説明

内燃機関の燃料噴射装置

【課題】ピストンキャビティからの燃料吹き零れによるオイル劣化を抑制しつつ、所望の燃焼性を得られるようにする。
【解決手段】燃料噴射ノズル22を、噴孔22aに近い側のノズルハウジング22bをシリンダヘッド31に形成したノズル挿入孔31aにスライド自由に嵌挿して装着すると共に、燃料噴射ノズル22頭部側のノズルハウジング22cを、支持部材32に嵌挿して固定支持する。さらに、支持部材32の頂壁を、機関回転に同期して回転する回転軸33に固定したカム34に係合すると共に、支持部材32の底面とシリンダヘッド31上面との間に、リターンスプリング35を圧縮状態に付勢して装着する。そして、カム34のプロフィルを、燃料噴射ノズル22からの燃料噴射期間中に燃料噴射ノズル22を、軸方向に往復動させるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射ノズルから、シリンダ内のピストンの頂壁に形成されたキャビティに向けて燃料を噴射する内燃機関の燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、この種の直噴式内燃機関において、機関運転条件に応じて燃料噴射ノズルの噴孔部のシリンダヘッドからの突出・引き込みを切り換えることにより、噴孔部へのデポジットの生成抑制を図った技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−174788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の直接噴射式内燃機関においては、燃料噴射ノズルからキャビティに向けて燃料噴射する際に、キャビティから吹き零れた燃料がシリンダライナに付着してオイル中に混入し、オイル劣化を早めてしまうという問題がある。
燃料噴霧がキャビティから吹き零れないように、燃料圧力を高めて噴射期間を短くしたり、噴射終了時期を早めたりすることは、燃焼性に制限を加えることになり、所望の燃焼性を得ることが難しい。
【0005】
また、噴孔位置をピストン上死点位置においてキャビティの奥深くに位置するように設定することにより、燃料噴霧がキャビティから吹き零れないようにすることも考えられる。
しかし、この方法では、キャビティが噴孔に接近しすぎて噴霧のキャビティへの衝突速度が大きくなるなど、キャビティ内に良好な燃料噴霧状態を生成しにくく、やはり、所望の燃焼性を得ることが難しい。したがって、特許文献1のように、運転条件に応じて噴孔位置を切り換えても、上記問題を解決できるものではない。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、燃料噴霧のキャビティからの吹き零れを抑制してオイル劣化を抑制しつつ所望の燃焼性を得ることができる内燃機関の燃料噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明に係る内燃機関の燃料噴射装置は、
燃料噴射ノズルから、シリンダ内のピストンの頂壁に形成されたキャビティに向けて燃料を噴射する内燃機関の燃料噴射装置において、
前記燃料噴射ノズルの噴孔位置を、ピストン位置に同期してキャビティに指向する方向に往復動させる噴孔移動手段を配設した構成とした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、燃料噴射ノズルの噴孔位置を、ピストン位置に追従させて往復動させることにより、キャビティの適正な位置に燃料噴霧を衝突させつつキャビティから吹き零れない噴射期間を長引かせることが可能となる。
このため、燃料噴霧のキャビティからの吹き零れ抑制によるオイル劣化等の抑制と、所望の燃焼性の確保とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る内燃機関の燃料噴射装置の全体システム構成を示す図である。
【図2】同上装置において燃料噴射ノズルの噴孔位置を往復動させる噴孔移動手段の構成を示す断面図である。
【図3】同上の噴孔移動手段におけるカムのプロフィルと、カムの回転による噴孔位置の移動の様子を示す図である。
【図4】燃料圧力を低圧に設定しつつ燃料噴射期間を遅角側に設定した実施形態の噴射特性を従来例と比較して示したタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
図1は、本発明に係る内燃機関の燃料噴射装置の全体システム構成を示す。
燃料噴射装置10は、燃料タンク12と、低圧ポンプとしてのフィードポンプ14と、燃料フィルタ16と、高圧ポンプとしてのサプライポンプ18と、コモンレール20と、燃料噴射ノズル22と、を含んで構成される。
【0011】
フィードポンプ14は、図示しないエンジンにより駆動され、燃料タンク12に貯留される燃料を吸い上げ、燃料フィルタ16を介してサプライポンプ18に供給する低圧系回路を構成する燃料ポンプである。
サプライポンプ18は、フィードポンプ14と同様に、図示しないエンジンにより駆動され、フィードポンプ14により供給された燃料をさらに加圧し、コモンレール20を介して燃料噴射ノズル22に供給する高圧系回路を構成する燃料ポンプである。コモンレール20は、サプライポンプ18により加圧された高圧燃料を蓄圧する蓄圧配管として機能し、多気筒エンジンの各気筒に対して共通して1つ設けられる。
【0012】
また、サプライポンプ18には、フィードポンプ14により供給される低圧燃料の状態にかかわらず、フィードバック制御によりサプライポンプ18の圧送行程を増減させて、燃料噴射ノズル22から高圧燃料噴射が可能となるようにする電磁弁24が設けられる。なお、フィードポンプ14の送油量は燃料噴射量よりも十分大きくしておくのが技術常識であるので、サプライポンプ18に供給された余剰燃料は、オーバフローバルブ18aから燃料タンク12に戻される。
【0013】
さらに、燃料フィルタ16の上流側、即ち、フィードポンプ14と燃料フィルタ16との間には、燃料フィルタ16上流側の燃料圧力が所定値以上になると開弁し、フィードポンプ14により供給される低圧燃料の全量を燃料タンク12に戻すリリーフ弁26が介装される。
そして、燃料噴射装置10を構成する各種機器は、以下のような燃料噴射回路を構成する。即ち、燃料タンク12に貯留される燃料は、フィードポンプ14により加圧されて低圧燃料となり、燃料フィルタ16に供給される。燃料フィルタ16に供給された低圧燃料は、ここで燃料中のダストや水分が取り除かれた後、サプライポンプ18に供給される。サプライポンプ18に供給された低圧燃料は、電磁弁24によりフィードバック制御されつつ、さらに加圧されて高圧燃料となり、コモンレール20に供給される。コモンレール20に供給された高圧燃料は、運転状態に応じたタイミングで開弁する燃料噴射ノズル22からエンジンの燃焼室内(筒内)に噴射される。一方、燃料噴射ノズル22において、噴射ノズル本体と針弁との隙間から漏れた高圧燃料は、リーク配管28を介して燃料タンク12に戻される。
【0014】
また、前記電磁弁24の制御により、コモンレール20から燃料タンク12への燃料の戻り量を制御することによって、コモンレール20内燃料圧力、したがって、燃料噴射ノズル22からの燃料噴射圧を可変に制御することができる。
前記燃料噴射ノズル22の開弁時期、燃料噴射期間、電磁弁24による燃料噴射圧制御は、コントロールユニット100からの制御信号によって行われる。
【0015】
かかる基本的な全体システム構成を有した燃料噴射装置において、図2以下に示すように、本発明に係る構成が設けられる。
燃料噴射ノズル22の位置、したがって、その噴孔22aの位置を、ピストン30の位置に同期してピストン30の頂壁に形成されたキャビティ30aに指向する方向に往復動させる噴孔移動手段が、以下のように配設される。
【0016】
気筒毎の燃料噴射ノズル22を、その噴孔22aに近い側のノズルハウジング22bをシリンダヘッド31に形成したノズル挿入孔31aにスライド自由かつ気密に嵌挿して装着する。
燃料噴射ノズル22頭部側のノズルハウジング22cは、円筒状の支持部材32に嵌挿して固定支持する。
【0017】
そして、前記支持部材32の頂壁を、機関回転に同期して回転する回転軸33に固定したカム34に係合すると共に、支持部材32の底面とシリンダヘッド31上面との間に、リターンスプリング35を圧縮状態に付勢して装着する。
ここで、カム34のプロフィルを、燃料噴射ノズル22からの燃料噴射期間中に燃料噴射ノズル22を、軸方向に往復動させるように設定する。
【0018】
例えば、運転状態によって変化する燃料噴射期間において、燃料噴射ノズル22が、最も早い(進角された)噴射開始時期から、最も遅い(遅角された)噴射終了時期までの間、ピストン位置に追従して、ピストン30からの距離を一定に維持するように設定する。
最進角噴射開始時期がピストン上死点前、最遅角噴射終了時期がピストン上死点後の場合、カム34のプロフィルは、図3のようになる。
【0019】
このようにすれば、運転状態に応じて燃料噴射期間が可変に設定されても、該燃料噴射期間中、燃料噴射ノズル22の噴孔22aから噴霧角一定で噴射される燃料噴霧の先端(下端)と、キャビティ30a内壁への衝突位置を一定に維持しつつ、キャビティ30a内に収まるように燃料を吹き零れなく噴射させることができる。換言すれば、燃料噴射ノズル22の噴孔22aをピストン位置に応じて往復動させる構成によって、キャビティ22aから吹き零れなく燃料噴射できる燃料噴射期間を、燃料噴射ノズルの噴孔位置が固定された場合より拡大することができる。
【0020】
これにより、キャビティ30aから吹き零れた燃料がシリンダライナ36へ付着することによるオイル劣化を抑制できると共に、燃料噴射期間中キャビティ30a内に安定した性状の噴霧形態ないし混合気を生成し続けることができるので、良好な燃焼性を得ることができる。
因みに、燃料噴射ノズルをキャビティに大きく近づけた位置で固定すれば、燃料噴射期間中、燃料噴霧先端をキャビティ内壁に衝突することは可能であるとしても、キャビティ中央部に勢い良く衝突した燃料噴霧がキャビティ外側に飛び散り、吹き零れによるオイル劣化を十分に抑制することが困難となる。また、ピストン位置に応じて燃料噴霧先端とキャビティ内壁との衝突位置が大きく変化して安定した噴霧形態ないし混合気を生成することができず、良好な燃焼性を得ることができない。
【0021】
また、前記燃料噴射圧制御と併用して、以下のような所望の燃焼形態を任意に得ることも可能となる。
図4において、点線は、高負荷時の燃料噴射期間を示し、高圧で燃料噴射して燃料の微粒化を促進しつつ、上死点付近において高燃焼圧力で短期間で燃焼を終了させる特性として高出力を確保する。
【0022】
一方、内燃機関の機種によって、若しくは機関運転条件として低負荷時、特に暖機運転時には、緩慢燃焼として静粛性、排気温度上昇性能を高めたい要求がある。この場合は、燃料圧力(噴射圧)を低くし、かつ、燃焼期間を遅らせる(燃焼の重心位置を遅角側とする)ことが望ましい。
従来、燃料噴射ノズル(噴孔位置)が固定された状態でのキャビティからの燃料吹き零れ抑制によって定まる燃料噴射期間の限界、特に、燃料噴射終了限界では、図の一点鎖線で示すように燃料圧力を十分低くすると、燃料噴射終了限界の制約によって燃料噴射開始時期が早められる。このため、図の二点鎖線で示すように、燃料圧力を少し大きくして燃料噴射開始時期を遅らせることもできるが、燃料圧力(噴射圧)、燃焼重心位置共に、十分満足できる設定とすることができず、所望の緩慢燃焼運転を得ることが困難であった。
【0023】
これに対し、本発明では、燃料噴射ノズルの噴孔位置をピストン位置に同期して往復動させる構成により燃料噴射期間を拡大でき、特に、燃料噴射終了時期を遅らせることができるため、図の実線で示すように、燃料圧力(噴射圧)、を十分低くしつつ燃料噴射開始時期も十分に遅らせて燃焼重心位置を十分遅角側に持ち来たすことができ、所望の緩慢燃焼運転を得ることができる。
【0024】
なお、本実施形態では、簡易的に、ピストン30が圧縮行程で上死点まで上昇するまでの間は、燃料噴射ノズル22を動かさず、上死点を過ぎてピストン30が下降する膨張行程でのみ燃料噴射ノズル22を下降させ、燃料噴射終了後に上昇させて戻すようなカム山が1個のカムプロフィルとしてもよい。
また、最高燃料圧力一定のまま、キャビティからの吹き零れを抑制しつつ燃料噴射期間を拡大することもできるため、オイル劣化を抑制しつつ機関の高出力化を促進するようなこともできる。
【0025】
なお、燃料噴射ノズル22を動かすことにより、コモンレール20と燃料噴射ノズル22との間の燃料配管も連動することになるが、自在配管継手等を介して接続するなどの方式を採用することで、接続部等での応力の発生を十分に吸収させることが可能である。
さらに、以上の実施形態では、燃料噴射ノズルを動かして噴孔位置を往復動させたが、噴射弁本体に対して噴孔部材を軸方向に移動自由な構造とし、噴孔部材のみをピストン位置に同期させて往復動させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0026】
10 燃料噴射装置
18 サプライポンプ
20 コモンレール
22 燃料噴射ノズル
22a 噴孔
24 電磁弁
30 ピストン
30a キャビティ
31 シリンダヘッド
31a ノズル挿入孔
32 支持部材
33 回転軸
34 カム
35 リターンスプリング
36 シリンダライナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射ノズルから、シリンダ内のピストンの頂壁に形成されたキャビティに向けて燃料を噴射する内燃機関の燃料噴射装置において、
前記燃料噴射ノズルの噴孔位置を、キャビティに指向する方向にピストン位置に同期して往復動させる噴孔移動手段を配設したことを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項2】
前記噴孔移動手段は、前記燃料噴射ノズルを軸方向に動かすことによって噴孔位置を往復動させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記噴孔移動手段は、前記燃料噴射ノズルの頭部に連係しつつ機関回転に同期して回転駆動されるカムと、前記燃料噴射ノズルを前記カム側に付勢するリターンスプリングとを含んで構成されることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記噴孔移動手段は、前記燃料噴射ノズルを、圧縮行程末期から膨張行程初期にかけて軸方向に往復動させることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記噴孔移動手段は、前記噴孔からの燃料噴霧が前記キャビティ内に収められように前記噴孔位置を往復動させることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項6】
前記燃料噴射ノズルからの燃料噴射期間を可変に制御する噴射期間可変制御手段を含むことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項7】
前記燃料噴射ノズルへの燃料圧力を可変に制御する燃料圧力制御手段を含むことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の内燃機関の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−112368(P2012−112368A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264637(P2010−264637)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】