説明

全反射蛍光X線分析装置およびその装置に用いるプログラム

【課題】X線管の位置調整を、簡単かつ容易に短時間ですることができる全反射蛍光X線分析装置およびその装置に用いるプログラムを提供する。
【解決手段】全反射蛍光X線分析装置1は、X線管11から出射され分光素子13、14で単色化された1次X線15、16を、所定圧のパージガス雰囲気において試料台22に載置された試料Sに入射させ、発生する蛍光X線20の強度を測定する検出器19を有し、試料台22を検出器19の入射面直近から退避させる退避手段23と、X線管11の位置を調整するX線管位置調整手段21と、X線管11、検出器19、退避手段23およびX線管位置調整手段21を制御する制御手段30とを備え、制御手段30が、1次X線15、16がパージガスGで散乱された散乱X線17、18の強度を検出器19に測定させながら、X線管位置調整手段21に測定強度が最大になる位置にX線管11を調整させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線管の自動位置調整を備えた全反射蛍光X線分析装置およびその装置に用いるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスの品質管理分析や環境分析において、全反射蛍光X線分析装置が用いられているが(特許文献1〜3)、全反射蛍光X線分析装置に装着されているX線管を使用していると、フィラメントやターゲットが消耗する。そのため、回転対陰極型X線管の場合には、フィラメントやターゲットを交換し、封入型X線管の場合には、X線管全体を交換している。フィラメント、ターゲット、X線管などを交換すると、X線管から放射されるX線光路が極微小ずれる場合がある。このX線光路の極微小のずれが全反射蛍光X線分析装置の分析感度や精度に大きな影響を与えるので、フィラメント、ターゲット、X線管を交換する毎にX線管の位置調整をする必要がある。
【0003】
そのため、従来は、試料台上に試料であるウエハーを載置し、X線管の位置を変えながらX線管からの1次X線をウエハーに照射してウエハーから発生する蛍光X線の強度を検出し、蛍光X線の強度が最大になるようにX線管の位置を操作者が手動で調整していた。
【特許文献1】特開2006−085927号公報
【特許文献2】特開2006−194632号公報
【特許文献3】特開2006−214868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の調整方法では、試料台上にウエハーを載置し、ウエハーの分析時と同じ分析条件にしてウエハーから発生する蛍光X線の強度が最大になるようにX線管の位置を操作者が手動で調整しているので、手間がかかり、長時間を要する。
【0005】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、フィラメント、ターゲット、X線管などの交換後のX線管の位置調整を、容易に短時間ですることができる全反射蛍光X線分析装置およびその装置に用いるプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の第1構成は、まず、X線管から出射され分光素子で単色化された1次X線を、大気圧よりも低い所定圧のパージガス雰囲気において検出器の入射面直近の試料台に載置された試料の表面に微小な入射角度で入射させ、発生する蛍光X線の強度を前記検出器で測定する全反射蛍光X線分析装置である。そして、前記試料台を前記検出器の入射面直近から退避させる退避手段と、前記X線管の前記分光素子に対する位置を調整するX線管位置調整手段と、前記X線管、検出器、退避手段およびX線管位置調整手段を制御する制御手段とを備える。さらに、その制御手段が、前記退避手段に前記試料台を前記検出器の入射面直近から退避させ、前記1次X線が前記パージガスで散乱された散乱X線の強度を前記検出器に測定させながら、その測定強度が最大になるように前記X線管位置調整手段に前記X線管の位置を調整させる。
【0007】
ここで、大気圧よりも低い所定圧パージガス雰囲気とは、全反射蛍光X線分析装置が試料を分析する時に設定される圧力のパージガス雰囲気である。
【0008】
第1構成の全反射蛍光X線分析装置によれば、大気圧よりも低い所定圧のパージガスにX線管からの1次X線を照射して、パージガスで散乱される散乱X線の強度が最大になる位置にX線管を自動調整するので、試料台上にウエハーを載置し、実際のウエハーの分析時と同じ分析条件にする必要がなく、またウエハーから発生する蛍光X線の強度が最大になるようにX線管の位置を操作者が手動で調整する必要がなく、X線管のフィラメント、ターゲット、X線管などの交換後のX線管の位置調整を容易に短時間ですることができる。
【0009】
本発明の全反射蛍光X線分析装置は、前記散乱X線の強度が測定される際のパージガスの圧力が、前記所定圧以上で大気圧の1/10以下に設定されることが好ましい。分析時、全反射蛍光X線分析装置の分析室は大気圧よりも低い所定圧のパージガス雰囲気にされているので、大気圧の状態になると、分析室や分析室内に配置されている光学素子、検出器などに極微小の歪が生じ、X線管から検出器までのX線光路が極微小のずれを生じる。大気圧の状態でパージガスによる散乱X線の強度が最大になるX線管の位置に調整しても、分析室を所定圧のパージガス雰囲気にすると、X線光路がずれる。パージガスが、分析室、光学素子、検出器などに歪が生じない所定圧以上で大気圧の1/10以下に設定されていると、X線管から検出器までのX線光路がずれないので、分析時に最適なX線管の位置に正確に自動調整することができる。
【0010】
本発明の第2構成は、本発明の全反射蛍光X線分析装置が備えるコンピュータを前記制御手段として機能させるためのプログラムであって、前記退避手段に前記試料台を前記検出器の入射面直近から退避させる手順と、前記1次X線が前記パージガスで散乱された散乱X線の強度を前記検出器に測定させながら、その測定強度が最大になるように前記X線管位置調整手段に前記X線管の位置を調整させる手順とをコンピュータに実行させる。
【0011】
本発明の第2構成のプログラムによっても、前記第1構成の装置と同様の作用効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態である全反射蛍光X線分析装置について説明する。図1に示すように、本発明の全反射蛍光X線分析装置1は、X線管、例えばタングステンX線管11と、タングステンX線管11からのX線12を分光手段8の第1累積多層膜13でW−Lβ線15に単色化した1次X線15を試料Sに照射する第1照射手段6と、タングステンX線管11からのX線12を分光手段8の第2累積多層膜14でW−Mα線16に単色化した1次X線16を試料Sに照射する第2照射手段7とを備える。そして、大気圧よりも低い所定圧のパージガスである、例えば窒素ガスG雰囲気の分析室2内に配置され試料Sを載置する試料台22と、試料台22に載置された試料Sに前記第1または第2照射手段7、8から照射される1次X線15、16を微小な照射角度、例えば0.05°で照射して試料Sから発生する蛍光X線20を検出する検出器19とを備える。
【0013】
さらに、検出器19の入射面直近の試料台22を入射面直近(図1において二点鎖線で示す位置)から退避させる退避手段23と、分光手段8の分光素子である第1累積多層膜13または第2累積多層膜14に対する位置を調整するX線管位置調整手段21と、分析室2内の窒素ガスGを前記所定圧に調整する圧力調整手段24と、X線管11、検出器19、退避手段23、X線管位置調整手段21、分光手段8および圧力調整手段24を制御する制御手段30とを備える。
【0014】
制御手段30は、退避手段23に試料台22を検出器19の入射面直近から退避させ、1次X線15、16が窒素ガスGで散乱された散乱X線17、18の強度を検出器19に測定させながら、その測定強度が最大になるようにX線管位置調整手段21にX線管11の位置を調整させる手段であり、コンピュータとプログラムで構成されている。退避手段23は、分析時に試料Sを載置した試料台22の位置を調整する試料位置調整手段が、その機能を備えていてもよいし、別途、備えていてもよい。
【0015】
分光手段8は、分光素子である第1、第2累積多層膜13、14を有し、第1照射手段6では第1累積多層膜13を、第2照射手段7では第2累積多層膜14を使用できるように、例えば図1の紙面に垂直な方向にスライドする切り替え機構(図示なし)を有し、切り替え機構は制御手段30によって制御されている。第1累積多層膜13はW−Lβ線15の単色化に適したd値(格子面の間隔)で構成され、第2累積多層膜14はW−Mα線16の単色化に適したd値で構成されている。なお、第1、第2累積多層膜13、14は、X線管位置調整手段21によるX線管11の位置調整時には、所定に位置に固定されており、X線管11のみが移動する。
【0016】
全反射蛍光X線分析装置1では、ウエハーなどの試料Sへの帯電防止やパーティクルの付着防止、分析室2内の圧力調整用ガスとしてパージガスGが用いられている。半導体製造工場ではパージガスGとしてクリーンな窒素ガスGが用いられている。窒素ガスGからの散乱X線17、18を検出する検出器19は、例えばSSDなどの半導体検出器である。
【0017】
X線管位置調整手段21は、X線管11の第1、第2累積多層膜13、14に対する位置を調整する。例えば、図1の紙面に沿って、選択されている第1累積多層膜13または第2累積多層膜14に対し進退して、X線管11の位置を調整する。本実施形態では、X線管11を全反射蛍光X線分析装置1の高さ方向、つまり上下方向に直線移動させる、例えば、図示していないが、ねじ送り移動機構、ならびに移動機構を駆動制御するパルスモータおよびパルスモータ制御回路を有する駆動制御部を有し、X線管11を上下に移動させる。
【0018】
圧力調整手段24は、例えば、図示していないが、窒素ガスGを分析室2に導入するガス導入開閉弁、分析室2内の圧力を測定する圧力測定器、分析室2内を排気する真空排気ポンプおよび圧力制御部を有し、圧力制御部が、圧力測定器が測定する圧力値をガス導入部と真空排気ポンプにフィードバックし、ガス導入開閉弁の開閉と真空排気ポンプの駆動を制御して分析室2内の圧力を調整する。全反射蛍光X線分析装置1が試料Sを分析する時に、圧力調整手段24によって設定される所定圧は、5〜100pa(パスカル)の範囲で、例えば10paである。
【0019】
次に、実施形態の全反射蛍光X線分析装置1が備えるコンピュータを図1の制御手段30として機能させるためのプログラムについて説明する。このプログラムは、退避手段23に試料台22を検出器19の入射面直近から退避させる手順と、1次X線15、16が窒素ガスGで散乱された散乱X線17、18の強度を検出器19に測定させながら、その測定強度が最大になるようにX線管位置調整手段21にX線管11の位置を調整させる手順とをコンピュータ3に実行させる。
【0020】
全反射蛍光X線分析装置1の動作について説明する。操作者が、例えばフィラメントを交換したタングステンX線管11を、フィラメントを交換する前に装着されていたタングステンX線管11の元の装着位置に装着する。次に、図示していない指示手段からX線管位置の自動調整を制御手段30に指示すると、全反射蛍光X線分析装置1はX線管位置の自動調整を開始する。まず、試料Sを載置する試料台22を検出器19の入射面直近(図1において二点鎖線で示す位置)から退避させる。図1において実線で示すように、例えば検出器19の視野外の位置に移動させる。試料台22が検出器19の視野外に移動すると、検出器19の視野内には空間Kが形成される。よって、第1照射手段6または第2照射手段7からの1次X線15、16は試料Sや試料台22に照射されることはなく、空間Kに存在する窒素ガスGに照射され、窒素ガスGによって散乱された散乱X線17、18を発生させる。
【0021】
空間Kが形成されると、圧力調整手段24のガス導入開閉弁が開放され窒素ガスGが分析室2に導入されるとともに、真空ポンプが駆動して、分析室2内を排気する。圧力制御部は、圧力測定器が測定する圧力値をガス導入部と真空排気ポンプにフィードバックし、ガス導入開閉弁の開閉と真空排気ポンプの駆動を制御して分析室2内の圧力を分析時に設定される所定圧以上で大気圧の1/10のまでの圧力値、例えば1000paに調整する。前記したように、分析時に設定される所定圧は10paである。
【0022】
分析時、全反射蛍光X線分析装置1の分析室2は真空排気されているので、大気圧の状態になると、分析室2や分析室2内に配置されている第1、第2累積多層膜13、14などに極微小の歪が生じ、X線管11から検出器19までのX線光路が極微小のずれを生じる。大気圧の状態で、パージガスである窒素ガスGによる散乱X線17、18の強度が最大になるX線管11の位置に調整しても、分析室2を真空排気するとX線光路は最適光路からずれる。窒素ガスGが、分析時に分析室2が設定される圧力値以上で大気圧の1/10以下、例えば1000paに設定されていると、分析室2や分析室2内に配置されている第1累積多層膜13、14などに歪が生じず、X線管11から検出器19までのX線光路がずれないので、分析時に最適なX線管11の位置に正確に自動調整することができる。
【0023】
分析室2内の窒素ガスGの圧力が1000paに調整されると、第1照射手段6によってW−Lβ線15が窒素ガスGに照射され、検出器19によって散乱X線17を検出しながら、X線管位置調整手段21によってX線管11が元の装着位置P(図2)を中心にして、例えば±0.5mm上下に移動され、図2に示すような散乱X線強度曲線が得られ、散乱X線17の強度が最大になる位置M1にX線管11が自動調整される。
【0024】
次に、図1の第2照射手段7に切替えられ、W−Mα線16が窒素ガスGに照射され、検出器19によって散乱X線18を検出しながら、X線管位置調整手段21によってX線管11が位置M1(図3)を中心にして、例えば±0.3mm上下に移動され、図3に示すような散乱X線強度曲線が得られ、散乱X線18の強度が最大になる位置M2にX線管11が自動調整される。このとき、第1照射手段6と第2照射手段7で自動調整したX線管11の位置M1とM2の距離tが、所定の距離、例えば0.03mm未満であれば、X線管11の位置の自動調整は終了する。
【0025】
しかし、第1照射手段6と第2照射手段7で調整したX線管11のそれぞれの位置M1、M2の距離tが、所定の距離、例えば0.03mm以上の場合には、全反射蛍光X線分析装置1のX線光路にずれが生じていることを知らせる警告信号を発生させ、制御手段の表示部31に表示させる。別途、X線光路の調整を行い、全反射蛍光X線分析装置1を正常な状態にする。
【0026】
このように、第1照射手段6と第2照射手段7を有していると、X線管11を最適な位置に調整することができると共に、X線光路のずれを知ることができ、X線光路の調整を行うことにより全反射蛍光X線分析装置を正常な状態にすることができる。
【0027】
なお、本実施形態の全反射蛍光X線分析装置1では、第1照射手段6と第2照射手段7の2つの照射手段を有しているが、第1照射手段6のみを有し、制御手段30が、第1照射手段6にW−Lβ線15を窒素ガスGに照射させ、検出器19に散乱X線17を検出させながら、X線管位置調整手段21にX線管11が元の装着位置Pを中心にして、例えば±0.5mm上下に移動させ、散乱X線17の強度が最大になる位置M1にX線管11を自動調整させてもよい。また、パージガスGに照射する1次X線として、W−Lβ線15やW−Mα線16を用いたが、使用するX線管に応じて他の特性X線を用いてもよい。
【0028】
パージガスGは、空気、アルゴンガスなどのガスであってもよく、清浄なガスが望ましい。
【0029】
パージガスGに照射されるX線の吸収や散乱の度合がパージガスGの種類によって異なるので、使用するパージガスGに応じて、測定する散乱X線17、18の強度が有意に最大になる圧力値に調整するのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態である全反射蛍光X線分析装置の概略図である。
【図2】同装置の第1照射手段のX線管位置と散乱X線の強度との関係を示した散乱X線強度図である。
【図3】同装置の第2照射手段のX線管位置と散乱X線の強度との関係を示した散乱X線強度図である。
【符号の説明】
【0031】
1 全反射蛍光X線分析装置
11 X線管(タングステンX線管)
13、14 分光素子(累積多層膜)
15、16 単色化された1次X線(W−Lβ線、W−Mα線)
17、18 散乱X線
19 検出器
20 蛍光X線
21 X線管位置調整手段
22 試料台
23 退避手段
30 制御手段
G パージガス(窒素ガス)
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管から出射され分光素子で単色化された1次X線を、大気圧よりも低い所定圧のパージガス雰囲気において検出器の入射面直近の試料台に載置された試料の表面に微小な入射角度で入射させ、発生する蛍光X線の強度を前記検出器で測定する全反射蛍光X線分析装置であって、
前記試料台を前記検出器の入射面直近から退避させる退避手段と、
前記X線管の前記分光素子に対する位置を調整するX線管位置調整手段と、
前記X線管、検出器、退避手段およびX線管位置調整手段を制御する制御手段とを備え、
その制御手段が、前記退避手段に前記試料台を前記検出器の入射面直近から退避させ、前記1次X線が前記パージガスで散乱された散乱X線の強度を前記検出器に測定させながら、その測定強度が最大になるように前記X線管位置調整手段に前記X線管の位置を調整させる全反射蛍光X線分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記散乱X線の強度が測定される際のパージガスの圧力が、前記所定圧以上で大気圧の1/10以下に設定される全反射蛍光X線分析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の全反射蛍光X線分析装置が備えるコンピュータを前記制御手段として機能させるためのプログラムであって、
前記退避手段に前記試料台を前記検出器の入射面直近から退避させる手順と、前記1次X線が前記パージガスで散乱された散乱X線の強度を前記検出器に測定させながら、その測定強度が最大になるように前記X線管位置調整手段に前記X線管の位置を調整させる手順とをコンピュータに実行させるためのプログラム。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−97906(P2009−97906A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267671(P2007−267671)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】