説明

光駆動アクチュエータ素子

【課題】mmサイズからマイクロメートルサイズの大きさで、繰り返し耐久性に優れた光駆動アクチュエーター素子を提供する。
【解決手段】一般式(1)及び、(1)のフェニル基をp-トルイル基に変えた誘導体を含む、ジアリールエテン系化合物の結晶からなる光駆動アクチュエーター素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロマシンないしマイクロマシンニングの技術分野に属し、特に、光により駆動するアクチュエーター素子に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロマシンは、マイクロメカニックス、マイクロ医療、マイクロリアクターなどの分野において利用が期待されている超小型機械であり、活発に開発がすすめられている。マイクロマシンを駆動させるには、通常、電気が使われている。この場合、必ず電力供給および制御のための配線を必要とする。装置が小型化すると、この配線が困難となり、微細化が制限される。しかし、光照射を利用する光駆動アクチュエーター素子は、駆動部分と制御部分とを一体化して構成できることから配線を不必要とする利点がある。特許文献1には、光起電力効果を利用した光駆動素子が報告されているが、微細化は困難な構造となっている。
【0003】
配線が不要な電気駆動アクチュエーターとしてイオン性高分子フィルムを用いる報告例(特許文献2)があるが、これは、溶液中においてのみ駆動可能であり、ドライ系においては駆動しない。その他、ケモメカニカル材料(特許文献3)、ポリジアセチレンを用いた光駆動アクチュエーター(特許文献4)が報告されているが、いずれも、使用温度範囲の制限、制御性が悪いなどの欠点を有している。
【0004】
光駆動アクチュエーターとして、非特許文献1及び特許文献5には、ジアリールエテン系化合物の結晶を用いた例が報告されている。しかし、この光駆動素子は、棒状結晶の場合においても、その長さが300マイクロメートル以下であり、また、繰り返し耐久性も100回以下に制限されている。そのため、実用に際しては、多くの困難をかかえている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−145379号公報
【特許文献2】特開2006−54951号公報
【特許文献3】特開平8−86272号公報
【特許文献4】特開2001−232600号公報
【特許文献5】WO2008/072419号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature,266,778(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、既述の従来技術における問題点を解決し、mmサイズからマイクロメートルサイズの大きさで、繰り返し耐久性に優れた光駆動アクチュエーター素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、種々のジアリールエテン系化合物の単独結晶および種々の異なったジアリールエテン系化合物を複数含む結晶を数多く作製し、その光誘起変形を測定することにより、mmサイズからマイクロメートルサイズの大きさで、繰り返し耐久性に優れた光駆動アクチュエーター素子を見出し、本発明を導き出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、繰り返し耐久性等の既述の従来技術における問題点を解決し、mmサイズからマイクロメートルサイズの大きさで、繰り返し耐久性に優れた光駆動アクチュエーター素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】棒状結晶の紫外光、可視光照射による屈曲、伸長を示す図。
【図2】紫外光、可視光照射による屈曲、伸長の繰り返し耐久性を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ジアリールエテン系化合物とは、中央にエテン部があり、その両側にアリール基が結合した構造をもつ一群の化合物である。このジアリールエテン系化合物は、紫外光を照射すると中央のヘキサトリエン部位がシクロヘキサジエン構造へと変化し、それとともに着色し、可視光を照射すると、退色し、元の構造にもどる。本発明のアクチュエーター素子は、このようなフォトクロミック反応するジアリールエテン系化合物
の結晶で、分子レベルでの分子構造変化が、バルク結晶の形を制御していることになる。
【0012】
前述の非特許文献1には、下記(III)のジアリールエテン化合物の結晶の棒状結晶が、紫外光照射により屈曲し、可視光照射により元の形状にもどることが報告されている。また、特許文献5には、下記(III)及び(IV)とを含む棒状結晶も同様に光誘起屈曲することが報告されている。
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
棒状結晶の変形速度はマイクロセコンドと早く、応答感度も良い。しかし、これらの結晶は屈曲変形を繰り返すと、結晶表面にひび割れが生じ、終には光屈曲応答を示さなくなる。屈曲変形の繰り返し回数は、100回を超えることはない。このことは、後述するジアリールエテン系化合物(I)においても同様であり、単独結晶を用いる限り、繰り返し劣化を止めることは出来なかった。
【0016】
それに対して、下記のジアリールエテン系化合物(I)および(II)を含む結晶を用いると劣化することのない光屈曲を観測することが出来た。
【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
ジアリールエテン系化合物(I)および(II)を等量、ヘキサンに溶解し、溶媒析出法により、長さがmmサイズの棒状結晶を得た。これまでの昇華法と異なり、溶媒析出法を用いることにより、マイクロメートルサイズからmmサイズまで任意に棒状結晶の大きさを制御することが可能となった。この棒状結晶は、(I)および(II)をほぼ等量含んでいる。棒状結晶の形成は、溶媒に依存して、ヘキサンあるいはエタノールを用いると、棒状結晶が得られ易い。
【0020】
この棒状結晶の側面に、365nmの紫外光、および450nmより長波長の可視光を交互に照射すると、光照射方向に屈曲、伸長を示した。応答速度は、ジアリールエテン系化合物(III)の結晶と同様に高速応答を示した。
【0021】
実用に際しての最重要課題は、耐久性である。100回程度の屈曲繰り返しで劣化しては、実用に供することは出来ない。ジアリールエテン系化合物(I)および(II)をほぼ等量含む棒状結晶に、365nmの紫外光、および450nmより長波長の可視光を交互に照射して、屈曲と伸長を繰り返した。1000回の繰り返しにも劣化することなく、屈曲と伸長を示した。
【0022】
化合物(III)と(I)、化合物(III)と(II)あるいは化合物(III)と化合物(IV)を含む結晶も作製し、その光誘起変形および耐久性の測定を行った。このいずれの場合も、棒状の結晶が得られたが、それらは耐久性に乏しく、50回以下の屈曲繰り返しで劣化することが認められた。
【0023】
本発明は、異なったジアリールエテン系化合物を複数含む結晶をもちいた光駆動アクチュエーター素子であり、mmサイズからマイクロメートルサイズまでの大きさを持ち、繰り返し耐久性に優れ、配線等が不要な非接触駆動方式のアクチュエーターである。駆動部と制御部とが一体化しているため、微小化が可能であり、また、有機分子結晶であるにもかかわらず、抜群の繰り返し耐久性を有している。
【0024】
本発明の光駆動アクチュエーター素子は、空気中で、−50度から+50度の温度範囲において駆動される。ジアリールエテン系化合物は、高い熱安定性および繰り返し耐久性を有しており、実用上極めて優れた特性を有している。
【0025】
以下、本発明の特徴を具体的に示すため実施例に沿って本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
―結晶作製―
ジアリールエテン系化合物(I)0.100gとジアリールエテン系化合物(II)0.103gとを、ヘキサン150mlに溶解し、自然蒸発により棒状結晶を成長させた。得られた棒状結晶は、長さ0.3mm〜2.0mm、太さ0.01mm〜0.05mmであった。これら棒状結晶を、ヘキサンに再び溶解させ、その組成をHPLCにより測定した。その結果、(I)および(II)を、63:37含んでいることが明らかとなった。溶液の組成を変えることにより、(I):(II)組成比を、85:15 から15:85に変えることが出来た。
【実施例2】
【0027】
―光応答形状変化―
実施例1で得られた1mm長の棒状結晶の側面に、365nmの紫外光(キーエンス製:UV−400)および、450nm以上の長波長光(朝日分光製:MAX−302)を交互に照射した。結果を図1に示す。紫外光の照射により、照射方向に棒状結晶は屈曲した。可視光の照射により、再び元の真直ぐな形状にもどることが認められた。
【実施例3】
【0028】
―耐久性試験―
実施例1において作製した棒状結晶に、365nmの紫外光、および450nm以上の可視光を交互に照射して、その屈曲応答の耐久性を室温において行った。その結果を図2に示す。1000回の繰り返しに耐え、また、1000回後も結晶表面に亀裂は見られず、高い耐久性を有することが示された。
【実施例4】
【0029】
―対照試験―
ジアリールエテン系化合物(III)0.100gとジアリールエテン系化合物(II)0.105gとを、ヘキサン150mlに溶解し、自然蒸発により棒状結晶を成長させた。得られた棒状結晶は、紫外光、可視光照射により屈曲、伸長することは認められたが、繰り返し耐久性は50回以下であった。
【実施例5】
【0030】
―対照試験―
ジアリールエテン系化合物(III)0.100gとジアリールエテン系化合物(I)0.103gとを、ヘキサン150mlに溶解し、自然蒸発により棒状結晶を成長させた。得られた棒状結晶は、紫外光、可視光照射により屈曲、伸長することは認められたが、繰り返し耐久性は50回以下であった。
【実施例6】
【0031】
―対照試験―
溶媒析出法により、ジアリールエテン系化合物(III)とジアリールエテン系化合物(IV)とを、9:1の比で含む棒状結晶を得た。得られた棒状結晶は、紫外光、可視光照射により屈曲、伸長することは認められたが、繰り返し耐久性は50回以下であった。化合物(IV)の含量が、30%を超えると、光屈曲は認められなくなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のジアリールエテン系化合物を含む結晶からなることを特徴とする光駆動アクチュエーター素子。
【請求項2】
結晶が棒状結晶であることを特徴とする請求項1記載の光駆動アクチュエーター素子。
【請求項3】
ジアリールエテン系化合物の結晶が、下記の構造式(I)および(II)で表される化合物を含む結晶であることを特徴とする請求項1又は2記載の光駆動アクチュエーター素子。
【化5】

【化6】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−223186(P2010−223186A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74344(P2009−74344)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(591001514)
【出願人】(000179306)山田化学工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】