免疫調節活性を有する細胞集団、単離方法および使用
本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、ならびに移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない、患者の免疫系の調節が有益な疾患に関連した1以上の症状の予防、治療または改善に使用するためのインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を発現することによってインターフェロン-γ(IFN-γ)に応答する結合組織由来細胞の集団を提供する。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、成人組織由来の細胞集団を利用した、患者の免疫系の調節が有益である1以上の症状または疾患の予防、治療または改善に関する。特に、本発明は、患者の免疫系の調節が有益な自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患(immunologically mediated disease)などこれらに限定されない疾患に関連した1以上の症状の予防、治療または改善に使用するための、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を発現することによりインターフェロン-γ(IFN-γ)に応答する結合組織由来細胞の集団を提供する。
【0002】
背景技術
様々な疾患の病原体である細菌、真菌およびウイルスのような微生物をはじめとする、脊椎動物の体内に侵入可能な様々な抗原に対し、高等脊椎動物の免疫系は防御の第一線を提示している。さらに、免疫系は、自己免疫または免疫病理学的疾患、免疫欠損症候群、アテローム性動脈硬化症および種々の新生物性疾患などをはじめとする様々な他の疾患または障害にも関与している。これらの疾患を治療する方法は存在するが、現在用いられている多くの療法は決して十分な結果を提供していない。新たに出現した治療方法のうち、細胞療法に基づく方法は、多数の疾患の治療に潜在的に有用な手段を構成していると思われる。したがって、上記目的を達成するために、多くの努力が研究者達によってなされてきている。
【0003】
自己免疫疾患
自己免疫疾患は、細菌、ウイルスおよび任意の他の異種生成物から身体を防御することを意味する身体の免疫系が機能不全を起こして、健康な組織、細胞および臓器に対して病理学的反応を生じるときに引き起こされる。抗体、T細胞およびマクロファージは有益な防御を提供するが、有害なまたは致命的な免疫学的反応を生じる可能性もある。
【0004】
自己免疫疾患は臓器特異性または全身性であり得、様々な発病機構によって誘発される。臓器特異性自己免疫化は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)抗原の異常発現、抗原類似性(mimicry)およびMHC遺伝子における対立遺伝子変異を特徴としている。全身性自己免疫疾患は、ポリクローナルB細胞活性化、および免疫調節T細胞、T細胞受容体およびMHC遺伝子の異常性を伴う。臓器特異性自己免疫疾患の例は、糖尿病、甲状腺機能亢進症、自己免疫副腎不全症、赤芽球癆(pure red cell anemia)、多発性硬化症およびリウマチ性心臓炎である。典型的な全身性自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス、慢性炎症、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎および強皮症である。
【0005】
現在、自己免疫疾患に用いられている治療は、コルチゾン、アスピリン誘導体、ヒドロキシクロロキン、メトトレキセート、アザチオプリンおよびシクロホスファミド、またはそれらの組合せのような免疫抑制薬の投与が挙げられる。しかしながら、免疫抑制薬を投与するときに直面するジレンマは、自己免疫疾患が効果的に治療されればされるほど、患者は感染症からの攻撃に対して無防備となり、また腫瘍を発現(developing tumour)しやすい、ということである。したがって、自己免疫疾患の治療には、新たな療法が強く望まれている。
【0006】
炎症性疾患
炎症は、身体の白血球および分泌因子が、細菌やウイルスのような外来物質による感染症から我々の身体を保護する過程である。サイトカインおよびプロスタグランジンとして知られている分泌因子はこの過程を制御し、整理された自動制限カスケードにて血液または冒された組織に放出される。
【0007】
炎症性腸疾患(IBD)
IBDは、粘膜T細胞の機能不全、変化したサイトカイン産生、および最終的に遠位小腸および結腸粘膜を損傷する細胞炎症を特徴とする慢性、特発性、再発および組織破壊的疾患のファミリーである。IBDは、臨床的には2つの表現型、クローン病(CD)および潰瘍性大腸炎に分割される。CDは、現在は罹患率が0.05%で、腹痛、直腸出血、下痢、体重減少、皮膚および眼障害、および小児の成長および性的成熟の遅延など一連の胃腸および腸外の症状を生じる慢性炎症となる不治の自己免疫疾患である。これらの症状は、患者の安寧、生活の質、および機能的能力に大きな影響を与えうる。CDは慢性的なものであり、典型的には、30歳以前の年齢で発病するので、患者は大抵一生涯治療を受ける必要がある。その病因は未知のままであるが、CDと、内在抗原に対する免疫応答を弱める粘膜免疫系の機能不全とを関連付ける状況証拠がある。
【0008】
アミノサリチル酸塩、副腎皮質ステロイド、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、抗生物質、およびメトトレキセートなどCDについて現在用いられている治療薬は、完全に有効であるというわけではなく、非特異的であり、多数の有害な副作用を有する。ほとんどの場合に、外科的切除が究極的な代替法である。したがって、現在の治療ストラテジーは、疾患の両要素、すなわち炎症性反応およびT細胞によって行われる反応を特異的に調節する薬剤または作用物質を見出すことにある。
【0009】
近年、インフリキシマブという薬剤は、標準的療法には応答しない中-重度のクローン病の治療および開放性の排液瘻(open, draining fistulas)の治療について承認された。特にクローン病について承認された最初の治療にあたるインフリキシマブは、抗腫瘍壊死因子(TNF)抗体である。TNFは、クローン病に関連した炎症を引き起こすことがある免疫系によって産生されるタンパク質である。抗TNFは、TNFが腸に到達する前に血流から除去することによって炎症を予防する。しかしながら、これは全身的効果を有しかつTNFは極めて多面発現性の因子であるので、重篤な副作用は比較的よく見られ、その長期安全性は未だ確認されていない。また、患者で起こる炎症過程の多くはTNFシグナル伝達に依存しないので、その効力も限定されている。
【0010】
関節リウマチ(RA)
関節リウマチ(rheumatoid arthritis)および若年性関節リウマチは、炎症性関節炎の種類にあたる。関節炎は、関節の炎症を表す一般的用語である。関節炎の種類の全部ではないが幾つかは、過誤神経支配炎症(misdirected inflammation)の結果である。関節リウマチは、世界人口の約1%が罹っており、実質的には身体障害者となっている。関節リウマチは、身体の免疫系が関節に潤滑液を分泌する滑膜を異物として誤って識別する自己免疫疾患である。炎症が生じ、関節およびその周囲の軟骨および組織は損傷を受けまたは破壊される。身体は損傷組織を瘢痕組織に代え、関節中の正常空間は狭くなりかつ骨同士が互いに融合する。
【0011】
関節リウマチでは、持続的抗原提示、T細胞刺激、サイトカイン分泌、滑膜細胞活性化、および関節破壊の自己免疫サイクルがある。
【0012】
現在利用可能な関節炎の療法は、抗炎症薬または免疫抑制薬による関節の炎症を弱めることに集中している。任意の関節炎の治療の第一の系列は、通常はアスピリン、イブプロフェン、ならびにセレコキシブおよびロフェコキシブのようなCox-2阻害薬などの抗炎症薬である。インフリキシマブのような抗TNFヒト化モノクローナル抗体も用いられるが、二次的効果または副作用が多くかつ組成物の効力は低い。「第二系列の薬剤」としては、金、メトトレキセートおよびステロイドが挙げられる。これらは定評のある関節炎の治療法であるが、これらの系列の治療のみでは極めて僅かの患者しか改善せず、困難な治療の問題が関節リウマチの患者には依然として存在する。
【0013】
一般に、現在行われている慢性炎症性疾患の治療法は有効性が極めて限定されており、それらの多くは副作用の発生率が高くまたは疾患の進行を完全に防止することはできない。これまでは、いずれの治療法も理想的なものではなく、これらの種類の病変には良薬はない。したがって、炎症性疾患の治療に対する新たな療法が強く求められている。
【0014】
T細胞応答の阻害
総ての免疫応答は、T細胞によって制御される。自己免疫応答を誘導する潜在性を有する自己反応性細胞は、正常T細胞レパートリーの一部分を含んでいるが、健康状態では、その活性化はサプレッサー細胞によって妨げられる。Tサプレッサー細胞は、1970年代に最初に報告されたが、T細胞サブセットの特性決定における顕著な進歩はごく最近になって行われたものであり、それらは調節T細胞と改名された。
【0015】
様々なCD4+、CD8+、ナチュラルキラー細胞、および調節(サプレッサー)活性を有するγδT細胞サブセットがある。2種類の主要なTreg細胞はCD4+集団で特性決定されており、すなわち、天然に存在し胸腺で生成したTreg細胞、および表面で誘発されたIL-10またはTGF-β分泌Treg細胞 (Trl細胞)がある。胸腺で生成したCD4+CD25+、Foxp3を発現する天然に存在するTreg細胞は表面に移動して、保持される。それらの胸腺での生成および表面での保持についてのシグナルとしては、CD28刺激およびIL-2の両方が必要であると思われるが、完全には確定されていない。表面におけるCD4+CD25+Treg細胞の数は年齢と共に減少しない。しかしながら、これらの細胞はアネルギー状態でありかつアポトーシスを受けやすく、それらの起源の部位である胸腺は年齢と共に退化する。これは、CD4+CD25+ Treg細胞が表面に保持されていることを示唆している。幾つかの実験モデルは、CD4+CD25-T細胞からCD4+CD25+Treg細胞の表面生成のアイディアを支持している。CD4+CD25+Treg細胞の表面拡張を制御する内在因子および機構は、ほとんど知られていない。
【0016】
サイトカイントランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)が、血液中を循環する胸腺由来のプロフェッショナルCD4+CD25+前駆体の拡張において重要な役割を果たしていることの証拠がある。TGF-βは、表面に誘導されるCD4+およびCD8+調節サブセットの生成にも関与している。
【0017】
しかしながら、最近の実験データーは、免疫寛容の機構が、トリプトファン代謝、特にキヌレニン経路でのトリプトファン分解における初期律速段階を触媒する細胞内ヘム含有酵素である酵素インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)の活性に依存していることを示唆している。
【0018】
IDOを発現する細胞は、T細胞応答を抑制しかつ寛容を促進するという仮説を支持する重要な証拠がある(Mellor and Munn, Nat Rev Immunol. 2004 Oct, 4(10) 762-74)。IDOは、樹状細胞(DC)の幾つかのサブセットで発現し、これは免疫応答の重要なレギュレーターである(寛容原性DC)。これらのDCは、トリプトファンを局部的に涸渇させることによってイン・ビボT細胞応答を抑制することができる(米国特許第2002/0155104号明細書)。単球由来のDCおよびマクロファージの他に、幾つかの腫瘍系列、腸細胞およびトロホブラストがIDOを発現する。トロホブラストでのIDOの発現は構成的であると思われ、胎児由来の同種組織の寛容と強く相関している。IDOはT細胞でアポトーシスを誘発すると考えられており、肝臓の同種移植片に対して自発寛容を引き起こす。
【0019】
IDOの免疫抑制活性の後の分子機構は、知られていない。しかしながら、IDOを発現するDCは、調節T細胞の生成を誘導することができることが明らかにされている。IDOは、ヒト細胞ではインターフェロンおよびリポ多糖類(LPS)などの幾つかの炎症メディエーター並びにウイルス感染によって誘発される。幾つかの研究は、宿主免疫系によって拒絶される同種腫瘍細胞がイン・ビボでIDOをアップレギュレーションし、この効果はIFN-γによって伝達されることを示している。
【0020】
最近の実験では、骨髄由来の間葉幹細胞(MSC)および脂肪由来の幹細胞(ASC)のイン・ビトロでの免疫抑制能、ならびにMSCのイン・ビボでの免疫抑制能が示されている。このイン・ビボでの活性は骨髄移植片で検討されており、拡張MSCの融合によって急性および慢性の対宿主性移植片病(GVHD)が減少すると思われる。イン・ビトロ効果は、リンパ球が混合リンパ球反応(MLR)またはフィトヘマグルチニン(PHA)による刺激によって活性化した実験におけるリンパ球増殖の抑制を特徴としている。しかしながら、上記細胞の免疫抑制効果に関与する分子機構は、明確には確認されていない。
【発明の概要】
【0021】
本発明は、様々な結合組織に存在する多分化能を有するある種の細胞集団が、イン・ビボおよびイン・ビトロでの免疫調節因子として作用することを見出したことに基づいている。本発明者らは、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を発現することによってインターフェロン-γ(IFN-γ)に応答する結合組織由来細胞の集団を単離した。上記細胞の免疫調節効果を用いて、自己免疫疾患、炎症性疾患、ならびに移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとする、これらに限定されない患者の免疫系の調節が有益である疾患に関連する1以上の症状を予防し、治療しまたは改善することができる。
【0022】
したがって、一つの態様によれば、本発明は、結合組織から単離した細胞集団であって、細胞集団の細胞が、(i) 抗原提示細胞(APC)からの特異的なマーカー、換言すれば抗原提示細胞に特異的なマーカーを発現せず、(ii) インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を構成的に発現せず、(iii) インターフェロン-γ(IFN-γ)で刺激したときにIDOを発現し、(iv) 少なくとも二細胞系統に分化する能力を示すものに関する。
【0023】
別の態様によれば、本発明は、上記細胞集団の単離方法に関する。この方法により得られる細胞集団は、本発明のさらなる態様を構成する。
【0024】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である疾患の1以上の症状の予防、治療または改善に使用するための、上記細胞集団に関する。
【0025】
別の態様によれば、本発明は、薬剤として使用するため、または移植寛容を誘発するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための、上記細胞集団に関する。特定の態様によれば、上記炎症性疾患は、慢性炎症性疾患、例えば、炎症性腸疾患(IBD)または関節リウマチ(RA)である。
【0026】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である疾患の1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤、例えば、移植寛容を誘発するための薬剤、または自己免疫疾患を治療するための薬剤、または炎症性疾患を治療するための薬剤などの薬剤の製造における、上記細胞集団の使用に関する。
【0027】
別の態様によれば、本発明は、調節T細胞(Treg)の製造または生成(generation)における上記細胞集団の使用に関する。上記Treg細胞集団並びにその単離方法は、本発明のさらなる態様を構成する。
【0028】
別の態様によれば、本発明は、薬剤として使用するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための上記Treg細胞集団に関する。
【0029】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である疾患の1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤などの薬剤、例えば、移植寛容を誘導するための薬剤、または自己免疫疾患を治療するための薬剤、または炎症性疾患を治療するための薬剤、または過敏症IV型反応などこれに限定されないアレルギーを治療するための薬剤などの薬剤の製造における、上記Treg細胞集団の使用に関する。
【0030】
別の態様によれば、本発明は、上記細胞集団を適当な条件下で制御された電離放射線(ionizing radiation)源で照射することを含んでなる、放射線照射した細胞集団の単離方法に関する。上記放射線照射した細胞集団は、本発明のさらなる態様を構成する。
【0031】
別の態様によれば、本発明は、薬剤として使用するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための上記放射線照射した細胞集団に関する。
【0032】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である疾患の1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤,例えば、移植寛容を誘導するための薬剤、または自己免疫疾患を治療するための薬剤、または炎症性疾患を治療するための薬剤などの薬剤の製造における、上記放射線照射した細胞集団の使用に関する。
【0033】
別の態様によれば、本発明は、上記細胞集団をインターフェロン-γ(IFN-γ)で処理することを含んでなる、方法に関する。上記IFN-γを投与した細胞集団は、本発明のさらなる態様を構成する。
【0034】
別の態様によれば、本発明は、薬剤として使用するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための上記IFN-γで処理した細胞集団に関する。
【0035】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である疾患の1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤、例えば、移植寛容を誘導するための薬剤、または自己免疫疾患を治療するための薬剤、または炎症性疾患を治療するための薬剤のような薬剤の製造における、上記IFN-γを投与した細胞集団の使用に関する。
【0036】
別の態様によれば、本発明は、上記細胞集団に(i)放射線照射および(ii)IFN-γによる刺激を行うことを含んでなり、処理(i)および(ii)は任意の順序で行われる、方法に関する。上記の放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団は、本発明のさらなる態様を構成する。
【0037】
別の態様によれば、本発明は、薬剤として使用するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための上記放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団、またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団に関する。
【0038】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である疾患の1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤、例えば、移植寛容を誘導するための薬剤、または自己免疫疾患を治療するための薬剤、または炎症性疾患を治療するための薬剤などの薬剤の製造における上記放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団の使用に関する。
【0039】
別の態様によれば、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患を予防、治療または改善するための上記細胞集団、または上記Treg細胞集団、または上記放射線照射した細胞集団、または上記IFN-γで処理した細胞集団、または上記放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団、または上記のIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団の使用に関する。
【0040】
別の態様によれば、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、または免疫介在疾患に関連した1以上の症状を、その障害または疾患に罹っている患者において予防、治療または改善する方法であって、上記治療を必要とする上記患者に上記細胞集団、または上記Treg細胞集団、または上記放射線照射した細胞集団、または上記IFN-γで処理した細胞集団、または上記放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団、または上記IFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団の予防上または治療上有効量を投与することを含んでなる、方法に関する。本発明はまた、併用療法における上記方法の使用に関し、換言すれば、本発明による細胞集団は1以上の薬剤と共に、第二または他の薬剤と同時に、または別々に、例えば順次に投与される。
【0041】
別の態様によれば、本発明は、上記細胞集団、または上記Treg細胞集団、または上記放射線照射した細胞集団、または上記IFN-γで処理した細胞集団、または上記放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団、または上記IFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団と、薬学上許容可能なキャリヤーとを含んでなる医薬組成物に関する。
【0042】
別の態様によれば、本発明は、成熟した多能性細胞(multipotent cell)を分化細胞から識別する方法であって、細胞がIFN -γで刺激したときにIDOを発現するかどうかを確認することを含んでなる、方法に関する。
【0043】
別の態様によれば、本発明は、上記細胞集団、または上記Treg細胞集団、または上記放射線照射した細胞集団、または上記IFN-γで処理した細胞集団、または上記放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団、または上記IFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団を含んでなるキットに関する。
【発明の具体的説明】
【0044】
上記のように、本発明者らは、総てではないにしても様々な結合組織に存在しかつインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を発現することによってインターフェロン-γ(IFN-γ)に応答する多分化能を有するある種の細胞集団は、イン・ビボおよびイン・ビトロで免疫調節因子として作用することができることを見出した。上記細胞の免疫抑制性の免疫調節作用を用いて、自己免疫疾患、炎症性疾患、ならびに移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患などこれらに限定されない患者の免疫系の調節が有益である疾患の1以上の症状を予防、治療または改善することができる。
【0045】
定義
本発明の説明の理解を容易にするために、本発明に関する幾つかの用語および表現の意味を、以下に説明する。必要な場合には、説明に従って、さらなる定義が包含される。
【0046】
「抗原提示細胞」(APC)という用語は、その表面でMHC(主要組織適合遺伝子複合体)と複合体形成した異種抗原を示す細胞集団を表す。体内のほとんど総ての細胞はT細胞に対する抗原を提示することができるが、「抗原提示細胞」(APC)という用語は、本明細書ではプロフェッショナルAPCともよばれ、それらの表面にHLAIIを発現しかつ単球-マクロファージ系統(例えば、樹状細胞)に由来する特殊化した細胞に限定される。
【0047】
「自己免疫疾患」という用語は、患者自身の細胞に対する患者の免疫反応によって引き起こされる細胞、組織および/または臓器の損傷を特徴とする患者の状態を表す。本発明による細胞集団によって治療することができる自己免疫疾患の説明に役立つ実例としては、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫アジソン病、副腎の自己免疫疾患、自己免疫溶血性貧血、自己免疫肝炎、自己免疫卵巣炎および精巣炎、自己免疫血小板減少症、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労免疫機能不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー、チャーグ-ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡(cicatrical phmphigoid)、CREST症候群、寒冷血球凝集素病、円板状狼瘡、本態性混合寒冷グロブリン血症、繊維筋痛症-繊維筋炎、糸球体腎炎、グレーヴズ病、ギヤン-バレー症候群(Guillain-Barre)、橋本甲状腺炎、特発性肺動脈繊維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgAニューロパシー、若年性関節炎(juvenile arthritis)、扁平苔癬、メニエール病、混合結合組織疾患、多発性硬化症、1型または免疫介在性糖尿病、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎(polychrondritis)、多内分泌腺機能低下症候群、リウマチ性多筋痛、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマーグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、サルコイドーシス、強皮症、進行性全身性硬化症、シェーグレン症候群、グッドパスチャー症候群、スティッフマン症候群、全身性エリテマトーデス、エリテマトーデス、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、疱疹状皮膚炎性脈管炎のような脈管炎、白斑,ヴェーゲナー肉芽腫症などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
「免疫調節薬」という用語は、免疫系の1以上の生物活性を阻害しまたは減少させる薬剤を表す。免疫調節薬は、1以上の免疫細胞(例えば、T細胞)の1以上の生物活性(例えば、増殖、分化、初回免疫、エフェクター機能、サイトカインの産生または抗原の発現)を阻害または減少させる薬剤である。
【0049】
「炎症性疾患」という用語は、炎症、例えば慢性炎症を特徴とする患者の状態を表す。炎症性疾患の説明に役立つ実例としては、関節リウマチ(RA)、炎症性腸疾患(IBD)、喘息、脳炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性骨溶解、アレルギー疾患、敗血症性ショック、肺繊維症(例えば、特発性肺繊維症)、炎症性バキュリチデス(inflammatory vaculitides)(例えば、結節性多発動脈炎、ヴェーゲナー肉芽腫症、高安動脈炎、側頭動脈炎、およびリンパ腫様肉芽腫症)、外傷後血管形成(例えば、血管形成後の再狭窄)、未分化脊椎関節症、未分化関節症、関節炎、炎症性骨溶解、慢性肝炎、および慢性ウイルスまたは細菌感染症から生じる慢性炎症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
細胞集団に適用される「単離された」という用語は、ヒトまたは動物体から単離された細胞集団であって、上記細胞集団とイン・ビボまたはイン・ビトロに関連する1以上の細胞集団を実質的に含まないものを表す。
【0051】
「MHC」(主要組織適合遺伝子複合体)という用語は、細胞表面抗原提示タンパク質をコードする遺伝子のサブセットを表す。ヒトでは、これらの遺伝子は、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と呼ばれる。本明細書では、MHCまたはHLAという略語が互換的に用いられる。
【0052】
「患者」という用語は、動物、好ましくは非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットまたはマウス)および霊長類(例えば、サルまたはヒト)などの哺乳類を表す。好ましい実施態様では、患者はヒトである。
【0053】
「T細胞」という用語は、T細胞受容体(TCR)を発現するリンパ球のサブセットである免疫系の細胞を表す。
【0054】
「調節T細胞」(Treg細胞)という用語は、免疫系の活性化を積極的に抑制しかつ病理学的自己反応性、すなわち自己免疫疾患を防止するT細胞サブセットを表す。
【0055】
本明細書で用いられる「治療 (“treat”, “treatment”, and “treating”)」という用語は、本発明による細胞集団、本発明によるTreg細胞集団または本発明によるIFN-γで予備刺激したTreg細胞集団、またはそれらを含んでなる医薬組成物を、治療を必要とする患者に投与することによって生じる、炎症性疾患、自己免疫疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患などの疾患と関連した1以上の症状の改善を表すが、これらに限定されない。
【0056】
「併用療法」という用語は、炎症性疾患、自己免疫疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとする疾患と関連した1以上の症状の改善するための本発明による方法において、本発明による細胞集団と他の活性薬剤または治療様式とを共に使用することを表す。これらの他の薬剤または治療法は、上記疾患の治療用の既知薬剤および治療法を含んでいてもよい。本発明のよる細胞集団は、副腎皮質ステロイド、非ステロイド性の抗炎症性化合物、または炎症の治療に有用な他の薬剤と組み合わせることもできる。本発明による薬剤とこれら他の治療法または治療様式との組合せ使用は、同時であってもまたは逐次的に投与してもよく、すなわち2つの治療法を分割して、本発明による細胞集団またはそれを含んでなる医薬組成物を他の療法または治療様式の前または後に投与することができる。担当医師は、細胞集団、または細胞集団を含んでなる医薬組成物を他の薬剤、療法または治療様式と組み合わせて投与する適当な順序を決定することができる。
【0057】
本発明による細胞
一つの態様によれば、本発明は、単離された、結合組織由来の細胞集団(以下、「本発明による細胞集団」という)であって、上記細胞集団の細胞が、
a) 抗原提示細胞(APC)に特異的なマーカーを発現せず、
b) インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を構成的に発現せず、構成的とは、任意の特異的誘導なしでの遺伝子の発現を意味するものと理解され、
c) インターフェロン-γ(IFN-γ)で刺激したときにIDOを発現し、
d) 少なくとも二細胞系統に分化する能力を示すこと
を特徴とする、細胞集団に関する。
【0058】
本発明による細胞集団の細胞(以下、「本発明による細胞」という)は、結合組織に由来する。「結合組織」という用語は、間葉由来の組織を表し、その細胞が細胞外マトリックス中に包含されていることを特徴とする幾つかの組織を含む。様々な種類の結合組織の中には、脂肪および軟骨組織が含まれる。特定の態様によれば、本発明による細胞は脂肪組織の間質画分に由来する。他の特定の態様によれば、本発明による細胞は、硝子軟骨に見出される唯一の細胞である軟骨細胞から得られる。もう一つの特定の態様によれば、本発明による細胞は皮膚から得られる。また、もう一つの特定の態様によれば、本発明による細胞は骨髄から得られる。
【0059】
本発明による細胞は、ヒトなどの任意の適当な動物の結合組織の任意の適当な供給源から得ることができる。一般に、上記細胞は、非病理学的な出生後の哺乳類の結合組織から得られる。特定の態様によれば、上記細胞は、脂肪組織、硝子軟骨、骨髄、皮膚などの間質画分のような結合組織の供給源から得られる。また、特定の態様によれば、本発明による細胞集団の細胞は、哺乳類、例えば、齧歯類、霊長類などに由来し、好ましくはヒトに由来する。
【0060】
上記のように、本発明による細胞は、(i) APCに特異的なマーカーを発現せず、(ii) IDOを構成的に発現せず、(iii) IFN-γで刺激したときにIDOを発現し、(iv) 少なくとも二細胞系統に分化する能力を示すことを特徴としている。
【0061】
マーカー
本発明による細胞は、APC系統に特異的なマーカーである下記のマーカーCD11b、CD11c、CD14、CD45およびHLA11の少なくとも1、2、3、4つ、または好ましくは総てに対して陰性である。したがって、本発明による細胞は、上記した特殊APCの部分集団を構成しない。
【0062】
さらに、本発明による細胞は、下記の細胞表面マーカーCD31、CD34およびCD133の少なくとも1、2つ、または好ましくは総てに対して陰性である。
【0063】
本明細書で用いられる細胞表面マーカーに関して「陰性」であるとは、本発明による細胞を含んでなる細胞集団において、通常の方法および装置(例えば、市販抗体と当該技術分野で知られている標準的プロトコルと共に用いたBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)を用いるフローサイトメトリーではバックグラウンドシグナルを上回る特異的細胞表面マーカーに対するシグナルを示す細胞は10%未満、好ましくは9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%であるか、または存在しないことを意味する。特定の態様によれば、本発明による細胞は、下記の細胞表面マーカーCD9、CD44、CD54、CD90およびCD105の少なくとも1、2、3、4つ、または好ましくは総てを発現することを特徴とし、すなわち、本発明による細胞は上記細胞表面マーカー(CD9、CD44、CD54、CD90およびCD105)の少なくとも1、2、3、4つ、または好ましくは総てについて陽性である。好ましくは、本発明による細胞は、上記細胞表面マーカー(CD9、CD44、CD54、CD90およびCD105)の少なくとも1、2、3、4つ、または好ましくは総ての有意な発現レベルを有することを特徴とする。本明細書で用いられる「有意な発現」という表現は、本発明による細胞を含んでなる細胞集団のうち、細胞の10%を上回る、好ましくは20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または総てが、通常の方法および装置(例えば、市販抗体と当該技術分野で知られている標準的プロトコールと共に用いたBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)を用いるフローサイトメトリーにおいて、バックグラウンドシグナルを上回る特異的細胞表面マーカーに対するシグナルを示すことを意味する。バックグラウンドシグナルは、通常のFACS分析においてそれぞれ表面マーカーを検出するのに用いられる特異抗体と同じアイソタイプの非特異抗体によって与えられるシグナル強度として定義される。したがって、マーカーについて陽性と考えるには、通常の方法および装置(例えば、市販抗体と当該技術分野で知られている標準的プロトコルと共に用いたBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)を用いるバックグラウンドシグナル強度と比較して、観察される特異シグナルは、10%より強く、好ましくは20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、500%、1000%、5000%、10000%またはそれ以上である。
【0064】
所望により、本発明による細胞は、細胞表面マーカーCD106(VCAM-1)に対しても陰性である。このような細胞の例としては、本明細書に記載の脂肪組織由来の間質幹細胞のある種の集団である。
【0065】
上記細胞表面マーカー(例えば、細胞性受容体および膜貫通タンパク質)に対する市販および既知のモノクローナル抗体を用いて、本発明による細胞を同定することができる。
【0066】
IDOの発現
本発明による細胞はIDOを構成的に発現しないが、IFN-γで刺激するとIDOを発現する。本発明者らが行った実験には、上記細胞は、3ng/mlの濃度で用いられるインターロイキン-1(IL-1)、50ng/mlの濃度で用いられる腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、または100ng/mlの濃度で用いられる内毒素LPSのような他のプロインフラマトリーメディエーター(pro-inflammatory mediator)で単独で刺激したときに、通常のRT-PCRおよびウェスタンブロット分析によって測定したところ、IDO発現を誘導しないことが示されている。例えば、3ng/ml以上のIFN-γで刺激することによっても、本発明による細胞にHLAIIの発現を誘導し、細胞表面マーカーについて本明細書で定義した陽性シグナルを生じることもできる。上記発現は、特異タンパク質の発現を検出することができる任意の既知手法を用いて当業者が検出することができる。好ましくは、上記手法は、細胞サイトメトリーの手法である。
【0067】
分化
本発明による細胞は、増殖しかつ少なくとも2つ、さらに、好ましくは3、4、5、6、7つ、またはそれ以上の細胞系統に分化する能力を提示する。本発明による細胞を分化させることができる細胞系統の実例となる非制限的例としては、骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、腱細胞、筋細胞、心筋細胞、造血支持間質細胞、内皮細胞、ニューロン、星状細胞、および肝細胞が挙げられる。
【0068】
本発明による細胞は、通常の方法によって増殖しかつ他の系統の細胞に分化することができる。分化細胞を同定し、対応する未分化細胞から単離する方法も、当該技術分野で周知の方法によって行うことができる。
【0069】
本発明による細胞は、エクス・ビボで拡張(expanded)することもできる。すなわち、単離後に本発明による細胞を保持し、培地中でエクス・ビボで増殖させることができる。このような培地は、例えば、抗生物質(例えば、100単位/mlのペニシリンと100μg/mlのストレプトマイシン)を含むかまたは抗生物質を含まず、かつ2mMグルタミンを含み、2-20%のウシ胎児血清(FBS)を補足したダルベッコの改良イーグル培地(DMEM)から構成されている。用いる細胞に必要な培地および/または培地補給物の濃度を改良しまたは調節することは当該技術者の技術の範囲内にある。血清は、生長力と拡張に必要な細胞および非細胞因子および成分を含むことが多い。血清の例としては、FBS、ウシ血清(BS)、子ウシ血清(CS)、ウシ胎児血清(FCS)、新生子ウシ血清(NCS)、ヤギ血清(GS)、ウマ血清(HS)、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清(RS)などが挙げられる。また、本発明による細胞がヒト起源のものであるときには、ヒト血清を用いる細胞培地の補給物は好ましくは自己由来物であることが意図される。補体カスケードの成分を不活性化することが必要と思われるときには、血清を55-65℃で熱不活性化することができることは無論である。血清濃度、血清の培地からの回収を用いて、1以上の所望な種類の細胞の生存を促進することもできる。好ましくは、本発明による細胞は、FBS濃度が約2%-約25%が有利である。もう一つの態様によれば、本発明による細胞は、血清を、血清アルブミン、血清トランスフェリン、セレン、および組換えタンパク質(当該技術分野で知られているインスリン、血小板由来の増殖因子(PDGF)、および塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)などこれらに限定されない)の組合せに置き換えてある限定組成の培地で拡張させることができる。
【0070】
多くの細胞培地はアミノ酸を既に含んでいるが、幾つかは細胞を培養する前に補給物を要求する。上記のようなアミノ酸としては、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-アスパラギン、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
抗菌薬もまた、典型的に細胞培養に用いられ、細菌、マイコプラズマおよび真菌による汚染を軽減する。典型的には、用いられる抗生物質または抗真菌化合物は、ペニシリン/ストレプトマイシンの混合物であるが、アンホテリシン(Fungizon(登録商標))、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ヒグロマシン(hygromacin)、カナマイシン、マイトマイシンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
ホルモンを細胞培養に有利に用いることもでき、D-アルドステロン、ジエチルスチルベストロール(DES)、デキサメタゾン、b-エストラジオール、ヒドロコルチゾン、インスリン、プロラクチン、プロゲステロン、ソマトスタチン/ヒト成長ホルモン(HGH)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
本発明による細胞の維持条件は、細胞を未分化形態のままにさせておく細胞因子を含むこともできる。分化前に、細胞分化を阻害する補給物を培地から取り除かねばならないことは、当業者には明らかであろう。総ての細胞がこれらの因子を要求するわけではないことも明らかである。実際に、これらの因子は、細胞の種類によっては望ましくない効果を誘発することがある。
【0074】
有利なことに、本発明による細胞はイン・ビボでの腫瘍形成活性を欠いている。したがって、上記細胞は腫瘍形成活性を提示しない、すなわち、それらは腫瘍細胞を生じる変化した挙動または増殖表現型を提示しないことを特徴とする。
【0075】
ある態様によれば、本発明による細胞を、自己免疫疾患、炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応のような免疫介在疾患に罹っている患者に投与し、免疫応答を抑制することができる。したがって、本発明による細胞は、腫瘍形成活性を提示しないことが必要である。
【0076】
本発明による細胞の腫瘍形成活性は、免疫不全マウス株を用いて動物実験を行うことによって試験することができる。これらの実験では、数百万個の細胞をレシピエント動物の皮下に移植し、数週間保持し、腫瘍形成について分析を行う。詳細な分析法は、実施例3に記載している。
【0077】
本発明による細胞は、トランスフェクションしまたは遺伝子工学処理を行い、少なくとも1個の抗原性ポリペプチドを発現させることができる。一つの態様によれば、抗原は、精製したまたは合成または組換えポリペプチドであって、寛容を誘導することが意図される特異抗原を提示するもの、またはこのような抗原のアミノ酸配列に由来する短い合成ポリペプチドを含んでなる。好ましくは、抗原の供給源は、ドナー組織移植片によって発現される抗原を含んでなる。また、好ましくは、抗原の供給源は、患者が自己免疫疾患に罹っているタンパク質を含んでなる。
【0078】
IDO発現細胞の単離方法
一つの態様によれば、本発明は、結合組織から細胞集団を単離する方法であって、上記細胞集団の細胞が、(i) APCに特異的なマーカーを発現せず、(ii) IDOを構成的に発現せず、(iii) IFN-γで刺激したときにIDOを発現し、(iv) 少なくとも二細胞系統に分化する能力を示すことを特徴とする表現型を提示し、
(i) 結合組織の試料から細胞懸濁液を用意し、
(ii) 上記細胞懸濁液から細胞を回収し、
(iii) 上記細胞を、固体表面上の適当な細胞培地中で細胞が固体表面に接着して増殖する条件下でインキュベーションし、
(iv) インキュベーション後に上記固体表面を洗浄して、非接着細胞を除去し、
(v) 上記培地で少なくとも2回継代培養した後、上記固体表面に接着したままの細胞を選択し、
(vi) 選択した細胞集団が所望の表現型を示すことを確認すること
を含んでなる、上記方法に関する。
【0079】
本明細書で用いられる固体表面という用語は、本発明による細胞を接着させる任意の材料を表す。特定の態様によれば、上記材料はその表面への哺乳類細胞の接着を促進する処理を行ったプラスチック材料であり、例えば、場合によってはポリ-D-リシンまたは他の試薬でコーティングした市販のポリスチレンプレートである。
【0080】
工程(i)-(vi)は、当業者によって知られている通常の手法によって行うことができる。簡潔にいえば、本発明による細胞は、ヒトなどの任意の適当な動物由来の結合組織の任意の適当な供給源から、例えば、ヒト脂肪組織または軟骨組織から通常の手段によって得ることができる。動物は、動物体内の結合組織細胞が生育可能である限り、生きていてもまたは死んでいてもよい。典型的には、ヒト脂肪細胞は、外科手術または吸引による脂肪組織切除のような周知のプロトコルを用いて生きているドナーから得られる。実際に、脂肪吸引処置は極めてよく行われているので、脂肪吸引流出物は本発明による細胞を得ることができる特に好ましい供給源である。したがって、特定の態様によれば、本発明による細胞は、脂肪吸引によって得られるヒト脂肪組織の間質画分に由来する。別の特定の態様によれば、本発明による細胞は、関節鏡の手法によって得られるヒト硝子関節軟骨に由来する。もう一つの特定の態様によれば、本発明による細胞は、生験の手法によって得られるヒト皮膚に由来する。同様に、別の特定の態様によれば、本発明による細胞は、吸引によって得られるヒト骨髄に由来する。
【0081】
結合組織の試料は、本発明による細胞を材料から分離する処理を行う前に、好ましくは洗浄する。一つのプロトコールによれば、結合組織の試料を生理学的に適合する食塩溶液(例えば、リン酸緩衝食塩水(PBS))で洗浄した後、激しく攪拌して沈澱させ、この工程で、結合していないもの(例えば、損傷組織、血液、赤血球など)を組織から除去する。したがって、洗浄および沈澱工程は、一般的には上清が相対的に破片が見られなくなるまで反復する。残っている細胞は、様々な大きさの凝集塊で存在しており、プロトコルは細胞自身の損傷をできるだけ少なくしながら大きな構造を分解するように調整された工程を用いて進行する。この目的を達成する一つの方法は、洗浄した細胞塊を細胞間の結合を弱めまたは破壊する酵素(例えば、コラゲナーゼ、ジスパーゼ、トリプシンなど)で処理する方法である。このような酵素処理の量および時間は用いる条件によって変化するが、このような酵素の使用は当該技術分野で一般的に知られている。あるいはまた、このような酵素処理と共に、細胞塊を機械攪拌、音波エネルギー、熱エネルギーなど他の処理法を用いて分解することができる。分解を酵素法によって行うときには、適当な期間の後に酵素を中和して、細胞に対する有害な作用を最小限にするのが望ましい。
【0082】
分解工程においては、典型的には、凝集細胞のスラリーまたは懸濁液と、一般的には遊離の間質細胞(例えば、赤血球、平滑筋細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、および幹細胞)を含む流動性画分とを生じる。分離工程における次の局面は、凝集細胞を本発明による細胞から分離することである。これは遠心分離によって行うことができ、これによって細胞は上清によって被覆されたペレットとなる。次に、上清を廃棄して、ペレットを生理学的に適合する流体に懸濁することができる。さらに、懸濁した細胞は典型的には赤血球を含み、ほとんどのプロトコールでは、それらを溶解するのが望ましい。赤血球を選択的に溶解する方法は当該技術分野で知られており、任意の適当なプロトコール(例えば、高張または低張媒質中でのインキュベーション、塩化アンモニウムを用いる溶解など)を用いることができる。勿論、赤血球を溶解したならば、残っている細胞を溶解物から濾過、沈降分離、または密度分別などによって分離すべきである。
【0083】
赤血球が溶解されているかどうかとは無関係に、懸濁した細胞を1回以上連続的に洗浄し、再度遠心分離し、再懸濁して、純度を高めることができる。あるいは、細胞を細胞表面マーカープロフィールに基づいてまたは細胞の大きさおよび粒度に基づいて分離することもできる。
【0084】
最終的単離および再懸濁の後、細胞を培養し、所望ならば数および生育力について分析を行って、収率を評価することができる。細胞は、固体表面上で適当な細胞密度および培養条件で適当な細胞培地を用いて分化なしで培養するのが望ましい。したがって、特定の態様によれば、細胞は、通常はペトリ皿または細胞培養フラスコのようなプラスチック材料製の固体表面上で適当な細胞培地[例えば、DMEMであって、典型的にはウシ胎児血清またはヒト血清のような適当な血清5-15%(例えば、10%)を補足したもの]の存在下にて分化なしで培養し、細胞が固体表面に接着して増殖する条件下でインキュベーションする。インキュベーションの後、細胞を洗浄して、非接着細胞と細胞断片を除去する。細胞が適正なコンフルエンス、典型的には約80%細胞コンフルエンスに到達するまで、同一培地で同一条件下にて、必要な場合には細胞培地を交換しながら培養を行う。所望な細胞コンフルエンスに到達した後、細胞をトリプシンのような脱離剤を用いてより大きな細胞培養表面に適当な細胞密度(通常は、2,000-10,000個/cm2)で播種する連続継代によって拡張することができる。したがって、細胞を次に少なくとも2回上記培地中で分化なしで発生表現型を保持しながら継代し、さらに、好ましくは、細胞を少なくとも10回(例えば、少なくとも15回またはさらに、少なくとも20回)発生表現型を喪失することなく継代することができる。典型的には、細胞を約100個/cm2〜約100,000個/cm2(例えば、約500個/cm2〜約50,000個/cm2、またはさらに、詳細には約1,000個/cm2〜約20,000細胞/cm2)のような所望の密度で培養する。低めの密度(例えば、約300細胞/cm2)で培養すると、細胞は一層容易にクローンとして単離することができる。例えば、数日後には、上記密度で培養した細胞は増殖して均質な集団となる。特定の態様によれば、細胞密度は2,000〜10,000個/cm2である。
【0085】
少なくとも2回の継代を含んでなる上記処理の後に固体表面に接着したままの細胞を選択し、目的の表現型を通常の方法によって分析し、以下に述べるように本発明による細胞の同一性を確認する。一回目の継代の後に固体表面に接着したままの細胞は異種起源に由来し、この細胞は少なくとももう一回継代を行わなければならない。上記方法の結果として、目的の表現型を有する均質な細胞集団が得られる。実施例1には、ヒト脂肪組織およびヒト軟骨組織由来の本発明による細胞の単離が詳細に記載されている。
【0086】
通常は、二回目の継代の後に固体表面に接着したままの細胞は目的の表現型を示すが、細胞が本発明によって用いることができるかどうかを確かめなければならない。したがって、少なくとも2回の継代の後の固体表面への細胞の接着は、本発明による細胞を選択するための本発明の好ましい態様を構成する。目的の表現型は、通常の手段を用いて確認することができる。
【0087】
細胞表面マーカーは、通常は陽性/陰性選択に基づく任意の適当な通常の手法によって同定することができ、例えば、細胞における存在/非存在を確かめなければならない細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体を用いることができるが、他の手法を用いることもできる。したがって、特定の態様によれば、CD11b、CD11c、CD14、CD45、HLAII、CD31、CD34およびCD133の1、2、3、4、5、6、7つ、または好ましくは総てに対するモノクローナル抗体を用いて、選択された細胞における上記マーカーの非存在を確かめ、CD9、CD44、CD54、CD90およびCD105の少なくとも1、2、3、4つ、または好ましくは総てに対するモノクローナル抗体を用いて、上記マーカーの存在または上記マーカーの少なくとも1つまたは好ましくはその総ての検出可能な発現レベルを確かめる。上記モノクローナル抗体は既知で、市販されているか、または当業者であれば通常の方法によって得ることができる。
【0088】
選択された細胞におけるIFN-γによって誘導可能なIDO活性は、任意の適当な通常の分析法によって測定することができる。例えば、選択された細胞をIFN-γで刺激して、IDO発現について分析することができ、次いで、IDOタンパク質発現についての通常のウェスタンブロット分析を行うことができ、選択された細胞をIFN-γ刺激した後、IDO酵素活性を、例えば高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によるトリプトファン-キヌレニン転換および上清におけるキヌレニン濃度の光度法による測定を読み出しとすることによって計測することができる。本発明による細胞は一定条件下ではIDOを発現するので、IFN-γで刺激した後にIDO活性を検出する任意の適当な手法を用いて本発明による細胞を選択することができる。選択された細胞におけるIFN-γによって誘導可能なIDO活性を測定するための適当な分析法は、実施例2に記載されている。生成するIDOの量は、平方センチメーター当たりの細胞の個数(好ましくは5000個/cm2以上のレベルであるが、この濃度に限定されない)およびIFN-γの濃度(理想的には3ng/ml以上であるが、この濃度に限定されない)に依存する。上記の条件下で生成したIDOの活性は、24時間以上後にはキヌレニンをμM範囲の検出可能な量で生成する。
【0089】
選択された細胞が少なくとも2つの細胞系統に分化する能力は、当該技術分野で知られている通常の方法によって分析することができる。
【0090】
本発明によって提供される細胞および細胞集団は、所望ならば、細胞集団をクローニングするための適当な方法を用いてクローンとして拡張することができる。例えば、増殖した細胞集団を物理的に選択して、異なるプレート(またはマルチウェルプレートのウェル)に播種することができる。あるいは、単細胞をそれぞれのウェルへの配置するのを促進するための統計学的比率(例えば、約0.1〜約1個/ウェルまたは約0.25〜約0.5個/ウェル、例えば0.5個/ウェル)で、細胞をマルチウェルプレート上にサブクローニングすることができる。勿論、細胞は、低密度(例えば、ペトリ皿または他の適当な基質中)で培養し、クローニングリング(cloning ring)のような装置を用いて他の細胞から単離することによってクローニングすることができる。クローン集団の産生は、任意の適当な培地で拡張することができる。いずれにせよ、単離した細胞を、発生表現型を評価することができる適当な時点まで培養することができる。
【0091】
本発明者らが行ったさらなる検討によれば、分化の誘導なしの本発明による細胞のエクス・ビボ拡張は、例えば適当な血清(例えば、ウシ胎児血清またはヒト血清)の特別にスクリーニングしたロットを用いることによって長時間行うことができることを示していた。生育力および収率の測定方法は、当該技術分野で知られている(例えば、トリパンブルー排除)。
【0092】
本発明による細胞集団の細胞を単離するための工程および処置のいずれも、所望ならば、手動で行うことができる。あるいは、このような細胞を単離する方法は、1以上の適当な装置であって、その例が当該技術分野で知られているものによって促進しおよび/または自動化することができる。
【0093】
本発明による細胞の使用
本発明による細胞によれば、自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患などこれらに限定されない患者の免疫系の調節が有益である疾患に関連する1以上の症状を予防し、治療しまたは改善することができる。
【0094】
したがって、別の態様によれば、本発明による細胞は、薬剤として用いられる。特定の態様によれば、本発明による細胞を含む薬剤を用いて、移植寛容を誘導し、または自己免疫または炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患の症状を、その障害または疾患のいずれかに罹っている患者において治療により改善することができる。したがって、本発明による細胞は、免疫または炎症性疾患のいずれかに罹っている患者の上記障害の症状を治療または予防的に治療することによって症状を改善し、または免疫介在疾患に罹っている患者の上記疾患の症状を改善するのに用いることができる。
【0095】
本明細書で用いられる「障害」および「疾患」という用語は、互換的に患者の状態を表す。特に、「自己免疫疾患」という用語は、「自己免疫障害」という用語と互換的に用いられ、患者自身の細胞、組織および/または臓器に対する患者の免疫反応によって引き起こされる細胞、組織および/または臓器損傷を特徴とする患者の状態を表す。「炎症性疾患」という用語は、「炎症性障害」という用語と互換的に用いられ、炎症、好ましくは慢性炎症を特徴とする患者の状態を表す。自己免疫障害は、炎症と関連することがありまたはしないこともある。さらに、炎症は、自己免疫疾患によって引き起こされることがありまたは引き起こされないこともある。したがって、ある種の障害は、自己免疫および炎症性疾患の両方を特徴とすることがある。
【0096】
ある状態により患者に自己免疫を生じるメカニズムは、一般にはよく理解されていないが、遺伝学的および内因性要因の両方を含んでいる可能性がある。例えば、細菌、ウイルスまたは薬剤は、自己免疫障害の遺伝学的素因を既に有している患者では自己免疫反応を誘発する役割を果たすことがある。例えば、ある種の共通アレルギーの患者は、自己免疫障害に一層罹りやすい。
【0097】
実際に、どのような自己免疫疾患、炎症性疾患または免疫介在疾患も、本発明による細胞で治療することができる。治療することができる上記疾患および障害の実例となる非制限的例は、「定義」の項で上記されたものである。特定の態様によれば、上記炎症性疾患は、例えば、IBDまたはRAなどの慢性炎症性疾患である。
【0098】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤の製造における本発明による細胞の使用に関する。したがって、本発明はまた、免疫応答を抑制するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための薬剤の製造における本発明による細胞の使用に関する。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は、上記している。特定の態様によれば、疾患は、慢性炎症性疾患のような炎症性疾患、例えばIBDまたはRAである。
【0099】
別の態様によれば、本発明は、調節T細胞(Treg)、すなわち、免疫系の活性化を積極的に抑制し、病理学的自己反応性、すなわち自己免疫疾患を予防する細胞の製造または生成における本発明による細胞の使用に関する。
【0100】
本発明によるTreg細胞
本発明はまた、別の態様によれば、調節T細胞(Treg)、すなわち、免疫系の活性化を積極的に抑制し、病理学的自己反応性、すなわち自己免疫疾患を予防する、本発明による細胞から得られる細胞(Foxp3+CD4+CD25+ TregおよびIL-10/TGFb産生Tr1細胞)に関する(以下、本発明によるTreg細胞という)。
【0101】
したがって、別の態様によれば、本発明は、本発明によるTreg細胞集団の単離方法であって、
(a) 本発明による細胞集団を末梢血白血球と接触させ、
(b) 本発明によるTreg細胞集団を選択すること
を含んでなる、方法に関する。
【0102】
したがって、本発明による細胞を用いて、T細胞のサブセットである本発明によるTreg細胞を産生することができ、これは本発明の別の態様を構成する。本発明によるTreg細胞は、当業者に知られている通常の手段によって単離することができる。
【0103】
本発明によるTreg細胞は、患者の免疫系の調節が有益である自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するために用いることができる。上記使用は、本発明の別の態様を構成する。
【0104】
したがって、別の態様によれば、本発明によるTreg細胞は薬剤として用いられる。特定の態様によれば、本発明によるTreg細胞を含む薬剤を用いて、移植寛容を誘導し、または、自己免疫または炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患症状を、その障害または疾患のいずれかに罹っている患者において治療し、改善することができる。したがって、本発明によるTreg細胞は、免疫または炎症性疾患のいずれかに罹っている患者の上記障害の症状を治療または予防的に治療することによって症状を改善し、または免疫介在疾患に罹っている患者の上記疾患の症状を改善するのに用いることができる。
【0105】
実際に、どのような自己免疫疾患、炎症性疾患または免疫介在疾患も、本発明によるTreg細胞で治療することができる。治療することができる上記疾患および障害の実例となる非制限的例は、「定義」の項で上記されたものである。特定の態様によれば、上記炎症性疾患は、例えば、IBDまたはRAなどの慢性炎症性疾患である。
【0106】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤の製造における本発明によるTreg細胞の使用に関する。したがって、本発明はまた、免疫応答を抑制するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための薬剤の製造における本発明によるTreg細胞の使用に関する。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は、上記している。特定の態様によれば、疾患は、慢性炎症性疾患のような炎症性疾患、例えばIBDまたはRAである。
【0107】
本発明は、選択された抗原または抗原群に特異的なTreg細胞の産生における本発明による細胞集団の使用、およびその抗原または抗原群に関する疾患または障害の治療におけるこれらの細胞集団の使用も提供する。このような抗原の例は、例えば、関節リウマチ、クローン病、過敏性反応IV型、狼瘡、乾癬、および当該技術分野で知られておりかつ本明細書の他の箇所に記載されている他の自己免疫疾患のような自己免疫疾患において役割を果たす抗原が挙げられる。簡潔にいえば、本発明による細胞集団は、選択された抗原、抗原群、またはこの抗原を発現しおよび/または提示する細胞型の存在下にてイン・ビトロで培養される。本発明による細胞は、所望によりIFN-γ、LPSまたは当該技術分野で知られている他の活性剤で予備刺激することができる。約2、4、6、12、24、48時間以上、好ましくは約12〜約24時間の培養時間の後、本発明による細胞集団を、所望により抗原、抗原群または上記抗原を持っている細胞を除去した後に、患者から得た末梢血白血球と共培養する。この共培養により、選択された抗原に特異的なTreg細胞が生成し、患者の治療に用いることができる。所望により、これらのTreg細胞の数を当該技術分野で知られている培養法を用いてエクス・ビボで拡張した後、患者に投与することができる。理論によって束縛しようとするものではないが、本発明者らは、本発明による細胞集団が、細胞表面上のHLAクラスIIを介して選択された抗原(IFN-γによって誘導されると思われる)を末梢血白血球に提示し、Treg細胞が末梢血白血球の集団内で増加しおよび/または活性化されるようにすることができると考えている。実施例11に示されるように、本発明者らは、本発明による細胞集団が低分子量分子を食細胞することができ、したがって、HLAクラスII分子を介するIFN-γ刺激の後にこれらの分子を提示することができることを明らかにした。末梢血白血球との相互作用を用いるこのメカニズムを介して選択された抗原を提示することにより、上記Treg細胞を生成すると思われる。代替処理法としては、実施例7に記載されているように、本発明による細胞集団は全く共培養することなくイン・ビボで直接投与し、特異的なTreg細胞を生成することができ、これが続いて疾患を治療する。
【0108】
したがって、本発明は、
(a) 本発明による細胞集団を上記選択された抗原または抗原群と接触させ、
(b) 上記細胞集団を末梢血白血球と接触させ、
(c) 上記選択された抗原または抗原群に特異的なTreg細胞集団を選択すること
を含んでなる、選択された抗原または抗原群に特異的なTreg細胞を得るイン・ビトロ法を提供する。
【0109】
本発明はまた、上記選択された抗原または抗原群に関連した疾患および障害の治療における上記Treg細胞の使用であって、工程(c)の特異的Treg細胞を末、梢血白血球を得た患者に投与することによる使用を提供する。この方法に用いられる本発明による細胞集団は、患者由来(自己由来)であってもまたはドナー由来(同種異系)であってもよい。
【0110】
本発明による放射線照射した細胞
本発明による細胞は、γ線照射装置のような適当に制御された電離放射線の線源を用いて放射線照射することができる。照射条件は、当業者が実験的に調整して、本発明による細胞の長時間成長抑止を引き起こす放射線量を賦与するのに必要な被爆時間を決定しなければならない。上記の放射線量は、例えば、1〜100、5〜85、10〜70、12〜60Gy、さらに、好ましくは15〜45Gyとすることができる。
【0111】
本発明による細胞は治療用途に用いることができるので、患者に投与する前に本発明による細胞に放射線照射することは、この照射処理によって細胞が患者体内で長時間増殖しまたは生存することができなくなるので、有益な結果となることがある。上記の放射線照射した細胞は、本発明の別の態様を構成する。
【0112】
本発明による放射線照射した細胞は、患者の免疫系の調節が有益である自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するために用いることができる。この用途は、本発明の別の態様を構成する。
【0113】
したがって、別の態様によれば、本発明による放射線照射した細胞は、薬剤として用いられる。特定の態様によれば、本発明による放射線照射した細胞を含む薬剤を用いて、移植寛容を誘導し、あるいは、自己免疫または炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患の症状を、その障害または疾患のいずれかに罹っている患者において、治療することにより改善することができる。したがって、本発明による放射線照射した細胞は、免疫または炎症性疾患のいずれかに罹っている患者の上記障害の症状を治療または予防的に治療することによって症状を改善し、または免疫介在疾患に罹っている患者の上記疾患の症状を改善するのに用いることができる。
【0114】
実際に、どのような自己免疫疾患、炎症性疾患または免疫介在疾患も、本発明による放射線照射した細胞で治療することができる。治療することができる上記疾患および障害の実例となる非制限的例は、「定義」の項で上記されたものである。特定の態様によれば、上記炎症性疾患は、例えば、IBDまたはRAなどの慢性炎症性疾患である。
【0115】
別の態様によれば、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない、患者の免疫系の調節が有益な疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤の製造における本発明による放射線照射した細胞の使用に関する。したがって、本発明はまた、免疫応答を抑制するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための薬剤の製造における本発明による放射線照射した細胞の使用に関する。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は、上記している。特定の態様によれば、疾患は、慢性炎症性疾患のような炎症性疾患、例えばIBDまたはRAである。
【0116】
本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞
同様に、所望ならば、本発明による細胞は、IFN-γで予備刺激することができる。IFN-γによる予備刺激の方法は当業者には明らかであり、手順は実施例2に示されている。好ましくは0.1〜100、0.5〜85、1〜70、1.5〜50、2.5〜40ng/ml、またはさらに、好ましくは3〜30ng/mlの濃度のIFN-γ、および好ましくは12時間を上回る、例えば、13、18、24、48、72時間以上の刺激時間を用いて、細胞を予備刺激する。
【0117】
本発明による細胞は治療用途に用いることができる。よって、患者に投与する前に本発明による細胞をIFN-γで予備刺激する結果、患者におけるIFN-γで予備刺激した細胞の投与とIDO発現との間の時間を減少させることができるので、有益な結果となることがある。
【0118】
したがって、別の態様によれば、本発明は、本発明による細胞をIFN-γで処理してこの細胞を予備刺激することを含んでなる方法に関する。この方法によって得ることができる細胞(以下、「本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞」という)は、本発明の別の態様を構成する。本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞は、当業者に知られている通常の手段によって単離することができる。
【0119】
本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞は、自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない、患者の免疫系の調節が有益な疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するために用いることができる。上記使用は、本発明の別の態様を構成する。
【0120】
したがって、別の態様によれば、本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞は、薬剤として用いられる。特定の態様によれば、本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞を含む薬剤を用いて、移植寛容を誘導し、あるいは、自己免疫または炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患の症状を、その障害または疾患のいずれかに罹っている患者において、治療することにより改善することができる。したがって、本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞は、免疫または炎症性疾患のいずれかに罹っている患者の上記障害の症状を治療または予防的に治療することによって症状を改善し、または免疫介在疾患に罹っている患者の上記疾患の症状を改善するのに用いることができる。
【0121】
実際に、どのような自己免疫疾患、炎症性疾患または免疫介在疾患も、本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞で治療することができる。治療することができる上記疾患および障害の実例となる非制限的例は、「定義」の項で上記されたものである。特定の態様によれば、上記炎症性疾患は、例えば、IBDまたはRAなどの慢性炎症性疾患である。
【0122】
別の態様によれば、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない、患者の免疫系の調節が有益な疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤の製造における本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞の使用に関する。したがって、本発明はまた、免疫応答を抑制するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための薬剤の製造における本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞の使用に関する。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は、上記している。特定の態様によれば、疾患は、慢性炎症性疾患のような炎症性疾患、例えばIBDまたはRAである。
【0123】
本発明による放射線照射しIFN-γで予備刺激した細胞および本発明によるIFN-γで予備刺激し放射線照射した細胞
さらに、所望ならば、本発明による細胞に放射線照射およびIFN-γによる刺激の処理を任意の順序で行い、すなわち、本発明による細胞に最初に放射線照射を行い、生成する細胞を次にIFN-γで刺激することができ、または反対に、本発明による細胞を最初にIFN-γで刺激した後に、生成する細胞に放射線照射を行うことができる。
【0124】
したがって、一つの態様によれば、本発明による細胞をIFN-γで予備刺激し、生成する細胞(本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞)に放射線照射を行うことができ、放射線照射した細胞を、以下「本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞」という。
【0125】
別の態様によれば、本発明による細胞を放射線照射し、生成する細胞(本発明による放射線照射した細胞)をIFN-γで予備刺激することができ、IFN-γで予備刺激した細胞を、以下「本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞」という。
【0126】
細胞をIFN-γで予備刺激する方法並びに細胞に放射線照射する方法は、当業者には周知であり、それらの幾つかは上記している。上記方法のいずれを用いることもできる。
【0127】
したがって、別の態様によれば、本発明は、本発明による細胞に(i) 放射線照射および(ii) IFN-γによる刺激を施してなる方法であって、処理(i)および(ii)は任意の順序で行うことができ、IFN-γで予備刺激した細胞を放射線照射し、または放射線照射した細胞をINF-γで予備刺激する方法に関する。上記の方法によって得ることができる細胞(本明細書では「本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞」または「本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞」と呼ぶ)は、それぞれ本発明の追加態様を構成する。上記本発明の放射線照射しIFN-γで予備刺激した細胞並びに上記本発明のIFN-γで予備刺激した放射線照射細胞は、当業者に知られている通常の手段によって単離することができる。
【0128】
本発明による細胞は治療用途に適用できるので、予め放射線照射およびIFN-γ-刺激を任意の順序で施した本発明による細胞を患者に投与すると、上記の理由から有利となることがある(例えば、細胞に放射線照射処理を施すと、細胞が患者体内で長時間増殖または生存することができなくなり、一方、患者に投与する前に細胞をIFN-γで刺激すると、IFN-γで予備刺激した細胞の投与と患者におけるIDO発現との間の時間が短縮されることがある)。
【0129】
本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞並びに本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞は、患者の免疫系の調節が有益である自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するために用いることができる。上記使用は、本発明の別の態様を構成する。
【0130】
したがって、別の態様によれば、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞並びに本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞は、薬剤として用いられる。特定の態様によれば、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞を含む薬剤を用いて、移植寛容を誘導し、あるいは、自己免疫または炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患の症状を、その障害または疾患のいずれかに罹っている患者において、治療することにより改善することができる。したがって、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞並びに本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞は、免疫または炎症性疾患のいずれかに罹っている患者の上記障害の症状を治療または予防的に治療することによって症状を改善し、または免疫介在疾患に罹っている患者の上記疾患の症状を改善するのに用いることができる。
【0131】
実際に、どのような自己免疫疾患、炎症性疾患または免疫介在疾患も、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞で治療することができる。治療することができる上記疾患および障害の実例となる非制限的例は、「定義」の項で上記されたものである。特定の態様によれば、上記炎症性疾患は、例えば、IBDまたはRAなどの慢性炎症性疾患である。
【0132】
別の態様によれば、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、ならびに移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない、患者の免疫系の調節が有益な疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤の製造における、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞の使用に関する。したがって、本発明はまた、免疫応答を抑制するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための薬剤の製造における、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞の使用に関する。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は、上記している。特定の態様によれば、疾患は、慢性炎症性疾患のような炎症性疾患、例えばIBDまたはRAである。
【0133】
医薬組成物
本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、ならびに移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとする、患者の免疫系の調節が有益な疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するための医薬組成物を提供する。
【0134】
したがって、別の態様によれば、本発明は、本発明による細胞、または本発明によるTreg細胞、または本発明による放射線照射した細胞、または本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞、または本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞、または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞と、薬学上許容可能なキャリヤーとを含んでなる医薬組成物(以下、本発明による医薬組成物という)に関する。2以上の上記種類の細胞の組み合わせは、本発明によって提供される医薬組成物の範囲に包含される。
【0135】
本発明による医薬組成物は、予防上または治療上有効量の1種類以上の予防または治療薬(すなわち、本発明による細胞、または本発明によるTreg細胞、または本発明による放射線照射した細胞、または本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞、または本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞、または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞、またはそれらの組合せ)と、薬学上許容可能なキャリヤーとを含んでなる。特定の態様によれば、「薬学上許容可能な」という用語は、動物、さらに、特にはヒトでの使用について、連邦または州政府の管理機関によって承認され、または合衆国薬局方または欧州薬局方または他の一般に認められている薬局方に記載されていることを意味する。「キャリヤー」という用語は、治療薬を一緒に投与する希釈剤、アジュバント、賦形剤またはビヒクルをいう。組成物は、所望ならば、少量のpH緩衝剤を含むこともできる。適当な薬学キャリヤーの例は、「レミントン製薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」E W Martin著に記載されている。このような組成物は、予防上または治療上有効量の予防または治療薬を、好ましくは精製された形態で適量のキャリヤーと共に含んでおり、適正な投与形態を患者に提供する。処方物は、投与の様式に適合するものであるべきである。好ましい態様によれば、医薬組成物は滅菌されており、患者、好ましくは動物患者、さらに、好ましくは哺乳類患者、さらに好ましくはヒト患者への投与に適当な形態である。
【0136】
本発明による医薬組成物は、様々な形態であることができる。これらの形態としては、例えば、凍結乾燥製剤、液体溶液または懸濁液、注射用および輸液用溶液などのような固体、半固体および液体投薬形態が挙げられる。好ましい形態は、目的とする投与用式および治療用途によって変化する。
【0137】
本発明による細胞集団またはこれを含んでなる医薬組成物をそれを必要とする患者へ投与するのは、通常の手段によって行うことができる。特定の態様によれば、上記細胞集団は、細胞を所望な組織にイン・ビトロ(例えば、移植またはエングラフティング(engrafting)の前の移植片として)でまたはイン・ビボで、動物組織へ直接輸送することを含む方法によって患者に投与される。細胞は、任意の適当な方法によって所望な組織に輸送することができ、この方法は組織の種類によって変化する。例えば、細胞は、細胞を含む培地に移植片を浸す(またはこれを浸出する)ことによって移植片に輸送することができる。あるいは、細胞を組織内の所望な部位に播種して集団を定着させることができる。細胞は、カテーテル、トロカール、カニューレ、ステント(細胞と共に播種することができる)などの器具を用いてイン・ビボで部位に輸送することができる。
【0138】
本発明による細胞は、患者に投与する前に放射線照射することができる。この処理により、細胞は患者体内で長時間増殖または生存することができなくなる。したがって、特定の態様によれば、本発明による医薬組成物は、本発明による放射線照射した細胞を含んでなる。
【0139】
また、本発明による細胞は、患者に投与する前にIFN-γで予備刺激して、患者体内での細胞投与とIDO発現の間の時間を短縮することができる。したがって、特定の態様によれば、本発明による医薬組成物は、本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞を含んでなる。
【0140】
さらに、本発明による細胞は、患者に投与する前に、放射線照射およびIFN-γによる予備刺激を任意の順序で両方とも行うことができる。したがって、特定の態様によれば、本発明による医薬組成物は、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞を含んでなる。
【0141】
本発明による細胞集団および医薬組成物は、併用療法に用いることができる。特定の態様によれば、併用療法は、1種類以上の抗炎症薬に抵抗性の炎症性疾患の患者に投与される。別の態様によれば、併用療法は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、ステロイド性抗炎症薬、β-作動薬、抗コリン作動薬、およびメチルキサンチンなどこれらに限定されない他の種類の抗炎症薬と共に用いられる。NSAIDの例としては、イブプロフェン、セレコキシブ、ジクロフェナック、エトドラック、フェノプロフェン、インドメタシン、ケトララック、オキサプロジン、ナブメントン、スリンダック、トルメンチン、ロフェコキシブ、ナプロキセン、ケトプロフェン、ナブメントンなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのNSAIDは、シクロオキシゲナーゼ酵素(例えば、COX-1および/またはCOX-2)を阻害することによって作用する。ステロイド性抗炎症薬の例としては、糖質コルチコイド、デキサメタゾン、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニソン、プレドニソロン、トリアムシノロン、アズルフィジン、およびトロンボキサンのようなエイコサノイド、およびロイコトリエンが挙げられるが、これらに限定されない。インフリキシマブのようなモノクローナル抗体を用いることもできる。
【0142】
上記態様によれば、本発明による併用療法は、このような抗炎症薬の投与の前、同時または後に用いることができる。さらに、これらの抗炎症薬は、本明細書でリンパ組織誘発因子および/または免疫調節薬としての特徴を有する薬剤を包含しない。
【0143】
成熟した多能性細胞を分化細胞から識別する方法
IFN-γで刺激したときのIDOの発現を用いて、上記酵素を発現する細胞をIDOを発現しない細胞から識別することができる。
【0144】
したがって、別の態様によれば、本発明は、多能性細胞がIFN-γで刺激したときにIDOを発現するかどうかを確認することを含んでなる、成熟した多能性細胞を分化細胞から識別する方法に関する。IFN-γで刺激したときのIDOは、任意の通常の手法で測定することができ、一つの態様によれば、IFN-γで刺激したときのIDOは、実施例2に記載の方法で測定することができる。
【0145】
上記のように、本発明による細胞集団の細胞は、IFN-γで刺激したときだけを除き、IDOを構成的に発現しないことを特徴とする。さらに、IFN-γは除いて、IL-1、TNF-α、または内毒素のような他のプロインフラマトリー分子は、本発明による細胞集団の細胞においてIDOの発現を単独で誘発することができない。この特徴を用いて、本発明による細胞集団の細胞を他の細胞から識別することができる。
【0146】
キット
別の態様によれば、本発明は、(i)本発明による細胞、および/または(ii)本発明によるTreg細胞、および/または(iii) 本発明による放射線照射した細胞、および/または(iv) 本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞、および/または(v) 本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞、および/または(vi) 本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞を含む細胞集団を含んでなるキットに関する。本発明キットは、このような細胞型の1、2、3、4、5つ、または総てを含んでなることができる。
【0147】
処理方法
別の態様によれば、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患に関連した1以上の症状の予防、治療または改善のための、本発明による細胞、本発明によるTreg細胞集団、本発明による放射線照射した細胞、本発明のIFN-γで予備刺激した細胞、本発明の放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞、または本発明のIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞を含む細胞集団の使用に関する。特定の態様によれば、上記細胞集団を用いて、移植寛容を誘導し、あるいは、自己免疫または炎症性疾患、または免疫介在疾患の症状を、その障害または疾患に罹っている患者において治療することにより改善することができる。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は、上記している。特定の態様によれば、疾患は、慢性炎症性疾患のような炎症性疾患、例えば、IBDまたはRAである。
【0148】
別の態様によれば、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、または免疫介在疾患に関連した1以上の症状を、その障害または疾患に罹っている患者において予防し、治療しまたは改善する方法であって、本発明による細胞、本発明によるTreg細胞、本発明による放射線照射細胞、本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞、または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞を含む予防上または治療上有効量の細胞集団を、その治療を必要とする上記患者に投与することを含んでなる方法を提供する。特定の態様によれば、上記細胞集団を用いて、移植寛容を誘導し、あるいは、自己免疫または炎症性疾患、または免疫介在疾患の症状を、その障害または疾患に罹っている患者において、治療することにより改善することができる。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は、上記している。特定の態様によれば、疾患は、慢性炎症性疾患のような炎症性疾患、例えば、IBDまたはRAである。
【実施例】
【0149】
本発明を実施例によってさらに、具体的に説明するが、これらの実施例は発明の範囲を制限することを意味するものではなく、むしろこれらの実施例は、添付図に関して本発明を例示するのに役立つものである。
【0150】
例1
本発明による細胞の単離および拡張
I. 材料および方法
脂肪組織から本発明による細胞の単離
ヒト脂肪組織は、局部麻酔および一般的鎮静下で脂肪吸引によって得た。中空の平滑尖端カニューレを、小切開(直径が0.5 cm未満)を介して皮下空隙に導入した。緩やかに吸引しながら、脂肪組織腹壁区画中にカニューレを移動させ、脂肪組織を機械的に破壊した。食塩溶液と血管収縮薬エピネフリンを脂肪組織区画に注入し、血液損失を最小限に止めた。この方法で、未処理の脂肪吸引物80〜100mlを、治療を行うそれぞれの患者から得た。
【0151】
未処理脂肪吸引物を、滅菌したリン酸緩衝食塩水(PBS, Gibco BRL, ペーズリー,スコットランド, 英国)で徹底的に洗浄し、血液細胞、食塩水および局部麻酔薬を除去した。細胞外マトリックスを、平衡塩溶液(5 mg/ml, Sigma, セントルイス, 米国)中II型コラゲナーゼの溶液(0 075%, Gibco BRL)で37℃で30分間消化して、細胞性画分を放出した。次いで、コラゲナーゼを、10%ウシ胎児血清(FBS, Gibco BRL)を含む等容の細胞培地(ダルベッコの改良イーグル培地(DMEM, Gibco BRL))を添加することによって不活性化した。細胞の懸濁液を、250 x g で10分間遠心分離した。細胞を0.16M NH4Clに再懸濁し、室温(RT)で5分間放置し、赤血球を溶解させた。混合物を250 x gで遠心分離し、細胞をDMEM + 10% FBSおよび1%アンピシリン/ストレプトマイシン混合物(Gibco BRL)に再懸濁した後、それらを40μmメッシュを通して濾過し、10-30 x 103個/cm2の濃度で組織培養フラスコで培養した。
【0152】
本発明による細胞の関節軟骨からの単離
ヒト硝子関節軟骨は、関節鏡の手法によってドナーの膝関節から得た。約4 cm2の軟骨を大腿顆の外縁から採取したが、生験の大きさはドナーの年齢、関節の構造および外科医の考慮によって変化することがある。生験試料を滅菌食塩溶液に懸濁し、その使用まで3〜8℃で保管した。生体の軟骨試料は、48時間を上回る時間保管すべきではない。
【0153】
軟骨生験試料を1 mlの1% FBSを含む滅菌細胞培地に移し、できるだけ細かい組織断片を得るためにミンチにした。生成する軟骨断片を0.1%(w/v)コラゲナーゼを含む同様の培地に懸濁し、緩やかに連続攪拌しながら37℃でインキュベーションした。消化の後、得られた細胞懸濁液を40μmメッシュで濾過し、細胞を10〜30 x 103個/cm2の濃度で組織培養フラスコ上で培養した。
【0154】
細胞のエクス・ビボ拡張
脂肪組織および関節軟骨の両方由来の細胞を、5% CO2/空気の雰囲気で37℃にて24時間個別に培養した。次いで、培養フラスコをPBSで洗浄し、非接着細胞および細胞断片を除去した。細胞を、同じ培地で同じ条件下で細胞が約80%コンフルエンスに到達するまで、3〜4日毎に培地を交換しながら培養を継続した。次に、細胞を、トリプシン-EDTA (Gibco BRL)で約5〜6 x 103個/cm2の細胞密度に対応する1:3の希釈度で継代培養を行った。ヒト脂肪組織から単離され、25を上回る細胞集団へ倍増するためにエクス・ビボで培養した細胞の細胞増殖速度を、図1に示す。
【0155】
細胞の特性決定
細胞の特性決定は、培養継代1〜25の細胞を用いて行った。脂肪組織および関節軟骨の両方由来の細胞を、
抗原提示細胞(APC)のマーカー: CD11b、CD11c、CD14、CD45およびHLAII、
内皮細胞のマーカー: CD31
他のマーカー: CD9、CD34、CD90、CD44、CD54、CD105およびCD133
を含む一連の表面マーカーの存在/非存在について蛍光マーカーで標識した抗体を用いるフローサイトメトリー(すなわち、蛍光免疫サイトメトリー)によって分析した。
【0156】
フローサイトメトリー分析法で用いた抗体は、下記の通りであった。
CD9: クローンMM2/57マウスIgG2b - FITC標識抗体(Serotec)、
CD11b: クローンICRF44マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec)、
CD11c: クローンBUl 5マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec)、
CD14: クローンUCHM 1マウスIgG2a - FITC標識抗体(Serotec)、
CD31: クローンWM59マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec)、
CD34: クローンQBEND10マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec)、
CD44: クローンF10-44-2マウスIgG2a - FITC標識抗体(Serotec)、
CD45: クローンF10-89-4マウスIgG2a- FITC標識抗体(Serotec)、
CD54: クローン15.2マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec)、
CD90: クローンF15-42-1マウスIgG1 -FITC標識抗体(Serotec)、
CD105: クローンSN6マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec)、および
抗ヒトHLAクラスII DP、DQ、DR: クローンWR18マウスIgG2a-FITC標識抗体(Serotec)、
CD133: クローン293C3マウスIgG2b- PE標識抗体(Miltenyi Biotec)。
【0157】
II. 結果
結果は、図2に集まっており、分析を行った細胞はCD9、CD44、CD54、CD90およびCD105については陽性であり、CD11b、CD11c、CD14、CD31、CD34、CD45、CD133およびHLAIIについては陰性であることを示している。細胞は、内皮またはAPC系統(CD11b、CD11c、CD14、CD45およびHLAII)に特異的な試験マーカーの総てについては陰性であった。
【0158】
例2
インターフェロン-γ(IFN-γ)によるインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)の誘導
I. 材料および方法
ヒト脂肪組織から単離した本発明による細胞(実施例1)を組織培養プレートに10,000個/cm2の密度で播種し、上記条件で48時間インキュベーションして細胞拡張を行った。次いで、
インターロイキン-1 (IL-1): 3 ng/ml、
インターフェロン-γ(IFN-γ): 3 ng/ml、
腫瘍壊死因子-α(TNF-α): 5 ng/ml、
リポ多糖類 (LPS): 100 ng/ml
などの様々なプロインフラマトリー刺激物を培地に加えた。
【0159】
細胞を、対応する刺激物の存在下にて30分間〜48時間インキュベーションした後、トリプシン消化によって集め、プロテアーゼ阻害剤を含むRIPA緩衝液(50 mMトリス-HCl pH 7.4, 150 mM NaCl, 1 mM PMSF(フェニルメチルスルホニルフルオリド), 1 mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸), 5 μg/mlアプロチニン, 5 μg/mlロイペプチン, 1% Triton x-100, 1 %デオキシコール酸ナトリウム, 0.1% SDS)中でリーシスを行った。次に、細胞溶解物を用いて、IDO特異的モノクローナル抗体(マウスモノクローナルIgG,クローン10.1, Upstate細胞シグナル形成溶液)を用いるウェスタンブロット実験を行った。また、RNAを処理した細胞から単離し、IDO cDNA(GenBank Accession No. M34455 (GI 185790))に特異的なプライマーを用いて逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)実験によって試験した。
フォワード5' GGATTCTTCCTGGTCTCTCTATTGG 3',
リバース 5' CGGACTGAGGGATTTGACTCTAATG 3'。
【0160】
II. 結果
この実験の結果[図3A(RT-PCR)および3B(ウェスタンブロット法)]は、本発明によって提供される細胞はIDOを構成的に発現しないことを示している。IDO mRNAはIFN-γ刺激の2時間後に誘導されるが、タンパク質の発現は誘導の8〜24時間の間に検出することができるだけである。
【0161】
同様の結果は、本発明による細胞を骨髄、関節軟骨および皮膚などの他のヒト組織(図4)から単離したときに得られた。
【0162】
例3
腫瘍形成性
I. 材料および方法
この実験は、実施例1に記載のヒト脂肪組織から単離した本発明による細胞を用いて行った。細胞試料を2〜7週間培養した後、免疫不全マウスの皮下に移植した(5x106個/マウス)。マウスは、Charles River Laboratoriesから入手したnu/nu株であった。マウスは胸腺を欠いており、T細胞欠損であった。移植されたマウスを4ヶ月間追跡調査した後、屠殺して病理学的検討を行った。
【0163】
病理学的検討:剖検を総ての動物について行った。動物を、脳、肺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、腹部リンパ節および注射部位における総体的異常について検討した。注射部位、肺およびリンパ節などの組織を集めて、組織学的検討(パラフィン切片およびヘマトキシリン-エオシン(H&E)染色)を行った。
奇形腫細胞系(N-TERA)を、陽性コントロールとして用い、同一条件下で移植した。
【0164】
II. 結果
結果は、奇形腫細胞を移植したマウスは数週間後に腫瘍を発生させたが、本発明による細胞を移植した動物は、移植後の最初の4ヶ月間には腫瘍を発生しなかった[データーは示さず]。
【0165】
例4
マウスにおける実験的に誘発したIBDの治療
I. 材料および方法
大腸炎を、以前に報告した方法(Neurath, M.F., et al 1995「IL-12に対する抗体はマウスで定着した実験的大腸炎を排除する」J. Exp. Med. 182, 1281-1290)によってBalb/cマウス(6〜8週齢, Jackson Laboratories, バーハーバー, メイン)に誘導した。簡潔に説明すれば、マウスをハロタンで軽く麻酔し、3.5 Fカテーテルを肛門から4 cmの直腸内に挿入した。大腸炎を誘発させるため、50または30 mg/mlのTNBS(2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸)(Sigma Chemical Co, セントルイス, ミズーリー(MO))を50%エタノールに溶解したもの100μlを(腸上皮関門を破るため)1ml注射器に満たし、カテーテルを介して管腔に徐々に投与した。コントロールマウスには、50%エタノールのみ(100μl)を投与した。TNBSの点滴注入の12時間後に、動物の直腸内に実施例1に記載の方法でヒト脂肪組織から得た様々な数の本発明による細胞(0.3 x 106および1 x 106個、リン酸緩衝食塩水PBSに懸濁)を投与した。幾つかの実験では、上記細胞を、注入前24時間 200 U/ml IFN-γで前処理した。動物を、毎日生存、下痢の出現、および体重の減少について観察した(図5、6および7)。
【0166】
II. 結果
図5に示す通り、本発明による細胞を投与した後には、用量依存的に体重増加の改善が見られた。実際に、用量依存性は図6で観察することができ、1x106個の細胞は0.3x106個の細胞より強い効果を示す。いずれの場合にも、細胞は、TNBSを投与したマウスの生存率を有意に改善した。
【0167】
さらに、IFN-γで予備刺激した細胞は、予備刺激しなかった細胞よりTNBS処理から一層速くかつ大幅な回復を示した(図7)。グラフは、TNBSを投与したマウスでは体重が劇的に減少し、細胞を投与されたマウスでは明らかな改善を示している。
【0168】
例5
マウスにおける実験的に誘発した炎症性腸疾患(IBD)の治療 - 追加実験
I. 材料および方法
実施例4と同じ実験の延長において、大腸炎を、以前に報告した方法(Neurath, M.F., et al 1995「IL-12に対する抗体はマウスで定着した実験的大腸炎を排除する」J. Exp. Med. 182, 1281-1290)によってBalb/cマウス(6-8週齢, Jackson Laboratories, バーハーバー, メイン)に誘導した。簡潔に説明すれば、マウスをハロタンで軽く麻酔し、3.5 Fカテーテルを肛門から4 cmの直腸内に挿入した。大腸炎を誘発させるため、50または30 mg/mlのTNBS(2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸)(Sigma Chemical Co, セントルイス, ミズーリー)を50%エタノールに溶解したもの100μlを(腸上皮関門を破るため)1ml注射器に満たし、カテーテルを介して管腔に徐々に投与した。コントロールマウスには、50%エタノールのみ(100μl)を投与した。TNBSの点滴注入の12時間後に、動物の直腸内または腹腔内(i.p.)に実施例1に記載の方法でヒト脂肪組織から得た様々な数の本発明による細胞(ASC)(0.3 x 106および1 x 106個、リン酸緩衝食塩水PBSに懸濁)を投与した。さらに、幾つかの実験では、上記細胞をマウスに投与する前に、CFSE(蛍光プローブ)で標識した。動物を、毎日生存、下痢の出現と重篤度、および体重の減少について観察した。血清を集めて、タンパク質抽出物を疾患の急性期に結腸から得た(3日目)。タンパク質抽出物および血清中のサイトカイン/ケモカイン含量を、ELISAによって測定した。腸間膜リンパ節のCSFE標識細胞は、フローサイトメトリーによって分析した。
【0169】
II. 結果
いずれの場合にも、本発明による細胞(ASC)を投与したマウスは、非投与動物と比較してその炎症性症状に明らかな改善を示した。細胞を局所(直腸内)または全身(i.p.)投与したときには、この改善は試験した総てのパラメーターで用量依存性でありかつ統計的に有意であったが、後者の投与経路の方が一層効果的であると思われる。上記で図5に示した通り、本発明による細胞の投与後には、体重増加の用量依存的改善が見られた。実際に、用量依存性は、図6、7および8で観察することができ、1x106個の細胞は0.3x106個の細胞より強い効果を示している。いずれの場合にも、細胞は、TNBS投与マウスの生存率を有意に改善した。
【0170】
さらに、IFN-γで予備刺激した細胞は、予備刺激しなかった細胞よりもTNBS投与からの一層速やかで大幅な回復を示した(図8)。グラフは、TNBSを投与したマウスでは体重が劇的に減少し、細胞を投与されたマウスでは明らかな改善を示している。この改善は、大腸炎の重篤度によって測定することもできる。
【0171】
炎症性免疫応答は、本発明による細胞を投与した動物では明らかに減少する。図9に示されるように、結腸(局所応答)および血清(全身応答)のいずれでも、試験した総てのプロインフラマトリーサイトカイン(TNF-a、IL-6、IL-1b、IL-12およびIFN-γ)およびケモカイン(MIP-2およびRANTES)は、細胞を投与した動物では非投与マウスと比較して低かった。この阻害応答は、IFN-γで予備刺激した細胞を投与した動物で増加した。一方、免疫調節サイトカインIL-10は、未投与のTNBSで損傷した動物およびコントロール動物のいずれと比較してもASC投与マウスの結腸で増加した。また、MPO活性によって測定した好中球の浸潤は、ASCを投与した動物で低めであり、細胞をIFN-γで予備刺激したときには一層低くなった(図10)。
【0172】
標識細胞は、細胞サイトメトリーによって、治療した動物のドレインリンパ節に局在した(図11)。これは、投与された細胞がAPCとして作用していることを予想させる局在化である。
【0173】
例6
IFN-γ刺激後の本発明による細胞におけるAPCマーカーの誘導
I. 材料および方法
本発明による細胞は、実施例1に記載した通り、ヒト皮下脂肪組織(ASC)から得た。少なくとも3回の継代培養の後、細胞を標準培地または3 ng/mlのIFN-γを含む培地で4日間インキュベーションした。その後、細胞を、免疫応答に関連した(特に抗原提示細胞(APC)の活性に関連した)幾つかの表面マーカーについて染色した。これらのマーカーは、下記のものを含んでいた:
HLA-II(DP、DQ、DR)。この受容体はT細胞に対する異種抗原の断片を提示し、適応免疫応答を開始する(これは、T細胞活性化の最初のシグナルである)。本発明による細胞は、HLA-IIを構成的に発現しない。用いた抗体は、Serotecから入手した。
CD40。このタンパク質はCD40Lに結合し、これは活性化T細胞の表面で発現する。本発明による細胞は、検出不可能なまたは極めて低レベルのCD40を構成的に発現する。用いた抗体は、Serotecから入手した。
ICAM-1(CD54)。T細胞とAPCの結合に関与する主要タンパク質。その発現は、APCとT細胞との他の相互作用を適正に行うのに必要とされる。本発明による細胞は、低-中レベルのICAM-1を構成的に発現する。用いた抗体は、Serotecから入手した。
補助刺激タンパク質のB7ファミリーの一員(それらは、T細胞活性化のための第二のシグナルを伝達する):
CD80(B7-1)。Serotecから入手した抗体。
CD86(B7-2)。Serotecから入手した抗体。
ICOSL(B7-H2)。e-Bioscienceから入手した抗体。
B7-H4。e-Bioscienceから入手した抗体。
PD-L1(B7-H1)。e-Bioscienceから入手した抗体。
PD-L2 (B7-DC)。e-Bioscienceから入手した抗体。
最初の4個は、主として刺激シグナル(T細胞エフェクタークローンの誘導を促進する)を伝達するが、PD-L1およびPD-L2は主として免疫寛容を生じる(T細胞アネルギー-不活性化の誘導を促進する)。それらのいずれもが、本発明による細胞によって構成的に発現されない。
【0174】
II. 結果
IFN-γ処理の後、本発明による細胞は、HLA-II、PD-L1およびPD-L2の発現、およびCD40およびICAM-1の大幅なアップレギュレーションを誘導する。この実験の結果を、図12に示す。
【0175】
これらの結果は、IDO活性の誘導と共に、IFN-γ処理により本発明による細胞は、免疫寛容を生じるAPCを特徴とする表現型を示すことを明らかにするので、極めて関連性がある。
【0176】
例7
コラーゲンによって誘導される関節炎(CIA)のASCによる治療
I. 材料および方法
実験的関節炎を、完全フロイントアジュバント(CFA)中200μgのニワトリII型コラーゲン(CII)を含むエマルションと200μgのMycobacterium tuberculosis H37RAを皮下(s.c.)注射することによってDBAl/Jlac雄マウス(6〜8週齢)に誘導した。CIAの展開は、2名の異なる技術者が予め設定したスコアシステムにしたがって、上および下肢の関節の炎症-赤味-強直を測定することによって毎日観察した。
【0177】
臨床症状がCIAの確立を示したときに(免疫化(p.i.)の23日後)、動物に実施例1に記載の方法でヒト脂肪組織から得た本発明による細胞(ASC)2x105個、またはコントロールとしてPBSを5日間毎日i.p.投与した。あるいは、CIAマウスの冒されている関節の一方に関節内(i.a.)に注射を行った。治療した動物の進行状況を上記のようにして観察し、p.i.の50日目に安楽死させた。関節サイトカイン、血清サイトカイン、免疫グロブリンアイソタイプ、並びにリンパ球の表現型およびサイトカイン産生など幾つかのパラメーターを、血液および関節で測定した。
【0178】
II. 結果
図13、14および15に示される通り、本発明による細胞はマウスモデルにおけるCIA発生率および重篤度を明らかに減少させる。特に、免疫応答に対する効果は、Th2応答(IL-4、IgG1)は全く増加せずにTh1応答(IFN-γ、TNFα、IL-2、IL-1β、IL-6、IL-12、MIP2、RANTESおよびIgG2a)の強力な阻害、および免疫調節サイトカイン(IL-10およびTGF-β)の高レベルの誘導と一致している。
【0179】
例8
本発明による細胞による調節T細胞のイン・ビボ誘導
I. 材料および方法
実施例7に記載したのと同様の検討において、エフェクター(CD4+CD25-Foxp3-)および調節T細胞(CD4+CD25+Foxp3+)を、ドレインリンパ節(DLN)ならびに未治療およびASCで治療したCIAマウスの滑膜から細胞サイトメトリーによって単離し、それぞれの集団における細胞の数を評価した。
【0180】
ASCで治療したCIAマウスに存在する調節T細胞のCII特異的エフェクター細胞を阻害する能力を評価するため、増殖分析法を行い、CIAマウスから単離した自己反応性T細胞と、未治療(コントロール)またはASCで治療したCIAマウス(1/64 - 1/1の比)由来の数増加するDLN T細胞(調節T細胞)とを共培養し、CII(10μg/ml)および脾臓APCで刺激した
【0181】
II. 結果
図16.Aに示される通り、本発明による細胞を投与したCIAマウスにおけるDLNおよび滑膜はいずれも、未投与(コントロール)CIAマウスと比較して、エフェクターT細胞の数は増加せずに調節T細胞(CD4+CD25+Foxp3+)の数の増加を誘導する。
【0182】
図16.Bに示されるデーターは、本発明による細胞を投与したCIAマウスは、CIIに対するエフェクターT細胞応答を特異的に阻害する調節T細胞を含むが、コントロール(未投与)CIAマウスは含まないことを示している。
【0183】
結論としては、実験的自己免疫疾患(CIA)の動物モデルに本発明による細胞を投与することにより、自己反応性T細胞エフェクター応答を抑制することができる抗原特異的調節T細胞の出現を誘導する。
【0184】
例9
リンパ球増殖分析法
実施例1の方法によって得た本発明による脂肪由来のASCを5000個/cm2で、200, 000個のリンパ球(活性化w/10μg PHA/ml)と共にまたはなしで、培養し、3日間共培養した。リンパ球の増殖は、H3取込によって測定した。図17に示される通り、ASCとリンパ球の共培養により、リンパ球増殖の86%が阻害された。様々な濃度の1-メチル-トリプトファン(1-MT)を添加したところ、この抑制は逆戻りした。1-MTは、非代謝性トリプトファン類似体である。この分析法は、IDOを介するトリプトファン異化には本発明による細胞の免疫抑制活性を誘導する必要があることを示している。
【0185】
実施例10
細胞数およびIFN-γ濃度に関するASCの効果(IDO産生)
材料および方法
HPLC
通常のHPLCを、Waters 1515 Isocratic HPLCポンプ、Waters 717 AutosamplerおよびWaters 2487 Dual Absorbance Detectorを用いて行った。
【0186】
HPLC - プロトコール
100μM〜100mMのトリプトファンとキヌレニンの新鮮な溶液を、10%アセトニトリル/リン酸カリウム緩衝液(50mM pH 6.0)で調製した。これらの原液から、50μlトリプトファンおよび10μlキヌレニンおよび940μl BSA(70g/l)または10%FCSを組み合わせて、コントロール試料を作製し、-80℃で保管した。
【0187】
試料調製: 試料(細胞培養物)からの上清200μl以上をエッペンドルフ試験管に集め、-80℃で保管した。試料とコントロール試料を融解し、200μlの50mMリン酸カリウム緩衝液pH6.0をエッペンドルフ試験管のそれぞれの200μl試料に加えた。2M TCA(トリクロロ酢酸)50μlを、エッペンドルフ試験管に加えた。試験管を渦流攪拌(vortex)し、13,000g、4℃で10分間遠心分離した。エッペンドルフ試験管から150μlを採取して、測定した。
【0188】
HPLC測定のためのカラム調製
HPLCカラムを当該技術分野で知られている方法で調製し、40mMクエン酸ナトリウムpH5−5%アセトニトリルからなる移動相で平衡にした。150μl試料の上記試料.50μlを、カラム(C18逆相)に注入した。700μl/分のアイソクラティック(isocratic)流速によって、分離が起こる。L-キヌレニンの光度法による検出は365nmで起こり、L-トリプトファンについては280nmで起こる。
【0189】
結果
図18に示される通り、120時間まで5000個/cm2で培養し3ng/ml IFN-γで刺激したASCはIDOを産生し、その活性はHPLCを用いてトリプトファンの代謝およびキヌレニンの産生によって測定する。120時間まで5000個/cm2で培養し3pg/ml IFN-γで刺激したASCはIDOを産生しなかった。キヌレニンは検出することができなかった(図19)。同様に、120時間まで500個/cm2で培養し3ng/ml IFN-γで刺激したASCは、有意な量のIDOを産生しなかった(図20)。
【0190】
実施例10
小分子を食細胞するASCの能力
材料および方法
4kda-デキストラン-FITC(Sigma)を、実施例1の細胞に加えて、24時間培養した。細胞を洗浄し、蛍光FITCの取込について分析した。
【0191】
結果
図21Aは、洗浄した細胞集団の明視野細胞画像を示す。図21Bは、当該技術分野で知られている緑色蛍光タンパク質フィルターを用いた蛍光顕微鏡法を用い、同じ集団を示す。図21Bで明らかな蛍光マーカーの取込は、細胞が小分子量の分子を食細胞することができることを示しており、このことは、これらの細胞が、IFN-γにより細胞を追加処理することによって誘導されるHLAクラスIIを介して抗原提示することができることを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】ヒト脂肪組織から単離され、エクス・ビボで培養して25を上回る細胞集団に倍増した本発明によって提供される細胞の増殖速度を示す。
【図2】ヒト脂肪組織から単離した本発明によって提供される細胞から得た表面マーカーのプロフィールに対応する蛍光免疫サイトメトリーのヒトスグラムを示す。アイソタイプのコントロール(ネガティブコントロール)に対応するヒトスグラムは、灰色の陰を付けて示す。
【図3】本発明によって提供され、様々なプロインフラマトリー(pre-i試薬を用いて様々な時期にヒト脂肪組織から単離され、RT-PCR(図3A)またはウェスタンブロット法(図3B)によって検出される細胞をインキュベーションした後のIDO発現の分析を示す。IL-1、インターロイキン1;TNF-α、腫瘍壊死因子-α;LPS、リポ多糖類;IFN-γ、インターフェロン-γ;C-、ネガティブコントロール;C+、ポジティブコントロール;n.i., 細胞はIFN-γで誘導されない。GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)をRT-PCRのローディングコントロールとして用いる。
【図4】様々なヒト組織(脂肪、骨髄、軟骨および皮膚)から単離された本発明によって提供される細胞のIFN-γ処理を48時間行った後のIDO発現のウェスタンブロット検出を示す。Ctrl-、ネガティブコントロール(培地);Ctrl+、ポジティブコントロール;(-)、IFN-γで処理されていない細胞;(+)、IFN-γで48時間処理した細胞。
【図5】TNBS (2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸)投与で処理したマウスの体重減少を示す。図は、ヒト脂肪組織から単離した本発明によって提供された細胞を投与した後に増加した体重の用量依存性の改良を示す。10日後に、1 x 106個の細胞を投与されたマウスは、コントロールマウスと比較して有意な体重差を示さなかった。
【図6】ヒト脂肪組織から単離した本発明によって提供された細胞を投与した後のTNBS処理マウスの生存率を示す。再び、1 x 106個の細胞で用量依存性が見られ、0.3 x 106個の細胞より大きな効果が示されるが、いずれの場合にも、細胞は、TNBS処理マウスの生存率を有意に改良した。
【図7】ヒト脂肪組織から単離した本発明によって提供された1 x 106個の細胞および30 ng/ml IFN-γで48時間予備刺激した1 x 106個の同じ細胞を投与した後のTNBS処理マウスにおける体重の比較を示す。グラフは、TNBS処理マウスにおける大幅な体重減少と、細胞を投与されたマウスにおける3日後の明らかな改善を示している。8日後には、これらのマウスは体重増加さえ示したが、コントロールマウス(細胞投与なしのTNBS処理マウス)はまだ大幅な体重減少を示した。さらに、IFN-γで予備刺激した細胞は、予備刺激しなかった細胞より速くかつ大きなTNBS処理からの回復を示した。
【図8】「実験1」としての図7のデーター、およびさらに、実施例5に記載の追加データーセット「実験2」からのデーターを示す。このグラフは、TNBS処理マウスが劇的に体重を減少し、細胞を投与されたマウスでは明らかな改善が見られることを示している。この改善は、大腸炎の重篤度によって測定することもできる。
【図9】結腸(局所応答)および血清(全身応答)のいずれでも、試験した総てのプロインフラマトリーサイトカイン(TNF-a、IL-6、IL-1b、IL-12およびIFN-γ)およびケモカイン(MIP-2およびRANTES)は、細胞を投与した動物では非投与マウスと比較して低かった。
【図10】MPO活性によって測定した好中球の浸潤は、ASCで処理した動物において低めであり、細胞をIFN-γで予備刺激したときには一層低くなったことを示す。
【図11】細胞サイトメトリーによって、CFSE標識細胞は、治療した動物のドレインリンパ節に局在したことを示す。これは、投与された細胞がAPCとして作用していることを予想させる局在化である。
【図12】IFN-γ処理によるヒトASCにおけるAPCマーカーの誘導を示す。上列: 未処理ASCのサイトメトリーのヒトスグラム、下列: IFN-γで4日間処理後のASCのサイトメトリーのヒトスグラム。アイソタイプコントロールは、黒く陰にして示されている。
【図13】本発明による細胞は、CIA発生率および重篤度を減少させることを示す。A, 確立したCIAの注入を行ったマウスにおける臨床スコアまたは足の厚み測定によって評価した関節炎の重篤度。括弧内の数字は、コントロール、i.p.およびi.a.群における関節炎の発生率(50日目における関節炎スコアが > 2の%マウス)。画像は、様々な実験群(コントロールおよびASC i.p.)のマウスにおける足の腫脹の典型的例を示す。n=8〜11匹のマウス/群。 p<0.001 32日後の対コントロール。関節における好中球浸潤を測定するミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性。*p<0.001 対コントロール。
【図14】炎症性応答の阻害を示す。免疫化から35日後に分析した未処理(コントロール)またはASCを投与したCIAマウスにおける炎症性メディエーターの全身および局所発現。A, 関節におけるサイトカイン/ケモカイン含量。未免疫マウスの足を、同時に分析し、基本応答を評価した。B, 血清TNFαおよびIL-1βレベル。n=6-8マウス/群。 *p<0.001 対コントロール。
【図15】本発明による細胞がCIAにおけるTh1依存性応答をダウンレギュレーションすることを示す。A, 未処理(コントロール)またはASCで治療したCIAマウスから30日後に単離し、様々な濃度のCIIでイン・ビトロで刺激したドレインリンパ節(DLN)細胞の増殖性応答およびサイトカイン産生。抗-CD3抗体(▼, 未処理CIAマウス, ▽, AMで治療したCIAマウス)を用いて、非特異的刺激を評価した。3個の非免疫化DBA/1個のDLN細胞を用いて、基本応答を評価した。n=5マウス/群。B, CIIに特異的なサイトカイン産生T細胞の数。未処理(コントロール)またはASCで処理したCIAマウスからのDLN細胞を、CII(10 μg/ml)でイン・ビトロにて再刺激し、フローサイトメトリー(ゲートCD4 T細胞におけるIFN-γ/TNFαまたはIL-4/IL-10発現について)によってCD4および細胞内サイトカイン発現について分析した。104個のCD4 T細胞に対するIFN-γ、IL-4、IL-10発現T細胞の数を示す。示されたデーターは、2つの独立した実験からのプール値を表す。C, 未処理(コントロール)またはASCで処理したCIAマウスから単離しCII(10μg/ml)で48時間イン・ビトロ刺激した滑膜細胞におけるCII特異的増殖性応答。データーは、群当たり3匹の動物からのプールした滑膜細胞の結果を示す。D, 未処理(コントロール)またはASCで処理したCIAマウス(8-12匹/群)から35日後に集めた血清中のCII特異的IgG、IgG1およびIgG2aレベル。 *p<0 001 対コントロール
【図16】A. 本発明による細胞で処理したCIAマウスのDLNおよび滑膜は、いずれも未処理(コントロール)CIAマウスと比較してエフェクターT細胞の数を全く増加させずに調節T細胞(CD4+CD25+Foxp3+)の数の増加を誘導することを示す。 B. コントロール(未処理)CIAマウスを除き、本発明による細胞で処理したCIAマウスは、CIIに対するエフェクターT細胞を特異的に阻害する調節T細胞を含む。
【図17】ASCおよびリンパ球の共培養により、リンパ球増殖が阻害されることを示す。
【図18】5000個/cm2で培養し、120時間まで3ng/ml IFN-γで刺激したASCはIDOを産生し、この活性は、HPLCを用い、トリプトファンの代謝およびキヌレニンの産生によって測定されることを示す。
【図19】5000個/cm2で培養し、120時間まで3pg/ml IFN-γで刺激したASCはIDOを産生できない。キヌレニンは検出されなかった。
【図20】500個/cm2で培養し、120時間まで3ng/ml IFN-γで刺激したASCは、IDOを有意な量で産生できない。
【図21】A. 明視野画像でデキストランFITCを食細胞(phagocytose)した細胞を示す。 B. 緑色蛍光タンパク質フィルターを用いる蛍光顕微鏡法による同じ集団を示す。
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、成人組織由来の細胞集団を利用した、患者の免疫系の調節が有益である1以上の症状または疾患の予防、治療または改善に関する。特に、本発明は、患者の免疫系の調節が有益な自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患(immunologically mediated disease)などこれらに限定されない疾患に関連した1以上の症状の予防、治療または改善に使用するための、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を発現することによりインターフェロン-γ(IFN-γ)に応答する結合組織由来細胞の集団を提供する。
【0002】
背景技術
様々な疾患の病原体である細菌、真菌およびウイルスのような微生物をはじめとする、脊椎動物の体内に侵入可能な様々な抗原に対し、高等脊椎動物の免疫系は防御の第一線を提示している。さらに、免疫系は、自己免疫または免疫病理学的疾患、免疫欠損症候群、アテローム性動脈硬化症および種々の新生物性疾患などをはじめとする様々な他の疾患または障害にも関与している。これらの疾患を治療する方法は存在するが、現在用いられている多くの療法は決して十分な結果を提供していない。新たに出現した治療方法のうち、細胞療法に基づく方法は、多数の疾患の治療に潜在的に有用な手段を構成していると思われる。したがって、上記目的を達成するために、多くの努力が研究者達によってなされてきている。
【0003】
自己免疫疾患
自己免疫疾患は、細菌、ウイルスおよび任意の他の異種生成物から身体を防御することを意味する身体の免疫系が機能不全を起こして、健康な組織、細胞および臓器に対して病理学的反応を生じるときに引き起こされる。抗体、T細胞およびマクロファージは有益な防御を提供するが、有害なまたは致命的な免疫学的反応を生じる可能性もある。
【0004】
自己免疫疾患は臓器特異性または全身性であり得、様々な発病機構によって誘発される。臓器特異性自己免疫化は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)抗原の異常発現、抗原類似性(mimicry)およびMHC遺伝子における対立遺伝子変異を特徴としている。全身性自己免疫疾患は、ポリクローナルB細胞活性化、および免疫調節T細胞、T細胞受容体およびMHC遺伝子の異常性を伴う。臓器特異性自己免疫疾患の例は、糖尿病、甲状腺機能亢進症、自己免疫副腎不全症、赤芽球癆(pure red cell anemia)、多発性硬化症およびリウマチ性心臓炎である。典型的な全身性自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス、慢性炎症、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎および強皮症である。
【0005】
現在、自己免疫疾患に用いられている治療は、コルチゾン、アスピリン誘導体、ヒドロキシクロロキン、メトトレキセート、アザチオプリンおよびシクロホスファミド、またはそれらの組合せのような免疫抑制薬の投与が挙げられる。しかしながら、免疫抑制薬を投与するときに直面するジレンマは、自己免疫疾患が効果的に治療されればされるほど、患者は感染症からの攻撃に対して無防備となり、また腫瘍を発現(developing tumour)しやすい、ということである。したがって、自己免疫疾患の治療には、新たな療法が強く望まれている。
【0006】
炎症性疾患
炎症は、身体の白血球および分泌因子が、細菌やウイルスのような外来物質による感染症から我々の身体を保護する過程である。サイトカインおよびプロスタグランジンとして知られている分泌因子はこの過程を制御し、整理された自動制限カスケードにて血液または冒された組織に放出される。
【0007】
炎症性腸疾患(IBD)
IBDは、粘膜T細胞の機能不全、変化したサイトカイン産生、および最終的に遠位小腸および結腸粘膜を損傷する細胞炎症を特徴とする慢性、特発性、再発および組織破壊的疾患のファミリーである。IBDは、臨床的には2つの表現型、クローン病(CD)および潰瘍性大腸炎に分割される。CDは、現在は罹患率が0.05%で、腹痛、直腸出血、下痢、体重減少、皮膚および眼障害、および小児の成長および性的成熟の遅延など一連の胃腸および腸外の症状を生じる慢性炎症となる不治の自己免疫疾患である。これらの症状は、患者の安寧、生活の質、および機能的能力に大きな影響を与えうる。CDは慢性的なものであり、典型的には、30歳以前の年齢で発病するので、患者は大抵一生涯治療を受ける必要がある。その病因は未知のままであるが、CDと、内在抗原に対する免疫応答を弱める粘膜免疫系の機能不全とを関連付ける状況証拠がある。
【0008】
アミノサリチル酸塩、副腎皮質ステロイド、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、抗生物質、およびメトトレキセートなどCDについて現在用いられている治療薬は、完全に有効であるというわけではなく、非特異的であり、多数の有害な副作用を有する。ほとんどの場合に、外科的切除が究極的な代替法である。したがって、現在の治療ストラテジーは、疾患の両要素、すなわち炎症性反応およびT細胞によって行われる反応を特異的に調節する薬剤または作用物質を見出すことにある。
【0009】
近年、インフリキシマブという薬剤は、標準的療法には応答しない中-重度のクローン病の治療および開放性の排液瘻(open, draining fistulas)の治療について承認された。特にクローン病について承認された最初の治療にあたるインフリキシマブは、抗腫瘍壊死因子(TNF)抗体である。TNFは、クローン病に関連した炎症を引き起こすことがある免疫系によって産生されるタンパク質である。抗TNFは、TNFが腸に到達する前に血流から除去することによって炎症を予防する。しかしながら、これは全身的効果を有しかつTNFは極めて多面発現性の因子であるので、重篤な副作用は比較的よく見られ、その長期安全性は未だ確認されていない。また、患者で起こる炎症過程の多くはTNFシグナル伝達に依存しないので、その効力も限定されている。
【0010】
関節リウマチ(RA)
関節リウマチ(rheumatoid arthritis)および若年性関節リウマチは、炎症性関節炎の種類にあたる。関節炎は、関節の炎症を表す一般的用語である。関節炎の種類の全部ではないが幾つかは、過誤神経支配炎症(misdirected inflammation)の結果である。関節リウマチは、世界人口の約1%が罹っており、実質的には身体障害者となっている。関節リウマチは、身体の免疫系が関節に潤滑液を分泌する滑膜を異物として誤って識別する自己免疫疾患である。炎症が生じ、関節およびその周囲の軟骨および組織は損傷を受けまたは破壊される。身体は損傷組織を瘢痕組織に代え、関節中の正常空間は狭くなりかつ骨同士が互いに融合する。
【0011】
関節リウマチでは、持続的抗原提示、T細胞刺激、サイトカイン分泌、滑膜細胞活性化、および関節破壊の自己免疫サイクルがある。
【0012】
現在利用可能な関節炎の療法は、抗炎症薬または免疫抑制薬による関節の炎症を弱めることに集中している。任意の関節炎の治療の第一の系列は、通常はアスピリン、イブプロフェン、ならびにセレコキシブおよびロフェコキシブのようなCox-2阻害薬などの抗炎症薬である。インフリキシマブのような抗TNFヒト化モノクローナル抗体も用いられるが、二次的効果または副作用が多くかつ組成物の効力は低い。「第二系列の薬剤」としては、金、メトトレキセートおよびステロイドが挙げられる。これらは定評のある関節炎の治療法であるが、これらの系列の治療のみでは極めて僅かの患者しか改善せず、困難な治療の問題が関節リウマチの患者には依然として存在する。
【0013】
一般に、現在行われている慢性炎症性疾患の治療法は有効性が極めて限定されており、それらの多くは副作用の発生率が高くまたは疾患の進行を完全に防止することはできない。これまでは、いずれの治療法も理想的なものではなく、これらの種類の病変には良薬はない。したがって、炎症性疾患の治療に対する新たな療法が強く求められている。
【0014】
T細胞応答の阻害
総ての免疫応答は、T細胞によって制御される。自己免疫応答を誘導する潜在性を有する自己反応性細胞は、正常T細胞レパートリーの一部分を含んでいるが、健康状態では、その活性化はサプレッサー細胞によって妨げられる。Tサプレッサー細胞は、1970年代に最初に報告されたが、T細胞サブセットの特性決定における顕著な進歩はごく最近になって行われたものであり、それらは調節T細胞と改名された。
【0015】
様々なCD4+、CD8+、ナチュラルキラー細胞、および調節(サプレッサー)活性を有するγδT細胞サブセットがある。2種類の主要なTreg細胞はCD4+集団で特性決定されており、すなわち、天然に存在し胸腺で生成したTreg細胞、および表面で誘発されたIL-10またはTGF-β分泌Treg細胞 (Trl細胞)がある。胸腺で生成したCD4+CD25+、Foxp3を発現する天然に存在するTreg細胞は表面に移動して、保持される。それらの胸腺での生成および表面での保持についてのシグナルとしては、CD28刺激およびIL-2の両方が必要であると思われるが、完全には確定されていない。表面におけるCD4+CD25+Treg細胞の数は年齢と共に減少しない。しかしながら、これらの細胞はアネルギー状態でありかつアポトーシスを受けやすく、それらの起源の部位である胸腺は年齢と共に退化する。これは、CD4+CD25+ Treg細胞が表面に保持されていることを示唆している。幾つかの実験モデルは、CD4+CD25-T細胞からCD4+CD25+Treg細胞の表面生成のアイディアを支持している。CD4+CD25+Treg細胞の表面拡張を制御する内在因子および機構は、ほとんど知られていない。
【0016】
サイトカイントランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)が、血液中を循環する胸腺由来のプロフェッショナルCD4+CD25+前駆体の拡張において重要な役割を果たしていることの証拠がある。TGF-βは、表面に誘導されるCD4+およびCD8+調節サブセットの生成にも関与している。
【0017】
しかしながら、最近の実験データーは、免疫寛容の機構が、トリプトファン代謝、特にキヌレニン経路でのトリプトファン分解における初期律速段階を触媒する細胞内ヘム含有酵素である酵素インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)の活性に依存していることを示唆している。
【0018】
IDOを発現する細胞は、T細胞応答を抑制しかつ寛容を促進するという仮説を支持する重要な証拠がある(Mellor and Munn, Nat Rev Immunol. 2004 Oct, 4(10) 762-74)。IDOは、樹状細胞(DC)の幾つかのサブセットで発現し、これは免疫応答の重要なレギュレーターである(寛容原性DC)。これらのDCは、トリプトファンを局部的に涸渇させることによってイン・ビボT細胞応答を抑制することができる(米国特許第2002/0155104号明細書)。単球由来のDCおよびマクロファージの他に、幾つかの腫瘍系列、腸細胞およびトロホブラストがIDOを発現する。トロホブラストでのIDOの発現は構成的であると思われ、胎児由来の同種組織の寛容と強く相関している。IDOはT細胞でアポトーシスを誘発すると考えられており、肝臓の同種移植片に対して自発寛容を引き起こす。
【0019】
IDOの免疫抑制活性の後の分子機構は、知られていない。しかしながら、IDOを発現するDCは、調節T細胞の生成を誘導することができることが明らかにされている。IDOは、ヒト細胞ではインターフェロンおよびリポ多糖類(LPS)などの幾つかの炎症メディエーター並びにウイルス感染によって誘発される。幾つかの研究は、宿主免疫系によって拒絶される同種腫瘍細胞がイン・ビボでIDOをアップレギュレーションし、この効果はIFN-γによって伝達されることを示している。
【0020】
最近の実験では、骨髄由来の間葉幹細胞(MSC)および脂肪由来の幹細胞(ASC)のイン・ビトロでの免疫抑制能、ならびにMSCのイン・ビボでの免疫抑制能が示されている。このイン・ビボでの活性は骨髄移植片で検討されており、拡張MSCの融合によって急性および慢性の対宿主性移植片病(GVHD)が減少すると思われる。イン・ビトロ効果は、リンパ球が混合リンパ球反応(MLR)またはフィトヘマグルチニン(PHA)による刺激によって活性化した実験におけるリンパ球増殖の抑制を特徴としている。しかしながら、上記細胞の免疫抑制効果に関与する分子機構は、明確には確認されていない。
【発明の概要】
【0021】
本発明は、様々な結合組織に存在する多分化能を有するある種の細胞集団が、イン・ビボおよびイン・ビトロでの免疫調節因子として作用することを見出したことに基づいている。本発明者らは、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を発現することによってインターフェロン-γ(IFN-γ)に応答する結合組織由来細胞の集団を単離した。上記細胞の免疫調節効果を用いて、自己免疫疾患、炎症性疾患、ならびに移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとする、これらに限定されない患者の免疫系の調節が有益である疾患に関連する1以上の症状を予防し、治療しまたは改善することができる。
【0022】
したがって、一つの態様によれば、本発明は、結合組織から単離した細胞集団であって、細胞集団の細胞が、(i) 抗原提示細胞(APC)からの特異的なマーカー、換言すれば抗原提示細胞に特異的なマーカーを発現せず、(ii) インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を構成的に発現せず、(iii) インターフェロン-γ(IFN-γ)で刺激したときにIDOを発現し、(iv) 少なくとも二細胞系統に分化する能力を示すものに関する。
【0023】
別の態様によれば、本発明は、上記細胞集団の単離方法に関する。この方法により得られる細胞集団は、本発明のさらなる態様を構成する。
【0024】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である疾患の1以上の症状の予防、治療または改善に使用するための、上記細胞集団に関する。
【0025】
別の態様によれば、本発明は、薬剤として使用するため、または移植寛容を誘発するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための、上記細胞集団に関する。特定の態様によれば、上記炎症性疾患は、慢性炎症性疾患、例えば、炎症性腸疾患(IBD)または関節リウマチ(RA)である。
【0026】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である疾患の1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤、例えば、移植寛容を誘発するための薬剤、または自己免疫疾患を治療するための薬剤、または炎症性疾患を治療するための薬剤などの薬剤の製造における、上記細胞集団の使用に関する。
【0027】
別の態様によれば、本発明は、調節T細胞(Treg)の製造または生成(generation)における上記細胞集団の使用に関する。上記Treg細胞集団並びにその単離方法は、本発明のさらなる態様を構成する。
【0028】
別の態様によれば、本発明は、薬剤として使用するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための上記Treg細胞集団に関する。
【0029】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である疾患の1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤などの薬剤、例えば、移植寛容を誘導するための薬剤、または自己免疫疾患を治療するための薬剤、または炎症性疾患を治療するための薬剤、または過敏症IV型反応などこれに限定されないアレルギーを治療するための薬剤などの薬剤の製造における、上記Treg細胞集団の使用に関する。
【0030】
別の態様によれば、本発明は、上記細胞集団を適当な条件下で制御された電離放射線(ionizing radiation)源で照射することを含んでなる、放射線照射した細胞集団の単離方法に関する。上記放射線照射した細胞集団は、本発明のさらなる態様を構成する。
【0031】
別の態様によれば、本発明は、薬剤として使用するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための上記放射線照射した細胞集団に関する。
【0032】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である疾患の1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤,例えば、移植寛容を誘導するための薬剤、または自己免疫疾患を治療するための薬剤、または炎症性疾患を治療するための薬剤などの薬剤の製造における、上記放射線照射した細胞集団の使用に関する。
【0033】
別の態様によれば、本発明は、上記細胞集団をインターフェロン-γ(IFN-γ)で処理することを含んでなる、方法に関する。上記IFN-γを投与した細胞集団は、本発明のさらなる態様を構成する。
【0034】
別の態様によれば、本発明は、薬剤として使用するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための上記IFN-γで処理した細胞集団に関する。
【0035】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である疾患の1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤、例えば、移植寛容を誘導するための薬剤、または自己免疫疾患を治療するための薬剤、または炎症性疾患を治療するための薬剤のような薬剤の製造における、上記IFN-γを投与した細胞集団の使用に関する。
【0036】
別の態様によれば、本発明は、上記細胞集団に(i)放射線照射および(ii)IFN-γによる刺激を行うことを含んでなり、処理(i)および(ii)は任意の順序で行われる、方法に関する。上記の放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団は、本発明のさらなる態様を構成する。
【0037】
別の態様によれば、本発明は、薬剤として使用するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための上記放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団、またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団に関する。
【0038】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である疾患の1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤、例えば、移植寛容を誘導するための薬剤、または自己免疫疾患を治療するための薬剤、または炎症性疾患を治療するための薬剤などの薬剤の製造における上記放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団の使用に関する。
【0039】
別の態様によれば、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患を予防、治療または改善するための上記細胞集団、または上記Treg細胞集団、または上記放射線照射した細胞集団、または上記IFN-γで処理した細胞集団、または上記放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団、または上記のIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団の使用に関する。
【0040】
別の態様によれば、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、または免疫介在疾患に関連した1以上の症状を、その障害または疾患に罹っている患者において予防、治療または改善する方法であって、上記治療を必要とする上記患者に上記細胞集団、または上記Treg細胞集団、または上記放射線照射した細胞集団、または上記IFN-γで処理した細胞集団、または上記放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団、または上記IFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団の予防上または治療上有効量を投与することを含んでなる、方法に関する。本発明はまた、併用療法における上記方法の使用に関し、換言すれば、本発明による細胞集団は1以上の薬剤と共に、第二または他の薬剤と同時に、または別々に、例えば順次に投与される。
【0041】
別の態様によれば、本発明は、上記細胞集団、または上記Treg細胞集団、または上記放射線照射した細胞集団、または上記IFN-γで処理した細胞集団、または上記放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団、または上記IFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団と、薬学上許容可能なキャリヤーとを含んでなる医薬組成物に関する。
【0042】
別の態様によれば、本発明は、成熟した多能性細胞(multipotent cell)を分化細胞から識別する方法であって、細胞がIFN -γで刺激したときにIDOを発現するかどうかを確認することを含んでなる、方法に関する。
【0043】
別の態様によれば、本発明は、上記細胞集団、または上記Treg細胞集団、または上記放射線照射した細胞集団、または上記IFN-γで処理した細胞集団、または上記放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団、または上記IFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団を含んでなるキットに関する。
【発明の具体的説明】
【0044】
上記のように、本発明者らは、総てではないにしても様々な結合組織に存在しかつインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を発現することによってインターフェロン-γ(IFN-γ)に応答する多分化能を有するある種の細胞集団は、イン・ビボおよびイン・ビトロで免疫調節因子として作用することができることを見出した。上記細胞の免疫抑制性の免疫調節作用を用いて、自己免疫疾患、炎症性疾患、ならびに移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患などこれらに限定されない患者の免疫系の調節が有益である疾患の1以上の症状を予防、治療または改善することができる。
【0045】
定義
本発明の説明の理解を容易にするために、本発明に関する幾つかの用語および表現の意味を、以下に説明する。必要な場合には、説明に従って、さらなる定義が包含される。
【0046】
「抗原提示細胞」(APC)という用語は、その表面でMHC(主要組織適合遺伝子複合体)と複合体形成した異種抗原を示す細胞集団を表す。体内のほとんど総ての細胞はT細胞に対する抗原を提示することができるが、「抗原提示細胞」(APC)という用語は、本明細書ではプロフェッショナルAPCともよばれ、それらの表面にHLAIIを発現しかつ単球-マクロファージ系統(例えば、樹状細胞)に由来する特殊化した細胞に限定される。
【0047】
「自己免疫疾患」という用語は、患者自身の細胞に対する患者の免疫反応によって引き起こされる細胞、組織および/または臓器の損傷を特徴とする患者の状態を表す。本発明による細胞集団によって治療することができる自己免疫疾患の説明に役立つ実例としては、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫アジソン病、副腎の自己免疫疾患、自己免疫溶血性貧血、自己免疫肝炎、自己免疫卵巣炎および精巣炎、自己免疫血小板減少症、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労免疫機能不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー、チャーグ-ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡(cicatrical phmphigoid)、CREST症候群、寒冷血球凝集素病、円板状狼瘡、本態性混合寒冷グロブリン血症、繊維筋痛症-繊維筋炎、糸球体腎炎、グレーヴズ病、ギヤン-バレー症候群(Guillain-Barre)、橋本甲状腺炎、特発性肺動脈繊維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgAニューロパシー、若年性関節炎(juvenile arthritis)、扁平苔癬、メニエール病、混合結合組織疾患、多発性硬化症、1型または免疫介在性糖尿病、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎(polychrondritis)、多内分泌腺機能低下症候群、リウマチ性多筋痛、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマーグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、サルコイドーシス、強皮症、進行性全身性硬化症、シェーグレン症候群、グッドパスチャー症候群、スティッフマン症候群、全身性エリテマトーデス、エリテマトーデス、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、疱疹状皮膚炎性脈管炎のような脈管炎、白斑,ヴェーゲナー肉芽腫症などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
「免疫調節薬」という用語は、免疫系の1以上の生物活性を阻害しまたは減少させる薬剤を表す。免疫調節薬は、1以上の免疫細胞(例えば、T細胞)の1以上の生物活性(例えば、増殖、分化、初回免疫、エフェクター機能、サイトカインの産生または抗原の発現)を阻害または減少させる薬剤である。
【0049】
「炎症性疾患」という用語は、炎症、例えば慢性炎症を特徴とする患者の状態を表す。炎症性疾患の説明に役立つ実例としては、関節リウマチ(RA)、炎症性腸疾患(IBD)、喘息、脳炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性骨溶解、アレルギー疾患、敗血症性ショック、肺繊維症(例えば、特発性肺繊維症)、炎症性バキュリチデス(inflammatory vaculitides)(例えば、結節性多発動脈炎、ヴェーゲナー肉芽腫症、高安動脈炎、側頭動脈炎、およびリンパ腫様肉芽腫症)、外傷後血管形成(例えば、血管形成後の再狭窄)、未分化脊椎関節症、未分化関節症、関節炎、炎症性骨溶解、慢性肝炎、および慢性ウイルスまたは細菌感染症から生じる慢性炎症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
細胞集団に適用される「単離された」という用語は、ヒトまたは動物体から単離された細胞集団であって、上記細胞集団とイン・ビボまたはイン・ビトロに関連する1以上の細胞集団を実質的に含まないものを表す。
【0051】
「MHC」(主要組織適合遺伝子複合体)という用語は、細胞表面抗原提示タンパク質をコードする遺伝子のサブセットを表す。ヒトでは、これらの遺伝子は、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と呼ばれる。本明細書では、MHCまたはHLAという略語が互換的に用いられる。
【0052】
「患者」という用語は、動物、好ましくは非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットまたはマウス)および霊長類(例えば、サルまたはヒト)などの哺乳類を表す。好ましい実施態様では、患者はヒトである。
【0053】
「T細胞」という用語は、T細胞受容体(TCR)を発現するリンパ球のサブセットである免疫系の細胞を表す。
【0054】
「調節T細胞」(Treg細胞)という用語は、免疫系の活性化を積極的に抑制しかつ病理学的自己反応性、すなわち自己免疫疾患を防止するT細胞サブセットを表す。
【0055】
本明細書で用いられる「治療 (“treat”, “treatment”, and “treating”)」という用語は、本発明による細胞集団、本発明によるTreg細胞集団または本発明によるIFN-γで予備刺激したTreg細胞集団、またはそれらを含んでなる医薬組成物を、治療を必要とする患者に投与することによって生じる、炎症性疾患、自己免疫疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患などの疾患と関連した1以上の症状の改善を表すが、これらに限定されない。
【0056】
「併用療法」という用語は、炎症性疾患、自己免疫疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとする疾患と関連した1以上の症状の改善するための本発明による方法において、本発明による細胞集団と他の活性薬剤または治療様式とを共に使用することを表す。これらの他の薬剤または治療法は、上記疾患の治療用の既知薬剤および治療法を含んでいてもよい。本発明のよる細胞集団は、副腎皮質ステロイド、非ステロイド性の抗炎症性化合物、または炎症の治療に有用な他の薬剤と組み合わせることもできる。本発明による薬剤とこれら他の治療法または治療様式との組合せ使用は、同時であってもまたは逐次的に投与してもよく、すなわち2つの治療法を分割して、本発明による細胞集団またはそれを含んでなる医薬組成物を他の療法または治療様式の前または後に投与することができる。担当医師は、細胞集団、または細胞集団を含んでなる医薬組成物を他の薬剤、療法または治療様式と組み合わせて投与する適当な順序を決定することができる。
【0057】
本発明による細胞
一つの態様によれば、本発明は、単離された、結合組織由来の細胞集団(以下、「本発明による細胞集団」という)であって、上記細胞集団の細胞が、
a) 抗原提示細胞(APC)に特異的なマーカーを発現せず、
b) インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を構成的に発現せず、構成的とは、任意の特異的誘導なしでの遺伝子の発現を意味するものと理解され、
c) インターフェロン-γ(IFN-γ)で刺激したときにIDOを発現し、
d) 少なくとも二細胞系統に分化する能力を示すこと
を特徴とする、細胞集団に関する。
【0058】
本発明による細胞集団の細胞(以下、「本発明による細胞」という)は、結合組織に由来する。「結合組織」という用語は、間葉由来の組織を表し、その細胞が細胞外マトリックス中に包含されていることを特徴とする幾つかの組織を含む。様々な種類の結合組織の中には、脂肪および軟骨組織が含まれる。特定の態様によれば、本発明による細胞は脂肪組織の間質画分に由来する。他の特定の態様によれば、本発明による細胞は、硝子軟骨に見出される唯一の細胞である軟骨細胞から得られる。もう一つの特定の態様によれば、本発明による細胞は皮膚から得られる。また、もう一つの特定の態様によれば、本発明による細胞は骨髄から得られる。
【0059】
本発明による細胞は、ヒトなどの任意の適当な動物の結合組織の任意の適当な供給源から得ることができる。一般に、上記細胞は、非病理学的な出生後の哺乳類の結合組織から得られる。特定の態様によれば、上記細胞は、脂肪組織、硝子軟骨、骨髄、皮膚などの間質画分のような結合組織の供給源から得られる。また、特定の態様によれば、本発明による細胞集団の細胞は、哺乳類、例えば、齧歯類、霊長類などに由来し、好ましくはヒトに由来する。
【0060】
上記のように、本発明による細胞は、(i) APCに特異的なマーカーを発現せず、(ii) IDOを構成的に発現せず、(iii) IFN-γで刺激したときにIDOを発現し、(iv) 少なくとも二細胞系統に分化する能力を示すことを特徴としている。
【0061】
マーカー
本発明による細胞は、APC系統に特異的なマーカーである下記のマーカーCD11b、CD11c、CD14、CD45およびHLA11の少なくとも1、2、3、4つ、または好ましくは総てに対して陰性である。したがって、本発明による細胞は、上記した特殊APCの部分集団を構成しない。
【0062】
さらに、本発明による細胞は、下記の細胞表面マーカーCD31、CD34およびCD133の少なくとも1、2つ、または好ましくは総てに対して陰性である。
【0063】
本明細書で用いられる細胞表面マーカーに関して「陰性」であるとは、本発明による細胞を含んでなる細胞集団において、通常の方法および装置(例えば、市販抗体と当該技術分野で知られている標準的プロトコルと共に用いたBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)を用いるフローサイトメトリーではバックグラウンドシグナルを上回る特異的細胞表面マーカーに対するシグナルを示す細胞は10%未満、好ましくは9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%であるか、または存在しないことを意味する。特定の態様によれば、本発明による細胞は、下記の細胞表面マーカーCD9、CD44、CD54、CD90およびCD105の少なくとも1、2、3、4つ、または好ましくは総てを発現することを特徴とし、すなわち、本発明による細胞は上記細胞表面マーカー(CD9、CD44、CD54、CD90およびCD105)の少なくとも1、2、3、4つ、または好ましくは総てについて陽性である。好ましくは、本発明による細胞は、上記細胞表面マーカー(CD9、CD44、CD54、CD90およびCD105)の少なくとも1、2、3、4つ、または好ましくは総ての有意な発現レベルを有することを特徴とする。本明細書で用いられる「有意な発現」という表現は、本発明による細胞を含んでなる細胞集団のうち、細胞の10%を上回る、好ましくは20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または総てが、通常の方法および装置(例えば、市販抗体と当該技術分野で知られている標準的プロトコールと共に用いたBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)を用いるフローサイトメトリーにおいて、バックグラウンドシグナルを上回る特異的細胞表面マーカーに対するシグナルを示すことを意味する。バックグラウンドシグナルは、通常のFACS分析においてそれぞれ表面マーカーを検出するのに用いられる特異抗体と同じアイソタイプの非特異抗体によって与えられるシグナル強度として定義される。したがって、マーカーについて陽性と考えるには、通常の方法および装置(例えば、市販抗体と当該技術分野で知られている標準的プロトコルと共に用いたBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)を用いるバックグラウンドシグナル強度と比較して、観察される特異シグナルは、10%より強く、好ましくは20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、500%、1000%、5000%、10000%またはそれ以上である。
【0064】
所望により、本発明による細胞は、細胞表面マーカーCD106(VCAM-1)に対しても陰性である。このような細胞の例としては、本明細書に記載の脂肪組織由来の間質幹細胞のある種の集団である。
【0065】
上記細胞表面マーカー(例えば、細胞性受容体および膜貫通タンパク質)に対する市販および既知のモノクローナル抗体を用いて、本発明による細胞を同定することができる。
【0066】
IDOの発現
本発明による細胞はIDOを構成的に発現しないが、IFN-γで刺激するとIDOを発現する。本発明者らが行った実験には、上記細胞は、3ng/mlの濃度で用いられるインターロイキン-1(IL-1)、50ng/mlの濃度で用いられる腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、または100ng/mlの濃度で用いられる内毒素LPSのような他のプロインフラマトリーメディエーター(pro-inflammatory mediator)で単独で刺激したときに、通常のRT-PCRおよびウェスタンブロット分析によって測定したところ、IDO発現を誘導しないことが示されている。例えば、3ng/ml以上のIFN-γで刺激することによっても、本発明による細胞にHLAIIの発現を誘導し、細胞表面マーカーについて本明細書で定義した陽性シグナルを生じることもできる。上記発現は、特異タンパク質の発現を検出することができる任意の既知手法を用いて当業者が検出することができる。好ましくは、上記手法は、細胞サイトメトリーの手法である。
【0067】
分化
本発明による細胞は、増殖しかつ少なくとも2つ、さらに、好ましくは3、4、5、6、7つ、またはそれ以上の細胞系統に分化する能力を提示する。本発明による細胞を分化させることができる細胞系統の実例となる非制限的例としては、骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、腱細胞、筋細胞、心筋細胞、造血支持間質細胞、内皮細胞、ニューロン、星状細胞、および肝細胞が挙げられる。
【0068】
本発明による細胞は、通常の方法によって増殖しかつ他の系統の細胞に分化することができる。分化細胞を同定し、対応する未分化細胞から単離する方法も、当該技術分野で周知の方法によって行うことができる。
【0069】
本発明による細胞は、エクス・ビボで拡張(expanded)することもできる。すなわち、単離後に本発明による細胞を保持し、培地中でエクス・ビボで増殖させることができる。このような培地は、例えば、抗生物質(例えば、100単位/mlのペニシリンと100μg/mlのストレプトマイシン)を含むかまたは抗生物質を含まず、かつ2mMグルタミンを含み、2-20%のウシ胎児血清(FBS)を補足したダルベッコの改良イーグル培地(DMEM)から構成されている。用いる細胞に必要な培地および/または培地補給物の濃度を改良しまたは調節することは当該技術者の技術の範囲内にある。血清は、生長力と拡張に必要な細胞および非細胞因子および成分を含むことが多い。血清の例としては、FBS、ウシ血清(BS)、子ウシ血清(CS)、ウシ胎児血清(FCS)、新生子ウシ血清(NCS)、ヤギ血清(GS)、ウマ血清(HS)、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清(RS)などが挙げられる。また、本発明による細胞がヒト起源のものであるときには、ヒト血清を用いる細胞培地の補給物は好ましくは自己由来物であることが意図される。補体カスケードの成分を不活性化することが必要と思われるときには、血清を55-65℃で熱不活性化することができることは無論である。血清濃度、血清の培地からの回収を用いて、1以上の所望な種類の細胞の生存を促進することもできる。好ましくは、本発明による細胞は、FBS濃度が約2%-約25%が有利である。もう一つの態様によれば、本発明による細胞は、血清を、血清アルブミン、血清トランスフェリン、セレン、および組換えタンパク質(当該技術分野で知られているインスリン、血小板由来の増殖因子(PDGF)、および塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)などこれらに限定されない)の組合せに置き換えてある限定組成の培地で拡張させることができる。
【0070】
多くの細胞培地はアミノ酸を既に含んでいるが、幾つかは細胞を培養する前に補給物を要求する。上記のようなアミノ酸としては、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-アスパラギン、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
抗菌薬もまた、典型的に細胞培養に用いられ、細菌、マイコプラズマおよび真菌による汚染を軽減する。典型的には、用いられる抗生物質または抗真菌化合物は、ペニシリン/ストレプトマイシンの混合物であるが、アンホテリシン(Fungizon(登録商標))、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ヒグロマシン(hygromacin)、カナマイシン、マイトマイシンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
ホルモンを細胞培養に有利に用いることもでき、D-アルドステロン、ジエチルスチルベストロール(DES)、デキサメタゾン、b-エストラジオール、ヒドロコルチゾン、インスリン、プロラクチン、プロゲステロン、ソマトスタチン/ヒト成長ホルモン(HGH)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
本発明による細胞の維持条件は、細胞を未分化形態のままにさせておく細胞因子を含むこともできる。分化前に、細胞分化を阻害する補給物を培地から取り除かねばならないことは、当業者には明らかであろう。総ての細胞がこれらの因子を要求するわけではないことも明らかである。実際に、これらの因子は、細胞の種類によっては望ましくない効果を誘発することがある。
【0074】
有利なことに、本発明による細胞はイン・ビボでの腫瘍形成活性を欠いている。したがって、上記細胞は腫瘍形成活性を提示しない、すなわち、それらは腫瘍細胞を生じる変化した挙動または増殖表現型を提示しないことを特徴とする。
【0075】
ある態様によれば、本発明による細胞を、自己免疫疾患、炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応のような免疫介在疾患に罹っている患者に投与し、免疫応答を抑制することができる。したがって、本発明による細胞は、腫瘍形成活性を提示しないことが必要である。
【0076】
本発明による細胞の腫瘍形成活性は、免疫不全マウス株を用いて動物実験を行うことによって試験することができる。これらの実験では、数百万個の細胞をレシピエント動物の皮下に移植し、数週間保持し、腫瘍形成について分析を行う。詳細な分析法は、実施例3に記載している。
【0077】
本発明による細胞は、トランスフェクションしまたは遺伝子工学処理を行い、少なくとも1個の抗原性ポリペプチドを発現させることができる。一つの態様によれば、抗原は、精製したまたは合成または組換えポリペプチドであって、寛容を誘導することが意図される特異抗原を提示するもの、またはこのような抗原のアミノ酸配列に由来する短い合成ポリペプチドを含んでなる。好ましくは、抗原の供給源は、ドナー組織移植片によって発現される抗原を含んでなる。また、好ましくは、抗原の供給源は、患者が自己免疫疾患に罹っているタンパク質を含んでなる。
【0078】
IDO発現細胞の単離方法
一つの態様によれば、本発明は、結合組織から細胞集団を単離する方法であって、上記細胞集団の細胞が、(i) APCに特異的なマーカーを発現せず、(ii) IDOを構成的に発現せず、(iii) IFN-γで刺激したときにIDOを発現し、(iv) 少なくとも二細胞系統に分化する能力を示すことを特徴とする表現型を提示し、
(i) 結合組織の試料から細胞懸濁液を用意し、
(ii) 上記細胞懸濁液から細胞を回収し、
(iii) 上記細胞を、固体表面上の適当な細胞培地中で細胞が固体表面に接着して増殖する条件下でインキュベーションし、
(iv) インキュベーション後に上記固体表面を洗浄して、非接着細胞を除去し、
(v) 上記培地で少なくとも2回継代培養した後、上記固体表面に接着したままの細胞を選択し、
(vi) 選択した細胞集団が所望の表現型を示すことを確認すること
を含んでなる、上記方法に関する。
【0079】
本明細書で用いられる固体表面という用語は、本発明による細胞を接着させる任意の材料を表す。特定の態様によれば、上記材料はその表面への哺乳類細胞の接着を促進する処理を行ったプラスチック材料であり、例えば、場合によってはポリ-D-リシンまたは他の試薬でコーティングした市販のポリスチレンプレートである。
【0080】
工程(i)-(vi)は、当業者によって知られている通常の手法によって行うことができる。簡潔にいえば、本発明による細胞は、ヒトなどの任意の適当な動物由来の結合組織の任意の適当な供給源から、例えば、ヒト脂肪組織または軟骨組織から通常の手段によって得ることができる。動物は、動物体内の結合組織細胞が生育可能である限り、生きていてもまたは死んでいてもよい。典型的には、ヒト脂肪細胞は、外科手術または吸引による脂肪組織切除のような周知のプロトコルを用いて生きているドナーから得られる。実際に、脂肪吸引処置は極めてよく行われているので、脂肪吸引流出物は本発明による細胞を得ることができる特に好ましい供給源である。したがって、特定の態様によれば、本発明による細胞は、脂肪吸引によって得られるヒト脂肪組織の間質画分に由来する。別の特定の態様によれば、本発明による細胞は、関節鏡の手法によって得られるヒト硝子関節軟骨に由来する。もう一つの特定の態様によれば、本発明による細胞は、生験の手法によって得られるヒト皮膚に由来する。同様に、別の特定の態様によれば、本発明による細胞は、吸引によって得られるヒト骨髄に由来する。
【0081】
結合組織の試料は、本発明による細胞を材料から分離する処理を行う前に、好ましくは洗浄する。一つのプロトコールによれば、結合組織の試料を生理学的に適合する食塩溶液(例えば、リン酸緩衝食塩水(PBS))で洗浄した後、激しく攪拌して沈澱させ、この工程で、結合していないもの(例えば、損傷組織、血液、赤血球など)を組織から除去する。したがって、洗浄および沈澱工程は、一般的には上清が相対的に破片が見られなくなるまで反復する。残っている細胞は、様々な大きさの凝集塊で存在しており、プロトコルは細胞自身の損傷をできるだけ少なくしながら大きな構造を分解するように調整された工程を用いて進行する。この目的を達成する一つの方法は、洗浄した細胞塊を細胞間の結合を弱めまたは破壊する酵素(例えば、コラゲナーゼ、ジスパーゼ、トリプシンなど)で処理する方法である。このような酵素処理の量および時間は用いる条件によって変化するが、このような酵素の使用は当該技術分野で一般的に知られている。あるいはまた、このような酵素処理と共に、細胞塊を機械攪拌、音波エネルギー、熱エネルギーなど他の処理法を用いて分解することができる。分解を酵素法によって行うときには、適当な期間の後に酵素を中和して、細胞に対する有害な作用を最小限にするのが望ましい。
【0082】
分解工程においては、典型的には、凝集細胞のスラリーまたは懸濁液と、一般的には遊離の間質細胞(例えば、赤血球、平滑筋細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、および幹細胞)を含む流動性画分とを生じる。分離工程における次の局面は、凝集細胞を本発明による細胞から分離することである。これは遠心分離によって行うことができ、これによって細胞は上清によって被覆されたペレットとなる。次に、上清を廃棄して、ペレットを生理学的に適合する流体に懸濁することができる。さらに、懸濁した細胞は典型的には赤血球を含み、ほとんどのプロトコールでは、それらを溶解するのが望ましい。赤血球を選択的に溶解する方法は当該技術分野で知られており、任意の適当なプロトコール(例えば、高張または低張媒質中でのインキュベーション、塩化アンモニウムを用いる溶解など)を用いることができる。勿論、赤血球を溶解したならば、残っている細胞を溶解物から濾過、沈降分離、または密度分別などによって分離すべきである。
【0083】
赤血球が溶解されているかどうかとは無関係に、懸濁した細胞を1回以上連続的に洗浄し、再度遠心分離し、再懸濁して、純度を高めることができる。あるいは、細胞を細胞表面マーカープロフィールに基づいてまたは細胞の大きさおよび粒度に基づいて分離することもできる。
【0084】
最終的単離および再懸濁の後、細胞を培養し、所望ならば数および生育力について分析を行って、収率を評価することができる。細胞は、固体表面上で適当な細胞密度および培養条件で適当な細胞培地を用いて分化なしで培養するのが望ましい。したがって、特定の態様によれば、細胞は、通常はペトリ皿または細胞培養フラスコのようなプラスチック材料製の固体表面上で適当な細胞培地[例えば、DMEMであって、典型的にはウシ胎児血清またはヒト血清のような適当な血清5-15%(例えば、10%)を補足したもの]の存在下にて分化なしで培養し、細胞が固体表面に接着して増殖する条件下でインキュベーションする。インキュベーションの後、細胞を洗浄して、非接着細胞と細胞断片を除去する。細胞が適正なコンフルエンス、典型的には約80%細胞コンフルエンスに到達するまで、同一培地で同一条件下にて、必要な場合には細胞培地を交換しながら培養を行う。所望な細胞コンフルエンスに到達した後、細胞をトリプシンのような脱離剤を用いてより大きな細胞培養表面に適当な細胞密度(通常は、2,000-10,000個/cm2)で播種する連続継代によって拡張することができる。したがって、細胞を次に少なくとも2回上記培地中で分化なしで発生表現型を保持しながら継代し、さらに、好ましくは、細胞を少なくとも10回(例えば、少なくとも15回またはさらに、少なくとも20回)発生表現型を喪失することなく継代することができる。典型的には、細胞を約100個/cm2〜約100,000個/cm2(例えば、約500個/cm2〜約50,000個/cm2、またはさらに、詳細には約1,000個/cm2〜約20,000細胞/cm2)のような所望の密度で培養する。低めの密度(例えば、約300細胞/cm2)で培養すると、細胞は一層容易にクローンとして単離することができる。例えば、数日後には、上記密度で培養した細胞は増殖して均質な集団となる。特定の態様によれば、細胞密度は2,000〜10,000個/cm2である。
【0085】
少なくとも2回の継代を含んでなる上記処理の後に固体表面に接着したままの細胞を選択し、目的の表現型を通常の方法によって分析し、以下に述べるように本発明による細胞の同一性を確認する。一回目の継代の後に固体表面に接着したままの細胞は異種起源に由来し、この細胞は少なくとももう一回継代を行わなければならない。上記方法の結果として、目的の表現型を有する均質な細胞集団が得られる。実施例1には、ヒト脂肪組織およびヒト軟骨組織由来の本発明による細胞の単離が詳細に記載されている。
【0086】
通常は、二回目の継代の後に固体表面に接着したままの細胞は目的の表現型を示すが、細胞が本発明によって用いることができるかどうかを確かめなければならない。したがって、少なくとも2回の継代の後の固体表面への細胞の接着は、本発明による細胞を選択するための本発明の好ましい態様を構成する。目的の表現型は、通常の手段を用いて確認することができる。
【0087】
細胞表面マーカーは、通常は陽性/陰性選択に基づく任意の適当な通常の手法によって同定することができ、例えば、細胞における存在/非存在を確かめなければならない細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体を用いることができるが、他の手法を用いることもできる。したがって、特定の態様によれば、CD11b、CD11c、CD14、CD45、HLAII、CD31、CD34およびCD133の1、2、3、4、5、6、7つ、または好ましくは総てに対するモノクローナル抗体を用いて、選択された細胞における上記マーカーの非存在を確かめ、CD9、CD44、CD54、CD90およびCD105の少なくとも1、2、3、4つ、または好ましくは総てに対するモノクローナル抗体を用いて、上記マーカーの存在または上記マーカーの少なくとも1つまたは好ましくはその総ての検出可能な発現レベルを確かめる。上記モノクローナル抗体は既知で、市販されているか、または当業者であれば通常の方法によって得ることができる。
【0088】
選択された細胞におけるIFN-γによって誘導可能なIDO活性は、任意の適当な通常の分析法によって測定することができる。例えば、選択された細胞をIFN-γで刺激して、IDO発現について分析することができ、次いで、IDOタンパク質発現についての通常のウェスタンブロット分析を行うことができ、選択された細胞をIFN-γ刺激した後、IDO酵素活性を、例えば高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によるトリプトファン-キヌレニン転換および上清におけるキヌレニン濃度の光度法による測定を読み出しとすることによって計測することができる。本発明による細胞は一定条件下ではIDOを発現するので、IFN-γで刺激した後にIDO活性を検出する任意の適当な手法を用いて本発明による細胞を選択することができる。選択された細胞におけるIFN-γによって誘導可能なIDO活性を測定するための適当な分析法は、実施例2に記載されている。生成するIDOの量は、平方センチメーター当たりの細胞の個数(好ましくは5000個/cm2以上のレベルであるが、この濃度に限定されない)およびIFN-γの濃度(理想的には3ng/ml以上であるが、この濃度に限定されない)に依存する。上記の条件下で生成したIDOの活性は、24時間以上後にはキヌレニンをμM範囲の検出可能な量で生成する。
【0089】
選択された細胞が少なくとも2つの細胞系統に分化する能力は、当該技術分野で知られている通常の方法によって分析することができる。
【0090】
本発明によって提供される細胞および細胞集団は、所望ならば、細胞集団をクローニングするための適当な方法を用いてクローンとして拡張することができる。例えば、増殖した細胞集団を物理的に選択して、異なるプレート(またはマルチウェルプレートのウェル)に播種することができる。あるいは、単細胞をそれぞれのウェルへの配置するのを促進するための統計学的比率(例えば、約0.1〜約1個/ウェルまたは約0.25〜約0.5個/ウェル、例えば0.5個/ウェル)で、細胞をマルチウェルプレート上にサブクローニングすることができる。勿論、細胞は、低密度(例えば、ペトリ皿または他の適当な基質中)で培養し、クローニングリング(cloning ring)のような装置を用いて他の細胞から単離することによってクローニングすることができる。クローン集団の産生は、任意の適当な培地で拡張することができる。いずれにせよ、単離した細胞を、発生表現型を評価することができる適当な時点まで培養することができる。
【0091】
本発明者らが行ったさらなる検討によれば、分化の誘導なしの本発明による細胞のエクス・ビボ拡張は、例えば適当な血清(例えば、ウシ胎児血清またはヒト血清)の特別にスクリーニングしたロットを用いることによって長時間行うことができることを示していた。生育力および収率の測定方法は、当該技術分野で知られている(例えば、トリパンブルー排除)。
【0092】
本発明による細胞集団の細胞を単離するための工程および処置のいずれも、所望ならば、手動で行うことができる。あるいは、このような細胞を単離する方法は、1以上の適当な装置であって、その例が当該技術分野で知られているものによって促進しおよび/または自動化することができる。
【0093】
本発明による細胞の使用
本発明による細胞によれば、自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患などこれらに限定されない患者の免疫系の調節が有益である疾患に関連する1以上の症状を予防し、治療しまたは改善することができる。
【0094】
したがって、別の態様によれば、本発明による細胞は、薬剤として用いられる。特定の態様によれば、本発明による細胞を含む薬剤を用いて、移植寛容を誘導し、または自己免疫または炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患の症状を、その障害または疾患のいずれかに罹っている患者において治療により改善することができる。したがって、本発明による細胞は、免疫または炎症性疾患のいずれかに罹っている患者の上記障害の症状を治療または予防的に治療することによって症状を改善し、または免疫介在疾患に罹っている患者の上記疾患の症状を改善するのに用いることができる。
【0095】
本明細書で用いられる「障害」および「疾患」という用語は、互換的に患者の状態を表す。特に、「自己免疫疾患」という用語は、「自己免疫障害」という用語と互換的に用いられ、患者自身の細胞、組織および/または臓器に対する患者の免疫反応によって引き起こされる細胞、組織および/または臓器損傷を特徴とする患者の状態を表す。「炎症性疾患」という用語は、「炎症性障害」という用語と互換的に用いられ、炎症、好ましくは慢性炎症を特徴とする患者の状態を表す。自己免疫障害は、炎症と関連することがありまたはしないこともある。さらに、炎症は、自己免疫疾患によって引き起こされることがありまたは引き起こされないこともある。したがって、ある種の障害は、自己免疫および炎症性疾患の両方を特徴とすることがある。
【0096】
ある状態により患者に自己免疫を生じるメカニズムは、一般にはよく理解されていないが、遺伝学的および内因性要因の両方を含んでいる可能性がある。例えば、細菌、ウイルスまたは薬剤は、自己免疫障害の遺伝学的素因を既に有している患者では自己免疫反応を誘発する役割を果たすことがある。例えば、ある種の共通アレルギーの患者は、自己免疫障害に一層罹りやすい。
【0097】
実際に、どのような自己免疫疾患、炎症性疾患または免疫介在疾患も、本発明による細胞で治療することができる。治療することができる上記疾患および障害の実例となる非制限的例は、「定義」の項で上記されたものである。特定の態様によれば、上記炎症性疾患は、例えば、IBDまたはRAなどの慢性炎症性疾患である。
【0098】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤の製造における本発明による細胞の使用に関する。したがって、本発明はまた、免疫応答を抑制するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための薬剤の製造における本発明による細胞の使用に関する。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は、上記している。特定の態様によれば、疾患は、慢性炎症性疾患のような炎症性疾患、例えばIBDまたはRAである。
【0099】
別の態様によれば、本発明は、調節T細胞(Treg)、すなわち、免疫系の活性化を積極的に抑制し、病理学的自己反応性、すなわち自己免疫疾患を予防する細胞の製造または生成における本発明による細胞の使用に関する。
【0100】
本発明によるTreg細胞
本発明はまた、別の態様によれば、調節T細胞(Treg)、すなわち、免疫系の活性化を積極的に抑制し、病理学的自己反応性、すなわち自己免疫疾患を予防する、本発明による細胞から得られる細胞(Foxp3+CD4+CD25+ TregおよびIL-10/TGFb産生Tr1細胞)に関する(以下、本発明によるTreg細胞という)。
【0101】
したがって、別の態様によれば、本発明は、本発明によるTreg細胞集団の単離方法であって、
(a) 本発明による細胞集団を末梢血白血球と接触させ、
(b) 本発明によるTreg細胞集団を選択すること
を含んでなる、方法に関する。
【0102】
したがって、本発明による細胞を用いて、T細胞のサブセットである本発明によるTreg細胞を産生することができ、これは本発明の別の態様を構成する。本発明によるTreg細胞は、当業者に知られている通常の手段によって単離することができる。
【0103】
本発明によるTreg細胞は、患者の免疫系の調節が有益である自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するために用いることができる。上記使用は、本発明の別の態様を構成する。
【0104】
したがって、別の態様によれば、本発明によるTreg細胞は薬剤として用いられる。特定の態様によれば、本発明によるTreg細胞を含む薬剤を用いて、移植寛容を誘導し、または、自己免疫または炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患症状を、その障害または疾患のいずれかに罹っている患者において治療し、改善することができる。したがって、本発明によるTreg細胞は、免疫または炎症性疾患のいずれかに罹っている患者の上記障害の症状を治療または予防的に治療することによって症状を改善し、または免疫介在疾患に罹っている患者の上記疾患の症状を改善するのに用いることができる。
【0105】
実際に、どのような自己免疫疾患、炎症性疾患または免疫介在疾患も、本発明によるTreg細胞で治療することができる。治療することができる上記疾患および障害の実例となる非制限的例は、「定義」の項で上記されたものである。特定の態様によれば、上記炎症性疾患は、例えば、IBDまたはRAなどの慢性炎症性疾患である。
【0106】
別の態様によれば、本発明は、患者の免疫系の調節が有益である自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤の製造における本発明によるTreg細胞の使用に関する。したがって、本発明はまた、免疫応答を抑制するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための薬剤の製造における本発明によるTreg細胞の使用に関する。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は、上記している。特定の態様によれば、疾患は、慢性炎症性疾患のような炎症性疾患、例えばIBDまたはRAである。
【0107】
本発明は、選択された抗原または抗原群に特異的なTreg細胞の産生における本発明による細胞集団の使用、およびその抗原または抗原群に関する疾患または障害の治療におけるこれらの細胞集団の使用も提供する。このような抗原の例は、例えば、関節リウマチ、クローン病、過敏性反応IV型、狼瘡、乾癬、および当該技術分野で知られておりかつ本明細書の他の箇所に記載されている他の自己免疫疾患のような自己免疫疾患において役割を果たす抗原が挙げられる。簡潔にいえば、本発明による細胞集団は、選択された抗原、抗原群、またはこの抗原を発現しおよび/または提示する細胞型の存在下にてイン・ビトロで培養される。本発明による細胞は、所望によりIFN-γ、LPSまたは当該技術分野で知られている他の活性剤で予備刺激することができる。約2、4、6、12、24、48時間以上、好ましくは約12〜約24時間の培養時間の後、本発明による細胞集団を、所望により抗原、抗原群または上記抗原を持っている細胞を除去した後に、患者から得た末梢血白血球と共培養する。この共培養により、選択された抗原に特異的なTreg細胞が生成し、患者の治療に用いることができる。所望により、これらのTreg細胞の数を当該技術分野で知られている培養法を用いてエクス・ビボで拡張した後、患者に投与することができる。理論によって束縛しようとするものではないが、本発明者らは、本発明による細胞集団が、細胞表面上のHLAクラスIIを介して選択された抗原(IFN-γによって誘導されると思われる)を末梢血白血球に提示し、Treg細胞が末梢血白血球の集団内で増加しおよび/または活性化されるようにすることができると考えている。実施例11に示されるように、本発明者らは、本発明による細胞集団が低分子量分子を食細胞することができ、したがって、HLAクラスII分子を介するIFN-γ刺激の後にこれらの分子を提示することができることを明らかにした。末梢血白血球との相互作用を用いるこのメカニズムを介して選択された抗原を提示することにより、上記Treg細胞を生成すると思われる。代替処理法としては、実施例7に記載されているように、本発明による細胞集団は全く共培養することなくイン・ビボで直接投与し、特異的なTreg細胞を生成することができ、これが続いて疾患を治療する。
【0108】
したがって、本発明は、
(a) 本発明による細胞集団を上記選択された抗原または抗原群と接触させ、
(b) 上記細胞集団を末梢血白血球と接触させ、
(c) 上記選択された抗原または抗原群に特異的なTreg細胞集団を選択すること
を含んでなる、選択された抗原または抗原群に特異的なTreg細胞を得るイン・ビトロ法を提供する。
【0109】
本発明はまた、上記選択された抗原または抗原群に関連した疾患および障害の治療における上記Treg細胞の使用であって、工程(c)の特異的Treg細胞を末、梢血白血球を得た患者に投与することによる使用を提供する。この方法に用いられる本発明による細胞集団は、患者由来(自己由来)であってもまたはドナー由来(同種異系)であってもよい。
【0110】
本発明による放射線照射した細胞
本発明による細胞は、γ線照射装置のような適当に制御された電離放射線の線源を用いて放射線照射することができる。照射条件は、当業者が実験的に調整して、本発明による細胞の長時間成長抑止を引き起こす放射線量を賦与するのに必要な被爆時間を決定しなければならない。上記の放射線量は、例えば、1〜100、5〜85、10〜70、12〜60Gy、さらに、好ましくは15〜45Gyとすることができる。
【0111】
本発明による細胞は治療用途に用いることができるので、患者に投与する前に本発明による細胞に放射線照射することは、この照射処理によって細胞が患者体内で長時間増殖しまたは生存することができなくなるので、有益な結果となることがある。上記の放射線照射した細胞は、本発明の別の態様を構成する。
【0112】
本発明による放射線照射した細胞は、患者の免疫系の調節が有益である自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するために用いることができる。この用途は、本発明の別の態様を構成する。
【0113】
したがって、別の態様によれば、本発明による放射線照射した細胞は、薬剤として用いられる。特定の態様によれば、本発明による放射線照射した細胞を含む薬剤を用いて、移植寛容を誘導し、あるいは、自己免疫または炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患の症状を、その障害または疾患のいずれかに罹っている患者において、治療することにより改善することができる。したがって、本発明による放射線照射した細胞は、免疫または炎症性疾患のいずれかに罹っている患者の上記障害の症状を治療または予防的に治療することによって症状を改善し、または免疫介在疾患に罹っている患者の上記疾患の症状を改善するのに用いることができる。
【0114】
実際に、どのような自己免疫疾患、炎症性疾患または免疫介在疾患も、本発明による放射線照射した細胞で治療することができる。治療することができる上記疾患および障害の実例となる非制限的例は、「定義」の項で上記されたものである。特定の態様によれば、上記炎症性疾患は、例えば、IBDまたはRAなどの慢性炎症性疾患である。
【0115】
別の態様によれば、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない、患者の免疫系の調節が有益な疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤の製造における本発明による放射線照射した細胞の使用に関する。したがって、本発明はまた、免疫応答を抑制するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための薬剤の製造における本発明による放射線照射した細胞の使用に関する。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は、上記している。特定の態様によれば、疾患は、慢性炎症性疾患のような炎症性疾患、例えばIBDまたはRAである。
【0116】
本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞
同様に、所望ならば、本発明による細胞は、IFN-γで予備刺激することができる。IFN-γによる予備刺激の方法は当業者には明らかであり、手順は実施例2に示されている。好ましくは0.1〜100、0.5〜85、1〜70、1.5〜50、2.5〜40ng/ml、またはさらに、好ましくは3〜30ng/mlの濃度のIFN-γ、および好ましくは12時間を上回る、例えば、13、18、24、48、72時間以上の刺激時間を用いて、細胞を予備刺激する。
【0117】
本発明による細胞は治療用途に用いることができる。よって、患者に投与する前に本発明による細胞をIFN-γで予備刺激する結果、患者におけるIFN-γで予備刺激した細胞の投与とIDO発現との間の時間を減少させることができるので、有益な結果となることがある。
【0118】
したがって、別の態様によれば、本発明は、本発明による細胞をIFN-γで処理してこの細胞を予備刺激することを含んでなる方法に関する。この方法によって得ることができる細胞(以下、「本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞」という)は、本発明の別の態様を構成する。本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞は、当業者に知られている通常の手段によって単離することができる。
【0119】
本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞は、自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない、患者の免疫系の調節が有益な疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するために用いることができる。上記使用は、本発明の別の態様を構成する。
【0120】
したがって、別の態様によれば、本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞は、薬剤として用いられる。特定の態様によれば、本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞を含む薬剤を用いて、移植寛容を誘導し、あるいは、自己免疫または炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患の症状を、その障害または疾患のいずれかに罹っている患者において、治療することにより改善することができる。したがって、本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞は、免疫または炎症性疾患のいずれかに罹っている患者の上記障害の症状を治療または予防的に治療することによって症状を改善し、または免疫介在疾患に罹っている患者の上記疾患の症状を改善するのに用いることができる。
【0121】
実際に、どのような自己免疫疾患、炎症性疾患または免疫介在疾患も、本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞で治療することができる。治療することができる上記疾患および障害の実例となる非制限的例は、「定義」の項で上記されたものである。特定の態様によれば、上記炎症性疾患は、例えば、IBDまたはRAなどの慢性炎症性疾患である。
【0122】
別の態様によれば、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない、患者の免疫系の調節が有益な疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤の製造における本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞の使用に関する。したがって、本発明はまた、免疫応答を抑制するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための薬剤の製造における本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞の使用に関する。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は、上記している。特定の態様によれば、疾患は、慢性炎症性疾患のような炎症性疾患、例えばIBDまたはRAである。
【0123】
本発明による放射線照射しIFN-γで予備刺激した細胞および本発明によるIFN-γで予備刺激し放射線照射した細胞
さらに、所望ならば、本発明による細胞に放射線照射およびIFN-γによる刺激の処理を任意の順序で行い、すなわち、本発明による細胞に最初に放射線照射を行い、生成する細胞を次にIFN-γで刺激することができ、または反対に、本発明による細胞を最初にIFN-γで刺激した後に、生成する細胞に放射線照射を行うことができる。
【0124】
したがって、一つの態様によれば、本発明による細胞をIFN-γで予備刺激し、生成する細胞(本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞)に放射線照射を行うことができ、放射線照射した細胞を、以下「本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞」という。
【0125】
別の態様によれば、本発明による細胞を放射線照射し、生成する細胞(本発明による放射線照射した細胞)をIFN-γで予備刺激することができ、IFN-γで予備刺激した細胞を、以下「本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞」という。
【0126】
細胞をIFN-γで予備刺激する方法並びに細胞に放射線照射する方法は、当業者には周知であり、それらの幾つかは上記している。上記方法のいずれを用いることもできる。
【0127】
したがって、別の態様によれば、本発明は、本発明による細胞に(i) 放射線照射および(ii) IFN-γによる刺激を施してなる方法であって、処理(i)および(ii)は任意の順序で行うことができ、IFN-γで予備刺激した細胞を放射線照射し、または放射線照射した細胞をINF-γで予備刺激する方法に関する。上記の方法によって得ることができる細胞(本明細書では「本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞」または「本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞」と呼ぶ)は、それぞれ本発明の追加態様を構成する。上記本発明の放射線照射しIFN-γで予備刺激した細胞並びに上記本発明のIFN-γで予備刺激した放射線照射細胞は、当業者に知られている通常の手段によって単離することができる。
【0128】
本発明による細胞は治療用途に適用できるので、予め放射線照射およびIFN-γ-刺激を任意の順序で施した本発明による細胞を患者に投与すると、上記の理由から有利となることがある(例えば、細胞に放射線照射処理を施すと、細胞が患者体内で長時間増殖または生存することができなくなり、一方、患者に投与する前に細胞をIFN-γで刺激すると、IFN-γで予備刺激した細胞の投与と患者におけるIDO発現との間の時間が短縮されることがある)。
【0129】
本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞並びに本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞は、患者の免疫系の調節が有益である自己免疫疾患、炎症性疾患、および移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するために用いることができる。上記使用は、本発明の別の態様を構成する。
【0130】
したがって、別の態様によれば、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞並びに本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞は、薬剤として用いられる。特定の態様によれば、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞を含む薬剤を用いて、移植寛容を誘導し、あるいは、自己免疫または炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患の症状を、その障害または疾患のいずれかに罹っている患者において、治療することにより改善することができる。したがって、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞並びに本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞は、免疫または炎症性疾患のいずれかに罹っている患者の上記障害の症状を治療または予防的に治療することによって症状を改善し、または免疫介在疾患に罹っている患者の上記疾患の症状を改善するのに用いることができる。
【0131】
実際に、どのような自己免疫疾患、炎症性疾患または免疫介在疾患も、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞で治療することができる。治療することができる上記疾患および障害の実例となる非制限的例は、「定義」の項で上記されたものである。特定の態様によれば、上記炎症性疾患は、例えば、IBDまたはRAなどの慢性炎症性疾患である。
【0132】
別の態様によれば、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、ならびに移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとするこれらに限定されない、患者の免疫系の調節が有益な疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤の製造における、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞の使用に関する。したがって、本発明はまた、免疫応答を抑制するため、または移植寛容を誘導するため、または自己免疫疾患を治療するため、または炎症性疾患を治療するための薬剤の製造における、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞の使用に関する。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は、上記している。特定の態様によれば、疾患は、慢性炎症性疾患のような炎症性疾患、例えばIBDまたはRAである。
【0133】
医薬組成物
本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、ならびに移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患をはじめとする、患者の免疫系の調節が有益な疾患に関連した1以上の症状を予防、治療または改善するための医薬組成物を提供する。
【0134】
したがって、別の態様によれば、本発明は、本発明による細胞、または本発明によるTreg細胞、または本発明による放射線照射した細胞、または本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞、または本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞、または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞と、薬学上許容可能なキャリヤーとを含んでなる医薬組成物(以下、本発明による医薬組成物という)に関する。2以上の上記種類の細胞の組み合わせは、本発明によって提供される医薬組成物の範囲に包含される。
【0135】
本発明による医薬組成物は、予防上または治療上有効量の1種類以上の予防または治療薬(すなわち、本発明による細胞、または本発明によるTreg細胞、または本発明による放射線照射した細胞、または本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞、または本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞、または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞、またはそれらの組合せ)と、薬学上許容可能なキャリヤーとを含んでなる。特定の態様によれば、「薬学上許容可能な」という用語は、動物、さらに、特にはヒトでの使用について、連邦または州政府の管理機関によって承認され、または合衆国薬局方または欧州薬局方または他の一般に認められている薬局方に記載されていることを意味する。「キャリヤー」という用語は、治療薬を一緒に投与する希釈剤、アジュバント、賦形剤またはビヒクルをいう。組成物は、所望ならば、少量のpH緩衝剤を含むこともできる。適当な薬学キャリヤーの例は、「レミントン製薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」E W Martin著に記載されている。このような組成物は、予防上または治療上有効量の予防または治療薬を、好ましくは精製された形態で適量のキャリヤーと共に含んでおり、適正な投与形態を患者に提供する。処方物は、投与の様式に適合するものであるべきである。好ましい態様によれば、医薬組成物は滅菌されており、患者、好ましくは動物患者、さらに、好ましくは哺乳類患者、さらに好ましくはヒト患者への投与に適当な形態である。
【0136】
本発明による医薬組成物は、様々な形態であることができる。これらの形態としては、例えば、凍結乾燥製剤、液体溶液または懸濁液、注射用および輸液用溶液などのような固体、半固体および液体投薬形態が挙げられる。好ましい形態は、目的とする投与用式および治療用途によって変化する。
【0137】
本発明による細胞集団またはこれを含んでなる医薬組成物をそれを必要とする患者へ投与するのは、通常の手段によって行うことができる。特定の態様によれば、上記細胞集団は、細胞を所望な組織にイン・ビトロ(例えば、移植またはエングラフティング(engrafting)の前の移植片として)でまたはイン・ビボで、動物組織へ直接輸送することを含む方法によって患者に投与される。細胞は、任意の適当な方法によって所望な組織に輸送することができ、この方法は組織の種類によって変化する。例えば、細胞は、細胞を含む培地に移植片を浸す(またはこれを浸出する)ことによって移植片に輸送することができる。あるいは、細胞を組織内の所望な部位に播種して集団を定着させることができる。細胞は、カテーテル、トロカール、カニューレ、ステント(細胞と共に播種することができる)などの器具を用いてイン・ビボで部位に輸送することができる。
【0138】
本発明による細胞は、患者に投与する前に放射線照射することができる。この処理により、細胞は患者体内で長時間増殖または生存することができなくなる。したがって、特定の態様によれば、本発明による医薬組成物は、本発明による放射線照射した細胞を含んでなる。
【0139】
また、本発明による細胞は、患者に投与する前にIFN-γで予備刺激して、患者体内での細胞投与とIDO発現の間の時間を短縮することができる。したがって、特定の態様によれば、本発明による医薬組成物は、本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞を含んでなる。
【0140】
さらに、本発明による細胞は、患者に投与する前に、放射線照射およびIFN-γによる予備刺激を任意の順序で両方とも行うことができる。したがって、特定の態様によれば、本発明による医薬組成物は、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞を含んでなる。
【0141】
本発明による細胞集団および医薬組成物は、併用療法に用いることができる。特定の態様によれば、併用療法は、1種類以上の抗炎症薬に抵抗性の炎症性疾患の患者に投与される。別の態様によれば、併用療法は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、ステロイド性抗炎症薬、β-作動薬、抗コリン作動薬、およびメチルキサンチンなどこれらに限定されない他の種類の抗炎症薬と共に用いられる。NSAIDの例としては、イブプロフェン、セレコキシブ、ジクロフェナック、エトドラック、フェノプロフェン、インドメタシン、ケトララック、オキサプロジン、ナブメントン、スリンダック、トルメンチン、ロフェコキシブ、ナプロキセン、ケトプロフェン、ナブメントンなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのNSAIDは、シクロオキシゲナーゼ酵素(例えば、COX-1および/またはCOX-2)を阻害することによって作用する。ステロイド性抗炎症薬の例としては、糖質コルチコイド、デキサメタゾン、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニソン、プレドニソロン、トリアムシノロン、アズルフィジン、およびトロンボキサンのようなエイコサノイド、およびロイコトリエンが挙げられるが、これらに限定されない。インフリキシマブのようなモノクローナル抗体を用いることもできる。
【0142】
上記態様によれば、本発明による併用療法は、このような抗炎症薬の投与の前、同時または後に用いることができる。さらに、これらの抗炎症薬は、本明細書でリンパ組織誘発因子および/または免疫調節薬としての特徴を有する薬剤を包含しない。
【0143】
成熟した多能性細胞を分化細胞から識別する方法
IFN-γで刺激したときのIDOの発現を用いて、上記酵素を発現する細胞をIDOを発現しない細胞から識別することができる。
【0144】
したがって、別の態様によれば、本発明は、多能性細胞がIFN-γで刺激したときにIDOを発現するかどうかを確認することを含んでなる、成熟した多能性細胞を分化細胞から識別する方法に関する。IFN-γで刺激したときのIDOは、任意の通常の手法で測定することができ、一つの態様によれば、IFN-γで刺激したときのIDOは、実施例2に記載の方法で測定することができる。
【0145】
上記のように、本発明による細胞集団の細胞は、IFN-γで刺激したときだけを除き、IDOを構成的に発現しないことを特徴とする。さらに、IFN-γは除いて、IL-1、TNF-α、または内毒素のような他のプロインフラマトリー分子は、本発明による細胞集団の細胞においてIDOの発現を単独で誘発することができない。この特徴を用いて、本発明による細胞集団の細胞を他の細胞から識別することができる。
【0146】
キット
別の態様によれば、本発明は、(i)本発明による細胞、および/または(ii)本発明によるTreg細胞、および/または(iii) 本発明による放射線照射した細胞、および/または(iv) 本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞、および/または(v) 本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞、および/または(vi) 本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞を含む細胞集団を含んでなるキットに関する。本発明キットは、このような細胞型の1、2、3、4、5つ、または総てを含んでなることができる。
【0147】
処理方法
別の態様によれば、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、または移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患に関連した1以上の症状の予防、治療または改善のための、本発明による細胞、本発明によるTreg細胞集団、本発明による放射線照射した細胞、本発明のIFN-γで予備刺激した細胞、本発明の放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞、または本発明のIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞を含む細胞集団の使用に関する。特定の態様によれば、上記細胞集団を用いて、移植寛容を誘導し、あるいは、自己免疫または炎症性疾患、または免疫介在疾患の症状を、その障害または疾患に罹っている患者において治療することにより改善することができる。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は、上記している。特定の態様によれば、疾患は、慢性炎症性疾患のような炎症性疾患、例えば、IBDまたはRAである。
【0148】
別の態様によれば、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、または免疫介在疾患に関連した1以上の症状を、その障害または疾患に罹っている患者において予防し、治療しまたは改善する方法であって、本発明による細胞、本発明によるTreg細胞、本発明による放射線照射細胞、本発明によるIFN-γで予備刺激した細胞、本発明による放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞、または本発明によるIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞を含む予防上または治療上有効量の細胞集団を、その治療を必要とする上記患者に投与することを含んでなる方法を提供する。特定の態様によれば、上記細胞集団を用いて、移植寛容を誘導し、あるいは、自己免疫または炎症性疾患、または免疫介在疾患の症状を、その障害または疾患に罹っている患者において、治療することにより改善することができる。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は、上記している。特定の態様によれば、疾患は、慢性炎症性疾患のような炎症性疾患、例えば、IBDまたはRAである。
【実施例】
【0149】
本発明を実施例によってさらに、具体的に説明するが、これらの実施例は発明の範囲を制限することを意味するものではなく、むしろこれらの実施例は、添付図に関して本発明を例示するのに役立つものである。
【0150】
例1
本発明による細胞の単離および拡張
I. 材料および方法
脂肪組織から本発明による細胞の単離
ヒト脂肪組織は、局部麻酔および一般的鎮静下で脂肪吸引によって得た。中空の平滑尖端カニューレを、小切開(直径が0.5 cm未満)を介して皮下空隙に導入した。緩やかに吸引しながら、脂肪組織腹壁区画中にカニューレを移動させ、脂肪組織を機械的に破壊した。食塩溶液と血管収縮薬エピネフリンを脂肪組織区画に注入し、血液損失を最小限に止めた。この方法で、未処理の脂肪吸引物80〜100mlを、治療を行うそれぞれの患者から得た。
【0151】
未処理脂肪吸引物を、滅菌したリン酸緩衝食塩水(PBS, Gibco BRL, ペーズリー,スコットランド, 英国)で徹底的に洗浄し、血液細胞、食塩水および局部麻酔薬を除去した。細胞外マトリックスを、平衡塩溶液(5 mg/ml, Sigma, セントルイス, 米国)中II型コラゲナーゼの溶液(0 075%, Gibco BRL)で37℃で30分間消化して、細胞性画分を放出した。次いで、コラゲナーゼを、10%ウシ胎児血清(FBS, Gibco BRL)を含む等容の細胞培地(ダルベッコの改良イーグル培地(DMEM, Gibco BRL))を添加することによって不活性化した。細胞の懸濁液を、250 x g で10分間遠心分離した。細胞を0.16M NH4Clに再懸濁し、室温(RT)で5分間放置し、赤血球を溶解させた。混合物を250 x gで遠心分離し、細胞をDMEM + 10% FBSおよび1%アンピシリン/ストレプトマイシン混合物(Gibco BRL)に再懸濁した後、それらを40μmメッシュを通して濾過し、10-30 x 103個/cm2の濃度で組織培養フラスコで培養した。
【0152】
本発明による細胞の関節軟骨からの単離
ヒト硝子関節軟骨は、関節鏡の手法によってドナーの膝関節から得た。約4 cm2の軟骨を大腿顆の外縁から採取したが、生験の大きさはドナーの年齢、関節の構造および外科医の考慮によって変化することがある。生験試料を滅菌食塩溶液に懸濁し、その使用まで3〜8℃で保管した。生体の軟骨試料は、48時間を上回る時間保管すべきではない。
【0153】
軟骨生験試料を1 mlの1% FBSを含む滅菌細胞培地に移し、できるだけ細かい組織断片を得るためにミンチにした。生成する軟骨断片を0.1%(w/v)コラゲナーゼを含む同様の培地に懸濁し、緩やかに連続攪拌しながら37℃でインキュベーションした。消化の後、得られた細胞懸濁液を40μmメッシュで濾過し、細胞を10〜30 x 103個/cm2の濃度で組織培養フラスコ上で培養した。
【0154】
細胞のエクス・ビボ拡張
脂肪組織および関節軟骨の両方由来の細胞を、5% CO2/空気の雰囲気で37℃にて24時間個別に培養した。次いで、培養フラスコをPBSで洗浄し、非接着細胞および細胞断片を除去した。細胞を、同じ培地で同じ条件下で細胞が約80%コンフルエンスに到達するまで、3〜4日毎に培地を交換しながら培養を継続した。次に、細胞を、トリプシン-EDTA (Gibco BRL)で約5〜6 x 103個/cm2の細胞密度に対応する1:3の希釈度で継代培養を行った。ヒト脂肪組織から単離され、25を上回る細胞集団へ倍増するためにエクス・ビボで培養した細胞の細胞増殖速度を、図1に示す。
【0155】
細胞の特性決定
細胞の特性決定は、培養継代1〜25の細胞を用いて行った。脂肪組織および関節軟骨の両方由来の細胞を、
抗原提示細胞(APC)のマーカー: CD11b、CD11c、CD14、CD45およびHLAII、
内皮細胞のマーカー: CD31
他のマーカー: CD9、CD34、CD90、CD44、CD54、CD105およびCD133
を含む一連の表面マーカーの存在/非存在について蛍光マーカーで標識した抗体を用いるフローサイトメトリー(すなわち、蛍光免疫サイトメトリー)によって分析した。
【0156】
フローサイトメトリー分析法で用いた抗体は、下記の通りであった。
CD9: クローンMM2/57マウスIgG2b - FITC標識抗体(Serotec)、
CD11b: クローンICRF44マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec)、
CD11c: クローンBUl 5マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec)、
CD14: クローンUCHM 1マウスIgG2a - FITC標識抗体(Serotec)、
CD31: クローンWM59マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec)、
CD34: クローンQBEND10マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec)、
CD44: クローンF10-44-2マウスIgG2a - FITC標識抗体(Serotec)、
CD45: クローンF10-89-4マウスIgG2a- FITC標識抗体(Serotec)、
CD54: クローン15.2マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec)、
CD90: クローンF15-42-1マウスIgG1 -FITC標識抗体(Serotec)、
CD105: クローンSN6マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec)、および
抗ヒトHLAクラスII DP、DQ、DR: クローンWR18マウスIgG2a-FITC標識抗体(Serotec)、
CD133: クローン293C3マウスIgG2b- PE標識抗体(Miltenyi Biotec)。
【0157】
II. 結果
結果は、図2に集まっており、分析を行った細胞はCD9、CD44、CD54、CD90およびCD105については陽性であり、CD11b、CD11c、CD14、CD31、CD34、CD45、CD133およびHLAIIについては陰性であることを示している。細胞は、内皮またはAPC系統(CD11b、CD11c、CD14、CD45およびHLAII)に特異的な試験マーカーの総てについては陰性であった。
【0158】
例2
インターフェロン-γ(IFN-γ)によるインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)の誘導
I. 材料および方法
ヒト脂肪組織から単離した本発明による細胞(実施例1)を組織培養プレートに10,000個/cm2の密度で播種し、上記条件で48時間インキュベーションして細胞拡張を行った。次いで、
インターロイキン-1 (IL-1): 3 ng/ml、
インターフェロン-γ(IFN-γ): 3 ng/ml、
腫瘍壊死因子-α(TNF-α): 5 ng/ml、
リポ多糖類 (LPS): 100 ng/ml
などの様々なプロインフラマトリー刺激物を培地に加えた。
【0159】
細胞を、対応する刺激物の存在下にて30分間〜48時間インキュベーションした後、トリプシン消化によって集め、プロテアーゼ阻害剤を含むRIPA緩衝液(50 mMトリス-HCl pH 7.4, 150 mM NaCl, 1 mM PMSF(フェニルメチルスルホニルフルオリド), 1 mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸), 5 μg/mlアプロチニン, 5 μg/mlロイペプチン, 1% Triton x-100, 1 %デオキシコール酸ナトリウム, 0.1% SDS)中でリーシスを行った。次に、細胞溶解物を用いて、IDO特異的モノクローナル抗体(マウスモノクローナルIgG,クローン10.1, Upstate細胞シグナル形成溶液)を用いるウェスタンブロット実験を行った。また、RNAを処理した細胞から単離し、IDO cDNA(GenBank Accession No. M34455 (GI 185790))に特異的なプライマーを用いて逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)実験によって試験した。
フォワード5' GGATTCTTCCTGGTCTCTCTATTGG 3',
リバース 5' CGGACTGAGGGATTTGACTCTAATG 3'。
【0160】
II. 結果
この実験の結果[図3A(RT-PCR)および3B(ウェスタンブロット法)]は、本発明によって提供される細胞はIDOを構成的に発現しないことを示している。IDO mRNAはIFN-γ刺激の2時間後に誘導されるが、タンパク質の発現は誘導の8〜24時間の間に検出することができるだけである。
【0161】
同様の結果は、本発明による細胞を骨髄、関節軟骨および皮膚などの他のヒト組織(図4)から単離したときに得られた。
【0162】
例3
腫瘍形成性
I. 材料および方法
この実験は、実施例1に記載のヒト脂肪組織から単離した本発明による細胞を用いて行った。細胞試料を2〜7週間培養した後、免疫不全マウスの皮下に移植した(5x106個/マウス)。マウスは、Charles River Laboratoriesから入手したnu/nu株であった。マウスは胸腺を欠いており、T細胞欠損であった。移植されたマウスを4ヶ月間追跡調査した後、屠殺して病理学的検討を行った。
【0163】
病理学的検討:剖検を総ての動物について行った。動物を、脳、肺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、腹部リンパ節および注射部位における総体的異常について検討した。注射部位、肺およびリンパ節などの組織を集めて、組織学的検討(パラフィン切片およびヘマトキシリン-エオシン(H&E)染色)を行った。
奇形腫細胞系(N-TERA)を、陽性コントロールとして用い、同一条件下で移植した。
【0164】
II. 結果
結果は、奇形腫細胞を移植したマウスは数週間後に腫瘍を発生させたが、本発明による細胞を移植した動物は、移植後の最初の4ヶ月間には腫瘍を発生しなかった[データーは示さず]。
【0165】
例4
マウスにおける実験的に誘発したIBDの治療
I. 材料および方法
大腸炎を、以前に報告した方法(Neurath, M.F., et al 1995「IL-12に対する抗体はマウスで定着した実験的大腸炎を排除する」J. Exp. Med. 182, 1281-1290)によってBalb/cマウス(6〜8週齢, Jackson Laboratories, バーハーバー, メイン)に誘導した。簡潔に説明すれば、マウスをハロタンで軽く麻酔し、3.5 Fカテーテルを肛門から4 cmの直腸内に挿入した。大腸炎を誘発させるため、50または30 mg/mlのTNBS(2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸)(Sigma Chemical Co, セントルイス, ミズーリー(MO))を50%エタノールに溶解したもの100μlを(腸上皮関門を破るため)1ml注射器に満たし、カテーテルを介して管腔に徐々に投与した。コントロールマウスには、50%エタノールのみ(100μl)を投与した。TNBSの点滴注入の12時間後に、動物の直腸内に実施例1に記載の方法でヒト脂肪組織から得た様々な数の本発明による細胞(0.3 x 106および1 x 106個、リン酸緩衝食塩水PBSに懸濁)を投与した。幾つかの実験では、上記細胞を、注入前24時間 200 U/ml IFN-γで前処理した。動物を、毎日生存、下痢の出現、および体重の減少について観察した(図5、6および7)。
【0166】
II. 結果
図5に示す通り、本発明による細胞を投与した後には、用量依存的に体重増加の改善が見られた。実際に、用量依存性は図6で観察することができ、1x106個の細胞は0.3x106個の細胞より強い効果を示す。いずれの場合にも、細胞は、TNBSを投与したマウスの生存率を有意に改善した。
【0167】
さらに、IFN-γで予備刺激した細胞は、予備刺激しなかった細胞よりTNBS処理から一層速くかつ大幅な回復を示した(図7)。グラフは、TNBSを投与したマウスでは体重が劇的に減少し、細胞を投与されたマウスでは明らかな改善を示している。
【0168】
例5
マウスにおける実験的に誘発した炎症性腸疾患(IBD)の治療 - 追加実験
I. 材料および方法
実施例4と同じ実験の延長において、大腸炎を、以前に報告した方法(Neurath, M.F., et al 1995「IL-12に対する抗体はマウスで定着した実験的大腸炎を排除する」J. Exp. Med. 182, 1281-1290)によってBalb/cマウス(6-8週齢, Jackson Laboratories, バーハーバー, メイン)に誘導した。簡潔に説明すれば、マウスをハロタンで軽く麻酔し、3.5 Fカテーテルを肛門から4 cmの直腸内に挿入した。大腸炎を誘発させるため、50または30 mg/mlのTNBS(2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸)(Sigma Chemical Co, セントルイス, ミズーリー)を50%エタノールに溶解したもの100μlを(腸上皮関門を破るため)1ml注射器に満たし、カテーテルを介して管腔に徐々に投与した。コントロールマウスには、50%エタノールのみ(100μl)を投与した。TNBSの点滴注入の12時間後に、動物の直腸内または腹腔内(i.p.)に実施例1に記載の方法でヒト脂肪組織から得た様々な数の本発明による細胞(ASC)(0.3 x 106および1 x 106個、リン酸緩衝食塩水PBSに懸濁)を投与した。さらに、幾つかの実験では、上記細胞をマウスに投与する前に、CFSE(蛍光プローブ)で標識した。動物を、毎日生存、下痢の出現と重篤度、および体重の減少について観察した。血清を集めて、タンパク質抽出物を疾患の急性期に結腸から得た(3日目)。タンパク質抽出物および血清中のサイトカイン/ケモカイン含量を、ELISAによって測定した。腸間膜リンパ節のCSFE標識細胞は、フローサイトメトリーによって分析した。
【0169】
II. 結果
いずれの場合にも、本発明による細胞(ASC)を投与したマウスは、非投与動物と比較してその炎症性症状に明らかな改善を示した。細胞を局所(直腸内)または全身(i.p.)投与したときには、この改善は試験した総てのパラメーターで用量依存性でありかつ統計的に有意であったが、後者の投与経路の方が一層効果的であると思われる。上記で図5に示した通り、本発明による細胞の投与後には、体重増加の用量依存的改善が見られた。実際に、用量依存性は、図6、7および8で観察することができ、1x106個の細胞は0.3x106個の細胞より強い効果を示している。いずれの場合にも、細胞は、TNBS投与マウスの生存率を有意に改善した。
【0170】
さらに、IFN-γで予備刺激した細胞は、予備刺激しなかった細胞よりもTNBS投与からの一層速やかで大幅な回復を示した(図8)。グラフは、TNBSを投与したマウスでは体重が劇的に減少し、細胞を投与されたマウスでは明らかな改善を示している。この改善は、大腸炎の重篤度によって測定することもできる。
【0171】
炎症性免疫応答は、本発明による細胞を投与した動物では明らかに減少する。図9に示されるように、結腸(局所応答)および血清(全身応答)のいずれでも、試験した総てのプロインフラマトリーサイトカイン(TNF-a、IL-6、IL-1b、IL-12およびIFN-γ)およびケモカイン(MIP-2およびRANTES)は、細胞を投与した動物では非投与マウスと比較して低かった。この阻害応答は、IFN-γで予備刺激した細胞を投与した動物で増加した。一方、免疫調節サイトカインIL-10は、未投与のTNBSで損傷した動物およびコントロール動物のいずれと比較してもASC投与マウスの結腸で増加した。また、MPO活性によって測定した好中球の浸潤は、ASCを投与した動物で低めであり、細胞をIFN-γで予備刺激したときには一層低くなった(図10)。
【0172】
標識細胞は、細胞サイトメトリーによって、治療した動物のドレインリンパ節に局在した(図11)。これは、投与された細胞がAPCとして作用していることを予想させる局在化である。
【0173】
例6
IFN-γ刺激後の本発明による細胞におけるAPCマーカーの誘導
I. 材料および方法
本発明による細胞は、実施例1に記載した通り、ヒト皮下脂肪組織(ASC)から得た。少なくとも3回の継代培養の後、細胞を標準培地または3 ng/mlのIFN-γを含む培地で4日間インキュベーションした。その後、細胞を、免疫応答に関連した(特に抗原提示細胞(APC)の活性に関連した)幾つかの表面マーカーについて染色した。これらのマーカーは、下記のものを含んでいた:
HLA-II(DP、DQ、DR)。この受容体はT細胞に対する異種抗原の断片を提示し、適応免疫応答を開始する(これは、T細胞活性化の最初のシグナルである)。本発明による細胞は、HLA-IIを構成的に発現しない。用いた抗体は、Serotecから入手した。
CD40。このタンパク質はCD40Lに結合し、これは活性化T細胞の表面で発現する。本発明による細胞は、検出不可能なまたは極めて低レベルのCD40を構成的に発現する。用いた抗体は、Serotecから入手した。
ICAM-1(CD54)。T細胞とAPCの結合に関与する主要タンパク質。その発現は、APCとT細胞との他の相互作用を適正に行うのに必要とされる。本発明による細胞は、低-中レベルのICAM-1を構成的に発現する。用いた抗体は、Serotecから入手した。
補助刺激タンパク質のB7ファミリーの一員(それらは、T細胞活性化のための第二のシグナルを伝達する):
CD80(B7-1)。Serotecから入手した抗体。
CD86(B7-2)。Serotecから入手した抗体。
ICOSL(B7-H2)。e-Bioscienceから入手した抗体。
B7-H4。e-Bioscienceから入手した抗体。
PD-L1(B7-H1)。e-Bioscienceから入手した抗体。
PD-L2 (B7-DC)。e-Bioscienceから入手した抗体。
最初の4個は、主として刺激シグナル(T細胞エフェクタークローンの誘導を促進する)を伝達するが、PD-L1およびPD-L2は主として免疫寛容を生じる(T細胞アネルギー-不活性化の誘導を促進する)。それらのいずれもが、本発明による細胞によって構成的に発現されない。
【0174】
II. 結果
IFN-γ処理の後、本発明による細胞は、HLA-II、PD-L1およびPD-L2の発現、およびCD40およびICAM-1の大幅なアップレギュレーションを誘導する。この実験の結果を、図12に示す。
【0175】
これらの結果は、IDO活性の誘導と共に、IFN-γ処理により本発明による細胞は、免疫寛容を生じるAPCを特徴とする表現型を示すことを明らかにするので、極めて関連性がある。
【0176】
例7
コラーゲンによって誘導される関節炎(CIA)のASCによる治療
I. 材料および方法
実験的関節炎を、完全フロイントアジュバント(CFA)中200μgのニワトリII型コラーゲン(CII)を含むエマルションと200μgのMycobacterium tuberculosis H37RAを皮下(s.c.)注射することによってDBAl/Jlac雄マウス(6〜8週齢)に誘導した。CIAの展開は、2名の異なる技術者が予め設定したスコアシステムにしたがって、上および下肢の関節の炎症-赤味-強直を測定することによって毎日観察した。
【0177】
臨床症状がCIAの確立を示したときに(免疫化(p.i.)の23日後)、動物に実施例1に記載の方法でヒト脂肪組織から得た本発明による細胞(ASC)2x105個、またはコントロールとしてPBSを5日間毎日i.p.投与した。あるいは、CIAマウスの冒されている関節の一方に関節内(i.a.)に注射を行った。治療した動物の進行状況を上記のようにして観察し、p.i.の50日目に安楽死させた。関節サイトカイン、血清サイトカイン、免疫グロブリンアイソタイプ、並びにリンパ球の表現型およびサイトカイン産生など幾つかのパラメーターを、血液および関節で測定した。
【0178】
II. 結果
図13、14および15に示される通り、本発明による細胞はマウスモデルにおけるCIA発生率および重篤度を明らかに減少させる。特に、免疫応答に対する効果は、Th2応答(IL-4、IgG1)は全く増加せずにTh1応答(IFN-γ、TNFα、IL-2、IL-1β、IL-6、IL-12、MIP2、RANTESおよびIgG2a)の強力な阻害、および免疫調節サイトカイン(IL-10およびTGF-β)の高レベルの誘導と一致している。
【0179】
例8
本発明による細胞による調節T細胞のイン・ビボ誘導
I. 材料および方法
実施例7に記載したのと同様の検討において、エフェクター(CD4+CD25-Foxp3-)および調節T細胞(CD4+CD25+Foxp3+)を、ドレインリンパ節(DLN)ならびに未治療およびASCで治療したCIAマウスの滑膜から細胞サイトメトリーによって単離し、それぞれの集団における細胞の数を評価した。
【0180】
ASCで治療したCIAマウスに存在する調節T細胞のCII特異的エフェクター細胞を阻害する能力を評価するため、増殖分析法を行い、CIAマウスから単離した自己反応性T細胞と、未治療(コントロール)またはASCで治療したCIAマウス(1/64 - 1/1の比)由来の数増加するDLN T細胞(調節T細胞)とを共培養し、CII(10μg/ml)および脾臓APCで刺激した
【0181】
II. 結果
図16.Aに示される通り、本発明による細胞を投与したCIAマウスにおけるDLNおよび滑膜はいずれも、未投与(コントロール)CIAマウスと比較して、エフェクターT細胞の数は増加せずに調節T細胞(CD4+CD25+Foxp3+)の数の増加を誘導する。
【0182】
図16.Bに示されるデーターは、本発明による細胞を投与したCIAマウスは、CIIに対するエフェクターT細胞応答を特異的に阻害する調節T細胞を含むが、コントロール(未投与)CIAマウスは含まないことを示している。
【0183】
結論としては、実験的自己免疫疾患(CIA)の動物モデルに本発明による細胞を投与することにより、自己反応性T細胞エフェクター応答を抑制することができる抗原特異的調節T細胞の出現を誘導する。
【0184】
例9
リンパ球増殖分析法
実施例1の方法によって得た本発明による脂肪由来のASCを5000個/cm2で、200, 000個のリンパ球(活性化w/10μg PHA/ml)と共にまたはなしで、培養し、3日間共培養した。リンパ球の増殖は、H3取込によって測定した。図17に示される通り、ASCとリンパ球の共培養により、リンパ球増殖の86%が阻害された。様々な濃度の1-メチル-トリプトファン(1-MT)を添加したところ、この抑制は逆戻りした。1-MTは、非代謝性トリプトファン類似体である。この分析法は、IDOを介するトリプトファン異化には本発明による細胞の免疫抑制活性を誘導する必要があることを示している。
【0185】
実施例10
細胞数およびIFN-γ濃度に関するASCの効果(IDO産生)
材料および方法
HPLC
通常のHPLCを、Waters 1515 Isocratic HPLCポンプ、Waters 717 AutosamplerおよびWaters 2487 Dual Absorbance Detectorを用いて行った。
【0186】
HPLC - プロトコール
100μM〜100mMのトリプトファンとキヌレニンの新鮮な溶液を、10%アセトニトリル/リン酸カリウム緩衝液(50mM pH 6.0)で調製した。これらの原液から、50μlトリプトファンおよび10μlキヌレニンおよび940μl BSA(70g/l)または10%FCSを組み合わせて、コントロール試料を作製し、-80℃で保管した。
【0187】
試料調製: 試料(細胞培養物)からの上清200μl以上をエッペンドルフ試験管に集め、-80℃で保管した。試料とコントロール試料を融解し、200μlの50mMリン酸カリウム緩衝液pH6.0をエッペンドルフ試験管のそれぞれの200μl試料に加えた。2M TCA(トリクロロ酢酸)50μlを、エッペンドルフ試験管に加えた。試験管を渦流攪拌(vortex)し、13,000g、4℃で10分間遠心分離した。エッペンドルフ試験管から150μlを採取して、測定した。
【0188】
HPLC測定のためのカラム調製
HPLCカラムを当該技術分野で知られている方法で調製し、40mMクエン酸ナトリウムpH5−5%アセトニトリルからなる移動相で平衡にした。150μl試料の上記試料.50μlを、カラム(C18逆相)に注入した。700μl/分のアイソクラティック(isocratic)流速によって、分離が起こる。L-キヌレニンの光度法による検出は365nmで起こり、L-トリプトファンについては280nmで起こる。
【0189】
結果
図18に示される通り、120時間まで5000個/cm2で培養し3ng/ml IFN-γで刺激したASCはIDOを産生し、その活性はHPLCを用いてトリプトファンの代謝およびキヌレニンの産生によって測定する。120時間まで5000個/cm2で培養し3pg/ml IFN-γで刺激したASCはIDOを産生しなかった。キヌレニンは検出することができなかった(図19)。同様に、120時間まで500個/cm2で培養し3ng/ml IFN-γで刺激したASCは、有意な量のIDOを産生しなかった(図20)。
【0190】
実施例10
小分子を食細胞するASCの能力
材料および方法
4kda-デキストラン-FITC(Sigma)を、実施例1の細胞に加えて、24時間培養した。細胞を洗浄し、蛍光FITCの取込について分析した。
【0191】
結果
図21Aは、洗浄した細胞集団の明視野細胞画像を示す。図21Bは、当該技術分野で知られている緑色蛍光タンパク質フィルターを用いた蛍光顕微鏡法を用い、同じ集団を示す。図21Bで明らかな蛍光マーカーの取込は、細胞が小分子量の分子を食細胞することができることを示しており、このことは、これらの細胞が、IFN-γにより細胞を追加処理することによって誘導されるHLAクラスIIを介して抗原提示することができることを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】ヒト脂肪組織から単離され、エクス・ビボで培養して25を上回る細胞集団に倍増した本発明によって提供される細胞の増殖速度を示す。
【図2】ヒト脂肪組織から単離した本発明によって提供される細胞から得た表面マーカーのプロフィールに対応する蛍光免疫サイトメトリーのヒトスグラムを示す。アイソタイプのコントロール(ネガティブコントロール)に対応するヒトスグラムは、灰色の陰を付けて示す。
【図3】本発明によって提供され、様々なプロインフラマトリー(pre-i試薬を用いて様々な時期にヒト脂肪組織から単離され、RT-PCR(図3A)またはウェスタンブロット法(図3B)によって検出される細胞をインキュベーションした後のIDO発現の分析を示す。IL-1、インターロイキン1;TNF-α、腫瘍壊死因子-α;LPS、リポ多糖類;IFN-γ、インターフェロン-γ;C-、ネガティブコントロール;C+、ポジティブコントロール;n.i., 細胞はIFN-γで誘導されない。GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)をRT-PCRのローディングコントロールとして用いる。
【図4】様々なヒト組織(脂肪、骨髄、軟骨および皮膚)から単離された本発明によって提供される細胞のIFN-γ処理を48時間行った後のIDO発現のウェスタンブロット検出を示す。Ctrl-、ネガティブコントロール(培地);Ctrl+、ポジティブコントロール;(-)、IFN-γで処理されていない細胞;(+)、IFN-γで48時間処理した細胞。
【図5】TNBS (2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸)投与で処理したマウスの体重減少を示す。図は、ヒト脂肪組織から単離した本発明によって提供された細胞を投与した後に増加した体重の用量依存性の改良を示す。10日後に、1 x 106個の細胞を投与されたマウスは、コントロールマウスと比較して有意な体重差を示さなかった。
【図6】ヒト脂肪組織から単離した本発明によって提供された細胞を投与した後のTNBS処理マウスの生存率を示す。再び、1 x 106個の細胞で用量依存性が見られ、0.3 x 106個の細胞より大きな効果が示されるが、いずれの場合にも、細胞は、TNBS処理マウスの生存率を有意に改良した。
【図7】ヒト脂肪組織から単離した本発明によって提供された1 x 106個の細胞および30 ng/ml IFN-γで48時間予備刺激した1 x 106個の同じ細胞を投与した後のTNBS処理マウスにおける体重の比較を示す。グラフは、TNBS処理マウスにおける大幅な体重減少と、細胞を投与されたマウスにおける3日後の明らかな改善を示している。8日後には、これらのマウスは体重増加さえ示したが、コントロールマウス(細胞投与なしのTNBS処理マウス)はまだ大幅な体重減少を示した。さらに、IFN-γで予備刺激した細胞は、予備刺激しなかった細胞より速くかつ大きなTNBS処理からの回復を示した。
【図8】「実験1」としての図7のデーター、およびさらに、実施例5に記載の追加データーセット「実験2」からのデーターを示す。このグラフは、TNBS処理マウスが劇的に体重を減少し、細胞を投与されたマウスでは明らかな改善が見られることを示している。この改善は、大腸炎の重篤度によって測定することもできる。
【図9】結腸(局所応答)および血清(全身応答)のいずれでも、試験した総てのプロインフラマトリーサイトカイン(TNF-a、IL-6、IL-1b、IL-12およびIFN-γ)およびケモカイン(MIP-2およびRANTES)は、細胞を投与した動物では非投与マウスと比較して低かった。
【図10】MPO活性によって測定した好中球の浸潤は、ASCで処理した動物において低めであり、細胞をIFN-γで予備刺激したときには一層低くなったことを示す。
【図11】細胞サイトメトリーによって、CFSE標識細胞は、治療した動物のドレインリンパ節に局在したことを示す。これは、投与された細胞がAPCとして作用していることを予想させる局在化である。
【図12】IFN-γ処理によるヒトASCにおけるAPCマーカーの誘導を示す。上列: 未処理ASCのサイトメトリーのヒトスグラム、下列: IFN-γで4日間処理後のASCのサイトメトリーのヒトスグラム。アイソタイプコントロールは、黒く陰にして示されている。
【図13】本発明による細胞は、CIA発生率および重篤度を減少させることを示す。A, 確立したCIAの注入を行ったマウスにおける臨床スコアまたは足の厚み測定によって評価した関節炎の重篤度。括弧内の数字は、コントロール、i.p.およびi.a.群における関節炎の発生率(50日目における関節炎スコアが > 2の%マウス)。画像は、様々な実験群(コントロールおよびASC i.p.)のマウスにおける足の腫脹の典型的例を示す。n=8〜11匹のマウス/群。 p<0.001 32日後の対コントロール。関節における好中球浸潤を測定するミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性。*p<0.001 対コントロール。
【図14】炎症性応答の阻害を示す。免疫化から35日後に分析した未処理(コントロール)またはASCを投与したCIAマウスにおける炎症性メディエーターの全身および局所発現。A, 関節におけるサイトカイン/ケモカイン含量。未免疫マウスの足を、同時に分析し、基本応答を評価した。B, 血清TNFαおよびIL-1βレベル。n=6-8マウス/群。 *p<0.001 対コントロール。
【図15】本発明による細胞がCIAにおけるTh1依存性応答をダウンレギュレーションすることを示す。A, 未処理(コントロール)またはASCで治療したCIAマウスから30日後に単離し、様々な濃度のCIIでイン・ビトロで刺激したドレインリンパ節(DLN)細胞の増殖性応答およびサイトカイン産生。抗-CD3抗体(▼, 未処理CIAマウス, ▽, AMで治療したCIAマウス)を用いて、非特異的刺激を評価した。3個の非免疫化DBA/1個のDLN細胞を用いて、基本応答を評価した。n=5マウス/群。B, CIIに特異的なサイトカイン産生T細胞の数。未処理(コントロール)またはASCで処理したCIAマウスからのDLN細胞を、CII(10 μg/ml)でイン・ビトロにて再刺激し、フローサイトメトリー(ゲートCD4 T細胞におけるIFN-γ/TNFαまたはIL-4/IL-10発現について)によってCD4および細胞内サイトカイン発現について分析した。104個のCD4 T細胞に対するIFN-γ、IL-4、IL-10発現T細胞の数を示す。示されたデーターは、2つの独立した実験からのプール値を表す。C, 未処理(コントロール)またはASCで処理したCIAマウスから単離しCII(10μg/ml)で48時間イン・ビトロ刺激した滑膜細胞におけるCII特異的増殖性応答。データーは、群当たり3匹の動物からのプールした滑膜細胞の結果を示す。D, 未処理(コントロール)またはASCで処理したCIAマウス(8-12匹/群)から35日後に集めた血清中のCII特異的IgG、IgG1およびIgG2aレベル。 *p<0 001 対コントロール
【図16】A. 本発明による細胞で処理したCIAマウスのDLNおよび滑膜は、いずれも未処理(コントロール)CIAマウスと比較してエフェクターT細胞の数を全く増加させずに調節T細胞(CD4+CD25+Foxp3+)の数の増加を誘導することを示す。 B. コントロール(未処理)CIAマウスを除き、本発明による細胞で処理したCIAマウスは、CIIに対するエフェクターT細胞を特異的に阻害する調節T細胞を含む。
【図17】ASCおよびリンパ球の共培養により、リンパ球増殖が阻害されることを示す。
【図18】5000個/cm2で培養し、120時間まで3ng/ml IFN-γで刺激したASCはIDOを産生し、この活性は、HPLCを用い、トリプトファンの代謝およびキヌレニンの産生によって測定されることを示す。
【図19】5000個/cm2で培養し、120時間まで3pg/ml IFN-γで刺激したASCはIDOを産生できない。キヌレニンは検出されなかった。
【図20】500個/cm2で培養し、120時間まで3ng/ml IFN-γで刺激したASCは、IDOを有意な量で産生できない。
【図21】A. 明視野画像でデキストランFITCを食細胞(phagocytose)した細胞を示す。 B. 緑色蛍光タンパク質フィルターを用いる蛍光顕微鏡法による同じ集団を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された、結合組織由来の細胞集団であって、該細胞集団における細胞が、
a) 抗原提示細胞(APC)に特異的なマーカーを発現せず、
b) インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を構成的に発現せず、
c) インターフェロン-γ(IFN-γ)で刺激したときにIDOを発現し、そして、
d) 少なくとも二細胞系統に分化する能力を示すこと
を特徴とする、細胞集団。
【請求項2】
腫瘍形成活性を示さない、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項3】
細胞表面マーカーCD11b、CD11c、CD14、CD31、CD34、CD45、CD133およびHLAIIに対して陰性である、請求項1または2に記載の細胞集団。
【請求項4】
細胞表面マーカーCD9、CD44、CD54、CD90およびCD105のうち、少なくとも1つおよび好ましくは総てに対して陽性である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項5】
エクス・ビボで拡張することができる、先行するいずれかの請求項に記載の細胞集団。
【請求項6】
脂肪組織、軟骨組織、皮膚または骨髄から単離される、先行するいずれかの請求項に記載の細胞集団。
【請求項7】
前記細胞集団がヒト由来のものである、先行するいずれかの請求項に記載の細胞集団。
【請求項8】
少なくとも1種類の抗原性ポリペプチドを発現する、先行するいずれかの請求項に記載の細胞集団。
【請求項9】
結合組織から細胞集団を単離する方法であって、該細胞集団における細胞が、(i) APCに特異的なマーカーを発現せず、(ii) IDOを構成的に発現せず、(iii) IFN-γで刺激したときにIDOを発現し、そして(iv) 少なくとも二細胞系統に分化する能力を示すことを特徴とする表現型を提示し、
(i) 結合組織の試料から細胞懸濁液を用意し、
(ii) 該細胞懸濁液から細胞を回収し、
(iii) 該細胞を、固体表面上の適当な細胞培地中で細胞が固体表面に接着して増殖する条件下でインキュベーションし、
(iv) インキュベーション後、前記固体表面を洗浄して、非接着細胞を除去し、
(v) 前記培地で少なくとも2回継代培養した後、上記固体表面に接着したままの細胞を選択し、 そして
(vi) 選択した細胞集団が所望の前記表現型を示すことを確認すること
を含んでなる、方法。
【請求項10】
薬剤として使用するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項11】
移植寛容を誘導するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項12】
自己免疫疾患を治療するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項13】
炎症性疾患を治療するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項14】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項13に記載の細胞集団。
【請求項15】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択されるものである、請求項14に記載の細胞集団。
【請求項16】
薬剤の製造における、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団の使用。
【請求項17】
移植寛容を誘導するための薬剤の製造における、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団の使用。
【請求項18】
自己免疫疾患を治療するための薬剤の製造における、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団の使用。
【請求項19】
炎症性疾患を治療するための薬剤の製造における、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団の使用。
【請求項20】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択される、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
調節T細胞(Treg)の製造または生成における、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団の使用。
【請求項23】
(a) 請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団と、末梢血白血球とを接触させ、
(b) Treg細胞集団を選択すること
を含んでなる、Treg細胞集団の単離方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法により得られる、単離されたTreg細胞集団。
【請求項25】
薬剤として使用するための、請求項24に記載の細胞集団。
【請求項26】
移植寛容を誘導するための、請求項24に記載の細胞集団。
【請求項27】
自己免疫疾患を治療するための、請求項24に記載の細胞集団。
【請求項28】
炎症性疾患を治療するための、請求項24に記載の細胞集団。
【請求項29】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項28に記載の細胞集団。
【請求項30】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択されるものである、請求項29に記載の細胞集団。
【請求項31】
薬剤の製造における、請求項24に記載の細胞集団の使用。
【請求項32】
移植寛容を誘導する薬剤の製造における、請求項24に記載の細胞集団の使用。
【請求項33】
自己免疫疾患を治療する薬剤の製造における、請求項24に記載の細胞集団の使用。
【請求項34】
炎症性疾患を治療する薬剤の製造における、請求項24に記載の細胞集団の使用。
【請求項35】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択される、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
細胞の長期間成長停止状態を引き起こす放射線線量を賦与するように調整された暴露時間中、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団に、制御された電離放射線を照射することを含んでなる、放射線照射した細胞集団の単離方法。
【請求項38】
請求項37に記載の方法により得られる、単離された、放射線照射した細胞集団。
【請求項39】
薬剤として使用するための、請求項38に記載の細胞集団。
【請求項40】
移植寛容を誘導するための、請求項38に記載の細胞集団。
【請求項41】
自己免疫疾患を治療するための、請求項38に記載の細胞集団。
【請求項42】
炎症性疾患を治療するための、請求項38に記載の細胞集団。
【請求項43】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項38に記載の細胞集団。
【請求項44】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択されるものである、請求項43に記載の細胞集団。
【請求項45】
薬剤の製造における、請求項38に記載の細胞集団の使用。
【請求項46】
移植寛容を誘導する薬剤の製造における、請求項38に記載の細胞集団の使用。
【請求項47】
自己免疫疾患を治療する薬剤の製造における、請求項38に記載の細胞集団の使用。
【請求項48】
炎症性疾患を治療する薬剤の製造における、請求項38に記載の細胞集団の使用。
【請求項49】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項48に記載の使用。
【請求項50】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択される、請求項49に記載の使用。
【請求項51】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団をインターフェロン-γ(IFN-γ)で処理することを含んでなる、方法。
【請求項52】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団をIFN-γで処理することにより得られる、単離された細胞集団。
【請求項53】
薬剤として使用するための、請求項52に記載の細胞集団。
【請求項54】
移植寛容を誘導するための、請求項52に記載の細胞集団。
【請求項55】
自己免疫疾患を治療するための、請求項52に記載の細胞集団。
【請求項56】
炎症性疾患を治療するための、請求項52に記載の細胞集団。
【請求項57】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項56に記載の細胞集団。
【請求項58】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択される、請求項57に記載の細胞集団。
【請求項59】
薬剤の製造における、請求項52に記載の細胞集団の使用。
【請求項60】
移植寛容を誘導する薬剤の製造における、請求項52に記載の細胞集団の使用。
【請求項61】
自己免疫疾患を治療する薬剤の製造における、請求項52に記載の細胞集団の使用。
【請求項62】
炎症性疾患を治療する薬剤の製造における、請求項52に記載の細胞集団の使用。
【請求項63】
炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項62に記載の使用。
【請求項64】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択される、請求項63に記載の使用。
【請求項65】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団に(i)放射線照射および(ii)IFN-γによる刺激を行うことを含んでなり、処理(i)および(ii)は任意の順序で行われる、方法。
【請求項66】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団に(i)放射線照射および(ii)IFN-γによる刺激を行うことにより得られ、処理(i)および(ii)は任意の順序で行われる、単離された、放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団。
【請求項67】
薬剤として使用するための、請求項66に記載の細胞集団。
【請求項68】
移植寛容を誘導するための、請求項66に記載の細胞集団。
【請求項69】
自己免疫疾患を治療するための、請求項66に記載の細胞集団。
【請求項70】
炎症性疾患を治療するための、請求項66に記載の細胞集団。
【請求項71】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項70に記載の細胞集団。
【請求項72】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチから選択されるものである、請求項71に記載の細胞集団。
【請求項73】
薬剤の製造における、請求項66に記載の細胞集団の使用。
【請求項74】
移植寛容を誘導する薬剤の製造における、請求項66に記載の細胞集団の使用。
【請求項75】
自己免疫疾患を治療する薬剤の製造における、請求項66に記載の細胞集団の使用。
【請求項76】
炎症性疾患を治療する薬剤の製造における、請求項66に記載の細胞集団の使用。
【請求項77】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項76に記載の使用。
【請求項78】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択される、請求項77に記載の使用。
【請求項79】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団または請求項24に記載のTreg細胞集団または請求項38に記載の放射線照射した細胞集団または請求項52に記載のIFN-γ細胞集団または請求項66に記載の放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団と、薬学上許容可能なキャリヤーとを含んでなる、医薬組成物。
【請求項80】
成熟した多能性細胞を分化細胞から識別する方法であって、前記多能性細胞がIFN-γで刺激することによりIDOを発現するかどうかを確認することを含んでなる、方法。
【請求項81】
(i) 請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団または請求項24に記載のTreg細胞集団または請求項38に記載の放射線照射した細胞集団または請求項52に記載のIFN-γ細胞集団または請求項66に記載の放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団を含んでなる、キット。
【請求項82】
自己免疫疾患、炎症性疾患、または、移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患に関連した1以上の症状を予防し、治療し、または改善するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団または請求項24に記載のTreg細胞集団または請求項38に記載の放射線照射した細胞集団または請求項52に記載のIFN-γ細胞集団または請求項66に記載の放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団の使用。
【請求項83】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項82に記載の使用。
【請求項84】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチから選択される、請求項83に記載の使用。
【請求項85】
自己免疫疾患、炎症性疾患、または免疫介在疾患に関連した1以上の症状を、その障害または疾患に罹っている患者において予防し、治療し、または改善する方法であって、治療を必要とする患者に、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団または請求項24に記載のTreg細胞集団または請求項38に記載の放射線照射した細胞集団または請求項52に記載のIFN-γ細胞集団または請求項66に記載の放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団の予防上または治療上有効量を投与することを含んでなる、方法。
【請求項86】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチから選択される、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
選択された抗原または抗原群に特異的なTreg細胞を得るイン・ビトロ方法であって、
(a) 請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団と、前記選択された抗原または抗原群と接触させ、
(b) 前記細胞集団と、末梢血白血球とを接触させ、
(c) 前記選択された抗原または抗原群に特異的なTreg細胞集団を選択すること
を含んでなる、方法。
【請求項89】
前記Treg細胞を末梢血白血球を得た患者に投与することによる、選択された抗原または抗原群に関連した疾病および疾患の治療における、請求項88に記載の方法により産生されるTreg細胞集団の使用。
【請求項1】
単離された、結合組織由来の細胞集団であって、該細胞集団における細胞が、
a) 抗原提示細胞(APC)に特異的なマーカーを発現せず、
b) インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を構成的に発現せず、
c) インターフェロン-γ(IFN-γ)で刺激したときにIDOを発現し、そして、
d) 少なくとも二細胞系統に分化する能力を示すこと
を特徴とする、細胞集団。
【請求項2】
腫瘍形成活性を示さない、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項3】
細胞表面マーカーCD11b、CD11c、CD14、CD31、CD34、CD45、CD133およびHLAIIに対して陰性である、請求項1または2に記載の細胞集団。
【請求項4】
細胞表面マーカーCD9、CD44、CD54、CD90およびCD105のうち、少なくとも1つおよび好ましくは総てに対して陽性である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項5】
エクス・ビボで拡張することができる、先行するいずれかの請求項に記載の細胞集団。
【請求項6】
脂肪組織、軟骨組織、皮膚または骨髄から単離される、先行するいずれかの請求項に記載の細胞集団。
【請求項7】
前記細胞集団がヒト由来のものである、先行するいずれかの請求項に記載の細胞集団。
【請求項8】
少なくとも1種類の抗原性ポリペプチドを発現する、先行するいずれかの請求項に記載の細胞集団。
【請求項9】
結合組織から細胞集団を単離する方法であって、該細胞集団における細胞が、(i) APCに特異的なマーカーを発現せず、(ii) IDOを構成的に発現せず、(iii) IFN-γで刺激したときにIDOを発現し、そして(iv) 少なくとも二細胞系統に分化する能力を示すことを特徴とする表現型を提示し、
(i) 結合組織の試料から細胞懸濁液を用意し、
(ii) 該細胞懸濁液から細胞を回収し、
(iii) 該細胞を、固体表面上の適当な細胞培地中で細胞が固体表面に接着して増殖する条件下でインキュベーションし、
(iv) インキュベーション後、前記固体表面を洗浄して、非接着細胞を除去し、
(v) 前記培地で少なくとも2回継代培養した後、上記固体表面に接着したままの細胞を選択し、 そして
(vi) 選択した細胞集団が所望の前記表現型を示すことを確認すること
を含んでなる、方法。
【請求項10】
薬剤として使用するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項11】
移植寛容を誘導するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項12】
自己免疫疾患を治療するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項13】
炎症性疾患を治療するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項14】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項13に記載の細胞集団。
【請求項15】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択されるものである、請求項14に記載の細胞集団。
【請求項16】
薬剤の製造における、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団の使用。
【請求項17】
移植寛容を誘導するための薬剤の製造における、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団の使用。
【請求項18】
自己免疫疾患を治療するための薬剤の製造における、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団の使用。
【請求項19】
炎症性疾患を治療するための薬剤の製造における、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団の使用。
【請求項20】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択される、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
調節T細胞(Treg)の製造または生成における、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団の使用。
【請求項23】
(a) 請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団と、末梢血白血球とを接触させ、
(b) Treg細胞集団を選択すること
を含んでなる、Treg細胞集団の単離方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法により得られる、単離されたTreg細胞集団。
【請求項25】
薬剤として使用するための、請求項24に記載の細胞集団。
【請求項26】
移植寛容を誘導するための、請求項24に記載の細胞集団。
【請求項27】
自己免疫疾患を治療するための、請求項24に記載の細胞集団。
【請求項28】
炎症性疾患を治療するための、請求項24に記載の細胞集団。
【請求項29】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項28に記載の細胞集団。
【請求項30】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択されるものである、請求項29に記載の細胞集団。
【請求項31】
薬剤の製造における、請求項24に記載の細胞集団の使用。
【請求項32】
移植寛容を誘導する薬剤の製造における、請求項24に記載の細胞集団の使用。
【請求項33】
自己免疫疾患を治療する薬剤の製造における、請求項24に記載の細胞集団の使用。
【請求項34】
炎症性疾患を治療する薬剤の製造における、請求項24に記載の細胞集団の使用。
【請求項35】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択される、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
細胞の長期間成長停止状態を引き起こす放射線線量を賦与するように調整された暴露時間中、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団に、制御された電離放射線を照射することを含んでなる、放射線照射した細胞集団の単離方法。
【請求項38】
請求項37に記載の方法により得られる、単離された、放射線照射した細胞集団。
【請求項39】
薬剤として使用するための、請求項38に記載の細胞集団。
【請求項40】
移植寛容を誘導するための、請求項38に記載の細胞集団。
【請求項41】
自己免疫疾患を治療するための、請求項38に記載の細胞集団。
【請求項42】
炎症性疾患を治療するための、請求項38に記載の細胞集団。
【請求項43】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項38に記載の細胞集団。
【請求項44】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択されるものである、請求項43に記載の細胞集団。
【請求項45】
薬剤の製造における、請求項38に記載の細胞集団の使用。
【請求項46】
移植寛容を誘導する薬剤の製造における、請求項38に記載の細胞集団の使用。
【請求項47】
自己免疫疾患を治療する薬剤の製造における、請求項38に記載の細胞集団の使用。
【請求項48】
炎症性疾患を治療する薬剤の製造における、請求項38に記載の細胞集団の使用。
【請求項49】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項48に記載の使用。
【請求項50】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択される、請求項49に記載の使用。
【請求項51】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団をインターフェロン-γ(IFN-γ)で処理することを含んでなる、方法。
【請求項52】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団をIFN-γで処理することにより得られる、単離された細胞集団。
【請求項53】
薬剤として使用するための、請求項52に記載の細胞集団。
【請求項54】
移植寛容を誘導するための、請求項52に記載の細胞集団。
【請求項55】
自己免疫疾患を治療するための、請求項52に記載の細胞集団。
【請求項56】
炎症性疾患を治療するための、請求項52に記載の細胞集団。
【請求項57】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項56に記載の細胞集団。
【請求項58】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択される、請求項57に記載の細胞集団。
【請求項59】
薬剤の製造における、請求項52に記載の細胞集団の使用。
【請求項60】
移植寛容を誘導する薬剤の製造における、請求項52に記載の細胞集団の使用。
【請求項61】
自己免疫疾患を治療する薬剤の製造における、請求項52に記載の細胞集団の使用。
【請求項62】
炎症性疾患を治療する薬剤の製造における、請求項52に記載の細胞集団の使用。
【請求項63】
炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項62に記載の使用。
【請求項64】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択される、請求項63に記載の使用。
【請求項65】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団に(i)放射線照射および(ii)IFN-γによる刺激を行うことを含んでなり、処理(i)および(ii)は任意の順序で行われる、方法。
【請求項66】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団に(i)放射線照射および(ii)IFN-γによる刺激を行うことにより得られ、処理(i)および(ii)は任意の順序で行われる、単離された、放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団。
【請求項67】
薬剤として使用するための、請求項66に記載の細胞集団。
【請求項68】
移植寛容を誘導するための、請求項66に記載の細胞集団。
【請求項69】
自己免疫疾患を治療するための、請求項66に記載の細胞集団。
【請求項70】
炎症性疾患を治療するための、請求項66に記載の細胞集団。
【請求項71】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項70に記載の細胞集団。
【請求項72】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチから選択されるものである、請求項71に記載の細胞集団。
【請求項73】
薬剤の製造における、請求項66に記載の細胞集団の使用。
【請求項74】
移植寛容を誘導する薬剤の製造における、請求項66に記載の細胞集団の使用。
【請求項75】
自己免疫疾患を治療する薬剤の製造における、請求項66に記載の細胞集団の使用。
【請求項76】
炎症性疾患を治療する薬剤の製造における、請求項66に記載の細胞集団の使用。
【請求項77】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項76に記載の使用。
【請求項78】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチ(RA)から選択される、請求項77に記載の使用。
【請求項79】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団または請求項24に記載のTreg細胞集団または請求項38に記載の放射線照射した細胞集団または請求項52に記載のIFN-γ細胞集団または請求項66に記載の放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団と、薬学上許容可能なキャリヤーとを含んでなる、医薬組成物。
【請求項80】
成熟した多能性細胞を分化細胞から識別する方法であって、前記多能性細胞がIFN-γで刺激することによりIDOを発現するかどうかを確認することを含んでなる、方法。
【請求項81】
(i) 請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団または請求項24に記載のTreg細胞集団または請求項38に記載の放射線照射した細胞集団または請求項52に記載のIFN-γ細胞集団または請求項66に記載の放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団を含んでなる、キット。
【請求項82】
自己免疫疾患、炎症性疾患、または、移植臓器および組織の拒絶反応などの免疫介在疾患に関連した1以上の症状を予防し、治療し、または改善するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団または請求項24に記載のTreg細胞集団または請求項38に記載の放射線照射した細胞集団または請求項52に記載のIFN-γ細胞集団または請求項66に記載の放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団の使用。
【請求項83】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項82に記載の使用。
【請求項84】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチから選択される、請求項83に記載の使用。
【請求項85】
自己免疫疾患、炎症性疾患、または免疫介在疾患に関連した1以上の症状を、その障害または疾患に罹っている患者において予防し、治療し、または改善する方法であって、治療を必要とする患者に、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団または請求項24に記載のTreg細胞集団または請求項38に記載の放射線照射した細胞集団または請求項52に記載のIFN-γ細胞集団または請求項66に記載の放射線照射した、IFN-γで予備刺激した細胞集団またはIFN-γで予備刺激した、放射線照射した細胞集団の予防上または治療上有効量を投与することを含んでなる、方法。
【請求項86】
前記炎症性疾患が慢性炎症性疾患である、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記慢性炎症性疾患が炎症性腸疾患(IBD)および関節リウマチから選択される、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
選択された抗原または抗原群に特異的なTreg細胞を得るイン・ビトロ方法であって、
(a) 請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞集団と、前記選択された抗原または抗原群と接触させ、
(b) 前記細胞集団と、末梢血白血球とを接触させ、
(c) 前記選択された抗原または抗原群に特異的なTreg細胞集団を選択すること
を含んでなる、方法。
【請求項89】
前記Treg細胞を末梢血白血球を得た患者に投与することによる、選択された抗原または抗原群に関連した疾病および疾患の治療における、請求項88に記載の方法により産生されるTreg細胞集団の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2009−508507(P2009−508507A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531620(P2008−531620)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009244
【国際公開番号】WO2007/039150
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(507421463)セリェリクス、ソシエダッド、リミターダ (2)
【氏名又は名称原語表記】CELLERIX, S.L.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009244
【国際公開番号】WO2007/039150
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(507421463)セリェリクス、ソシエダッド、リミターダ (2)
【氏名又は名称原語表記】CELLERIX, S.L.
【Fターム(参考)】
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