説明

全固体リチウム二次電池の製造方法及び全固体リチウム二次電池の検査方法

【課題】短絡欠陥による歩留りの低下を抑制することができる全固体リチウム二次電池の製造方法及び全固体リチウム二次電池の検査方法を提供する。
【解決手段】全固体リチウム二次電池10の製造方法は、基材11に正極活物質層13を形成する正極活物質層形成工程と、正極活物質層13に接続される固体電解質層14を形成する電解質層形成工程と、固体電解質層14に接続される負極活物質層16を形成する負極活物質層形成工程と、正極活物質層13と負極活物質層16との間にパルス状の電流を供給して正極活物質層13と負極活物質層16との間に生じた短絡欠陥を修復する修復工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウム二次電池の製造方法及び全固体リチウム二次電池の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質層は、小型且つ軽量で、エネルギー密度が高い電池として注目されている。全固体リチウム二次電池は、基板上に、正極用集電体層、負極用集電体層、正極活物質層、固体電解質層、及び負極活物質層等を備え、各層は、スパッタリング法やCVD法等により成膜される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−5279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、このような成膜方法を用いて各層が形成される場合には、通常、少なからずパーティクルが生成される。各層の内部や各層の間に、該パーティクルが挿入されると、その付近にピンホールや微小なクラック等といった欠陥が形成されることがある。そのような欠陥が形成されると、正極用集電体層と負極用集電体層とがその欠陥を介して導通し、短絡が発生して電池機能が失われ、歩留りが低下してしまう。
【0005】
また、例えば下層の集電体層に隆起部が存在する場合、各集電体層の間に積層される各層は数μm以下といった薄膜であるため、その隆起部が上層の集電体層に接触することがある。このため、この隆起部を介して短絡が発生することがあった。
【0006】
このような短絡欠陥は、各層が薄膜であるが故に上記要因以外の要因によっても生成される。従って、このような短絡欠陥による歩留りの低下を抑制することが強く望まれている。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、短絡欠陥による歩留りの低下を抑制することができる全固体リチウム二次電池の製造方法及び全固体リチウム二次電池の検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段及びその作用効果を以下に説明する。
請求項1に記載の発明は、基材に第1活物質層を形成する第1活物質層形成工程と、前記第1活物質層に接続される固体電解質層を形成する電解質層形成工程と、前記固体電解質層に接続される第2活物質層を形成する第2活物質層形成工程と、前記第1活物質層と前記第2活物質層との間にパルス状の電流を供給して前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に生じた短絡欠陥を修復する修復工程とを有することを要旨とする。
【0009】
この発明によれば、第1活物質層と第2活物質層との間に、第1活物質層と第2活物質層との間に生じた短絡欠陥を修復するための電流を流すので、製造の過程で短絡欠陥が生じても、こうした短絡欠陥による歩留りの低下を抑制することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法において、前記修復工程は、1つの短絡欠陥あたり100C以上10000C以下の電流値を予測される短絡欠陥数に乗じた値の電流を前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に供給することを要旨とする。
【0011】
この発明によれば、前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に供給する電流の値を、上記した範囲とした。即ち、その電流値が小さすぎる場合には、短絡欠陥が十分に修復され難くなることが懸念される。また、上記電流値が大きすぎる場合には、全固体リチウム二次電池そのものが電池機能を失う懸念がある。この点、電流値を上記範囲とすることにより、短絡欠陥が十分に修復され難くなること、及び電池機能を失うことの両方を抑制することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法において、前記修復工程では、前記全固体リチウム二次電池を充電又は放電した際の特性に基づき短絡欠陥の有無を判断することを要旨とする。
【0013】
この発明によれば、全固体リチウム二次電池を充電又は放電した際の特性に基づき、短絡欠陥の有無を判断するので、従来の出荷前の電池に対する検査を実施する際に、短絡欠陥の有無も併せて判断することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法において、前記修復工程では、前記全固体リチウム二次電池の開放端電圧を検出して修復完了したか否かを判定することを要旨とする。
【0015】
この発明によれば、電池の開放端電圧を検出するため、シャント抵抗等を含む回路の電圧を計測するよりも、欠陥修復の完了のタイミングをより的確且つ容易に判断することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法において、前記修復工程は、前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に100C未満の電流を供給した状態で、前記第1活物質層及び前記第2活物質層を含む積層体の温度分布を測定し、電流供給前と比較して局所的に温度が上昇した温度上昇部の数を検出することにより短絡欠陥の数を検出することを要旨とする。
【0017】
この発明によれば、積層体に電流を供給し、電流供給前と比較して局所的に温度が上昇した温度上昇部の数を短絡欠陥数とみなす。このため、全固体リチウム二次電池を破壊することなく、短絡欠陥の数を検出することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法において、記修復工程では前記電流を1パルスだけ供給することを要旨とする。
【0019】
この発明によれば、修復工程において電流を1パルスだけ供給するので、工程時間を短縮化することができる。
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法において、前記修復工程では、前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に供給する電流の値を段階的に大きくすることを要旨とする。
【0020】
この発明によれば、修復工程で電流の値を段階的に大きくするので、短絡欠陥数が不明な場合でも、確実に短絡欠陥を修復することができる。
請求項8に記載の発明は、基材と、該基材に形成された第1活物質層と、該第1活物質層に接続される固体電解質層と、該固体電解質層に接続される第2活物質層とを有する全固体リチウム二次電池の検査方法において、前記第1活物質層と前記第2活物質層との間にパルス状の電流を供給して前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に生じた短絡欠陥を修復する修復工程を有することを要旨とする。
【0021】
この発明によれば、第1活物質層と第2活物質層との間に、第1活物質層と第2活物質層との間に生じた短絡欠陥を修復するための電流を流すので、短絡欠陥による歩留りの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】全固体リチウム二次電池の要部断面図。
【図2】全固体リチウム二次電池の製造方法を示すフローチャート。
【図3】検査システムの模式図。
【図4】修復工程のフローチャート。
【図5】短絡修復電流を供給した際の電池の電圧変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図4にしたがって説明する。
図1は、全固体リチウム二次電池10の一例を示す要部断面図である。全固体リチウム二次電池10は、基材11と、該基材11の上に形成された互いに異なる各層とからなる積層体Lを有している。
【0024】
本実施形態では、基材11の形状は特に限定されないが、板状、シート状、フィルム状又は薄板状でもよい。また、基材11の材質は特に限定されないが、ガラス、マイカ、アルミナ等を用いることができる。
【0025】
基材11の表面の一部には、正極用集電体層12が積層されている。この正極用集電体層12は、伝導性を有し、集電体として通常用いられる公知の材料から構成される。例えば、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、Cr(クロム)、Al(アルミニウム)、Cu(銅)、Au(金)、バナジウム(V)等を用いることができる。
【0026】
正極用集電体層12の上には、第1活物質層としての正極活物質層13が積層されている。正極活物質層13は、リチウム遷移金属化合物であって、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な材料であればよい。例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMn、LiFePO、TiS、LiM1xM2yOz(M1、M2は遷移金属であって、x、y、zは任意の実数)等を用いることができる。さらに、上記した各材料を、複数組み合わせることにより正極活物質層13を形成してもよい。
【0027】
この正極活物質層13の上には、固体電解質層14が積層されている。固体電解質層14は、固体電解質層14として用いられる公知の材料からなり、例えば、LiPO、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド誘導体等の高分子材料内にLiPE、LiClO等のリチウム塩からなる溶質を含有させたもの、その溶質を有機溶媒に溶解させた非水電解質を含浸させたゲル状のもの、LiS、LiPO、LiPON等の無機固体電解質を用いることができる。さらに、上記した各材料を、複数組み合わせることにより固体電解質層14を形成してもよい。
【0028】
固体電解質層14の端部と、基材11の表面における一部とには、負極用集電体層15が積層されている。負極用集電体層15は、正極用集電体層12と同じ材料を用い、同じ
製造方法により形成することができる。
【0029】
さらに、固体電解質層14の表面の殆どと、負極用集電体層15の一部とには第2活物質層としての負極活物質層16が積層されている。負極活物質層16は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な材料であればよい。例えば、Nb、黒鉛、コークス、又は高分子焼成体等の炭素材料、金属リチウム、リチウムと他の金属との合金、TiO、SnO、Fe、SiO等の金属酸化物や金属硫化物を用いることができる。上記した各材料を、複数組み合わせることにより負極活物質層16を形成してもよい。
【0030】
そして正極用集電体層12の一部、固体電解質層14の一部、負極用集電体層15の一部、負極活物質層16の全表面を覆うように、保護層17が積層されている。保護層17の材質は特に限定されず、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE;Poly Tetra Fluoro Ethylene)、シリカ等、保護層17として公知の材質を用いることができる。
【0031】
図2は、全固体リチウム二次電池10の製造方法を示すフローチャートである。
まず積層体Lを形成するための基材11を準備した後、正極用集電体層形成工程(ステップS11)を行う。該工程では、公知の方法を用いて、基材11の上に正極用集電体層12の薄膜を形成する。本実施形態では、スパッタリング法で形成されるが、他にも例えば、各種蒸着法等、スパッタリング法以外の物理気相成長法(PVD;Physical Vapor Deposition)、熱CVD法等の化学気相成長法(CVD;Chemical Vapor Deposition)等により形成することができる。
【0032】
正極用集電体層12を形成すると、第1活物質層形成工程としての正極活物質層形成工程(ステップS12)を行う。この工程では、正極用集電体層12の上に正極活物質層13をスパッタリングにより形成する。又は、その他のPVD法やCVD法を用いて形成してもよい。
【0033】
続いて、電解質層形成工程(ステップS13)では、正極活物質層13を覆うように固体電解質層14を形成する。固体電解質層14は、スパッタリング法により形成されるが、正極用集電体層12と同様に、他のPVD法や、CVD法を用いても良い。
【0034】
固体電解質層14を積層すると、負極用集電体層形成工程(ステップS14)を行う。負極用集電体層15は、固体電解質層14の端部と、基材表面の一部とを覆うように形成される。負極用集電体層15は、正極用集電体層12と同様な方法で形成することができる。
【0035】
負極用集電体層15を形成すると、第2活物質層形成工程としての負極活物質層形成工程(ステップS15)を行う。負極活物質層16は、正極活物質層13と同様に、スパッタリング法により形成されるが、その他のPVD法やCVD法を用いて形成してもよい。
【0036】
負極活物質層16が形成されると、保護層形成工程(ステップS16)を行う。保護層17は、正極用集電体層12の一部、固体電解質層14の一部、負極用集電体層15の一部、負極活物質層16全体を被覆するように形成される。保護層17が積層された状態での積層体の高さは、15μm程度である。
【0037】
保護層17が形成された積層体Lは1つのセルを構成し、このセルに対して修復工程が行われる(ステップS17)。この修復工程は、出荷前の電池の充放電の特性を検査する工程を兼ねている。
【0038】
図3は、検査システム20を示す概略図である。この検査システム20は、セルに対す
る出荷前の検査を行う装置である。通常、リチウム二次電池は、セル又は電池を製作した後に、電池容量等を検査するための充放電を行っており、検査システム20はその検査を実施するための装置である。そして、電池容量が極端に低い電池等は不良品として排除される。
【0039】
検査システム20は、充電回路21を有している。該回路21には、電源に接続された制御回路25が備えられ、該制御回路25は、セルCLに供給される電流値を制御するとともに、定電流をセルCLに供給して充電するモードと、パルス状の電流をセルCLに供給して短絡を修復する修復モードとを切り換える。また、充電回路21は、既知の抵抗値を有する抵抗素子RE及び抵抗素子REに流れる電流を検出する電流検出部CDと、セルCLに対して並列に配設された電圧検出部VDとを備える。電流検出部CD及び電圧検出部VDは、検出値を制御回路25にフィードバックする。
【0040】
また、検査システム20は、この充電回路21と非接触状態で設けられたサーモグラフィTHと、サーモグラフィTHに接続されたモニタ部MNとを有している。サーモグラフィTHは、セルCLの温度分布を検出し、モニタ部MNはその温度分布を画像等として可視化する。
【0041】
この修復工程の手順を図4に示す。まず制御回路25により、充電回路21にセルCLに、通常の電池容量等を測定するための定電流を供給して、短絡が発生しているか否かを判断する(ステップS17−1)。このとき、セルCLには逆方向バイアスを印加してもよく、順方向バイアスを印加してもよい。また、短絡判定用の電流の大きさは特に限定されないが、後述する修復工程で供給される電流値よりも小さい大きさである100C未満としてもよい。単位「C」とは、1つのセルCLから構成される電池を、未充電の状態から満充電の状態まで1時間で充電できる電流の大きさ(電流レート(A;アンペア))であって、1時間で電流値が0になるまで充電された容量を1時間で放電するための電流値を示す。
【0042】
電流検出部CDによって正常に電流が検出された場合には、短絡は発生していないものとして(ステップS17−1においてNO)、充放電の特性をみるための通常の検査に戻り、短絡欠陥の修復工程を終了する。
【0043】
一方、正常に電流が検出されず、短絡があると判断された場合には(ステップS17−1においてYES)、その短絡欠陥の修復を行う。まず、制御回路25により、欠陥数検出用の電流を供給して、サーモグラフィTHにより短絡欠陥数を検出する(ステップS17−2)。例えば、セルCLに対し逆方向バイアスを印加して、100C未満の電流を供給して、サーモグラフィTHにより積層体Lから放射される赤外線等の強度を検出することにより、積層体Lの上面10a側の温度分布を計測する。そして、サーモグラフィTHに接続されたモニタ部MNにより、積層体Lのうち局所的に温度が上昇した温度上昇部の数を目視等により検出し、温度上昇部の数を、短絡欠陥数Nとする。即ち、積層体L内にピンホール、クラック等の欠陥が形成されていると、その欠陥を介して正極用集電体層12と負極用集電体層15とが導通されて短絡が生じる。その短絡した箇所には電流が集中し、欠陥が無い箇所に比べて温度が上昇するため、サーモグラフィTHを介して検出された温度上昇部の数は短絡欠陥数とほぼ同じになる。尚、短絡欠陥数を検出する際にセルCLに対し順方向バイアスを印加するようにしてもよい。
【0044】
次に、セルCLに対し修復電流を供給する(ステップS17−3)。この修復電流は、電気量(アンペア時;Ah)、即ち電流値(A)・パルス時間(sec)で規定される。そして、その電流値は、短絡欠陥当たり100C以上10000C以下であることが好ましい。また、制御回路25により、短絡欠陥当たり上記範囲の値を有するパルス状の電流
を、1パルスだけ供給する。換言すると、100C以上10000C以下の電流値に短絡欠陥数Nを乗算した大きさの電流を、1パルスだけ供給する。その結果、各短絡欠陥部に電流がそれぞれ集中し、電流の集中により発生する熱によって各短絡欠陥部の金属が絶縁体とされ、短絡欠陥部が消失する。尚、ここではパルス状の電流を1パルスだけ供給したが、複数パルスの電流を供給してもよい。この場合、デューティー比は、0.5〜0.1でよい。
【0045】
このとき、セルCLに供給される電流の値が100C未満だと、短絡欠陥部を確実に消失させることができない。また、電流値が10000C超の場合には、セルCLに大きな負荷がかかり、電池温度の上昇、変形等を招来し、電池機能が破壊される可能性が高い。
【0046】
また、10000C以下の電流値であっても、セルCLには負荷がかかるため、供給する修復電流のパルス数は、1パルス等、少なくする。これにより、電池機能の劣化を抑制することができる。
【0047】
さらに、スパッタリング法により形成される層では、一般にCVD法により形成される層に比較してパーティクルの発生頻度が高い。このため、スパッタリング法により形成される全固体リチウム二次電池10では、CVD法により形成される全固体リチウム二次電池と比較して、短絡欠陥の発生頻度が高くなる。短絡欠陥の発生頻度が低い製造方法であれば、正極活物質層13と負極活物質層16との間に供給する電流の電流値を段階的に高め、その電流値を高める各段階毎に短絡欠陥の有無を確認していくと、全固体リチウム二次電池へのダメージを軽減することができる。一方、短絡欠陥の発生頻度が高い製造方法で上記したように電流値を段階的に高める修復工程が実施されるとなれば、電流を高める頻度が多くなる。このため、修復工程において電流を1パルスだけ供給することにより、工程時間を短縮化することができる。
【0048】
修復電流を供給すると、修復が完了したか否かを判断する(ステップS17−4)。即ち、修復電流を1回供給すれば、大抵の場合は短絡欠陥を完全に消失させることができるが、例えば多数の短絡欠陥が生じている場合には、それらの短絡欠陥のうち一部が消失されないことも想定されるためである。このとき例えばステップS17−1と同様に、100C以下の電流をセルCLに供給する。電流検出部CDにより電流値を検出し、電流が正常に流れている場合には、修復が完了したと判断し(ステップS17−4においてYES)、検査工程を終了する。
【0049】
回路に電流が正常に流れていない場合には(ステップS17−4においてNO)、ステップS17−2に戻り短絡欠陥数を検出し、修復電流を供給する(ステップS17−3)。そして、以下、修復が完了するまで、短絡欠陥数の検出(ステップS17−2)と修復電流の供給(ステップS17−3)を繰り返す。
【0050】
そして、ステップS17−4において修復が完了したと判定し、積層体Lの修復が完了すると、積層体Lからなるセルを単数又は複数用いてパッケージ化を行う(ステップS18)。例えば複数のセルを用いる場合は、各セルを並列又は直列に接続し、その互いに接続された複数のセルを、サーミスタ、温度ヒューズ等の保護素子とともにプラスチック等のケースに収容して電池パッケージを作製する。即ち、短絡欠陥が修復されたセルCLを用いてパッケージ化が行われるため、例えばパッケージした後に短絡を発見し、短絡を有するセルCLに直列接続又は並列接続された他のセルCLを廃棄したり、或いは電池パッケージを解体して、不良であるセルCLを取り除く等の手間を省略できる。
【0051】
パッケージ化された全固体リチウム二次電池10は、出荷前の検査工程が行われる(ステップS19)。例えば、高温下での充放電、室温下での充放電、電池特性の測定等を行
ってもよい。このとき、電池パッケージは、上記検査システム20の充電回路21に接続されて充電される。このように充放電が繰り返されることにより活物質を活性化することができる。充放電を所定回数繰り返した後、充電した全固体リチウム二次電池10は、自然放電されて放電後の電圧が測定され、電圧差が大きい電池は不良と判定される。従って、ここで用いられる充電回路21を、上記修復工程(ステップS17)で用いることができるので、修復用の回路を別途設ける必要が無い。
【0052】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、全固体リチウム二次電池10の製造方法は、基材11に正極活物質層13を形成する正極活物質層形成工程(ステップS12)と、正極活物質層13に接続される固体電解質層14を形成する電解質層形成工程(ステップS13)とを有する。また、固体電解質層14に接続される負極活物質層を形成する負極活物質層形成工程(ステップS15)を有する。さらに、正極活物質層13と負極活物質層16との間にパルス状の電流を供給して正極活物質層13と負極活物質層16との間に生じた短絡欠陥を修復する修復工程(ステップS17)を有する。このため、製造の過程で短絡欠陥が生じても、こうした短絡欠陥による歩留りの低下を抑制することができる。
【0053】
(2)上記実施形態では、積層体Lに欠陥数検出用の電流を供給した状態で、積層体Lの温度分布をサーモグラフィTHにより測定した。そして、電流供給前と比較して局所的に温度が上昇した温度上昇部の数を、短絡欠陥数Nとして検出した。さらに、1つの短絡欠陥あたり100C以上10000C以下の大きさの電流を積層体Lに供給して、短絡欠陥が生じた箇所の金属を絶縁化した。このように短絡欠陥数に比例した電流を流すので、電池へのダメージを軽減し、修復工程で電池機能が失われるようなことを防止することができる。また、電流値を上記範囲とすることにより、短絡欠陥が十分に修復され難くなること、及び電池機能を失うことの両方を抑制することができる。
【0054】
(3)上記実施形態では、正極活物質層13、固体電解質層14、及び負極活物質層16を、スパッタリング法により形成した。そして修復工程では電流を1パルスだけ供給した。即ち、スパッタリング法により形成される層では、一般にCVD法により形成される層に比較してパーティクルの発生頻度が高い。このため、スパッタリング法により形成される全固体リチウム二次電池10では、CVD法により形成される全固体リチウム二次電池と比較して、短絡欠陥の発生頻度が高くなる。短絡欠陥の発生頻度が低い製造方法であれば、正極活物質層13と負極活物質層16との間に供給する電流の電流値を段階的に高め、その電流値を高める各段階毎に短絡欠陥の有無を確認していくと、全固体リチウム二次電池10へのダメージを軽減することができる。一方、短絡欠陥の発生頻度が高い製造方法で上記したように電流値を段階的に高める修復工程が実施されるとなれば、電流を高める頻度が多くなる。このため、修復工程において電流を1パルスだけ供給することにより、工程時間を短縮化することができる。
【0055】
(4)上記実施形態では、全固体リチウム二次電池10を充電又は放電した際の特性に基づき短絡欠陥の有無を判断するので、出荷前の検査と短絡欠陥の修復工程を兼ねることができる。このため、修復工程を短縮化することができる。
【0056】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2の実施形態を図5にしたがって説明する。なお、第2の実施形態は、第1実施形態の検査方法を変更したのみの構成であるため、同様の部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0057】
第1実施形態では、短絡欠陥の数を予測して電流を1パルスだけ供給したが、本実施形態では、短絡欠陥の数を予測せず、電流値を段階的に上昇させて、短絡欠陥を修復する。
即ち上記したステップS17−2は省略される。また、検査システム20のサーモグラフィTH及びモニタ部MNは省略可能であって、電池容量等を検査する通常の検査システムを用いることができる。また、本実施形態では、サーモグラフィTHによる温度変化の検出は行わないため、パッケージ化が終了した全固体リチウム二次電池10を検査対象とすることができる。
【0058】
図4に示すステップS17−1は通常に行われ、短絡があると判定されると(ステップS17−1においてYES)、ステップS17−3では、電流値を段階的に大きくしながら定電流を供給する。即ち、図5に示すように、セルCLに供給する定電流の大きさを、例えば5mA,10mA,20mA,50mAというように段階的に大きくする。また、定電流が供給される時間は、それぞれ2秒である。
【0059】
図5に、シャント抵抗を含む回路の電圧を測定した場合の電圧変化Aを図中上側に示し、セルCLの開放端電圧を検出した電圧変化Bを図中下側に示す。シャント抵抗を含めて電圧変化を測定した場合には、電流値を段階的に上昇するにつれて、測定される電圧が大きくなる。これは、シャント抵抗によるものであって、短絡欠陥の修復を示すものではない。また、図5では、開放端電圧は、定電流値が5mA〜20mAの範囲にあるときは、大きくならない。これは、短絡欠陥は5mA〜20mAの範囲では修復されていないことを示している。
【0060】
そして、50mAの定電流が供給されると、わずか1秒後に、セル単位の電圧も開放端電圧も急激に上昇していることから、短絡欠陥が修復されたことがわかる。しかし、上記したようにセル単位電圧では、電流値を段階的に上昇させる際に、シャント抵抗による電圧上昇がみられる一方、開放端電圧は、電流値を段階的に上昇させても、短絡欠陥が修復される前は電圧値は変化がみられず、短絡欠陥が修復されると電圧値が急上昇する。このため、開放端電圧を測定した場合では、短絡が修復される前と修復された後との電圧差が大きいため、開放端電圧を用いて短絡修復のタイミングを判断したほうが明確に且つ容易に短絡欠陥の修復を確認することができる。
【0061】
第2実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(5)第2実施形態では、全固体リチウム二次電池10の開放端電圧を検出して、修復完了のタイミングを判断する。このため、シャント抵抗等を含む回路の電圧を検出するよりも、電圧変化が明瞭であるため、欠陥修復の完了のタイミングをより的確且つ容易に判断することができる。
【0062】
(6)第2実施形態では、正極活物質層13と負極活物質層16との間に供給する電流の値を段階的に大きくする。このため、短絡欠陥数が不明な場合でも、段階的に電流を上げていくことで、短絡欠陥を修復可能な最小の電流値に到達できるため、電池へのダメージを低減しつつ、確実に短絡欠陥を修復することができる。
【0063】
尚、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、全固体リチウム二次電池10は、図1に示すような構成以外の電池構成でもよい。
【0064】
・上記実施形態では、修復工程に使用する回路と、検査工程に使用する回路とを同一の充電回路21としたが、各工程毎に回路を別途設けるようにしてもよい。
・上記実施形態では、サーモグラフィTHを用いて短絡欠陥数Nを検出するようにし、1つの短絡欠陥あたり100C以上10000C以下の電流を供給するようにしたが、短絡欠陥数の検出工程を省略しても良い。即ち、短絡があると判断した後、100C以上10000C以下の電流値を1パルスのみ供給する工程と、短絡が消失したか否かを判断す
る工程とを繰り返すようにしてもよい。
【0065】
・正極用集電体層12、正極活物質層13、固体電解質層14、負極用集電体層15、負極活物質層16の成膜方法は特に限定されず、例えばドライ(乾式)成膜法(スパッタリング、蒸着、CVD、PLD、電子ビーム蒸着等)及びウエット(湿式)成膜法(スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット式印刷等)を用いることができる。
【符号の説明】
【0066】
L…積層体、10…全固体リチウム二次電池、11…基材、13…第1活物質層としての正極活物質層、14…固体電解質層、16…第2活物質層としての負極活物質層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に第1活物質層を形成する第1活物質層形成工程と、
前記第1活物質層に接続される固体電解質層を形成する電解質層形成工程と、
前記固体電解質層に接続される第2活物質層を形成する第2活物質層形成工程と、
前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に電流を供給して前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に生じた短絡欠陥を修復する修復工程とを有することを特徴とする全固体リチウム二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記修復工程は、1つの短絡欠陥あたり100C以上10000C以下の電流値を予測される短絡欠陥数に乗じた値の電流を前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に供給する請求項1に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記修復工程では、前記全固体リチウム二次電池を充電又は放電した際の特性に基づき短絡欠陥の有無を判断する請求項1又は2に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記修復工程では、前記全固体リチウム二次電池の開放端電圧を検出して修復完了したか否かを判定する請求項1〜3のいずれか1項に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記修復工程は、前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に100C未満の電流を供給した状態で、前記第1活物質層及び前記第2活物質層を含む積層体の温度分布を測定し、電流供給前と比較して局所的に温度が上昇した温度上昇部の数を検出することにより短絡欠陥の数を検出する請求項1〜4のいずれか1項に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記修復工程では前記電流を1パルスだけ供給する請求項1〜5のいずれか1項に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記修復工程では、前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に供給する電流の値を段階的に大きくする請求項1〜6のいずれか1項に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法。
【請求項8】
基材と、該基材に形成された第1活物質層と、該第1活物質層に接続される固体電解質層と、該固体電解質層に接続される第2活物質層とを有する全固体リチウム二次電池の検査方法において、
前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に電流を供給して前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に生じた短絡欠陥を修復する修復工程を有することを特徴とする全固体リチウム二次電池の検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−138299(P2012−138299A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290977(P2010−290977)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】