説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】従来に比して、低温且つ短時間でPMを燃焼除去できる内燃機関の排気浄化装置を提供すること。
【解決手段】内燃機関の排気通路に設けられ、内燃機関の排気中の粒子状物質を捕捉するフィルタを備えた内燃機関の排気浄化装置において、フィルタに担持され、当該フィルタに捕捉された粒子状物質を燃焼させる触媒と、水、界面活性剤含有水溶液、軽油、及びアルコールからなる群より選択される少なくとも1種の液体を、前記フィルタに捕捉された粒子状物質に対して噴霧する液体噴霧手段と、を備え、前記触媒は、2族元素、3族元素、7族元素、鉄元素、及び11族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含み且つ溶融材料を含まずに構成され、当該触媒による粒子状物質の燃焼温度が、前記液体噴霧手段により液体を噴霧していない状態で600℃以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。詳しくは、内燃機関から排出される排気中の粒子状物質を捕捉するとともに、捕捉した粒子状物質を浄化するための触媒を有するフィルタを備えた内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などに搭載される内燃機関、特に圧縮着火式内燃機関においては、排出される排気中に多量の粒子状物質が含まれる。この粒子状物質は人体に有害であり、またエミッション規制対象物質である。このため、粒子状物質を除去するためのフィルタが、上記内燃機関の排気通路に設けられているのが一般的である。
【0003】
上記フィルタとしては、DPF(Diesel Particulate Filter)に、捕捉した粒子状物質を浄化するための触媒を担持させたもの(Catalyzed Soot Filter、CSFともいう)などが用いられている。このようなフィルタでは、粒子状物質が捕捉されて堆積すると、フィルタの上流側と下流側との間で差圧が生じ、出力の低下や燃費の悪化を招く。このため、粒子状物質がある程度堆積した段階で、堆積した粒子状物質を燃焼除去する再生処理を実行する必要がある。
【0004】
ところが、フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質を燃焼除去してフィルタを再生させるためには、600℃を超える高温が必要であり、時間も数十分の長時間を要する。従って、フィルタの再生の際には、フィルタの昇温処理が必要となるためシステムが複雑化するとともに、昇温処理により燃費が悪化してしまう。また、高温条件下での再生により、システムの熱劣化、熱暴走などのトラブルが生じているのが現状である。
【0005】
例えば、銅若しくは銅化合物、バナジウム化合物、及びアルカリ金属化合物からなる触媒を担持させた粒子状物質捕捉体に、排気を流通させて粒子状物質を捕捉せしめ、捕捉体が目詰まり状態に達したときに、水若しくは水系媒体を噴霧することにより、目詰まり状態を解消させる技術が開示されている(特許文献1参照)。
この特許文献1に開示された技術によれば、水若しくは水系媒体を噴霧することにより、捕捉体に付着した粒子状物質の凝集及び捕捉体壁からの剥離を容易にし、触媒との接触燃焼を促進できるため、捕捉体の目詰まりを解消できるとされている。
【0006】
また、アルカリ金属化合物又は銅化合物を含浸させた濾過体に、排気を流通させて粒子状物質を捕捉せしめ、濾過体が目詰まり状態に達したときに、界面活性剤を含有する水を噴霧することにより、捕捉した粒子状物質の燃焼を促進させる技術が開示されている(特許文献2参照)。
この特許文献2に開示された技術によれば、界面活性剤を含有する水を噴霧することにより、捕捉した粒子状物質により確実に水を付着、浸透させることができ、捕捉した粒子状物質の燃焼をより促進させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−112818号公報
【特許文献2】特開昭58−131118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された技術で用いられている触媒は、耐熱性に難があるうえ、実際には、低温条件下での粒子状物質の燃焼性が低く、実用的な技術とは言えないのが現状である。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来に比して低温且つ短時間で粒子状物質を燃焼除去できる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため請求項1記載の発明は、内燃機関の排気通路に設けられ、当該内燃機関の排気中の粒子状物質を捕捉するフィルタを備えた内燃機関の排気浄化装置において、前記フィルタに担持され、当該フィルタに捕捉された粒子状物質を燃焼させる触媒と、水、界面活性剤含有水溶液、軽油、及びアルコールからなる群より選択される少なくとも1種の液体を、前記フィルタに捕捉された粒子状物質に対して噴霧する液体噴霧手段と、を備え、前記触媒は、2族元素、3族元素、7族元素、鉄元素、及び11族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含み且つ溶融材料を含まずに構成され、当該触媒による粒子状物質の燃焼温度が、前記液体噴霧手段により液体を噴霧していない状態で600℃以下であることを特徴とする。
【0011】
請求項1記載の発明では、2族元素、3族元素、7族元素、鉄元素、及び11族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む一方で溶融材料を含まずに構成され、且つ粒子状物質の触媒燃焼温度が、前記液体噴霧手段により液体を噴霧していない状態で600℃以下である触媒がフィルタに担持されている。
ここで、2族元素、3族元素、7族元素、鉄元素、及び11族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む一方で溶融材料を含まずに構成された触媒による粒子状物質の燃焼は、後述する貴金属系触媒や溶融塩系触媒とは異なり、触媒と粒子状物質との接触性による影響を受ける特性がある。このため、触媒と粒子状物質との接触性が良好でない場合には、低温下での燃料効率が十分ではなく、燃焼が完了するまでに長時間を要する場合があった。
この点、請求項1記載の発明によれば、上記触媒を担持させたフィルタ上に堆積した粒子状物質に対して、水、界面活性剤含有水溶液、軽油、及びアルコールからなる群より選択される少なくとも1種の液体を噴霧することにより、粒子状物質を圧縮してかさ密度を高めることができる。このため、触媒と粒子状物質との接触性を向上させることができ、上記触媒が本来有するPM燃焼特性を十分に発揮させることができる。従って、本発明によれば、従来に比して低温且つ短時間で粒子状物質を燃焼させることができる。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記触媒は、酸化物に少なくともAgを担持してなることを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明では、排気中の粒子状物質を捕捉するフィルタ上に、従来一般的であった貴金属系触媒や溶融塩系触媒よりも低温下で粒子状物質を燃焼させることが可能なAg系触媒が担持されている。このため、従来に比して低温下で、具体的には300℃程度で粒子状物質を燃焼させることができる。
ここで、Ag系触媒による粒子状物質の燃焼は、上記触媒と同様に、触媒と粒子状物質との接触性による影響を大きく受ける特性があるため、Ag系触媒と粒子状物質との接触性が良好でない場合には、燃焼が完了するまでに長時間を要する場合があった。
この点、請求項2記載の発明によれば、Ag系触媒を担持させたフィルタ上に堆積した粒子状物質に対して上記液体を噴霧することにより、粒子状物質を圧縮してかさ密度を高めることができる。このため、Ag系触媒と粒子状物質との接触性を向上させることができ、Ag系触媒が本来有する優れたPM燃焼特性を十分に発揮させることができる。従って、本発明によれば、より低温且つ短時間で粒子状物質を燃焼させることができる。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記酸化物は、Ceと、Ce以外の希土類元素、アルカリ土類金属元素、及び遷移金属元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、を含むCe系複合酸化物であることを特徴とする。
【0015】
Ag系触媒では、触媒表面のAgはAgメタルではなく、AgOとして存在することが知られている。このAgOは、酸素脱離開始温度が非常に低く、粒子状物質との反応性に優れるとされている。ところが、AgOは、400℃程度で分解してAgメタルとなるため、触媒としての繰り返し耐久性に難があると言える。
この点、請求項3記載の発明によれば、Ceと、Ce以外の希土類元素、アルカリ土類金属元素、及び遷移金属元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、を含んで構成元素の価数を変化させて酸素の吸収及び放出を行うことができるCe系複合酸化物に、Agを担持してなるAg系触媒を用いる。このため、AgOの安定性が確保でき、AgOの優れた燃焼特性を十分に発揮させることができるため、従来に比して低温且つ短時間で粒子状物質を燃焼させることができる。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項2又は3に記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記触媒は、前記酸化物に、Agと、希土類元素、アルカリ土類金属元素、貴金属元素、及び遷移金属元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、を担持してなることを特徴とする。
【0017】
請求項4記載の発明では、酸化物に、Agと、希土類元素、アルカリ土類金属元素、貴金属元素、及び遷移金属元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、を共担持させたAg系触媒を用いるため、低温下でより効率良く粒子状物質を燃焼させることができる。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項1から4いずれか記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記フィルタは、セラミックフォーム、セラミックハニカム、又はセラミックファイバーにより構成されることを特徴とする。
【0019】
請求項5記載の発明では、Ag系触媒を担持させるフィルタとして、セラミックフォーム、セラミックハニカム、又はセラミックファイバーにより構成された耐熱性に優れたフィルタを用いるため、排気中に含まれる粒子状物質をより効率良く捕捉できるとともに、捕捉した粒子状物質を燃焼除去する際の熱劣化を抑制できる。従って、本発明によれば、請求項1から3の発明の効果がより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】各元素の族番号とPM燃焼温度との関係を示す図である。
【図2】HO添加量とPM90%燃焼時間との関係を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態で用いるAg系触媒のPM燃焼メカニズムを説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態で用いるAg系触媒のPM燃焼メカニズムを説明するための図である。
【図5】従来の貴金属系触媒のPM燃焼メカニズムを説明するための図である。
【図6】従来の溶融塩系触媒のPM燃焼メカニズムを説明するための図である。
【図7】実施例及び比較例のPM90%燃焼時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置は、内燃機関(以下、「エンジン」という)の排気通路に設けられる。エンジンは、各気筒の燃焼室内に燃料を直接噴射するディーゼルエンジンである。
本実施形態の排気浄化装置は、当該エンジンの排気中の粒子状物質(Particulate Matter、以下、「PM」という)を捕捉するとともに、捕捉したPMを浄化するための浄化触媒を有するフィルタ(Diesel Particulate Filter、以下、「DPF」という)を備える。
また、本実施形態の排気浄化装置は、液体を噴霧する液体噴霧部3を備える。
【0023】
本実施形態で用いるDPF1について説明する。
本実施形態で用いるDPF1は、三次元網目構造を有し、PM捕集機能を有するものであればよく、特に限定されない。好ましくは、炭化珪素やコージェライトなどのセラミックフォーム、セラミックハニカム、又はセラミックファイバーにより構成されたものが用いられる。これらのうち、ウォールフロータイプのセラミックハニカムが、捕集効率、及びPMと触媒との接触性の観点から、より好ましく用いられる。
【0024】
次に、本実施形態で用いる触媒について説明する。
本実施形態で用いる触媒は、上記DPF1内に設けられている排気流路の壁面などに形成された触媒層2を構成する。
本実施形態で用いる触媒は、2族元素、3族元素、7族元素、鉄元素、及び11族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含み、且つ溶融材料を含まずに構成される。ここで、溶融材料とは、加熱すると一部の粒子が液化又は気化して触媒上を移動する特性を有する材料を意味する。具体的な溶融材料としては、後述するようなアルカリ金属、Cu、Vなどの溶融塩が挙げられる。
【0025】
本実施形態で用いる触媒では、触媒によるPMの燃焼温度が、後述する液体噴霧部3により液体を噴霧していない状態で600℃以下である。また、PMの燃焼温度は、PMと触媒との接触状態が良好であるときに、PMが燃焼する温度である。具体的には、以下に示す条件に従ってTG測定(Thermogravimetry:熱重量測定)を実施することにより求められる。なお、タイトコンタクト化は、所定量のPMと触媒とを、乳鉢と乳棒を用いて粉砕混合することにより可能である。
[TG測定条件]
雰囲気:乾燥空気100ml/分
昇温速度:20℃/分(室温〜800℃)
触媒:各元素単独の酸化物
PM:ディーゼルエンジン(アイドル時)
PMと触媒の接触性:高接触状態(タイトコンタクト)
【0026】
各触媒について、上記の測定条件に従ってTG測定を実施した結果、得られた各元素の族番号とTG燃焼ピーク温度(即ち、PMの燃焼温度)との関係を図1に示す。図1に示されるように、2族元素、3族元素、7族元素、鉄元素、及び11族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む一方で溶融材料を含まずに構成され、且つPMの燃焼温度が、後述する液体噴霧部3により液体を噴霧していない状態で600℃以下である触媒を構成する元素としては、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、La、Ce、Pr、Re、Mn、Fe、及びAgが挙げられる。
【0027】
本実施形態では、上記触媒のうち、酸化物にAgを担持してなるAg系触媒が好ましく用いられる。
Ag系触媒では、触媒表面のAgはAgメタルではなく、AgOとして存在することが知られている。このAgOは、酸素脱離開始温度が非常に低く、PMとの反応性に最も優れる。
【0028】
本実施形態で用いるAg系触媒を構成する酸化物としては、Ce系酸化物が好ましく用いられる。より好ましくは、Ceと、Ce以外の希土類元素、アルカリ土類金属元素、及び遷移金属元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、を含むCe系複合酸化物が用いられる。
また、本実施形態では、上記の酸化物に、Agと、希土類元素、アルカリ土類金属元素、貴金属元素、及び遷移金属元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、を担持してなるAg系触媒がより好ましく用いられる。
【0029】
上記のような組成からなるAg系触媒の調製方法については、特に限定されず、従来公知の方法により調製することができる。例えば、還元法によりAg系触媒を調製することにより、粒径制御されたAgイオン粒子をDPF1上に高濃度且つ均一に担持させることが可能となる。
なお、触媒を構成するCe系複合酸化物の調製方法も特に限定されず、硝酸塩分解法、有機酸錯体重合法など従来公知の調製方法を用いることができる。
また、本実施形態で用いるAg系触媒では、Agの担持方法については特に限定されないが、一般的なディッピング法の他、発泡法が好ましく用いられる。
ディッピング法では、例えば、触媒を構成する材料を所定量含むスラリーを湿式粉砕などにより作製し、作製したスラリー中にDPF1を浸漬させた後、DPF1を引き上げて所定の温度条件で焼成を行うことにより、DPF1に触媒を担持させることができる。
また、発泡法では、上記ディッピング法で作製したスラリー中に、クエン酸などの有機酸を添加することにより、焼成時に触媒粒子を発泡させて分散させ、DPF1の表面に触媒を均一に担持させることができる。
【0030】
次に、本実施形態の液体噴霧部3について説明する。
本実施形態の液体噴霧部3は、DPF1に捕捉されて堆積したPMに対して、水、界面活性剤含有水溶液、軽油、及びアルコールからなる群より選択される少なくとも1種の液体を噴霧する。
例えば、液体噴霧部3は、水などの液体を貯蔵するタンクと、タンク内の液体をDPF1上に堆積したPMに対して噴霧する噴霧管と、タンク内の液体を噴霧管内に圧送してDPF1上に噴射するためのポンプと、DPF1の差圧(圧損)を検出する差圧センサと、差圧センサの検出信号に応じてポンプを始動させる制御装置と、から構成される。
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテルなどのノニオン系界面活性剤の他、各種カチオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を用いることができる。また、アルコールとしても特に限定されず、各種アルコールを用いることができる。
【0031】
ここで、DPF1に捕捉されて堆積したPMに対して、水を添加したときの水の添加量とPM90%燃焼時間との関係を調べた結果を図2に示す。図2に示されるように、DPF単位容積当たりの水の添加量が0.01cc/cmを下回ると、PM90%燃焼時間が急激に長時間化することが分かる。また、水の添加量が0.1cc/cmを超えても、PM90%燃焼時間は殆ど変化せず、さらなるPM燃焼効率の向上は期待できないことが分かる。
従って、液体噴霧部3が、DPF1に捕捉されて堆積したPMに対して噴霧する液体の噴霧量は、0.01cc/cm以上であることが好ましく、より好ましくは、0.01cc/cm以上0.1cc/cm以下である。
【0032】
次に、本実施形態で用いる触媒のPM燃焼メカニズムについて、好ましく用いられるAg系触媒を例に挙げ、図3〜図6を参照しつつ、従来一般的に用いられている貴金属系触媒及び溶融塩系触媒と比較しながら詳しく説明する。
図3は、本実施形態で好ましく用いられるAg系触媒を担持したDPF1に、排気中のPMが堆積し始めたときの様子を示している。このAg系触媒は、DPF1上に堆積したPMと接触することによって、PMの燃焼反応を促進させる。このため、図3に示すように、PMを燃焼可能な範囲がDPF1の表面近傍に限定されている。即ち、Ag系触媒等の本実施形態に係る触媒によるPM燃焼は、後述する貴金属系触媒や溶融塩触媒とは異なり、触媒とPMとの接触状態による影響を大きく受ける。
そして、本実施形態では、上述の液体噴霧部3により水などの液体を噴霧することで、DPF1上に堆積したPMを圧縮してかさ密度を高めることにより、Ag系触媒とPMとの接触性を向上させている。即ち、図4に示すように、液体を噴霧してPMを圧縮することにより、燃焼可能な範囲内のPM量を増大させることができ、より多くのPMの燃焼を可能としているとともに、より低温下でのPM燃焼を可能としている。
【0033】
これに対して、図5は、従来の貴金属系触媒のPM燃焼メカニズムを示す図である。ここで、従来の貴金属系触媒とは、Ag以外の貴金属を含有する触媒を意味する。DPFに担持される貴金属系触媒には、Pt、Pd、又はRhなどの貴金属が少なくとも含まれる。図5に示すように、貴金属系触媒では、排気中に含まれるNOとOが、貴金属の触媒作用によって下記式(1)で表される反応によりNOに変換される。そして、生成したNOとPMとの反応により、PMが燃焼除去される。即ち、気体であるNOが拡散してPMに接触することによりPMの燃焼反応が進行するため、触媒とPMとの接触状態による影響を受けることはない。このため、貴金属系触媒に水などの液体を噴霧したところで、本実施形態に係る触媒のようにPM燃焼特性が向上することはない。また、貴金属系触媒は、本実施形態で好ましく用いられるAg系触媒に比して、高温条件下でなければPMを燃焼することができない。
[化1]

NO+1/2O→NO ・・・(1)

【0034】
また、図6は、従来の溶融塩系触媒のPM燃焼メカニズムを示す図である。DPFに担持される溶融塩系触媒には、溶融塩が少なくとも含まれる。ここで、溶融塩とは、加熱すると一部の粒子が液化又は気化して触媒上を移動する特性を有するものをいう。具体的には、アルカリ金属、Cu、Vなどが挙げられる。
この溶融塩系触媒は、Ag系触媒等の本実施形態に係る触媒と同様に、溶融塩がPMと接触することによって、PMを燃焼すると考えられる。ただし、図6に示すように、溶融塩系触媒では、触媒自体が溶融又は揮発して移動することによりPMと接触する点において、Ag系触媒とは大きく異なる。このため、溶融塩系触媒では、触媒とPMとの接触状態による影響を受けることはなく、水などの液体を噴霧したところで、本実施形態に係る触媒のようにPM燃焼特性が向上することはない。
また、溶融塩系触媒は、一旦温度が上昇すると直ちに溶融塩が移動してしまうため、すぐにPM燃焼特性が劣化してしまう。さらには、上述の貴金属系触媒と同様に、溶融塩系触媒は、本実施形態で好ましく用いられるAg系触媒に比して、高温条件下でなければPMを燃焼することはできない。
【0035】
以上の通り、従来一般的に用いられている貴金属系触媒及び溶融塩系触媒は、PMとの接触性を考慮する必要が無いものの、触媒が有するポテンシャル(水などの液体を噴霧することで触媒とPMとが良好な接触状態にあるときのPM燃焼特性)は、本実施形態で用いられる触媒に比して劣っている。即ち、貴金属系触媒及び溶融塩系触媒は、本実施形態で用いられる触媒に比して高温条件下でなければPMを燃焼させることができない。
そこで、本実施形態では、Ag系触媒などで問題となっていたPMとの接触性を向上させ、触媒が有するポテンシャルを最大限に発揮させることに成功したものである。
【0036】
従って、本実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態によれば、2族元素、3族元素、7族元素、鉄元素、及び11族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む一方で溶融材料を含まずに構成され、且つPMの触媒燃焼温度が、液体噴霧部3により液体を噴霧していない状態で600℃以下である触媒がDPF1に担持されている。
ここで、2族元素、3族元素、7族元素、鉄元素、及び11族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む一方で溶融材料を含まずに構成された触媒によるPMの燃焼は、上述したような貴金属系触媒や溶融塩系触媒とは異なり、触媒とPMとの接触性による影響を受ける特性がある。このため、触媒とPMとの接触性が良好でない場合には、燃焼が完了するまでに長時間を要する場合があった。
この点、本実施形態によれば、上記触媒を担持させたDPF1上に堆積したPMに対して、水、界面活性剤含有水溶液、軽油、及びアルコールからなる群より選択される少なくとも1種の液体を噴霧することにより、PMを圧縮してかさ密度を高めることができる。このため、触媒とPMとの接触性を向上させることができ、上記触媒が本来有するPM燃焼特性を十分に発揮させることができる。従って、本発明によれば、従来に比して低温且つ短時間でPMを燃焼させることができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、排気中のPMを捕捉するDPF1上に、従来一般的であった貴金属系触媒や溶融塩系触媒よりも低温下でPMを燃焼させることが可能なAg系触媒を担持させているため、従来に比して低温下で、具体的には300℃程度でPMを燃焼させることができる。
また、Ag系触媒によるPMの燃焼は、上記触媒と同様に、触媒とPMとの接触性による影響を大きく受ける特性があるため、Ag系触媒とPMとの接触性が良好でない場合には、燃焼が完了するまでに長時間を要する場合があった。
この点、本実施形態によれば、Ag系触媒を担持させたDPF1上に堆積したPMに対して上記液体を噴霧することにより、PMを圧縮してかさ密度を高めることができる。このため、Ag系触媒とPMとの接触性を向上させることができ、Ag系触媒が本来有する優れたPM燃焼特性を十分に発揮させることができる。従って、本実施形態によれば、より低温且つ短時間でPMを燃焼させることができる。
【0038】
また、本実施形態では、Ceと、Ce以外の希土類元素、アルカリ土類金属元素、及び遷移金属元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、を含んで構成元素の価数を変化させて酸素の吸収及び放出を行うことができるCe系複合酸化物に、Agを担持してなるAg系触媒を用いる。このため、触媒表面に存在し、酸素脱離開始温度が非常に低くてPMとの反応性に優れるAgOの安定性が確保でき、AgOの優れたPM燃焼特性を十分に発揮させることができる。従って、従来に比して低温且つ短時間でPMを燃焼させることができる。
【0039】
また、本実施形態によれば、酸化物に、Agと、希土類元素、アルカリ土類金属元素、貴金属元素、及び遷移金属元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、を共担持させたAg系触媒を用いるため、低温下でより効率良くPMを燃焼させることができる。
【0040】
また、本実施形態によれば、Ag系触媒を担持させるDPF1として、セラミックフォーム、セラミックハニカム、又はセラミックファイバーにより構成された耐熱性に優れたフィルタを用いるため、排気中に含まれるPMをより効率良く捕捉できるとともに、捕捉したPMを燃焼除去する際の熱劣化を抑制できる。従って、本実施形態によれば、上述の効果がより高められる。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
<実施例1:30質量%Ag/CeO
市販のCeO粉末に、AgNO溶液を所定量混合した。これを、エバポレータにより蒸発乾固させ、マッフル炉にて700℃で2時間、熱処理をした。熱処理して得られた粉末を、乳鉢と乳棒で粉砕し、整粒した粉末を得た。得られた粉末に、バインダ及びHOを所定量混合し、スラリーを調製した。次いで、調製したスラリー中に15ccサイズのDPFを浸漬させ、担持量が60g/LになるようにDPFに触媒を担持させた。
【0044】
<実施例2:1質量%Pd30質量%Ag/CeZrO
実施例1と同様に、市販のCeZrO粉末、AgNO溶液、及びPd(NO溶液を所定量混合した。次いで、実施例1と同様の操作を行い、担持量が60g/LになるようにDPFに触媒を担持させた。
【0045】
<実施例3:LaMnO
硝酸La及び硝酸Mnを等モル混合した後、800℃で10時間焼成することにより、LaMnOを得た。得られたLaMnOをHOに溶解させてスラリーを調製した。次いで、実施例1と同様の操作により、担持量が30g/LになるようにDPFに触媒を担持させた。
【0046】
<比較例1:9質量%Pt5質量%Pd/Al
市販のAl粉末に、Pd(NO溶液、ジニトロジアミノPt溶液を所定量混合した。次いで、実施例1と同様の操作を行い、粉末とした後にスラリーを調製し、担持量が35g/LになるようにDPFに触媒を担持させた。
【0047】
<比較例2:CsCO
市販のCsCO粉末をHOに溶解させてスラリーを調製した。次いで、実施例1と同様の操作を行い、担持量が30g/LになるようにDPFに担持させた。
【0048】
<評価>
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた各触媒付DPFについて、4g/LのPMを堆積させたものと、4g/LのPMを堆積させたものにDPF単位容積当たり0.01cc/cmのHOを噴霧したものと、を作製し、評価用サンプルとした。また、実施例1〜2については、4g/LのPMを堆積させたものにDPF単位容積当たり0.01cc/cmのアルコールを噴霧した評価用サンプルも併せて作製した。次いで、作製した評価用サンプルそれぞれについて、モデルガスを用いた400℃の定常試験による評価を実施した。なお、試験条件は以下の通りとした。結果を図7に示す。
[試験条件]
測定装置:STEC製触媒評価試験装置「SIGU−3301」
モデルガス温度:400℃
ガス流量:SV=100000h−1
モデルガス組成:O=5%、NO=700ppm、N=バランス
【0049】
図7は、各評価用サンプルそれぞれについて、400℃の定常試験を実施した結果である。具体的には、DPFに堆積させたPMの90%が燃焼するのに要した時間(以下、「PM90%燃焼時間」という)を示している。図7に示すように、実施例1〜3は、比較例1〜2に比して、HOを噴霧することにより、PM90%燃焼時間が大幅に短縮されることが判った。
また、実施例1〜2について、アルコールを噴霧したものは、HOを噴霧したものよりもさらにPM90%燃焼時間が短縮されることが判った。
さらには、11族元素のAgを含む触媒を用いた実施例1〜2の評価結果から、AgよりもPM燃焼温度の低い7族元素又は鉄元素を含む触媒についても、同等若しくはそれ以上のPM燃焼効果が得られると考えられた(図1参照)。
また、3族元素のLaを含む触媒を用いた実施例3の評価結果から、Laと同等若しくはより低いPM燃焼温度の2族元素を含む触媒についても、同等若しくはそれ以上のPM燃焼効果が得られると考えられた(図1参照)。
以上より、本発明によれば、2族元素、3族元素、7族元素、鉄元素、及び11族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む一方で溶融材料を含まずに構成され、且つPMの触媒燃焼温度が、液体噴霧部3により液体を噴霧していない状態で600℃以下である触媒を、DPF上に担持させるとともに、DPF上に堆積したPMに対して水などの液体を噴霧することにより、従来に比して低温且つ短時間でPMを燃焼除去できることが確認された。
【符号の説明】
【0050】
1…DPF(フィルタ)
2…触媒層(触媒)
3…液体噴霧部(液体噴霧手段)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、当該内燃機関の排気中の粒子状物質を捕捉するフィルタを備えた内燃機関の排気浄化装置において、
前記フィルタに担持され、当該フィルタに捕捉された粒子状物質を燃焼させる触媒と、
水、界面活性剤含有水溶液、軽油、及びアルコールからなる群より選択される少なくとも1種の液体を、前記フィルタに捕捉された粒子状物質に対して噴霧する液体噴霧手段と、を備え、
前記触媒は、2族元素、3族元素、7族元素、鉄元素、及び11族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含み且つ溶融材料を含まずに構成され、当該触媒による粒子状物質の燃焼温度が、前記液体噴霧手段により液体を噴霧していない状態で600℃以下であることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記触媒は、酸化物に少なくともAgを担持してなることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記酸化物は、Ceと、Ce以外の希土類元素、アルカリ土類金属元素、及び遷移金属元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、を含むCe系複合酸化物であることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記触媒は、前記酸化物に、Agと、希土類元素、アルカリ土類金属元素、貴金属元素、及び遷移金属元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、を担持してなることを特徴とする請求項2又は3に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記フィルタは、セラミックフォーム、セラミックハニカム、又はセラミックファイバーにより構成されることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−17252(P2011−17252A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160670(P2009−160670)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】