説明

光駆動型アクチュエータ及びその製造方法

【課題】高い光応答性を示すとともに、複雑な構造体も形成可能な、柔軟な、軽量な、かつ無音で駆動することが可能な光駆動型アクチュエータ、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基が含まれた、その光応答性基の構造変化に応じて変形する高分子層12と、上記高分子層12が貼着されることにより、その高分子層12とともに変形するエラストマ13とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光により駆動する光駆動型アクチュエータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メカトロニクス分野において様々なアクチュエータの開発が進められ、特に高分子アクチュエータは、その柔軟さ、軽量性、および駆動時に無音であることから多大な注目を集めている。その中で、光により駆動する光駆動型アクチュエータは、非接触でエネルギー供給が可能であり、駆動のための配線を必要とせず、電気配線から発生するようなノイズを回避できることなどから、特に、医療・介護分野や航空宇宙分野で用いられるマイクロマシンやロボットへの応用が期待されている。
【0003】
光により駆動する高分子材料としては、従来より、光応答性ゲルに関する研究が活発に行われている。例えば、光イオン化するトリフェニルメタンのロイコ体を含むポリアクリルアミドゲルによる光変形(非特許文献1参照)や、ポリアクリルアミドゲルにCO2赤外レーザー光を照射することによる屈曲動作(非特許文献2参照)が実現されている。前者の例は光によるイオン解離反応が起き、その結果としてゲル中の浸透圧が増大し膨潤したものであり、後者の例は赤外レーザー光照射によって発生する熱によるゲルの体積変化に基づく浸透圧変化によるものである。さらに、ポリアクリルアミドゲル以外にも光応答性基としてアゾベンゼン基をその主鎖に含むポリイミドゲル等も知られている(特許文献1参照)。しかしながら、このような光応答性ゲルは、その駆動原理が浸透圧変化に基づく水などの溶媒分子の取り込み・吐き出しによるため、溶媒が不可欠でドライな環境で使用できないという問題を有していた。
【0004】
ドライな環境で使用できる光駆動型アクチュエータとしては、アゾベンゼンで架橋されたポリエチルアクリレートやアゾベンゼン基を有するポリイミド等が古くより知られている。しかしながら、これらの変形量はいたって小さく、大きな変形は望めないとされてきた(非特許文献3)。液晶エラストマが報告されている。例えば、光応答性基としてアゾベンゼン基を側鎖に有する高分子を液晶配向状態で架橋した液晶エラストマが紫外光照射により伸縮挙動を示すことが報告されている(非特許文献4参照)。また、アゾベンゼン誘導体からなる重合性液晶組成物を光、あるいは熱により架橋したポリドメイン液晶エラストマが紫外光の偏光照射により自由な方向に屈曲作動できることが知られている(非特許文献5参照)。さらに、液晶エラストマの中には、有機溶媒中で膨潤した状態で光により駆動するようなエラストマも知られている(非特許文献6、特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、上記非特許文献4で開示された技術では、光に対する応答速度が非常に遅い点で問題を有していた。また、上記非特許文献5で開示された技術では、膜厚とともに応答性が減少し、薄膜のみの機能に限定されてしまうという点、および液晶温度域でのみの駆動で作動温度等が限定されるという点で問題を有していた。上記非特許文献6、および特許文献2で開示された技術では、前述のゲルと同様に溶媒が不可欠でドライな環境で使用できないという問題を有していた。
【0006】
したがって、これらの液晶エラストマは、性能面とともに、アクチュエータとして要求される複雑な構造体形成はいずれも困難であり、製造適正の観点においても課題が残されていた。
【非特許文献1】Macromolecules誌、第19巻、2476頁(1986年)
【非特許文献2】J.Chem.Phys.誌、第102巻、551頁(1995年)
【非特許文献3】「形状記憶ポリマーの開発と応用」、第5章、67頁((株)シーエムシー発行、1989年、東京)
【非特許文献4】Phys.Rev.Lett.誌、第87巻、015501頁(2001年)
【非特許文献5】Nature誌、第425巻、145頁(2003年)
【非特許文献6】Adv.Mater.誌、第15巻、201頁(2003年)
【特許文献1】特開2005−23151号公報
【特許文献2】特開2002−256031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、高い光応答性を示すとともに、複雑な構造体も形成可能な、柔軟な、軽量な、かつ無音で駆動することが可能な光駆動型アクチュエータ、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の光駆動型アクチュエータにおいて、
光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を含む、その光応答性基の構造変化に応じて変形する高分子層と、
前記高分子層が貼着されることによりその高分子層とともに変形するエラストマとを備えたことを特徴とする。
【0009】
光応答性基を含む高分子層がエラストマの表面に形成されていることで、光応答性基による光の吸収効率が高くなる。その結果、光応答性基が、効率良く構造変化を引き起こすことができる。
【0010】
また、光駆動型アクチュエータが高分子から形成されているので無音により駆動することが可能となる。
【0011】
ここで、上記高分子層が、前記エラストマの両面に貼着されていることが好ましい。
【0012】
光応答性基を含む高分子層がエラストマの両面に貼着されていることで、光応答性基を含む高分子層がエラストマの片面に貼着されている場合と比べて、光を吸収する面積が大きくなる分、光駆動型アクチュエータをより高速に駆動させることが可能となる。さらに、両面から紫外光を照射することにより、複雑な駆動を提供することが可能となる。
【0013】
また、上記光応答性基が、アゾベンゼン基であることが好適である。
【0014】
アゾベンゼン基は、通常、熱力学的に安定なトランス体として存在しているが、紫外光でシス体となり熱もしくは可視光でトランス体となる、光異性化を起こす光応答性基である。したがって、アゾベンゼン基を用いることで、光異性化反応を可逆的に起こすことが容易になり、高い光応答性が得られる。
【0015】
また、上記エラストマが、天然ゴム、アクリル系エラストマ、およびシリコン系エラストマのうちから選択されたエラストマであることが好ましい。
【0016】
上記のエラストマを採用することにより、柔軟かつ軽量な、複雑な構造体も形成可能な光駆動型アクチュエータが得られる。
【0017】
上記目的を達成する本発明の光駆動型の製造方法において、
光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を有する高分子をエラストマの表面に塗布する工程を備えたことを特徴とする。
【0018】
エラストマの表面に光応答性基を有する高分子を塗布することで光駆動型アクチュエータを簡単に製造することができる。
【0019】
上記目的を達成する本発明の光駆動型の製造方法において、
光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を有する重合性分子をエラストマの表面に塗布する工程と、
該重合性分子を重合する工程とを備えたことを特徴とする。
【0020】
エラストマの表面に光応答性基を有する重合性分子を塗布し、その重合性分子を重合させる方法を採用することで、例えば、光駆動型アクチュエータを光重合を用いて簡単に製造することができる。
【0021】
上記目的を達成する本発明の光駆動型アクチュエータの製造方法において、
光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を有する高分子を支持体上に塗布して高分子層を形成させる工程と、
該高分子層をエラストマ表面に転写する工程とを備えたことを特徴とする。
【0022】
光応答基を有する高分子を塗布して作成された高分子層をエラストマに転写することで、例えば、高分子層とエラストマの間に粘着層などを設けることが可能となり、高分子層とエラストマとの密着性が上がることで光駆動型アクチュエータの性能が向上する。
【0023】
上記目的を達成する本発明の光駆動型アクチュエータの製造方法において、
光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を有する重合性分子を支持体上に塗布する工程と、
該重合性分子を重合して高分子層を形成させる工程と、
該高分子層をエラストマ表面に転写する工程とを備えたことを特徴とする。
【0024】
重合性分子を重合して作成された高分子層をエラストマに転写することで、例えば、高分子層とエラストマの間に粘着層などを設けることが可能となり、高分子層とエラストマとの間における密着性が上がることで光駆動型アクチュエータの性能が向上する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高い光応答性を示すとともに、複雑な構造体も形成可能な、柔軟な、軽量な、かつ無音で駆動することが可能な光駆動型アクチュエータ、およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0027】
最初に、本発明の光駆動型アクチュエータに関し、その構成の一例を図に従って説明する。
【0028】
図1は、本発明の第1の実施形態である光駆動型アクチュエータの模式図である。
【0029】
図1に示すように、光駆動型アクチュエータ1は、光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を含む高分子層12がエラストマ11の上面に貼着されている構成をとっている。この光駆動型アクチュエータ1は、光の刺激により光応答性基が構造変化を引き起こし、その光応答性基の構造変化に応じて高分子層12およびエラストマ11が共に変形するものである。ここで、光応答性基にはアゾベンゼンを用い、エラストマには天然ゴムを用いた。光応答性基、およびエラストマについては、後で詳述する。
【0030】
図2は、本発明の第2の実施形態である光駆動型アクチュエータの模式図である。
【0031】
第2の実施形態である光駆動型アクチュエータ2は、光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を含む高分子層21、22がエラストマ23を挟んで配備されている構成になっている。
【0032】
図3は、本発明の第3の実施形態である光駆動型アクチュエータの模式図である。
【0033】
第3の実施形態である光駆動型アクチュエータ2は、光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を含む高分子層32がエラストマ31を覆っている構成になっている。
【0034】
これらの実施形態から、光応答性基を含む高分子層は、図1に示すようにエラストマの上面にのみ配置されていてもよい。また、図2に示すように両面に配置されていてもよく、さらに、図3に示すようにエラストマを覆っていてもよい。
【0035】
また、エラストマと高分子層との間には、必要に応じて高分子層の配向を制御するための配向層、エラストマと高分子層との層間密着を高めるための粘着層などの層を設けてもよい。
【0036】
本発明に用いるエラストマとしては、天然ゴム、未加硫ゴム、加硫ゴム、クロロプレン、シリコン系、ウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリオレフィン系、含ハロゲンポリオレフィン系、ポリスチレン系、フッ素系、クロロスルフォン化ポリエチレン系、エチレン/プロピレン共重合系、などのエラストマが好ましい。中でも、天然ゴム、ポリアクリル系エラストマ、およびシリコン系エラストマが特に好ましい。
【0037】
また、耐熱性を付与するために、ホウ素系、リン系、シリカ系、バリウム系などの無機化合物、アルミ、ステンレススチール、アルミナ、シリカ、ジルコニウム、などの金属、セラミック、メラミン、有機ハロゲンなどの有機系高耐熱性化合物などを前記エラストマに混合して使用してもよい。さらに、各種添加剤、例えば、熱安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定化剤、可塑剤、軟化剤、難燃剤、顔料、発泡剤、発泡助剤などを必要に応じて加えて使用してもよい。
【0038】
光応答性基を含む高分子層に関しては、光応答性基を主鎖、側鎖、および/あるいは架橋鎖に有する高分子により形成される。高分子としては、ポリアクリル系高分子、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリオレフィン系高分子、シリコン系高分子が好ましく、ポリアクリル系高分子、ポリエステル系高分子、シリコン系高分子が特に好ましい。
【0039】
前記光応答性基とは、例えば、光照射により光異性化反応、光二量化反応、および光分解反応の少なくとも1つを起こす基である。該光応答性基には、可逆性の観点より、光照射により光異性化反応を起こす基が特に好ましい。具体的には、このような光応答性基として、アゾベンゼン基、ヒドラゾノ−β−ケトエステル基、スチルベン基、スピロピラン基等を挙げることができる。その中で、C=C、又はN=Nからなる二重結合構造を含む光異性化基が好ましく、N=Nからなる二重結合構造を含むアゾベンゼン基が特に好ましい例として挙げることができる。
【0040】
以下に具体例として、一般式(1)から一般式(9)までの光応答性基を含んだ高分子が挙げられる。ただし、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。
【0041】
【化1】

【0042】
【化2】

【0043】
【化3】

【0044】
【化4】

【0045】
【化5】

【0046】
【化6】

【0047】
また、光応答性基を含む高分子層は、光応答性基を有する重合性分子をエラストマ表面上に塗布し、その重合性分子を重合することにより形成することもできる。以下に光応答性基を有する重合性分子の具体例として、化合物1から化合物6までの重合性分子が挙げられる。ただし、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。
【0048】
【化7】

【0049】
光応答性基は、高分子層中で配向していてもしていなくてもよく、いずれを選択するかはアクチュエータの利用形態によって異なる。例えば、ある一方向にのみ選択的に屈曲、あるいは伸縮する材料が必要なときは光応答性基が高分子層中で一軸に配列していることが好ましい。また、自在な方向に屈曲、あるいは伸縮する材料が必要なときは、光応答性基が高分子層中で配向していない方が好ましい。
【0050】
エラストマと高分子層との間に配向層を配置する場合、配向層には、例えば、一般に液晶分野で用いられるような周知の配向膜を採用することができる。具体的な例としては、ラビング配向処理されたポリイミドやポリビニルアルコールなどの配向膜や光配向処理されたアゾベンゼン誘導体、桂皮酸誘導体、あるいはクマリン誘導体などを採用することができる。
【0051】
エラストマと高分子層との間に粘着層を配置する場合、その粘着層には、周知の粘着剤を用いることができる。具体的な例としては、例えばゴム系、アクリル系、シリコン系、ビニルエーテル系などの粘着剤が挙げられる。粘着剤には、目的に応じた粘着特性の付与などの点から合成重合体が好ましく、特に用いるエラストマに近い化学、あるいは力学特性を有するものが好ましい。
【0052】
次に、本発明の光駆動型アクチュエータの製造方法について詳しく説明する。
【0053】
先ず、本発明の光駆動型アクチュエータの製造方法のうちの第1の製造方法の一実施形態について説明する。
【0054】
図4は、この第1の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【0055】
ステップS100では、光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を有する高分子を含む塗布液を最初に調液して、エラストマ表面に光応答性基を有する高分子を塗布した後に乾燥させる。このステップS100の工程を経ることにより、この第1の製造方法の一実施形態が適用された光駆動型アクチュエータが製造される。
【0056】
ここで、エラストマ、および光応答性基を有する高分子に関しては上記の説明のとおりである。
【0057】
塗布液の溶剤には、高分子を溶解、あるいは分散できる公知の溶剤を用いることができる。
【0058】
溶剤の具体例としては、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶剤、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤が挙げられ、クロロホルム、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジメチルアセトアミドが好ましく、クロロホルム、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミドが特に好ましい。また、これらの溶剤を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
上記溶剤の添加量は、塗布性を保つ範囲で最適値が決められるが、高分子の濃度が塗布溶剤中で1〜75%の範囲であることが好ましく、5〜50%の範囲であることが特に好ましい。
【0060】
塗布方式としては、公知の方法、例えば、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、および印刷コーティング法等が用いることができる。
【0061】
塗布は必要に応じて、エラストマを延伸、あるいは圧縮しながら行ってもよい。また、本発明において、塗布とは、エラストマ表面にテフロン(登録商標)テープ等で枠を作製し、その中に塗布液を流し込む方法や、塗布液にエラストマを含浸させる方法等も含む。
【0062】
乾燥には公知の乾燥法を用いることができる。具体的には、室温乾燥、加温乾燥、送風乾燥、および減圧乾燥が挙げられ、またこれらを組み合わせてもよい。さらに、塗布物の乾燥は、該塗布物を延伸、あるいは圧縮しながら行ってもよい。
【0063】
以上をもって、本発明の光駆動型アクチュエータの製造方法のうちの第1の製造方法の一実施形態を適用して、光駆動型アクチュエータを製造することができる。
【0064】
次に、本発明の光駆動型アクチュエータの製造方法のうちの第2の製造方法の一実施形態について説明する。
【0065】
図5は、この第2の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【0066】
ステップS200では、光応答性基を有する重合性分子の塗布液を調液し、その塗布液をエラストマ表面に塗布する。
【0067】
続いて、ステップS202では、その重合性分子を重合し、光応答性基を含む高分子層をエラストマの表面に形成する。
【0068】
この図5に示すステップを実行することによっても、この第2の製造方法の一実施形態が適用された光駆動型アクチュエータが製造される。
【0069】
ここで、エラストマ、および光応答性基を有する重合性分子に関しては前記の説明のとおりである。
【0070】
塗布液の溶剤には、光応答性基を有する重合性分子を溶解、あるいは分散できる公知の溶剤を用いることができる。
【0071】
溶剤の具体例としては、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶剤、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤、ピリジン、トルエン、フェノール等の芳香族系溶剤が挙げられ、クロロホルム、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジメチルアセトアミドが好ましく、クロロホルム、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド、ピリジン、フェノールが特に好ましい。また、これらの溶剤を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
塗布液には必要に応じて、重合開始剤、重合禁止剤、光増感剤、架橋剤、塗布助剤などの添加剤を添加してもよい。重合開始剤に関しては、用いる光応答性基を有する重合性分子と重合方法に応じて公知の重合開始剤を適宜選択できる。具体的には、アゾ系重合開始剤、カチオン系光重合開始剤、ラジカル系光重合開始剤等を採用することができる。その中で、前記アゾ系重合開始剤としては、V−601(和光純薬(株)製)、V−40(和光純薬(株)製)、V−30(和光純薬(株)製)、V−65(和光純薬(株)製)、V−59(和光純薬(株)製)、前記カチオン系光重合開始剤としては、WPI−113(和光純薬(株)製),前記ラジカル系光重合開始剤としては、イルガキュア784(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)、イルガキュア819(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)等を特に好ましい例として挙げることができる。重合禁止剤としては、例えば、公知のハイドロキノン系重合禁止剤等を用いることができる。光増感剤はとしては、光重合開始剤と併用するために用いられ、用いる光重合開始剤と用いる光の波長に応じて適宜選択できる。具体的な例としてはイルガキュア907(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)と併用されるジエチルチオキサントンもしくは、イソプロピルチオキサントンなどを挙げることができる。架橋剤としては、架橋膜の構造を固定するために用いられる。具体的には、重合性基を複数持つ化合物であり、用いる重合性分子に応じて適宜選択できる。具体的には、アクリレートの例として、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどを挙げることができる。塗布助剤に関しては、例えば、塗布性の向上のために公知の界面活性剤や高粘剤などを用いることができる。
【0073】
上記溶剤の添加量は、塗布性を損なわない範囲で最適値が決められるが、高分子の濃度が塗布溶剤中で1〜75%の範囲であることが好ましく、5〜50%の範囲であることが特に好ましい。
【0074】
塗布、乾燥の方法に関しては前記と同様である。
【0075】
重合反応には、熱あるいは電磁波による公知の種々の重合法が採用できるが、アゾ系重合開始剤、あるいは光重合開始剤を用いるラジカル重合が特に好ましい。
【0076】
紫外光による光重合の場合、光源としては、公知のものを制限なしで用いることができるが、用いられる光重合開始剤に適切な光源が好ましい。光源の波長としては、用いる光応答性基の種類と用いる光重合開始剤に依存するが、220nm〜740nmである。光応答性基としてアゾベンゼン基を採用する場合、具体的には450nmより長波の光源が好ましく、具体的には500nmより長波の光源が好ましい。中でも、波長520nm〜600nmが好適に用いられる。架橋体の形態、形状、及び厚み等は、特に限定されず、その架橋体を有する光学要素の部位に応じて種々の形態、形状及び厚みとすることができる。
【0077】
また、重合反応は窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0078】
以上をもって、本発明の光駆動型アクチュエータの製造方法のうちの第2の製造方法の一実施形態を適用して、光駆動型アクチュエータを製造することができる。
【0079】
次に、本発明の光駆動型アクチュエータの製造方法のうちの第3の製造方法の一実施形態について説明する。
【0080】
図6は、この第3の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【0081】
ステップS300では、光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を有する高分子を支持体上に塗布し、ステップS302において高分子層を形成させる。
【0082】
続いて、ステップS304では、その高分子層をエラストマ表面に転写する。
【0083】
この図6に示すステップを実行することによっても、この第3の製造方法の一実施形態が適用された光駆動型アクチュエータが製造される。
【0084】
この第3の製造方法の一実施形態では、前記の二つの製造方法と比較して、エラストマの代わりに支持体を用いて、光応答性基を有する高分子を支持体上に塗布して高分子膜を作成する。得られた高分子膜を剥離し、エラストマ表面に転写して光駆動型アクチュエータを製造する。このとき、エラストマ表面には、粘着層を有していることが好ましい。
【0085】
以上をもって、本発明の光駆動型アクチュエータの製造方法のうちの第3の製造方法の一実施形態を適用して、光駆動型アクチュエータを製造することができる。
【0086】
次に、本発明の光駆動型アクチュエータの製造方法のうちの第4の製造方法の一実施形態について説明する。
【0087】
図7は、この第4の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【0088】
ステップS400では、光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を有する重合性分子を支持体上に塗布する。ステップS402では、重合性分子を重合して高分子層を形成する。続いて、ステップS404では、その高分子層をエラストマ表面に転写する。
【0089】
この図7に示すステップを実行することによっても、この第4の製造方法の一実施形態が適用された光駆動型アクチュエータが製造される。
【0090】
ここで、この第4の製造方法の一実施形態では、第3の製造方法の一実施形態と同様に、エラストマの代わりに支持体を用いている。
【実施例】
【0091】
次に、以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
「実施例1」
下記の構造を有する一般式(10)からなるアゾベンゼン基含有高分子P−1(100mg)をクロロホルム(50μL)に溶解し、塗布液を調液した。次に、ケアラテックス手袋S(AS ONE製)を洗浄し、裁断して天然ゴム膜を作成した。塗布液をミクロフィルター(DISMIC−13 PIFE 0.45M : ADVANTEC社製)にて濾過し、該天然ゴム膜表面にスピンコート(1000rpm、20秒)により塗布し、室温で1時間乾燥した。得られた塗布膜に3倍延伸を施し、屈曲形態を有する光駆動型アクチュエータを作成した。得られたアクチュエータに紫外線照射器(EXECURE3000、HOYA CANDEO OPTRONICS社製)より出射される紫外光を100mW/cm2(365nm)の強度で室温にて照射した。
【0092】
【化8】

【0093】
図8は、実施例1における結果を示す図である。
【0094】
図8(a)は、紫外線照射前の状態を示す。矢印Aで示すように、載置台5の上面の端部5aに屈曲形態をした光駆動型アクチュエータ4の一端が貼り付けられている。
【0095】
図8(b)は、屈曲形態をした光駆動型アクチュエータ4に紫外線を照射した後の状態を示す。矢印Bで示すように、5秒間の照射で光駆動型アクチュエータ4の屈曲形態が水平形態に変化した。この実施例1の結果から、光駆動型アクチュエータ4が光により駆動することを確認した。
「実施例2」
実施例1と同様にして調液した塗布液を、実施例1と同様に作成した天然ゴム膜上に180μm厚のテフロン(登録商標)テープで作製した1cm×2cmの長方形の枠内に流し込んだ。次に、室温下で約12時間溶媒を蒸発させた後、3倍延伸を施し、屈曲形態を有する光駆動型アクチュエータを作成した。
【0096】
得られた光駆動型アクチュエータに紫外線照射器(EXECURE3000、HOYA CANDEO OPTRONICS社製)より出射される紫外光を100mW/cm2(365nm)の強度で室温にて照射し、実施例1と同様に、屈曲形態が水平形態に変化し、光により駆動することを確認した。
「実施例3」
下記組成を有する塗布液を作成し、ミクロフィルタ (DISMIC−13 PIFE 0.45M : ADV ANTEC社製)にて濾過し、0.1μmの厚さのシリコンフイルム(AS ONE製)にスピンコートにより塗布した。次に、窒素雰囲気下、70℃において紫外線照射器(EXECURE3000、HOYA CANDEO OPTRONICS社製)より出射される紫外光をO−54カットフィルター(HOYA製)を通して50mW/cm2(560nm)の強度で照射し、架橋膜を作成した。
【0097】
紫外線照射器(EXECURE3000、HOYA CANDEO OPTRONICS社製)より出射される紫外光を偏光板を介して直線偏光に変換して得られた架橋膜に照射し、その光駆動挙動を確認した。
【0098】
【表1】

【0099】
「実施例4」
実施例1と同様にして調液した塗布液を、ニトフロンフイルム(AS ONE製)に180μm厚のテフロン(登録商標)テープで作製した1cm×2cmの長方形の枠内に流し込み、室温下で約12時間溶媒を蒸発させて高分子膜を作成した。
次に、実施例1と同様に作成した一般式(10)からなるアゾベンゼン基含有高分子P−1を天然ゴム膜表面に塗布した試料において、該アゾベンゼン基含有高分子P−1を塗布した面と裏側にセブンタック(No.6034(株)倉本産業製)を張り合わせ、続いて、ニトフロンフイルム上に作成した前記の高分子膜を転写し、得られた塗布膜に2倍延伸を施し、高分子層がエラストマの両面に貼着されている光アクチュエータを作成した。
【0100】
得られたアクチュエータに紫外線照射器(EXECURE3000、HOYA CANDEO OPTRONICS社製)より出射される紫外光を照射し、その光駆動挙動を確認した。
「実施例5」
実施例1と同様にして調液した塗布液中に実施例1と同様に作成した天然ゴム膜を浸漬した後、取り出し、3倍延伸を施しながら乾燥し、光アクチュエータを作成した。
【0101】
得られたアクチュエータに紫外線照射器(EXECURE3000、HOYA CANDEO OPTRONICS社製)より出射される紫外光を照射し、その光駆動挙動を確認した。
【0102】
以上説明したように、本発明によれば、高い光応答性を示すとともに、複雑な構造体も形成可能な、柔軟な、軽量な、かつ無音で駆動することが可能な光駆動型アクチュエータ、およびその製造方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、光アクチュエータが、光応答性部位となる高分子層を、塗布、あるいは転写によりエラストマ表面に配するという製造適性を有する方法で製造できるため、従来の方法と比較して製造負荷を大きく低減することが可能となる。また、高価な光応答性基を有する高分子層の使用量を削減することができるため、コスト低減が可能となる。
【0103】
なお、本発明の光駆動型アクチュエータは、例えば、医療・介護分野における、能動鉗子、内視鏡、人工筋肉、ドラッグデリバリーシステム、バイオ素子、航空宇宙分野における、小型探査機、生体模倣ロボット、人工衛星などの駆動部に適用できる。さらに、一般機器において、デジタルカメラ、携帯電話、マイクロポンプ、触感ディスプレイ、非接触検査機器などの駆動部に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の第1の実施形態である光駆動型アクチュエータの模式図である。
【図2】本発明の第2の実施形態である光駆動型アクチュエータの模式図である。
【図3】本発明の第3の実施形態である光駆動型アクチュエータの断面図を示す模式図である。
【図4】この第1の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図5】この第2の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図6】この第3の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図7】この第4の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図8】実施例1における結果を示す図である。
【符号の説明】
【0105】
1、2、3、4 光駆動型アクチュエータ
5 載置台
5a 載置台の上面の端部
11、23、31 エラストマ
12、21、22、32 高分子層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光により駆動される光駆動型アクチュエータにおいて、
光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を含む、該光応答性基の構造変化に応じて変形する高分子層と、
前記高分子層が貼着されることにより該高分子層とともに変形するエラストマとを備えたことを特徴とする光駆動型アクチュエータ。
【請求項2】
前記高分子層が、前記エラストマの両面に貼着されていることを特徴とする請求項1記載の光駆動型アクチュエータ。
【請求項3】
前記光応答性基が、アゾベンゼン基であることを特徴とする請求項1記載の光駆動型アクチュエータ。
【請求項4】
前記エラストマが、天然ゴム、アクリル系エラストマ、およびシリコン系エラストマの中から選択されたエラストマであることを特徴とする請求項1記載の光駆動型アクチュエータ。
【請求項5】
光により駆動される光駆動型アクチュエータの製造方法において、
光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を有する高分子をエラストマの表面に塗布する工程を備えたことを特徴とする光駆動型アクチュエータの製造方法。
【請求項6】
光により駆動される光駆動型アクチュエータの製造方法において、
光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を有する重合性分子をエラストマの表面に塗布する工程と、
該重合性分子を重合する工程とを備えたことを特徴とする光駆動型アクチュエータの製造方法。
【請求項7】
光により駆動される光駆動型アクチュエータの製造方法において、
光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を有する高分子を支持体上に塗布して高分子層を形成させる工程と、
該高分子層をエラストマ表面に転写する工程とを備えたことを特徴とする光駆動型アクチュエータの製造方法。
【請求項8】
光により駆動される光駆動型アクチュエータの製造方法において、
光の刺激により構造変化を引き起こす光応答性基を有する重合性分子を支持体上に塗布する工程と、
該重合性分子を重合して高分子層を形成させる工程と、
該高分子層をエラストマ表面に転写する工程とを備えたことを特徴とする光駆動型アクチュエータの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−106945(P2007−106945A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301264(P2005−301264)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】