説明

免震化工法

【課題】既存建物を免震化するための有効適切な免震化工法を提供する。
【解決手段】免震化対象の既存建物1に沿ってその周囲に山留壁10を構築する工程と、山留壁と既存建物との間に設置した水平変位拘束手段12によって既存建物の水平変位を拘束しつつ既存建物の地下部の周囲および下部に免震ピット2を施工する工程と、免震ピット内での作業により既存の直接基礎を補強する補強マット3を設けるとともに、免震ピットの下方地盤に杭13を打ち込んで補強マットを介して既存建物を仮支持する工程と、免震ピット内の底部に新設基礎としての底盤を設けて底盤と補強マットとの間に免震装置を介装した後、杭による仮支持を解いて免震装置により補強マットを介して既存建物を支持する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既存建物を免震化するための工法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建物を免震化するためのいわゆる免震レトロフィット工法として、たとえば特許文献1に示されるものが提案されている。
これはべた基礎の既存建物を対象とするもので、既存建物の直下の地盤を掘削して深礎工法による杭体を施工し、杭体とべた基礎との間に介装したサポートにより既存建物を仮支持した状態で免震ピットを施工し、免震ピットの底部に底盤を新設してその底盤と既存のべた基礎との間に免震装置を介装するというものである。
【特許文献1】特開2003−253911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の免震化工法は比較的小規模かつ簡易な構造の既存建物を対象とする免震化手法として有効であると考えられるが、施工中の地震発生等の事態を想定すると必ずしも施工安全性を確保できないし、また既存建物を使用しながら免震化するようなことも望めないことから、それを可能とするより有効適切な免震化工法の開発も望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は基礎の構造が直接基礎とされている既存建物を対象とする免震化工法であって、免震化対象の既存建物の周囲に沿って該既存建物を取り囲む山留壁を構築する工程と、該山留壁と前記既存建物との間に設置した水平変位拘束手段によって該既存建物の水平変位を拘束しつつ、該既存建物と前記山留壁との間の地盤を直接基礎の下方に達する深度まで掘削するとともに該直接基礎の下方地盤を掘削して、既存建物の地下部の周囲および下部に免震ピットを施工する工程と、該免震ピット内での作業により、既存の直接基礎を補強する補強マットを設けるとともに、該免震ピットの下方地盤に杭を打ち込んで該杭により前記補強マットを介して既存建物を仮支持する工程と、前記免震ピット内の底部に新設基礎としての底盤を設けて、該底盤と前記補強マットとの間に免震装置を介装した後、前記杭による仮支持を解いて前記免震装置により前記補強マットを介して既存建物を支持する工程とを有することを特徴とする。
【0005】
本発明においては、近接配置されている複数の既存建物からなる既存建物群を対象として、該既存建物群全体の地下部の周囲および下部に前記免震ピットを設けるとともに、各既存建物の直接基礎を補強する補強マットを該既存建物群の全体を一括して補強するように一体に設けることも可能である。
【0006】
また、必要に応じて、前記山留壁の外側に、該山留壁を取り囲む環状の外郭山留壁を設けることも考えられる。
【0007】
さらに、前記免震ピットを水槽として機能せしめてその貯留水により前記既存建物に浮力を作用させて前記免震装置による支持荷重を低減せしめることも可能である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の免震化工法によれば、既存建物やその内部設置機器類に対する耐震補強を行うことなく既存建物に対する優れた免震効果が得られて、既存建物に対する耐震性能を大きく向上させることができることはもとより、免震ピットを構築するに際しては既存建物の周囲を取り囲むように山留壁を設けてその山留壁と既存建物との間に水平変位拘束手段を設けるので、施工中に万一地震が発生しても既存建物に過大な水平変位が生じることを有効に防止でき、したがって施工安全性を充分に確保できるのみならず既存建物やその内部設置機器類に地震被害が及ぶこともなく、それ故に既存建物を使用しながら免震化することも可能であり、たとえば原子力発電所等を対象とする免震化工法として最適である。
【0009】
特に、複数の既存建物が近接配置されている既存建物群を対象とする場合には、各既存建物の直接基礎の全体を頑強な補強マットにより一体化したうえでその全体を免震装置により一括して免震支持することにより、既存建物群の全体を効率的に免震化することができるし、各既存建物をそれぞれ独立に免震化する場合には必要となる各既存建物間の相対水平変位を考慮しなくて済む。
【0010】
また、山留壁の外側にさらに環状の外郭山留壁を構築すれば、その外郭山留壁によって土圧に対して有効に抵抗できるのでより万全の施工安全性を確保し得る。
【0011】
さらに、免震ピットを水槽として機能せしめて貯留水による浮力を利用するいわゆる浮体式免震とすることにより、免震装置による支持荷重を低減させることができるし、貯留水による減衰効果を期待することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の免震化工法を既存の原子力発電所を対象としてそれを免震化する場合に適用するための一実施形態を図1〜図6を参照して説明する。
本実施形態において免震化対象としている原子力発電所は、図1に示すように多数の既存建物1が近接配置されている既存建物群Aからなり、かつ個々の既存建物1の基礎はいずれも直接基礎からなるものであり、本実施形態では最終的に図6に示すようにそれら既存建物群Aの全体を一括して免震化するべく、既存建物群Aの全体の地下部の周囲および下部に免震ピット2を設けるとともに、各既存建物1の既存の直接基礎どうしを一体に連結する頑強な補強マット3と、既存建物群A全体に対する新たな基礎としての底盤4を設けて、それら補強マット3と底盤4との間に設置した積層ゴム等の免震装置5によって既存建物群A全体を免震支持することを主眼とするものである。
【0013】
本実施形態では、まず図2に示すように既存建物群A全体を取り囲む山留壁10を構築する。山留壁10は既存建物群A全体の外形輪郭に沿う形状に構築するが、山留壁10と既存建物1の外周部との間の間隔はそこに所望の免震クリアランスを確保し、かつその間隔を通して既存建物群Aの周囲および下方の地盤を掘削し得る程度に設定する。
本実施形態における山留壁10の構造やその構築工法は任意であるが、いずれにしてもその内部を掘削するに際して充分な山留め機能を有するものであることに加え、後述する水平変位拘束手段12とともに施工途中における既存建物1の水平変位を拘束し得るものであることが必要であり、したがって山留壁10の構造としてはたとえば地中連続壁によるものが好適に採用可能である。
なお、本実施形態では上記の山留壁10の外側にさらに環状の外郭山留壁11を構築するとともに、それら山留壁10と外郭山留壁11とを要所で連結していて、主として外側の外郭山留壁11によって土圧に抵抗し、内側の山留壁10によって掘削時の山留機能と既存建物1に対する水平変位拘束機能を確保するものとしており、それにより施工中における万一の地震発生時にも充分なる安全性を確保し得るものとなっている。なお、外郭山留壁11の構造も任意であるが、地中連続壁によることが好ましい。
【0014】
次に、図3に示すように山留壁10と既存建物1との間を直接基礎の深度に達するまで掘削していき、さらに図4に示すように既存建物1の下方地盤を水平方向に掘削していって、既存建物群A全体の地下部の周囲に免震ピット2を構築していく。
その際、図3に示すように山留壁10と既存建物1との間に水平変位拘束手段12としての切梁あるいは仮設床等を多段に設置していく。これにより、山留壁10による山留機能を万全に確保するとともに、施工中に万一地震が発生した際にも既存建物1の水平変位を水平変位拘束手段12と山留壁10とによって確実に拘束可能であり、したがって施工安全性を確保し得ることはもとより既存建物1やその内部設置機器類に対する地震被害を有効に防止することができる。
【0015】
また、図4に示すように既存建物1の下方地盤を水平方向に掘削していって免震ピット2を構築していく際には、免震ピット2内での作業により既存の直接基礎を補強する補強マット3を施工していき、かつ免震ピット2の下方地盤には杭13を打ち込んでいってその杭13により補強マット3を介して既存建物1を仮支持していく。
補強マット3は単に個々の既存建物1の直接基礎を補強するのみならず、各既存建物1の直接基礎どうしを一体に連結して既存建物群A全体を一括して支持するためのものであり、したがってその構造は頑強な鉄筋コンクリート造とすれば良い。
また、杭13の施工は免震ピット2の高さの範囲内で行う必要があり、したがって長尺の杭体の施工は困難であるので、杭13の施工法としては短尺の鋼管杭を免震ピット2内で順次接続しながら地盤中に圧入していく鋼管杭圧入工法が好適に採用可能である。
【0016】
以上の工程により免震ピット2を構築するとともに、その上部において既存建物群Aの全体を一括して支持する補強マット3の全体を構築し、かつ免震ピット2の下方地盤全体に杭13を施工することにより、それらの杭13により補強マット3を介して既存建物群A全体を仮支持する。
しかる後に、あるいは上記の工程と並行して、図5に示すように免震ピット2の底面全体に既存建物群A全体に対する新たな基礎としての頑強な鉄筋コンクリート造の底盤4を施工する。
【0017】
図6に示すように底盤4と補強マット3との間に積層ゴム等の免震装置5を配置し、最終的に杭13による仮支持を解いて杭頭部を撤去することにより、既存建物群Aの全体を免震装置5により免震支持し、水平拘束手段12を撤去すれば免震化工程の完了となる。
なお、図6に鎖線で示しているように復水ピット14を設ける必要がある場合には、それを底盤4下に設ければ良く、その施工は底盤4の施工に際して同時に行えば良い。
【0018】
上記実施形態の免震化工法によれば、既存建物1やその内部設置機器類に対する耐震補強を行うことなく、また既存建物内からの作業を一切必要とせずに外部での作業のみで原子力発電所全体を免震化することができ、地震に対する施設安全性を大きく向上させることができる。
特に、免震ピット2を構築するに際しては既存建物群A全体の周囲を取り囲むように山留壁10を設けるばかりでなく、その山留壁10と既存建物1との間に水平変位拘束手段12を設けるので、施工中に万一地震が発生しても既存建物1の過度の水平変位が生じることを有効に防止でき、したがって施工安全性を充分に確保できるのみならず既存建物1やその内部設置機器類に地震被害が及ぶこともなく、それ故に原子力発電所を稼働しながら免震化することも可能である。
【0019】
また、既存建物1の直接基礎の全体を頑強な補強マット3により一体化したうえでその全体を免震装置5により一括して免震支持するので、既存の原子力発電所全体を効率的に免震化することができるし、各既存建物1をそれぞれ独立に免震化する場合には必要となる各既存建物間の相対水平変位を考慮しなくて済み、各建物間に跨る配管類に免震継手を設ける必要もない。
【0020】
以上で本発明の一実施形態を説明したが、上記実施形態はあくまで好適な一例であって本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、たとえば以下に列挙するような様々な応用や変形が可能である。
上記実施形態は既存の原子力発電所を免震化する場合の適用例であるが、本発明は原子力発電所に限らず様々な用途、規模、形態の既存建物全般に広く適用できるものである。
また、上記実施形態では近接配置されている複数の既存建物1を対象として各既存建物1を連結マット3により一体に連結したうえでその補強マット3を介して既存建物群A全体を一括して免震支持することとしたが、本発明はそのような場合に限らず独立に構築されている単一の既存建物のみを対象として免震化する場合にも当然に適用可能である。
【0021】
また、本発明の免震化工法によりいわゆる浮体式免震とすることも可能である。すなわち、図7に示すように上記実施形態における免震ピット2を水槽として機能せしめて、免震ピット2内の貯留水による浮力を既存建物1に作用させることにより、免震装置5による支持荷重を低減させることができるし、貯留水による減衰効果を期待することも可能である。
【0022】
さらに、上記実施形態のように山留壁10の外側にさらに環状の外郭山留壁11を設けることが好ましいが、地盤状況によっては外郭山留壁11は省略しても差し支えないし、、あるいはそのような環状の外郭山留壁11の設置スペースを確保できないような場合にはそれに代えてたとえば図8に示すように山留壁10をアースアンカー15により支持することも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の免震化工法の一実施形態を示すもので、免震化対象の既存建物群としての原子力発電所を示す図である。
【図2】同、山留壁および外郭山留壁を構築した状態を示す図である。
【図3】同、免震ピットを施工している状態を示す図である。
【図4】同、免震ピットを施工しつつ補強マットと杭を施工している状態を示す図である。
【図5】同、免震ピット、補強マット、杭、底盤の施工が完了した状態を示す図である。
【図6】同、免震化が完了した状態を示す図である。
【図7】同、変形例を示すもので、浮体式免震とする場合の例を示す図である。
【図8】同、他の変形例を示すもので、環状の外郭山留壁を省略して山留壁をアースアンカーにより支持する場合の例を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
A 既存建物群
1 既存建物
2 免震ピット
3 補強マット
4 底盤
5 免震装置
10 山留壁
11 外郭山留壁
12 水平変位拘束手段
13 杭
14 復水ピット
15 アースアンカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎の構造が直接基礎とされている既存建物を対象とする免震化工法であって、
免震化対象の既存建物の周囲に沿って該既存建物を取り囲む山留壁を構築する工程と、
該山留壁と前記既存建物との間に設置した水平変位拘束手段によって該既存建物の水平変位を拘束しつつ、該既存建物と前記山留壁との間の地盤を直接基礎の下方に達する深度まで掘削するとともに該直接基礎の下方地盤を掘削して、既存建物の地下部の周囲および下部に免震ピットを施工する工程と、
該免震ピット内での作業により、既存の直接基礎を補強する補強マットを設けるとともに、該免震ピットの下方地盤に杭を打ち込んで該杭により前記補強マットを介して既存建物を仮支持する工程と、
前記免震ピット内の底部に新設基礎としての底盤を設けて、該底盤と前記補強マットとの間に免震装置を介装した後、前記杭による仮支持を解いて前記免震装置により前記補強マットを介して既存建物を支持する工程とを有することを特徴とする免震化工法。
【請求項2】
請求項1記載の免震化工法であって、
近接配置されている複数の既存建物からなる既存建物群を対象として、該既存建物群全体の地下部の周囲および下部に前記免震ピットを設けるとともに、各既存建物の直接基礎を補強する補強マットを該既存建物群の全体を一括して補強するように一体に設けることを特徴とする免震化工法。
【請求項3】
請求項1または2記載の免震化工法であって、
前記山留壁の外側に、該山留壁を取り囲む環状の外郭山留壁を設けることを特徴とする免震化工法。
【請求項4】
請求項1,2または3記載の免震化工法であって、
前記免震ピットを水槽として機能せしめてその貯留水により前記既存建物に浮力を作用させて前記免震装置による支持荷重を低減せしめることを特徴とする免震化工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−155794(P2009−155794A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331390(P2007−331390)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】