説明

全方向移動車輌

【課題】屋外の悪路や段差などを有する場所では強力な走破性を発揮し、屋内などの狭い場所では全方向へ移動可能な走行機能を発揮する、全方向用移動車輌を提供する。
【解決手段】左右の前輪20L,20Rと、左右の後輪30L,30Rと、前輪及び後輪を支持するボディ40と、を備え、前輪及び後輪をそれぞれ車輪外周に沿って並んで配置した複数個の回転体を有し、各回転体をそれぞれ車輪の回転軸と直交する軸まわりに回転可能に支持した全方向用移動車輌であって、ボディ40の四つのコーナー部で車輌上下方向へ延び前輪20L,20R及び後輪30L,30Rを取り付けた鉛直回転軸60と、これらの鉛直回転軸まわりに前輪及び後輪を回転させる回転手段70と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪外周に沿って並んで配置した複数個の回転体を備え、各回転体がそれぞれ車輪回転軸と直交する軸まわりに回転可能に支持されている車輪を旋回式に配設した4輪型の車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人が移動するための手段として車輪を備えた各種の走行装置が知られている。この種の走行装置は、少なくとも3輪又は4輪をボディのコーナー部やそれに近接した部位に配設している。
【0003】
この種の車輌として、一対の前輪と一対の駆動輪としての後輪とを備え、各車輪の車軸を車幅方向に配設したタイプ、即ち各車輪を非旋回式にボディに取り付けた車輌が知られている。このような車輌では車輪自体が向きを変えないので、左側と右側の駆動輪に回転数の差を与えることで、進行方向を変えている。
【0004】
車輪が向きを変えない車輌の走行機能を高めるために、図4(A)に示す全方向車輪200が開発されている。全方向車輪200は、車輪の外周縁に沿って複数の回転体210を備えている。各回転体210は、例えば、図4(B)に示すように、円盤状の底部211から開口部212に向けて次第に拡開するように形成され、カップ状に形成されている。各回転体210は、その先細の底部領域が他の回転体の開口部212から内部に部分的に入り込むように配設され、各回転体210が連なることで、各回転体210によって円状の輪郭が画成される。この種の全方向車輪200が特許文献1〜5に開示されている。
【0005】
さらに、近年では、上記全方向車輪200を備えた四輪駆動型車輌として、全方向への移動をより一層円滑に行えるタイプが開発されている。例えば、図5に示す四輪駆動型車輌300は、ボディの四隅にそれぞれ配設された全方向車輪200と、各全方向車輪を別々に駆動するように各全方向車輪に設けられたモーター250と、を備え、各全方向車輪200の車軸220(図4(A)参照)がボディ260の中心Z側を向くように車幅方向から傾けて配置されている。
この四輪駆動型車輌300は、図5に示すように、モータードライバー310と、モータードライバー310を制御する制御コンピューター320と、この制御コンピューター320へ指示信号を送信するジョイスティック又はロボットコントローラ330と、を備えている。ジョイスティック330には、レバーやつまみが設けられており、操作者がレバーやつまみを回すと、その指示値が制御コンピューター320で読み取られ、さらに制御コンピューター320によって各モーター250の回転数をマトリックス演算で計算して、制御コンピューター320からモータードライバー310へ速度情報が送られる。そして、モータードライバー310は速度情報に基づいて各モーター250を駆動する。これにより、四輪駆動型車輌300は下記のように走行する。
【0006】
図6(A)に示すように、制御コンピューター320及び各モータードライバー310が各モーター250を制御して、各車輪200を正転させると、四輪駆動型車輌300は前進する。
図6(B)に示すように、右側の前輪200と左側の後輪200を正転させ、その他の車輪200、即ち左側の前輪と右側の後輪を回転させない場合には、四輪駆動型車輌300は左前方に進む。この場合、右側の前輪200と左側の後輪200を反転させると、四輪駆動型車輌300は右後方へ斜めに移動する。図6(B)とは逆に、右側の前輪200と左側の後輪200の回転を停止し、その他の車輪200、即ち左側の前輪200と右側の後輪200を正転又は反転させると、四輪駆動型車輌300は右前方又は左後方へ向けて斜めに移動する。
【0007】
図6(C)に示すように、制御コンピューター320及び各モータードライバー310が、左側の車輪200を正転させ、右側の車輪200を反転させ、その際に、各車輪200の回転速度が同じであれば、四輪駆動型車輌300はその場で回転する。各車輪200の回転方向を図6(C)とは逆にすると、四輪駆動型車輌300はその場で反時計回りに回転する。
【0008】
このように、四輪駆動型車輌300によれば、回転を含む全方向移動が可能になる。この四輪駆動型車輌300を電動車椅子として構成した場合、この電動車椅子は狭い部屋において切り返し操作なしに横方向への移動が行えて便利である。また、電動車椅子に限らず、フォークリフトや無人搬送車(Automated Guided Vehicle; AGV)などの重量級の車輌やロボットに、四輪駆動型車輌300を適用した場合には、全方向へ移動可能であるため、微妙な位置あわせも素早く行うことができる。
この種の四輪駆動型車輌が特許文献6に開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開2002−58707号公報
【特許文献2】特開2002−137602号公報
【特許文献3】特開2003−154802号公報
【特許文献4】特開2003−154803号公報
【特許文献5】特開2005−343277号公報
【特許文献6】特開2005−47312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、図5に示すような四輪駆動型車輌300は、進行方向に段差がある場合、その段差を乗り越える力が弱く、段差などの傷害物が多い屋外での走行は不向きである。
【0011】
本発明は、以上の点に鑑みて創作されたもので、屋外の悪路や段差などを有する場所では強力な走破性を発揮し、屋内などの狭い場所では全方向へ移動可能な走行機能を発揮する、全方向用移動車輌を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、左右の前輪と、左右の後輪と、前輪及び後輪を支持するボディと、を備え、前輪及び後輪がそれぞれ車輪外周に沿って並んで配置された複数個の回転体を有し、各回転体がそれぞれ車輪の回転軸と直交する軸まわりに回転可能に支持されている全方向用移動車輌であって、ボディの四つのコーナー部で車輌上下方向へ延び前輪及び後輪が取り付けられた鉛直回転軸と、これらの鉛直回転軸まわりに前輪及び後輪を回転させる回転手段と、を備えたことを特徴としている。
本発明の全方向用移動車輌において、好ましくは、回転手段が、左右の前輪を同時に回転させる前輪用回転手段や、左右の後輪を同時に回転させる後輪用回転手段を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、路面状況に応じて、ボディに対する車輪の向きを容易に変えることができる。よって、屋外の悪路や段差などを有する場所では強力な走破性を発揮し、屋内などの狭い場所では全方向へ移動可能な走行機能を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。なお、図中のFrは全方向移動車輌の前方を、LHは全方向移動車輌の幅方向であって左方を示す。
図1は本発明の実施形態に係る全方向移動車輌10の平面図である。
この全方向移動車輌10は、左右の前輪(以下、単に車輪と言う場合がある)20L,20Rと、左右の後輪(以下、単に車輪と言う場合がある)30L,30Rと、前輪20L,20R及び後輪30L,30Rを支持するボディ40と、を備えている。
この全方向移動車輌10では、各車輪20L,20R,30L,30Rは図4に示すような全方向車輪として構成されている。これらの各車輪20L,20R,30L,30Rにはホイールインモーター50が取り付けられている。
【0015】
さらに、本実施形態では、これらの各車輪20L,20R,30L,30Rがボディ40に対して旋回式、即ち回転軸220(図4参照)がその軸芯の向きを変えられるように配設されていることを特徴としている。
【0016】
各車輪20L,20R,30L,30Rがボディ40に対して旋回式に配設されるように、ボディ40の四つのコーナー部には、車輌上下方向へ延びた鉛直回転軸60がそれぞれ配設されている。各鉛直回転軸60は、図示省略するが、例えばボディ40のコーナー部に固定したブラケットに回転可能に取り付けられている。これらの各鉛直回転軸60には、前輪20L,20R及び後輪30L,30Rのホイールインモーター50を構成するケース51が固定される。例えば、各ホイールインモーター50のケース51に固定したブラケット(図示省略)が、対応する鉛直回転軸60に固定されている。
【0017】
本実施形態の全方向移動車輌10は、これらの鉛直回転軸60まわりに前輪20L,20R及び後輪30L,30Rを回転させるために、回転手段70を備えている。回転手段70は、左右の前輪20L,20Rを同時に回転させる前輪用回転手段71と、左右の後輪30L,30Rを同時に回転させる後輪用回転手段72と、を備えている。
【0018】
前輪用回転手段71は、前輪旋回用モーター71Aと、前輪旋回用レバー71Bと、前輪旋回用第1ロッド71Cと、前輪旋回用第2ロッド71Dと、を有する。
ここで、前輪旋回用モーター71Aは、ボディ40に固定されており、図示例では、ボディ40を構成する長方形型のプレート41の上面における前側に固定されている。この前輪旋回用モーター71Aは前輪旋回用回転軸71Eを有し、この前輪旋回用回転軸71Eは左右の前輪20L,20Rにおける幅方向の中間部で車輌上下方向へ突出している。
【0019】
前輪旋回用レバー71Bは長手方向の中間位置で前輪旋回用回転軸71Eに取り付けられ前輪旋回用回転軸71Eと共に回転するものである。この前輪旋回用レバー71Bの一端部と左側の前輪20Lとにそれぞれ回転可能に前輪旋回用第1ロッド71Cが取り付けられ、前輪旋回用レバー71Bの他端部と右側の前輪20Rとにそれぞれ回転可能に前輪旋回用第2ロッド71Dが取り付けられている。前輪旋回用第1ロッド71Cと前輪旋回用第2ロッド71Dとは、図1に示すように、ケース51の内面において、鉛直回転軸60の取付位置より後方の位置に連結している。
【0020】
これらの前輪旋回用第1ロッド71C及び前輪旋回用第2ロッド71Dの長さL1は、図1に示すように、ボディ40の幅Wの半分(W×1/2)よりも長く設定されている。
前輪旋回用モーター71Aの駆動によって前輪旋回用回転軸71E及び前輪旋回用レバー71Bが回転して各前輪旋回用第1ロッド71C及び前輪旋回用第2ロッド71Dが移動することで、鉛直回転軸60まわりに前輪20L,20Rが回転する。即ち、図1に矢印Aで示すように、前輪旋回用モーター71A及び前輪旋回用レバー71Bが右回転すると、前輪旋回用第1ロッド71C及び前輪旋回用第2ロッド71Dが左右に押し出されて、左右の前輪20L,20Rはハの字状に開く。
【0021】
なお、前輪旋回用レバー71Bには回転センサー(図示省略)が取り付けられている。例えば、回転センサーとしてのロータリエンコーダーが前輪旋回用回転軸71Eに取り付けられており、このロータリエンコーダーを介して前輪旋回用レバー71Bが前輪旋回用回転軸71Eに取り付けられている。このような回転センサーによって前輪20L,20Rの開き角度θが計算される。この角度θは制御コンピューター92(後述の図2参照)へ送られて、各モーター50の回転数が計算される。各モーター50の回転数がモータードライバー91(後述の図2参照)へ送出されてモーター50が駆動される。
【0022】
前輪20L,20Rのボディ40に対する開き角度θを小さくするには、上記とは逆に、前輪旋回用レバー71Bを反時計方向へ回転させて、前輪旋回用第1ロッド71C及び前輪旋回用第2ロッド71Dを内側に引き込む。
前輪旋回用モーター71Aの駆動によって前輪旋回用回転軸71E及び前輪旋回用レバー71Bが回転して各前輪旋回用第1ロッド71C及び前輪旋回用第2ロッド71Dが移動することで、鉛直回転軸60まわりに前輪20L,20Rが回転する。
【0023】
後輪用回転手段72は、後輪旋回用モーター72Aと、後輪旋回用レバー72Bと、後輪旋回用第1ロッド72Cと、後輪旋回用第2ロッド72Dと、を有する。
ここで、後輪旋回用モーター72Aは、ボディ40に固定されており、図示例では、ボディ40を構成するプレート41の上面における後側に固定されている。この後輪旋回用モーター72Aは後輪旋回用回転軸72Eを有し、この後輪旋回用回転軸72Eは左右の後輪30L,30Rにおける幅方向の中間部で車輌上下方向へ突出している。
後輪旋回用レバー72Bは長手方向の中間位置で後輪旋回用回転軸72Eに取り付けられ後輪旋回用回転軸72Eと共に回転するものである。この後輪旋回用レバー72Bの一端部と左側の後輪30Lとにそれぞれ回転可能に後輪旋回用第1ロッド72Cが取り付けられ、後輪旋回用レバー72Bの他端部と右側の後輪30Rとにそれぞれ回転可能に後輪旋回用第2ロッド72Dが取り付けられている。後輪旋回用第1ロッド72Cと後輪旋回用第2ロッド72Dとは、図1に示すように、ケース51の内面において、鉛直回転軸60の取付位置より前方の位置に連結している。
【0024】
これらの後輪旋回用第1ロッド72C及び後輪旋回用第2ロッド72Dの長さL2は、図1に示すように、ボディの幅Wの半分(W×1/2)よりも長く設定されている。
後輪旋回用モーター72Aの駆動によって後輪旋回用回転軸72E及び後輪旋回用レバー72Bが回転して各後輪旋回用第1ロッド72C及び後輪旋回用第2ロッド72Dが移動することで、鉛直回転軸60まわりに後輪30L,30Rが回転する。即ち、後輪旋回用モーター72A及び後輪旋回用レバー72Bが右回転すると、後輪旋回用第1ロッド72C及び後輪旋回用第2ロッド72Dが左右に押し出されて、左右の後輪30L,30Rは逆ハの字状に開く。
【0025】
なお、後輪旋回用レバー72Bには回転センサー(図示省略)が取り付けられている。例えば、回転センサーとしてのロータリエンコーダーが後輪旋回用回転軸72Eに取り付けられており、このロータリエンコーダーを介して後輪旋回用レバー72Bが後輪旋回用回転軸72Eに取り付けられている。このような回転センサーによって後輪30L,30Rの開き角度が計算される。この角度は制御コンピューター92(後述の図2参照)へ送られて、各モーター50の回転数が計算される。各モーター50の回転数がモータードライバー91(後述の図2参照)へ送出されてモーター50が駆動される。
【0026】
後輪30L,30Rのボディ40に対する開き角度を小さくするには、上記とは逆に、後輪旋回用レバー72Bを反時計方向へ回転させて、後輪旋回用第1ロッド72C及び後輪旋回用第2ロッド72Dを内側に引き込む。
後輪旋回用モーター72Aの駆動によって後輪旋回用回転軸72E及び後輪旋回用レバー72Bが回転して各後輪旋回用第1ロッド72C及び後輪旋回用第2ロッド72Dが移動することで、鉛直回転軸60まわりに後輪30L,30Rが回転する。
【0027】
さらに、本実施形態の後輪30L,30Rには、ブレーキ装置80が設けられている。なお、本実施形態では、例えば特開2004−344289号公報の段落(0017)やその図4に開示されているロータブレーキを、ブレーキ装置80として利用することができる。このブレーキ装置80は、後輪30L,30Rの回転を抑えるものではなく、後輪30L,30Rを成す図4に示すような全方向車輪200の各回転体210の回転を抑えるものである。このブレーキ装置80を作動させると、各回転体210の回転が規制されることで後輪30L,30Rは横方向への移動ができなくなる。なお、後輪30L,30R自体の回転軸220(図4参照)まわりの回転は、例えば後輪30L,30Rのモーターに取り付けた電磁ブレーキによって抑えられる。
【0028】
図2は、本発明の実施形態に係る全方向移動車輌10における制御系のブロック図である。全方向移動車輌10は図2に示すように、モータードライバー91と、モータードライバー91を制御する制御コンピューター92と、この制御コンピューター92へ指示信号を送信するジョイスティック又はロボットコントローラ93と、を備えている。図において、50は走行用のモーターで、80はブレーキ装置、71A,72Aはレバー駆動用のモーター、94は回転センサー(所謂角度センサー)である。
本実施形態において、ジョイスティック又はロボットコントローラ93から制御コンピューター92へは、例えば、前輪20L,20R及び/又は後輪30L,30Rを旋回させる旋回信号と、前輪20L,20R及び/又は後輪30L,30Rを回転させて走行するための走行信号と、走行信号中に減速させるための停止信号とが送られる。
【0029】
制御コンピューター92は、旋回信号を受けた場合、レバー駆動用のモーター即ち前輪旋回用モーター71Aや後輪旋回用モーター72Aを駆動して、前輪旋回用レバー71Bや後輪旋回用レバー72Bを回転させる。これらのレバー71B,72Bの回転によって、レバー71B,72Bに連結された第1ロッド71C,72C及び第2ロッド71D,72Dが移動して、前輪20L,20R及び後輪30L,30Rが鉛直回転軸60のまわりに回転して、ボディ40に対する角度を変える。
【0030】
制御コンピューター92は、走行信号を受けた場合、回転センサー94によって前輪20L,20Rや後輪30L,30Rの開き角度が計算されて、この角度が制御コンピューター92へ送られる。各モーター50の回転数が計算されて、各モーター50の回転数がモータードライバー91へ送出されてモーター50が駆動される。これにより、車輪が回転して全方向移動車輌10は走行する。
【0031】
制御コンピューター92は、後輪30L,30Rの回転体210の回転を停止する信号を受けた場合、ブレーキ装置80を起動させる。これにより、後輪30L,30Rの回転体210の回転が抑えられて、全方向移動車輌10の後輪30L,30Rは、一般的なタイヤのように、回転軸220(図4参照)まわりの回転方向に進行する。
制御コンピューター92は、車両を停止する信号を受けた場合、後輪30L,30Rの電磁ブレーキを起動させて、後輪30L,30Rの回転を抑制する。これにより、全方向移動車輌10は減速し、回転を抑制する時間が長ければ車輌は停止する。
【0032】
このように構成された全方向移動車輌は、例えば、図3(A)〜(C)に示すようなモードで走行することができる。
図3(A)は四輪駆動モードの全方向移動車輌10を示す図であり、この四輪駆動モードは、前輪20L,20R及び後輪30L,30Rの各回転軸220が前後方向と直交した方向、即ち各車輪の回転方向が全て前後方向に向いている。
このモードでは、ブレーキ装置80が作動して、後輪30L,30Rの各回転体210は回転が抑えられるため、後輪30L,30Rは一般的なタイヤのように機能し、回転軸220まわりの回転方向に車両を進行させる役割を果たす。
よって、全ての車輪が同じ方向に回転することが可能になる。これにより、全ての車輪を正転方向へ回転させると、前方への高い走破性を発揮することができて、例えば、屋外の段差、砂浜、雪道等の不整地でも良好な走行を行える。
【0033】
図3(B)はハイブリットモードの全方向移動車輌10を示す図であり、このハイブリットモードは、図3(A)に示す四輪駆動状態から前輪20L,20Rのみを前輪旋回用モーター71Aで鉛直回転軸60まわりに回転させて、ハの字に開く。後輪30L,30Rは、その回転軸220を前後方向と直交させる方向、即ち後輪30L,30Rの回転方向を全て前後方向へ向けている。
このハイブリットモードでは、全方向移動車輌10は四輪駆動モード又は全方向移動モードで走行することができる。
四輪駆動モードでは、ブレーキ装置80が作動して、後輪30L,30Rの各回転体210は回転が抑えられて、後輪30L,30Rを一般的なタイヤのように機能させ、後輪30L,30Rは回転軸220まわりの回転方向に車両を進行させる。
全方向移動モードでは、ブレーキ装置80を作動させずに、後輪30L,30Rの各回転体210の回転が許容されて、後輪30L,30Rは一般的なタイヤと異なり横方向への移動が可能になる。
このハイブリットモードの内、四輪駆動モードによれば、後輪30L,30Rが正転方向へ回転することで前方への走行性を高める役割を果たす。一方、全方向移動モードによれば、左右の各前輪20L,20Rと左右の各後輪30L,30Rとを正転或いは逆転側へ回転させることで、方向転換を容易に行える。
【0034】
図3(C)は全方向移動モードの全方向移動車輌10を示す図であり、図3(B)に示す四輪駆動状態から後輪30L,30Rを後輪旋回用モーター72Aで鉛直回転軸60まわりに回転させて、逆ハの字に開く。各四輪を回転制御することで、全方向移動車輌10は全方向への移動を容易に行え得る。これにより、屋内の狭い場所で切り返しなどの面倒な操作無しに自由な移動が出来る。なお、全方向移動モードでは、例えば、四輪駆動モードやハイブリッドモードと異なり、ブレーキ装置80は常に開放しておく。
各モードの切り換えは、図3(A)における四輪駆動モード、図3(B)における四輪駆動モード、図3(B)における全方向移動モード、図3(C)における全方向移動モードの順番或いは逆の順に従う。
【0035】
このように、本発明の実施形態に係る全方向移動車輌10は、四輪駆動モードにおいて屋外の悪路や段差などを有する場所では強力な走破性を発揮し、全方向移動モードにおいて屋内などの狭い場所では全方向へ移動可能な走行機能を発揮し、ハイブリッドモードでは四輪駆動モードや全方向移動モードよりも効果は低いが両方の機能を発揮することができる。
また、本発明の実施形態に係る全方向移動車輌10は、走行しながら四輪駆動モードと全方向移動モードとを切り替えられるので、ロボットやAVGの走行手段として全方向移動車輌10を適用した場合、ロボットやAVGの作業時間を短縮することができる。
【0036】
以上詳述したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施をすることができる。
実施の形態では、左右の前輪が前輪用回転手段71によって同時に鉛直回転軸60まわりに回転させられる場合を説明したが、左右の前輪20L,20Rが別々に鉛直回転軸60まわりに回転させられるように構成されてもよい。左右の後輪30L,30Rもそれぞれ個別に駆動制御されて鉛直回転軸60のまわりに回転させてもよい。
本発明は、ロボットやAVGに限らず、電動車椅子に適用することができる。
本発明の全方向移動車輌において、ボディの構造は上記構成例に限定されるものではなく、例えば、パイプ状の部材を組み合わせて、或いはパイプ状の部材と板状の部材とを組み合わせ構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る全方向移動車輌の平面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る全方向移動車輌における制御系のブロック図である。
【図3】(A)〜(C)は、図1の全方向移動車輌の走行方法を説明するための図である。
【図4】(A)は従来の全方向車輪を示す斜視図であり、(B)は全方向車輪の回転体を示す図である。
【図5】従来の四輪駆動型車輌を示す斜視図である。
【図6】(A)〜(C)は、図5の四輪駆動型車輌の走行方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0038】
10 全方向移動車輌
20L,20R 前輪
30L,30R 後輪
40 ボディ
41 プレート
50 ホイールインモーター
51 ケース
60 鉛直回転軸
70 回転手段
71 前輪用回転手段
71A 前輪旋回用モーター
71B 前輪旋回用レバー
71C 前輪旋回用第1ロッド
71D 前輪旋回用第2ロッド
71E 前輪旋回用回転軸
72 後輪用回転手段
72A 後輪旋回用モーター
72B 後輪旋回用レバー
72C 後輪旋回用第1ロッド
72D 後輪旋回用第2ロッド
72E 後輪旋回用回転軸
80 ブレーキ装置
91 モータードライバー
92 制御コンピューター
93 ロボットコントローラ
94 回転センサー
200 全方向車輪
210 回転体
211 底部
212 開口部
220 車軸
220 回転軸
A 矢印
W 幅
Z 中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の前輪と、左右の後輪と、上記前輪及び上記後輪を支持するボディと、を備え、上記前輪及び前記後輪がそれぞれ車輪外周に沿って並んで配置された複数個の回転体を有し、各回転体がそれぞれ車輪の回転軸と直交する軸まわりに回転可能に支持されている、全方向用移動車輌であって、
上記ボディの四つのコーナー部で車輌上下方向へ延び上記前輪及び上記後輪が取り付けられた鉛直回転軸と、これらの鉛直回転軸まわりに上記前輪及び上記後輪を回転させる回転手段と、を備えたことを特徴とする、全方向用移動車輌。
【請求項2】
前記回転手段が、左右の前輪を同時に回転させる前輪用回転手段を備えたことを特徴とする、請求項1に記載の全方向移動車輌。
【請求項3】
前記回転手段が、左右の後輪を同時に回転させる後輪用回転手段を備えたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の全方向移動車輌。
【請求項4】
前記前輪用回転部が、左右の前輪における幅方向の中間部で前輪旋回用回転軸を車輌上下方向へ突出させた前輪旋回用モーターと、長手方向の中間位置で上記前輪旋回用回転軸に取り付けられ当該前輪旋回用回転軸と共に回転する前輪旋回用レバーと、この前輪旋回用レバーの一端部と左側の前輪とに回転可能に取り付けられた前輪旋回用第1ロッドと、上記前輪旋回用レバーの他端部と右側の前輪とに回転可能に取り付けられた前輪旋回用第2ロッドと、を有し、
上記前輪旋回用モーターの駆動により上記前輪旋回用回転軸及び上記前輪旋回用レバーが回転して上記各前輪旋回用の第1及び第2ロッドが移動することで、上記鉛直回転軸まわりに上記前輪が回転することを特徴とする、請求項2又は3に記載の全方向移動車輌。
【請求項5】
前記後輪用回転部が、左右の後輪における幅方向の中間部で後輪旋回用回転軸を車輌上下方向へ突出させた後輪旋回用モーターと、長手方向の中間位置で上記後輪旋回用回転軸に取り付けられ当該後輪旋回用回転軸と共に回転する後輪旋回用レバーと、この後輪旋回用レバーの一端部と左側の前輪とに回転可能に取り付けられた後輪旋回用第1ロッドと、上記後輪旋回用レバーの他端部と右側の前輪とに回転可能に取り付けられた後輪旋回用第2ロッドと、を有し、
上記後輪旋回用モーターの駆動によって上記後輪旋回用回転軸及び上記後輪旋回用レバーが回転して上記各後輪旋回用第1及び第2ロッドが移動することで、上記鉛直回転軸まわりに上記後輪が回転することを特徴とする、請求項3又は4に記載の全方向移動車輌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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