説明

内燃機関の燃料噴射装置

【課題】噴霧形状を燃圧によって変化させることが可能な内燃機関の燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】燃料噴射弁21には、気筒2の中心線CL方向を上下方向とした場合の左右方向に広がるように配置された複数の噴孔25が形成されている。複数の噴孔25の各噴孔からの噴射方向を規定する複数の噴射軸線Axfのうち、隣り合う2つの噴射軸線で形成される角度を挟み角とした場合、気筒2の中央部の近くに位置する2つの噴射軸線で形成される挟み角θ1が、挟み角θ1、θ2、θ3の中で最小となるように、複数の噴孔25が構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁を備えた内燃機関の燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔ノズルを持つ燃料噴射弁を備えた燃料噴射装置として、燃料噴霧間の距離が近く燃圧が高い場合に多孔ノズルの噴射方向下流の空間の燃料存在密度が高くなって、燃料噴霧群全体のペネトレーションが増大する性質を、ピストン運動量が弱い条件で利用するものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−54733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、噴霧特性は噴孔形状、噴霧の広がり角、噴射方向などのノズル固有仕様に依存する。噴霧特性には燃圧で変化するものもあるが噴霧形状を燃圧によって変化させることが困難である。例えば、中央部の燃料存在密度が低い中抜き状の燃料噴霧や、中央部とその外側とで燃料存在密度の差が少ない中実状の燃料噴霧などの噴霧形状を燃圧によって変化させることは困難な状況にある。
【0005】
そこで、本発明は、噴霧形状を燃圧によって変化させることが可能な内燃機関の燃料噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関の燃料噴射装置は、気筒内に点火プラグが設けられた内燃機関の前記気筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁を備え、前記燃料噴射弁に供給される燃料の燃圧を変更可能な内燃機関の燃料噴射装置において、前記燃料噴射弁には、前記気筒の中心線方向を上下方向とした場合の左右方向に広がるように配置された複数の噴孔が形成され、前記複数の噴孔の各噴孔からの噴射方向を規定する複数の噴射軸線のうち、隣り合う2つの噴射軸線で形成される角度を挟み角とした場合、前記気筒の中央部の近くに位置する2つの噴射軸線で形成される前記挟み角が、前記挟み角の中で最小となるように、前記複数の噴孔が構成されているものである(請求項1)。
【0007】
2つの噴射軸線で形成される挟み角が小さい場合は大きい場合に比べて隣接する燃料噴霧間の噴霧間隔が狭くなる。本発明の燃料噴射装置によれば、複数の噴孔から噴射された複数の燃料噴霧は、中央部で噴霧間隔が狭く、その外側で噴霧間隔が広くなるように気筒内に配置される。燃料噴射弁に供給される燃料の燃圧が低ければ、中央部の噴霧間隔が狭くても隣接する2つの燃料噴霧は合体しない。そのため、複数の燃料噴霧の集まりを一つの燃料噴霧とみなした場合、その一つの燃料噴霧の噴霧形状は中央部の燃料存在密度が外側よりも低い中抜き状となる。一方、その燃圧が高ければ、中央部に位置する2つの燃料噴霧の噴霧間隔が更に狭くなってこれらの燃料噴霧が合体する。そのため、上記一つの燃料噴霧の噴霧形状は中央部とその外側とで燃料存在密度の差が少ない中実状となる。従って、燃料噴射弁に供給される燃料の燃圧を適宜制御することによって、噴霧形状を変化させることが可能になる。
【0008】
本発明の燃料噴射装置の一態様として、前記燃料噴射弁は、前記複数の噴孔から噴射される複数の燃料噴霧の集まりを一つの燃料噴霧みなした場合、前記一つの燃料噴霧の噴霧長の変化率が切り替わる特定燃圧値が燃圧の変更範囲内に存在するように構成されており、燃圧が前記特定燃圧値以上の状態と、前記特定燃圧値よりも燃圧が低い状態とが前記内燃機関の運転状態に応じて切り替えられるように、前記燃料噴射弁に供給される燃料の燃圧を制御する燃圧制御手段を更に備えてもよい(請求項2)。複数の燃料噴霧が合体すると合体前に比べてペネトレーションが増加するため噴霧長も合体前に比べて増加する。つまり、燃料噴霧の合体前後で噴霧長の変化率が切り替わるので、中央部に位置する2つ燃料噴霧の合体が始まる燃圧が特定燃圧値に相当する。従って、特定燃圧値よりも燃圧が低い状態と、燃圧が特定燃圧値以上の状態とを切り替えることにより、中抜き状と中実状との間で噴霧形状を変更できる。一般に、中抜き状の噴霧形状が適した運転状態と、中実状の噴霧形状が適した運転状態とが存在するため、内燃機関の運転状態に応じて燃圧を上記のように切り替えることで、運転状態に適した噴霧形状を選択することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明の燃料噴射装置によれば、複数の噴孔から噴射された複数の燃料噴霧が中央部で噴霧間隔が狭く、その外側で噴霧間隔が広くなるように気筒内に配置されるため、燃圧を適宜制御することによって噴霧形状を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一形態に係る燃料噴射装置が適用された内燃機関の要部の断面を模式的に示した図。
【図2】図1の内燃機関を矢印IIの方向から見た状態を模式的に示した図。
【図3】燃料噴射弁に形成された複数の噴孔を示した図。
【図4】図3のIV−IV線に沿った断面図。
【図5】燃圧が特定燃圧値よりも低い場合と特定燃圧値以上の場合とのそれぞれにおける燃料噴霧の状態を模式的に示した説明図。
【図6】燃圧と噴霧長との関係を示した図。
【図7】燃料噴射弁に形成された複数の噴孔の他の形態を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の一形態に係る燃料噴射装置が適用された内燃機関の要部の断面を模式的に示している。内燃機関1は不図示の車両に走行用動力源として搭載可能な火花点火式の4サイクル内燃機関として構成されている。内燃機関1は複数(図では1つ)の気筒2を備えている。各気筒2はシリンダブロック3に形成されており、各気筒2の上部はシリンダヘッド4にて塞がれている。各気筒2にはピストン5が往復運動自在に設けられている。
【0012】
各気筒2には吸気通路9及び排気通路10がそれぞれ接続されている。吸気通路9はシリンダヘッド4に形成された吸気ポート11を含み、排気通路10はシリンダヘッド4に形成された排気ポート12を含む。吸気ポート11は吸気バルブ13にて、排気ポート12は排気バルブ14にてそれぞれ開閉される。図示を省略したが、排気通路10には三元触媒が設けられていて、排気通路10を流れる既燃ガスである排気はその三元触媒にて浄化される。
【0013】
シリンダヘッド4には、気筒2内に先端部を臨ませるようにして気筒2の天井面の中央部に配置された点火プラグ20が設けられている。また、シリンダヘッド4には気筒2内に燃料を噴射する燃料噴射弁21が吸気ポート11に沿うように設けられている。即ち、図2に示すように、燃料噴射弁21は、気筒2の吸気側から排気側へ向けて配置されている。燃料噴射弁21は電磁駆動式の燃料噴射弁であり、その先端部には複数の噴孔が形成されている。図1に示したように、気筒2毎に設けられた燃料噴射弁21は共通のデリバリパイプ22に接続される。デリバリパイプ22には不図示のオイルポンプにて圧送された燃料が導かれる。デリバリパイプ22には各燃料噴射弁21に供給される燃料の燃圧を調整する燃圧調整機構23が設けられている。燃料噴射弁21及び燃圧調整機構23のそれぞれはエンジンコントロールユニット(ECU)24にて制御される。ECU24は内燃機関1の運転状態を適正に制御するためのコンピュータとして構成されている。ECU24には、内燃機関1の回転速度等の運転状態を示す情報が不図示の各種センサから入力される。ECU24は、こうした情報を利用しつつ予め用意された各種の制御プログラムを実行して燃料の噴射時期、噴射期間(噴射量)等の制御を含む燃料噴射制御や点火時期の制御等を行う。ECU24が行う本発明に関連する制御については後述する。
【0014】
図3及び図4に示したように燃料噴射弁21は合計4つの噴孔25が形成されている。これらの噴孔25は気筒2の中心線CL方向を上下方向とした場合の左右方向に広がるように配置されている。なお、図3の左右方向は図1の紙面と直交する方向に相当する。本形態においては、これらの噴孔25は平面視で直線L1上に等間隔で配置されている。各噴孔25の噴射方向は全体として放射状に設定されている。4つの噴孔25がこのように構成されているため、各噴孔25からの燃料噴霧fは図2に示した状態で気筒2内に配置される。各噴孔25の噴射方向を規定する直線を噴射軸線Axfとし、隣り合う2つの噴射軸線Axfで形成される角度を挟み角θ1、θ2、θ3とする。この場合、気筒2の中央部の近くに位置する2つの噴射軸線Axfで形成される挟み角θ1は、他の挟み角θ2、θ3に比べて小さくなっている。本形態では、挟み角θ2と挟み角θ3とは同一である。但し、これらの挟み角θ2、θ3は、中央部の挟み角θ1よりも大きいことを条件として、互いに異ならせることもできる。
【0015】
図2から理解できるように、挟み角が小さい場合は大きい場合に比べて隣接する燃料噴霧間の噴霧間隔が狭くなる。従って、4つの噴孔25から噴射された4つの燃料噴霧fは中央部で噴霧間隔が狭く、その外側で噴霧間隔が広くなるように気筒2内に配置される。4つの燃料噴霧fがこのように配置されるため、燃料噴射弁21に供給される燃料の燃圧が低ければ、中央部の噴霧間隔が狭くても隣接する2つの燃料噴霧は合体しない。そのため、図5のAに示したように、4つの燃料噴霧fの集まりを一つの燃料噴霧Fとみなした場合、その一つの燃料噴霧Fの噴霧形状は中央部の燃料存在密度が外側よりも低い中抜き状となる。一方、その燃圧が高ければ、中央部に位置する2つの燃料噴霧の噴霧間隔が更に狭くなってこれらの燃料噴霧fが合体する。そのため、図5のBに示したように、燃料噴霧Fの噴霧形状は中央部とその外側とで燃料存在密度の差が少ない中実状となる。複数の燃料噴霧fが合体すると合体前に比べてペネトレーションが増加する。このため、図5のBに示すように燃料噴霧Fの噴霧長lはAに示した合体前に比べて増加する。
【0016】
図6は燃圧と噴霧長との関係を示している。この図の実線は本実施形態を、破線は燃料存在密度が左右で同一である比較例をそれぞれ示している。図6から明らかなように、燃料噴射弁21に供給される燃料の燃圧が変化した場合、その燃圧の変更範囲内に噴霧長の変化率が切り替わる特定燃圧値Pcが存在する。この特定燃圧値Pcは燃料噴霧Fの中央部に位置する2つ燃料噴霧fの合体が始まる燃圧に相当すると推測できる。従って、特定燃圧値Pcよりも燃圧が低い状態と、燃圧が特定燃圧値Pc以上の状態とを切り替えることにより、図5に示したように中抜き状と中実状との間で噴霧形状を変更できる。一般に、中抜き状の噴霧形状が適した運転状態と、中実状の噴霧形状が適した運転状態とが存在する。このため、内燃機関1の運転状態に応じて燃圧を上記のように切り替えることで、運転状態に適した噴霧形状を選択することができる。
【0017】
次に、ECU24が行う燃圧制御の一例について説明する。ECU24は、点火プラグ20の近傍に成層混合気を形成して着火性を向上させるべき運転状態の場合、燃圧調整機構23を操作することによって、燃圧を特定燃圧値Pcよりも低い状態に制御して燃料噴霧Fの噴霧形状を中抜き状に変更する(図5のA参照)。この場合、燃料濃度が局所的に高い成層混合気を点火プラグ20の近傍に形成できる。しかも、中抜き状の噴霧形状のため点火プラグ20に対する燃料の衝突を抑制できるから点火プラグ20の点火不良を回避することが可能となる。また、ECU24は内燃機関1の出力を向上させるべき運転状態の場合、燃圧調整機構23を操作することによって、燃圧を特定燃圧値Pc以上の状態に制御して燃料噴霧Fの噴霧形状を中実状に変更する(図5のB参照)。この場合、燃料噴霧Fのペネトレーションが高いため、その噴流効果によって内燃機関1の燃焼効率が増加して出力の向上に寄与することができる。本形態において、本発明に係る燃圧制御手段はECU24及び燃圧調整機構23が協働することにより実現される。
【0018】
本発明は上記形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。上記形態は4つの噴孔を平面視で直線的に配列したものであるが、噴孔の個数に制限はない。また、気筒を上方から見た平面視で、気筒内に広がる噴射軸線で形成される挟み角が中央部で小さくそれ以外で大きくなっていれば、複数の噴孔が必ずしも直線的に配置されなくてもよい。例えば、図7に示したように、4つの噴孔が平面視で直線上に並んでいない形態で本発明を実施することも可能である。また、複数の噴孔を全て同じ形状及び寸法に設計してもよいし、噴孔毎に形状や寸法を変化させることも可能である。
【符号の説明】
【0019】
1 内燃機関
2 気筒
21 燃料噴射弁
23 燃圧調整機構(燃圧制御手段)
24 ECU(燃圧制御手段)
25 噴孔
Axf 噴射軸線
CL 中心線
Pc 特定燃圧値
θ1、θ2、θ3 挟み角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内に点火プラグが設けられた内燃機関の前記気筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁を備え、前記燃料噴射弁に供給される燃料の燃圧を変更可能な内燃機関の燃料噴射装置において、
前記燃料噴射弁には、前記気筒の中心線方向を上下方向とした場合の左右方向に広がるように配置された複数の噴孔が形成され、
前記複数の噴孔の各噴孔からの噴射方向を規定する複数の噴射軸線のうち、隣り合う2つの噴射軸線で形成される角度を挟み角とした場合、前記気筒の中央部の近くに位置する2つの噴射軸線で形成される前記挟み角が、前記挟み角の中で最小となるように、前記複数の噴孔が構成されている内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項2】
前記燃料噴射弁は、前記複数の噴孔から噴射される複数の燃料噴霧の集まりを一つの燃料噴霧みなした場合、前記一つの燃料噴霧の噴霧長の変化率が切り替わる特定燃圧値が燃圧の変更範囲内に存在するように構成されており、
燃圧が前記特定燃圧値以上の状態と、前記特定燃圧値よりも燃圧が低い状態とが前記内燃機関の運転状態に応じて切り替えられるように、前記燃料噴射弁に供給される燃料の燃圧を制御する燃圧制御手段を更に備える請求項1に記載の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−251547(P2012−251547A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−108620(P2012−108620)
【出願日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】