説明

入出力モジュール通信制御装置

【課題】オペレータが通信応答時間の実測値から算出される基地局までの通信バスの延長距離情報を入手でき、延長距離設定情報についての設定ミスの有無を確認できる入出力モジュール通信制御装置を実現する。
【解決手段】制御バスを介してエンジニアリング・ステーションとフィールド・コントロール・ステーション(FCS)が接続され、FCSには冗長化されたCPUに通信バスを介して複数の入出力モジュールで構成された複数の基地局が接続された分散型制御システムにおいて、CPUには、基地局を構成する入出力モジュールとの通信の応答時間を測定する応答時間測定部と、この応答時間測定部の応答時間測定値を格納する応答時間測定値格納部と、自身が制御側として動作するのか待機側として動作するのかの設定するとともに互いのデータを等しくするための等値化部を設け、応答時間測定値に基づき基地局を接続する通信バスの距離情報を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入出力モジュール通信制御装置に関し、詳しくは、分散型制御システム(DCS)を構成する入出力モジュールとこれら入出力モジュールを制御する制御装置との間で行われる通信の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2は、従来の分散制御システムにおける主要部分の一例を示すブロック図である。図2において、エンジニアリング・ステーション(以下ENGという)10は制御バス20を介してフィールド・コントロール・ステーション(以下FCSという)30と接続されている。
【0003】
ENG10には、延長距離設定情報格納部11が設けられている。
【0004】
FCS30には、同一構成の制御側CPU31と待機側CPU32が設けられていて、二重化されている。たとえば制御側CPU31に注目すると、延長距離設定情報格納部31aと入出力通信機能部31bが設けられていて、入出力通信機能部31bには通信成否判断部31cが設けられている。さらに、これら制御側CPU31および待機側CPU32には、自身が制御側として動作するのか待機側として動作するのかの動作モードを設定するとともに互いのデータを等しくするための等値化部(たとえば31d)がそれぞれ設けられている。
【0005】
入出力通信機能部31bには、αとβの2系統で冗長化された通信バス40を介して、複数の入出力モジュール(以下IOMという)で構成された複数の基地局(以下NODEという)が接続されている。
【0006】
NODE1およびNODE2は、それぞれバスカプラ(以下BCという)を介して通信バス40に接続されている。
【0007】
入出力通信機能部31bは、あらかじめ定義されたスキャン周期で各NODEを構成するIOMと通信を行い、IOM入力としてプロセスデータ(以下PVという)を取得するとともに、取得したPVを用いて制御演算を行った結果を基にIOMに対して目標値(以下SVという)を設定するIOM出力処理を行うことにより、一連の制御処理を行う。
【0008】
ここで、IOM入力とIOM出力を総称してIOM通信という。IOM通信を実行する入出力通信機能部31bには、各NODE個別に設定される所定の応答待ち時間に基づき当該通信の成否を判断する通信成否判断部31cが設けられていて、通信成否判断部31cにはIOMからの応答待ち時間を測定するための図示しないタイマが設けられている。通信成否判断部31cは、このタイマの測定値が各NODE個別に設定される所定の応答待ち時間を越えた場合にはIOM通信を阻害する異常が発生したと判断し、当該通信を打ち切る。
【0009】
ところで、IOM通信に使用する通信バス40は、中継機器(以下RPという)を介してたとえば光ケーブルを接続することにより、最長50Kmまで延長することができる。
【0010】
NODE2とNODEnは、それぞれRPを介して延長された通信バス40として機能する光ケーブル50の両端に接続されている。
【0011】
ところが、通信バス40には延長距離に応じた通信遅延が発生することから、通信成否判断部31cで当該通信の成否を判断するための各NODE個別に設定される所定の応答待ち時間としては、あらかじめ通信バス40の通信遅延を考慮した値に設定する必要がある。
【0012】
そこで、図2に示す従来の構成では、各NODEの通信バス40の延長距離情報を、エンジニアが制御バス20上に接続されているENG10を操作して延長距離設定情報格納部11に手動で設定格納することが行われている。
【0013】
エンジニアがENG10を操作して延長距離設定情報格納部11に手動で設定格納した通信バス40の延長距離情報は、制御バス20を介してFCS30の延長距離設定情報格納部31aにダウンロードされ、入出力通信機能部31bが参照可能なデータとして保存される。
【0014】
これにより、通信成否判断部31cは、延長距離設定情報格納部31aにダウンロードされ格納されている延長距離に基づいて算出され各NODE個別に設定される所定の応答待ち時間を用いてIOM通信の成否判断を行い、通信バス40の延長の妥当性確認を実現している。
【0015】
特許文献1には、入出力バスの転送能力を抑えることなく延長距離を増加させることができる入出力バス延長制御方式に関する技術が記載されている。
【0016】
特許文献2には、伝送遅延時間を短縮して入出力インタフェース線の長さを延長する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭58−139232号公報
【特許文献2】特開平2−181850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、図2に示す従来の構成によれば、延長距離情報をエンジニアが手動で設定入力していることから、設定忘れや実際の距離と異なる情報を入力してしまうなどのエンジニアリングミスによって、延長距離設定情報格納部11には正確な情報が設定入力されないおそれがある。
【0019】
このシステムの運転管理作業を行うオペレータは、制御バス20上に接続されている図示しない運転管理用端末装置の表示画面に表示される検出結果に基づいてIOMや通信バス40が正常か異常かを知り得るのみであり、たとえばIOMや通信バス40の異常が検出された場合に、その原因がエンジニアにより手動で延長距離設定情報格納部11に設定入力された延長距離情報のエンジニアリングミスによるものか否かを見極めることはできない。
【0020】
本発明は、このような課題を解決するものであり、その目的は、システムのオペレータが通信応答時間の実測値に基づいて算出される各基地局までの通信バスの延長距離情報を入手でき、延長距離設定情報についてのエンジニアリングミスの有無を的確に確認識別できる入出力モジュール通信制御装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
このような課題を解決するために、請求項1の発明は、
制御バスを介してエンジニアリング・ステーションとフィールド・コントロール・ステーションが接続され、前記フィールド・コントロール・ステーションには冗長化されたCPUに冗長化された通信バスを介して複数の入出力モジュールで構成された複数の基地局が接続された分散型制御システムにおいて、
前記CPUには、前記各基地局を構成する入出力モジュールとの通信の応答時間を測定する応答時間測定部と、この応答時間測定部の応答時間測定値を格納する応答時間測定値格納部と、自身が制御側として動作するのか待機側として動作するのかの動作モードを設定するとともに互いのデータを等しくするための等値化部を設け、
これら応答時間測定値に基づき前記各基地局を接続する前記通信バスの距離情報を算出することを特徴とする入出力モジュール通信制御装置である。
【0022】
請求項2の発明は、請求項1に記載の入出力モジュール通信制御装置において、
前記CPUには、さらに、前記エンジニアリング・ステーションにより設定される前記各基地局までの前記通信バスの延長距離情報を格納する延長距離設定情報格納部と、この延長距離設定情報格納部に格納される前記各基地局までの通信バスの延長距離情報に基づいて各基地局別に算出される応答待ち時間を用いて入出力モジュール通信の成否を判断する通信成否判断部を設けたことを特徴とする。
【0023】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の入出力モジュール通信制御装置において、
前記通信バスは、光ケーブルで延長されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
これらの構成により、システムのオペレータは通信応答時間の実測値に基づいて算出される各基地局までの通信バスの延長距離情報を入手でき、入手した各基地局までの通信バスの延長距離情報を用いることにより、延長距離設定情報についてのエンジニアリングミスの有無を的確に確認識別できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】従来の分散制御システムにおける主要部分の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示すブロック図であり、図2と共通する部分には同一の符号を付けている。図1と図2の構成の相違点は、図1では図2の入出力通信機能部31bには応答時間測定部31eが追加して設けられていることと、延長距離設定情報格納部31aの他に応答時間測定値格納部31fが設けられていることである。
【0027】
図1の構成において、入出力通信機能部31bは、図2で説明したような制御を目的としたIOM通信を行うとともに、応答時間測定部31eにより、通信バス40の距離延長に伴う遅延時間の測定を目的とした延長距離診断通信を行う。
【0028】
応答時間測定部31eによる延長距離診断通信は、前述のIOM通信を阻害しない程度の十分長い周期で実行され、各NODE単位に、延長が許容される最大距離を想定した十分長い待ち時間でIOMとの通信を実行する。このとき、入出力通信機能部31bの応答時間測定部31eはIOMからの応答時間を測定していて、測定された応答時間に基づき光ケーブル50により延長された通信バス40の延長距離を算出する。
【0029】
なお、通信バス40は前述のようにαとβの2系統で冗長化されているので、αまたはβのどちらか一方の系統で通信を実行すればよい。
【0030】
入出力通信機能部31bの応答時間測定部31eが算出した延長距離の測定値は、FCS内部に設けられている応答時間測定値格納部31fに逐次格納保存されるとともに、制御バス20上に接続されている図示しない運転管理用端末装置の表示画面を介してシステムのオペレータに通知される。
【0031】
システムのオペレータは、端末装置の表示画面を介して通知される入出力通信機能部31bの応答時間測定部31eが算出した延長距離の測定値に基づく各NODE別通信バス40の延長距離と、ENG10を介してエンジニアリングされている各NODE通信バス40の延長距離とを比較照合することにより、ENG10を介して行われた各NODE通信バス40の延長距離情報設定についてのエンジニアリングミスの有無を確認できる。
【0032】
なお、上記実施例では、図2に示した従来の構成に応答時間測定部と応答時間測定値格納部を追加して設ける例を示したが、新規にFCS30を構成する場合には、構成を簡略にするために、ENG10の延長距離設定情報格納部11とFCS30の延長距離設定情報格納部31aを除去してもよい。
【0033】
また、CPUが制御側と待機側として冗長化されている例について説明したが、CPUはマスタとスレーブとして冗長化されるものであってもよい。
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、システムのオペレータは通信応答時間の実測値に基づいて算出される各基地局までの通信バスの延長距離情報を入手でき、延長距離設定情報についてのエンジニアリングミスの有無を的確に確認識別できる。
【符号の説明】
【0035】
10 エンジニアリング・ステーション(ENG)
11 延長距離設定情報格納部
20 制御バス
30 フィールド・コントロール・ステーション(FCS)
31 制御側CPU
31a 延長距離設定情報格納部
31b 入出力通信機能部
31c 通信成否判断部
31d 等値化部
31e 応答時間測定部
31f 応答時間測定値格納部
32 待機側CPU
40 通信バス
50 光ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御バスを介してエンジニアリング・ステーションとフィールド・コントロール・ステーションが接続され、前記フィールド・コントロール・ステーションには冗長化されたCPUに冗長化された通信バスを介して複数の入出力モジュールで構成された複数の基地局が接続された分散型制御システムにおいて、
前記CPUには、前記各基地局を構成する入出力モジュールとの通信の応答時間を測定する応答時間測定部と、この応答時間測定部の応答時間測定値を格納する応答時間測定値格納部と、自身が制御側として動作するのか待機側として動作するのかの動作モードを設定するとともに互いのデータを等しくするための等値化部を設け、
これら応答時間測定値に基づき前記各基地局を接続する前記通信バスの距離情報を算出することを特徴とする入出力モジュール通信制御装置。
【請求項2】
前記CPUには、
前記エンジニアリング・ステーションにより設定される前記各基地局までの前記通信バスの延長距離情報を格納する延長距離設定情報格納部と、この延長距離設定情報格納部に格納される前記各基地局までの通信バスの延長距離情報に基づいて各基地局別に算出される応答待ち時間を用いて入出力モジュール通信の成否を判断する通信成否判断部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の入出力モジュール通信制御装置。
【請求項3】
前記通信バスは、光ケーブルで延長されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の入出力モジュール通信制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−5086(P2013−5086A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132176(P2011−132176)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】