説明

内在物除去装置

【課題】シリンダーブロック等の筒ワークから内在物を除去する除去性能を向上させる。
【解決手段】筒ワークであるシリンダーブロック1の開口を閉塞するワーククランパ21と、ワーククランパ21に支持軸30を介して設けられ、支持軸30の進退によりシリンダーブロック1の開口内を進退自在な封止板31と、ワーククランパ21内側の封止板31の背面空間に流体を供給するエアカプラ41とを備え、シリンダーブロック1の開口内面と封止板31との間の隙間Sから封止板31の背面空間に供給した流体を吹き出してボア内壁面の内在物を除去するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒ワークの内在物を除去する内在物除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両用エンジンでは、ダイカスト等で金型鋳造されたシリンダーブロックのボアにボーリング加工やボア内壁面を研磨するホーニング加工を行った後に、ボア内壁面に傷や巣がないか否かを自動検査している。
ボアのボーリング加工では、ボア内壁面に螺旋状の切削痕が生じ、エンジンオイルの通り道(オイルピット)として利用されるが、この切削痕には切削液や切り屑等が残留するおそれがある。
また、ボアのホーニング加工は、ボア内壁面をオイルピットが残る程度に研磨仕上げしてピストン摺動面として適切な表面粗さ及び面性状にする仕上げ加工工程であるが、この仕上げ加工後でも研磨液や研磨屑が残留するおそれがある。
このような残留物(内在物)は、ボア内壁面の検査時に傷の過剰検出といった誤検出の原因になってしまう。このため、ボア内壁面の自動検査前に、ボア内壁面に残留する内在物を除去する内在物除去装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2005−46725号公報
【特許文献2】特開2007−319765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1の構成は、ケーシングに回転自在に支持された回転パイプの下端に略横向きにノズルを接続し、このノズルによりボア内壁面内側からボア内壁面に略直交させた向きでエアを吹き付け、この吹き付けたエアの反作用でノズルを回転させつつボア深さ方向に移動させるため、ボア内壁面の残留物(内在物)が上下方向に飛散し、特に上向きに飛ばされた残留物がボア内壁面に再び付着して除去されないおそれがある。
また、特許文献2の構成も、特許文献1と同様に、回転パイプの下端に略横向きにノズルを設け、ノズルからボア内壁面に略直交させた向きでエアを吹き付けてノズルを回転させるため、残留物(内在物)が上下方向に飛散してその一部が除去されないおそれがある。
さらに、これら装置はいずれも上下移動機構の他に回転機構を有するため、構造が複雑化し、部品点数の増大などを招いてしまう。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、シリンダーブロック等の筒ワークから内在物を除去する除去性能が向上した内在物除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、筒ワークの開口内側に流体を吹き入れて、該筒ワーク内側の内在物を除去する内在物除去装置において、前記筒ワークの開口を閉塞する蓋状部材と、前記蓋状部材に支持軸を介して設けられ、該支持軸の進退により前記筒ワークの空間内を進退自在な封止板と、前記蓋状部材内側の前記封止板の背面空間に流体を供給する供給手段とを備え、前記筒ワークの前記空間内面と前記封止板との間の隙間から該封止板の背面空間に供給した前記流体を吹き出して当該筒ワークの内在物を除去することを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、筒ワークの開口を閉塞する蓋状部材と、蓋状部材に支持軸を介して設けられ、該支持軸の進退により筒ワークの空間内を進退自在な封止板と、蓋状部材内側の封止板の背面空間に流体を供給する供給手段とを備え、筒ワークの空間内面と封止板との間の隙間から該封止板の背面空間に供給した流体を吹き出して当該筒ワークの内在物を除去するため、筒ワークの内在物を一方向に向けて除去することができ、内在物の除去性能を向上することができる。
【0007】
上記発明において、前記封止板は、外縁部を有し、前記筒ワーク内面に沿って進退し、前記筒ワーク内面との間に該内面の周方向に連続する隙間を形成してもよい。これによれば、封止板の進退だけで筒ワーク内面全体から内在物を除去し、かつ、筒ワークの周方向に渡って除去能力を均等に揃えることができる。
【0008】
上記発明において、前記封止板の背面は、この封止板の先端方向に行くに従って前記筒ワーク内面向きに拡大するテーパー面に形成してもよい。これによれば、流体の流速を効率よく高めて筒ワーク内面に吹き出すことができ、除去能力を効率よく高めることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、筒ワークの開口を閉塞する蓋状部材と、蓋状部材に支持軸を介して設けられ、該支持軸の進退により筒ワークの空間内を進退自在な封止板と、蓋状部材内側の封止板の背面空間に流体を供給する供給手段とを備え、筒ワークの空間内面と封止板との間の隙間から該封止板の背面空間に供給した流体を吹き出して当該筒ワークの内在物を除去するため、筒ワークの内在物を一方向に向けて除去でき、内在物の除去性能を向上させることができる。
また、封止板は、外縁部を有し、筒ワーク内面に沿って進退し、筒ワーク内面との間に該内面の周方向に連続する隙間を形成するように構成すれば、封止板の進退だけで筒ワーク内面全体から内在物を除去し、かつ、筒ワークの周方向に渡って除去能力を均等に揃えることができる。
また、封止板の背面は、この封止板の先端方向に行くに従って筒ワーク内面向きに拡大するテーパー面に形成するように構成すれば、流体の流速を効率よく高めて筒ワーク内面に吹き出すことができ、除去能力を効率よく高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るシリンダーブロック自動検査用の内在物除去装置10の概略構成を示す図であり、図2は、内在物除去装置10の主要部を示す図である。なお、図1中、符号1は、自動車用エンジンのシリンダーブロックである。
自動車用エンジンの製造工程には、金型鋳造されたシリンダーブロック1のボア(シリンダーボアとも言う)2にボーリング加工やボア内壁面2Aを研磨するホーニング加工を行った後に、ボア内壁面2Aに傷や巣がないか否かを自動検査する検査工程がある。
ボーリング加工やホーニング加工では、一般に、切削液や研磨液が使用されるため、ボア内壁面2Aに、水滴や切り屑(研磨屑を含む)が残留する可能性がある。このような残留物(内在物)が残留したままだと、ボア内壁面2Aの検査の際に、残留物がボア内壁面2Aの外乱となり、過剰検出の原因になってしまう。このため、ボア内壁面2Aの検査工程では、検査を阻害する内在物を除去した後に検査を実施することが望まれる。
【0011】
シリンダーブロック1は、自動車用4サイクルエンジンのシリンダーブロックであり、ボア(シリンダーボア)2となる断面円形の貫通孔を備えた筒状のワーク(筒ワーク)である。このシリンダーブロック1は、アルミニウム合金や鋳鉄等の金属材で形成され、エンジンの気筒数や配列に応じて複数のボア2が間隔を空けて形成されている。
シリンダーブロック1のボア2は、エンジンのピストン(不図示)が摺動するピストン摺動面となるため、適切なボア径、表面粗さ及び面性状を得るべくボーリング加工およびホーニング加工が施される。
すなわち、ボーリング加工では、回転軸に設けたボーリングヘッドに切削バイトを径方向に突設し、該ボーリングヘッドを回転させながら筒ワークとしてのシリンダーブロック1に対して進退させてボア径を予め設定された目標ボア径まで切削する。このボーリング加工により、ボア内壁面2Aには、方向性を有する螺旋状の切削痕ができる。その後、ボア内壁面2Aに対して、螺旋状の切削痕をエンジンオイルの通り道(オイルピット)として利用可能な程度だけ残しつつ、エンジンの所望の性能を発揮可能な表面粗さ及び面性状を得るべく、ホーニング用砥石を配設した加工ヘッドを用いてホーニング加工が施される。
【0012】
シリンダーブロック1は、仕上げ工程であるホーニング加工を経た後に図示せぬ搬送機構により搬送されて検査工程へと運ばれる。この場合、シリンダーブロック1は、車両搭載時と略同じ姿勢、つまり、ボア開口を上方に向けた姿勢で検査工程へ搬送され、この状態で検査工程における内在物除去や検査が行われる。以下に示す上下方向等の各方向は、図1に示す方向に従うものとし、図1では上方向を符号Uで示し、下方向を符号Dで示している。
【0013】
内在物除去装置10は、ボア内壁面2Aに残留する液体(例えば研磨液)や研磨屑などを、流体の一種であるエアで吹き飛ばしてシリンダーブロック1外に放出させる装置であり、ボア内壁面2Aの検査工程で内在物の除去に使用される。
図3は、内在物除去装置10の主要部をシリンダーブロック1と共に示す側断面図である。この内在物除去装置10は、図1〜図3に示すように、シリンダーブロック1のボア2の一方の開口を閉塞する蓋状部材であるワーククランパ21と、このワーククランパ21に支持軸30を介して設けられ、この支持軸30の進退によりボア2内を進退自在な封止板31と、ワーククランパ21に取り付けられ、封止板31の背面空間にエアを供給する複数本(本例では2本)のエアカプラ(流体の供給手段)41とを備えている。
【0014】
ワーククランパ21は、シリンダーブロック1のボア2よりも大径の円筒形状を有するクランパ本体22を有し、このクランパ本体22は、図2に示すように、内径R1がボア径R0よりも大径で、かつ、封止板31を収容自在に上下に延びる内部空間を形成する円筒部22Aと、この円筒部22Aの上側(ボア2と反対側)の開口を塞ぐ閉塞板部22Bとを一体に備えている。
このクランパ本体22は、金属材または合成樹脂からなる剛体体で形成されており、このクランパ本体22の下面(シリンダーブロック1側の面)には、このクランパ本体22およびシリンダーブロック1よりも柔軟な素材で形成された接触部材23が設けられている。
【0015】
このクランパ本体22は、ワーククランパ21外に設けられた第1進退機構51(図1参照)により上下に進退自在に支持されており、この第1進退機構51によりクランパ本体22がシリンダーブロック1に向けて降下した際に、図3に示すように、接触部材23がシリンダーブロック1の上面1Aに接触してシリンダーブロック1をクランプする。この接触部材23は、クランパ本体22の円筒部22Aと同径の内径を有する円筒部品に形成され、シリンダーブロック1よりも柔軟な素材として、例えば、MCナイロンやウレタンで形成されている。
図1に示すように、第1進退機構51は、送りねじ機構であり、雄ねじが刻設された第1軸部52と、この第1軸部52を回転駆動する第1駆動モーター53と、第1軸部52の回転速度および回転角を検出する第1ロータリーエンコーダ54とを備えている。第1軸部52は、この第1軸部52に螺合するナット部52Aを介してクランパ本体22に連結され、第1軸部52の回転に応じてクランパ本体22が上下に進退可能に構成されている。
【0016】
この第1進退機構51は、内在物除去装置10の各部を制御する制御装置12によって制御される。すなわち、図1に示すように、第1進退機構51は、第1駆動モーター53により第1軸部52を所定方向に回転駆動し、この第1軸部52の回転によりワーククランパ21をシリンダーブロック1のボア2に向けて降下(移動)させる。そして、ワーククランパ21に設けられた接触部材23がシリンダーブロック1の上面、より具体的には、シリンダーブロック1の上面1A(ボア周囲面)に当接すると、第1駆動モーター53の回転を停止して当接状態を保持させる。また、第1駆動モーター53を逆回転させてワーククランパ21を上昇させ、シリンダーブロック1から待避した位置へと移動させる。
ここで、当接したか否かの検出は、第1ロータリーエンコーダ54の検出結果に基づいて制御装置12内の位置制御部13が検出する。この位置制御部13は、第1駆動モーター53を駆動してワーククランパ21を位置制御する機能を具備し、例えば、第1ロータリーエンコーダ54を用いて第1駆動モーター53の回転速度が零、或いは、回転速度変化量が零になったか否かを検出する等の公知の各種方法を用いて当接を検出する。
【0017】
ワーククランパ21の接触部材23がシリンダーブロック1に当接すると、その際の当接力で接触部材23がつぶれて(弾性変形して)シリンダーブロック1上面に密着し、当接力をシリンダーブロック1に伝えることなくワーククランパ21とシリンダーブロック1との間の隙間が閉塞される。この場合、ワーククランパ21が筒ワークであるシリンダーブロック1を上方から押さえるので、ワーククランパ21がシリンダーブロック1の上部を固定支持する。
【0018】
ワーククランパ21の閉塞板部22Bの中央には、支持軸30が上下に進退自在に挿通される。ここで、閉塞板部22Bには、支持軸30との間の隙間を閉塞するシール部材22Dが配置されており、該隙間からのエアの流通を防止する。
支持軸30は、ワーククランパ21外に設けられた第2進退機構61(図1参照)によりボア軸L0に沿って上下に進退自在に支持されている。
図1に示すように、第2進退機構61は、送りねじ機構であり、雄ねじが刻設された第2軸部62と、この第2軸部62を回転駆動する第2駆動モーター63と、第2軸部62の回転速度および回転角を検出する第2ロータリーエンコーダ64とを備えている。第2軸部62は、この第2軸部62に螺合するナット部62Aを介して支持軸30に連結され、第2軸部62の回転に応じて支持軸30が上下に進退可能に構成されている。
【0019】
この第2進退機構61は、制御装置12の位置制御部13によって制御される。すなわち、第2進退機構61は、第2駆動モーター63により第2軸部62を所定方向に回転駆動することによって、支持軸30を上下方向に進退させる。この場合、支持軸30は、この支持軸30に設けられた封止板31を、ワーククランパ21内に待避した位置からシリンダーブロック1のボア内壁面2Aの検査範囲全体(例えば、ピストン摺動範囲)に渡って上下動させる。
【0020】
エアカプラ41には、不図示のエアホースが接続され、このエアホースから供給される高圧エア(例えば、0.5MPaのエア)が、エアカプラ41を介してワーククランパ21の内部空間、つまり、ワーククランパ21内側の封止板31の背面空間に供給される。
このエアカプラ41は、ワーククランパ21の閉塞板部22Bにおける支持軸30の周囲に間隔を空けて設けられ、エア排出口41Aを下向き、つまり、封止板31の背面向きにして取り付けられている。本実施形態では、エアカプラ41は、支持軸30の周囲に等間隔で2箇所設けられているが、2箇所に限らず、例えば、4箇所でもよい。
このエアカプラ41にエアを供給するか否かは、制御装置12内のエア制御部14が制御する。このエア制御部14は、不図示のエア弁の開閉制御を行うことによって、エアカプラ41へのエア供給/エア供給停止を切り替える。
【0021】
封止板31は、支持軸30の下端に着脱自在に設けられている。
図3に示すように、この封止板31は、支持軸30よりも拡径し、ボア内壁面2Aとの間に周方向に連続する均一の隙間S(本実施形態では2mm程度の隙間)を形成する。
詳述すると、この封止板31は、支持軸30との連結部31Aが支持軸30と同径に形成され、この連結部31Aから先端側(下側)に行くに従って徐々に拡径する断面真円形状を有し、最大径となる先端部31Bが、ボア内壁面2Aとの間に周方向に連続する隙間Sを形成する直径R2の円形外縁部に形成されている。このため、この封止板31の背面31Cは、封止板31の先端方向(下方向)に行くに従ってボア内壁面2A向きに拡大するテーパー面に形成されている。
【0022】
このように、本構成では、シリンダーブロック1のボア開口の一方側(上部)をワーククランパ21で閉塞し、このワーククランパ21の内部空間とボア2の内部空間とを封止板31で絞って連通させるため、ワーククランパ21内側にエアカプラ41からのエアを吹き入れた場合に、封止板31を境にしてワーククランパ21側(上側)を大気圧以上の高圧にし、ワーククランパ21の反対側(下側)を大気圧程度の低圧にすることができる。
このため、エアが流れる向きを、図3に矢印で示すように、ワーククランパ21からボア2へ向かう一方向にすることができる。従って、ボア内壁面2Aに残留する水滴や切り屑等をワーククランパ21からボア2へ向かう方向だけに飛ばすことができ、残留物がワーククランパ21側(上側)へ飛ばされて再びボア内壁面2Aに付着してしまう事態を確実に回避することができる。
【0023】
また、封止板31の背面31Cが、封止板31の先端方向(下方向)に行くに従ってボア内壁面2A向きに拡大するテーパー面に形成されているので、エアカプラ41から排出されたエアを、このテーパー面に沿わせてボア内壁面2Aに円滑に流すことができる。
しかも、このテーパー面により、ワーククランパ21と封止板31との間では封止板31の先端方向(下方向)に行くに従ってエア通路が徐々に絞られるので、エアの流速を効率よく高めることができる。従って、封止板31の先端部31Bとボア内壁面2Aとの間の隙間Sから排出されるエアの流速を効率よく高めることが可能である。
この隙間Sから排出されるエアは、ボア内壁面2Aに沿って流れ、ボア内壁面2Aの残留物を除去する除去エアとして機能する。従って、この除去エアが高速になるほど、残留物の除去能力を向上させることができる。
【0024】
ところで、封止板31の先端部31Bとボア内壁面2Aとの間の隙間Sを狭くすれば、この隙間Sから排出されるエアの流速を簡単に上げることができるが、この隙間Sを狭くするほど、シリンダーブロック1に対するワーククランパ21、支持軸30および封止板31等の各部材の位置決め精度が要求され、構造が複雑化してしまう。本構成では、この隙間Sを構造の複雑化を招くほどは小さくせず、封止板31の背面31Cを上記テーパー面にすること等によって、エア流速を効率よく高めて除去能力を十分に確保している。
【0025】
なお、上記封止板31の材料については、特に制限されるものではないが、シリンダーブロック1への影響を低減する観点からは、シリンダーブロック1よりも柔軟な素材であるMCナイロンやウレタン等が適用され、或いは、除去能力の変化を抑制する観点からは、ステンレス等のエア圧では変形しないステンレス等の剛性材料が適用される。
【0026】
次に内在物除去装置10の動作を説明する。ここで、図4(A)〜(D)は内在物除去装置10の動作状態を各々示している。
図4(A)は、内在物除去装置10の待機状態を示している。すなわち、制御装置12は、位置制御部13により第1進退機構51および第2進退機構61を駆動させることよって、ワーククランパ21および支持軸30を上方に移動させ、シリンダーブロック1の搬送を妨げない位置に保持させた状態で待機する(待機工程)。なお、この状態では、エアカプラ41にはエアが供給されないようになっている。
次に、シリンダーブロック1が予め定められた位置(ワーククランパ21で密閉可能な位置)に搬送されると、制御装置12は、第1進退機構51によりワーククランパ21を下方に移動させ、図4(B)に示すように、シリンダーブロック1の上面1Aにワーククランパ21を密着させてボア開口をワーククランパ21で密閉する(密閉工程)。
【0027】
ボア開口をワーククランパ21で密閉すると、制御装置12は、図4(C)に示すように、エア制御部14によりエアカプラ41にエアを供給させ、ワーククランパ21内にエアを導入させると共に(流体導入工程)、図4(D)に示すように、エアを供給した状態を保持しつつ、位置制御部13により第2進退機構61を駆動させることよって、支持軸30に設けられた封止板31をボア内壁面2Aに沿わせて下方に移動させる(移動工程)。この移動工程では、封止板31を、ボア内壁面2Aの全体(或いは、ピストン摺動範囲全体)に渡って上方から下方に向かって移動させ、ボア内壁面2A全体から残留物を除去する。
そして、制御装置12は、封止板31をボア内壁面2Aの下端或いは下端より更に下方位置まで移動させると、エアの供給を停止させると共に、ワーククランパ21および支持軸30を上方に移動させ、図4(A)に示した待機状態へと移行する。以上が内在物除去装置10の動作である。
なお、封止板31を、ボア内壁面2Aの全体(或いは、ピストン摺動範囲全体)に渡って一回移動させるだけでなく、複数回移動させてもよい。この内在物の除去動作が終了すると、公知の表面検査装置によりボア内壁面2Aの表面検査が開始される。
【0028】
このように本実施形態によれば、シリンダーブロック1のボア開口の一方側(上部)をワーククランパ21で閉塞し、このワーククランパ21に支持軸30を介して設けられた封止板31をボア2空間内に進退させると共に、ワーククランパ21内の封止板31の背面空間に向けてエアを供給させる(吹き入れる)ため、ワーククランパ21内のエア圧が高まり、エアをワーククランパ21からボア2へと流すことができ、ボア内壁面2Aに残留する水滴や切り屑等を確実に除去できる。このため、ボア内壁面2Aの表面検査の際に、水滴や切り屑による誤検出を回避することができる。
さらに、封止板31をシリンダーブロック1のボア内壁面2Aに沿わせて進退させるので、ボア内壁面2Aの全体に渡って高圧のエアを流すことができ、ボア内壁面2Aの各部に残留する水滴や切り屑等をより確実に除去することができる。また、従来の内在物除去装置が必要としていたノズル回転機構を必要としないので、構造が簡素化し、部品点数も削減できる。
【0029】
また、本実施形態によれば、封止板31が、ボア内壁面2Aとの間に周方向に連続する均等の隙間Sを形成するため、封止板31の上下動(進退)だけでボア内壁面2A全体から残留物を除去すると共に、ボア内壁面2Aの周方向に渡って除去能力を均等に揃えることができる。
また、本実施形態によれば、封止板31の背面31Cは、この封止板31の先端方向に行くに従ってボア内壁面2A向きに拡大するテーパー面に形成されるため、エアの流速を効率よく高めてボア内壁面2Aに吹き出すことができ、除去能力を効率よく高めることができる。
【0030】
また、この内在物除去装置10は、封止板31が着脱自在であり、この封止板31を交換することによって、ボア径R0が異なるシリンダーブロック1から内在物を除去可能である。例えば、図5に示すように、ボア径R0が小さいシリンダーブロック1Xの場合、封止板31を、このシリンダーブロック1Xのボア内に納まる封止板31Xに交換することによって内在物を除去可能である。
従来の内在物除去装置では、径の異なるボアが除去対象として追加された場合、そのままでは除去能力が変わってしまい、除去能力を揃えるには、構造が複雑なノズルユニットを新規に作成する必要がある。これに対し、本実施形態の内在物除去装置10では、簡易な構造を有する封止板31だけを交換すればよく、また、封止板31Xとボア内壁面2Aとの間の隙間Sの管理だけで、除去能力(エア流量)を容易に調整できるので、除去能力を容易に揃えることが可能である。
【0031】
なお、上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形可能である。
例えば、封止板31は、上記形状に限らず、図6(A)に示すように、封止板31の先端部31Bを同径で下方に延在させ、これによって、先端部31Bを構成する円形外縁部を所定厚さHの厚肉形状にしてもよいし、図6(B)に示すように、封止板31全体を同径で下方に延在させ、これによって、封止板31を所定厚さHの円形外縁部だけで形成してもよい。
この場合、封止板31とボア内壁面2Aとの間の隙間Sを形成するエア絞り部の長さ(厚さHに相当)が、ボア軸L0方向に長くなるので、エア絞り部での流速が早い領域が広くなり、ボア内壁面2Aの除去能力を向上できる。特に図6(A)では、封止板31の背面31Cをボア内壁面2Aに向かって徐々に流速を高めるテーパー面にしているため、より効率よくエア流速を高めることが可能である。
【0032】
ところで、シリンダーブロック1のボア2は、シリンダーヘッドやクランクケース等が組み付けられるとボア2の形状が変わってしまうため、従来より、シリンダーブロック1にボア2を加工する際、シリンダーヘッドを模したダミーヘッドを取り付けてボアの加工を行うことが行われている。この場合、ボア内壁面2Aの検査工程のためにダミーヘッドを取り外さなければならないとすると、生産性が低下してしまう。
これを回避するために、図7に示すように、内在物除去装置10のワーククランパ21をダミーヘッド81の上面81Aに密着させてボア2の一方の開口を閉塞させ、ダミーヘッド81の厚さ分だけ、封止板31の進退ストロークを大きく確保するようにすればよい。この構成によれば、ダミーヘッド81を取り付けた状態でボア内壁面2Aの残留物を除去することができる。
【0033】
一方、図7に示したようなダミーヘッドを取り付けてボア2の加工を行うと、ボア加工の度、ダミーヘッドの取り付け、取り外しが必要になるため、生産性が低下する問題が生じる。この問題を回避するため、従来より以下の手法が提案されている(例えば、特開2007−313619号公報参照)。
すなわち、まず、ダミーヘッドをシリンダーブロック1に装着して、工作機械によりボア2を断面所望の理想円形状に加工する。次に、シリンダーブロック1からダミーヘッドを取り外す。すると、ダミーヘッドの組付けによる応力が解消されるので、ボア2の形状が変形して断面非真円形(例えば、楕円)となる。この断面非真円形状のボア2の全体形状を測定して、NCデータを生成しておく。このNCデータは、具体的には、ダミーヘッドを取り外して断面非真円形状となったボア2に対して、ボア軸L0に沿って所定間隔おきに測定点を設定し、各測定点でのボア2の断面形状を測定したものである。
その後、生成したNCデータに基づいて、ダミーヘッドを装着せずに、未加工のシリンダーブロックのボーリング加工を行って、非真円形状のボア2を形成する。このようにすれば、シリンダーブロック1にダミーヘッドを取り付けずにボア2を加工しても、シリンダーヘッドを装着すると、ボア2が断面所望の理想円形状の立体形状となる。
【0034】
この場合には、ダミーヘッドを取り付けない状態で、上記内在物除去装置10によりシリンダーブロック1から内在物を除去する。すなわち、シリンダーヘッド装着時に理想円形状のボア2となるシリンダーブロック1は、ダミーヘッドを取り付けない状態では、真円断面のボア内壁面2Aに対して数十ミクロン程度の凹凸を有するが、この凹凸部分に非接触となるように封止板31の径を設定しておけば(例えば、封止板31をボア内壁面2Aの平均径或いは最大径に対して2ミリ程度の隙間Sを有するものに設定する)、上述した図1〜図4と同じ態様で、ボア内壁面2Aに残留する水滴や切り屑等を上から下に向けて確実に落とし、内在物を除去することができる。
【0035】
また、第1進退機構51および第2進退機構61は上記機構に限らず、公知の機構を広く適用してもよい。また、エアを供給する構成に限らず、エア以外の気体(流体)を供給する構成にしてもよい。
また、上述の実施形態では、断面視略円形のシリンダーボアを有するシリンダーブロックの内在物を除去する内在物除去装置に本発明を適用する場合について説明したが、これに限らず、シリンダーブロック以外の筒ワークの内在物を除去する内在物除去装置に本発明を適用してもよい。筒ワークとしては、円筒のみならず、円管、三角管、中空の角柱(多角形の中空体)等のワークでもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係るシリンダーブロック自動検査用の内在物除去装置の概略構成を示す図である。
【図2】内在物除去装置の主要部を示す図である。
【図3】内在物除去装置の主要部をシリンダーブロックと共に示す側断面図である。
【図4】内在物除去装置の動作を説明する図であり、(A)は待機工程を示し、(B)は密閉工程を示し、(C)は流体導入工程を示し、(D)は移動工程を示す図である。
【図5】封止板を交換した状態を示す図である。
【図6】封止板の変形例を説明する図であり、(A)は封止板の背面を傾斜面にしつつ先端部を同径の円板部にした場合を示す図であり、(B)は封止板全体を同径の円板部にした場合を示す図である。
【図7】ダミーヘッドを取り付けた状態でシリンダーブロックの内在物を除去する態様を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1、1X シリンダーブロック(筒ワーク)
2 ボア
2A ボア内壁面
10 内在物除去装置
21 ワーククランパ(蓋状部材)
22D シール部材
23 接触部材
30 支持軸
31、31X 封止板
31B 先端部(円形外縁部)
41 エアカプラ(供給手段)
51 第1進退機構
61 第2進退機構
81 ダミーヘッド
L0 ボア軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒ワークの開口内側に流体を吹き入れて、該筒ワーク内側の内在物を除去する内在物除去装置において、
前記筒ワークの開口を閉塞する蓋状部材と、
前記蓋状部材に支持軸を介して設けられ、該支持軸の進退により前記筒ワークの空間内を進退自在な封止板と、
前記蓋状部材内側の前記封止板の背面空間に流体を供給する供給手段とを備え、
前記筒ワークの前記空間内面と前記封止板との間の隙間から該封止板の背面空間に供給した前記流体を吹き出して当該筒ワークの内在物を除去することを特徴とする内在物除去装置。
【請求項2】
前記封止板は、外縁部を有し、前記筒ワーク内面に沿って進退し、前記筒ワーク内面との間に該内面の周方向に連続する隙間を形成することを特徴とする請求項1に記載の内在物除去装置。
【請求項3】
前記封止板の背面は、この封止板の先端方向に行くに従って前記筒ワーク内面向きに拡大するテーパー面に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の内在物除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−36777(P2011−36777A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185546(P2009−185546)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】