説明

内燃機関の制御装置

【課題】筒内圧検出値を絶対圧に補正する絶対圧補正の精度を向上させることが可能な内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】所定気筒のIVCから点火時期までの断熱期間中の任意の2点のクランク角θ,θの組み合わせを複数特定する特定手段と、特定された各クランク角θ,θにおける筒内圧検出値P,Pを、筒内圧センサを用いてそれぞれ検出する筒内圧検出手段と、クランク角θ,θにおける所定気筒の筒内容積をそれぞれV,Vとしたとき、絶対圧補正値(Pκ−Pκ)/(Vκ−Vκ)を、特定手段によって特定された複数のクランク角θ,θの組み合わせに対してそれぞれ演算する絶対圧補正値演算手段と、演算された複数の絶対圧補正値の平均値を取得する平均値取得手段と、当該平均値を用いて筒内圧検出値を補正する絶対圧補正手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に係り、特に、筒内圧センサが搭載された内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特開2007−146785号公報には、筒内圧センサ(以下、「CPS」とも称する)の検出値を用いて燃焼室内に吸入された空気量を算出し、この空気量を用いて点火時期を最適に決定する制御装置が提案されている。CPSは筒内圧を吸気管圧力に対する相対圧として検出する。このため、CPSの検出値を各種制御で使用するためには、この検出値を絶対圧に補正する必要がある。上記従来の制御装置では、吸気下死点後の圧縮行程中のPVκ値(κは比熱比)が理論上一定であることを利用して、その場合に成立するポアソンの関係式を用いた次式(1)により、CPS検出値の絶対圧に対する誤差(絶対圧補正値Pr)を算出することとしている。尚、次式(1)において、Pc(θ),Pc(θ)は、圧縮行程中の所定の2点のクランク角θ,θにおけるCPSの検出値であり、V(θ),V(θ)はPc(θ),Pc(θ)検出時の筒内(燃焼室)容積を示している。
絶対圧補正値Pr=(Pc(θ)・Vκ(θ)−Pc(θ)・Vκ(θ))/(Vκ(θ)−Vκ(θ)) ・・・(1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−146785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上式(1)では、断熱圧縮行程期間における2つのCPSの検出値を用いて絶対圧補正値の算出を行う。このため、例えば吸気弁の閉じ時期(IVC)を遅閉じとする場合、短い断熱圧縮行程期間内で2つのCPS検出値Pc(θ),Pc(θ)を検出することになるので、筒内容積の差(Vκ(θ)−Vκ(θ))が極端に小さくなってしまうおそれがある。この場合、上式(1)の分母がゼロに近づくこととなるため、絶対圧補正値のバラツキが大きくなってしまう。このように、内燃機関の断熱圧縮行程期間が短くなる運転条件においては、絶対圧補正値を精度よく算出することができないおそれがあり、改善が望まれていた。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、筒内圧センサによる筒内圧検出値を絶対圧に補正する絶対圧補正の精度を向上させることが可能な内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の制御装置であって、
内燃機関の所定気筒の筒内圧検出値を出力する筒内圧センサと、
前記所定気筒のIVCから点火時期までの断熱期間中の任意の2点のクランク角θ,θの組み合わせを複数特定する特定手段と、
特定された各クランク角θ,θにおける筒内圧検出値P,Pを、前記筒内圧センサを用いてそれぞれ検出する筒内圧検出手段と、
前記クランク角θにおける前記所定気筒の筒内容積をV、前記クランク角θにおける前記所定気筒の筒内容積をV、前記所定気筒の筒内ガスの比熱比をκとしたとき、前記クランク角θにおけるPVκの値Pκから前記クランク角θにおけるPVκの値Pκを減算した値に(Vκ−Vκ)を除算した値(以下、絶対圧補正値)を、前記特定手段によって特定された複数のクランク角θ,θの組み合わせに対してそれぞれ演算する絶対圧補正値演算手段と、
前記絶対圧補正値演算手段により演算された複数の絶対圧補正値の平均値を取得する平均値取得手段と、
前記平均値を用いて前記筒内圧検出値を補正する絶対圧補正手段と、
を備えることを特徴としている。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、
前記特定手段は、前記クランク角θと前記クランク角θとのクランク角差が所定のクランク角期間となるクランク角θ,θの組み合わせを複数特定することを特徴としている。
【0008】
第3の発明は、第2の発明において、
前記所定気筒の点火時期から当該所定気筒内の混合気に実際に着火されるまでの着火遅れ期間を特定する着火遅れ期間取得手段と、
IVCから点火時期までの断熱期間が前記所定のクランク角期間よりも小さい場合に、前記断熱期間を前記着火遅れ期間分拡大させる断熱期間変更手段と、
を更に備えることを特徴としている。
【0009】
第4の発明は、第3の発明において、
前記断熱期間変更手段により拡大された断熱期間において、前記特定手段により特定可能なクランク角θ,θの組み合わせの回数が所定回数よりも小さい場合に、IVCの進角動作および点火時期の遅角動作のうち少なくとも何れか一方の動作を実行する第2の断熱期間変更手段を更に備えることを特徴としている。
【0010】
第5の発明は、第1乃至第4の何れか1つの発明において、
前記絶対圧補正手段により補正された筒内圧検出値を用いて、燃焼重心位置を算出する燃焼重心位置算出手段と、
前記筒内圧検出値に基づいて、前記所定気筒の筒内圧が最大となるクランク角θPmaxを特定するクランク角特定手段と、
クランク角θPmaxと燃焼重心位置との関係を規定した規則に基づいて、前記クランク角θPmaxに対応する燃焼重心位置を推定する推定手段と、
前記絶対圧補正手段による前記筒内圧検出値の補正精度が所定の基準範囲に含まれるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記補正精度が所定の基準範囲に含まれる場合には、前記燃焼重心位置算出手段による燃焼重心位置の算出を行い、前記補正精度が所定の基準範囲に含まれない場合には、前記推定手段による燃焼重心位置の算出を行う制御手段と、
を更に備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、筒内圧センサ(CPS)によって検出された筒内圧検出値を、絶対圧補正値を用いて補正する内燃機関の制御装置において、所定気筒の吸気弁の閉弁時期(IVC)から点火時期(SA)までの断熱期間中に複数の絶対圧補正値が算出され、その平均値を用いて筒内圧検出値が絶対圧補正される。このため、本発明によれば、絶対圧補正値のバラツキを抑えることができるので、筒内圧検出値の補正精度を有効に高めることができる。
【0012】
第2の発明によれば、クランク角θとクランク角θとのクランク角差が所定のクランク角期間となるクランク角θ,θの組み合わせが複数特定される。所定のクランク角期間が大きいほど絶対圧補正値のバラツキは小さくなる。このため、本発明によれば、所定のクランク角期間を適切に設定することにより、絶対圧補正値のバラツキを所望の範囲に抑えることが可能となる。
【0013】
第3の発明によれば、筒内圧センサ(CPS)によって検出された筒内圧検出値を、絶対圧補正値を用いて補正する内燃機関の制御装置において、所定気筒の吸気弁の閉弁時期(IVC)から点火時期(SA)までの断熱期間が所定のクランク角期間よりも短い場合に、当該断熱期間が着火遅れ期間分拡大される。着火遅れ期間は断熱期間に含めても実質的に問題はない。このため、本発明によれば、ドライバビリティを損なうことなく断熱期間を有効に拡大させることができるので、クランク角θ,θの組み合わせの回数を増やして絶対圧補正値の平均値の精度を向上させることができる。
【0014】
第4の発明によれば、クランク角θ,θの組み合わせの回数が所定回数よりも小さい場合に、IVCの進角動作および点火時期の遅角動作のうち少なくとも何れか一方の動作が実行される。このため、本発明によれば、強制的に断熱期間を拡大させてクランク角θ,θの組み合わせの回数を増やすことができるので、絶対圧補正値の平均値の精度を有効に向上させることができる。
【0015】
第5の発明によれば、燃焼重心位置(CA50)の算出において、筒内圧検出値の絶対圧補正の精度が確保できる場合には、絶対圧補正後の筒内圧を用いて燃焼重心位置の演算が行われ、絶対圧補正の精度が確保できない場合には、筒内圧検出値から特定されるクランク角θPmaxを用いて燃焼重心位置(CA50)が推定される。このため、本発明によれば、絶対圧補正による補正精度の低い筒内圧値が燃焼重心位置(CA50)の演算に使用されることによる燃費の悪化等を有効に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1としてのシステム構成を説明するための概略構成図である。
【図2】内燃機関の圧縮行程における筒内圧P、筒内容積V、およびPVκ値の変化を示した図である。
【図3】クランク角CA,CAの間隔と、上式(3)の右辺との関係を示した図である。
【図4】本発明の実施の形態1において実行するルーチンを示すフローチャートである。
【図5】クランク角差ΔCAbを特定する方法を説明するための図である。
【図6】計算可能回数Ncの算出方法を説明するための図である。
【図7】絶対圧補正値の平均回数と絶対圧補正値のバラツキとの関係を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態2において実行するルーチンを示すフローチャートである。
【図9】クランク角期間と絶対圧補正値のバラツキとの関係を示す図である。
【図10】絶対圧補正値Prの算出回数と絶対圧補正値のバラツキとの関係を示す図である。
【図11】計算可能回数Nc2の算出方法を説明するための図である。
【図12】θPmaxとCA50との関係を示す図である。
【図13】クランク角に対する筒内圧変化を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態3において実行するルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1としてのシステム構成を説明するための概略構成図である。図1に示すとおり、本実施の形態のシステムは内燃機関10を備えている。内燃機関10は、ガソリンを燃料とする火花点火式の多気筒エンジンとして構成されている。内燃機関10の筒内には、その内部を往復運動するピストン12が設けられている。また、内燃機関10は、シリンダヘッド14を備えている。ピストン12とシリンダヘッド14との間には、燃焼室16が形成されている。燃焼室16には、吸気通路18および排気通路20の一端がそれぞれ連通している。吸気通路18および排気通路20と燃焼室16との連通部には、それぞれ吸気弁22および排気弁24が配置されている。
【0019】
吸気弁22には、バルブタイミングを可変制御する吸気バルブタイミング制御装置36が備えられている。本実施形態では、吸気バルブタイミング制御装置36として、クランク軸に対するカム軸(図示略)の位相角を変化させることで、作用角は一定のまま開閉タイミングを進角或いは遅角する可変バルブタイミング機構(VVT)が用いられているものとする。以下、吸気バルブタイミング制御装置36を「VVT36」と称する。
【0020】
吸気通路18の入口には、エアクリーナ26が取り付けられている。エアクリーナ26の下流には、スロットルバルブ28が配置されている。スロットルバルブ28は、アクセル開度に基づいてスロットルモータにより駆動される電子制御式のバルブである。
【0021】
シリンダヘッド14には、燃焼室16の頂部から燃焼室16内に突出するように点火プラグ30が取り付けられている。また、シリンダヘッド14には、燃料を筒内に噴射するための燃料噴射弁32が設けられている。更に、シリンダヘッド14には、各気筒の筒内圧力を検出するための筒内圧センサ(CPS)34がそれぞれ組み込まれている。
【0022】
本実施の形態のシステムは、図1に示すとおり、ECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40の入力部には、上述した筒内圧センサ34の他、クランク軸の回転位置を検知するためのクランク角センサ42等の各種センサが接続されている。また、ECU40の出力部には、上述したスロットルバルブ28、点火プラグ30、燃料噴射弁32等の各種アクチュエータが接続されている。ECU40は、入力された各種の情報に基づいて、内燃機関10の運転状態を制御する。
【0023】
[実施の形態1の動作]
(絶対圧補正の基本動作)
CPS34は、筒内の燃焼状態を直接検出することができる点で、非常に有効なセンサである。このため、該CPS34の出力は、内燃機関10の各種制御の制御パラメータとして利用される。例えば、検出された筒内圧は、筒内へ吸入された吸入空気量の算出、図示トルクの変動等の演算、発熱量PVκやMFB(燃焼質量割合)の演算等に用いられる。これらは、失火検出や最適点火時期制御などに利用される。
【0024】
但し、CPS34は、筒内圧を吸気管圧力に対する相対圧として検出する。このため、CPS34の検出値を各種制御で使用するためには、この検出値を絶対圧に補正する絶対圧補正を行う必要がある。以下、絶対圧補正の基本動作について図2を参照して説明する。
【0025】
図2は、内燃機関10の圧縮行程における筒内圧P、筒内(燃焼室16)容積V、およびPVκ値(κは比熱比)の変化を示した図である。尚、図2の説明は、吸気弁22を吸気下死点以後に閉じることを前提としている。
【0026】
図2に示すように、IVCの後、筒内圧Pはピストン12の上昇に伴い増加し、筒内容積Vはピストン12の上昇に伴い減少する。CPS34は、この過程で吸気管圧力を基準とした相対圧を検出する。このため、図2中に破線で示すCPS検出値PCPSDVは、図中に実線で示す筒内圧の真値PTV(実線)から誤差Prに相当する分乖離してしまう。
【0027】
真値PTVと検出値PCPSDVとの間には、次式(2)に示す関係が成立する。そこで、ECU40は、検出値PCPSDVから、この乖離に相当する分の誤差Prを除くための絶対圧補正を実行する。具体的には、IVCから点火時期(SA)までの断熱圧縮行程期間のPVκ値が理論上一定であること、および次式(2)に示す関係を利用して、その場合に成立するポアソンの関係式を用いた次式(3)により、誤差Prを絶対圧補正値Prとして算出する。尚、次式(3)において、P,Pは、圧縮行程中の所定の2点のクランク角におけるCPS34の検出値であり、V,Vは、P,P検出時の筒内容積を示している。
TV=PCPSDV+Pr ・・・(2)
Pr=(Pκ−Pκ)/(Vκ−Vκ) ・・・(3)
【0028】
上式(2)および(3)を用いることにより、吸気管圧力を検出する構成を有していなくても、検出値PCPSDVを絶対圧に補正することができる。尚、内燃機関10の気筒数をn(nは2以上の整数を表す。以下同じ。)とした場合、絶対圧補正の対象気筒の断熱圧縮行程期間は、その対象気筒よりも1/nサイクル(720°/n)先行する気筒の断熱圧縮行程期間と概ね一致する。そのため、上式(3)を用いる際に、そのP,Pに対象気筒よりも1/nサイクル先行する気筒の検出値PCPSDVを適用すれば、絶対圧補正の対象気筒の絶対圧補正値Prを精度高く推定することができる。
【0029】
また、P,P検出時のクランク角をそれぞれCA,CA(CA>CA)とすると、CAは、当該対象気筒の点火時期にできるだけ近い進角側が好ましく、CAは、IVCにできるだけ近い遅角側が好ましい。これにより、CA,CAの間隔を最大限に拡げることができるので、絶対圧補正値Prの算出精度を高めることができる。
【0030】
(本実施の形態の特徴的動作)
次に、図3乃至図7を参照して、本実施の形態の特徴的動作について説明する。内燃機関10の低負荷運転中においては、IVCからSAまでのクランク角期間、すなわち断熱圧縮行程期間が短くなることがある。この場合、結果として筒内圧P,Pを検出するクランク角CA,CAの間隔が狭まることになる。
【0031】
図3は、クランク角CA,CAの間隔と、上式(3)の右辺との関係を示した図である。この図に示すとおり、検出間隔(CA−CA)が十分に長い場合は、(Pκ−Pκ)、(Vκ−Vκ)ともに大きな値をとるので、絶対圧補正値Prの算出値のバラツキは小さい。しかしながら、(CA−CA)が短くなると、それに伴い(Pκ−Pκ)や(Vκ−Vκ)も小さな値となるため、絶対圧補正値Prの算出値のバラツキが次第に大きくなってしまう。
【0032】
また、上記絶対圧補正の動作によれば、IVCから点火時期までの圧縮行程中の所定の2点のクランク角CA,CAにおけるCPSの検出値P,Pが利用される。このため、この2点におけるP,Pの検出時にノイズが重畳した場合においては、絶対圧補正値Prを誤算出してしまうおそれがある。
【0033】
そこで、本実施の形態のシステムでは、絶対圧補正値Prのバラツキを抑制するために、IVCからSAまでの断熱圧縮行程期間中の異なる複数の期間において絶対圧補正値Prを算出し、それらの値の平均値を用いて絶対圧補正を行うこととする。以下、フローチャートを参照して、当該絶対圧補正動作の具体的処理について詳細に説明する。
【0034】
図4は、ECU40が本実施の形態1において実行するルーチンを示すフローチャートである。図4に示すルーチンでは、先ず、必要なクランク角差ΔCAbが特定される(ステップ100)。図5は、クランク角差ΔCAbを特定する方法を説明するための図である。この図に示すとおり、クランク角CA,CAの間隔(CA−CA)が小さい領域において絶対圧補正値Prのバラツキが大きくなっている。そこで、本実施の形態のシステムでは、内燃機関10の運転条件に基づいて、絶対圧補正値Prのバラツキが所定範囲となるクランク角差ΔCAbが特定される。
【0035】
次に、計算可能回数Ncが算出される(ステップ102)。図6は、計算可能回数Ncの算出方法を説明するための図である。この図に示すとおり、計算可能回数Ncは、クランク角差ΔCAbをΔCAずつ進角させて絶対圧補正値Prを複数回計算する場合に、IVCからSAまでの断熱圧縮行程期間において計算可能な最大回数であり、IVC、SA、ΔCAb、ΔCAを用いた次式(4)により計算することができる。尚、ΔCAは、クランク角の計測分解能(例えば、10°CA毎)であって、クランク角センサ42やシステムの仕様によって決まる値である。
(IVC−ΔCAb−SA)/ΔCA=Nc ・・・(4)
【0036】
次に、絶対圧補正値Prのサイクル内平均値Praveが算出される(ステップ104)。ここでは、具体的には、1サイクルにおけるIVCからSAまでの断熱圧縮行程期間において、ΔCA毎の絶対圧補正値としてのPr〜PrNc+1が算出される。次に、これら(Nc+1)個の絶対圧補正値の平均値が、絶対圧補正値Prのサイクル内平均値Praveとして算出される。図7は、絶対圧補正値の平均回数と絶対圧補正値のバラツキとの関係を示す図である。尚、ここでいう平均回数とは、サイクル内平均値Praveの算出に用いた絶対圧補正値の数を示している。この図に示すとおり、平均回数が大きいほど絶対圧補正値のバラツキが小さくなっている。このため、本実施の形態のシステムによれば、計算可能回数Ncが大きいほど絶対圧補正値の算出精度を有効に高めることが可能となる。
【0037】
次に、各種燃焼状態量の算出が実施される(ステップ106)。ここでは、具体的には、上式(2)を用いて、筒内圧の真値PTVが算出される。そして、算出された真値PTVは、筒内へ吸入された吸入空気量の算出や図示トルクの変動、発熱量PVκやMFB(燃焼質量割合)の演算等に用いられる。
【0038】
以上説明したとおり、本実施の形態のシステムによれば、CPS34による筒内圧の検出値を真値に補正する絶対圧補正において、補正精度を有効に高めることができる。これにより、燃焼状態を正確に把握することができるので、安定した燃焼による燃費の向上を期待することができる。
【0039】
ところで、上述した実施の形態1のシステムでは、計算可能回数Ncとして、1サイクルのIVCからSAまでの断熱圧縮行程期間内において計算可能な最大回数を算出することとしているが、図7に示す絶対圧補正値の平均回数と絶対圧補正値のバラツキとの関係を利用して、絶対圧補正値のバラツキが所望の範囲となる最小の回数を計算可能回数Ncとして使用してもよい。これにより、絶対圧補正値の必要精度は確保しつつ、演算負荷を最小限に抑えることが可能となる。
【0040】
尚、上述した実施の形態1においては、クランク角差ΔCAbが前記第2の発明の「所定のクランク角期間」に相当しているとともに、ECU40が、上記ステップ100の処理を実行することにより、前記第2の発明における「特定手段」が、上記ステップ104の処理を実行することにより、前記第1の発明における「平均値取得手段」が、上記ステップ106の処理を実行することにより、前記第1の発明における「絶対圧補正手段」が、上記ステップ106または116の処理を実行することにより、前記第1の発明における「断熱期間変更手段」が、それぞれ実現されている。
【0041】
実施の形態2.
[実施の形態2の特徴]
次に、図8乃至図11を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態2のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、後述する図8に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0042】
上述した実施の形態1のシステムでは、ノイズレベルに応じて特定されたクランク角差ΔCAbがIVCからSAまでの断熱圧縮行程期間(IVC−SA)よりも小さい、すなわちクランク角差ΔCAbの開始クランク角および終了クランク角が何れも断熱圧縮行程期間の期間中であることを前提とした上での絶対圧補正を行っている。しかしながら、内燃機関10の運転条件によっては、特定されたクランク角差ΔCAbが断熱圧縮行程期間(IVC−SA)よりも大きくなる事態も想定される。
【0043】
そこで、本発明の実施の形態2のシステムでは、クランク角差ΔCAbが(IVC−SA)よりも大きい場合に、点火後の着火遅れ期間を考慮して、断熱圧縮行程とみなすことのできる期間を最大限使用した絶対圧補正動作を行うこととする。以下、フローチャートを参照して、当該絶対圧補正動作の具体的処理について詳細に説明する。
【0044】
図8は、ECU40が本実施の形態2において実行するルーチンを示すフローチャートである。図8に示すルーチンでは、先ず、必要なクランク角差ΔCAbが特定される(ステップ200)。ここでは、具体的には、上記ステップ100の処理と同様の処理が実行される。次に、IVCからSAまでの断熱圧縮行程期間(IVC−SA)が、上記ステップ200において特定されたクランク角差ΔCAb以上か否かが判定される(ステップ202)。その結果、(IVC−SA)≧ΔCAbの成立が認められた場合には、(IVC−SA)の期間内において、高精度の絶対圧補正値Prを算出することが可能と判断することができる。この場合、次のステップに移行し、上記ステップ102〜106の処理が実行される(ステップ204)。
【0045】
一方、上記ステップ202において、(IVC−SA)≧ΔCAbの成立が認められない場合には、(IVC−SA)の期間内においてクランク角差ΔCAbを用いた絶対圧補正値Prを算出することができないと判断することができる。この場合、次のステップに移行し、ΔCAP2−P1=(IVC−SA)とした場合において絶対圧補正値Prの平均値が必要精度となるための絶対圧補正値Prの算出回数Nthが算出される(ステップ206)。図9は、クランク角期間と絶対圧補正値のバラツキとの関係を示す図である。この図に示すとおり、クランク角期間ΔCAP2−P1が(IVC−SA)である場合の絶対圧補正値のバラツキは、クランク角期間ΔCAP2−P1がΔCAbである場合のそれに比して大きなものとなってしまう。図10は、絶対圧補正値Prの算出回数と絶対圧補正値のバラツキとの関係を示す図である。この図に示すとおり、絶対圧補正値のバラツキは算出回数が増えるほど減少する。つまり、このような関係によれば、絶対圧補正値のバラツキが必要精度を確保可能なレベルとなる算出回数が存在することとなる。ここでは、係る関係に従い、必要精度を確保するための算出回数が特定される。
【0046】
次に、計算可能回数Nc2が算出される(ステップ208)。ここで、計算可能回数Nc2は、クランク角差ΔCAP2−P1(=IVC−SA)をΔCAずつずらして絶対圧補正値Prを複数回計算する場合に、IVCから実着火クランク角CAQstaまでの断熱圧縮行程期間において当該絶対圧補正値Prを計算可能な最大回数を示している。図11は、計算可能回数Nc2の算出方法を説明するための図である。この図に示すとおり、内燃機関10の点火時期SAの後には着火遅れ期間が存在する。この着火遅れ期間については、断熱圧縮行程期間に含めることができる。そこで、本ステップでは、IVC、SA、IVC−SA(=ΔCAP2−P1)、ΔCAを用いた次式(5)を用いて、計算可能回数Nc2が計算される。尚、実着火クランク角CAQstaは、図11に示すとおり、例えば、発熱量の変化量dQ/dθが所定値よりも大きくなった時期として特定することができる。
(IVC−(IVC−SA)−CAQsta)/ΔCA=Nc2 ・・・(5)
【0047】
次に、上記ステップ208において特定された計算可能回数NC2+1が、上記ステップ206において特定された算出回数Nth以上か否かが判定される(ステップ210)。その結果、Nc2+1≧Nthの成立が認められない場合には、IVCから実着火クランク角CAQstaまでの断熱圧縮行程期間において算出回数Nthを実現できないと判断されて、次のステップに移行し、IVCからSAまでの期間を算出回数Nthが実現可能な期間まで強制的に拡大すべく、VVT36を用いたIVCの進角制御及び/又は点火時期SAの遅角制御が実行される(ステップ212)。
【0048】
一方、上記ステップ210において、Nc2+1≧Nthの成立が認められた場合、または、上記ステップ212の処理の後には、算出回数Nthが実現可能と判断されて、次のステップに移行し、絶対圧補正値のサイクル内平均値が算出される(ステップ214)。ここでは、具体的には、1サイクルにおけるIVCから実着火クランク角CAQstaまでの断熱圧縮行程期間において、ΔCA毎の絶対圧補正値としてPr〜PrNc2+1が算出される。次に、これら(Nc2+1)個の絶対圧補正値の平均値が、絶対圧補正値Prのサイクル内平均値Praveとして算出される。
【0049】
次に、各種燃焼状態量の算出が実施される(ステップ216)。ここでは、具体的には、上式(2)を用いて、筒内圧の真値PTVが算出される。そして、係る真値PTVを制御パラメータとして、筒内へ吸入された吸入空気量の算出や図示トルクの変動、発熱量PVκやMFB(燃焼質量割合)、燃焼重心位置(CA50)等の演算が行われる。これらの各種燃焼状態量は、失火検出や最適点火時期制御などに利用される。
【0050】
以上説明したとおり、本実施の形態のシステムによれば、CPS34による筒内圧の検出値を真値に補正する絶対圧補正において、(IVC−SA)の期間が短い運転条件であっても、補正精度を有効に高めることができる。これにより、燃焼状態を正確に把握することができるので、安定した燃焼による燃費の向上を期待することができる。
【0051】
尚、上述した実施の形態2においては、ECU40が、上記ステップ208の処理を実行することにより、前記第3の発明における「着火遅れ期間取得手段」が、上記ステップ214の処理を実行することにより、前記第3の発明における「断熱期間変更手段」が、上記ステップ212の処理を実行することにより、前記第4の発明における「第2の断熱期間変更手段」が、それぞれ実現されている。
【0052】
実施の形態3.
[実施の形態3の特徴]
次に、図12乃至図14を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態3のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、後述する図14に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0053】
上述した実施の形態1または2のシステムでは、絶対圧補正によって筒内圧の真値を高精度に算出し、各種燃焼状態量の算出に利用することとしている。しかしながら、IVCからSAまでの断熱圧縮行程期間が短い低負荷運転時やノイズレベルが悪化した場合、或いはCPS34のセンサゲインが低下している場合等においては、絶対圧補正精度が確保できないことも想定される。このような場合においては、燃焼重心位置(CA50)の算出精度を確保することができず、運転条件の悪化による燃費の低下やドライバビリティの悪化を招くおそれがある。
【0054】
そこで、本実施の形態3のシステムでは、絶対圧補正後の筒内圧によってCA50を高精度に算出することができない場合に、筒内圧がピークとなった時点でのクランク角θPmaxを用いてCA50を特定することとする。具体的には、CPS34のゲインが所定の許容範囲内にない場合や、絶対圧補正値のバラツキが所定の許容値以上の場合に、θPmaxに基づいてCA50が推定される。図12は、θPmaxとCA50との関係を示す図である。この図に示すとおり、θPmaxとCA50との間には相関関係が存在する。このため、θPmaxを特定することができれば、CA50を精度よく推定することが可能となる。
【0055】
尚、内燃機関10の運転条件によっては、筒内圧のピークが複数現れる場合がある。図13は、クランク角に対する筒内圧変化を示す図である。この図に示すとおり、高負荷率時や点火遅角時においては、筒内の機械圧縮時と燃焼時との2箇所に筒内圧のピークが現れる場合がある。このような場合においては、燃焼時の筒内圧のピークに対応するクランク角をθPmaxとして特定するようにする。
【0056】
[本実施の形態3の具体的処理]
次に、図14を参照して、本実施の形態3のシステムの具体的処理について説明する。図14は、ECU40が本実施の形態3において実行するルーチンを示すフローチャートである。図14に示すルーチンでは、先ず、CPS34のゲインが許容範囲内か否かが判定される(ステップ300)。その結果、CPS34のゲインが許容範囲内でない場合には、発熱量に基づいたCA50の算出を高精度に行うことができないと判断されて、次のステップに移行し、θPmaxに基づいてCA50が推定される(ステップ302)。ここでは、具体的には、CPS34の検出値に基づいて、燃焼時の筒内圧がピークとなるクランク角θPmaxが特定される。次いで、図12に示す関係に従い、θPmaxに対応するCA50が特定される。
【0057】
一方、上記ステップ300の処理において、CPS34のゲインが許容範囲内である場合には、次のステップに移行し、絶対圧補正値のバラツキ(例えば、標準偏差σ)が許容値よりも小さいか否かが判定される(ステップ304)。その結果、絶対圧補正値のバラツキが許容値以上である場合には、発熱量に基づいたCA50の算出を高精度に行うことができないと判断されて、上記ステップ302に移行し、θPmaxに基づいてCA50が推定される。一方、上記ステップ304の処理において、絶対圧補正値のバラツキが許容値より小さい場合には、発熱量に基づいたCA50の算出を高精度に行うことができると判断されて、次のステップに移行し、発熱量に基づくCA50の算出が行われる(ステップ306)。ここでは、具体的には、絶対圧補正が施された筒内圧の真値を用いて発熱量が算出され、係る発熱量を用いてCA50が算出される。
【0058】
以上説明したとおり、本実施の形態のシステムによれば、発熱量を用いたCA50の算出を高精度に行うことができない場合に、θPmaxを用いたCA50の推定が行われる。これにより、絶対圧補正の精度が低い場合であっても、CA50を高精度に算出することができる。
【0059】
尚、上述した実施の形態3においては、ECU40が、上記ステップ306の処理を実行することにより、前記第5の発明における「燃焼重心位置算出手段」が、上記ステップ302の処理を実行することにより、前記第5の発明における「クランク角特定手段」および「推定手段」が、上記ステップ300または304の処理を実行することにより、前記第5の発明における「判定手段」および「制御手段」が、それぞれ実現されている。
【符号の説明】
【0060】
10 内燃機関
12 ピストン
14 シリンダヘッド
16 燃焼室
18 吸気通路
20 排気通路
22 吸気弁
24 排気弁
26 エアクリーナ
28 スロットルバルブ
30 点火プラグ
32 燃料噴射弁
34 筒内圧センサ(CPS)
36 吸気バルブタイミング制御装置(VVT)
40 ECU(Electronic Control Unit)
42 クランク角センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の所定気筒の筒内圧検出値を出力する筒内圧センサと、
前記所定気筒のIVCから点火時期までの断熱期間中の任意の2点のクランク角θ,θの組み合わせを複数特定する特定手段と、
特定された各クランク角θ,θにおける筒内圧検出値P,Pを、前記筒内圧センサを用いてそれぞれ検出する筒内圧検出手段と、
前記クランク角θにおける前記所定気筒の筒内容積をV、前記クランク角θにおける前記所定気筒の筒内容積をV、前記所定気筒の筒内ガスの比熱比をκとしたとき、前記クランク角θにおけるPVκの値Pκから前記クランク角θにおけるPVκの値Pκを減算した値に(Vκ−Vκ)を除算した値(以下、絶対圧補正値)を、前記特定手段によって特定された複数のクランク角θ,θの組み合わせに対してそれぞれ演算する絶対圧補正値演算手段と、
前記絶対圧補正値演算手段により演算された複数の絶対圧補正値の平均値を取得する平均値取得手段と、
前記平均値を用いて前記筒内圧検出値を補正する絶対圧補正手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記特定手段は、前記クランク角θと前記クランク角θとのクランク角差が所定のクランク角期間となるクランク角θ,θの組み合わせを複数特定することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記所定気筒の点火時期から当該所定気筒内の混合気に実際に着火されるまでの着火遅れ期間を特定する着火遅れ期間取得手段と、
IVCから点火時期までの断熱期間が前記所定のクランク角期間よりも小さい場合に、前記断熱期間を前記着火遅れ期間分拡大させる断熱期間変更手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記断熱期間変更手段により拡大された断熱期間において、前記特定手段により特定可能なクランク角θ,θの組み合わせの回数が所定回数よりも小さい場合に、IVCの進角動作および点火時期の遅角動作のうち少なくとも何れか一方の動作を実行する第2の断熱期間変更手段を更に備えることを特徴とする請求項3記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記絶対圧補正手段により補正された筒内圧検出値を用いて、燃焼重心位置を算出する燃焼重心位置算出手段と、
前記筒内圧検出値に基づいて、前記所定気筒の筒内圧が最大となるクランク角θPmaxを特定するクランク角特定手段と、
クランク角θPmaxと燃焼重心位置との関係を規定した規則に基づいて、前記クランク角θPmaxに対応する燃焼重心位置を推定する推定手段と、
前記絶対圧補正手段による前記筒内圧検出値の補正精度が所定の基準範囲に含まれるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記補正精度が所定の基準範囲に含まれる場合には、前記燃焼重心位置算出手段による燃焼重心位置の算出を行い、前記補正精度が所定の基準範囲に含まれない場合には、前記推定手段による燃焼重心位置の算出を行う制御手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−104407(P2013−104407A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250662(P2011−250662)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】