説明

内燃機関の燃料噴射制御装置

【課題】コンデンサの発熱防止と内燃機関の良好な燃費の確保を達成しながら、燃料噴射弁の応答性を高めることができるとともに、装置の小型化を図ることができる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】燃料噴射制御装置では、昇圧回路により昇圧された昇圧電圧が印加されることによってコンデンサが充電され、コンデンサに充電された電力を、設定された噴射開始タイミングTINJに燃料噴射弁に供給することによって、燃料噴射弁を開弁させる。また、昇圧回路による昇圧動作を制御することによって、コンデンサの電圧VCACTを、燃料噴射弁を開弁させた後に、所定の目標値VOBJになるように制御するとともに、噴射開始タイミングTINJの直前に、目標値VOBJに制御された状態から、所定の上限値VMAXを超えないように上昇させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁を開弁させることにより燃料を内燃機関に噴射する内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の燃料噴射制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この燃料噴射制御装置では、バッテリの電圧が昇圧回路によって昇圧されるとともに、昇圧された昇圧電圧がコンデンサに印加されることによって、コンデンサが充電される。この昇圧動作は、検出されたコンデンサの電圧が所定の目標値になるように制御される。また、充電されたコンデンサの電力は、内燃機関の燃料噴射弁に供給され、それにより、燃料噴射弁が開弁することによって、燃料が噴射される。この電力供給の開始後、所定時間が経過したときには、電力が燃料噴射弁に十分に供給されたとして、電力供給が停止されるとともに、この電力供給によりコンデンサの電圧が目標値から低下するため、昇圧回路による昇圧動作が再度、行われる。これにより、低下したコンデンサの電圧は、目標値に向かって上昇し、その後、燃料噴射弁への次回の電力供給が行われるまでの間、目標値に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−110640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この従来の燃料噴射制御装置では、上述したように、コンデンサから燃料噴射弁への電力供給を、その開始から所定時間が経過するまで行うとともに、経過した後に昇圧動作を行うので、コンデンサの電圧の低下量が過大になる場合がある。このため、そのような場合に対応するために、コンデンサとして、その電圧の下限値がより小さな、容量の大きな大型のものを用いなければならず、装置の大型化を招いてしまう。また、大きく低下したコンデンサの電圧を、燃料噴射弁への次回の電力供給を開始するまでに、大きく上昇させなければならないため、昇圧回路として、電圧の昇圧度合がより大きな大型のものを用いなければならず、装置のさらなる大型化を招いてしまう。
【0005】
さらに、上記のように充電されたコンデンサの電力を燃料噴射弁に供給することによって燃料噴射弁を開弁させる場合、燃料噴射弁の応答性を高めるには、燃料噴射弁に大きな電力を供給するために、上記の目標値をより大きな値に設定することが考えられる。しかし、その場合には、燃料噴射弁への今回の電力供給が終了してから次回の電力供給が行われるまで継続して、コンデンサの電圧が大きな目標値に保持されるので、コンデンサが発熱し、ひいては、燃料噴射制御装置の故障を招くおそれがある。
【0006】
また、コンデンサでは、燃料噴射弁に電力が供給されていないときでも、漏電により多少の電圧低下が発生することは、避けられない。このため、上記のように大きな目標値を設定した場合、燃料噴射弁への今回の電力供給が終了してから次回の電力供給が行われるまで継続して、コンデンサの電圧を大きな目標値に保持するには、その間、昇圧回路による昇圧動作を継続して行わなければならなくなる。一般に、内燃機関の燃料噴射弁を駆動するためのバッテリは、内燃機関を動力源とする発電機を用いて充電され、その場合には、上記のように昇圧動作を継続して行うと、その分、バッテリの電力が消費され、ひいては、内燃機関の燃費が悪化してしまう。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、コンデンサの発熱防止と内燃機関の良好な燃費の確保を達成しながら、燃料噴射弁の応答性を高めることができるとともに、装置の小型化を図ることができる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、燃料噴射弁4を開弁させることにより燃料を内燃機関3に噴射する内燃機関の燃料噴射制御装置1であって、電源(実施形態における(以下、本項において同じ)バッテリ25)の電圧(バッテリ電圧VB)を昇圧するための昇圧回路20と、昇圧された昇圧電圧が印加されることによって充電されるコンデンサ23と、燃料噴射弁4から噴射される燃料の噴射開始タイミング(燃料噴射タイミングTINJ)を設定する噴射開始タイミング設定手段(ECU2、ステップ22)と、コンデンサ23に充電された電力を、設定された噴射開始タイミングに燃料噴射弁4に供給することによって、燃料噴射弁4を開弁させる噴射弁駆動手段(駆動回路10、ECU2、ステップ5)と、昇圧回路20による昇圧動作を制御することによって、コンデンサ23の電圧を、燃料噴射弁4を開弁させた後に(ステップ27:YES、ステップ24:NO、ステップ25:NO)、所定の目標値VOBJになるように制御する(ステップ32〜34)とともに、噴射開始タイミングの直前に(ステップ24:YES、ステップ25:YES)、目標値VOBJに制御された状態から、所定の上限値VMAXを超えないように上昇させる昇圧制御手段(ECU2、ステップ28〜30)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、昇圧回路によって、電源の電圧が昇圧されるとともに、昇圧された昇圧電圧が印加されることによって、コンデンサが充電される。また、燃料噴射弁から燃料を噴射すべき燃料の噴射開始タイミングが、噴射開始タイミング設定手段によって設定されるとともに、コンデンサに充電された電力は、噴射弁駆動手段によって、設定された噴射開始タイミングに燃料噴射弁に供給される。これにより、燃料噴射弁が開弁することによって、燃料が噴射されるとともに、コンデンサの電圧が低下する。
【0010】
さらに、昇圧回路による昇圧動作が昇圧制御手段によって制御され、それにより、コンデンサの電圧が、燃料噴射弁を開弁させた後には、所定の目標値になるように制御されるとともに、その後の噴射開始タイミングの直前には、この目標値に制御された状態から、所定の上限値を超えないように上昇する。このように、噴射開始タイミングの直前に、すなわちコンデンサから燃料噴射弁に電力を供給する直前にあらかじめ、コンデンサの電圧を目標値からさらに上昇させるので、より大きな電力を燃料噴射弁に供給でき、したがって、燃料噴射弁を速やかに開弁させ、その応答性を高めることができる。この場合、この目標値よりも高い上限値を超えないように、コンデンサの電圧を上昇させるので、コンデンサの発熱を防止することができる。
【0011】
また、コンデンサの電圧を、燃料噴射弁への今回の電力供給が終了してから次回の電力供給が行われるまで継続して、目標値よりも高い値に保持するのではなく、燃料噴射弁が開弁した後に目標値に保持するとともに、燃料噴射弁に電力を供給する直前にのみ、目標値から上昇させるので、コンデンサの発熱を確実に防止することができる。同じ理由により、燃料噴射弁への今回の電力供給が終了してから次回の電力供給が行われるまでの間、コンデンサの電圧を目標値よりも高い値に保持するための昇圧回路による昇圧動作を継続して行う必要がないので、その分、バッテリの電力を確保できる。したがって、バッテリを充電するための発電機の動力源として内燃機関を用いる場合には、内燃機関の良好な燃費を確保することができる。
【0012】
さらに、コンデンサの電圧を目標値から上昇させるので、そのような上昇を行わずに目標値に保持した場合と比較して、燃料噴射弁への電力供給によって低下したときのコンデンサの電圧が過小になるのを回避することができる。このため、コンデンサとして、その電圧の上限値はそのままで、電圧の下限値がより大きな、容量の小さな小型のものを採用することが可能になり、それにより、装置の小型化を図ることができる。
【0013】
また、前述した従来の場合と異なり、昇圧動作を、コンデンサから燃料噴射弁への電力供給の開始から所定時間が経過するのを待って行うのではなく、燃料噴射弁を開弁させた後にすぐに行うので、コンデンサの電圧の低下量を抑制することができる。したがって、このことによっても、コンデンサとして、容量の小さな小型のものを採用することが可能になるとともに、昇圧回路として、電圧の昇圧度合が小さな小型のものを採用することが可能になり、それにより、装置のさらなる小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態による燃料噴射制御装置を、これを適用した内燃機関とともに概略的に示す図である。
【図2】図1の燃料噴射弁を概略的に示す図である。
【図3】燃料噴射弁を駆動するための駆動回路を示す回路図である。
【図4】図1のECUによって実行される燃料噴射制御処理を示すフローチャートである。
【図5】ECUによって実行される昇圧制御処理を示すフローチャートである。
【図6】図1の燃料噴射制御装置の動作例(実線)を、比較例(破線)とともに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示す内燃機関(以下「エンジン」という)3は、例えば4つの気筒(図示せず)を有する4サイクルタイプのガソリンエンジンであり、各気筒には、燃料噴射弁(以下「インジェクタ」という)4が、燃焼室に燃料を直接、噴射するように設けられている。図1に示すように、燃料噴射制御装置1は、後述するECU2を備えている。
【0016】
図2に示すように、インジェクタ4は、ケーシング5内に収容され、その上端部に固定された電磁石6と、ばね7と、電磁石6の下方に配置されたアーマチュア8と、このアーマチュア8の下側に一体に設けられた弁体9などで構成されている。インジェクタ4には、燃料ポンプを有する燃料供給装置(図示せず)から、高圧の燃料が供給される。
【0017】
電磁石6は、ヨーク6aと、その外周に巻かれたコイル6bで構成されており、このコイル6bには、図3に示す駆動回路10が接続されている。ばね7は、ヨーク6aとアーマチュア8の間に配置されており、アーマチュア8を介して弁体9を閉弁方向に付勢する。
【0018】
駆動回路10は、インジェクタ4を駆動するものであり、図3に示すように、昇圧回路20と、Nチャネル型のFETでそれぞれ構成された第1〜第3スイッチ11〜13と、ツェナーダイオード14などで構成されている。
【0019】
昇圧回路20は、スイッチ21、コイル22およびコンデンサ23で構成されている。スイッチ21は、Nチャネル型のFETで構成されており、そのドレインは、コイル22を介してバッテリ25に接続されるとともに、コンデンサ23を介して第1スイッチ11のドレインに接続されている。バッテリ25は、エンジン3を動力源とする発電機を用いて充電される。また、スイッチ21のソースおよびゲートはそれぞれ、アースおよびECU2に接続されている。
【0020】
以上の構成の昇圧回路20では、ECU2からの駆動信号SDにより、ドレイン−ソース間が通電状態になると、バッテリ25からの電圧(以下「バッテリ電圧」という)VBが、コイル22を介して昇圧される。昇圧された昇圧電圧は、基本的には、コンデンサ23に印加され、それによりコンデンサ23が充電される。また、コンデンサ23の電圧(以下「コンデンサ電圧」という)VCおよび昇圧電圧は、第1スイッチ11のドレインに出力される。なお、昇圧電圧は、駆動信号SDのデューティ比を制御することによって変更可能に構成されている。
【0021】
第1スイッチ11のドレイン、ソースおよびゲートはそれぞれ、昇圧回路20、電磁石6のコイル6bの一端およびECU2に接続されている。ECU2からの第1駆動信号SD1がゲートに入力されると、第1スイッチ11のドレイン−ソース間が通電状態になる。
【0022】
第2スイッチ12のドレイン、ソースおよびゲートはそれぞれ、バッテリ25、コイル6bの一端およびECU2に接続されている。ECU2からの第2駆動信号SD2がゲートに入力されると、第2スイッチ12のドレイン−ソース間が通電状態になる。
【0023】
第3スイッチ13のドレイン、ソースおよびゲートはそれぞれ、コイル6bの他端、アースおよびECU2に接続されている。ECU2からの第3駆動信号SD3がゲートに入力されると、第3スイッチ13のドレイン−ソース間が通電状態になる。
【0024】
ツェナーダイオード14は、アノード側がアースに接続され、カソード側がコイル6bの他端に接続されている。
【0025】
以上の構成の駆動回路10では、ECU2からの第1〜第3駆動信号SD1〜SD3に応じて、バッテリ電圧VBが、または、コンデンサ電圧VCおよび昇圧電圧の両方が、インジェクタ4のコイル6bに印加され、駆動電流IACが供給される。具体的には、第1スイッチ11を非通電状態にし、第2および第3スイッチ12,13を通電状態にすることによって、インジェクタ4に、バッテリ電圧VBを印加し、駆動電流IACを供給する。以下、このようにバッテリ電圧VBが印加されたときに供給される駆動電流IACを、「保持電流IH」という。
【0026】
また、スイッチ21を通電状態にすることによって、バッテリ電圧VBを昇圧する昇圧動作を行うとともに、第2スイッチ12を非通電状態にし、第1および第3スイッチ11,13を通電状態にする。以上により、インジェクタ4に、コンデンサ電圧VCおよび昇圧電圧の両方を印加し、駆動電流IACを供給する。以下、コンデンサ電圧VCおよび昇圧電圧を合わせた電圧を、「過励磁用電圧」という。また、このように昇圧回路20から過励磁用電圧が印加されたときに供給される駆動電流IACを、「過励磁電流IEX」という。後述するように、インジェクタ4を駆動する際、これらの過励磁電流IEXおよび保持電流IHが、その順にインジェクタ4に供給される。
【0027】
なお、過励磁電流IEXおよび保持電流IHの電流量はそれぞれ、第1および第2駆動信号SD1,SD2を制御することによって変更される。
【0028】
以上の構成により、第1〜第3駆動信号SD1〜SD3が出力されていないときには、第1〜第3スイッチ11〜13が非通電状態になり、弁体9がばね7の付勢力で閉弁位置(図2(a))に位置することで、インジェクタ4は閉弁状態に保持される。
【0029】
この状態から、駆動信号SD、第1および第3駆動信号SD1,SD3を出力し、電磁石6のコイル6bに過励磁電流IEXを供給すると、ヨーク6aが励磁され、アーマチュア8が、ばね7の付勢力に抗して電磁石6に引き付けられ、吸着することによって、インジェクタ4は所定の開度で開弁する(図2(b))。それに伴い、インジェクタ4からエンジン3の燃焼室に、燃料が噴射される。その後、第1駆動信号SD1の出力を停止し、過励磁電流IEXの供給を終了するとともに、第2駆動信号SD2を出力し、保持電流IHの供給を開始することによって、インジェクタ4は開弁状態に保持され、インジェクタ4からの燃料の噴射が継続される。
【0030】
この状態から、第2および第3駆動信号SD2,SD3の出力を停止し、コイル6bへの保持電流IHの供給を終了すると、弁体9がばね7の付勢力で閉弁位置に移動することによって、インジェクタ4は閉弁し、燃料の噴射が終了する。
【0031】
また、保持電流IHの供給の終了に伴い、第2および第3スイッチ12,13が非通電状態になることによって、コイル6bに残留した保持電流IHが、ツェナーダイオード14を介してアースに流れることで、コイル6bは急速に非励磁状態になる。
【0032】
以上のように、インジェクタ4を開弁する際に、保持電流IHの供給に先立ち、より大きな過励磁電流IEXを供給し、コイル6bを過励磁することによって、燃料の高い圧力に抗してインジェクタ4を開弁させるのに十分な磁力が確保される。また、その後、保持電流IHを供給することによって、消費電力を抑制した状態で、インジェクタ4の開弁状態が保持される。
【0033】
また、昇圧回路20には、電圧計30が設けられており、この電圧計30は、実際のコンデンサ電圧VC(以下「実コンデンサ電圧VCACT」という)を検出し、その検出信号をECU2に出力する。さらに、インジェクタ4には、電流計31が取り付けられており、この電流計31は、コイル6bに実際に流れる駆動電流IAC(以下「実駆動電流IACACT」という)を検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0034】
また、エンジン3のクランクシャフト(図示せず)には、クランク角センサ32が設けられている。クランク角センサ32は、クランクシャフトの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。
【0035】
CRK信号は、所定クランク角(例えば1°)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、いずれかの気筒においてピストン(図示せず)が吸気行程の開始時の上死点よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号であり、本実施形態のようにエンジン3が4サイクル4気筒タイプの場合には、クランク角180゜ごとに出力される。
【0036】
また、エンジン3には、気筒判別センサ(図示せず)が設けられている。この気筒判別センサは、気筒を判別するためのパルス信号である気筒判別信号を、ECU2に出力する。ECU2は、これらの気筒判別信号、CRK信号およびTDC信号に基づいて、クランク角CAを気筒ごとに算出する。具体的には、このクランク角CAは、TDC信号の発生時に値0にリセットされ、CRK信号が発生するクランク角1°ごとにインクリメントされる。
【0037】
ECU2にはさらに、アクセル開度センサ33から、車両のアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が出力される。
【0038】
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、前述した各種のセンサ30〜33の検出信号などに応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、エンジン3の運転状態を判別するとともに、判別した運転状態に応じてインジェクタ4による燃料噴射を制御するために、燃料噴射制御処理および昇圧制御処理を気筒ごとに実行する。
【0039】
図4は、この燃料噴射制御処理を示すフローチャートである。本処理は、前述したCRK信号の発生に同期して、繰り返し実行される。まず、図4のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、算出されたクランク角CAが燃料噴射タイミングTINJと等しいか否かを判別する。この燃料噴射タイミングTINJは、インジェクタ4による燃料の噴射が開始されるタイミングに相当し、クランク角CAで表され、後述する昇圧制御処理において算出される。
【0040】
上記ステップ1の答がYESで、クランク角CAが燃料噴射タイミングTINJと等しいときには、インジェクタ4の開弁を開始するものとして、次のステップ2〜5を実行する。まず、ステップ2において、アップカウント式のタイマの値TMを値0にリセットするとともに、ステップ3において、インジェクタ4への前述した過励磁用電圧の印加中であることを表すために、過励磁用電圧印加フラグF_VCを「1」にセットする。次いで、ステップ4において、燃料噴射の実行中であることを表すために、燃料噴射フラグF_INJを「1」にセットするとともに、ステップ5において、過励磁用電圧をインジェクタ4に印加し、それにより過励磁制御を実行し、本処理を終了する。これらの過励磁用電圧印加フラグF_VC、燃料噴射フラグF_INJ、および、後述する各種のフラグはいずれも、エンジン3の始動時に「0」にリセットされる。
【0041】
このステップ5による過励磁制御の実行中、第1および第3駆動信号SD1,SD3が第1および第3スイッチ11,13にそれぞれ出力されることによって、コンデンサ電圧VCを含む過励磁用電圧がインジェクタ4に印加される結果、前述した過励磁電流IEXが供給される。
【0042】
一方、前記ステップ1の答がNOで、クランク角CAが燃料噴射タイミングTINJと等しくないときには、燃料噴射フラグF_INJが「1」であるか否かを判別する(ステップ6)。この答がYESで、燃料噴射の実行中であるときには、過励磁用電圧印加フラグF_VCが「1」であるか否かを判別する(ステップ7)。この答がYESで、インジェクタ4への過励磁用電圧の印加中であるときには、検出された実駆動電流IACACTが所定の目標過励磁電流IEXCMD(例えば10A)以上であるか否かを判別する(ステップ8)。
【0043】
このステップ8の答がNOのときには、前記ステップ5以降を実行し、過励磁電流IEXの供給を継続する。一方、ステップ8の答がYESで、実駆動電流IACACTが目標過励磁電流IEXCMDに達したときには、燃料の圧力に抗してインジェクタ4を開弁させるのに十分な過励磁電流IEXがインジェクタ4に供給されたとして、その供給を終了するために、第1スイッチ11への第1駆動信号SD1の出力を停止することによって、インジェクタ4への過励磁用電圧の印加を終了する(ステップ9)。次いで、そのことを表すために、過励磁用電圧印加フラグF_VCを「0」にリセットし(ステップ10)、本処理を終了する。
【0044】
このステップ10の実行により、前記ステップ7の答がNO(F_VC=0)になり、その場合には、後述するバッテリ電圧印加フラグF_VBが「1」であるか否かを判別する(ステップ11)。この答がNOのときには、実駆動電流IACACTが所定の下限値IHCMDL以下であるか否かを判別する(ステップ12)。この答がNOのときには、そのまま本処理を終了する。
【0045】
一方、ステップ12の答がYESで、過励磁用電圧の印加を終了した後、実駆動電流IACACTが下限値IHCMDLに達したときには、インジェクタ4へのバッテリ電圧VBの印加を開始するものとして、バッテリ電圧印加フラグF_VBを「1」にセットする(ステップ13)。次いで、インジェクタ4にバッテリ電圧VBを印加し(ステップ14)、それにより保持制御を実行した後、本処理を終了する。
【0046】
この保持制御の実行中、第1スイッチ11を非通電状態にし、第2および第3スイッチ12,13の通電状態を制御することにより、インジェクタ4にバッテリ電圧VBを印加することによって、前述した保持電流IHが、インジェクタ4に供給されるとともに、その目標となる上限値IHCMDHと下限値IHCMDLの間に保持される。具体的には、図6に実線で示すように、実駆動電流IACACTが下限値IHCMDLまで減少したときに、第2および第3スイッチ12,13を通電状態にすることによって、駆動電流IACを増大させる。その後、上限値IHCMDHに達したときに、第2スイッチ12を非通電状態にすることによって、駆動電流IACを減少させる。以上のような第2スイッチ12の通電−非通電を繰り返し行うことによって、実駆動電流IACACTが、上限値IHCMDHと下限値IHCMDHの間に保持される(図6参照)。
【0047】
また、上記ステップ13の実行により、前記ステップ11の答がYES(F_VB=1)になり、その場合には、前記ステップ2でリセットされたタイマ値TMが所定時間TMREFと等しいか否かを判別する(ステップ15)。この答がNOのときには、前記ステップ14を実行し、保持電流IHの供給を継続する。
【0048】
なお、所定時間TMREFは、インジェクタ4に供給される燃料の圧力および燃料噴射量に応じて算出され、燃料の圧力は、センサ(図示せず)によって検出されるとともに、燃料噴射量は、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じて算出される。この要求トルクPMCMDは、エンジン3に要求されるトルクであり、エンジン回転数NEおよび検出されたアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。
【0049】
一方、上記ステップ15の答がYESで、タイマ値TMが所定時間TMREFと等しくなったとき、すなわち、インジェクタ4の開弁の開始時から所定時間TMREFが経過したときには、インジェクタ4による燃料噴射を終了するものとして、バッテリ電圧VBの印加を終了する(ステップ16)。次いで、ステップ17および18においてそれぞれ、電圧印加フラグF_VBおよび燃料噴射フラグF_INJを「0」にリセットし、本処理を終了する。
【0050】
このステップ18の実行により、前記ステップ6の答がNO(F_INJ=0)になり、その場合には、そのまま本処理を終了する。
【0051】
以上のように、燃料噴射制御処理では、クランク角CAが燃料噴射タイミングTINJと等しくなる(ステップ1:YES)と、過励磁制御が開始され、インジェクタ4への過励磁用電圧(コンデンサ電圧VCおよび昇圧電圧)の印加が開始される(ステップ5)。これにより、インジェクタ4への過励磁電流IEXの供給が開始されることによって、インジェクタ4が開き始め、それに伴って、燃料噴射が開始される。
【0052】
この過励磁用電圧の印加により、実駆動電流IACACTが目標過励磁電流IEXCMDに達すると(ステップ8:YES)、その時点で、インジェクタ4を開弁させるのに十分な過励磁電流IEXが供給されたとして、過励磁制御が終了され、過励磁電流IEXの供給が終了される(ステップ9)。その後、インジェクタ4の開弁の開始時から所定時間TMREFが経過するまで、保持制御が実行され、それにより、バッテリ電圧VBがインジェクタ4に印加され(ステップ14)、過励磁電流IEXよりも小さな保持電流IHが継続して供給されることによって、インジェクタ4が開弁状態に保持され、燃料噴射が継続される。
【0053】
次に、図5を参照しながら、昇圧制御処理について説明する。本処理は、前述した昇圧回路20による昇圧動作を制御するものであり、図4の燃料噴射制御処理と同様、CRK信号の発生に同期して、繰り返し実行される。また、この昇圧制御処理は、燃料噴射制御処理と並行して実行される。
【0054】
まず、図5のステップ21では、前述したTDC信号が発生したか否かを判別する。このステップ21の答がYESのときには、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、前述した燃料噴射タイミングTINJを算出する(ステップ22)。これにより、燃料噴射タイミングTINJは、圧縮行程における所定のタイミングに算出される。
【0055】
次いで、上記ステップ22で算出された燃料噴射タイミングTINJに応じて、昇圧タイミングTBOOSTを算出し(ステップ23)、本処理を終了する。この昇圧タイミングTBOOSTは、過昇圧制御が開始されるタイミングに相当し、クランク角CAで表される。この過昇圧制御は、コンデンサ23からインジェクタ4への過励磁電流IEXの供給を開始する直前に、コンデンサ23に昇圧電圧を印加することによって、コンデンサ電圧VCを、後述する所定の上限値VMAXを超えないように上昇させるものであり、その詳細についは後述する。また、上記ステップ23の実行により、昇圧タイミングTBOOSTは、燃料噴射タイミングTINJの直前のタイミングで、かつ、過昇圧制御により上昇したコンデンサ電圧VCが上限値VMAXを超えないようなタイミングに、算出される。さらに、昇圧タイミングTBOOSTは、TDC信号の発生タイミングよりも遅いタイミングに算出される。
【0056】
一方、上記ステップ21の答がNOで、TDC信号が発生していないときには、過昇圧制御フラグF_BOOSTが「1」であるか否かを判別する(ステップ24)。この過昇圧制御フラグF_BOOSTは、過昇圧制御の実行中に、「1」にセットされるものである。
【0057】
このステップ24の答がNOのとき、すなわち、過昇圧制御の実行中でないときには、クランク角CAが前記ステップ23で算出された昇圧タイミングTBOOSTと等しいか否かを判別する(ステップ25)。このステップ25の答がYESのときには、過昇圧制御を開始するために、過昇圧制御フラグF_BOOSTを「1」にセットし(ステップ26)、ステップ27に進む。このステップ26の実行により上記ステップ24の答がYES(F_BOOST=1)になり、その場合には、ステップ25および26をスキップし、ステップ27に進む。
【0058】
このステップ27では、実駆動電流IACACTが前記目標過励磁電流IEXCMD以上であるか否かを判別する。この答がNOのときには、検出された実コンデンサ電圧VCACTが前記所定の上限値VMAXよりも低いか否かを判別する(ステップ28)。この上限値VMAXは、コンデンサ23の発熱を防止可能な最高の電圧値に設定されており、例えば50Vに設定されている。このステップ28の答がYESのとき(VCACT<VMAX)には、駆動信号SDをスイッチ21に出力することによって、昇圧回路20による昇圧動作を実行し(ステップ29)、本処理を終了する。
【0059】
一方、上記ステップ28の答がNOで、実コンデンサ電圧VCACTが上限値VMAXに達したときには、スイッチ21への駆動信号SDの出力を停止することによって、昇圧回路20による昇圧動作を停止し(ステップ30)、本処理を終了する。以上のステップ28〜30の実行によって、コンデンサ電圧VCは、上限値VMAXを超えないように制御される。
【0060】
前述したように、昇圧タイミングTBOOSTがTDC信号の発生タイミングよりも遅いタイミングに算出されることから明らかなように、エンジン3の1燃焼サイクルにおいて、過昇圧制御が開始される前に、TDC信号の発生によりステップ21の答がYESになり、燃料噴射タイミングTINJが算出される(ステップ22)とともに、この燃料噴射タイミングTINJに応じて、昇圧タイミングTBOOSTが算出される(ステップ23)。そして、当該燃焼サイクルにおいて、クランク角CAが算出された昇圧タイミングTBOOSTと等しくなる(ステップ25:YES)と、過昇圧制御が開始される(ステップ28〜30)。
【0061】
一方、前記ステップ27の答がYESで、実駆動電流IACACTが目標過励磁電流IEXCMDに達したときには、過昇圧制御を終了するために、過昇圧制御フラグF_BOOSTを「0」にリセットし(ステップ31)、本処理を終了する。
【0062】
一方、前記ステップ25の答がNOのとき、すなわち、過昇圧制御の実行中でなく、かつ、過昇圧制御の開始タイミングに相当しないときには、実コンデンサ電圧VCACTが所定の目標値VOBJ(例えば40V)よりも低いか否かを判別する(ステップ32)。このステップ32の答がYESのときには、前記ステップ29と同様、昇圧動作を実行し(ステップ33)、本処理を終了する一方、NOで、実コンデンサ電圧VCACTが目標値VOBJに達したときには、前記ステップ30と同様、昇圧動作を停止し(ステップ34)、本処理を終了する。
【0063】
前述したように、過昇圧制御が、コンデンサ23からインジェクタ4への過励磁電流IEXの供給開始の直前に実行されることと、過昇圧制御および過励磁制御がいずれも、実駆動電流IACACTが目標過励磁電流IEXCMDに達したときに終了されることから明らかなように、過昇圧制御の実行中でないことは、過励磁制御の実行中でないことを表す。また、上記ステップ32〜34は、過昇圧制御の実行中でないときに実行され、したがって、過励磁制御の実行中でないときに、すなわち、コンデンサ23からインジェクタ4への電力供給中でないときに、実行される。したがって、この場合、昇圧動作の実行によって発生した昇圧電圧は、インジェクタ4には印加されずにコンデンサ23に印加され、それにより、コンデンサ23が充電される。また、この場合の昇圧動作は、ステップ32〜34の実行内容から明らかなように、コンデンサ電圧VCが目標値VOBJになるように、制御される。
【0064】
また、図6は、燃料噴射制御装置1の動作例(実線)を、比較例(破線)とともに示している。この比較例は、燃料噴射制御装置1と異なり、上述した過昇圧制御を実行せずに、インジェクタ4への過励磁電流IEXの供給開始後、実コンデンサ電圧VCACTが目標値VOBJよりも低い所定のしきい値VREFを下回った時点から、昇圧動作を開始し、それにより、コンデンサ電圧VCを目標値VOBJになるように制御するとともに、この昇圧動作を目標値VOBJになった時点で停止した場合の例である。また、図6において、VIACTは、インジェクタ4に実際に印加された電圧(以下「実インジェクタ電圧」という)である。
【0065】
図6に実線で示すように、燃料噴射制御装置1では、クランク角CAが、燃料噴射タイミングTINJの直前のタイミングである昇圧タイミングTBOOSTと等しくなる(図5のステップ25:YES)と、過昇圧制御が実行される(ステップ28〜30)。これにより、昇圧動作が行われ、昇圧電圧がコンデンサ23に印加されることによりコンデンサ23が充電されることによって、それまで目標値VOBJに収束していた実コンデンサ電圧VCACTが上昇する。
【0066】
そして、クランク角CAが燃料噴射タイミングTINJと等しくなる(図4のステップ1:YES)と、過励磁制御が実行される(ステップ5)。これにより、コンデンサ電圧VCを含む過励磁用電圧がインジェクタ4に印加されることによって、実コンデンサ電圧VCACTが低下し、目標値VOBJよりも低くなるとともに、実インジェクタ電圧VIACTが上昇する。また、インジェクタ4への過励磁用電圧の印加によって、過励磁電流IEXがインジェクタ4に供給され、それにより、インジェクタ4に流れる実駆動電流IACACTが上昇する。さらに、過励磁制御の実行中、これと並行して過昇圧制御が実行される。その後、過励磁電流IEXの供給により実駆動電流IACACTが目標過励磁電流IEXCMDに達する(ステップ8および27:YES)と、過昇圧制御および過励磁制御がともに終了される(ステップ9、31)。
【0067】
過励磁制御の終了によりコンデンサ23からインジェクタ4への電力供給が停止されることと、過昇圧制御の終了に伴って、実コンデンサ電圧VCACTが目標値VOBJになるように、昇圧電圧がコンデンサ23に印加される(ステップ32〜34)ことから、実コンデンサ電圧VCACTは、目標値VOBJに向かって上昇し、収束する。また、過励磁制御の終了後、前述した保持制御が実行される(ステップ14)。これにより、過励磁用電圧よりも低いバッテリ電圧VBがインジェクタ4に印加されることによって、実インジェクタ電圧VIACTおよび実駆動電流IACACTは、過励磁制御の実行中よりも低くなる。
【0068】
以上のように、燃料噴射タイミングTINJの直前に、すなわちコンデンサ23からインジェクタ4に電力を供給する直前にあらかじめ、過昇圧制御によって、コンデンサ電圧VCを目標値VOBJからさらに上昇させるので、実インジェクタ電圧VIACTと実駆動電流IACACTの上昇度合はともに非常に大きくなり、実駆動電流IACACTは、速やかに目標過励磁電流IEXCMDに達する。したがって、インジェクタ4を速やかに開弁させ、その応答性を高めることができる。
【0069】
これに対して、図6に破線で示す比較例では、本実施形態と異なり、過昇圧制御が実行されず、インジェクタ4への電力供給の開始時、目標値VOBJに保持された状態のコンデンサ電圧VCを含む過励磁用電圧がインジェクタ4に印加される。したがって、図6に示すように、本実施形態の場合と比較して、実インジェクタ電圧VIACTと実駆動電流IACACTの上昇度合がともに小さく、インジェクタ4への電力供給の開始時から実駆動電流IACACTが目標過励磁電流IEXCMDに達するまでに要する時間が長くなり、インジェクタ4の開弁が遅くなり、その応答性は低くなる。
【0070】
また、本実施形態によれば、過昇圧制御の開始タイミングを規定する昇圧タイミングTBOOSTが、実コンデンサ電圧VCACTが上限値VMAXを超えないようなタイミングに算出されることと、過昇圧制御の実行中、コンデンサ電圧VCが上限値VMAXを超えないように制御されること、この上限値VMAXがコンデンサ23の発熱を防止可能な最高の電圧値に設定されていることから、コンデンサ23の発熱を防止することができる。
【0071】
さらに、コンデンサ電圧VCを、過励磁制御を終了した後に、すなわちインジェクタ4を開弁させた後に、目標値VOBJに保持するとともに、インジェクタ4に電力を供給する直前にのみ目標値VOBJから上昇させるので、コンデンサ23の発熱を確実に防止することができる。同じ理由により、インジェクタ4への今回の電力供給が終了してから次回の電力供給が行われるまでの間、コンデンサ電圧VCを目標値VOBJよりも高い値に保持するための昇圧動作を継続して行う必要がないので、その分、バッテリ25の電力を確保でき、したがって、エンジン3の良好な燃費を確保することができる。
【0072】
また、コンデンサ電圧VCを目標値VOBJから上昇させるので、図6に実線で示すように、インジェクタ4への電力供給によって低下したときの実コンデンサ電圧VCACTは比較的高い。このため、コンデンサ23として、その電圧の上限値はそのままで、電圧の下限値がより大きな、容量の小さな小型のものを採用することが可能になり、それにより、燃料噴射制御装置1の小型化を図ることができる。
【0073】
これに対して、比較例では、コンデンサ電圧VCを目標値VOBJに保持し、目標値VOBJから上昇させないので、図6に示すように、インジェクタ4への電力供給によって低下したときの実コンデンサ電圧VCACTは、本実施形態の場合よりも低くなっている。このため、コンデンサ23として、容量の大きな大型のものを採用しなければならない。
【0074】
また、本実施形態によれば、前述した従来の場合と異なり、昇圧動作を、コンデンサから燃料噴射弁への電力供給の開始から所定時間が経過するのを待って行うのではなく、過励磁制御を終了した後にすぐに、すなわちインジェクタ4を開弁させた後にすぐに行うので、コンデンサ電圧VCの低下量を抑制することができる。したがって、このことによっても、コンデンサ23として、容量の小さな小型のものを採用することが可能になるとともに、昇圧回路20として、電圧の昇圧度合が小さな小型のものを採用することが可能になり、それにより、燃料噴射制御装置1のさらなる小型化を図ることができる。
【0075】
さらに、過励磁制御の実行中にも、すなわち、インジェクタ4への過励磁電流IEXの供給中にも、これと並行して過昇圧制御が実行され、それにより、コンデンサ電圧VCに加え、昇圧電圧もインジェクタ4に印加されるので、コンデンサ電圧VCの低下量をさらに抑制することができる。したがって、上述した効果をより有効に得ることができる。
【0076】
これに対して、比較例では、インジェクタ4への電力供給の開始後、実コンデンサ電圧VCACTがしきい値VREFを下回った時に初めて、昇圧動作を開始するので、コンデンサ電圧VCの低下量を十分に抑制することができない。したがって、このことによっても、図6に示すように、インジェクタ4への電力供給によって低下したときの実コンデンサ電圧VCACTは、本実施形態の場合よりも低くなっている。
【0077】
また、本実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は次のとおりである。すなわち、本実施形態における駆動回路10およびバッテリ25が、本発明における噴射弁駆動手段および電源にそれぞれ相当するとともに、本実施形態におけるECU2が、本発明における噴射開始タイミング設定手段、噴射弁駆動手段および昇圧制御手段に相当する。
【0078】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、過昇圧制御の実行中、実コンデンサ電圧VCACTと上限値VMAXとの比較結果に基づいて、昇圧動作を制御しているが、コンデンサ電圧VCを目標値VOBJから上限値VMAXを超えないように上昇させるのであれば、他の手法によって昇圧動作を制御してもよい。例えば、目標値VOBJと上限値VMAXとの間の所定値(VOBJ<所定値<VMAX)に、実コンデンサ電圧VCACTがなるように、昇圧動作を制御してもよい。また、実施形態では、検出された実コンデンサ電圧VCACTに基づいて昇圧回路20による昇圧動作を制御することにより、コンデンサ電圧VCをフィードバック制御(クローズドループ制御)しているが、コンデンサ電圧VCを検出せずに、オープンループ制御してもよい。
【0079】
さらに、実施形態では、コンデンサ23からインジェクタ4への電力供給中、昇圧回路20による昇圧動作を実行しているが、停止してもよい。また、実施形態では、実駆動電流IACACTが目標過励磁電流IEXCMDに達したときに、インジェクタ4が開弁したものとみなして、コンデンサ電圧VCを目標値VMAXに収束させるための昇圧動作の制御を開始しているが、その開始タイミングを、センサなどで検出されたインジェクタ4の実際の開度に基づいて設定してもよい。さらに、実施形態は、本発明を車両用の筒内噴射式のガソリンエンジンに適用した例であるが、本発明は、これに限らず、吸気ポート噴射式のエンジンや、ディーゼルエンジン、クランク軸が鉛直に配置された船外機などのような船舶推進機用エンジンなど、産業用の各種の内燃機関に適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 燃料噴射制御装置
2 ECU(噴射開始タイミング設定手段、噴射弁駆動手段、昇圧制御手段)
3 エンジン
4 インジェクタ
10 駆動回路(噴射弁駆動手段)
20 昇圧回路
23 コンデンサ
25 バッテリ(電源)
VB バッテリ電圧(電源の電圧)
VC コンデンサ電圧
TINJ 燃料噴射タイミング(噴射開始タイミング)
VOBJ 目標値
VMAX 上限値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射弁を開弁させることにより燃料を内燃機関に噴射する内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
電源の電圧を昇圧するための昇圧回路と、
当該昇圧された昇圧電圧が印加されることによって充電されるコンデンサと、
前記燃料噴射弁から噴射される燃料の噴射開始タイミングを設定する噴射開始タイミング設定手段と、
前記コンデンサに充電された電力を、前記設定された噴射開始タイミングに前記燃料噴射弁に供給することによって、当該燃料噴射弁を開弁させる噴射弁駆動手段と、
前記昇圧回路による昇圧動作を制御することによって、前記コンデンサの電圧を、前記燃料噴射弁を開弁させた後に、所定の目標値になるように制御するとともに、前記噴射開始タイミングの直前に、前記目標値に制御された状態から、所定の上限値を超えないように上昇させる昇圧制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−159025(P2012−159025A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18716(P2011−18716)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】