説明

内燃機関用点火コイル

【課題】内燃機関用点火コイルの組立、部品交換時の取り扱いを向上させる。
【解決手段】高圧筒部13の筒内部に内向き突起13aを設け、この内向き突起13aによって絶縁ケース11の上面から挿入され、高圧筒部13の筒内径に対応する大きさのステンレス製のキャップ6に電気的な接続を維持して包囲されたセラミック抵抗5の下面を支持するとともに、セラミック抵抗5の上面を高圧端子4で塞いで内燃機関用点火コイル1を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、自動車のエンジン等の点火プラグへ高電圧を供給する内燃機関用点火コイルに関し、放電ノイズ低減のために用いる抵抗体の脱落を部品点数を増やすことなく防止することができ、取り扱いを簡便にした可能な内燃機関用点火コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のエンジン等の点火プラグへ高電圧を供給する内燃機関用点火コイルについては、下記特許文献1に提案のものを含め、いくつかの構成のものが知られている。
【0003】
図3は、従来の内燃機関用点火コイルの一例を説明する概略縦断面図であり、このような内燃機関用点火コイル10では、熱可塑性樹脂製の絶縁ケース11に鉄心−コイル組立体2が収容され、この鉄心−コイル組立体2の構成部品間を絶縁しながら固定する絶縁樹脂としてのエポキシ樹脂24が注入されるとともに、絶縁ケース11のコネクタ部12に、外部のバッテリ等の電源やコントロールユニット等と一端にて電気的に接続する低圧端子3が収容されている。低圧端子3の他端には、鉄心−コイル組立体2とともに絶縁ケース11に収容されるパワースイッチ25が電気的に接続されている。また、絶縁ケース2の下部の高圧筒部13には、エンジンのプラグに高電圧を供給する高圧端子4が取り付けられて収容されている。
なお、鉄心−コイル組立体2は、一次コイル21と、この一次コイル21と同心状に巻回された二次コイル22と、一次コイル21内を挿通することにより一次コイル21および二次コイル22との間で磁気的に結合する鉄心23とで構成されている。また、二次コイル22と高圧端子4とは、高圧接続ピン26を介して電気的に接続されている。
【0004】
ここで、図3に示した内燃機関用点火コイル10では、内燃機関の点火プラグ(図示省略)へ高電圧を印加して火花を発生させると同時に高周波ノイズが発生し、この高周波ノイズが二次コイルの巻線まで到達して、二次コイルから電波ノイズとして外部に放射されるという現象が起こる。電波ノイズは、ラジオ、テレビ等の各種電子機器等に悪影響を及ぼす。このため、これを低減するための抵抗体5Aを備える必要があって、従来の内燃機関用点火コイル10では、高圧端子4とともに抵抗体5Aが高圧筒部13に収容されている。具体的には、高圧筒部13に高圧端子4が収容された後に、抵抗体5Aが絶縁ケース11の下側から高圧筒部13内に挿入されて収容されている。
【0005】
また、下記特許文献1では、ダミーコイルと、ダミーコイルの内側に配置されている強磁性部材とにより、点火プラグにて火花とともに発生する高周波ノイズのピーク値を低減する内燃機関用点火コイルに係る発明が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−50528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述の通り、図3に示した従来の内燃機関用点火コイル10、上記特許文献1に係る内燃機関用点火コイルでは、以下のような問題があった。
すなわち、高圧筒部13に高圧端子4が収容された後に、抵抗体5Aが絶縁ケース11の下側から高圧筒部13内に挿入されるのみで収容されるため、内燃機関用点火コイル10の組立の途中で、抵抗体5Aが外部へ脱落してしまう場合があった。これは、抵抗体5Aが径寸法、長さ寸法を含めて寸法公差が大きいために、高圧筒部13に圧入するなどにより嵌め合せができないことに原因があり、このような抵抗体5Aの寸法精度をどのように実現するかという課題があった。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑み提案されたもので、内燃機関用点火コイルへの抵抗体の挿入方法等を見直し、抵抗体に要求される寸法精度を直接的又は間接的に備えさせることにより、抵抗体の外部への脱落を防ぐことができ、さらに、様々な種類の抵抗体であっても取り付けることができるようにして、取り扱い易さが向上し、さらに、部品の定期交換の際の不手際をも抑えることが可能な内燃機関用点火コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、上面が開放され、一側部に低圧端子を収容するコネクタ部が、下部に高圧端子を収容する高圧筒部がそれぞれ設けられている熱可塑性樹脂製の絶縁ケースに、一次コイルと、二次コイルと、この二次コイルおよび前記一次コイルを磁気的に結合する鉄心とが収容され、絶縁樹脂が注入されて収容部品間の絶縁が維持されるとともに、前記高圧筒部の筒内部に前記高圧端子と放電ノイズを低減する抵抗体とが挿入されて構成された内燃機関用点火コイルにおいて、前記高圧筒部の筒内部に、前記抵抗体の下面を支持する内向き突出部を設けるとともに、前記抵抗体の上面を前記高圧端子で塞いだことを特徴とする。
【0010】
特に、上記抵抗体は、高圧筒部の筒内径に対応する大きさのキャップを介して内向き突出部に支持されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る内燃機関用点火コイルでは、まず、高圧筒部の筒内部に、抵抗体の下面を支持する内向き突出部を設けたので、組立の途中であっても抵抗体の下面が内向き突出部に支持されるため、抵抗体が寸法公差が大きくても外部へ脱落することを無くすことができる。さらに、抵抗体の上面を高圧端子で塞いでいるので、絶縁ケース内に注入された絶縁樹脂が、高圧筒部の筒内部に漏れてくることがなくなって、高圧筒部の筒内部に空間が確実に形成されて、抵抗体の放電ノイズを低減する機能に悪影響が及ぶことがなくなり、この機能を最大限に発揮させることができる。このほか本発明では、例えば、抵抗体と点火プラグとを接続するための導体を収納している部品を交換する際にも、抵抗体が外部へ脱落することがないので、取り扱い易さが向上し、部品交換の際の不手際を抑えることができる。
【0012】
また、上記抵抗体は、高圧筒部の筒内径に対応する大きさのキャップを介して内向き突出部に支持されているので、内燃機関用点火コイルの特に高圧筒部の形状を変えることなく、抵抗体が多種多様な大きさであっても、キャップの存在によって上述した効果を有することができる。さらに、キャップの存在により抵抗体に機械的な強度、耐腐食性、耐摩耗性を間接的に備えさせることができる。すなわち、本発明では、様々な種類のある抵抗体を取り付ける場合にも、抵抗体を外部へ脱落させないことができるとともに、抵抗体に各種の有利な性能を備えさせつつ、取り扱い易さを向上させることが可能な内燃機関用点火コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る内燃機関用点火コイルの概略縦断面図である。
【図2】図1における要部拡大図である。
【図3】従来の内燃機関用点火コイルの概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図に基づいて説明する。なお、図3に示した内燃機関用点火コイルと同一または相当部分に同一符号を付して説明を省略する。
【0015】
図1に示すように、本発明に係る内燃機関用点火コイル1は、上面が開放され、一側部に低圧端子3を収容するコネクタ部12が、下部に高圧端子4を収容する高圧筒部13がそれぞれ設けられている熱可塑性樹脂製の絶縁ケース11に、鉄心−コイル組立体2が収容され、絶縁樹脂としてのエポキシ樹脂24が注入されて収容部品間の絶縁が維持されるとともに、高圧筒部13の筒内部に高圧端子4と放電ノイズを低減する抵抗体としての、例えば、セラミック抵抗5が絶縁ケース11の上面から挿入されて構成されている。
【0016】
さらに、図2に示すように、高圧筒部13の筒内部には、絶縁ケース11の上面から挿入されたセラミック抵抗5の下面を支持する内向き突出部としての内向き突起13aが設けられている。また、セラミック抵抗5は、高圧筒部13の筒内径に対応する大きさの例えば、ステンレス製のキャップ6を介して内向き突起13aに支持されている。すなわち、高圧筒部13の筒内部では、セラミック抵抗5がステンレス製のキャップ6によって電気的な接続を維持して包囲されており、このキャップ6を介して内向き突起13aに支持されている構成である。なお、本発明に係る内燃機関用点火コイル1は、セラミック抵抗5が絶縁ケース11の上面から挿入されると、その上面を高圧筒部13が塞ぐ構成である。
【0017】
ここで、高圧筒部13の筒内部に設けられた内向き突起13aは、キャップ6に包囲されているセラミック抵抗5の下面側にて、キャップ6を介して支持することができる程度に高圧筒部13の筒内壁から内向きに突出させればよい。また、この内向き突部13aは、例えば、180度毎に2箇所、120度毎に3箇所設けることで、キャップ6に包囲されているセラミック抵抗5を支持すればよい。また、内向き突部13aは、例えば、高圧筒部13の筒内壁から環状に突出した内向き環状突部であっても好ましい形態となる。
さらに、セラミック抵抗5を包囲しているキャップ6は、高圧筒部13の筒内部に内向き突起13aを設けても、その内向き突起13aの間を脱落する可能性があるような小さな抵抗体を挿入する場合にのみ必要であって、すなわち、セラミック抵抗5の外寸と、高圧筒部13の筒内部の外寸との公差を小さくするために用いられるもので、高圧筒部13の筒内径に対応させられた大きさを有しているものである。
なお、本実施形態では、抵抗体としてセラミック抵抗5を例示しているが、例えば、中心部がガラスで、このガラスの周囲をワイヤで巻いて構成した巻線抵抗と呼ばれる抵抗体であっても本発明に含まれる。その他、高圧筒部の筒内部に収容できる抵抗体であって、放電ノイズを低減することができるものである限り、特に限定されるものではない。
【0018】
以下、本実施形態における内燃機関用点火コイル1の組立について、簡単に説明する。
【0019】
まず、上面が開放され、一側部に低圧端子3を収容するコネクタ部12が、下部に高圧端子4を収容する高圧筒部13がそれぞれ設けられている熱可塑性樹脂製の絶縁ケース11を用意する。さらに、絶縁ケース11のコネクタ部12に、外部のバッテリ等の電源やコントロールユニット等と一端にて電気的に接続する低圧端子3を収容し、絶縁ケース2の下部の高圧筒部13に、エンジンのプラグに高電圧を供給する高圧端子4とともにセラミック抵抗5を上面から挿入して収容する。なお、このセラミック抵抗5には、ステンレス製のキャップ6によって電気的な接続を維持して包囲されている。
【0020】
このとき、まず、高圧筒部13へ、絶縁ケース11の上面から、キャップ6に包囲されているセラミック抵抗5を挿入し、続いて、高圧端子4をセラミック抵抗5の上面を塞いで高圧筒部13に収容する。これにより、高圧筒部13の筒内部には、内向き突起13aが設けられ、これにセラミック抵抗5が支持されているので、セラミック抵抗5が高圧筒部13の下側から外部へ脱落することがなくなる。また、セラミック抵抗5は、多種多様な大きさであっても、キャップ6によって電気的な接続を維持ししつつ包囲されることにより確実に高圧筒部13に留められ、放電ノイズの低減に機能することができることとなる。
【0021】
その後、絶縁ケース11に、鉄心−コイル組立体2及びパワースイッチ25を収容し、低圧端子3の他端と鉄心−コイル組立体2及びパワースイッチ25を電気的に接続し、さらに、鉄心−コイル組立体2の二次コイル22と高圧端子4とを高圧接続ピン26を介して電気的に接続し、エポキシ樹脂24を注入して硬化させ、収容部品間の絶縁を維持して内燃機関用点火コイル1を組み立てる。
なお、エポキシ樹脂24を注入して硬化させる段階においては、高圧端子4がセラミック抵抗5を塞ぎつつ、高圧筒部13を蓋をするように収容されているので、高圧筒部13の筒内部にエポキシ樹脂24が高圧筒部13の筒内部に漏れ出てくることもなく、セラミック抵抗5が高圧筒部13の筒内部の空間に確実に留まるとともに、放電ノイズの低減の機能がエポキシ樹脂24で阻害されることもなくなる。
【0022】
また、本発明に係る内燃機関用点火コイル1では、例えば、セラミック抵抗5と点火プラグとを接続する導体を収納している絶縁筒を交換する際にも、高圧筒部13の筒内部の内向き突起13aの存在により、セラミック抵抗5が外部へ脱落することがなく、絶縁筒の交換の取り扱い易さが著しく向上し、部品交換等に伴う不手際が格段に抑えられる。
【0023】
したがって、本発明に係る内燃機関用点火コイル1では、まず、高圧筒部13の筒内部に、絶縁ケース11の上面から挿入されたセラミック抵抗5の下面を支持する内向き突起13aが設けられているので、組立の途中であってもセラミック抵抗5の下面が内向き突起13aによって支持されるため、セラミック抵抗5が高圧筒部13の下側から外部へ脱落することを無くすことができる。さらに、高圧端子4は、挿入されたセラミック抵抗5の上面を塞ぎつつ高圧筒部13を蓋をするように収容されているので、絶縁ケース11内に注入されたエポキシ樹脂24が、高圧筒部13の筒内部に漏れ出てくることがなく、高圧筒部13の筒内部に確実に空間が形成されて、セラミック抵抗5の放電ノイズを低減する機能に悪影響が及ぶことがなく、最大限にこの機能を発揮させることができる。
【0024】
さらに、抵抗体としてのセラミック抵抗5は、高圧筒部13の筒内径に対応する大きさのステンレス製のキャップ6に電気的な接続を維持して包囲され、このキャップ6を介して内向き突起13aに支持されるようになることで、本発明に係る内燃機関用点火コイル1は、外寸、大きさ等が異なる各種のセラミック抵抗5を高圧筒部13に収容する場合であっても、キャップ6によって包囲することによって、高圧筒部13の形状を変えることなく上述した効果を有することができる。また、キャップ6がステンレス製であるので、このキャップ6に包囲されたセラミック抵抗5は、機械的な強度や耐腐食性、耐摩耗性などの性能を間接的に備えることができる。
すなわち、本発明では、組立時、部品交換時に、様々な種類のあるセラミック抵抗5(抵抗体)であっても高圧筒部13の下側から外部へ脱落させないようにすることができ、キャップ6に包囲されたセラミック抵抗5(抵抗体)に各種の性能を備えさせつつ、取り扱い易さを著しく向上させることができる内燃機関用点火コイルを提供することができる。
【0025】
以上、本発明の一実施形態を詳述したが、本発明は、上記一実施形態に限定されるものではない。そして、本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。
【0026】
また、本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱しなければ、内燃機関用点火コイルの形状を変えることも可能である。また、本発明の内燃機関用点火コイルの各構成物品に使用する材質等は、公知または周知の素材を使用できることはいうまでもない。
例えば、抵抗体を包囲するキャップは、抵抗体と高圧筒部の筒内部との外寸公差を小さくするために用いるものであって、抵抗体が高圧筒部の筒内部に設けられた内向き突出部の間を通り抜けずに引っ掛かる大きさである限り、本発明において必ずしも必須の物品ではない。また、その形状は、高圧筒部の筒内径に対応したものである限り、抵抗体の全体を包むように包囲した形状、抵抗体の上下角部のみを包囲した形状等、種々の設計変更を可能とするものである。そして、このようなキャップであれば、自らを介して抵抗体の下面を高圧筒部の筒内部の内向き突出部に支持させることで、抵抗体の外部への脱落を防ぐことができるので、本発明に係る効果を十分に発揮することができる。
【符号の説明】
【0027】
1・・・内燃機関用点火コイル
10・・従来の内燃機関用点火コイル
11・・絶縁ケース
13・・高圧筒部
13a・内向き突起(内向き突出部)
2・・・鉄心−コイル組立体
21・・一次コイル
22・・二次コイル
23・・鉄心
24・・エポキシ樹脂(絶縁樹脂)
25・・パワースイッチ
26・・高圧接続ピン
3・・・低圧端子
4・・・高圧端子
5・・・セラミック抵抗(抵抗体)
5A・・抵抗体(従来)
6・・・キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が開放され、一側部に低圧端子を収容するコネクタ部が、下部に高圧端子を収容する高圧筒部がそれぞれ設けられている熱可塑性樹脂製の絶縁ケースに、一次コイルと、二次コイルと、この二次コイルおよび前記一次コイルを磁気的に結合する鉄心とが収容され、絶縁樹脂が注入されて収容部品間の絶縁が維持されるとともに、前記高圧筒部の筒内部に前記高圧端子と放電ノイズを低減する抵抗体とが挿入されて構成された内燃機関用点火コイルにおいて、
前記高圧筒部の筒内部に、前記抵抗体の下面を支持する内向き突出部を設けるとともに、前記抵抗体の上面を前記高圧端子で塞いだ、
ことを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項2】
前記抵抗体は、前記高圧筒部の筒内径に対応する大きさのキャップを介して前記内向き突出部に支持される、
ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用点火コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−35019(P2011−35019A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177303(P2009−177303)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000174426)阪神エレクトリック株式会社 (291)
【Fターム(参考)】