説明

内燃機関用潤滑油組成物

【課題】潤滑油の酸化により発生する高分子物質の増加の抑制が可能で全塩基価の低下も少ない高温での酸化安定性が高い潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】潤滑油基油に少なくとも下記の添加剤成分(A)と添加剤成分(B)とが溶解もしくは分散されてなる潤滑油組成物:
(A)カルシウム量換算値で0.1〜1.0質量%の、全塩基価が120〜250mgKOH/gの範囲にあって過塩基化度が1〜4である炭素原子数14〜18のアルキル基を一個有するモノアルキルサリチル酸カルシウム塩、および
(B)カルシウム量換算値で0.1〜2.0質量%の、全塩基価が280〜400mgKOH/gの範囲にあって過塩基化度が6〜10である炭素原子数20〜28のアルキル基を一個有するモノアルキルサリチル酸カルシウム塩、
ただし、潤滑油組成物の総量に対してジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛をリン量換算値で0.01質量%以上含有することはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用潤滑油組成物に関し、ディーゼルエンジンやガスエンジンあるいはガソリンエンジンなどの各種のエンジン(内燃機関)の潤滑に有用な潤滑油組成物に関する。本発明は特に、船舶運行用、発電用あるいはコジェネレーション(熱電併給)用のエンジンとして利用されている四ストロークトランクピストンディーゼルエンジンの潤滑に好適な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶運行用、発電用あるいはコジェネレーション(熱電併給)用のエンジンとしては、従来より四ストロークトランクピストンディーゼルエンジンが一般的に使用されている。エンジンの運転には潤滑油が使用されるが、上記のようなディーゼルエンジン用の潤滑油組成物は、硫黄分を含む燃料の燃焼によって発生する硫酸などの酸を中和し、かつ生成する燃焼残渣やスラッジなどの固形生成物質を分散させる機能が必要である。このため、ディーゼルエンジン用の潤滑油組成物には、過塩基性の金属含有清浄剤の使用が必須とされている。過塩基性の金属含有清浄剤としては、アルカリ土類金属塩、特にカルシウム塩としてのスルホネート、フェネート、及び/又はサリシレートが一般的に用いられている。
【0003】
特許文献1には、全塩基価が60〜220mgKOH/gのアルカリ土類金属サリシレートと、全塩基価が220mgKOH/gを超え、400mgKOH/g以下であるアルカリ土類金属サリシレート及び/又は全塩基価が20〜200mgKOH/gのアルカリ土類金属スルホネートとを含有するディーゼルエンジン用潤滑油組成物が開示されており、この潤滑油組成物は、耐摩耗性、清浄性、耐熱性および酸化安定性に優れているが、特に耐摩耗性が大幅に改善されていると記載されている。この潤滑油組成物に使用されるアルカリ土類金属サリシレートの炭素原子数についての一般的な記載はないが、二種のアルカリ土類金属サリシレートの組合わせの例を示す実施例(実施例1、3、4、6、8)では、いずれも炭素原子数4〜22のα−オレフィンから誘導されたアルキル基を有するサリシレート二種の組合わせが示されている。
【0004】
特許文献2には、炭素原子数8〜19の炭化水素基を一つ有するサリチル酸金属塩と炭素原子数20〜32の炭化水素基を一つ有するサリチル酸金属塩とを含むサリシレート系清浄剤を含有する潤滑油組成物が開示されており、この潤滑油組成物は、高温清浄性、すす分散性及び低温流動性に優れ、また貯蔵安定性に優れていると記載されている。この潤滑油組成物で用いられるサリシレート系清浄剤の全塩基価については、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜450mgKOH/g、特に100〜240mgKOH/g、そして150〜200mgKOH/gとの説明があるが、二種のサリチル酸金属塩のそれぞれの全塩基価についての説明はない。ただし、二種のサリチル酸金属塩の具体的な組合わせの例として記載されている実施例を見ると、炭素原子数14〜18の炭化水素基を一つ有するサリチル酸金属塩の全塩基価は170〜280mgKOH/gで、金属比は2.5〜5.4であり、一方、炭素原子数20〜30の炭化水素基を一つ有するサリチル酸金属塩の全塩基価は170mgKOH/gで金属比は2.5である。
【0005】
特許文献3には、(A)塩基価が240mgKOH/g未満、金属比が4.5未満の、炭素原子数20〜40の炭化水素基を一つ有するサリチル酸金属塩と(B)塩基価が240mgKOH/g以上、金属比が4.5以上である金属系清浄剤とを含有する潤滑油組成物が開示されており、この潤滑油組成物は、高温清浄性及びすす分散性に優れ、また貯蔵安定性に優れていると記載されている。この潤滑油組成物で用いられる金属系清浄剤(B)の例として、塩基価が240mKOH/g以上、金属比が4.5以上であって、炭素原子数1〜19の炭化水素基を一つ有するサリチル酸金属塩サリシレート系清浄剤、炭素原子数20〜40の炭化水素基を一つ有するサリチル酸金属塩サリシレート系清浄剤、そして炭素原子数1〜40の炭化水素基を二つ以上有するサリチル酸金属塩サリシレート系清浄剤が挙げられている。
【0006】
特許文献4には、潤滑油基油に少なくとも下記の添加剤成分が溶解もしくは分散されてなる、特にトランクピストンディーゼルエンジンのピストンリングの摩耗の低減に有効な潤滑油組成物が開示されている。
(1)TBN200〜300の高塩基性硫化アルキルフェノールカルシウム塩、(2)過塩基化部のカルシウム量/石鹸部のカルシウム量で表わされる塩基度(本明細書で規定する「過塩基化度」に相当する)が1.8〜2.5で、炭素原子数14〜18の炭化水素基を一つ有する高塩基性アルキルサリチル酸カルシウム塩、(3)過塩基化部のカルシウム量/石鹸部のカルシウム量で表わされる塩基度が4.2〜5.8で、炭素原子数20〜28の炭化水素基を一つ有する高塩基性アルキルサリチル酸カルシウム塩、(4)無灰性分散剤、そして(5)リン量換算で0.01〜0.1質量%のジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛。
【0007】
特許文献4には、さらに潤滑油基油に少なくとも下記の添加剤成分が溶解もしくは分散されてなる、特にトランクピストンディーゼルエンジンのピストンリングの摩耗の低減に有効な潤滑油組成物も開示されている。
(1)TBN200〜300の高塩基性硫化アルキルフェノールカルシウム塩、(2)過塩基化部のカルシウム量/石鹸部のカルシウム量で表わされる塩基度が1.8〜2.5で炭素原子数14〜18の炭化水素基を一つ有する高塩基性アルキルサリチル酸カルシウム塩、(3)過塩基化部のカルシウム量/石鹸部のカルシウム量で表わされる塩基度が3.6〜4.5で、炭素原子数20〜28の炭化水素基を一つ有する高塩基性アルキルサリチル酸カルシウム塩、(4)過塩基化部のカルシウム量/石鹸部のカルシウム量で表わされる塩基度が7.7〜8.7で、炭素原子数20〜28の炭化水素基を一つ有する高塩基性アルキルサリチル酸カルシウム塩、(5)ホウ素化無灰性分散剤、そして(6)リン量換算で0.01〜0.1質量%のジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−80771号公報
【特許文献2】特開2005−263860号公報
【特許文献3】特開2005−263861号公報
【特許文献4】特開2008−169228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、前記の船舶運行用、発電用あるいはコジェネレーション(熱電併給)用のエンジンとして利用されている四ストロークトランクピストンディーゼルエンジンの運転条件はますます厳しくなる傾向にあり、燃料も硫黄分が高い低級の燃料を用いる傾向がある。そしてまた、経済性とメインテナンス(運行管理)の効率化のために、潤滑油の交換期間を長くする傾向がある。従って、潤滑油にかかる負担の増大が著しい。
【0010】
潤滑油の交換期間が長くなるために発生する問題は種々あるが、その内の代表的な問題は、高温に曝される潤滑油の酸化により発生する高分子物質の増加、そして燃料や潤滑油の燃焼の残渣として潤滑油に混入する固形物質の増加に起因する潤滑油の粘度上昇、そして全塩基価(TBN)の低下である。
【0011】
本発明の目的は、潤滑油の酸化により発生する高分子物質の増加の抑制が可能で全塩基価の低下も少ない高温での酸化安定性が高い潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、潤滑油組成物の添加剤の金属含有清浄剤として、それぞれ互いに異なる、特定の範囲の過塩基化度と特定の範囲の全塩基価を持ち、かつ特定の範囲の長さの炭化水素基を有するモノアルキルサリチル酸カルシウム塩を二種類併用した場合に、目的とする優れた高温酸化安定性を示す潤滑油組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
本発明は、潤滑油基油に少なくとも下記の添加剤成分(A)と添加剤成分(B)とが溶解もしくは分散されてなる潤滑油組成物にある。
(A)カルシウム量換算値で0.1〜1.0質量%の、全塩基価が120〜250mgKOH/gの範囲にあって過塩基化度が1〜4である炭素原子数14〜18のアルキル基を一個有するモノアルキルサリチル酸カルシウム塩、および
(B)カルシウム量換算値で0.1〜2.0質量%の、全塩基価が280〜400mgKOH/gの範囲にあって過塩基化度が6〜10である炭素原子数20〜28のアルキル基を一個有するモノアルキルサリチル酸カルシウム塩、
ただし、潤滑油組成物の総量に対してジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛をリン量換算値で0.01質量%以上含有することはない。
【0014】
本発明はまた、下記の添加剤成分(A)と添加剤成分(B)との混合物である潤滑油添加剤組成物にもある。
(A)カルシウム量換算値で0.1〜1.0質量%の、全塩基価が120〜250mgKOH/gの範囲にあって過塩基化度が1〜4である炭素原子数14〜18のアルキル基を一個有するモノアルキルサリチル酸カルシウム塩、および
(B)カルシウム量換算値で0.1〜2.0質量%の、全塩基価が280〜400mgKOH/gの範囲にあって過塩基化度が6〜10である炭素原子数20〜28のアルキル基を一個有するモノアルキルサリチル酸カルシウム塩、
ただし、添加剤成分(A)と添加剤成分(B)との比率は、全塩基価換算で10:90〜60:40である。
【0015】
本発明において、「過塩基化度」とは、過塩基化部のカルシウム量/石鹸部のカルシウム量で表わされる塩基度であって、過塩基化されていないアルキルサリチル酸カルシウム塩中のカルシウム量(分母)に対する過塩基化に寄与しているカルシウム量(分子)の比率(ベース・レシオ)を意味し、この過塩基化度が高いことは、過塩基性が高いことを意味する。この過塩基化度は、用いる過塩基性アルキルサリチル酸カルシウム塩添加剤成分中のアルキルサリチル酸の量の測定、測定されたアルキルサリチル酸の中和に必要なカルシウム量の計算(分母)、用いる過塩基性アルキルサリチル酸カルシウム塩添加剤成分中のカルシウム量の測定、そしてこの測定値から分母のカルシウム量を減じた量の計算(分子)を用いて決定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の潤滑油組成物は、特に四ストロークトランクピストンディーゼルエンジン油として有用であり、特に高温酸化安定性が優れており、このため、近年進んでいる潤滑油の交換期間の長期化においても、全塩基価の低下も少なく、かつ潤滑油の粘度の上昇が起こりにくくなる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の潤滑油組成物の好ましい態様を次に挙げる。
1)添加剤成分(A)の全塩基価が150〜250mgKOH/gの範囲にあって、過塩基化度が1.5〜3である。
2)添加剤成分(B)の全塩基価が300〜350mgKOH/gの範囲にあって、過塩基化度が7〜9である。
3)さらに窒素含有無灰性分散剤を含有する。
4)添加剤成分(A)と添加剤成分(B)との比率が、全塩基価換算で10:90〜60:40である。
5)添加剤成分(A)と添加剤成分(B)との比率が、全塩基価換算で20:80〜60:40である。
6)基油の10質量%以上が、飽和成分90質量%以上の鉱油系基油である。
7)ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛を、潤滑油組成物の総量に対してリン量換算値で0.005質量%以上含有することはない。
8)全塩基価が200〜300mgKOH/gの過塩基性アルキルフェノールカルシウム塩を、潤滑油組成物の総量に対してカルシウム量換算値で0.06質量%以上含有することはない。
9)全塩基価が200〜300mgKOH/gの過塩基性アルキルフェノールカルシウム塩を、潤滑油組成物の総量に対してカルシウム量換算値で0.05質量%以上含有することはない。
10)全塩基価が3〜60mgKOH/gの範囲にある。
【0018】
本発明の潤滑油添加剤組成物の好ましい態様を次に挙げる。
1)添加剤成分(A)と添加剤成分(B)との比率が、全塩基価換算で20:80〜60:40である。
2)添加剤成分(A)の全塩基価が150〜250mgKOH/gの範囲にあって、過塩基化度が1.5〜3である。
3)添加剤成分(B)の全塩基価が300〜350mgKOH/gの範囲にあって、過塩基化度が7〜9である。
【0019】
本発明の潤滑油組成物に用いられる基油としては、動粘度(40℃での測定値)が約22mm2/s〜300mm2/sの鉱油もしくは合成油が好ましく使用される。特に、好ましいのは動粘度(40℃での測定値)22mm2/s〜140mm2/sの鉱油もしくは合成油である。鉱油としては、原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られた油留分に溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製などの処理を行って精製した油を用いることができる。高温での酸化安定性の観点からは、飽和成分の多い(例、90質量%以上)水素化分解基油が好ましい。
【0020】
本発明の潤滑油組成物には、過塩基化度と全塩基価、そして炭化水素基が互いに異なる二種類の過塩基性モノアルキルサリチル酸カルシウム塩(添加剤成分(A)と添加剤成分(B))が用いられる。本発明で用いられる過塩基性モノアルキルサリチル酸カルシウム塩は、指定された炭素原子数(本発明では、平均炭素原子数の範囲で表示してある)の炭化水素基が付加したサリチル酸(もしくはその誘導体)を過剰量のカルシウム塩基で中和し、さらに二酸化炭素を用いる過塩基化工程を経て得られる金属清浄剤であって、すでに公知であり、市販されている。
【0021】
本発明で用いられる一方のモノアルキルサリチル酸カルシウム塩(添加剤成分(A))は、全塩基価が120〜250mgKOH/gの範囲にあって過塩基化度が1〜4である炭素原子数14〜18のアルキル基を一個有するモノアルキルサリチル酸カルシウム塩である。この添加剤成分(A)の全塩基価は150〜250mgKOH/gの範囲にあることが好ましく、また過塩基化度は1.5〜3の範囲にあることが好ましい。
【0022】
本発明で用いられるもう一方のモノアルキルサリチル酸カルシウム塩(添加剤成分(B))は、全塩基価が280〜400mgKOH/gの範囲にあって過塩基化度が6〜10である炭素原子数20〜28のアルキル基を一個有するモノアルキルサリチル酸カルシウム塩である。この添加剤成分(B)の全塩基価は300〜350mgKOH/gの範囲にあることが好ましく、また過塩基化度は7〜9の範囲にあることが好ましい。
【0023】
本発明の潤滑油組成物で用いられる添加剤成分(A)は、潤滑油基油に、潤滑油組成物総量に対して、カルシウム量換算値で0.1〜1.0質量%となるように添加され、添加剤成分(B)は、潤滑油基油に、潤滑油組成物総量に対して、カルシウム量換算値で0.1〜2.0質量%となるように添加される。
【0024】
本発明の潤滑油組成物における添加剤成分(A)と添加剤成分(B)の添加量は、前者:後者の塩基価換算の比として、10:90〜60:40とすることが好ましく、特に20:80〜60:40とすることが好ましい。
【0025】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総量に対してジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛をリン量換算値で0.01質量%以上含有することはない(好ましくは、0.005質量%以上含有することはない)。潤滑油組成物中にジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛を添加すると、高温での酸化安定性が低下する傾向があるためである。
【0026】
本発明の潤滑油組成物はまた、潤滑油組成物の総量に対して全塩基価が200〜300mgKOH/gの過塩基性アルキルフェノールカルシウム塩を、0.06質量%以上(特に0.05質量%以上)含有しないことが好ましい。潤滑油組成物中に過塩基性アルキルフェノールカルシウム塩を添加すると、高温での酸化安定性が低下する傾向があるためである。
【0027】
本発明の潤滑油組成物は、更にホウ素化された、あるいはホウ素化されていない窒素含有無灰性分散剤を含むこともできる。
【0028】
本発明の潤滑油組成物に用いられる窒素含有無灰性分散剤としては、コハク酸イミド、ベンジルアミンおよびこれらを有機酸、無機酸、アルコール、エステル等で変性して得た無灰性分散剤を挙げることができる。特に好ましく用いることができる窒素含有無灰性分散剤はビスタイプのコハク酸イミド分散剤である。コハク酸イミド分散剤は、例えば、平均分子量800〜8000のポリブテンまたは平均分子量800〜8000の塩素化ポリブテンと無水マレイン酸とを100〜200℃の温度で反応させて得られるポリブテニルコハク酸と、ポリアミンとを反応させて製造することができる。ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミンなどを用いることができる。ホウ素化された窒素含有無灰性分散剤は、例えば、上記のポリブテニルコハク酸ポリアミン反応生成物にホウ酸もしくはホウ酸誘導体を加えて反応させることにより得ることができる。
【0029】
本発明の潤滑油組成物は、本発明で添加量が抑制された添加剤以外の種々の添加剤(例、酸化防止剤、防錆剤、消泡剤)をさらに含んでいてもよい。
【0030】
本発明の潤滑油組成物は、基油に各成分をそれぞれ別に、同時にあるいは順次に添加して製造することができる。あるいは、各添加剤成分を高濃度で含有する添加剤組成物を予め調製し、これと基油とを混合して製造することもできる。
【0031】
なお、本発明の特定の二種類の互いに特性の異なるモノアルキルサリチル酸カルシウム塩は、その添加剤混合物として供給することもできる。
【実施例】
【0032】
[実施例1〜3 − 比較例1〜3]
[潤滑油組成物の調製]
下記の添加剤成分を後記の表1に記載の添加量にて、基油中に溶解もしくは分散させて合計6種類の潤滑油組成物(いずれもSAEが40)を調製した。
実施例および比較例で使用した添加剤と基油は、次の通りである。
(1)添加剤成分(A)
過塩基性アルキルサリチル酸カルシウム塩(炭素原子数14〜18のアルキル基を一個有するモノアルキルサリシレート、全塩基価:170mgKOH/g、過塩基化度:2.3、カルシウム含有量:6.1質量%)
(2)添加剤成分(B)
過塩基性アルキルサリチル酸カルシウム塩(炭素原子数20〜28のアルキル基を一個有するモノアルキルサリシレート、全塩基価:320mgKOH/g、過塩基化度:8.2、カルシウム含有量:11.4質量%)
【0033】
(3)窒素含有無灰性分散剤
ビスタイプのポリイソブテニルコハク酸イミド系分散剤(窒素含有量:2.0質量%、全塩基価:40mgKOH/g)
(4)ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛(Zn−DTP)
ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛(リン含有量:7.4質量%)
(5)基油
グループ2の基油(飽和分:96質量%、100℃の動粘度:10.9mm2/s、粘度指数:104)と150ブライトストック(100℃の動粘度:33.1mm2/s、粘度指数:105)の質量比が80/20の混合物
【0034】
[潤滑油組成物の酸化安定性の試験]
JIS K2514の内燃機関用潤滑油酸化安定度試験方法に準拠し、192時間の試験を行なった。試験油250mLに触媒およびワニス棒を浸漬し、165.5℃で192時間撹拌し、試験油を酸化させ、その後、酸化した試験油の動粘度(測定温度:40℃)と全塩基価(TBN、塩酸法)とを測定した。なお、予め未酸化の試験油の動粘度と全塩基価を測定し、酸化油の測定値と比較して、粘度増加率(動粘度増加率)とTBN残存率とを求めた。
【0035】
試験した潤滑油組成物(試験油)の添加剤成分組成と試験結果を表1に示す。
【0036】
表1
────────────────────────────────────
実 施 例 比 較 例
1 2 3 1 2 3
────────────────────────────────────
[試験油組成]
添加剤成分(A)
TBN 15 10 10 30 0 10
Ca量(質量%) 0.54 0.36 0.36 1.08 0 0.36
添加剤成分(B)
TBN 15 20 20 0 30 20
Ca量(質量%) 0.53 0.71 0.71 0 1.07 0.71
窒素含有無灰性分散剤
N量(質量%) 0.024 0.024 0 0.024 0.024 0
Zn−DTP
P量(質量%) 0 0 0 0 0 0.04
基油 残量 残量 残量 残量 残量 残量
────────────────────────────────────
試験油TBN 30.5 30.5 30 30.5 30.5 30
────────────────────────────────────
[酸化安定度試験結果]
粘度増加率(%) 19 7 8 28 63 10
TBN残存率(%) 37 39 38 37 39 31
────────────────────────────────────
【0037】
[試験結果のまとめ]
実施例1〜3に示された本発明に従う潤滑油組成物は、酸化安定性試験で実用上において充分なTBN残存率を示し、一方では粘度増加率は低い。これに対して、本発明の潤滑油組成物で用いる二種類の添加剤成分(モノアルキルサリチル酸カルシウム塩)のうちの一種類のみを添加した潤滑油組成物(比較例1と2)では、TBN残存率は実用上において充分なレベルにあったが、粘度増加率が顕著に高かった。また、本発明の潤滑油組成物で用いる二種類の添加剤成分(モノアルキルサリチル酸カルシウム塩)を用いた場合でも、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛を特定のレベル以上に添加した場合(比較例3)には、粘度増加率は低いレベルに維持されるが、TBN残存率が顕著に低下することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に少なくとも下記の添加剤成分(A)と添加剤成分(B)とが溶解もしくは分散されてなる潤滑油組成物:
(A)カルシウム量換算値で0.1〜1.0質量%の、全塩基価が120〜250mgKOH/gの範囲にあって過塩基化度が1〜4である炭素原子数14〜18のアルキル基を一個有するモノアルキルサリチル酸カルシウム塩、および
(B)カルシウム量換算値で0.1〜2.0質量%の、全塩基価が280〜400mgKOH/gの範囲にあって過塩基化度が6〜10である炭素原子数20〜28のアルキル基を一個有するモノアルキルサリチル酸カルシウム塩、
ただし、潤滑油組成物の総量に対してジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛をリン量換算値で0.01質量%以上含有することはない。
【請求項2】
添加剤成分(A)の全塩基価が150〜250mgKOH/gの範囲にあって、過塩基化度が1.5〜3である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
添加剤成分(B)の全塩基価が300〜350mgKOH/gの範囲にあって、過塩基化度が7〜9である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
さらに窒素含有無灰性分散剤を含有する請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
添加剤成分(A)と添加剤成分(B)との比率が、全塩基価換算で10:90〜60:40である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
添加剤成分(A)と添加剤成分(B)との比率が、全塩基価換算で20:80〜60:40である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
基油の10質量%以上が飽和成分90質量%以上の鉱油系基油である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛を、潤滑油組成物の総量に対してリン量換算値で0.005質量%以上含有することはない請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
全塩基価が200〜300mgKOH/gの過塩基性アルキルフェノールカルシウム塩を、潤滑油組成物の総量に対してカルシウム量換算値で0.06質量%以上含有することはない請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
全塩基価が200〜300mgKOH/gの過塩基性アルキルフェノールカルシウム塩を、潤滑油組成物の総量に対してカルシウム量換算値で0.05質量%以上含有することはない請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
全塩基価が3〜60mgKOH/gの範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
下記の添加剤成分(A)と添加剤成分(B)との混合物である潤滑油添加剤組成物:
(A)カルシウム量換算値で0.1〜1.0質量%の、全塩基価が120〜250mgKOH/gの範囲にあって過塩基化度が1〜4である炭素原子数14〜18のアルキル基を一個有するモノアルキルサリチル酸カルシウム塩、および
(B)カルシウム量換算値で0.1〜2.0質量%の、全塩基価が280〜400mgKOH/gの範囲にあって過塩基化度が6〜10である炭素原子数20〜28のアルキル基を一個有するモノアルキルサリチル酸カルシウム塩、
ただし、添加剤成分(A)と添加剤成分(B)との比率は、全塩基価換算で10:90〜60:40である。
【請求項13】
添加剤成分(A)と添加剤成分(B)との比率が、全塩基価換算で20:80〜60:40である請求項12に記載の潤滑油添加剤組成物。
【請求項14】
添加剤成分(A)の全塩基価が150〜250mgKOH/gの範囲にあって、過塩基化度が1.5〜3である請求項12に記載の潤滑油添加剤組成物。
【請求項15】
添加剤成分(B)の全塩基価が300〜350mgKOH/gの範囲にあって、過塩基化度が7〜9である請求項12に記載の潤滑油添加剤組成物。

【公開番号】特開2011−132404(P2011−132404A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294463(P2009−294463)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(391050525)シェブロンジャパン株式会社 (26)
【Fターム(参考)】