説明

共重合ポリエステル繊維及びそれを用いた繊維製品

【課題】実用性のある繊維物性を有し、防汚性およびその洗濯耐久性が大幅に改良され、特に洗濯による黒ずみが格段に改良された共重合ポリエステル繊維および繊維製品を提供する。
【解決手段】ポリエステル繊維において、該繊維を、ポリエーテル成分が側鎖に共重合された共重合ポリエステルからなり、かつ該繊維の重量を基準として0.001〜2重量%の蛍光増白剤を含有している共重合ポリエステル繊維とする。共重合ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いた繊維製品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は共重合ポリエステル繊維および繊維製品に関するものである。さらに詳細には防汚性、特に洗濯時における再汚染性が改良された共重合ポリエステル繊維および繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル繊維は寸法安定性がよく、強く、また皺になり難い等多くの優れた特性を有しているために多くの分野に利用されている。
しかしながら、ポリエステルは疎水性であるため、木綿などの親水性繊維に比較して油性汚れが付着し易く、除去し難く、また洗濯中に汚れが再付着し易い等の問題がある。この再汚染性はポリエステル繊維が実用化されて以来、常に提起された問題であり、この問題を解消するために多くの方法が提案されている。
【0003】
例えば、ポリエチレングリコールとポリエステル樹脂の共重合物からなる溶液もしくは 分散液中でポリエステル成形物を浸漬処理する方法(特許文献1)、ポリエチレングリコレートのジメタクリレートなどの親水性ビニル化合物をパッド若しくはスプレー後、熱処理する方法(特許文献2)、または酸素を含む気体の低温プラズマ処理による方法(非特許文献1)等が知られている。
【0004】
しかしながら、これらの方法はいずれもポリエステル繊維製品の仕上加工として提案されたものであって、操作が煩雑であるとか、特殊な設備が要るとか、加工の再現性に乏しい等加工面での問題があり、更に肌着、白衣などの洗濯頻度の多い衣類などは洗濯回数を重ねるに従って初期の効果が徐々になくなるという問題がある。一方、原糸改質による防汚性ポリエステル繊維として、片末端封鎖ポリオキシエチレングリコールをポリエステル主鎖の末端に共重合した防汚性ポリエステル繊維が提案されている(特許文献1、特許文献2)。しかし、上記の片末端閉鎖ポリオキシエチレングリコールはポリエステル重縮合反応においては、いわゆる、末端停止剤として作用するため、該片末端封鎖ポリオキシアルキレングリコールの共重合量を増やすにつれて最終的に得られる共重合ポリエステルの重合度が低下するという問題が顕在化する。このため、この系で実用性のある繊維物性を保持しつつ、充分な防汚性を得るのは極めて困難である(特許文献3〜6)。
【0005】
さらに、蛍光増白剤を含有する白原着ポリエステル繊維よりなる繊維構造物や繊維製品に上述したような防汚加工を施こしてなる防汚性ポリエステル繊維構造物や繊維製品が提案されている(特許文献7〜9)。しかしながら、この方法ではその対象が白物主体になる上、後加工方法との併用が必要であり、依然としてその洗濯耐久性に問題が残されている。また、上記した片末端封鎖ポリオキシエチレングリコールをポリエステル主鎖の末端に共重合したポリエステルに特定の蛍光増白剤を含有させた防汚性ポリエステル繊維が知られているが、実用性のある繊維物性を保持しつつ、充分な防汚性を得ることは困難である(特許文献10)。
【0006】
【特許文献1】特公昭47−2512号公報
【特許文献2】特公昭51−2559号公報
【特許文献3】特開昭62−90312号公報
【特許文献4】特開昭63−35824号公報
【特許文献5】特開昭63−35825号公報
【特許文献6】特開昭63−50524号公報
【特許文献7】特開昭62−90378号公報
【特許文献8】特開平5−311539号公報
【特許文献9】特開2004−270058号公報
【特許文献10】特開昭63−12717号公報
【非特許文献1】“Polymer”1978年8月号904〜912頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記背景に鑑みなされたもので、その目的は、実用性のある繊維物性を有し、防汚性およびその洗濯耐久性が大幅に改良され、特に洗濯による黒ずみが格段に改良された共重合ポリエステル繊維およびそれを用いた繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく検討した結果、ポリエーテル成分が側鎖に共重合されている共重合ポリエステル繊維に特定量の蛍光増白剤を含有させて作った改質ポリエステル繊維が、洗濯による黒ずみが起こらないだけでなくむしろ洗濯の繰り返しによって布自の白度が増すこと、特に洗濯後の乾燥を天日乾燥で行った場合に、布帛に残存した油汚れが消えて著しく増大した増白効果が得られることを知見した。
【0009】
すなわち、本発明は次のとおりである。
1.ポリエステル繊維において、該繊維が、ポリエーテル成分が側鎖に共重合された共重合ポリエステルからなり、かつ該繊維の重量を基準として0.001〜2重量%の蛍光増白剤を含有していること特徴とする共重合ポリエステル繊維。
2.ポリエーテル成分が、ポリオキシエチレン系ポリエーテルである1記載の共重合ポリエステル繊維。
3.共重合ポリエステルが、下記一般式(1)で表わされるジオール化合物及び/又は下記一般式(2)で表わされるエポキシ化合物が共重合されたポリエステルである1または2記載の共重合ポリエステル繊維。
【化1】

(式中、Rは炭化水素基、R’はアルキレン基、n1は重合度を示す正の整数である)
【化2】

(式中、Rは炭化水素基、R’はアルキレン基、n2は重合度を示す正の整数である)
4.ポリエーテル成分の共重合量が共重合ポリエステルに対して0.5〜10重量%である、1〜3のいずれかに記載の共重合ポリエステル繊維。
5.蛍光増白剤がスチルベン系蛍光増白剤である1〜4のいずれかに記載の共重合ポリエステル繊維。
6.スチルベン系蛍光増白剤が4,4’−ビス(ベンゾオキサゾリル)−スチルベンである5に記載の共重合ポリエステル繊維。
7.1〜6のいずれかに記載の共重合ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いた繊維製品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の共重合ポリエステル繊維は、実用性のある繊維物性を有し、防汚性およびその洗濯耐久性が大幅に改良され、特に洗濯による黒ずみが格段に改良されている。このため、上記繊維はレンタルユニフォーム等のリネンサプライ分野において特にその特徴が発揮され、何度洗濯を繰り返しても防汚性が保持されて、洗濯による黒ずみが起こらないか、またはむしろ増白されるといった特性も有している。さらに、本発明の共重合ポリエステル繊維は蛍光増白剤を含有するので、蛍光染色を施さなくても優れた白度を呈すると共にその耐光堅牢度も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において共重合ポリエステル繊維を構成するポリエステルは、テレフタル酸を主たる二官能性カルボン酸成分とし、少なくとも1種のグリコール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ばれる少なくとも1種のアルキレングリコールをグリコール成分とするポリエステルを主たる対象とする。
【0012】
また、テレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置換えたポリエステルであってもよく、及び/又はグリコール成分の一部を主成分以外の上記グリコール若しくは他のジオール成分で置換えたポリエステルであってもよい。
【0013】
ここで使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の如き芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸をあげることができる。
【0014】
また、上記グリコール以外のジオール化合物としては、例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSの如き脂肪族、脂環族、芳香族ジオール化合物等をあげることができる。
【0015】
さらに、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸の如きポリカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの如きポリオールを使用することができる。
【0016】
かかるポリエステルは任意の方法によって合成される。例えばポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、通常テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステルおよび/又はその低重合体を生成させる第一段階の反応と、第一段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第二段階の反応によって製造される。
【0017】
本発明の共重合ポリエステル繊維を構成するポリエステルは、ポリエーテル成分が共重合されている共重合ポリエステルである必要がある。ポリエーテル成分としてはポリオキシアルキレン成分が好ましく、たとえば上記基体ポリエステルに、下記一般式(1)で表わされるジオール化合物及び/又は下記一般式(2)で表わされるエポキシ化合物が共重合された共重合ポリエステルを好ましい具体例としてあげることができる。
【0018】
本発明においては上記基体ポリエステルに、下記一般式(1)で表わされるジオール化合物及び/又は下記一般式(2)で表わされるエポキシ化合物が共重合されていることが好ましい。
【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
これらの式中、R、Rは炭化水素基を示し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアルキルアリール基が好ましい。R’、R’はアルキレン基であり、炭素原子数2〜4のアルキレン基が好ましい。具体的にはエチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基が例示される。また、2種以上の混合、例えばエチレン基とプロピレン基、若しくはエチレン基とテトラメチレン基とを持ったランダム共重合体やブロック共重合体であってもよい。n1、n2は重合度を示す正の整数であり、30〜140の範囲であることが好ましい。重合度が30未満では、充分な吸湿性、透湿性や木綿、麻等の天然繊維が有する清涼感、冷涼感が呈されず、本発明の目的が達成されない。また、重合度が140を越えて大きくなると最早共重合が困難になり、充分な吸湿性、透湿性や清涼感、冷涼感が呈されなくなる。なかでも40〜100の範囲において特に優れた吸湿性、透湿性が発現すると共に清涼感、冷涼感が特に顕著に奏されるので好ましい。RとR、R’とR’、n1とn2とは相互に同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
かかる化合物の好ましい具体例としては、上記式(1)で示されるジオール化合物としてポリオキシエチレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールイソプロピル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールn−ブチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールノニルフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチレングリコールセチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールn−ブチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールオクチルフェニル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールノニルフェルニ1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシテトラメチレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル、ポリオキシエチルグリコール/ポリオキシプロピレングリコール共重合体のメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル等をあげることができ、これらのなかでもポリオキシエチレングリコール誘導体が特に好ましい。上記ジオール化合物は1種を単独で使用しても、また2種以上を併用してもよい。
【0023】
また、上記式(2)で示されるエポキシ化合物の好ましい具体例としては、ポリオキシエチレングリコールメチルグリシジエーテル、ポリオキシエチレングリコールフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールイソプロピルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールn−ブチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールノニルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールセチルグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールメチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールn−ブチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコールノニルフェニルグリシジルエーテル、ポリオキシテトラメチレングリコールメチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリコール/ポリオキシプロピレングリコール共重合体のメチルグリシジルエーテル等をあげることができる。これらのなかでもポリオキシエチレングリコール誘導体が特に好ましい。上記エポキシ化合物は1種を単独で使用しても、また2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記のジオール化合物及び/又はエポキシ化合物を前記基体ポリエステルに共重合するには、前述したポリエステルの合成が完了するまでの任意の段階、例えば第1段階の反応開始前、反応中、反応終了後、第2段階の反応中等の任意の段階で添加し、添加後重縮合反応を完結すればよい。この際その使用量は、あまりに少ないと最終的に得られるポリエステル成形物の吸湿性、清涼感、冷涼感の性能が不充分になり、逆にあまりに多くても著しい吸湿性、清涼感、冷涼感性能の向上が見られず、かえって最終的に得られる成形物の物理的性質、例えば繊維の強伸度等が悪化するだけでなく、耐熱性や耐光性も低下するため、共重合ポリエステルに対して10〜40重量%の範囲であることが必要であり、好ましくは15〜30重量%の範囲である。
【0025】
本発明で用いる共重合ポリエステルを製造するにあたって、安定剤として従来公知のヒンダードフェノール系酸化防止剤やヒンダードアミン系光安定剤を添加することは、共重合ポリエステル繊維の使用時における熱劣化、酸化劣化、光劣化等を抑制する効果があるだけでなく、溶融紡糸時のポリマーの固有粘度の低下をも抑制する効果があるのでむしろ好ましいことである。
【0026】
本発明においては、共重合ポリエステル繊維を構成するポリエステルが、上記のポリエーテル成分が側鎖に共重合されている共重合ポリエステルであること、また、後述するように、該共重合ポリエステル繊維に、特定量の蛍光増白剤が含有されていることが肝要である。本発明者が検討を重ねた結果、上記の改質されたポリエステル繊維は、洗濯による黒ずみが起こらないだけでなくむしろ洗濯の繰り返しによって布帛の白度が増すこと、特に洗濯後の乾燥を天日乾燥で行った場合に、布帛に残存した油汚れが消えて著しく増大した増白効果が得られることを知見するに到った。
【0027】
なお、この作用機構については未だ定かではないが、これまでの検討結果からこの現象は上記繊維に特異的に起こる現象であり、側鎖に共重合されたポリエーテル成分、特にポリオキシエチレン系ポリエーテルと蛍光増白剤との間で何らかの光感応作用が働き、油汚れが分解ないし脱落しやすくなるものと推定される。
【0028】
本発明で使用される蛍光増白剤としては、ピレン系、オキサゾール系、クマリン系、チアゾール系、イミダゾール系、イミダゾロン系、ピラゾール系、ベンチジン系、ジアミノカルパゾール系、ジアミノスチルベンジスルホン酸系等をあげることができるが、なかでもポリエステルの重合温度や溶融紡糸温度において耐熱性に優れたオキサゾール系およびクマリン系の蛍光増白剤が好ましく使用される。
【0029】
かかる好ましい蛍光増白剤の具体例としては、例えば4,4’−ビス(ベンゾオキサゾリル)−スチルベン、4,4−ビス(5−メチルベンゾオキサゾリル)−スチルベン、4−(ベンゾオキサゾリル)−4’−(5−メチルベンゾオキサゾリル)−スチルベン、4,4’−ビス(5,6−ジメチルベンゾオキサゾリル)−スチルベン、4,4’−ビス(5−フェニルベンゾオキサゾリル)−スチルベン、4,4’−ビス(5−ベンジルベンゾオキサゾリル)−スチルベン、4,4’−ビス(5−クロロベンゾオキサゾリル)−スチ ルベン、4,4’−ビス(5−ブロモベンゾオキサゾリル)−スチルベン、4,4’−ビス(5−メトキシベンゾオキサゾリル)−スチルベン等のベンゾオキサゾリルスチルベン系誘導体、2,5−ジベンゾオキサゾリル−チオフェン、2,5−ジ(メトキシベンゾオキサゾリル)−チオフェン、2,5−ジ(メチルベンゾオキサゾリル)−チオフェン、2,5−ジ(トブチルベンゾオキサゾリル)−チオフェン、2−ベンゾオキサゾリル−5−t−ブチルベンゾオキサゾリル−チオフエン等のベンゾオキサゾリルチオフェン系誘導体、3−フェニル−7−(ピラゾール−1−イル)クマリン、3−フェニル−7−(3−メチル−ピラゾール−1−イル)−クマリン、3−トリル−7−(3−メチル−ピラゾール−イル)−クマリン等のクマリンクマリン系誘導体等をあげることができ、なかでもベンゾオキサゾリルスチルベン系誘導体が最も好ましい。
【0030】
これらの蛍光増白剤の含有量は共重合ポリエステル繊維の重量を基準として0.001〜2重量%の範囲である。含有量が0.001重量%未満では防汚性能が不充分であり、2重量%を超えると最終的に得られる繊維が黄色に着色するようになり実用に耐えない。上記含有量としては、0.005〜0.5重量%の範囲が好ましく、0.01〜0.1重量%の範囲がより好ましい。
【0031】
上記蛍光増白剤は前述した共重合ポリエステルの重合段階から紡糸されるまでの任意の過程で添加すればよく、重合添加方式、マスターバッチ方式、リキッド方式等による共重合ポリエステル繊維の製造方法が任意に適用される。なかでも設備の汚染、制御等取扱性から重合終了後に添加するのが好ましい。重合終了後に添加する方法としては、マスターバッチ方式、リキッド方式等が挙げられるが、溶融紡糸時の安定性、着色剤の取扱性等より、マスターバッチ方式が好ましい。
【0032】
さらに、マスターバッチ方式で繊維を得る場合、蛍光増白剤を添加する時期については、原料ペレットの段階で計量混合し、溶融紡糸する段階、別々に溶融させたポリマーを計量混合し紡糸する段階等があるが、いずれの方法で行っても差し支えない。
【0033】
共重合ポリエステル繊維を製造する方法としては、格別の方法を採る必要はなく、通常のポリエステル繊維の溶融紡糸方法および前述のマスターバッチ方式等による製造方法が任意に適用される。たとえば、共重合ポリエステルとマスターチップまたはリキッドを溶融混合して紡糸口金から吐出して巻き取った後、必要に応じて延伸や熱処理を施す方法によって製造される。
【0034】
かくして得られる共重合ポリエステル繊維は長繊維であっても、短繊維であってもよく、繊度は任意でよい。繊維の断面形状は円形であっても異形であってもよく、また中空繊維であっても中実繊維であってもよい。
なお、共重合ポリエステル繊維には、必要に応じて任意の添加剤、たとえば着色防止剤、耐熱剤、難燃剤、艶消剤、無機微粒子等が含まれていてもよい。
【0035】
さらに、本発明の共重合ポリエステル繊維は必要に応じて、綿、羊毛等の天然繊維、レーヨン、アセテート等の再生繊維及び本発明のポリエステル以外の合繊との混紡、交織等に使用される。
【0036】
以上に説明した本発明に共重合ポリエステル繊維は、糸、織編物、不織布などの形状として、該共重合ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いた繊維製品とすることができる。かかる繊維製品の具体例としては、次のものを挙げることができる。
【0037】
(1)衣料用途
ファッション用途としてシャツ、ブラウス、パンツ、ブルゾン、コート、和装品など、インナー・レッグ用途として肌着、ブラジャー、ガードル、ボディーファー、キャミソール、ショーツ、パンティーストッキング、ストッキング、靴下、ハイソックス、ショートソックスなど、スポーツ用途として競技用のゲームシャツやゲームパンツ(テニス、バスケット、卓球、バレーボール、陸上、ゴルフ、サッカー、ラグビーなど)、スェットスーツ、ウィンドブレーカー、アスレチックウェア、トレーニングウェア、ショーツ、水着、プールサイドウェア、アンダーウェア、タイツ、スパッツ、レオタード、レッグ衣料、ウェットスーツ、ドライスーツ、食品白衣等の白衣、レディス向けブラウス等のユニフォーム用途、寝衣用途、学生服用途、帽子、ショールなどの衣料付帯品、裏地、カップ、パッドなどの衣料資材、スポーツシューズなど
【0038】
(2)インテリア・寝具用途
カーテン(ドレープカーテン、レースカーテン、シャワーカーテン、ロールカーテン、ブラインドなど)、カーペット、テーブルクロス、椅子張り、間仕切り、壁紙、寝装品(掛けふとん、敷き布団、布団用側地、布団用詰め物、毛布、毛布用側地、タオルケット、シーツなど)、スリッパ、マットなど
【0039】
(3)自動車内装材用途
カーシート、カーマット、天井材、トリムなど
【0040】
(4)産業資材用途
テント類(レジャー用、イベント用など)
【実施例】
【0041】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明する、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の部および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
【0042】
(1)固有粘度
35℃のオルソクロルフェノール溶液により測定した。
【0043】
(2)防汚性および白度
10cm×13cmの平織物試料を、下記組成の洗濯再汚染液が入った処理ポットに浴比が1:260になるように負荷布(綿100%精錬布)で調整して入れ、50℃で60分間撹件処理した。
・人工油汚れ(モーターオイル99.335%+重油0.634%+カーボンブラック0.031%) :1%
・アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム :0.02%
・硫酸ナトリウム :0.03%
・トリポリリン酸ナトリウム :0.02%
【0044】
軽く水洗した後、試料を濾紙の間に挟み余分の汚染液を除いた。次いで汚染した試料を家庭洗濯機で洗濯用合成洗剤の標準使用量を用い、JIS L 0217付表1番号103の規定されている洗濯操作を1サイクル(1回)とし、これに従って25回の洗濯を繰り返した。洗濯温度は40℃で行い、乾燥は室内自然乾燥および天日乾燥のそれぞれの場合について行った。
【0045】
さらにミノルタ色彩色差計CR−200(ミノルタカメラ販売(株)製)を用い、常法によって試料のCIE表色系のL、a、bを測定し、下式により防汚性(ΔE*)および白度を求めた。
【0046】
【数1】

[数2]
白度=L−b
上記式中、ΔEは防汚性を示し、この値が小さいほど防汚性に優れることを示す。L1、a1、b1は汚染処理前の試料のL、a、b値を、L2、a2、b2は洗濯後の試料のL、a、b値をそれぞれ示す。
【0047】
[実施例1〜5および比較例1]
(蛍光増白剤含有マスターチップの製造)
4,4’−ビス(ベンゾオキサゾリル)−スチルベン粉体3.5部および固有粘度0.640のポリエチレンテレフタレートの乾燥チップ96.5部をナウタ・ミキサー中で5分間ドライブレンドした後、2軸エクストルーダーを使用し、275℃の温度で溶融混合した。溶融混合ポリマーは水浴中へストランド状に押出し、冷却後これを切断して、蛍光増白剤の含有量が3.5%のマスターチップを得た。
【0048】
(共重合ポリエステルチップの製造)
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸カルシウム1水塩0.06部(テレフタル酸ジメチルに対して0.066モル%)及び整色剤として酢酸コバルト4水塩0.009部(テレフタル酸ジメチルに対して0.007モル%)をエステル交換缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下4時間かけて140℃から220℃まで昇温して生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応終了後、安定剤としてリン酸トリメチル0.058部(テレフタル酸ジメチルに対して0.080モル%)を加えた。次いで10分後に三酸化アンチモン0.04部(テレフタル酸ジメチルに対して0.027モル%)を添加し、同時に過剰のエチレングリコールを追出しながら240℃まで昇温した後重合缶に移した。
【0049】
重合缶に平均の分子量が3000(m=66)のポリオキシエチレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテル4.12部(共重合ボリエステルに対して4%)を添加した後、1時間かけて760Torrから1Torrまで減圧し、同時に1時間30分かけて240℃から280℃まで昇温した。1Torr以下の減圧下、重合温度280℃で更に2時間重合した時点で酸化防止剤としてイルガノックス1010(チバスペシャリティケミカル社製)0.8部を真空添加し、その後更に30分間重合した。得られた共重合ポリエステルを常法に従ってチップ化した。この共重合ポリエステルのチップの固有粘度は0.685であった。
【0050】
(繊維の製造)
前記の蛍光増白剤含有マスターチップおよび共重合ポリエステルチップを常法により乾燥後、混合チップ中の蛍光増白剤の含有量(すなわち繊維中の含有量)が表1に記載の含有量となるように計量混合し、孔径0.3mmの円形紡糸孔を24個穿設した紡糸口金を使用して285℃で溶融紡糸した。次いで得られた未延伸糸を、最終的に得られる延伸糸の伸度が30%になる延伸倍率にて84℃の加熱ローラーと180℃のプレートヒーターを使って延伸熱処理して55デシテックス/24フィラメントの延伸糸を得た。得られた延伸糸を用いて平織物を製織し、常法により精錬・熱処理した。得られた平織物について特性を評価した結果を表1に示す。なお、上記平織物は実用的な強度を有し、洗濯25回後でも同様の強度を維持しており実用性に優れていた。
【0051】
[実施例6〜8および比較例2〜4]
実施例1〜5および比較例1において使用した共重合ポリエーテルの共重合量および蛍光増白剤の含有量を表1記載のように変更する以外は実施例1〜5および比較例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例9]
実施例2においてマスターバッチ法により添加した蛍光増白剤4,4’−ビス(ベンゾオキサゾリル)−スチルベンを使用することなく、代わりに下記一般式で表されるクマリン系蛍光増白剤ハッコールPSR(ハッコール・ケミカル社)0.036部(共重合ポリエステルに対して0.035%)をエステル交換反応終了後、三酸化アンチモンに引き続いて添加する以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0053】
【化5】

【0054】
[比較例5]
共重合ポリエーテルであるポリオキシエチレングリコールメチル1,2−ジヒドロキシプロピルエーテルを使用しない以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の共重合ポリエステル繊維は、実用性のある繊維物性を保持しつつ、従来技術に比べて防汚性およびその洗濯耐久性が大幅に改良され、特に洗濯による黒ずみが格段に改善される。このため、上記繊維はレンタルユニフォーム等のリネンサプライ分野において特に有用である。具体的には、例えば肌着、食品白衣等の白衣、レディス向けブラウス等のユニフォーム、テーブルクロス等リネン資材等の洗濯頻度の高い衣類とした場合に特にその特徴が発揮され、何度洗濯を繰り返しても防汚性が保持されて、洗濯による黒ずみが起こらないか、またはむしろ増白されるといった特性を有している。また、本発明の共重合ポリエステル繊維は蛍光増白剤を含有するので、蛍光染色を施さなくても優れた白度を呈すると共にその耐光堅牢度も良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維において、該繊維が、ポリエーテル成分が側鎖に共重合された共重合ポリエステルからなり、かつ該繊維の重量を基準として0.001〜2重量%の蛍光増白剤を含有していること特徴とする共重合ポリエステル繊維。
【請求項2】
ポリエーテル成分が、ポリオキシエチレン系ポリエーテルである請求項1記載の共重合ポリエステル繊維。
【請求項3】
共重合ポリエステルが、下記一般式(1)で表わされるジオール化合物及び/又は下記一般式(2)で表わされるエポキシ化合物が共重合されたポリエステルである請求項1または2記載の共重合ポリエステル繊維。
【化1】

(式中、Rは炭化水素基、R’はアルキレン基、n1は重合度を示す正の整数である)
【化2】

(式中、Rは炭化水素基、R’はアルキレン基、n2は重合度を示す正の整数である)
【請求項4】
ポリエーテル成分の共重合量が共重合ポリエステルに対して0.5〜10重量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の共重合ポリエステル繊維。
【請求項5】
蛍光増白剤がスチルベン系蛍光増白剤である請求項1〜4のいずれかに記載の共重合ポリエステル繊維。
【請求項6】
スチルベン系蛍光増白剤が4,4’−ビス(ベンゾオキサゾリル)−スチルベンである請求項5に記載の共重合ポリエステル繊維。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の共重合ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いた繊維製品。

【公開番号】特開2008−163517(P2008−163517A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355000(P2006−355000)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】