説明

免震用回転慣性質量ダンパー

【課題】ボールねじ部が曲がることを防ぐことができる免震用回転慣性質量ダンパーを提供する。
【解決手段】上部構造体2と下部構造体3との間に生じるX方向(一の方向)の相対振動を低減するためのX方向回転慣性質量ダンパー(第1回転慣性質量ダンパー)10と、上部構造体2と下部構造体3との間に生じるY方向(他の方向)の相対振動を低減するためのY方向回転慣性質量ダンパー(第2回転慣性質量ダンパー)20と、を有する。X方向回転慣性質量ダンパー10のX方向スライダ(第1スライダ)12とY方向回転慣性質量ダンパー20のY方向スライダ(第2スライダ)22とは鉛直方向に対向し、水平面内において互いに回転可能にピン接合されているとともに、上下方向に相対変位可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造物に取り付けられる免震用回転慣性質量ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
回転慣性質量ダンパーとは、ダンパー両端の相対変位に比例して錘部材の回転量を生じる装置であり、錘部材の回転慣性モーメントと制動力の関係から「両端の相対加速度に比例した負担力」をもつ装置である。
この種の回転慣性質量ダンパーは、ボールねじ(ボールねじ部およびボールナットで構成)と回転錘(フライホイール)とを組み合わせることで、実際の錘質量と比較して数百倍以上もの質量効果を得ることができる。
【0003】
ボールねじと回転錘とからなる回転慣性質量ダンパーでは、回転錘の回転慣性モーメントおよび回転角加速度によって回転錘に生じる角運動量の変化から軸方向の慣性抵抗力(負担力)Pが得られる。
ここで、ボールねじのボールねじ部のリード(ねじ山ピッチ)L、ダンパーの軸方向変位をX、回転錘の回転角をθとした場合、X=Lθ/(2π)の関係となり、ダンパーの負担力(制御力)Pは次式で表される。
【0004】
【数1】

【0005】
ここで、回転錘を直径D、厚さtの円筒(円盤)状とし、その密度をρとすると、
【0006】
【数2】

【0007】
となる。地震用回転慣性質量ダンパーは、D/L>10としているため、
【数3】

【0008】
となる。これは、実際の回転錘の質量の490倍以上の慣性質量効果(相対加速度に対する負担力の比)が得られることを表す。
【0009】
回転慣性質量ダンパーでは、ボールねじ部とボールナットとの噛み合わせ部にボールベアリングを使用しており、ボールねじ部が挿入されたボールナットは、ボールねじ部の周囲をほとんど抵抗なく回転することができる。
そして、ボールナットを固定し、ボールねじ部をその軸方向へ変位させると、ボールねじ部は周方向へ回転しながら軸方向へ変位するため、ボールねじ部と一体化した回転錘もボールねじ部とともに回転する。このとき、回転錘の回転慣性モーメントとボールねじ部の変位量から軸方向の慣性質量効果が生じる。
特許文献1には、この原理を利用した回転慣性質量ダンパーが開示されている。
【0010】
ここで、特許文献1に開示された回転慣性質量ダンパーは、ボールねじ部の軸方向の1方向のみに慣性質量効果が生じるものであるが、免震構造物において上部構造体と下部構造体との間に設置する場合には、水平面内において交差する2方向(たとえばX方向とY方向)に慣性質量効果が生じるダンパーが必要とされる。
また、特許文献2には、上部構造体に振動が生じたときに、この振動がX方向の振動と、Y方向の振動とに分解され、X方向の振動に対して慣性質量効果が生じるX方向回転慣性質量ダンパーと、Y方向の振動に対して慣性質量効果が生じるY方向回転慣性質量ダンパーとを備える水平免震装置が開示されている。
【0011】
X方向回転慣性質量ダンパーは、X方向に延在し軸受を介して下部構造体に支持されたボールねじ部と、上部構造体のX方向の振動が伝達されるボールナットとを備えている。
また、Y方向回転慣性質量ダンパーは、Y方向に延在し軸受を介して下部構造体に支持されたボールねじ部と、上部構造体のY方向の振動が伝達されるボールナットとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−196606号公報
【特許文献2】特開2006−169719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の構成のダンパーには、一対のX方向回転慣性質量ダンパーと一対のY方向回転慣性質量ダンパーとを備え、同じ方向のボールナット同士を接続部材で接続したものや、X方向回転慣性質量ダンパーとY方向回転慣性質量ダンパーとを上下に重ねて配設し、X方向回転慣性質量ダンパーのボールナットとY方向回転慣性質量ダンパーのボールナットを連結したものがある。
【0014】
ここで、前者のダンパーにおいて、水平せん断力により接続部材に水平面内での曲げ変形が生じると、ボールナットがボールねじ部の軸方向以外に変位して、ボールねじ部に水平面内の(Z軸まわり)曲げモーメントが作用し、ボールねじ部が曲がり、円滑な直動運動が妨げられてしまう問題がある。
また、後者のダンパーにおいて、上部構造体から連結された2つのボールナットに水平せん断力が作用すると、ボールねじ部の軸心と水平せん断力の作用位置との鉛直方向の偏心距離によって、ボールねじ部に曲げモーメントが作用して、ボールねじ部が曲がり円滑な直動運動が妨げられてしまう問題がある。また、免震層での鉛直方向相対変位や水平面内ねじれに対応できない問題もある。
【0015】
このように、ボールねじ部が曲がって直線性が低下すると、ボールねじが効率よく機能しないという問題がある。
また、これらのダンパーは、設置に広い設置スペースが必要であるとともに、構成部材が多く設置にコストや労力がかかるという問題がある。
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、ボールねじ部が曲がることを防ぐことができる免震用回転慣性質量ダンパーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明に係る免震用回転慣性質量ダンパーは、免震装置を介して上下に配された上部構造体と下部構造体との間に介装されて、前記上部構造体と前記下部構造体との間に生じる水平面内における一の方向の相対振動を低減するための第1回転慣性質量ダンパーと、前記上部構造体と前記下部構造体との間に生じる水平面内において前記一の方向と交差する他の方向の相対振動を低減するための第2回転慣性質量ダンパーと、を有する免震用回転慣性質量ダンパーであって、前記第1回転慣性質量ダンパーは、前記上部構造体の下部に固定されて前記一の方向へ延在する第1ガイドレールと、該第1ガイドレールに沿って移動可能な第1スライダと、前記第1ガイドレールの延在方向へ延びる第1ボールねじ部と、該第1ボールねじ部が挿通可能な貫通孔が形成されるとともに前記第1スライダと一体化された第1ボールナットと、前記第1ボールねじ部と前記第1ボールナットとの間に配された第1ボールベアリングと、前記第1ガイドレールに固定され前記第1ボールねじ部を支持する第1軸受と、前記第1ボールねじ部の少なくとも一方の先端部に固定された回転錘と、を備え、前記第2回転慣性質量ダンパーは、前記下部構造体の上部に固定されて前記他の方向へ延在する第2ガイドレールと、該第2ガイドレールに沿って移動可能な第2スライダと、前記第2ガイドレールの延在方向へ延びる第2ボールねじ部と、該第2ボールねじ部が挿通可能な貫通孔が形成されるとともに前記第2スライダと一体化された第2ボールナットと、前記第2ボールねじ部と前記第2ボールナットとの間に配された第2ボールベアリングと、前記第2ガイドレールに固定され前記第2ボールねじ部を支持する第2軸受と、前記第2ボールねじ部の少なくとも一方の先端部に固定された回転錘と、を備え、前記第1スライダと前記第2スライダとは鉛直方向に対向し、水平面内において互いに回転可能にピン接合されているとともに、上下方向に相対変位可能であることを特徴とする。
【0018】
本発明では、第1ボールねじ部は、第1ガイドレールの延在方向へ延びるとともに、第1ガイドレールに固定された第1軸受に支持されている。また、第1ボールナットは、第1スライダと一体化しているため、第1ガイドレールに沿って変位するように構成されている。これらの構成により、第1ボールナットと第1ボールねじ部とは、第1ボールねじ部の延在方向(第1ガイドレールの延在方向)のみに相対変位するように支持されているため、これ以外の方向へ相対変位して第1ボールねじ部が曲げ変形することを防止することができる。
なお、第2ボールねじ部および第2ボールナットについても、第1ボールねじ部および第1ボールナットと同様に構成されているため、第2ボールねじ部が曲げ変形することを防止することができる。
【0019】
また、第1スライダと第2スライダとは、水平面内において互いに回転可能にピン接合されていることにより、上部構造体と下部構造体とが水平面内で相対ねじれを生じた場合に、このねじれによって第1ボールねじ部や第2ボールねじ部が曲げ変形することを防止することができる。
更に、第1スライダと第2スライダとは、上下方向に相対変位可能であることにより、上下動が作用して上部構造体と下部構造体とが上下方向に相対変位した場合等に、この相対変位によって第1ボールナットや第2ボールナットが上下方向に移動して第1ボールねじ部や第2ボールねじ部が曲げ変形することを防止することができる。
【0020】
また、本発明に係る免震用回転慣性質量ダンパーでは、前記第1回転慣性質量ダンパーおよび第2回転慣性質量ダンパーをそれぞれ複数有し、前記複数の第1回転慣性質量ダンパーは、それぞれ前記第1スライダを複数備えるとともに、前記複数の第2回転慣性質量ダンパーは、それぞれ前記第2スライダを複数備え、前記複数の第1スライダと前記複数の第2スライダとは鉛直方向にそれぞれ対向し、水平面内において互いに回転可能にピン接合されているとともに、上下方向に相対変位可能としてもよい。
このように、第1回転慣性質量ダンパーおよび第2回転慣性質量ダンパーをそれぞれ複数有することにより、第1回転慣性質量ダンパーおよび第2回転慣性質量ダンパーをそれぞれ1つずつ有する免震用回転慣性質量ダンパーと比べて、慣性質量効果を向上させることができるとともに、接合された第1スライダおよび第2スライダに作用する力(ピンに生じるせん断力)を分散させることができる。
【0021】
また、本発明に係る免震用回転慣性質量ダンパーでは、前記第1ガイドレールおよび前記第1スライダには、互いに対向し前記第1ガイドレールの延在方向へ延びる溝部がそれぞれ形成されるとともに、前記第2ガイドレールおよび前記第2スライダには、互いに対向し前記第2ガイドレールの延在方向へ延びる溝部がそれぞれ形成され、前記対向する溝部の間には、ボールベアリングが配されていることが好ましい。
このように構成することにより、第1スライダと第1ガイドレールとをスムーズに相対変位させることができるとともに、第2スライダと第2ガイドレールとをスムーズに相対変位させることができる。
また、各スライダにガイドレール延在方向以外の力や曲げモーメントが作用した場合の十分な抵抗力を付与することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、第1ボールねじ部や第2ボールねじ部が曲げ変形することを防止することができるため、ボールねじが効率よく機能し、慣性質量効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態による免震用回転慣性質量ダンパーの正面図、(b)は(a)の側面図、(c)は上面図である。
【図2】X方向回転慣性質量ダンパーを下方から見た斜視図である。
【図3】ガイドレール、スライダ、ボールねじを説明する図である。
【図4】Y方向回転慣性質量ダンパーを上方からみた斜視図である。
【図5】接合部を示す図である。
【図6】(a)は、本発明の第2実施形態による免震用回転慣性質量ダンパーの正面図、(b)は(a)の側面図、(c)は上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態による免震用回転慣性質量ダンパー1Aについて、図1乃至図5に基づいて説明する。
図1に示すように、第1実施形態による免震用回転慣性質量ダンパー1Aは、積層ゴムなどの免震装置(不図示)を介して上下に配された上部構造体2と下部構造体3とを備える免震構造物4に取り付けられており、上部構造体2と下部構造体3との間に生じる水平方向の相対振動を低減させている。
免震用回転慣性質量ダンパー1Aは、上部構造体2と下部構造体3との間に介装されていて、上部構造体2と下部構造体3との間に生じるX方向(一の方向)の相対振動を低減するためのX方向回転慣性質量ダンパー(第1回転慣性質量ダンパー)10と、上部構造体2と下部構造体3との間に生じるY方向(他の方向)の相対振動を低減するためのY方向回転慣性質量ダンパー(第2回転慣性質量ダンパー)20と、を備えている。
【0025】
X方向回転慣性質量ダンパー10は、上部構造体2の下端部2aに取り付け架台5を介して固定されている。
ここで、X方向回転慣性質量ダンパー10について、下側を上部構造体2側とし、上側を下部構造体3側として下方からX方向回転慣性質量ダンパー10を見た様子を示す図2に基づいて説明する。
X方向回転慣性質量ダンパー10は、取り付け架台5に固定されX方向へ延在するX方向ガイドレール11と、該X方向ガイドレール11に沿ってX方向へ移動可能なX方向スライダ12と、X方向に延在するX方向ボールねじ部13と、該X方向ボールねじ部13が挿通可能な貫通孔14aが形成されるとともにX方向スライダ12と一体化されたX方向ボールナット14と、X方向ボールねじ部とX方向ボールナットとの間に配されたX方向ボールベアリング15(図3参照)と、X方向ガイドレール11に固定されX方向ボールねじ部13を支持するX方向軸受16と、X方向ボールねじ部13の一方の端部13aに固定されて該X方向ボールねじ部13とともに回転可能なX方向回転錘17と、を備えている。
【0026】
X方向ガイドレール11は、延在方向に直交する断面形状が略U字状に形成され、略U字状の底部11aが取り付け架台5に固定されて、対向する一対の側部11b,11bが上部構造体2の下端部2aから下方へ突出している。X方向ガイドレール11は、一対の側部11b,11b間をスライダ12が移動するように構成されている。
一対の側部11b,11bには、互いに対向する面にX方向へ延びるX方向ガイドレール溝部(溝部)11cがそれぞれ形成されている。このX方向ガイドレール溝部11cには、後述するガイド用ボールベアリング18(図3参照)が転動するように構成されている。
【0027】
図3に示すように、X方向スライダ12は、X方向ガイドレール11の一対の側部11b,11bとそれぞれ対向する側面12a,12aに、移動方向へ延びるX方向スライダ溝部(溝部)12bが形成されている。一対のX方向スライダ溝部12b,12bは、それぞれX方向ガイドレール溝部11cと対向しており、X方向スライダ溝部12bとX方向ガイドレール溝部11cとの間には、多数のガイド用ボールベアリング18が配されている。
【0028】
これらのX方向ガイド用ボールベアリング18は、X方向スライダ12がX方向ガイドレール11に沿って移動すると、X方向スライダ溝部12bとX方向ガイドレール溝部11cとの間を転動するように構成されている。
なお、X方向スライダ12には、X方向ガイド用ボールベアリング18を方向転換させるための方向転換路12cと、X方向ガイド用ボールベアリング18を循環させる転動体循環路12dとが形成されていて、X方向ガイド用ボールベアリング18はこれらを転動して循環するように構成されている。
【0029】
図2に戻り、X方向ボールねじ部13は、X方向ガイドレール11よりもやや長く形成され、X方向回転錘17が取り付けられた一方の端部13a近傍と、他方の端部13bとが、X方向ガイドレール11の両端部に設けられた一対のX方向軸受16,16に周方向へ回転可能に支持されている。
図3に示すように、X方向ボールねじ部13の外周面には、螺旋溝13aが形成されていて、X方向ボールナット14の貫通孔14aの内周面には、螺旋溝14bが形成されている。X方向ボールねじ部13の螺旋溝13aとX方向ボールナット14の螺旋溝14bとの間に多数のボールベアリング15が配されている。
【0030】
これらのX方向ボールベアリング15は、X方向ボールねじ部13とX方向ボールナット14とが相対変位すると、X方向ボールベアリング15がX方向ボールねじ部13の螺旋溝13aとX方向ボールナット14の螺旋溝14bとの間を転動するように構成されている。
なお、X方向ボールナット14には、X方向ボールベアリング15を循環させる転動体循環路14cが形成されていて、X方向ボールベアリング15は、転動体循環路14cを転動して循環するように構成されている。
【0031】
また、図2に示すように、X方向ボールナット14は、X方向スライダ12と一体化されていて、X方向スライダ12とともにX方向ガイドレール11に沿って移動可能に構成されている。
このため、X方向スライダ12がX方向ガイドレール11に沿って移動すると、X方向ボールねじ部13とX方向ボールナット14とは、X方向ガイドレールの延在方向、即ちX方向ボールねじ部13の軸方向へ相対変位する。このとき、X方向ボールナット14は、X方向スライダ12によってX方向ボールねじ部13の軸方向以外の変位が拘束されているため、X方向ボールねじ部13は周方向へ回転する。
これらのX方向ボールねじ部13、X方向ボールナット14およびX方向ボールベアリング15は、X方向ボールねじ19を構成している。
【0032】
次に、図1(a)、(b)に示すように、Y方向回転慣性質量ダンパー20は、下部構造体3の上端部3aに取り付け架台6を介して固定されている。
そして、図4に示すように、Y方向回転慣性質量ダンパー20は、取り付け架台6に固定されてY方向へ延在するY方向ガイドレール21と、該Y方向ガイドレール21に沿ってY方向へ移動可能なY方向スライダ22と、Y方向に延在するY方向ボールねじ部23と、該Y方向ボールねじ部23が挿通可能な貫通孔24aが形成されるとともにY方向スライダ22と一体化されたY方向ボールナット24と、Y方向ボールねじ部22とY方向ボールナット23との間に配されたY方向ボールベアリング(不図示)と、Y方向ガイドレール21に固定されY方向ボールねじ部23を支持するY方向軸受26と、Y方向ボールねじ部23の一方の端部23aに固定されて該Y方向ボールねじ部23とともに回転可能なY方向回転錘27と、を備えている。
【0033】
Y方向回転慣性質量ダンパー20は、下部構造体3の上端部3aに取り付け架台6を介してY方向ガイドレール21が下側となるように固定されて、Y方向ガイドレール21およびY方向ボールねじ部23がY方向へ延在している点以外は、X方向回転慣性質量ダンパー10と同様に構成されている。
よって、Y方向回転慣性質量ダンパー20に備えられた各部材については、設置されている向き以外はX方向回転慣性質量ダンパー10と同様に構成されている。つまり、Y方向ガイドレール21はX方向ガイドレール11と同様に構成され、Y方向スライダ22はX方向スライダ12と同様に構成され、Y方向ボールねじ部23はX方向ボールねじ部13と同様に構成され、Y方向ボールナット24はX方向ボールナット14と同様に構成され、Y方向ボールベアリングはX方向ボールベアリング15と同様に構成され、Y方向回転錘27はX方向回転錘17と同様に構成されている。
そして、Y方向ボールねじ部23、Y方向ボールナット24およびY方向ボールベアリング(不図示)は、Y方向ボールねじ29を構成している。
また、Y方向ガイドレール21には、Y方向ガイドレール溝部21cが形成され、このY方向ガイドレール溝部21cには、Y方向ガイド用ボールベアリング28が転動するように構成されている。
【0034】
また、X方向回転慣性質量ダンパー10およびY方向回転慣性質量ダンパー20は、同等の慣性質量効果を備えており、本実施形態では、一般的な慣性質量のボールねじを使用した慣性質量ダンパーと同様に下記の諸元を設定した。
【0035】
【数4】

【0036】
ここで、図1に示すように、X方向回転慣性質量ダンパー10のX方向スライダ12と、Y方向回転慣性質量ダンパー20のY方向スライダ22とは、互いに上下方向に相対変位可能に保持するとともに、水平面内には相対回転可能にピン接合する接合部材30を介して、互いに水平2方向の相対変位を拘束するように接合されている。
図1および図5に示すように、接合部材30は、上端面31aがX方向スライダ12の下面12a(図1参照)に取り付けられて厚さ方向へ延び下方へ開口するダボ穴31bが形成された第1板材31と、下端面32aがY方向スライダ22の上端面22a(図1参照)に取り付けられて厚さ方向へ延び上方へ開口するダボ穴32bが形成された第2板材32と、上端部33a(図5参照)が第1板材31のダボ穴31bに挿入されて下端部33b(図5参照)が第2板材32のダボ穴32bに挿入されるダボピン33と、を備えている。
【0037】
ダボ穴31b,32bは、断面形状が円形状となるように形成され、ダボピン33は、円柱状に形成されている。ダボピン33は、断面形状がダボ穴31b,32bの断面形状よりもわずかに小径となるように形成されている。
これにより、第1板材31と第2板材32とは、ダボピン33の軸(Z軸)を中心にそれぞれ回転可能であるとともに、上下方向(Z軸)に相対変位可能に構成されている。なお、ダボピン33を第1板材31または第2板材32と一体化させる等、接合部材30は上記以外の構成としてもよい。
ここで、接合部材30によって接合されたX方向スライダ12およびY方向スライダ22をスライダ部35(図1参照)として以下説明する。
【0038】
まず、上部構造体2に地震などにより振動が生じた場合の免震用回転慣性質量ダンパー1Aの動作について説明する。
上部構造体2に生じた振動をX方向の振動とY方向の振動に分解すると、X方向の振動をX方向回転慣性質量ダンパー10が低減させ、Y方向の振動をY方向回転慣性質量ダンパー20が低減させている。
そして、上部構造体2が変位することによって、スライダ部35は、X方向ガイドレール11とX方向へ相対変位するとともに、Y方向ガイドレール21とY方向へ相対変位する。
【0039】
このとき、スライダ部35とX方向ガイドレール11とがX方向へ相対変位することにより、X方向ボールねじ部13とX方向ボールナット14とがX方向(X方向ボールねじ部13の軸方向)へ相対変位するため、X方向ボールねじ19が作用する。
そして、X方向ボールねじ部13が周方向に回転して、X方向回転錘17がX方向ボールねじ部13とともに回転し、X方向回転錘17の回転慣性モーメントが生じるため、免震構造物4へ慣性質量効果が生じ、上部構造体2の振動が低減する。
【0040】
また、スライダ部35とY方向ガイドレール21とがY方向へ相対変位することにより、Y方向ボールねじ部23とY方向ボールナット24とY方向(Y方向ボールねじ部23の軸方向)へ相対変位するため、Y方向ボールねじ29が作用する。
そして、Y方向ボールねじ部23が周方向に回転して、Y方向回転錘27がY方向ボールねじ部23とともに回転し、Y方向回転錘27の回転慣性モーメントが生じるため、免震構造物4へ慣性質量効果が生じ、上部構造体2の振動が低減する。
【0041】
次に、上述した免震用回転慣性質量ダンパー1Aの効果について説明する。
本実施形態による免震用回転慣性質量ダンパー1Aによれば、X方向ボールねじ部13およびY方向ボールねじ部23は、それぞれガイドレール部11,21の両端部に設けられた軸受16,26に保持されているとともに、スライダ部35は、各ガイドレール溝部11c,21cおよび各ガイドレールベアリング18,28により各ガイドレール11,21に沿って移動するように構成されている。これにより、各ガイドレール11,21の延在方向以外の力やモーメントが作用した場合にも十分な抵抗力が確保され、各ボールねじ部13,23の軸方向(ガイドレール11,21の延在方向)と、各ボールナット14,24の変位方向(スライダ12,22の変位方向)とのずれが防止されるため、各ボールねじ19,29が効率よく機能するとともに、各ボールねじ部13,23や各ボールナット14,24に変形が生じることを防ぐことができる。
【0042】
また、X方向スライダ12とY方向スライダ22とが上下方向へ相対変位可能であることにより、上部構造体2と下部構造体3とが上下方向に相対変位した場合にも、この相対変位に追従して、X方向スライダ12とY方向スライダ22とが上下方向へ相対変位するだけで、各ボールねじ部13,23と各ボールナット14,24とが上下方向に相対変位することがないため、各ボールねじ部13,23や各ボールナット14,24に変形が生じることを防ぐことができる。
また、このとき、各ガイドレール11,21と各スライダ12,22とが上下方向へ相対変位することがないため、各スライダ12,22が各ガイドレール11,21から外れることを防ぐことができる。
【0043】
また、X方向スライダ12とY方向スライダ22とが接合部材30を用いて水平面内において互いに回転可能にピン接合されていることにより、上部構造体2と下部構造体3との間にZ軸(鉛直方向)周りのねじれが生じた場合に、このねじれによってスライダ部35に力が作用することを防ぐことができる。このため、各ボールねじ部13,23と各ボールナット14,24との間にZ軸周りのねじれが生じることがなく、各ボールねじ部13,23や各ボールナット14,24に変形が生じることを防ぐことができる。
また、上部構造体2にはX方向回転慣性質量ダンパー10を設置し、下部構造体3にはY方向回転慣性質量ダンパー20を設置すればよいため、従来の制振ダンパーと比べて平面的設置スペースを少なくすることができる。
【0044】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
図6に示すように、第2実施形態による免震用回転慣性質量ダンパー1Bは、Y方向へ所定の間隔をあけて上部構造体2に取り付けられた2つのX方向回転慣性質量ダンパー10,10と、X方向へ所定の間隔をあけて下部構造体3に取り付けられた2つのY方向回転慣性質量ダンパー20,20と、を備えている。
【0045】
X方向回転慣性質量ダンパー10は、それぞれ2つのX方向スライダ12,12を備えている。また、Y方向回転慣性質量ダンパー20は、それぞれ2つのY方向スライダ22,22を備えている。
そして、X方向回転慣性質量ダンパー10のX方向スライダ12,12は、2つのY方向回転慣性質量ダンパー20のY方向スライダ22,22とそれぞれ接合部材30を介して接合されている。
これにより、第2実施形態による免震用回転慣性質量ダンパー1Bは、4つのスライダ部35を備えている。
【0046】
第2実施形態による免震用回転慣性質量ダンパー1Bによれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。また、第1実施形態による免震用回転慣性質量ダンパー1Aと比べて、回転錘17,27を多く設けることができるため慣性質量効果を向上させることができるとともに、免震層でのZ軸まわりのねじれを少なくすることができる。また、複数のスライダ部35を備えていることにより、各スライダ部35に作用する力を低減させることができる。
【0047】
以上、本発明による免震用回転慣性質量ダンパーの実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した実施形態では、免震用回転慣性質量ダンパー1A,1Bは、X方向の振動を低減させるX方向回転慣性質量ダンパー10と、Y方向の振動を低減させるY方向回転慣性質量ダンパー20と、を備え、X方向ガイドレール11とY方向ガイドレール21とが直交する方向に延在しているが、X方向ガイドレール11とY方向ガイドレール21とは交差していればよく、必ずしも直交していなくてもよい。
また、上述した実施形態では、各ボールねじ部13,23の一方の端部13a,23aに回転錘17,27が取り付けられているが、両方の端部に回転錘17,27を取り付けてもよい。
また、上述した第2実施形態では、2つのX方向回転慣性質量ダンパー10と、2つのY方向回転慣性質量ダンパー20とを備えているが、3つ以上のX方向回転慣性質量ダンパー10と、3つ以上のY方向回転慣性質量ダンパー20とを備えていてもよい。またX方向回転慣性質量ダンパー10とY方向回転慣性質量ダンパー20の台数は、異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1A,1B 免震用回転慣性質量ダンパー
2 上部構造体
3 下部構造体
4 免震構造物
10 X方向回転慣性質量ダンパー(第1回転慣性質量ダンパー)
11 X方向ガイドレール(第1ガイドレール)
11c X方向ガイドレール溝部(溝部)
12 X方向スライダ(第1スライダ)
12b X方向スライダ溝部(溝部)
13 X方向ボールねじ部(第1ボールねじ部)
14 X方向ボールナット(第1ボールナット)
15 X方向ボールベアリング(第1ボールベアリング)
16 X方向軸受(第1軸受)
17 X方向回転錘(第1回転錘)
19 X方向ボールねじ(第1ボールねじ)
20 Y方向回転慣性質量ダンパー(第2回転慣性質量ダンパー)
21 Y方向ガイドレール(第2ガイドレール)
22 Y方向スライダ(第2スライダ)
23 Y方向ボールねじ部(第2ボールねじ部)
24 Y方向ボールナット(第2ボールナット)
26 Y方向軸受(第2軸受)
27 Y方向回転錘(第2回転錘)
29 Y方向ボールねじ(第2ボールねじ)
30 接合部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置を介して上下に配された上部構造体と下部構造体との間に介装されて、
前記上部構造体と前記下部構造体との間に生じる水平面内における一の方向の相対振動を低減するための第1回転慣性質量ダンパーと、
前記上部構造体と前記下部構造体との間に生じる水平面内において前記一の方向と交差する他の方向の相対振動を低減するための第2回転慣性質量ダンパーと、を有する免震用回転慣性質量ダンパーであって、
前記第1回転慣性質量ダンパーは、
前記上部構造体の下部に固定されて前記一の方向へ延在する第1ガイドレールと、
該第1ガイドレールに沿って移動可能な第1スライダと、
前記第1ガイドレールの延在方向へ延びる第1ボールねじ部と、
該第1ボールねじ部が挿通可能な貫通孔が形成されるとともに前記第1スライダと一体化された第1ボールナットと、
前記第1ボールねじ部と前記第1ボールナットとの間に配された第1ボールベアリングと、
前記第1ガイドレールに固定され前記第1ボールねじ部を支持する第1軸受と、
前記第1ボールねじ部の少なくとも一方の先端部に固定された回転錘と、を備え、
前記第2回転慣性質量ダンパーは、
前記下部構造体の上部に固定されて前記他の方向へ延在する第2ガイドレールと、
該第2ガイドレールに沿って移動可能な第2スライダと、
前記第2ガイドレールの延在方向へ延びる第2ボールねじ部と、
該第2ボールねじ部が挿通可能な貫通孔が形成されるとともに前記第2スライダと一体化された第2ボールナットと、
前記第2ボールねじ部と前記第2ボールナットとの間に配された第2ボールベアリングと、
前記第2ガイドレールに固定され前記第2ボールねじ部を支持する第2軸受と
前記第2ボールねじ部の少なくとも一方の先端部に固定された回転錘と、を備え、
前記第1スライダと前記第2スライダとは鉛直方向に対向し、水平面内において互いに回転可能にピン接合されているとともに、上下方向に相対変位可能であることを特徴とする免震用回転慣性質量ダンパー。
【請求項2】
前記第1回転慣性質量ダンパーおよび第2回転慣性質量ダンパーをそれぞれ複数有し、
前記複数の第1回転慣性質量ダンパーは、それぞれ前記第1スライダを複数備えるとともに、前記複数の第2回転慣性質量ダンパーは、それぞれ前記第2スライダを複数備え、
前記複数の第1スライダと前記複数の第2スライダとは鉛直方向にそれぞれ対向し、水平面内において互いに回転可能にピン接合されているとともに、上下方向に相対変位可能であることを特徴とする請求項1に記載の免震用回転慣性質量ダンパー。
【請求項3】
前記第1ガイドレールおよび前記第1スライダには、互いに対向し前記第1ガイドレールの延在方向へ延びる溝部がそれぞれ形成されるとともに、前記第2ガイドレールおよび前記第2スライダには、互いに対向し前記第2ガイドレールの延在方向へ延びる溝部がそれぞれ形成され、
前記対向する溝部の間には、ボールベアリングが配されていることを特徴とする請求項1または2に記載の免震用回転慣性質量ダンパー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−127374(P2012−127374A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277237(P2010−277237)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(302066618)NSKプレシジョン株式会社 (5)
【Fターム(参考)】