説明

免震化工法

【課題】べた基礎の既存建物を対象とした簡易で安価な免震化工法を提供する。
【解決手段】べた基礎12上に設けられた既存建物1の免震化工法であって、べた基礎12の一部を短冊状に撤去して梁用の空間14を形成し、ここに鉄筋16を配筋し、この空間14とべた基礎12上面とに亘って硬化材18を増し打ちしてべた基礎12を増厚し、上載荷重に対する曲げ耐力を向上させた後に、この増厚したべた基礎12の下に作業空間24を形成し、この作業空間24の地盤26に仮設支持材30を設けてべた基礎12を仮支持し、新設基礎を設け、この新設基礎とべた基礎12との間に免震装置を設置して仮設支持材30を撤去するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震化工法に関し、特に、べた基礎の既存建物を対象とした免震化工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、免震レトロフィットによる既存建物の免震化工法が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。この既存建物の免震化工法は、既存建物を下部構造と上部構造とに分断してそれらの間に積層ゴム等の免震装置を設置することにより既存建物を免震化するものである。
【0003】
図11および図12は、特許文献1の免震化工法の概略工程図である。図11(a)に示すように、既存建物1は、べた基礎2と最下階スラブ3と柱4とを有する。既存建物1の周囲から、べた基礎2を支持している地盤を掘削し、作業空間5を確保する。次に、(b)に示すように、各柱4の直下の位置に深礎工法によって杭体6を施工する。次に、(c)に示すように、杭体6とべた基礎2との間に鉄骨材等からなるサポート7を介装し、柱荷重をサポート7を介して杭体6により仮支持する。
【0004】
続いて、図12(a)に示すように、べた基礎2の下方地盤全体をさらに掘削して免震ピット8を設け、杭体6の頂部を露出させる。次に、(b)に示すように、免震ピット8に底盤9を新設し、その底盤9により杭体6の頂部どうしを一体化する。次に、(c)に示すように、底盤9に免震装置10を設置するとともにサポート7を撤去し、免震装置10を介して既存建物1全体を底盤9から免震支持して完成となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3787814号公報
【特許文献2】特開2007−85021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の従来の特許文献1のように、基礎がべた基礎である既存建物の免震レトロフィットにおいては、べた基礎下を掘削して免震装置を設置するための作業空間を作る。この場合、免震装置の設置に先行してこの作業空間に複数の仮設支持材を設け、べた基礎を一時的に仮支持する。このとき、べた基礎下は作業空間であることから、べた基礎には既存建物の重量による大きな曲げ応力が生じる。特に、築年数が50年程度以上の既存建物のべた基礎は、シングル配筋のコンクリートで構成される等、近年建設されたべた基礎に比べて曲げ強度が低い場合があり、仮支持時の曲げ応力に対し構造体としての曲げ耐力の評価は困難である。このことがべた基礎の既存建物の免震化施工を難しくし、施工コストを押し上げる要因となっていた。このため、べた基礎の既存建物を対象とした簡易で安価な免震化工法の開発が望まれていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、べた基礎の既存建物を対象とした簡易で安価な免震化工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る免震化工法は、べた基礎上に設けられた既存建物の免震化工法であって、前記べた基礎を増厚して上載荷重に対する曲げ耐力を向上させた後に、この増厚したべた基礎の下に作業空間を形成し、この作業空間に、前記べた基礎を免震支持する免震装置を設置することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に係る免震化工法は、上述した請求項1において、前記べた基礎の一部を撤去して梁用の空間を形成し、この空間と前記べた基礎上面とに亘って硬化材を増し打ちして前記べた基礎を増厚した後に、この増厚したべた基礎の下の地盤を掘削して作業空間を形成し、この作業空間の地盤に仮設支持材を設けて前記べた基礎を仮支持し、新設基礎を設け、前記新設基礎と前記べた基礎との間に免震装置を設置して前記仮設支持材を撤去することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に係る免震化工法は、上述した請求項2において、前記べた基礎を平面視で短冊状に撤去して梁用の空間を形成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に係る免震化工法は、上述した請求項2または3において、前記梁用の空間に鉄筋を配筋することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、べた基礎上に設けられた既存建物の免震化工法であって、前記べた基礎を増厚して上載荷重に対する曲げ耐力を向上させた後に、この増厚したべた基礎の下に作業空間を形成し、この作業空間に、前記べた基礎を免震支持する免震装置を設置するので、べた基礎の曲げ耐力が改善され、このべた基礎を仮設支持して免震装置を設置する際の施工性が高められる。このため、基礎がべた基礎である既存建物の免震化工事を、簡易かつ安価に実施することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係る免震化工法の実施例を示す概略フローチャート図である。
【図2】図2は、本発明に係る免震化工法の工程を示す側断面図であり、べた基礎の一部を撤去した状態を示す図である。
【図3】図3は、同、梁鉄筋を施工した状態を示す図である。
【図4】図4は、同、べた基礎を増厚した状態を示す図である。
【図5】図5は、同、べた基礎下の作業空間を設けつつ、仮設支持材で仮支持する状態を示す図である。
【図6】図6は、同、べた基礎を仮設支持材で仮支持した状態を示す図である。
【図7】図7は、同、作業空間の地盤に底盤を新設した状態を示す図である。
【図8】図8は、同、免震装置を設置した状態を示す図である。
【図9】図9は、図2のべた基礎の平断面図である。
【図10】図10は、図5のべた基礎の拡大図である。
【図11】図11は、従来の免震化工法の概略工程図(前半)である。
【図12】図12は、従来の免震化工法の概略工程図(後半)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る免震化工法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
図1および図10に示すように、本発明に係る免震化工法は、べた基礎12上に設けられた既存建物1の免震化工法であって、べた基礎12を増厚して既存建物1の重量(上載荷重)に対する曲げ耐力を向上させた後に、この増厚したべた基礎12の下に作業空間24を形成し、この作業空間24に、べた基礎12を免震支持する免震装置を設置するものである。
【0016】
具体的な施工手順について図2〜図10を参照しながら説明する。
まず、本格的な施工に先立ち、べた基礎の接地圧を低減しておく。具体的には、べた基礎への積載荷重や仕上げ荷重の除去を行い、可能な限り荷重の低減を図るようにする。
【0017】
図2および図9の平断面図に示すように、既存建物1のべた基礎12を平面視で短冊状に切断撤去して梁用の空間14を形成する。切断撤去する位置は、既存建物1の柱11を避けた位置とする。また、短冊状の切断幅Bはべた基礎12の接地圧によって定めることが好ましい。
【0018】
続いて、図3に示すように、切断して作った梁用の空間14に梁配筋16(鉄筋)を施工する。この梁配筋16は、べた基礎12とアンカー(図示を省略)で一体化する。なお、梁配筋16の仕様は竣工後に作用する荷重のほか、後工程で生じるジャッキアップ応力を考慮して決定することが好ましい。また、スラブ筋28をべた基礎12上面側に配筋しておく。
【0019】
次に、図4に示すように、梁用の空間14とべた基礎12上面とに亘って可能な限り鉄筋コンクリート18(硬化材)を増し打ちして梁用の空間14に梁20を新設するとともに、既設のべた基礎12と一体化する。このように、べた基礎12全体を増厚して既存建物1の重量に対する曲げ耐力を向上させるようにする。
【0020】
次に、図5および図10に示すように、既存建物1の周囲から、増厚したべた基礎12の下方の地盤22を掘削して、べた基礎12下に作業空間24を形成する。この作業空間24の大きさは、後工程の免震装置34の設置作業を実施することが可能な大きさを確保するようにする。
【0021】
次に、図6に示すように、作業空間24を掘り進みつつ、地盤22とべた基礎の梁20との間に仮設支持材30を介装し、梁荷重を仮設支持材30で仮支持する。この場合、仮設支持材30は、例えばアンダーピニング工法などにより、鋼管の杭を地盤22中にジャッキで圧入施工することにより設ける。仮設支持材30の設置の際にはジャッキにより一時的に梁荷重を受け、ジャッキを外して梁荷重を仮設支持材30に預けることとする。
【0022】
次に、図7に示すように、べた基礎12の下方地盤全体をさらに掘削して、作業空間24の地盤26に底盤32(新設基礎)を新設する。この底盤32は最終的に免震装置34(図8を参照)を介して既存建物1全体を支持しつつこの底盤32自体が地盤により支持されるものであるので、それに必要な強度、断面を備える構造のものとする。
【0023】
最後に、図8に示すように、新設した底盤32とべた基礎の梁20との間に積層ゴム等の免震装置34を設置するとともに仮設支持材30を撤去し、それら免震装置34を介して既存建物1全体を底盤32から免震支持する。このようにして、べた基礎の既存建物1の免震化施工が完了する。
【0024】
このようにすることで、べた基礎12の曲げ耐力が改善され、このべた基礎12を仮設支持して免震装置34を設置する際の施工性が高められる。このため、基礎がべた基礎である既存建物の免震化工事を、簡易かつ安価に実施することができる。
【0025】
特に、築年数が古いべた基礎は、曲げ耐力が低い可能性があるので、このべた基礎の下に作業空間を形成する従来の免震レトロフィットの施工をそのまま適用することは難しい。しかし、本発明によれば、築年数が古いべた基礎の既存建物であっても、増厚によりべた基礎12の曲げ耐力を向上させ、曲げ破壊を起こし難くしてからこの下に作業空間24を形成するので、施工性が高まり免震レトロフィットの施工を容易に行うことができる。
【0026】
また、べた基礎12内に新設した梁20の設計次第では、仮設支持材30の配置間隔を広くすることも可能である。配置間隔を広くすることができれば、仮設支持材30の使用数量を削減でき、その仮設費用を低減することができる。
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、べた基礎上に設けられた既存建物の免震化工法であって、前記べた基礎を増厚して上載荷重に対する曲げ耐力を向上させた後に、この増厚したべた基礎の下に作業空間を形成し、この作業空間に、前記べた基礎を免震支持する免震装置を設置するので、べた基礎の曲げ耐力が改善され、このべた基礎を仮設支持して免震装置を設置する際の施工性が高められる。このため、基礎がべた基礎である既存建物の免震化工事を、簡易かつ安価に実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上のように、本発明に係る免震化工法は、基礎がべた基礎である既存建物の免震化に有用であり、特に、築年数の古いべた基礎の既存建物の免震化工事を、簡易かつ安価に実施するのに適している。
【符号の説明】
【0029】
1 既存建物
12 べた基礎
14 梁用の空間
16 梁配筋(鉄筋)
18 コンクリート(硬化材)
20 梁
22,26 地盤
24 作業空間
28 スラブ筋
30 仮設支持材
32 底盤(新設基礎)
34 免震装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
べた基礎上に設けられた既存建物の免震化工法であって、
前記べた基礎を増厚して上載荷重に対する曲げ耐力を向上させた後に、この増厚したべた基礎の下に作業空間を形成し、この作業空間に、前記べた基礎を免震支持する免震装置を設置することを特徴とする免震化工法。
【請求項2】
前記べた基礎の一部を撤去して梁用の空間を形成し、この空間と前記べた基礎上面とに亘って硬化材を増し打ちして前記べた基礎を増厚した後に、この増厚したべた基礎の下の地盤を掘削して作業空間を形成し、この作業空間の地盤に仮設支持材を設けて前記べた基礎を仮支持し、新設基礎を設け、前記新設基礎と前記べた基礎との間に免震装置を設置して前記仮設支持材を撤去することを特徴とする請求項1に記載の免震化工法。
【請求項3】
前記べた基礎を平面視で短冊状に撤去して梁用の空間を形成することを特徴とする請求項2に記載の免震化工法。
【請求項4】
前記梁用の空間に鉄筋を配筋することを特徴とする請求項2または3に記載の免震化工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−208478(P2011−208478A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79661(P2010−79661)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】