説明

共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートおよび二軸配向フィルム

【課題】フィルムにしたときに、幅縮みが少なく改善されたスリット性や耐デラミネーション性を有するポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの提供。
【解決手段】共重合成分として、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を、全酸成分を基準として、0.1モル%以上5モル%未満の範囲で含む共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートおよびそれを用いた二軸配向フィルム。特に高密度磁気記録媒体などのベースフィルムとして適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を共重合した共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートおよびそれを用いたフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、フィルムなどに幅広く使用されている。特にポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、ポリエチレンテレフタレートよりも優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、それらの要求の厳しい用途、例えば高密度磁気記録媒体などのベースフィルムなどに使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムに比べてフィルム面内での配向が強いために、スリット性や表面のデラミ性が劣るという問題がある。具体的には、スリット性が劣る場合、フィルム製膜時やフィルム加工時に切断が生じたり、巻き取ったロールの端面がハイエッジとなってロールから巻き出した際にフィルムの端部がワカメ状となる不具合が生じる問題が発生する。他方、デラミ性が劣る場合、フィルム表面が粗れ、磁気記録媒体としたときに磁性層表面が粗くなったり、磁性層との接着力が低下し、さらには磁性層が剥離をしたりするなどの問題が発生する。
【0004】
一方、特開平4−180920号公報(特許文献1)には、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートにビストリメリットイミド化合物を共重合する方法が開示されている。しかしながら、該公報における該イミド化合物はヤング率を向上させることのみを目的としており、この方法により得られる共重合ナフタレートは、上述した問題点を解決するには至らなかった。
【0005】
また、特許文献2〜5には、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートよりも高剛性のポリマーとして、ポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平4−180920号公報
【特許文献2】特開昭60−135428号公報
【特許文献3】特開昭60−221420号公報
【特許文献4】特開昭61−145724号公報
【特許文献5】特開平6−145323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、フィルムにしたときに、幅縮みが少なく改善されたスリット性や耐デラミネーション性を有するポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートフィルムおよびそれを用いた二軸配向フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートに6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合させたとき、驚くべきことにフィルムなどに成形したときに幅縮みを生じさせることなく、優れた耐デラミネーション性(耐デラミ性)とスリット性とを有する共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが得られることを見出し本発明に到達した。
【0009】
かくして本発明によれば、共重合成分として、下記構造式(I)
【化1】

(上記構造式(I)中のRは炭素数1〜10のアルキレン基を示す。)の単位が、全酸成分を基準として、0.1モル%以上5モル%未満の範囲で含む共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが提供される。
また、本発明によれば、上記本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる二軸配向フィルムも提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記構造式(I)の単位、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を、全酸成分を基準として、0.1モル%以上5モル%未満の範囲で共重合していることから、得られる共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートに優れた耐デラミ性とスリット性とを具備させつつ、幅縮みなども抑制することができ、加工性に優れた共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートおよびそれを用いた二軸配向フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート>
本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレーは、酸成分として前述の構造式(I)で示される単位を有する6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合したものである。
【0012】
前述の構造式(I)で示される単位を有する具体的な酸成分としては、Rの部分が炭素数1〜10のアルキレン基であるものであり、好ましくは6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などが挙げられ、これらの中でも本発明の効果の点からは、上記一般式(I)におけるRの炭素数が偶数のものが好ましく、特にRの炭素数が2である6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が好ましい。
【0013】
ところで、本発明の特徴は、共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートに、全酸成分を基準として、0.1モル%以上5モル%未満の範囲で上記構造式(I)の単位で示される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合成分として含有させたことにある。6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合が上記範囲内にあることで、スリット性と耐デラミ性を向上させつつ、幅縮みなども抑制することができる。好ましい上記構造式(I)の単位で示される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の共重合割合は、0.3モル%以上4.7モル%以下、さらに0.5モル%以上4.5モル%以下の範囲である。
【0014】
本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、本発明の効果を阻害しない範囲で、それ自体公知の他の共重合成分を共重合しても良い。例えば、テレフタル酸やイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどのグリコール成分などを繰り返し単位のモル数を基準として、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下、特に好ましくは3モル%以下の範囲で共重合しても良い。また、本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレーには、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の熱可塑性ポリマー、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤(ワックスや有機粒子や無機粒子などの粒子)、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などを必要に応じて配合して組成物としても良い。他種熱可塑性ポリマーとしては、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルイミド、ポリイミドなどが挙げられる。
【0015】
<成形品>
本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、溶融製膜して、シート状に押出すことでフィルムなどの成形品とすることができる。特に、磁気テープなどのベースフィルムとして用いる場合、ベースフィルムがフィルムにかかる応力などによって伸びないようにフィルム面方向における少なくとも一方向は、ヤング率が6.0GPa以上という高いヤング率を有する二軸配向フィルムであることが好ましい。未延伸フィルムや一軸配向フィルムでは、延伸されていない方向に応力がかかったときなどに非常に延びやすくなる。好ましい二軸配向フィルムのヤング率は、フィルムの製膜方向(フィルムを製膜するときの進行方向であり、縦方向または長手方向と称することがある。)が5.1〜11GPa、さらに5.2〜10GPa、特に5.5〜9GPaの範囲であり、フィルムの幅方向(フィルムの製膜方向と厚み方向とに直交する方向で、横方向と称することがある。)が5.0〜11GPa、さらに5.5〜10GPa、特に7〜10GPaの範囲である。
【0016】
ところで、本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの幅縮みを抑えることから、二軸配向フィルムの幅方向の105℃で30分間熱処理したときの熱収縮率が1%以下、さらに0〜0.5%以下であることが好ましい。また、得られた二軸配向フィルムに優れた寸法安定性を具備する観点から、本発明の二軸配向フィルムは、二軸配向フィルムの製膜方向の105℃で30分間熱処理したときの熱収縮率が1%以下、さらに0〜0.5%以下であることが好ましい。
【0017】
<ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの製造方法>
つぎに、本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの製造方法について、詳述する。
【0018】
まず、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸もしくはそのエステル形成性誘導体と2,6−ナフタレンジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とを、エチレングリコールとエステル化反応もしくはエステル交換反応させ、ポリエステルの前駆体を製造する。そして、このようにして得られたポリエステルの前駆体を重合触媒の存在下で重合し、必要に応じて固相重合などを施しても良い。このようにして得られる共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートのP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度は、0.4〜1.5dl/g、さらに0.5〜1.3dl/gの範囲にあることが取扱い性や機械的特性などの点から好ましい。なお、前述の構造式(I)の単位の割合が異なる2種類のポリマーを作り、前述の構造式(I)の割合が目的となるようにそれらを溶融混練してもよい。
【0019】
また、前述のポリエステルの前駆体を製造する工程において、エチレングリコール成分は、全酸成分のモル数に対して、1.1〜6倍、さらに2〜5倍、特に3〜5倍用いることが生産性の点から好ましい。
【0020】
また、ポリエステルの前駆体を製造する際の反応温度としてはエチレングリコールの沸点以上で行うことが好ましく、特に190℃〜250℃の範囲で行なうことが好ましい。190℃よりも低いと反応が十分に進行しにくく、250℃よりも高いと副反応物であるジエチレングリコールなどのジアルキレングリコールが生成しやすい。また、反応を常圧下で行うこともできるが、さらに生産性を高めるために加圧下で反応を行ってもよい。より詳しくは、反応圧力は絶対圧力で10kPa以上200kPa以下、反応温度は通常150℃以上250℃以下、好ましくは180℃以上230℃以下で、反応時間10分以上10時間以下、好ましくは30分以上7時間以下行われるのが好ましい。このエステル化反応やエステル交換反応によってポリエステルの前駆体としての反応物が得られる。
【0021】
ポリエステルの前駆体を製造する反応工程では、公知のエステル化もしくはエステル交換反応触媒を用いてもよい。例えばアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、チタン化合物などが上げられる。
【0022】
つぎに、重縮合反応について説明する。まず、重縮合温度は得られる共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの融点以上でかつ230〜280℃以下、より好ましくは融点より5℃以上高い温度から融点より30℃高い温度の範囲である。重縮合反応では通常50Pa以下の減圧下で行うのが好ましい。50Paより高いと重縮合反応に要する時間が長くなり且つ重合度の高い共重合ポリエステルを得ることが困難になる。
【0023】
重縮合触媒としては、少なくとも一種の金属元素を含む金属化合物が挙げられる。なお、重縮合触媒はエステル化反応やエステル交換反応の触媒として併用してもよい。金属元素としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、コバルト、ロジウム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。より好ましい金属としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、スズなどであり、中でも、チタン化合物はエステル化反応やエステル交換反応と重縮合反応との双方の反応で、高い活性を発揮するので特に好ましい。
【0024】
これらの触媒は単独でも、あるいは併用してもよい。かかる触媒量は、共重合ポリエステルの繰り返し単位のモル数に対して、0.001〜0.5モル%、さらには0.005〜0.2モル%が好ましい。
【0025】
ところで、前述の粒子の添加方法としては、特に制限されず、それ自体公知の添加方法を採用できる。例えば、重合反応段階でグリコールスラリーの状態で粒子を添加する方法や、得られたポリマーに混練押出機で粒子を溶融混練する方法などが挙げられる。粒子の分散性の観点からは、重合反応段階でグリコールスラリーの状態で粒子を添加して高濃度で粒子を含有するポリエステル組成物の粒子マスターポリマーを作成し、該粒子マスターポリマーを、粒子を含有しないポリエステルで希釈するのが好ましい。
【0026】
<フィルムの製造方法>
本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを原料とし、これを乾燥後、該共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの融点(Tm:℃)ないし(Tm+50)℃の温度に加熱された押出機に供給して、例えばTダイなどのダイよりシート状に押出す。なお、使用する本発明のポリエステル組成物は、1種類に限られず、例えば前述の構造式(I)の割合が多いポリマーと、前述の構造式(I)の少なくもしくはないポリマーとを作り、前述の構造式(I)の割合が目的の範囲となるようにそれらを溶融混練して用いてもよく、そのような方法を採用することで、前述の構造式(I)の割合を任意に且つ簡便に変更することができる。この押出されたシート状物を回転している冷却ドラムなどで急冷固化して未延伸フィルムとし、さらに該未延伸フィルムを二軸延伸することで二軸配向フィルムとすることができる。
【0027】
なお、後述の延伸を進行させやすくする観点から、冷却ドラムによる冷却は非常に速やかに行なうことが好ましく、20〜60℃という低温で行なうことが好ましい。このような低温で行うことで、未延伸フィルムの状態での結晶化が抑制され、その後の延伸をよりスムーズに行える。
【0028】
二軸延伸としては、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよい。
ここでは、逐次二軸延伸で、縦延伸、横延伸および熱処理をこの順で行う製造方法を一例として挙げて説明する。まず、最初の縦延伸はポリエステルのガラス転移温度(Tg:℃)ないし(Tg+40)℃の温度で、3〜8倍に延伸し、次いで横方向に先の縦延伸よりも高温で(Tg+10)〜(Tg+50)℃の温度で3〜8倍に延伸し、さらに熱処理としてポリマーの融点以下の温度でかつ(Tg+50)〜(Tg+150)℃の温度で1〜20秒熱固定処理するのが好ましい。なお、熱固定の時間はさらに1〜15秒が好ましい。
【0029】
なお、本発明の二軸配向フィルムの厚みは、10μm以下、さらに8μm以下の薄いフィルムであることが耐デラミ性やスリット性の観点から好ましく、また幅縮みの観点から1μm以上、さらに3μm以上であることが好ましい。
前述の説明は逐次二軸延伸について説明したが、縦延伸と横延伸とを同時に行う同時二軸延伸でも製造でき、例えば先で説明した延伸倍率や延伸温度などを参考にすればよい。
【0030】
また、二軸配向ポリエステルフィルムが積層フィルムの場合、2種以上の溶融ポリエステル組成物をダイ内で積層してからフィルム状に押出し、好ましくはそれぞれのポリエステル組成物の融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度で押出すか、2種以上の溶融ポリエステル組成物をダイから押出した後に積層し、急冷固化して積層未延伸フィルムとし、ついで前述の単層フィルムの場合と同様な方法で二軸延伸および熱処理を行うとよい。このとき、全てのフィルム層が本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートである必要はなく、少なくとも一つのフィルム層が本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなるものであれば良い。また、二軸配向フィルムの表面に塗布層を設けてもよく、その場合、前記した未延伸フィルムまたは一軸延伸フィルムの片面または両面に所望の塗布液を塗布し、後は前述の単層フィルムの場合と同様な方法で二軸延伸および熱処理を行うことが好ましい。
【0031】
本発明によれば、本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる二軸配向ポリエステルフィルムをベースフィルムとし、その一方の面に非磁性層および磁性層をこの順で形成し、他方の面にバックコート層を形成することで磁気記録テープとすることもできる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価した。
【0033】
(1)固有粘度
得られたポリエステルの固有粘度はP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いてポリマーを溶解して35℃で測定して求めた。
【0034】
(2)共重合量
グリコール成分については、試料10mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1(容積比)混合溶液0.5mlに80℃で溶解し、イソプロピルアミンを加えて、十分に混合した後に600MのH−NMR(日立電子製 JEOL A600)にて80℃で測定し、それぞれのグリコール成分量を測定した。
また、芳香族ジカルボン酸成分については、試料50mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1混合溶液0.5mlに140℃で溶解し、400M 13C−NMR(日立電子 JEOL A600)にて140℃で測定し、それぞれの酸成分量を測定した。
【0035】
(3)ヤング率
得られたフィルムを試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張る。得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算する。
【0036】
(4)熱収縮率(%)
温度105℃に設定されたオーブン中に予め正確な長さを測定した長さ約30cm幅5cmのフィルムを懸垂し、無荷重下に30分間保持処理した後取り出し、室温に戻してからその寸法の変化を読み取る。熱収縮率は下記式で定義される。
熱収縮率(%)=(△L/L0)×100
ここで、△L=|L0−L|、L0:熱処理前のフィルムの長さ、L:熱処理後のフィルムの同方向の長さである。
なお、上記測定は、製膜方向と幅方向がそれぞれ長さ30cmとなるようにサンプルを作成し、それぞれの方向を測定した。
【0037】
(5)スリット性
レザーカッター方式のスリッターでフィルムを1000mm幅にスリットし、その時に発生した切断屑を以下に示す方法により評価した。スリッターのスピードは80m/分とした。
フィルムのスリット端面を走査型電子顕微鏡にて倍率2000倍で5視野観察し、切断屑の発生状況を以下の基準にて評価した。なお、ここでいう切断屑とは、塊状・繊維状に剥離したフィルム片を意味する。
○:切断屑の発生がほとんどない
△:切断屑の発生が少ない
×:切断屑の発生が多い
【0038】
(6)フィルムのデラミ性の評価
フィルムを長手方向15cm、幅方向10cmに切り、フィルムの長手方向に平行に5cmの切れ目を入れる。このサンプルを引張速度1m/分で、インスロトタイプの万能引張試験装置を用いて長手方向に平行に切れ目に沿って引き裂く。そして、引き裂かれたフィルム端面5cmを倍率100倍の実体顕微鏡で観察する。試験は10回繰り返し、3段階でデラミ性(層間剥離)の評価を行う。
○:デラミ発生なし
△:部分的にわずかにデラミが認められる。
×:デラミ部がかなり多い。
【0039】
(7)幅縮みの評価
フィルムを長手方向30cm、幅方向1.27cmに切り、恒温恒湿槽中に設置した図1のフィルム幅寸法測定装置にセットし、下記の条件でフィルムの幅を測定した。
(A)温湿度条件を、25℃20%RHに設定し(設定条件までは1時間で到達)、張力を0.7Nとし、2時間放置後フィルム幅を測定した。
(B)次に、温湿度条件を、45℃20%RHに変更し(設定条件までは1時間で到達)、張力を1.7Nに変更し、100時間保持した。
(C)最後に、温湿度条件を、再び25℃20%RHに設定し(設定条件までは1時間で到達)、張力を0.7Nとし、2時間放置後フィルム幅を測定した。
上記の(A)−(C)でのフィルム幅の差(mm)を、12.7(mm)で割り、%単位に変換(100倍する)したものを、フィルムの幅縮み変化とし、以下の基準で評価した。
○:0.3%未満
×:0.3%以上
【0040】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、酸成分の99.5モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の0.5モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分の99モル%がエチレングリコール成分、1モル%がジエチレングリコール成分である共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(以下、共重合PENと称する。)を得た。なお、該共重合PENには、重縮合反応の前に平均粒径0.5μmのシリカ粒子を、得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.2重量%となるように含有させた。
【0041】
このようにして得られた共重合PENを、押し出し機に供給して300℃でダイから溶融状態で回転中の温度45℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が140℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率4.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、140℃で横方向(幅方向)に延伸倍率4.5倍で延伸し、その後200℃で5秒間熱固定処理を行い、厚さ6μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた共重合PENおよび二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0042】
[実施例2]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、酸成分の97モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の3モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分の99モル%がエチレングリコール成分、1モル%がジエチレングリコール成分である共重合PENを得た。なお、該共重合PENには、重縮合反応の前に平均粒径0.5μmのシリカ粒子を、得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.2重量%となるように含有させた。
【0043】
このようにして得られた共重合PENを、押し出し機に供給して300℃でダイから溶融状態で回転中の温度45℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、140℃で横方向(幅方向)に延伸倍率6.0倍で延伸し、その後200℃で5秒間熱固定処理を行い、厚さ6μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた共重合PENおよび二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0044】
[実施例3]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、酸成分の95.5モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の4.5モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分の99モル%がエチレングリコール成分、1モル%がジエチレングリコール成分である共重合PENを得た。なお、共重合PENには、重縮合反応の前に平均粒径0.5μmのシリカ粒子を、得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.2重量%となるように含有させた。
【0045】
このようにして得られた共重合PENを、押し出し機に供給して300℃でダイから溶融状態で回転中の温度45℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が140℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率4.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、135℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.0倍で延伸し、その後200℃で5秒間熱固定処理を行い、厚さ6μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた共重合PENおよび二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0046】
[比較例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、グリコール成分の1モル%がジエチレングリコール成分であるポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを得た。なお、該ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートには、重縮合反応の前に平均粒径0.5μmのシリカ粒子を、得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.2重量%となるように含有させた。
【0047】
このようにして得られたポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを、押し出し機に供給して300℃でダイから溶融状態で回転中の温度60℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が140℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率4.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、140℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.2倍で延伸し、その後200℃で7秒間熱固定処理を行い、厚さ6μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られたポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートおよび二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0048】
[比較例2]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、酸成分の90モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の10モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分の99モル%がエチレングリコール成分、1モル%がジエチレングリコール成分である共重合PENを得た。なお、該共重合PENには、重縮合反応の前に平均粒径0.5μmのシリカ粒子を、得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.2重量%となるように含有させた。
【0049】
このようにして得られた共重合PENを、押し出し機に供給して300℃でダイから溶融状態で回転中の温度45℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が140℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率4.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、140℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.0倍で延伸し、その後200℃で5秒間熱固定処理を行い、厚さ6μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた共重合PENおよび二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1中の、NAは2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、ENAは6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、EGはエチレングリコール成分、DEGはジエチレングリコール成分を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレーは、フィルムなどにしたときの幅縮みが小さく、スリット性や耐デラミ性に優れることから加工性に優れ、二軸配向フィルム、特に磁気記録テープなどのベースフィルムに好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明で用いたフィルム幅寸法測定装置の説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1:LED投光部
2:受光部
3:測定曲率ガラス板
4:錘
5:錘
6:フリーロール
7:フリーロール
8:フィルム
9:LED平行光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合成分として、下記構造式(I)の単位を、全酸成分を基準として、0.1モル%以上5モル%未満の範囲で含むことを特徴とする共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート。
【化1】

(上記構造式(I)中のRは炭素数1〜10のアルキレン基を示す。)
【請求項2】
請求項1記載の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる二軸配向フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−286937(P2009−286937A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142404(P2008−142404)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】