説明

内燃機関の空燃比制御装置及び空燃比制御方法

【課題】学習制御中のフィードバック学習値の過応答の状況に依らず、学習制御の収束性及びロバスト性を常に良好に確保することのできる内燃機関の空燃比制御装置及び空燃比制御方法を提供する。
【解決手段】サブF/B学習制御中のサブF/B学習値SGの更新に際して、その更新開始時の値である初期値Aからの乖離量Eが最大となったときのサブF/B学習値SGの値を最乖離値Bとして記憶するとともに、その最乖離値BとサブF/B学習値SGの現状値との偏差である復帰量Cの値が大きいほど、サブF/B補正値VHの比例ゲインKpが小さくなるように、その復帰量Cに応じて比例ゲインKpの可変設定を行うこととした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の空燃比に係る制御量を変更すべく操作される操作量を、前記制御量の実値と目標値との差に応じて更新されるフィードバック補正値と、前記フィードバック補正値を「0」に近づけるべく更新されるフィードバック学習値とにより補正することで前記空燃比のフィードバック制御を行う内燃機関の空燃比制御装置及び空燃比制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、車載等の内燃機関の排気浄化装置として、プラチナ、パラジウム、ロジウムなどの貴金属を活性物質とした三元触媒を担持した三元触媒コンバータが使用されている。三元触媒は、排気中の一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の酸化と窒素酸化物(NOx)の還元とを同時に行って、これらを無害な二酸化炭素(CO2)や水(H2O)、窒素(N2)とすることで排気の浄化を図るものとなっている。こうした三元触媒による排気浄化は、触媒雰囲気の酸素濃度が、内燃機関で燃焼される混合気の空燃比が理論空燃比であるときに最も効果的に行われる。そこで三元触媒コンバータを排気浄化装置として採用する内燃機関では、燃焼される混合気の空燃比を理論空燃比近傍の一定の狭い幅(ウィンドウ)内に維持するための空燃比フィードバック制御を実施するようにしている。こうした空燃比フィードバック制御では、排気酸素濃度を検出する酸素濃度センサの出力に基づいて、燃料噴射量をフィードバック補正することで、空燃比を上記ウィンドウ内に保持して排気浄化のための良好な反応条件を作り出している。また近年には、例えば特許文献1に見られるように、触媒上流側の排気酸素濃度に基づくメインフィードバック制御と、触媒下流側の排気酸素濃度に基づくサブフィードバック制御との2重のフィードバック制御を通じて空燃比を制御する装置が実用されてもいる。
【0003】
こうした空燃比フィードバック制御では、フィードバック補正値の学習制御が行われている。この学習制御は、空燃比がその目標値となったときのフィードバック補正値の値を記憶することで行なわれる。そして、次回以降の空燃比フィードバック制御に際しては、その記憶した値(フィードバック学習値)を予め足し込むようにすることで、フィードバックの早期収束を図っている。
【0004】
なお、こうしたフィードバック学習値の学習は、限られた期間の間に完了する必要がある。そこで特許文献2に記載の空燃比制御装置では、フィードバック補正値とフィードバック学習値との乖離が大きいときほど、フィードバック学習値の更新ゲインを増大することで、フィードバック学習値の早期収束を図るようにしている。また特許文献3に記載の空燃比制御装置では、触媒下流側の酸素濃度の検出値とその目標値との偏差を積分するとともに、その積分値に応じてフィードバック学習値の更新速度を可変とすることで、空燃比のオーバーシュートを抑えつつ、フィードバック学習値の早期収束を図るようにしている。
【特許文献1】特開2002−227689号公報
【特許文献2】特開平09−112310号公報
【特許文献3】特開2007−092688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような学習制御に際しては、限られた期間内に学習を完了する必要があることから、学習中のフィードバック学習値の更新速度はある程度に高く設定されている。そのため、学習の過程において、フィードバック学習値の過応答(オーバーシュートやアンダーシュート)がしばし生じることになる。例えば図7に示される学習中のフィードバック学習値の推移の一例では、学習の開始後、フィードバック学習値は、一旦アンダーシュートした後、適正な値αへと次第に収束している。
【0006】
こうした過応答後のフィードバック学習値の収束性には、フィードバック補正値のフィードバックゲインが大きく影響する。例えば過応答後のフィードバック学習値の早期収束を図るには、フィードバックゲインを大きく設定する必要がある。ただし、フィードバックゲインが大き過ぎると、同図の曲線Laに示されるように、フィードバック学習値は発振してしまうようになり、制御の不安定化を招いてしまう。またフィードバックゲインが小さ過ぎれば、同図の曲線Lbに示されるように、フィードバック学習値の収束に時間が掛り過ぎてしまうようになる。したがって、過応答後のフィードバック学習値の収束性及び安定性を良好に確保するには、フィードバック補正値のフィードバックゲインの適正化が必要となる。しかしながら、適正なフィードバックゲインの値はその時々のフィードバック学習値の過応答の状況次第で変化する。そのため、最適なフィードバックゲインを設定するには、フィードバック学習値の過応答特性を予測しておく必要があり、その予測の困難性から、過応答後のフィードバック学習値の収束性及び安定性は確保し難いものとなっている。
【0007】
本発明は、こうした実状に鑑みてなされたものであって、その解決しようとする課題は、学習制御中のフィードバック学習値の過応答の状況に依らず、学習制御の収束性及びロバスト性を常に良好に確保することのできる内燃機関の空燃比制御装置及び空燃比制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果を記載する。
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、内燃機関の空燃比に係る制御量を変更すべく操作される操作量を、前記制御量の実値と目標値との差に応じて更新されるフィードバック補正値と、前記フィードバック補正値を「0」に近づけるべく更新されるフィードバック学習値とにより補正することで前記空燃比のフィードバック制御を行う内燃機関の空燃比制御装置において、前記フィードバック学習値の更新に際して、該フィードバック学習値の過応答からの復帰が進むにつれて前記フィードバック補正値のフィードバックゲインが小さくなるように、前記復帰の度合に応じて前記フィードバックゲインを可変設定するフィードバックゲイン設定手段を備えることをその要旨としている。
【0009】
上記構成では、学習制御中にフィードバック学習値が過応答、すなわちオーバーシュートやアンダーシュートしたときには、その後のフィードバック補正値のフィードバックゲインは、過応答からのフィードバック学習値の復帰が進むにつれ、小さく設定されるようになる。ここでフィードバック補正値を「0」に近づけるべく更新されるフィードバック学習値の更新の速度は、フィードバック補正値のフィードバックゲインが大きいほど高くなる。そのため、上記構成では、過応答の直後には、フィードバック学習値の更新速度が高められ、過応答後のフィードバック学習値の復帰が進むにつれ、その更新速度は遅くなるようになり、過応答後のフィードバック学習値の応答性と収束性との両立が図られるようになる。
【0010】
なお上記構成では、過応答からの復帰の度合に基づいてフィードバックゲインを可変設定しているため、その時々のフィードバック学習値の過応答特性に対応したフィードバックゲインの設定が可能である。すなわち、フィードバック学習値の過応答の状況が異なっても、常に適切にフィードバックゲインを設定することができる。したがって上記構成によれば、学習制御中のフィードバック学習値の過応答の状況に依らず、学習制御の収束性及びロバスト性を常に良好に確保することができるようになる。
【0011】
上記課題を解決するため、請求項2に記載の発明では、内燃機関の空燃比に係る制御量を変更すべく操作される操作量を、前記制御量の実値と目標値との差に応じて更新されるフィードバック補正値と、前記フィードバック補正値を「0」に近づけるべく更新されるフィードバック学習値とにより補正することで前記空燃比のフィードバック制御を行う内燃機関の空燃比制御装置において、前記フィードバック学習値の更新に際して、その更新開始時の値からの乖離量が最大となったときの前記フィードバック学習値の値を記憶する記憶手段と、その記憶手段により記憶された値と前記フィードバック学習値の現状値との偏差が大きいほど、前記フィードバック補正値のフィードバックゲインが小さくなるように、前記偏差に応じて前記フィードバックゲインを可変設定するフィードバックゲイン設定手段と、を備えることをその要旨としている。
【0012】
上記構成では、その更新開始時の値からの乖離量が最大となったときのフィードバック学習値の値が、すなわちフィードバック学習値の過応答時の値が記憶されるようになる。そしてその後は、その記憶された値とフィードバック学習値の現状値との偏差が大きくなるほど、すなわち過応答後のフィードバック学習値の収束が進むほど、フィードバック補正値のフィードバックゲインが小さく設定されるようになる。そのため、上記構成では、過応答の直後には、フィードバック学習値の更新速度が高められ、過応答後のフィードバック学習値の収束が進むにつれ、その更新速度は遅くなるようになり、過応答後のフィードバック学習値の応答性と収束性との両立が図られるようになる。
【0013】
なお上記構成では、過応答時のフィードバック学習値の値を基準としてフィードバックゲインを可変設定しているため、その時々のフィードバック学習値の過応答特性に対応したフィードバックゲインの設定が可能である。すなわち、フィードバック学習値の過応答の状況が異なっても、常に適切にフィードバックゲインを設定することができる。したがって上記構成によれば、学習制御中のフィードバック学習値の過応答の状況に依らず、学習制御の収束性及びロバスト性を常に良好に確保することができるようになる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、当該空燃比制御装置は、触媒上流側の排気酸素濃度を検出する空燃比センサの出力より把握される空燃比と目標空燃比との差を縮小すべく燃料噴射量をフィードバック調整するメインフィードバック制御と、触媒下流側の排気酸素濃度の実測値とその目標値との偏差を縮小すべく前記空燃比センサの出力をフィードバック調整するサブフィードバック制御とを通じて前記空燃比のフィードバック制御を行うものであり、前記操作量は前記触媒下流側の排気酸素濃度とされ、前記操作量は前記空燃比センサの出力とされてなることをその要旨としている。
【0015】
上記構成では、上記のようなメイン/サブの二重のフィードバック制御を行う場合のサブフィードバックの学習制御を対象として、上記各請求項に記載の内燃機関の空燃比制御装置における学習制御中の過応答の状況に応じたフィードバックゲインの可変設定が行われるようになる。
【0016】
上記課題を解決するため、内燃機関の空燃比制御方法としての請求項4に記載の発明では、内燃機関の空燃比に係る制御量を変更すべく操作される操作量を、前記制御量の実値と目標値との差に応じて更新されるフィードバック補正値と、前記フィードバック補正値を「0」に近づけるべく更新されるフィードバック学習値とにより補正することで前記空燃比のフィードバック制御を行う方法であって、前記フィードバック学習値の更新に際して、該フィードバック学習値の過応答からの復帰が進むにつれて前記フィードバック補正値のフィードバックゲインが小さくなるように、前記復帰の度合に応じて前記フィードバックゲインを可変設定するようにしたことをその要旨としている。
【0017】
上記方法では、学習制御中にフィードバック学習値が過応答、すなわちオーバーシュートやアンダーシュートしたときには、その後のフィードバック補正値のフィードバックゲインは、過応答からのフィードバック学習値の復帰が進むにつれて小さく設定されるようになる。ここでフィードバック補正値を「0」に近づけるべく更新されるフィードバック学習値の更新の速度は、フィードバック補正値のフィードバックゲインが大きいほど高くなる。そのため、上記方法では、過応答の直後には、フィードバック学習値の更新速度が高められ、過応答後のフィードバック学習値の復帰が進むにつれ、その更新速度は遅くなるようになり、過応答後のフィードバック学習値の応答性と収束性との両立が図られるようになる。
【0018】
なお上記方法では、過応答時を基準としてフィードバックゲインを可変設定しているため、その時々のフィードバック学習値の過応答特性に対応したフィードバックゲインの設定が可能である。すなわち、フィードバック学習値の過応答の状況が異なっても、常に適切にフィードバックゲインを設定することができる。したがって上記方法によれば、学習制御中のフィードバック学習値の過応答の状況に依らず、学習制御の収束性及びロバスト性を常に良好に確保することができるようになる。
【0019】
上記課題を解決するため、内燃機関の空燃比制御方法としての請求項5に記載の発明は、内燃機関の空燃比に係る制御量を変更すべく操作される操作量を、前記制御量の実値と目標値との差に応じて更新されるフィードバック補正値と、前記フィードバック補正値を「0」に近づけるべく更新されるフィードバック学習値とにより補正することで前記空燃比のフィードバック制御を行う方法であって、前記フィードバック学習値の更新に際して、その更新開始時の値からの乖離量が最大となったときの前記フィードバック学習値の値を記憶するとともに、その記憶した値と前記フィードバック学習値の現状値との偏差が大きいほど、前記フィードバック補正値のフィードバックゲインが小さくなるように、前記偏差に応じて前記フィードバックゲインを可変設定するようにしたことをその要旨としている。
【0020】
上記方法では、その更新開始時の値からの乖離量が最大となったときのフィードバック学習値の値が、すなわちフィードバック学習値の過応答時の値が記憶されるようになる。そしてその後は、その記憶された値とフィードバック学習値の現状値との偏差が大きくなるほど、すなわち過応答後のフィードバック学習値の復帰が進むほど、フィードバック補正値のフィードバックゲインが小さく設定されるようになる。そのため、過応答の直後には、フィードバック学習値の更新速度が高められ、過応答後のフィードバック学習値の収束が進むにつれ、その更新速度は遅くなるようになり、過応答後のフィードバック学習値の応答性と収束性との両立が図られるようになる。
【0021】
なお上記方法では、過応答時のフィードバック学習値の値を基準としてフィードバックゲインを可変設定しているため、その時々のフィードバック学習値の過応答特性に対応したフィードバックゲインの設定が可能である。すなわち、フィードバック学習値の過応答の状況が異なっても、常に適切にフィードバックゲインを設定することができる。したがって上記方法によれば、学習制御中のフィードバック学習値の過応答の状況に依らず、学習制御の収束性及びロバスト性を常に良好に確保することができるようになる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の内燃機関の空燃比制御方法において、前記空燃比のフィードバック制御は、触媒上流側の排気酸素濃度を検出する空燃比センサの出力より把握される空燃比と目標空燃比との差を縮小すべく燃料噴射量をフィードバック調整するメインフィードバック制御と、触媒下流側の排気酸素濃度の実測値とその目標値との偏差を縮小すべく前記空燃比センサの出力をフィードバック調整するサブフィードバック制御とを通じて行われ、前記操作量は前記触媒下流側の排気酸素濃度とされ、前記操作量は前記空燃比センサの出力とされてなることをその要旨としている。
【0023】
上記方法では、上記のようなメイン/サブの二重のフィードバック制御を行う場合のサブフィードバックの学習制御を対象として、上記各請求項に記載の内燃機関の空燃比制御方法における学習制御中の過応答の状況に応じたフィードバックゲインの可変設定が行われるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る内燃機関の空燃比制御装置及び空燃比制御方法を具体化した一実施形態を、図1〜図6を参照して詳細に説明する。なお本実施の形態の空燃比制御装置及び空燃比制御方法は、車載内燃機関に適用されるものとなっている。
【0025】
図1に示される内燃機関では、吸気通路10に設置されたスロットルバルブ11の開度制御を通じて燃焼室12に吸入される空気量が調整される。そしてこの空気とインジェクタ13より噴射された燃料との混合気が燃焼室12内で燃焼されるようになっている。燃焼室12内での混合気の燃焼により発生した排気は、排気通路14に排出され、排気通路14に設置された2つの触媒コンバータ(フロント触媒コンバータ15,リア触媒コンバータ16)の排気浄化触媒により浄化される。これらの触媒コンバータ(15,16)には排気浄化触媒として、HC及びCOの酸化とNOxの還元とを同時に行ってこれらを浄化する三元触媒とともに、酸素吸蔵能力を有するセリウム等の助触媒が担持されており、こうした助触媒の酸素吸蔵能力によって、より高い排気浄化性能が発揮されるようになっている。
【0026】
こうした空燃比フィードバック制御は、機関制御を司る電子制御ユニット17によって実行される。電子制御ユニット17は、機関制御に係る各種演算処理を実行する中央演算処理装置(CPU)、機関制御用のプログラムやデータの記憶された読込専用メモリ(ROM)、CPUの演算結果等を一時的に記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、外部との信号の入出力のための入出力ポート(I/O)等を備えて構成されている。
【0027】
こうした電子制御ユニット17の入力ポートには、アクセル操作量を検出するアクセルセンサ18、スロットルバルブ11の開度を検出するスロットルセンサ19、吸入空気量を検出するエアフローメータ20、機関回転速度を検出するNEセンサ21、インジェクタ13に供給される燃料の圧力(燃圧)を検出する燃圧センサ22の出力が入力されている。
【0028】
また電子制御ユニット17の入力ポートには、触媒上流側(フロント触媒コンバータ15の排気上流側)に設置された空燃比センサ23、及び触媒下流側(リア触媒コンバータ16の排気下流側)に設置された酸素センサ24の出力も入力されている。空燃比センサ23は、図2に示すように、触媒上流側の排気酸素濃度に応じた電圧信号を出力する。なお本実施の形態に採用される空燃比センサ23は、触媒上流側の排気酸素濃度が理論空燃比で混合気が燃焼されたときの値Xであるときに、その出力VAFがちょうど「0V」となるように構成されている。また酸素センサ24は、触媒下流側の排気酸素濃度に応じた電圧信号を出力する。図3に示すように、この酸素センサ24の出力VOは、触媒下流側の排気酸素濃度が、理論空燃比で混合気が燃焼されたときの値Xであるときを境界にしてステップ状に変化するようになっている。なお本実施の形態に採用される酸素センサ24は、理論空燃比で燃焼が行われたときに、その出力VOが「0.5V」となるように構成されている。
【0029】
以下、こうした電子制御ユニット17によって実行される空燃比フィードバック制御の詳細について説明する。ここでは、空燃比フィードバック制御として、メインフィードバック制御とサブフィードバック制御との二重のフィードバック制御を行っている。そしてメインフィードバックでは、触媒上流側の排気酸素濃度を検出する空燃比センサ23の出力VAFより把握される空燃比と目標空燃比との差を縮小すべく燃料噴射量のフィードバック調整が行われるようになっている。またサブフィードバック制御では、酸素センサ24による触媒下流側の排気酸素濃度の実測値とその目標値との偏差を縮小すべく空燃比センサ23の出力VAFのフィードバック調整が行われるようになっている。
【0030】
さて電子制御ユニット17は基本的には、機関回転速度や機関負荷率に基づいて、そのとき必要とされる燃料噴射量を指示噴射量Qとして算出し、その算出された指示噴射量Q分の燃料が噴射されるようにインジェクタ13を駆動する。このときの指示噴射量Qの算出に用いられる機関回転速度は、上記NEセンサ21の検出結果から求められる。また機関負荷率は、内燃機関の最大負荷に対する現在の負荷の比率を示すもので、機関回転速度とエアフローメータ20の検出する吸入空気量とに基づいて算出されている。
【0031】
こうした指示噴射量Qに応じたインジェクタ13の駆動に際しては、指示燃料噴射量Q分の燃料を噴射するために必要なインジェクタ13の通電時間として指示噴射時間TAUが算出される。この指示噴射時間TAUは、下式(1)を用いて算出されている。
【0032】

TAU=Q×K1×KINJA+KINJB …(1)

上式(1)において「K1」は、インジェクタ13に供給される燃料の圧力(燃圧)に応じた燃料噴射率(単位時間におけるインジェクタ13からの燃料噴射量)の差異による燃料噴射量の変化分を補償するための燃圧補正係数である。この燃圧補正係数K1は、燃圧が規定の基準燃圧のときにその値が「1.0」に設定され、燃圧が低くなるほどその値が大きく、また燃圧が高くなるほどその値が小さく設定されるようになっている。また上式(1)の「KINJA」は感度係数であり、その値は、燃圧が基準燃圧であるときの単位量の燃料噴射に必要なインジェクタ13の通電時間を示すものとなっている。また上式(1)の「KINJB」は、インジェクタ13の無効噴射期間であり、その値は、インジェクタ13への通電開始から実際に燃料噴射が開始されるまでの時間に相当するものとなっている。
【0033】
次に上記指示噴射量Qの算出手順の詳細を説明する。指示噴射量Qは、基本噴射量Qbase、メインフィードバック補正値(以下「メインF/B補正値DF」と記載)、及びメインフィードバック学習値(以下「メインF/B学習値MG(i)」と記載)に基づいて、下式(2)を用いて算出される。
【0034】

Q=Qbase+DF+MG(i) …(2)

ここで基本噴射量Qbaseは、燃焼室12内で燃焼される混合気の空燃比を理論空燃比(=14.7)とするために必要な燃料噴射量の理論値であり、その値は、エアフローメータ20により検出された吸入空気量GAを、理論空燃比で除算した値(GA/14.7)として求められる。またメインF/B補正値DFは、上記空燃比センサ23による触媒上流の排気酸素濃度の検出結果より把握される実際の空燃比と理論空燃比との偏差に応じて増減される補正値であり、このメインF/B補正値DFの増減により、実空燃比が理論空燃比近傍に維持されるように、指示噴射量Qが、ひいては指示噴射時間TAUが増減されるようになっている。更にメインF/B学習値MG(i)は、内燃機関の燃料系や吸気系の個体差や経時劣化による、理論空燃比を得るために必要な燃料噴射量の理論値と実値との定常偏差を補償するものであり、その値は、上記メインF/B補正値DFの値に応じて更新される。
【0035】
上記のメインF/B補正値DFは、より具体的には、燃料量偏差ΔQ、比例ゲインGp、燃料量偏差積分値ΣΔQ及び積分ゲインGiに基づいて、下式(3)を用いて算出される。
【0036】

DF=ΔQ×Gp+ΣΔQ×Gi …(3)

上式(3)の右辺第1項「ΔQ×Gp」は、理論空燃比に対する実空燃比のずれ量に比例した値を取る比例項となっている。なおこうした比例項における燃料量偏差ΔQは、吸入空気量GA、実空燃比ABF及び基本噴射量Qbaseに基づいて、下式(4)を用いて算出されている。また比例ゲインGpは、予め実験やシミュレーション等を通じてその値の適合が図られた定数であり、ここでは負の値に設定されている。
【0037】

ΔQ=(GA/ABF)−Qbase …(4)

なお上式(4)における実空燃比ABFの値は、空燃比センサ23の出力VAF(厳密には、サブフィードバック制御での補正後の出力VAFs)より算出されるようになっている。こうして求められる燃料量偏差ΔQの値は、実際に燃焼された燃料量から理論空燃比を得るために必要な理論上の燃料量を指し引いた値となっている。
【0038】
また上式(3)の右辺第2項「ΣΔQ×Gi」は、上記比例項「ΔQ×Gp」だけでは解消することのできない、理論空燃比に対する実空燃比の残留偏差を解消するための積分項となっている。ここでの燃料量偏差積分値ΣΔQは、上記燃料量偏差ΔQの時間積分値として求められる。またここでの積分ゲインGiは、予め実験やシミュレーション等を通じてその値の適合が図られた定数であり、ここでは負の値に設定されている。
【0039】
こうして求められるメインF/B補正値DFは、基本的には、理論空燃比よりもリッチな空燃比で燃焼が行われて触媒上流側の排気酸素濃度が低くなるときに基本噴射量Qbaseを減少させ、理論空燃比よりもリーンな空燃比で燃焼が行われて触媒上流側の排気酸素濃度が高くなるときに基本噴射量Qbaseを増大させるようにその値が増減される。そのため、燃焼室12内で燃焼される混合気の空燃比は、こうしたメインF/B補正値DFの増減を通じて理論空燃比に近づくようにフィードバック調整されることになる。
【0040】
一方、上述のメインF/B学習値MG(i)は、上記の如く算出されるメインF/B補正値DFに応じてその値が更新されるものとなっている。具体的にはメインF/B学習値MG(i)は、下記の更新条件(A),(B)が共に満されたときに、その値がそのときのメインF/B補正値DFに更新されるようになっている。
【0041】
(A)メインF/B補正値DFによる基本噴射量Qbaseの補正率、すなわち基本噴射量Qbaseに対するメインF/B補正値DFの比率(=|DF/Qbase|)が十分に大きい(例えば「1%」以上)。
【0042】
(B)メインF/B補正値DFの変動量が十分に小さい。
なおこうしたメインF/B学習値MG(i)による補正の結果によっては、メインF/B補正値DFが「0」に近づけられるようになる。そしてメインF/B補正値DFが「0」に近づいたときのメインF/B学習値MG(i)の値は、吸気系や燃料系の個体差や経時変化に起因した、理論空燃比に対する実空燃比の定常偏差に相応する値となるようになっている。
【0043】
またメインF/B学習値MG(i)は、内燃機関の負荷領域に応じて区分けされた複数の学習領域i(i=1,2,3…)毎に個別に算出されている。そしてそのときの機関負荷に応じて、使用されるメインF/B学習値MG(i)として対応する学習領域iのものが選択されるようになっている。
【0044】
以上のように、本実施の形態に係る内燃機関の燃料噴射制御装置では、触媒上流側の排気酸素濃度を検出する空燃比センサ23の検出結果に基づく空燃比のフィードバック制御、すなわちメインフィードバック制御が行なわれている。一方、本実施の形態では、これに加え、個体差や経時変化による空燃比センサ23の出力特性のばらつきによる上記メインフィードバック制御の精度低下を抑制するためのサブフィードバック制御が併せ行なわれている。
【0045】
こうしたサブフィードバック制御においては、上記メインフィードバック制御に使用される実空燃比ABFの算出に用いられる空燃比センサ23の出力VAFを、下式(5)に示される態様で補正するようにしている。なお下式(5)の「VAFs」は、サブフィードバック制御による補正後の空燃比センサ23の出力を、「VAF」は、その補正前の出力をそれぞれ示している。
【0046】

VAFs→VAF+VH+SG …(5)

上式(5)の「VH」は、サブフィードバック(サブF/B)補正値であり、その値は触媒下流に設置された上記酸素センサ24の検出結果に応じて増減されるものとなっている。また上式(5)の「SG」は、サブF/B学習値であり、その値はサブF/B補正値VHの増減に応じて更新されるものとなっている。
【0047】
サブF/B補正値VHは、電圧偏差ΔV、比例ゲインKp、電圧偏差積分値ΣΔV、積分ゲインKi、電圧微分値dV及び微分ゲインKdに基づき、下式(6)を用いて算出される。
【0048】

VH=ΔV×Kp+ΣΔV×Ki+dV×Kd …(6)

上式(6)の右辺第1項「ΔV×Kp」は、触媒下流側の排気酸素濃度についての実際の値と、理論空燃比で燃焼が行なわれたときのその値との偏差に比例した値を取る比例項となっている。この比例項「ΔV×Kp」における電圧偏差ΔVは、酸素センサ24の実際の出力VOから目標出力tVOを減算した値(=VO−tVO)として算出されている。ここでは、目標出力tVOは、理論空燃比で燃焼が行われたときの酸素センサ24の出力の理論値に設定されている。なお図3に示したように、理論空燃比よりもリーンな空燃比で燃焼が行われて、触媒下流側の排気酸素濃度が理論空燃比での値Xよりも高くなると、この酸素センサ24の出力VOは目標出力tVOよりも小さい値を取るようになっている。また理論空燃比よりもリッチな空燃比で燃焼が行われて、触媒下流側の排気酸素濃度が理論空燃比での値Xよりも低くなると、出力VOは目標出力tVOよりも大きい値を取るようになっている。またこうした比例項「ΔV×Kp」における比例ゲインKpは、予め実験やシミュレーション等を通じてその値の適合が図られた定数であり、ここでは負の値に設定されている。
【0049】
また上式(6)の右辺第2項「ΣΔV×Ki」は、上記比例項「ΔV×Kp」だけでは解消することのできない、理論空燃比に対する実空燃比の残留偏差を解消するための積分項となっている。ここでの電圧偏差積分値ΣΔVは、上記電圧偏差ΔVの時間積分値として求められる。またここでの積分ゲインKiは、予め実験やシミュレーション等を通じてその値の適合が図られた定数であり、ここでは負の値に設定されている。
【0050】
更に上式(6)の右辺第3項「dV×Kd」は、触媒下流側の排気酸素濃度を理論空燃比における値に収束させる際の応答性を高めるための微分項となっている。ここでの電圧微分値dVは、酸素センサ24の出力VOの時間微分値として求められており、その値は出力VOの単位時間当りの変化量を表わしている。また微分項「dV×Kd」における微分ゲインKdは、予め実験やシミュレーション等を通じてその値の適合が図られた定数であり、ここでは負の値に設定されている。
【0051】
こうして求められるサブF/B補正値VHの値は、理論空燃比よりもリッチな空燃比で燃焼が行われて触媒下流側の排気酸素濃度が低くなるときには、酸素センサ24の出力VOが上記目標出力tVOよりも大きくなるため、実空燃比ABFの算出に供される空燃比センサ23の出力VAFを減少補正するようにその値が減少される。そのため、このときの実空燃比ABFの計算値は、よりもリッチな空燃比であることを示す値へと補正され、基本噴射量Qbaseが更に減量補正されるようにメインF/B補正値DFの値が減少されるようになる。一方、理論空燃比よりもリーンな空燃比で燃焼が行われて触媒下流側の排気酸素濃度が高くなるときには、酸素センサ24の出力VOが上記目標出力tVOよりも小さくなるため、実空燃比ABFの算出に供される空燃比センサ23の出力VAFを増大補正するようにその値が増大される。そのため、このときの実空燃比ABFの計算値は、よりもリーンな空燃比であることを示す値へと補正され、基本噴射量Qbaseが更に増量補正されるようにメインF/B補正値DFの値が増大されるようになる。したがって、サブF/B補正値VHの増減によっては、触媒下流側の排気酸素濃度が、理論空燃比で燃焼が行われたときの値となるように、燃料噴射量がフィードバック調整されるようになる。
【0052】
一方、こうしたサブF/B補正値VHの増減に応じたサブF/B学習値SGの更新は、以下の態様で行われる。すなわち、サブF/B学習値SGの更新に際しては、まずサブF/B補正値VHの徐変値を算出し、更にこの徐変値に上限ガード及び下限ガードを施して更新量SGKが算出される。そしてこの更新量SGKを、更新前のサブF/B学習値SGに加算した値を最新の値として設定することで、サブF/B学習値SGの更新が行われる(「更新後のSG」←「更新前のSG」+SGK)。
【0053】
こうして更新されるサブF/B学習値SGによっては、サブF/B補正値VHの値が「0」に近づけられるようになる。そしてサブF/B補正値VHの値が「0」に近づいたときのサブF/B学習値SGの値は、空燃比センサ23の出力特性や触媒の排気浄化特性の個体差や経時変化に起因した、理論空燃比に対する実空燃比の定常偏差に相応する値となるようになっている。以下、こうしたサブF/B学習値SGの更新に係る制御を、「サブF/B学習制御」と記載する。
【0054】
次にこうした本実施の形態でのサブF/B学習制御の詳細について説明する。本実施の形態では、サブF/B学習制御中のサブF/B学習値SGの更新に際して、過応答時、すなわちオーバーシュート時やアンダーシュート時のサブF/B学習値SGの値を基準としたサブF/B補正値VHのフィードバックゲイン(以下「F/Bゲイン」と記載)の可変設定を行うようにしている。そしてこれにより、サブF/B学習制御中のサブF/B学習値SGの過応答の状況に依らず、同学習制御の収束性及びロバスト性を常に良好に確保するようにしている。具体的には、サブF/B学習値SGの更新に際して、その更新開始時の値からの乖離量が最大となったときの同サブF/B学習値SGの値を記憶するようにしている。そしてその記憶された値とサブF/B学習値SGの現状値との偏差が大きいほど、サブF/B補正値VHのF/Bゲインが小さくなるように、その偏差に応じてF/Bゲインを可変設定するようにしている。そして、これにより、サブF/B学習値SGの更新に際して、該サブF/B学習値SGの過応答からの復帰が進むにつれ、サブF/B補正値VHのF/Bゲインを小さく設定するようにしている。
【0055】
なお本実施の形態では、こうしたサブF/B学習制御中のサブF/B補正値VHのF/Bゲインの可変設定を、比例ゲインKpを対象に行うようにしている。もっとも、必要であれば、積分ゲインKiや微分ゲインKdも、そうした可変設定の対象としても良い。
【0056】
図4に、こうした本実施の形態でのサブF/B学習制御の制御態様の一例を示す。同図の例では、サブF/B学習制御の開始後、サブF/B学習値SGは減少されている。そしてサブF/B学習値SGは、適正値αを一旦アンダーシュートした後に増加に転じ、次第に適正値αに収束されるように推移している。ここで本実施の形態では、サブF/B学習値SGの更新開始時の値(初期値A)からの乖離量E(=|SGF−SG|)が最大となったときの、同図の例ではサブF/B学習値SGの最小となったときの同サブF/B学習値SGの値を、最乖離値Bとして記憶するようにしている。そしてアンダーシュートからの復帰が始まり、サブF/B学習値SGが増加傾向に転じた後は、その最乖離値BとサブF/B学習値SGの現状値との偏差である復帰量C(=|B−SG|)に応じて、サブF/B補正値VHの比例ゲインKpを可変設定するようにしている。
【0057】
このときの比例ゲインKpを設定は、図5に例示のような復帰量Cと比例ゲインKpとの一次元マップを用いて、復帰量Cに基づき比例ゲインKpを算出することで行なわれる。この一次元マップは、復帰量Cの値が小さいほど、比例ゲインKpの値が大きくなるように作成されている。そのため、アンダーシュートからのサブF/B学習値SGの復帰開始の直後には、比例ゲインKpの値は大きく設定され、その後、アンダーシュートからの復帰が進むにつれ、比例ゲインKpの値は次第に小さく設定されるようになる。ここで一般に、比例ゲインKpの値が大きいほど、サブF/B補正値VHの応答速度は高くなり、またサブF/B学習値SGの更新速度も高くなる傾向にある。したがってアンダーシュートの直後には、サブF/B学習値SGの更新速度が高められ、過応答からの復帰が進むにつれ、その更新速度は遅くなるようになる。そのため、アンダーシュート後のサブF/B学習値SGの応答性と収束性との両立が図られるようになっている。なお、更新開始後にサブF/B学習値SGがオーバーシュートする場合にも、サブF/B学習値SGの増減の方向が反対となるだけで、基本的にはアンダーシュート時と同様にサブF/B学習制御が行われることになる。
【0058】
ここで本実施の形態では、サブF/B学習値SGの過応答(アンダーシュート/オーバーシュート)後における比例ゲインKpの値を、過応答時のサブF/B学習値SGの値を基準に可変設定している。そのため、サブF/B学習値SGの過応答の状況が異なっても、比例ゲインKpを常に適正に設定することが可能となる。すなわち、その時々の過応答特性に対応して比例ゲインKpを適切に設定することができるようになる。そのため、本実施の形態では、サブF/B学習中のサブF/B学習値SGの過応答の状況に依らず、学習制御の収束性及びロバスト性を常に良好に確保することができるようになっている。
【0059】
図6は、こうしたサブF/B学習制御中の比例ゲインKpの可変設定に係るF/Bゲイン設定ルーチンのフローチャートを示している。本ルーチンの処理は、サブF/B学習制御の実施中に、電子制御ユニット17により、規定の制御周期毎に繰り返し実行されるものとなっている。
【0060】
さて、本ルーチンの処理が開始されると、電子制御ユニット17はまずステップS10において、サブF/B学習実行フラグが「0」から「1」に切り替えられた直後であるか否かを確認する。サブF/B学習実行フラグは、サブF/B学習制御の開始時に「1」にセットされ、その完了時に「0」にクリアされるフラグとなっている。したがってこのときの電子制御ユニット17は、サブF/B学習制御の開始の直後であるか否かを確認している。
【0061】
ここで電子制御ユニット17は、サブF/B学習制御の開始の直後であれば(S10:YES)、ステップS20においてそのときのサブF/B学習値SGの値を初期値Aに設定した後、ステップS30に処理を進める。一方、サブF/B学習制御の開始の直後でなければ(S10:NO)、電子制御ユニット17はステップS20の処理をスキップしてそのままステップS30に処理を進める。
【0062】
処理がステップS30に進められると、電子制御ユニット17はそのステップS30において、初期値Aからの現状のサブF/B学習値SGの乖離量E(=|A−SG|)がそれまでの乖離量Eの最大値(最大乖離量Emx)以上であるか否かを確認する。ここでサブF/B学習値SGがその更新開始時より増加/減少を続けている間は、乖離量Eは次第に増加する。そしてサブF/B学習値SGがオーバーシュート/アンダーシュートからの復帰を開始すると、乖離量Eは減少に転じるようになる。したがって、乖離量Eが最大乖離量Emx以上となっていれば、サブF/B学習値SGが過応答からの復帰を始めるよりも前の期間にあり、乖離量Eが最大乖離量Emx未満となるようになれば、サブF/B学習値SGが過応答からの復帰を始めて以降の期間にあることになる。
【0063】
そのときの乖離量Eがそれまでの最大乖離量Emx以上であれば(S30:YES)、電子制御ユニット17は処理をステップS40に進める。そして電子制御ユニット17はそのステップS40において、最大乖離量Emxの値をそのときの乖離量Eの値に更新し、更に続くステップS50において最乖離値BをそのときのサブF/B学習値SGの値に更新した後、今回の本ルーチンの処理を終了する。なお、上記のように乖離量Eが最大乖離量Emx以上となる状態は、サブF/B学習値SGが過応答からの復帰を始める直前まで続く。したがって最終的には、最乖離値Bの値には、更新開始時の値(初期値A)からの乖離量Eが最大となったときの、すなわちオーバーシュート或いはアンダーシュートのピークを迎えたときのサブF/B学習値SGの値が記憶されることになる。
【0064】
一方、そのときの乖離量Eがそれまでの最大乖離量Emx未満であれば(S30:NO)、電子制御ユニット17はその処理をステップS60に進める。そして電子制御ユニット17はそのステップS60において、上記復帰量C、すなわち上記記憶された最乖離値BとサブF/B学習値SGの現状値との偏差(=|B−SG|)に基づき、上述の一次元マップ(図5)を用いて比例ゲインKpを設定した後、今回の本ルーチンの処理を終了する。したがってサブF/B学習値SGが過応答からの復帰を開始して以降は、復帰量Cに、すなわちサブF/B学習値SGの過応答からの復帰の度合に応じてサブF/B補正値VHの比例ゲインKpが可変設定されるようになる。なおこうした比例ゲインKpの可変設定は、サブF/B補正値VHが十分「0」に近づき、サブF/B学習値SGの学習が完了したと判定されるまで続けられるようになる。
【0065】
なお本実施の形態では、空燃比センサ23の出力VAFが上記「内燃機関の空燃比に係る制御量」に、酸素センサ24による触媒下流側の排気酸素濃度の検出値、より厳密には同酸素センサ24の出力VOが上記「制御量を変更すべく操作される操作量」にそれぞれ対応している。またサブF/B補正値VHが上記「制御量の実値と目標値との差に応じて更新されるフィードバック補正値」に、サブF/B学習値SGが上記「フィードバック補正値を『0』に近づけるべく更新されるフィードバック学習値」にそれぞれ対応している。更に上記F/Bゲイン設定ルーチンのステップS50における電子制御ユニット17の処理が上記「記憶手段」の行う処理に、同ルーチンのステップS60における電子制御ユニット17の処理が上記「フィードバックゲイン設定手段」の行う処理にそれぞれ相当する処理となっている。
【0066】
以上説明した本実施の形態に係る内燃機関の空燃比制御装置及び空燃比制御方法によれば、次の効果を奏することができる。
・本実施の形態では、電子制御ユニット17は、サブF/B学習値SGの更新に際して、その更新開始時の値(初期値A)からの乖離量Eが最大となったときのサブF/B学習値SGの値を最乖離値Bとして記憶するようにしている。そして電子制御ユニット17は、その記憶した最乖離値BとサブF/B学習値SGの現状値との偏差である復帰量Cの値が大きいほど、サブF/B補正値VHのF/Bゲインの一つである比例ゲインKpが小さくなるように、上記偏差に応じて比例ゲインKpを可変設定するようにしている。そしてこれにより、サブF/B学習値SGの過応答からの復帰が進むにつれて比例ゲインKpが小さくなるように、その復帰の度合に応じて比例ゲインKpを可変設定するようにしている。係る本実施の形態では、サブF/B学習制御中にサブF/B学習値SGが過応答、すなわちオーバーシュートやアンダーシュートしたときには、その後のサブF/B補正値VHのF/Bゲイン(比例ゲインKp)が、過応答からのサブF/B学習値SGの復帰が進むにつれ、小さく設定されるようになる。そのため、上記構成では、過応答の直後には、サブF/B学習値SGの更新速度が高められ、過応答後のサブF/B学習値SGの復帰が進むにつれ、その更新速度は遅くなるようになり、過応答後のサブF/B学習値SGの応答性と収束性との両立が図られるようになる。しかも、そうしたF/Bゲイン(比例ゲインKp)の可変設定は、過応答時のサブF/B学習値SGを基準とし、過応答からの復帰の度合に基づいて行われる。そのため、サブF/B学習値SGの過応答の状況が異なっても、F/Bゲインを常に適切に設定することができ、その時々のサブF/B学習値SGの過応答特性に対応したF/Bゲインの設定が可能となる。したがって、本実施の形態によれば、学習制御中のサブF/B学習値SGの過応答の状況に依らず、サブF/B学習制御の収束性及びロバスト性を常に良好に確保することができるようになる。
【0067】
なお上記実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、サブF/B学習制御中のサブF/B学習値SGの過応答からの復帰の度合に応じた可変設定を、サブF/B補正値VHの比例ゲインKpについてのみ適用するようにしていたが、必要があれば、同様の可変設定をサブF/B補正値VHの積分ゲインKiや微分ゲインKdについて行うようにしても良い。
【0068】
・上記実施の形態では、サブF/B学習値SGの過応答からの復帰の度合を、上記最乖離値BとサブF/B学習値SGの現状値との偏差である復帰量Cの値に基づき確認して、サブF/B補正値VHのF/Bゲインの可変設定を行うようにしていた。サブF/B学習値SGの過応答からの復帰の度合を上記偏差(復帰量C)以外のパラメータより確認してF/Bゲインの可変設定を行うことも可能である。例えばサブF/B学習値SGの初期値Aとその現状値との乖離量(=|A−SG|)の最大乖離量Emxに対する比率を、サブF/B学習値SGの過応答からの復帰の度合を計るパラメータとして使用してF/Bゲインの可変設定を行うことも可能である。この場合、上記比率が小さくなるほど、サブF/B補正値VHのF/Bゲインを小さく設定することになる。
【0069】
・上記実施の形態では、サブF/B学習値SGの更新に際して、該サブF/B学習値SGの過応答からの復帰の度合に応じてサブF/B補正値VHのF/Bゲインを可変設定するようにしていた。なお、メインF/B学習値MG(i)の学習制御における同メインF/B学習値MG(i)の過応答後の収束性及び安定性の確保が求められる場合には、学習制御中のF/Bゲインの可変設定をメインF/B補正値DFのF/Bゲイン(比例ゲインGpや積分ゲインGi)を対象に行うようにすることもできる。この場合には、空燃比センサ23による触媒上流の排気酸素濃度の検出結果より把握される実際の空燃比が上記「内燃機関の空燃比に係る制御量」に、指示噴射量Qが上記「制御量を変更すべく操作される操作量」にそれぞれ対応することになる。またメインF/B補正値DFが上記「制御量の実値と目標値との差に応じて更新されるフィードバック補正値」に、メインF/B学習値MG(i)が上記「フィードバック補正値を『0』に近づけるべく更新されるフィードバック学習値」にそれぞれ対応することになる。
【0070】
・本発明は、上記実施の形態のようなメイン/サブの二重フィードバックを通じた空燃比フィードバック制御以外の態様で空燃比フィードバック制御を行う空燃比制御装置、空燃比制御方法にも適用可能である。要は、フィードバック制御の制御量、操作量としていずれのパラメータを使用するかに拘わらず、以下の条件(A)〜(C)を満すような空燃比フィードバック制御を行う装置、方法であれば、本発明を適用することが可能である。そしてその適用により、更新中のフィードバック学習値の過応答の状況に依らず、学習制御の収束性及びロバスト性を常に良好に確保することができるようになる。
【0071】
(A)内燃機関の空燃比に係る制御量の実値と目標値との差に応じてフィードバック補正値を更新するものであること。
(B)フィードバック補正値を「0」に近づけるべくフィードバック学習値を更新するものであること。
【0072】
(C)それらのフィードバック補正値及びフィードバック学習値により、上記制御量を変更すべく操作される操作量を補正することで空燃比のフィードバック制御を行うものであること。
【0073】
・なお、本発明の空燃比制御装置、空燃比制御方法は、上記条件(A)〜(C)を満すような空燃比フィードバック制御の行われる内燃機関であれば、センサや触媒コンバータの数や配置といった構成が上記実施の形態のものとは異なる内燃機関にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態についてその適用対象となる内燃機関の構成を模式的に示す略図。
【図2】同実施形態に採用される空燃比センサの出力特性を示すグラフ。
【図3】同実施形態に採用される酸素センサの出力特性を示すグラフ。
【図4】同実施形態におけるサブF/B学習制御時の制御態様の一例を示すタイムチャート。
【図5】同実施形態に採用される比例ゲイン演算用の一次元マップの一例についてそのマップでの復帰量と比例ゲインとの関係を示すグラフ。
【図6】同実施形態に適用されるF/Bゲイン設定ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図7】従来の空燃比制御装置における学習制御時のフィードバック学習値の推移を例示するタイムチャート。
【符号の説明】
【0075】
10…吸気通路、11…スロットルバルブ、12…燃焼室、13…インジェクタ、14…排気通路、15…フロント触媒コンバータ、16…リア触媒コンバータ、17…電子制御ユニット(記憶手段、フィードバックゲイン設定手段)、18…アクセルセンサ、19…スロットルセンサ、20…エアフローメータ、21…NEセンサ、22…燃圧センサ、VAF…空燃比センサの出力(制御量)、VO…酸素センサの出力(操作量)、VH…サブF/B補正値(フィードバック補正値)、SG…サブF/B学習値(フィードバック学習値)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の空燃比に係る制御量を変更すべく操作される操作量を、前記制御量の実値と目標値との差に応じて更新されるフィードバック補正値と、前記フィードバック補正値を「0」に近づけるべく更新されるフィードバック学習値とにより補正することで前記空燃比のフィードバック制御を行う内燃機関の空燃比制御装置において、
前記フィードバック学習値の更新に際して、該フィードバック学習値の過応答からの復帰が進むにつれて前記フィードバック補正値のフィードバックゲインが小さくなるように、前記復帰の度合に応じて前記フィードバックゲインを可変設定するフィードバックゲイン設定手段を備える
ことを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項2】
内燃機関の空燃比に係る制御量を変更すべく操作される操作量を、前記制御量の実値と目標値との差に応じて更新されるフィードバック補正値と、前記フィードバック補正値を「0」に近づけるべく更新されるフィードバック学習値とにより補正することで前記空燃比のフィードバック制御を行う内燃機関の空燃比制御装置において、
前記フィードバック学習値の更新に際して、その更新開始時の値からの乖離量が最大となったときの前記フィードバック学習値の値を記憶する記憶手段と、
その記憶手段により記憶された値と前記フィードバック学習値の現状値との偏差が大きいほど、前記フィードバック補正値のフィードバックゲインが小さくなるように、前記偏差に応じて前記フィードバックゲインを可変設定するフィードバックゲイン設定手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項3】
当該空燃比制御装置は、触媒上流側の排気酸素濃度を検出する空燃比センサの出力より把握される空燃比と目標空燃比との差を縮小すべく燃料噴射量をフィードバック調整するメインフィードバック制御と、触媒下流側の排気酸素濃度の実測値とその目標値との偏差を縮小すべく前記空燃比センサの出力をフィードバック調整するサブフィードバック制御とを通じて前記空燃比のフィードバック制御を行うものであり、
前記操作量は前記触媒下流側の排気酸素濃度とされ、前記操作量は前記空燃比センサの出力とされてなる
請求項1又は2に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項4】
内燃機関の空燃比に係る制御量を変更すべく操作される操作量を、前記制御量の実値と目標値との差に応じて更新されるフィードバック補正値と、前記フィードバック補正値を「0」に近づけるべく更新されるフィードバック学習値とにより補正することで前記空燃比のフィードバック制御を行う方法であって、
前記フィードバック学習値の更新に際して、該フィードバック学習値の過応答からの復帰が進むにつれて前記フィードバック補正値のフィードバックゲインが小さくなるように、前記復帰の度合に応じて前記フィードバックゲインを可変設定するようにした
ことを特徴とする内燃機関の空燃比制御方法。
【請求項5】
内燃機関の空燃比に係る制御量を変更すべく操作される操作量を、前記制御量の実値と目標値との差に応じて更新されるフィードバック補正値と、前記フィードバック補正値を「0」に近づけるべく更新されるフィードバック学習値とにより補正することで前記空燃比のフィードバック制御を行う方法であって、
前記フィードバック学習値の更新に際して、その更新開始時の値からの乖離量が最大となったときの前記フィードバック学習値の値を記憶するとともに、その記憶した値と前記フィードバック学習値の現状値との偏差が大きいほど、前記フィードバック補正値のフィードバックゲインが小さくなるように、前記偏差に応じて前記フィードバックゲインを可変設定するようにした
ことを特徴とする内燃機関の空燃比制御方法。
【請求項6】
前記空燃比のフィードバック制御は、触媒上流側の排気酸素濃度を検出する空燃比センサの出力より把握される空燃比と目標空燃比との差を縮小すべく燃料噴射量をフィードバック調整するメインフィードバック制御と、触媒下流側の排気酸素濃度の実測値とその目標値との偏差を縮小すべく前記空燃比センサの出力をフィードバック調整するサブフィードバック制御とを通じて行われ、
前記操作量は前記触媒下流側の排気酸素濃度とされ、前記操作量は前記空燃比センサの出力とされてなる
請求項4又は5に記載の内燃機関の空燃比制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−257188(P2009−257188A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106966(P2008−106966)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】