水蒸気の吸収スペクトルを示す。これらの図から分かるように、本検出システムにより、隣接する2つの吸収ピークを、非常に高い信号対雑音比及び理論スペクトルと測定スペクトルの間の非常によい一致をもって見いだすことに成功した。
【0044】
実施例2
実施例1で説明したように吸収スペクトルが測定されると、主水蒸気吸収ピーク波長にレーザ波長を設定した。次いで実施例1で説明した検出システムを用いて水蒸気濃度の連続モニタリングを実施した。図7は測定した水蒸気濃度の時間の関数としてのグラフを示す。詳しくは、図7は検出システムを変化する条件に順次にさらしながら測定した水蒸気濃度の時間的変化のグラフを示す。図7に示す時間範囲にわたり、検出システムを順次に、(測定された応答が参照数字10で示されている)通常の実験室湿度、(測定された応答が参照数字12で示されている)第1の窒素(N2)パージ、(測定された応答が参照数字14で示されている)第1の人間の呼気、(測定された応答が参照数字16で示されている)第2の人間の呼気、(測定された応答が参照数字18で示されている)第2のN2パージ、最後に(測定された応答が参照数字20で示されている)外気に、さらした。
【0045】
実施例3
光音響ガス検出システムには、レーザ源としてDFBレーザダイオード、音響共振器、2つの音叉及びデータ収集/制御ユニットを含めた。DFBレーザダイオードは、測定対象ガスとしてのC2H2の濃度を決定するために(C2H2は1.5μm近くに強い吸収を有することから測定対象ガスとして選んだ)、1532nmの波長で動作するように調節した(DFBレーザダイオードの波長はパッケージ温度を変えることによって調節することができる)。共振器及び音叉は実施例1で説明したものと同じタイプである。レーザダイオードからのビームをコリメートし、別々の2つのレンズを用いて共振器に集束させた。測定対象ガス濃度の測定にかかる前に、関数発生器及びロックイン増幅器を用いて音叉の共振周波数を測定した。次いで、レーザダイオードの音叉共振周波数の1/2の周波数で変調した。次に、レーザダイオードの温度を調節しながら音叉信号をモニタした。信号が最大値に達したときの設定温度を以降の実験に用いた。このプロセスは制御ユニットを用いて迅速に実施することができる。これらの設定を用い、図8に示すように、C2H2の濃度を時間の経過にしたがって測定した。
【0046】
図8に示されるグラフは検出システムの検出システム自体を較正できる能力を示す。詳しくは、図8は、検出システムを変化する条件に順次にさらしながら測定したC2H2濃度の時間的変化のグラフを示す。図8に示す時間範囲にわたり、検出システムを順次に、(測定された応答が参照数字22で示されている)約2ppmより低い第1のC2H2濃度、(測定された応答が参照数字24で示されている)約10ppmまでのC2H2濃度の増大、(初めに測定された応答が参照数字26で示されている)約510Torr(6.80×104Pa)から約434Torr(5.79×104Pa)までの圧力変化、(測定された応答が参照数字30で示されている)空気パージ、及び(初めに測定された応答が参照数字32で示されている)約400Torr(5.33×104Pa)における約10ppmの濃度のC2H2の第2の導入に、さらした。異なる圧力条件にかけての約10ppmのC2H2濃度の測定を行った場合、圧力が変化したときに(参照数字28及び34で示される測定された応答によって示されるように)検出システムは自動較正することができた。詳しくは、図8の参照数字26及び32は、実C2H2濃度は変化していないが、圧力変化にしたがって変化した信号強度測定値を示す。これは音叉周波数が圧力に依存するためである。圧力が変化するとレーザ変調周波数はもはや音叉に同期されない。この効果に打ち勝つため、出願人等は音叉共振周波数を再測定し、これをレーザ変調周波数として用いた。図8に見ることができるように、(参照数字28及び34で示される)較正後の濃度測定値は(参照数字24で示される)元の測定値と一致している。この較正プロセスは、PCを用い、数回反復して実施され、よって自動較正を示す。さらに、10ppm以下の感度が実証される。
【0047】
実施例4
出願人等は、一酸化窒素(NO)ガスに対する50ppmより高い感度を実証することもでき、推定信号対雑音比は約230であった。実験に用いた波長は、水による吸収を最小限に抑えて、強いNO吸収ピークに最適化した。図9は、実施例1に関して上述した方法を用いてレーザを〜16kHzで変調しながら、約0.4cm−1の調節範囲にかけて測定した吸収プロファイルのグラフを示す。図9に示される非対称な谷は、波長調節中の残留波長変調による。
【0048】
本発明の精神及び範囲を逸脱することなく様々な改変及び変形がなされ得ることが当業者には明らかであろう。
【符号の説明】
【0049】
100 検出器
101 レーザ源
102 窓
103,125,125',140 音響共振器
104 レーザビーム
105,105',115 音叉
106 流入ポート
107 流出ポート
108 ガスセル
109 データ収集/制御ユニット
110,111 共振器の末端
112 内部キャビティ
113,114 叉枝
120,127 開口
126 V字形溝
130 電気リード
135 焦点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの測定対象ガスの濃度を検出するための音響ガス検出器において、前記ガス検出器が、
レーザ源、
軸線に沿って延びる共振器であって、前記共振器は、第1の末端、第2の末端及び前記第1の末端と前記第2の末端の間の内部キャビティを有し、前記内部キャビティは前記軸線に沿って延び、前記第1の末端と前記第2の末端の間の貫通開口を定め、前記内部キャビティは、前記レーザ源からのレーザビームの前記貫通開口の通過を可能にするように適合されるものである共振器、及び
前記共振器の軸長に沿って配置された少なくとも1つの音叉であって、前記音叉は第1の叉枝及び第2の叉枝を有し、前記軸線は前記第1の叉枝と前記第2の叉枝の間の領域と交差しないものである音叉、
を備えることを特徴とするガス検出器。
【請求項2】
前記共振器が円筒管を含むことを特徴とする請求項1に記載のガス検出器。
【請求項3】
前記第1の叉枝及び前記第2の叉枝が前記軸線に概ね平行であることを特徴とする請求項1に記載のガス検出器。
【請求項4】
前記第1の叉枝及び前記第2の叉枝が前記軸線に概ね垂直であることを特徴とする請求項1に記載のガス検出器。
【請求項5】
光音響検出法を用いて少なくとも1つの測定対象ガスの濃度を決定する方法において、前記方法が、
レーザビームをレーザ源から音響共振器の内部キャビティに導き入れる工程であって、前記共振器及び前記内部キャビティは軸線に沿って延び、前記内部キャビティは、少なくとも1つの、ある濃度の測定対象ガスを収め、前記レーザビームと前記少なくとも1つの測定対象ガスの間の相互作用が前記共振器内に音響信号の集積を生じさせるものである工程、及び
前記共振器の軸長に沿って配置された少なくとも1つの音叉によって前記少なくとも1つの測定対象ガスの前記濃度に比例する共鳴吸収信号を発生する工程であって、前記音叉は第1の叉枝及び第2の叉枝を有し、前記軸線は前記第1の叉枝と前記第2の叉枝の間の領域と交差しないものである工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項1】
少なくとも1つの測定対象ガスの濃度を検出するための音響ガス検出器において、前記ガス検出器が、
レーザ源、
軸線に沿って延びる共振器であって、前記共振器は、第1の末端、第2の末端及び前記第1の末端と前記第2の末端の間の内部キャビティを有し、前記内部キャビティは前記軸線に沿って延び、前記第1の末端と前記第2の末端の間の貫通開口を定め、前記内部キャビティは、前記レーザ源からのレーザビームの前記貫通開口の通過を可能にするように適合されるものである共振器、及び
前記共振器の軸長に沿って配置された少なくとも1つの音叉であって、前記音叉は第1の叉枝及び第2の叉枝を有し、前記軸線は前記第1の叉枝と前記第2の叉枝の間の領域と交差しないものである音叉、
を備えることを特徴とするガス検出器。
【請求項2】
前記共振器が円筒管を含むことを特徴とする請求項1に記載のガス検出器。
【請求項3】
前記第1の叉枝及び前記第2の叉枝が前記軸線に概ね平行であることを特徴とする請求項1に記載のガス検出器。
【請求項4】
前記第1の叉枝及び前記第2の叉枝が前記軸線に概ね垂直であることを特徴とする請求項1に記載のガス検出器。
【請求項5】
光音響検出法を用いて少なくとも1つの測定対象ガスの濃度を決定する方法において、前記方法が、
レーザビームをレーザ源から音響共振器の内部キャビティに導き入れる工程であって、前記共振器及び前記内部キャビティは軸線に沿って延び、前記内部キャビティは、少なくとも1つの、ある濃度の測定対象ガスを収め、前記レーザビームと前記少なくとも1つの測定対象ガスの間の相互作用が前記共振器内に音響信号の集積を生じさせるものである工程、及び
前記共振器の軸長に沿って配置された少なくとも1つの音叉によって前記少なくとも1つの測定対象ガスの前記濃度に比例する共鳴吸収信号を発生する工程であって、前記音叉は第1の叉枝及び第2の叉枝を有し、前記軸線は前記第1の叉枝と前記第2の叉枝の間の領域と交差しないものである工程、
を含むことを特徴とする方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2013−506838(P2013−506838A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532198(P2012−532198)
【出願日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/049922
【国際公開番号】WO2011/041197
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/049922
【国際公開番号】WO2011/041197
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】
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