説明

内燃機関およびピストン作製方法

【課題】燃焼室に燃料を直接噴射するための燃料噴射弁を備えた内燃機関において熱損失を改善する。
【解決手段】本発明に係る内燃機関10は、燃焼室12に面する表面に第1酸化アルミニウム皮膜27と第2酸化アルミニウム皮膜29とを有する燃焼室画成部材18を備える。第1酸化アルミニウム皮膜27の気孔率は第2酸化アルミニウム皮膜29の気孔率よりも低い。そして第1酸化アルミニウム皮膜27は、燃料噴射弁22から噴射される燃料Fが方向付けられる燃焼室画成部材18の部位に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室に燃料を直接噴射するための燃料噴射弁を備えた内燃機関およびそれに備えられるピストンを作製するピストン作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ディーゼルエンジン用ピストンを開示する。このディーゼルエンジン用ピストンの燃焼室に面する表面部は金属またはセラミックスの多孔質体により形成され、該多孔質体の表面の少なくとも一部に高熱伝導率層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−240457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、省エネ等の観点から、内燃機関においてさらなる熱効率の向上が望まれている。
【0005】
そこで、本発明はかかる点に鑑みて創案されたものであり、その目的は、燃焼室に燃料を直接噴射するための燃料噴射弁を備えた内燃機関において、熱損失を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る内燃機関は、燃焼室に燃料を直接噴射するための燃料噴射弁を有する内燃機関において、燃焼室に面する表面に第1酸化アルミニウム皮膜と第2酸化アルミニウム皮膜とを有する燃焼室画成部材を備え、該第1酸化アルミニウム皮膜の気孔率は第2酸化アルミニウム皮膜の気孔率よりも低く、第1酸化アルミニウム皮膜は、燃料噴射弁から噴射される燃料が方向付けられる燃焼室画成部材の部位に形成されていることを特徴とする。
【0007】
好ましくは、燃焼室に向けて突出する突出部がピストンに設けられ、該突出部に第1酸化アルミニウム皮膜が形成されているとよい。
【0008】
また、本発明は、燃焼室に燃料を直接噴射するための燃料噴射弁を有する内燃機関に備えられるピストンを作製するためのピストン作製方法を提供し、該方法は、ピストンの燃料噴射弁から噴射される燃料が方向付けられる部位を保護部材で被覆する被覆工程と、該被覆工程によって前記部位が被覆されたピストンに所定気孔率を有する酸化アルミニウム皮膜を形成する多孔質皮膜形成工程と、該多孔質皮膜形成工程を経たピストンから保護部材を除去する除去工程と、該除去工程を経たピストンに前記所定気孔率よりも低い気孔率を有する酸化アルミニウム皮膜を形成する高密度皮膜形成工程とを含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る内燃機関の燃焼室およびその周囲の断面模式図である。
【図2】図1の内燃機関におけるシミュレーション結果を表した図であり、燃焼室の温度分布例を表した図である。
【図3】図1の内燃機関の変形例を説明するための図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る内燃機関の燃焼室およびその周囲の一部の横断面模式図である。
【図5】図4の内燃機関のピストンの突出部の形状を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る内燃機関を実施形態に基づいて詳述する。
【0011】
まず、本発明の第1実施形態に係る内燃機関10について説明する。図1に、内燃機関10の燃焼室およびその周囲の断面模式図を示す。図1中上側の図が横断面図であり、図1中下側の図が縦断面図である。なお、図1は燃焼室の半分に関する部分のみを示すが、この燃焼室の半分に関する部分は図示されない燃焼室の残りに関する部分と概ね対称形である。
【0012】
内燃機関10は、燃焼室に燃料を直接噴射するための燃料噴射弁を備えたディーゼルエンジンである。燃焼室12は、シリンダブロック14の気筒16内を往復動するピストン18と、シリンダブロック14上に設けられたシリンダヘッド20との間に区画形成される。したがって、ピストン18とシリンダヘッド20とはそれぞれ燃焼室12を区画形成する燃焼室画成部材であり、燃焼室12にはピストン18とシリンダヘッド20とがそれぞれ面する。シリンダヘッド20には燃料噴射弁22が設けられている。燃料噴射弁22は、気筒16の軸線α上に位置付けられている。
【0013】
内燃機関10は、吸気系から吸気弁を介して導かれた空気と上記燃料噴射弁22から噴射された燃料との混合気を圧縮自着火により燃焼室12で燃焼させて、気筒16内でピストン18を往復動させて、クランクシャフトを回転させるものである。そして、燃焼室12での混合気の燃焼により生じたガスは、排気弁を介して排気系から排出される。
【0014】
燃料噴射弁22はピストン18の頭部18hに形成された凹部(キャビティ)24に向けて燃料を噴射するための噴射口22aを有する。ここでは、燃料噴射弁22は、一度に6つの所定方向に燃料を噴射する。噴射された燃料Fは、気化しつつ、その一部はピストン18の凹部24に到達し得る。このようなピストン18の部位は、燃料(液体燃料および/または気体燃料)Fの衝突により大きな力を受ける。それ故、そのような部位はその衝突に十分に耐える強度を有することを必要とする。他方、内燃機関10の熱効率を高めるためには、燃焼室12の断熱性を高めることが有効である。
【0015】
そこで、ここでは、燃焼室12を区画形成する部材つまり燃焼室画成部材の燃焼室12に面する表面は2種類の皮膜によって覆われる。燃焼室12に面して燃料噴射弁22から噴射される燃料Fが方向付けられる部位、換言すると燃料噴射弁22から噴射された燃料が直接到達可能な部位つまり噴霧衝突部(以下、第1部位)26は第1酸化皮膜27により覆われる。これに対して、燃焼室12に面する第1部位26の周辺の第2部位28は第2酸化皮膜29により覆われる。上記したように、第1部位26はピストン18の凹部24に位置するので、第2部位28はピストン18に位置する。なお、第2部位28は所定範囲を有する。そして、ここでは、第1部位26以外の燃焼室12に面する所定部位(以下、第3部位)30は第2酸化皮膜29により覆われる。ただし、第3部位30は、第2部位28を含む。第3部位30は、具体的には、シリンダヘッド20およびピストン18に位置し、第1部位26以外の燃焼室12に面するピストン18の部位および燃焼室12に面するシリンダヘッド20の部位31からなる。なお、図1において、第1部位26の第1酸化皮膜27と、第3部位30の第2酸化皮膜29とは、異なるハッチングを用いて表されている。
【0016】
第1酸化皮膜27と第2酸化皮膜29とは酸化アルミニウム皮膜である点で共通するが、気孔率の点で異なる。第2酸化皮膜29の気孔率は第1酸化皮膜27の気孔率よりも高い。第1酸化皮膜27の気孔率は第1酸化皮膜27が燃料の衝突に十分に耐える強度を有すると共に燃焼室12の断熱性を高めるように定められ、他方、第2酸化皮膜29の気孔率は第2酸化皮膜29が燃焼室12の断熱性をより高めるように定められる。ここでは、第1酸化皮膜27の気孔率は約10%であり、第2酸化皮膜29の気孔率は15%以上である。ただし、第1酸化皮膜27の気孔率は第2酸化皮膜29の気孔率(所定気孔率)よりも低いという関係を第1酸化皮膜27と第2酸化皮膜29とが有する限り、第1酸化皮膜27と第2酸化皮膜29とはそれぞれ他の気孔率を有することができる。したがって、第1酸化皮膜27は、第2酸化皮膜29に比べて、硬く、高い熱伝導率を有する。これに対して、第2酸化皮膜29は、第1酸化皮膜27に比べて、低い熱伝導率を有し、断熱性に優れる。
【0017】
ピストン18およびシリンダヘッド20はアルミニウム合金製である。第1酸化皮膜27および第2酸化皮膜29は、アルミニウム合金製部材であるピストン18およびシリンダヘッド20をそれぞれ陽極として酸化アルミニウム皮膜を生成する方法、つまり陽極酸化法により形成される。特に、ピストン18の第1部位26はまず樹脂などの保護部材で被覆される(マスキングされる)(被覆工程)。その上で、第1部位26を除いたピストン18の頭部18hの第2部位28を含む所定領域には酸化アルミニウム皮膜が形成される。これにより多孔質酸化皮膜である第2酸化皮膜29がピストン18に形成される(多孔質皮膜形成工程)。その後、第1部位26に対する保護材料が除去される(除去工程)。そしてピストン18の第1部位26に対して特別な処理条件により酸化アルミニウム皮膜が形成される。こうして高密度酸化皮膜(硬質酸化皮膜)である第1酸化皮膜27が形成される(高密度皮膜形成工程)。なお、気孔率の異なるそれら酸化アルミニウム皮膜を形成する方法は当業者にとって既知であるのでここでの詳細な説明を省略する。両酸化皮膜27、29はこのような方法以外の方法で形成されてもよい。例えば、第1酸化皮膜27が形成された後、第2酸化皮膜29が形成されてもよい。なお、シリンダヘッド20には、多孔質皮膜形成工程と同様の工程により、第2酸化皮膜29が形成される。
【0018】
上記のように燃焼室12に面するピストン18の表面およびシリンダヘッド20の表面に、つまり第1部位26および第3部位30に酸化アルミニウム皮膜を形成したことによる効果を調べるべく、シミュレーションを行った。その結果を図2に示す。図2は、燃料噴射弁から噴射された燃料の燃焼時(特に筒内圧が概ね最高圧に達した時点)の燃焼室12のガスの温度分布例を示す。図2には、燃料噴射方向、換言すると噴霧中心軸が点線βで示されている。なお、図2は、図1の燃焼室12およびその周囲の縦断面図で示されない残り半分の燃焼室の縦断面のガス温度分布例である。
【0019】
図2では、黒い領域が最も温度の高い領域である。図2から理解できるように、噴霧中心軸と燃焼室壁面とが交わる点付近の火炎温度つまりガス温度は相対的に低い。これは、当該領域に存在し得る混合気がリッチ(例えば過濃)であるからである。これに対して、噴霧中心軸と燃焼室壁面とが交わる点から同程度離れた領域の温度が最も高い。これは、当該領域に存在し得る混合気が概ね理論空燃比の混合気だからである。このような高温領域は、燃焼室空間において、噴霧中心軸βを中心として略円錐形状に拡がり、上記第1部位26を避けるようにその周囲に拡がる。このように、第1部位26を避けるように第1部位26周辺の第2部位28に高温ガスが達するまたは近づくので、その熱の逃げは第2酸化皮膜29により抑制される。したがって、当該内燃機関10は断熱性に優れ、熱損失を低く抑えることができる。
【0020】
なお、上記したようにピストン18に形成される第1酸化皮膜27および第2酸化皮膜29は共に酸化アルミニウム皮膜である。それ故、それらは境界での機械的強度に優れる。
【0021】
なお、気筒16内をピストン18が往復動しているときに、燃料噴射弁22から燃料が噴射される。したがって、燃焼サイクル中に、燃料Fが到達し得る部位は図3の範囲γ内で変化し得る。そこで、図3に示す代替的な内燃機関のように、図1の内燃機関の場合よりも、ピストン18の第1部位26の範囲を広く定めることができる。図3において、第1部位26の範囲γは、ピストン18の凹部24を超えてピストン18の頂部18tにまで延びている。
【0022】
ところで、燃焼室12において、第1部位26に燃料Fが到達しなかったり、到達してもその到達範囲が狭かったりすると、図2に関して説明された高温ガスが第1部位26に到達する可能性が高まる。第1部位26にそのような高温ガスが達すると、第1部位26は相対的に熱伝導率の高い第1酸化皮膜27で覆われているので、第1部位26にそのような高温ガスが達しない場合に比べて、断熱効果が下がり得る。この点で内燃機関10は改良の余地がある。この点で改良された内燃機関100が次に説明される。
【0023】
本発明の第2実施形態に係る内燃機関100について説明する。内燃機関100では、後で詳述するように、燃焼室に面するピストンの一部が燃焼室に向けて突出している。この点に関して内燃機関100は内燃機関10と相違するが他の点では概ね同じである。そこで、以下では、既に説明した内燃機関10の構成要素と同じまたは対応する構成要素に同じ符号を付して、それらの重複説明を省略する。なお、内燃機関100は、基本的に、内燃機関10に関して説明した上記効果を同様に奏し、また上記内燃機関10に対して説明された変更例と同様の変更が適用され得る。
【0024】
図4は内燃機関100の燃焼室12に面するピストン18の凹部24の第1部位26およびその周囲の部分的な横断面模式図である。図4では、燃料噴射弁22から燃料が噴射されたときの燃料Fが模式的に表されると共に、燃焼により生じ得る高温ガスHが模式的に表されている。噴射された燃料は、燃料噴射方向βに沿ってピストン18の凹部24に向けて進む。
【0025】
内燃機関100は、ピストン18に、ピストン18の凹部24の一般面である周辺部24cから燃焼室12に向けて突出する突出部32を有する。突出部32には、燃料噴射弁22から噴射される燃料が方向付けられる第1部位26が位置付けられている。具体的には、第1部位26は、突出部32の頂部32tに定められている。それ故、突出部32には第1酸化皮膜27が形成されている。なお、ここでは突出部32の頂部32tは略凹状であるので、第1酸化皮膜27が形成された第1部位26は略凹状である。
【0026】
こうして定められた第1部位26には燃料Fが達し得て、上記の如く、その表面近傍には燃料の割合の多い混合気(リッチな混合気)が形成され得る。特に、第1部位26は突出部32に定められているので、第1部位26と燃料噴射弁22との距離は第2部位28と燃料噴射弁22との距離よりも短く、そのような燃料割合の多い混合気が第1部位26近傍に生じる確率は高まる。したがって、突出部32の第1部位26を避けるように高温ガスHがより確実に生じ得、その結果、より確実に、断熱効果を高めることができる。
【0027】
第1部位26のその周辺部24cからの突出量δは例えば0.5〜3mmであるとよい(図5参照)。また、突出部32の幅は気筒16の軸線αを中心にして角度範囲εを有するように定められるとよく、角度範囲εは5°〜20°の範囲であるとよい(図5参照)。なお、突出部32の立ち上がり部には丸み(R)がつけられるとよい(図5参照)。
【0028】
以上、本発明を上記実施形態およびその変形例に基づいて説明したが、例えば、本発明は、ディーゼルエンジン以外の内燃機関に適用されてもよい。なお、上記実施形態では、燃焼室画成部材の燃焼室に面する表面に2種類の気孔率の異なる酸化アルミニウム皮膜を形成した。しかし、燃焼室画成部材の燃焼室に面する表面に3種類以上の気孔率の異なる酸化アルミニウム皮膜が形成されてもよい。例えば、上記第1部位は最も気孔率の低い高密度の酸化アルミニウム皮膜によって覆われ、上記第2部位は次に気孔率の低い酸化アルミニウム皮膜によって覆われ、他の部位つまり第2部位を除いた第3部位は最も気孔率の高い酸化アルミニウム皮膜によって覆われることができる。このような気孔率の選択は、燃焼室画成部材の燃焼室に面する表面の各部位に要求される強度、熱伝導率、断熱性等に基づいて行われることができる。なお、上記した酸化アルミニウム皮膜は、純アルミニウムまたはアルミニウム合金から作製され得、好ましくは高強度、高靱性を有し、熱衝撃に強いとよい。
【0029】
なお、上記両実施形態およびその変形例等では本発明をある程度の具体性をもって説明したが、本発明はこれらに限定されず、本発明については、特許請求の範囲に記載された発明の精神や範囲から離れることなしに、さまざまな改変や変更が可能であることは理解されなければならない。すなわち、本発明は特許請求の範囲およびその等価物の範囲および趣旨に含まれる修正および変更を包含するものである。
【符号の説明】
【0030】
10、100 内燃機関
12 燃焼室
18 ピストン
20 シリンダヘッド
22 燃料噴射弁
24 凹部
26 第1部位
27 第1酸化皮膜
28 第2部位
29 第2酸化皮膜
30 第3部位
32 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に燃料を直接噴射するための燃料噴射弁を有する内燃機関において、
前記燃焼室に面する表面に第1酸化アルミニウム皮膜と第2酸化アルミニウム皮膜とを有する燃焼室画成部材を備え、
該第1酸化アルミニウム皮膜の気孔率は第2酸化アルミニウム皮膜の気孔率よりも低く、
前記第1酸化アルミニウム皮膜は、前記燃料噴射弁から噴射される燃料が方向付けられる前記燃焼室画成部材の部位に形成されていることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記燃焼室に向けて突出する突出部がピストンに設けられ、
該突出部に前記第1酸化アルミニウム皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
燃焼室に燃料を直接噴射するための燃料噴射弁を有する内燃機関に備えられるピストンを作製するためのピストン作製方法であって、
前記ピストンの前記燃料噴射弁から噴射される燃料が方向付けられる部位を保護部材で被覆する被覆工程と、
該被覆工程によって前記部位が被覆された前記ピストンに所定気孔率を有する酸化アルミニウム皮膜を形成する多孔質皮膜形成工程と、
該多孔質皮膜形成工程を経た前記ピストンから前記保護部材を除去する除去工程と、
該除去工程を経た前記ピストンに前記所定気孔率よりも低い気孔率を有する酸化アルミニウム皮膜を形成する高密度皮膜形成工程と
を含むことを特徴とするピストン作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−220207(P2011−220207A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89679(P2010−89679)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】