説明

免震システム

【課題】安価な構成で3次元免震とロッキング防止ができ、且つ液圧系統或いは空気圧系統の1つが故障しても3次元免震とロッキング防止が維持できるようにする。
【解決手段】積層ゴム2と荷重支持シリンダ3を積み重ねた複合体39を免震対象物4の周縁下部に沿って配置すると共に、複数のロッキング抑制シリンダのピストンを連結ロッド17で直線状に連結したシリンダ連結体26を免震対象物4の周縁に沿って配置し、複合体39のシリンダ加圧室を作動液配管によりロッキング抑制シリンダの一側の液室に接続し、且つロッキング抑制シリンダの他側の液室にアキュムレータを接続し、免震対象物4のコーナ部に位置するシリンダ連結体26の端部間を連結する移動伝達装置18を備えてロッキング防止装置41を構成し、免震対象物4の下部におけるロッキング防止装置41の内側に複数の空気バネ免震装置42を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価な構成にて3次元免震とロッキング防止ができ、且つ液圧系統或いは空気圧系統の一部が故障しても3次元免震とロッキング防止が維持できるようにした免震システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ビル或いは原子炉発電設備等のような大重量の免震対象物を免震する装置としては、荷重支持シリンダの液圧室を空気アキュムレータに接続した構成の液圧免震装置が提案されており、この種の液圧免震装置としては特許文献1に示すものがある。
【0003】
図5は、特許文献1に開示された液圧免震装置を示しており、基礎1上に、薄いゴム2aと薄い鋼板2bを積層して横方向(水平方向)の免震を行うようにした積層ゴム2を固定し、該積層ゴム2の上部に荷重支持シリンダ3を積み重ねて固定した複合体39を構成している。該複合体39の荷重支持シリンダ3は、免震を行う免震対象物4の底面に下方に突出するよう固定した例えば略球形のスイベル5に上端が嵌合したピストン6を有しており、該ピストン6を包囲するシリンダ7の内部底面と前記ピストン6の下端との間にはシリンダ加圧室8が形成されており、該シリンダ加圧室8をアキュムレータ10に接続することによって液圧免震装置Mを構成している。図中13はピストン6とシリンダ7のシール材である。
【0004】
前記シリンダ加圧室8には油等の作動液が供給してあり、また、アキュムレータ10には可撓区画壁11によりガス室が形成してあり、前記シリンダ加圧室8の作動液が作動液配管9によりアキュムレータに導かれてガス室12内部の空気等のガスを圧縮するようになっている。前記アキュムレータ10は、図5に示す如く固定部材14によって免震対象物4側に固定する場合と、図示しないが固定部材によって基礎1側に固定する場合とがある。前記スイベル5は、地震によって基礎1が免震対象物4に対して横方向に相対移動した際の複合体39の傾きを吸収するためのものであるが、このようなスイベル5は備えられていないものや、他の方式にて液圧免震装置Mの傾きを吸収するようにしたものもある。
【0005】
前記液圧免震装置Mは、図6に示すように免震対象物4の下部に多数規則的に配置されており、免震対象物4の重量は各液圧免震装置Mのスイベル5及びピストン6を介してシリンダ加圧室8の作動液に伝えられ、更に、シリンダ7から積層ゴム2を介して基礎1に伝えられる。前記免震対象物4の重量により加圧されたシリンダ加圧室8内の作動液は作動液配管9によりアキュムレータ10に伝えられ、可撓区画壁11を介してガス室12の空気を圧縮することにより、前記免震対象物4を一定の高さに保持するようになっている。
【0006】
地震の発生によって基礎1が縦方向に振動した場合には、基礎1と共に積層ゴム2とシリンダ7がピストン6に対して上下動し、シリンダ加圧室8の間隔が減少する動き(基礎1が上昇)のときにはシリンダ加圧室8の作動液がアキュムレータ10に供給され、また、シリンダ加圧室8の間隔が増加する動き(基礎1が下降)のときにはアキュムレータ10の作動液がシリンダ加圧室8に供給されるように作用し、この時、作動液配管9の流動抵抗によって振動の衝撃が減衰され、且つアキュムレータ10のガス室12の空気の圧縮弾性によって免震対象物4は軟らかく支持される。従って、アキュムレータ10に接続された荷重支持シリンダ3は、基礎1の縦方向の振動の緩衝のみに有効に作用する。
【0007】
また、地震の発生によって基礎1が横方向に振動した場合には、その動きに応じて積層ゴム2が横方向に撓んで変形し、これにより、免震対象物4は横方向に免震される。基礎1が横方向に移動すると荷重支持シリンダ3に対して積層ゴム2が横方向にずれて変形するために複合体39が傾く力を受けることになるが、この傾きに対しては、ピストン6がスイベル5を中心に回転して折れ曲がることにより無理な力が発生するのを防止している。従って、上記したように、シリンダ加圧室8をアキュムレータ10に接続した荷重支持シリンダ3と積層ゴム2とからなる液圧免震装置Mによれば3次元免震が可能となる。
【0008】
一方、図5に示したような液圧免震装置Mを図6に示すように免震対象物4の下部に多数配置した構成としても、図10に示す如く重心が高い位置にある免震対象物4を免震する場合には、地震によって免震対象物4がロッキング(前後或いは左右方向等への揺動)を起こすことが考えられ、ロッキングが生じた際には、免震対象物4の下部中心に配置した液圧免震装置Mに比して外周部に配置した液圧免震装置Mのシリンダ7がピストン6に対してより大きなストロークで上下に作動することになる。
【0009】
しかし、このように大きなストロークで上下に作動することが許容でき、しかも免震対象物4を柔らかく支持できる液圧免震装置Mの設計は非常に困難であり、装置構成も非常に大型になってしまうという問題がある。
【0010】
この問題を解決するために、前記特許文献1では、図6〜図9に示す如く、免震対象物4の下部に前記したように複数の液圧免震装置Mを配置した上で、免震対象物4の周縁下部にロッキング防止装置41を備えて免震システムを構成している。
【0011】
前記ロッキング防止装置41は、両ロッド型の複数のロッキング抑制シリンダ15のピストン16を連結ロッド17で直線状に連結した構成のシリンダ連結体26を、免震対象物4の周縁下部に沿って、即ち、免震対象物4が矩形の場合には周縁の各4辺に沿って配置している。
【0012】
更に、前記免震対象物4の周縁下部には、図7に示す如く、積層ゴム2と荷重支持シリンダ3とを一体に積み重ねた構成の複合体39を、前記シリンダ連結体26を挟むように2列に配置している。尚、図7に示す複合体39は、基礎1上に積層ゴム2を固定する一方、荷重支持シリンダ3のシリンダ7を免震対象物4の下面に固定し、前記荷重支持シリンダ3のピストン6に嵌合したスイベル5を有する固定部材5aを前記積層ゴム2に固定した場合を示している。図中40はピストン6の外周に設けられた摺動部材である。
【0013】
シリンダ連結体26を挟むように2列に配置した複合体39は、例えば図6に示すように4個1組のブロック19(19a,19b,19c,19d)に区画し、各ブロック19における各荷重支持シリンダ3のシリンダ加圧室8に接続した作動液配管9を、図9に示す如く1つの集合配管20に集合して、対応するロッキング抑制シリンダ15(15a,15b,15c,15d)の一側の液室Aに接続している。この時、前記作動液配管9は、図6に示す如く、外周部に配置するシリンダ連結体26に沿って回転する方向において各ロッキング抑制シリンダ15のピストン16の同じ側(例えば回転方向前側)の液室Aに夫々接続している。
【0014】
更に、各ロッキング抑制シリンダ15a,15b,15c,15dの他側の液室Bには、図8に示すように、内部に可撓区画壁11を有して液室Bの作動液によってガス室12内部の空気等のガスを圧縮するようにしたアキュムレータ25を接続している。又、図示例では、上記アキュムレータ25のガス室12には、連絡管28を介して補助アキュムレータ29が接続してあり、前記連絡管28には流路断面積を設定できるようにした絞り30が設けられている。尚、上記補助アキュムレータ29は備えなくてもよい。
【0015】
更に、前記液室Aに連通している集合配管20の夫々には、図9に示す如く、液圧装置21から所定圧力の作動液がマニホールド22及び液圧配管23を介して供給されて免震対象物4の傾きなどに対する設定・調整が行えるようになっている。尚、液圧配管23は各ロッキング抑制シリンダ15a,15b,15c,15dの一側の液室Aに直接接続されていてもよい。また、前記各ロッキング抑制シリンダ15a,15b,15c,15dの他側の液室Bには、前記液圧装置21からの一定圧力の作動液がマニホールド22及び液圧配管24を介して供給されている。
【0016】
前記シリンダ連結体26にて免震対象物4のロッキングを防止するためには、免震対象物4のコーナ部に位置するシリンダ連結体26の端部間に、一方の連結ロッド17の押し引きの動きを90゜方向を変えて他方の連結ロッド17を押し引きする動きとして伝える(免震対象物4の周縁に沿って配置した各連結ロッド17を同方向に回転するように移動させる)ための移動同期装置(角つなぎ機構)を備える必要がある。
【0017】
このために、図6では、免震対象物4のコーナ部における連結ロッド17の互いの端部に接続シリンダ31,32を取り付け、該接続シリンダ31,32の間を配管33,34で接続した移動同期装置18を構成しており、1つの連結ロッド17が一方向に押されると、この動きが前記移動同期装置18により90゜向きが変えられて他方の連結ロッド17が一方向に押されるようになっている。
【0018】
前記移動同期装置18で接続されたシリンダ連結体26は、免震対象物4の周縁に沿って無端状に構成されていてもよく、又は1箇所が切断された一筆書き状に構成されていてもよい。
【0019】
図6に示したように、免震対象物4の下部に多数の液圧免震装置Mを配置すると共に、免震対象物4の周縁下部にロッキング防止装置41を配置した免震システムによれば、免震対象物4は液圧免震装置Mにより3次元免震されると共に、ロッキング防止装置41によってロッキングが防止される。
【0020】
地震によって免震対象物4がロッキングを起こそうとした場合には、例えば図6の左辺の荷重支持シリンダ3のピストン6(図7)は上昇し、前記左辺と平行な図示しない右辺の荷重支持シリンダ3のピストン6は下降するように移動しようとする。この時、ピストン6が上昇しようとする側(図6の左側)では荷重支持シリンダ3のシリンダ加圧室8の作動液圧が高められて作動液配管9によりロッキング抑制シリンダ15の一方の液室Aに作動液が供給されて連結ロッド17を図6の矢印方向に移動させる力が働く。この力は移動同期装置18を介して相互に伝達されている外周部の連結ロッド17全体を時計回りに動かそうとする力として作用する。逆に、前記荷重支持シリンダ3のピストン6が下降しようとする側(図示しないが図6の右側)では、前記シリンダ加圧室8は作動液配管9を介してロッキング抑制シリンダ15の一方の液室Aの作動液を吸引することになるため、外周部の連結ロッド17全体を反時計回りに動かそうとする力を発生させることとなる。このように、ロッキング防止装置41は、免震対象物4がロッキングを起こそうとしても、上昇側と下降側で拮抗する力が連結ロッド17に作用するように構成されていることにより、免震対象物4のロッキングを防止する。
【0021】
一方、免震対象物4がロッキングを伴わない上下振動を行う場合は、外周部の連結ロッド17全体が同一回転方向に動き、ロッキング抑制シリンダ15の液室Bに接続されたアキュムレータ10のガス室12内の空気を均一に加圧/減圧することになるので、空気の圧縮弾性による軟らかい支持と作動液及び空気の流体抵抗による減衰が実現される。
【特許文献1】特開2003−206988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
図6に示したように従来の免震システムにおいては、免震対象物4の下部に図5に示す構成の液圧免震装置Mを多数配置すると共に、免震対象物4の周縁下部にロッキング防止装置41を配置して、免震対象物4の3次元免震とロッキングの防止とを行うようにしているが、前記液圧免震装置Mは複雑な構成を有していて高価であり、原子炉設備等においてはこの高価な液圧免震装置Mを非常に多数備える必要があるために、免震システム全体が非常に高価になってしまうという問題を有していた。
【0023】
更に、免震対象物4の周縁下部に沿って配置するロッキング防止装置41における一辺のシリンダ連結体26を示している図9のように、4つのブロック19a,19b,19c,19dの各荷重支持シリンダ3が接続された各ロッキング抑制シリンダ15a,15b,15c,15dの一方の液室Aに液圧配管23及びマニホールド22を介して液圧装置21を接続し、また、アキュムレータ25が接続された各ロッキング抑制シリンダ15a,15b,15c,15dの他方の液室Bに液圧配管24及びマニホールド22を介して液圧装置21を接続した液圧系統Fによって、前記液室A液室Bの液圧の設定・調整を行うようにしているために、4つのシリンダ連結体26に接続される液圧系統Fは各々独立しており、このために4つの液圧系統Fの1つに故障や液漏れといった問題が発生した場合には、4辺のうちの1辺のシリンダ連結体26の機能が停止することになって、ロッキング防止装置41によるロッキング防止が不能になり、免震対象物4がロッキングしてしまう可能性がある。
【0024】
また、前記ロッキング防止装置41の内側に配置される液圧免震装置Mの各荷重支持シリンダ3にも図示しないが液圧装置からの液圧を導いて液圧の設定・調整を行う必要がある。この場合も例えば液圧免震装置Mを単に2つや3つのブロックに分けて液圧装置21に接続するようにした液圧系統Fとすると、1つの液圧系統Fに故障や液漏れといった問題が発生した場合に、そのブロックの液圧免震装置Mの作動が不能になり、このために免震対象物4が傾いてしまうといった問題を生じることが考えられる。
【0025】
本発明は、かかる従来装置のもつ問題点を解決すべくなしたもので、安価な構成で3次元免震とロッキング防止ができ、且つ液圧系統或いは空気圧系統の1つが故障しても3次元免震とロッキング防止が維持できるようにして安全性を高めた免震システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
請求項1の発明は、積層ゴムと荷重支持シリンダを積み重ねた複合体を免震対象物の周縁下部に複数配置すると共に、複数のロッキング抑制シリンダのピストンを連結ロッドにより直線状に連結したシリンダ連結体を前記免震対象物の周縁に沿って配置し、前記シリンダ連結体の各ロッキング抑制シリンダの近傍に位置する前記複合体のシリンダ加圧室を作動液配管により前記ロッキング抑制シリンダの一側の液室に接続し、且つ前記各ロッキング抑制シリンダの他側の液室にアキュムレータを接続し、更に、前記免震対象物のコーナ部に位置するシリンダ連結体の端部間には一方の連結ロッドの押し引きの動きを90゜方向を変えて他方の連結ロッドを押し引きするように伝える移動同期装置を備えてロッキング防止装置を構成し、前記免震対象物の下部における前記ロッキング防止装置の内側に複数の空気バネ免震装置を配置して免震対象物の3次元免震とロッキング防止とを可能にしたことを特徴とする免震システム、に係るものである。
【0027】
請求項2の発明は、前記シリンダ連結体が、免震対象物の周縁に沿い無端状に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の免震システムである。
【0028】
請求項3の発明は、前記シリンダ連結体が、免震対象物の周縁に沿い一筆書き状に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の免震システムである。
【0029】
請求項4の発明は、前記ロッキング抑制シリンダに作動液を導くための液圧装置を少なくとも免震対象物の各コーナ部に対応して配置し、各コーナ部の液圧装置の液圧配管を、コーナ部を挟む2辺に位置するシリンダ連結体のロッキング抑制シリンダに対して相互に入り組ませて接続することにより、1つの液圧系統に故障が生じても他の液圧系統に接続したシリンダ連結体によって3次元免震とロッキング防止が維持されるようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の免震システムである。
【0030】
請求項5の発明は、前記ロッキング防止装置の内側に配置される複数の空気バネ免震装置を少なくとも4等分に区画すると共に、前記区画した空気バネ免震装置ごとに空気圧配管を介して圧縮空気を導くための少なくとも4台の空気圧縮機を配置し、1つの空気圧系統に故障が生じても他の空気圧系統に接続した空気バネ免震装置によって3次元免震が維持されるようにしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の免震システムである。
【0031】
請求項6の発明は、前記少なくとも4台の空気圧縮機の空気圧配管を、前記少なくとも4分割した空気バネ免震装置に対して相互に入り組ませて接続することを特徴とする請求項5に記載の免震システムである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の免震システムによれば、免震対象物の周縁下部の内側には複数の空気バネ免震装置を配置し、免震対象物の周縁には複合体とアキュムレータに接続されたシリンダ連結体と、該シリンダ連結体のロッド端部間を連結する移動同期装置とを備えたロッキング防止装置を配置したので、免震対象物の3次元免震とロッキングの防止とを同時に効果的に行うことができ、この時、前記空気バネ免震装置は従来の液圧免震装置に比して構成が簡略で安価であるために、多数の空気バネ免震装置を設置する必要がある特に原子炉設備のような大重量の免震対象物を支持する免震システムにおいては、免震システムの全体価格を従来に比して大幅に低減できる効果がある。
【0033】
また、ロッキング抑制シリンダに作動液を導くための液圧装置を少なくとも免震対象物の各コーナ部に対応して4台配置し、各コーナ部の液圧装置の液圧配管を、コーナ部を挟む2辺に位置するシリンダ連結体のロッキング抑制シリンダに対して相互に入り組ませて接続したので、少ない液圧装置の設置台数によって、1つの液圧系統に故障が生じても他の液圧系統に接続されたシリンダ連結体によりロッキングの発生を防止することができる効果がある。
【0034】
また、ロッキング防止装置の内側に配置した空気バネ免震装置を、少なくとも4等分のブロックに区画して、各ブロックごとに空気圧配管を介して圧縮空気を導くための少なくとも4台の空気圧縮機を配置したので、少ない空気圧縮機の設置台数で、1つの空気圧系統に故障が生じても他の空気圧系統に接続した空気バネ免震装置により3次元免震を維持することができ、且つ免震対象物が傾くのを防止できる効果がある。
【0035】
また、空気バネ免震装置の各ブロックに対応して配置する少なくとも4台の空気圧縮機の空気圧配管を、前記液圧装置の液圧配管と同様に、隣接するブロックの空気バネ免震装置に対して相互に入り組ませて接続すると、1つの空気圧系統に故障が生じても他の空気圧系統に接続した空気バネ免震装置により3次元免震を維持し、免震対象物が傾くのを防止する作用を更に高められる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0037】
図1〜図4は、本発明の免震システムの一例を示したものであり、図1は本発明の免震システムの平面図、図2は図1の部分切断側面図、図3は図1のコーナ部の構成を示す平面図、図4は本発明の免震システムに用いる空気バネ免震装置の一例を示す切断正面図であり、図6〜図10と同一のものには同じ符号を付して詳細な説明は省略し、本発明の特徴部分についてのみ詳述する。
【0038】
本発明の免震システムは、図1、図2に示す如く、免震対象物4の周縁より内側の下部に、免震対象物4を基礎1上に支持するための例えば図3に示すような構成を有する多数の空気バネ免震装置42を規則的に配置している。図1では夫々左右2条に接近配置した空気バネ免震装置42を所定の間隔を隔てて5列に設けた場合を示している。各空気バネ免震装置42は、図4に示すように、積層ゴム2からなる水平免震手段43と空気バネ室44a,44bからなる垂直免震手段45とを直列に連結している。垂直免震手段45は、補助タンクとしての空気バネ室44aを備えた作動体46に嵌合して昇降する外筒47を備えており、外筒47の内部には、空気バネ室44bを画成するダイヤフラム48が備えてあり、ダイヤフラム48内に画成された空気バネ室44bは前記補助タンクとしての空気バネ室44aとオリフィス45aを介して連通している。
【0039】
更に、前記免震対象物4の周縁下部には、ロッキング防止装置41を配置する。ロッキング防止装置41は、図6と同様に両ロッド型の複数のロッキング抑制シリンダ15のピストン16を連結ロッド17で直線状に連結した構成を有するシリンダ連結体26を、免震対象物4の周縁(四周)下部に配置している。更に、図7の構成を有する複合体39を、前記シリンダ連結体26を挟むように2列に配置し、この複合体39を4個1組のブロック19(19a,19b,19c,19d)に区画して、各ブロック19における各荷重支持シリンダ3のシリンダ加圧室8に接続した作動液配管9を、対応するロッキング抑制シリンダ15(15a,15b,15c,15d)の一側の液室Aに接続し、また、各ロッキング抑制シリンダ15a,15b,15c,15dの他側の液室Bにアキュムレータ25を接続している。更に、免震対象物4のコーナ部において、前記各シリンダ連結体26の端部間を移動同期装置18で連結し、これによりロッキング防止装置41を構成している。
【0040】
図2ではシリンダ連結体26を免震対象物4の周縁に沿うように基礎1上に配置した場合を示しており、従って、この場合は複合体39の積層ゴム2は免震対象物4の下面に固定し、シリンダ7は基礎1に固定し、これによって地震により基礎1に対してシリンダ7が移動するのを防止して作動液配管9に無理な力が作用しないようにしている。尚、前記シリンダ連結体26は免震対象物4の周縁に沿うように免震対象物4上に配置してもよく、その場合には、図7に示したように、複合体39の積層ゴム2は基礎1に固定し、シリンダ7は免震対象物4に固定した構成とするのが好ましい。
【0041】
また、前記ロッキング防止装置41の更に外側には、基礎1と免震対象物4の間を連結して、ゆっくりした間隔の動きは許容し急激な間隔の変化については抵抗となって減衰させるようにしたオイルダンパ49を備えている。
【0042】
上記したように、免震対象物4の周縁下部の内側に配置した複数の空気バネ免震装置42と、免震対象物4の周縁下部に沿って配置したロッキング防止装置41とによって、免震対象物4は3次元免震されると同時にロッキングが防止される。
【0043】
しかし、前記シリンダ連結体26の各ロッキング抑制シリンダ15における一方の液室Aと他方の液室Bには、作動液を供給して免震対象物4の高さを調整する必要があり、また、経時的な作動液の漏出に対しても作動液を補充する必要がある。
【0044】
このために、前記ロッキング抑制シリンダ15に作動液を導くための液圧装置50a,50b,50c,50dを免震対象物4の各コーナ部に対応して配置する。そして、各コーナ部の液圧装置50a,50b,50c,50dの液圧配管51a,51b,51c,51d(液圧系統)を、コーナ部を挟む2辺に位置するシリンダ連結体26に接続された荷重支持シリンダ3とアキュムレータ25(或いは液室Aと液室B)に対して相互に入り組ませて接続する。即ち、図1の左上のコーナ部に備えた液圧装置50aの液圧配管51a(液圧系統)は、当該コーナ部を挟む2辺、即ち図1の上辺に配置される荷重支持シリンダ3とアキュムレータ25の各半分ずつと、図1の左辺に配置される荷重支持シリンダ3とアキュムレータ25の各半分ずつとに接続している。尚、前記液圧装置50a,50b,50c,50dは免震対象物4の各コーナ部に対応するように少なくとも4台備えればよく、従って4台以上設けることもできるがコーナ部に対応して4台を配置すると、少ない液圧装置50a,50b,50c,50dの設置台数によって、液圧配管51a,51b,51c,51d等の液圧系統の1つに故障が生じても他の液圧系統に接続されたシリンダ連結体26によりロッキング防止を維持することができる。
【0045】
また、図3に示す如く、前記シリンダ連結体26の端部同士をコーナ部で連結する移動同期装置18の液圧配管33と液圧配管34にも、調整弁52等を介して作動液を供給することにより接続シリンダ31,32の液圧を設定・調整するようにした液圧装置53を配置している。
【0046】
更に、前記ロッキング防止装置41の内側に5列に配置した空気バネ免震装置42にも加圧空気を供給して免震対象物4の高さ、及び免震対象物4の重量の偏りによる傾きを調整する必要があり、また経時的な加圧空の漏出に対しても加圧空気を補充する必要がある。
このため、空気バネ免震装置42は、図1に示す如く左右と上下の4等分のブロック42a,42b,42c,42dに区画し、更に、区画した空気バネ免震装置42のブロック42a,42b,42c,42dごとに空気圧配管54a,54b,54c,54d(空気圧系統)を介して圧縮空気を導く4台の空気圧縮機55a,55b,55c,55dを配置している。図4では空気圧縮機55の空気圧配管54を空気バネ免震装置42の空気バネ室44bに接続している。この時、5列の内の中間の列の2条の空気バネ免震装置42は、右条部(図1では上側)と左条部(図1では下側)に分けて上側の空気圧配管54a,54cと下側の空気圧配管54b,54dに接続している。尚、前記空気バネ免震装置42は少なくとも4つのブロック42a,42b,42c,42dに分割し、各ブロック42a,42b,42c,42dに対応して空気圧縮機55a,55b,55c,55dを備えればよく、従って前記空気バネ免震装置42を4つ以上に分割して各ブロックごとに空気圧縮機を設けることもできるが、図1のように4つのブロック42a,42b,42c,42dに分割した空気バネ免震装置42に対応して配置した4つの空気圧縮機55a,55b,55c,55dによれば、少ない空気圧縮機55a,55b,55c,55dの設置台数で、1つの空気圧配管54a,54b,54c,54d(空気圧系統)に故障が生じても他の空気圧系統に接続した空気バネ免震装置42によって3次元免震を維持し、且つ免震対象物4が傾くのを防止することができる。
【0047】
また、前記空気バネ免震装置42の各ブロック42a,42b,42c,42dに対応して配置する少なくとも4台の空気圧縮機55a,55b,55c,55dの空気圧配管54a,54b,54c,54d(空気圧系統)は、前記液圧装置50a,50b,50c,50dの液圧配管51a,51b,51c,51dと同様に、隣接するブロック42a,42b,42c,42dの空気バネ免震装置42に対して相互に入り組んで接続することができ、このように入り組ませて接続すると、1つの空気圧系統に故障が生じても他の空気圧系統に接続した空気バネ免震装置42により3次元免震を維持し、免震対象物4が傾くのを防止する作用を更に高めることができる。
【0048】
尚、前記免震対象物4と基礎1との間には、作業員が入ることにより前記ロッキング防止装置41及び空気バネ免震装置42のメンテナンス等を行えるようにした作業空間56が形成されている。
【0049】
以下に、上記形態例の作用を説明する。
【0050】
図1、図2に示す如く、免震対象物4の周縁下部の内側には複数の空気バネ免震装置42を配置し、免震対象物4の周縁下部には複数の複合体39と、シリンダ連結体26と、各シリンダ連結体26における免震対象物4のコーナ部の端部間を連結する移動同期装置18とからなるロッキング防止装置41を配置した免震システムによれば、空気バネ免震装置42による免震対象物4の3次元免震と、ロッキング防止装置41による免震対象物4のロッキング防止とを同時に効果的に達成することができる。
【0051】
この時、前記空気バネ免震装置42は従来の液圧免震装置に比して構成が簡略で安価であるために、空気バネ免震装置42を多数設置して3次元免震する特に原子炉設備のような大重量の免震対象物4を支持する免震システムにおいては、免震システムの全体価格を従来に比して大幅に低減することができる。
【0052】
また、前記シリンダ連結体26に接続される荷重支持シリンダ3とアキュムレータ25に作動液を導くための少なくとも4台の液圧装置50a,50b,50c,50dを設け、各コーナ部の液圧装置50a,50b,50c,50dの液圧配管51a,51b,51c,51d(液圧系統)を、コーナ部を挟む2辺に位置するシリンダ連結体26に接続された荷重支持シリンダ3とアキュムレータ25に対して相互に入り組ませて接続したので、少ない液圧装置50a,50b,50c,50dの設置台数によって、1つの液圧系統に故障が生じても他の液圧系統に接続したシリンダ連結体26によってロッキングの発生を防止することができる。
【0053】
また、前記ロッキング防止装置41の内側に配置した空気バネ免震装置42を、少なくとも4等分のブロック42a,42b,42c,42dに区画して、各ブロック42a,42b,42c,42dごとに圧縮空気を導くための少なくとも4台の空気圧縮機55a,55b,55c,55dを配置したので、少ない空気圧縮機55a,55b,55c,55dの設置台数によって、1つの空気圧系統に故障が生じても他の空気圧系統に接続した空気バネ免震装置42により3次元免震を維持することができ、且つ免震対象物4が傾くのを防止することができ、また、免震対象物4が傾いた場合にも水平な状態に調整することができる。
【0054】
また、この時、前記空気圧縮機55a,55b,55c,55dの空気圧配管54a,54b,54c,54dを、隣接するブロック42a,42b,42c,42dの空気バネ免震装置42に対して相互に入り組ませて接続すると、1つの空気圧系統に故障が生じても他の空気圧系統に接続した空気バネ免震装置42により3次元免震を維持する作用と、免震対象物4が傾くのを防止する作用とを更に高めることができる。
【0055】
尚、本発明は上記形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の免震システムの形態の一例を示す平面図である。
【図2】図1の部分切断側面図である。
【図3】図1のコーナ部の構成を示す平面図である。
【図4】本発明の免震システムに用いる空気バネ免震装置の一例を示す切断正面図である。
【図5】従来の液圧免震装置の一例を示す切断側面図である。
【図6】従来の免震システムの一例を示す平面図である。
【図7】本発明にも用いられる従来の複合体の構成を示す切断側面図である。
【図8】ロッキング防止装置の一部を示す切断側面図である。
【図9】従来のロッキング防止装置の液圧系統図である。
【図10】従来の液圧免震装置を備えた免震対象物においてロッキングが生じる状態を示した側面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 基礎
2 積層ゴム
3 荷重支持シリンダ
4 免震対象物
8 シリンダ加圧室
9 作動液配管
15(15a,15b,15c,15d) ロッキング抑制シリンダ
16 ピストン
17 連結ロッド
18 移動同期装置
25 アキュムレータ
26 シリンダ連結体
39 複合体
41 ロッキング防止装置
42 空気バネ免震装置
42a,42b,42c,42d ブロック
50a,50b,50c,50d 液圧装置
51a,51b,51c,51d 液圧配管(液圧系統)
54a,54b,54c,54d 空気圧配管(空気圧系統)
55a,55b,55c,55d 空気圧縮機
A 液室
B 液室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層ゴムと荷重支持シリンダを積み重ねた複合体を免震対象物の周縁下部に複数配置すると共に、複数のロッキング抑制シリンダのピストンを連結ロッドにより直線状に連結したシリンダ連結体を前記免震対象物の周縁に沿って配置し、前記シリンダ連結体の各ロッキング抑制シリンダの近傍に位置する前記複合体のシリンダ加圧室を作動液配管により前記ロッキング抑制シリンダの一側の液室に接続し、且つ前記各ロッキング抑制シリンダの他側の液室にアキュムレータを接続し、更に、前記免震対象物のコーナ部に位置するシリンダ連結体の端部間には一方の連結ロッドの押し引きの動きを90゜方向を変えて他方の連結ロッドを押し引きするように伝える移動同期装置を備えてロッキング防止装置を構成し、前記免震対象物の下部における前記ロッキング防止装置の内側に複数の空気バネ免震装置を配置して免震対象物の3次元免震とロッキング防止とを可能にしたことを特徴とする免震システム。
【請求項2】
前記シリンダ連結体が、免震対象物の周縁に沿い無端状に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の免震システム。
【請求項3】
前記シリンダ連結体が、免震対象物の周縁に沿い一筆書き状に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の免震システム。
【請求項4】
前記ロッキング抑制シリンダに作動液を導くための液圧装置を少なくとも免震対象物の各コーナ部に対応して配置し、各コーナ部の液圧装置の液圧配管を、コーナ部を挟む2辺に位置するシリンダ連結体のロッキング抑制シリンダに対して相互に入り組ませて接続することにより、1つの液圧系統に故障が生じても他の液圧系統に接続したシリンダ連結体によって3次元免震とロッキング防止が維持されるようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の免震システム。
【請求項5】
前記ロッキング防止装置の内側に配置される複数の空気バネ免震装置を少なくとも4等分に区画すると共に、前記区画した空気バネ免震装置ごとに空気圧配管を介して圧縮空気を導くための少なくとも4台の空気圧縮機を配置し、1つの空気圧系統に故障が生じても他の空気圧系統に接続した空気バネ免震装置によって3次元免震が維持されるようにしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の免震システム。
【請求項6】
前記少なくとも4台の空気圧縮機の空気圧配管を、前記少なくとも4分割した空気バネ免震装置に対して相互に入り組ませて接続することを特徴とする請求項5に記載の免震システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−342935(P2006−342935A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171216(P2005−171216)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度、経済産業省、発電用新型炉技術確証試験(高速増殖炉技術確証試験)に関する委託業務、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】