説明

全固体リチウム二次電池およびその製造方法

【課題】全固体リチウム二次電池における負極活物質として、安価で且つ容易に利用できる電極活物質を用い、充放電出力特性に優れた全固体リチウム二次電池、および、該電池を効率よく製造可能な全固体リチウム二次電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】二次電池1は、負極4と電解質層5とを一体化してなる複合層45と、正極3とを、積層してなる積層体2を有する。電解質層5は、リチウムイオン伝導体で構成される固体電解質層51で構成されている。また、負極4は、網材で構成された負極集電体41と、この負極集電体41上に形成された負極活物質層42とで構成されている。ここで、本発明にかかる負極活物質層42は、Sn、BiおよびSbからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属材料で構成されている。さらに、正極3は、網材で構成された正極集電体31と、正極集電体31を覆うように加圧成形された電極材料32とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウム二次電池の負極に関するもので、特に、固体電解質として、硫化物系リチウムイオン伝導体を用いた全固体リチウム二次電池、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ・携帯電話等のポータブル機器の開発にともない、その電源として、小型軽量電池の需要は非常に大きくなっている。特に、リチウム電池は、リチウムの原子量が小さく、かつイオン化エネルギーが大きく、高エネルギー密度が期待される。このようなことから、研究が盛んに行われ、現在ではポータブル機器の電源として広範囲に用いられるようになった。
【0003】
一方、リチウム電池市場の拡大とともに、該電池に対して、高エネルギー密度化の要望が進み、この要望に対して電池内に含有させる活物質量を増加させることで電池内部エネルギーの増加が行われて来た。また、これに付随して電池内部に用いられている可燃性物質である電解質に使用されている有機溶媒量にも増加が認められるようになった。その結果、電池の発火などに対する危険性が高まり、電池の安全性に関する問題が近年クローズアップされている。
【0004】
ところで、リチウム電池の安全性を確保するための方法として、電解質に用いられている有機溶媒を不燃性の固体電解質に変えることは極めて有効であり、特に、リチウムイオン伝導性無機固体電解質を用いることは、優れた安全性を備えた全固体リチウム電池の開発に繋がるため、今日、その研究が盛んに進められている。
例えば、非特許文献1には、蒸着装置やスパッタ装置を用い、正極薄膜、電解質薄膜および負極薄膜を順次、形成することにより構成した全固体薄膜リチウム二次電池が開示されている。この薄膜リチウム二次電池では、数千サイクル以上の優れた充放電サイクル特性が得られることが報告されている。
【0005】
しかしながら、このような薄膜リチウム二次電池では、電池素子内に多量の電極活物質を保有させることができないことから、高容量の電池を得ることが困難である。したがって、高容量の電池とするには、電極内に電池活物質を多量に含有させる必要があり、そのイオン伝導経路と電子伝導経路を確保させた構成とする為、固体電解質粉末と電極活物質粉末とからなる電極合材を用い、これを用いて電極を構成することで電池容量の大なるバルク型電池を構成している。従って、全固体リチウム二次電池を実用的なものにするには、バルク型電池を構成する必要がある。
このバルク型電池は、一般に、プレス機械にて、型内に電池素子全体を圧縮成型し、型内から電池素子を取り出し、例えば、コイン型電池容器に収納することにより、製造されている。
【0006】
ところが、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質を用いたバルク型電池の全固体リチウム二次電池では、数サイクル程度の充放電を行うだけで、電池容量が初期容量の約7%程度低下することが示されている(例えば、非特許文献2参照)。
このようなことから、現状、充放電サイクルの経過によっても、電池容量の低下を防止することができ、優れた性能を有する全固体リチウム二次電池(バルク型全固体二次電池)の開発が要望されている。
【0007】
ところで、従来、電解質として液体有機電解質、高分子電解質を用いたリチウムイオン二次電池では、その負極活物質として炭素系材料や、金属リチウム合金等の非炭素系材料が用いられている。このうち、非炭素系材料としては、Li、Zn、Cd、Si、Pb、Al等が知られている。
しかしながら、電解質として固体電解質を使用した場合の電池に於いて、負極活物質として非炭素系材料、例えば、Si、PbおよびAlを用いると、そこでは充放電に伴ってリチウムとの間で合金形成反応を生じる。しかし、この反応が進む電位は金属リチウムの可逆析出電位に近い為、深い充電を行ったり、急速充電を行う為、大電流で充電すると、負極表面あるいは負極を構成する電解質、負極活物質からなる電極合材の粒子間(負極導電材が混入してなる合材もある)、あるいは負極、電解質層の接触界面へ金属リチウムが析出する。この反応が進行すると、電解質層を形成している電解質粒子間の粒界を介して金属リチウムの析出が進み、正負極の短絡を引き起こしたり、電極内部での電極活物質と電解質粒子間の界面接合が、特に電池が放電状態になった際に生じるという問題を有する。又、一般に、電池を充電すると、その時に使われる電気量は電極の反応に付随して、電極活物質の膨張を引き起こす、この場合、金属の可逆析出反応を利用すると、そこでは極めて大なる体積膨張が生じる。次に、この電池を放電させると、電極内部で最も電流の流れやすい部分から放電が起こる。充電によって生成したリチウム金属合金(膨張した電極活物質)は、電極内での通電が最も流れ易い電極集電体近くにあるものから放電に使われる。その結果、極部的に大きく体積膨張をした電極活物質の体積がその部位で縮小することになり、その部位での電子的な界面接合阻害が起こり、未放電状態の電極活物質が残存したまま、放電を終える事となる。次に、この電池を充電すると、充電に用いる事の出来る電極活物質が少なくなっているため、充電電気量が少なくなる。当然、この際にも、上述した現象がおこり、放電容量が最初に比べ、低下する。この結果、全固体リチウム二次電池の充放電サイクル特性において、その容量の低下が問題となっている。
【0008】
更に、固体電解質として硫化物系リチウムイオン伝導体を用いた全固体リチウム二次電池の負極活物質として非炭素系材料を用いると、電池の充放電に伴って金属リチウム合金形成反応が可逆的に進む可逆反応以外に負極活物質の表面には固体電解質中で遊離した硫黄と、これら負極活物質金属が化学的に反応し、金属硫化物を形成する。形成された金属硫化物の電子伝導性が低い場合、電池内の負極の導電性が妨げられ、結果として、内部抵抗の高い全固体リチウム二次電池となる。これにより、二次電池の出力が低下し、充放電特性が悪化するという問題がある。
【0009】
こうした事から、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池では、その負極活物質として電解質中の遊離硫黄の影響を受けにくい材料として、金属インジウムまたはカーボンが広く使われていた。しかし、これら材料で、カーボンを用いるには、金属リチウムが析出する可逆電位近傍で還元される物質、例えば、Si、Ge、Zn等を含むリチウムイオン伝導性固体電解質を用いる事が出来ない。又金属インジウムの負極活物質としての使用は、そのリチウム合金生成反応の可逆電位がリチウムイオンの可逆反応電位に比べ、約0.6V近辺にある為、これを負極活物質とした全固体リチウム二次電池を構成すると、カーボンを使った電池に比べ、充放電電圧の低い電池となり、電池出力の低いものとなる。又、この金属は材料的に高価であり、大量使用が予想される電池活物質としては不向きと云える。
【0010】
【非特許文献1】S.D.Jhones and J.R.Akridge, J.Power Sources,43−44,505(1993)
【非特許文献2】DENKI KAGAKU,66,No.9(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、全固体リチウム二次電池における負極活物質として、安価で且つ容易に利用できる電極活物質を用い、充放電出力特性に優れた全固体リチウム二次電池、および、該電池を効率よく製造可能な全固体リチウム二次電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の全固体リチウム二次電池は、正極と負極との間に硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質を介在させてなる全固体リチウム二次電池に於いて、負極となる電極がSn、BiおよびSbよりなる群から選択される少なくとも1種を含む金属活物質を含んでなることを特徴とする。
これにより、負極活物質が固体電解質中の遊離硫黄と反応して、その表面に形成される金属硫化物は、電子導電性を阻害する程のものでなく、電池内部抵抗を低くさせ、充放電特性および充放電サイクル特性に優れた二次電池が得られる。
【0013】
本発明の全固体リチウム二次電池では、前記金属活物質の前記負極中における含有率は、50重量%以上であることが好ましい。
これにより、負極活物質への電子的接合において、十分な導電性を有するものとなり、二次電池の内部抵抗を十分に低減することができる。
本発明の全固体リチウム二次電池では、前記負極は、前記金属活物質と金属リチウムからなる合金を含むことが好ましい。
これにより、充電状態にある二次電池を得ることができる。
【0014】
本発明の全固体リチウム二次電池では、前記負極は、少なくとも導電性材料で構成された負極集電体を有し、
前記金属活物質が、前記負極集電体表面上に設けられた金属活物質層を構成していることが好ましい。
これにより、負極における電流密度の分布が均一となる。その結果、二次電池が局所的に劣化するのを防止することができ、例えば、リチウムのデンドライトの発生を防止することができる。
【0015】
本発明の全固体リチウム二次電池では、前記金属活物質層の平均厚さは、0.01〜1mmであることが好ましい。
これにより、負極集電体の全面を確実に覆うように、負極活物質層を容易に成膜することができる。また、成膜された負極活物質層の厚さをより均一にすることができる。このため、負極活物質と固体電解質粒子との間のイオン伝導が、負極集電体の全体で均一に行われることとなり、負極における電流密度の分布も均一になる。これにより、電流密度の偏りを防止して、二次電池が局所的に劣化するのを防止することができ、例えば、リチウムのデンドライトの発生を防止することができる。
【0016】
本発明の全固体リチウム二次電池では、前記金属活物質層は、めっき法により前記負極集電体上に付着されてなることが好ましい。
これにより、負極活物質と固体電解質粒子との間の密着性の向上や接触面積の増大を図ることができるので、これらの間におけるイオンの授受を円滑に行うことができるようになる。これにより、二次電池内の内部抵抗の低減を図ることができ、二次電池の特性(充放電特性)をより高めることができる。
【0017】
本発明の全固体リチウム二次電池では、前記負極集電体が、前記固体電解質で構成された固体電解質粒子を充填する空間部を備えており、
前記固体電解質粒子の一部が前記空間部に充填されることにより、前記負極と前記固体電解質粒子とが一体化していることが好ましい。
これにより、負極集電体と負極活物質層との間の電子伝導性や、負極活物質層と固体電解質粒子との間のイオン伝導性を、より高めることができる。
【0018】
本発明の全固体リチウム二次電池では、前記負極集電体は、前記空間部を備える網材または凹凸を有する導電性板で構成されていることが好ましい。
これにより、負極活物質層と固体電解質粒子との間において、イオンの授受を行い得る面積がより大きくなるため、イオンの授受をより円滑に行うことができるようになる。その結果、負極の容量のさらなる増大を図ることができる。
本発明の全固体リチウム二次電池では、前記固体電解質粒子の一部が、前記負極を挟み込むように設けられていることが好ましい。
これにより、二次電池の特性の向上を図ることができる。
【0019】
本発明の全固体リチウム二次電池では、前記硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質は、硫化物系リチウムイオン伝導体単独で構成されている、または、硫化物系リチウムイオン伝導体を含むことが好ましい。
結晶質のリチウムイオン伝導体を用いることにより、例えば、チリシコンを利用することは、該材料が電極成型性に優れている為、電極内の界面接合が改善させる為、作成した電池からの出力電流を大きくすることができるという利点がある。また、電流の流れに異方性がない非晶質のリチウムイオン伝導体を用いることは、該材料が熱的安定性に優れている結果、電池保存性能に優れたものを与えると共に、これを用いた電極内では電流密度分布を少なくする利点がある。さらに、結晶質および非晶質のリチウムイオン伝導体を混合して用いることにより、これらを相乗させた効果が期待出来る。
本発明の全固体リチウム二次電池では、前記硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質は、結晶質および非晶質のうちの少なくとも一方を含むことが好ましい。
これにより、内部抵抗が低く、充放電特性および充放電サイクル特性に優れた二次電池を効率よく製造することができる。
【0020】
本発明の全固体リチウム二次電池の製造方法は、負極集電体と、該負極集電体上に層状に存在し、Sn、BiおよびSbよりなる群から選択される少なくとも1種を含む金属材料で構成された負極活物質層とを含む負極層を用意し、前記負極層に密着するように、固体電解質粒子を加圧・成形することにより、前記固体電解質粒子の集合体で構成された電解質層と前記負極層とが一体化してなる複合層を得る第1の工程と、
正極活物質を含む正極層を用意し、該正極層を、前記複合層の前記電解質層側に配置するとともに、これらを加圧する第2の工程とを有することを特徴とする。
これにより、二次電池の製造工程の簡略化を図ることができる。
本発明の全固体リチウム二次電池の製造方法では、前記負極層は、空間部を備える網材で構成された負極集電体が、前記金属材料でめっき法またはメタリコン溶射により形成されることが好ましい。
これにより、負極活物質層を容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の全固体リチウム二次電池および該二次電池の製造方法について、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の二次電池の実施形態を示す縦断面図、図2は、図1に示す二次電池が備える負極および電解質層を示す部分拡大図、図3は、図1に示す二次電池が備える負極の他の構成例を示す模式図である。なお、以下の説明では、図2および図3中、上側を「上」、下側を「下」とする。また、図2および図3では、負極4の下側に電解質層5が位置するものとする。
図1に示す二次電池1は、正極(正極層)3および負極(負極層)4と、正極3と負極4との間に設けられた電解質層5とを備える積層体(電池素子)2と、正極リード6と、負極リード7と、積層体2のほぼ全体(全周)を被覆するように設けられた規制部8と、これらを収納する電池容器9とを有している。
【0022】
以下、二次電池1の各部の構成について、順次説明する。
まず、負極4について説明する。
負極4は、図2に示すように、後述する固体電解質粒子を充填する空間部411を備えた網状の負極集電体41と、該負極集電体41上には負極活物質層42が設けられ、構成されている。
【0023】
また、負極集電体41は、平面視で、電解質層5とほぼ等しいか、それ以下の外径形状および外形サイズを有している。
なお、後に詳述するが、本実施形態では、負極集電体41の空間部411内に、電解質層5を構成する固体電解質層51が充填されている。これにより、負極4と電解質層5とが一体化され、図1および図2に示すような負極4と電解質層5とが一体化してなる複合層45を構成している。
【0024】
負極集電体41は、その少なくとも表面に電子伝導性を有している。これにより、負極4内の電流密度を均一化することができる。
負極4内の電流密度が均一化されると、二次電池1の充放電の際に、局所的(例えば、負極リード7の近傍や負極周辺の末端部において優先的)に電流が流れるようになる領域が生じること、ひいてはかかる領域における負極活物質の局所的な膨張、収縮を最小限とし、二次電池1の充放電特性の低下を好適に抑制または防止することができる。
【0025】
この場合、負極集電体41としては、例えば、それ全体が導電性材料で構成されているもの、芯材の表面に導電層を形成したもの等、少なくとも表面に導電性を有するものが挙げられる。
このうち、導電性材料としては、例えば、Cu、Ni、Ti、Al、Fe、SUSのような電子伝導性金属材料を用いることができる。
【0026】
また、導電層の形成方法としては、例えば、蒸着法、スパッタリング法等の気相成膜法、電解めっき法、無電解めっき法、メタリコン溶射法、溶融塗布法等の液相成膜法等が挙げられる。
なお、負極集電体41は、電子伝導性を有していればよいが、さらにその他の機能を有していてもよい。この機能としては、例えば、電池充放電時に於いて、負極4が面方向へ拡大縮小するのを防止または抑制する機能等が挙げられる。
【0027】
この負極の拡大または縮小するのを防止または抑制する機能と付与する規制部として、用いる構成材料としては、例えば、Cu、Ni、Ti、SUSのような電子伝導性金属材料、ポリカーボネートのような硬質樹脂材料、アルミナ、ガラスのようなセラミックス等の絶縁性材料を用いることができる。
なお、電子伝導性と負極4が面方向へ拡大するのを防止または抑制する機能とを、それぞれ高度に発揮させるためには、規制部を含む負極集電体41の全体が導電性材料で構成されていることが好ましく、空隙部(空間部)を備えた集電体としては、例えば、金属エキスパンド網で構成されたもの等が好適に用いられる。
【0028】
また、本実施形態では、負極集電体41が空隙部(空間部)411を有する網材で構成されているが、この場合、平面視における空間部411の占める面積の割合は、網材の構成材料や目的等によっても若干異なるが、25〜90%程度であるのが好ましく、50〜85%程度であるのがより好ましい。
また、負極集電体41は、その構成材料や目的等によっても若干異なるが、その平均厚さが、50〜400μm程度であるのが好ましく、100〜200μm程度であるのがより好ましい。
【0029】
本実施形態では、負極集電体41のほぼ全表面を覆うように、負極活物質層42が設けられている。これにより、負極活物質と集電体が一体化した状態となり、負極4における電流密度の分布が均一となる。その結果、二次電池1が局所的に劣化するのを防止することができ、例えば、金属リチウムのデンドライトの発生を防止することができる。
かかる負極活物質層42を構成する負極活物質は、Sn、BiおよびSbよりなる群から選択される少なくとも1種を含む金属材料を含んでいる。
【0030】
ここで、従来の有機電解液や高分子電解質を用いたリチウムイオン電池では、このような負極活物質としては、グラファイトのような炭素系材料や、Li金属あるいはZn、Cd、Si、Pb、Alまたはこれらの化合物(合金)等の非炭素系材料が用いられていた。
このうち、上述した化合物のような非炭素系材料は、炭素系材料に比べて、電極としての重量容量密度および体積容量密度が格段に高いため、高容量の負極活物質として有用である。
【0031】
しかしながら、上述したZn、Cd、Si、Pb、Alのような非炭素系材料を硫化物系リチウム電解質を用いた全固体リチウム二次電池に応用する事は、負極活物質として、幾つかの問題点を抱えていた。
【0032】
その1つは、これらの非炭素系材料の負極活物質を用いることにより、二次電池の内部抵抗が上昇するという問題である。負極活物質は、二次電池の充放電に伴って、電解質中の遊離硫黄と化学的に反応する。これにより、負極活物質表面と電解質層との接触界面には金属硫化物からなる化合物が生成される。ところが、上述したような非炭素系材料が電解質中の遊離硫黄と反応してなる化合物は、一般に、その導電性が低いという問題があった。このため、かかる化合物の生成が電池電極内の電子導電性を妨げることとなり、二次電池の内部抵抗の上昇を招き、充放電特性が悪化するという問題があった。特に、ZnおよびCdでは、かかる傾向が顕著で、大きな問題となっていた。
また、他の問題点として、Si、PbおよびAlのような非炭素系材料あるいはカーボン等の炭素系材料を負極活物質として用いる事は、充放電に伴ってリチウムとの間で合金形成反応あるいはカーボン層内へのリチウム挿入反応が生じる。従って、この反応に伴って、負極活物質の体積が膨張、収縮現象が進行する。
【0033】
このように、電池を充電時すると、最初、電極内の活物質への電気的な接合は保たれつつ充電が可能となるが、放電時には、電極内部で最も電流の流れやすい部分から放電が起こる。充電によって生成したリチウム金属合金(炭素を含む膨張した電極活物質)は、電極内での通電が最も保たれている流れ易い電極集電体近くにあるものから放電に使われる。その結果、その部位での大きく体積膨張をした電極活物質の体積が、極部的に縮小することになり、その部位での電子的な界面接合阻害が起こり、未放電状態の電極活物質が残存したまま、放電を終える事となる。次に、この電池を充電すると、充電に用いる事の出来る電極活物質が少なくなっているため、充電電気量が少なくなる。当然、この充電の際にも、上述した現象がおこり、放電容量が最初に比べ、さらに低下する。この結果、全固体リチウム二次電池の充放電サイクル特性において、その容量が漸次低下すると云う問題を有していた。
【0034】
また、更に、このカーボン、Zn、Cd、Si、Pb、Al等を負極活物質材料として、用いると、その反応の電位は可逆リチウム析出電位に近いため、この電位に近い金属材料、例えばSi,Ge,Ga,Al,Zn,I,Br,Clなどを含んだリチウムイオン伝導性固体電解質{Li2S-SiS2-LiI, Li2S-SiS2-LiBr, Li2S-SiS2-LiCl, Li2S-SiS2-B2S3-LiI, Li2S-SiS2-P2S5-LiI, Li2S-B2S3-LiI, Li2S-P2S5-LiI, Li2S-P2S5-ZmSn(Z=Ge,Zn,Ga), Li2S-GeS2,Li2S-SiS2-Li3PO4, Li2S-SiS2-LixMOy(M=P,Si,Ge,B,Al,Ga,In)}を用いると、これら金属が還元され、リチウムイオン伝導性固体電解質に電子伝導性が現れるようになり、正負電極間の短絡現象を引き起こす。
【0035】
このことから、リチウムイオン伝導体を用いた電池で、その負極としてカーボンを用いる場合には、電解質中に、上記金属が含まれないリチウムイオン伝導性固体電解質を使用しなければならなかった。しかし、これら材料を含まないリチウムイオン伝導性固体電解質のイオン伝導性は、含むものに比べて悪い。従って、これを用い構成した、電池性能は、特に出力電流密度に問題を有していた。このような事から、全固体リチウム二次電池用には、イオン伝導性が優れるSi、Ge等の金属を含んだ硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質が用いられている。この電解質中の遊離硫化物の影響を受けにくい負極活物質として用いられているのが、インジウム金属であるが、金属インジウムの使用は、そのリチウム合金生成反応の可逆電位がリチウムイオンの可逆反応電位に比べ、約0.6V近辺と高い為、これを負極活物質とした全固体リチウム二次電池を構成すると、カーボンを使った電池に比べ、充放電電圧の低い電池となり、電池出力の低いものとなる。又、この金属は材料的に高価であり、大量使用が予想される電池活物質としては不向きと云える問題を有していた。
【0036】
これに対し、本発明者は、これらの問題点を解決すべく、負極活物質材料の探索とその組成の最適化を図った。そして、負極活物質として、Sn、BiおよびSbよりなる群から選択される少なくとも1種を含む金属材料で構成することにより、高容量(高性能)であり、かつ、上記のような問題点を確実に解決する二次電池を得る事が出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0037】
このような本発明の二次電池が有する負極活物質は、以下の点において優位性がある。
まず、Sn、BiおよびSbが、電解質5中の遊離硫黄と反応してなる化合物は、それぞれ比較的導電性に優れている。このため、二次電池内の内部抵抗を十分に低くすることができ、充放電特性に優れた高出力の二次電池1を得ることができる。
また、Sn、BiおよびSbは、リチウムとの間で可逆的な合金形成反応が進む電位は、従来、用いられてきたインジウムに比べ、約100〜250mV低い電位以下で起こる。その結果、インジウムを負極として構成した電池に比べ、100mV〜250mVも高い出力電圧が期待される。 さらに、Sn、BiおよびSbは、その1原子が反応し得るリチウムイオンの数(量)が、Al等に比べて多いという特性を有する。このため、Sn、BiおよびSbを含む負極活物質は、単位量あたりでリチウムイオンと反応し得る容量が多くなり、二次電池の容量の増大を図ることができる。
このため、充放電サイクルが進行しても、負極4のリチウムイオンと反応し得る容量を十分に維持することができる。これにより、充放電サイクル特性の優れた二次電池1を得ることができる。
【0038】
ところで、本実施形態では、図2に示すように、負極集電体41のほぼ全面を覆うように負極活物質層42が設けられている。
負極活物質がこのような形態(層状)をなしていることにより、負極集電体41の全体にわたって負極活物質を分布させることができる。その結果、負極活物質と固体電解質粒子との間のイオン伝導性を、負極集電体41の全体にわたってムラなく高めることができ、二次電池1の特性(充放電特性)をより向上させることができる。
【0039】
かかる負極活物質層42は、例えば、負極活物質の箔を負極集電体41上に密着させたもの、負極活物質を負極集電体41上に蒸着したもの等でもよいが、負極集電体41に負極活物質をめっき法またはメタリコン溶射法により成膜したものが好ましい。これにより、負極集電体41の全面を確実に覆うように、負極活物質層42を容易に成膜することができる。また、これらの方法によれば、成膜された負極活物質層42の厚さをより均一にすることができる。このため、負極活物質と固体電解質層51との間のイオン伝導が、負極集電体41の全体で均一に行われることとなり、負極4における電流密度の分布も均一になる。その結果、電流密度の偏りを防止して、二次電池1が局所的に劣化するのを防止することができ、例えば、リチウムのデンドライトの発生を防止することができる。
【0040】
なお、負極活物質層42を構成する負極活物質は、Sn、BiおよびSbの少なくとも1種を、50重量%以上含んでいるのが好ましく、70重量%以上含んでいるのがより好ましい。これにより、負極活物質が固体電解質材料と反応してなる化合物は、十分な導電性を有するものとなり、二次電池1の内部抵抗を十分に低減することができる。
また、このような負極活物質は、二次電池1が充放電する際に、電解質中のリチウムイオンとの間でリチウム合金を形成する。したがって、上述した負極活物質は、あらかじめリチウムとの化合物(合金)の状態で存在していてもよい。この場合、負極は充電状態にある二次電池1を得ることができる。
【0041】
また、負極活物質層42の平均厚さは、0.01〜1mm程度であるのが好ましく、0.05〜0.5mm程度であるのがより好ましい。負極活物質層42の平均厚さを前記範囲内に設定すれば、負極活物質を層状に設けたことによる効果、すなわち、前述したように、負極集電体41の全体にわたって負極活物質を分布させ、負極活物質と固体電解質粒子との間のイオン伝導性を均一に高めるという効果を、必要かつ十分に発揮させることができる。
【0042】
本発明の電池では、負極4に隣接して、電解質層5が設けられており、固体電解質層51は、硫化物系リチウムイオン伝導体、またはこれら粉末を含む混合物(イオン伝導体混合物)で構成されるが、一枚のバルク状板であっても良い。
ここで用いる、リチウムイオン伝導体としては、例えば、Li2S-SiS2, Li2S-SiS2-LiI, Li2S-SiS2-LiBr, Li2S-SiS2-LiCl, Li2S-SiS2-B2S3-LiI, Li2S-SiS2-P2S5-LiI, Li2S-SiS2-Li3PO4, Li2S-B2S3, Li2S-B2S3-LiI, Li2S-P2S5, Li2S-P2S5-LiI, Li2S-GeS2, Li2S-GeS2-P2S5などの非晶質および結晶質の硫化物系リチウムイオン伝導体、あるいは酸化物系リチウムイオン伝導体、例えばLi3.6Ge0.60.4のようなものと混合して用いることができる。
中でも、リチウムイオン伝導体としては、硫化物系リチウムイオン伝導体が優れたイオン伝導性を有していることから好適に用いられる。硫化物系リチウムイオン伝導体を固体電解質材料に用いて二次電池1を作成することにより、二次電池1の特性の向上を図ることができる。
【0043】
また、硫化物系リチウムイオン伝導体は、結晶質および非晶質のうちの少なくとも一方を含むものが好ましい。結晶質のリチウムイオン伝導体を用いることは、該電解質が最も優れたリチウムイオン伝導性を有する材料であることと、該材料が成型性に優れている特性を有していることから、これらを用い電池を形成すると、出力電流密度の優れたものを得ることが出来るという利点がある。また、非晶質のリチウムイオン伝導体は、イオン伝導性に異方性がないため、負極活物質との間のイオン伝導経路を良好にさせる。
さらに、結晶質および非晶質のリチウムイオン伝導体を混合して用いることにより、これらの利点が総合された効果が期待できるという利点がある。
【0044】
なお、前述したように、本発明の二次電池において負極活物質としてSn、BiおよびSnを用いた際、電解質中の遊離硫黄との反応によって化学的に形成される硫化物化合物は比較的、表面層に生成し、ZnやCdの硫化物に比べて、優れた電子導電性を有している。したがって、固体電解質層51として、硫化物系リチウムイオン伝導体を用いた場合でも、本発明の効果が特に有効的に発揮される。
【0045】
ここで、本実施形態では、図2に示すように、負極活物質層42を備えた負極集電体41の空間部411に、固体電解質層51(の粒子)が充填されている。そして、網状の負極集電体41に附設された負極活物質層42の表面が、その表面を覆うように固体電解質層51によって保持されている。これにより、負極4と電解質層5とが一体化され、複合層45を構成している。
【0046】
このように負極4と電解質層5とを一体化することにより、負極活物質層42と固体電解質層51との間の密着性の向上や接触面積の増大を図ることができるので、これらの間におけるイオンの授受を円滑に行うことができるようになる。これにより、二次電池1内の内部抵抗の低減を図ることができ、二次電池1の特性(充放電特性)をより高めることができる。
【0047】
また、負極集電体41が網材で構成されていることにより、前述したように、負極4が面方向へ拡大するのを防止または抑制する機能が確実に発揮されるとともに、負極集電体41と負極活物質層42との間の電子伝導性や、負極活物質層42と固体電解質層51との間のイオン伝導性を、より高めることができる。
また、本実施形態では、図2に示すように、固体電解質層51によって、負極活物質層42を有する負極集電体41が挟み込まれている。換言すれば、負極活物質層42が固体電解質層51によって覆われている。これにより、負極活物質層42と固体電解質層51との間において、イオンの授受を行い得る面積がより大きくなるため、イオンの授受をより円滑に行うことができるようになる。その結果、負極4の出力電流密度のさらなる増大を図ることができる。
【0048】
なお、この場合、固体電解質層51が負極集電体41と重なっている部分、すなわち、空隙部(空間部)411に充填されている部分は、固体電解質層51のみで構成されていてもよいが、この固体電解質層51に、粒状(粉状)の負極活物質が添加(混合)されていてもよい。これにより、負極活物質と固体電解質層51との間のイオン伝導性をより高めることができる。
この場合、負極活物質と固体電解質層51に於ける混合比は、特に限定されないが、重量比で、2:8〜9:1程度が好ましく、4:6〜8:2程度であるのがより好ましい。
【0049】
また、固体電解質層51の粒子および負極活物質粒子には、それぞれ、粒径が20μm以下の粒状(粉状)のものが好適に用いられる。かかる粒径の固体電解質層51の粒子および粒状の負極活物質を用いることにより、固体電解質層51と粒状の負極活物質との接合面積を増大させることができ、イオン伝導体の移動経路を十分に確保することができる。これにより、二次電池1の特性をより高めることができる。
【0050】
ここで、複合層45の他の構成例について説明する。
図3(a)に示す負極4は、負極集電体41の外周部に沿って設けられた負極集電体41を補強する機能を有する外枠(補強部)412を有している。これにより、負極集電体41が変形(拡張、湾曲、屈曲等)するのを確実に防止することができる。
図3(b)に示す負極4は、負極集電体41の電解質層5と反対側に設けられ、かつ、負極集電体41を補強する機能を有する補強板413を有している。補強板413は、負極集電体41に対して、例えば、スポット溶接、接着剤による接着等の方法により、複数個所で固定(固着)されている。かかる構成によっても、図3(a)に示す負極4と同様の効果が得られる。
図3(c)に示す負極4は、負極集電体41の外周部に沿って設けられた外枠(補強部)412と、また、負極集電体41の電解質層5と反対側に設けられた補強板413とを有している。かかる構成により、前記効果がより向上する。
【0051】
また、電解質層5の平均厚さは、10〜300μm程度であるのが好ましく、50〜200μm程度であるのがより好ましい。
複合層45の電解質層5側には、正極3が設けられている。
本実施形態では、前述したように、正極3は、負極4とほぼ同様の構成であり、図1に示すように、電極材料32を充填する充填部として空隙部(空間部)を備える網状の正極集電体31と、少なくとも正極集電体31の空隙部(空間部)に充填された電極材料32とで構成されている。
このうち、電極材料32は、正極活物質と固体電解質層51の粒子との混合物(正極合材)で構成されている。
【0052】
この正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムコバルト酸ニッケル(LiCo0.3Ni0.7)、マンガン酸リチウム(LiMn)、チタン酸リチウム(Li4/3Ti5/3)、リチウムマンガン酸化合物(LiMMn2−y;M=Cr、Co、Ni)、リチウム燐酸鉄およびその化合物(Li1−xFePO、Li1−xFe0.5Mn0.5PO)であるオリビン化合物等の遷移金属酸化物材料、TiS、VS、FeS、M・MoS(MはLi、Ti、Cu、Sb、Sn、Pb、Ni等の遷移金属)のような硫化物系カルコゲン化物、TiO、Cr、V、MnO、CoO等のような金属酸化物を骨格としたリチウム金属酸化物等が挙げられる。
なお、前述したような負極活物質と正極活物質との組み合わせは、特に限定されるものではなく、二次電池1において必要とする放電電圧等に応じて、適宜選択すればよい。
【0053】
以上で説明したような正極3、負極4および電解質層5により、積層体2が構成されている。なお、正極3、負極4および電解質層5には、必要に応じて、電解質層5の補強のための絶縁性網が設けられていてもよい。
また、正極3および負極4には、それぞれ前述したように、二次電池1での充放電を行うための引き出し線(導電部)として、導電性を有する正極リード6および負極リード7が接続されている。
【0054】
そして、積層体2は、正極リード6および負極リード7を外部に露出させるとともに、正極リード6および負極リード7を除く、そのほぼ全体が規制部8により覆われている。
この規制部8は、主として正極3の面方向(正極3から負極4に向かう方向に対してほぼ垂直をなす方向、すなわち図1中の上下方向)への拡大を規制する機能を有し、それに付随して起こる電解質層5の面方向への拡大をも規制するものである。二次電池1では、充放電に伴って、電極活物質の結晶構造が立体的に変形(伸縮)する。
【0055】
ここで、仮に、規制部8を設けない二次電池では、充放電の際に電極活物質(負極活物質および正極活物質)の結晶構造が立体的に変形(変化)することにより、特に正極および負極が、厚さ方向でなく面方向に大きく変形(伸縮)する。その結果、電解質層も面方向に変形(伸縮)して、正極および負極からはみ出す部分が形成されてしまう。かかる部分には、電極活物質への電子的接合あるいはイオン伝導経路を切断する接合阻害が生じることに起因して、二次電池の充放電に伴って電流が流れにくくなる。その結果、当該部分から、電極活物質と電解質との界面に剥離が生じ、電子的接合あるいはイオン伝導経路が破壊されることとなる。この現象は、二次電池ヘの充放電を繰り返すことにより、徐々に進行し、結果として、二次電池においては、電池容量が徐々に低下し、ついには二次電池の充放電が困難となる。
【0056】
これに対して、本実施形態にかかる二次電池1では、正極3および負極4に面方向(図1中上下方向)への拡大を規制する機能をそれぞれ持たせ、さらに、正極3および負極4の拡大に付随して起こる電解質層5の面方向への拡大を規制する機能を有する規制部8を設ける構成とした。これにより、二次電池1の作成時や充放電時において、二次電池1の形状を出来る限り初期形状に近い状態で維持すること、すなわち正極3、負極4および電解質層5の面方向への拡大が規制されて、上記の不都合を防止することができる。その結果、充放電サイクルの進行(複数回の充放電)によっても、電池容量の低下を防止することができる。
【0057】
この規制部8は、好ましくは絶縁性材料で構成される。かかる構成とすることにより、正極3と負極4との短絡を確実に防止することができる。
なお、規制部8は、導電性材料(金属材料等)で構成されていてもよい。かかる構成とする場合、積層体2と規制部8との間、および正極リード6の表面、負極リード7の表面に、絶縁層を介在させるようにすればよい。
【0058】
この絶縁性材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂のような各種樹脂材料、各種ガラス材料、各種セラミックス材料等が挙げられる。中でも、主として熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂および低融点ガラスのうちの1種または2種以上を組み合わせたもので構成されているのが好ましい。これらの材料を用いることにより、規制部8をより容易に形成することができる。また、機械的強度の高い規制部8を得やすいことからも好ましい。
【0059】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル共重合体およびポリアミド等やホットメルト樹脂が挙げられる。
また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂およびフェノール系樹脂等が挙げられる。
また、光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂およびビニルエーテル系樹脂等が挙げられる。
また、低融点ガラスとしては、例えば、P−CuO−ZnO系低融点ガラス、P−SnO系低融点ガラスおよびB−ZnO−Bi−Al系低融点ガラス等が挙げられる。
【0060】
また、規制部8は、その構成材料や目的等によっても若干異なるが、その平均厚さ(特に、その側面の平均厚さ)が、50〜5000μm程度であるのが好ましく、100〜500μm程度であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することにより、正極3、負極4および電解質層5の面方向への拡大を確実に防止して、規制部8としての機能を確実に発揮させることができる。
【0061】
上記のような規制部8で覆われた積層体2は、電池容器9に収納されている。
電池容器9は、有底筒状の容器本体91と、容器本体91の開口を塞ぐ蓋体92とで構成されている。また、蓋体92には、正極リード6および負極リード7が挿通され、これらは、短絡しないように絶縁管93を介して蓋体92に固定(固着)されている。
電池容器9(容器本体91および蓋体92)の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、真鍮、ステンレス鋼等各種金属材料や各種樹脂材料、各種セラミックス材料、各種ガラス材料、金属と各種樹脂からなるコンポジット材料等が挙げられる。
【0062】
このような電池容器9を有する二次電池1は、例えば、容器本体91内に、硬化前の熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂等の硬化性樹脂を充填しておき、二次電池1を収納した後、硬化性樹脂を硬化させて固定材9aとすることにより製造することができる。
なお、固定材9aには、これらの硬化性樹脂に代えて、前述したような熱可塑性樹脂や低融点ガラスを用いるようにしてもよい。
また、容器本体91の内部の形状に対応するように規制部8で被覆された積層体2を形成する場合には、容器本体91内への固定材9aの充填を省略することができる。
【0063】
以上説明したような二次電池1は、例えば、次のような二次電池1の製造方法(本発明の二次電池の製造方法)により製造することができる。
図4は、本発明の二次電池の製造方法のフローを示す図、図5は、本発明の二次電池の製造方法に用いる成形装置の構成を示す概略図(縦断面図)、図6および図7は、図5に示す成形装置を用いて、図1に示す二次電池1の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図5ないし図7中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0064】
図4に示す二次電池の製造方法は、負極を形成する負極形成工程10と、負極と固体電解質粒子とを加圧成形して、負極と電解質層とを一体化することにより、複合層を形成する複合層形成工程20と、正極を形成する正極形成工程30と、形成した複合層と、正極とを積層して積層体を形成する積層体形成工程40と、積層体の全体を覆うように規制部を形成するとともに、規制部で覆われた積層体を電池容器内に収納する規制部形成工程50とを有している。
【0065】
以下、各工程について順次説明する。
<A> 負極形成工程10
まず、網状をなす負極集電体41を用意する。
次いで、負極集電体41上に、前述したような各種気相成膜法、各種液相成膜法、メタリコン溶射法(金属溶融溶射)により負極活物質層42を形成する。これにより、負極4を得る。
【0066】
<B> 複合層形成工程20
次に、図5に示すような金型500を備えた成形装置700を用意する。
かかる成形装置700は、円筒形をなす金型500と、金型500の内空部(以下、「円筒形孔」または「キャビティ」とも言う。)に下方から挿抜自在に設けられた下部雄金型400と、金型500の内空部に上方から挿抜自在に設けられた上部雄金型600とを有する。
【0067】
次いで、図6(a)に示すように、金型500の円筒形孔(キャビティ)内に、下部雄金型400を挿入した状態で、円筒形孔内に固体電解質層51の粉末粒子を充填し、その表面を平滑にする。
次いで、図6(b)に示すように、平滑化した固体電解質層51の粉末上に、作製した負極4を載せる。
そして、図6(c)に示すように、負極4上に、再び固体電解質層51の粉末粒子を充填し、平滑化する。
【0068】
その後、上部雄金型600により、前記負極4を含む固体電解質層51の粉末粒子を加圧する。これにより、図6(d)に示すように、負極4を内包した状態の固体電解質層51が加圧成形される。また、それとともに、負極4の負極集電体41が有する空間部411内に、固体電解質層51が充填される。
以上のようにして、負極4は電解質層5と一体化された状態の複合層45となる。
【0069】
このようにして、二次電池1を作製するにあたって、あらかじめ負極4と電解質層5とを一体化する工程を有することにより、二次電池1の製造工程の簡略化を図ることができる。
すなわち、かかる工程を有しない場合には、負極4と電解質層5とをそれぞれ作製する工程の後、これらを接合する工程を別途設ける必要があり、二次電池の製造に多大な手間を要していた。
【0070】
これに対し、あらかじめ複合層45を作製しておくことにより、複数の工程を1つにまとめることができるので、工程数を削減することが可能である。
また、例えば、製造すべき二次電池1の面積よりも大きい面積の金属エキスパンド網を用い、この金属エキスパンド網に対して固体電解質層を一体化させることにより、複数個分の複合層45を一度に作製することができる。そして、複数個分の複合層を、個片に分割することにより、複合層45を効率よく作製することができる。
なお、大面積でかつフープ状をなす金属エキスパンド網を負極集電体の構成材料として用いる場合、めっき法、メタリコン溶射法を用いることは、金属エキスパンド網に対して連続的に負極活物質層42を形成可能であることから、負極4を特に効率よく作製することができる。
【0071】
ところで、成形装置700が有する成形型(金型500、下部雄金型400、上部雄金型600等)は、金属製に限定されず、例えば、樹脂製、セラミックス製であってもよいことは言うまでもない。
ここで、固体電解質層51の粉末を加圧成形する際の圧力は、5ton/cm以上であるのが好ましく、少なくとも3ton/cm以上であるのがより好ましい。これにより、固体電解質層51を好適に圧縮できる。
なお、円筒形孔の内面には、あらかじめ離型剤を付与しておいてもよい。
【0072】
また、負極4と電解質層5とを一体化する工程は、成形装置700を用いることなく行うようにしてもよい。
例えば、固定電解質層51の粉末を離型紙上に平坦にならし、この上に、負極4を配置し、これらを離型紙ごとプレス圧延ローラに挿入することにより、負極4と電解質層5とを一体化するようにしてもよい。
なお、この場合は、比較的面積の広い負極4に対して、上記のような工程を行い、その後、作製すべき二次電池の大きさに応じて、形成された複合層45から所望の大きさを切り出すようにするのが好ましい。
【0073】
<C> 正極形成工程30
次に、網状をなす正極集電体31を用意する。
一方、形成された複合層45を、成形装置700から取り出す。
次いで、金型500の円筒形孔内に、下部雄金型400を挿入した状態で、円筒形孔内に正極活物質粉末と電解質粉末からなる電極合材(電極材料)32を充填し、その表面を平滑化する。
【0074】
次いで、円筒形孔内に上部雄金型600を挿入し、電極合材(電極材料)32を予備的に加圧し、層状に電極合材を形成する。しかる後、上部雄金型600を取り出す。
次に、円筒形孔内の成形された層状となった電極合材上に、前記正極集電体31を載せる。そして、上部雄金型600により、前記正極集電体31を、成形された電極合材(電極材料)32に対して加圧する。これにより、正極集電体31が、層状となった電極合材(電極材料)32の内部に圧入される。すなわち、正極集電体31が有する空隙部(空間部)411内に、電極合材(電極材料)32が充填される。
以上のようにして、正極3を作製する。
【0075】
なお、上記のような正極3を作製する工程は、成形装置700を用いることなく行うようにしてもよい。
例えば、電極材料32を離型紙上に平坦にならし、この上に、正極集電体31を配置し、これらを離型紙ごとプレス圧延ローラに挿入することにより、電極材料32の層の内部に正極集電体31を圧入するようにしてもよい。
なお、この場合は、比較的面積の広い正極集電体31に対して、上記のような工程を行い、その後、作製すべき二次電池の大きさに応じて、所望の大きさを切り出すようにするのが好ましい。
【0076】
<D> 積層体形成工程40
次に、図7(e)に示すように、円筒形孔内に正極3を配置する。
次いで、図7(f)に示すように、円筒形孔内の正極3上に、作製した複合層45を載せる。このとき、複合層45の電解質層5側と正極3とが密着するように、複合層45を配置する。
【0077】
そして、上部雄金型600を押下して、金型500内において、複合層45と正極3とを加圧する。これにより、複合層45と正極3とが接合され、積層体2が得られる。
この際の加圧の圧力は、3ton/cm以上であるのが好ましく、4ton/cm以上であるのがより好ましい。これにより、積層体2が十分に圧縮され、積層体2内での電解質層5内に粒界が生じるのを確実に防止できる。したがって、得られる二次電池1の特性の向上を図ることができる。
【0078】
<E>規制部形成工程50
次に、前記積層体形成工程40における加圧の状態から解放し、形成された積層体2を金型500内から取り出す(離型する)。
次いで、正極リード6および負極リード7を取り付けた後、図7(g)に示すように、積層体2のほぼ全体を規制部8で覆う。そして、規制部8で覆われた積層体2を、電池容器9内に収納する。
【0079】
以上のようにして、二次電池1が得られる。
ここで、規制部8を、例えばホットメルト樹脂(ホットメルト接着剤)または低融点ガラスで構成する場合、規制部8は、ホットメルト樹脂または低融点ガラスを溶融または軟化させ、これを積層体2の外周面に供給した後、冷却して固化することにより形成することができる。かかる方法によれば、積層体2のほぼ全体を覆うように規制部8を確実に形成することができる。
【0080】
なお、溶融または軟化状態(液状状態)のホットメルト樹脂または低融点ガラスを積層体2の外周面に供給する方法としては、各種の方法を用いることができるが、例えば、I:液状状態のホットメルト樹脂または低融点ガラスに積層体2を浸漬する方法(浸漬法)、II:積層体2の外周面に液状状態のホットメルト樹脂または低融点ガラスを塗布する方法(塗布法)、III:積層体2を絶縁管93を介して正極リード6、負極リード7を接合した樹脂注入用口を備えた蓋体92を勘合させた電池容器9内に真空封入法(脱気法)により、液状の樹脂を注入した後、該樹脂を硬化させ、樹脂封入口を封じる方法等が挙げられる。
【0081】
また、規制部8を例えば熱硬化性または光硬化性の樹脂で構成する場合、規制部8は、硬化前の液状の樹脂材料を積層体2の外周面に供給した後、加熱または光照射して硬化することにより形成することができる。かかる方法によっても、積層体2のほぼ全体を覆うように規制部8を確実に形成することができる。
また、真空封入法により、規制部8の材料を電池容器内に充填する事は、積層体2の周辺部位の規制部8内に形成される空間部位を少なくすることを確実にし、充放電サイクルに伴う、容量低下のない二次電池を確実の提供出来る。
【0082】
なお、硬化前の樹脂材料を積層体2の外周面に供給する方法としては、前記液状状態のホットメルト樹脂または低融点ガラスを供給する方法で説明したのと同様の方法を用いることができる。
以上、本発明の二次電池および二次電池の製造方法について図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成で置換することができ、また、その他の構成が付加されていてもよい。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
1.二次電池の作製
(実施例1)
<1> まず、以下のようにして負極を得た。
まず、銅製エキスパンド網(幅50mm、長さ200mm、平均厚さ:約100μmの長方形の網材、平面視で空隙部(空間部)の占める割合:80%)に、スズ(Sn)めっきを施した。これにより、負極集電体上に負極活物質層(電極材料層)を形成し、負極シートを得た。なお、スズめっき層の平均厚さは、50μmとした。
次いで、この負極網シートを14mm×14mm角の大きさに切断して、負極を得た。
【0084】
<2> 次に、成形装置の成形金型の内空部(口型サイズ:15mm角)に、リチウムイオン伝導性ガラス粒子(固体電解質粒子)を充填し、その表面を平滑化した。次いで、このリチウムイオン伝導性ガラス粉末の上に、負極を載せ、さらに、負極上にリチウムイオン伝導性ガラス粉末を追加して充填し、その表面を平滑化した。そして、これらを4ton/cmの圧力で加圧成形した。これにより、負極と電解質層とを一体化し、複合層を得た。
なお、リチウムイオン伝導性ガラスには、硫化リチウム(LiS)、硫化珪素(SiS)、および燐酸リチウム(LiPO)からなり、そのガラス組成が0.63LiS−0.36SiS−0.01LiPOである硫化物系リチウムイオン伝導性ガラスを用いた。
【0085】
<3> 次に、以下のようにして正極を得た。
まず、コバルト酸リチウム(正極活物質)粒子(平均粒径:5μm)とリチウムイオン伝導性ガラス粒子とを、重量比で7:3となるように混合した正極合材を用意した。
一方、ニッケル(Ni)めっきを施した銅製エキスパンド網(幅50mm、長さ200mm、平均厚さ:約100μm、平面視で空隙部(空間部)の占める割合:80%の長方形の網材)を用意した。
【0086】
次いで、用意した正極合材を離型紙上に平坦にならし(平均厚さ:約250μm)、この上に、前述のニッケルめっきを施した銅製エキスパンド網を載せ、これらを離型紙ごと、プレス圧延ローラに挿入した。これにより、正極合材をエキスパンド網の空隙部に充填して、正極シートを作製した。
なお、得られた正極シートの平均厚さは、約200μmであった。
次いで、この正極シートを14mm×14mm角の大きさに切断して、正極を得た。また、作製した正極中に充填された正極合材の量は約130mgであり、側面視でエキスパンド網と重ならない部分の平均厚さは、約160μmであった。
【0087】
<4> 次に、成形装置の成形金型の内空部に、作製した正極を配置した。このとき、正極のエキスパンド網を圧入した面とは反対側の面が上方に位置するように、正極を配置した。
次いで、正極上に、作製した複合層を配置した。このとき、複合層の電解質層側と正極とが密着するように、複合層を配置した。
そして、成形装置により、正極と複合層とを加圧した。これにより、正極と複合層とを接合し、積層体を得た。なお、この加圧の際の圧力は、4ton/cmであった。
<5> 次に、得られた積層体を成形装置から取り出し、正極および負極に、それぞれリード板をスポット溶接にて取り付け、正極リードおよび負極リードとした。
【0088】
<6> 次に、積層体のほぼ全体をエチレン酢酸ビニル共重合体系ホットメルト樹脂で被覆した。次いで、硬化前の熱硬化性エポキシ樹脂を充填したアルミニウム製の角型電池容器本体(外径寸法:20mm×20mm×7mm、内径寸法:18mm×18mm×5mm)内に挿入した。
その後、電池容器内に充填された熱硬化性エポキシ樹脂を加熱して硬化した後、それぞれのリード板とアルミニウム製の蓋体に設けたハーメチック絶縁端子を接合した後、この蓋をアルミはんだで固着させた。これにより、ホットメルト樹脂層、エポキシ樹脂層およびアルミニウム層の3層で構成される積層体からなる規制部を得るとともに、二次電池を得た。
なお、形成された規制部の平均厚さは、約2.5mmであった。
【0089】
作成した二次電池について、充放電サイクル試験による充放電挙動を調べるために、各二次電池を100μA/cmおよび500μA/cmの2種の一定の電流密度で充電し、電池電圧が4.0Vに到達した後、電流が10μAとなった時点で、二次電池の充電を停止し、30分間、開路状態を保持させた。
続いて、100μA/cmの一定の電流密度で、二次電池を放電させ、放電終止電圧、2.0Vで、放電を遮断した後、30分間、開路状態を保持させた。その後、再び充電を開始した。
【0090】
その結果、本二次電池は、図8の初期充放電挙動Aに示した様に、いずれも、充放電サイクルの間で放電平坦電圧が3.5〜3.0V付近に維持され、比較的平坦で優れた充放電特性を示した。又、500μA/cmの充電電流密度で充電後の放電特性も放電平坦電圧が約120mV程低い電圧を示した事以外、大きな影響を受けない事が判明した。又、その充放電サイクルに伴う放電容量の変化については、図9に示したが、70サイクル経過後も大きな放電容量減少も認められなかった。
【0091】
(実施例2)
前記実施例1の負極の負極活物質層を、スズめっき層から、ビスマス(Bi)金属を溶射装置を用いて、エキスパンド網に付着させた(平均厚さ:40μm)以外は、前記実施例1と同様にして二次電池を得た。
作成した二次電池について、充放電サイクル試験による充放電挙動を調べるために、本二次電池を100μA/cmの電流密度で充電し、電池電圧が3.8Vに到達した後、電流が10μAとなった時点で、二次電池の充電を停止し、30分間、開路状態を保持させた。
続いて、100μA/cmの一定の電流密度で、二次電池を放電させ、放電終止電圧、2.0Vで、放電を遮断した後、30分間、開路状態を保持させた。その後、再び充電を開始した。
【0092】
その結果、本実施例で得られた二次電池は、図8の初期充放電挙動Bに示した様に、実施例1に比べ、約0.3V低い電圧で充放電が進み、放電平坦電圧が3.2〜2.9V付近に維持され、比較的平坦で優れた充放電特性を示した。又、その充放電サイクルに伴う放電容量の変化については、実施例1と同様、70サイクル経過後も大きな放電容量減少も認められなかった。
【0093】
(実施例3)
前記実施例1の負極の負極活物質層を、スズめっき層から、アンチモン(Sb)金属を溶射装置を用いて、エキスパンド網にアンチモンを付着させた(平均厚さ:40μm)以外は、前記実施例1と同様にして二次電池を得た。
作成した二次電池について、充放電サイクル試験による充放電挙動を調べるために、本二次電池を100μA/cmの一定の電流密度で充電し、電池電圧が3.7Vに到達した後、電流が10μAとなった時点で、二次電池の充電を停止し、30分間、開路状態を保持させた。
続いて、100μA/cmの一定の電流密度で、二次電池を放電させ、放電終止電圧、2.0Vで、放電を遮断した後、30分間、開路状態を保持させた。その後、再び充電を開始した。
【0094】
その結果、本実施例で得られた二次電池は、図8の初期充放電挙動Cに示した様に、実施例1に比べ、約0.4V低い電圧で充放電が進み、放電平坦電圧が3.1〜2.8V付近に維持され、比較的平坦で優れた充放電特性を示した。又、その充放電サイクルに伴う放電容量の変化については、実施例1と同様、70サイクル経過後も大きな放電容量減少も認められなかった。
【0095】
(実施例4)
前記実施例1の負極および電解質層の作製方法を、以下の方法に変更した以外は、前記実施例1と同様にして二次電池を得た。
すなわち、本実施例では、負極集電体とその上に形成されたスズめっき層とで構成された負極を、負極集電体とそれを覆うように加圧成形された錫金属粉末と電解質粉末からなる負極合材とで構成された負極で置き換えることとした。
具体的には、まず、粒径が約20ミクロンのスズ(負極活物質)粉末を用い、これに、0.63LiS−0.36SiS−0.01LiPOで構成されるリチウムイオン伝導性ガラス粒子とを重量比で5:5の割合で混合した負極合材を用意した。
【0096】
一方、銅製エキスパンド網(平均厚さ:約100μm、平面視で空隙部の占める割合:80%)を用意した。
そして、用意した負極合材を離型紙上に平坦にならし、この上に、前述の銅製エキスパンド網を載せ、これらを離型紙ごと、プレス圧延ローラに挿入した。これにより、負極合材をエキスパンド網の空隙部に充填して、負極シートを作製した。
次いで、この負極シートを14mm×14mm角の大きさに切断して、負極を得た。
次に、成形装置の成形金型の内空部に、リチウムイオン伝導性ガラス粒子を投入した。次いで、成形装置の上部雄金型を押下し、負極に対して、リチウムイオン伝導性ガラス粒子で構成された電解質層を接合した。
【0097】
以下、前記実施例1と同様にして、正極、電解質層および負極を接合し、積層体を得た。
作成した二次電池について、充放電サイクル試験による充放電挙動を調べるために、本二次電池を100μA/cmの一定の電流密度で充電し、電池電圧が4.0Vに到達した後、電流が10μAとなった時点で、二次電池の充電を停止し、30分間、開路状態を保持させた。
【0098】
続いて、100μA/cmの一定の電流密度で、二次電池を放電させ、放電終止電圧、2.0Vで、放電を遮断した後、30分間、開路状態を保持させた。その後、再び充電を開始した。
その結果、作成した二次電池は、図8の初期充放電挙動Aに示したのと、殆ど同様の優れた挙動を示した。
【0099】
(比較例1)
前記実施例1の負極の負極活物質層を、スズめっき層から、アルミニウム(Al)箔(平均厚さ:80μm)に変更した以外は、前記実施例1と同様にして二次電池を得た。
作成した二次電池について、実施例1と同様に充放電サイクル試験による充放電挙動を調べるた。先ず、本二次電池を100μA/cmおよび500μA/cmの2種の一定の電流密度で充電し、電池電圧が4.2Vに到達した後、電流が10μAとなった時点で、二次電池の充電を停止し、30分間、開路状態を保持させた。
続いて、100μA/cmの一定の電流密度で、二次電池を放電させ、放電終止電圧、2.0Vで、放電を遮断した後、30分間、開路状態を保持させた。その後、再び充電を開始した。
【0100】
その結果、本比較例で得られた二次電池は、図8の初期充放電挙動Dに示した様に、いずれも、充放電サイクルの間で放電平坦電圧が3.8〜3.5V付近に維持され、比較的平坦で優れた充放電特性を示した。又、500μA/cmの充電電流密度で充電後の放電特性も放電平坦電圧が約120mV程低い電圧を示した事以外、大きな影響を受けない事が判明した。しかし、その充放電サイクルに伴う放電容量の変化については、図9に示したように、50サイクル経過後、放電容量が1/3に減少した。
また、500μA/cmでの充放電では、約30サイクルで、電池内部短絡が生じた。
【0101】
(比較例2)
前記実施例1の負極の負極活物質層を、スズめっき層から、亜鉛(Zn)めっき層(平均厚さ:20μm)に変更した以外は、前記実施例1と同様にして二次電池を得た。
作成した二次電池について、実施例1と同様に充放電サイクル試験による充放電挙動を調べた。先ず、本二次電池を100μA/cmの一定の電流密度で充電し、電池電圧が4.2Vに到達した後、電流が10μAとなった時点で、二次電池の充電を停止し、30分間、開路状態を保持させた。
続いて、100μA/cmの一定の電流密度で、二次電池を放電させ、放電終止電圧、2.0Vで、放電を遮断した後、30分間、開路状態を保持させた。その後、再び充電を開始した。
【0102】
その結果、本比較例で得られた二次電池は、図8の初期充放電挙動Eに示した様に、充放電サイクルの間で放電平坦電圧が3.5〜3.0V付近を示した。しかしながら、その際の放電容量は実施例1に比べ、約1/2.5となり、極めて悪い事が判明した。
また、その充放電サイクルに伴う放電容量の変化については、40サイクル経過後、電池内部短絡が生じた。
【0103】
2.二次電池の評価
2.1 充放電特性の評価
以上、各比較例1,2で使用した負極活物質では、リチウム合金生成反応電位が金属リチウムの析出電位、及び電解質中のSiの還元電位に近い為、これらの反応に充電電気量の一部が利用され為、初期充電に対する放電容量も少なくなる。又これら負極活物質であるAl、Znは電解質と接触することで、特にZnでは、その表面に高抵抗の硫化物被膜を形成するため、充電電圧が高くなり、また放電電圧が低くなる。その結果、これら活物質を用いた硫化物系リチウム二次電池では、その特性が悪くなったものと思われる。
【0104】
これに対し、各実施例1〜4の電池系では、負極活物質として用いたSn,Sb,Biが活物質中の遊離硫黄との反応が弱いため、電極インピーダンスの増加による電池の充放電特性に於ける電圧降下、あるいは、これら電極表面での金属リチウムの極部的な析出も殆ど無く進む。その結果、充放電サイクル特性に於ける放電容量の減少が少ない全固体リチウム二次電池を提供されたものと考えられる。
さらに、これら材料は、インジウム金属などと比べ、コスト的にも安価であるため、電池活物質材料として、工業的に多量に使用することが出来、その工業的価値は極めて大きいと言える。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の二次電池の第1実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す二次電池が備える負極および電解質層を示す部分拡大図である。
【図3】図1に示す二次電池が備える負極の他の構成例を示す模式図である。
【図4】本発明の二次電池を製造する製造方法のフローを示す図である。
【図5】本発明の二次電池の製造方法に用いる成形装置の構成を示す概略図(縦断面図)である。
【図6】図5に示す成形装置を用いて、図1に示す二次電池1の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図7】図5に示す成形装置を用いて、図1に示す二次電池1の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図8】各種負極活物質を使用して作成した電池の初期充放電挙動
【図9】SnおよびAl負極使用電池の充放電サイクルに伴う放電容量の変化挙動
【符号の説明】
【0106】
1……二次電池 2……積層体 3……正極 31……正極集電体 32……電極材料(電極合材) 4……負極 41……負極集電体 411……空隙部(空間部) 412……外枠 413……補強板 42……負極活物質層 45……複合層 5……電解質層 51……固体電解質層 6……正極リード 7……負極リード 8……規制部 9……電池容器 9a……固定材 91……容器本体 92……蓋体 93……絶縁管 400……下部雄金型 500……金型 600……上部雄金型 700……成形装置 10……負極形成工程 20……複合層形成工程 30……正極形成工程 40……積層体形成工程 50……規制部形成工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極との間に硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質を介在させてなる全固体リチウム二次電池に於いて、負極となる電極がSn、BiおよびSbよりなる群から選択される少なくとも1種を含む金属活物質を含んでなることを特徴とする全固体リチウム二次電池。
【請求項2】
前記金属活物質の前記負極中における含有率は、50重量%以上である請求項1に記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項3】
前記負極は、前記金属活物質と金属リチウムからなる合金を含む請求項1または2に記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項4】
前記負極は、少なくとも導電性材料で構成された負極集電体を有し、
前記金属活物質が、前記負極集電体表面上に設けられた金属活物質層を構成している請求項1ないし3のいずれかに記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項5】
前記金属活物質層の平均厚さは、0.01〜1mmである請求項4に記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項6】
前記金属活物質層は、めっき法により前記負極集電体上に付着されてなる請求項4または5に記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項7】
前記負極集電体が、前記固体電解質で構成された固体電解質粒子を充填する空間部を備えており、
前記固体電解質粒子の一部が前記空間部に充填されることにより、前記負極と前記固体電解質粒子とが一体化している請求項4ないし6のいずれかに記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項8】
前記負極集電体は、前記空間部を備える網材または凹凸を有する導電性板で構成されている請求項7に記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項9】
前記固体電解質粒子の一部が、前記負極を挟み込むように設けられている請求項7または8に記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項10】
前記硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質は、硫化物系リチウムイオン伝導体単独で構成されている、または、硫化物系リチウムイオン伝導体を含む請求項1ないし9のいずれかに記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項11】
前記硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質は、結晶質および非晶質のうちの少なくとも一方を含む請求項10に記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項12】
負極集電体と、該負極集電体上に層状に存在し、Sn、BiおよびSbよりなる群から選択される少なくとも1種を含む金属材料で構成された負極活物質層とを含む負極層を用意し、前記負極層に密着するように、固体電解質粒子を加圧・成形することにより、前記固体電解質粒子の集合体で構成された電解質層と前記負極層とが一体化してなる複合層を得る第1の工程と、
正極活物質を含む正極層を用意し、該正極層を、前記複合層の前記電解質層側に配置するとともに、これらを加圧する第2の工程とを有することを特徴とする全固体リチウム二次電池の製造方法。
【請求項13】
前記負極層は、空間部を備える網材で構成された負極集電体が、前記金属材料でめっき法またはメタリコン溶射により形成される請求項12に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−54484(P2009−54484A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221776(P2007−221776)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(597114270)株式会社国際基盤材料研究所 (24)
【Fターム(参考)】