内燃機関の冷却構造
【課題】スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに対して近接および離隔するように移動した場合であっても、ボア間領域を充分に冷却することができ、シリンダボアの冷却性能を向上させることができる内燃機関の冷却構造を提供すること。
【解決手段】ウォータジャケット6内にシリンダライナ3a〜3cを取り囲むようにして収納され、ウォータジャケット6内をシリンダライナ3a〜3c側に位置する内周通路12と外周通路13とに区画するウォータジャケットスペーサ10を備え、シリンダボア4a〜4cが隣接するシリンダボア4a〜4cのボア間領域14にくびれ部15a〜15dを有するエンジンの冷却構造1において、ウォータジャケットスペーサ10に、内周通路12を流通する冷却水をくびれ部15aに案内する突出片19を設け、突出片19の冷却水の流通方向下流側に、外周通路13と内周通路12とを連通する切欠き部19aを形成する。
【解決手段】ウォータジャケット6内にシリンダライナ3a〜3cを取り囲むようにして収納され、ウォータジャケット6内をシリンダライナ3a〜3c側に位置する内周通路12と外周通路13とに区画するウォータジャケットスペーサ10を備え、シリンダボア4a〜4cが隣接するシリンダボア4a〜4cのボア間領域14にくびれ部15a〜15dを有するエンジンの冷却構造1において、ウォータジャケットスペーサ10に、内周通路12を流通する冷却水をくびれ部15aに案内する突出片19を設け、突出片19の冷却水の流通方向下流側に、外周通路13と内周通路12とを連通する切欠き部19aを形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の冷却構造に関し、特に、内部がスペーサで区画されるウォータジャケットを用いてシリンダライナの冷却を行う内燃機関の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両に搭載される内燃機関のシリンダブロックは、内部にピストンを摺動自在に収納するシリンダボアが形成されたシリンダライナと、このシリンダライナの外周を取り囲むように形成されたウォータジャケットとを備えており、ウォータジャケット内に冷却水を循環させることによって、シリンダライナの冷却を行うようにしている。
【0003】
ところで、シリンダライナは、ピストンの往復動でもたらされる燃焼サイクルにより、燃焼室に近いピストン上死点側は、燃焼行程の燃焼熱を直接的に受けるために温度が上昇し易い反面、燃焼室から離れるピストン下死点側は、温度が上昇し難い。このため、シリンダライナの高さ方向において温度勾配が生じる。
【0004】
そこで、従来から、ウォータジャケットの形状を適宜変更する等により、シリンダライナの各部位の温度勾配の是正を図るようにしている。例えば、ウォータジャケットの下部側に、ウォータジャケットの流路幅を狭くするためのウォータジャケットスペーサを配設するようにした内燃機関の冷却構造では、ウォータジャケットの下部側で冷却水の流量が制限されるようになる。すなわち、シリンダライナの上部と比較して低温となるシリンダの下部の冷却が抑制されるようになるため、シリンダライナの各部位の温度勾配を均一にすることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ところで、シリンダライナは、シリンダボアが隣接するシリンダボアの境界近傍に位置するボア間領域を有しており、シリンダボアはこのボア間領域に切込み(くびれ)が形成されているため、このボア間領域が充分に冷却されないことがある。
【0006】
その理由として、冷却水は流れの慣性を有するため、ボア間領域の切込みの深い部分には充分な流量が供給されず、ボア間領域で冷却水の澱みが生じるためと考えられる。また、ボア間領域では冷却水通路の断面積が大きいため、流速が低下し、充分な冷却が行われないことが考えられる。すなわち、ボア間領域では、充分な流量の冷却水が供給されないため、冷却不足となることがある。
【0007】
このような不具合を解消するものとして、シリンダライナのボア間領域とウォータジャケットスペーサとの隙間の断面積を、ボア間領域以外でのシリンダボアの外周部とウォータジャケットスペーサとの隙間の断面積よりも小さくすることにより、ボア間領域においてウォータジャケットスペーサとシリンダボアとの間で流速を大きくして、熱が溜まり易いボア間領域を充分に冷却することができるようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
また、特許文献2では、ウォータジャケットスペーサにボア間領域に冷却水を導くフィンを設け、熱の溜まり易いボア間領域に、フィンにより積極的に冷却水を導入することによって、ボア間領域を充分に冷却することができるようにしたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−262155号公報
【特許文献2】特開2005−291005号公報
【特許文献3】特開2002−266695号公報
【特許文献4】特開2007−71039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような従来の内燃機関の冷却構造にあっては、ウォータジャケットに対するウォータジャケットスペーサの組み付け性の向上を図ることや、ウォータジャケットスペーサとウォータジャケットの寸法のバラツキを吸収するため等の理由によって、ウォータジャケットとウォータジャケットスペーサとの間にウォータジャケットの全周に亘って隙間を確保する必要がある。
【0010】
しかしながら、このようにウォータジャケットとウォータジャケットスペーサとの間にウォータジャケットの全周に亘って隙間を形成すると、ウォータジャケット内に流通する冷却水の流量の変化等によって、ウォータジャケット内においてウォータジャケットスペーサがシリンダライナに近接する位置と離隔する位置との間で移動してしまう。
【0011】
そして、ウォータジャケットスペーサがシリンダボアから離隔する方向に移動した場合に、ウォータジャケットスペーサとシリンダボアとの隙間、すなわち、内周通路の断面積が大きくなって内周通路を流通する冷却水の流速が低下してしまい、熱が溜まり易いボア間領域に充分な量の冷却水を供給することが困難となってしまった。
このため、ボア間領域を充分に冷却することができず、シリンダライナの冷却性能が低下してしまうことになる。
【0012】
このような不具合を解消するためには、ウォータジャケットスペーサが移動しないようにするために、ウォータジャケットスペーサをウォータジャケット内で固定するようにすればよい。
このようにウォータジャケットスペーサをウォータジャケット内に固定するものとしては、シリンダブロックの外方からシリンダブロックおよびウォータジャケットにボルトを挿通し、このボルトをウォータジャケットスペーサに螺合させることにより、ウォータジャケットスペーサをウォータジャケット内に固定するものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
また、ウォータジャケットスペーサに冷却水によって膨潤される膨潤部材を設け、膨潤部材をシリンダライナとウォータジャケットスペーサの隙間を埋めるように膨潤させることにより、ウォータジャケットスペーサをウォータジャケットに固定するようにしたものが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0013】
しかしながら、特許文献3に記載されたものは、ボルトによってウォータジャケットスペーサをウォータジャケット内に固定するようにしているため、ウォータジャケットスペーサの取付け作業が面倒であるという問題が発生してしまう。
【0014】
また、特許文献4に記載されたものは、ウォータジャケットスペーサに膨潤部材を設ける必要があるため、ウォータジャケットスペーサの製造コストが増大してしまうという問題が発生してしまう。
【0015】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに対して近接および離隔するように移動した場合であっても、ボア間領域を充分に冷却することができ、シリンダボアの冷却性能を向上させることができる内燃機関の冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る内燃機関の冷却構造は、上記目的を達成するため、(1)隣接して設けられ、それぞれの内部にシリンダボアが形成される複数のシリンダライナと、前記シリンダライナの周囲を取り囲むように形成され、冷却水が流通するウォータジャケットと、前記ウォータジャケット内に前記シリンダライナを取り囲むようにして収納され、前記ウォータジャケット内を前記シリンダライナ側に位置する内周通路と前記内周通路の外方に位置する外周通路とに区画するスペーサとを備え、前記シリンダボアが、隣接する前記シリンダボアの境界近傍に位置するボア間領域を有する内燃機関の冷却構造において、前記スペーサは、前記内周通路を流通する冷却水を前記ボア間領域に案内する案内部を有し、少なくとも1つ以上の前記案内部の冷却水の流通方向下流側に、前記外周通路と前記内周通路とを連通する切欠き部が形成されるものから構成されている。
【0017】
この構成により、スペーサが、内周通路を流通する冷却水をボア間領域に案内する案内部を有するので、スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに近接する位置に移動した場合には、スペーサとシリンダボアとの間の隙間、すなわち、内周通路の断面積が小さくなるため、内周通路を流通する冷却水の流速を増大させて案内部によってシリンダボアのボア間領域に供給することができる。
【0018】
このため、ボア領域の冷却速度(単位時間当たりの熱移動量)を増大させることができ、熱の溜まり易いボア間領域を充分に冷却することができる。
【0019】
また、スペーサが、案内部の冷却水の流通方向下流側に、外周通路と内周通路とを連通する切欠き部を有するので、スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアから離隔する位置に移動した場合には、スペーサとシリンダボアとの間の隙間、すなわち、内周通路の断面積が大きくなるため、内周通路を流通する冷却水の流速が減少し、ボア領域の冷却速度が低下するが、このときに外周通路の断面積が減少するため、外周通路を流通する冷却水の流速が増大する。この外周通路を流通する冷却水は、切欠き部を通して内周通路に供給されるため、ボア領域の冷却速度を増大させることができ、ボア間領域を充分に冷却することができる。
【0020】
このようにスペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに対して近接する位置とシリンダボアから離隔する位置の何れに移動した場合であっても、ボア間領域を充分に冷却することができ、シリンダボアの冷却性能を向上させることができる。
【0021】
また、スペーサを従来のようにボルトや膨潤部材を用いてウォータジャケット内に固定することなく、ボア間領域を充分に冷却することができるため、スペーサの取付け作業の作業性を向上させることができるとともに、スペーサの製造コストが増大するのを防止することができる。
【0022】
上記(1)に記載の内燃機関の冷却構造において、(2)前記案内部が、前記スペーサの上部に設けられるものから構成されている。
【0023】
この構成により、案内部がスペーサの上部に設けられるので、燃焼室に近いピストン上死点側のピストンライナのボア間領域に、案内部によって冷却水を導入することができる。このため、スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに対して近接する位置とシリンダボアから離隔する位置の何れに移動した場合であっても、燃焼室に近い高温のボア間領域を充分に冷却することができ、シリンダボアの冷却性能を向上させることができる。
【0024】
上記(2)に記載の内燃機関の冷却構造において、(3)前記案内部が、前記スペーサの上端から前記ウォータジャケットの上端近傍に突出する突出片から構成され、冷却水の流通方向下流側に前記切欠き部が形成されるものから構成されている。
【0025】
この構成により、案内部を、スペーサの上端からウォータジャケットの上端近傍に突出する突出片から構成し、冷却水の流通方向下流側に切欠き部を形成したので、燃焼室に近いピストン上死点側のピストンライナのボア間領域に、案内部によって冷却水を導入することができる。このため、スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに対して近接する位置とシリンダボアから離隔する位置の何れに移動した場合であっても、燃焼室に近い高温のボア間領域を充分に冷却することができ、シリンダボアの冷却性能を向上させることができる。
【0026】
また、ボア間領域に対向するスペーサの上部に案内部を設けて燃焼室に近いボア間領域に優先的に冷却水を供給するようにしたので、ボア間領域以外の燃焼室に近い領域に案内部を設けないようにすれば、高温の燃焼室に近いシリンダライナの上部に供給される冷却水の流量を多くして高温のシリンダライナの上部を冷却して、燃焼室から離れたシリンダライナの下部とシリンダライナの上部との温度勾配が大きくなるのを抑制することができ、シリンダライナの冷却性能をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに対して近接および離隔するように移動した場合であっても、ボア間領域を充分に冷却することができ、シリンダボアの冷却性能を向上させることができる内燃機関の冷却構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、内燃機関の冷却構造を備えたシリンダブロックの上面図である。
【図2】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、ウォータジャケットスペーサの斜視図である。
【図3】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、切欠き部を有する突出片側から見たウォータジャケットスペーサの要部斜視図である。
【図4】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、ウォータジャケットスペーサとウォータジャケットの位置関係を示す図である。
【図5】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、図4のウォータジャケットスペーサのD方向矢視側面図である。
【図6】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、図4のウォータジャケットスペーサのE方向矢視側面図である。
【図7】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、切欠き部を有する突出板部分のウォータジャケットスペーサの構成図である。
【図8】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、図1のA−A方向矢視断面図である。
【図9】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、(a)は、図1のB−B方向矢視断面図、(b)は、図1のC−C方向矢視断面図である。
【図10】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、ウォータジャケットスペーサがくびれ部側に位置したときの冷却水の流れを示す図である。
【図11】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、ウォータジャケットスペーサがくびれ部から離隔した位置にあるときの冷却水の流れを示す図である。
【図12】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、他の構造の内燃機関の冷却構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る内燃機関の冷却構造の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1〜図12は、本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図である。
まず、構成を説明する。
図1において、内燃機関としてのエンジンの冷却構造1は、シリンダブロック2を冷却媒体としての冷却水により冷却するものであり、エンジンとしては、水冷のレシプロ式多気筒エンジン、例えば直列3気筒のレシプロエンジンから構成され、このレシプロエンジンがシリンダブロック2を有している。
【0030】
シリンダブロック2には、例えば、3つのシリンダライナ3a〜3cが隣接するようにして連続して並べて構成されており、このシリンダライナ3a〜3cの内部にシリンダボア4a〜4cが形成されている。したがって、シリンダボア4a〜4cは、直列に並べられるようになっている。
【0031】
なお、シリンダブロック2は、アルミニウム合金から構成されており、ダイキャスト等によって成形されている。また、シリンダライナ3a〜3cは、鋳鉄と鋳鉄を取り囲むアルミニウム合金等から構成されている。また、シリンダブロック2およびシリンダライナ3a〜3cを鋳鉄から構成してもよい。
【0032】
シリンダボア4a〜4c内には、それぞれピストン23(図8参照)が上下方向に往復動自在に収納されており、シリンダボア4a〜4cの上方にはそれぞれ燃焼室5が形成されている(図8参照)。
【0033】
また、シリンダブロック2の上部には吸気・排気ポート、吸気・排気側の動弁機構、点火プラグ、インジェクタ(何れも図示せず)等が設けられた図示しないシリンダヘッドが搭載されている。そして、往復動するピストン23により、図示しないクランクシャフトから軸出力が変速機側に出力されるようにしている。
【0034】
また、シリンダブロック2にはウォータジャケット6が形成されており、このウォータジャケット6は、シリンダライナ3a〜3cを取り囲む所定幅の溝部から形成されている。すなわち、ウォータジャケット6は、シリンダライナ3a〜3cの外周面とシリンダブロック2の内周面との間に形成された溝部から構成されている。
【0035】
また、シリンダブロック2の側面にはウォータポンプ7が設けられており、このウォータポンプ7は、図示しないラジエータから配管を通して冷却水をシリンダブロック2に形成された供給通路8を通してウォータジャケット6に導入するようになっている。このウォータジャケット6に導入された冷却水は、ウォータジャケット6を流通しながらシリンダライナ3a〜3cを冷却するようになっている。
【0036】
また、シリンダブロック2とシリンダヘッドの間にはウォータジャケット6の上部開口端を閉塞するようにガスケット9が設けられており(図8、図9参照)、ウォータジャケット6を流通してシリンダライナ3a〜3cから熱を奪った冷却水は、ガスケット9に設けられたガスケット孔9aを通して(図1にガスケット孔9aを仮想線で示す)、シリンダヘッドに導入されるようになっている。
【0037】
また、シリンダヘッドには冷却水の排出通路が設けられており、シリンダヘッドに導入された冷却水は、シリンダヘッドを冷却した後、排出口から排出され、図示しない配管を通してラジエータに送出されるようになっている。
【0038】
ウォータジャケット6の内部には、シリンダライナ3a〜3cを取り囲むようにスペーサとしてのウォータジャケットスペーサ10が収納されており、このウォータジャケットスペーサ10は、図1に示すように、ウォータジャケット6の厚み方向中間部を占める外形を有する合成樹脂製の枠形部品から構成されている。
【0039】
具体的にはウォータジャケットスペーサ10は、図2、図4に示すように、シリンダライナ3a〜3cの外径形状に沿った円筒部11a〜11cが隣接するように連続的に形成されており、この円筒部11a〜11cは、ウォータジャケット6の高さの2/3程度の高さに形成されベース部17(図2、図8参照)を有している。
【0040】
図2、図8、図9に示すように、このベース部17は、ウォータジャケット6内において、シリンダライナ3a〜3cの外周面とウォータジャケットスペーサ10の内周面との間に内周通路12を形成し、内周通路12の外方のウォータジャケットスペーサ10の外周面とウォータジャケット6の外側の壁面との間に外周通路13を形成している。
【0041】
したがって、ウォータジャケットスペーサ10は、ベース部17がウォータジャケット6の下方に位置することで、温度の上昇し難い燃焼室5から離れたピストン23の下死点側の冷却水の流量を少なくし、ウォータジャケット6の上方側が解放されることで、温度の上昇し易い燃焼室5に近いピストン23の上死点側の冷却水の流量を大きくするようにウォータジャケット6内の冷却水を整流するようになっている。
また、シリンダライナ3a〜3cは、ボア間領域14を有しており、このボア間領域14は、複数のシリンダボア4a〜4cの境界近傍から構成されている。
【0042】
このボア間領域14は、シリンダライナ3a〜3cの連結部がシリンダボア4a〜4cの延在方向中心線に向かってくびれたくびれ部15a〜15dを構成している。本実施の形態では、くびれ部15a〜15dがボア間領域14に対応しており、このくびれ部15a〜15dは、内周通路12の断面積が大きく熱が溜まり易くなっている。
【0043】
また、図2、図3、図5に示すように、ウォータジャケットスペーサ10の円筒部11aには入口切欠き部16が形成されており、この入口切欠き部16は、供給通路8に対向する部位に形成されている。この入口切欠き部16は、ウォータポンプ7から供給通路8を介してウォータジャケット6に導入された冷却水を内周通路12に導入し易くする機能を有している。
【0044】
また、図2、図3に示すように、ウォータジャケットスペーサ10のベース部17には凸部18a〜18dが形成されており、この凸部18a〜18dは、くびれ部15a〜15dに対向する円筒部11a〜11cの接続部に形成されている。この凸部18a、18bは、くびれ部15a〜15d側に突出しており、この凸部18a〜18dによってくびれ部15a〜15dと凸部18a〜18dとの間の内周通路12の断面積が小さく絞られている。
【0045】
また、図1、図2、図4〜図6に示すように、ベース部17の上端17aには案内部としての突出片19〜22が形成されており、この突出片19〜22は、凸部18a〜18dの上方に連続するようにして凸部18a〜18dから上方に突出している。
すなわち、本実施の形態では、ベース部17の上端17aと凸部18a〜18dの上端は同一面上に位置している。突出片19〜22の上端は、ウォータジャケット6の開口端近傍に位置している(図9(a)は、突出片19のみを示す)。なお、突出片19〜22の上端は、ウォータジャケット6の開口端に位置してしてもよい。
【0046】
このように本実施の形態のウォータジャケットスペーサ10は、くびれ部15a〜15bに対向する位置に凸部18a〜18dおよび突出片19〜22を有しているため、内周通路12を流通する冷却水は、凸部18a〜18dおよび突出片19〜22によってくびれ部15a〜15dに案内される。
【0047】
また、本実施の形態では、入口切欠き部16からウォータジャケット6に導入された冷却水は、円筒部11aの一側面側、円筒部11bの一側面側および円筒部11cの一側面側の順に流通するため、突出片19とくびれ部15aの間の隙間に対して、突出片20とくびれ部15bの間の隙間が小さくなっている。
【0048】
これは、冷却水の上流側の突出片19とくびれ部15aの間の隙間が小さいと冷却水の圧力損失が大きくなって、下流側に冷却水が効率よく流通しないため、冷却水の上流側の突出片19とくびれ部15aの間の隙間を大きくして冷却水の圧力損失を小さくして下流側に冷却水が効率よく流通させるためである。
【0049】
一方、図1、図3、図4、図7、図9(b)に示すように、突出片19には切欠き部19aが形成されており、この切欠き部19aは、冷却水の流通方向下流側に形成されている。このため、突出片19の下流側において、切欠き部19aによって外周通路13と内周通路12とが連通される。
【0050】
このように構成されたエンジンの冷却構造1にあっては、ウォータポンプ7から供給通路8を通してウォータジャケット6に導入された冷却水の一部は、外周通路13に流入されるとともに、残りの冷却水は、入口切欠き部16およびウォータジャケットスペーサ10の下方から内周通路12に流入される。
【0051】
そして、燃焼室5に近いピストン23の上死点側では、ウォータジャケットスペーサ10の存在しないウォータジャケット6内を流量の大きな冷却水が流通し、燃焼室5から離れたピストン23の下死点側では、内周通路12内を少ない流量の冷却水が流通する。
【0052】
この冷却水は、図1に矢印Wで示すように、円筒部11a、円筒部11bおよび円筒部11cの一側面側から円筒部11c、円筒部11bおよび円筒部11cの他側面側を流通してシリンダライナ3a〜3cを冷却しながらガスケット孔9aを通してシリンダヘッドに導入される。
【0053】
このため、ピストン23の上死点側では、冷却水が、冷却に必要な流量、流速で流れ、シリンダライナ3a〜3cのピストン23の上死点側を適切に冷却する。また、ピストン23の下死点側では、内周通路12によって少ない流量で流速が増大する冷却水によってシリンダライナ3a〜3cの下部が冷却される。このため、シリンダライナ3a〜3cの下部は、過冷却されることなく、最適な温度に冷却されるため、ピストン23のフリクションを低減させることができ、燃費を向上させることができる。
【0054】
一方、凸部18a〜18dおよび突出片19〜22によって内周通路12を流通する冷却水がくびれ部15a〜15dに案内されるため、熱の溜まり易いくびれ部15a〜15dが冷却される。
【0055】
特に、ベース部17から上方に突出片19〜22を設け、この突出片19〜22の上端をウォータジャケット6の開口端近傍まで突出させているため、燃焼室5に近いピストン23の上死点側の高温のくびれ部15a〜15dを冷却することができる。
【0056】
ここで、エンジンの冷却構造1にあっては、ウォータジャケット6に対するウォータジャケットスペーサ10の組み付け性の向上を図ることや、ウォータジャケットスペーサ10とウォータジャケット6の寸法のバラツキを吸収するため等の理由によって、ウォータジャケット6とウォータジャケットスペーサ10との間にウォータジャケット6の全周に亘って隙間を確保する必要がある。
【0057】
このようにウォータジャケット6とウォータジャケットスペーサ10との間にウォータジャケット6の全周に亘って隙間を形成すると、ウォータジャケット6内に流通する冷却水の流量の変化等によって、ウォータジャケット6内においてウォータジャケットスペーサ10がシリンダライナ3a〜3cに近接する位置と離隔する位置との間で移動してしまう。
【0058】
特に、ウォータポンプ7は、エンジンのクランクシャフトに連結されていることから、回転数が上昇してウォータポンプ7からウォータジャケット6に導入される冷却水の流量が増大するため、エンジン回転数(ウォータポンプ7の回転数)が増大する程、ウォータジャケットスペーサ10が移動し易くなり、本実施の形態では、突出片19とくびれ部15aとの隙間がくびれ部15bと突出片20との隙間よりも大きいため、突出片19がくびれ部15aに対して近接および離隔する量が大きくなる。
【0059】
本実施の形態では、ウォータジャケットスペーサ10がウォータジャケット6内でくびれ部15aに近接する位置に移動した場合には、図10に示すように、ウォータジャケットスペーサ10とくびれ部15aの隙間、すなわち、内周通路12の断面積が小さくなるため、内周通路12を流通する冷却水W2の流速を増大させて突出片19によってくびれ部15aに供給することができる。
【0060】
このため、くびれ部15aの冷却速度(単位時間当たりの熱移動量)を増大させることができ、熱の溜まり易いくびれ部15aを充分に冷却することができる。
【0061】
一方、ウォータジャケットスペーサ10がウォータジャケット6内でくびれ部15aから離隔する位置に移動した場合には、ウォータジャケットスペーサ10とくびれ部15aの間の隙間、すなわち、内周通路12の断面積が大きくなるため、内周通路12を流通する冷却水の流速が減少し、くびれ部15aの冷却速度が低下するが、このときに外周通路13の断面積が減少するため、外周通路13を流通する冷却水の流速が増大する。
【0062】
本実施の形態では、ウォータジャケットスペーサ10に、内周通路12を流通する冷却水をくびれ部15aに案内する突出片19を設け、突出片19の冷却水の流通方向下流側に、外周通路13と内周通路12とを連通する切欠き部19aを形成したので、図11に示すように、外周通路13を流通する冷却水W3を、切欠き部19aを通して内周通路12に供給することができる。このため、くびれ部15aの冷却速度を増大させることができ、くびれ部15aを充分に冷却することができる。
【0063】
このように本実施の形態では、ウォータジャケットスペーサ10がウォータジャケット6内でシリンダボア4a〜4cに対して近接する位置とシリンダボア4a〜4cから離隔する位置の何れに移動した場合であっても、くびれ部15aを充分に冷却することができ、シリンダボア4a〜4cの冷却性能を向上させることができる。
【0064】
また、本実施の形態では、ウォータジャケットスペーサ10を従来のようにボルトや膨潤部材を用いてウォータジャケット6内に固定することなく、くびれ部15aを充分に冷却することができるため、ウォータジャケットスペーサ10の取付け作業の作業性を向上させることができるとともに、ウォータジャケットスペーサ10の製造コストが増大するのを防止することができる。
【0065】
なお、くびれ部15b〜15dと突出片20〜22との隙間は、予め小さく形成されているため、ウォータジャケット6内においてウォータジャケットスペーサ10がシリンダライナ3a〜3cから離隔する位置に移動した場合に、くびれ部15b〜15dと突出片20〜22との隙間がくびれ部15aと突出片19との隙間に比べて大きくならないため、突出片20〜22によってくびれ部15b〜15dに冷却水を案内させるだけで充分な冷却性能を確保することができる。
【0066】
また、本実施の形態では、突出片19を、ベース部17の上端からウォータジャケット6の開口端近傍に突出させ、突出片19の冷却水の流通方向下流側に切欠き部19aを形成した、すなわち、突出片19および切欠き部19aをウォータジャケットスペーサ10の上部に設けたので、燃焼室5に近いピストン23の上死点側のくびれ部15aに、突出片19によって冷却水を導入することができる。このため、ウォータジャケットスペーサ10がウォータジャケット6内でシリンダボア4a〜4cに対して近接する位置とシリンダボア4a〜4cから離隔する位置の何れに移動した場合であっても、燃焼室5に近い高温のくびれ部15aを充分に冷却することができ、シリンダボア4a〜4cの冷却性能を向上させることができる。
【0067】
また、本実施の形態では、くびれ部15a〜15dに対向するベース部17の上部に突出片19〜22を設けて燃焼室5に近いくびれ部15a〜15dに優先的に冷却水を供給するようにしたので、くびれ部15a〜15d以外の燃焼室5に近い領域に突出片19〜22を設けないようにすれば、高温の燃焼室5に近いシリンダライナ3a〜3cの上部に供給される冷却水の流量を多くして高温のシリンダライナ3a〜3cの上部を冷却して、燃焼室5から離れたシリンダライナ3a〜3cの下部とシリンダライナ3a〜3cの上部との温度勾配が大きくなるのを抑制することができ、シリンダライナ3a〜3cの冷却性能をより一層向上させることができる。
【0068】
なお、本実施の形態では、エンジンの冷却構造1を直列3気筒エンジンに適用しているが、直列4気筒以上のエンジンに適用してもよい。また、直列エンジンに限らず、図12に示すように、V型エンジン31の右バンク32および左バンク33に形成されたシリンダライナ34a〜34c、35a〜35cの周囲を取り囲むウォータジャケット36、37に上述したウォータジャケットスペーサ10を収納してもよい。
【0069】
また、切欠き部19aを突出片19のみに形成しているが、突出片20〜22に形成してもよい。要は、この切欠き部は、ウォータジャケット6内を流通する冷却水の流速や流量等の冷却水の流れに応じてくびれ部15a〜15dを効率よく冷却できるように、突出板に冷却水の流通方向下流側に形成されればよい。
【0070】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0071】
以上のように、本発明に係る内燃機関の冷却構造は、スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに対して近接および離隔するように移動した場合であっても、ボア間領域を充分に冷却することができ、シリンダボアの冷却性能を向上させることができるという効果を有し、内部がスペーサで区画されるウォータジャケットを用いてシリンダライナの冷却を行う内燃機関の冷却構造等として有用である。
【符号の説明】
【0072】
1 エンジンの冷却構造
3 シリンダライナ
3a〜3c シリンダライナ
4a〜4c シリンダボア
6 ウォータジャケット
10 ウォータジャケットスペーサ(スペーサ)
12 内周通路
13 外周通路
14 ボア間領域
15a〜15d くびれ部
19〜22 突出片(案内部)
19a 切欠き部
34a〜34c シリンダライナ
36、37 ウォータジャケット
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の冷却構造に関し、特に、内部がスペーサで区画されるウォータジャケットを用いてシリンダライナの冷却を行う内燃機関の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両に搭載される内燃機関のシリンダブロックは、内部にピストンを摺動自在に収納するシリンダボアが形成されたシリンダライナと、このシリンダライナの外周を取り囲むように形成されたウォータジャケットとを備えており、ウォータジャケット内に冷却水を循環させることによって、シリンダライナの冷却を行うようにしている。
【0003】
ところで、シリンダライナは、ピストンの往復動でもたらされる燃焼サイクルにより、燃焼室に近いピストン上死点側は、燃焼行程の燃焼熱を直接的に受けるために温度が上昇し易い反面、燃焼室から離れるピストン下死点側は、温度が上昇し難い。このため、シリンダライナの高さ方向において温度勾配が生じる。
【0004】
そこで、従来から、ウォータジャケットの形状を適宜変更する等により、シリンダライナの各部位の温度勾配の是正を図るようにしている。例えば、ウォータジャケットの下部側に、ウォータジャケットの流路幅を狭くするためのウォータジャケットスペーサを配設するようにした内燃機関の冷却構造では、ウォータジャケットの下部側で冷却水の流量が制限されるようになる。すなわち、シリンダライナの上部と比較して低温となるシリンダの下部の冷却が抑制されるようになるため、シリンダライナの各部位の温度勾配を均一にすることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ところで、シリンダライナは、シリンダボアが隣接するシリンダボアの境界近傍に位置するボア間領域を有しており、シリンダボアはこのボア間領域に切込み(くびれ)が形成されているため、このボア間領域が充分に冷却されないことがある。
【0006】
その理由として、冷却水は流れの慣性を有するため、ボア間領域の切込みの深い部分には充分な流量が供給されず、ボア間領域で冷却水の澱みが生じるためと考えられる。また、ボア間領域では冷却水通路の断面積が大きいため、流速が低下し、充分な冷却が行われないことが考えられる。すなわち、ボア間領域では、充分な流量の冷却水が供給されないため、冷却不足となることがある。
【0007】
このような不具合を解消するものとして、シリンダライナのボア間領域とウォータジャケットスペーサとの隙間の断面積を、ボア間領域以外でのシリンダボアの外周部とウォータジャケットスペーサとの隙間の断面積よりも小さくすることにより、ボア間領域においてウォータジャケットスペーサとシリンダボアとの間で流速を大きくして、熱が溜まり易いボア間領域を充分に冷却することができるようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
また、特許文献2では、ウォータジャケットスペーサにボア間領域に冷却水を導くフィンを設け、熱の溜まり易いボア間領域に、フィンにより積極的に冷却水を導入することによって、ボア間領域を充分に冷却することができるようにしたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−262155号公報
【特許文献2】特開2005−291005号公報
【特許文献3】特開2002−266695号公報
【特許文献4】特開2007−71039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような従来の内燃機関の冷却構造にあっては、ウォータジャケットに対するウォータジャケットスペーサの組み付け性の向上を図ることや、ウォータジャケットスペーサとウォータジャケットの寸法のバラツキを吸収するため等の理由によって、ウォータジャケットとウォータジャケットスペーサとの間にウォータジャケットの全周に亘って隙間を確保する必要がある。
【0010】
しかしながら、このようにウォータジャケットとウォータジャケットスペーサとの間にウォータジャケットの全周に亘って隙間を形成すると、ウォータジャケット内に流通する冷却水の流量の変化等によって、ウォータジャケット内においてウォータジャケットスペーサがシリンダライナに近接する位置と離隔する位置との間で移動してしまう。
【0011】
そして、ウォータジャケットスペーサがシリンダボアから離隔する方向に移動した場合に、ウォータジャケットスペーサとシリンダボアとの隙間、すなわち、内周通路の断面積が大きくなって内周通路を流通する冷却水の流速が低下してしまい、熱が溜まり易いボア間領域に充分な量の冷却水を供給することが困難となってしまった。
このため、ボア間領域を充分に冷却することができず、シリンダライナの冷却性能が低下してしまうことになる。
【0012】
このような不具合を解消するためには、ウォータジャケットスペーサが移動しないようにするために、ウォータジャケットスペーサをウォータジャケット内で固定するようにすればよい。
このようにウォータジャケットスペーサをウォータジャケット内に固定するものとしては、シリンダブロックの外方からシリンダブロックおよびウォータジャケットにボルトを挿通し、このボルトをウォータジャケットスペーサに螺合させることにより、ウォータジャケットスペーサをウォータジャケット内に固定するものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
また、ウォータジャケットスペーサに冷却水によって膨潤される膨潤部材を設け、膨潤部材をシリンダライナとウォータジャケットスペーサの隙間を埋めるように膨潤させることにより、ウォータジャケットスペーサをウォータジャケットに固定するようにしたものが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0013】
しかしながら、特許文献3に記載されたものは、ボルトによってウォータジャケットスペーサをウォータジャケット内に固定するようにしているため、ウォータジャケットスペーサの取付け作業が面倒であるという問題が発生してしまう。
【0014】
また、特許文献4に記載されたものは、ウォータジャケットスペーサに膨潤部材を設ける必要があるため、ウォータジャケットスペーサの製造コストが増大してしまうという問題が発生してしまう。
【0015】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに対して近接および離隔するように移動した場合であっても、ボア間領域を充分に冷却することができ、シリンダボアの冷却性能を向上させることができる内燃機関の冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る内燃機関の冷却構造は、上記目的を達成するため、(1)隣接して設けられ、それぞれの内部にシリンダボアが形成される複数のシリンダライナと、前記シリンダライナの周囲を取り囲むように形成され、冷却水が流通するウォータジャケットと、前記ウォータジャケット内に前記シリンダライナを取り囲むようにして収納され、前記ウォータジャケット内を前記シリンダライナ側に位置する内周通路と前記内周通路の外方に位置する外周通路とに区画するスペーサとを備え、前記シリンダボアが、隣接する前記シリンダボアの境界近傍に位置するボア間領域を有する内燃機関の冷却構造において、前記スペーサは、前記内周通路を流通する冷却水を前記ボア間領域に案内する案内部を有し、少なくとも1つ以上の前記案内部の冷却水の流通方向下流側に、前記外周通路と前記内周通路とを連通する切欠き部が形成されるものから構成されている。
【0017】
この構成により、スペーサが、内周通路を流通する冷却水をボア間領域に案内する案内部を有するので、スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに近接する位置に移動した場合には、スペーサとシリンダボアとの間の隙間、すなわち、内周通路の断面積が小さくなるため、内周通路を流通する冷却水の流速を増大させて案内部によってシリンダボアのボア間領域に供給することができる。
【0018】
このため、ボア領域の冷却速度(単位時間当たりの熱移動量)を増大させることができ、熱の溜まり易いボア間領域を充分に冷却することができる。
【0019】
また、スペーサが、案内部の冷却水の流通方向下流側に、外周通路と内周通路とを連通する切欠き部を有するので、スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアから離隔する位置に移動した場合には、スペーサとシリンダボアとの間の隙間、すなわち、内周通路の断面積が大きくなるため、内周通路を流通する冷却水の流速が減少し、ボア領域の冷却速度が低下するが、このときに外周通路の断面積が減少するため、外周通路を流通する冷却水の流速が増大する。この外周通路を流通する冷却水は、切欠き部を通して内周通路に供給されるため、ボア領域の冷却速度を増大させることができ、ボア間領域を充分に冷却することができる。
【0020】
このようにスペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに対して近接する位置とシリンダボアから離隔する位置の何れに移動した場合であっても、ボア間領域を充分に冷却することができ、シリンダボアの冷却性能を向上させることができる。
【0021】
また、スペーサを従来のようにボルトや膨潤部材を用いてウォータジャケット内に固定することなく、ボア間領域を充分に冷却することができるため、スペーサの取付け作業の作業性を向上させることができるとともに、スペーサの製造コストが増大するのを防止することができる。
【0022】
上記(1)に記載の内燃機関の冷却構造において、(2)前記案内部が、前記スペーサの上部に設けられるものから構成されている。
【0023】
この構成により、案内部がスペーサの上部に設けられるので、燃焼室に近いピストン上死点側のピストンライナのボア間領域に、案内部によって冷却水を導入することができる。このため、スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに対して近接する位置とシリンダボアから離隔する位置の何れに移動した場合であっても、燃焼室に近い高温のボア間領域を充分に冷却することができ、シリンダボアの冷却性能を向上させることができる。
【0024】
上記(2)に記載の内燃機関の冷却構造において、(3)前記案内部が、前記スペーサの上端から前記ウォータジャケットの上端近傍に突出する突出片から構成され、冷却水の流通方向下流側に前記切欠き部が形成されるものから構成されている。
【0025】
この構成により、案内部を、スペーサの上端からウォータジャケットの上端近傍に突出する突出片から構成し、冷却水の流通方向下流側に切欠き部を形成したので、燃焼室に近いピストン上死点側のピストンライナのボア間領域に、案内部によって冷却水を導入することができる。このため、スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに対して近接する位置とシリンダボアから離隔する位置の何れに移動した場合であっても、燃焼室に近い高温のボア間領域を充分に冷却することができ、シリンダボアの冷却性能を向上させることができる。
【0026】
また、ボア間領域に対向するスペーサの上部に案内部を設けて燃焼室に近いボア間領域に優先的に冷却水を供給するようにしたので、ボア間領域以外の燃焼室に近い領域に案内部を設けないようにすれば、高温の燃焼室に近いシリンダライナの上部に供給される冷却水の流量を多くして高温のシリンダライナの上部を冷却して、燃焼室から離れたシリンダライナの下部とシリンダライナの上部との温度勾配が大きくなるのを抑制することができ、シリンダライナの冷却性能をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに対して近接および離隔するように移動した場合であっても、ボア間領域を充分に冷却することができ、シリンダボアの冷却性能を向上させることができる内燃機関の冷却構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、内燃機関の冷却構造を備えたシリンダブロックの上面図である。
【図2】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、ウォータジャケットスペーサの斜視図である。
【図3】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、切欠き部を有する突出片側から見たウォータジャケットスペーサの要部斜視図である。
【図4】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、ウォータジャケットスペーサとウォータジャケットの位置関係を示す図である。
【図5】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、図4のウォータジャケットスペーサのD方向矢視側面図である。
【図6】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、図4のウォータジャケットスペーサのE方向矢視側面図である。
【図7】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、切欠き部を有する突出板部分のウォータジャケットスペーサの構成図である。
【図8】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、図1のA−A方向矢視断面図である。
【図9】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、(a)は、図1のB−B方向矢視断面図、(b)は、図1のC−C方向矢視断面図である。
【図10】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、ウォータジャケットスペーサがくびれ部側に位置したときの冷却水の流れを示す図である。
【図11】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、ウォータジャケットスペーサがくびれ部から離隔した位置にあるときの冷却水の流れを示す図である。
【図12】本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図であり、他の構造の内燃機関の冷却構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る内燃機関の冷却構造の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1〜図12は、本発明に係る内燃機関の冷却構造の一実施の形態を示す図である。
まず、構成を説明する。
図1において、内燃機関としてのエンジンの冷却構造1は、シリンダブロック2を冷却媒体としての冷却水により冷却するものであり、エンジンとしては、水冷のレシプロ式多気筒エンジン、例えば直列3気筒のレシプロエンジンから構成され、このレシプロエンジンがシリンダブロック2を有している。
【0030】
シリンダブロック2には、例えば、3つのシリンダライナ3a〜3cが隣接するようにして連続して並べて構成されており、このシリンダライナ3a〜3cの内部にシリンダボア4a〜4cが形成されている。したがって、シリンダボア4a〜4cは、直列に並べられるようになっている。
【0031】
なお、シリンダブロック2は、アルミニウム合金から構成されており、ダイキャスト等によって成形されている。また、シリンダライナ3a〜3cは、鋳鉄と鋳鉄を取り囲むアルミニウム合金等から構成されている。また、シリンダブロック2およびシリンダライナ3a〜3cを鋳鉄から構成してもよい。
【0032】
シリンダボア4a〜4c内には、それぞれピストン23(図8参照)が上下方向に往復動自在に収納されており、シリンダボア4a〜4cの上方にはそれぞれ燃焼室5が形成されている(図8参照)。
【0033】
また、シリンダブロック2の上部には吸気・排気ポート、吸気・排気側の動弁機構、点火プラグ、インジェクタ(何れも図示せず)等が設けられた図示しないシリンダヘッドが搭載されている。そして、往復動するピストン23により、図示しないクランクシャフトから軸出力が変速機側に出力されるようにしている。
【0034】
また、シリンダブロック2にはウォータジャケット6が形成されており、このウォータジャケット6は、シリンダライナ3a〜3cを取り囲む所定幅の溝部から形成されている。すなわち、ウォータジャケット6は、シリンダライナ3a〜3cの外周面とシリンダブロック2の内周面との間に形成された溝部から構成されている。
【0035】
また、シリンダブロック2の側面にはウォータポンプ7が設けられており、このウォータポンプ7は、図示しないラジエータから配管を通して冷却水をシリンダブロック2に形成された供給通路8を通してウォータジャケット6に導入するようになっている。このウォータジャケット6に導入された冷却水は、ウォータジャケット6を流通しながらシリンダライナ3a〜3cを冷却するようになっている。
【0036】
また、シリンダブロック2とシリンダヘッドの間にはウォータジャケット6の上部開口端を閉塞するようにガスケット9が設けられており(図8、図9参照)、ウォータジャケット6を流通してシリンダライナ3a〜3cから熱を奪った冷却水は、ガスケット9に設けられたガスケット孔9aを通して(図1にガスケット孔9aを仮想線で示す)、シリンダヘッドに導入されるようになっている。
【0037】
また、シリンダヘッドには冷却水の排出通路が設けられており、シリンダヘッドに導入された冷却水は、シリンダヘッドを冷却した後、排出口から排出され、図示しない配管を通してラジエータに送出されるようになっている。
【0038】
ウォータジャケット6の内部には、シリンダライナ3a〜3cを取り囲むようにスペーサとしてのウォータジャケットスペーサ10が収納されており、このウォータジャケットスペーサ10は、図1に示すように、ウォータジャケット6の厚み方向中間部を占める外形を有する合成樹脂製の枠形部品から構成されている。
【0039】
具体的にはウォータジャケットスペーサ10は、図2、図4に示すように、シリンダライナ3a〜3cの外径形状に沿った円筒部11a〜11cが隣接するように連続的に形成されており、この円筒部11a〜11cは、ウォータジャケット6の高さの2/3程度の高さに形成されベース部17(図2、図8参照)を有している。
【0040】
図2、図8、図9に示すように、このベース部17は、ウォータジャケット6内において、シリンダライナ3a〜3cの外周面とウォータジャケットスペーサ10の内周面との間に内周通路12を形成し、内周通路12の外方のウォータジャケットスペーサ10の外周面とウォータジャケット6の外側の壁面との間に外周通路13を形成している。
【0041】
したがって、ウォータジャケットスペーサ10は、ベース部17がウォータジャケット6の下方に位置することで、温度の上昇し難い燃焼室5から離れたピストン23の下死点側の冷却水の流量を少なくし、ウォータジャケット6の上方側が解放されることで、温度の上昇し易い燃焼室5に近いピストン23の上死点側の冷却水の流量を大きくするようにウォータジャケット6内の冷却水を整流するようになっている。
また、シリンダライナ3a〜3cは、ボア間領域14を有しており、このボア間領域14は、複数のシリンダボア4a〜4cの境界近傍から構成されている。
【0042】
このボア間領域14は、シリンダライナ3a〜3cの連結部がシリンダボア4a〜4cの延在方向中心線に向かってくびれたくびれ部15a〜15dを構成している。本実施の形態では、くびれ部15a〜15dがボア間領域14に対応しており、このくびれ部15a〜15dは、内周通路12の断面積が大きく熱が溜まり易くなっている。
【0043】
また、図2、図3、図5に示すように、ウォータジャケットスペーサ10の円筒部11aには入口切欠き部16が形成されており、この入口切欠き部16は、供給通路8に対向する部位に形成されている。この入口切欠き部16は、ウォータポンプ7から供給通路8を介してウォータジャケット6に導入された冷却水を内周通路12に導入し易くする機能を有している。
【0044】
また、図2、図3に示すように、ウォータジャケットスペーサ10のベース部17には凸部18a〜18dが形成されており、この凸部18a〜18dは、くびれ部15a〜15dに対向する円筒部11a〜11cの接続部に形成されている。この凸部18a、18bは、くびれ部15a〜15d側に突出しており、この凸部18a〜18dによってくびれ部15a〜15dと凸部18a〜18dとの間の内周通路12の断面積が小さく絞られている。
【0045】
また、図1、図2、図4〜図6に示すように、ベース部17の上端17aには案内部としての突出片19〜22が形成されており、この突出片19〜22は、凸部18a〜18dの上方に連続するようにして凸部18a〜18dから上方に突出している。
すなわち、本実施の形態では、ベース部17の上端17aと凸部18a〜18dの上端は同一面上に位置している。突出片19〜22の上端は、ウォータジャケット6の開口端近傍に位置している(図9(a)は、突出片19のみを示す)。なお、突出片19〜22の上端は、ウォータジャケット6の開口端に位置してしてもよい。
【0046】
このように本実施の形態のウォータジャケットスペーサ10は、くびれ部15a〜15bに対向する位置に凸部18a〜18dおよび突出片19〜22を有しているため、内周通路12を流通する冷却水は、凸部18a〜18dおよび突出片19〜22によってくびれ部15a〜15dに案内される。
【0047】
また、本実施の形態では、入口切欠き部16からウォータジャケット6に導入された冷却水は、円筒部11aの一側面側、円筒部11bの一側面側および円筒部11cの一側面側の順に流通するため、突出片19とくびれ部15aの間の隙間に対して、突出片20とくびれ部15bの間の隙間が小さくなっている。
【0048】
これは、冷却水の上流側の突出片19とくびれ部15aの間の隙間が小さいと冷却水の圧力損失が大きくなって、下流側に冷却水が効率よく流通しないため、冷却水の上流側の突出片19とくびれ部15aの間の隙間を大きくして冷却水の圧力損失を小さくして下流側に冷却水が効率よく流通させるためである。
【0049】
一方、図1、図3、図4、図7、図9(b)に示すように、突出片19には切欠き部19aが形成されており、この切欠き部19aは、冷却水の流通方向下流側に形成されている。このため、突出片19の下流側において、切欠き部19aによって外周通路13と内周通路12とが連通される。
【0050】
このように構成されたエンジンの冷却構造1にあっては、ウォータポンプ7から供給通路8を通してウォータジャケット6に導入された冷却水の一部は、外周通路13に流入されるとともに、残りの冷却水は、入口切欠き部16およびウォータジャケットスペーサ10の下方から内周通路12に流入される。
【0051】
そして、燃焼室5に近いピストン23の上死点側では、ウォータジャケットスペーサ10の存在しないウォータジャケット6内を流量の大きな冷却水が流通し、燃焼室5から離れたピストン23の下死点側では、内周通路12内を少ない流量の冷却水が流通する。
【0052】
この冷却水は、図1に矢印Wで示すように、円筒部11a、円筒部11bおよび円筒部11cの一側面側から円筒部11c、円筒部11bおよび円筒部11cの他側面側を流通してシリンダライナ3a〜3cを冷却しながらガスケット孔9aを通してシリンダヘッドに導入される。
【0053】
このため、ピストン23の上死点側では、冷却水が、冷却に必要な流量、流速で流れ、シリンダライナ3a〜3cのピストン23の上死点側を適切に冷却する。また、ピストン23の下死点側では、内周通路12によって少ない流量で流速が増大する冷却水によってシリンダライナ3a〜3cの下部が冷却される。このため、シリンダライナ3a〜3cの下部は、過冷却されることなく、最適な温度に冷却されるため、ピストン23のフリクションを低減させることができ、燃費を向上させることができる。
【0054】
一方、凸部18a〜18dおよび突出片19〜22によって内周通路12を流通する冷却水がくびれ部15a〜15dに案内されるため、熱の溜まり易いくびれ部15a〜15dが冷却される。
【0055】
特に、ベース部17から上方に突出片19〜22を設け、この突出片19〜22の上端をウォータジャケット6の開口端近傍まで突出させているため、燃焼室5に近いピストン23の上死点側の高温のくびれ部15a〜15dを冷却することができる。
【0056】
ここで、エンジンの冷却構造1にあっては、ウォータジャケット6に対するウォータジャケットスペーサ10の組み付け性の向上を図ることや、ウォータジャケットスペーサ10とウォータジャケット6の寸法のバラツキを吸収するため等の理由によって、ウォータジャケット6とウォータジャケットスペーサ10との間にウォータジャケット6の全周に亘って隙間を確保する必要がある。
【0057】
このようにウォータジャケット6とウォータジャケットスペーサ10との間にウォータジャケット6の全周に亘って隙間を形成すると、ウォータジャケット6内に流通する冷却水の流量の変化等によって、ウォータジャケット6内においてウォータジャケットスペーサ10がシリンダライナ3a〜3cに近接する位置と離隔する位置との間で移動してしまう。
【0058】
特に、ウォータポンプ7は、エンジンのクランクシャフトに連結されていることから、回転数が上昇してウォータポンプ7からウォータジャケット6に導入される冷却水の流量が増大するため、エンジン回転数(ウォータポンプ7の回転数)が増大する程、ウォータジャケットスペーサ10が移動し易くなり、本実施の形態では、突出片19とくびれ部15aとの隙間がくびれ部15bと突出片20との隙間よりも大きいため、突出片19がくびれ部15aに対して近接および離隔する量が大きくなる。
【0059】
本実施の形態では、ウォータジャケットスペーサ10がウォータジャケット6内でくびれ部15aに近接する位置に移動した場合には、図10に示すように、ウォータジャケットスペーサ10とくびれ部15aの隙間、すなわち、内周通路12の断面積が小さくなるため、内周通路12を流通する冷却水W2の流速を増大させて突出片19によってくびれ部15aに供給することができる。
【0060】
このため、くびれ部15aの冷却速度(単位時間当たりの熱移動量)を増大させることができ、熱の溜まり易いくびれ部15aを充分に冷却することができる。
【0061】
一方、ウォータジャケットスペーサ10がウォータジャケット6内でくびれ部15aから離隔する位置に移動した場合には、ウォータジャケットスペーサ10とくびれ部15aの間の隙間、すなわち、内周通路12の断面積が大きくなるため、内周通路12を流通する冷却水の流速が減少し、くびれ部15aの冷却速度が低下するが、このときに外周通路13の断面積が減少するため、外周通路13を流通する冷却水の流速が増大する。
【0062】
本実施の形態では、ウォータジャケットスペーサ10に、内周通路12を流通する冷却水をくびれ部15aに案内する突出片19を設け、突出片19の冷却水の流通方向下流側に、外周通路13と内周通路12とを連通する切欠き部19aを形成したので、図11に示すように、外周通路13を流通する冷却水W3を、切欠き部19aを通して内周通路12に供給することができる。このため、くびれ部15aの冷却速度を増大させることができ、くびれ部15aを充分に冷却することができる。
【0063】
このように本実施の形態では、ウォータジャケットスペーサ10がウォータジャケット6内でシリンダボア4a〜4cに対して近接する位置とシリンダボア4a〜4cから離隔する位置の何れに移動した場合であっても、くびれ部15aを充分に冷却することができ、シリンダボア4a〜4cの冷却性能を向上させることができる。
【0064】
また、本実施の形態では、ウォータジャケットスペーサ10を従来のようにボルトや膨潤部材を用いてウォータジャケット6内に固定することなく、くびれ部15aを充分に冷却することができるため、ウォータジャケットスペーサ10の取付け作業の作業性を向上させることができるとともに、ウォータジャケットスペーサ10の製造コストが増大するのを防止することができる。
【0065】
なお、くびれ部15b〜15dと突出片20〜22との隙間は、予め小さく形成されているため、ウォータジャケット6内においてウォータジャケットスペーサ10がシリンダライナ3a〜3cから離隔する位置に移動した場合に、くびれ部15b〜15dと突出片20〜22との隙間がくびれ部15aと突出片19との隙間に比べて大きくならないため、突出片20〜22によってくびれ部15b〜15dに冷却水を案内させるだけで充分な冷却性能を確保することができる。
【0066】
また、本実施の形態では、突出片19を、ベース部17の上端からウォータジャケット6の開口端近傍に突出させ、突出片19の冷却水の流通方向下流側に切欠き部19aを形成した、すなわち、突出片19および切欠き部19aをウォータジャケットスペーサ10の上部に設けたので、燃焼室5に近いピストン23の上死点側のくびれ部15aに、突出片19によって冷却水を導入することができる。このため、ウォータジャケットスペーサ10がウォータジャケット6内でシリンダボア4a〜4cに対して近接する位置とシリンダボア4a〜4cから離隔する位置の何れに移動した場合であっても、燃焼室5に近い高温のくびれ部15aを充分に冷却することができ、シリンダボア4a〜4cの冷却性能を向上させることができる。
【0067】
また、本実施の形態では、くびれ部15a〜15dに対向するベース部17の上部に突出片19〜22を設けて燃焼室5に近いくびれ部15a〜15dに優先的に冷却水を供給するようにしたので、くびれ部15a〜15d以外の燃焼室5に近い領域に突出片19〜22を設けないようにすれば、高温の燃焼室5に近いシリンダライナ3a〜3cの上部に供給される冷却水の流量を多くして高温のシリンダライナ3a〜3cの上部を冷却して、燃焼室5から離れたシリンダライナ3a〜3cの下部とシリンダライナ3a〜3cの上部との温度勾配が大きくなるのを抑制することができ、シリンダライナ3a〜3cの冷却性能をより一層向上させることができる。
【0068】
なお、本実施の形態では、エンジンの冷却構造1を直列3気筒エンジンに適用しているが、直列4気筒以上のエンジンに適用してもよい。また、直列エンジンに限らず、図12に示すように、V型エンジン31の右バンク32および左バンク33に形成されたシリンダライナ34a〜34c、35a〜35cの周囲を取り囲むウォータジャケット36、37に上述したウォータジャケットスペーサ10を収納してもよい。
【0069】
また、切欠き部19aを突出片19のみに形成しているが、突出片20〜22に形成してもよい。要は、この切欠き部は、ウォータジャケット6内を流通する冷却水の流速や流量等の冷却水の流れに応じてくびれ部15a〜15dを効率よく冷却できるように、突出板に冷却水の流通方向下流側に形成されればよい。
【0070】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0071】
以上のように、本発明に係る内燃機関の冷却構造は、スペーサがウォータジャケット内でシリンダボアに対して近接および離隔するように移動した場合であっても、ボア間領域を充分に冷却することができ、シリンダボアの冷却性能を向上させることができるという効果を有し、内部がスペーサで区画されるウォータジャケットを用いてシリンダライナの冷却を行う内燃機関の冷却構造等として有用である。
【符号の説明】
【0072】
1 エンジンの冷却構造
3 シリンダライナ
3a〜3c シリンダライナ
4a〜4c シリンダボア
6 ウォータジャケット
10 ウォータジャケットスペーサ(スペーサ)
12 内周通路
13 外周通路
14 ボア間領域
15a〜15d くびれ部
19〜22 突出片(案内部)
19a 切欠き部
34a〜34c シリンダライナ
36、37 ウォータジャケット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接して設けられ、それぞれの内部にシリンダボアが形成される複数のシリンダライナと、
前記シリンダライナの周囲を取り囲むように形成され、冷却水が流通するウォータジャケットと、
前記ウォータジャケット内に前記シリンダライナを取り囲むようにして収納され、前記ウォータジャケット内を前記シリンダライナ側に位置する内周通路と前記内周通路の外方に位置する外周通路とに区画するスペーサとを備え、
前記シリンダボアが、隣接する前記シリンダボアの境界近傍に位置するボア間領域を有する内燃機関の冷却構造において、
前記スペーサは、前記内周通路を流通する冷却水を前記ボア間領域に案内する案内部を有し、
少なくとも1つ以上の前記案内部の冷却水の流通方向下流側に、前記外周通路と前記内周通路とを連通する切欠き部が形成されることを特徴とする内燃機関の冷却構造。
【請求項2】
前記案内部が、前記スペーサの上部に設けられることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の冷却構造。
【請求項3】
前記案内部が、前記スペーサの上端から前記ウォータジャケットの上端近傍に突出する突出片から構成され、冷却水の流通方向下流側に前記切欠き部が形成されることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の冷却構造。
【請求項1】
隣接して設けられ、それぞれの内部にシリンダボアが形成される複数のシリンダライナと、
前記シリンダライナの周囲を取り囲むように形成され、冷却水が流通するウォータジャケットと、
前記ウォータジャケット内に前記シリンダライナを取り囲むようにして収納され、前記ウォータジャケット内を前記シリンダライナ側に位置する内周通路と前記内周通路の外方に位置する外周通路とに区画するスペーサとを備え、
前記シリンダボアが、隣接する前記シリンダボアの境界近傍に位置するボア間領域を有する内燃機関の冷却構造において、
前記スペーサは、前記内周通路を流通する冷却水を前記ボア間領域に案内する案内部を有し、
少なくとも1つ以上の前記案内部の冷却水の流通方向下流側に、前記外周通路と前記内周通路とを連通する切欠き部が形成されることを特徴とする内燃機関の冷却構造。
【請求項2】
前記案内部が、前記スペーサの上部に設けられることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の冷却構造。
【請求項3】
前記案内部が、前記スペーサの上端から前記ウォータジャケットの上端近傍に突出する突出片から構成され、冷却水の流通方向下流側に前記切欠き部が形成されることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の冷却構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−21508(P2011−21508A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165700(P2009−165700)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】
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