説明

共振型スイッチング電源回路用トランスユニット

【課題】共振型トランスにおいては、渦電流抑制のためにリッツ線を使用した場合には巻線占積率が悪化するため、トランスユニットの体積が大きくなるという課題点があった。
【解決手段】閉磁路磁心および層状に積層巻回した一次巻線16と二次巻線17とを有するトランス部14と、一次巻線16と直列接続のチョークコイル部15とを備え、一次巻線16と二次巻線17との結合係数は0.995以上とした共振型スイッチング電源回路用トランスユニット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種電子機器に使用される共振型スイッチング電源回路用トランスユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
以下、従来の共振型スイッチング電源回路用トランスユニットについて図面を用いて説明する。
【0003】
図8は従来の共振型スイッチング電源回路用トランスユニットの分解斜視図であり、一次巻線1および二次巻線2を巻回したボビン3に貫通孔4を設けたうえで、E字形磁心5の中脚6をボビン3の貫通孔4に挿入することにより、閉磁路を有するトランスユニットを構成していた。
【0004】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては例えば特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2001−230133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のトランスユニットでは、図9に示す共振型スイッチング電源回路において、スイッチング電源の動作周波数を決定するパラメータとして、インダクタンス値Lの約10〜20%に相当するリーケージインダクタンスLlを利用している。そしてこのリーケージインダクタンスLlを得るために、トランスユニット7のトランス部8の一次巻線1と二次巻線2との結合を、結合係数の値として0.80〜0.95程度の疎結合としていた。ここで、一次巻線1と二次巻線2との結合を疎結合とする場合には、図8に示すボビン3に一次巻線1と二次巻線2とを隔てる隔壁9を設け、一次巻線1と二次巻線2との距離を得るものであった。この形態の場合において、一次巻線1および二次巻線2に電気信号が印加された際の、一次巻線1を例として、これによる磁束発生状態を図10に示す。図10に示すように一次巻線1や二次巻線2の巻心部10に位置する中脚6をはじめとする磁心5を通過する主たる流れである磁束φ1が存在する。これと同時に、二次巻線2の巻心部10の通過が不完全な状態で導体部11を横切る、いわば近道を通る流れである漏れ磁束φ2が存在することとなる。
【0006】
この漏れ磁束φ2は二次巻線2の巻心部10ではなく導体部11そのものを横切るため、導体部11に渦電流12が発生することとなる。そして、その渦電流12による損失が発生するため、結果としてその損失による熱がトランスユニット7の温度上昇を招くものであった。この対応手段としては、一次巻線1や二次巻線2に細い線を撚り合わせたリッツ線を使用することで渦電流12を分断し細分化し、渦電流を低減することで温度上昇を抑制していた。
【0007】
しかしながら、リッツ線を使用した場合には巻線占積率が悪化するため、トランスユニット7の体積が大きくなるという課題点があった。
【0008】
そこで本発明は、小型、薄型化が可能な共振型スイッチング電源回路用トランスユニットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そしてこの目的を達成するために、
閉磁路磁心および層状に積層巻回した一次巻線と二次巻線とを有するトランス部と、
前記一次巻線と直列接続のチョークコイル部とを備え、
前記一次巻線と前記二次巻線との結合係数は0.995以上とした
ことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一次巻線や二次巻線の導体部と鎖交する磁束を大幅に低減できるため、巻線にリッツ線を使用しなくても温度上昇を抑制でき、その結果小型、薄型化した共振型スイッチング電源回路用トランスユニットの提供を可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態におけるトランスユニットを図を用いて説明する。
【0012】
(実施の形態1)
図1は本発明の第一の実施形態における共振型スイッチング電源回路におけるトランスユニットの回路図である。ここでトランスユニットは、トランス部14とチョークコイル部15とを分離したデバイスによって構成している。
【0013】
図2は上述のトランス部14の分解斜視図であり、トランスユニットのトランス部14は一次巻線16と二次巻線17を巻回し、貫通孔18を備えたボビン19と、貫通孔18の両側から磁心20の中脚21を挿入し、それぞれの中脚21を突き合せて閉磁路を形成することにより構成している。このとき、磁心20はそれぞれ磁気ギャップを形成せずに突き合せた状態、もしくは微小な磁気ギャップを介して突き合せた状態で閉磁路を形成している。当然ながら中脚21が磁気ギャップを形成しない状態、もしくは微小な磁気ギャップを介して突き合せた状態を構成している。
【0014】
また、図3はトランスユニットのチョークコイル部15であり、貫通孔22を有したボビン23に巻線部24を巻回し、磁心25の磁脚26を貫通孔22に挿入することにより閉磁路を形成している。
【0015】
そして図1に示すトランス部14は、この回路が共振型スイッチング電源回路で、エネルギーを蓄えては放出するフライバック型ではないことから、一次巻線16と二次巻線17とは和動動作となる巻線仕様となる巻回方向、もしくは接続としている。
【0016】
また、図2のトランス部は磁気ギャップを有さないか、もしくは0.1〜0.2mm程度の微小磁気ギャップによりインダクタンス値を調整する構成としており磁気飽和に関しては大きな考慮をしなくて良い設計としていると同時に、一次巻線16と二次巻線17との結合係数は0.995以上としている。また更に、図4に示すように一次巻線16と二次巻線17とは、ボビン19の同一の巻溝27の中に、分割することや隔離することなく層状に重ねて積層巻回している。そして同時に一次巻線16の一次側巻回端部16aと、二次巻線17の二次側巻回端部17aとはほぼ一致させた位置としている。つまり、巻心部28の軸方向の一次巻線16と二次巻線17との長さ寸法をほぼ同等としている。
【0017】
この構成としたうえで、一次巻線16と二次巻線17との結合係数を0.995以上とすることで、一次巻線16および二次巻線17に電気信号が印加された際に、一次巻線16や二次巻線17で発生する磁束は概ね全てが、巻心部28に位置する中脚21をはじめとする磁心20を有効な磁路として通過する磁束φ3となる。そして、その磁束φ3は一次巻線16や二次巻線17と鎖交することとなる。つまり、導体29を横切る漏れ磁束φ4を激減することができる。
【0018】
これにより、一次巻線16や二次巻線17の導体29で発生する渦電流が非常に小さくなることから、一次巻線16や二次巻線17の導体29にリッツ線を使用しない場合においても温度上昇を抑制する構成を可能とするものである。
【0019】
従って、単線の使用によってボビン19における、一次巻線16や二次巻線17の占積率を大きくすることが可能となり、トランスの小型化、薄型化を可能とするものでもある。
【0020】
さらに、上述のようにトランス部14は漏れ磁束の発生が極めて少ないことから、図1の回路を設けるセット(図示せず)のシャーシやキャビネット等をはじめとする金属に接近、あるいは装着した場合においても、そのシャーシやキャビネットに発熱を起こし難くエネルギー損失は低く抑えることができるものでもある。同時に周囲の電気回路に対しても影響を及ぼしにくくすることができるものでもある。よって、実装などに関する空間的制約もなくすことが可能である。
【0021】
ここで先述した、0.995以上の結合係数に関して説明する。図4のトランス部14で一次巻線16および二次巻線17に単線を利用した場合の一次巻線16と二次巻線17との結合係数と、一次巻線16および二次巻線17の温度上昇との関係を示したものが図5である。
【0022】
一般的なトランスの温度クラスは、E種(巻線最高許容温度≦105℃)であるために、トランス周囲の温度を50℃と仮定した場合においては、トランス自身の温度上昇に対する許容値は55K以下とする必要がある。よって、この55Kという値を図5から読み取ると、結合係数は0.995以上が該当する領域となる。
【0023】
つまり、結合係数を極めて高い値にすることにより、より温度上昇を抑制することができるため、使用する導体径も小さくすることが可能となり、トランスの小型化、薄型化も可能となる。
【0024】
また、図4に示すように一次巻線16および二次巻線17を密着させたうえで重ねて巻回した場合において、一次巻線16と二次巻線17との近接状態に対して絶縁性を強化させる手段としては、単線の導体29に三層絶縁電線を用いるのがよい。これにより、密着度をより強化した際においても絶縁性が維持できることから、トランス部14のさらなる小型化や薄型化が可能となる。
【0025】
(実施の形態2)
また、結合係数を更に高くし、漏れ磁束の低減を行うものが第二の実施形態である。図6および図7に示すようにトランス部14の一次巻線16および二次巻線17を、バイファイラ巻きとして一次巻線16と二次巻線17とを隣接して配置することにより、一次巻線16と二次巻線17との対向面積を大きくすることが可能となる。そして、一次巻線16の一次側積層端部16bと二次巻線17の二次側積層端部17bとは、ほぼ一致させた位置としている。つまり、巻心部28の軸方向の一次巻線16と二次巻線17との長さ寸法をほぼ同等としている。これにより、一次巻線16と二次巻線17との結合係数を飛躍的に大きくでき、温度上昇を大幅に低減することができる。
【0026】
また、磁心20を偏平形状として上下方向から、すなわち実装面30に対して垂直方向に中脚21を組み込むことにより薄型化を図ることができる。これはさらに、一次巻線16と二次巻線17とから発生した熱がボビン19や磁心20を介することで、大きな面積でかつ短い距離で実装面30へ伝わり易くできるため、漏れ磁束を低減すると同時に放熱性の向上を図ることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のトランスユニットは、トランス部における一次側巻線と二次側巻線との結合度を大きくすることで漏れ磁束を低減し、小型化や薄型化が可能となる効果を有し、各種電子機器において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第一の実施形態における共振型スイッチング電源の回路図
【図2】本発明の第一の実施形態におけるトランス部の分解斜視図
【図3】本発明の第一の実施形態におけるチョークコイル部の分解斜視図
【図4】本発明の第一の実施形態におけるトランス部の断面図
【図5】本発明の第一の実施形態におけるトランス部の結合係数と温度上昇との関係図
【図6】本発明の第二の実施形態におけるトランス部と実装面との断面図
【図7】本発明の第二の実施形態におけるトランス部の分解斜視図
【図8】従来のトランスの分解斜視図
【図9】従来のトランスを使用した共振型スイッチング電源の回路図
【図10】従来のトランスの断面図
【符号の説明】
【0029】
14 トランス部
15 チョークコイル部
16 一次巻線
17 二次巻線
18 貫通孔
19 ボビン
20 磁心
21 中脚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉磁路磁心および層状に積層巻回した一次巻線と二次巻線とを有するトランス部と、
前記一次巻線と直列接続のチョークコイル部とを備え、
前記一次巻線と前記二次巻線との結合係数を0.995以上とした
共振型スイッチング電源回路用トランスユニット。
【請求項2】
一次巻線と二次巻線とは和動極性とした
請求項1に記載の共振型スイッチング電源回路用トランスユニット。
【請求項3】
トランス部の閉磁路磁心には磁気ギャップを非形成とした
請求項1に記載の共振型スイッチング電源回路用トランスユニット。
【請求項4】
一次巻線と二次巻線の少なくともいずれか一方は三層絶縁電線を使用した
請求項1に記載の共振型スイッチング電源回路用トランスユニット。
【請求項5】
一次巻線と二次巻線とをバイファイラ巻線とした
請求項1に記載の共振型スイッチング電源回路用トランスユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−176989(P2009−176989A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14612(P2008−14612)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】