説明

免震建物及びこれに設置した機械式駐車装置

【課題】 地震終息後に非接触で上・下躯体の位置ずれ状態を検知することができる免震建物を提供すること。
【解決手段】 上部構造体2と下部構造体3との間に免震部材5を介在させて地震動を軽減させる免震建物1であって、前記上部構造体2と下部構造体3との間に非接触式の躯体位置ずれ検知手段35を備え、地震後にこの躯体位置ずれ検知手段35によって検知した前記上部構造体2と下部構造体3との間の位置ずれ値が設定値を超えていると警報を発する制御装置50を具備させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部構造体の上部に免震部材を介して上部構造体を設置した免震建物と、この免震建物に設置した機械式駐車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震動が地盤から建物に伝わることを防ぐために、下部構造体(基礎側)の上に免震部材(例えば、免震積層ゴム)を介して上部構造体を設置した免震建物がある。この免震建物は、地震などの揺れを免震部材で軽減させるので、近年、中高層マンションでも採用されている。
【0003】
一方、このような免震建物に機械式駐車装置を設置する場合もあり、この場合には機械式駐車装置の乗入れ部が免震建物の上部構造体に配置され、駐車装置本体部が下部構造体の地下空間に配置されている。
【0004】
この免震建物に設置した機械式駐車装置としては、例えば、乗入れ部を配置した上部構造体と、昇降路・リフト・駐車装置部を配置した下部構造体(地下構造体)との間に免震部材を介在させ、上記昇降路を、地下空間の駐車装置部の側方又は中間部に形成して、上方(例えば、地上)の乗入れ部(入出庫室)に連通するように吹抜けとしたものがある(例えば、特許文献1参照)。この乗入れ部には、上記昇降路の真上に位置する矩形開口付きのターンテーブルが設けられており、ターンテーブルの旋回により中継リフタ・パレット・搭載車両が一体に旋回させられて搭載車両の前部が入出庫口に差し向けられるようにしている。
【0005】
また、この種の機械式駐車装置において、乗入れ固定床が上部構造体側に支持されて配置され、昇降路におけるリフト枠組構造体が下部構造体側に支持され、昇降路のリフトが上昇した際、リフトに搭載のパレット(及びこれに搭載の車両)が乗入れ固定床の下面に設置された中継リフタにより持ち上げられてリフトから切り離されるとともに、乗入れ固定床の中央矩形開口に嵌め込まれるようにしたものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
このような免震建物に設置された機械式駐車装置は、上記地震発生時に免震部材が地震動を吸収することにより、下部構造体(基礎側)から上部構造体への地震動の伝達が抑制されるので、ターンテーブル・乗入れ固定床・リフト枠組構造体等の相互接触による損壊を免れることを期待している。
【特許文献1】特許第2983899号公報
【特許文献2】特開2001−349085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記したような地震が生じた場合、震度の大きさや揺れの態様によっては、地震終息後も、免震部材が元に復元するとは限らず、上・下構造体間に位置ずれを起したままの状態となることがある。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1,2では、このような上・下構造体間の位置ずれ状態を地震後に検知する手段を有しておらず、この位置ずれ状態を外部から検知することができない。そのため、上記機械式駐車装置が設置された免震建物にあっては、地震終息後に、上・下構造体間に位置ずれを起したままの状態となっていると、上記昇降路のリフト芯がずれた状態のままとなる。
【0009】
そして、地震終息後に上記ターンテーブルやリフト等、駐車装置の機械装置や電気機器類に外部から見て異常が無ければ、復旧作業に際してリフトにパレットを搭載して復旧運転を行おうとするが、上記したようにリフト芯がずれた状態のままで、そのずれが許容不可なほど大きくずれていると、リフトに搭載したパレット及び車両が上記ターンテーブルや乗入れ固定床の矩形開口に接触するという二次災害を引き起こすことになる。
【0010】
そこで、本発明は、地震終息後に非接触で上・下構造体間の位置ずれ状態を検知することができる免震建物と、これに設置した機械式駐車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の免震建物は、上部構造体と下部構造体との間に免震部材を介在させて地震動を吸収する免震建物であって、前記上部構造体と下部構造体との間に非接触式の躯体位置ずれ検知手段を備え、地震後に該躯体位置ずれ検知手段によって検知した前記上部構造体と下部構造体との間の位置ずれ値が設定値を超えていると警報を発する制御装置を具備している。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「躯体」は、上部構造体及び下部構造体をいう。これにより、地震発生後における免震建物の上部構造体と下部構造体との間の位置ずれ値が所定の設定値を超えていると(免震部材の復元不完全状態等)、制御装置が警報を発して上部構造体と下部構造体との間に許容不可な位置ずれが生じていることを報知することができる。
【0012】
また、前記躯体位置ずれ検知手段を、前記上部構造体と前記下部構造体とに対向配置した投光側光電検知器と受光側光電検知器とを組合わせた光電方式としてもよい。この光電方式は、投・受光部分離型及び投・受光一体型を含む。このようにすれば、設置が容易で安価な検知器によって安定した位置ずれ検知を行うことができる。
【0013】
一方、本発明の免震建物に設置した機械式駐車装置は、機械式駐車装置の車両乗入れ部を前記上部構造体に配置し、該乗入れ部に連通する昇降路でパレットを昇降させるリフト昇降部及び駐車装置本体部を前記下部構造体に配置したことを特徴とする。これにより、地震後に免震建物の上部構造体に配置された機械式駐車装置の乗入れ部と、下部構造体に配置されたリフト昇降部及び駐車装置本体部との間に大きな位置ずれを生じると、制御装置が警報を発して乗入れ部とリフト昇降部及び駐車装置本体部との間に許容不可な位置ずれを生じていることを報知することができる。
【0014】
また、前記躯体位置ずれ検知手段を、前記昇降路の前記乗入れ部近傍に配設してもよい。このようにすれば、上部構造体と下部構造体との間でパレットを昇降させるリフト昇降部における位置ずれを、より正確に検知して警報を発するようにできる。
【0015】
さらに、前記上部構造体又は下部構造体の何れかに地震感知手段を設置し、該地震感知手段で検知した震度が所定値を超えると前記機械式駐車装置を停止させる機能を前記制御装置に具備させてもよい。このようにすれば、機械式駐車装置の稼動に影響する震度の地震が生じた場合には、制御装置が機械式駐車装置を停止させて地震時の動作を停止させることができる。
【0016】
また、前記リフト昇降部と前記乗入れ部との間で前記パレットの受渡しを行う中継リフタを前記乗入れ部に設けてもよい。このようにすれば、上部構造体の乗入れ部と下部構造体のリフト昇降部との間を大きく離して構成することができるので、上部構造体と下部構造体との間に大きな位置ずれが生じても機械式駐車装置の構成が当接するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以上説明したような手段により、地震終息後に非接触で上部構造体と下部構造体との間の位置ずれを検知し、免震建物に許容不可な位置ずれを生じている場合には警報を発することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る機械式駐車装置を備えた免震建物の全体概略正面図であり、図2は、図1に示すII部の拡大正面図であり、躯体位置ずれ検知手段を示している。図3は、図2に示す躯体位置ずれ検知手段の作用説明図であり、図4は、図2に示す躯体位置ずれ検知手段の変形例を示す拡大正面図である。図5は、本発明の制御ブロック図である。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における上下左右方向は、図1に示すように免震建物1の正面に向った状態の上下左右方向とする。
【0019】
図1に示すように、免震建物1は、上部構造体2と下部構造体3との間に免震部材5を介在させた免震構造となっている。上記免震部材5は、この実施の形態では、免震積層ゴムによって構成された免震部材5が用いられている。この免震部材5は、図2に示すように、弾性ゴム板と剛性板とを積層し、上下に設けられた取付板6を上部構造体2と下部構造体3とに固定する積層ゴム構造が採用されている。この免震部材5としては、すべり支承、転がり支承等と、ダンパー等との組合わせでもよく、免震構造を形成できるものであればよい。
【0020】
図1に示すように、この免震建物1には機械式駐車装置10が設置されており、この機械式駐車装置10は、乗入れ部11(入出庫室)が上部構造体2に配置され、駐車装置本体部12が下部構造体3に配置されている。この実施の形態では、箱型循環式の機械式駐車装置10が採用されており、上記下部構造体3の地下空間に、パレット14を循環させる駐車装置本体部12と、上記乗入れ部11に連通する昇降路13でパレット14を昇降させるリフト昇降部15とが配置されている。
【0021】
一方、上記乗入れ部11には、入出庫口16が設けられ、この入出庫口16には上方に開放する入出庫口扉17が設けられている。この入出庫口扉17の側方には運転操作盤18が設けられている。乗入れ部11には、この実施の形態では、車両Wを搭載するパレット14が配置される矩形開口付きのターンテーブル19が設けられている。
【0022】
また、上記リフト昇降部15は下部構造体3の上下方向に延設されており、このリフト昇降部15には、パレット搬出入用リフト20のリフト昇降枠組体26が配置されている。上記駐車装置本体部12には、このパレット搬出入用リフト20のリフト昇降枠組体26と、パレット循環用リフト21の枠組体27とが左右両端部に設けられている。これらパレット搬出入用リフト20のリフト昇降枠組体26とパレット循環用リフト21の枠組体27との間には、複数のパレット14の格納と循環とをさせる駐車部枠組体22が設けられている。この駐車部枠組体22には横行レール23が設けられ、パレット横行駆動部25によってパレット14の車輪24が横行レール23上を移動するようになっている。
【0023】
上記パレット搬出入用リフト20のリフト昇降枠組体26の上端は、上部構造体2の乗入れ部11と大きく隙間を空けた位置まで延設されている。このリフト昇降枠組体26に沿って上昇させられたパレット14は、このリフト昇降枠組体26から中継リフタ28(パレット受渡し機構)によって上記ターンテーブル19の矩形開口まで上昇させられるようになっている。このように、中継リフタ28によってリフト昇降枠組体26とターンテーブル19の矩形開口との間でパレット14の受け渡しが行われる。この中継リフタ28は、ターンテーブル19の矩形開口付近下部に設けられ、ターンテーブル19と一体的に旋回するように設けられた公知の手段で構成される。この実施の形態では、矩形開口付きのターンテーブル19とリフト昇降枠組体26との間でパレット14の受渡しを行う中継リフタ28を設けたが、この中継リフタ28を設けない方式の駐車装置でも、本発明は適用できる。
【0024】
また、この実施の形態では、下部構造体3側に制御盤30が設けられている。この制御盤30には、地震感知手段31(例えば、加速度センサ内蔵の地震感知器等)が組込まれている。この地震感知手段31は、上部構造体2又は下部構造体3の何れかに設けられていればよい。
【0025】
そして、上記上部構造体2と下部構造体3との間に、非接触式の躯体位置ずれ検知手段35が備えられている。この躯体位置ずれ検知手段35は、この実施の形態では、上記昇降路13に近い位置の乗入れ部11の近傍に配設されている。図では昇降路13の右側に配設されているが、二点鎖線で示すように左側に配設してもよい。
【0026】
図2に示すように、上記躯体位置ずれ検知手段35は、投光側光電検知器36と受光側光電検知器37とが上下対向配置された投・受光部分離型光電検知器36,37が採用されている。投光側光電検知器36は、ブラケット38によって上部構造体2に取り付けられ、受光側光電検知器37は、ブラケット39によって下部構造体3に取り付けられている。これら対向配置された投光側光電検知器36の投光器40と、受光側光電検知器37の受光器41は、光軸44が鉛直状に整合するようにブラケット38,39に取り付けられている。
【0027】
また、投光器40と受光器41との間には、所定の大きさ(位置ずれの「設定値」)の小穴43(円形穴)を開口した2枚の面板42が設けられている。これらの面板42は、上記光軸44に対し直角方向水平状に、且つ上下に適宜距離S(例えば、上・下及び横揺れで互いに接触しない距離、数十mm程度)を隔てて設けられている。また、上側の面板42が投光側光電検知器36のブラケット38に一体的に取り付けられ、下側の面板42が受光側光電検知器37のブラケット39に一体的に取り付けられている。この取り付け状態では、2枚の面板42の小穴43を鉛直方向同心上に整合させて、光軸44がこれら小穴43,43の中心部を通るように位置調整される。この躯体位置ずれ検知手段35による「位置ずれ」の検知は、小穴43の直径(位置ずれの「設定値」・リフト芯の位置ずれ許容値)を決定し、その小穴43よりも光軸44がずれた場合には、位置ずれ値が設定値を超えた「位置ずれ」を生じていると検知するようにしている。この小穴43の大きさは、免震建物1の構成に応じて設定される。
【0028】
図3に示すように、上記躯体位置ずれ検知手段35によれば、地震の本震終息後も、免震部材5の残留変形等で上部構造体2と下部構造体3とがずれたままの状態であると、2枚の面板42の小穴43(位置ずれの「設定値」)がずれて投光光線(光軸44)を面板42が遮るので、制御装置50(図5)は受光側光電検知器37からの受光信号が得られなくなり、「位置ずれ」を生じていると判断される。
【0029】
図4に示す躯体位置ずれ検知手段の変形例は、投・受光一体型光電検知器46が採用されたものである。この変形例の躯体位置ずれ検知手段45は、上記下部構造体3側の受光側光電検知器37に代えて、反射板47付き面板48が設けられている。上部構造体2側の小穴43付き面板42は同一である。この反射板47付き面板48は、例えば、上記小穴程度の大きさの耐用性の高いステンレス鋼の鏡板やアルミニウム材の反射フイルム等の反射板47を面板48の中央部に貼り付けたものを用いることができる。反射面の周囲は、非反射面又は乱反射面とする。この躯体位置ずれ検知手段45による「位置ずれ」の検知は、予め反射板47の大きさ(位置ずれの「設定値」)を決定し、その反射板47よりも光軸がずれた場合には、位置ずれ値が設定値を超えた「位置ずれ」を生じていると検知するようにしている。
【0030】
このような躯体位置ずれ検知手段45によっても、上部構造体2と下部構造体3との間に所定の「位置ずれ」を生じると、警報指令を発して報知することが容易に可能である。
【0031】
図5に示すように、上記運転操作盤18とその制御ブロックとしては、非常停止を行う震度、本震後に位置ずれ検知を行う所定時間等を記憶するRAMやCPU等を備え、位置ずれ値が設定値を超えていると警報を発する制御装置50と、上層横行駆動部、下層横行駆動部、搬出入用リフトの昇降駆動部等を備えた駆動部51と、入出庫口扉の開閉駆動部、パレット受渡し装置の駆動部等の入出庫室内の駆動部52と、地震感知手段(地震感知器)、躯体位置ずれ検知手段、乗入れ部の車両・人検知手段、入出庫口の車両・人検知手段等を備えた検知部53と、上記駐車装置10の運転操作を行う運転操作盤18とが、I/O装置54(入出力装置)を介して接続されている。このI/O装置54により、各部の間で信号の送受信が行われる。
【0032】
上記運転操作盤18には、最上部に「入口番号」と「呼番号」との案内表示部55と、非常停止表示ランプ56と、「非常停止」釦57とが設けられている。その下方には、パレット番号及び実車表示ランプ58と、テンキー59とが設けられている。このテンキー59は、入出庫を行うパレット番号や暗証番号の入力等に使用される。その下方には、「安全確認」、「空呼」、「暗証」、「スタート」、「終了扉閉」、「ターンテーブル回転・停止」の各釦が配設された釦部60が設けられている。また、最下部には、「制御電源」、「運転モード」、「ターンテーブル」のモード選択スイッチ等が配設されたスイッチ部61が設けられている。
【0033】
図6は、地震発生時の処理フローチャートであり、この図に基いて地震発生時の処理の一例を以下に説明する。以下の説明では、上記図1〜3、及び図5の符号を用いて説明する。
【0034】
地震発生時、地震感知器31によって感知した震度が所定震度(例えば、震度4)以上であるか否かが判断される(S1)。この震度が所定震度以下の場合、異常ありか否かが判断され(S2)、異常が検知されると非常停止指令が出される(S3)。
【0035】
一方、地震感知器31によって所定震度以上が感知されると、制御装置50は、「非常停止」指令を出す(S4)。これにより、非常停止表示ランプ56が(赤)点灯し、駐車装置10は駆動停止、運転操作不可の状態となる。そして、微小振動を検知するか否かが判断され(S5)、微小振動を検知している間は上記非常停止状態が保たれる。
【0036】
その後、微小振動が検知されなくなり、本震の揺れが収まると考えられる所定時間経過後(例えば、地震発生から3〜5分程度の所定時間が設定され、予め制御装置50で適宜設定される)(S6)、躯体位置ずれ検知手段35によって設定値を超えている位置ずれ値の「位置ずれ」を生じているか否かが判断される(S7)。これにより「位置ずれ」が検知されると、制御装置50は「躯体位置ずれ被害」である旨の警報指令を発する(S8)。この躯体位置ずれ検知手段35による「位置ずれ」の検知は、位置ずれが予め制御装置50に設定されている「設定値」を超えていることの検知であり、上記例では、小穴43の大きさが「設定値」となっており、この小穴43から光軸44がずれると「位置ずれ」と判断される。
【0037】
また、上記警報指令には種々の手段があり、例えば、最も簡単な手段として、上記非常停止表示ランプ56を点滅させることにより達成することができる。この非常停止表示ランプ56の点滅が何を意味するかは、駐車場管理人及び保守作業者が認識できるように、予め地震時復旧マニュアル等に定めておけばよい。この警報指令の手段としては、上記非常停止表示ランプ56の点滅以外に、駐車場の外部から駐車場管理人や保守作業者が警報の内容を知ることができるものであれば、駐車場の運転操作盤や制御システムに合わせてどのような手段でも適用可能である。例えば、図5の運転操作盤18における案内表示部55を何れも「99」として点滅させたり、文字ディスプレイ表示部やスピーカ等を設けて「躯体位置ずれ被害甚大」である旨を、直接的に表示又は音声放送で行うようにしてもよい。
【0038】
このような警報指令を発することにより、地震後、復旧作業に出向いた復旧作業者は、入出庫口16の外部に設けられた運転操作盤18にて上記非常停止表示ランプ56の点滅を視認することにより、「躯体位置ずれ(リフト芯ずれ)」という地震被害が甚大であることを知ることができるので、一般的な復旧運転を控えるべきであることを容易に判断することができ、更に慎重に詳細な被害状況を調査することの判断を迅速に行うことができる。
【0039】
また、上記機械式駐車装置10の制御システムが遠隔監視センターの通信回線網に組み込まれた遠隔監視システムを導入している場合には、上記警報内容は通信回線を通じて自動的に監視センターに通報され、さらに監視センターから保守会社に即刻通知されるので、保守作業者は躯体位置ずれ等の被害の程度に応じた復旧作業装備を予め準備したうえで免震建物1へ出向くことができる。
【0040】
一方、「位置ずれ」を生じていない場合には、非常停止表示ランプ56を点灯状態とすることにより、復旧作業者が運転操作盤18を視認して、非常停止表示ランプ56が点灯(赤)していると、躯体位置ずれが無いことを認識することができ、適宜、非常停止状態を解除し、入出庫口扉17を開け、ターンテーブル19の旋回やリフトの昇降等の復旧運転を迅速に行うことができる。すなわち、上記躯体位置ずれ検知手段35によって「位置ずれ」が検知されなかった場合、その他の異常があるか否かが判断され(S9)、異常が無ければ異常停止指令が解除される(S10)。また、その他の異常が検知されると、非常停止指令が出される(S3)。この非常停止指令は、躯体の「位置ずれ」ではない異常によるものであるので、上記警報指令とは異なる警報指令となる(例えば、非常停止表示ランプ56の異なる点滅パターン等)。
【0041】
以上のように、上記免震建物1によれば、地震終息後に非接触で免震建物1の上部構造体2と下部構造体3との間の位置ずれを検知し、許容不可な位置ずれを生じている場合には警報を発することが可能となるので、この免震建物1に設置された機械式駐車装置10の位置ずれを検知して報知し、地震終息後の復旧作業を適切且つ迅速に行うことが可能となる。
【0042】
しかも、地震後、復旧作業者は、免震建物1の内部に立ち入ることなく、外部から建物内部の躯体被害の程度を予め知り得るため、地震後の機械式駐車装置10に対して誤って上記一般的な復旧運転を行うことにより引き起こされる二次災害を未然に防止することができる。
【0043】
また、上記躯体位置ずれ検知手段35としては、コンパクトで安価な光電検知器36,37(46)を採用することができるので、既設の免震建物における地下式立体駐車装置等へも容易に取り付けることができる。
【0044】
なお、上記実施の形態における機械式駐車装置10は、箱型循環式駐車装置であるが、水平循環式、円形循環式、平面往復式、縦横移動パズル式等、種々の方式の機械式駐車装置に適用でき、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0045】
また、上記機械式駐車装置10では、乗入れ部11(入出庫室)に矩形開口付きのターンテーブル19を備えさせたが、矩形開口を有する固定床(デッキ)とした構成であってもよい。
【0046】
さらに、上記実施の形態における躯体位置ずれ検知手段35は、コンパクトで安価な光電方式であるが、非接触の検知手段である近接センサを用いることもでき、上記実施の形態に限定されるものではない。この近接センサとしては、高周波発振方式、磁気方式、静電容量方式等、種々の方式が適用可能である。
【0047】
また、上述した実施の形態は一例を示しており、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る免震建物は、上部構造体と下部構造体との間に免震部材が設けられた免震建物に利用でき、機械式駐車装置が設置された免震建物に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施の形態に係る機械式駐車装置を備えた免震建物の全体概略正面図である。
【図2】図1に示すII部の拡大正面図である。
【図3】図2に示す躯体位置ずれ検知手段の作用説明図である。
【図4】図2に示す躯体位置ずれ検知手段の変形例を示す拡大正面図である。
【図5】本発明の制御ブロック図である。
【図6】地震発生時の処理フローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
1 免震建物
2 上部構造体
3 下部構造体
5 免震部材
10 機械式駐車装置
11 乗入れ部(入出庫室)
12 駐車装置本体部
13 昇降路
14 パレット
15 リフト昇降部
18 運転操作盤
20 パレット搬出入用リフト
21 パレット循環用リフト
25 パレット横行駆動部
26 リフト昇降枠組体
27 枠組体
28 中継リフタ
31 地震感知手段(地震感知器)
35 躯体位置ずれ検知手段
36 投光側光電検知器
37 受光側光電検知器
40 投光器
41 受光器
42 面板
43 小穴
44 光軸
45 検知手段
46 投・受光一体型光電検知器
47 反射板
48 面板
50 制御装置
55 案内表示部
56 非常停止表示ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体と下部構造体との間に免震部材を介在させて地震動を吸収する免震建物であって、
前記上部構造体と下部構造体との間に非接触式の躯体位置ずれ検知手段を備え、
地震後に該躯体位置ずれ検知手段によって検知した前記上部構造体と下部構造体との間の位置ずれ値が設定値を超えていると警報を発する制御装置を具備していることを特徴とする免震建物。
【請求項2】
前記躯体位置ずれ検知手段を、前記上部構造体と前記下部構造体とに対向配置した投光側光電検知器と受光側光電検知器とを組合わせた光電方式とした請求項1に記載の免震建物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の免震建物に設置した機械式駐車装置であって、
前記機械式駐車装置の車両乗入れ部を前記上部構造体に配置し、
該乗入れ部に連通する昇降路でパレットを昇降させるリフト昇降部及び駐車装置本体部を前記下部構造体に配置したことを特徴とする免震建物に設置した機械式駐車装置。
【請求項4】
前記躯体位置ずれ検知手段を、前記昇降路の前記乗入れ部近傍に配設した請求項3に記載の免震建物に設置した機械式駐車装置。
【請求項5】
前記上部構造体又は下部構造体の何れかに地震感知手段を設置し、
該地震感知手段で検知した震度が所定値を超えると前記機械式駐車装置を停止させる機能を前記制御装置に具備させた請求項3又は請求項4に記載の免震建物に設置した機械式駐車装置。
【請求項6】
前記リフト昇降部と前記乗入れ部との間で前記パレットの受渡しを行う中継リフタを前記乗入れ部に設けた請求項3〜5のいずれか1項に記載の免震建物に設置した機械式駐車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−59727(P2010−59727A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228181(P2008−228181)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(593139271)新明和エンジニアリング株式会社 (109)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】