説明

内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置

【課題】一つの空燃比センサに到達する排気ガスを排出している複数の気筒の爆発間隔が不均等である場合であっても、空燃比気筒感インバランス判定を精度良く行う
【解決手段】左右バンクを有する機関において、第1判定装置は、各バンクに、空燃比センサ(66L、66R)と、複数の燃料噴射弁(33)と、各バンクに属する2以上の気筒に供給される混合気の空燃比が各バンクの目標空燃比(abyfL、abyfR)となるように指示燃料噴射量を制御し、判定装置は、何れかの空燃比センサの出力値に基く検出空燃比の所定時間あたりの変化量のうち正の符号を有する値に応じた正の傾き相当値と同変化量のうち負の符号を有する値に応じた負の傾き相当値とを求、判定装置は、負の傾き相当値が、「正の傾き相当値に対する負の傾き相当値の比」の大きさに応じて変化するインバランス判定用閾値よりも大きいとき、空燃比気筒間インバランスが発生していると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒内燃機関に適用され、各気筒に供給される混合気の空燃比の不均衡(空燃比気筒間インバランス、空燃比気筒間ばらつき、気筒間における空燃比の不均一性)が過度に大きくなったことを判定(監視・検出)することができる「内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置」に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の気筒に主として燃料を供給する燃料噴射弁(特定気筒の燃料噴射弁)の燃料噴射特性が、他の気筒に主として燃料を供給する燃料噴射弁(他の気筒の燃料噴射弁)の燃料噴射特性と相違すると、空燃比気筒間インバランス状態が発生する。燃料噴射特性とは、指示された燃料噴射量に対して実際に噴射される燃料の量がどの程度の量であるかを表す特性のことである。このような燃料噴射特性の相違に起因して空燃比気筒間インバランス状態が発生すると、複数の気筒のそれぞれから排出される排ガスの空燃比の差が大きくなる。機関から排出された排ガスは排気順(従って、点火順)に従って、順番に「複数の気筒からの排ガスが集合する排気集合部に配設された空燃比センサ(上流側空燃比センサ)」に到達する。この結果、空燃比気筒間インバランス状態が発生すると、図2に示したように、空燃比センサに基いて取得される空燃比(検出空燃比、上流側空燃比)の出力は大きく変動する。
【0003】
そこで、従来から知られる空燃比気筒間インバランス判定装置の一つは、「空燃比センサ出力値又は検出空燃比」の単位時間当たりの変化量(時間微分値相当値、傾き)に応じた値をインバランス判定用パラメータとして取得する。更に、その判定装置は、取得したインバランス判定用パラメータとインバランス判定用閾値とを比較し、その比較結果に基いて空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かを判定する(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−047332号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、特定気筒の燃料噴射弁が、他の気筒の燃料噴射弁に比較して、より多くの燃料を噴射する特性になることに起因して空燃比気筒間インバランスが発生した場合について検討する。以下、このような空燃比気筒間インバランスを、単に「リッチインバランス」とも称呼する。
【0006】
図2は、リッチインバランスが生じた場合の検出空燃比の波形である。図2から理解されるように、特定気筒(リッチインバランスを引き起こしている気筒)の排ガスが空燃比センサに到達すると検出空燃比は比較的急激に減少する(時刻t0−t1を参照。)。この場合、特定気筒数は1であり、他の気筒数は2以上(例えば、直列4気筒エンジン及びV8エンジンの一方のバンクに着目すると、他の気筒数は3)である。通常、リッチインバランスが発生すると、空燃比のフィードバック制御により、他の気筒はそれぞれ理論空燃比よりも僅かにリーン側に制御され、機関全体に供給される混合気の空燃比の平均が目標空燃比(例えば、理論空燃比)に維持される。この結果、時刻t1以降において他の気筒の排ガスが空燃比センサに順次到達すると、検出空燃比は比較的緩慢に増大する(時刻t1−t2を参照。)。
【0007】
そこで、リッチインバランスをより精度良く判定するために、検出空燃比の時間微分値相当値のうちの負の値を有する時間微分値相当値の大きさ(負の傾きの大きさ)に基いて「負の傾き相当値」を取得し、その負の傾き相当値の大きさがインバランス判定用閾値よりも大きいか否かを判定することにより、空燃比気筒間インバランスが発生しているか否かを判定することが考えられている。
【0008】
一方、図1に例示したV8エンジンは、左バンクLBに第1、第3、第5及び第7気筒を備え、右バンクRBに第2、第4、第6及び第8気筒を備える。左バンクに属する気筒のエキゾーストマニホールドの枝部は左バンク排気集合部HK(L)にて集合している。右バンクに属する気筒のエキゾーストマニホールドの枝部は右バンク排気集合部HK(R)にて集合している。
【0009】
左バンク用触媒43は、左バンク排気集合部HK(L)よりも下流の左バンク用排気通路に配設されている。左バンク用上流側空燃比センサ66Lは、左バンク用排気通路であって、左バンク排気集合部HK(L)と左バンク用触媒43との間の位置に配設されている。
【0010】
右バンク用触媒53は、その右バンク排気集合部HK(R)よりも下流の右バンク用排気通路に配設されている。右バンク用上流側空燃比センサ66Rは、右バンク用排気通路であって、右バンク排気集合部HK(R)と右バンク用触媒53との間の位置に配設されている。
【0011】
このエンジン10の点火順序(爆発順序、排気順序)は、図3に示したように、例えば、#1、#8、#7、#3、#6、#5、#4、#2の順である。ここで、「#N」は第N気筒を示し、「N」は1〜8の整数である。点火(混合気の爆発)の間隔はクランク角が90°回転する期間に対応している。
【0012】
このエンジン10において、左バンクに着目すると、第1気筒にて爆発が発生してから次の爆発が第7気筒にて発生するまでのクランク角は180°であり、第7気筒にて爆発が発生してから次の爆発が第3気筒にて発生するまでのクランク角は90°であり、第3気筒にて爆発が発生してから次の爆発が第5気筒にて発生するまでのクランク角は180°であり、第5気筒にて爆発が発生してから次の爆発が第1気筒にて発生するまでのクランク角は270°である。
【0013】
同様に、右バンクに着目すると、第8気筒にて爆発が発生してから次の爆発が第6気筒にて発生するまでのクランク角は270°であり、第6気筒にて爆発が発生してから次の爆発が第4気筒にて発生するまでのクランク角は180°であり、第4気筒にて爆発が発生してから次の爆発が第2気筒にて発生するまでのクランク角は90°であり、第2気筒にて爆発が発生してから次の爆発が第8気筒にて発生するまでのクランク角は180°である。
【0014】
このように、各バンクにおける爆発間隔は不均一であり、よって、各バンクの排気集合部及び各バンクの上流側空燃比センサ(66L、66R)に新たな排ガスが到達する間隔も不等間隔である。
【0015】
他方、空燃比センサの出力値は「空燃比センサに到達する排ガスの空燃比の変化」に対して遅れて変化する。そのため、「ある気筒からの排ガス」が空燃比センサの近傍に到達してから「別の気筒からの排ガス」が空燃比センサの近傍に到達するまでの時間が短いと、空燃比センサの出力値が「ある気筒の排ガス」の空燃比に応じた値まで減少する前に「別の気筒の排ガス」が空燃比センサに到達し、空燃比センサの出力値は増大を開始する。この結果、例えば、図4に示したように、燃料噴射弁の燃料噴射特性が同じように変化した場合であっても、負の傾き相当値の大きさは「その燃料噴射弁がどの気筒に対する燃料噴射弁であるか」に依存して変化してしまう。
【0016】
より具体的に述べると、第5気筒の排ガスが空燃比センサに到達してから排気順序が第5気筒の次の気筒(即ち、第1気筒)の排ガスが空燃比センサに到達するまでのクランク角は270°であるから、第5気筒の排ガスは相対的に長い時間に渡り空燃比センサの周囲に滞留する。よって、第5気筒の燃料噴射弁の噴射特性が変化した場合の負の傾き相当値は相対的に大きくなる。
【0017】
これに対し、第1気筒の排ガスが空燃比センサに到達してから排気順序が第1気筒の次の気筒(即ち、第7気筒)の排ガスが空燃比センサに到達するまでのクランク角は180°であり、同様に、第3気筒の排ガスが空燃比センサに到達してから排気順序が第3気筒の次の気筒(即ち、第5気筒)の排ガスが空燃比センサに到達するまでのクランク角は180°であるから、第1気筒又は第3気筒の燃料噴射弁の噴射特性が変化した場合の負の傾き相当値は中程度の大きさになる。更に、第7気筒の排ガスが空燃比センサに到達してから排気順序が第7気筒の次の気筒(即ち、第3気筒)の排ガスが空燃比センサに到達するまでのクランク角は90°であるから、第7気筒の排ガスは空燃比センサの周囲に短時間だけしが滞留することができない。よって、第7気筒の燃料噴射弁の噴射特性が変化した場合の負の傾き相当値は相対的に小さくなる。
【0018】
このことから理解されるように、例えば、第5気筒の燃料噴射弁の燃料噴射特性が「空燃比気筒間インバランス状態である。」と判定すべき程度にまでは変化していないが、燃料噴射弁の設計公差範囲内において僅かに過剰な量の燃料を噴射する特性であると、負の傾き相当値の大きさはある程度大きくなる。この場合の負の傾き相当値の大きさは、特に、第7気筒の燃料噴射弁の燃料噴射特性が「空燃比気筒間インバランス状態である。」と判定すべき程度にまで変化した場合に得られる負の傾き相当値と極めて近い値になる。
【0019】
より具体的に述べると、図5に示したように、空燃比気筒間インバランス状態が発生していると判定すべき点P1及び点P2の負の傾き相当値の大きさと、空燃比気筒間インバランス状態が発生していると判定すべきでない点P3の負の傾き相当値の大きとは、差が殆どない。よって、破線により示した負の傾き相当値の大きさをインバランス判定用閾値に設定すると点P1及び点P2の状態が空燃比気筒間インバランスが発生していないと判定(誤判定)されてしまう。これに対し、一点鎖線に示した負の傾き相当値の大きさをインバランス判定用閾値に設定すると点P3の状態が空燃比気筒間インバランスが発生したと判定(誤判定)されてしまう。
【0020】
従って、本発明の目的の一つは、一つの空燃比センサに到達する排ガスを排出している複数の気筒の爆発間隔が不均等である場合であっても、空燃比気筒間インバランス判定を精度良く行うことが可能な空燃比気筒間インバランス判定装置(以下、単に「本発明装置」とも称呼する。)を提供することにある。
【0021】
本発明装置は、複数の気筒を有する多気筒内燃機関に適用される。本発明装置は、空燃比センサと、複数の燃料噴射弁と、指示燃料噴射量制御手段と、インバランス判定手段と、を備える。
【0022】
前記空燃比センサは、前記複数の気筒のうちの少なくとも2以上(好ましくは、3以上、更に好ましくは4乃至6)の気筒から排出された排ガスが集合する前記機関の排気通路の排気集合部、又は、同排気通路の同排気集合部よりも下流側の部位に配設される。前記空燃比センサは、その空燃比センサが配設された部位を通過する排ガスの空燃比に応じた出力値を出力する。
【0023】
前記複数の燃料噴射弁は、前記少なくとも2以上の気筒のそれぞれに対応して配設される。前記複数の燃料噴射弁のそれぞれは、その2以上の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気に含まれる燃料であって指示燃料噴射量に応じた量の燃料を噴射する。
【0024】
前記指示燃料噴射量制御手段は、前記2以上の気筒の燃焼室に供給される混合気の空燃比が目標空燃比となるように前記指示燃料噴射量を制御する。
【0025】
発明者は、前記正の傾き相当値に対する前記負の傾き相当値の比の大きさ(以下、単に「正負傾き比の大きさ」とも称呼する。)は、リッチインバランスが発生しているか否かに関らず、次の排気までの時間(クランク角)が長い気筒ほど大きくなるとの知見を得た。そこで、発明者は、図6に示したように、正負傾き比の大きさを横軸にとり縦軸に前記負の傾き相当値の大きさをとると、破線により示したように、リッチインバランスが発生している場合とリッチインバランスが発生していない場合とを区別するインバランス判定用閾値を設定することができるという知見を得た。
【0026】
そこで、前記インバランス判定手段は、
前記空燃比センサの出力値又は同出力値により表される空燃比である検出空燃比、の所定時間あたりの変化量である時間微分値相当値を取得し、
前記時間微分値相当値のうちの正の値の大きさに応じて変化する正の傾き相当値を同正の値に基いて取得し、
前記時間微分値相当値のうちの負の値の大きさに応じて変化する負の傾き相当値を同負の値に基いて取得し、
前記正の傾き相当値に対する前記負の傾き相当値の比の大きさ(正負傾き比の大きさ)に応じて変化するインバランス判定用閾値を同比の大きさ(正負傾き比の大きさ)に基いて決定し、且つ、
前記負の傾き相当値の大きさが前記インバランス判定用閾値よりも大きいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定し、且つ、前記負の傾き相当値の大きさが前記インバランス判定用閾値よりも小さいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定するように構成された。
【0027】
この場合、前記インバランス判定手段は、
前記正の傾き相当値に対する前記負の傾き相当値の比の大きさ(正負傾き比の大きさ)が大きいほど前記インバランス判定用閾値が大きくなるように前記インバランス判定用閾値を決定するように構成されることが望ましい。
【0028】
これによれば、どの気筒の燃料噴射弁がリッチインバランスの原因となっているかを特定しなくても、正の傾き相当値及び負の傾き相当値を求めるだけで、上述した誤判定を回避するこができる。よって、より精度良く空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かを判定することができる、空燃比気筒間インバランス判定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の各実施形態に係る空燃比気筒間インバランス判定装置が適用される内燃機関の概略平面図である。
【図2】空燃比気筒間インバランス(リッチインバランス)状態が発生した際の上流側空燃比センサ(空燃比センサ)に基いて取得される空燃比(検出空燃比)の変化を示したグラフである。
【図3】図1に示した機関の排気順序(点火順序)示す図である。
【図4】各気筒が同程度のリッチインバランス状態となったときの、検出空燃比の負の傾き相当値の大きさを示したグラフである。
【図5】縦軸に検出空燃比の負の傾き相当値の大きさをとり、横軸に検出空燃比の正の傾き相当値に対する負の傾き相当値の比の大きさ(正負傾き比の大きさ)をとったグラフである。
【図6】縦軸に検出空燃比の負の傾き相当値の大きさをとり、横軸に検出空燃比の正の傾き相当値に対する負の傾き相当値の比の大きさ(正負傾き比の大きさ)をとったグラフである。
【図7】排ガスの空燃比と空燃比センサ(上流側空燃比センサ)の出力値との関係を示したグラフである。
【図8】排ガスの空燃比と下流側空燃比センサの出力値との関係を示したグラフである。
【図9】本発明の第1実施形態に係る空燃比気筒間インバランス判定装置(第1判定装置)のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図10】第1判定装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態に係る空燃比気筒間インバランス判定装置(第2判定装置)のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図12】第2判定装置のCPUが取得する「左バンク用上流側空燃比センサの左バンク・リッチリーン応答性指標値」を説明するためのタイムチャートである。
【図13】第2判定装置のCPUが取得する「左バンク用上流側空燃比センサの左バンク・リーンリッチ応答性指標値」を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の各実施形態に係る内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置(以下、単に「判定装置」とも称呼する。)について図面を参照しながら説明する。この判定装置は、内燃機関に供給される混合気の空燃比(機関の空燃比)を制御する空燃比制御装置の一部であり、更に、燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御装置の一部でもある。
【0031】
<第1実施形態>
(構成)
図1は、第1実施形態に係る判定装置(以下、「第1判定装置」とも称呼する。)が適用された内燃機関10の概略構成を示している。機関10は、4サイクル・火花点火式・V型8気筒・(不等爆発間隔)エンジンである。機関10は、機関本体部20と、吸気系統30と、左バンク排気系統40と、右バンク排気系統50と、を含む。
【0032】
機関本体部20は、シリンダブロック部及びシリンダヘッド部を含む。機関本体部20は、8個の気筒(燃焼室)21を備えている。第1気筒(#1)、第3気筒(#3)、第5気筒(#5)及び第7気筒(#7)は左バンクLBに備えられている。第2気筒(#2)、第4気筒(#4)、第6気筒(#6)及び第8気筒(#8)は右バンクRBに備えられている。
【0033】
各気筒は、図示しない「吸気ポート及び排気ポート」と連通している。吸気ポートと燃焼室21との連通部は図示しない吸気弁により開閉される。排気ポートと燃焼室21との連通部は図示しない排気弁により開閉される。各燃焼室21には図示しない点火プラグが配設されている。
【0034】
吸気系統30は、インテークマニホールド及び吸気管からなる吸気通路部31、吸気管32、及び、複数の燃料噴射弁33、を備えている。
【0035】
吸気通路部31の一端には図示しないエアフィルタが配設されている。吸気通路部31の他端は図示しない複数の枝部に分かれ、その複数の枝部のそれぞれは複数の吸気ポートのそれぞれに接続されている。
【0036】
スロットル弁32は、吸気通路部31の吸気管内に回動可能に配設されている。スロットル弁32は、吸気通路部31の開口断面積を可変とするようになっている。スロットル弁32は、図示しないスロットル弁アクチュエータにより回転駆動されるようになっている。
【0037】
燃料噴射弁33は、一つの気筒(燃焼室)21に対して一つずつ配設されている。燃料噴射弁33は吸気ポートに設けられている。即ち、複数の気筒のそれぞれは、他の気筒とは独立して燃料供給を行う燃料噴射弁33を備えている。燃料噴射弁33は、噴射指示信号に応答し、正常である場合に「その噴射指示信号に含まれる指示燃料噴射量の燃料」を吸気ポート(従って、燃料噴射弁33に対応する気筒21)内に噴射するようになっている。
【0038】
左バンク排気系統40は、左バンク用エキゾーストマニホールド41、左バンク用エキゾーストパイプ42、左バンク用エキゾーストパイプ42に配設された左バンク用上流側触媒43、及び、左バンク用上流側触媒43よりも下流において左バンク用エキゾーストパイプ42に配設された「図示しない下流側触媒」を備えている。
【0039】
左バンク用エキゾーストマニホールド41は、複数の枝部41aと集合部41bとを備えている。複数の枝部41aのそれぞれの一端は、左バンクLBに属する複数の気筒の排気ポートのそれぞれに接続されている。複数の枝部41aのそれぞれの他端は集合部41bに集合している。この集合部41bは、複数(2以上であり、本例では4つ、好ましくは3以上、更に好ましくは3乃至6)の気筒から排出された排ガスが集合する部分であるから、左バンク用排気集合部HK(L)とも称呼される。
【0040】
左バンク用エキゾーストパイプ42は集合部41bに接続されている。左バンクLBに属する気筒の排気ポート、左バンク用エキゾーストマニホールド41及び左バンク用エキゾーストパイプ42は、左バンク用の排気通路を構成している。
【0041】
左バンク用上流側触媒43及び左バンク用下流側触媒のそれぞれは、所謂、白金、ロジウム及びパラジウム等の貴金属(触媒物質)からなる活性成分を担持する三元触媒装置(排気浄化用の触媒)である。各触媒は、各触媒に流入するガスの空燃比が「三元触媒のウインドウ内の空燃比(例えば、理論空燃比)」であるとき、HC,CO,Hなどの未燃成分を酸化するとともに窒素酸化物(NOx)を還元する機能を有する。この機能は触媒機能とも称呼される。
【0042】
更に、各触媒は、酸素を吸蔵(貯蔵)する酸素吸蔵機能を有する。即ち、各触媒は、その触媒に流入するガス(触媒流入ガス)に過剰の酸素が含まれているとき、その酸素を吸蔵するとともにNOxを浄化する。各触媒は、触媒流入ガスに過剰な未燃物が含まれているとき、吸蔵している酸素を放出してその未燃物を浄化する。この酸素吸蔵機能は、触媒に担持されているセリア(CeO)等の酸素吸蔵材によってもたらされる。各触媒は、酸素吸蔵機能により空燃比が理論空燃比から偏移したとしても未燃成分及び窒素酸化物を浄化することができる。つまり、酸素吸蔵機能により、ウインドウの幅が拡大する。
【0043】
右バンク排気系統50は、右バンク用エキゾーストマニホールド51、右バンク用エキゾーストパイプ52、右バンク用エキゾーストパイプ52に配設された右バンク用上流側触媒53、及び、右バンク用上流側触媒53よりも下流において右バンク用エキゾーストパイプ52に配設された「図示しない下流側触媒」を備えている。
【0044】
右バンク用エキゾーストマニホールド51は、複数の枝部51aと集合部51bとを備えている。複数の枝部51aのそれぞれの一端は、右バンクRBに属する複数の気筒の排気ポートのそれぞれに接続されている。複数の枝部51aのそれぞれの他端は集合部51bに集合している。この集合部51bは、複数(2以上であり、本例では4つ、好ましくは3以上、更に好ましくは3乃至6)の気筒から排出された排ガスが集合する部分であるから、右バンク用排気集合部HK(R)とも称呼される。
【0045】
右バンク用エキゾーストパイプ52は集合部51bに接続されている。右バンクRBに属する気筒の排気ポート、右バンク用エキゾーストマニホールド51及び右バンク用エキゾーストパイプ52は、右バンク用の排気通路を構成している。
【0046】
右バンク用上流側触媒53は左バンク用上流側触媒43と同じ三元触媒である。左バンク用下流側触媒は右バンク用下流側触媒と同じ三元触媒である。
【0047】
このシステムは、熱線式エアフローメータ61、スロットルポジションセンサ62、水温センサ63、クランクポジションセンサ64、インテークカムポジションセンサ65、左バンク用上流側空燃比センサ66L、右バンク用上流側空燃比センサ66R、左バンク用下流側空燃比センサ67L、右バンク用下流側空燃比センサ67R、及び、アクセル開度センサ68を備えている。
【0048】
エアフローメータ61は、吸気通路部31を流れる吸入空気の質量流量(吸入空気流量)Gaに応じた信号を出力するようになっている。即ち、吸入空気量Gaは、単位時間あたりに機関10に吸入される吸入空気量を表す。
【0049】
スロットルポジションセンサ62は、スロットル弁32の開度(スロットル弁開度)を検出し、スロットル弁開度TAを表す信号を出力するようになっている。
【0050】
水温センサ63は、機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWを表す信号を出力するようになっている。冷却水温THWは、機関10の暖機状態(機関10の温度)を表す運転状態指標量である。
【0051】
クランクポジションセンサ64は、クランク軸が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに同クランク軸が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号は、後述する電気制御装置70によって機関回転速度NEに変換される。
【0052】
インテークカムポジションセンサ65は、インテークカムシャフトが所定角度から90度、次いで90度、更に180度回転する毎に一つのパルスを出力するようになっている。後述する電気制御装置70は、クランクポジションセンサ64及びインテークカムポジションセンサ65からの信号に基づいて、基準気筒(例えば第1気筒)の圧縮上死点を基準とした絶対クランク角CAを取得するようになっている。この絶対クランク角CAは、基準気筒の圧縮上死点において「0°クランク角度」に設定され、クランク軸の回転角度に応じて720°クランク角度まで増大し、その時点にて再び0°クランク角度に設定される。
【0053】
左バンク用上流側空燃比センサ66Lは、左バンク用エキゾーストマニホールド41の集合部41b(排気集合部HK(L))と左バンク用上流側触媒43との間の位置において「左バンク用エキゾーストマニホールド41及び左バンク用エキゾーストパイプ42の何れか」に配設されている。
【0054】
左バンク用上流側空燃比センサ66Lは、例えば、特開平11−72473号公報、特開2000−65782号公報及び特開2004−69547号公報等に開示された「拡散抵抗層を備える限界電流式広域空燃比センサ」である。
【0055】
左バンク用上流側空燃比センサ66Lは、左バンク用上流側空燃比センサ66Lの配設位置を流れる排ガスの空燃比(左バンク用触媒43に流入するガスである「触媒流入ガス」の空燃比、左バンク上流側空燃比abyfs(L)=左バンク検出空燃比abyfs(L))に応じた出力値Vabyfs(L)を出力する。出力値Vabyfs(L)は、図7に示したように、左バンク用触媒43に流入するガスの空燃比abyfs(L)が大きくなるほど(リーン側の空燃比になるほど)増大する。
【0056】
電気制御装置70は、出力値Vabyfs(L)と左バンク上流側空燃比abyfs(L)との図7に示した関係を規定した空燃比変換テーブル(マップ)Mapabyfsを記憶している。電気制御装置70は、出力値Vabyfs(L)を空燃比変換テーブルMapabyfsに適用することにより、実際の左バンク上流側空燃比abyfs(L)を検出する(左バンク検出空燃比abyfs(L)を取得する)。
【0057】
再び、図1を参照すると、左バンク用下流側空燃比センサ67Lは、左バンク用エキゾーストパイプ42内に配設されている。左バンク用下流側空燃比センサ67Lの配設位置は、左バンク用上流側触媒43よりも下流側であり、且つ、左バンク用下流側触媒よりも上流側(即ち、左バンク用上流側触媒43と左バンク用下流側触媒との間の排気通路)である。左バンク用下流側空燃比センサ67Lは、周知の起電力式の酸素濃度センサ(安定化ジルコニア等の固体電解質を用いた周知の濃淡電池型の酸素濃度センサ)である。左バンク用下流側空燃比センサ67Lは、排気通路であって左バンク用下流側空燃比センサ67Lが配設されている部位を通過するガスである被検出ガスの空燃比に応じた出力値Voxs(L)を発生するようになっている。換言すると、出力値Voxs(L)は、左バンク用上流側触媒43から流出し且つ左バンク用下流側触媒に流入するガスの空燃比に応じた値である。
【0058】
この出力値Voxs(L)は、図8に示したように、左バンク用上流側触媒43から流出したガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチのとき最大出力値max(例えば、約0.9V〜1.0V)となる。出力値Voxs(L)は、左バンク用上流側触媒43から流出したガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンのとき最小出力値min(例えば、約0.1V〜0V)となる。更に、出力値Voxs(L)は、左バンク用上流側触媒43から流出したガスの空燃比が理論空燃比であるとき最大出力値maxと最小出力値minの略中間の電圧Vst(中央値Vmid、中間電圧Vst、例えば、約0.5V)となる。出力値Voxs(L)は、左バンク用上流側触媒43から流出したガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比からリーンな空燃比へと変化する際に最大出力値maxから最小出力値minへと急変する。同様に、出力値Voxs(L)は、左バンク用上流側触媒43から流出したガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンな空燃比からリッチな空燃比へと変化する際に最小出力値minから最大出力値maxへと急変する。
【0059】
再び、図1を参照すると、右バンク用上流側空燃比センサ66Rは、右バンク用エキゾーストマニホールド51の集合部51b(排気集合部HK(R))と右バンク用上流側触媒53との間の位置において「右バンク用エキゾーストマニホールド51及び右バンク用エキゾーストパイプ52の何れか」に配設されている。
【0060】
右バンク用上流側空燃比センサ66Rは、左バンク用上流側空燃比センサ66Lと同じ「拡散抵抗層を備える限界電流式広域空燃比センサ」である。
【0061】
右バンク用上流側空燃比センサ66Rは、右バンク用上流側空燃比センサ66Rの配設位置を流れる排ガスの空燃比(右バンク用触媒53に流入するガスである「触媒流入ガス」の空燃比、右バンク上流側空燃比abyfs(R)=右バンク検出空燃比abyfs(R))に応じた出力値Vabyfs(R)を出力する。出力値Vabyfs(R)は、図7に示したように、右バンク用触媒53に流入するガスの空燃比が大きくなるほど(リーン側の空燃比になるほど)増大する。
【0062】
電気制御装置70は、出力値Vabyfs(R)と右バンク上流側空燃比abyfs(R)との図7に示した関係を規定した空燃比変換テーブル(マップ)Mapabyfsを記憶している。電気制御装置70は、出力値Vabyfs(R)を空燃比変換テーブルMapabyfsに適用することにより、実際の右バンク上流側空燃比abyfs(R)を検出する(右バンク検出空燃比abyfs(R)を取得する)。
【0063】
再び、図1を参照すると、右バンク用下流側空燃比センサ67Rは、右バンク用エキゾーストパイプ52内に配設されている。右バンク用下流側空燃比センサ67Rの配設位置は、右バンク用上流側触媒53よりも下流側であり、且つ、右バンク用下流側触媒よりも上流側(即ち、右バンク用上流側触媒53と右バンク用下流側触媒との間の排気通路)である。右バンク用下流側空燃比センサ67Rは、左バンク用下流側空燃比センサ67Lと同じ起電力式の酸素濃度センサである。
【0064】
右バンク用下流側空燃比センサ67Rは、排気通路であって右バンク用下流側空燃比センサ67Rが配設されている部位を通過するガスである被検出ガスの空燃比に応じた出力値Voxs(L)を発生するようになっている(図8を参照。)。
【0065】
図1に示したアクセル開度センサ68は、運転者によって操作されるアクセルペダルAPの操作量Accp(アクセルペダル操作量、アクセルペダルAPの開度)を表す信号を出力するようになっている。アクセルペダル操作量Accpは、アクセルペダルAPの操作量が大きくなるとともに大きくなる。
【0066】
電気制御装置70は、「CPU、CPUが実行するプログラム、テーブル(マップ、関数)及び定数等を予め記憶したROM、CPUが必要に応じてデータを一時的に格納するRAM、バックアップRAM(B−RAM)、並びに、ADコンバータを含むインターフェース等」からなる周知のマイクロコンピュータである。
【0067】
バックアップRAMは、機関10を搭載した車両の図示しないイグニッション・キー・スイッチの位置(オフ位置、始動位置及びオン位置等の何れか)に関わらず、車両に搭載されたバッテリから電力の供給を受けるようになっている。バックアップRAMは、バッテリから電力の供給を受けている場合、CPUの指示に応じてデータを格納する(データが書き込まれる)とともに、そのデータを読み出し可能となるように保持(記憶)する。従って、バックアップRAMは、機関10の運転停止中においてもデータを保持することができる。
【0068】
バックアップRAMは、バッテリが車両から取り外される等によりバッテリからの電力供給が遮断されると、データを保持することができない。そこで、CPUは、バックアップRAMへの電力供給が再開されたとき、バックアップRAMに保持されるべきデータを初期化(デフォルト値に設定)するようになっている。なお、バックアップRAMは、EEPROM等の読み書き可能な不揮発性メモリであってもよい。
【0069】
電気制御装置70は、上述したセンサ等と接続され、CPUにそれらのセンサからの信号を供給するようになっている。更に、電気制御装置70は、CPUの指示に応じて、各気筒に対応して設けられた点火プラグ(実際にはイグナイタ)、各気筒に対応して設けられた燃料噴射弁33、及び、スロットル弁アクチュエータ等に駆動信号(指示信号)を送出するようになっている。
【0070】
なお、電気制御装置70は、取得されたアクセルペダルの操作量Accpが大きくなるほどスロットル弁開度TAが大きくなるように、スロットル弁アクチュエータに指示信号を送出するようになっている。即ち、電気制御装置70は、運転者により変更される機関10の加速操作量(アクセルペダル操作量Accp)に応じて「機関10の吸気通路に配設されたスロットル弁32」の開度を変更するスロットル弁駆動手段を備えている。
【0071】
(作動)
次に、上記のように構成された第1判定装置の作動について説明する。
【0072】
<燃料噴射量制御>
第1判定装置のCPUは、図9に示した燃料噴射制御ルーチンを、任意の気筒のクランク角が吸気上死点前の所定クランク角度(例えば、BTDC90°CA)となる毎に、その気筒(以下、「燃料噴射気筒」とも称呼する。)に対して繰り返し実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPUはステップ900から処理を開始してステップ910に進み、「エアフローメータ61により計測された吸入空気量Ga、クランクポジションセンサ64の信号に基いて取得された機関回転速度NE、及び、ルックアップテーブルMapMc」に基いて「燃料噴射気筒に吸入される空気量」である「筒内吸入空気量Mc(k)」を取得する。筒内吸入空気量Mc(k)は、各吸気行程に対応されながらRAM内に記憶される。筒内吸入空気量Mc(k)は、周知の空気モデルにより算出されてもよい。
【0073】
次に、CPUはステップ920に進み、燃料噴射気筒が左バンクに属する気筒(#1、#3、#5、#7の何れか)であるか否かを判定する。このとき、燃料噴射気筒が左バンクに属する気筒であると、CPUはステップ920にて「Yes」と判定してステップ930に進み、筒内吸入空気量Mc(k)を左バンク用目標空燃比abyfrLで除することにより基本燃料噴射量Fbaseを求める。
【0074】
左バンク用目標空燃比abyfrLは、理論空燃比stoichから左バンク用サブフィードバック量KSFBLを減じた値(abyfrL=stoich−KSFBL)である。
【0075】
左バンク用サブフィードバック量KSFBLは、左バンク用下流側空燃比センサ67Lの出力値Voxs(L)が下流側目標値である中央値Vmidよりも小さいとき所定量だけ増大させられる。この結果、左バンク用目標空燃比abyfrLは減少させられ、左バンクの気筒に供給される混合気の空燃比は小さくなる(リッチ側へと変化する)。
【0076】
左バンク用サブフィードバック量KSFBLは、左バンク用下流側空燃比センサ67Lの出力値Voxs(L)が下流側目標値である中央値Vmidよりも大きいとき所定量だけ減少させられる。この結果、左バンク用目標空燃比abyfrLは増大させられ、左バンクの気筒に供給される混合気の空燃比は大きくなる(リーン側へと変化する)。
【0077】
次に、CPUはステップ940に進み、基本燃料噴射量Fbaseを左バンク用メインフィードバック量KFmainLにより補正する。より具体的には、CPUは、基本燃料噴射量Fbaseに左バンク用メインフィードバック量KFmainLを乗じることにより、指示燃料噴射量(最終燃料噴射量)Fiを算出する。
【0078】
左バンク用メインフィードバック量KFmainLは、左バンク用上流側空燃比センサ66Lの出力値Vabyfs(L)に基づいて取得された左バンク検出空燃比abyfs(L)が、左バンク用目標空燃比abyfrLに一致するように、PID制御に従って算出される。簡単に述べると、左バンク検出空燃比abyfs(L)が左バンク用目標空燃比abyfrLよりも大きいとき(リーンであるとき)、左バンク用メインフィードバック量KFmainLは所定量だけ増大させられる。左バンク検出空燃比abyfs(L)が左バンク用目標空燃比abyfrLよりも小さいとき(リッチであるとき)、左バンク用メインフィードバック量KFmainLは所定量だけ減少させられる。
【0079】
なお、左バンク用メインフィードバック量KFmainLは、左バンクメインフィードバック条件が成立したとき、上述したように更新される。左バンク用メインフィードバック量KFmainLは、左バンクメインフィードバック条件が成立していないとき、「1」に設定される。左バンクメインフィードバック条件は以下の総ての条件が成立したときに成立する。
(A1)左バンク用上流側空燃比センサ66Lが活性化している。
(A2)機関の負荷(負荷率)KLが閾値KLth以下である。
(A3)フューエルカット制御中でない。
【0080】
次に、CPUはステップ950に進み、「指示燃料噴射量Fiの燃料」を「燃料噴射気筒に対応して設けられている燃料噴射弁33」から噴射させるための噴射指示信号を、その燃料噴射弁33に送出する。
【0081】
この結果、燃料噴射気筒の燃料噴射弁33が正常であれば、左バンクに属する気筒の空燃比を左バンク用目標空燃比abyfrLに一致させるために必要な量の燃料が、燃料噴射気筒の燃料噴射弁33から噴射させられる。
【0082】
一方、CPUがステップ920の処理を行う時点において、燃料噴射気筒が右バンクに属する気筒(#2、#4、#6、#8の何れか)であると、CPUはステップ920にて「No」と判定してステップ960に進み、筒内吸入空気量Mc(k)を右バンク用目標空燃比abyfrRで除することにより基本燃料噴射量Fbaseを求める。
【0083】
右バンク用目標空燃比abyfrRは、理論空燃比stoichから右バンク用サブフィードバック量KSFBRを減じた値(abyfrR=stoich−KSFBR)である。
【0084】
右バンク用サブフィードバック量KSFBRは、右バンク用下流側空燃比センサ67Rの出力値Voxs(R)が下流側目標値である中央値Vmidよりも小さいとき所定量だけ増大させられる。この結果、右バンク用目標空燃比abyfrRは減少させられ、右バンクの気筒に供給される混合気の空燃比は小さくなる(リッチ側へと変化する)。
【0085】
右バンク用サブフィードバック量KSFBRは、右バンク用下流側空燃比センサ67Rの出力値Voxs(R)が下流側目標値である中央値Vmidよりも大きいとき所定量だけ減少させられる。この結果、右バンク用目標空燃比abyfrRは増大させられ、右バンクの気筒に供給される混合気の空燃比は大きくなる(リーン側へと変化する)。
【0086】
次に、CPUはステップ970に進み、基本燃料噴射量Fbaseを右バンク用メインフィードバック量KFmainRにより補正する。より具体的には、CPUは、基本燃料噴射量Fbaseに右バンク用メインフィードバック量KFmainRを乗じることにより、指示燃料噴射量(最終燃料噴射量)Fiを算出する。
【0087】
右バンク用メインフィードバック量KFmainRは、右バンク用上流側空燃比センサ66Rの出力値Vabyfs(R)に基づいて取得された右バンク検出空燃比abyfs(R)が、右バンク用目標空燃比abyfrRに一致するように、PID制御に従って算出される。簡単に述べると、右バンク検出空燃比abyfs(R)が右バンク用目標空燃比abyfrRよりも大きいとき(リーンであるとき)、右バンク用メインフィードバック量KFmainRは所定量だけ増大させられる。右バンク検出空燃比abyfs(R)が右バンク用目標空燃比abyfrRよりも小さいとき(リッチであるとき)、右バンク用メインフィードバック量KFmainRは所定量だけ減少させられる。
【0088】
なお、右バンク用メインフィードバック量KFmainRは、右バンクメインフィードバック条件が成立したとき、上述したように更新される。右バンク用メインフィードバック量KFmainRは、右バンクメインフィードバック条件が成立していないとき、「1」に設定される。右バンクメインフィードバック条件は以下の総ての条件が成立したときに成立する。
(B1)右バンク用上流側空燃比センサ66Rが活性化している。
(B2)機関の負荷(負荷率)KLが閾値KLth以下である。
(B3)フューエルカット制御中でない。
【0089】
次に、CPUはステップ950に進み、「指示燃料噴射量Fiの燃料」を「燃料噴射気筒に対応して設けられている燃料噴射弁33」から噴射させるための噴射指示信号を、その燃料噴射弁33に送出する。
【0090】
この結果、燃料噴射気筒の燃料噴射弁33が正常であれば、右バンクに属する気筒の空燃比を右バンク用目標空燃比abyfrRに一致させるために必要な量の燃料が、燃料噴射気筒の燃料噴射弁33から噴射させられる。
【0091】
<空燃比気筒間インバランス判定>
次に、「空燃比気筒間インバランス判定」を実行するための処理について説明する。CPUは、4ms(所定の一定サンプリング時間ts)が経過する毎に、図10にフローチャートにより示した「空燃比気筒間インバランス判定ルーチン」を実行するようになっている。なお、この「空燃比気筒間インバランス判定ルーチン」は、左バンクに属する気筒について空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否かを判定するルーチンである。右バンクに属する気筒について空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否かを判定するルーチンは、図10に示したルーチンと同様のルーチンであり、別途、実行されている。
【0092】
所定のタイミングになると、CPUはステップ1000から処理を開始してステップ1005に進み、パラメータ取得許可フラグXkyokaの値が「1」であるか否かを判定する。
【0093】
このパラメータ取得許可フラグXkyokaの値は、絶対クランク角CAが0°クランク角になった時点において「インバランス判定用パラメータ取得条件」が成立しているときに「1」に設定され、インバランス判定用パラメータ取得条件が不成立になった時点において直ちに「0」に設定される。インバランス判定用パラメータ取得条件は、単に「パラメータ取得許可条件」とも称呼される。
【0094】
パラメータ取得許可条件は、以下の総ての条件(条件C1乃至条件C6)が成立したときに成立する。従って、パラメータ取得許可条件は、以下の総ての条件(条件C1乃至条件C6)のうちの少なくとも一つが不成立であるとき、成立しない。勿論、パラメータ取得許可条件を構成する条件は、以下の条件C1乃至条件C5に限定されることはない。
【0095】
(条件C1)今回の機関10の始動後、左バンクについての空燃比気筒間インバランス判定の最終的な結果が得られていない。この条件C1は、インバランス判定実施要求条件とも称呼される。条件C1は、前回の左バンクについての空燃比気筒間インバランス判定からの「機関10の運転時間の積算値、又は、吸入空気量Gaの積算値」が、所定値以上であること、に置換されてもよい。
(条件C2)エアフローメータ61により取得される吸入空気量Gaが、所定範囲内である。
(条件C3)機関回転速度NEが所定範囲内である。即ち、機関回転速度NEが、低側閾値回転速度NELoth以上であり且つ高側閾値回転速度NEHith以下である。
(条件C4)冷却水温THWが閾値冷却水温THWth以上である。
(条件C5)左バンクメインフィードバック条件が成立している。なお、このルーチンが、「右バンクに属する気筒についての空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否か」を判定するルーチンである場合、条件C5は「右バンクメインフィードバック条件が成立していること」に置換される。
【0096】
いま、パラメータ取得許可フラグXkyokaの値が「1」に設定されたと仮定する。この場合、CPUはステップ1005にて「Yes」と判定してステップ1010に進み、現時点における左バンク用上流側空燃比センサ66Lの出力値Vabyfs(L)に基づく左バンク検出空燃比abyfs(L)から、前回の左バンク検出空燃比af(L)soldを減じることにより、時間微分値相当値(傾き)afsubを取得する。前回の左バンク検出空燃比af(L)soldは、現時点から所定時間(4ms、サンプリング時間ts)前の時点における出力値Vabyfs(L)に基いて取得された左バンク検出空燃比abyfs(L)である。前回の左バンク検出空燃比af(L)soldは、RAMに格納されている。従って、時間微分値相当値afsubは、4ms(サンプリング時間ts)である所定時間(単位時間)あたりの左バンク上流側空燃比abyfs(L)の変化量である。
【0097】
なお、CPUは、時間微分値相当値(傾き)afsubとして、現時点における左バンク用上流側空燃比センサ66Lの出力値Vabyfs(L)から所定時間(4ms、サンプリング時間ts)前の時点における出力値Vabyfs(L)を減じた値を採用してもよい。
【0098】
次に、CPUはステップ1015に進み、時間微分値相当値afsubの値が「0」以上であるか否か(0又は正の値であるか否か)を判定する。このとき、時間微分値相当値afsubの値が「0」以上であれば、CPUはステップ1015にて「Yes」と判定してステップ1020に進み、その時点の正の傾き積算値SumPに時間微分値相当値afsubを加えることにより、正の傾き積算値SumPを更新する。
【0099】
正の傾き積算値SumPの初期値は、イニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。イニシャルルーチンは、機関10を搭載した車両のイグニッション・キー・スイッチの位置がオフ位置からオン位置へと変更されたときにCPUにより実行される初期化ルーチンである。更に、正の傾き積算値SumPは、後述するステップ1055にて、クランク角が720°回転する毎に「0」に設定される。よって、正の傾き積算値SumPは、クランク角が0°になった時点から720°に到達するまでに、一定サンプリング時間ts毎に得られる時間微分値相当値afsubのうちの正の値を有する時間微分値相当値afsubの積算値である。
【0100】
次に、CPUはステップ1025にて、正の傾き積算カウンタSumPcntの値を「1」だけ増大する。正の傾き積算カウンタSumPcntの値の初期値は、上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。更に、正の傾き積算カウンタSumPcntの値は、後述するステップ1060にて、クランク角が720°回転する毎に「0」に設定される。よって、正の傾き積算カウンタSumPcntの値は、正の傾き積算値SumPに積算されたデータ数(時間微分値相当値afsubの大きさを表すデータ数)を示す。その後、CPUはステップ1040に進む。
【0101】
一方、CPUがステップ1015の処理を行う時点において、時間微分値相当値afsubの値が「0」よりも小さいと(即ち、時間微分値相当値afsubが負の値であると)、CPUはステップ1015にて「No」と判定してステップ1030に進み、その時点の負の傾き積算値SumMに「時間微分値相当値afsubの絶対値|afsub|」を加えることにより、負の傾き積算値SumMを更新する。
【0102】
負の傾き積算値SumMの初期値は、上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。更に、負の傾き積算値SumMは、後述するステップ1060にて、クランク角が720°回転する毎に「0」に設定される。よって、負の傾き積算値SumMは、絶対クランク角が0°になった時点から720°に到達するまでに、一定サンプリング時間ts毎に得られる時間微分値相当値afsubのうちの負の値を有する時間微分値相当値afsubの大きさの積算値である。
【0103】
次に、CPUはステップ1035にて、負の傾き積算カウンタSumMcntの値を「1」だけ増大する。負の傾き積算カウンタSumMcntの値の初期値は、上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。更に、負の傾き積算カウンタSumMcntの値は、後述するステップ1060にて、クランク角が720°回転する毎に「0」に設定される。よって、負の傾き積算カウンタSumMcntの値は、負の傾き積算値SumMに積算されたデータ数(時間微分値相当値afsubの大きさを表すデータ数)を示す。その後、CPUはステップ1040に進む。
【0104】
次に、CPUはステップ1040に進み、絶対クランク角CAが720°以上になっているか否かを判定する。このとき、絶対クランク角CAが720°未満であると、CPUはステップ1040にて「No」と判定し、ステップ1095に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0105】
一方、CPUがステップ1040の処理を行う時点において、絶対クランク角CAが720°以上になっていると、CPUはそのステップ1040にて「Yes」と判定し、ステップ1045に進む。
【0106】
CPUは、ステップ1045にて、正の傾き積算値SumPを正の傾き積算カウンタSumPcntの値により除することにより、正の傾き平均値aveP(=SumP/SumPcnt)を算出する。更に、CPUは、負の傾き積算値SumMを負の傾き積算カウンタSumMcntの値により除することにより、負の傾き平均値aveM(=SumM/SumMcnt)を算出する。
【0107】
次に、CPUはステップ1050に進み、その時点の正の傾き平均値積算値SAvePに正の傾き平均値avePを加えることにより、正の傾き平均値積算値SAvePを更新する。正の傾き平均値積算値SAvePの初期値は、上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。よって、正の傾き平均値積算値SAvePは機関10の今回の運転開始後に取得された正の傾き平均値avePの積算値である。
【0108】
更に、CPUはステップ1050にて、その時点の負の傾き平均値積算値SAveMに負の傾き平均値aveMを加えることにより、負の傾き平均値積算値SAveMを更新する。負の傾き平均値積算値SAveMの初期値は、上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。よって、負の傾き平均値積算値SAveMは機関10の今回の運転開始後に取得された負の傾き平均値aveMの積算値である。
【0109】
次に、CPUはステップ1055にて、データカウンタdcntの値を「1」だけ増大する。このデータカウンタdcntの値は上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。従って、データカウンタdcntの値は、正の傾き平均値積算値SAvePに積算された正の傾き平均値avePのデータ数を示す。データカウンタdcntの値は、負の傾き平均値積算値SAveMに積算された負の傾き平均値aveMのデータ数でもある。
【0110】
次に、CPUはステップ1060にて、正の傾き積算値SumP、正の傾き積算カウンタSumPcnt、負の傾き積算値SumM、及び、負の傾き積算カウンタSumMcntの各値を「0」に設定する。
【0111】
次に、CPUはステップ1065に進み、データカウンタdcntの値が閾値dcntth以上であるか否かを判定する。このとき、データカウンタdcntの値が閾値dcntth未満であると、CPUはそのステップ1065にて「No」と判定し、ステップ1095に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。なお、閾値dcntthは2以上であることが望ましいが、「1」であってもよい。
【0112】
一方、CPUがステップ1065の処理を行う時点において、データカウンタdcntの値が閾値dcntth以上であると、CPUはそのステップ1065にて「Yes」と判定してステップ1070に進み、正の傾き平均値積算値SAvePをデータカウンタdcnt(=dcntth)によって除することにより正の傾き相当値KmkPを算出する。即ち、CPUは、正の傾き平均値avePの平均値を正の傾き相当値KmkPとして求める。
【0113】
同時に、CPUは、ステップ1070にて、負の傾き平均値積算値SAveMをデータカウンタdcnt(=dcntth)によって除することにより負の傾き相当値KmkMを算出する。即ち、CPUは、負の傾き平均値aveMの平均値を負の傾き相当値KmkMとして求める。
【0114】
次に、CPUはステップ1075に進み、図6に示したテーブルMapXth(|KmkM/KmkP|)に、「正の傾き相当値KmkPに対する負の傾き相当値KmkMの比の絶対値(前述した正負傾き比の大きさ)|KmkM/KmkP|」を適用することにより、インバランス判定用閾値Xthを決定する。このテーブルMapXth(|KmkM/KmkP|)によれば、インバランス判定用閾値Xthは、比の絶対値|KmkM/KmkP|が大きくなるほど大きくなるように求められる。
【0115】
発明者は、前記正の傾き相当値に対する前記負の傾き相当値の比の大きさ(正負傾き比の大きさ)|KmkM/KmkP|は、リッチインバランスが発生しているか否かに関らず、次の排気までの時間(クランク角)が長い気筒ほど大きくなるとの知見を得た。そこで、発明者は、図6に示したように、正負傾き比の大きさ|KmkM/KmkP|を横軸にとり縦軸に負の傾き相当値の大きさKmkMをとると、破線により示したように、リッチインバランスが発生している場合(図中の菱形のプロットを参照。)とリッチインバランスが発生していない場合(図中の円のプロットを参照。)とを区別するインバランス判定用閾値(図中の破線を参照。)を設定することができるという知見を得た。
【0116】
より詳細に述べると、このテーブルMapXth(|KmkM/KmkP|)によれば、インバランス判定用閾値Xthは、比の絶対値|KmkM/KmkP|が所定値(例えば、1)以下である場合に一定値X0に設定される。更に、このテーブルMapXth(|KmkM/KmkP|)によれば、インバランス判定用閾値Xthは、比の絶対値|KmkM/KmkP|が所定値以上(例えば、1以上)の範囲において比の絶対値|KmkM/KmkP|が大きくなるほど一定値X0以上の範囲において次第に大きくなるように設定される。
【0117】
次に、CPUはステップ1080に進み、負の傾き相当値KmkMをインバランス判定用パラメータXとして採用する。
【0118】
次に、CPUはステップ1085に進み、インバランス判定用パラメータXが「インバランス判定用閾値Xth」以上であるか否かを判定する。
【0119】
このとき、インバランス判定用パラメータXがインバランス判定用閾値Xth以上であると、CPUはステップ1085にて「Yes」と判定してステップ1090に進み、左バンク用インバランス発生フラグXIMBLの値を「1」に設定する。即ち、CPUは左バンクに空燃比気筒間インバランス状態が発生していると判定する。更に、このとき、CPUは図示しない警告ランプを点灯してもよい。なお、インバランス発生フラグXIMBLの値はバックアップRAMに格納される。その後、CPUはステップ1095に進んで、本ルーチンを一旦終了する。
【0120】
これに対し、CPUがステップ1085の処理を行う時点において、インバランス判定用パラメータXがインバランス判定用閾値Xth未満であると、CPUはステップ1085にて「No」と判定してステップ1092に進み、左バンク用インバランス発生フラグXIMBLの値を「2」に設定する。即ち、CPUは、「空燃比気筒間インバランス判定の結果、左バンクに空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定された旨」を記憶する。その後、CPUはステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。以上のようにして、空燃比気筒間インバランス判定が実行される。
【0121】
なお、CPUがステップ1005に進んだ際にパラメータ取得許可フラグXkyokaの値が「1」でなければ、CPUはそのステップ1005にて「No」と判定してステップ1094に進む。そして、CPUはステップ1094にて各値(例えば、afsub、SumP、SumPcnt、SumM、SumMcnt等)を「0」に設定する。次いで、CPUはステップ1095に進み本ルーチンを一旦終了する。以上により、左バンクに属する気筒について、空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否かが判定される。
【0122】
なお、前述したように、CPUは、右バンクに属する気筒について空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否かを判定するルーチン(右バンク用判定ルーチン)を、別途実行している。右バンク用判定ルーチンにおいて、時間微分値相当値(傾き)afsubは、右バンク用上流側空燃比センサ66Rの出力値Vabyfs(R)に基づく右バンク検出空燃比abyfs(R)から、前回の右バンク検出空燃比af(R)soldを減じることにより取得される値である。
【0123】
以上、説明したように、第1判定装置は、不等爆発間隔の左バンク及び不等爆発間隔の右バンクを有する多気筒内燃機関10に適用される。更に、第1判定装置は、各バンクについて、空燃比センサ(66L、66R)と、複数の燃料噴射弁(33)と、そのバンクに属する2以上の気筒の燃焼室に供給される混合気の空燃比が目標空燃比(abyfL、abyfR)となるように前記指示燃料噴射量(Fi)を制御する指示燃料噴射量制御手段(図9のルーチンを参照。)と、を備える。
【0124】
更に、第1判定装置は、
前記空燃比センサの出力値又は同出力値により表される空燃比である検出空燃比、の所定時間あたりの変化量である時間微分値相当値を取得し(図10のステップ1010)、
前記時間微分値相当値のうちの正の値(の大きさ)に応じて変化する正の傾き相当値KmkPを同正の値に基いて取得し(図10のステップ1015での「Yes」との判定、及び、1010、1025、1040乃至1070)、
前記時間微分値相当値のうちの負の値の大きさに応じて変化する負の傾き相当値KmkPを同負の値に基いて取得し(図10のステップ1015での「No」との判定、及び、1030、1035、1040乃至1070)、、
前記正の傾き相当値に対する前記負の傾き相当値の比の大きさに応じて変化するインバランス判定用閾値を同比の大きさに基いて決定し(図10のステップ1075、及び、図6)、且つ、
前記負の傾き相当値の大きさが前記インバランス判定用閾値よりも大きいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定し、且つ、前記負の傾き相当値の大きさが前記インバランス判定用閾値よりも小さいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定する(図10のステップ1085、ステップ1090及びステップ1092)、
インバランス判定手段を備える。
【0125】
従って、第1判定装置は、どの気筒の燃料噴射弁がリッチインバランスの原因となっているかを特定しなくても、正の傾き相当値及び負の傾き相当値を求めるだけで、適正なインバランス判定用閾値を設定できる。その結果、第1判定装置は、より精度良く空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かを判定することができる。
【0126】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る判定装置(以下、単に「第2判定装置」と称呼する。)について説明する。
【0127】
空燃比センサ(左バンク用上流側空燃比センサ66L、右バンク用上流側空燃比センサ66R)の出力値の「空燃比の変化」に対する応答性(空燃比応答性)は、空燃比センサの個体差及び/又は経年変化により一定でない。空燃比センサの空燃比応答性が変化すれば、例え、ある気筒の空燃比の他の気筒からのずれが一定であったとしても、時間微分値相当値afsubが変化する。よって、空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否かを判定を精度良く行うことができない。そこで、第2判定装置は、空燃比センサの実際の空燃応答性にも基いてインバランス判定用パラメータXを求め、その求められたインバランス判定用パラメータXに基いてインバランス判定を実行する。以下、この点を中心に説明する。
【0128】
第2判定装置のCPUは、図9に示したルーチンを実行するとともに、「図10のステップ1065乃至ステップ1092」を「図11のステップ1110乃至ステップ1140、並びに、ステップ1075乃至ステップ1092」に置換したルーチンを実行する。なお、図11において図10に示したステップと同一の処理を行うためのステップには、図10のそのようなステップに付された符号と同一の符合が付されている。
【0129】
いま、図10のステップ1055の処理により、データカウンタdcntの値が閾値dcntth以上になったと仮定する。この場合、CPUが図11のステップ1110に進んで、データカウンタdcntの値が閾値dcntth以上になったと判定するとき、CPUはそのステップ1110にて「Yes」と判定してステップ1120に進み、左バンク・リッチリーン応答性指標値afsresRL(L)及び左バンク・リーンリッチ応答性指標値afsresLR(L)をRAMから読み出す。
【0130】
左バンク・リッチリーン応答性指標値afsresRL(L)は、図12に示したように、左バンク用目標空燃比abyfrLを所定のリッチ空燃比AFrichから所定のリーン空燃比AFLeanへと変化させた場合に左バンク用上流側空燃比センサ66Lの出力値Vabyfs(L)に基づく左バンク上流側空燃比abyfs(L)がリッチ空燃比AFrichに対応した値からリーン空燃比AFLeanに対応した値へと変化する期間、における「左バンク上流側空燃比abyfs(L)の変化速度(daf/tp)」の大きさの最大値である。従って、左バンク・リッチリーン応答性指標値afsresRL(L)は、検出すべき排ガスの空燃比がリッチからリーンへと変化した場合における左バンク用上流側空燃比センサ66Lの出力値Vabyfs(L)の応答性(空燃比応答性)が高いほど大きい値になる。左バンク・リッチリーン応答性指標値afsresRL(L)は、図示しないルーチンにより取得され、RAMに格納される。
【0131】
左バンク・リーンリッチ応答性指標値afsresLR(L)は、図13に示したように、左バンク用目標空燃比abyfrLを所定のリーン空燃比AFLeanから所定のリッチ空燃比AFrichへと変化させた場合に左バンク上流側空燃比abyfs(L)がリーン空燃比AFLeanに対応した値からリッチ空燃比AFrichに対応した値へと変化する期間、における「左バンク上流側空燃比abyfs(L)の変化速度(daf/tp)」の大きさの最大値である。従って、左バンク・リーンリッチ応答性指標値afsresLR(L)は、検出すべき排ガスの空燃比がリーンからリッチへと変化した場合における左バンク用上流側空燃比センサ66Lの出力値Vabyfs(L)の応答性(空燃比応答性)が高いほど大きい値になる。左バンク・リーンリッチ応答性指標値afsresLR(L)は、図示しないルーチンにより取得され、RAMに格納される。
【0132】
次に、CPUは図11のステップ1130に進み、正の傾き平均値積算値SAvePを「左バンク・リッチリーン応答性指標値afsresRL(L)」により補正することによって、補正後正の傾き平均値積算値SAvePhを算出する。より具体的に述べると、CPUは、左バンク・リッチリーン応答性指標値afsresRL(L)が標準値よりも大きい範囲において大きくなるほど(即ち、空燃比がリッチからリーンへ変化したときの空燃比センサ66Lの空燃比応答性が高いほど)、正の傾き平均値積算値SAvePがより小さくなるように正の傾き平均値積算値SAvePを補正した値を「補正後正の傾き平均値積算値SAvePh」として求める。更に、CPUは、左バンク・リッチリーン応答性指標値afsresRL(L)が標準値よりも小さい範囲において小さくなるほど(即ち、空燃比がリッチからリーンへ変化したときの空燃比センサ66Lの空燃比応答性が低いほど)、正の傾き平均値積算値SAvePがより大きくなるように正の傾き平均値積算値SAvePを補正した値を「補正後正の傾き平均値積算値SAvePh」として求める。
【0133】
同時に、CPUはステップ1130にて、負の傾き平均値積算値SAveMを「左バンク・リーンリッチ応答性指標値afsresLR(L)」により補正することによって、補正後負の傾き平均値積算値SAveMhを算出する。より具体的に述べると、CPUは、左バンク・リーンリッチ応答性指標値afsresLR(L)が標準値よりも大きい範囲において大きくなるほど(即ち、空燃比がリーンからリッチへ変化したときの空燃比センサ66Lの空燃比応答性が高いほど)、負の傾き平均値積算値SAveMの絶対値(大きさ)がより小さくなるように負の傾き平均値積算値SAveMを補正した値を「補正後負の傾き平均値積算値SAvePh」として求める。更に、CPUは、左バンク・リーンリッチ応答性指標値afsresLR(L)が標準値よりも小さい範囲において小さくなるほど(即ち、空燃比がリーンからリッチへ変化したときの空燃比センサ66Lの空燃比応答性が低いほど)、負の傾き平均値積算値SAveMの絶対値がより大きくなるように負の傾き平均値積算値SAveMを補正した値を「補正後負の傾き平均値積算値SAveMh」として求める。
【0134】
次に、CPUはステップ1140に進み、補正後正の傾き平均値積算値SAvePhをデータカウンタdcnt(=dcntth)によって除することにより正の傾き相当値KmkPを算出する。更に、CPUは、ステップ1070にて、補正後負の傾き平均値積算値SAveMhをデータカウンタdcntによって除することにより負の傾き相当値KmkMを算出する。
【0135】
その後、CPUはステップ1075乃至ステップ1085の処理を実行することにより、左バンクの気筒間に空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否かを判定する。
【0136】
なお、CPUがステップ1110の処理を実行する時点において、データカウンタdcntの値が閾値dcntth未満であると、CPUはそのステップ1110にて「No」と判定し、ステップ1195に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0137】
更に、CPUは、右バンクに対しても図11と同様な処理を行う。即ち、CPUは、右バンク用上流側空燃比センサ66Rに対して、右バンク・リッチリーン応答性指標値afsresRL(R)及び右バンク・リーンリッチ応答性指標値afsresLR(R)を求め、それらの値に基いて「右バンクの正の傾き平均値積算値SAveP及び右バンクの負の傾き平均値積算値SAveM」を補正し、その補正した値に基いて右バンク用のインバランス判定用パラメータX及びインバランス判定用閾値Xthを算出する。そして、CPUは、それらの値を用いて右バンクの気筒間に空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否かを判定する。
【0138】
以上、説明したように、第2判定装置は、正の傾き相当値KmkP及び負の傾き相当値KmkMを空燃比センサの応答性を考慮して決定する。その結果、空燃比センサの応答性が低下した場合であっても、空燃比気筒間インバランス判定を精度良く行うことができる。
【0139】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、本発明は、V8エンジンに限らず、ある上流側空燃比センサに到達する排ガスを排出する気筒群(3以上、更に好ましくは4乃至6の気筒)において、排気間隔が一定でないエンジンであれば適用することができる。
【0140】
更に、上記実施形態においては、図10のステップ1030にて時間微分値相当値afsubの絶対値|afsub|を積算しているが、ステップ1030にて時間微分値相当値afsubを積算してもよい。この場合、図10のステップ1070にて、負の傾き平均値積算値SAveMをデータカウンタdcnt(=dcntth)によって除した値の絶対値を負の傾き相当値KmkMとして採用すればよい。
【0141】
また、左バンク・リッチリーン応答性指標値afsresRL(L)は、図12に示したように、左バンク用目標空燃比abyfrLを所定のリッチ空燃比AFrichから所定のリーン空燃比AFLeanへと変化させた場合に左バンク用上流側空燃比センサ66Lの出力値Vabyfs(L)に基づく左バンク上流側空燃比abyfs(L)がリッチ空燃比AFrichに対応した値から「リッチ空燃比AFrichとリーン空燃比AFLeanとの間の所定空燃比」へと変化するまでの時間に基く値(例えば、この時間の逆数)であってもよい。右バンク・リッチリーン応答性指標値afsresRL(R)も同様に取得され得る。
【0142】
更に、左バンク・リーンリッチ応答性指標値afsresLR(L)は、図13に示したように、左バンク用目標空燃比abyfrLを所定のリーン空燃比AFLeanから所定のリッチ空燃比AFrichへと変化させた場合に左バンク上流側空燃比abyfs(L)がリーン空燃比AFLeanに対応した値から「リーン空燃比AFLeanとリッチ空燃比AFrichとの間の所定空燃比」へと変化するまでの時間に基く値(例えば、この時間の逆数)であってもよい。右バンク・リーンリッチ応答性指標値afsresLR(R)も同様に取得され得る。
【符号の説明】
【0143】
10…多気筒内燃機関、20…機関本体部、21…燃焼室(気筒)、33…燃料噴射弁、40…左バンク排気系統、41…左バンク用エキゾーストマニホールド、41b…集合部(左バンク排気集合部)、42…左バンク用エキゾーストパイプ、43…左バンク用上流側触媒、50…右バンク排気系統、51…右バンク用エキゾーストマニホールド、51b…集合部(右バンク排気集合部)、52…右バンク用エキゾーストパイプ、53…右バンク用上流側触媒、66L…左バンク用上流側空燃比センサ、66R…右バンク用上流側空燃比センサ、70…電気制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不等爆発間隔の複数の気筒を有する多気筒内燃機関に適用され、
前記複数の気筒のうちの少なくとも2以上の気筒から排出された排ガスが集合する前記機関の排気通路の排気集合部又は同排気通路の同排気集合部よりも下流側の部位に配設された空燃比センサであって同空燃比センサが配設された部位を通過する排ガスの空燃比に応じた出力値を出力する空燃比センサと、
前記少なくとも2以上の気筒のそれぞれに対応して配設されるとともに同2以上の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気に含まれる燃料であって指示燃料噴射量に応じた量の燃料をそれぞれ噴射する複数の燃料噴射弁と、
前記2以上の気筒の燃焼室に供給される混合気の空燃比が目標空燃比となるように前記指示燃料噴射量を制御する指示燃料噴射量制御手段と、
前記空燃比センサの出力値又は同出力値により表される空燃比である検出空燃比、の所定時間あたりの変化量である時間微分値相当値を取得し、
前記時間微分値相当値のうちの正の値の大きさに応じて変化する正の傾き相当値を同正の値に基いて取得し、
前記時間微分値相当値のうちの負の値の大きさに応じて変化する負の傾き相当値を同負の値に基いて取得し、
前記正の傾き相当値に対する前記負の傾き相当値の比の大きさに応じて変化するインバランス判定用閾値を同比の大きさに基いて決定し、且つ、
前記負の傾き相当値の大きさが前記インバランス判定用閾値よりも大きいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定し、且つ、前記負の傾き相当値の大きさが前記インバランス判定用閾値よりも小さいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定する、インバランス判定手段と、
を備える内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の空燃比気筒間インバランス判定装置であって、
前記インバランス判定手段は、
前記正の傾き相当値に対する前記負の傾き相当値の比の大きさが大きいほど前記インバランス判定用閾値が大きくなるように前記インバランス判定用閾値を決定するように構成された空燃比気筒間インバランス判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−68124(P2013−68124A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206152(P2011−206152)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】