説明

光音響測定装置及び方法

【課題】保持板で被検体を保持しながら光音響波を測定する光音響測定などにおいて、被検体有無の判定を比較的短時間で簡易に行うことができる光音響測定装置及び方法を提供する。
【解決手段】光音響測定装置は、被検体101に光を照射する照射部103と、保持板102により被検体を保持する保持部と、光照射により生じる光音響波を検出する検出部104と、光音響波による光音響信号を解析する解析部106を備える。解析部106は、光音響信号を解析することで、検出部と保持板との界面及び保持板と被検体との界面のうちの少なくとも一方で生じる光音響波による光音響信号の成分の信号強度の変化情報を取得して、被検体101の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響波を測定する光音響測定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、光を使用して画像データを生成する技術に関して多くの提案がなされており、その中の1つに光音響断層画像撮像法(Photo Acoustic TomogrAphy、以下PATとも表記する)がある。PATは、特に皮膚がんや乳がんの診断での有用性が示されており、同診断で従来使用されてきた超音波診断装置、X線装置、MRI装置などに代わる医療機器としての期待が高まっている。
【0003】
PATでは、可視光や近赤外光等の計測光を生体組織に照射した際に、生体内部の光吸収物質、特に血液中のヘモグロビン等の物質が、計測光のエネルギーを吸収して瞬間的に膨張した結果発生される光音響波を計測することで生体組織の情報を可視化する。このPATの技術により、光エネルギー吸収密度分布、即ち生体内の光吸収物質の密度分布を定量的に、また3次元的に計測することができる。
【0004】
一般に、乳腺科における乳がん診断では、触診や上述した複数のモダリティを使用した結果に基づいて、総合的に良悪性診断が行われる。その診断の中で重要な根拠の1つとされるのが、がんが生成する血管新生の有無の画像診断結果である。血管新生により血流量が正常組織より増大している乳がんにおいて得られる光音響画像は、従来の超音波診断装置、X線装置、MRI装置等による計測より優れた検出能を有する可能性を秘めている。またPATは、診断画像データの生成に光を用いることで無被爆、非侵襲での画像診断が可能なため、患者負担の点で大きな優位性を有しており、繰り返し診断することが難しいX線装置に代わり、乳がんのスクリーニングや早期診断での活用が期待される。
【0005】
適正に光音響波の測定を実施するための技術として、被検体への装置の装着状態を判定する技術が特許文献1や特許文献2で提案されている。特許文献1に開示の技術によれば、得られる光音響信号から体表の位置と生体内組織の位置を抽出することで、抽出した2つの位置間の距離を算出し、その距離に基づいて被検体への装着状態を判定できる。また、特許文献2に開示の技術によれば、繰り返し複数回の光音響測定を行う装置において、得られる光音響信号を前回までの光音響信号と比較することで、信号振幅の変化量に基づいて、正しく光音響測定ができているかを判定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−011555号公報
【特許文献2】特開2009−039264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、保持板で被検体を保持しながら光源と探触子を保持板に沿って走査して被検体の3次元の光音響画像データを生成する光音響測定装置では、走査時間が、診断全体にかかる時間に占める割合は小さくない。装置として決められた走査領域をフルサイズで測定すると、被検体の有無に係らず全走査領域に渡って計測動作を完遂するため、診断ごとに一律で長い時間を要する。同時に、必要以上に被検者に負担を負わせることになる。そのため、走査時間を可能な限り短縮したいという要求がある。走査時間を短縮するためには、測定動作を被検体に適応させることが有効である。それには、光学センサや圧力センサなどにより被検体の有無を判定して走査の動作を制御する手段や、事前に有効な走査領域を指定する手段などを講じる必要がある。ただし、これらの手段を用いる手法では新たな構成が必要となり装置の大型化につながり易い。しかし、可能な限りこれらの構成を省きたいという要請がある。
【0008】
特許文献1と2には、光音響画像データの生成において被検体の有無を判定する技術として、タイムアウトによる方法と、前回までの計測結果との比較により判定する方法などが開示されている。しかし、走査を含めた測定動作を被検体に適応させることは想定されていない。また、タイムアウトによる方法では判定までに時間を要し、前回までの計測結果との比較による方法では1回の計測だけでは判定することができない。つまり、これらの先行技術は、光を照射することにより発生する光音響波を用いて被検体の有無を判定する技術として充分に簡易であるとは言い難かった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み、光を照射することにより発生する光音響波を計測する本発明の光音響測定装置は以下の様な構成を有することを特徴とする。本装置は、被検体に対して光を照射する照射部と、保持板により被検体を保持する保持部と、照射部による光照射により生じる光音響波を検出するための検出部と、検出部が光音響波を検出した結果生成される光音響信号を解析する解析部と、を備える。そして、前記解析部は、光音響信号を解析することで、検出部と保持板との界面及び保持板と被検体との界面のうちの少なくとも一方で生じる光音響波による光音響信号の成分の信号強度の変化情報を取得して、被検体の有無を判定する。
【0010】
また、上記課題に鑑み、光を照射することにより発生する光音響波を測定する本発明の光音響測定方法は以下のステップを有することを特徴とする。即ち、保持板で保持された被検体に対して光を照射するステップと、光照射により発生する前記光音響波を検出部により検出するステップと、前記光音響波を検出した結果生成される光音響信号を解析するステップと、を有する。そして、前記解析ステップでは、光音響信号を解析することで、検出部と保持板との界面及び保持板と被検体との界面のうちの少なくとも一方で生じる光音響波による光音響信号の成分の信号強度の変化情報を取得して、被検体の有無を判定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保持板で被検体を保持しながら光音響波を取得する光音響測定装置において、単に、検出される光音響信号の信号特性に基づいて被検体の有無を判定するので、判定を比較的短時間で簡易に行うことができる。従って、例えば、この判定に応じて測定動作を被検体に適応させる、即ち走査動作や光音響計測後の光音響信号の処理動作などを制御することで、光音響測定を簡易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の光音響測定装置ないし方法を用いる光音響測定システムの第1の実施形態の構成を示す概略図。
【図2】第1の実施形態における被検体がある場合の光音響信号を説明する概念図。
【図3】第1の実施形態における被検体がない場合の光音響信号を説明する概念図。
【図4】第1の実施形態における光音響波測定の制御を説明する概念図。
【図5】第1の実施形態における光音響画像データの生成の流れを示すフローチャート。
【図6】本発明の光音響測定装置ないし方法を用いる光音響測定システムの第2の実施形態の構成を示す概念図。
【図7】第2の実施形態における被検体がある場合の光音響信号を説明する概念図。
【図8】第2の実施形態における被検体がない場合の光音響信号を説明する概念図。
【図9】第2の実施形態における界面光音響信号の抽出方法例を説明する概念図。
【図10】第2の実施形態における光音響波測定の制御を説明する概念図。
【図11】第2の実施形態における光音響画像データの生成の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の特徴は、検出部が検出した光音響波による光音響信号を解析して、検出部と保持板の界面及び/または保持板と被検体の界面で生じる光音響波による光音響信号の特性、即ちその信号強度の変化情報を取得し、被検体の有無を判定することにある。この考え方に基づき、本発明の光音響測定装置及び方法は、上記課題を解決するための手段のところで述べた様な基本的な構成を有する。こうした構成の本発明において、電気機械変換装置である検出部は、どの様な方式(例えば、圧電セラミックを用いた変換装置や、静電容量型のCMUT、磁性膜を用いるMMUT、圧電薄膜を用いるPMUTなど)のものでも用いることができる。
【0014】
以下に本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
本発明の光音響測定装置ないし方法を用いる第1の実施形態を図に従って説明する。図1に示す様に、第1の実施形態の光音響測定システムは、被検体101を保持する保持板102、計測光を照射する照射部103、光照射により生じる光音響波を検出する検出部を成す音響検出素子を含む光音響波検出ユニット104を有する。また、光音響波検出ユニット104が検出した信号を増幅してデジタル信号に変換する光音響計測部105、本実施形態の特徴部である被検体有無判定部106、検出した光音響信号の記録処理などを行う信号処理部107を備える。更に、走査位置を2次元的に制御する走査制御部108、外部処理装置としての画像処理装置120とのインターフェース(以下、I/Fとも表記する)109を含む。
【0015】
本実施形態において、上記被検体有無判定部106は、検出部が光音響波を検出した結果生成される光音響信号を解析する解析部と、解析部の解析結果に応じて被検体の光音響測定のための動作を制御する制御部を含んでいる。解析部は、光音響信号を解析することで、検出部と保持板との界面及び保持板と被検体との界面のうちの少なくとも一方で生じる光音響波による光音響信号の成分の信号強度の変化情報を取得して、被検体の有無を判定する機能を有する。本発明において、被検体の有無とは、検出部の検出面と垂直な方向において、検出部の位置に対応する領域(検出部の前面)に被検体が存在しているかどうかを示す。つまり、図4に示すように、保持板を介して検出部側から投影して見た場合に、検出部の位置に被検体が存在している場合は、「被検体が有る」とし、検出部の位置に被検体が存在していない場合は、「被検体が無い」とする。また、制御部は、走査制御部108を介して、照射部と検出部を保持部に対して走査させる走査機構を制御して、走査速度、走査方向、検出部による計測の位置、及び検出部による計測の間隔のうちの少なくとも1つを制御する。
【0016】
図1において、測定対象の被検体101は、乳腺科での乳がん診断では乳房となる。保持部を成す保持板102は、102Aと102Bの2枚1対で構成され、保持間隙と圧力を変更するために、図示しない保持機構によって保持位置を制御される。保持板102Aと102Bを区別する必要がない場合には、まとめて保持板102と表記する。保持板102で被検体101を挟むことで装置に固定し、被検体101が動くことによる計測誤差を低減できる。また、計測光の浸達深度に合わせて、被検体101を光音響の計測に適した厚さに調整することができる。保持板102は、計測光の光路上に位置するため、計測光に対して高い透過率を有すると同時に、特に保持板102Aは、光音響波検出ユニット104内の検出部である超音波探触子との音響整合性が高い部材であることが好ましい。例えば、超音波診断装置などで使用されているポリメチルペンテンなどの部材が使用される。
【0017】
被検体101に対して計測光を照射する照射部は、レーザ光源からの光を被検体に照射するための部材であり、例えば、光を反射するミラーや、光を集光したり拡大したり形状を変化させるレンズ、光を分散・屈折・反射するプリズム、光を伝搬させる光ファイバ、拡散板等が挙げられる。光源から照射された光は、レンズやミラーなどの光学部材を用いて被検体に導かれたり、光ファイバなどの光学部材を用いて伝搬させたりすることが可能である。このような光学部材は、光源から発せられた光が被検体に所望の形状で照射されれば、どのようなものを用いてもかまわない。照射部は、保持板102に対して走査することができるよう、走査機構が設けられている。不図示の光源としては、530nm〜1300nmの近赤外領域に中心波長を有するパルス光(幅100nsec以下)を発する光源を用いると良い。光源は、一般的に近赤外領域に中心波長を有するパルス発光が可能な固体レーザ(例えば、Yttrium−Aluminium−GArnetレーザやTitAn−SApphireレーザ)が使用される。計測光の波長は、計測対象とする被検体101内の光吸収物質(例えばヘモグロビンやグルコース、コレステロールなど)に応じて、530nmから1300nmの間で選択される。例えば、計測対象とする乳がん新生血管中のヘモグロビンは、一般的に600nm〜1000nmの光を吸収し、一方、生体を構成する水の光吸収は830nm付近で極小となるため、750nm〜850nmで光吸収が相対的に大きくなる。また、ヘモグロビンの状態(酸素飽和度)により光の吸収率が変化するため、この変化を比較することで生体の機能的な変化も計測できる可能性がある。
【0018】
光音響波検出ユニット104は、被検体101で生じた光音響波を受信して電気信号(光音響信号)に変換する複数の音響検出素子から構成される探触子と、探触子を保持板に対して走査する走査機構から構成されている。光音響信号のS/Nを向上させるには、探触子の前面において被検体101を計測光で照射することが好ましい。そのため、照射部103と光音響ユニット104を対向する位置に配置し、その位置関係を保つ様に同時に同様の走査制御がなされる。光音響波検出ユニット104から入力される光音響信号を増幅してデジタル信号に変換する光音響計測部105は、次の部分を有する。即ち、光音響波検出ユニット104が出力したアナログ信号を増幅する信号増幅部と、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部から構成される。信号増幅部では、計測深度によらずに均一なコントラストを持つ光音響画像を得るために、計測光の照射から光音響波が探触子に到達するまでの時間に応じて増幅利得を増減する制御などを行う。
【0019】
計測された光音響信号の信号特性に基づいて被検体101の有無を判定する被検体有無判定部106は、判定結果を信号処理部107と走査制御部108へ出力する。被検体101の有無を判定する方法については後述する。光音響計測部105により計測された光音響信号に対して補正処理や記録処理、積算処理を行う信号処理部107は、次の様な処理を行う。即ち、探触子の音響検出素子の個体差の感度ばらつきの補正や、物理的または電気的に欠損した素子の補完処理、図示しない記録媒体への光音響信号の記録動作、ノイズ低減のための積算処理などを行う。積算処理は、被検体101の同じ箇所の計測を繰り返し行い、加算平均処理を行うことでシステムノイズを低減して、光音響信号のS/N比を向上するために行われる。また、被検体有無判定部106の判定結果に従って、被検体101がない場合には上記処理の実行を省略する。
【0020】
照射部103と光音響波検出ユニット104の位置を保持板102上で制御する走査制御部108は、被検体101に対して2次元走査して各走査位置で計測を行うことで、小型の探触子でも広い測定範囲を得られる様にする。例えば、乳腺科での乳がん診断ではフルブレストの光音響画像の測定が可能になる。被検体有無判定部106の判定結果に従って、走査制御部108による走査制御が変更される。
【0021】
光音響の処理データを外部装置としての画像処理装置120に伝送するためのI/F109は、画像処理装置120のI/F121と共に、光音響測定装置と画像処理装置120との間のデータ通信を行うインターフェースとして機能する。リアルタイム性を確保でき、かつ大容量の伝送が可能な通信規格を採用することが好ましい。光音響測定装置から受信した光音響の処理データに基づき光音響画像の構成と表示を行う外部装置としての画像処理装置120は、I/F121、画像構成部122、光音響画像を表示する表示部123から構成される。画像構成部122は、光音響の処理データから光音響画像データを構成する。一般に、パソコンやワークステーション等の、高性能な演算処理機能やグラフィック表示機能を備える装置を用いる。画像処理装置120のI/F121は、光音響測定装置のI/F109と同等の機能を有し、I/F109と連携してデータや装置の制御命令などの送受信を行う。受信した光音響の処理データに基づいて、被検体101の光学特性分布の情報を画像化して光音響画像データを構成する画像構成部122は、次の様なことを行うことができる。即ち、構成した画像データに対して、輝度の調整や歪補正、注目領域の切り出しなどの各種補正処理を適用して、より診断に好ましい情報を構成することもできる。
【0022】
以上の構成を有する光音響測定システムにおいて、光音響効果に基づいて画像データを生成することで、被検体101の光学特性分布を画像化し、光音響画像を提示することができる。なお、図1では、画像処理装置120を外部装置として、光音響測定装置と画像処理装置を別々のハードウェア構成としているが、それぞれが有する機能を集約して一体化する構成でも構わない。
【0023】
図2の概念図において、(a)は計測方法、(b)は探触子に到達する光音響波の音圧、(c)は検出した光音響信号の例をそれぞれ示している。図2(b)と(c)の縦軸はそれぞれ音圧と光音響信号を表し、横軸は時間を表す。図2において、201は、照射部103により照射される計測光である。被検体101に照射された計測光201は、被検体101内で強く拡散して減衰しながら被検体101の深部へと浸達する。そのため、被検体深部であるほど被検体101の内部の組織を照らす光エネルギーは小さくなる。202は、計測光201を吸収して光音響波を発する光吸収物質である。乳がん診断では、乳がんに相当する。乳がんの組織は、血管新生による血流量の増大で光の吸収率が正常組織に比べて高く、パルス光のエネルギーを吸収して熱膨張した結果光音響を発する。203は、光音響波検出ユニット104の探触子を構成する1つの音響検出素子である。音響検出素子は、到達する図2(b)の光音響波を検出して、図2(c)の様な光音響信号を出力する。音響検出素子の検出周波数帯域は有限で低周波での感度が低いため、図2(c)に示す様に低周波成分が除去された信号が形成される。
【0024】
図2(b)において、221は、被検体101の正常組織が発する光音響波を示している。光音響波221は主に低周波成分で構成される。計測光201が被検体101の深部へ浸達するに従って減衰して光エネルギーが小さくなるため、深い位置(保持板102Aに近い位置)ほど音圧も小さくなる。222は、被検体101内部に局所的に存在する光吸収物質202が発する光音響波を示している。光音響波222は主に高周波成分で構成される。光吸収物質202が被検体101の深部に位置するため、光吸収物質202に入射する計測光201のエネルギーが小さく、光音響波222も小さくなる。
【0025】
図2(c)において、241は、光吸収物質202による光音響波222に対応する光音響信号を示している。信号241は、第1の実施形態の計測方法では、光音響波の検出開始後に検出される1つ目の信号である。242は、照射部103側の保持板102Bと被検体101との界面での光音響波に対応する光音響信号を示している。被検体101の表層は光吸収率が比較的小さい正常組織で形成されるものの、高い光エネルギーを保った状態で計測光201が入射するため、被検体表層が発する光音響波は大きい。そのため、その界面で生じる光音響波に対応する光音響信号242は、探触子側の保持板102Aと被検体101との界面で発生する光音響波に対応する信号に比べると非常に大きな信号となる。信号242の検出時刻は装置構成(保持板102Aの厚さ)で決定され、信号強度は被検体101の光吸収率で決定されるため、計測ごとに変動せず同じ信号特性で検出される。261は、被検体101の有無を判定するために予め決定される閾値である。第1の実施形態における被検体がある場合の光音響信号には、この閾値261を超える信号成分がない。
【0026】
続いて、図3を参照して、被検体101がない場合の光音響信号との差異を説明する。図3は、第1の実施形態における被検体101がない場合の光音響信号を説明し、この光音響信号の認識に基づく判定が、本実施形態の特徴である。図2と同様、図3(a)は計測方法、図3(b)は探触子に到達する光音響波の音圧、図3(c)は検出した光音響信号の例をそれぞれ示している。図3(b)と図3(c)の縦軸はそれぞれ音圧と光音響信号を表し、横軸は時間を表す。
【0027】
ここでは、被検体101がなく計測光201を遮るものがないため、照射部103から照射された計測光201は、対向する光音響波受信ユニット104の探触子に直接到達する。図3(b)において、321は、光音響波検出ユニット104の探触子表面が発する光音響波を示している。一般的に、探触子表面には、音響波の検出効率を向上させるために音響整合材が取り付けられている。音響整合材は計測光201に対して光吸収率を持つため、探触子表面が光音響波の音源となる。探触子表面を反射膜で保護した場合でも、反射膜自身も数%の光吸収率(例えば、Auの場合3%程度)を持つため、高い光エネルギーを保った計測光201を受けて大きな光音響波を発する。
【0028】
図3(c)において、341は、光音響波321に対応して探触子と保持板102Aとの界面で検出される光音響信号を示している。信号341は、探触子表面で発生する光音響波による信号のため、計測を開始した直後に検出される信号で、前記閾値261を超える非常に大きな信号である。信号341は、探触子の構造に起因した光音響信号であるため、その検出時刻と信号強度は計測ごとに変動せず同じ信号特性で検出される。つまり、検出部と保持板の界面及び保持板と被検体の界面のうちの少なくとも一方で生じる光音響波による光音響信号の成分の検出時刻と信号強度は、照射部、保持板、被検体、検出部の位置関係、及びこれらの光吸収特性の少なくとも1つによって決まる。この信号特性を利用して、検出される光音響信号強度を閾値261と比較することで光音響信号の強度の変化情報を得て、被検体101の有無を判定することができる。ここでは、光音響信号341の有無を閾値261との比較で検出して、被検体101の有無を判定したが、光音響信号242の有無を別の閾値との比較で検出して、被検体101の有無を判定することもできる。また、両方の比較を行って、被検体101の有無を判定することもできる。ただし、この別の閾値は、被検体の性質を考慮して、閾値261よりは低く設定しておく必要がある。
【0029】
以上、図2と図3を用いて説明した様に、被検体101の有無で、音響検出素子203が出力する光音響信号に差異が生じる。そのため、被検体有無判定部106がこの信号特性の差異に基づいて被検体101の有無を判定することができる。
【0030】
図4は、第1の実施形態における光音響波測定の制御を説明する概念図を示す。走査線402は、光音響検出ユニット104の探触子中心の走査軌跡を示しており、実線は被検体101がある領域、破線は被検体101がない領域の走査を示している。被検体101(乳房)によらずフルブレストでの測定を実現するためには、フルサイズでA4サイズ相当(300mm×200mm程度)の走査領域401が必要とされる。走査領域401上を走査線402に沿って、各走査位置で計測動作を繰り返すことで、フルブレストの光音響画像データを生成、表示することができる。光音響波検出ユニット104の探触子は、2次元状に配置された複数の音響検出素子から構成され、1度に探触子のサイズに相当する領域を計測することができる。ただし、例えば、音響検出素子が1mmピッチで、横30素子、縦40素子で構成される場合、探触子サイズは30mm×40mmとなるため、A4フルサイズを測定するためには最低でも50回(水平10回×垂直5回)の計測が必要となる。更に、積算処理のために計測領域を重ねながら計測を行う場合には、その分だけ計測回数が増大することになる。
【0031】
ここで、図4の走査線402を辿ると、被検体101がなく光音響測定に寄与しない走査領域が少なからず存在して、全走査領域に対して占める割合が小さくない。故に、被検体101の有無に関わらず全走査領域に渡って計測動作を完遂すると、光音響での測定ごとに一律で長い時間を要し、その分だけ被検者に不必要な負担を負わせることになる。よって、第1の実施形態では、以下に説明する様な測定制御を行う。図4において、403、404、405は、第1の実施形態での測定制御において、被検体101の有無を判定するために注目する音響検出素子である。注目素子403と404は、被検体101である乳房の人体側水平方向両端の素子で、水平方向の走査を制御するために用いる。注目素子405は、被検体101の先端側中央の素子で、垂直方向の走査を制御するために用いる。
【0032】
光音響測定制御を説明する図4において、走査位置Aは、走査の原点で、この位置から光音響検出ユニット104の走査が開始される。走査位置Aでは被検体101がない(全注目素子403〜405が被検体101を認識しない)ため、光音響診断などに有効でない領域として、光音響計測後に行う光音響信号の記録動作や信号処理を無効化する。そして、次に被検体101が認識されるまで処理を省く。水平走査を開始して走査位置AからBまでは、注目素子404及び/または403が被検体を認識しないため水平走査を継続する。走査位置Bは、注目素子404が、被検体101のない領域から、ある領域へ移った位置を示している。走査位置Bからは、注目素子404及び/または403が被検体101を認識するため、光音響診断などに有効な領域として、光音響信号の記録動作や信号処理を有効化する。走査位置BからCまでの水平走査の間では、全ての注目素子403〜405が被検体を認識する。
【0033】
走査位置Cは、注目素子403が、被検体101のある領域から、ない領域へ移った位置を示している。走査位置Cでは、注目素子404に加えて注目素子403も被検体101から外れたため、光音響診断などに有効でない領域として、光音響計測後の記録動作や信号処理を再び無効化する。加えて、1回の水平走査中に、注目素子403及び/または404が、被検体101のある領域を通過した後に被検体101のない領域に到達したため、以後の水平走査は行わずにこの1回の水平走査を完了する。
【0034】
走査位置BからCまでの水平走査の間に、注目素子405が被検体101を認識することで、被検体101の垂直方向への広がりを把握できるため、垂直走査を行う。走査位置Dは、注目素子403が、被検体101のない領域から、ある領域へ移った位置を示しており、光音響診断などに有効な領域として、走査位置Bと同様の測定制御を行う。走査位置Eは、注目素子404が、被検体101のある領域から、ない領域へ移った位置を示している。光音響診断などに有効な領域から外れたため、走査位置Cと同様に水平走査を完了すると共に、被検体101の垂直方向への広がりを確認して垂直走査を行う。
【0035】
走査位置Fは、注目素子404が、被検体101のない領域から、ある領域へ移った位置を示している。光音響診断などに有効な領域として、走査位置Bと同様の制御を行う。走査位置Gは、注目素子403が、被検体101のある領域から、ない領域へ移った位置を示している。光音響診断などに有効な領域から外れたため、走査位置Cと同様に水平走査を完了する。走査位置Gでは、走査位置FからGまでの水平走査の間に注目素子405が被検体101を認識していないことで、被検体101の垂直方向への広がりを確認できない。そのため、光音響画像データ生成のための全走査をここで終了する。
【0036】
以上の光音響測定制御により、複数の音響検出素子が検出する光音響信号に基づいて被検体の有無を判定し、走査制御を行うと共に光音響診断などに寄与しない走査領域での計測動作を省く。これにより、全体の測定時間を短縮できる。
【0037】
図5は、第1の実施形態における光音響波の測定のフローチャートである。本フローチャートの一連の処理は、図4の測定制御を機能させると共に、診断などに好ましい光音響画像を得ることを目的としている。ステップ501では、走査制御部108が、照射部103と光音響波検出ユニット104を同時に水平走査制御して、次の計測位置に移動させる。ステップ502では、照射部103が、光源の発光制御を行って、計測光である近赤外領域のパルスレーザ光を被検体101に向けて照射する。
【0038】
ステップ503では、光音響波検出ユニット104の探触子が、ステップ502の計測光照射の結果生じる光音響波を検出(サンプリング)する。そして、光音響波検出ユニット104が検出した光音響信号に対して、光音響計測部105が信号増幅とA/D変換を行い、その信号を被検体有無判定部106へ出力する。ステップ504では、被検体有無判定部106が、光音響計測部105から入力される光音響信号に対して、注目素子403〜405の信号強度を予め設定された閾値261と比較して各素子の位置での被検体101の有無を判定する。第1の実施形態では、信号強度が閾値261を超えた場合に被検体101がないと判定する。
【0039】
ステップ505では、被検体有無判定部106が、ステップ504での被検体101の有無の判定結果に基づいて、現在の計測位置が光音響診断などに有効な計測位置かどうかを判定する。有効な計測位置である場合にはステップ506へ処理を移行する。そうでない場合には、被検体有無判定部106が走査制御部108に対して、水平走査または全走査の完了を指示して、ステップ509へ処理を移行する。ステップ506では、光音響計測部105が、1回の計測に必要なサンプル数だけ光音響信号を検出したかどうかを判定する。必要なサンプル数の検出を終えた場合には、ステップ507へ処理を移行する。まだ終えていない場合にはステップ503へ処理を移行して、サンプリングを繰り返すことで、時間軸上に配列した光音響信号を得る。ステップ507では、信号処理部107が、探触子の音響検出素子の感度ばらつき補正や、物理的または電気的に欠損した素子の補完処理、記録媒体への光音響信号の記録動作、ノイズ低減のための積算処理などを行う。
【0040】
ステップ508では、走査制御部108が水平走査の完了を判定する。水平走査の完了は、被検体有無判定部106からの水平走査完了の指示、または走査領域フルサイズでの走査が完了したかどうかで判定する。水平走査を完了した場合には、ステップ509へ処理を移行する。そうでない場合には、ステップ501へ処理を移行して次の計測位置で光音響計測を繰り返す。ステップ509では、走査制御部108が全走査の完了を判定する。全走査の完了は、被検体有無判定部106からの全走査完了の指示、または走査領域フルサイズでの全走査が完了したかどうかで判定する。全走査を完了した場合には、一連の光音響波の測定動作を終了する。完了していない場合には、ステップ510へ処理を移行する。ステップ510では、走査制御部108が、照射部103と光音響波検出ユニット104を同時に垂直走査制御して次の水平走査線に移動させ、計測動作を継続する。
【0041】
以上の処理により、検出した光音響信号に基づいた被検体有無判定を機能させると共に、光音響測定の動作を被検体101に適応させることができる。本実施形態によれば、保持板により被検体を保持しながら、被検体を挟んで光源と探触子が対向する構成で測定を行う光音響測定において、被検体の有無によって生じる光音響信号の信号特性の変化情報に基づいて、被検体の有無を判定できる。また、被検体の有無を判定するための光学センサや接触センサなどの新たな構成を追加することなく、さらに1回の計測の中で被検体の有無を判定する機能を実現できる。加えて、被検体の有無に基づいて、光音響の測定動作を被検体に適応させることで、全体の光音響測定時間を短縮できる。
【0042】
(第2の実施形態)
次に、本発明を実現する第2の実施形態を図に従って説明する。第1の実施形態では、光源と探触子が被検体101を挟んで対向する様に配置され、計測光201を探触子の反対側から照射する構成において、被検体101の有無を判定した。これに対して、第2の実施形態の特徴は、光源と探触子が被検体に対して同方向側に配置され、計測光を探触子のある側と同側から照射する構成において、第1の実施形態と同様に被検体の有無を判定することである。また、被検体有無の判定に必要とする界面の光音響信号を、その信号特性を用いて抽出することで、ノイズなどの偶発的な検出信号を除去する。上記特徴を中心に、第2の実施形態を説明する。
【0043】
図6は、第2の実施形態の光音響測定システムの構成を示す概略図である。第1の実施形態の図1の構成と比べて、照射部601が光音響波検出ユニット104と同じ側に配置され、加算演算部602が新たに設けられ、走査制御部603が新たなものとなっている。図6において、601は、計測光を探触子側から被検体101に照射する照射部である。照射部601は、光音響波検出ユニット104の前面の被検体101を照らすために、計測光を斜照射する。また、計測光を被検体に対して均一に入射させるために、光音響波検出ユニット104を挟んで両側に照射部601Aと照射部601Bが対称的に配置されている。601Aと601Bを区別する必要がない場合には、まとめて照射部601と表記する。この対称的な2つの照射部の配置は、計測光の均一的な斜照射を実現できて好ましいものであるが、1つの照射部を配置したり2つの照射部を非対称的に配置したりすることもできる。
【0044】
光音響検出ユニット104の探触子を構成する複数の音響検出素子の光音響信号を加算する加算演算部602は、加算演算をすることで界面光音響信号を生成・抽出する。詳細については後述する。走査制御部603は、照射部601と光音響波検出ユニット104の位置を保持板102A上で制御する。ここでは、照射部601と光音響波検出ユニット104の保持板102A上の位置関係を保ちながら同時に同一の走査制御を行う。以上の構成を有する光音響測定システムにより、計測光を探触子と同じ側から照射する構成において、光音響効果に基づいて測定することで、被検体101の光学特性分布を画像化し、光音響画像を提示することができる。
【0045】
図7の概念図において、(a)は計測方法、(b)は探触子に到達する光音響波の音圧、(c)は検出した光音響信号の例をそれぞれ示している。図7(b)と(c)の縦軸はそれぞれ音圧と光音響信号を表し、横軸は時間を表す。図7(a)において、701は、照射部601により斜照射される計測光である。計測光701Aと701Bは、それぞれ照射部601Aと601Bから照射される計測光で、同時照射する様に制御される。計測光701Aと計測光701Bを区別する必要がない場合には、まとめて計測光701と表記する。
【0046】
図7(b)において、721は、探触子表面が発する光音響波を示している。斜入射された計測光701の一部は、保持板102Aと被検体101の界面で反射して探触子表面に到達するため、探触子表面が光音響波の音源となる。722は、保持板102Aが発する光音響波を示しており、保持板102は計測光701に対して高い透過率を持つため光音響波はほぼ生じず、その信号幅は保持板102Aの厚さに相当する。723と724は、それぞれ、被検体101の正常組織が発する光音響波と、被検体101内部の光吸収物質202が発する光音響波を示している。
【0047】
図7(c)において、741は、光音響波721に対応して探触子と保持板102Aとの界面で検出される光音響信号を示している。信号741は、第2の実施形態では、計測光701を探触子と同じ側から照射する構成のため、光音響波の検出開始後に計測される1つ目の信号である。この信号は、高いエネルギーを保った計測光701によって探触子表面で生じた光音響波が直に検出されるため、比較的大きな信号となる。742は、光音響波723に対応して保持板102Aと被検体101との界面で検出される光音響信号を示している。被検体101の表層は光吸収率が比較的小さい正常組織で形成されるものの、高い光エネルギーを保った状態で計測光701が入射するため、この界面で生じる光音響波723に対応する光音響信号742は下記の信号743に比べると大きな信号となる。信号741と742の検出時刻は装置構成(保持板102Aの厚さ)で決定され、信号741と742の信号強度は、それぞれ、探触子表面と被検体101の光吸収率で決定されるため、計測ごとに変動せず同じ信号特性で検出される。
【0048】
更に、図7(c)において、743は、光音響波724による光吸収物質202の光音響信号を示している。761は、被検体101がないことを判定するために予め決定される閾値である。第2の実施形態における被検体がある場合の光音響信号には、この閾値761を超える信号成分がない。762は、被検体101があることを判定するために予め決定される閾値である。第2の実施形態における被検体がある場合の光音響信号には、この閾値762を超える信号成分が2つある。
【0049】
続いて、図8を参照して被検体101がない場合の光音響波信号との差異を説明する。図8の概念図において、図7と同様、(a)は計測方法、(b)は探触子に到達する光音響波の音圧、(c)は検出した光音響信号の例をそれぞれ示している。図8(b)と図8(c)の縦軸はそれぞれ音圧と光音響信号を表し、横軸は時間を表す。
【0050】
図8(a)において、照射部601から射照射された計測光701は、保持板102Aと空気との界面で、臨界角を越える角度で入射される。即ち、本実施形態の照射部による斜入射の角度は、被検体がある場合は臨界角を越えず、被検体がない場合は臨界角を越える様に設定されている。よって、被検体がない場合は全反射が起こって、レーザ光である計測光701の不必要な空気中への出射を防止することができる。また、図8(b)において、821は、探触子表面が発する光音響波を示している。全反射により光エネルギーの損失なく計測光701が探触子に到達するため、被検体101がある場合の光音響波721と比較して、非常に大きな光音響波が生じる。更に、図8(c)において、841は、光音響波821に対応して探触子と保持板102Aとの界面で検出される光音響信号を示している。信号841は、上記閾値761を超える非常に大きな信号となる。信号841は、光源と探触子の位置関係、計測光701の斜入射角度、保持板102Aの厚さ、そして探触子の構造に起因した光音響信号であるため、その検出時刻と信号強度は、計測ごとに変動せず同じ信号特性で検出される。この信号特性を利用して、検出される光音響の信号強度を閾値761と比較することで被検体101の有無を判定することができる。
【0051】
なお、図7と図8では、光音響波721と821、その光音響信号741と841は、保持板102と被検体101または空気との界面で反射した計測光701が、探触子に入射する場合の例で説明した。一方、反射した計測光701が探触子表面に到達しない場合には何れも小さくなるかまたはなくなるため、被検体有無の判定に使用するのは難しくなる。しかし、その場合には、上記閾値762を用いて、光音響信号742の有無に基づいて被検体101の有無を判定することが可能である。
【0052】
以上、図7と図8を用いて説明した様に、被検体101の有無で、音響検出素子203が出力する光音響信号の特性には大きな差異がある。第2の実施形態では、被検体有無判定部106が、この信号特性の変化情報に基づいて被検体101の有無を判定する。
【0053】
上記判定は、1つの音響検出素子203が出力する界面光音響信号の特性の変化情報に基づいて行うこともできるが、複数の音響検出素子の出力から界面光音響信号を抽出して行うこともできる。図9は、本実施形態における界面光音響信号の抽出方法の一例を説明する概念図である。図9(a)は計測方法、図9(b)と図9(c)はそれぞれ音響検出素子901と902が検出する光音響信号、図9(d)は、図9(b)と図9(c)の信号を加算演算した信号を示している。図9(b)〜図9(d)の縦軸はそれぞれ音圧と光音響信号を表し、横軸は共に時間を表す。
【0054】
図9(a)において、901と902は、光音響波検出ユニット104の探触子を構成する2つの音響検出素子である。音響検出素子901と902は位置が異なるため、その光音響信号には位置関係に応じた差異を生じる。図9(b)と図9(c)を比較すると、被検体101内部の光吸収物質202が発した光音響波の検出時刻は、2つの音響検出素子901と902で異なる。光吸収物質202が発する球面状の光音響波を異なる距離で検出するためである。これに対して、探触子表面や、被検体101と保持板102との界面で生じる光音響波の検出時刻は、2つの音響検出素子901と902で一致する。これは、2つの音響検出素子から、探触子と保持板、そして保持板と被検体101の界面までの距離が一定で、平面波状の光音響波が同じ距離で検出されるためである。音響検出素子901と902が検出した光音響信号の加算平均演算を行うと、検出時刻が同一の界面光音響信号は加算され、検出時刻の異なる光吸収物質202の光音響信号は加算されず、図9(d)の様な信号特性が得られる。即ち、加算演算した結果、界面で生じる光音響信号を抽出できる。
【0055】
ここでは、簡単のために2つの音響検出素子901と902の光音響信号を用いる場合について説明したが、実際には、より多くの検出素子の信号を用いることで、界面光音響信号を精度高く抽出することができる。また、1つの素子に偶発的に生じるノイズを除去できるため、ノイズによる誤判定を防ぐことができ、より安定して被検体有無の判定を機能させることができる。この実施形態では、抽出した界面光音響信号に対して、図7と図8で説明した被検体有無の判定方法を適用する。
【0056】
以上により、界面で生じる光音響波が平面波である特性を活かして、被検体有無の判定に必要な界面光音響信号の成分のみを抽出して被検体の有無を判定することで、偶発的なノイズの影響を低減でき、安定して機能させることができる。
【0057】
図10は、第2の実施形態の光音響測定制御を説明する概念図を示す。走査線1001は、光音響検出ユニット104の中心の走査軌跡を示しており、実線は被検体101がある領域の走査を示し、破線は被検体101がない領域の走査を示している。1002は、第2の実施形態での測定制御において、被検体101の有無を判定するために注目する音響検出素子群である。注目素子群1002は、探触子中央に位置する複数の音響検出素子から構成され、注目素子群1002の信号は界面光音響信号の抽出に使用する。
【0058】
走査位置Aは、走査の原点で、この位置から光音響検出ユニット104の走査が開始される。走査位置Aでは、被検体101がない(全注目素子群1002が被検体101を認識しない)ため、光音響信号の記録動作や信号処理を省くと共に走査速度を高速化する。水平走査を開始して走査位置AからBまでは、注目素子群1002が被検体を認識しないため水平走査を継続する。走査位置Bは、注目素子群1002が、被検体101がない領域から、ある領域へ移った位置を示している。走査位置Bからは被検体101がある領域に入るため、光音響診断などに有効な領域として、光音響信号の記録動作や信号処理を実行して、走査速度を光音響波測定に好ましい走査速度まで低下させる。
【0059】
走査位置Cは、注目素子群1002が、被検体101がある領域から、ない領域へ移った位置を示している。走査位置Cからは被検体101から外れるため、光音響診断などに有効でない領域として、光音響信号の記録動作や信号処理を省くと同時に走査速度を高速化して、走査位置Aと同様の走査制御を行う。走査位置Dでは、注目素子群1002が、被検体101がない領域から、ある領域へ移るため、光音響診断などに有効な領域として走査位置Bと同様の測定制御を行う。以後、各位置での被検体101の有無判定に基づいて走査制御や信号処理などの制御を繰り返して、走査領域401を全て走査する。
【0060】
以上の光音響測定制御により、被検体101の有無を判定して、光音響診断などに寄与しない走査領域での走査領域を高速化することで全体の測定時間を短縮できる。なお、被検体の境界部では、注目素子群1002に対して被検体101が全て重ならず、注目素子群1002を構成する素子の一部だけが被検体101を認識する領域がある。この場合は、加算演算の結果、抽出された界面光音響信号が小さくなるため、被検体境界部のどこまでを有効な走査領域とするかを考慮して、上記閾値761または762を設定する必要がある。
【0061】
図11は、第2の実施形態における光音響波の測定の流れを示すフローチャートである。本フローチャートの一連の処理は、図10の測定制御を機能させると共に、診断などに好ましい光音響画像を得ることを目的としている。ここでは、第1の実施形態の図5のフローチャートと比べて、ステップ1001〜1003が加わっている。
【0062】
ステップ1001では、被検体有無判定部106が、注目素子群1002を構成する各音響検出素子の光音響信号を加算演算することで、界面光音響信号を抽出する。ステップ1002では、ステップ505で、現在の計測位置では被検体がなく、光音響診断などに有効でないと判定されているため、走査速度を高速化する。ステップ1003では、ステップ505で、現在の計測位置では被検体があり、光音響診断などに有効であると判定されているため、光音響波の測定に好ましい走査速度に制御する。以上の処理により、検出した光音響信号に基づいた被検体有無判定を機能させると共に、光音響測定の動作を被検体101に適応させることができる。
【0063】
本実施形態によれば、保持板により被検体を保持しながら、光源と探触子が同じ側に配置される構成で測定を行う光音響測定において、被検体の有無によって生じる光音響信号の信号特性の差異に基づいて、被検体の有無を判定することができる。更に、光音響波に含まれる界面で生じる光音響波が平面波である特性を利用することで、被検体の有無の判定に必要な界面光音響信号のみを抽出することで、偶発的なノイズの影響を低減でき、被検体有無の判定を安定して機能させられる。
【0064】
(第3の実施形態)
本発明の目的は、以下の実施形態によって達成することもできる。即ち、前述した実施形態の機能(特に、解析部や制御部を成す被検体有無判定部の機能)を実現するソフトウェアのプログラムコードを格納した記憶媒体(または記録媒体)を、システム或いは装置に供給する。そして、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行する。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコードを格納した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0065】
また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているオペレーティングシステム(OS)などが実際の処理の一部または全部を行う。その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も本発明に含まれる。更に、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張カードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書込まれたとする。その後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張カードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も本発明に含まれる。本発明を上記記憶媒体に適用する場合、その記憶媒体には、先に説明したフローチャートに対応するプログラムコードが格納されることになる。
【0066】
(その他の実施形態)
上記各実施形態の様々な技術を適宜組み合わせて新たなシステムを構成することは当業者であれば容易に想到し得るものであるので、この様な様々な組み合わせによるシステムもまた、本発明の範囲に属するものである。例えば、第1と第2の実施形態では、光源を被検体の片側のみに配置して、片側からの計測光の照射のみで測定を行う光音響測定システムにおいて本発明を適用する例を説明した。しかし、測定深度を向上させると共にコントラストが高く高画質な光音響画像を得るための構成として、光源を被検体の両側に配置して、両側からの計測光を用いて測定する構成も考えられる。この構成では、被検体の有無に応じて生じる光音響信号の特性の変化は、第1の実施形態と第2の実施形態の信号特性の変化の組み合わせで表れる。そのため、この変化情報を上記被検体有無の判定に用いることができる。従って、被検体に対して計測光を両側から照射する構成もまた、本発明の範囲に属するものである。また、光音響検出ユニットを貫通して光ファイバなどの光導入部を配置し、この光導入部から計測光を被検体に向けて照射する形態も同様に上記被検体有無の判定に用いることができ、これも本発明の範囲に属するものである。さらに、A/D変換でデジタル化された光音響信号に基づいて被検体有無の判定を行う構成で説明したが、十分なS/N比をもつ光音響信号が検出できる場合はA/D変換前のアナログ信号に基づいて実施する形でも構わない。
【0067】
また、第1と第2の実施形態では、被検体の有無に応じて、光音響信号の記録や信号処理を省くと共に、走査方向または走査速度を制御する光音響測定制御の例を説明した。この他にも、計測位置や計測間隔(光音響測定におけるフレームレート)を制御して測定動作などを被検体に適応させる構成であってもよい。また、光音響測定と同時に超音波測定などが可能な複数のモダリティ機能を備える診断装置などにおいて、光音響での被検体の有無の判定に応じてその他の診断機能などを制御する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
101・・・被検体、102A、102B・・・保持板(保持部)、103・・・照射部、104・・・光音響波検出ユニット(検出部)、106・・・被検体有無判定部(解析部、制御部)、107・・・信号処理部、108・・・走査制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を照射することにより発生する光音響波を測定する光音響測定装置であって、
被検体に対して光を照射する照射部と、
保持板により被検体を保持する保持部と、
前記照射部による光照射により生じる光音響波を検出するための検出部と、
前記検出部が前記光音響波を検出した結果生成される光音響信号を解析する解析部と、
を備え、
前記解析部は、前記光音響信号を解析することで、前記検出部と前記保持板との界面及び前記保持板と前記被検体との界面のうちの少なくとも一方で生じる光音響波による光音響信号の成分の信号強度の変化情報を取得して、被検体の有無を判定することを特徴とする光音響測定装置。
【請求項2】
前記解析部の解析結果に応じて被検体の光音響測定のための動作を制御する制御部を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の光音響測定装置。
【請求項3】
前記検出部は複数の音響検出素子を含み、
前記複数の音響検出素子のうちの少なくとも一部がそれぞれ検出した光音響波による光音響信号を加算して加算信号を生成する加算演算部を更に備え、
前記解析部は、前記加算演算部が生成した前記加算信号に対して解析を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の光音響測定装置
【請求項4】
前記検出部と前記保持板との界面及び前記保持板と前記被検体との界面のうちの少なくとも一方で生じる光音響波による光音響信号の成分の検出時刻と信号強度は、前記照射部、前記保持板、前記被検体、前記検出部の位置関係、及びこれらの光吸収特性の少なくとも1つによって決まり、
前記解析部は、被検体の有無によって前記界面で生じる光音響波による光音響信号の強度が変化することに基づいて被検体の有無を判定することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の光音響測定装置。
【請求項5】
前記検出部の個体差を補正する補正処理、物理的または電気的に欠損した前記検出部の素子の補完処理、光音響信号の記録処理、及びノイズ低減のための光音響信号の積算処理の少なくとも1つを制御する信号処理部を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の光音響測定装置。
【請求項6】
前記照射部と前記検出部を前記保持部に対して走査させる走査機構を更に備え、
前記制御部は、前記走査機構を制御して、走査速度、走査方向、前記検出部による計測の位置、及び前記検出部による計測の間隔のうちの少なくとも1つを制御することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の光音響測定装置。
【請求項7】
光を照射することにより発生する光音響波を測定する光音響測定方法であって、
保持板で保持された被検体に対して光を照射するステップと、
光照射により発生する前記光音響波を検出部により検出するステップと、
前記光音響波を検出した結果生成される光音響信号を解析するステップと、
を有し、
前記解析ステップでは、前記光音響信号を解析することで、前記検出部と前記保持板との界面及び前記保持板と前記被検体との界面のうちの少なくとも一方で生じる光音響波による光音響信号の成分の信号強度の変化情報を取得して、被検体の有無を判定することを特徴とする光音響測定方法。
【請求項8】
前記解析ステップの解析結果に応じて被検体の光音響測定のための動作を制御する制御ステップを更に有することを特徴とする請求項7に記載の光音響測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−105903(P2012−105903A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258498(P2010−258498)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】