説明

全芳香族ポリエステルアミドの製造方法

【課題】液晶性を有する全芳香族ポリエステルアミドの新規な製造方法を提供する。
【解決手段】ジアリ−ルカーボネート(A)の存在下、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)、芳香族ヒドロキシアミン(C)、芳香族ジカルボン酸(D)、および芳香族ジオール(E)とを、特定のピリジン系化合物触媒の存在下、溶融反応せしめることを特徴とする全芳香族ポリエステルアミドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性を有する全芳香族ポリエステルアミドの新規な製造方法に関するものである。さらに詳しく言えば、耐熱性に優れた成型物を与える液晶性の全芳香族ポリエステルアミドの新規な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、産業分野での技術の進歩、および省エネルギー指向などのため、有機高分子材料の高性能化、軽量化が求められている。ポリエステルは、一般に広く認知された汎用高分子であるが、多くのポリエステルは弾性率および強度が劣るため、高弾性率および高強度が要求される用途には適していなかった。しかし、ポリエステルの中でも全芳香族液晶性ポリエステルは、分子鎖が一定方向に配向する液晶相を有しており、溶融状態から液晶状態を経て固体になる時、液晶状態の構造を保持したまま硬化するので、分子鎖が強く配向した構造を示す。このため、このような光学異方性を有する全芳香族液晶性ポリエステルは、ポリエステルの機械的強度および耐熱性を向上させる。
【0003】
このような液晶ポリマーとしては、全芳香族ポリエステルの他にも、全芳香族ポリエステルカーボネート、全芳香族ポリエステルアミドがある。特に、全芳香族ポリエステルアミドは、全芳香族ポリエステルと比較して、分子間相互作用が大きいため、軟化温度が高く、耐熱性に優れた材料となる。
【0004】
特許文献1および特許文献2では、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および芳香族ヒドロキシアミンを使用して、無水酢酸のようなアシル化剤の存在下に、該原料モノマーを重合して、副生する脂肪族カルボン酸を留出除去しながら、重合反応を進行させることを特徴とする製造方法が提案されている。しかし、この方法において、副生する酢酸によって重合反応器の腐食が生じるため、高価な重合反応器を使用しなければならないといった問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−139674号公報
【特許文献2】特開2006−176797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐熱性に優れた液晶性全芳香族ポリエステルアミドの製造方法について鋭意研究を重ねた結果、重合反応器の腐食を促進させる酢酸などを副生成物として生じず、ジアリールカーボネート、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよび芳香族ジアミンとから安価に液晶性全芳香族ポリエステルアミドを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は ジアリ−ルカーボネート(A)の存在下、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)、芳香族ヒドロキシアミン(C)、芳香族ジカルボン酸(D)、および芳香族ジオール(E)とを下記式(1)および(2)の両方の式を満足する割合で、
【数1】

(式(1)および(2)中のa、b、c、dおよびeはそれぞれジアリールカーボネート(A)、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)、芳香族ヒドロキシアミン(C)、芳香族ジカルボン酸(D)および芳香族ジオール(E)の各仕込みモル数を示す)、下記式(F)
【化1】

(式(F)中、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基および炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれる。またこれらRとRは互いに結合してそれらが結合している窒素原子と一緒になって飽和もしくは不飽和の5〜7員環を形成してもよい。Rは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基および炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれる。nは0〜4の整数を示す。)
で表されるピリジン系化合物触媒の存在下、溶融反応せしめることを特徴とする全芳香族ポリエステルアミドの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の全芳香族ポリエステルアミドの製造方法はアシル化剤を用いないので重合反応器の腐食を促進させる酢酸などを副生成物として生じず、重合反応器の腐食を懸念することなく全芳香族ポリエステルアミドを製造することができる。また得られた全芳香族ポリエステルアミドは溶融成形性がよく、かつ、耐熱性が全芳香族ポリエステルに比べて優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で得られるポリマーは、下記式(I)、(II)、(III)、および(IV)で表される繰り返し部分を含む。
【0010】
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

ここで、Ar,Ar,ArおよびArは置換されてもよい芳香環である。
【0011】
本発明で得られるポリマーにおいて、具体的に(I)は、
【化6】

および/または、
【化7】

であり、(II)は、
【化8】

であり、(III)は、
【化9】

であり、(IV)は、
【化10】

であることが好ましい。
【0012】
本発明で得られるポリマーの特有粘度(μinh)は、好ましくは特有粘度が1.0dl/gから約12.0dl/gである。特有粘度(ηinh)は、0.1重量%濃度、温度60°Cにてペンタフルオロフェノール中で測定した相対粘度(ηrel)を基に下記式により求めた値である。
【0013】
本発明にかかる全芳香族ポリエステルアミドは、原料として、ジアリールカーボネート(A)、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)、芳香族ヒドロキシアミン(C)、芳香族ジカルボン酸(D)、芳香族ジオール(E)から得ることができる。芳香族ジカルボン酸(D)のカルボキシル基と芳香族ジオール(E)のヒドロキシル基の反応性は低いので、ヒドロキシル基との反応性を高める必要があり、本発明では、ジアリールカーボネートを添加しカルボキシル基をフェニルエステル化して反応を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明で使用するジアリールカーボネート(A)としては、ハロゲン原子などで置換された、もしくは未置換の炭素数13〜20のジアリールカーボネートが挙げられ、具体的にはジフェニルカーボネート、ジ−p−トリルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジ−p−クロロフェニルカーボネート、フェニル−p−トリルカーボネート等が挙げられるが、これらのうちジフェニルカーボネートが特に好ましい。これらジアリ−ルカーボネートは単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明で使用する芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)としては、ハロゲン原子などで置換されたもしくは未置換の炭素数7〜20の芳香族ヒドロキシカルボン酸が挙げられ、具体的にはp−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、3−メトキシ−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ジメトキシ−4−ヒドロキシ安息香酸、3−クロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、2,5−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、3−フェニル−4−ヒドロキシ安息香酸、2−フェニル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−フェノキシ−4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−5−クロロ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−5−メチル−2−ナフトエ酸、7−ヒドロキシ−5−メトキシ−2−ナフトエ酸、4−カルボキシ−4’−ヒドロキシビフェニルなどを例示できる。これらのうち、特にp−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が好ましい。これらは単独で使用しても2種以上を併用してもよいが、2種以上を併用するのが好ましい。また、芳香族ヒドロキシカルボン酸の一部をε−ヒドロキシカルボン酸のような脂肪族カルボン酸またはシクロヘキサンヒドロキシカルボン酸のような脂環族ヒドロキシカルボン酸で置換しても良い。
【0016】
本発明で使用する芳香族ヒドロキシアミン(C)は、ハロゲン原子などで置換されたもしくは未置換の炭素数6〜13の芳香族ヒドロキシアミンが挙げられるが、具体的には4−アミノフェノール、4−アセトアミドフェノール、1,4−フェニレンジアミン、N−メチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、3−アミノフェノール、3−メチル−4−アミノフェノール、2−クロロ−4−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニルエーテル、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニルメタン、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニルスルフィドなどが挙げられる。これらの芳香族ヒドロキシルアミンは単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0017】
本発明で使用する芳香族ジカルボン酸(D)は、ハロゲン原子などで置換されたもしくは未置換の炭素数8〜30の芳香族ジカルボン酸が挙げられるが、具体的にはナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6’−ジカルボン酸などを例示できる。また、芳香族カルボン酸の一部を、液晶性を損なわない範囲で、コハク酸、アジピン酸などのような脂肪族ジカルボン酸やシクロヘキサンジカルボン酸のような脂環族ジカルボン酸で置き換えても良い。また、これらの化合物は単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0018】
本発明で使用する芳香族ジオール(E)は、炭素数6〜30の芳香族ジオールが挙げられ、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、エチルヒドロキノン、プロピルヒドロキノン、ブチルヒドロキノン、クロロヒドロキノン、ブロモヒドロキノン、フェニルヒドロキノン、レゾルシノール、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,5−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン、ビスフェノールA、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−スルホン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンなどを例示できる。なお、液晶性を損なわない程度で脂肪族ジオール、例えばエチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどや脂環族ジオール、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなどのような他種のジオールの1種または2種以上を使用しても良い。これらの芳香族ジオールは単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0019】
本発明において、(A)〜(E)の原料を下記式(1)および(2)
【数2】

(式(1)および(2)中の(a)、(b)、(c)、(d)および(e)はそれぞれジアリールカーボネート(A)、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)、芳香族ヒドロキシアミン(C)、芳香族ジカルボン酸(D)および芳香族ジオール(E)の各仕込みモル数を示す。)
の両方の式を満足する割合で用いる必要がある。
【0020】
上記式(1)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と芳香族ジカルボン酸(D)の仕込みモル数の和に対するジアリールカーボネート(A)の仕込みモル数を示している。上述のとおり芳香族ジカルボン酸(D)のカルボキシル基と芳香族ジオール(E)のヒドロキシル基の反応性は低いので、ヒドロキシル基との反応性を高める必要があり、本発明では、ジアリールカーボネートを添加しカルボキシル基をフェニルエステル化している。この場合、ジアリールカーボネートは、カルボキシル基と等モルになるように添加する必要がある。つまり、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)に対して、等モルのジアリールカーボネート(A)と芳香族ジカルボン酸(D)に対して、2倍のジアリールカーボネートを添加する必要があり、(a)=(b)+2(d)となる。上記式(1)において、(a)/(b)+2(d)が0.9よりも小さいと重合度が上がりにくく、1.1よりも大きいと重合時間が長くなるためポリマーが着色してしまい、いずれも好ましくない。上記式(1)において、0.95≦(a)/(b)+2(d)≦1.05の範囲が望ましい。
【0021】
上記式(2)は、芳香族ヒドロキシアミン(C)と芳香族ジオール(E)の仕込みモル数の和に対する芳香族ジカルボン酸(D)の仕込みモル数を示している。上記式(2)において、(c)+(e)/(d)が0.9よりも小さいと重合度が上がりにくく、1.1よりも大きいと重合時間が長くなるためポリマーが着色してしまい、いずれも好ましくない。上記式(2)において、0.95≦(c)+(e)/(d)≦1.05の範囲が望ましい。
【0022】
本発明では、上記(A)〜(E)を、下記式(F)
【化11】

(式(F)中、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基および炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれる。またこれらRとRは互いに結合してそれらが結合している窒素原子と一緒になって飽和もしくは不飽和の5〜7員環を形成してもよい。Rは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基および炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれる。Nは0〜4の整数を示す。)
で表されるピリジン系化合物の存在下で溶融反応を行うことを特徴とする。
【0023】
この式(F)で表されるピリジン系化合物触媒において、R、Rは、各々独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜10のシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等の炭素数6〜12のアリール基およびベンジル基、フェニチル基等の炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれるか、またはこれらR、Rが結合してそれらが結合している窒素原子と一緒になってピロリジン環、ピペリジン環、ピロリン環、ピロール環などの飽和もしくは不飽和の5〜7員環を形成してもよい。また、Rは具体的には上記のR、Rであげた炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、および炭素数7〜12のアラルキル基の中から選ばれるのが好ましい。これらの中でもさらにnが0である場合、すなわち下記式(G)
【0024】
【化12】

で表されるピリジン系化合物触媒を用いるのが好ましい。式(G)において、R、Rは前述の上記式(E)の説明と同様な置換基であることが好ましい。さらには、R、Rが水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基から選ばれるか、またはこれらR、Rが結合してそれらが結合している窒素原子と一緒になってピロリジン環、ピペリジン環、ピロリン環、ピロール環などの飽和もしくは不飽和の5〜7員環を形成していることが最も好ましい。
【0025】
このようなピリジン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、4−ピロリジノピリジン、4−ピペリジノピリジン、4−ピロリノピリジン、2−メチル−4−ジメチルアミノピリジン等が挙げられ、4−ジメチルアミノピリジンが特に好ましい。
【0026】
この反応においては、初めは主としてジアリールカーボネート(A)が芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)、芳香族ヒドロキシルアミン(C)、芳香族ジカルボン酸(D)および芳香族ジオール(E)と反応してフェノール類と炭酸ガスを生じる。一般に芳香族ジカルボン酸は溶解性が低く融点も高いため、この初期反応が開始されるには、高温でかつ長時間を必要とする。このため、従来の方法では、該反応中における昇華物の発生が多かった。しかし、上記式(F)および(G)で表されるピリジン系化合物を触媒として用いると、フェノール類と炭酸ガスが発生する初期反応が非常に低温で、しかも短時間で開始する。そのため、反応に要する時間が著しく短縮され、昇華物の発生量も著しく少なくなる。
【0027】
上記ピリジン系化合物の使用量は、上記ジアリールカーボネート(A)に対して、0.005モル%〜10モル%の量とすることが好ましい。0.005モル%より少ないと該化合物の触媒としての効果が不十分となる。また、10モル%より多いと得られるポリマーの物性が低下することがあり好ましくない。より好ましくは、0.01モル%〜1モル%である。また、上記ピリジン系化合物(E)および(G)を有機酸塩または無機酸塩の形で用いてもよい。これらは単独で用いても、複数を併用しても構わない。
【0028】
本発明において、上記ピリジン系化合物の他に重合速度を高めるために、アルカリ金属類、アルカリ土類金属類を用いることができる。
これらの触媒の具体例として、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属類および/またはマグネシウム、カルシウム等アルカリ土類金属類の水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、炭酸水素塩を挙げることができる。これらの中でも炭酸カリウムが好ましい。
これらアルカリ金属類、アルカリ土類金属類の使用量は、上記芳香族ヒドロキシアミン(C)および芳香族ジオール(E)に対して、0.005モル%〜10モル%が好ましく、さらに0.01モル%〜1モル%が好ましい。
【0029】
本発明の全芳香族ポリエステルアミドは、まず、上述原料を160°C以上320°C未満の温度で反応させる。この時、重合反応初期は比較的低温とし、徐々に昇温して、上記重合温度にするにすることが好ましい。また、常圧または減圧下で反応させる。この時、重合反応初期は常圧下とし、徐々に減圧することが好ましい。加えて、常圧時には反応系は窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下とすることが好ましい。これは、最初から高温、高真空下で反応を行うと、原料が反応系外に留去され、反応収率が低下するためである。この条件下では、2時間から10時間程度反応させるのが好ましい。次に、50mmHg以下の圧力、300°C以上400°C以下の温度で重合させる。反応系の圧力を50mmHgより低真空にすると、ポリマーの重合度が上がらず好ましくない。また、反応温度が300°Cより低温であると、重合速度が著しく遅くなり、また400°Cより高温であるとポリマーの分解等が起こり、いずれの場合も好ましくない。この条件では、数十分から5時間程度反応させるのが好ましい。
【0030】
またジアリールカーボネート(A)、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)、芳香族ヒドロキシアミン(C)、芳香族ジカルボン酸(D)および芳香族ジオール(E)および触媒を同一反応器に仕込んで反応を開始させることが好ましい。
【0031】
上述の方法を実施することで、溶融時に光学異方性を示す全芳香族液晶性ポリエステルアミドを得ることが出来る。また、本発明の方法を採用することで、従来の技術のようなアシル化剤を使用することはない。さらに、重合反応中に発生する酢酸などの腐食性のある化合物が留出して、重合反応器を腐食することを防ぐために、高価な耐腐食性の強い素材で作られた重合反応器を使用することもない。
【0032】
溶融状態における光学異方性は、偏光顕微鏡を用いて観察することができる。溶融状態において90°に交差した一対の偏光子を備えた光学系において、全範囲またはその一部に光を通過した場合、その全芳香族ポリエステルアミドは光学異方性を示している。このようにして得られた光学異方性を示す全芳香族液晶性ポリエステルアミドは、一軸方向の機械的特性がとりわけ優れており、押出成型、圧縮成型、ブロー成型などの通常の溶融成型に供することにより、繊維、フィルム、成型品、容器、ホースなどに加工することができる。
【0033】
また、成型時には本発明の全芳香族ポリエステルアミドにガラス繊維、炭素繊維などの強化剤、充填剤、難燃剤、顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤などの添加剤や他の熱可塑性樹脂を添加して、成型品に所望の特性を付与することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらによっていささかも限定されるものではない。得られたポリマーの特有粘度(μinh)は、0.1重量%濃度、温度60°Cにてペンタフルオロフェノール中で測定した値であり、(3)式で定義した。
特有粘度 μinh = ln(μrel)/c (3)
(3)式において、μrelは相対粘度を表し、純溶媒の落下時間t、高分子溶液の落下時間tを用いて、(4)式で定義した。
相対粘度 μrel= t / t (4)
【0035】
ポリマーの液晶相の確認は、柳本製作所製の偏光顕微鏡を備えたメルティング装置を用い、クロスニコル下で観察した重合体が溶融時に異方性を示すことで確認した。
ポリマーの融点(T)は、示差走査型熱量計(DSC;TA Instruments製2920型)を用い、20°C/minの昇温速度にて、溶融体転移時に現れる吸熱ピークを観測することによって確認した。
【0036】
[実施例1]全芳香族ポリエステルアミドの合成
ジフェニルカーボネート31.0重量部、p−ヒドロキシ安息香酸12.0重量部、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1.64重量部、p−アミノフェノール0.79重量部、テレフタル酸4.09重量部、4,4’−ビフェノール3.21重量部、4−ジメチルアミノピリジン0.011重量部、炭酸カリウム0.0036重量部を攪拌装置および窒素導入口を備えた真空排出系を有する反応容器に入れ、220°Cで反応を開始した。フェノールと炭酸ガスの留出を確認した後、約3時間かけて温度を320°C、圧力を40mmHgまで到達させることで、薄赤紫色の全芳香族ポリエステルアミドを得た。この全芳香族ポリエステルアミドの特有粘度は5.85であった。また、偏光顕微鏡下、溶融状態で光学的異方性を示した。DSC測定による融点(T)は、326°Cおよび348°Cに観察された。
【0037】
[比較例1]
4−ジメチルアミノピリジンの代わりに、炭酸カリウム0.0036部を使用した以外は、実施例1と同様に重合したが、300°C、40mmHgでフェノールと炭酸ガスの留出を確認できず、原料であるジフェニルカ−ボネートが反応系外に留出し、全芳香族ポリエステルアミドは得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアリ−ルカーボネート(A)の存在下、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)、芳香族ヒドロキシアミン(C)、芳香族ジカルボン酸(D)、および芳香族ジオール(E)とを下記式(1)および(2)の両方の式を満足する割合で、
【数1】

(式(1)および(2)中のa、b、c、dおよびeはそれぞれジアリールカーボネート(A)、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)、芳香族ヒドロキシアミン(C)、芳香族ジカルボン酸(D)および芳香族ジオール(E)の各仕込みモル数を示す)、下記式(F)
【化1】

(式(F)中、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基および炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれる。またこれらRとRは互いに結合してそれらが結合している窒素原子と一緒になって飽和もしくは不飽和の5〜7員環を形成してもよい。Rは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基および炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれる。nは0〜4の整数を示す。)
で表されるピリジン系化合物触媒の存在下、溶融反応せしめることを特徴とする全芳香族ポリエステルアミドの製造方法。
【請求項2】
触媒について上記式(F)におけるnが0であることを特徴とする請求項1に記載の全芳香族ポリエステルアミドの製造方法。
【請求項3】
前記触媒がジメチルアミノピリジンであることを特徴とする請求項1または2に記載の全芳香族ポリエステルアミドの製造方法。
【請求項4】
前記触媒と共に、アルカリ触媒および/またはアルカリ土類金属類の少なくとも1種を併用することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の全芳香族ポリエステルアミドの製造方法。
【請求項5】
前記触媒アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属類の少なくとも1つが炭酸カリウムであることを特徴とする請求項4に記載の全芳香族ポリエステルアミドの製造方法。
【請求項6】
(A)が炭素数13〜20のジアリールカーボネートであり、(B)が炭素数7〜20の芳香族ヒドロキシカルボン酸であり、(C)が炭素数6〜14の芳香族ヒドロキシアミンであり、(D)が炭素数8〜30の芳香族ジカルボン酸であり、(E)が炭素数6〜30の芳香族ジオールであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の全芳香族ポリエステルアミドの製造方法。
【請求項7】
(A)がジフェニルカーボネートであり、(B)がp−ヒドロキシ安息香酸および/または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸であり、(C)がp−アミノフェノールであり、(D)がテレフタル酸であり、(E)が4,4’−ビフェニルジオールであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の全芳香族ポリエステルアミドの製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の製造方法で得られ、溶融状態において光学的異方性を示す全芳香族ポリエステルアミド。

【公開番号】特開2008−88322(P2008−88322A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271696(P2006−271696)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】