説明

内因性代謝物の分析方法

【課題】高極性成分を、イオンペア試薬を使用しない逆相液体クロマトグラフィーで分離し、質量分析する。
【解決手段】
〔1〕逆相液体クロマトグラフィーおよび質量分析装置を使用し、当該逆相液体クロマトグラフィーが(1)多官能固定相、および(2)揮発性の塩基および/または塩を含むpH8〜pH11の移動相を用いる、高極性内因性代謝物の分析方法の提供および、前記分析方法によって得られた液体クロマトグラフィー保持時間、質量分析ピーク値、および/または質量分析ピーク強度を利用し、統計解析処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆相液体クロマトグラフィーと質量分析法を用いた内因性代謝物の分析方法に関する。詳しくは短鎖アシルCoA、アミノ酸、糖類、またはアミン類などの高極性成分の分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト全ゲノム配列が明らかとなり、遺伝子、タンパク質の配列が既知となったことから、遺伝子変動解析やプロテオーム解析技術は大きく進展してきた。最近、新たな技術として、質量分析装置を用いて代謝物を網羅的に解析するメタボローム解析が行われるようになってきた。メタボローム解析は、アミノ酸、糖、脂質などの低分子の内因性代謝成分を解析対象としている。このような内因性代謝成分は、生体内の反応を直接司っている分子であり、また、外部からの刺激によりドラスティックに変化する成分であることから、生体内における環境変化を鋭敏に反映すると考えられる。そのため、その変化を検出するメタボローム解析は、病態、薬効や毒性などのマーカーを見出す手段や評価法として期待されている。
【0003】
質量分析を用いたメタボローム解析では、全代謝成分を対象とした網羅的な解析を行うために、前段に液体クロマトグラフィー(LC)などの分離手段が必要となる。内因性代謝成分には、高極性のものから非極性のものまで物性の全く異なる多数の成分が存在し、一種類の分離モードで全成分を解析することは困難である。従って、網羅的な解析をおこなうためには、複数の分離モードを組み合わせることが必要であった。
【0004】
通常生体由来の試料の成分分析においては、オクタデシル基(C18)などの疎水性の官能基をシリカゲル表面に結合させた逆相液体クロマトグラフィーを用いるHPLC分析が汎用されている。
逆相液体クロマトグラフィーは、成分の極性に基づいた分離法であり、短鎖アシルCoAやアミノ酸類、糖類などの高極性成分はカラムに保持されにくいことから、これらの高極性成分を逆相液体クロマトグラフィーで分析することは困難であった。これを解決するため、移動相にアルキルアミンやアルキルスルホン酸などのイオンペア試薬を添加し、高極性成分とイオン対を形成させ、高極性成分を保持させて分析する方法が報告されている(非特許文献1)。しかしながら、質量分析装置を用いた検出では、イオンペア試薬自体が質量分析において夾雑物となることから、高感度な分析は実施しにくいという問題があった。また、前記方法は、既知の限られた成分については解析が可能であるが、生体内の内因性代謝成分を網羅的に解析する方法ではなかった。
【0005】
前記逆相液体クロマトグラフィーは、オクタデシル基(C18)などの疎水性の官能基をシリカゲル表面に結合させた固定相を使用し、これら疎水性の固定相と分析試料との疎水性相互作用に基づいた分離手段である。移動相としては、アセトニトリル−水などが使用され、例えば、アセトニトリル濃度を変化させて、溶離液の疎水性の度合いを変化させることによっても、分離を行うことができる。
しかしながら、前記の逆相液体クロマトグラフィーの固定相と試料の相互作用は、疎水性相互作用に基づいていることから、試料が、例えば、短鎖アシルCoAや糖類などのような極性の高い物質の場合、固定相とほとんど相互作用せずにカラムを通りぬけてしまうため、分析試料の分析・精製に用いることが困難であった。
さらに、医薬品の薬効評価、毒性評価においては、生体内の内因性の代謝成分の変動を調べることが重要となっており、統計的手法を用いてデータを評価することが必要となっていることから、MS解析、LC/MS解析などの、蛋白質の質量分析方法から得られる質量分析データをコンピュータを用いて高解析することが必要とされている。
【0006】
【非特許文献1】Anal. Chem. 2006, 78, 6573-6582
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、短鎖アシルCoAやアミノ酸などの高極性成分を、イオンペア試薬を使用しない逆相液体クロマトグラフィーで分離し、質量分析することを課題としている。さらに、本分析方法によって得られたデータを統計的に評価することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
近年、逆相液体クロマトグラフィーカラムにおいて、シリカ基材にオクタデシル基を導入する方法として、一官能シリル化剤を用いる方法と多官能シリル化剤を用いる方法が見出された。しかし、高極性の内因性物質を逆相液体クロマトグラフィーで分離するには、分析試料の誘導体化、移動相へのイオンペア試薬の添加などにより、逆相液体クロマトグラフィー固定相と試料とが相互作用する条件を見出す必要があった。
本発明者らは、鋭意検討の結果、高極性内因性物質の分析方法において、多官能固定相、およびアンモニア又はアンモニアと揮発性の塩を含むpH8〜pH11の移動相を用いた逆相液体クロマトグラフィー、ならびに質量分析装置を使用して解析することで、試料の誘導体化や移動相へのイオンペア試薬の添加を必要とせずに、高い精度で成分分析できることを見出した。さらに、本分析法によって得られたLC保持時間、質量分析ピーク値、質量分析ピーク強度を利用し、統計解析処理を行う方法をもちいてマーカー成分を抽出することを見出した。
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕逆相液体クロマトグラフィーおよび質量分析装置を使用し、当該逆相液体クロマトグラフィーが(1)多官能固定相、および(2)揮発性の塩基および/または塩を含むpH8〜pH11の移動相を用いる、高極性内因性代謝物の分析方法。
〔2〕分析対象物質が、血液、尿、または組織抽出物である、上記1記載の分析方法。
〔3〕高極性内因性代謝物が短鎖アシルCoA、アミノ酸、糖類、またはアミン類である、上記1または2記載の分析方法。
〔4〕上記1〜3のいずれか記載の分析方法によって得られた液体クロマトグラフィー保持時間、質量分析ピーク値、および/または質量分析ピーク強度を利用し、統計解析処理を行うマーカー成分の抽出方法。
〔5〕統計解析処理が統計処理方法を応用したデータマイニング手法である、上記4記載のマーカー成分の抽出方法。
【発明の効果】
【0009】
高極性内因性物質の分析方法において、試料の誘導体化や移動相へのイオンペア試薬の添加を必要とせずに分離できる。さらには、分離試料を簡便に質量分析に用いることができ、かつ、統計解析処理を行う方法をもちいてマーカー成分を抽出することでメタボローム解析を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の第一の態様は、試料の分離を行うための逆相カラムと、試料を分離溶出するための移動相および質量分析装置からなる。
本発明における内因性代謝成分とは、生体由来の分子量約1000以下の低分子成分を示し、例えば、アミノ酸、アシルCoA、糖類、アミン類、または、有機酸などが挙げられる。
分析可能なアミノ酸は特に限定されないが、一般的なα−アミノ酸が挙げられ、例えば、セリン、リジン、グルタミン酸などが挙げられる。
【0011】
アシルCoAとは、脂肪酸のカルボキシル基とコエンザイムA(CoA)のSHがチオエステル結合したものを指し、本発明で分析するアシルCoAは例えば、アセチルCoA、マロニルCoAなど短鎖のアシルCoAが挙げられる。
糖類においては、一般的に糖に分類されるものであればなんでもよく、単糖、多糖や、グルコース−6−リン酸などのリン酸化された糖のいずれでもよい。
【0012】
アミン類においては、アミンに分類される化合物であれば特に限定されない。例えば、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリンやセロトニン等が挙げられる。また、例えばメチルアミン、ジメチルアミン 、トリメチルアミンなどの単純アミン、ピペリジン、ピペラジンなど環状構造を形成するものなども挙げられる。
【0013】
有機酸としてはカルボキシル基をもつ酸が挙げられ、例えば、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸などがあげられる。
前記の内因性物質は、血液、尿、組織などの生体由来の試料中に含まれている。
【0014】
前記生体試料の分離精製を行うために用いる逆相液体クロマトグラフィーカラムのシリカ基材にオクタデシル基を導入する方法として、一官能シリル化剤を用いる方法と多官能シリル化剤を用いる方法が挙げられる。一官能シリル化剤は、一般式(R1)3−Si−Cl(R1は同一または異なってC1-C18アルキル基を表す)で表され、たとえば、ジメチルオクタデシルクロロシランなどが挙げられる。一官能シリル化剤の場合、シリカ基材のシラノール基と1:1で結合する。この方法で作成されたカラムは「モノメリック」と呼ばれることがある。
一方、多官能シリル化剤は、一般式(R1)2−Si−2Clまたは、 R1−Si−3Cl(R1は複数ある場合には同一または異なってC1-C18アルキル基を表す)で表され、複数個のシラノール基と結合する。この方法によって作製されたカラムは、「ポリメリック」と呼ばれることがある。本発明の逆相液体クロマトグラフィーカラムは多官能シリル化剤によりオクタデシル基を導入された多官能固定相を用いる。
多官能シリル化剤は、例えば、メチルオクタデシルジクロロシラン、オクタデシルトリクロロシランなどが挙げられれる。
【0015】
モノメリック型の逆相液体クロマトグラフィーカラムを用いた場合、試料との相互作用は、主に、疎水性の官能基、および、シリカ基材の残存シラノール基と行われる。一方、ポリメリック型の逆相液体クロマトグラフィーカラムの場合、試料との相互作用は、疎水性の官能基に加えて、多官能性による結合によって親水性の領域が生じ、これらとの相互作用も生じる。
【0016】
本発明において使用される逆相液体クロマトグラフィーカラムは、多官能固定相、即ち多官能シリル化剤によって作製されたポリメリック型のカラムを使用する。例えば、Imtakt社によって市販されているUnison-C18カラムを使用することができる。カラムサイズは、特に指定されず、例えば、内径2.0 mmのカラムや内径0.3 mmのキャピラリーカラムも使用できる。
移動相は、揮発性の塩または塩基を使用した弱アルカリ水溶液と、アセトニトリル、メタノールなどの有機溶媒を使用した系によって行うことができる。揮発性の塩としてはアンモニアが挙げられる。揮発性の塩としては、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、または、炭酸水素アンモニウムなどが挙げられ、好ましくは酢酸アンモニウム、または、ギ酸アンモニウムなどが挙げられ、より好ましくは酢酸アンモニウムが挙げられる。
【0017】
弱アルカリ水溶液のpHは、pH8〜pH11の範囲が好ましく、pH 8.3〜pH 9.0の範囲内のpHがより好ましい。質量分析計による検出を行うため、揮発性の塩によって移動相は作製する必要があり、例えば、酢酸アンモニウムやギ酸アンモニウムなどの揮発性の塩とアンモニア水によってpHを調製した移動相を作製することができる。
溶出方法は、グラジエント溶出方法、あるいは、アイソクラティック溶出方法が用いられ、例えば、移動相Aとして、弱アルカリ水溶液をカラムに通液し、試料を逆相液体クロマトグラフィーカラムに吸着させ、移動相Bとしてアセトニトリルやメタノールなどの有機溶媒を使用し、段階的に移動相Bの濃度を上昇させることにより、カラムに吸着させた試料を溶出させることができる。移動相Aの初期濃度は、特に問わないが、移動相A100%から始めることが可能であり、徐々に移動相Aの濃度を下げ(移動相Bの濃度を上げる)、最終的に移動相Bの濃度を100%にして、カラムに結合している試料を溶出させることができる。溶出時間は、30分位に設定することができるが、特に問わない。または、例えば、移動相Aのみ、あるいは、移動相Aと移動相Bを一定割合混合した液ををカラムに通液して試料を溶出することもできる。前記カラムで溶出した試料を質量分析方法において成分分析を行う。
【0018】
質量分析はMSまたはMS/MS、LC/MSなどと呼ばれる。分析する試料をイオン化させて導入し,電気力や磁気力により質量ごとの差をつくり、イオンの質量を分析することである。上記分析を行う装置である質量分析計を含め以下MSと略されることもある。質量分析装置には、イオントラップ型、四重極型、飛行時間型、フーリエ変換型等や、これらの装置を組み合わせたハイブリッド型など種々の型の質量分析計が利用可能であり、本発明に使用する装置としては、特に、種類は問わない。また、質量分析装置に使用するイオン化法としては、ESI法、ナノスプレー法などが用いられるが、イオン化法についても種類は問わない。質量分析装置は、HPLCと接続して、オンラインで分析することが可能である。HPLCと接続せずに、例えば、溶出液を一定時間ごとに分取し、MALDIイオン化法等によって質量分析することも可能である。
質量分析によって得られたマススペクトルは、横軸に質量(m/z 値)、縦軸に検出強度をとったスペクトルを指す。また、横軸に保持時間、縦軸にトータル質量検出強度をとったトータルマスクロマトグラムを描くこともでき、また、特定質量(m/z)に対する検出強度を縦軸にしたマスクロマトグラムを描くこともできる。
【0019】
こうした分析方法は、血液、尿、組織抽出液などの生体試料に適用することが可能であり、LC-MS分析によって得られたデータを使用して、バイオマーカー探索、薬剤の薬効評価や毒性評価などに使用することができる。
また、糖尿病治療薬の薬効を評価するために、組織中の短鎖アシルCoAの変動を調べることも可能である。
【0020】
本発明の第二の態様は、本発明分析方法によって得られたLC保持時間、質量分析ピーク値、質量分析ピーク強度を利用し、統計解析処理を行うことを特徴とするマーカー成分の抽出方法に関する。さらには、統計処理方法を応用したデータマイニング手法を使用することを特徴とするマーカー成分の抽出方法に関する。
【0021】
LC/MS分析で問題になるのは、測定毎にLCの保持時間のずれが発生することである。この現象が、LC/MSやGC/MS分析におけるディファレンシャル解析を困難にしている。
近年、これを解決するためのソフトウェアが多数開発されており、例えは、Java(登録商標)言語で動作するmzmineやデータ解析環境Rで動作するxcmsパッケージなどが論文とともに公開されている。複数のピークを並べてクロマトグラムの保持時間を合わせることをアラインメントと呼ぶが、xcmsでは統計的な手法を用いて、最小値、最大値、中央値の三つの値を持って、各クロマトグラムをアラインメントし、ピークの存在するしないを判定する。いくつかのピークにおいては明確に差が認められる。
一回の測定では、系にもよるが、数千から数万のピークが検出される。このような多変量からなる系や群の違いを云々するにはデータマイニング技術が欠かせない。データマイニング手法としては、主成分分析、自己組織化マップ、決定木、サポートベクターマシンそしてランダム森などが挙げられる。好ましくは、ランダム森が挙げられる。
ランダム森とは決定木(CART法など)を下位学習アルゴリズムに持つアンサンブル学習アルゴリズムである(図6)。ランダム森を実行するためのソフトウエアは、市販のランダム・フォーレスト(RandomForest(登録商標))、http://cran.r-project.org/から入手できるフリーソフトウェア等がある。
【0022】
教師つき学習の場合は説明変数のランダムサンプリングも行いながら、CARTとbaggingを組み合わせる。教師なし学習の場合はクラスラベルがないので、データのランダムサンプリングから擬似的に別クラスのデータを生成した後、教師つき学習と同様のアルゴリズムに帰着させる。この場合、潜在的なクラスを発見することが可能であり、複数の情報から1つのマーカー等目的の化合物に割り当てた場合の考察に有用な情報を与えることが期待できる。ランダム森を用いて、アライメント処理後の12サンプルのデータの分類を試行した。図bにおいて左は教師なし学習結果の多次元尺度構成法による表示であり、右は教師あり学習のそれである。いずれも明確に群の違いを検出しているが、教師あり学習の場合交差検証の結果も得られ、5/6の精度が認められた。
【0023】
前記解析方法から得られるマーカー成分としては、生体マーカー(バイオマーカー)が挙げられ、より具体的には生体が生理的変化等を生じた際に分泌される核酸、蛋白質、低分子の有機化合物などが挙げられる。本発明においては特に代謝に関与する化合物を指す。
本発明データマイニング手法でマーカー成分を抽出する再に分類条件が必要となるが、代謝物をサンプリングする検体、MSピークの測定値による任意の規準等が挙げられる。前述の代謝物をサンプリングする検体とは、薬物投与等の医療処置等の有無、遺伝性疾患の有無、アレルギーの有無または、外傷等の刺激等を与えた検体等が挙げられる。
【0024】
本発明の方法によって得られた解析結果は、紙、磁気、磁気光ディスク、または光ディスク等の記録媒体に記録されていてもよい。
本発明の解析方法を実行させるコンピュータで読みとり可能なプログラムである。
図7の101〜105の解析方法を実行させるプログラムで、これらは、図7で示したアルゴリズムの手順にそって1つのモジュールであっても、それぞれのパート毎に書かれたモジュールを組み合わせて使用してもよい。前記モジュールは図8の201のCPUによってあらかじめ指定されたアルゴリズムに基づいて実行させる。
これらは磁気または、磁気光ディスク、光ディスク等の記録媒体に記録されている。
本発明の配列解析方法を実行させるシステム(装置)である。
本発明解析方法を実行させる装置の構成を図8に示す。201〜204は、前記の工程にてデータ入力、演算、解析、予測に使用するためのシステムである。202、205および206は、本発明の解析方法の実行結果を出力するおよび/または記録するための装置である。
【0025】
201〜204の装置の実行結果は205の装置の出力部で紙などの記録媒体に印刷することもでき、203の装置の画像処理部で表示することもでき、206の装置で、FD,MO,CD−RW,DVD−RW等の磁気または、磁気光ディスク、光ディスク等の記録媒体に出力することもできる。
201〜206の装置は、全てが含まれて一体化した装置でも、各々が分離した装置でも、一部の手段を実行させる装置を含んだ装置を複数組み合わせた装置であってもよい。
上記の装置は、電子計算機であればよく、サーバー、パーソナルコンピュータ(以下PC)等が挙げられ、計算機の能力は制限しない。
本発明解析方法を実行させるプログラムを動作させるオペレーションシステムも汎用ソフトウェア例えば、Linux系OS、マイクロソフトウインドウズ(登録商標)シリーズ等でよい。
【0026】
以下、本発の解析方法の実施例を挙げる。但し、本実施例によって本発明を限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
高極性成分の分析
(1)試料
(a)マロニルCoA(Malonyl-CoA)および、(b)ヒドロキシブチリルCoA(Hydroxybutyryl-CoA))の2種類の短鎖アシルCoAを各1μg/mlとなるように移動相Aで溶解し、LC-MS試料とした。
(2)LC-MS
質量分析条件
質量分析計はWaters/Micromass社QTOF2質量分析計を使用した。イオン化法はエレクトロスプレーイオン化を使用し、正イオンモードで測定した。キャピラリー電圧は3.5kV、 source温度は150℃、desolvationガス温度は350℃に設定した。
HPLC条件
HPLC条件は下記の条件(1)〜(3)を設定し、10μlの試料を注入した。
条件(1)
カラム:多官能オクタデシルシリル基結合固定相、内径2.0x長さ150mm (商品名Unison C18)
A: 0.1%ギ酸(pH 2.8)
B: アセトニトリル
0%B(0min)-50%B(50%B)-100%B(8min)-100%B(10min)-0%B(11min)-0%B(15min)
0.2ml/min
条件(2)
カラム:多官能オクタデシルシリル基結合固定相、内径2.0x長さ150mm (商品名Unison C18)
A: 0.1M 酢酸アンモニウム(pH 8.5)
B: アセトニトリル
0%B(0min)-100%B(15min)-100%B(20min)-0%B(21min)-0%B(30min)
0.2ml/min
条件(3)
カラム:一官能オクタデシルシリル基結合固定相、内径2.0x長さ150mm (商品名Kromasil C18)
A: 0.1M 酢酸アンモニウム(pH 8.5)
B: アセトニトリル
0%B(0min)-50%B(50%B)-100%B(8min)-100%B(10min)-0%B(11min)-0%B(15min)
0.2ml/min
【0028】
(3)結果
高極性成分として同じ整数質量値(m/z854)をもつ2種類の短鎖アシルCoA(マロニルCoA、ヒドロキシブチリルCoA)の検出を指標に、逆相モードでの分離を試みた。まず、酸性条件下で逆相液体クロマトグラフィーを実施したところ(HPLC条件(1))、短鎖アシルCoAは全く溶出されなかった。移動相条件を、酢酸アンモニウムとアンモニア水を使用してpH 8.5にしてみると(HPLC条件(2)および(3))、短鎖アシルCoAが検出されることが判明したが、一官能シリル化剤を用いた通常の逆相カラム(モノメリック)では、短鎖アシルCoAは、殆どカラムに保持されずに溶出された(条件(3);図1a)。一方、多官能シリル化剤を使用した逆相カラム(Unison UK-C18, Imtakt)を使用することにより、短鎖アシルCoAが保持され、良好に分離されることが判明した(条件(2);図1b)。本発明方法を使用すると、アミノ酸なども保持・分離できることがわかり、イオンペア試薬を使用せずに高極性成分を分析することができた。
【実施例2】
【0029】
血漿試料を用いたマーカー探索評価
(1)血漿試料の調製
血漿試料50μLに冷アセトニトリルを100μL添加し、遠心(20,000 g, 15min, 4℃)後、上清を80μL回収した。試料を乾燥後、20μLの移動相Aを添加し、質量分析試料とした。
(2)LC-MS条件
HPLC条件
カラム:Unison C18 0.3x150mm
A: 0.1M 酢酸アンモニウム(pH 8.5)
B: アセトニトリル
0%B(0min)-0%B(5min)-100%B(25min)-100%B(30min)-0%B(31min)-0%B(45min)
5μl/min
試料注入量:2μl
【0030】
質量分析条件
質量分析計はThermoFisher社LTQ-Orbitrap質量分析計を使用した。イオン化法はナノスプレーイオン化を使用し、正イオンモードで測定した。スプレー電圧は2.0kV、 キャピラリー温度は200℃に設定した。
【0031】
(3)血漿試料を用いたマーカー探索評価結果
生体試料として血漿試料を用いて、実施例1記載の分析を行った。血漿中にアセチルCoA(Acetyl-CoA)、マロニルCoA(Malonyl-CoA)、ヒドロキシブチリルCoA(Hydroxybutyryl-CoA)および、コエンザイムA(Coenzyme A)の4種類の短鎖アシルCoA、を添加した試料を作製し、もとの血漿との比較を実施した。LC-MSによる測定は各サンプルで6回ずつ行い、計12のLC-MSデータセットを用いた。各6回同一試料を分析したトータルイオンクロマトグラム(TIC)を図2に示す。図2の横軸は時間(分)、縦軸は相対イオン強度を示している。
図3は、一例として、添加したアセチルCoA(m/z 810.1)のマスクロマトグラムを示している。血漿試料中ではアセチルCoAのピークは検出されておらず、短鎖アシルCoA添加群ではピークが検出されていることが確認できた。各6回同一試料を分析した。横軸は時間(分)、縦軸は相対イオン強度を示している。左図の血漿試料では、アセチルCoAのピークは検出されていないが、右図のアシルCoAを添加した試料では、約11分にアセチルCoAが検出されている。
測定したデータの保持時間、質量ピーク値、ピーク強度値を使用し、ソフトウエアxcmsによるデータ処理を行った結果、1つのLC-MSデータ中に約4,000個の質量ピークの存在が確認できた。これら約4,000ピークの中から、添加した4種類の短鎖アシルCoA成分が、2群間の違いとして見出すことができるかを調べた。
添加した4種類の短鎖アシルCoA(アセチルCoA(m/z810.132),マロニルCoA(m/z854.158),ヒドロキシブチリルCoA(m/z854.126), コエンザイムA(m/z768.122) は2群間の違いとして抽出できた。表1に実施例血漿および血漿+4種類の短鎖アシルCoAのLC-MS分析データ(各6回同一試料を分析)を利用したxcms解析結果を示す。約4000の質量ピークの中から、添加した4種類の短鎖アシルCoA(表1No.4:アセチルCoA,No.7:マロニルCoA,Mo.11:ヒドロキシブチリルCoA,No.65コエンザイムA)が、2種類の試料データの違いとして抽出できた。
【0032】
【表1】

これらの実験結果から、生体試料を、本発明の分析方法により分析し、データ解析を行うことにより、従来の逆相液体クロマトグラフィーでは困難であった高極性成分を含めたバイオマーカー探索への利用が可能なことが示された。
【実施例3】
【0033】
組織抽出液を用いたメタボローム基礎検討
(1)肝臓試料の調製
DIOマウス(♂)から摘出した肝臓を秤量後、5%SSA、50μDTEを加え(1:10 w/v)、ポリトロンホモジナイザーで破砕した。試料溶液の一部をチューブにとり、遠心(14,000rpm, 15min, 4℃)後、上清を0.22μmフィルターを通し、質量分析試料とした。
(2)LC-MS条件
HPLC条件
HPLC条件は下記の条件を設定し、10μlの試料を注入した。
カラム:Unison UK-C18 2.0x150mm
A: 0.1M 酢酸アンモニウム(pH 8.5)
B: アセトニトリル
0%B(0min)-100%B(10min)-100%B(15min)-0%B(16min)
0.2ml/min

質量分析条件
質量分析計はWaters/Micromass社QTOF2質量分析計を使用した。イオン化法はエレクトロスプレーイオン化を使用し、正イオンモードで測定した。キャピラリー電圧は3.5kV、 source温度は150℃、desolvationガス温度は350℃に設定した。
【0034】
(3)組織抽出液を用いたメタボローム基礎検討結果
糖尿病モデルマウスを絶食させると、肝臓中のマロニルCoA、ヒドロキシブチリルCoA、アセチルCoA、コエンザイムAなどの短鎖アシルCoAが変動することが知られている。非絶食時と絶食時の肝臓抽出液を調製し、これら短鎖アシルCoAのLC-MS分析を実施した。肝臓抽出液のLC-MSを行うと、絶食・非絶食の両方から短鎖アシルCoAが検出されることを確認した。特に、マロニルCoAとヒドロキシブチリルCoAは同じ整数質量値をもつ成分であり、マロニルCoA量の定量には、これらをカラム分離することが必要である。本方法を用いると、イオンペア試薬なしにマロニルCoAとヒドロキシブチリルCoAは良好に分離し、肝臓中のマロニルCoA量が定量できた。結果を図5に示す。
【産業上の利用可能性】
【0035】
高極性内因性物質の分析方法において、試料の誘導体化や移動相へのイオンペア試薬の添加を必要とせずに分離できる。さらには、分離試料を簡便に質量分析に用いることができ、かつ、統計解析処理を行う方法をもちいてマーカー成分を抽出することでメタボローム解析を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、実施例1におけるHPLC条件(2)および(3)のマロニルCoAとヒドロキシブチリルCoA のLC-MS分析結果を示した図である。(a)は条件(3)、(b)は条件(2)の結果を示す。横軸が時間、縦軸は相対イオン強度を示しており、m/z854のマスクロマトグラムを示す。
【図2】図2は、実施例2の結果を示した図である。左図は血漿のみ、右図は血漿に4種類の短鎖アシルCoAを添加した試料のLC-MS分析ピークを示す。
【図3】図3は、実施例2において、アセチルCoAのマスクロマトグラムを示した図である。左図は血漿試料を示し、右図は血漿に4種類の短鎖アシルCoAを添加した試料を示す。
【図4】図4は、実施例2における血漿試料および血漿に4種類の短鎖アシルCoAを添加した試料のLC-MS分析データを利用したRandom 森統計解析結果を示す。aは、試料情報の入力なし、bは、試料情報の入力ありを示し、図中○は短鎖アシルCoA添加血漿試料を示し、△は血漿試料(ブランク)を示す。
【図5】図5は、実施例3の実験結果を示す。
【図6】図6は、ランダム森の概念図である。
【図7】図7は、統計処理方法を応用したデータマイニング手法の手順を示した図である。
【図8】図8は、統計処理方法を応用したデータマイニング手法を実行させる装置の構成を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆相液体クロマトグラフィーおよび質量分析装置を使用し、当該逆相液体クロマトグラフィーが(1)多官能固定相、および(2)揮発性の塩基および/または塩を含むpH8〜pH11の移動相を用いる、高極性内因性代謝物の分析方法。
【請求項2】
分析対象物質が、血液、尿、または組織抽出物である、請求項1記載の分析方法。
【請求項3】
高極性内因性代謝物が短鎖アシルCoA、アミノ酸、糖類、またはアミン類である、請求項1または2記載の分析方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の分析方法によって得られた液体クロマトグラフィー保持時間、質量分析ピーク値、および/または質量分析ピーク強度を利用し、統計解析処理を行うマーカー成分の抽出方法。
【請求項5】
統計解析処理が統計処理方法を応用したデータマイニング手法である、請求項4記載のマーカー成分の抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−222421(P2009−222421A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64538(P2008−64538)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Linux
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】