説明

共重合体

【課題】ポリビニルアルコールの優れた力学的、界面化学的性質と、ポリアルキルシロキサンの耐熱性、耐候性、耐酸化性、耐放射線性に優れると共に、低分子間力、低溶解度パラメーター、低表面張力などの特徴を兼ね備え、しかも、容易かつ安価に製造することができる新規共重合体を提供する。
【解決手段】ポリビニルエステル単位及び/又はポリビニルアルコール単位と、ポリアルキルシロキサン単位とが、スルフィド結合を介して結合してなる共重合体。この共重合体は、ビニルエステルをポリアルキルシロキサンの存在下に重合し、必要に応じて鹸化することにより容易かつ安価に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルエステル単位及び/又はポリビニルアルコール単位と、ポリアルキルシロキサン単位とが、スルフィド結合を介して結合してなる新規な共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールは、力学的、界面化学的性質に優れた水溶性高分子として紙加工剤、接着剤、繊維加工剤、乳化重合安定剤、防曇剤などに広く用いられている。
また、ポリアルキルシロキサンは、主鎖の−SiO−結合の存在で耐熱性、耐候性、耐酸化性、耐放射線性に優れ、また、側鎖のアルキル基の存在で低分子間力、低溶解度パラメータ、低表面張力などの特徴があり、潤滑剤、離型剤、界面活性剤、撥水剤、消泡剤、表面滑剤、剥離紙のコート剤、繊維加工剤、化粧品などに用いられている。
【0003】
従来、これらポリマーの更なる性能向上のため、他の重合物とのブレンドや、共重合体の開発など種々の試みが行われている。通常、他の重合物とのブレンドは、安価で広範囲に適用可能であるが、それでは満たせない高度の要望には共重合体が使用され、ポリビニルアルコールとポリアルキルシロキサンの共重合体についても開発が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ポリビニルアルコールとポリアルキルシロキサンとのブロック共重合体を得る方法として、アルキルシロキサン含有アゾ開始剤を用いて酢酸ビニルを重合させ、次いでこれを鹸化する方法が開示されている。しかし、この方法は高価なアルキルシロキサン含有アゾ開始剤を多量に用いなければならない欠点があった。
【0005】
特許文献2には、連鎖移動剤としてジアルキルヒドロハロシランの共存下にビニルエステルを重合させて得た、特定反応性末端を有するポリビニルエステルを、また別の特定反応性末端を有するポリアルキルシロキサンとのポリマー間で反応させる方法が示されている。しかし、この方法は、ポリマー同士の反応後、未反応の末端基の処理が必要になる欠点があった。
【0006】
特許文献3では、末端のみにメルカプト基を有するポリマーの存在下に酢酸ビニル等のビニルエステルを重合させてブロック共重合体を製造し、該共重合体を鹸化してポリビニルアルコールのブロック用重合体を得る方法が開示され、ポリオキシアルキレングリコール、ポリメタクリル酸アルキル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリルとポリビニルアルコールのブロック共重合体が例示されている。しかし、ポリアルキルシロキサンとポリビニルアルコールとの共重合体については何ら触れられていない。
【0007】
特許文献4には、末端のみにメルカプト基を有するポリビニルアルコール系重合体の存在下にイオン性基を有する重合性不飽和単量体をラジカル重合することによって得られる、ポリビニルアルコール系重合体とイオン性基を有する重合体とのブロック共重合体が開示されている。しかし、この文献でも、ポリアルキルシロキサンとポリビニルアルコールとの共重合体については触れられていない。
【0008】
特許文献5には、末端にビニル基を有するポリアルキルシロキサンをマクロマーとして用いて酢酸ビニルなどと共重合させ、さらに鹸化することによって、ポリビニルアルコールを主鎖とし、ポリアルキルシロキサンを側鎖として有するグラフト共重合体を得る方法が開示されている。しかし、ポリアルキルシロキサン部分とポリ酢酸ビニル又はポリビニルアルコールとの接合部分はビニル基の重合によって生じた炭素−炭素結合であって、その生成のために高価なポリシロキサンマクロマーを用いなければならない。
このように、従来より、ポリビニルアルコールとポリアルキルシロキサンの両者の特徴を生かした共重合体を得るべく研究が行われているが、安価で安定性のよいブロック共重合体やグラフト共重合体については報告がなされていない。
【特許文献1】特開2004−307539号公報
【特許文献2】特開昭59−202225号公報
【特許文献3】特開昭59−189112公報
【特許文献4】特開平8−245340号公報
【特許文献5】特開昭60−231704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記問題を解決しうる新規な共重合体を提供することにある。
【0010】
即ち、本発明は、ポリビニルアルコールの優れた力学的、界面化学的性質と、ポリアルキルシロキサンの耐熱性、耐候性、耐酸化性、耐放射線性に優れると共に、低分子間力、低溶解度パラメーター、低表面張力などの特徴を兼ね備え、しかも、安価に製造することができる新規共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリビニルエステル単位及び/又はポリビニルアルコール単位と、ポリアルキルシロキサン単位とが、スルフィド結合を介して結合してなる共重合体により、上記課題を解決しうることを見出した。
【0012】
即ち、本発明は以下を要旨とするものである。
【0013】
[1]ポリビニルエステル単位及び/又はポリビニルアルコール単位と、ポリアルキルシロキサン単位とが、スルフィド結合を介して結合してなることを特徴とする共重合体。
【0014】
[2]前記ポリビニルアルコール単位は、前記ポリビニルエステル単位を鹸化して得られる構造を有する、[1]に記載の共重合体。
【0015】
[3]前記ポリビニルエステル単位、ポリビニルアルコール単位、及びポリアルキルシロキサン単位が、それぞれ下記一般式(I)、(II)、及び(III)で表される繰り返し単位を有する、[1]又は[2]に記載の共重合体。
【化4】

(上記一般式(I)におけるR1及び上記一般式(III)におけるR,Rは互いに独立して1価の炭化水素基を表す。)
【0016】
[4]前記共重合体はブロック共重合体であって、下記一般式(IV)〜(VII)で表される構造の少なくとも1つを有する、[3]に記載の共重合体。
【化5】

(上記一般式(IV)〜(VII)において、Xはスルフィド結合を含む炭化水素基を表し、R,R,Rは互いに独立して1価の炭化水素基を表す。x,yは2以上の整数を示す。なお、同一の式中に存在する複数のx,y,R1〜R3は同一であっても異なるものであっても良い。)
【0017】
[5]前記共重合体はグラフト共重合体であって、下記一般式(VIII)及び/又は(IX)で表される構造を有する、[3]に記載の共重合体。
【化6】

(上記一般式(VIII),(IX)中、Yはスルフィド結合を含む炭化水素基を表し、R,R,R,Rは互いに独立して1価の炭化水素基を表す。x’,zは1以上の整数を示し、yは2以上の整数を示す。なお、同一の式中に存在する複数のR〜Rは同一であっても異なるものであっても良い。)
【0018】
[6]前記共重合体を水に4質量%溶解させた溶液の、波長700nmの光の全光線透過率が90%以上である、[1]〜[5]のいずれかに記載の共重合体。
【0019】
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の共重合体を含むことを特徴とする紙加工剤。
【0020】
[8][1]〜[6]のいずれかに記載の共重合体を含むことを特徴とする化粧料。
【発明の効果】
【0021】
本発明の共重合体は、ポリビニルエステル単位及び/又はポリビニルアルコール単位と、ポリアルキルシロキサン単位とが、スルフィド結合を介して結合してなるものである。
このため、本発明の共重合体は、ポリビニルアルコールの優れた力学的、界面化学的性質と、ポリアルキルシロキサンの耐熱性、耐候性、耐酸化性、耐放射線性に優れると共に、低分子間力、低溶解度パラメーター、低表面張力などの特徴を兼ね備える。
【0022】
この共重合体は、例えば、ビニルエステルをポリアルキルシロキサンの存在下に重合し、必要に応じて鹸化することにより容易かつ安価に製造することができる。
【0023】
本発明の共重合体を水に4質量%溶解させた溶液の、波長700nmの光の全光線透過率は、90%以上であることが好ましい。この全光線透過率が高いことは、共重合体の高水溶性を表し、これにより本発明の共重合体は、紙加工剤、化粧料、潤滑剤、離型剤、水溶性の界面活性剤や消泡剤、その他、繊維の糊剤や皮革加工剤など種々の用途に用いることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
本発明の共重合体は、ポリビニルエステル単位及び/又はポリビニルアルコール単位と、ポリアルキルシロキサン単位とが、スルフィド結合を介して結合してなるものである。
本発明の共重合体の形態には、特に制限はないが、好ましくはブロック共重合体又はグラフト共重合体である。これらの両方の形態を有するものであってもよい。
【0026】
通常、ポリビニルエステル単位とポリアルキルシロキサン単位とがスルフィド結合を介して結合してなるブロック又はグラフト共重合体は、それぞれ、末端または側鎖にメルカプト基を有するポリアルキルシロキサンを連鎖移動剤として用いて、ビニルエステルを重合させることにより得られる。
【0027】
また、通常、ポリビニルアルコール単位とポリアルキルシロキサン単位とがスルフィド結合を介して結合してなるブロック又はグラフト共重合体は、それぞれ、末端または側鎖にメルカプト基を有するポリアルキルシロキサンを連鎖移動剤として用いて、ビニルアルコール又はその水酸基を保護したもの(ビニルエステルなど)を重合させ、必要に応じて鹸化することにより得られる。この共重合体は、好ましくはポリアルキルシロキサンの存在下にビニルエステルを重合させ、鹸化することにより得られる。
【0028】
本発明の共重合体は、ポリビニルエステル単位とポリビニルアルコール単位のいずれかを有していればよいが、両方を有していてもよい。例えば、ポリビニルエステル単位と、ポリアルキルシロキサン単位との共重合体を鹸化する際に、鹸化の程度を制御することによりポリビニルエステル単位とポリビニルアルコール単位の両方を有する共重合体を得ることができる。
なお、本発明の共重合体に含まれるポリビニルエステル単位、ポリビニルアルコール単位、ポリアルキルシロキサン単位は、1種類に限定されず、1つの共重合体中に2種類以上のポリビニルエステル単位及び/又はポリビニルアルコール単位とポリアルキルシロキサン単位を有していてもよい。即ち、例えば、ポリビニルエステル単位については、異なる重合度、エステル種のものを含んでいてもよく、ポリビニルアルコール単位については、異なる重合度のものを含んでいてもよい。また、ポリアルキルシロキサン単位については、アルキル基や重合度の異なるものを含んでいてもよい。
【0029】
[共重合体]
まず本発明の共重合体について説明する。
【0030】
<化学構造>
ポリビニルエステル単位及び/又はポリビニルアルコール単位と、ポリアルキルシロキサン単位とが、スルフィド結合を介して結合してなる本発明の共重合体は、ポリビニルエステル単位、ポリビニルアルコール単位、及びポリアルキルシロキサン単位が、それぞれ下記一般式(I)、(II)、及び(III)で表される繰り返し単位を有するものであることが好ましい。
【0031】
【化7】

(上記一般式(I)におけるR1及び上記一般式(III)におけるR2,R3は互いに独立して1価の炭化水素基を表す。)
【0032】
上記一般式(I)において、Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基である。Rがメチル基のものは、最も入手容易な酢酸ビニルを出発モノマーとして選択することができ、工業的に有利である。
【0033】
また、上記一般式(III)において、R,Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などの炭素数1〜12のアルキル基;ビニル基、アリル基などの炭素数2〜12のアルケニル基;フェニル基、トリル基などのアリール基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの炭素数5〜18のシクロアルキル基等を挙げることができる。
【0034】
本発明の共重合体が、ブロック共重合体である場合、下記一般式(IV)〜(VII)で表される構造の少なくとも1つを有するブロック共重合体であることが好ましい。
【0035】
【化8】

(上記一般式(IV)〜(VII)において、Xはスルフィド結合を含む炭化水素基を表し、R,R,Rは互いに独立して1価の炭化水素基を表す。x,yは2以上の整数を示す。なお、同一の式中に存在する複数のx,y,R〜Rは同一であっても異なるものであっても良い。)
【0036】
ここで、Rは、前記一般式(I)におけると同義であり、R,Rは前記一般式(III)におけると同義である。
【0037】
Xのスルフィド結合を含む炭化水素基としては、次のようなものが挙げられる。(なお、以下においてm,nは1以上の整数である。)
【化9】

【0038】
また、本発明の共重合体がグラフト共重合体である場合、下記一般式(VIII)及び/又は(IX)で表される構造を有するグラフト共重合体であることが好ましい。
【0039】
【化10】

(上記一般式(VIII),(IX)中、Yはスルフィド結合を含む炭化水素基を表し、R,R,R,Rは互いに独立して1価の炭化水素基を表す。x’,zは1以上の整数を示し、yは2以上の整数を示す。なお、同一の式中に存在する複数のR1〜R4は同一であっても異なるものであっても良い。)
【0040】
ここで、Rは、前記一般式(I)におけると同義であり、R,Rは前記一般式(III)におけると同義である。
としては、R,Rの具体例として例示したものと同種の基が挙げられる。ただし、RはR,Rと必ずしも同一である必要はない。
【0041】
また、Yのスルフィド結合を含む炭化水素基としては、一般式(IV)〜(VII)におけるXのスルフィド結合を含む炭化水素基として例示したものとが挙げられる。
【0042】
<成分構成比・分子量>
本発明の共重合体の各成分の構成比、分子量などには特に制限なく、目的の用途に合わせて決めることができる。
【0043】
ポリビニルエステル部分の分子量は、その部分だけ切り離して測定することはできないが、後述の本発明の共重合体の製造方法において、ポリアルキルシロキサンのメルカプト基量と、ビニルエステルの仕込み量によって制御できる。ポリビニルエステル部分の分子量は、ポリスチレン換算の数平均分子量として5000〜200000程度が好ましい。ポリビニルエステル部分の分子量が5000より少ないと、紙などの基材に塗布した際の造膜性が乏しくなり、200000を超えると、共重合体の他の構成単位であるポリアルキルシロキサンが有する効果を得にくくなる。
【0044】
また、ポリビニルアルコール部分の分子量は、上記のポリビニルエステル部分の分子量が反映される。
ポリビニルアルコール部分の分子量もその部分だけ切り離して測定することはできないが、後述の本発明の共重合体の製造方法において、ポリアルキルシロキサンのメルカプト基量と、ポリビニルアルコール部分を生成する原料(ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル等)の仕込み量によって制御できる。例えばポリビニルアルコールがポリビニルエステルの鹸化によって得られる場合、ポリビニルエステルの仕込量を制御すればよい。
【0045】
また、ポリアルキルシロキサン部分の分子量は、後述の本発明の共重合体の製造方法において、用いるポリアルキルシロキサンの分子量ないしメルカプト基量に反映され、通常、そのポリアルキルシロキサンの好ましい分子量は、ポリスチレン換算の数平均分子量として、1000〜20000である。この分子量が1000よりも少ないと、メルカプト基を多量に導入しなければならないため製造コストが上昇し、共重合体が高価になり、分子量が20000を超えると、共重合時にビニルエステルと混ざりにくくなるため、いずれも好ましくない。
ポリアルキルシロキサンの末端にメルカプト基がある場合、メルカプト基量が、ポリアルキルシロキサンの分子量を反映することになる。
【0046】
ポリアルキルシロキサンの分子量に対するメルカプト基量(メルカプト基1molに対する分子量)は、メルカプト基が片末端のみにある場合、2000〜40000g/mol程度が好ましく、メルカプト基が両末端にある場合、1000〜20000g/mol程度が好ましい。
【0047】
ポリビニルエステル単位及び/又はポリビニルアルコール単位とポリアルキルシロキサン単位との成分比は、共重合体の物性ないし特性に影響を及ぼすものであることから、その用途に応じて適宜決定される。この成分比は、例えば、後述の本発明の共重合体の製造方法において、(仕込み時のビニルエステルの重量)/(仕込み時のポリアルキルシロキサンの重量)の比率で制御されるが、この比は、例えば、共重合体の潤滑性、離型性、撥水性等を確保する場合、前記比率は、500以下が好ましく、200以下がより好ましい。
一方、共重合体の水溶性の確保や結晶性を維持する場合、前記比率は0.1以上が好ましく、1以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。
【0048】
<全光線透過率>
本発明の共重合体は、これを水に4質量%の濃度で溶解させた水溶液の波長700nmの光の全光線透過率が90%以上、特に95%以上であることが好ましい。この全光線透過率が90%以上であることは、共重合体の水溶性が高いことを意味し、紙加工剤や化粧料への適用が容易となる。
【0049】
この条件を満たす共重合体は、後述の本発明の共重合体の製造方法において、例えば、ポリビニルエステル単位の比率を高め、また、ポリビニルエステル単位をできるだけ多く鹸化してポリビニルアルコール単位とすることで得られる。
この全光線透過率が90%以上である共重合体を合成する場合、(仕込み時のビニルエステルの重量)/(仕込み時のポリアルキルシロキサンの重量)の比率は、ビニルエステルとして酢酸ビニルを用いた場合、5以上、例えば5〜200とするのが好ましい。また、共重合体の鹸化率、即ちポリビニルエステル単位とポリビニルアルコール単位の合計量に対するポリビニルアルコール単位の比率は、70〜100質量%とするのが好ましい。
【0050】
なお、この全光線透過率は高い程好ましいが、通常その上限は99.9%である。
【0051】
<粘度>
本発明の共重合体は、これを水に4質量%の濃度に溶解させた水溶液の粘度が4〜100mPa・sであることが好ましい。この粘度が低すぎるものは、造膜性に乏しいため塗布しにくく、高すぎるものは、紙などの基材に塗布した際に、厚みむらなどの不都合が生じやすくなる。
【0052】
[共重合体の製造方法]
以下に本発明の共重合体の製造方法について説明するが、本発明の共重合体は、ポリビニルエステル単位及び/又はポリビニルアルコール単位と、ポリアルキルシロキサン単位とが、スルフィド結合を介して結合してなる共重合体であればよく、その製造方法には特に制限はなく、以下に説明する方法に何ら制約されるものではない。
【0053】
例えば、以下においては、ポリビニルアルコール単位とポリアルキルシロキサン単位とがスルフィド結合を介して結合してなる共重合体の製造方法として、ポリビニルエステルとポリアルキルシロキサンとの共重合体を鹸化することにより製造する方法を例示しているが、この共重合体は、ビニルアルコールをポリアルキルシロキサンの存在下に重合して製造したものであってもよい。ただし、ビニルエステルのように、ビニルアルコールの水酸基を保護したものを、ポリアルキルシロキサンの存在下に重合した後に鹸化処理する方法が簡便であり好ましい。
【0054】
<ポリビニルエステル単位とポリアルキルシロキサン単位とがスルフィド結合を介して結合してなる共重合体の製造方法>
ポリビニルエステル単位とポリアルキルシロキサン単位とがスルフィド結合を介して結合してなる共重合体は、例えば、ビニルエステルを、通常のラジカル重合開始剤を用い、室温以上、ビニルエステルの沸点以下の温度で、末端または側鎖にメルカプト基を有するポリアルキルシロキサンの存在下に重合させることによって、それぞれブロック又はグラフト共重合体として得ることができる。
即ち、末端にメルカプト基を有するポリアルキルシロキサンを用いればブロック共重合体が得られ、側鎖にメルカプト基を有するポリアルキルシロキサンを用いればグラフト共重合体が得られる。
【0055】
末端にメルカプト基を有するポリアルキルシロキサンとしては、分子鎖の両末端にメルカプト基を有していてもよいし、片末端にメルカプト基を有していてもよいが、好ましくは、前記一般式(III)で表されるアルキルシロキサン構造を有するものが挙げられ、例えば、分子鎖両末端がジメチル(3−メルカプトプロピル)シロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端がジメチル(3−メルカプトプロピル)シロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、メチル(3−メルカプトプロピル)シロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、メチル(3−メルカプトプロピル)シロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、3−メルカプトプロピル(フェニル)シロキサン・ジメチルシロキサン共重合体などを用いることができる。
【0056】
用いるポリアルキルシロキサンの好ましい分子量は、前述の如く、ポリスチレン換算の数平均分子量として、1000〜20000程度である。
【0057】
より具体的には、両末端にメルカプト基を有するポリアルキルシロキサンの市販品としては、信越化学工業株式会社製X22−167Bなどが挙げられる。また、特開2002−30149号公報などで開示されている方法によって得られるメルカプト基含有ポリアルキルシロキサンを用いることもできる。
【0058】
側鎖にメルカプト基を有するポリアルキルシロキサンとしては、例えば、市販品として信越化学工業株式会社製KF−2001などを用いることができる。
【0059】
これらの末端にメルカプト基を有するポリアルキルシロキサン及び側鎖にメルカプト基を有するポリアルキルシロキサンは、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、末端にメルカプト基を有するポリアルキルシロキサンと側鎖にメルカプト基を有するポリアルキルシロキサンとを併用してもよい。
【0060】
ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど、重合した際に、前記一般式(I)で示される構造をとるビニルエステルを好適に用いることができる。
これらのビニルエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
ビニルエステルと末端もしくは側鎖にメルカプト基を有するポリアルキルシロキサンとの重合方法としては、溶液重合、バルク重合、パール重合、乳化重合法などを挙げることができるが、工業的には、メタノールまたはエタノール等のアルコールを溶媒として用いた溶液重合法が、コストと後の鹸化工程を考えると有利な方法である。
【0062】
ポリアルキルシロキサンはアルコール系溶媒には溶解しにくいが、相分離した状態であっても、十分攪拌して乳状とし、適当な速度で重合系に導入すると共に、ビニルエステルの種類と濃度を適当に選ぶことにより、ビニルエステルポリマーに対して、ほぼ均一にポリアルキルシロキサンを導入することができる。例えば、メタノール中であっても、メタノールに対して、酢酸ビニル濃度を50質量%以上、例えば50〜80質量%として重合反応を開始すれば、ポリアルキルシロキサンは、重合系内で分離することなく反応が進むため、反応の管理は容易である。
【0063】
溶液重合の際に用いる溶媒は、アルコールに限らず、ビニルエステル、ポリアルキルシロキサンの双方を溶解させるものを選択して使用することもできる。ビニルエステル、ポリアルキルシロキサンの双方を溶解させるものを選択した場合、重合系へのポリアルキルシロキサンを均一導入するために、これを乳化するための設備が不要となり、重合反応の管理が容易になる。また、その溶媒が鹸化時の触媒である酸やアルカリに対して不活性であれば、そのまま鹸化反応まで連続して反応を行うこともでき、便利である。このような溶媒の例としては、アルコールの他、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル類等を挙げることができる。
これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
ビニルエステルとポリアルキルシロキサンとの重合に用いる、ラジカル重合開始剤としては、通常のラジカル重合開始剤、例えば、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド等を挙げることができる。
これらのラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
上記溶媒の使用量及びラジカル重合開始剤の使用量は、目的の分子量を有する共重合体を得るために適宜調整することが可能であるが、好ましいラジカル重合開始剤の使用量は、ビニルエステルに対して0.01質量%〜2質量%程度である。
【0066】
ビニルエステルとポリアルキルシロキサンの溶液重合は、具体的には、後述の実施例に示す如く、ビニルエステルの溶液中にラジカル重合開始剤を添加した後、ポリアルキルシロキサンの溶液ないし分散液を滴下し、還流条件にして実施される。
【0067】
<ポリビニルアルコール単位とポリアルキルシロキサン単位とがスルフィド結合を介して結合してなる共重合体の製造>
上記の方法で得られたポリビニルエステル単位とポリアルキルシロキサン単位とがスルフィド結合を介して結合してなる共重合体を、ビニルエステルを鹸化するときに用いる通常の方法で鹸化することにより、共重合体のポリビニルエステル部分を鹸化することができる。これにより、ポリビニルアルコール単位とポリアルキルシロキサン単位とがスルフィド結合を介して結合してなる共重合体を得ることができる。
【0068】
鹸化反応は通常のビニルエステル系ポリマーの鹸化方法として公知の方法、即ち、アルカリあるいは酸触媒の存在下に常温(通常約20℃)〜60℃に加熱し、エステル交換反応、あるいは加水分解する方法で実施することができる。
【0069】
鹸化反応に使用するアルカリ又は酸触媒としては、特に制限はなく、ビニルエステル系ポリマーの鹸化に用いられる通常のアルカリ又は酸触媒であれば、いずれも用いることができる。
【0070】
酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の1種又は2種以上が挙げられ、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチレート等の1種又は2種以上が挙げられる。
酸触媒又はアルカリの添加量としては、特に制限はないが0.1〜5質量%程度とすることが好ましい。
【0071】
特に、メタノール等のアルコール溶媒中、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチレート等のアルカリを用いる方法は、鹸化速度が大きく、ポリアルキルシロキサン単位の加水分解を避けることもできるため好ましい。
この方法は、前述の溶液重合における溶媒として、アルコール溶媒を用いた場合、重合反応終了後、そのまま連続して鹸化反応を行うことができ、有利である。
【0072】
ビニルエステル部分の鹸化率は、反応時間、温度、アルカリ又は酸触媒量、触媒失活の効果を持つ水の量等によって調整することができる。
【0073】
鹸化処理終了後、共重合体は、必要に応じて粉砕した後、洗浄される。洗浄に用いる溶媒としては、共重合体の貧溶媒で、かつ、副生物の溶解度の高い溶媒が好ましい。このような溶媒を選択すると、触媒や副生物の酢酸アルカリ塩等を効率的に除去することができるので好ましい。
鹸化反応で通常使用される溶媒は、鹸化終了後の共重合体の貧溶媒であることが多い。従って、一般的には反応に使用した溶媒を、そのまま洗浄のための溶媒として用いることができる。
【0074】
[紙加工剤・化粧料]
本発明の共重合体の用途は、後述の如く多岐にわたり、特に制限はないが、本発明の共重合体は、特に紙加工剤・化粧料としての用途に好適である。
【0075】
紙加工剤用途としては、紙への添加剤、塗工剤等が挙げられ、化粧料用途としては、パック化粧料や毛髪処理剤等が挙げられる。
【0076】
例えば、紙への添加剤、塗工剤用途において、本発明の共重合体を適当な濃度(例えば、1〜20質量%)に希釈した水溶液は、紙表面に塗工することにより、インクジェット用紙のバインダーとしつつ、それらの紙にすべり性、撥水性、離型性を持たせることができる。また、離型効果を有する加工紙として用いることができる。
【0077】
また、印字中や紙送り時の紙の引っかかりを解決するために紙表面のすべり性改善の要求があるが、本発明の共重合体は、本課題の解決もできる。
【0078】
また、本発明の共重合体は、高い水溶性を有しているため、インクジェット記録用インク処方物としても、好ましく用いることができる。同様に、本発明の共重合体は、インクジェットプリンタ用インクの改質のために使用できる。例えば、水酸基のような極性基を有するアクリル系のポリマーを、シリコーンにグラフトさせて、顔料表面を改質する場合にも、本発明の共重合体は好ましく用いることができる。
【0079】
紙加工分野では、ポリビニルアルコールとポリアルキルシロキサンが用いられている。例えば、顔料の他にポリビニルアルコールをバインダーとして含むインクジェット記録媒体において、分子中に水酸基またはメトキシ基などのアルコキシ基を有するポリアルキルシロキサンを添加することにより、インクのにじみを抑制し、耐水性を向上させようとしている。しかし、この試みでは、ポリビニルアルコールとポリアルキルシロキサンとを共有結合によって結合させていないため、耐水性が不十分である。これに代えて、ポリビニルアルコールとポリアルキルシロキサンの間に、共有結合を有する本発明の共重合体を用いることにより、更なる耐水性の向上が期待できる。
【0080】
化粧料用途において、このような共重合体の水溶液は、必要に応じてさらに添加剤が添加されて、パック化粧料の皮膚からの剥離をよくするために用いられる。また、毛髪用化粧料としては、櫛通りと毛髪の腰の強さを両立させるために用いられる。
これらの分野においても、本発明の共重合体は応用できると考えられる。
【0081】
例えば、パック化粧料にポリビニルアルコールを用いただけでは、剥離時のすべり性に乏しい他、皮膚が引っ張られる感覚が残るという欠点があった。この欠点を改良するために、例えば、ポリビニルアルコールにポリアルキルシロキサンとヒドロキシエチルセルロースを改質剤としてブレンドすることが提案されている。しかし、この方法ではポリビニルアルコールとポリアルキルシロキサンのブレンド後の分離を防ぐために、配合比が制限される。これに対し、本発明の共重合体を用いることにより、ポリビニルアルコールとポリアルキルシロキサンの配合比の制限が緩和できる。
【0082】
また、毛髪用化粧料としては、毛髪に良好なセット性を付与する機能をポリビニルアルコールに、毛髪の櫛通り、保護、帯電性、ブラッシング性、感触などをポリアルキルシロキサンに期待することができるが、ポリビニルアルコールとポリアルキルシロキサンとの間に共有結合を有するようなものを用いた例はこれまで提案されていない。このような用途に対しても、本発明の共重合体は、好ましく用いることが期待できる。
【実施例】
【0083】
次に、本発明を実施例に基づきより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
なお、以下において「部」は「質量部」を意味する。
また、以下において、分子量はポリスチレン換算の数平均分子量(テトラヒドロフラン溶液中)である。
【0084】
[ポリビニルアルコールとポリアルキルシロキサンとがスルフィド結合を介して結合してなるブロック共重合体の合成]
<実施例1>
攪拌機、還流冷却管、およびミキサ付き滴下漏斗を備えたジャケット付き反応器に、酢酸ビニル882部、メタノール294部を入れ、59℃の温水をジャケットに通じて還流状態とした。そこに、重合開始剤として、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1部をメタノール29部に溶解させたものを添加した。滴下漏斗には、両末端メルカプト変性ポリアルキルシロキサン(信越化学工業(株)製X−22−167B(メルカプト基量:1670g/mol,分子量:2.7×10))44部をメタノール44部に分散させたものを入れ((仕込み時の酢酸ビニルの重量)/(仕込み時のポリアルキルシロキサンの重量)=20)、撹拌しながら、重合開始剤添加直後から45分かけて両末端メルカプト変性ポリアルキルシロキサンメタノール溶液を滴下漏斗から添加した。添加終了後、残存の酢酸ビニルモノマーをメタノールと共に系外に追い出す操作をメタノールを添加しながら行い、ポリ酢酸ビニルとポリアルキルシロキサンとがスルフィド結合を介して結合してなる、下記構造式(X)で表されるブロック共重合体(以下「ブロック共重合体(X−1)」と称す。)のメタノール溶液を得た。
【0085】
ブロック共重合体(X−1)のポリアルキルシロキサン部分の分子量は、2.7×10であり、また、ブロック共重合体(X−1)の分子量は3.5×10であった。
【0086】
【化11】

【0087】
得られたブロック共重合体(X−1)のメタノール溶液の濃度が10質量%となるようにメタノールで希釈した後、撹拌下に、このメタノール溶液中に予め調製しておいた水酸化ナトリウムのメタノール溶液を、水酸化ナトリウムの添加量が共重合体中の酢酸ビニル量の約3質量%となるように添加した。この反応系を40℃で撹拌し続けたところ、25分後に系内が白濁した。その後、さらに1時間撹拌し続けた後、系を静置して得た沈殿をメタノールで十分に洗浄した後、乾燥することにより、ポリビニルアルコールとポリアルキルシロキサンとがスルフィド結合を介して結合してなる、下記構造式(XI)で表されるブロック共重合体(以下「ブロック共重合体(XI−1)」と称す。)を得た。
【0088】
ブロック共重合体(XI−1)の4質量%水溶液の粘度は8.5mPa・sであり、波長700nmの光の全光線透過率は98%であった。
【0089】
【化12】

【0090】
<実施例2>
実施例1において、滴下漏斗に両末端メルカプト変性ポリアルキルシロキサン(X−22−167B)176部をメタノール176部に分散させたものを入れて添加したこと以外は、実施例1と同様の条件で、合成を行って、ポリ酢酸ビニルとポリアルキルシロキサンとがスルフィド結合を介して結合してなる、前記構造式(X)で表されるブロック共重合体(以下「ブロック共重合体(X−2)」と称す。)を経て、ポリビニルアルコールとポリアルキルシロキサンとがスルフィド結合を介して結合してなる、前記構造式(XI)で表されるブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体(XI−2)」と称す。)を得た。
ブロック共重合体(X−2)の分子量は、2.1×10であった。
また、ブロック共重合体(XI−2)の4質量%水溶液の粘度は5.6mPa・sであり、波長700nmの光の全光線透過率は92%であった。
【0091】
[ポリビニルアルコールとポリアルキルシロキサンとがスルフィド結合を介して結合してなるグラフト共重合体の合成]
<実施例3>
実施例1において、両末端メルカプト変性ポリアルキルシロキサンの代わりに、側鎖メルカプト変性ポリアルキルシロキサン(信越化学工業(株)製KF2001(メルカプト基量:1900g/mol,分子量:1.2×10))を用いたほかは、実施例1と同様の条件で合成を行い、ポリ酢酸ビニルとポリアルキルシロキサンとがスルフィド結合を介して結合してなる、下記構造式(XII)で表されるグラフト共重合体(以下「グラフト共重合体(XII)」と称す。)を経て、ポリビニルアルコールとポリアルキルシロキサンとがスルフィド結合してなる、下記構造式(XIII)で表されるグラフト共重合体(以下「グラフト共重合体(XIII)」と称す。)を得た。
【0092】
【化13】

【0093】
【化14】

【0094】
グラフト共重合体(XII)のポリアルキルシロキサン部分の分子量は、1.2×10であり、グラフト共重合体(XII)の分子量は、4.3×10であった。
また、グラフト共重合体(XIII)の4質量%水溶液の粘度は4.0mPa・sであり、波長700nmの光の全光線透過率は98%であった。
【0095】
[化粧料としての評価]
<実施例4>
実施例1において得られたブロック共重合体(XI−1)の10質量%の水溶液を試料とした。
室温25℃、相対湿度60%の条件下、被験者の顔に試料を塗布し、10分間乾燥させて生じた皮膜を皮膚上から剥離させたときの剥がれやすさで評価したところ、痛みを伴わずに極めて良好に剥がすことができた。
従って本発明の共重合体は肌用パックなどの化粧料に適することが確認された。
【0096】
<比較例1>
実施例4において、ブロック共重合体(XI−1)の代わりに、ポリビニルアルコールホモポリマー(クラレ(株)製PVA−117)を用いて同様の試験をしたところ、皮膚から剥がす際に痛みを伴い、剥がれ方は不良であった。
【0097】
[紙加工剤としての評価]
<実施例5>
実施例1において得られたブロック共重合体(XI−1)30部を水250部に溶解させたものに、シリカゲル((株)トクヤマ製ファインシールX−37)100部を加え、ペイントシェーカーで15分間攪拌分散させて塗工液を得た。
得られた塗工液を乾式PPC用紙に20番のバーコーターで塗布した後、乾燥機にて100℃、5分間乾燥させてから、23℃、相対湿度65%の下で一晩放置して試験用紙片を作成した。
このようにして得た試験用紙片について、JIS P8147の傾斜方法により、試験用紙片の表同士で傾斜角を測定したところ、10°であって、潤滑性があることが分かった。
従って本発明の共重合体は紙加工剤に適することが確認された。
【0098】
<比較例2>
実施例5において、ブロック共重合体(XI−1)の代わりに、ポリビニルアルコールホモポリマー(クラレ(株)製PVA−117)を用いて同様の試験をしたところ、傾斜角は17°であり、実施例5の結果に比べ潤滑性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明で得られる共重合体のうち、ポリビニルアルコール単位とポリアルキルシロキサン単位とがスルフィド結合を介して結合してなる共重合体、特にブロック又はグラフト共重合体は、従来の各共重合体をブレンドした物では満足できなかった用途や、各共重合体の配合比に制限があった種々の用途において新しい使い方が期待できる。
【0100】
その最も期待できる分野は、前述の如く、紙加工剤用途と化粧料用途であるが、その他、水溶性の界面活性剤や消泡剤、繊維の糊剤や皮革の加工剤としつつ、独自の風合いを持たせるために用いることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルエステル単位及び/又はポリビニルアルコール単位と、ポリアルキルシロキサン単位とが、スルフィド結合を介して結合してなることを特徴とする共重合体。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール単位は、前記ポリビニルエステル単位を鹸化して得られる構造を有する、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
前記ポリビニルエステル単位、ポリビニルアルコール単位、及びポリアルキルシロキサン単位が、それぞれ下記一般式(I)、(II)、及び(III)で表される繰り返し単位を有する、請求項1又は2に記載の共重合体。
【化1】

(上記一般式(I)におけるR1及び上記一般式(III)におけるR,Rは互いに独立して1価の炭化水素基を表す。)
【請求項4】
前記共重合体はブロック共重合体であって、下記一般式(IV)〜(VII)で表される構造の少なくとも1つを有する、請求項3に記載の共重合体。
【化2】

(上記一般式(IV)〜(VII)において、Xはスルフィド結合を含む炭化水素基を表し、R1,R,Rは互いに独立して1価の炭化水素基を表す。x,yは2以上の整数を示す。なお、同一の式中に存在する複数のx,y,R〜Rは同一であっても異なるものであっても良い。)
【請求項5】
前記共重合体はグラフト共重合体であって、下記一般式(VIII)及び/又は(IX)で表される構造を有する、請求項3に記載の共重合体。
【化3】

(上記一般式(VIII),(IX)中、Yはスルフィド結合を含む炭化水素基を表し、R,R,R,Rは互いに独立して1価の炭化水素基を表す。x’,zは1以上の整数を示し、yは2以上の整数を示す。なお、同一の式中に存在する複数のR1〜R4は同一であっても異なるものであっても良い。)
【請求項6】
前記共重合体を水に4質量%溶解させた溶液の、波長700nmの光の全光線透過率が90%以上である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の共重合体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の共重合体を含むことを特徴とする紙加工剤。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の共重合体を含むことを特徴とする化粧料。

【公開番号】特開2008−274069(P2008−274069A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118331(P2007−118331)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】