説明

内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置

【課題】燃料中の硫黄濃度を精度よく検出することのできる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置を提供する。
【解決手段】硫黄濃度検出装置2は、ガス流路8を備え、ガス流路8の内部にファン10、ヒータ付燃料収容室12、触媒14およびSOxセンサ16が順次並べられた構成を備えている。ヒータ付燃料収容室12は、その収容室に供給した燃料を、付属するヒータを用いて加熱することによって、一定の温度条件で気化させることができるものである。触媒14は、ガス流路8を流れてきた空気および燃料ガスの混合したガス(以下、単に「混合ガス」とも称す)を酸化することができる。触媒14による酸化作用により、この混合ガスから、硫黄酸化物(SOx)を生成することができる。制御装置20は、この計算処理により算出したSOxガス濃度の値を利用して、燃料タンク34内の燃料の硫黄濃度の推定(推定値の算出)を行う硫黄濃度推定処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料中の硫黄濃度を正確に計測することが望まれている。これに関連する技術として、例えば、特開2009−244279号公報に開示されているように、排気通路に備えられたSOxセンサによる検出値に基づいて、燃料中の硫黄濃度を算出する内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置が知られている。一方、SOxセンサを用いた燃料性状検出に関連する技術として、特開2008−286002号公報には、生成したサンプルガスに対してSOxセンサによるSOx測定を行う内燃機関が開示されている。この内燃機関においては、具体的には、燃料噴射の燃料供給量よりも少ない燃料を空気とともにサンプルガス生成室に供給し、生成したサンプルガスに対してSOxセンサによるSOx測定を行う。このSOx測定値は、触媒に流入したSOx量の推定のために用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−244279号公報
【特許文献2】特開2008−286002号公報
【特許文献3】特開2005−351181号公報
【特許文献4】特開2009−121297号公報
【特許文献5】特開2001−654321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
排気通路の排気ガスは、そのガス温度や流量などが、内燃機関の運転状況によりさまざまに変化する。そのような状況下にSOxセンサを設置する特開2009−244279号公報にかかる技術では、SOxセンサの出力がSOx濃度を正確に表すことができず、正確なSOx濃度の測定ひいては正確な燃料中の硫黄濃度計測は困難である。
【0005】
一方、特開2008−286002号公報には燃料から別途サンプルガスを生成する方法が開示されており、この公報にかかる技術では排気ガスの影響を受けない。しかしながら、この公報にかかる技術は、触媒に流入したSOx量の推定のためにSOx測定値を得るというものであり、燃料中の硫黄濃度を測定することを目的とするものではない。また、燃料中の硫黄が燃料中の炭化水素(HC)成分と結合した状態で存在していることから、当該公報にかかる技術にはSOxの検出精度向上の観点から未だ改善の余地も見出されている。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、燃料中の硫黄濃度を精度よく検出することのできる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置であって、
内燃機関の燃焼室への燃料噴射のための燃料とは別に、前記内燃機関の燃料タンクから燃料を取得する燃料取得手段と、
前記燃料取得手段で取得した燃料を気化してガスを生成する気化手段と、
前記気化手段で生成された前記ガスを酸化する酸化手段と、
前記酸化手段で酸化された前記ガスのSOx濃度に基づいて、前記燃料タンク内の燃料の硫黄濃度を推定する推定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置において、
前記燃料取得手段で取得する燃料量を調節する燃料量調節手段と、
前記気化手段による燃料の気化の際の温度を調節する温度調節手段と、
前記酸化手段で酸化された前記ガスの流量を調節する流量調節手段と、
を備え、
前記推定手段は、前記流量調節手段で調節されたガスの流通経路に配置されたSOx濃度検出手段を含むことを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第1または第2の発明にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置において、
給油があったことを表す情報である給油情報の検出を行う給油検出手段と、
前記給油情報が検出された場合に、前記燃料取得手段による前記燃料の取得を行うとともに、前記気化手段で気化され且つ前記酸化手段で酸化されたガスのSOx濃度に基づいて前記推定手段による前記燃料タンク内の燃料の硫黄濃度の推定を実行する給油時実行手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
第4発明の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置であって、
内燃機関の燃料タンクと連通する燃料経路と、
前記燃料経路と連通する収容室と、
前記燃料経路と前記収容室の間に設けられた弁と、
前記収容室に設置されたヒータと、
前記収容室と連通し、かつ、酸素を含むガスを導入する導入部を有するガス流路と、
前記ガス流路に設けられたSOxセンサと、
前記ガス流路において前記収容室と前記SOxセンサとの間に配置された触媒と、
前記SOxセンサの出力に基づいて、前記燃料タンク内の燃料の硫黄濃度を推定する推定部と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
また、第5の発明は、第4の発明にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置において、
前記収容室内に所定量の燃料が収容されるように前記弁を制御する弁制御部と、
前記ヒータを所定温度となるように制御するヒータ制御部と、
前記ガス流路に設けられた送風機と、
前記送風機の風量を所定風量に制御する送風制御部と、
を備え、
前記推定部は、
所定量の燃料、所定温度および所定風量の際における、前記SOxセンサの出力と硫黄濃度との間の相関を表す情報を記憶した記憶部と、
前記記憶部の前記情報に基づいて、前記内燃機関燃料の硫黄濃度の推定値を演算する演算部と、
を含むことを特徴とする。
【0012】
また、第6の発明は、第5の発明にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置において、
一端が外気に開放されかつ他端が前記ガス流路における前記収容室の上流部と連通する外気通路を備え、
前記収容室、前記触媒、および前記SOxセンサは前記ガス流路内に直列に並べて配置され、
前記送風機は、前記外気通路の前記一端と、前記ガス流路における前記収容室の上流と、の間に設けられたことを特徴とする。
【0013】
また、第7の発明は、第4乃至第6の発明のいずれか1つの発明にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置において、
給油があったことを表す情報である給油情報の検出を行う給油検出部と、
前記給油情報が検出された場合に、前記弁の開放制御と、前記ヒータによる加熱制御と、当該開放制御および加熱制御の後の前記SOxセンサの出力に基づく硫黄濃度の演算と、を実行する制御演算部と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置によれば、燃料噴射のための燃料とは別に取得した燃料を気化し、さらにこの気化した燃料ガスを酸化したうえで、その酸化されたガスのSOx濃度を検出することができる。これによりSOxセンサでの高精度なセンシングを確保でき、燃料タンク内の燃料の硫黄濃度を、精度よく検出することができる。
【0015】
第2の発明にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置は、取得した燃料の量、燃料の気化の際の温度、および酸化されたガスの流量という3つの物理量のそれぞれを、調節する手段を備えている。各調節手段により、SOxセンサのSOx検出精度を確保するように、ガス中のSOx量(濃度)を左右するそれらの物理量を調節することができるようになる。
【0016】
第3の発明にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置によれば、給油により燃料中の硫黄濃度が変化する可能性がある場合に、濃度変化を速やかに検出することができる。
【0017】
第4の発明にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置によれば、燃料経路からの燃料を収容室に導き、ヒータでの過熱により気化したガスをガス流路でSOxセンサに導くことができ、かつ、SOxセンサより手前で触媒によりガスを酸化することができる。これによりSOxセンサでの高精度なセンシングを確保でき、燃料タンク内の燃料の硫黄濃度を精度よく検出することができる。
【0018】
第5の発明にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置によれば、取得した燃料の量、燃料の気化の際の温度、および酸化されたガスの流量を決めるハードウェア構成をそれぞれ制御する制御部を備えている。制御部による制御によって、SOxセンサがSOx量に応じて精度よくその出力を変化させるように、SOx量を左右する3つの物理量を調節することができるようになる。
【0019】
第6の発明にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置によれば、ガス流路内に必要な構成が直列に配列されて集約されており、燃料の取得、燃料の気化、気化したガスの酸化、空気との混合ガス生成、およびSOx濃度検出という一連のステップを無駄のない構成で実現することができる。
【0020】
第7の発明にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置によれば、給油により燃料中の硫黄濃度が変化する可能性がある場合に、濃度変化を速やかに検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置において制御装置(演算処理装置)が実行するルーチンのフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置に関する実験結果を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置の構成を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置の構成の変形例を示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置の構成の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施の形態.
[実施の形態の構成]
図1は、本発明の実施の形態にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置2(以下、単に、「硫黄濃度検出装置2」とも称す。)の構成を示す模式図である。図1に示すように、硫黄濃度検出装置2は、ガス流路8を備え、ガス流路8の内部にファン10、ヒータ付燃料収容室12、触媒14およびSOxセンサ16が順次並べられた構成を備えている。
【0023】
ガス流路8は、その一端が外部(大気)に連通しており、図1における「吸気」の矢印で示すように空気の吸入がなされる。ヒータ付燃料収容室12は、その内部に燃料を収容する空間(収容室)を有しており、当該収容室は、燃料経路18を介して、燃料タンク34と接続している。燃料タンク34とヒータ付燃料収容室12との間の接続は、後ほど図4を参照して説明する。この燃料タンク34は、図示しない自動車用内燃機関の燃料噴射系(燃料配管および各気筒の燃料噴射弁を含む)と接続している。
【0024】
ヒータ付燃料収容室12は、その収容室に供給した燃料を、付属するヒータを用いて加熱することによって、一定の温度条件で気化させることができるものである。ファン10が作動することにより、ヒータ付燃料収容室12で気化した燃料(以下、「燃料ガス」とも称す)を、一定の風量で、空気と混合して、ガス流路8の下流(図1の紙面右方向)へ送ることができる。ファン10の風量制御およびヒータ付燃料収容室12に取り付けたヒータの制御は、制御装置20によって行われる。
【0025】
触媒14は、ガス流路8を流れてきた空気および燃料ガスの混合したガス(以下、単に「混合ガス」とも称す)を酸化することができる。触媒14による酸化作用により、この混合ガスから、硫黄酸化物(SOx)を生成することができる。
【0026】
SOxセンサ16は、ガス流路8の触媒14の下流位置に配置されている。これにより、SOxセンサ16は、触媒14下流雰囲気におけるガスのSOxガス濃度を測定(検出)することができる。なお、SOxセンサ16の具体的な構造は、既に公知のため、ここでは説明を省略する。
【0027】
制御装置20は、信号配線22を介してSOxセンサ16と接続している。制御装置20は、SOxセンサ16の出力信号の値に基づいてSOxガス濃度の値を算出する計算処理を実行可能に構成されており、演算処理装置としても機能する。さらに、制御装置20は、この計算処理により算出したSOxガス濃度の値を利用して、燃料タンク34内の燃料の硫黄濃度の推定(推定値の算出)を行う硫黄濃度推定処理を実行することができる。この硫黄濃度推定処理は、具体的には、例えば、計算処理で求めたSOxガス濃度の値について、一定時間の平均値、積分値、ピーク値および傾きなどの各種パラメータから、燃料タンク34内の燃料の硫黄濃度を推定するものである。すなわち、そのような各種パラメータの値と燃料タンク34内の硫黄濃度との相関を表す情報が、あらかじめマップや数式として制御装置20内に記憶されている。硫黄濃度推定処理において、今回のパラメータと記憶されたマップ等との間の比較照合によって、現在の燃料タンク34内の燃料の硫黄濃度が推定される。
【0028】
図4は、本発明の実施の形態にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置の構成を示す模式図である。図4に示すように、実施の形態においては、燃料経路18にバルブ30および燃料ポンプ32が配置されている。図4における燃料経路18は、硫黄濃度検出装置2内におけるヒータ付燃料収容室12と図1のごとく接続している。また、硫黄濃度検出装置2における制御装置20は、バルブ30および燃料ポンプ32と接続し、バルブ30の開閉および燃料ポンプ32の作動を制御可能とされている。これにより、必要な場合に、燃料タンク34から所定量(一定量)の燃料をヒータ付燃料収容室12内の収容室へと供給できる仕組みになっている。
【0029】
[実施の形態の動作および具体的処理]
以下、図2を参照しながら、本発明の実施の形態にかかる硫黄濃度検出装置2の動作および具体的処理について説明する。図2は、本発明の実施の形態にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置において、制御装置20が実行するルーチンのフローチャートである。このルーチンは、燃料タンク34内の硫黄濃度を検出する必要がある、つまり燃料タンク34内の燃料の硫黄濃度が変化する状況が発生した場合、具体的には、例えば、燃料タンク34への燃料の給油があったときに実行される。なお、硫黄濃度検出装置2では、燃料タンク34への給油があったことを表す情報(給油情報)を取得できるように、図示しない内燃機関のECU(Electronic Control Unit)と接続する給油検出部を備えている。本実施の形態では、制御装置20が、この給油情報が取得された場合に図2のルーチンを実行する。
【0030】
図2のルーチンでは、まず、燃料抽出が行われる(ステップS100)。具体的には、硫黄濃度検出装置2では、燃料タンク34への燃料の給油があった後に、制御装置20がバルブ30および燃料タンク34を制御することにより、燃料タンク34から所定量の微量の燃料をヒータ付燃料収容室12の収容室内へと導入する。
【0031】
続いて、送風の開始(ステップS102)および燃料の加熱気化(ステップS104)が行われる。すなわち、制御装置20は、ファン10を所定の一定風量に制御しつつ、収容室内の燃料を所定の一定温度条件で気化させるようにヒータ付燃料収容室12のヒータを制御する。
【0032】
上記のステップS102およびS104が実現された後、気化燃料が酸化される(ステップS106)。すなわち、ヒータ付燃料収容室12のヒータで加熱された燃料が蒸発し、ガス流路8内で空気と混ざりながら混合ガスとして触媒14へと到達する。到達した混合ガスが触媒14において酸化される。このとき、燃料の主成分である炭化水素(HC)は酸化されて水や二酸化炭素になるが、炭化水素に組み込まれていた硫黄もSOやSOなどのいわゆるSOxとなる。このように、本実施の形態によれば、燃料タンク34内の燃料を一部抜き取って気化し、気化した燃料を空気と混合して混合ガスを生成したうえで、さらに混合ガスを積極的に酸化することによってSOxを生成することができる。
【0033】
続いて、SOxガス濃度測定が行われる(ステップS108)。このステップでは、SOxセンサ16が、上記の積極的酸化により生成したSOxを検出し、その出力値を変化させる。SOxセンサ16の出力は信号配線22を介して制御装置20に到達し、制御装置20においてSOxガス濃度の値を算出する計算処理が実行される。このSOxガス濃度値を用いて、さらに、燃料中の硫黄濃度推定のための演算処理が実行される(ステップS110)。なお、ここではSOxセンサ16出力からSOxガス濃度の値を算出する例を述べたが、SOxセンサ16の出力と燃料中の硫黄濃度との相関を定めた情報(数式、マップ)を用いることによって、SOxセンサ16出力から、直接に、燃料中の硫黄濃度を推定してもよい。その後、今回のルーチンが終了する。
【0034】
以上説明した本発明の実施の形態にかかる硫黄濃度検出装置2は、次に述べる効果を発揮することができる。すなわち、燃料中の硫黄は、燃料中の炭化水素(HC)成分と結合した状態で存在している。そのような状態で存在する燃料中の硫黄を、上記のように触媒14で酸化反応を起こすことにより、SOxに変化させることができる。これにより、SOxセンサ16でのSOx検出を容易かつ高精度に行うことが可能となる。
さらに、SOxを生成したうえで、そのガスをSOxセンサ16で検出することから、微量の燃料酸化のみでも良好な精度のセンシングが可能である。従って、燃費への悪影響を抑えることができる。
【0035】
さらに、本実施の形態にかかる積極的酸化で生成されるSOxの量は、燃料中の硫黄濃度、抽出された燃料の量、空気の流量、および温度条件等に依存する。すなわち、本実施の形態にかかる硫黄濃度検出装置2において、触媒14で生成されるSOxの量は、燃料タンク34の燃料中の硫黄濃度、ヒータ付燃料収容室12に抽出された燃料の量、ガス流路8における空気の流量、およびヒータ付燃料収容室12のヒータによる温度条件等に依存する。そこで、毎回のルーチンにおいて、燃料の量、空気流量および気化の際の温度条件を同じ条件とすれば、SOxの量が燃料中の硫黄濃度のみに依存することになる。従って、SOxセンサにより生成ガスのSOx濃度を一定期間だけ測定した結果得られる測定値について、その積分値や平均値といった値(パラメータ)は、燃料中に含まれる硫黄の量と相関関係がある。よって、SOxセンサ出力の各種パラメータおよび燃料中の硫黄濃度についての検量線を求めておき、この検量線に従ったマップ、数式等のデータを制御装置20内に記憶しておくことによって、SOxセンサ16の出力から燃料中の硫黄濃度の値を推定する処理を実行することができる。
【0036】
なお、図3は、本発明の実施の形態にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置に関する実験結果を示す図である。図3のデータは、20μlの燃料を、空気流量300cc/分、雰囲気温度300℃で加熱蒸発させ、酸化ロジウム触媒で酸化させるという条件で求めたものである。使用したSOxセンサは、硫酸銀を検出電極、YSZ参照電極に用いた固体電解質方式のセンサである。図3において、縦軸は、一例として、SOxセンサ出力から求めるパラメータの一例である「一定時間におけるセンサ出力平均値」であり、横軸は、燃料中の硫黄濃度である。この図3に示すような傾向に従って作成した情報を制御装置20が記憶しておくことにより、SOxセンサ16の出力平均値から、燃料中の硫黄濃度の値を推定することができる。
【0037】
なお、排気ガスとして排出される硫黄の量は、内燃機関の燃焼に使用される燃料の量と同じである。このため、燃料噴射量を積算しておくことにより、単に粗悪燃料の検出にとどまらず、触媒の硫黄被毒量の予測を行うこともできる。具体的には、制御装置20または内燃機関のECU(図示せず)に、燃料噴射量の積算値を求める処理と、その積算値と本実施の形態の燃料中硫黄濃度推定処理で求めた硫黄濃度推定値とを用いた演算処理を実行させる。例えば、燃料噴射量の積算値および硫黄濃度推定値と、硫黄被毒量との相関を定めたマップ、数式等を用いた演算処理である。
【0038】
なお、本実施の形態にかかる硫黄濃度検出装置2によれば、排気管中にSOxセンサを設けて排気ガス中のSOx濃度を検出する技術とは異なり、下記の利点がある。
(1) 排気管中にSOxセンサが配置された場合には、このSOxセンサは、内燃機関の運転条件により、さまざまな状態(温度、成分、ガス量)の排気ガスにさらされる。このような状況下では、SOxセンサの出力信号の変化がSOx濃度によるものなのか他の影響によるものなのかを判別するのは困難である。従って、排気ガス温度変化、排気ガスの流量の変化、あるいは干渉ガスの影響によりSOx濃度の正確な測定が妨げられてしまう。排気ガス中の硫黄濃度を測定しても排気ガスに含まれて排出される硫黄の量を正確に測定することは難しい。この点、本実施の形態にかかる硫黄濃度検出装置2によれば、このようなノイズの多い雰囲気環境を避けて、SOxセンサを用いた硫黄濃度推定を実施することができる。
(2) 従来用いられているSOxセンサは、リッチガスにさらされるとセンサの劣化が著しい。排気ガス中では、常時、センサが高温や排気ガス汚れにさらされることになり、既存のSOxセンサでは耐久寿命の点で問題がある。この点、本実施の形態にかかる硫黄濃度検出装置2によれば、そのような過酷な環境を避けてSOxセンサを使用することができる。
なお、燃料中の硫黄濃度を直接検知することができる車載可能な硫黄濃度検知技術は現時点では完成されていない。
【0039】
なお、特開2008−286002号公報には燃料から別途サンプルガスを生成する方法が開示されている。しかしながら、この公報に記載の技術は、燃焼室で燃焼させる燃料に比例する少量の燃料をサンプルガス生成室で燃焼させ、生成したサンプルガス中の硫黄濃度をSOxセンサで検出することにより、内燃機関の排気系の触媒(排気浄化触媒)に流入したSOx量を推定するものである。この公報にかかる技術では、サンプルガス生成のために、内燃機関の運転中には絶えず燃料噴射量に比例した燃料を抽出、燃焼させつづけなければならない。
この点、本実施の形態にかかる硫黄濃度検出装置2は燃料タンク34中の燃料の硫黄濃度を推定するものであり、排気浄化触媒へ流入するSOx量を推定する当該公報とは、その目的が異なっている。本実施の形態においては、必要なときのみの測定(例えば、給油ごとに1回の測定)を行うことにより測定回数を少なく抑えることができる。燃料タンク34内の燃料の硫黄濃度が一定である期間は、同じ硫黄濃度推定値に依拠することができるからである。しかも、本実施の形態によれば、前述したように、積極的な燃料の酸化を行うことで、微量の燃料から良好な精度のセンシングが可能であるため、燃費への悪影響もさらに抑えることができる。
【0040】
[実施の形態の変形例]
上記の実施の形態では、図4に示すように燃料タンク34から燃料経路18を介して直接にヒータ付燃料収容室12へと燃料を供給した。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。図4の構造に代えて、下記に述べる構造で、ヒータ付燃料収容室12へと燃料を供給してもよい。
【0041】
図5は、本発明の実施の形態にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置の構成の変形例を示す模式図である。図5に示す変形例は、燃料噴射系の燃料配管から分岐させて、燃料経路を設けるものである。図5において、燃料配管40は、内燃機関の燃料噴射系を構成するものであり、図示しない燃料噴射弁と連通して、燃料タンク34の燃料をこの燃料噴射弁へと供給する経路である。燃料配管40には、燃料ポンプ46が配置されている。図5の構成では、燃料配管40の途中に、分岐燃料経路42の一端が接続している。分岐燃料経路42の他端は、硫黄濃度検出装置2のヒータ付燃料収容室12へと連通している。つまり、分岐燃料経路42が、図4における燃料経路18の役割を担っている。分岐燃料経路42は、その途中にバルブ44を備えている。バルブ44は、バルブ30と同様に、硫黄濃度検出装置2の制御装置20と接続している。
【0042】
図6は、本発明の実施の形態にかかる内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置の構成の変形例を示す模式図である。図6に示す変形例は、給油口から燃料の抽出(抜き取り)を行うものである。給油経路50の一端は給油口51と接続し、給油経路50の他端は燃料タンク34に連通している。給油経路50の一部には、分岐燃料経路52が接続し、分岐燃料経路52はさらに硫黄濃度検出装置2のヒータ付燃料収容室12へと連通している。分岐燃料経路52にはバルブ54が設けられており、バルブ54はバルブ30と同様に硫黄濃度検出装置2の制御装置20と接続する。
【0043】
燃料タンク内の燃料は、通常、燃料の給油後に自然に混合される。給油後に一定時間が経過すれば、燃料中の硫黄濃度は均一となる。従って、燃料系から抽出した燃料を用いて硫黄濃度を測定するようにすれば、給油のタイミングごとに硫黄濃度推定を実施すればよくなる。その結果、SOxセンサの動作時間を短く抑えて、SOxセンサの寿命を延ばすことができる。
【符号の説明】
【0044】
2 硫黄濃度検出装置
8 ガス流路
10 ファン
12 ヒータ付燃料収容室
14 触媒
16 SOxセンサ
18 燃料経路
20 制御装置
22 信号配線
30 バルブ
32 燃料ポンプ
34 燃料タンク
40 燃料配管
42 分岐燃料経路
44 バルブ
46 燃料ポンプ
50 給油経路
51 給油口
52 分岐燃料経路
54 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室への燃料噴射のための燃料とは別に、前記内燃機関の燃料タンクから燃料を取得する燃料取得手段と、
前記燃料取得手段で取得した燃料を気化してガスを生成する気化手段と、
前記気化手段で生成された前記ガスを酸化する酸化手段と、
前記酸化手段で酸化された前記ガスのSOx濃度に基づいて、前記燃料タンク内の燃料の硫黄濃度を推定する推定手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置。
【請求項2】
前記燃料取得手段で取得する燃料量を調節する燃料量調節手段と、
前記気化手段による燃料の気化の際の温度を調節する温度調節手段と、
前記酸化手段で酸化された前記ガスの流量を調節する流量調節手段と、
を備え、
前記推定手段は、前記流量調節手段で調節されたガスの流通経路に配置されたSOx濃度検出手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置。
【請求項3】
給油があったことを表す情報である給油情報の検出を行う給油検出手段と、
前記給油情報が検出された場合に、前記燃料取得手段による前記燃料の取得を行うとともに、前記気化手段で気化され且つ前記酸化手段で酸化されたガスのSOx濃度に基づいて前記推定手段による前記燃料タンク内の燃料の硫黄濃度の推定を実行する給油時実行手段と、
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置。
【請求項4】
内燃機関の燃料タンクと連通する燃料経路と、
前記燃料経路と連通する収容室と、
前記燃料経路と前記収容室の間に設けられた弁と、
前記収容室に設置されたヒータと、
前記収容室と連通し、かつ、酸素を含むガスを導入する導入部を有するガス流路と、
前記ガス流路に設けられたSOxセンサと、
前記ガス流路において前記収容室と前記SOxセンサとの間に配置された触媒と、
前記SOxセンサの出力に基づいて、前記燃料タンク内の燃料の硫黄濃度を推定する推定部と、
を備えることを特徴とする内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置。
【請求項5】
前記収容室内に所定量の燃料が収容されるように前記弁を制御する弁制御部と、
前記ヒータを所定温度となるように制御するヒータ制御部と、
前記ガス流路に設けられた送風機と、
前記送風機の風量を所定風量に制御する送風制御部と、
を備え、
前記推定部は、
所定量の燃料、所定温度および所定風量の際における、前記SOxセンサの出力と硫黄濃度との間の相関を表す情報を記憶した記憶部と、
前記記憶部の前記情報に基づいて、前記内燃機関燃料の硫黄濃度の推定値を演算する演算部と、
を含むことを特徴とする請求項4に記載の内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置。
【請求項6】
一端が外気に開放されかつ他端が前記ガス流路における前記収容室の上流部と連通する外気通路を備え、
前記収容室、前記触媒、および前記SOxセンサは前記ガス流路内に直列に並べて配置され、
前記送風機は、前記外気通路の前記一端と、前記ガス流路における前記収容室の上流と、の間に設けられたことを特徴とする請求項5に記載の内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置。
【請求項7】
給油があったことを表す情報である給油情報の検出を行う給油検出部と、
前記給油情報が検出された場合に、前記弁の開放制御と、前記ヒータによる加熱制御と、当該開放制御および加熱制御の後の前記SOxセンサの出力に基づく硫黄濃度の演算と、を実行する制御演算部と、
を備えることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の内燃機関燃料の硫黄濃度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−87630(P2013−87630A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225853(P2011−225853)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】