説明

共役脂肪酸の製造方法及び飲食品

【課題】 培地中に含まれる二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸に対する共役脂肪酸への変換率が飛躍的に向上した共役脂肪酸の製造方法を得る。
【解決手段】 二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸を含有する豆乳に、共役化処理能を有するビフィドバクテリウム属細菌を接種して培養する。具体的なビフィドバクテリウム属細菌としては、ビフィドバクテリウム・ブレーべ(B. breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B. bifidum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B. infantis)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(B. psedocatenulatum)から選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビフィドバクテリウム属細菌を利用して特定の共役脂肪酸を効率よく製造する方法及び該方法により得られた共役脂肪酸を含有する飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
共役脂肪酸は、隣り合う炭素が単結合を挟んで二重結合を持つ脂肪酸であるが、とりわけ炭素数18の脂肪酸分子内に共役ジエンを1個持つ共役リノール酸は、様々な生理活性を持つことが明らかとされている。
【0003】
共役脂肪酸を工業的に製造する方法としては、例えば、リノール酸を含む油脂、或いは遊離型のリノール酸をエチレングリコールなどの有機溶媒下で行うアルカリ共役化法が知られている。
【0004】
このアルカリ共役化法は、通常、不飽和脂肪酸と過剰のアルカリを有機溶媒中で150℃以上に加熱して行われ、得られる共役脂肪酸は、二重結合の結合位置や配置が異なる混合物、具体的には、cis-9,trans-11型或いはtrans-9,cis-11型、trans-10,cis-12型の共役脂肪酸であり、その他幾つかの位置或いは幾何異性体を含んでいる。
【0005】
そのため、上記共役脂肪酸の生理作用は、複数種の共役脂肪酸からなる混合物としての作用であり、また、アルカリ共役化法は、環化等の副反応も生じやすく、得られる共役脂肪酸の収率が低下し、特定の共役脂肪酸を単離・精製することが困難である等の問題が指摘されている。従って、特定の共役脂肪酸を簡便に製造することができれば、学術的にも産業的にも応用価値は高い。
【0006】
また、共役脂肪酸を製造する方法については、微生物又はその酵素を用いる方法が報告されている。例えば、ルーメン細菌が多価不飽和脂肪酸から共役脂肪酸を産生すること(非特許文献1)をはじめとして、トレポネーマ(Trepoinema)(非特許文献2)、Butyrivibrio fibrisolvens(非特許文献3)、Propionibacterium freudenreichii(非特許文献4)、種々の肺の病原菌の一割強(非特許文献5)などがリノール酸異性化活性を有し、また、これらの微生物によって産生される共役脂肪酸は、cis-9,trans-11型異性体が主体であることも報告されている。
【0007】
さらに、反芻動物は、自らの体内でcis-9,trans-11型共役リノール酸を産生していることから、乳製品や畜肉には、cis-9,trans-11型共役リノール酸を多く含んでおり、cis-9,trans-11型共役リノール酸は、通常の食生活でヒトが摂取する機会が最も多い共役脂肪酸であると考えられる。それゆえ、この異性体の生理効果については、多くの研究が行われ、癌に対する防御作用があることが明らかとされている。
【0008】
以上のように、微生物を用いることにより、cis-9,trans-11型の共役脂肪酸を豊富に含む生成物を得ることが期待されるが、副産物の生成が少なく十分な量の共役脂肪酸を得る方法の確立には至っていない。
【0009】
一方、ビフィドバクテリウム属細菌は、腸内フローラの改善、便性の改善、腸管機能の改善、感染防御、免疫賦活等の様々な効果を有し、腸内環境の改善を通してヒトの健康に寄与しているものと考えられており、発酵乳などの飲食品にも広く利用されている微生物の一つである。
【0010】
しかしながら、ビフィドバクテリウム属細菌は偏性嫌気性菌であるため、酸素存在下や低いpH領域では死滅しやすく、これを扱う場合には、適切な作業環境や熟練した操作が必要となるため、種々の研究が十分になされていないのが現状である。
【0011】
また、前記のように、従来のアルカリ共役化法は、高温における反応のため、副反応が生じやすく、特定の共役脂肪酸を得ることが困難であり、その後の精製が煩雑であるなどの問題点があった。
【0012】
更に、微生物を用いた変換反応では、共役リノール酸には、 all trans型共役リノール酸も同時に産生され、共役脂肪酸全体の産生量も必ずしも満足し得るものではなかった。
【0013】
そこで、本出願人は、二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸を共役化することを目的とし、特に、リノール酸から生理効果の高いcis-9,trans-11型共役リノール酸のみを選択的かつ高効率に得る方法を得ることを目的として、二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸を、共役化処理能を有するビフィドバクテリウム属細菌又は該細菌より得た酵素を用いて、共役化する製造法が提案されている(特許文献1参照)。
【非特許文献1】Shorland F.B.,et al.,Nature 175,p1129,1955
【非特許文献2】Yokoyama,et al.,J.Bacteriology 107,P519一527,1971
【非特許文献3】Kepler C.R.,et aL,J.Biol. Chem.242,p5686-92,1967
【非特許文献4】Jiang J., Doctoralthesis, Swedish Uni.Uppsala,1998
【非特許文献5】Jack C.l.A..,et al.,Clinica chlmica
【特許文献1】特開2004−135524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この製造法では、共役化処理能を有するビフィドバクテリウム属細菌を、二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸を含むミルクを主成分とした乳培地で培養することにより、cis-9,trans-11型共役リノール酸のみを選択的かつ高効率に得ることができるが、培地中に含まれる二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸に対する共役脂肪酸への変換率が低いものであった。
【0015】
本発明は、培地中に含まれる二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸に対する共役脂肪酸への変換率が飛躍的に向上した共役脂肪酸の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載された発明に係る共役脂肪酸の製造方法は、二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸を含有する豆乳に、共役化処理能を有するビフィドバクテリウム属細菌を接種して培養することを特徴とするものである。
【0017】
請求項2に記載された発明に係る共役脂肪酸の製造方法は、請求項1又は2に記載のビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ブレーべ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(Bifidobacterium psedocatenulatum)から選ばれるl種以上であることを特徴とするものである。
【0018】
請求項3に記載された発明に係る共役脂肪酸の製造方法は、請求項1又は2に記載の二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸を添加したGAM培地で培養して得られたビフィドバクテリウム属細菌を、前記豆乳に接種することを特徴とするものである。
【0019】
請求項4に記載された発明に係る共役脂肪酸の製造方法は、請求項1〜3の何れか1項に記載の二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸として、リノール酸を使用することを特徴とするものである。
【0020】
請求項5に記載された発明に係る共役脂肪酸の製造方法は、ビフィドバクテリウム属細菌を前記豆乳に1×10〜1×1010CFU/mL接種することを特徴とするものである。
【0021】
請求項6に記載された発明に係る飲食品は、請求項1〜4の何れか1項に記載の方法により得られた共役脂肪酸を含有するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、培地中に含まれる二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸に対する共役脂肪酸への変換率が飛躍的に向上した共役脂肪酸の製造方法を得ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明においては、本発明者らが、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、豆乳に、二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸を添加し、これに共役化処理能を有するビフィドバクテリウム属細菌を接種して培養することにより、生理活性に優れたcis-9,trans-11型共役脂肪酸を選択的に、且つ効率的に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0024】
すなわち、本発明は、二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸、特に遊離のリノール酸を含有する豆乳に、共役化処理能を有するビフィドバクテリウム属細菌を接種して培養することを特徴とする共役脂肪酸の製造方法を提供するものである。
【0025】
また、本発明は、共役化処理能を有するビフィドバクテリウム属細菌として、ビフィドバクテリウム・ブレーべ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(Bifidobacterium psedocatenulatum)から選ばれる1種以上を用いることを特徴とする共役脂肪酸の製造方法を提供するものである。
【0026】
また、本発明は、二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸を添加した培地で培養して得られる前記共役化処理能を有するビフィドバクテリウム属細菌を用いることを特徴とする共役脂肪酸の製造方法を提供するものである。
【0027】
さらに、本発明は、上記した方法に得られる共役脂肪酸を含有する飲食品を提供するものである。
【0028】
本発明の方法においては、ビフィドバクテリウム属細菌を用いて二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸を共役化するものであるため、共役脂肪酸の中でも生理活性に優れているとされるcis-9,trans-11型リノール酸に代表される共役脂肪酸を選択的且つ高効率で製造することができる。
【0029】
本発明において、原料として使用することができる二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸は、特に限定されることなく、例えば、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸など、いずれも好適に使用することができる。特に、遊離のリノール酸を原料として遊離の共役リノール酸を生成させた場合には、生理活性の報告されている特定の異性体が特異的且つ効率よく生成し、副産物となる他の異性体は殆ど生成されないため好ましい。
【0030】
また、上記不飽和脂肪酸は、塩又はエステルなどを形成していてもよく、塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが挙げられ、エステルとしては、メチルエステル、エチルエステルの他上記脂肪酸を含むその他の脂質類を挙げることができる。
【0031】
また、天然油脂も原料として使用することができ、例えば、リノール酸を分子内に多く含むものとしては、サフラワー油、綿実油、大豆油、ヒマワリ種子油、トウモロコシ油、落花生油、米糠油、アマニ油、カカオ脂などの植物由来の天然油脂等、リノレン酸を分子内に多く含むものとしては、イワシ油、ニシン油、タラ油などの動物由来の天然油脂等が挙げられ、さらにこれらのリパーゼ分解物なども原料として用いることができる。
【0032】
本発明の方法においては、上記する二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸を豆乳に添加して、後述するビフィドバクテリウム属細菌を接種・培養することにより行われる。なお、ここで豆乳とは、日本農林規格において定められる豆乳、具体的には、大豆(粉末状のもの及び脱脂したものを除く)から熱水等によりたん白質その他の成分を溶出させ、繊維質を除去して得られた乳状の飲料であって、大豆固形分が8%以上のものの他、脱脂大豆や大豆粉等の大豆を原料として得られる素材を水に溶解して大豆固形分を1〜10%程度に調整したものも含むものである。また、本発明においては、反応効率の観点から、日本農林規格において定める豆乳を使用することが好ましい。
【0033】
一方で、本発明の方法で使用するビフィドバクテリウム属細菌としては、不飽和脂肪酸分子内の二重結合の位置を移動させ、二重結合同士が互いに共役する状態に異性化する能力を有する細菌であればよく、特にリノール酸共役化処理能、すなわち、リノール酸から生理活性の優れたcis-9,trans-11型共役リノール酸を効率よく産生する能力を有するものが好ましい。
【0034】
このような共役化処理能を有するビフィドバクテリウム属細菌としては、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(Bifidobacterium psedocatenulatum)等を好適な細菌として挙げることができ、これらから選ばれる少なくとも1種以上を用いれば、共役脂肪酸の収率が高くなるため好ましく、中でも特に、ビフィドバクテリウム・ブレーべを用いることが好ましい。
【0035】
本発明で使用する前記ビフィドバクテリウム属細菌は、あらかじめ二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸を添加した培地で培養して得られるものを用いることが好ましい。これにより、ビフィドバクテリウム属細菌の共役化処理能が向上するため、効率よく共役脂肪酸を産生させることが可能となる。
【0036】
具体的には、二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸として、リノール酸を0.1mg〜100mg/mL、好ましくは、1.0mg〜30mg/mL添加した培地で当該ビフィドバクテリウム属細菌を培養しておくことが好ましい。なお、ここで使用する培地としては、ビフィドバクテリウム属細菌が増殖し得る培地であれば、特に限定されることなく、例えば、ビフィズス菌増殖用培地として知られるGAM培地(GAM BROTH、日水製薬(株)社製)や、豆乳、脱脂粉乳等の乳培地を挙げることができる。
【0037】
また、このときの培養条件は、用いるビフィドバクテリウム属細菌の種類によって異なる場合があるため、実験的に確かめてから設定することが好ましい。具体的には、pH3.5〜5.5程度、より好ましくはpH4.5〜5.5となるまで培養すればよい。pH3.5を下回るまで培養すると、菌の過剰増殖により却って共役化処理能の低下を招くおそれがあり、またpH5.5に至らない状態では、十分な菌量を得ることができないため好ましくない。
【0038】
本発明においては、以上のようにして得られたビフィドバクテリウム属細菌培養液をスターターとして用いればよく、二重結合を少なくとも二つ以上含む不飽和脂肪酸を含有する豆乳に対して、ビフィドバクテリウム属細菌の生菌数として1×10〜1×1010CFU/mL、好ましくは、1×10〜1×10CFU/mL 程度接種し、20〜40℃、好ましくは28℃〜37℃で培養を行えばよい。フィドバクテリウム属細菌の接種菌数が1×10CFU/mLよりも少ないと、豆乳中での増殖効率が悪く、十分に共役脂肪酸が生成されず、また、接種菌数が1×1010CFU/mL よりも多すぎると豆乳のpHが急激に低下するめ、結果的に豆乳に接種したビフィドバクテリウム属細菌が死滅し、十分な共役化処理能を得ることができないため好ましくない。
【0039】
本発明の方法により得られる共役脂肪酸は、医薬品、飲食品、化粧品等の形態で投与することができる。例えば、共役リノール酸の生理効果を期待する医薬品や栄養補助食品等の形態で用いる場合であれば、カプセル剤、顆粒剤、錠剤、散剤等の固形製剤、或いはシロップ剤等の液状製剤として経口投与することができる。また、経口投与剤でなくとも、注射剤、皮膚外用剤、直腸投与剤等の非経口形態で投与することも可能である。
【0040】
各製剤の製造においては、乳糖、澱粉、結晶セルロース、乳酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水ケイ酸等の賦形剤、白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク、モノグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル等の滑沢剤やその他医薬、食品等として許容されえる成分を適宜使用することができる。
【0041】
また、同様の生理効果を期待して一般食品形態で用いる場合には、本発明の方法により得られる共役脂肪酸をそのまま或いは、適宜精製処理したものを油脂、錠菓、飴、調味料、ふりかけ、発酵豆乳等の飲食品に添加し、常法に従って、製造すればよい。
【0042】
本発明における飲食品では、豆乳に、二重結合を少なくとも二つ以上含む不飽和脂肪酸を添加し、これをビフィドバクテリウム属細菌により発酵させた発酵物をそのまま或いはこれに通常食品の製造に用いられる上記副素材を配合して、発酵豆乳とすることもできる。
【0043】
なお、発酵豆乳とは、豆乳を乳酸菌等の微生物で発酵させた飲食品を指す。この製造においては、前述のビフィドバクテリウム属細菌を用いて発酵させてもよいし、ビフィドバクテリウム属細菌以外にも、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ガッセリ、ラクトバチルス・ジョンソニー、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ.ブルガリカス、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ.デルブルッキィ等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス.サーモフィルス等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ。ラクチス、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.クレモリス、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ラフィノラクチス等のラクトコッカス属細菌、ロイコノストック・メセンテロイデス、ロイコノストック・ラクチス等のロイコノストック属細菌、エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロコッカス・フェシウム等のエンテロコッカス属細菌等を使用してもよい。
【0044】
これらの食品には、通常食品に使用される種々の素材、すなわち、各種糖質や乳化剤、増粘剤、甘味料、酸味料、果汁等を適宜配合してもよい。具体的には、ショ糖、異性化糖、グルコース、フルクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムK、ステビア等の高甘味度甘味料、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチンなどの乳化剤、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、カラギーナン、グァガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、大豆多糖類等の増粘安定剤が挙げられる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類等の各種ビタミン類やカルシウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネラル類を配合することも可能である。
【0045】
また、本発明の方法により得られる共役脂肪酸を、医薬品・食品の形態とする場合には、本製造方法で得られた共役脂肪酸を適宜配合することでき、また、配合する共役脂肪酸のもつ生理効果を訴求する場合であれば、その効果を得られ且つ過剰摂取等による問題が生じない程度の量、例えば、10mg〜1000mg/日程度の摂取が見込まれる量を適宜配合しておけばよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら制約されるものではない。
実施例1:共役リノール酸の製造方法1
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)1mL中にリノール酸50mgとウシ血清アルブミン(BSA)10mgを溶解し、あらかじめリノール酸−BSA−複合体溶液を調製した。このリノール酸−BSA−複合体溶液200μLをGAM(GAM BROTH、日水製薬(株)社製)培地15mLに添加し、ビフィドバクテリウム属細菌(3種)をそれぞれ接種して35℃、120rpm、48時間振塗培養し、ビフィドバクテリウム属細菌培養液を調製した。
【0047】
15mL容試験管(ネジ口)に5mL分注した豆乳をオートクレーブで105℃、15分滅菌し、これに、リノール酸−BSA−複合体溶液100μL(リノール酸含量5mg)と先に調製したビフィドバクテリウム属細菌培養液を200μL添加し、気相を窒素置換して、35℃、120rpmで144時間振盪培養して発酵物を調製した。得られた発酵乳にクロロホルム:メタノール=1:2溶液を15mL添加してよく撹拌し、さらにクロロホルム5mL、1.5%塩化カリウム溶液5mLを添加して再び撹拌した。これを3000rpm、10分間の遠心分離操作を行つた後、脂質画分(クロロホルム層)を回収した。
【0048】
【表1】

【0049】
得られた脂質画分液を乾固後、4%塩酸−メタノール溶液を1mL加えよく撹拌し、密栓して30分間室温で反応させた。この反応液にヘキサン1mLを加え、撹拌後へキサン層を回収した。へキサンによる抽出を3回繰り返した後、集めたヘキサン層に1mLの水を加え撹拌し、2000rpm、5分間の遠心を行ってヘキサン層を採取し、乾固後200μLのヘキサンに溶解し、ガスクロマトグラフィーに供し、内部標準物質との面積比により脂肪酸量を算出した。その結果を表2に示す。なお、ガスクロマトグラフィー分析の条件は、表1の通りとした。
【0050】
表2に示した通り、試験を実施したビフィドバクテリウム3菌株は、いずれも豆乳中でcis-9,trans-11型共役リノール酸を産生していた。
【0051】
【表2】

【0052】
実施例2:共役リノール酸の製造方法2(変換率の比較)
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)1mL中にリノール酸50mgとBSA10mgを溶解し、あらかじめリノール酸−BSA−複合体溶液を調製した。このリノール酸−BSA−複合体溶液200μLをGAM(GAM BROTH、日水製薬(株)社製)培地15mLに添加し、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve) YIT10001を接種して35℃、120rpmで対数増殖期まで培養し、Bifidobacterium breve YIT10001培養液を調製した。
【0053】
10%脱脂粉乳、牛乳、豆乳それぞれにリノール酸を1mg/mLの割合で添加し、ハンドホモゲナイザーにて均質化した。均質化した各培地をネジ口試験管に5mLずつ分注し、オートクレーブ滅菌(105℃、15分)した。この培地に先に調製したBifidobacterium breve YIT10001培養液100μL(生菌数8.9×10CFU/mL )を添加し、気相を窒素置換して、35℃で72時間振盪培養した。得られた培養液から実施例1と同様に処理して脂肪酸量を測定した。なお、得られた脂肪酸は全てc9,t11型の共役リノール酸であった。また、基質リノール酸の共役リノール酸への変換率を下記の数1により求めた。共役リノール酸の産生量を表3に、基質リノール酸の共役リノール酸への変換率を図1に示す。
【0054】
【数1】

【0055】
【表3】

【0056】
表3及び図1から明らかなとおり、培地として豆乳を用いた場合には、その他の培地を用いた場合よりも顕著な共役リノール酸の産生量の増加が認められ、その効果は、脱脂粉乳培地に比べて約7倍、牛乳培地に比べて約19倍であった。
【0057】
実施例3:共役リノール酸含有発酵食品の調製
豆乳にリノール酸を15mg/mL添加し、ハンドホモゲナイザーにて均質化した。均質化した各培地をネジ口試験管に5mLずつ分注し、オートクレーブ滅菌(105℃、15分)した。種菌培養用豆乳(誘導剤としてリノール酸を2.5mg/mL添加)で対数増殖期まで培養したB. breve YIT10001 を種菌とし、5mLずつ分注した培地に100μL(生菌数4.3×10CFU/mL )接種後、気相を窒素置換後37℃で72時問静置培養した。得られた培養液の脂質を抽出後、メチルエステル化しGCにて脂肪酸を分析した。
【0058】
その結果、培養液中の共役リノール酸産生量は2.72mg/mLで、産生された共役リノール酸は全てcis-9,trans-11型共役リノール酸であった。また、得られた共役リノール酸を含む発酵豆乳の官能評価を行ったところ、リノール酸を添加しないで調製した発酵豆乳と同等のものであった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】基質リノール酸の共役リノール酸への変換率の結果を示す線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸を含有する豆乳に、共役化処理能を有するビフィドバクテリウム属細菌を接種して培養することを特徴とする共役脂肪酸の製造方法。
【請求項2】
ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ブレーべ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(Bifidobacterium psedocatenulatum)から選ばれるl種以上であることを特徴とする請求項1に記載の共役脂肪酸の製造方法。
【請求項3】
二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸を添加したGAM培地で培養して得られたビフィドバクテリウム属細菌を、前記豆乳に接種することを特徴とする請求項1又は2に記載の共役脂肪酸の製造方法。
【請求項4】
ビフィドバクテリウム属細菌を前記豆乳に1×10〜1×1010CFU/mL接種することを特徴とする請求項1〜3に記載の共役脂肪酸の製造方法。
【請求項5】
二重結合を少なくとも二つ以上有する不飽和脂肪酸として、リノール酸を使用することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の共役脂肪酸の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の方法により得られた共役脂肪酸を含有する飲食品。


【図1】
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【公開番号】特開2007−110936(P2007−110936A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304120(P2005−304120)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】