説明

内燃機関の制御装置

【課題】燃料のセタン価に基づいて、好適に内燃機関の運転を制御する。
【解決手段】内燃機関の制御装置(100)は、内燃機関(200)に使用される燃料のセタン価を所定のタイミングで検出するセタン価検出手段(110)と、内燃機関のクランク軸(204)の角速度を検出する角速度検出手段(120)と、検出された角速度の出力値に対してフィルタ処理を行うフィルタ処理手段(130)と、フィルタ処理が行われた出力値と所定の基準値との乖離量を算出する乖離量算出手段(140)と、算出された乖離量に応じて、検出されたセタン価を補正する補正手段(150)と、補正されたセタン価に基づいて、内燃機関の運転を制御する制御手段(160)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば軽油を燃料として運転される内燃機関の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の内燃機関に使用される軽油は、例えば製造工程や仕向等によって、セタン価にばらつきや低下が生じてしまう場合がある。内燃機関の燃料噴射制御は、例えば各国でのセタン価の基準値に基づいているため、セタン価がばらついたり低下したりすると、適正な燃料噴射制御が実施できなくなるおそれがある。
【0003】
上述したような背景を踏まえ、例えば特許文献1では、気筒内部の圧力から求められる着火時期に基づいてセタン価を推定しようとする技術が開示されている。この技術では、推定されたセタン価に応じて内燃機関の運転を制御すると共に、燃焼異常があると判定された場合には制御マップが切替えられる。また特許文献2でも同様に、検出されたセタン価に応じて内燃機関の制御マップを切替えるという技術が開示されている。
【0004】
他方で、例えば特許文献3では、内燃機関のクランク軸の角速度を用いてセタン価を検出しようとする技術が開示されている。また特許文献4では、クランク角センサの出力値にフィルタをかけることで得られる燃焼不安定の指標を用いて失火を判定するという技術が開示されている。特許文献5では、角速度から内燃機関の回転0.5次の周波数成分のノイズを除去するという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−239738号公報
【特許文献2】特開2009−013889号公報
【特許文献3】特開2007−321706号公報
【特許文献4】特開平08−074652号公報
【特許文献5】特開2003−286890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した各特許文献に記載されているような技術では、検出されるセタン価が誤検出や誤差等に起因して精度の低い値となってしまった場合、内燃機関の運転が適切に行えなくなるおそれがある。また、特許文献1のように推定セタン価の誤りを判定できたとしても、判定結果に応じた具体的な内燃機関の制御が行えなければ、問題の解決には不十分である。このように、各特許文献に記載の技術は、燃料のセタン価に基づく内燃機関の運転制御が適切に行えない事態が生じ得るという技術的問題点を有している。
【0007】
本発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであり、燃料のセタン価に基づいて、好適に内燃機関の運転を制御することが可能な内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内燃機関の制御装置は上記課題を解決するために、内燃機関に使用される燃料のセタン価を所定のタイミングで検出するセタン価検出手段と、前記内燃機関のクランク軸の角速度を検出する角速度検出手段と、前記検出された角速度の出力値に対してフィルタ処理を行うフィルタ処理手段と、前記フィルタ処理が行われた出力値と所定の基準値との乖離量を算出する乖離量算出手段と、前記算出された乖離量に応じて、前記検出されたセタン価を補正する補正手段と、前記補正されたセタン価に基づいて、前記内燃機関の運転を制御する制御手段とを備える。
【0009】
本発明に係る内燃機関の制御装置は、例えば車両に搭載されたディーゼルエンジン等の内燃機関を制御する制御装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
【0010】
本発明に係る内燃機関の制御装置の動作時には、セタン価検出手段によって、内燃機関に使用されている燃料である軽油のセタン価が所定のタイミングで検出される。尚、ここでの「所定のタイミング」とは、セタン価を好適に検出するために設定される任意のタイミングであり、例えば内燃機関における負荷の高い期間(より具体的には、車両の減速時等に自動的に実行されるフューエルカット期間等)が挙げられる。
【0011】
セタン価検出手段における具体的なセタン価の検出方法については、例えば公知である様々な手法を採用することができる。セタン価検出手段によって検出されるセタン価は、具体的な数値であってもよいし、所定の基準値より高いか又は低いかを示す程度のものであってもよい。
【0012】
他方、本発明に係る内燃機関の制御装置では更に、角速度検出手段によって、内燃機関のクランク軸の角速度が検出される。クランク軸の角速度は、例えばクランクポジションセンサ等によって検出されるクランク角信号に基づいて検出できる。
【0013】
クランク軸の角速度が検出されると、フィルタ処理手段によって、検出された角速度の出力値に対するフィルタ処理が行われる。ここでのフィルタ処理は、後述するセタン価の補正をより好適に行うための処理であり、具体的には燃焼不安定性の指標となる内燃機関の回転0.5次振動の抽出処理等が挙げられる。
【0014】
フィルタ処理が行われると、乖離量算出手段によって、フィルタ処理が行われた出力値と所定の基準値との乖離量が算出される。尚、ここでの「所定の基準値」とは、セタン価検出手段において検出されたセタン価をどの程度補正するか決定するための基準となる値であり、例えば内燃機関が適切に運転されている場合に出力されるべきフィルタ処理後の出力値に対応するものとして予め設定されている。より具体的には、フィルタ処理が上述した内燃機関の回転0.5次振動の抽出処理として設定されている場合、乖離量の大きさは、燃焼不安定性の高さ(より具体的には、失火している可能性の高さ)として考えることができる。
【0015】
乖離量が算出されると、補正手段によって、セタン価検出手段において検出されたセタン価が乖離量に基づき補正される。例えば、乖離量が比較的大きい場合は、検出されているセタン価の精度が低いと判断され、セタン価が小さい値へと補正される。一方で、乖離量が比較的小さい場合は、検出されているセタン価の精度が高いと判断され、セタン価がわずかに補正される(或いは、補正が行われない)。
【0016】
セタン価が補正されると、制御手段によって、内燃機関の運転が補正されたセタン価に基づき制御される。具体的には、例えばセタン価に基づいて燃料の噴射間隔や噴射量が調整される。或いは、排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)システムにおける循環排気量や過給器における過給圧等が制御されてもよい。このようにすれば、例えばセタン価の低下に伴う着火性の悪化に起因する失火等が抑制され、好適な内燃機関の運転を実現することが可能となる。
【0017】
ここで、上述したセタン価検出手段において検出されるセタン価は、例えば誤検出や誤差等に起因して精度が低いものとなってしまうおそれがある。また、セタン価の検出は所定のタイミングで行われる(言い換えれば、常時行われている訳ではない)ので、一度間違った値が検出されてしまうと、再度新しい値が検出されるまでにある程度の期間を要してしまうという技術的問題点がある。
【0018】
しかるに本発明では特に、検出したセタン価が、フィルタ処理の行われた出力値の乖離量に応じて、より正確な値へと補正される。これにより、内燃機関の運転は、より精度の高いセタン価に基づいて制御されることになる。従って、精度の低いセタン価に基づく制御によって、内燃機関の運転が不適切な状態とされてしまうことを防止することができる。
【0019】
尚、上述した技術的効果を発揮させるためにも、セタン価の補正は高い頻度で行われることが好ましい。但し、セタン価を補正する頻度を低くすれば、それだけ装置の負荷を小さくでき、結果的に装置の構成や製造コストを低減させることができる。
【0020】
以上説明したように、本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、燃料のセタン価に基づいて、好適に内燃機関の運転を制御することが可能である。
【0021】
本発明の内燃機関の制御装置の一態様では、前記補正手段は、前記算出された乖離量から前記内燃機関における失火の発生を判定し、前記失火が発生しているか否かに応じて前記検出されたセタン価を補正する。
【0022】
この態様によれば、補正手段では、算出された乖離量から内燃機関における失火の発生が判定される。即ち、乖離量の値に基づいて、内燃機関における失火が発生しているか否かが判定される。補正手段には、例えば失火の発生を判定するための閾値が予め記憶されており、乖離量と閾値とを互いに比較することで失火の発生を判定する。
【0023】
補正手段は、失火の発生を判定した後、失火が発生しているか否かに応じて検出されたセタン価を補正する。具体的には、失火が発生していると判定した場合、セタン価が検出された値よりも低いことに起因して失火が発生していると判断し、検出されたセタン価を小さい値へと補正する。一方で、失火が発生していないと判断できる場合には、セタン価の補正を行わないようにする。
【0024】
上述したセタン価の補正方法を用いれば、より容易且つ的確にセタン価を補正することができる。その結果として、より好適に内燃機関の運転を制御することが可能となる。
【0025】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記セタン価検出手段は、前記フィルタ処理が行われた出力値を用いて前記セタン価を検出する。
【0026】
この態様によれば、上述したセタン価の補正に用いた値を利用してセタン価を検出することができる。即ち、他のパラメータ等を検出せずにセタン価を検出することができる。よって、装置が行う処理を簡単化することが可能となる。尚、フィルタ処理が行われた出力値に加えて、他のパラメータ等を用いてセタン価を検出するようにしても、上述した効果は相応に得られる。
【0027】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】エンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】ECUの構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作を示すフローチャートである
【図4】セタン価の補正に用いる乖離量を燃料別に示すグラフである。
【図5】実施形態に係るエンジンの制御マップの切り替え方法を示す概念図である。
【図6】エンジンの回転0.5次振動及びセタン価の相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0030】
先ず、本実施形態に係るエンジンシステムの構成について、図1を参照して説明する。ここに、図1は、エンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0031】
図1において、エンジンシステム10は、図示せぬ車両に搭載され、ECU100及びエンジン200を備える。
【0032】
ECU100は、CPU、ROM及びRAM等を備えたエンジン200の動作全体を制御する電子制御ユニットであり、本発明に係る「内燃機関の制御装置」の一例である。ECU100は、例えばROM等に格納された制御プログラムに従って各種制御を実行可能に構成されている。ECU100の具体的な構成については、後に詳述する。
【0033】
エンジン200は、軽油を燃料とするディーゼルエンジンであり、本発明に係る「内燃機関」の一例である。エンジン200は、シリンダ201内において燃料を含む混合気が圧縮自着火した際に生じる爆発力に応じたピストン202の往復運動を、コネクションロッド203を介してクランクシャフト204の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0034】
クランクシャフトは、本発明の「クランク軸」の一例であり、クランクシャフト204近傍には、クランクシャフト204の回転位置を検出するクランクポジションセンサ205が設置されている。クランクポジションセンサ205は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100は、クランクポジションセンサ205によって検出されたクランクシャフト204の回転位置に基づいて、エンジン200の機関回転数NEを算出することが可能に構成されている。以下に、エンジン200の要部構成を、その動作の一部と共に説明する。
【0035】
シリンダ201内における燃料の燃焼に際し、外部から吸入された空気は、図示せぬエアクリーナで浄化された後、吸気管206を通過し、吸気ポート209を介して吸気バルブ210の開弁時にシリンダ201内に吸入される。この際、シリンダ201内に吸入される吸入空気に係る吸入空気量は、図示せぬエアフローメータにより検出され、ECU100に電気信号として一定又は不定の出力タイミングで出力される構成となっている。
【0036】
吸気管206には、吸入空気量を調節可能なスロットルバルブ207が配設されている。このスロットルバルブ207は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ208により、例えば、図示せぬアクセルペダルの操作量等に応じて電気的且つ機械的に駆動される構成となっている。尚、スロットルバルブ207の開閉状態を表すスロットル開度は、ECU100と電気的に接続された図示せぬスロットルポジションセンサにより検出され、ECU100に一定又は不定のタイミングで出力される構成となっている。
【0037】
ここで特に、燃料は、燃料タンク212に貯留されている。この燃料タンク212には、燃料タンク212に貯留される燃料の量を表す燃料残量を検出可能なフロート式の燃料量センサ217が設置されている。燃料量センサ217は、ECU100と電気的に接続されており、検出された燃料量は、ECU100により、一定又は不定のタイミングで把握される構成となっている。
【0038】
一方、燃料タンク212に貯留される燃料は、インジェクタ211によって、シリンダ201内の燃焼室に直接噴射される。インジェクタ211を介した燃料の噴射に際しては、先ず燃料タンク212に貯留された燃料が、フィードポンプ214の作用によりデリバリパイプ213を介して燃料タンク212から汲み出され、高圧ポンプ215へ供給される。
【0039】
コモンレール216は、ECU100と電気的に接続され、上流側(即ち、高圧ポンプ215側)から供給される高圧燃料をECU100により設定される目標レール圧まで蓄積することが可能に構成された、高圧貯留手段である。尚、コモンレール216には、レール圧を検出することが可能なレール圧センサ及びレール圧が上限値を超えないように蓄積される燃料量を制限するプレッシャリミッタ等が配設されるが、ここではその図示を省略することとする。
【0040】
エンジン200における上述したインジェクタ211は、シリンダ201毎に搭載されており、夫々が高圧デリバリを介してコモンレール216に接続されている。ここで、インジェクタ211の構成について補足すると、インジェクタ211は、ECU100の指令に基づいて作動する電磁弁と、この電磁弁への通電時に燃料を噴射するノズル(いずれも不図示)とを備える。当該電磁弁は、コモンレール216の高圧燃料が印加される圧力室と、当該圧力室に接続された低圧側の低圧通路との間の連通状態を制御することが可能に構成されており、通電時に当該加圧室と低圧通路とを連通させると共に、通電停止時に当該加圧室と低圧通路とを相互に遮断する。
【0041】
一方、ノズルは、噴孔を開閉するニードルを内蔵し、圧力室の燃料圧力がニードルを閉弁方向(噴孔を閉じる方向)に付勢している。従って、電磁弁への通電により加圧室と低圧通路とが連通し、圧力室の燃料圧力が低下すると、ニードルがノズル内を上昇して開弁する(噴孔を開く)ことにより、コモンレール216より供給された高圧燃料を噴孔より噴射することが可能に構成される。また、電磁弁への通電停止により加圧室と低圧通路とが相互に遮断されて圧力室の燃料圧力が上昇すると、ニードルがノズル内を下降して閉弁することにより、噴射が終了する構成となっている。
【0042】
このようにしてシリンダ201内に噴射された燃料は、吸気バルブ210を介して吸入された吸入空気と混合され、上述した混合気となる。この混合気は、圧縮工程において自着火して燃焼し、燃焼済みガスとして、或いは一部未燃の混合気として、吸気バルブ210の開閉に連動して開閉する排気バルブ218の開弁時に排気ポート219を介して排気管220に導かれる構成となっている。
【0043】
また、排気管220には、DPF(Diesel Particulate Filter)221が設置されている。DPF221は、エンジン200から排出されるスート(煤)或いはスモーク、及びPM(Particulate Matter:粒子状物質)を捕集可能且つ浄化可能に構成されている。尚、説明の煩雑化を防ぐ目的から図示を省略するが、エンジン200には、上記したセンサ以外にも各種のセンサが配されており、例えば、エンジン200の冷却水温を検出する水温センサ、エンジン200のノッキングレベルを検出するノックセンサ、吸入空気の温度たる吸気温を検出する吸気温センサ及び吸入空気の圧力たる吸気圧を検出する吸気圧センサ等が夫々検出対象毎に最適な位置に設置されている。
【0044】
次に、本実施形態に係る内燃機関の制御装置であるECU100の具体的な構成について、図2を参照して説明する。ここに図2は、ECUの構成を示すブロック図である。
【0045】
図2において、ECU100は、セタン価検出部110と、角速度検出部120と、フィルタ処理部130と、乖離量算出部140と、セタン価補正部150と、制御部160とを備えて構成されている。
【0046】
セタン価検出部110は、本発明の「セタン価検出手段」の一例であり、エンジン200に使用されている燃料のセタン価を検出する。セタン価検出部110は、例えばエンジン200において検出される各種パラメータを用いて燃料のセタン価を検出する。セタン価検出部110は、セタン価を高精度で検出するために、予め設定されたタイミングで(例えば、フューエルカット期間等の高負荷運転時に)セタン価を検出する。尚、セタン価検出部110において検出されるセタン価は、具体的な数値であってもよいし、所定の基準値より高いか又は低いかを示す程度のものであってもよい。
【0047】
角速度検出部120は、本発明の「角速度検出手段」の一例であり、クランクポジションセンサ205(図1参照)から出力されるクランク角信号に基づいて、クランクシャフト204の角速度(以下、適宜「クランク角速度」と称する)を検出する。角速度検出部120において検出されたクランク角速度は、フィルタ処理部130に出力される。
【0048】
フィルタ処理部130は、本発明の「フィルタ処理手段」の一例であり、角速度検出部120において検出されたクランク角速度の出力値に対しフィルタ処理を行う。フィルタ処理部120は、例えば燃焼不安定性の指標となるエンジン200の回転0.5次振動の抽出処理等を実行可能とされている。
【0049】
乖離量算出部140は、本発明の「乖離量算出手段」の一例であり、フィルタ処理部130においてフィルタ処理が行われた出力値と所定の基準値との乖離量を算出する。所定の基準値は、セタン価検出部110において検出されたセタン価をどの程度補正するか決定するための基準となる値であり、例えばエンジン200が適切に運転されている場合に出力されるべきフィルタ処理後の出力値に対応するものとして予め設定されている。よって、エンジン200の運転が適切な状態である程、算出される乖離量は小さくなる。
【0050】
セタン価補正部150は、本発明の「補正手段」の一例であり、乖離量算出部140において算出された乖離量に応じて、セタン価検出部110において検出されたセタン価を補正する。セタン価補正部150による具体的なセタン価の補正方法については、後に詳述する。
【0051】
制御部160は、本発明の「制御手段」の一例であり、セタン価補正部150において補正されたセタン価に基づいて、エンジン200の運転を制御する。制御部160は、補正されたセタン価に基づいて、例えばインジェクタ211からの燃料の噴射間隔や噴射量を調整する。或いは、制御部160は、排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)システムにおける循環排気量や、過給器における過給圧等を制御するようにしてもよい。このようにすれば、例えばセタン価の低下に伴う着火性の悪化に起因する失火等が抑制され、好適なエンジン200の運転を実現することが可能となる。
【0052】
上述した各部位を含んで構成されたECU100は、一体的に構成された電子制御ユニットであり、上記各部位に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係る上記部位の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各部位は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0053】
次に、本実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作について、図3を参照して説明する。ここに図3は、実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作を示すフローチャートである。
【0054】
図3において、本実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作時には、例えば減速時等に行われるフューエルカット期間中に(ステップS101:YES)、セタン価検出部110によって、現在使用されている燃料のセタン価が検出される(ステップS102)。尚、セタン価検出部110は、セタン価を高精度で検出できるようなタイミング(例えば、エンジン200が高負荷で運転している場合)であれば、フューエルカット期間以外にもセタン価検出を行ってよい。
【0055】
セタン価が検出される一方、角速度検出部120では、クランクシャフト204の角速度が検出される(ステップS103)。角速度検出部120によって検出されたクランク角速度の出力値には、フィルタ処理部130においてフィルタ処理が行われる(ステップS104)。具体的には、検出されたクランク角速度の出力値から、燃焼不安定性の指標であるエンジン200の回転0.5次振動を抽出する処理が行われる。
【0056】
フィルタ処理が行われると、乖離量算出部140によって、フィルタ処理が行われた出力値と所定の基準値との乖離量が算出される(ステップS105)。乖離量が算出されると、セタン価補正部150によって、セタン価検出部110において検出されたセタン価が、算出された乖離量に基づき補正される(ステップS106)。
【0057】
以下では、上述した乖離量の算出及びセタン価の補正について、図4を参照して具体的に説明する。ここに図4は、セタン価の補正に用いる乖離量を燃料別に示すグラフである。
【0058】
図4において、エンジン200に使用される燃料のセタン価は、例えば給油等によって異なるセタン価の燃料が混合されることにより変化する。燃料のセタン価が変化した場合、仮にエンジン200における制御方法を変更しないとすると、燃焼不安定性の指標であるエンジン200の回転0.5次振動にも変化が生じる。具体的には、燃料のセタン価が低くなると、燃焼状態が悪化し、エンジン200の回転0.5次振動が大きくなる。
【0059】
ここで、例えば図中に示すような、セタン価が互いに異なる燃料A及び燃料Bを考える。燃料Aはセタン価が燃料Bより高いため、エンジン200の回転0.5次振動は比較的小さい値となる。一方で、燃料Bはセタン価が燃料Aより低いため、エンジン200の回転0.5次振動は比較的大きい値となる。この結果、図中に示す基準値と、燃料Aを使用しているエンジン200の回転0.5次振動との乖離量は、比較的小さいものとなる。また、基準値と、燃料Bを使用しているエンジン200の回転0.5次振動との乖離量は、比較的大きいものとなる。
【0060】
セタン価補正部150は、乖離量が比較的小さい燃料Aを使用している場合には、セタン価をわずかに小さくするように補正する。一方で、乖離量が比較的大きい燃料Bを使用している場合には、燃料Aを使用している場合と比較して、よりセタン価が小さくなるように補正する。即ち、セタン価は、乖離量が大きいほど、より小さい値になるように補正される。
【0061】
尚、セタン価の補正は、乖離量を用いて直接的に行われるものでなくともよい。例えば、セタン価補正部150は、算出された乖離量からエンジン200における失火を判定した上で、セタン価を補正するようにしてもよい。この場合、セタン価補正部150は、算出された乖離量と、失火の発生を判定するための所定の閾値とを比較することで、エンジン200における失火の発生を判定する。そしてセタン価補正部150は、エンジン200において失火が発生しているか否かに応じてセタン価を補正する。セタン価補正部150は、例えば失火が発生している場合にのみ、セタン価を小さくするように補正する。
【0062】
以下では、上述したように、セタン価補正部150が失火を判定した上で、セタン価を補正するものとして説明を進める。
【0063】
図3に戻り、セタン価が補正されると、制御部160によって、補正されたセタン価に基づくエンジン200の運転制御が行われる(ステップS107)。以下では、制御部160が行うエンジン200の運転制御について、図5を参照して、より具体的に説明する。ここに図5は、実施形態に係るエンジンの制御マップの切り替え方法を示す概念図である。
【0064】
図5において、制御部160は、例えば燃料のセタン価に応じた3つの制御マップ(即ち、高セタン価用の制御マップ、中セタン価用の制御マップ、低セタン価用の制御マップ)を有している。各制御マップには、対応するセタン価に適切なエンジン200のパラメータ(具体的には、燃料の噴射回数、噴射時期、噴射量、EGR率、過給圧等)が入力されており、制御部160は、現在の燃料のセタン価に対応するマップを選択すると共に、マップ中の各パラメータを実現するようにエンジン200を制御する。
【0065】
ここで、制御部160が高セタン価用の制御マップを用いて、エンジン200を制御していたとする。この場合に、算出された乖離量から失火が発生していると判定されると、セタン価補正部150によってセタン価が小さく補正される。このため制御部160は、選択している制御マップを、高セタン価用の制御マップから中セタン価用の制御マップへと切り替える。即ち、より低いセタン価に対応した制御マップへと切り替えて、エンジン200の運転を制御する。
【0066】
また、中セタン価用の制御マップを用いて、エンジン200を制御している場合に、算出された乖離量から失火が発生していると判定されると、セタン価補正部150によってセタン価が更に小さく補正される。このため制御部160は、選択している制御マップを、中セタン価用の制御マップから低セタン価用の制御マップへと切り替える。即ち、中セタン価用の制御マップを用いた場合でも失火が発生してしまう場合には、より低いセタン価に対応した制御マップへと切り替えて、エンジン200の運転を制御する。
【0067】
ここで、上述したセタン価検出部110において検出されるセタン価は、例えば誤検出や誤差等に起因して精度が低いものとなってしまうおそれがある。また、セタン価の検出はフューエルカット期間中に行われる(言い換えれば、常時行われる訳ではない)ので、一度間違った値が検出されてしまうと、再度新しい値が検出されるまでにある程度の期間を要してしまうという技術的問題点がある。
【0068】
これに対し本実施形態では、検出したセタン価が、フィルタ処理の行われた出力値の乖離量に応じて、より正確な値へと補正される。即ち、新たにセタン価が検出されるのを待つことなく正確なセタン価が提供されることになる。よって、エンジン200の運転は、より精度の高いセタン価に基づいて制御されることになる。従って、精度の低いセタン価に基づく制御によって、エンジン200の運転が不適切な状態とされてしまうことを防止することができる。
【0069】
尚、セタン価検出部110によるセタン価の検出方法については、公知の方法を用いれば済むため詳細な説明を行っていないが、例えばフィルタ処理部130によってフィルタ処理が行われた出力値(即ち、燃焼不安定性の指標であるエンジン200の回転0.5次振動)を用いてセタン価を検出することも可能である。
【0070】
以下では、セタン価検出部110における燃料のセタン価検出方法について、図6を参照して具体的に説明する。ここに図6は、エンジンの回転0.5次振動及びセタン価の相関を示すグラフである。
【0071】
図6において、セタン価検出部110には、図に示すようなエンジン200の回転0.5次振動と、セタン価との相関を示すマップが予め記憶されている。このようなマップを用いることで、セタン価検出部110は、フィルタ処理によって抽出されたエンジン200の回転0.5次振動の値から、容易且つ的確にセタン価を検出することができる。
【0072】
このように、フィルタ処理が行われた出力値を用いてセタン価を検出する場合、エンジン200における他のパラメータ等を検出することなく、燃料のセタン価を検出することができる。即ち、セタン価を補正するために検出されているパラメータを用いて、セタン価を検出することができる。よって、装置が行う処理を簡単化することが可能となる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る内燃機関の制御装置によれば、燃料のセタン価に基づいて、好適にエンジン200の運転を制御することが可能である。
【0074】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0075】
100…ECU、110…セタン価検出部、120…角速度検出部、130…フィルタ処理部、140…乖離量算出部、150…セタン価補正部、160…制御部、200…エンジン、204…クランクシャフト、205…クランクポジションセンサ、211…インジェクタ、212…燃料タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に使用される燃料のセタン価を所定のタイミングで検出するセタン価検出手段と、
前記内燃機関のクランク軸の角速度を検出する角速度検出手段と、
前記検出された角速度の出力値に対してフィルタ処理を行うフィルタ処理手段と、
前記フィルタ処理が行われた出力値と所定の基準値との乖離量を算出する乖離量算出手段と、
前記算出された乖離量に応じて、前記検出されたセタン価を補正する補正手段と、
前記補正されたセタン価に基づいて、前記内燃機関の運転を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記算出された乖離量から前記内燃機関における失火の発生を判定し、前記失火が発生しているか否かに応じて前記検出されたセタン価を補正することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記セタン価検出手段は、前記フィルタ処理が行われた出力値を用いて前記セタン価を検出することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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