説明

内燃機関の筒内流入EGRガス流量推定装置

【課題】内燃機関のスロットルバルブ上流側の吸気通路にEGRガスを還流させるEGR装置を採用したシステムにおいて筒内流入EGRガス流量を精度良く推定する。
【解決手段】EGRガスがEGR弁を通過する挙動を模擬したEGR弁モデル42を用いてEGR弁通過ガス流量を演算した後、EGR弁を通過したEGRガスがスロットルバルブを通過して筒内に流入するまでの挙動を模擬したEGRガス遅れモデル43を用いて筒内流入EGRガス流量を演算する。EGRガス遅れモデル43は、EGRガスがスロットルバルブ上流側の吸気通路に流入する挙動を模擬した合流遅れモデルと、スロットルバルブ上流側の吸気通路に流入したEGRガスがスロットルバルブを通過するまでの挙動を模擬した移流遅れモデルと、スロットルバルブを通過したEGRガスがスロットルバルブ下流側の吸気通路に充填される挙動を模擬した充填遅れモデル等から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の筒内に流入するEGRガス流量(筒内流入EGRガス流量)を推定する内燃機関の筒内流入EGRガス流量推定装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2008−101626号公報)では、内燃機関の排出ガスの一部をEGR通路を通してスロットルバルブの下流側の吸気通路に還流させる流量(EGRガス流量)を該EGR通路のEGR弁で制御するEGR装置付きの内燃機関において、EGR通路内を流れるEGRガスがEGR弁を通過する挙動を模擬したEGR弁モデルを用いてEGR弁通過ガス流量を演算し、定常運転時には、EGR弁通過ガス流量をそのまま筒内流入EGRガス流量とし、過渡運転時には、EGR弁を通過したEGRガスが吸気通路に流入して内燃機関の吸気口に到達するまでの挙動を模擬したEGRガス拡散モデル(無駄時間+一次遅れ系)を用いてEGR弁通過ガス流量の演算値から筒内に流入するEGRガス流量(筒内流入EGRガス流量)を演算するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−101626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
EGR装置付きの内燃機関で、近年の重要な技術的課題である内燃機関の燃費を低減するためには、内燃機関の運転条件に応じて、EGRガスを含む筒内流入ガスを最適な燃焼条件で燃焼させるように筒内流入EGRガス流量(EGR率)を制御する必要があり、そのためには、筒内流入EGRガス流量を高精度に推定することが必要となる。
【0005】
また、EGR装置には、スロットルバルブ下流側の吸気通路にEGRガスを還流させる方式のEGR装置と、スロットルバルブ上流側の吸気通路にEGRガスを還流させる方式のEGR装置があり、スロットルバルブ上流側の吸気通路にEGRガスを還流させる方式のEGR装置では、吸気通路に流入したEGRガスが筒内に流入するまでの配管の容積が比較的大きいため、EGR弁の開度変化に対する筒内流入EGRガス流量の変化の遅れが大きいという特徴がある。
【0006】
しかし、上記特許文献1の技術は、スロットルバルブ下流側の吸気通路にEGRガスを還流させる方式のEGR装置を採用したシステムにおいて筒内流入EGRガス流量を推定する技術であるため、スロットルバルブ上流側の吸気通路にEGRガスを還流させる方式のEGR装置を採用したシステム(つまりEGR弁の開度変化に対する筒内流入EGRガス流量の変化の遅れが大きいシステム)において筒内流入EGRガス流量を精度良く推定することは困難である。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、スロットルバルブ上流側の吸気通路にEGRガスを還流させる方式のEGR装置を採用したシステムにおいて筒内流入EGRガス流量の推定精度を向上させることができる内燃機関の筒内流入EGRガス流量推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、内燃機関(11)の排気通路(15)からEGR通路(29)を通してスロットルバルブ(21)の上流側の吸気通路(12)に還流させるEGRガス流量を調節するEGR弁(31)を備えた内燃機関の筒内流入EGRガス流量推定装置において、EGR通路(29)内を流れるEGRガスがEGR弁(31)を通過する挙動を模擬したEGR弁モデル(42)を用いてEGR弁通過ガス流量を演算する手段(38)と、EGR弁(31)を通過したEGRガスがスロットルバルブ(21)を通過して筒内に流入するまでの挙動を模擬したEGRガス遅れモデル(43)を用いてEGR弁通過ガス流量の演算値に基づいて筒内流入EGRガス流量を演算する手段(38)とを備えた構成としたものである。
【0009】
この構成では、スロットルバルブ上流側の吸気通路にEGRガスを還流させる方式のEGR装置を採用したシステムにおいて、EGR弁を通過したEGRガスがスロットルバルブを通過して筒内に流入するまでの挙動を模擬したEGRガス遅れモデルを用いて筒内流入EGRガス流量を演算することができるため、EGR弁の開度変化に対する筒内流入EGRガス流量の変化の遅れが大きいという事情があっても、筒内流入EGRガス流量を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は本発明の実施例1における過給機付きエンジン制御システムの概略構成を示す図である。
【図2】図2は筒内流入総ガス流量と筒内流入EGRガス流量の演算方法を説明するブロック図である。
【図3】図3は実施例1のEGR弁モデルを説明する図である。
【図4】図4はEGRガス遅れモデルを説明するブロック図である。
【図5】図5は吸気管移流遅れモデルを説明する図である。
【図6】図6は筒内流入EGRガス流量演算ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は実施例2のスロットル通過総ガス流量の補正方法を説明するブロック図である。
【図8】図8は実施例3のEGR弁モデルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を過給機付きの内燃機関に適用して具体化した幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0012】
本発明の実施例1を図1乃至図6に基づいて説明する。
まず、図1に基づいて過給機付きのエンジン制御システムの構成を概略的に説明する。
内燃機関であるエンジン11の吸気管12(吸気通路)の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、吸入空気(新気)の流量を検出するエアフローメータ14(新気流量取得手段)が設けられている。一方、エンジン11の排気管15(排気通路)には、排出ガス中のCO,HC,NOx等を浄化する三元触媒等の触媒16が設置されている。
【0013】
このエンジン11には、吸入空気を過給する排気タービン駆動式の過給機17が搭載されている。この過給機17は、排気管15のうちの触媒16の上流側に排気タービン18が配置され、吸気管12のうちのエアフローメータ14の下流側にコンプレッサ19が配置されている。この過給機17は、排気タービン18とコンプレッサ19とが一体的に回転するように連結され、排出ガスの運動エネルギで排気タービン18を回転駆動することでコンプレッサ19を回転駆動して吸入空気を過給するようになっている。
【0014】
吸気管12のうちのコンプレッサ19の下流側には、モータ20によって開度調節されるスロットルバルブ21と、このスロットルバルブ21の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ22とが設けられている。
【0015】
更に、スロットルバルブ21の下流側には、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ48が設けられていると共に、吸入空気を冷却するインタークーラがサージタンク23(吸気通路)と一体的に設けられている。尚、サージタンク23やスロットルバルブ21の上流側にインタークーラを配置するようにしても良い。サージタンク23には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド24(吸気通路)が設けられ、各気筒毎に筒内噴射又は吸気ポート噴射を行う燃料噴射弁(図示せず)が取り付けられている。エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ(図示せず)が取り付けられ、各点火プラグの火花放電によって各気筒内の混合気に着火される。
【0016】
エンジン11の各気筒の排気口には排気マニホールド25が接続され、各気筒の排気マニホールド25の下流側の集合部が排気タービン18の上流側の排気管15に接続されている。また、排気タービン18の上流側と下流側とをバイパスさせる排気バイパス通路26が設けられ、この排気バイパス通路26に、排気バイパス通路26を開閉するウェイストゲートバルブ27が設けられている。
【0017】
このエンジン11には、排気管15から排出ガスの一部をEGRガスとして吸気管12へ還流させるLPL方式(低圧ループ方式)のEGR装置28が搭載されている。このEGR装置28は、排気管15のうちの触媒16の下流側と吸気管12のうちのコンプレッサ19の上流側(スロットルバルブ21の上流側の吸気通路)との間にEGR配管29(EGR通路)が接続され、このEGR配管29に、EGRガスを冷却するEGRクーラ30と、EGRガス流量を調節するEGR弁31が設けられている。このEGR弁31は、モータ等のアクチュエータ(図示せず)によって開度が調整され、EGR弁31を開弁することで排気管15のうちの触媒16の下流側から吸気管12のうちのコンプレッサ19の上流側(スロットルバルブ21の上流側の吸気通路)へEGRガスを還流させるようになっている。
【0018】
また、エンジン11には、吸気バルブ(図示せず)のバルブタイミング(開閉タイミング)を変化させる吸気側可変バルブタイミング機構32と、排気バルブ(図示せず)のバルブタイミングを変化させる排気側可変バルブタイミング機構33が設けられている。その他、エンジン11には、冷却水温を検出する冷却水温センサ34や、クランク軸(図示せず)が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ35等が設けられ、クランク角センサ35の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0019】
これら各種センサの出力は、電子制御ユニット(以下「ECU」と表記する)36に入力される。このECU36は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御用のプログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて、燃料噴射量、点火時期、スロットル開度(吸入空気量)等を制御する。
【0020】
その際、ECU36は、所定の空燃比F/B制御実行条件が成立したときに、図示しない排出ガスセンサ(例えば空燃比センサや酸素センサ等)の出力に基づいて排出ガスの空燃比を目標空燃比に一致させるように空燃比F/B補正量を算出し、この空燃比F/B補正量を用いて燃料噴射弁21の燃料噴射量を補正する空燃比F/B制御を実行する。ここで、「F/B」は「フィードバック」を意味する(以下、同様)。
【0021】
また、ECU36は、エンジン運転領域がEGR実行領域である場合には、EGR弁31を開弁してエンジン11から排出された排出ガスの一部をEGRガスとして吸気管12のうちのコンプレッサ19の上流側(スロットルバルブ21の上流側の吸気通路)へ還流させる。この際、ECU36は、後述する図6の筒内流入EGRガス流量演算ルーチンを実行することで、筒内流入EGRガス流量(筒内に流入するEGRガス流量)を演算する。そして、演算した筒内流入EGRガス流量を、エンジン運転状態に応じて設定した目標筒内流入EGRガス流量に一致させるようにEGR弁31の開度をF/B制御等により制御する。又は、演算した筒内流入EGRガス流量からEGR率を算出して、EGR率を目標EGR率に一致させるようにEGR弁31の開度をF/B制御等により制御する。
【0022】
EGR率=筒内流入EGRガス流量/筒内流入総ガス流量
=筒内流入EGRガス流量/(筒内流入新気流量+筒内流入EGRガス流量)
【0023】
或は、演算した筒内流入EGRガス流量(EGR率)に基づいて点火時期の遅角量、吸気バルブタイミング、排気バルブタイミング等を制御するようにしても良い。
【0024】
また、本実施例では、図2に示すように、筒内流入総ガス流量演算部37で筒内流入総ガス流量(=筒内流入新気流量+筒内流入EGRガス流量)を演算すると共に、筒内流入EGRガス流量演算部38で筒内流入EGRガス流量を演算し、筒内流入総ガス流量から筒内流入EGRガス流量を差し引いて筒内流入新気流量を求め、この筒内流入新気流量に基づいて燃料噴射制御等を行う。
【0025】
以下、筒内流入総ガス流量演算部37及び筒内流入EGRガス流量演算部38の機能を説明する。
筒内流入総ガス流量演算部37は、まず、吸気管12内を流れる気体がスロットルバルブ21を通過する挙動を模擬したスロットルモデル39を用いて、スロットル通過総ガス流量(スロットルバルブ21を通過する総ガス流量)を演算する。尚、スロットルモデル39として、例えば特許文献1(特開2008−101626号公報)に記載されたスロットルモデルを使用しても良い。
【0026】
更に、本実施例1では、エアフローメータ14で検出した新気流量(吸気管12内を流れる新気の流量)を用いて、スロットル通過総ガス流量の演算値(スロットルモデル39を用いて演算したスロットル通過総ガス流量)を補正する。具体的には、所定の補正値学習条件が成立したとき(例えば定常運転状態のとき)に、エアフローメータ14で検出した新気流量とスロットル通過総ガス流量の演算値との差をガス流量補正値として算出して記憶する。そして、このガス流量補正値を用いてスロットル通過総ガス流量の演算値を補正する。これにより、スロットル通過総ガス流量を精度良く求めることができる。
【0027】
この後、スロットルバルブ21を通過した気体がスロットルバルブ21の下流側の吸気通路(サージタンク23や吸気マニホールド24等)内に充填される挙動を模擬したインマニモデル40を用いて、スロットル通過総ガス流量と筒内流入総ガス流量の前回値とに基づいてインマニ圧力(スロットルバルブ21の下流側の吸気通路内の圧力)を演算する。尚、インマニモデル40として、例えば特許文献1(特開2008−101626号公報)に記載された吸気管モデルを使用しても良い。
【0028】
この後、スロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填された気体が筒内に吸入される挙動を模擬した吸気弁モデル41を用いて、インマニ圧力に基づいて筒内流入総ガス流量(=筒内流入新気流量+筒内流入EGRガス流量)を演算する。尚、吸気弁モデル41として、例えば特許文献1(特開2008−101626号公報)に記載された吸気弁モデルを使用しても良い。
【0029】
一方、筒内流入EGRガス流量演算部38は、まず、EGR配管29内を流れるEGRガスがEGR弁31を通過する挙動を模擬したEGR弁モデル42を用いて、EGR弁通過ガス流量(EGR弁31を通過するEGRガス流量)を演算する。
【0030】
本実施例1では、図3に示すように、EGR弁モデル42は、EGR弁31の開度とスロットル通過総ガス流量とEGR弁通過ガス流量との関係を規定するマップにより構築され、このEGR弁通過ガス流量のマップを用いて、EGR弁31の開度とスロットル通過総ガス流量とに応じたEGR弁通過ガス流量を演算する。EGR弁通過ガス流量のマップは、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU36のROMに記憶されている。このようにすれば、マップを用いてEGR弁31の開度とスロットル通過総ガス流量とに基づいてEGR弁通過ガス流量を精度良く演算することができる。
【0031】
この後、EGR弁31を通過したEGRガスがスロットルバルブ21を通過して筒内に流入するまでの挙動を模擬したEGRガス遅れモデル43(図2参照)を用いて、EGR弁通過ガス流量の演算値に基づいて筒内流入EGRガス流量を演算する。
【0032】
図4に示すように、EGRガス遅れモデル43は、EGR弁31を通過したEGRガスがスロットルバルブ21の上流側の吸気通路(吸気管12のうちのコンプレッサ19の上流側)に流入する挙動を模擬した新気合流遅れモデル44と、スロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入したEGRガスがスロットルバルブ21を通過するまでの挙動を模擬した吸気管移流遅れモデル45と、スロットルバルブ21を通過したEGRガスがスロットルバルブ21の下流側の吸気通路(サージタンク23や吸気マニホールド24等)に充填される挙動を模擬したインマニ充填遅れモデル46と、スロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填されたEGRガスが吸気ポートを通過して筒内に流入するまでの挙動を模擬した吸気ポート移流遅れモデル47とから構成されている。
【0033】
これにより、EGRガスがスロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入する際の遅れと、スロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入したEGRガスがスロットルバルブ21を通過するまでの移流遅れと、スロットルバルブ21を通過したEGRガスがスロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填される際の充填遅れと、スロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填されたEGRガスが吸気ポートを通過して筒内に流入するまでの移流遅れを、筒内流入EGRガス流量の演算に反映させることができ、筒内流入EGRガス流量の推定精度を高めることができる。
【0034】
筒内流入EGRガス流量を演算する場合には、まず、新気合流遅れモデル44を用いて、EGR弁通過ガス流量Megr(a)に基づいてスロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入するEGRガス流量Megr(b)を演算する。
【0035】
新気合流遅れモデルは、下記(1)式で近似されている。
Megr(b)={K1 /(τ1 +1)}×Megr(a) ……(1)
【0036】
上記(1)式の係数K1 と時定数τ1 は、それぞれEGR配管29(EGR弁31から吸気管12との合流部までの部分)の配管径と長さ、吸気管12の配管径等によって決まる値であり、予め試験データや設計データ等に基づいて算出される。
【0037】
この後、吸気管移流遅れモデル45を用いて、スロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入するEGRガス流量Megr(b)とスロットル通過総ガス流量Mthとに基づいてスロットルバルブ21を通過するEGRガス流量Megr(c)を演算する。
【0038】
図5に示すように、吸気管移流遅れモデル45は、スロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入したEGRガスがスロットルバルブ21を通過するまでの連続時間系の挙動を任意時間で離散化した行列(例えばサンプル時間16ms毎に離散化した32個の行列)により構築され、データを先入れ先出しのリスト構造で保持するキューを備えている。一般に、吸気管12内のEGRガスの移送速度は、ECU36の演算処理速度と比較して十分に遅いため、任意時間で離散化した行列により吸気管移流遅れモデル45を構築することができる。この吸気管移流遅れモデル45で用いる各種の係数は、それぞれ吸気管12(EGR配管29との合流部からスロットルバルブ21までの部分)の配管径と長さ等によって決まる値であり、予め試験データや設計データ等に基づいて算出される。
【0039】
この後、図4に示すように、インマニ充填遅れモデル46を用いて、スロットルバルブ21を通過するEGRガス流量Megr(c)に基づいてスロットルバルブ21の下流側の吸気通路(サージタンク23や吸気マニホールド24等)に充填されるEGRガス流量Megr(d)を演算する。
【0040】
インマニ充填遅れモデル46は、下記(2)式で近似されている。
Megr(d)={K2 /(τ2 +1)}×Megr(c) ……(2)
【0041】
上記(2)式の係数K2 とインマニ充填遅れ時定数τ2 は、それぞれスロットルバルブ21の下流側の吸気通路(吸気管12のうちのスロットルバルブ21の下流側の部分、サージタンク23、吸気マニホールド24等)の配管径と長さと容積等によって決まる値であり、予め試験データや設計データ等に基づいて算出される。尚、インマニモデル40でインマニ充填遅れ時定数を用いる場合には、インマニモデル40で用いたインマニ充填遅れ時定数をインマニ充填遅れモデル46で使用するようにしても良い。
【0042】
この後、吸気ポート移流遅れモデル47を用いて、スロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填されるEGRガス流量Megr(d)と筒内流入総ガス流量の前回値とに基づいて筒内流入EGRガス流量Megr(e)を演算する。
【0043】
吸気ポート移流遅れモデル47は、スロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填されたEGRガスが吸気ポートを通過して筒内に流入するまでの連続時間系の挙動を任意時間で離散化した行列により構築され、データを先入れ先出しのリスト構造で保持するキューを備えている。この吸気ポート移流遅れモデル47で用いる各種の係数は、それぞれ吸気ポートの配管径と長さ等によって決まる値であり、予め試験データや設計データ等に基づいて算出される。
【0044】
以上説明した筒内流入総ガス流量演算部37及び筒内流入EGRガス流量演算部38の機能は、ECU36によって図6の筒内流入EGRガス流量演算ルーチンを実行することで実現される。図6の筒内流入EGRガス流量演算ルーチンは、エンジン運転中に所定の演算周期で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、スロットルモデル39を用いてスロットル通過総ガス流量を演算し、エアフローメータ14で検出した新気流量を用いてスロットル通過総ガス流量の演算値を補正する。この後、ステップ102に進み、インマニモデル40を用いて、スロットル通過総ガス流量と筒内流入総ガス流量の前回値とに基づいてインマニ圧力を演算した後、ステップ103に進み、吸気弁モデル41を用いて、インマニ圧力に基づいて筒内流入総ガス流量を演算する。
【0045】
この後、ステップ104に進み、EGR弁モデル31(EGR弁31の開度とスロットル通過総ガス流量とEGR弁通過ガス流量との関係を規定するマップ)を用いて、EGR弁31の開度とスロットル通過総ガス流量とに応じたEGR弁通過ガス流量Megr(a)を演算する。
【0046】
この後、ステップ105に進み、新気合流遅れモデル44を用いて、EGR弁通過ガス流量Megr(a)に基づいてスロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入するEGRガス流量Megr(b)を演算した後、ステップ106に進み、吸気管移流遅れモデル45を用いて、スロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入するEGRガス流量Megr(b)とスロットル通過総ガス流量とに基づいてスロットルバルブ21を通過するEGRガス流量Megr(c)を演算する。
【0047】
この後、ステップ107に進み、インマニ充填遅れモデル46を用いて、スロットルバルブ21を通過するEGRガス流量Megr(c)に基づいてスロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填されるEGRガス流量Megr(d)を演算した後、ステップ108に進み、吸気ポート移流遅れモデル47を用いて、スロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填されるEGRガス流量Megr(d)と筒内流入総ガス流量の前回値とに基づいて筒内流入EGRガス流量Megr(e)を演算する。
【0048】
以上説明した本実施例1では、吸気管12のうちのコンプレッサ19の上流側(スロットルバルブ21の上流側の吸気通路)にEGRガスを還流させるLPL方式のEGR装置28を採用したシステムにおいて、EGR配管29内を流れるEGRガスがEGR弁31を通過する挙動を模擬したEGR弁モデル42を用いて、EGR弁通過ガス流量を演算した後、EGR弁31を通過したEGRガスがスロットルバルブ21を通過して筒内に流入するまでの挙動を模擬したEGRガス遅れモデル43を用いて、EGR弁通過ガス流量の演算値に基づいて筒内流入EGRガス流量を演算する。その際、EGRガス遅れモデル43は、EGR弁31を通過したEGRガスがスロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入する挙動を模擬した新気合流遅れモデル44と、スロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入したEGRガスがスロットルバルブ21を通過するまでの挙動を模擬した吸気管移流遅れモデル45と、スロットルバルブ21を通過したEGRガスがスロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填される挙動を模擬したインマニ充填遅れモデル46と、スロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填されたEGRガスが吸気ポートを通過して筒内に流入するまでの挙動を模擬した吸気ポート移流遅れモデル47とから構成する。これにより、EGR弁31の開度変化に対する筒内流入EGRガス流量の変化の遅れが大きいという事情があっても、筒内流入EGRガス流量を精度良く推定することができる。
【0049】
また、本実施例1では、吸気管移流遅れモデル45を、スロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入したEGRガスがスロットルバルブ21を通過するまでの挙動を任意時間で離散化した行列により構築するようにしたので、ECU36のメモリ使用量を低減しながら、EGRガス流量の推定精度を高めることができる。しかも、行列を参照することにより筒内流入前のEGRガス流量を推定(予測)することができる。
【実施例2】
【0050】
次に、図7を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0051】
前記実施例1では、筒内流入総ガス流量演算部37は、エアフローメータ14で検出した新気流量を用いてスロットル通過総ガス流量の演算値を補正するようにしたが、エアフローメータ14を備えていないシステムの場合には、図7に示す本実施例2のように、筒内流入総ガス流量演算部37は、吸気管圧力センサ48で検出した吸気管圧力に基づいて新気流量を推定(演算)する新気流量推定部49(新気流量取得手段)を備え、この新気流量推定部49で推定した新気流量を用いて、スロットル通過総ガス流量の演算値を補正する。
【0052】
具体的には、新気流量推定部49は、所定の補正値学習条件が成立したとき(例えば定常運転状態のとき)に、吸気管圧力センサ48で検出した吸気管圧力に基づいて新気流量をマップ又は数式等により推定(演算)すると共に、空燃比F/B補正量に基づいて新気流量の補正値をマップ又は数式等により演算し、この補正値を用いて、吸気管圧力から推定した新気流量を補正する。
【0053】
システムの個体差(製造ばらつき)や経時変化等によって吸気管圧力と新気流量との関係が変化するため、その影響を受けて、吸気管圧力から推定した新気流量の誤差が増加する可能性があるが、システムの個体差や経時変化等を反映した空燃比F/B補正量から求めた補正値を用いて、吸気管圧力から推定した新気流量を補正することで、新気流量を精度良く求めることができる。
【0054】
この後、吸気管圧力から推定した新気流量(補正後の新気流量)とスロットル通過総ガス流量の演算値との差をガス流量補正値として算出して記憶する。そして、このガス流量補正値を用いてスロットル通過総ガス流量の演算値を補正する。これにより、エアフローメータ14を備えていないシステムの場合でも、スロットル通過総ガス流量を精度良く求めることができる。
【0055】
以上説明した本実施例2においても、前記実施例1とほぼ同じ効果を得ることができる。
【実施例3】
【0056】
次に、図8を用いて本発明の実施例3を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0057】
前記実施例1では、EGR弁モデル42を、EGR弁31の開度とスロットル通過総ガス流量とEGR弁通過ガス流量との関係を規定するマップにより構築するようにしたが、本実施例3では、図8に示すように、EGR弁モデル42を、EGR弁31の開度とEGR弁31の上流側の圧力Pin及び下流側の圧力Pout とEGR弁通過ガス流量Megr との関係を規定する物理式により構築するようにしている。
【0058】
具体的には、次の絞りの式(オリフィスの式)でEGR弁モデル42を近似する。
【0059】
【数1】

【0060】
ここで、Cは流量係数で、AはEGR弁31の開度に応じて変化するEGR配管29の開口断面積である。また、Rは気体定数で、Tegr はEGR弁31の上流側のEGRガスの温度であり、Φ(Pout /Pin)は(Pout /Pin)を変数とする関数である。
【0061】
本実施例3では、上記の絞りの式(オリフィスの式)を用いて、EGR弁31の開度とEGR弁31の上流側の圧力Pin及び下流側の圧力Pout とEGRガスの温度とに基づいてEGR弁通過ガス流量Megr を演算する。このようにすれば、物理式を用いてEGR弁31の開度とEGR弁31の上流側の圧力Pin及び下流側の圧力Pout とに基づいてEGR弁通過ガス流量Megr を精度良く演算することができる。
以上説明した本実施例3においても、前記実施例1とほぼ同じ効果を得ることができる。
【0062】
尚、上記各実施例1〜3では、EGRガス遅れモデル43を、新気合流遅れモデル44と吸気管移流遅れモデル45とインマニ充填遅れモデル46と吸気ポート移流遅れモデル47とから構成するようにしたが、これに限定されず、例えば、EGRガスが吸気ポートを通過する際の移流遅れの影響が小さいシステムの場合には、吸気ポート移流遅れモデル47を省略するようにしても良い。
【0063】
また、本発明は、排気タービン駆動式の過給機(いわゆるターボチャージャ)を搭載したエンジンに限定されず、機械駆動式の過給機(いわゆるスーパーチャージャ)や電動式の過給機を搭載したエンジンに適用しても良い。
【0064】
その他、本発明は、過給機付きエンジンに限定されず、スロットルバルブ上流側の吸気通路にEGRガスを還流させる方式のEGR装置を採用したシステムであれば、過給機を搭載していない自然吸気エンジン(NAエンジン)に適用しても良い。
【符号の説明】
【0065】
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気管(吸気通路)、15…排気管(排気通路)、21…スロットルバルブ、29…EGR配管(EGR通路)、31…EGR弁、38…筒内流入EGRガス流量演算部、42…EGR弁モデル、43…EGRガス遅れモデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(11)の排気通路(15)からEGR通路(29)を通してスロットルバルブ(21)の上流側の吸気通路(12)に還流させるEGRガス流量を調節するEGR弁(31)を備えた内燃機関の筒内流入EGRガス流量推定装置において、
前記EGR通路(29)内を流れるEGRガスが前記EGR弁(31)を通過する挙動を模擬したEGR弁モデル(42)を用いてEGR弁通過ガス流量を演算する手段(38)と、
前記EGR弁(31)を通過したEGRガスが前記スロットルバルブ(21)を通過して筒内に流入するまでの挙動を模擬したEGRガス遅れモデル(43)を用いて前記EGR弁通過ガス流量の演算値に基づいて筒内流入EGRガス流量を演算する手段(38)と
を備えていることを特徴とする内燃機関の筒内流入EGRガス流量推定装置。
【請求項2】
前記EGRガス遅れモデル(43)は、前記EGR弁(31)を通過したEGRガスが前記スロットルバルブ(21)の上流側の吸気通路(12)に流入する挙動を模擬した合流遅れモデル(44)と、前記スロットルバルブ(21)の上流側の吸気通路(12)に流入したEGRガスが前記スロットルバルブ(21)を通過するまでの挙動を模擬した移流遅れモデル(45)と、前記スロットルバルブ(21)を通過したEGRガスが前記スロットルバルブ(21)の下流側の吸気通路(23,24)に充填される挙動を模擬した充填遅れモデル(46)とからなることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の筒内流入EGRガス流量推定装置。
【請求項3】
前記移流遅れモデル(45)は、前記スロットルバルブ(21)の上流側の吸気通路(12)に流入したEGRガスが前記スロットルバルブ(21)を通過するまでの挙動を任意時間で離散化した行列により構築されていることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の筒内流入EGRガス流量推定装置。
【請求項4】
前記EGR弁モデル(42)は、前記EGR弁(31)の開度と前記スロットルバルブ(21)を通過する総ガス流量と前記EGR弁通過ガス流量との関係を規定するマップにより構築されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関の筒内流入EGRガス流量推定装置。
【請求項5】
前記吸気通路(12)内を流れるガスが前記スロットルバルブ(21)を通過する挙動を模擬したスロットルモデル(39)を用いて前記スロットルバルブ(21)を通過する総ガス流量を演算する手段(37)と、
前記吸気通路(12)内を流れる新気の流量を検出又は推定する新気流量取得手段(14,49)と、
前記新気流量取得手段(14,49)で検出又は推定した新気の流量を用いて前記スロットルバルブ(21)を通過する総ガス流量の演算値を補正する手段(37)と
を備えていることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の筒内流入EGRガス流量推定装置。
【請求項6】
前記EGR弁モデル(42)は、前記EGR弁(31)の開度と前記EGR弁(31)の上流側の圧力及び下流側の圧力と前記EGR弁通過ガス流量との関係を規定する物理式により構築されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関の筒内流入EGRガス流量推定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−11270(P2013−11270A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−83572(P2012−83572)
【出願日】平成24年4月2日(2012.4.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】